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連載講座 37 No. 212 2017 革新的製造技術最先端 連載講座 第6回 1. はじめに 自由曲面の加工用として研究開発が行われ 1952 年 に登場した数値制御工作機械(以下NC 工作機械)は、 機械加工の自動化はもちろん高精度化、高能率化に大 きく貢献してきた。最近では機械部品の 3 次元造形技 術として 3D プリンタが注目されているが、加工精度 や加工能率、加工コストという点で NC 工作機械によ る機械加工に勝る造形技術はない。しかし、事前に用 意された加工用のプログラム(以下 NC プログラム) で指令する現状の NC 工作機械による機械加工では、 ① NC プログラムの作成に多大な労力を要する、②加 工プロセスの制御ができない、③加工中のトラブルに 対処できない、④生産計画の変更に柔軟に対処できな い、といった潜在的な問題を抱えている。 そこで戦略的イノベーション創造プログラム(SIP) /革新的設計生産技術に採択された著者らの研究開発 プロジェクトでは、事前に作成された NC プログラム で指令する方式を、加工中に工具位置や工具姿勢を計 算して逐次指令する方式へと転換して、革新的な知能 化 NC 工作機械の研究開発を行っている。新しい指令 方式の特筆すべき点は、① NC プログラムの作成が不 要でリードタイムが短縮できること、②世界でも例が ない加工プロセスの制御が可能となること、である。 さらに、“NC 工作機械に機械加工を指示する”方式 から“NC 工作機械に機械加工を任せる”方式への転 換で、実物試作や金型といった一品製品、人工骨や歯 科補綴物といったテイラーメイド製品の迅速加工とい う機械加工技術の高度化に貢献することができる。 この研究開発プロジェクトでは、神戸大学が革新技 術の考案・検証、ソフトキューブ㈱がソフトウェアの 開発、キタムラ機械㈱がハードウェアの開発を担当し ており、ここで研究開発している知能化 NC 工作機械 は、平成16、17年度の経済産業省 「地域新生コンソー シアム研究開発事業」 の 「仮想倣い加工を用いた自律 知能型 NC 工作機械制御技術の確立」 で開発済みの仮 想倣い加工を基盤技術として、これに新たな機能を追 加して実現している。 2. 工作機械の進化と知能化 工作機械の進化と知能化の変遷を纏めると図1 ようになる 1) 。産業革命による工作機械の登場が第 1 の革命である。旋盤やフライス盤といった工作機械の 原形が登場し、機械加工の高速化と高効率化が急速に 進展した。NC 工作機械の登場が第 2 の革命である。 機械の動作を数値で指令する現状の指令方式が考案さ れ、機械加工の自動化、加工精度の向上に大きく貢献 した。NC 工作機械は、時代とともにマシニングセン タやターニングセンタといった多機能工作機械に進化 し、産業用ロボットや自動搬送装置、自動倉庫といっ た周辺機器、これらを制御するコンピュータとともに、 CAM(コンピュータ支援製造)とCNC(コン ピュータ数値制御)の統合による革新的な 工作機械の知能化 白 瀬 敬 一  (しらせ けいいち)神戸大学 大学院工学研究科 機械工学専攻 教授 今回の連載講座では、先端的かつ革新的な生産技術の研究を紹介していただき、読者の皆様のデライト なものづくり革新への気づきになることを期待する。国際競争の激化の中、日本のものづくり産業の輝きを 取り戻すべく、ものづくりのイノベーション創造、新たな価値の創出といった取り組みが求められているが、 内閣総理大臣などが主導する総合科学技術・イノベーション会議のもとに 2013 年に創設された戦略的イノ ベーション創造プログラム(SIP)は、省庁横断的に推進される国家プロジェクトである。10 テーマの一つ に「超上流デライト設計手法と革新的生産技術」があり、2015 年度には 24 件の設計手法、生産・製造技 術の研究が推進された。講座では、生産・製造技術の研究からデライトな 6 件をシリーズで紹介していただく。

CAM(コンピュータ支援製造)とCNC(コン ピュータ数値制 …した。nc工作機械は、時代とともにマシニングセン ... cam(コンピュータ支援製造)とcnc(コン

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連載講座 37No. 212 2017

革新的製造技術最先端連載講座 第 6回

1. はじめに

 自由曲面の加工用として研究開発が行われ 1952 年に登場した数値制御工作機械(以下 NC 工作機械)は、機械加工の自動化はもちろん高精度化、高能率化に大きく貢献してきた。最近では機械部品の 3 次元造形技術として 3D プリンタが注目されているが、加工精度や加工能率、加工コストという点で NC 工作機械による機械加工に勝る造形技術はない。しかし、事前に用意された加工用のプログラム(以下 NC プログラム)で指令する現状の NC 工作機械による機械加工では、① NC プログラムの作成に多大な労力を要する、②加工プロセスの制御ができない、③加工中のトラブルに対処できない、④生産計画の変更に柔軟に対処できない、といった潜在的な問題を抱えている。 そこで戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)/革新的設計生産技術に採択された著者らの研究開発プロジェクトでは、事前に作成された NC プログラムで指令する方式を、加工中に工具位置や工具姿勢を計算して逐次指令する方式へと転換して、革新的な知能化 NC 工作機械の研究開発を行っている。新しい指令方式の特筆すべき点は、① NC プログラムの作成が不要でリードタイムが短縮できること、②世界でも例がない加工プロセスの制御が可能となること、である。さらに、“NC 工作機械に機械加工を指示する”方式から“NC 工作機械に機械加工を任せる”方式への転

換で、実物試作や金型といった一品製品、人工骨や歯科補綴物といったテイラーメイド製品の迅速加工という機械加工技術の高度化に貢献することができる。 この研究開発プロジェクトでは、神戸大学が革新技術の考案・検証、ソフトキューブ㈱がソフトウェアの開発、キタムラ機械㈱がハードウェアの開発を担当しており、ここで研究開発している知能化 NC 工作機械は、平成 16、17 年度の経済産業省 「地域新生コンソーシアム研究開発事業」 の 「仮想倣い加工を用いた自律知能型 NC 工作機械制御技術の確立」 で開発済みの仮想倣い加工を基盤技術として、これに新たな機能を追加して実現している。

2. 工作機械の進化と知能化

 工作機械の進化と知能化の変遷を纏めると図 1 のようになる 1)。産業革命による工作機械の登場が第 1の革命である。旋盤やフライス盤といった工作機械の原形が登場し、機械加工の高速化と高効率化が急速に進展した。NC 工作機械の登場が第 2 の革命である。機械の動作を数値で指令する現状の指令方式が考案され、機械加工の自動化、加工精度の向上に大きく貢献した。NC 工作機械は、時代とともにマシニングセンタやターニングセンタといった多機能工作機械に進化し、産業用ロボットや自動搬送装置、自動倉庫といった周辺機器、これらを制御するコンピュータとともに、

CAM(コンピュータ支援製造)とCNC(コンピュータ数値制御)の統合による革新的な工作機械の知能化白 瀬 敬 一 (しらせ けいいち)神戸大学 大学院工学研究科 機械工学専攻 教授

 今回の連載講座では、先端的かつ革新的な生産技術の研究を紹介していただき、読者の皆様のデライトなものづくり革新への気づきになることを期待する。国際競争の激化の中、日本のものづくり産業の輝きを取り戻すべく、ものづくりのイノベーション創造、新たな価値の創出といった取り組みが求められているが、内閣総理大臣などが主導する総合科学技術・イノベーション会議のもとに2013年に創設された戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)は、省庁横断的に推進される国家プロジェクトである。10テーマの一つに「超上流デライト設計手法と革新的生産技術」があり、2015年度には24件の設計手法、生産・製造技術の研究が推進された。講座では、生産・製造技術の研究からデライトな6件をシリーズで紹介していただく。