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差分法を用いた偏微分方程式の 数値シミュレーション 理工学部 数理情報学科 T120008 太貴 T120015 大佐古 亮哉 指導教員 池田 概要 本研究では、差分法を用いて空間1次元・空間2次元偏微分方程式の解の振る舞い を調べた。また、空間2次元の問題に関して、数値シミュレーション結果を色合い表 現と立体的表現で表すよう工夫した。 差分法として、陽解法、陰解法、ADI (Alternative Direction Integration Method) を使用した。陽解法は未知数が1つしかなく、1次方程式を解くという簡 単な計算によって近似解が求められる。しかし、時間刻み幅に対する制約条件があ る。陰解法は未知数が2つ以上含まれる連立1次方程式を解くために計算が複雑に なるが、時間刻み幅に対する制約条件がない。ADI 法は、大雑把に言うと、空間2 次元の偏微分方程式を2つの空間1次元方程式に分けて解く方法であり、時間刻み 幅に対する制約条件はない。我々は、空間1次元の場合では陽解法と陰解法を、空間 2次元の場合では、ADI 法を用いた。 はじめに、空間1次元熱方程式と FitzHugh-Nagumo 方程式を扱った。熱方程式 に対しては、境界条件として Neumann 型境界条件と Dirichlet 型境界条件を課し て、それぞれについて近似解が収束する様子を調べた。Neumann 型境界条件は初期 分布の平均値をとる関数、Dirichlet 型境界条件は指定した2つの境界値を通る直線 を表す関数に収束した。また、陽解法には時間刻み幅に対する制約条件が必要であ ることも確認した。FitzHugh-Nagumo 方程式については、神経パルスの特徴であ る閾値・整形作用、一定の伝播速度、衝突消滅、不応期の存在について確認した。 次に、空間2次元反応拡散方程式と空間2次元興奮系を扱った。空間2次元興奮 系では周期境界条件を課し、1点で時間周期的に刺激を与えた場合と、2点で時間周 期的に刺激を与えた場合(周期は異なる)の数値シミュレーションを行った。する と、空間1次元での神経パルスの特徴である一定の伝播速度、衝突消滅が空間2次元 でも観測された。さらに、1次元の神経パルスを2次元的に並べたものを初期値と して考えた。すると、神経パルスが縦一直線になって進んでいく様子が観察された。 この縦一直線の神経パルスの一部を断ち切ってみた。すると、幅が短い場合には、断 ち切った部分がふさがり、縦一直線の神経パルスに戻っていった。幅が長い場合に は、スパイラル・ウェーブが発生した。 最後に、色合い表現したものに加え、神経膜内外の電位差を高さとして立体的に表 現した。そうしたことで、発生する神経パルスの形を見ることはできたが、それ以外 は色合い表現から得られる情報とほとんど変わらなかった。

差分法を用いた偏微分方程式の 数値 ... - Ryukoku …tsutomu/undergraduate/...ADI 法は、大雑把に言うと、空間2 次元の偏微分方程式を2つの空間1次元方程式に分けて解く方法であり、時間刻み

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差分法を用いた偏微分方程式の数値シミュレーション

理工学部 数理情報学科

T120008 磯 太貴

T120015 大佐古 亮哉

指導教員 池田 勉

概要

本研究では、差分法を用いて空間1次元・空間2次元偏微分方程式の解の振る舞い

を調べた。また、空間2次元の問題に関して、数値シミュレーション結果を色合い表

現と立体的表現で表すよう工夫した。

 差分法として、陽解法、陰解法、ADI 法 (Alternative Direction Integration

Method)を使用した。陽解法は未知数が1つしかなく、1次方程式を解くという簡

単な計算によって近似解が求められる。しかし、時間刻み幅に対する制約条件があ

る。陰解法は未知数が2つ以上含まれる連立1次方程式を解くために計算が複雑に

なるが、時間刻み幅に対する制約条件がない。ADI 法は、大雑把に言うと、空間2

次元の偏微分方程式を2つの空間1次元方程式に分けて解く方法であり、時間刻み

幅に対する制約条件はない。我々は、空間1次元の場合では陽解法と陰解法を、空間

2次元の場合では、ADI法を用いた。

 はじめに、空間1次元熱方程式と FitzHugh-Nagumo方程式を扱った。熱方程式

に対しては、境界条件として Neumann 型境界条件と Dirichlet 型境界条件を課し

て、それぞれについて近似解が収束する様子を調べた。Neumann型境界条件は初期

分布の平均値をとる関数、Dirichlet型境界条件は指定した2つの境界値を通る直線

を表す関数に収束した。また、陽解法には時間刻み幅に対する制約条件が必要であ

ることも確認した。FitzHugh-Nagumo 方程式については、神経パルスの特徴であ

る閾値・整形作用、一定の伝播速度、衝突消滅、不応期の存在について確認した。

 次に、空間2次元反応拡散方程式と空間2次元興奮系を扱った。空間2次元興奮

系では周期境界条件を課し、1点で時間周期的に刺激を与えた場合と、2点で時間周

期的に刺激を与えた場合(周期は異なる)の数値シミュレーションを行った。する

と、空間1次元での神経パルスの特徴である一定の伝播速度、衝突消滅が空間2次元

でも観測された。さらに、1次元の神経パルスを2次元的に並べたものを初期値と

して考えた。すると、神経パルスが縦一直線になって進んでいく様子が観察された。

この縦一直線の神経パルスの一部を断ち切ってみた。すると、幅が短い場合には、断

ち切った部分がふさがり、縦一直線の神経パルスに戻っていった。幅が長い場合に

は、スパイラル・ウェーブが発生した。

 最後に、色合い表現したものに加え、神経膜内外の電位差を高さとして立体的に表

現した。そうしたことで、発生する神経パルスの形を見ることはできたが、それ以外

は色合い表現から得られる情報とほとんど変わらなかった。

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2015年度卒業論文

差分法を用いた偏微分方程式の数値シミュレーション

龍谷大学 理工学部 数理情報学科

T120008 磯 太貴T120015 大佐古 亮哉

指導教員 池田 勉

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目次

1 はじめに 1

1.1 差分近似 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 1

1.2 本研究について . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 1

2 2点境界値問題の差分近似 2

3 空間1次元熱方程式 4

3.1 熱伝導方程式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4

3.2 最大値の原理 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4

3.3 陽解法 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5

3.4 陰解法 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6

3.5 空間1次元熱方程式の数値シミュレーション . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7

4 FitzHugh-Nagumo方程式 10

4.1 FitzHugh-Nagumo方程式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 10

4.2 神経興奮パルスの持つ性質 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 10

4.3 FitzHugh-Nagumo方程式の数値シミュレーション . . . . . . . . . . . . . . . . . 11

5 長方形領域における空間2次元偏微分方程式 15

5.1 長方形領域 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 15

5.2 空間2次元反応拡散方程式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 15

5.3 ADI法 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 16

5.4 反応拡散方程式の数値シミュレーション . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 16

5.5 空間2次元興奮系 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 19

5.6 空間2次元興奮系数値シミュレーション . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 19

6 色合い表現から立体的表現へ 25

6.1 立体的表現 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 25

6.2 改善点 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 26

7 まとめ 27

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1 はじめに

1.1 差分近似

Tayer の定理によれば u′ や u′′ は前進差分や後退差分、中央差分によって近似することができ

る。「微分」を「差分」で置き換えることを差分近似と呼ぶ。「微分」では、x → 0というように、

極限を取るが、「差分」では、xを小さくはするが、x → 0というような極限は取らない。この

違いにより、u′ が様々な差分によって近似される。[1]

1.2 本研究について

本研究では、差分法を用いた偏微分方程式の数値シミュレーションを行った。はじめに空間1次

元の偏微分方程式で数値シミュレーションをし、偏微分方程式の持つ性質についての確認を行った。

 次に空間2次元の偏微分方程式を考え、近似値の大きさを色合い表現を用いて表した。最後に色

合い表現に加え、立体的表現も加えて数値シミュレーションを行ってみた。

研究と執筆の分担

差分法を用いた空間1次元、空間2次元偏微分方程式の数値シミュレーション。(共同)

空間1次元熱方程式について調べた。(磯)

空間2次元興奮系、拡散反応方程式について調べた。(大佐古)

空間2次元偏微分方程式を色合い表現に加えて立体的表現もした。(大佐古)

発表で使用する動画の作成。(磯)

 次に執筆の分担についてまとめる。

第1章:「はじめに」の執筆(磯)

第2章:「2点境界値問題の差分近似」の執筆(磯)

第3章:「空間1次元熱方程式」の執筆(磯)

第4章:「FitzHugh-Nagumo方程式」の執筆(磯)

第5章:「長方形領域における空間2次元偏微分方程式」の執筆(大佐古)

第6章:「まとめ」の執筆(大佐古)

1

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2 2点境界値問題の差分近似

常微分方程式

−u′′ + a(x)u′ + b(x)u = f 0<x<L (2.1)

の差分近似を考える。境界条件は

u(0) = p, u(L) = q, (2.2)

u′(0) = 0, u′(L) = 0 (2.3)

を与える。(2.2),(2.3) のどちらにしても、2つの条件の一方が x = 0 で、他方が x = L で与えら

れている。このような問題を2点境界値問題という。

Tayerの定理より

u(x+x) = u(x) +x · u′ +x2

2!· u′′ +

x3

3!· u(3) + · · ·

u(x−x) = u(x)−x · u′ +x2

2!· u′′ − x3

3!· u(3) + · · ·

よって

u(x+x)− u(x) ∼= x · u′(x), u(x)− u(x−x) ∼= x · u′(x)

となるので、u′(x)を

u(x+x)− u(x)

x (前進差分),

u(x)− u(x−x)

x (後退差分),

u(x+x)− u(x−x)

2 x (中央差分)

によって近似することができる。また、同じく Tayerの定理より

u(x+x)− u(x) ∼= ± x · u′(x) +x2

2· u′′(x)

となるので、u′′(x)は

u(x+x)− 2u(x)− u(x−x)

x2

によって近似することができる。

ここで、区間 (0 < x < L)をM 等分して、xj = j · x(x = L/M, j = 0, 1, 2, · · ·,M)と置く。

u(xj)の近似値を uj とする。u′′ および u′ を中央差分で近似すれば、(2.1)の近似差分

− 1

x2(uj+1 − 2uj + uj−1) +

aj

2 x(uj+1 − uj−1) + bjuj = fj

(j = 1, 2, · · ·,M − 1)(2.4)

2

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が得られる。ここに、aj = a(xj), bj = b(xj), fj = f(xj) (j = 0, 1, · · ·,M)とする。

 次に境界条件が (2.1)(2.3)で与えられるそれぞれの場合について考える。

 はじめに、境界条件が (2.3)の場合について考える。(2.3)の差分近似での表現は

u0 = p, uM = q (2.5)

である。u=(u0, u1, · · · , uM )T と置けば、(2.4)(2.5)は行列形式

Au = f (2.6)

で表現できる。ここに、f = (p, f1, f2, · · · , fM−1, q)T、行列Aの成分 aij は

a00 = 1, a0j = 0(j = 1, 2, · · · ,M),

aj, j − 1 = − 1

x2− aj

2 x(j = 1, 2, · · · ,M − 1),

ajj =2

x2+ bj(j = 1, 2, · · · ,M − 1),

aj,j+1 = − 1

x2+

aj

2 x(j = 1, 2, · · · ,M − 1),

aij = 0(| j − i |> 1),aMj = 0(j = 0, 1, · · · ,M − 1), aMM = 1

(2.7)

によって与えられる。(2.1) の差分近似解を求めることは、連立一次方程式 (2.6) を解いて

u=(u0, u1, · · · , uM )T を求めることである。[1]

 次に境界条件が (2.3) の場合について考える。(2.4) が j = 0 や j = M についても成立してい

ると考える。すると、u−1 や uM+1 が登場してくるが、ここで (2.3) を対称性を表現するもの、

u−1 = u1, uM+1 = uM−1 と考える。これらを (2.4)で j = 0や j = M としたものを代入すると

− 1

x2(u1 − u0) +

1

2b0u0 =

1

2f0

− 1

x2(uM−1 − uM ) +

1

2bMuM =

1

2fM

(2.8)

が得られる。行列形式

Au = f (2.9)

において f = ( f02, f1, f2, · · · , fM−1,

fM2)T であり、Aの成分は

a00 =1

x2+

b02, a01 = − 1

x2(j = 2, 3, · · · ,M − 1),

aj, j − 1 = − 1

x2− aj

2 x(j = 1, 2, · · · ,M − 1),

ajj =2

x2+ bj(j = 1, 2, · · · ,M − 1),

aj,j+1 = − 1

x2+

aj

2 x(j = 1, 2, · · · ,M − 1),

aij = 0(| j − i |> 1),aMj = 0(j = 0, 1, · · · ,M − 2),

aM,M−1 = − 1

x2, aMM =

1

x2+

bM2

(2.10)

となる。[1]

3

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3 空間1次元熱方程式

3.1 熱伝導方程式

x 軸上に置かれた針金の温度分布が時間 t とともにどのように変化するかを考えることによっ

て、熱伝導方程式(熱方程式)

∂u

∂t=

k

c

∂2u

∂x20 < x < L, t > 0 (3.1)

が得られる。Lは針金の長さ、cは単位長さあたりの熱容量、k は熱伝導率、u = u(t, x)が時刻 t、

位置 xにおける温度を表す。

また、本研究では境界条件として境界での温度を指定する Dirichlet型境界条件

u(t, 0) = p, u(t, L) = q (3.2)

と境界を通って熱の出入りがないことを表す Neumann型断熱境界条件

∂u

∂x(t, 0) = 0,

∂u

∂x(t, L) = 0 (3.3)

の2つの境界条件を課した。

区間 (0, L) を M 等分して、xj = j · x(x = L/M, j = 0, 1, · · ·,M) と置き、時間軸 t も

t を刻み幅として tn = n · t(n = 0, 1, 2, · · ·) と分割する。u(tn, xj) の近似値を unj とする。

∂u

∂x(tn, xj)を前進差分し、

∂2u

∂x2(tn, xj)を中央差分で近似する。すると、差分近似式は次のように

表される。

初期条件は

u(0, x) = u0(x) 0 ≤ x ≤ L (3.4)

とし、u0(x)は与えられた関数とする。また、Dirichlet型境界条件 (3.2)を課す場合には u0(0) =

p, u0(L) = q になっているものとする。[1]

3.2 最大値の原理

時刻 t = 0における温度 u(0, x) = u0(x)の最大値を umax、最小値を umin とすると、任意の

時刻 t > 0と x ∈ (0, L)に対して umin ≤ u(t, x) ≤ umax となる。[1]

4

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3.3 陽解法

Dirichlet型境界条件 (3.2)の場合

u0j = u0(xj) (j = 0, 1, · · ·,M),1

t(un+1

j − unj ) =

k

c

1

x2(un

j+1 − 2unj + un

j−1)

(j = 1, 2, · · ·,M ;n = 0, 1, 2, · · ·),un0 = p, un

M = q (n = 0, 1, 2, · · · )

(3.5)

Neumann型境界条件 (3.3)の場合

u0j = u0(xj) (j = 0, 1, · · · ,M)1

t(un+1

j − unj ) =

k

c

1

x2(un

j+1 − 2unj + unj−1)

(j = 1, 2, · · · ,M − 1;n = 0, 1, 2, · · · ),1

2 t(un+1

0 − un0 =

k

c

1

x2(un

1 − un0 ) (n = 0, 1, 2, · · · ),

1

2 t(un+1

M − unM ) =

k

c

1

x2(un

M−1 − unM ) (n = 0, 1, 2, · · · )

(3.6)

λ =k

c

t

x2と置くと (3.5)は、un+1

j − unj = λ((un

j+1 − 2unj + un

j−1)より

Dirichlet型境界条件 (3.2)の場合

u0j = u0(xj) (j = 0, 1, · · ·,M),

un+1j = λun

j+1 + (1− 2λ)unj + λun

j−1

(j = 1, 2, · · ·,M ;n = 0, 1, 2, · · ·),un0 = p, un

M = q (n = 0, 1, 2, · · · )

(3.7)

また、(3.6)は、un+1j − un

j = λ(unj+1 − 2un

j + unj=1), u

n+10 − un

j = 2λ(un1 − un

0 ), un+1M − un

M =

2λ(unM−1 − un

M )より、

Neumann型境界条件 (3.3)の場合

u0j = u0(xj) (j = 0, 1, · · · ,M)

un+1j = λun

j+1 + (1− 2λ)unj + λun

j−1

(j = 1, 2, · · · ,M − 1;n = 0, 1, 2, · · · ),un+10 = 2λun

1 + (1− 2λ)un0 (n = 0, 1, 2, · · · ),

un+1M = 2λun

M−1 + (1− 2λ)unM (n = 0, 1, 2, · · · )

(3.8)

とおのおの書き換えられる。

差分法 (3.7) や (3.8) は行列演算をしなくても unj (j = 0, 1, 2, · · · ,M) から un+1

j (j =

0, 1, 2, · · · ,M)を求めることができるという意味において陽解法と呼ばれる。[1]

5

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3.4 陰解法

Dirichlet型境界条件 (3.2)の場合

u0j = u0(xj) (j = 0, 1, · · ·,M),1

t(un+1

j − unj ) =

k

c

1

x2(un+1

j+1 − 2un+1j + un+1

j−1 )

(j = 1, 2, · · ·,M ;n = 0, 1, 2, · · ·),un+10 = p, un+1

M = q (n = 0, 1, 2, · · · )

(3.9)

Neumann型境界条件 (3.3)の場合

u0j = u0(xj) (j = 0, 1, · · · ,M)1

t(un+1

j − unj ) =

k

c

1

x2(un+1

j+1 − 2un+1j + un+ 1j−1)

(j = 1, 2, · · · ,M − 1;n = 0, 1, 2, · · · ),1

2 t(un+1

0 − un0 =

k

c

1

x2(un+1

1 − un+10 ) (n = 0, 1, 2, · · · ),

1

2 t(un+1

M − unM ) =

k

c

1

x2(un+1

M−1 − un+1M ) (n = 0, 1, 2, · · · )

(3.10)

 陽解法の場合と同様に λ =k

c

t

x2と置くと、(3.9),(3.10)はおのおの

Dirichlet型境界条件 (3.2)の場合

u0j = u0(xj) (j = 0, 1, · · ·,M),

−λun+1j+1 + (1 + 2λ)un+1

j − λun+1j−1 = un

j

(j = 1, 2, · · ·,M ;n = 0, 1, 2, · · ·),un+10 = p, un+1

M = q (n = 0, 1, 2, · · · )

(3.11)

Neumann型境界条件 (3.3)の場合

u0j = u0(xj) (j = 0, 1, · · · ,M)

−λun+1j+1 + (1 + 2λ)un+1

j − λun+1j−1 = un

j

(j = 1, 2, · · · ,M − 1;n = 0, 1, 2, · · · ),−2λun+1

1 + (1 + 2λ)un+10 = un

0 (n = 0, 1, 2, · · · ),−2λun+1

M−1 + (1 + 2λ)un+1M = un

M (n = 0, 1, 2, · · · )

(3.12)

におのおの書き換えられる。

差分法 (3.11)や (3.12)は陰解法と呼ばれ、

un+1 = (un+10 , un+1

1 , un+12 , · · · , un+1

M )T を未知数とする連立一次方程式である。[1]

陽解法は行列計算が不要であるという利点を持つが、最大値の原理を成立させるためにk

c

t

x2≤

1/2となるようにtを制限しなければならないという欠点を持つ。

陰解法はすべての t について最大値の原理が成立するという利点を持つが、連立一次方程式を

解かなければならないという欠点を持つ。[1]

6

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3.5 空間1次元熱方程式の数値シミュレーション

3.5.1 Neumann型境界条件境界条件 (3.3)の下で (3.1)を陰解法で解く。ただし、

k

c= 1,M = 200とし、初期分布は

u(0, x) = u0(x) = 2− x− cosπx− 2 cos 2πx+1

6πsin 6πx

で与える。

-2

-1

0

1

2

3

4

5

0-2

-1

0

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0-2

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0

-2

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1

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0-2

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0

1

2

3

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0-2

-1

0

1

2

3

4

5

0

図 1 (3.1) に Neumann 型境界条件を課し、陰解法で解いたときの数値シミュレー

ション結果。ただし、λ = 0.50とした。

 図 1は横軸を x、縦軸を u(t, x)とし、左上から右上へ、左下から右下へと順に時間を経過させた

時の (3.1) の変化を表したものである。時間が経つにつれて温度が一定になっていく様子が確認で

きる。また、時刻 t → ∞のとき解 u(t, x)は初期分布の平均値をとる関数に収束する。さらに、陽

解法での数値シミュレーションでも同じ結果が得られた。

3.5.2 Dirichlet型境界条件境界条件 (3.2)の下で (3.1)を陰解法で解く。ただし、

k

c= 1, p = −1, q = 3, L = 1,M = 200とし、初期分布は

u(0, x) = u0(x) = p− (q − p)x+ sinπx− sin 2πx+ sin 6πx

で与える。

7

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-2

-1

0

1

2

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0-2

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-2

-1

0

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1

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-1

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1

2

3

4

5

0

図 2 (3.1)に Dirichlet型境界条件を課し、陰解法で解いたときの数値シミュレーショ

ン結果。ただし、λ = 0.50とした。

図 2は横軸を x、縦軸を u(t, x)とし、左上から右上へ、左下から右下へと順に時間を経過させた

時の (3.1)の変化を表したものである。また、時刻 t → ∞のとき解 u(t, x)は指定した2つの境界

値を通る直線を表す関数に収束する。さらに、陽解法でのシミュレーションでも同じ結果が得られ

た。

次に境界条件 (3.3)の下で (3.1)を陽解法で解く。ただし、k

c= 1,M = 200とし、初期分布は

u(0, x) = u0(x) = 2− x− cosπx− 2 cos 2πx+1

6πsin 6πx

で与える。

8

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-2

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-2

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0-2

-1

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1

2

3

4

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0

図 3 (3.1) に Neumann 型境界条件を課し、陽解法で解いたときの数値シミュレー

ション結果。ただし、λ = 0.51とした。

 図 3は横軸を x、縦軸を u(t, x)とし、左上から右上へ、左下から右下へと順に時間を経過させ

た時の (3.1)の変化を表したものである。陽解法では、λが 1/2を超えると図 3で示すように uは

発散する。さらに、陰解法の場合は発散せず初期分布の平均値をとる関数に収束した。

9

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4 FitzHugh-Nagumo方程式

4.1 FitzHugh-Nagumo方程式

神経繊維上における神経パルスの伝播機構を記述する方程式は下式の FitzHugh-Nagumo方程式

で表される。

∂u

∂t=

∂2u

∂x2+ u(1− u)(u− a)− v + I(t, x) (−∞ < x < ∞, t > 0),

∂v

∂t= ϵ(u− γv) (−∞ < x < ∞, t > 0)

(4.1)

u(t, x)は時刻 t、神経繊維上の点 xにおける神経膜内外の電位差、v(t, x)は興奮を抑制する因子密

度、I(t, x)は外部からの刺激を表す。また、aは、0 < a < 1/2を満たす定数、γ は正の定数、ϵは

小さな定数とする。

4.2 神経興奮パルスの持つ性質

参考資料 [1]より

(1:閾値・整形作用)

一定の閾値に達しない刺激ではパルスは生じないが、閾値より強い刺激に対しては刺激の強さと無

関係に整形された神経パルスが発生する。

(2:一定の伝播速度)

神経パルスの伝播速度はほぼ一定である。

(3:衝突消滅)

逆方向に進む2つの神経パルスが衝突すると両方とも消滅する。(対消滅)

(4:不応期)

同じ場所で一定の時間間隔で閾値以上の刺激を与えると、間隔が長ければつぎつぎと神経パルスが

発生して同じ速度で進んでゆくが、間隔が短いといくつかのパルスは抑制されて消滅してしまう。

10

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4.3 FitzHugh-Nagumo方程式の数値シミュレーション

(4.1)を有限区間上での問題

∂u

∂t=

∂2u

∂x2+ u(1− u)(u− a)− v + I(t, x) (0 < x < L, t > 0),

∂v

∂t= ϵ(u− γv) (0 < x < L, t > 0)

(4.2)

で近似し、人工的な Neumann 型境界条件のもとで陽解法で解く。本研究では L = 900.0, a =

0.1, ϵ = 0.005, γ = 5.0,M = 300,t = 0.2とした。また、I(t, x)は 0 ≤ x ≤ x/2.0, 0 ≤ t ≤ P

に対しては I(t, x) = A、その他の (t, x)に対しては I(t, x) = 0とした。

図 4 x = 0の点に1回だけ刺激を与えたときの t = 0, 300, 600, 900, 1200, 1500の場

合のシミュレーション結果。

シミュレーション結果より (4.2)は1回の刺激に対して1つの神経パルスを発生させることがわか

る。また、発生した神経パルスの伝播速度はほぼ一定であった。さらに、閾値以下の刺激を加えた

場合、神経パルスは発生しなかった。

 次に異なる2点に1回だけ刺激を与えた場合についての数値シミュレーションを行う。

11

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(4.2) を Neumann 型境界条件のもとで陽解法で解く。本研究では L = 900.0, a = 0.1, ϵ =

0.005, γ = 5.0,M = 300,t = 0.2 とした。また、I(t, x) は 0 ≤ x ≤ x/2.0, 0 ≤ t ≤ P1 に対

しては I(t, x) = A1、L−x/2.0 ≤ x ≤ L, 0 ≤ t ≤ P2 に対しては I(t, x) = A2 その他の (t, x)

に対しては I(t, x) = 0とした。

図 5 x = 0と x = 900.0の点に1回だけ刺激を与えたときの

t = 0, 500, 1000, 1500.2000.2500の場合のシミュレーション結果。

シミュレーションの結果より逆向きに進む神経パルスが衝突すると両方とも消滅することがわか

る。このことから FitzHugh-Nagumo方程式は衝突消滅の性質を持つことがわかった。

次に同じ場所で一定の時間間隔で連続的に刺激を与えた場合についての数値シミュレーションを

行う。

12

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(4.2) を Neumann 型境界条件のもとで陽解法で解く。本研究では L = 900.0, a = 0.1, ϵ =

0.005, γ = 5.0,M = 300,t = 0.2 とした。また、I(t, x) は 0 ≤ x ≤ x/2.0, nT ≤ t ≤nT + 3.0(n = 0, 1, 2, · · · ) に対しては I(t, x) = 0.2、その他の (t, x) に対しては I(t, x) = 0 とし

た。

図 6 x = 0の点で連続的に刺激を与えたときの

t = 0, 500, 1000, 1500, 2000, 2500, 3000, 3500, 4000の場合のシミュレーション結果。

シミュレーションの結果からつぎつぎと神経パルスが発生して同じ速度で進んでゆく様子がわか

る。

次に与える刺激の間隔だけを変更し、数値シミュレーションを行う。

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図 7 x = 0の点で連続的に刺激を与えたときの

t = 0, 500, 1000, 1500, 2000, 2500, 3000, 3500, 4000の場合のシミュレーション結果。

図 5と比べると、パルスとパルスの間隔が少し広がっていることがわかる。これは、いくつかの

パルスが抑制されて消滅してしまったためである。このことから、FitzHugh-Nagumo方程式は不

応期の性質を持つことがわかった。

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5 長方形領域における空間2次元偏微分方程式

5.1 長方形領域

  空間2次元の領域は、空間1次元とは違い長方形領域 Ω = (0, Lx)× (0, Ly)を考える。

図 8 長方形領域

 図 8 は、正の整数 Mx,My を定め、長方形領域 Ω に x 方向の幅が ∆x = Lx/Mx,y 方向の

幅が ∆y = Ly/My の格子を入れる。 格子点全体は (i · ∆x, j · ∆y); i = 0, 1, · · · ,Mx, j =

0, 1, · · · ,Myです。∆tを時間刻み幅として、図 (8)の格子点 P における近似値 uを uni,j と書く。

5.2 空間2次元反応拡散方程式

参考文献 [1]より、長方形領域 Ωにおける反応拡散方程式

ut = duxx + duyy + f(u) (x, y) ∈ Ω, t > 0 (5.1)

の差分近似をした。dは拡散係数で d > 0を表す正の定数です。では、(5.1)を陽解法で差分近似す

ると

un+1i,j − un

i,j

∆t= d

uni+1,j − 2un

i,j + uni−1,j

∆x2+ d

uni,j+1 − 2ui,j + un

i,j−1

∆y+ f(un

i,j)

(i = 1, 2, · · · ,Mx − 1; j = 1, 2, · · · ,My − 1;n = 1, 2, · · · )(5.2)

となる。Ωの境界上での差分式は与えられる境界条件によって決まる。

 また、陽解法を使う際には ∆tを

1− 2d∆t

∆x2− 2d∆t

∆y2≥ 0 (5.3)

を満たすように決めなければなりません。(5.3)は陽解法 (5.2)の安定条件という。

15

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5.3 ADI法

 参考文献 [1] より、反応拡散方程式 (5.1) を陽解法 (5.3) で安定に解くためには、時間刻み幅

∆tを (5.3)を満たすように選ばなければならない。これは、時として難しい場合がある。

 反応拡散方程式 (5.1)を陰解法すると

un+1i,j − un

i,j

∆t= d

un+1i+1,j − 2un+1

i,j + un+1i−1,j

∆x2+ d

un+1i,j+1 − 2un+1

i,j + un+1i,j−1

∆y2+ f(un

i,j)

(i = 1, 2, · · · ,Mx − 1; j = 1, 2, · · · ,My − 1;n = 1, 2, · · · )(5.4)

となる。陰解法 (5.4)は、∆tの制約条件なしで安定した計算ができる。ただし、空間2次元の係数

行列は、空間1次元の3重対角行列ほど扱いやすいものではなく、計算が難しくなります。

 今回は、∆t の制約もなく安定して計算することでき、係数行列が3重対角となる

ADI(Alternative Direction Integration Method)法を使用した。ADI法について説明する。

 例として、反応拡散方程式 (5.1)を ADI法で差分近似することを考える。

ADI 法では、uni,ji=0,1,··· ,Mx;j=0,1,··· ,My と un+1

i,j i=0,1,··· ,Mx;j=0,1,··· ,My の中間の状態

un+ 12

i,j i=0,1,··· ,Mx;j=0,1,··· ,My  を考え、

un+1/2i,j − un

i,j

∆t= d

un+1/2i+1,j − 2u

n+1/2i,j + u

n+1/2i−1,j

∆x2+ f(un

i,j)

  (i = 0, 1, · · · ,Mx; j = 0, 1, · · · ,My;n = 0, 1, · · · ),(5.5)

un+1i,j − u

n+1/2i,j

∆t= d

un+1i+1,j − 2un+1

i,j + un+1i−1,j

∆y2

(i = 0, 1, · · · ,Mx; j = 0, 1, · · · ,My;n = 0, 1, · · · )(5.6)

という手順で計算する。ただし、   un+1/2−1,j = u

n+1/21,j , u

n+1/2Mx+1,j = u

n+1/2Mx−1,j , u

n+1/2i,j−1 =

un+1/2i,1 , u

n+1/2i,My+1 = u

n+1/2i,My−1 とする。(5.5)と (5.6)の両辺を加えて得られる。

un+1i,j − un

i,j

∆t= d

un+1/2i+1,j − 2u

n+1/2i,j + u

n+1/2i−1,j

∆x2+ d

un+1i+1,j − 2un+1

i,j + un+1i−1,j

∆y2+ f(un

i,j)

は陽解法 (5.2)と陰解法 (5.4)の中間的なものである。

  (3.7)は各 jごとに分離でき、各 jごとに uni,ji=0,1,··· ,Mx から un+1/2

i,j i=0,1,··· ,Mx を空間1次

元と同じように計算できる。同様に、(3.8)も各 iごとに分離でき、各 iごとに un+1/2i,j j=0,1,··· ,My

から un+1i,j j=0,1,··· ,My を計算できる。

5.4 反応拡散方程式の数値シミュレーション

 反応拡散方程式 (5.1)に Neumann型境界条件

ux(t, 0, y) = 0, ux(t, Lx, y) = 0 for y ∈ (0,Ly),uy(t, x, 0) = 0, uy(t, x, Ly) = 0 for x ∈ (0,Lx)

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課した問題を ADI法を使い数値シミュレーションした。ただし、反応拡散方程式 (5.1)の f(u) =

(1 − u)(u − a)u を代入した。a は 0 ≤ a ≤ 1/2 を満たす定数です。d = 1.0, Lx = 100.0, Ly =

100.0,Mx = 200,My = 200,∆t = 0.2, a = 0.35とし、初期条件は

u(0, x, y) = 0.7 (37.4 ≤ x ≤ 42.6, 9.4 ≤ y ≤ 59.6),u(0, x, y) = 0.0 (その他の (x, y))

(5.7)

を与えた。

 近似値 u の値の大きさを色合い表現を使い表現した。カラーバーを使い、近似値 u の値を表現

する。カラーバーは上から、赤・黄・緑・シアン・青の順に並んでる。近似値 uの値が大きければ

赤色に、小さければ青色になる。また、カラーバーの最大値を 1.0,最小値を 0.0する。数値シミュ

レーションの結果を図 9でを示す。

図 9 反応拡散方程式の数値シミュレーション結果

17

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 図 9のそれぞれの時刻は、左上から右上、左下から右下の順に時刻 t = 0, 24, 80, 160, 240, 424

である。

 図 9から、近似値 uの値は一定値 1.0に収束していくことが分かる。これは、微分方程式

ut = (1− u)(u− a)u (5.8)

について考えると、定常解 u = 0, a, 1のうち u = 0, 1は漸近安定であるが、u = aは u = 0に漸

近する解と u = 1 に漸近する解を分ける不安定な定常解である。今回 aの範囲は 0 < a < 1/2 の

ため、u = 0の引き込み領域より u = 1の引き込み領域のほうが広くなる。そのため、u = 1の引

き込みが強くなるため近似値 uは 1.0に収束する。[2]

 初期値 0.7を与えた部分周りから 1.0に収束する。次第に周りへと広がっていき、1.0へ収束する

ことが分かる。時刻 t = 324までいくと長方形領域全体が 1.0へ収束することが分かる。

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5.5 空間2次元興奮系

参考文献 [1]より、2次元空間における神経興奮パルスを調べた。

 2次元空間における FitzHugh-Nagumo方程式は

ut = uxx + uyy + u(1− u)(u− a)− v + I(t, x, y)vt = ε(u− γv)

(5.9)

と表せる。ただし、領域は先ほど 5.1で説明した長方形領域 Ω , t > 0とします。 境界条件とし

て、x方向,y 方向とも周期境界条件を課した。まず、新たに課した境界条件の周期境界条件につい

て説明する。

 周期境界条件は

u(t, 0, y) = u(t, Lx, y), ux(t, 0, y) = ux(t, Lx, y) y ∈ (0, Ly), t > 0u(t, x, 0) = u(t, 0, Ly), ux(t, x, 0) = ux(t, x, Ly) x ∈ (0, Lx), t > 0

と表せる。周期境界条件を課すことにより、境界は上側と下側、右側と左側の境界が繋がっている

と考える。

5.6 空間2次元興奮系数値シミュレーション

5.6.1 1点周りに刺激を与える 式 (5.9) を ADI 法で計算する。Lx = 600.0, Ly = 600.0, a = 0.1, ε = 0.005, γ = 5.0,Mx =

200,My = 200,∆t = 0.3とした。I(t,x,y)は

|x− 300| ≤ ∆x2, |y − 200| ≤ ∆y

2,

nT ≤ t ≤ nT + 5.0(n = 0, 1, 2, · · · )に対しては、I(t, x, y) = 2.0,

その他の (t, x, y)に対しては I(t, x, y) = 0

で与え、数値シミュレーションした (T = 200.0)。

 刺激 I(t, x, y)を1点の周りに与える範囲について図 10をもって説明する。

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図 10 ある1点周りに対する刺激

図 10 は、長方形領域内のある格子点 () の周りを取り出し拡大したものである。刺激 I(t,x,y)

は、格子点を中心に横に ∆x,縦に∆y の長方形の範囲に与える。

 今回は格子点 (300, 200)周りに刺激 I(t,x,y)=2.0を与える。また、刺激を与える時間 5.0、時間

間隔 200.0とする。数値シミュレーション結果を図 11に示す。

図 11 1点の周りに対する刺激の興奮系の数値シミュレーション結果

 図 9と同様に、uの値の大きさをカラーバーで表す。それぞれの時刻は、左上から右上、左下か

ら右下の順に時刻 t = 12, 204, 420, 612, 720, 816である。

 周期境界条件を与えたので、図 11の左下 (t = 612)では下の境界で切れた波は上側にで発生して

る。

 波の間隔が時間経過で変わらないことから一定の伝播速度、逆方向の2つの波が衝突し消滅する

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衝突消滅と空間1次元の神経興奮パルスの性質が見れた。

5.6.2 異なる2点の周りに刺激を与える今回は異なる2点に対して刺激を与えた。その2点を (100,200),(500,450) とした。また、

(100,200)で与える刺激の時間間隔 T1 を 200、(500,450)での与える刺激の時間間隔 T2 を 250と

異なる時間間隔を与えた。(T1 < T2)数値シミュレーション結果を図 12に示す。

図 12 異なる2点の周りに対する刺激の興奮系の数値シミュレーション

図 12 は、これまでと同じように u の大きさはカラーバーで表す。それぞれの時刻は、左上から右

上、左下から右下の順に時刻 t = 0, 108, 324, 486, 576, 660である。図 11と同じように、神経興奮

パルスの性質が見れた。また、刺激を与える時間間隔が違う波が衝突消滅する位置に注目する。

21

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図 13 刺激を与える時間間隔が違う波の衝突消滅

図 13は、白まるの部分の衝突消滅に注目する。左は t = 564で衝突消滅は1回目,右は t = 1692

で衝突消滅が6回目のときです。白まるの衝突消滅の位置が時間が経つにつれて右上の方へずれて

いることが分かる。これは、T2 より T1 の方が波が出る量が多く、白まるの部分で T1,T2 から出た

波が対消滅するため、対消滅の位置が段々と時間間隔が長い格子点の方に寄っていく。

5.6.3 スパイラル・ウェーブ方程式 (4.2) を数値シミュレーションした。L = 600.0, a = 0.1, γ = 5.0, ε = 0.005,M =

300,∆t = 0.2 とする。x = 0 の場所に 0.2 の刺激を 3.0 の間与えた。t = 1000 のときの数値シ

ミュレーション結果を図 14に示す。

図 14 は、赤色の波が u, 青色の波が v を表す。このときの (u, v) 値を (u[i],u[j]) に記録した。

(i = 0, 1, · · · ,Mx)  次に、方程式 (5.9)に周期境界条件を課して、ADI法で数値シミュレーショ

ンした。Lx = 600.0, Ly = 600.0, a = 0.1, ε = 0.005, γ = 5.0,Mx = 300,My = 300,∆t = 0.2

とした。今回は、(u,v) に初期値を与えた。初期値の与え方は、先ほど記録した t = 1000 での空

間1次元の神経興奮パルスの (u,v)を使う。与え方としては、記録した ui(i = 0, 1, · · · ,Mx)を u

図 14 t=1000での空間1次元の神経興奮パルス

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=(u0, u1, · · · , uMx) ように横方向に並べる。次に、u を縦方向にMy 個並べた2次元配列を初期

値とする。数値シミュレーション結果を図 15に示す。

図 15 空間1次元神経興奮パルスの (u,v)を縦に並べたもの

図 15は、uの大きさはカラーバーで表し、左から右へ t = 0, 300, 600です。空間1次元の神経興

奮パルスは縦一直線の波で現れる。神経興奮パルスは、時間経過とともに右側へ向かう。また、周

期境界条件を課しているので、右の境界を超えた神経興奮パルスは左の境界から現れる。

 次に、図 15 の波の一部を切り取るとどうなるか調べた。切り取る方法は、横方向の一部を指定

して (u, v) を強制的に (0.0, 0.0) とした。切り取る間隔が、短い場合と長い場合を数値シミュレー

ションした。結果をそれぞれ図 16、図 17に示す。

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図 16 切る間隔が短いとき

図 17 切る間隔が長いとき

図 16は、左から右へ t=0,60,120です。神経興奮パルスを切った間隔が短いと、切れている部分

が修復され、図 15と同じ形となり、右側へ進む。

 次に、図 17 は、左上から右上へ、左下から右下へ、t=0,220,300,440,560,600 です。時間経過

するにつれ、切った部分から左側へ巻いていく様に、神経興奮パルスが進んでいく。2つの巻いて

いる波が衝突消滅し、大きな円形の波が外側へ流れる。また、この波はいくつも一定の間隔で発生

しており、この波の形はすべて同じであることが分かる。この波のことをスパイラル・ウェーブと

言う。

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6 色合い表現から立体的表現へ

6.1 立体的表現

 今回の目的でもあった色合い表現をしたものに加えて、u の大きさを視覚的に確認できるよう

にするため立体的表現をした。 立体的表現をするにあたり、格子点での近似解 uを高さにするこ

とで立体的表現をした。また立体的表現では、今までのカラーバーでの uの表現では、立体が見え

にくいので、単色 (黄色) のグラデーションを使った。立体に色を付ける方法として、ある格子点

(i,j)の隣り合う点 (i+1,j),(i,j+1),(i+1,j+1)を結んだ格子を塗り潰した。見る視点は今までは、真

上から見ていたが、真上からでは立体になってるか分からないので、見る視点を (2.0,5.0,1.0)とし、

斜め上から見るようにした。 図 9と図 11立体的表現した。

図 18 図 9の立体的表現

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図 19 図 11の立体的表現

図 18は、白色で書かれた立体は1辺の長さ1の立方体で、底面は xy平面(z=0)に書かれてい

ます。時間 tはそれぞれ図 9と同じ時刻である。立体的表現は、高さがあるため、上下の変化が分

かり易く、初めの 0.7から 1.0へ収束する部分はよく分かった。 図 19は、uの最大値が大きくそ

のまま使うと神経興奮パルスが高くて細長いものになり、見にくいと思い u は 20 倍縮小したもの

を使った。また、図 18と違い、上下の変化はないため、立体的表現をすることにより見やすくなっ

た部分はなかった。

6.2 改善点

   立体的表現をしてみて分かり易く綺麗にに表せたとは言えない。理由は、長方形領域を区

切っていた格子が細過ぎることにあると思った。長方形領域を区切る格子をもっと大きくしたり、

色を塗るときに、複数の小さな格子を1つ大きな長方形の格子とし色を塗ったりと改善できる。ま

た、色の付け方にも格子を塗り潰す以外に格子の枠だけに色を付けるなどの改善が必要だ。

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7 まとめ

 本研究の目的は、空間2次元偏微分方程式を色合い表現に加えて立体的表現をすることを目的

とした。

 初めに偏微分方程式を差分近似するため、差分法について学んだ。差分法には種類があり、今回

は陽解法、陰解法、ADI法の3つの違いを学んだ。

 実際に空間1次元偏微分方程式で差分近似してみた。熱方程式は、Neumann 型,Direchlet 型境

界条件を課し、それぞれの境界条件でどのように収束していくかを学んだ。Fitz-Hugh-Nagumo方

程式は神経興奮パルスの性質が確認でき、その性質について学んだ。

 次に空間1次元から空間2次元の偏微分方程式を差分近似した。反応拡散方程式は、名前の通り

u が周りへ広がっている様子を学んだ。興奮系は、空間1次元で学んだ神経興奮パルスの性質を空

間2次元で改めて確認した。

 最後に、色合い表現から立体的表現をした。結論から、立体的表現は綺麗に表すことは今回でき

なかった。改善点は 6.2 で挙げている。挙げた点を改善し、今回よりもっと綺麗に表現しようと

思った。

謝辞

 今回の研究を進めるにあたり、tex の書き方を教えていただいた樋栄潤樹さん、動画作りを教え

たいただいた細井亮介さん、プレゼンテーションと tex でアドバイスをいただいた川瀬佳孝さん・

山田裕貴さんには大変お世話になりました。心から感謝しております。

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参考文献

[1] 池田 勉 「計算科学 I・計算科学実習 I資料」2006年

[2] 二宮 広和・森田 善久 「反応方程式における進行波解と全域解」pp.3-4

http://home.mims.meiji.ac.jp/∼ninomiya/MoritaNinomiy(28sugaku)29.pdf

[3]「土木・建築関連技術者のための水理計算における差分法入門講座(第1講 差分法入門)」

pp.15-16

http://toshi1.civil.saga-u.ac.jp/ohgushik/sabun1.pdf

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