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研究報告書 現代的組織のモチベーションについて 早稲田大学商学部井上達彦ゼミナール第2期 モチベーション班 岡本 彩 金坂 剛嗣 貴家 毅 柘植 美里 長坂 亮子 舟木 真也 - 1 -

研究報告書 - Waseda University研究報告書 現代的組織のモチベーションについて 早稲田大学商学部井上達彦ゼミナール第2期 モチベーション班

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Page 1: 研究報告書 - Waseda University研究報告書 現代的組織のモチベーションについて 早稲田大学商学部井上達彦ゼミナール第2期 モチベーション班

研究報告書

現代的組織のモチベーションについて

早稲田大学商学部井上達彦ゼミナール第2期

モチベーション班

岡本 彩 金坂 剛嗣

貴家 毅 柘植 美里

長坂 亮子 舟木 真也

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目次

SUMMARY

第1章 組織におけるモチベーション ~F.ハーズバーグの二要因理論~

1-1 研究の意義 1-2 F.ハーズバーグの二要因理論 1-2-1 調査目的 1-2-2 調査方法について 1-2-3 考察・結果

第2章 調査課題

2-1 問題意識 2-2 調査課題

第3章 検証

3-1 検証対象・方法 3-2 ハーズバーグのインタビュー調査 3-3 ゼミへ適応させたアンケート 3-4 集計方法

第4章 アンケート結果・結論 第5章 新たな仮説

5-1 欲求充足ライン 5-2 インセンティブの強さと満足感の充足度 5-3 マズロー・ハーズバーグ合成モデル 5-4 新・モチベーションモデル 5-5 新・モデルとハーズバーグ理論 5-6 まとめ

補足 コラム

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SUMMARY

現代的組織の構成員のモチベーションを上げるにはどうしたらいいのであろうか。その

疑問に答えるべく、私たちは代表的なモチベーション理論であるF.ハーズバーグの二要因

理論をベースに考えることにした。 この理論は現在有名な論文の一つとして評価されているが、彼がこの理論の元となった

調査を行ったのはおよそ50年も前の話であり、また、調査対象などを見ていくと一部の

限られた業界の人である。したがってこの結果が現代の、すべての組織に当てはまるとは

考えにくい点が浮かび上がった。また彼が提唱する「動機付け要因」「衛生要因」がそのと

おり当てはまるのか、場合によっては動機付け要因が不満足につながる、または衛生要因

が満足につながることもあり得るのではないかという仮設に至った。 そこで私たちはゼミという集団に着目し、いくつかのゼミにアンケート調査を行った。

その結果いくつかの項目に関してはハーズバーグのいう「動機づけ要因」にはいるものが

不満足につながったものやその逆のものがでてきた。そして一部の項目については調査対

象の差も多少関係あるものの、まったく違う結果が出てきたものもあった。 そして私たちが調査したアンケートの結果をもとに次のような仮説を導いた。それは「動

機づけ要因」と「衛生要因」はそれぞれ満足度が違うということである。前者は満足度に

は上限がなく、後者には満足度の限界はあるが、同じインセンティブではある一定のとこ

ろまでは動機づけ要因より大きな満足が得られると。そうなるとインセンティブの量によ

っては二要因理論の考え方があてはまらない部分が出てくることが分かった。 私たちは二要因理論と、今回行ったアンケート調査で明らかになったことをもとに、現

代的組織のモチベーション向上のための刺激に対する反応を表す独自のモデルを生み出し

た。そのモデルによると、現代的組織においては、モチベーション向上のためのインセン

ティブ(刺激)は、常にこれを刺激すればよいというものはなく、組織のモチベーション

の状態や、成熟過程を加味して選択することが重要であることが分かった。

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第1章 組織におけるモチベーション

~F. ハーズバーグの二要因理論~

1-1 研究の意義 組織においてモチベーションの向上は、重要な課題の一つである。 かつての組織の在り方は、構成員の目標と組織の目標が一致し、構成員は組織の目標の

ために活動していた。しかし、現代において組織のあり方は変わった。構成員は組織の目

標のために貢献するよりも、「自己実現」を目標にし、そのための手段として組織に所属す

るという形が見られる。それでいて、その活動は個々人で成し得るものではなく、以前と

変わらずチームワークが必要とされている。このように、構成員が自己実現を目標にし、

組織全体の目標と一致しておらず、それでいて協働が必要とされる組織を「現代的組織」

と呼ぶことにする。 では、現代的組織のモチベーションを向上させるにはどのようにしたらよいのだろうか。

組織としての性質が変わっても、以前から言われているような方法でよいのだろうか。モ

チベーション向上についての学説は数多くあるが、本研究ではその中でも F. ハーズバーグ

の二要因理論に着目する。 ハーズバーグの二要因理論といえば、アブラハム・マズローの欲求五段階説などと共に もっとも有名なモチベーション理論の一つである。この理論は私たちの研究において重要

な役割となるのでここで解説しておく。 1-2 F. ハーズバーグの二要因理論 この論で重要な点は社員や部下を動機付けようとするとき、金銭(給与など)や諸制度

(福利厚生など)によるものだけではモチベーションが高まらないということである。ハ

ーズバーグは前に述べた要因のほかに、人間的成長や仕事の充実を促す要因(インセンテ

ィブ)の重要性を主張している。前者の金銭的や諸制度によってモチベーションの向上を

図るインセンティブを「衛生要因」、人間的成長や仕事の充実を促すインセンティブを「動

機づけ要因」と定義している。また彼は「仕事への満足に関連する諸要因は、仕事への不

満足を生み出す諸要因とは別物である」ということも論じている。これをもう少し分かり

やすく直すと、仕事への満足につながる要因、仕事への不満足につながる要因は別物で、

仕事への満足と仕事への不満足は表裏の関係にはないということである。ハーズバーグ曰

く、仕事への満足の反対は仕事への不満足ではなく、仕事に満足を抱けないことで、同様

に、不満足の反対も満足ではなく、不満足が存在しないことである。 次では先ほどの二つの要因を調査した結果、その方法について述べ、要因をそれぞれに

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ついて説明していく。 1-2-1 調査目的 調査を行うことによって検証することとしては次のようなことがある。ハーズバーグは、

動物生来の環境からの苦痛を回避しようとする性質から起こる欲求を刺激する要因を「衛

生要因」、人間ならではの精神的成長を経験できる性質から起こる欲求を刺激する要因を

「動機付け要因」とした。 衛生要因は企業の施策と管理、監督、対人関係、作業条件、給与、身分、福利厚生など、

仕事以外のところに存在し、動機付け要因は達成、達成の承認、仕事そのもの、責任、成

長ないし昇進など、職務に内在している。彼は、衛生要因は欠けると不満足を引き起こす

もので、満たしても満足にはつながらず、逆に動機付け要因は与えれば満足につながるが、

欠乏しても不満足にはつながらないものであるとし、それを裏付けるためにインタビュー

調査を行った。 1-2-2 調査方法について この調査における調査対象はピッツバーグのエンジニアと、経理担当者 200 人である。

インタビューの方法については、仕事中に極度の満足または不満足を覚えたとき、その仕

事の上でどのようなことがおきたのかということについて質問した。その結果を「プラス

の出来事」の総数と「マイナスの出来事」の総数を百分率で分析されている。その結果を

まとめたものが次のグラフとなった。

0 2 424 %

動 機 付

衛 生

保障

身分

部下との関係

個人生活

同僚との関係

給与

労働条件

監督者との関係

監督

会社の方針と管理

成長

昇進

責任

仕事そのもの

承認

達成

満足要因 不満足要因

(出所:『ハーバードビジネスレビュー2003 年 4 月号』p.53) 図のグラフにおいて赤い部分が「満足」を招いた要因、青の部分が「不満足」を招いた要

因となる ※この図において表記上不満足がマイナスとなっている。

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1-2-3 考察・結果 このグラフから、「満足」の要因を招いているものとして達成、仕事そのもの、承認、成

長、責任、昇進、の 6 つの項目が挙げられ、そのほかのものについては、不満足の要因を

招いているといえる。これらの共通することとしては、「満足」を招いている要因はハーズ

バーグの理論で言う「動機づけ要因」にあてはまるもので、そのほかのものについては「衛

生要因」にあてはまるということである。また下のグラフより仕事の満足に貢献している

要因の 81%が「動機づけ要因」、また不満足を促している要因の 69%が「衛生要因」とな

っていることがわかる。このことから、「衛生要因」以上に「動機付け要因」が社員や部下

のモチベーションを上げる要因としては重要であるということがいえる。(図 2 参照) 図 2

満足要因 不満足要因

動機付け要因

衛生要因

数値は%

81

19

31

69

(出所:『ハーバードビジネスレビュー2003 年 4 月号』p.53)

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第 2 章 調査課題

2-1 問題意識 次に、ハーズバーグの唱える二要因理論に対して、私たちが抱いた疑問をもとに本研

究の主題について述べていく。 私たちはハーズバーグの二要因理論に対して、一つの疑問を抱いた。

この調査は、1950年代にピッツバーグのエンジニアと、経理担当者 200 人を対象に

行われた。つまりこの理論は、過去の、それも極めて限られたサンプルにおける調査から

生み出されたのである。 従って、この理論はそれらのサンプルには当てはまっても、現代にも通じる汎用的なも

のかどうかはわからない。少なくとも私たちは自分自身に置き換えて考えたとき、理論ど

おり「動機付け要因-衛生要因」の枠組みには当てはまらないと感じた。 2-2 調査課題 以上の疑問より、私たちは以下の主題をもとに研究を進めていくことにした。

「ハーズバーグの二要因理論は、調査対象によっては動機付け要因が不満足につながる、

または衛生要因が満足につながることもあり得るのではないか」 すなわち、モチベーションの源泉は「動機付け要因-衛生要因」とはっきり区別できる

のか。区別できるとしても、ハーズバーグが提唱するものと同じ分類なのか。彼は195

0年代のエンジニアと経理担当者を調査対象とし、上記のような結果を得た。調査対象を

変えれば、その結果は変わってくるのではないだろうか。

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第 3 章 検証

3-1 検証対象・方法 検証はハーズバーグが行ったインタビューをもとにアンケートを作成し、ゼミを対象に

行う。対象が企業でないということは、アンケート回収の実現可能性を考慮した結果であ

る。 ゼミもひとつの組織で、それぞれカルチャーを有し、モチベーションの向上が大きな一

つの課題であると考えられるため、問題はないだろう。ただ、金銭的な面が絡まないこと

など、ゼミと企業の違いはある。これはアンケートを作成する際に考慮しなくてはならな

い点である。 また、調査を行った早稲田大学の商学部ではゼミ登録を行わないまま卒業することも可

能であり、ゼミに登録し、専門知識を深めたいと考えている学生は比較的自己実現欲求の

高い人々であると推測される。これは現代的組織への参加における第一目的が「自己実現欲

求達成のため」という意識が高まっている現代の風潮に整合しているため、同大学商学部の

ゼミを対象に調査を行った。

3-2 ハーズバーグのインタビュー調査 まず、私たちの作成したアンケートのもととなったハーズバーグのインタビュー調査を

提示する。ハーズバーグは、実際に行ったインタビューの基本形を『The Motivation to Work』にて記述している。そのインタビュー内容とは「あなたの現在の仕事、もしくは今

までに就いたことのある仕事について、特に満足と感じたときと、特に不満足を感じたと

きについて考えてください。これは長期にわたるものでも短期的なものでも構いません。

何が起きたかお教えください。」Frederick Herzberg(1959) というものである。そして、そ

の結果、ハーズバーグは満足・不満足をもたらす要因を大きく以下の16個に分けた。こ

れは、私たちが訳したものである。

<ハーズバーグの分析> 1.承認

0.話題にのぼらない 1.仕事を褒められた -報酬はなし 2.仕事を褒められた -報酬を与えられる 3.仕事を注意された –褒め言葉・褒められることなく 4.仕事を注意されなかった 5.良いアイディアは受け入れられなかった

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6.不十分な仕事を責められたまたは批判された -処分なし 7.不十分な仕事を責められたまたは批判された -処分あり 8.成功した仕事を責められたまたは批判された -処分なし 9.成功した仕事を責められたまたは批判された -処分あり R. 監督者や他の人たちから仕事における信頼を得る X. アイディアが会社に受け入れられた

2.達成 0.話題にのぼらない 1.成功した仕事の完了または、仕事が上手くいっている局面 2.良いアイディアを持っている -問題の解決策 3.会社のためにお金を稼いでいる(売上・利益をあげている) 4.正当性の立証―疑問を抱いている人・挑戦者に対する正しさの実証 5.仕事の失敗または、そのような局面 6.仕事の結果を見ること 7.仕事の結果が見えないこと 3.成長 0.話題にのぼらない 1.能力の成長 ―目標の明示 2.地位・身分の成長(昇進) -目標の明示 3.成長の機会の欠如 4.昇進 0.話題にのぼらない 1.予期しない(期待していなかった)昇進 2.昇進(予期していた・期待していた) 3.期待していた昇進ができなかった(失敗) 4.降格 5.給料 0.話題にのぼらない 1.給与の上昇(増額) 2.予期しない(期待していなかった)給与の上昇 3.期待していた給与の増額がなかった 4.給与の増額が期待していたより少ないまたは遅かった 5.給与の総額 6.給与が似たようなまたは同じ仕事をしている人と比べてよい 7.給与が似たようなまたは同じ仕事をしている人と比べてよくない 6.対人関係―監督者

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0.話題にのぼらない 1.監督者との友好的な関係 2.監督者との友好的ではない関係 3.監督者から多くのことを学んだ 4.監督者が間違った方向に進んでいる 5.監督者は管理者なのに彼を助けてくれなかった 6.監督者は尊敬できる 7.監督者は尊敬できない 8.監督者は快く提案を聞く 9.監督者は快く提案を聞かない R. 監督者はなされた仕事に対し信用(功績)を与える X. 監督者は信用(功績)を与えない 7.対人関係―部下 0.話題にのぼらない 1.部下との良好な仕事関係 2.部下との乏しい(良好でない)仕事関係 3.部下との良好な人間関係 4.部下との乏しい(良好でない)人間関係 8.対人関係―同僚 0.話題にのぼらない 1.一緒に働いている人たちが好き 2.一緒に働いている人たちが嫌い 3.一緒に働いている人たちの協力(協働) 4.同僚の協力(協働)の欠如 5.結束したグループの一員であること 6.グループからの孤立 9.監督、管理,指揮-専門(技術)的な

0.話題にのぼらない 1.能力のある 2.無能な監督 3.すべて試しにやってみるべきだという考えの監督 4.うまくはたらくよう派遣された監督 5.絶えず批評力のある監督 6.えこひいきをする監督 10.責任

0.話題にのぼらない

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1.監督を除いて許される 2.責任を負うべき 3.ほかの仕事から責任を与えられる 4.責任感に欠ける 5.公式の昇進ではなく与えられた新しい責任

11.会社理念と運営 0.話題にのぼらない

1.仕事上効果的な組織 2.仕事に害を与えるもしくは無影響な組織 3.個人の理念に利益がある 4.個人の理念に不利益がある 5.企業目標に合意できる 6.企業目標に合意できない 7.高い会社の地位 8.低い会社の地位

12.仕事の状況 0.話題にのぼらない 1.孤立した仕事 2.社会的周囲の中の仕事 3.良い物理的環境 4.乏しい物理的環境 5.能力によい 6.能力によくない 7.適当な量の仕事 8.多すぎる仕事 9.少なすぎる仕事

13.仕事自体 0.話題にのぼらない 1.ルーティン 2.変化に富んだ 3.創造的な(挑戦) 4.簡単すぎる 5.難しすぎる 6.全ての段階の仕事をする機会

14.個人生活での要素 0.話題にのぼらない

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1.家族問題 2.地域社会と他の外的状況 3.給与の面での家族の要求と切望

15.地位 0.話題にのぼらない 1.サインか付属品 2.与えられた地位を持っている 3.与えられた地位を持っていない

16.仕事の安全性 0.話題にのぼらない 1.保有か安全性の目標 2.安全性の目標表示の欠如

資料)『The Motivation to Work』New York : Wiley,p.141‐147<Analyze>

3-3 ゼミへ適応させたアンケート 私たちはこの16個の項目から、ゼミに当てはめられるものを選び、ゼミに置き換え、

それぞれの項目の数ある要素を、満足に関わるもの、不満足に関わるもの、それぞれ一つ

に集約した。項目の置き換えは、仕事は学習、同僚は同期ゼミ生、監督者は先生、部下は

後輩とした。また、ゼミを考える上で先輩というのは欠かせない存在だと考え、先輩との

関係を追加した。 以下が選別、集約結果である。番号は上記したハーズバーグの分析結果と対応している。

1.承認 <満足> 学習内容を褒められる <不満足> 学習内容を批判される

2.達成 <満足> 学習の成果が分かる <不満足> 学習の成果が見えない

3.成長 <満足> 能力の向上を感じる <不満足> 成長の機会がないと感じる

4.昇進 ゼミには該当せず 5.給料 ゼミには該当せず

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6.対人関係―先生 <満足> 先生と良好的な関係を築く <不満足> 先生と良好的な関係が築けない 7.対人関係―後輩 <満足> 後輩と良好的な関係を築く <不満足> 後輩と良好な関係を築けない 8.対人関係―同期 <満足> 同学年の人たちを好きだと感じる <不満足> 同学年の人たちを好きになれない 9.先生、管理,指揮-専門(技術)的な <満足> 先生を能力のある人だと感じる <不満足> 先生を無能だと感じる 10.責任 <満足> 責任を与えられる <不満足> 責任のあることを与えられない 11.理念と運営 <満足> ゼミが掲げる目標に合意できる <不満足> ゼミの掲げる目標に合意できない 12.仕事の状況 <満足> 適度な学習量である <不満足> 学習量が適量ではない 13.仕事自体

<満足> 学習が変化に富んだものである <不満足> 学習がルーティンワークである

14.個人生活での要素 <満足> プライベートが充実している <不満足> プライベートが充実していない 15.地位 <満足> 期待していた役職に就く

<不満足> 期待していた役職に就けない 16.仕事の安全性 ゼミに該当せず 17.対人関係-先輩(追加) <満足> 先輩と良好的な関係を築く <不満足> 先輩と良好的な関係を築けない

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以上、削ったもの、追加したものを合わせると14個の項目になる。それに「その他」

という記述式の項目を足し、15項目のうち、私たちは満足に関係した要因と不満足に影

響した要因のそれぞれ上位5つを聞く。上位5つとしたのは、ハーズバーグにインタビュ

ー内の「特に」という言葉を考慮したためである。 以下は実際に私たちが行ったアンケートである。

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「モチベーション」に関するアンケートのお願い 私たち早稲田大学商学部井上ゼミナール第2期生は、現在、ゼミナールの研究報告書作

成に取り組んでおります。私たちの班では、その研究のため、モチベーションについて皆

様にアンケート調査のご協力をお願いすることとなりました。 お答えいただいた内容は、すべて%や平均など統計的に示します。調査はあくまでも学

術的な研究として行うものであり、それ以外の目的では使用することはございません。 お忙しいこととは存じますが、ご協力くださいますようよろしくお願いします。 アンケート時間は10分程度です。 なお、このアンケートについて、ご不明、ご不審な点がございましたら、下記の連絡先

まで何なりとお問い合わせください。

早稲田大学商学部井上達彦ゼミナール2期生 岡本彩 貴家毅 柘植美里

金坂剛嗣 長坂亮子 舟木真也

● まず、以下の問いにお答えください。 ① あなたの所属するゼミナールをお答えください。

( )大学( )学部( )学科( )年生 ( )ゼミナール( )期生 (報告書では、例えば「会計系ゼミA」や「経営系ゼミB」などと表記し、決してゼミ

名を公表することはございませんので、よろしくお願いします。)

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●あなたの現在のゼミ活動において、満足を感じるときと、不満足を感じるときについて

お教えください。 1.現在所属するゼミの活動において、「あなたはどのようなとき、どのようなことに、よ

り大きな満足を感じましたか。」過去や現在の状況で感じたものを、以下の項目から5

つ選び、「満足」の程度が大きい順に、1~5位まで順位をつけて下さい。

①学習内容を褒められる ②適度な学習量である ③後輩と良好な関係を築く ④学習の成果が分かる ⑤期待していた役職に就く ⑥能力の向上を感じる ⑦先生と友好的な関係を築く ⑧同学年の人たちを好きだと感じる ⑨学習が変化に富んだものである ⑩先輩と友好な関係を築く ⑪責任を与えられる ⑫先生を能力のある人だと感じる ⑬ゼミが掲げる目標に合意できる ⑭プライベートが充実している ⑮その他( )

1位 2位 3位 4位

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1.現在所属するゼミの活動において、「あなたはどのようなとき、どのようなことに、よ

り大きな不満足を感じましたか。」過去や現在の状況で感じたものを、以下の項目から

5つ選び、「不満足」の程度が大きい順に、1~5位まで順位をつけて下さい。 ①先生を無能だと感じる ②成長の機会ないと感じる ③先輩と良好な関係を築けない ④期待していた役職に就けない ⑤責任のあることを与えられない ⑥学習の成果が見えない ⑦先生と友好的な関係が築けない ⑧学習内容を批判される ⑨ゼミの掲げる目標に合意できない ⑩学習量が適量でない ⑪後輩との良好な関係が築けない ⑫プライベートが充実していない ⑬同学年の人たちを好きになれない ⑭学習がルーティンワークである ⑮その他( )

1位 2位 3位 4位

以上でアンケートは終了です。ご協力ありがとうございました。

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3-4 集計方法 集計は満足要因・不満足要因として挙げられた項目を、1位を5点、2位を4点、3位

を3点、4位を2点、5位を1点として点数化して合計し、全ての項目の全得点の合計か

ら、それぞれの得点の割合を出し、どの項目が、どれだけ満足要因、不満足要因として挙

げられたかを調べる。そして、満足に関わった要因・不満足に関わった要因をそれぞれ考

察する。

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第4章 アンケート結果・結論

4-1 アンケート結果 私たちは、第三章で示したアンケートを、9つのゼミナール、総計 172 人に依頼し、う

ち 160 枚の有効回答を得た。以下に示すのは、満足要因、不満足要因それぞれ 1 位 5 点、

2位4点、3位3点、4位2点、5位1点で点数化したときの、総得点(満足要因 2379 点、

不満足要因 1774 点)における割合をパーセントで表し、小数第二位を四捨五入して出した

値である。 達成 :満足要因 11.7%、不満足要因 20.0% 承認 :満足要因 8.9%、不満足要因 6.6% 学習内容 :満足要因 4.5%、不満足要因 12.2% 責任 :満足要因 3.1%、不満足要因 4.0% 成長 :満足要因 17.4%、不満足要因 14.8% 目標 :満足要因 1.9%、不満足要因 3.8% 先生 :満足要因 6.5%、不満足要因 3.6% 先生との関係:満足要因 6.7%、不満足要因 4.9% 学習量 :満足要因 5.8%、不満足要因 9.9% 同期との関係:満足要因 18.1%、不満足要因 3.9% プライベート:満足要因 4.7%、不満足要因 7.8% 先輩との関係:満足要因 6.3%、不満足要因 5.7% 後輩との関係:満足要因 3.8%、不満足要因 2.4% 役職 :満足要因 0.4%、不満足要因 0.5% 以下に示すのが、これらをグラフにしたものである。

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アンケート結果

役職

後輩との関係

先輩との関係

プライベート

同期との関係

学習量

先生との関係

先生

目標

成長

責任

学習内容

承認

達成

満足要因 不満足要因

0 10 201020%

また、ハーズバーグが動機付け要因とする「達成」から「成長」までの計5項目が満足に

つながっている割合は 45.6%、衛生要因とする「目標」から「役職」までの計9項目が満

足につながっている割合は 54.4%であった。 同様に、ハーズバーグの言う動機付け要因が不満足につながっている割合は 57.6%、衛

生要因が不満足につながっている割合は 42.4%であった。 そのほかに目を引くのは、人間関係が満足要因の 41.5 パーセントを占めるということで

ある。また、人間関係の中でも、同僚との関係は他の要因に比べ、不満足要因に対し、満

足要因が著しく高い結果が出た。 4-2 結論 アンケートの結果から、ハーズバーグが満足要因と定義していたものも不満につながっ

ていること、また衛生要因と定義していた人間関係などについても満足につながり、モチ

ベーションを上げる要因になるということがわかった。つまり、ハーズバーグの理論とは

異なり満足の反対は不満足になり得るということである。 これらのことより、「ハーズバーグの二要因理論は、調査対象によっては動機付け要因が

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不満足につながる、または衛生要因が満足につながることもあり得る」という結論が導き

出せる。 では、ハーズバーグの二要因理論が当てはまらない現代組織においてモチベーションを

向上させるためにはどのようにしたらよいのか。今回行ったアンケート結果をもとに我々

の考える新しいモチベーションについてのモデルを次章で述べていきたい。

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第5章 新たな仮説

前章によってRQへの回答は得られた。しかし私たちは、このアンケートの結果を更に

深く掘り下げて検討を加えることによって、新たな仮説にたどり着いた。最後にその新た

な仮説を提唱し、この報告書を締めくくりたいと思う。 5-1 欲求充足ライン 私たちのアンケートでは、ゼミへの満足につながった要因のうち、衛生要因が 54.4%と

過半数を占めた。また不満へとつながった要因のうち、動機付け要因が 57.6%と、これま

た過半数を占めた。このように、ハーズバーグの行った調査と著しく差が出たのは、前章

で示した時代の差などのほかに、衛生要因と動機付け要因で異なる欲求の充足ラインとい

うものの存在が関係するのではないかと考えた。 人には、衣食住などの動物的欲求と、向上心に代表される人間的欲求がある。モチベー

ションに関する研究の第一人者とされるアブラハム・マズローは、この動物的欲求を提示

欲求、人間的欲求を高次欲求として、動物的な低次の欲求は満たされれば次の高次の欲求

に進むが、自己実現など人間的な高次の欲求は次に進む段階がなく、人はこの高次の欲求

を追い続ける形となるとしている(マズローの理論についてはコラムを参照)。したがって、

人間的欲求と動物的欲求それぞれに対して、人が充足を感じるレベルは異なることが言え

る。つまり、人間的欲求には、充足しきる上限はほぼなく、動物的欲求には、充足できる

一定のラインがあるということである。その充足できるラインを越してしまえば、刺激に

対する満足度合いが相対的に低くなる。それは、たとえば、とても飢えている人が、食料

を手に入れたときの満足度と、食料を手にいれた人が、より多くの食料を手にいれる満足

度を想像してもらえば理解できるだろう。 ハーズバーグの理論で言えば、上の動物的欲求を満たすのが衛生要因であり、人間的欲

求を満たすのが動機付け要因である。一定の充足ラインを超すまでは、衛生要因も刺激す

れば満足要因となるが、充足ラインを超してしまえば、それ以上衛生要因を刺激しても、

大きな満足につながることはない。それに対し、動機付け要因は充足レベルの上限がない

ため、刺激が大きくなるほど、満足につながるのではないかと考えた。 この欲求充足ラインと、私たちがアンケートを行った各ゼミの欲求の刺激-反応レベル

を図に表すと以下の図5-aのようになる。現在の刺激(S)(=インセンティブ)の強さ

は、様々なタイプのインセンティブによって表れる反応(R)(=満足)によってあらわさ

れる。なお、インセンティブの種類やそれによって得られる反応は人によって異なる主観

的なものと言えるが、この研究においては、そのような主観的要素は排除して表せるもの

としている。

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図5-a 人間的欲求の充足ライン(無限)

現在の刺激 S

R=反応

動物的欲求の充足ライン(有限)

刺激0 人間的欲求もどちらもある程度の満足は満たされている。インセンティブ(刺激)によ

って得られる満足(反応)が充足ラインに近づくほど人は満足を感じ、インセンティブに

よる満足が充足ラインを超えなければ、人は不満を覚える。動物的欲求の充足ラインには

上限があるため、そのラインの上限に近づくほど不満は解消される。それに対し、人間的

欲求は充足しきるということがないため充足ラインに一定の上限がない。ある自分で設定

した充足ラインを越えたとしても、新たにより高い人間的欲求の充足ラインが生まれると

いったように、満足しきることがない。しかし、人間的欲求は、満足を感じても完全に満

たされることはなく、不満足が減りはすれども、完全に解消されることはない。 したがって今回の結果で、動機付け要因が不満足要因にもなった理由として、自己実現

的なインセンティブで満足を感じることもあるが、まだまだ足りず不満も感じるという状

況が成り立ったのではないか、と考えられる。また、衛生要因も満足・不満足要因ともに

大きいという今回の調査は、衛生要因のほとんどが 100%の充足度水準に達してないことを

示すと思われる。 また、今回の調査でハーズバーグの調査と比べて著しく満足要因としての割合が高く、

不満足要因としての割合が低かった「同期との関係」の特出した結果についても、この欲

求充足ラインで説明がつくと思われる。 「同期との関係」に対する満足が著しく多く、不満足が少なかったのは、「同期との関係」

がまさに充足ラインに近い位置にあったのではないだろうかと私たちは考えた。これを図

5-b に表すと以下のようになる。

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図5-b

動物的欲求の充足ライン

同期との関係 S

他の衛生要因 S

刺激0

同期との関係の欲求は、充足ラインにかなり近いレベルまで満たされている。そのため、

満足の度合が相対的に大きくなり、不満を感じることも少ないのではないか。逆にそれ以

外に衛生要因に関しては、満足にも不満にもつながったアンケート結果から、ある程度満

たされてはいるものの、同期との関係に比べればまだまだ不満は大きいということで、図

のように位置づけられると思われる。 以上のことから、「満足の反対は不満だろうか」という疑問を欲求充足ラインの観点で見

ると、充足ライン近くまで満たされている欲求(私たちの調査で言えば「同期との関係」)

に関しては「満足の反対は不満ではない」ということになるが、充足ラインまでまだ遠い

欲求に関して言えば、「満足の反対は不満である」と言えることになる。 5-2 インセンティブの強さと満足感の充足度

この欲求充足ラインの論理に従って、私たちは新たな仮説を提起したい。それは「イン

センティブの強さと満足感の充足度によって人が満足だと感じる要因が変化するのではな

いか」というものである。そのことについて詳しく説明する。 まずマズローやハーズバーグが示したモチベーション理論を、衛生要因・動機付け要因

とインセンティブの強さ・満足感の充足度の関係から考えていきたい。前節でも述べたよ

うに衛生要因は動物的欲求であり、マズローの唱える欲求五段階説の低次欲求に当てはま

る。また動機付け要因は人間的欲求であり、欲求五段階説で高次欲求に当てはまる。衛生

要因は動機付け要因よりも少ないインセンティブで大きい満足が得られるのである。しか

し、衛生要因は限りなく充足度が増していくわけではなく、ある程度まで満たされるとそ

こからはそれ以上インセンティブがあっても充足度は上がらない。例えば、学習をする教

室がとても汚かったとする。その教室をきれいにしたら人は満足を感じるが、ちり1つ無

くなるまで教室をきれいにしていっても途中からは何も感じなくなってしまうだろう。今

回のアンケート結果では「同期との関係」の項目が、満足が多く、不満足が少なかったこ

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とからある程度まで満たされた状態であると考えられる。 動機付け要因はどうであろうか。動機付け要因は衛生要因とは違い、充足度に上限がな

い。衛生要因が自分と他との関係についての項目が多いのに比べ、動機付け要因に含まれ

る項目は、自分と自分との関係についての項目が多い。人は他より自分に関心があるもの

である。ある経験を通して達成や成長を感じても、次はそれ以上というように自分を大き

くしたい欲求にはきりがなく完全に満たされることはない。インセンティブが増え続けれ

ば充足度はほぼ上限なく増加していくと考えられる。ならびに、低次の欲求を満たして初

めて高次の欲求が生まれるというマズローの欲求五段階説を考えると、動機付け要因の満

足度はある程度衛星要因の充足度が満たされてこないと上がってこないということも考え

られる。 5-3 マズロー・ハーズバーグ合成モデル これまで述べてきたことを、縦軸に反応(R)(=満足感)、横軸に刺激(S)(=インセ

ンティブ投下量)をとり図示してみた。但し、ここでいう反応は期待水準も含まれる。刺

激の内容は、動機付け要因と衛生要因とでは異なるが説明上一つの表で表したいため、同

じ軸に設定した。また、反応も刺激も本来主観的なものであり形態も様々であるが、当研

究においては主観的な要素を排除して数値的に表せるものとする。

α

図5-c

A

反応

反応

l

m

l+m

刺激

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マズロー-の欲求五段階説とハーズバーグの二要因理論におけるインセンティブの強

さ・満足感の充足度の関係を表したものが図5-cである。このマズローとハーズバーグ

の合成モデルは図の曲線全体でマズローの説を表し、衛星要因が満足の上限ラインに達し

た満足度αより上方の曲線でハーズバーグの二要因理論を表している。 マズローの唱える欲求五段階説ではまず低次の欲求が満たされてから、高次の欲求を満

たすインセンティブを求める。よってインセンティブの強さ(刺激)が点0から点Aまで

の間は、衛生要因を刺激したほうが動機付け要因を刺激するよりも高い充足度を得られ、

衛生要因を刺激してももう充足度が向上しないライン(点 A 以降)から先は動機付け要因が

刺激されることでモチベーション向上がされると考えられる。 ハーズバーグの二要因理論では衛生要因は満足にはつながらないとしているので、この

図 6-a における反応αより上方の動機付け要因曲線のみに着目する。 つまり、マズローは低次元の欲求から高次元の欲求を満たすことで、ハーズバーグは、

動機付け要因を刺激することで、モチベーションの向上をはかるということである。 5-4 新・モチベーションモデル しかし、上記のマズロー・ハーズバーグ合成モデルで得られる曲線は今回のアンケート

結果で得られる曲線と異なるものとなることが予想できる。異なると考えられるのは2つ

の曲線の傾きで、ひとつは動機付け要因の曲線、ふたつ目は、総満足曲線の傾きである。

では、新・モチベーションモデルにおける、インセンティブの強さ(刺激)・満足感の充速

度(反応)の関係はどのようになるのであろうか。それを示した図が、以下に表す図5-

dである。

図5-d

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反応

n(l,m)

m

l

A

α

0 刺激

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まず、動機付け要因の曲線から説明したい。なぜ、刺激の強さに対する反応の上昇率の

曲線の傾きが、図5-cと比べて始めからある程度の大きさを持つと考えられるか。現代

的組織は動機付け要因に重きが置かれている組織であると考えられる。組織への参加目的

の中でも、「自己実現欲求の達成」=「動機付け要因」に重き、それを求めているひとは、動

機付け要因を大変敏感に察知すると考えられる。このため、動機付け要因の刺激が、初期

段階でも満足に大きな影響を与えると思われる。またこれは、アンケート結果からも推測

できる。衛生要因に比べると低めの数値を示しているが、動機付け要因が満足要因に占め

る割合は、45.6%と高い数値を表している。この傾きから、0地点から動機付け要因も刺激

するべきであると考えられる。 次に総満足曲線である。前述したように、動機付け要因の傾きが0地点からある程度の

大きさを示すならば、マズローのような低次欲求達成ありきの高次欲求発生とは異なった

傾きが得られる。つまり、マズローのように段階的に刺激をするのではなく、0地点から

衛生要因だけでなく動機付け要因ともに刺激することが考えられるからだ。両方を刺激す

ることにより、総満足曲線の0地点からA地点における反応量が大きくなるといえる。 また、ここで注意してもらいたいことがある。それは、動機付け要因の傾きよりも衛生

要因の傾きの方が大きい点はマズロー・ハーズバーグ合成モデルと同じだが、その結果を

導く理由が異なるということである。自己実現を追求する組織においては、それ第1目標

以外は妥協やラインが低いため、衛生要因の方が満足を得やすい。これが、傾きの違いを

引き起こしている。

5-5 新・モデルとハーズバーグ理論 この図を用いてインセンティブの強さ・満足感の充速度がどのような場合に、満足要因

が二要因理論とは異なるのかを考えていく。 今回のアンケートでは、衛生要因を含む全ての項目が満足要因になり、さらには衛生要

因の方が、満足度が高いという結果だった。衛生要因を刺激してもモチベーションは上が

るということである。これはどういうことであろうか。私たちはこのことを先ほど示した

図の 6-bを使って刺激量Xが点Aより弱い場合と強い場合に分けて説明していきたい。

(i) 衛生要因が動機づけ要因を上回るとき(X<A)

刺激が少ない状況では、衛生要因はまだ充足が得られるレベルには達していない。その

充足レベルに達するまでは、衛生要因の方が動機付け要因よりも少ない刺激で高い反応を

得られることができる。 また動機付け要因も衛生要因に若干及ばないとはいえ、満足要因になっており、動機付

け要因も最初から刺激することは、満足の度合いに大きく影響すると考えられる。 この状況下では衛生要因・動機付け要因は、満足の反対は不満足という関係が成立する

と思われる。このことについては、前章の 5-4 で詳しく述べた。よって動機付け要因・衛生

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要因どちらも不満を解消してやれば、高い満足(刺激)につながる。またモチベーション

を上げるために、動機付け要因と衛生要因の両方を刺激するとよい。 したがって、衛生要因がそれ以上刺激しても満足を得られないレベルに達していない場

合(X<Aの区間)は、衛生要因も満足要因になること、満足の反対が不満足であることから

ハーズバーグの二要因理論は当てはまらないといえる。

(ii) 動機づけ要因が衛生要因を上回るとき(X>A) この状況下では衛生要因を刺激してもより高い反応を得られないレベルに達しているた

め、刺激を与えても仕方がない。人に満足を感じさせ、モチベーションを上げるには動機

付け要因を刺激するしかない。この区間ではハーズバーグいっている動機付け要因・衛生

要因はあてはまる。したがって二要因理論の考え方が当てはまる。 私たちの行ったアンケートの調査対象者は「同期の関係」以外の衛生要因がそれ以上刺

激しても満足にはつながらないレベルに達していない状態であり、ハーズバーグの行った

アンケートの調査対象者はそのレベルに達していたと考えられる。 つまり、インセンテ

ィブの強さによっては、動機付け要因も衛生要因も満足要因になる。衛生要因の満足度が

低く、刺激したら満足が得られる状況では、衛生要因も満足要因になり、ハーズバーグの

二要因理論は成り立たない。衛生要因の満足度が高く、それ以上刺激しても満足を得られ

ない状況では、衛生要因は満足要因にはなりえないので、ハーズバーグの二要因理論は成

り立つということである。

5-6 まとめ 自己実現意識が高い組織、すなわち現代的組織においては、私たちの考えたモチベーシ

ョンモデルが当てはまり、ハーズバーグの二要因理論は、衛生要因を刺激させ得られる満

足が、充足ラインαまでいった後、適用できるということである。したがって、私たちの

モデルは二要因理論を包括しているものである。 そして、このモデルに従えば、インセンティブは組織のモチベーションの状態や成熟過程

を考慮して効果的なものを識別すると良いと考えられる。また、組織にとって重要な要素

(私たちの調査対象であるゼミでは「同期との関係」)は、インセンティブの面でも重要で

ある。

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* コラム「マズローの欲求段階モデル」*

モチベーション理論は大きく分けて内容説と過程説の二つに分類される。内容説とは、

『人は何によって働くことに動機付けられるのか』、また『その内容を重視する』理論であ

り、過程説とは『動機付けの流れや背景を議論する』理論である。本研究では内容説に代

表される「ハーズバーグの2要因理論」及び、「マズローの欲求段階説」を使用している。

2要因理論については、第1章で詳しく言及したので、このコラムでは第5章で重要とな

ってくる欲求段階説について説明をする。 マズローによれば、人間の欲求とは5つの段階になっているとされる。その5つとは①

食欲や性欲、睡眠などの生理的な欲求、②衣や住にかかわる安全の欲求、③所属や友人を

求める社会への欲求、④自らが他よりも優れていたいとする自尊の欲求、⑤成長や最大限

の自身の能力発揮などの自己実現欲求、である。この順序関係不可逆的であるとされてい

る。 ①から④までの欲求は、欠乏を満たすことに動機付けられ行動するという欠乏動機であ

り、欠乏が充足されると、それより上位の欲求に関心が向かうこととなる。例えば、食べ

物があり、服もあり、安心して住むことができる場所がある人は、生理的欲求、及び安全

欲求は満たされていることとなり、それらの欲求に対しては、もうそれ以上の行動は起こ

さず、次の段階である社会への欲求を満たそうと行動しようとする、ということである。 それに対し、⑤の自己実現欲求は、①から④までの欠乏欲求が満たされると発現し、こ

れは満たされるほど、関心が強化される成長動機とされる。これはもっとも高次の、人間

的とされる動機付けであり、行動そのものを目的となる終わりがない欲求である。 つまり、欲求には階層があり、ひとつの欲求が満たされると、次の欲求を充足させよう

という動機付けが発生する。ただ、人には成長し続けたいという人間的な高次欲求が存在

するため、自己実現欲求だけは、充足しきることがないということである。 この欲求5段階説は、現在批判されることも多いが、この理論が持つ人間重視の視点は、

その後の経営学に大きな影響を与えているといえる。

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参考文献・雑誌

■フレデリック・ハーズバーグ「モチベーションとは何か」 (2003)『HBR』2003.4 P.44‐58)

■Frederick Herzberg『The Motivation to Work』New York: (1959) Wiley,p.141‐147<Analyze>

■酒井隆「アンケート調査の進め方」(2001)日経文庫

■田尾雅夫 [1991] 『組織の心理学』 有斐閣

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