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N o . 2 ウェルフェア経営による モチベーションの高め方

モチベーションの高め方1 No.2 ウェルフェア経営によるモチベーションの高め方 目 次 2-1 モチベーションって何? 2 1.脳の構造とモチベーション発生のメカニズム

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Page 1: モチベーションの高め方1 No.2 ウェルフェア経営によるモチベーションの高め方 目 次 2-1 モチベーションって何? 2 1.脳の構造とモチベーション発生のメカニズム

ウ ェ ル フ ェ ア 経 営

基 本 マ ニ ュ ア ル N o . 2

ウェルフェア経営による

モチベーションの高め方

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1 No.2 ウェルフェア経営によるモチベーションの高め方

目 次

2-1 モチベーションって何? 2

1.脳の構造とモチベーション発生のメカニズム 2

2.モチベーション発生のメカニズムから分かること 6

2-2 経営者や社員のモチベーションを向上させる方法 8

1.マズローの欲求5段階説 9

2.マグレガーのX理論・Y理論 10

3.ハーズバーグの衛生理論 11

4.内発的動機づけ 12

5.モチベーション理論のまとめ 15

6.モチベーション向上法 16

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2 No.2 ウェルフェア経営によるモチベーションの高め方

2-1 モチベーションって何?

ウェルフェア経営により、経営者や社員が幸福になるためには、まず彼らのモ

チベーションを高め、仕事にやり甲斐を感じてもらわなければなりません。

このレポートでは、まず、モチベーションとは何かについて説明し、さらに、

経営者や社員のモチベーションを向上させるためにはどのようにすればいいの

か、その方法を明らかにします。

1.脳の構造とモチベーション発生のメカニズム*

最近は脳に関する研究が大いに進歩し、モチベーションの発生メカニズムがか

なり明らかになってきました。ここでは、モチベーションはどのようにして生ま

れるのか、モチベーション発生のメカニズムについて説明をします。

私たちのモチベーションは、側坐核(そくざかく)という脳を中心にして形成

されます。図1-1で見るように、側坐核は大脳基底核に隣接するところにあ

り、直径2ミリ、重さ約0.2グラムの脳です。

ただし、側坐核は、それ自体単独でモチベーションをつくっている訳ではあ

りません。側坐核以外にモチベーションに関連する代表的な脳には、前頭連合

野(ぜんとうれんごうや)、視床下部(ししょうかぶ)、扁桃核(へんとうかく)

があります。前頭連合野は意志・創造の脳、視床下部は欲の脳、扁桃核は好き

嫌いの脳といわれています。

側坐核の説明をする前に、まず、前頭連合野、扁桃核、視床下部について説明

します。

前頭連合野は側坐核の最大のパートナーで、ちょうどオデコの裏側あたりにあ

ります。この脳は創造性を直接司っており、モチベーションに関しては、それ

が前提とする意欲を具体的なイメージとして描き出す役割を担っています。

欲と意欲は違います。例えば、食べたいという欲があります。これは食欲です。

しかし、食べたいと思うだけでは、何かをしようという意欲につながりません。

具体的に何が食べたいのかがイメージできなければ、次に行動しようとする意

欲が涌いてきません。

例えば、やわらかくて分厚いビーフステーキが食べたいと思ったとしましょう。

そう思ったら、そのような、いいステーキを売っているお肉屋さんへ買い物に

行きます。そして、家に帰ってそれを調理しますが、焼きすぎて硬くならない

*この説明は、大木幸介「やる気を生む脳科学」を参考にしています

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3 No.2 ウェルフェア経営によるモチベーションの高め方

図2-1 人間の脳の模型図

(出所:大木幸介著「やる気を生む脳科学」)

ように、細心の注意を払って焼き上げます。出来上がったら、いよいよ目的の

お肉が食べられます。おいしいワインを片手に、やわらかくて分厚いステーキ

を心ゆくまで味わえるのです。

ここで、やる気について考えて見ましょう。漠然と何か食べたいというのは、

単なる食欲であって、そこから、意志につながる意欲は生まれません。具体的

なイメージとして、ステーキが食べたいと思わないと、意欲は発揮されようが

ありません。そして、それがさらに具体的になって、やわらかくて分厚いステ

ーキが食べたいとか、自分でステーキを焼き上げようと思った時に、「いいステ

ーキを売っているお肉屋さんに買い物に行こう」という具体的なプランを持っ

た意欲が生まれます。その意欲が行動に結びついた時に、やる気が起こるので

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4 No.2 ウェルフェア経営によるモチベーションの高め方

す。

このように、具体性があって初めて、漠然としていた欲が意欲に変わります。

その具体性を生み出すのが前頭連合野です。

次に、視床下部の説明をします。これは名前が示すように視床の下にあり、直

径が3センチほどの脳です。この脳は、食欲とか性欲といった欲を中心に、一

般的な欲すべてに関わる脳です。欲はモチベーションにとって必要不可欠な要

素です。なぜなら、欲がなければやる気も出ないからです。

ただし、視床下部でつくられる欲は、人間の生存に関わる根源的な欲で、漠然

としています。従って、意欲ではありません。これは漠然とした、生きたいと

いう欲であるとともに、生きるために何かを食べたいという欲であり、さらに、

個体を維持し種族として生きたいという性欲です。

人間の欲を視床下部と前頭連合野の関係から整理すると、欲は3 つの段階から

構成されます。

第1段階は、方向性や形のない漠然とした欲で、生物が生きていくための根源

的な生衝動の一つです。第2段階は、生きようという衝動が生理的な欲に変換

したもので、本能的な意欲です。ごはんを食べたいとか温かいものを着たいな

どという欲です。そして、第3段階は、前頭連合野が目的によって欲に方向性

を与え、意志としたものです。この段階で、生物としての生存の欲は、立派に

生きたい、豊かな趣味を持ちたい、経済的にゆとりある生活をしたいなどの意

志になります。

欲の脳、視床下部は、前頭連合野で形成させる意欲の前提となる根源的な欲を

つくり出しているのです。

前頭連合野、視床下部とともに、モチベーション形成に重要な影響を与える第

3の脳は扁桃核です。

扁桃核は、人間の持つ好き嫌いの感情をコントロールしています。好き嫌いは、

モチベーションにとって非常に重要な感情です。人間、誰しも好きであればや

る気になります。嫌いであればやる気になりません。従って、モチベーション

を高めようと思ったら、好きになることが一番です。

ところで、海馬という記憶に関係する脳があるのですが、興味深いことに、そ

の脳は扁桃核に隣接したところにあります。皆さんは好き嫌いの脳である扁桃

核が、どうして記憶の脳である海馬に隣接しているのかお分かりですか?

例えば、今までにまったく見たことがないものを目の前にして、皆さんはその

得体の知れないものを好きだとか、嫌いだとか判断できるでしょうか?

せいぜい、興味があるか、興味がないかの判断ができる程度ではないでしょう

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5 No.2 ウェルフェア経営によるモチベーションの高め方

か。

我々があるものを「好きだ!」と判断する場合、過去の体験の中で、そのこと

に関して非常に楽しい記憶があったとか、あるいは「できた!」という成功体

験があったなど、過去の記憶をデータベースとして「好きだ!」と判断してい

るのです。

一方、「嫌いだ!」という判断も、過去に苦しい経験があった、あるいは失敗

体験があったなど、過去の記憶に基づいて判断しています。

つまり、好きだ、嫌いだという感情は、海馬で保存されている過去の記憶に基

づいて判断された結果、生まれる感情なのです。

ですから、ものごとを好きになるためには、楽しい経験や成功体験を記憶とし

てたくさん貯金をしておくことが必要です。つらいことばかりを記憶していれ

ば、そのことが嫌いになり、「やろう!」というモチベーションが生まれません。

さらに、扁桃核と海馬に隣接するところに側頭葉という脳があります。この脳

は、人間だけに発達した大脳新皮質の一つで、言語中枢を司っています。好き

嫌いの脳である扁桃核は、海馬と側頭葉の間にあって、相互に連絡し合い、調

節し合っています。好きでなければ、記憶ができないし学習もできません。逆

に、記憶や学習をしていれば、事前に好き嫌いを判断できます。このように、

好き嫌いと記憶・学習・言語は相互に密接に関連しています。

なお、これらの脳の近くに快感を感じるA10 神経という神経が走っています。

人間、好きと思えば快感を感じるのは、このためです。

以上、側坐核(やる気の脳)とともにモチベーションを形成する脳に関して説

明してきましたが、最後に側坐核について説明します。この脳は、前頭連合野

のすぐ後ろにあって、直径約2ミリの小粒の脳です。

先にも説明したように、人間、漠然とやる気が出る訳ではありません。やる気

が出るためには、何かをやりたいという具体的な目標が必要です。その目標が

意欲となって行動に結びついた時に、やる気が起こります。人間、やる気のス

イッチが入るためには、何がやりたいのかがハッキリしていなければなりませ

ん。そのやりたいことを明確にするのが前頭連合野です。

その前頭連合野がある対象に対して意欲を持った時、その信号が側坐核に伝わ

ります。それを受けて、側坐核は各脳に対して、前頭連合野の意欲を実現する

ように指令を発します。そこで脳全体が連係プレーを取って、目的を実行する

ための態勢をつくり出します。このような仕組みを経て、人はやる気を出すの

です。このような働きから、側坐核は前頭連合野のインターフェイス(コンピ

ュータの接点)といわれます。

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6 No.2 ウェルフェア経営によるモチベーションの高め方

ここで、側坐核を中心にして、やる気(モチベーション)を発生させるメカニ

ズムを整理し、さらにこれをブレイクダウンすると、次のようになります。*

*大木幸介「やる気を生む脳科学」P.76~P.79

①前頭連合野(意志・創造)は側坐核(やる気)を支配して、これを活性化す

る。

②側坐核は、視床下部(欲)を直接支配することによって、より強い欲を生み

出し、これを全身全脳に広げる。

③側坐核は表情・態度を司る大脳基底核をも刺激する。

やる気のある人は表情が引き締まっているし、目に輝きがある。当然、動作

も敏捷で、全身にハツラツとしたものを感じさせる。

④側坐核は、交差点の脳といわれる視床とも相互に密接な連絡を取り合い、視

床を通して全脳・全身にやる気を伝えている。

⑤側坐核は側頭葉(学習・言語)と海馬(記憶)から直接、支配されている。

やる気にとって過去の記憶は決定的に重要であり、記憶にないもの、記憶に

残らないものにやる気は起こらない。

⑥側坐核は扁桃核(好き嫌い)にも直接、支配されている。すなわち好きでな

ければやる気は絶対に起こらない。

⑦側坐核は快感、覚醒を生じるA10 神経によって強く駆動される。快感、覚

醒はやる気に重要である。

2.モチベーション発生のメカニズムから分かること

モチベーションを生み出す脳の構造からすれば、モチベーション向上のために

は、何よりもまず明確な目標意識がなければなりません。なぜならば、その意

識が前頭連合野で生まれて初めて、やる気の脳である側坐核が駆動し、その実

行が強力に推進されるからです。漠然とした目標のままでは、欲のレベルで留

まることになり、具体的な行動が何も始まらないのです。

次に、前頭連合野で目標を明確化させ、目標達成の意志を持たせるためには、

視床下部で強い欲求を発生させなければなりません。

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7 No.2 ウェルフェア経営によるモチベーションの高め方

強い欲求を持つためには、ハングリー精神が必要です。欲求の脳、視床下部は

慢性的なハングリー状態の中で鍛えられ発達するからです。ところが現在のよ

うな豊かな時代にあっては、幼いころから何でも与えられて育っているため、

欲がすべて満たされた状態になっています。豊かな時代にあってモチベーショ

ンを維持し向上させるためには、決して現状に満足することなく、よりハイレ

ベルな欲求を目指して、常に自己の精神をハングリーにしておくことが大切で

す。

さらに、モチベーションを向上させるためには、好きになることも必要です。

嫌いではやる気が出ないのは当たり前です。自分の性格や適性をよく考え、自

分に合った職業に就くことが一番です。好きな仕事であれば、目標達成した時

の快感は何にも変えられない素晴らしい経験です。この達成感を味わうために、

人はチャレンジし、努力をすることができるのです。

ただ、すべての人が好きな仕事に就ければいいのですが、現実はそううまくは

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8 No.2 ウェルフェア経営によるモチベーションの高め方

いきません。でも、そうだからといって、自分はこの仕事に向いていないと早

合点して退職するようでは、我慢が足りないと思います。本当にその仕事にむ

いていないのか慎重に判断すべきです。多くの人は食わず嫌いで、その仕事の

本当の面白さがわからないまま他の仕事をしたいと思ってしまいます。

ものごとを好きになるためには、好奇心が必要です。一見面白くなさそうな仕

事でも、好奇心をもって始めれば、その面白さを発見できる時があります。例

えば、どうすればお客様が喜んで頂けるのかを考えれば、ほとんどの仕事でで

きていないことが山ほどあるはずです。そのように考えることで創意工夫が生

まれ、改善すべき点が多々見えてきます。そうすれば、仕事は面白くなってき

ます。

さらに、好きになることに関しては、記憶が非常に重要な役割を果たします。

過去にいい思い出があれば、そのことが好きになります。逆に、過去に辛いこ

とやイヤなことがあれば、このことは思い出したくないし、やりたくないもの

です。

いい思い出の中でも、仕事に関しては過去の成功体験が極めて重要です。ある

物事に対して、できると思うかできないと思うかは、やる気が出るかどうかに

関して非常に重要です。これは、過去の成功体験に基づいて判断されます。そ

のことに対して成功体験のある人や、直接の経験がなくても、他の多くのこと

で成功体験を持つ人は、自分は「できる」と判断します。その記憶が自信とな

って、「やろう!」というモチベーションが働くのです。

逆に、過去にそのことに関して失敗体験を持つ人や、そのことでなくても、多

くのことで失敗してきた人については、自分は「できない」と判断します。で

きないと思えば、そのことが嫌になり、チャレンジしようという意欲は失せて

しまいます。

2-2 経営者や社員のモチベーションを向上させる方法

モチベーション発生のメカニズムからすれば、モチベーションを上げるために

は、明確な目標を持つこと、強い欲求を持つこと、好きになることがポイント

になります。

では、経営者や社員が明確な目標や強い欲求を持ち、仕事が好きになるために

はどうすればいいのでしょうか。

ここでは、人間の持つ欲求の種類や、人間のタイプにより欲求の傾向がある程

度特徴づけられることを明らかにすることによって、明確な目標、強い欲求、

仕事が好きになる方法を説明します。

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9 No.2 ウェルフェア経営によるモチベーションの高め方

1.マズローの欲求5段階説

マズローの欲求5段階説はモチベーション理論の中で最もポピュラーであり、

ベースとなる理論です。

マズローは、人間の様々な欲求は、一種の優先序列の階層をなしており、欲求

は低次からその充足度に応じて高次の段階へ成長すると考えました。そして、

それは次の5つの段階で構成されているとしています。

【マズローによる5段階の欲求】

①生理的欲求:食欲、睡眠など人間の生存に対する欲求

②安全の欲求:不安・危険などを回避し、安全な生活を確保したいという欲求

③社会的欲求:人間社会で何らかのグループに所属し、友情や愛情を満たした

いという欲求

④自我の欲求:自分の能力を周囲に認めてもらいたい、他人から尊敬されたい

という欲求

⑤自己実現の欲求:自分の能力をフルに発揮し、自分の可能性を試してみたい

という欲求

人間はまず生きていかなければなりません。そのためには、食べることや寝る

ことに対する欲求が発生します。

このような生理的欲求が充たされると、その欲求だけに満足しきれなくなりま

す。そのため、より高次の欲求として安全の欲求が発生します。安全の欲求と

は自分を安全な環境に置くために発生する欲求です。

さらに、安全の欲求が満たされると、仲間外れにされたくない、集団の中で楽

しく生活がしたいという社会的欲求や、人から認められたい、尊敬されたいと

いう自我の欲求、さらに自分の能力を試してみたい、自分のライフワークを実

現したいという自己実現の欲求へと発展していきます。

確かにマズローが言うように、人間はある欲求が満たされるとそれに満足でき

ず、さらに次元の高い欲求を持つようになります。

しかし、中には志の高い人がいて、命がけで社会貢献をしている人もいます。

そのような人は生理的欲求や安全の欲求が満たされなくても、自己実現の欲求

は強く持っています。「ボロは着てても心は錦」の心境でしょう。また、人間は、

マズローが言う5つの欲求を段階的ではなく、同時に複数持っている場合も多

いと思います。その時々の状況に応じて、ある欲求が強くなったり弱くなった

りするのではないでしょうか。

このように、マズローの欲求5段階説は、すべてがそうとは言えない面がある

ような気がします。しかし、人間の欲求を5種類に分類して段階づけたことは

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10 No.2 ウェルフェア経営によるモチベーションの高め方

マズローの大きな功績で、この理論は次に紹介するモチベーション理論を理解

する上で、非常に役に立ちます。

2.マグレガーのX理論・Y理論

行動科学者のマグレガーは、人間の本性と人間の仕事に対する考え方について、

「X理論・Y理論」を唱えました。

① Ⅹ理論

人間は本来怠け者であり、低次元の欲求しか持たない。

仕事は嫌いで苦痛を感じるため、外部から強制されたり威嚇されたりしなけれ

ば働こうとしない。

②Y理論

人間は高次の欲求を持ち、仕事に対して遊びと同様の喜びを味わうことができ

る。従って、統制などによるのではなく、自ら進んで困難な目標を達成しよう

とし、責任を引き受けることができる。人間は誰でも創意工夫できる能力を持

っている。

上の理論に従って、マグレガーは人間を2つのタイプに分類しました。元来怠

け者で自主的に仕事をしようとしないX型人間と、高次の欲求を持ち自ら進ん

で仕事をしようとするY型人間です。

マグレガーのX理論・Y理論をマズローの欲求5段階説に当てはめてみると、

低次元の欲求しか待たないX型人間は、生理的欲求や安全の欲求、社会的欲求

といった人間の本能的な欲求レベルを強く持っているタイプです。一方、高次

元の欲求を持つY型人間は、自我の欲求や自己実現の欲求といった人間独自が

持つ欲求を強く持っています。

人間は本来怠け者なのか、働き者なのかは、人間観に基づく非常にむずかしい

問題です。

余談になりますが、私はモチベーション研修などで参加者に必ず、「今の日本

人はX型人間とY型人間のどちらが多いと思いますか?」と質問します。する

と、ほとんどの場合、X型人間が多いという答えが返ってきます。いつも、な

んだか寂しい気持ちになってしまいます。

人間は怠け者なのか、働き者なのかで、人間に対する指導の仕方やリーダーシ

ップの取り方が大きく異なってきます。怠け者に対しては細かな指導と強制が

必要ですが、働き者に対しては自主性と権限委譲が必要です。人間をこのよう

な2つのタイプに分類したことはマグレガーの大きな功績です。

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11 No.2 ウェルフェア経営によるモチベーションの高め方

3.ハーズバーグの衛生理論

ハーズバーグは、職務でどんな事に満足を感じるか、あるいはどんな事に不満

を感じるかについて、実証的な研究を行ないました。その結果、不満と満足の

2つの要因の間に相違があることを発見しました。

仕事に対し真の動機づけとなり、積極的な満足をもたらす要因は、やり甲斐の

ある仕事、仕事の達成、達成の承認、責任の増大、昇進などでした。彼は、こ

れら満足を与える要因を「動機づけ要因」と名づけました。

これに対して、それがなければ不満を感じるが、それを達成したとしても不満

を抑えるものの、積極的な動機づけとはならない要因があることを発見しまし

た。対人関係、作業条件、会社の方針、監督方式、給与などで、彼はこれらの

要因を「衛生要因」と名づけました。

例えば会社の方針は、それがないか不明確であれば、社員の不満は非常に高ま

ります。「うちの会社は方針も何もない会社です。こんな調子じゃ、2~3年後

が心配です」、こんな不平を言う社員をよく見かけます。ところが、いざ明確な

方針を立てて、社員一人ひとりに役割が与えられると、プレッシャーになり、

かえって窮屈に感じたりしてしまいます。会社方針に関しては、なければ不満

ですが、あっても満足を感じない社員は結構多いように思います。もちろん会

社の方針は、会社が発展するためには絶対に必要なものですが。

それに、意外に思われるかも知れませんが、給与は衛生要因といわれています。

例えば、自分の給料が同期の社員や学生時代の友人などと比較して、低ければ

非常に不満に思うでしょう。ところが、彼らより多く給料をもらえるようにな

っても、一時的には満足を得られますが、すぐにその給与レベルでは満足でき

なくなります。何億円という年俸を得ているプロ野球の選手が年俸交渉の後で、

いかにも不満そうな顔でインタビューに応じている場面を見ても、「給与は衛

生要因なんだ」と思います。

衛生要因の改善は、職務に対する不満を減少させることはできますが、職務満

足をもたらすまでには至りません。

一方、動機づけ要因の改善は、社員の精神的成長の欲求を満たし、職務満足を

獲得することができますが、その欲求が満たされないからといって、大きな不

満になることはありません。このことは趣味で何かに熱中している時のことを

考えれば理解がしやすいと思います。

例えば、ゴルフに熱中している人がいるとします。その人がある時、ベストス

コアをマークしました。すると、うれしくてうれしくて仕方がないでしょう。

次回ゴルフに行くことが楽しみで、待ちきれなくなります。彼のゴルフに対す

る満足感は頂点に達しています。

しかし、ある時調子が悪くて、これまでで一番悪いスコアを出したとします。

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12 No.2 ウェルフェア経営によるモチベーションの高め方

彼はそのことを不満に思って、すぐにゴルフをやめるでしょうか。そんなこと

は決してないでしょう。スコアが悪かったことが悔しくて、その原因を考えた

り、さっそく練習場に行ってフォームを矯正したりするでしょう。スコアが悪

くても、あまり不満を感じないのです。

このように、動機づけ要因と衛生要因では満足に対する感じ方が大きく異なり

ます。ただし、ある要因はどちらなのか、2者択一で決まるものではありませ

ん。例えば動機づけ要因といわれるものの中にも衛生要因は存在しています。

ただ、2つの要因のうち動機づけ要因の方が強いから動機づけ要因とされるの

です。

対人関係、作業条件、会社の方針、監督方式、給与などの衛生要因はマズロー

の欲求5段階説で見ると、生理的欲求、安全の欲求、社会的欲求が中心になっ

ています。一方、やりがいのある仕事、仕事の達成、達成の承認、責任の増大、

昇進などの動機づけ要因は自我の欲求、自己実現の欲求からなっています。

マズローの欲求5段階説、マグレガーのX理論・Y理論、ハーズバーグの衛生

理論を併せて考えると、次のことがいえそうです。

生理的欲求、安全の欲求、社会的欲求の強いX型人間は、衛生要因を多く持つ

ため、何事に対しても満足ができず不満が多くなります。他方、自我の欲求、

自己実現の欲求の強いY型人間は、動機づけ要因を多く持つため、いろいろな

ことに対して満足感が得られ不満を持つことはあまりありません。

職場で衛生要因の欲求が強い人は、どうしても不満が多くなり、なかなか仕事

を楽しむことができなくなります。一方、動機づけ要因の欲求が強い人は、仕

事を楽しむことができ、活き活きとしています。一度しかない人生、楽しく生

きようと思えば、自我の欲求や自己実現の欲求を持つ方が得なように思います。

4.内発的動機づけ*

ところで、本当に毎日仕事を楽しんでいる社員はどれほどいるでしょうか。多

くの社員は、売上のノルマ達成など業績向上のためのプレッシャーで、仕事を

楽しむ余裕などないのではないでしょうか。

趣味で行っているときは楽しくて仕方がないのに、それを仕事にすると楽しく

なくなるという事がよくあります。なぜそのようなことが起こるのでしょうか。

また、われわれの幼児期を思い出してみた場合も、いろいろな事に興味がいっ

ぱいで活き活きとしていたのに、小学校へ入学してテスト攻めに会うと、途端

*内発的動機づけに関しては、エドワード・L・デシ、リチャード・フラスト「人

を伸ばす力」を参考にしています

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13 No.2 ウェルフェア経営によるモチベーションの高め方

に活力がなくなってしまう子供が多くいたように思います。

今、心理学の世界では、「内発的動機づけ」という考え方が非常に注目されて

います。内発的動機づけとは、活動すること自体がその活動の目的として動機

づけられていることをいいます。

例えば、ものづくりがおもしろくて夢中になっているように、自分の行ってい

る活動それ自体を楽しんでいる状態です。

人間は本来、自律性あるいは自分で決定したいという生得的な欲求があります。

例えば、ある判断をしなければならない時に、社員に選択の機会を提供するこ

とは、彼に自律の機会を与えることになります。人は自ら選択することによっ

て、自分自身の行為の根拠を十分に意味づけることができ、納得して活動に取

り組むことができます。しかも本人に選択の機会を提供することによって、問

題をうまく解決することができるようになります。内発的動機づけは、自律

性や自己決定性によって人間は動機づけられることを明らかにしました。

人間は外部から何らかの圧力がかかると、その行為自体の興味を失ってしまい

ます。この外部から圧力がかかる状態を統制といいます。外部から命令、処罰、

ノルマの設定などの統制がかかり、「~しなければならない」という心理

状態になると、活動自体に対しかつて抱いていた興奮や熱意を失ってしまい、

その活動の実現に向けて無理やり自分自身を叱咤激励してしまうのです。つま

り、人は統制されると疎外感を持つようになり、自分の内部との接触を絶って

しまうのです。

趣味で行なっていた時は楽しくて仕方がなかったのに、それを仕事にすると苦

痛に変わってしまったり、幼児期は活き活きとして毎日を楽しんでいたのに、

学校へ通い出すと途端に活力を失ってしまう子供などは、「~しなければなら

ない」という外部からの統制を感じているのです。

さらに、人間はいったん統制されると思考力や創造性が妨げられ、統制されな

いと何もできなくなってしまいます。社長がスーパーマンですべてができる会

社は、イェスマンの社員が多く育つため、言われたことしかできなくなってし

まいます。

ところで、皆さんは意外に思われるかもしれませんが、お金は統制と同じ機能

を果たすと言われています。

例えば、他人のために働くことが好きで、ボランティア活動で一人住まいの老

人の世話を一生懸命していた人がいたとします。彼はその仕事がおもしろくて

仕方がありません。ところがある時、彼は老人からお礼としてお金を1万円も

らいました。老人は日頃お世話になっていることに対して、何とか感謝の気持

ちを表したかったのです。彼はお金を受け取ることを懸命に断りましたが、最

後は老人の気持ちを汲み取って1万円を受け取りました。

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14 No.2 ウェルフェア経営によるモチベーションの高め方

そして、その次に老人を訪問した時も、老人は1万円を差し出しました。最初

は彼も断りましたが、一度受け取ってしまうと無理に断り切れなくなり、今回

も1万円を受け取ってしまいました。

そしてその後もまたお金を受け取りました。

ところがその後老人を訪問した時、老人はお金を出しませんでした。彼はその

時、「なんだ。今回はお金をくれなかった。何だか無償で働くことがバカバカし

くなってきた。」と思ってしまいました。いつの間にか彼は、お金をもらうこと

を期待して仕事をするようになっていたのです。

この事例のように、最初は仕事そのものが楽しかったとしても、金銭を得るこ

とが目的になってしまうと、仕事そのものには興味を失ってしまう場合があり

ます。この意味で、金銭は統制と同じ機能を果たすことがあるのです。

会社経営の場合でも、馬の目の前に人参をぶらさげるように、金銭でもって社

員を働かせようとしても、彼らには真のモチベーションが生まれません。金銭

的な報酬が統制として働き、仕事をするように心理的圧力をかける道具となる

からです。

では、どのようにすれば、金銭的報酬と社員の内発的動機づけを両立させるこ

とができるのでしょうか。それは、金銭的報酬により社員を統制しようとする

意図をもたず、報酬がいわば成し遂げられた仕事に対する承認として提供され

るものだという考えを社員に示し、その姿勢を貫くことです。マズローの欲求

段階でいえば、自我の欲求(その中でも承認の欲求)を満たしてあげることで

す。そうすれば、内発的動機づけを損ねることなしに報酬を支払うことが可能

となります。

経営者や上司は、社員や部下が、仕事自体がおもしろいと感じられるように、

彼らを内発的に動機づけていかなければなりません。そのための基本として、

自分の仕事に対する意思決定に関し、参加意識と自己決定意識を持たせること

が必要です。その意識を持つことによって、自分が参加し意思決定に加わった

のであるから、決めたことは実行しよう、そして創意工夫によりそれをより発

展させようと思うようになるのです。

しかし、そんなことをすれば社員を甘やかすことになり、間違った方向に行っ

てしまうのではないかと、不安を感じられる経営者や上司もおられるでしょう。

完全に社員任せにすると、そのようなことにもなりかねません。やはり会社の

方針が明確であり、社員の意思決定がその方針と両立するものでなければなり

ません。社員が間違った意思決定をすれば、経営者は間違いを指摘し、彼らを

正しい方向に導かなければなりません。

このように、社員の考えを経営者が修正しようとする時に、内発的動機づけと

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15 No.2 ウェルフェア経営によるモチベーションの高め方

規範の受け入れという問題が発生します。内発的動機づけの理論からすれば、

社員の思うようにやらせるのが一番ベストで、会社の方針に従わせるのは統制

にならないかという問題です。

人間は自分の事は自分で決めたいという自己決定の意識を持つとともに、他人

と仲良くやりたい、集団の中で生活がしたいという関係性への欲求を持ってい

ます。人間は集団の中で順応するために、身近な集団や社会の価値とルールを

受け入れようとする傾向を生まれながらにして持っているのです。このような

順応過程を経て価値や行動規則を受け入れていくことを内在化といいます。

社員が会社の方針を受け入れることは内在化です。ただしこの内在化には2つ

の形態があります。

それは「取り入れ」と「統合」です。取り入れとはルールを噛み砕かずに丸ご

と飲み込むことであり、統合とはルールをよく噛んで消化することです。

取り入れが行われるとルールが不完全なまま消化されるため、「~しなければ

ならない」という形で内在化が行われ、社員の創意工夫や創造性が未熟なまま

になってしまいます。

一方、統合が行われると会社のルールを自分自身のものとして受け入れるよう

になります。そして統合を通して、彼らにとってあまり面白くないかもしれな

いが、会社にとっては重要なルールを進んで受け入れ、それに対する責任を果

たすようになるのです。

ルールを統合として社員に内在化させるためには、会社や経営者の満足のため

の手段として彼らを扱うのではなく、彼らを一人の人間としてその価値を認め

ながら、彼らに関わっていかなければなりません。それは、彼らの立場に立ち、

彼らの視点でものごとを見るということです。そして、ルールを内在化させる

ために、彼らを理解し承認し、そのルールを丁寧に粘り強く説明することです。

短気を起こしルールを頭ごなしに強制することは、長期的な視点から見て決し

て好ましいことではありません。

5.モチベーション理論のまとめ

内発的動機づけの説明でお解りのように、学校へ入学する前の幼児は無心にな

って遊んでいます。絵を描くことが好きな子供は一生懸命に絵を描いたり、鉄

道が好きな子供は驚くくらい電車の名前を覚えています。そして、そのことを

大人からほめられれば、得意になってさらにその遊びに集中します。内発的に

動機づけられて遊んでいる子供は、マズローのいう自我の欲求や自己実現の欲

求を満たしているのです。

ところで、人間は誰でも自我の欲求や自己実現の欲求を持っていると思います。

人から認められたくないと思う人はいないでしょう。誰でも自分の好きなこと

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16 No.2 ウェルフェア経営によるモチベーションの高め方

をしたい、自分の能力を伸ばしたいと思うでしょう。

では、なぜX型人間になったり、Y型人間になったりするのでしょうか。

X型人間も当然、自我の欲求や自己実現の欲求を持っているはずです。ところ

が、彼らはそれを職場で求めていないのだと思います。職場は生活の手段とし

て割り切り、生理的欲求や安全欲求、社会的欲求を優先させているのです。そ

して、自我の欲求や自己実現の欲求は仕事以外の場で求めています。自分の趣

味に生き甲斐を求めたりするのは、その一例です。従って、X型人間は職場で

は不平不満が多くなります。なぜなら、彼の欲求は衛生要因的欲求が強く、不

満は持つが満足を得られる要因が少ないからです。

一方、Y型人間は、自我の欲求や自己実現の欲求を職場で求めています。彼ら

は、仕事にやり甲斐を感じ、仕事を通して人生目標を達成したいと思っている

のです。従って、Y型人間は職場で満足感を得られますが、不満は多くないは

ずです。なぜなら、彼の欲求は動機づけ要因が強いため、満足を感じるがあま

り不満は感じないためです。

人生の大半を仕事に従事させている私たちにとって、どちらのタイプが幸福な

のでしょうか。やはり、仕事に生き甲斐を感じ、仕事を通して自己実現を果た

していきたいと思う人間の方が幸せではないでしょうか。

会社の側からしても、社員の多数派がX型人間であれば、会社は発展しないで

しょう。Y型人間が少しでも多くなるように、社員を教育していくことが必要

だと思います。

6.モチベーション向上法

モチベーションのメカニズムが、脳の構造から明らかになりました。そこから、

モチベーションを向上させるためには、明確な目標を持つこと、強い欲求を持

つこと、仕事を好きになることの3点が必要であることがわかりました。

この3点と、モチベーション理論を結びつけことで、どのようにすれば経営者

および社員のモチベーションを向上させることができるのかを明らかにするこ

とができます。

ここでは、この点を説明したいと思います。

まず、明確な目標を持つことに関してですが、会社レベルの目標は、明確な経

営ビジョンの設定とそれを実現するための経営戦略の策定です。これに関して

は次のレポートで詳しく説明する予定です。

個人の目標に関しては、会社の目標を部門、さらに個人へと落とし込み、個人

レベルの目標設定を明確にする必要があります。

個人では、その他に、その人の人生に関する目標という問題があります。自分

は一生この仕事を続けていくつもりなのか、他にもっとやり甲斐のある仕事は

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17 No.2 ウェルフェア経営によるモチベーションの高め方

ないのか、長く仕事を続けていく中で、人生の進路について思い悩む時が必ず

あります。多くの人は、最初から自分の人生の目標を持っているのではなく、

いろいろと思い悩み、紆余曲折して、徐々に自分の人生の進路を決めていくの

だと思います。

この段階にある社員に対しては、会社が彼の自己実現の場となるよう、彼に協

力してあげることが必要だと思います。いろいろな意思決定の場に彼を参加さ

せたり、自己決定の機会を多く与えることにより、彼を内発的に動機づけてい

くことが大切です。このような経験を通して、仕事に対するやり甲斐を見出し、

「この仕事を一生懸命やることによってお客様に喜んで頂き、家族を養ってい

くことが自分の幸せなんだ」、と徐々に気づいていくものだと思います。

モチベーションを上げるための第二の要素は、強い欲を持つことです。

ただし、欲なら何でもいいというのではなく、自我の欲求や自己実現の欲求な

どの「動機づけ要因」としての欲を持つことが必要です。なぜなら、これらの

欲求は満足感を高めモチベーションを向上させますが、欲求が満たされなくて

も大きな不満にはならないからです。

モチベーション理論のところで説明しましたが、人間には欲求レベルが低次で

不満要因を多く持つX型人間と、高次の欲求レベルで満足要因を多く持つY型

人間がいます。どちらのタイプを選ぶかはもちろん個人の自由ですが、会社と

してはできるだけY型人間を育成していくことが望ましいといえます。

もともとY型人間である人に対しては、問題はあまりないといえますが、X型

人間がY型人間になるには大きな苦労が必要なように思います。

ただ、X型人間も、人からほめられたい、尊敬されたいという自我の欲求や、

自分のやりたいことを実現したいという自己実現の欲求が全くないということ

はないはずです。彼らはそれを職場では求めず、趣味など職場以外の所で求め

ているのだと思います。

そのような人は、職場での成功体験が少なく、どちらかといえば自分にあまり

自信のない人が多いように思います。自分に自信のない人に対しては、いきな

り大きな目標を与えるのではなく、達成可能な目標を与えて、小さな成功体験

を少しずつ積ませることが必要です。これをスモール・ステップ方式といいま

す。小さな成功体験で、「できる!」「できる!」という意識を積み上げること

で、その人に自信とチャレンジ精神を持たせることができます。

最後にモチベーションを高める要素として、仕事を好きになることが必要です。

仕事が好きか嫌いかは、最終的には個人が決めるべきことですが、会社として

は、なるべく社員が仕事に好きになってもらえるように施策を打つことが必要

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18 No.2 ウェルフェア経営によるモチベーションの高め方

です。嫌いな仕事を無理やりさせるよりは、好きな仕事を意欲的にさせる方が、

会社にとっても都合がいいはずです。

社員が、仕事が好きになるために打つべき施策で、最も大切なのが適材適所の

人員配置です。会社は、社員が楽しくてチャレンジングな仕事ができるように、

彼ら一人ひとりの適性を見極め、適材適所の人員配置を心掛けるべきです。

以上で、モチベーションを高める要素について説明をしましたが、それは明確

な目標を持つこと、高次の欲求を持つこと、仕事を好きになることでした。

ただし、改めてモチベーションの意味を確認しますと、モチベーションには、

やる気に基づく行動と危機感に基づく行動があります。やる気に基づく行動は、

意欲の実現を目標とする「接近行動」ですが、危機感に基づく行動は、受け入

れ難い結果に対する「回避行動」です。これまでに述べたモチベーションは、

意欲の実現を目的とする「接近行動」です。

しかし、人間は危機を回避するために、懸命に努力します。会社の倒産を避け

るための行動や、売上の減少を食い止めるための行動などです。しかし、この

行動は不幸を避けるための行動で、幸福になるための行動ではありません。

もちろん、健全な危機感は必要です。この危機感でもって、職場に緊張感と集

中力を持続させることは必要です。しかし、危機感ばかりあおっていては、社

員のやる気は低下します。危機感ばかりをあおって、社員を動かそうとする経

営者は二流、三流の経営者です。一流の経営者は社員のやる気を高める経営者

だと思います。

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19 No.2 ウェルフェア経営によるモチベーションの高め方

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