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2018/10/21 石川県糖尿病療養指導講習会
糖尿病の急性合併症
~低血糖とシックデイ~
石川県立中央病院 糖尿病・内分泌内科 浅野 昭道
日本糖尿病学会 COI開示
発表者名:浅野昭道
演題発表に関連し、開示すべきCOI関係にある企業などはありません。
・糖尿病の薬物療法中に最も高頻度にみられる急性合併症は低血糖である。
・一般に血糖値が70mg/dl以下になると、生体は初期反応として交感神経系、
特にカテコラミン、グルカゴン、成長ホルモン、コルチゾールなどの分泌増加を介して
血糖値を上昇させようとし、交感神経症状が出現する。
・普段の血糖値がかなり高い人では、急激な血糖値の低下に伴い70mg/dlよりも高い
値でも低血糖症状を呈することがある。
・一般に血糖値が50mg/dl以下の中等度の低血糖になると、中枢神経のブドウ糖不足
の症状が出現する。
低血糖 病態と成因-1
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健常者で血糖値を低下させたときに起こる反応
認知機能障害 ・複雑な作業ができない
50mg/dl
< 27mg/dl
重篤な中枢神経症状 ・意識障害 ・けいれん ・昏睡
内因性インスリン分泌の抑制
83mg/dl
68mg/dl
インスリンに拮抗するホルモンの分泌 ・グルカゴン ・エピネフリン
症状発現 ・交感神経症状 ・中枢神経症状
58-50mg/dl
Pickup J and Williams G : Hypoglycemia in diabetes mellitus. Textbook of Diabetes, Blackwell Science, 1997
低血糖の診断と重症度分類
糖尿病治療における低血糖の 診断に対するWhipple3徴候の修正
低血糖の臨床分類
・血漿グルコース濃度が低下した時に 生じる症状または徴候がある
・血漿グルコース濃度が63mg/dl以下 と証明される
・血漿グルコース濃度が改善すると 速やかに回復する
軽度
中等度
重症
症状あり、自己回復可能、 生活に支障なし
症状あり、自己回復可能、 生活に支障あり
しばしば(常にではないが) 症状がない、しかし認知障害 のため自己回復ができない 1, 第3者が非経口投与以外 で助ける 2, 非経口投与を必要とする (グルカゴン筋注、グルコース静注)
3, 昏睡またはけいれんを伴う
ジョスリン糖尿病学 第2版 p752, 2007
低血糖症状があり、少なくとも血糖値が
70mg/dl以下の場合、低血糖と診断し
対応する。(グレードA, コンセンサス)
科学的根拠に基づく 糖尿病診療ガイドライン〈2013〉
低血糖の発症頻度は軽症低血糖が30‐50 %/年、 意識障害がおきて第三者の助けが必要な重症低血糖が1‐6 %/年である。
重篤副作用疾患別対応マニュアル 低血糖 平成23年3月 厚生労働省 http://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1d17.pdf
SU薬やインスリンで治療中の2型糖尿病で、CGMを用いて精査すると 無自覚性低血糖<54mg/dlが潜在する。 HbA1c<7%の 24%、HbA1c>7%の 11%
Exp Clin Endocrinol Diabetes 2011;119;59-61
インスリン治療中の低血糖の頻度 件数/ 患者100人/年
Kerr D, Olateju T. J Diabetes Sci Technol. 2010 Mar 1;4(2):464-9.
低血糖の頻度
・摂取エネルギーに比較し消費エネルギーと
インスリンの作用が過剰になれば、低血糖に
なる。
・糖尿病患者にみられる低血糖の原因・誘因
は様々である。
・患者側の要因としては食事(特に糖質)量の
不足、食事時間の遅れ、アルコール多飲
運動の過剰、インスリン注射の過量投与が多い。
・インスリン以外には、SU薬、速効型インスリ
ン分泌促進薬も低血糖を起こす。
・BG薬、チアゾリジン薬、α-GI薬、DPP-4阻
害薬、SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬は、
単独では低血糖をきたす可能性は低いが、他剤
との併用時には起こしうる。
低血糖 病態と成因-2
・腎不全の進行によるインスリン必要量の減少、自律神経障害による交感神経
反応の低下または欠如など、合併症の進行に関連した低血糖に注意する。
・肥満の改善、ストレス・感染症の改善、ステロイド投与量の減量、ブドウ糖毒性の解除など
もインスリン必要量を減らし、低血糖の原因になる。
・その他、インスリン分泌やインスリン作用を増強する薬剤も低血糖の原因になりうる。
低血糖 病態と成因-3
・普段低血糖気味の人や自律神経障害を合併している人では、
血糖値が50mg/dlより低くても交感神経系の症状を欠き、
突然重篤な中枢神経症状が発現することがある。
これが無自覚性低血糖である。
・一般に血糖値が30mg/dl以下になると、痙攣発作、低血糖昏睡に至り、治療
が遅れると死に至ることがある。
低血糖 病態と成因-4
血糖低下による交感神経症状は低血糖の警告症状。 糖尿病性自律神経障害およびエピネフリン閾値の低下で警告症状が現れないまま、中枢神経症状が出現。
低血糖性昏睡/低血糖脳症
無自覚性低血糖
SMBGで ・血糖70以下の記録があり自覚症状に覚えなし →無自覚性低血糖の疑い濃厚 ・血糖50前後の記録があり自覚症状の覚えなし →無自覚性低血糖と診断
Haneda M, Morikawa A.;Nephrol Dial Transplant. 2009 Feb;24(2):338-41より引用.
・全救急搬送の1%
・60%以上が70歳以上
・CKDstage3以上
・SU薬内服中
重症低血糖による意識障害は どんな人に起こりやすいか?
低血糖によるstroke mimic;低血糖脳症
• 低血糖発作の時に、脳卒中様症状(片麻痺、言語障害、意識
障害、不穏など)を呈することがある。
• 低血糖発作による片麻痺は日本人の場合、ほとんどが右側である(2;1)。
優位半球と劣位半球の血糖の閾値に関連すると考えられている。
• 以下のような主症状の時にでも、低血糖を疑う必要がある。
1)心肺停止、ショック
2)意識障害、失神
3)痙攣
4)脳の巣症状(片麻痺、言語障害など)
低血糖発作の2~3%でみられる
昏睡から覚めるの?麻痺は残るの?
• 多くは(正確な頻度は不明)戻る
― 血糖上昇後30分までに改善する
• 昏睡後4~5時間までが勝負
― 脳浮腫(細胞性→血管性)が始まる
• 血糖値の低さ×放置時間=予後を決める
― 年齢、栄養状態なども関与
高齢者の低血糖の悪影響
・70歳以上の高齢者でHbA1c7%未満で重症低血糖が増える
・重症低血糖は認知症の危険因子
・低血糖の頻度が多いとうつ症状、糖尿病負担感が増え、QOLが低下
・重症低血糖、軽症低血糖が多いと転倒や転倒骨折をきたしやすい
・重症低血糖は心血管疾患、死亡をふやす
JAMA. 2009 Apr15;301 (15):1565-72.
Cardiovasc Diabetol. 2012 Oct 6;11:122.
高齢者糖尿病診療ガイドライン2017; p34~ より
Diabetes Care. 2011 Aug;34(8):1749-53.
Diabetes Obes Metab. 2012 Jul;14(7):634-43.
ADVANCE試験 N Engl J Med 2010; 363;(15); 1410-1418
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CGM結果
→入浴時に無自覚性低血糖あり
症例1 82歳女性、罹病期間38年の2型糖尿病、HDS-R 26点 シタグリプチン50mg、インスリンアスパルト8-8-10u、グラルギン8u/夕 HbA1c 6.7%、eGFR 18ml/min/1.73m2、BMI 25.02kg/m2
FBS 71mg/dlでCPR 0.97ng/ml
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血糖値
HbA1cと低血糖頻度の関係
経口血糖降下薬使用の糖尿病患者 3810人を対象に低血糖を調査
施設入所のインスリン使用の糖尿病 患者583人の平均55日間の観察
60歳以上、HbA1c7%未満で 低血糖増える
75歳以上、HbA1c7%未満で 低血糖増える
Cardiovasc Diabetol. 2012 Oct 6;11:122. J Am Med Dir Assoc. 2014 Oct;15(10):757-62.
重症低血糖の頻度が増えると 認知症発症のリスクは増大
治療が複雑になるほど、 認知症の程度が強いほど、 低血糖の頻度は増える
JAMA. 2009 Apr 15;301(15):1565-72. J Am Geriatr Soc. 2011 Dec;59(12):2263-72.
低血糖と認知症の関係
Diabetes Obes Metab. 2016 Feb;18(2):135-41.
認知症と重症低血糖は双方向の関係
(メタ解析)
3.78*
3.45* 3.30*
重症低血糖症例のイベント発現リスク (vs. 重症低血糖なし)
※重症低血糖:手助けが必要 だった低血糖 (<50mg/dL)
重症低血糖※発現率
*:p<0.001 (COX比例ハザードモデル)
Zoungas S et al. N Engl J Med 2010; 363;(15); 1410-1418.
重症低血糖とイベントリスクとの相関 (ADVANCE試験)
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強化療法群 通常療法群
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全死亡
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心血管死 0
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J Am Geriatr Soc. 2016 Jul;64(7):1425-31.
80歳以上の高齢者のHbA1c値と死亡
80歳以上の2型糖尿病25,966人の追跡調査
HbA1c 7.0~7.4%が最も死亡が少ない HbA1c8%以上で死亡が増え、8.5%以上でさらに増加
高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)
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CGM結果
症例1 82歳女性、罹病期間38年の2型糖尿病、HDS-R 26点 シタグリプチン50mg、インスリンアスパルト8-8-10u、グラルギン8u/夕 HbA1c 6.7%、eGFR 18ml/min/1.73m2、BMI 25.02kg/m2
FBS 71mg/dlでCPR 0.97ng/ml
70
mg/dl
血糖値
シタグリプチン減量と夕方血糖の責任インスリンの減量、 入浴時間の指導⇒HbA1c7.5%で低血糖減少
夕食 入浴
→入浴後の低血糖あり
症例7 81歳男性、罹病期間22年の2型糖尿病、HDS-R 25点 ボグリボース0.6mg/朝夕、速効型ヒトインスリン10-5-4u HbA1c 6.3%、eGFR 17ml/min/1.73m2、BMI 21.05kg/m2
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家庭内での不慮の事故;溺水・窒息・転倒
家庭の浴槽での溺死者数は、11年間で約1.7倍に増加 このうち約9割が65歳以上の高齢者
News Release 2016 - 消費者庁
高齢者には入浴についての指導が必要
冬場に多発する高齢者の入浴中の 事故防止のために
• (1)入浴前に脱衣所や浴室を暖めましょう。
• (2)湯温は41 度以下、湯に漬かる時間は10 分までを目安にしましょう。
• (3)浴槽から急に立ち上がらないようにしましょう。
• (4)アルコールが抜けるまで、また、食後すぐの入浴は控えましょう。
• (5)入浴する前に同居者に一声掛けて、見回ってもらいましょう。
• (★)インスリン治療中の人は、食後2時間くらいで入浴するようにしましょう。
News Release 2016 - 消費者庁
低血糖 治療と療養指導-1
a. 低血糖の予防と治療 ・低血糖の早期発見・早期治療の重要性を強調し、以下のような指導をする。 ・規則正しい生活に努め、その時の血糖値に応じてむやみに自己判断で インスリン量を調整しない。 ・外出時にはブドウ糖(α-GI薬を服用中の患者)または砂糖、糖尿病連携手帳 などを携帯する ・低血糖が疑われる時には可能な限り血糖自己測定を行い、血糖値と症状との 関係を確認し、速やかに対応する。
低血糖 治療と療養指導-2
・低血糖が確認できれば、直ちにブドウ糖または砂糖10~20g ( α-GI薬の場合はブドウ糖)、またはそれに相当する糖質を含むもの (ジュースなど)を摂る。15分以内に症状の回復がなければ、同じ対応を繰り返す。 ・症状がおさまっても再び血糖値が低下する可能性があるので、食事前であれば 食事を、次の食事時間まで1時間以上あれば炭水化物を1~2単位摂取させる。 米飯、パン、クラッカーなどがよい。 ・無自覚性低血糖では、血糖の目標値をいったん高めに保ち、頻回に血糖測定 して低血糖を防ぐ。 ・低血糖から回復した後は、その誘因・原因、早期症状、対応の適否など、
再発予防策について考える。
b. 重症低血糖の治療 ・意識障害や昏睡などの重篤な低血糖で糖質の経口摂取が困難な場合は、 至急病院を受診する必要がある。 ・緊急連絡体制を準備し、患者と家族に緊急連絡方法と以下の対処法を具体的 に指導する ・意識があっても自分で糖分を摂れないような場合には、近くの人にジュースなど を飲ませてもらう。 ・物が飲み込めない状態では誤嚥や窒息の原因となるので、食べ物を無理に 口に入れない ・意識障害の有無によって、経口で糖質を摂取させるか、ブドウ糖 (50%ブドウ糖20~40ml)を静脈注射するかを決定する。
低血糖 治療と療養指導-3
・病院に到着するまでの緊急処置として、グルカゴンを肩、大腿、臀部などへ 筋肉注射する ・グルカゴンはブドウ糖を肝臓から放出させる。その結果、注射後10分後から 症状の改善が期待できる。 ・グルカゴンの作用は一時的で、60~90分後には血糖値が再び低下する可能性 があるので症状が改善したら砂糖などの糖質を補う。 ・グルカゴン注射によっても症状が改善しない場合には、直ちにブドウ糖を静脈内 注射する
低血糖 治療と療養指導-2
グルカゴン使用に関する調査結果
患者数(人) 208
年齢(中央値) 45
性別(男性/女性) 79/129
糖尿病罹病期間(年) 11.5
インスリン療法の継続期間(年) 10
1日インスリン注射量(単位) 35
HbA1c(%) 7.3
低血糖の頻度(回数/月) 4
過去1年間の重症低血糖(%) 16.3
CSII(%) 13.0
持効型インスリン(%) 45.7
網膜症(%) 21.0
腎症(%) 16.0
神経障害(%) 24.4
グルカゴン知識テスト(正解率%) 64.0
グルカゴン所持率(%) 15.9
グルカゴンを使用した経験(%) 6.0
グルカゴン所持の希望(%) 39.0
Murata T, Diabetes Technol Ther. 2013 Sep;15(9):748-50.
グルカゴン所持の障害(%)
経済的な事情 単身者である 家族が望まない 注射に対し消極的 面倒である 必要を感じない その他
0.0 5.6
15.9 1.9 4.7
65.4 11.2
院外でのグルカゴン筋注について
経口摂取不能時、同居者によるグルカゴン 1mgの筋注または皮下注は有効である。 ただし下記の場合は効果が期待できない。 ①アルコールによる低血糖 ②食思不振、低栄養状態 ③4時間を超える昏睡
糖尿病専門医研修ガイドブック 改訂第5版 p213
2013年6月に改正道路交通法が成立し、車の運転に支障を及ぼす可能性がある病気 の患者が、運転免許証の取得や更新時に虚偽申告をした場合の罰則規定が新設された。
対象となる疾患には、無自覚性低血糖も含まれる。
病状の虚偽申告に関する罰則は「1年以下の懲役または30万円以下の罰金」。 改正道交法は公布後6ヵ月~2年以内に順次施行される。 医師が「安全な運転に支障を及ぼす意識消失などの症状の前兆を自覚できている」と 診断した場合や、「運転中の意識消失などを防止するための措置を実行できているので、 運転を控えるべきとはいえない」と診断した場合には、運転免許を取得できることになる。
糖尿病ネットワーク http://www.dm-net.co.jp/calendar/2013/020463.php
David Kerr, J Diabetes Sci Technol Vol 4, Issue 2, March 2010
低血糖と運転免許
・糖尿病の人が自動車事故を起こす確率は、 糖尿病でない人に比べ12~19%上昇する。 ・1型糖尿病では2倍程度上昇する。
ADA, DIABETES CARE, VOLUME 36, SUPPLEMENT 1, JANUARY 2013
①運転前と長い時間の運転時には、一定間隔で血糖自己測定を行い、 自分の血糖値をチェックしましょう。(運転前は100mg/dl以上を確認!!) ②運転するときは、血糖自己測定器と、ブドウ糖やそれに代わるものを、 常に側に置いてください。 ③低血糖のサインを感じたり、血糖自己測定を行い血糖値が70mg/dL未満と 低かった場合は、運転をやめて、車を安全な場所にとめましょう。 ④低血糖を確かめたときには、吸収の速いブドウ糖製剤や、ブドウ糖を多く 含むジュースやスナックなど、血糖値を上げやすい食品をとりましょう。 ブドウ糖を含まず低カロリー甘味料を使用した清涼飲料などもあるので、 あらかじめ成分を確かめておきましょう。 ⑤補食をしてから15分待ち、血糖値が目標値に達していることを確認してから、 運転を再開しましょう。 ⑥もしもあなたが無自覚性低血糖症を経験しているのなら、運転をやめて、 主治医に相談してください。 ⑦患者によっては糖尿病網膜症により視力障害が起きている場合があります。 末梢神経障害によりアクセルやブレーキのペダルの感じ方が弱まっている 場合もあります。早期に医師に相談しましょう。
交通事故を起こさないための低血糖対策 7ヵ条
ADA, DIABETES CARE, VOLUME 36, SUPPLEMENT 1, JANUARY 2013
シックデイ
・糖尿病患者は細菌やウイルスなどに対する抵抗力が低下している。
高齢者、血糖コントロール不良者、重篤な合併症がある例ほど感染症に罹患
しやすく、重篤化しやすい。
・感染巣としては尿路、呼吸器、皮膚、口腔内、耳鼻科領域、胆嚢などが多い。
高齢者糖尿病の高血糖と感染症
高齢糖尿病患者19,806人の1年間の後向きコホート研究
Lancet Diabetes Endocrinol. 2016 Apr;4(4):303-4.
113例 1169例 1487例
高齢者糖尿病の肺炎による死亡リスクは2.57倍
・発熱を伴う時はインスリン抵抗性が増大し、高血糖が増悪しやすいので、
SMBGを頻回に行う。
・感染巣(咳・痰、排尿痛、腰痛、皮膚膿瘍、壊疽などの有無)、体温、食事・水分
の経口摂取量、口渇、尿量、体重の変化、血糖値などを把握する。
・初期の対応はシックデイルールに従う。
・安静と保温に努め、食欲がなくても水分と炭水化物は確保し、インスリンを継続
してSMBGを行う。
・高熱や高血糖が続き、水分や炭水化物の摂取ができない時は、緊急入院が
必要である。
・予防のために血糖コントロールと皮膚、口腔、陰部などを清潔に保つことが
重要である。
シックデイ時の病態と初期の対応
シックデイ・ルールの原則
①できるだけ摂取しやすいかたち(粥、麺類など)でエネルギー、炭水化物を 補給する。最低でも1日100g以上の炭水化物を摂取することを目標とする。 ②水分は少なくとも1,000ml/日以上は摂る、味噌汁や野菜スープなどミネラル を含むものが望ましい。 インスリンを使用している場合 ③血糖自己測定を行い、できれば尿ケトン体測定も行う。 ④食事ができないからといってインスリン量を極端に減らしたり中止したりして はいけない。食事の際に追加インスリンあるいは混合型インスリンを使用して いる者については食事量が不安定な場合には食事の直後に注射する。
シックデイとインスリン
・食事量に関係なく、中間型または持効型インスリンを継続する。 ・BOTの基礎インスリンも継続する。 ・追加インスリンは食後打ちにする。下表にそって調整する。 ・1日4回(各食前と眠前)あるいはさらに頻回の血糖自己測定により、 血糖値200mg/dl以上なら追加インスリンを増量、120mg/dl未満なら 減量して調整する。 ・血糖自己測定と同時に尿ケトン体を測定することが望ましい。
食事量 インスリン 投与量
血糖値に合わせたインスリン調節
100~80% 全量 血糖<70 4単位減量 70≦血糖<120 2単位減量
80~50% 2/3量 120≦血糖<200 増減なし 200≦血糖<250 2(1)単位増量
50%以下 1/2~中止 250≦血糖<300 4(2)単位増量 300≦血糖<350 6(3)単位増量
10%以下 中止 350≦血糖<400 8(4)単位増量 400≦血糖 10(5)単位増量
+
2型糖尿病のシックデイと薬物療法
食事量 2/3以上
食事量 3/2~1/3
食事量 1/3以下
SU薬 通常量 半量 中止
グリニド薬 通常量 半量 中止
αGI薬 中止 中止 中止
BG薬 中止 中止 中止
チアゾリジン薬 通常量 中止 中止
DDP-4阻害薬 通常量 中止 中止
SGLT2阻害薬 中止 中止 中止
GLP-1受容体作動薬は下痢や嘔吐などの消化器症状があるとき、食事量が半分 以下であれば中止する。