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1 定の重要性 重要性 重要性 重要性 科学技術、工業全般において、定は極めて重要であ、必要不可欠なものであこと は、改めて述べまでもない。工業の各分野での技術の発展支えてきたものの一つは、 定定技術であとも言え。 また、研究開発、製品開発、製造、検査に関にとっては、定とは対象 物の性能の確認、試、証明のために常日頃、通に行っていことであ。とこが、 定値の信頼性や*については、定行ってい全てのが十 分に理解していとは言えないうに思え。「今行った定の結果はどくい信頼でき のか?」という問いに即座に定量的に答え技術者は、どのくいいだうか? 1 回か 6 回に分けて、この問いに答えためにはどうした良いかについて分か やすく解説していく。 なぜ なぜ なぜ なぜ定値 定値 定値 定値の信頼性 信頼性 信頼性 信頼性が重要 重要 重要 重要なのだうか なのだうか なのだうか なのだうか? 定の結果は、自分の研究の確認や、自社内での工程管理などで使場合も多いが、 次に掲げうな対外的に重要な役割持つ場合にも使用さ。 a. 客、供給者との間の取引において、商品の性能の定値が、一定の基準満た すことが契約の件であ場合 b. 商品が一定の規格や規制に適合していこと証明す場合 c. 製品や試作品の性能示すとして、客や社外に公表す場合 d. 研究の成果公表す場合 このうな場合、定値が目的に対して信頼できものであ事が要求さことは言 うまでもない。もし、目的に対して定値の信頼性が不十分だった場合は以下のうな にとってましくない結果もたす可能性があ。 - 不良品良品として出荷してしまう(契約件の違反) - 規制に不適合な製品適合と判定してしまう (、規格への不適合) *トレーサビリティとは?測定に用いた機器が標準器により定期校正されており、それに用いた標準器はいつどこでどのよ うな標準器で校正されたかを上にたどったとき、国家又は国際標準機関まで追跡できること。 第 1 回 不確 不確 不確 不確かさ かさ かさ かさ-- -- -- -- 基本 基本 基本 基本 -- -- -- -- 不確 不確 不確 不確かさ かさ かさ かさ講座 -測定 測定 測定 測定の信頼性 信頼性 信頼性 信頼性を高めるために めるために めるために めるために- (全 6 回)

第第第第1111回回回回 不確不確かさ------ -- 基本基本暷小桁が少しトメつくので、10 回の平均値を取ることにした。暷初に浴定した抵抗は、

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1

測定測定測定測定のののの重要性重要性重要性重要性

科学技術、工業全般において、測定は極めて重要であり、必要不可欠なものであること

は、改めて述べるまでもない。工業の各分野での技術の発展を支えてきたものの一つは、

測定・測定技術であるとも言える。

また、研究開発、製品開発、製造、検査に関わるエンジニアにとっては、測定とは対象

物の性能の確認、試験、証明のために常日頃、普通に行っていることである。ところが、

測定値の信頼性やトレーサビリティ*については、測定を行っている全てのエンジニアが十

分に理解しているとは言えないように思える。「今行った測定の結果はどれくらい信頼でき

るのか?」という問いに即座に定量的に答えられる技術者は、どのくらいいるだろうか?

第 1 回から 6 回に分けて、この問いに答えるためにはどうしたら良いかについて分かり

やすく解説していく。

なぜなぜなぜなぜ測定値測定値測定値測定値のののの信頼性信頼性信頼性信頼性がががが重要重要重要重要なのだろうかなのだろうかなのだろうかなのだろうか????

測定の結果は、自分の研究の確認や、自社内での工程管理などで使われる場合も多いが、

次に掲げるような対外的に重要な役割を持つ場合にも使用される。

a. 顧客、供給者との間の取引において、商品の性能の測定値が、一定の基準を満た

すことが契約の条件である場合

b. 商品が一定の規格や規制に適合していることを証明する場合

c. 製品や試作品の性能を示すデータとして、顧客や社外に公表する場合

d. 研究の成果を公表する場合

このような場合、測定値が目的に対して信頼できるものである事が要求されることは言

うまでもない。もし、目的に対して測定値の信頼性が不十分だった場合は以下のようなビ

ジネスにとって望ましくない結果をもたらす可能性がある。

- 不良品を良品として出荷してしまう(契約条件の違反)

- 規制に不適合な製品を適合と判定してしまう (法、規格への不適合)

*トレーサビリティとは?:

測定に用いた機器が標準器により定期校正されており、それに用いた標準器はいつどこでどのよ

うな標準器で校正されたかを上にたどったとき、国家又は国際標準機関まで追跡できること。

第第第第 1111 回回回回 不確不確不確不確かさかさかさかさ-------- 基本基本基本基本 --------

不確不確不確不確かさかさかさかさ講講講講座座座座 ----測定測定測定測定のののの信頼性信頼性信頼性信頼性をををを高高高高めるためにめるためにめるためにめるために---- ((((全全全全 6 回回回回))))

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- 業界最高の性能を達成したと公表したが、測定に間違いがあり、最高性能ではなかった

逆に、測定についての信頼性・限界を定量的にきちんと把握していれば、上記のような

心配をすることなく、自信を持って取引や業務を進めることができるだけでなく、常に仕

様を満たす製品として顧客の信頼を得ることにつながる。

従って、これらの対外的に重要な役割を持つ測定に対しては、測定の信頼性を定量的に把

握しておくことが望ましい。

また、もう少し身近なところで考えて、測定結果が自社内に限って使われる場合でも、複

数の測定結果が食い違うことにより

- 部署間でデータの相関が取れず、解明に手間取る

- 試作段階で十分な性能と思っていたが、製造では歩留りが悪い

といった、効率の低下につながる可能性がある。

そこまでいかずとも、自分の行った測定と他の測定結果が食い違い、どちらが正しいの

かの議論になった、または再測定を余儀なくされたという経験はエンジニアであれば誰し

も持っているのではないか。このような時に、自分の行った測定の信頼性を客観的かつ定

量的に述べることができるなら、無駄な議論や再測定をせず、自分の結果・結論を、自信

を持って押し通すことができる。データと論理に基づききちんとした主張ができることが

エンジニアにとっての大切な能力の一つであると考えれば、測定の信頼性について定量的

な考察ができるようになることは、エンジニアとしての実力の向上につながるはずだ。

今今今今、、、、あなたあなたあなたあなたがががが行行行行ったったったった測定測定測定測定はははは、、、、どれくらいどれくらいどれくらいどれくらい信頼信頼信頼信頼できますかできますかできますかできますか????

最初に、例として比較的簡単な測定を取り上げよう。

【ケース 1.】

ある装置の構成部品として、1 kΩ、許容差 +-0.1 %の精密な抵抗が 1 本必要である。

1 kΩ 0.1 % の金属皮膜抵抗 100 本の中から一番良いものを測定により選別しようとして

いる。

測定には 5-1/2 桁のデジタルマルチメータとテスターリードを使って測定をする。但し、

最小桁が少しバラつくので、10 回の平均値を取ることにした。最初に測定した抵抗は、

1000.317 Ωであった。

【ケース 1.の検討】

「この測定結果はどこまで信頼できるのか?」と聞かれたら、あなたはどのように答える

だろうか?

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不確かさ(定義)

測定の結果に附随した、合理的に測定量に結び付けられ得る値のばらつきを特徴づ

けるパラメータ

経験にもよるが、以下のようなさまざまな見解が出てくるのではないか。

a. 平均の結果は 1000.317 だが、マルチメータが、5 桁半で、その最下位桁は 0.01Ω

なので、そこまでは有効であろう

b. 1/10Ωの桁までは信頼できるが、最下位桁(1/100 オーム) は、測定の時にバラつい

ていたので、あまり信用できない。

c. このマルチメータの確度は、読み値の 0.05 %+レンジの 0.005 % とある。 今 1 k

Ωレンジで 1 kΩを測定しているので、それぞれ 0.5 Ω、0.05 Ωであるから合計

0.55 オーム程度が測定値の信頼できる限界である

d. 測定に使用した、テスターリードの直流抵抗が、0.05 Ω程度だろうから、その抵

抗値を補正しない限り、0.05Ω以下は信頼できない。

e. この抵抗の温度係数が、100 × 10-6 /K 程度ある。温度を管理していない室温の

測定では、±10 ぐらいの温度変化があるので、 ±1 × 10-3 程度の変動は避け

られない。

f. このマルチメータがいつ校正されて、その時の結果がどうであったかによる。

このうち、どれとどれが正しいのであろうか?

ここにあげたものは、いずれも測定の信頼性を決める要素として考慮すべきものであるが、

個々に列挙するだけでなく、総合して考える必要がある。ただ、別々の要素をどのように

「総合」して考えたら良いのであろうか?

長年の経験から、この測定のセットアップでは、X %程度が信頼できる限界という経験則

を用いている場合もあるかと思うが、もう少し定量的に表せないであろうか?

これらの問いに答えるのが「不確かさ」である。「不確かさ」を使うことにより、別々の

要素を総合して定量的に評価・表現することができる。

定量的に測定値の信頼性を表すために定義されたもの - 「不確かさ」

ISO の定める Guide to the Expression of Uncertainty in Measurement, 略称:GUM が

1993 年に刊行され、「不確かさ(uncertainty)」の考え方と表記の方法が統一された。

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不確かさ (やさしい言い換え)

測定の結果に付随するパラメータであり、「測定値」からどの程度のばらつきの範囲

内に「真の値」があるかを示すもの

その定義は次のように記されている。ここで、「合理的に測定量に結び付けられ得る値」と

は、「真の値の候補と考えて不合理でない値」という意味である。なぜこのような少々わか

りにくい表現となっているかというと、本当は知りえない「真の値」という言葉を、定義

の中で使うことを避けたためである。

ただ、ここではあえて「真の値」という言葉を使って判りやすく言い換えると、次のよ

うになる。

真の値が存在する確率密度

測定値

図 1 不確かさの概念図

一般的に不確かさは統計学を駆使していることから、難解なものと思われている。また、

不確かさの算出は国立研究所や企業の標準器室の技術者が行うものであり、通常の測定に

は無縁のものと考える人もいるかもしれない。しかし、不確かさは、ここまで説明してき

たように、信頼性のある測定を行う場合には欠くべからざるものであり、全てのエンジニ

アの方々に理解しておいていただきたい考え方である。

トレーサビリティの体系においては、上位の階層である国家標準に近づくにつれ、小さ

な不確かさが要求される。国家標準に近い研究所で必要とされる「不確かさ」と、実際の

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測定の現場で確保したい「不確かさ」では、目標とする不確かさの大きさが異なる。目標

とする不確かさの値が異なる以上、不確かさを算出する上で、考慮すべき要因も異なり、

皆が研究所並みの算出方法を取らなければならないわけではない。不確かさの算出方法は

一つの正解に限定されるものではなく、基本さえ押さえていれば違ったアプローチ、結果

であって構わない。

不確不確不確不確かさのかさのかさのかさの求求求求めめめめ方方方方

現在では、ISO GUM を基とした不確かさの求め方に関する文献は、多数作成されてお

り、 Web から入手することができる。代表的なものに NIST Technical Note 1297 (米国)、

EA 4/02 (EU) 、NITE JCG200 (日本) などがある。これらの文献は、記述は正確ではある

が、初めて不確かさについて学ぼうとする人にとって、理解しやすいとは言えない。ここ

では厳密さには欠けるがもう少しやさしい解説を試みる。

ISO GUM の不確かさ算出の手順の骨子を図 2 に示す。

図 2 不確かさ算出の手順

まず始めに、入力量と出力量の関係式を立てる。

次に各入力量に関する不確かさ成分を抽出・評価する。タイプA とタイプBの二つの評

価方法がある。タイプAは一連の測定値の統計解析により不確かさを評価する方法であり、

入 / 出力量の関係式

不確かさ成分の抽出 / 評価

合成標準不確かさの計算

拡張不確かさの計算

不確かさ評価の文書化

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タイプBは統計的解析以外の方法により不確かさを評価する方法である。

全ての不確かさ成分の 2 乗和をとり、その平方根から合成標準不確かさを求める。ただ

し各成分が独立であるという条件が必要である。

合成標準不確かさに包含係数 2 を乗じ拡張不確かさを求める。

最後にこれまでの経緯を文書化する。

【ケース 1A】

始めに、ケース 1.の場合について話を簡単にするため以下の理想的な条件で不確かさを求

めてみる。

1. 温度係数ゼロの抵抗を測定対象とする。

2. 抵抗がゼロオームのテストリードを用いる。

3. 10 回測定し平均値を測定値とする。

4. 測定はマルチメータの仕様で決められた温度環境(23 ±3 )で実施する。

前述のプロセスに従い不確かさの算出を行う。多くの場合、使用する測定器の測定確度

の仕様値を、不確かさ成分の一つとして扱うことにより、不確かさの算出手順が大幅に単

純化される。

1. 1. 1. 1. 入入入入 / / / / 出力量出力量出力量出力量のののの関係式関係式関係式関係式

抵抗 R をマルチメータに接続し観測値 RM を測定する。

出力量が R 入力量が RM なので関係式は以下のようになる。

MRR =

2. 2. 2. 2. 不確不確不確不確かさかさかさかさ成分成分成分成分のののの抽出抽出抽出抽出 / / / / 評価評価評価評価

入力量 RM の不確かさの要因は、マルチメータの測定確度に起因する不確かさ

( )MRu と平均値のばらつき ( )MRs である。

2.2.2.2.1111 マルチメータのマルチメータのマルチメータのマルチメータの測測測測定確度定確度定確度定確度にににに起因起因起因起因するするするする不確不確不確不確かさかさかさかさ

( )MRu はマルチメータの測定確度を 3 で割った値を使う。これは測定確度の

包含係数が仕様に明記されていないため、分布を矩形分布と仮定し、その幅(確度の

数値)から標準偏差に変換するため、 3 で割る。( 矩形分布については図 3.を参

照 )

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2222.2.2.2.2 平均値平均値平均値平均値のばらつきのばらつきのばらつきのばらつき

( )MRs は平均する前の複数回の測定から求めた標準偏差 ( )MRs を平均値を求

める時の測定回数のルートで割る。 N 回の測定の平均値の標準偏差は、(平均する

前の測定値の)標準偏差の 1/√N である。

3.3.3.3. 合成合成合成合成標準標準標準標準不確不確不確不確かさのかさのかさのかさの計算計算計算計算

合成標準不確かさ uC(R) は各不確かさを 2乗和し、その平方根を求める。

( ) ( ) ( ) 2

MM

2

C

+=

N

RsRuRu

4.4.4.4. 拡張不確拡張不確拡張不確拡張不確かさのかさのかさのかさの計算計算計算計算

一般的に不確かさとは拡張不確かさを指す。拡張不確かさ U は合成標準不確かさ

に、包含係数 kを乗じたものである。測定量の分布が正規分布と考えられる場合、包

含係数 k = 2 を用いる。これにより、拡張不確かさの中に真の値 が存在する確率は

約 95% となる。 (信頼水準 95%)

( )RuU C2×=

p(R)/Ω

R/Ω 0 1000

1/(2a)

1000-a 1000+a

31000 a− 31000 a+

0

図 3 矩形分布の確率密度関数 p(R)/Ω

u(RM) 測定確度に起因する不確かさ

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5. 5. 5. 5. 不確不確不確不確かさかさかさかさ評価評価評価評価のののの文書化文書化文書化文書化

測定のセットアップ、手順、使用器材など、測定の詳細がわかる記述とともに、上

記 (1.-4)の評価結果を文書化する。

これで不確かさの算出は完了である。想像していた以上に短時間に算出が行えることに驚

かれたのではないだろうか。

- - - -

拡張不確かさ ( k = 2)

真の値が 95%の確率で存在する範囲

確率密度

測定値

合成標準不確かさ

図 4 合成標準不確かさと拡張不確かさ

ちなみに、ここで使用した式の記述方法は ISO GUM や米国 NIST(国立標準技術研究

所)発行の文書に基づいている。不確かさ評価の文書化において、これは重要なポイント

であるので、第 2 回の 12 ページ「SI 単位の表記の紹介」にて、技術文書の標準的な記述

方法を解説しているので参照されたい。

次に、数値を用いて具体的に不確かさを算出してみる。

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マルチメータのマルチメータのマルチメータのマルチメータの測定確度測定確度測定確度測定確度にににに起因起因起因起因するするするする不確不確不確不確かさかさかさかさ

この例では、マルチメータの測定確度は読み値の 0.05 %+レンジの 0.005 % であるので、

1 kΩ を測定する場合の測定確度は 0.55 Ω である。

マルチメータの測定確度に起因する不確かさ ( ) Ω 0.3183Ω 0.55M ==Ru

平均値のばらつき

マルチメータに抵抗を接続し、測定を 10 回行い、以下の値を観測した。

1 回目:1000.41 Ω

2 回目:1000.10 Ω

3 回目:1000.59 Ω

4 回目:1000.19 Ω

5 回目:1000.35 Ω

6 回目:1000.15 Ω

7 回目:1000.40 Ω

8 回目:1000.19 Ω

9 回目:1000.54 Ω

10 回目:1000.25 Ω

平均値は 1000.317 Ω、標準偏差は 0.168 Ω となる。

10 回の平均値を測定結果とするときのばらつき ( )MRs = 0.168 Ω / 10 = 0.0531Ω

これらの結果から拡張不確かさは以下の式で求めることができる。

( ) ( )( ) ( ) Ω=+×=

+=

644.00531.0318.0222

2

MM

2 RsRuU

よって、測定値は 1000.317 Ω 不確かさは 0.644 Ω となる。

不確かさは通常有効数字 2 桁で表すので 0.64 Ω と記す。測定値の有効数字は不確か

さの有効数字に合わせ 1000.32 Ω と記す。

不確かさを有効数字 2 桁に丸める時に 3 桁目を四捨五入するのでなく、切り上げを用

いた方が良いという議論もあるが、実用的には四捨五入で支障はない。

測定のばらつき(平均値の標準偏差)が小さいにもかかわらず、拡張不確かさ 0.64 Ω が

マルチメータの測定確度 0.55 Ω より大きくなっていることに疑問を感じるかもしれない。

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これは、合成標準不確かさのうち、矩形分布であるとしたマルチメータの測定確度が支配

的な要因なので、合成標準不確かさの分布は正規分布より矩形分布に近いものになってい

るからである。矩形分布と判明していれば、95 % 信頼水準の拡張不確かさを得るためには、

包含係数に 1.65 を使うべきなのだが、包含係数 2 を使用したことによる。しかし、分布の

性質が正確には判らない場合は、包含係数 2 を使えば、多少不確かさは大きくなるかも知

れないが、安全サイドに振れるので、実用上の問題はない。

【ケース 1B】

次にケース 1 の条件を設問通りとし、不確かさを算出してみる。ケース1Aから変化し

た部分を太字で示す。

1. ±100×10-6/K の温度係数を持つ抵抗を測定対象とする。

2. テストリードはリード抵抗が存在する。

3. 10 回測定し平均値を測定値とする。(マルチメータの平均機能を使用)

4. 測定はマルチメータの仕様で決められた温度環境(23 ±3 )で実施する。

1.1.1.1. 入入入入////出力量出力量出力量出力量のののの関係式関係式関係式関係式

ケース1Aと条件が異なるので、まず始めに入/出力量の関係式を立てる。抵抗の温度

係数を ±α、23 からの温度差を t、テストリードの抵抗を RL とすると、出力量

が R 入力量が RM、RL 及び α なので関係式は以下のようになる。

( ) LM1 RRtR −=+α

上式を R について解くと、

tRR

t

RRR

αα

×Ω−−≈+−

=

1000

1

LM

LM

となる。

ここで LM RR − を RD とすると上式は以下のようになる。

tRR α×Ω−≈ 1000D

2.2.2.2. 不確不確不確不確かさかさかさかさ成分成分成分成分のののの抽出抽出抽出抽出////評価評価評価評価

2.2.2.2.1111 マルチメータのマルチメータのマルチメータのマルチメータの測定確度測定確度測定確度測定確度にににに起因起因起因起因するするするする不確不確不確不確かさかさかさかさ

( )DRu はマルチメータの測定確度を 3 で割った値を使う。(ケース 1A と同一)

2.2.2.2.2222 平均値平均値平均値平均値のばらつきのばらつきのばらつきのばらつき

( )DRs は平均する前の複数回の測定から求めた標準偏差 ( )DRs を平均値を求め

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0 23

1/(πa)

23-a 23+a

223 a− 223 a+

0

図 5 U 字分布の確率密度関数 p(t)/

u(t)

温度変化の

不確かさ

( ) Ctp °

Ct °

る時の測定回数のルートで割る。

2.2.2.2.3333 温度変化温度変化温度変化温度変化によるによるによるによる不確不確不確不確かさかさかさかさ

抵抗の温度係数を 3 で割った値を u(α)、温度変化を 2 で割った値を u(t)と

すると、温度変化による不確かさは、 ( ) ( )( )tuu α×Ω 1000 となる。

温度係数を 3 で割ったのは、温度係数が ± αの矩形分布であると仮定したた

め、温度変化を 2 で割って u(t) を求めたのは、温度変化が U 字分布と仮定し

たからである。一般に空調により一定温度に保たれる環境では、温度は時間と共

に周期的に変動するため、その値は U 字分布と考えられる。(図 4. を参照)

3333.... 合成標準不確合成標準不確合成標準不確合成標準不確かさのかさのかさのかさの計算計算計算計算

2 の各項より、合成標準不確かさ uC(R) は以下のように表すことができる。

( ) ( ) ( ) ( )( ) ( )22

D

2

C )( 1000 DRstuuRuRu +×Ω+= α

4444.... 拡張不確拡張不確拡張不確拡張不確かさのかさのかさのかさの計算計算計算計算

拡張不確かさ Uは合成標準不確かさに、包含係数 k を乗じたものである。

包含係数 k = 2 を用い

( )RuU C2×=

となる。

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同様に、数値を用いて具体的に不確かさを算出してみる。マルチメータに抵抗を

接続し、測定毎に抵抗とテストリード抵抗を測定し 10 回の測定を繰り返したとき

以下の値を観測した。

抵抗 テストリード抵抗 抵抗の差

RM RL RD

1 回目:1000.46 Ω 0.05 Ω 1000.41 Ω

2 回目:1000.15 Ω 0.04 Ω 1000.11 Ω

3 回目:1000.64 Ω 0.05 Ω 1000.59 Ω

4 回目:1000.24 Ω 0.05 Ω 1000.19 Ω

5 回目:1000.40 Ω 0.06 Ω 1000.34 Ω

6 回目:1000.20 Ω 0.05 Ω 1000.15 Ω

7 回目:1000.45 Ω 0.05 Ω 1000.40 Ω

8 回目:1000.15 Ω 0.04 Ω 1000.11 Ω

9 回目:1000.57 Ω 0.05 Ω 1000.52 Ω

10 回目:1000.15 Ω 0.05 Ω 1000.10 Ω

RD の平均値は 1000.2920 Ω、標準偏差は 0.183 Ω になる。これらの結果から

拡張不確かさは以下の式で求めることができる。

Ω=

Ω+

°×

°××Ω+

Ω×=

690.0

10

183.0

2

C 0.3

3

C /10100 1000

3

55.02

2262

U

よって、測定値は 1000.29 Ω 不確かさは 0.69 Ω である。

文書化において役に立つ不確かさバジェット表を紹介しておく。

不確かさバジット表とは、全ての不確かさの要因、その評価結果及び拡張不確かさを示し

た表である。バジェット表を作成しておくことで、一目で各要因の大きさが理解でき第三

者にも算出結果の妥当性が容易に説明できる。また、将来不確かさを改善する場合や測定

方法を変更する場合、改善点や変更点の絞込みが容易にできる。さらに測定結果に影響を

及ぼすような問題が生じた場合、その影響度を定量的に把握することができる。

このケースでの不確かさバジェット表を、表 1 に示す。

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表 1. 不確かさのバジェット表

入力量 入力量の推定

値 標準不確かさ 確率分布

不確かさ寄

RD

1000.292 Ω 3 55.0 Ω 矩形分布 0.3175 Ω

0 C° 10 183.0 Ω 正規分布 0.0579 Ω

a 0 C° 3C/10100 6 °× − 矩形分布

0.1225 Ω

t 0 C° 2C 0.3 ° U 字分布

合成標準不確かさ 0.345 Ω

拡張不確かさ 0.69 Ω

測定器の確度の仕様を用いた不確かさの算出例を紹介したが、その際いくつか重要なポ

イントがある。 以下にそのポイントを挙げるが、これらは信頼性のある測定を実施する

ために基本的に必要なことであり、不確かさを算出するためにだけ必要になるわけではな

い。

1. 使用する測定器は校正されているか?

2. 測定環境は適切か?

3. 被測定物の特性は明確か?

4. 測定システムは明確か?

5. なにが測定値で、なにを求めたいか明確か?

6. 測定者に必要な訓練を実施しているか?

1. 1. 1. 1. 使用使用使用使用するするするする測定器測定器測定器測定器はははは校正校正校正校正されているされているされているされているかかかか????

不確かさの算出に、測定器の確度の仕様値を使う大前提は、使用する機器が信頼できる

校正機関により定期的に校正が行われ、その結果機器が仕様を満たしていることが確認さ

れていることである。信頼できる校正とは、「仕様から外れている機器」を校正した結果「仕

様から外れている」と判定できるものである。そのためには、その校正機関が適切な校正

項目(点)に対しトレーサビリティがとれた測定を実施できる必要がある。

トレーサビリティが取れているとは「不確かさがすべて表記された切れ目のない比較の

連鎖によって、決められた基準に結びつけられ得る測定結果又は標準の値の性質。基準は

通常、国家標準または、国際標準」と定義されている。

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2.2.2.2. 測定環境測定環境測定環境測定環境はははは適切適切適切適切かかかか????

測定を実施する部屋の温度、電源電圧が使用するマルチメータの仕様書に書かれている

範囲以内であることが必要。温度が範囲外であれば測定確度は悪化する可能性があり、仕

様を使うことはできない。電源電圧が高い場合にはマルチメータが破損する可能性があり、

低い場合には内部安定化電源のリップルが増え回路が正しく動作しない可能性がある。測

定対象の測定値が温度、湿度、気圧などの環境条件により変化する場合は、それらを一定

に保つ必要がある。また、測定によっては、外来電磁波を遮断する環境(シールドルーム)

などが必要な場合もある。

3. 3. 3. 3. 被測定物被測定物被測定物被測定物のののの特特特特性性性性はははは明確明確明確明確かかかか????

不確かさは被測定物の特性に依存する要素がある。例えばケース 1 の場合、周囲温度に

より抵抗値が変化した(温度係数)。 一般には、測定環境の変化に対し、測定値がどのよう

に変化するのかを把握しておく必要がある。

4. 4. 4. 4. 測定測定測定測定システムはシステムはシステムはシステムは明確明確明確明確かかかか????

不確かさは使用測定器に依存するので、使用する測定器のメーカ・モデルが明確である

こと。それだけではなく、測定に使用するケーブルやプローブなどのアクセサリ類が管理

され、結線方法、測定器の設定、測定手順など、だれが行っても同一の測定ができるよう

に手順が明確化されてはじめて測定システムが明確になっていると言える。自動化された

測定の場合は、測定プログラムのバージョン管理も重要な要素である。不確かさの評価を

文書化する時は、これらの情報をきちんと入れておくことが大切である。

5. 5. 5. 5. なにがなにがなにがなにが測定値測定値測定値測定値でででで、、、、なにをなにをなにをなにを求求求求めたいかめたいかめたいかめたいかがががが明確明確明確明確かかかか????

入出力量の関係式を作成するために、なにが測定値で、なにを求めたいのかを明確にす

る必要がある。当然ながら、この関係式が正しくないと正しい測定結果は得られない。足

すべき量を引いてしまったり、かけるべき量を割ってしまったりする例があるので、注意

が必要である。

6. 6. 6. 6. 測定者測定者測定者測定者にににに必要必要必要必要なななな訓練訓練訓練訓練をををを実施実施実施実施してしてしてしているかいるかいるかいるか????

測定作業を行う者は、測定作業に関して必要な訓練を受けている必要がある。例えば、

微小直流電圧測定は熱起電力の影響を受けるため、接続端子に触ってはならない/温度が均

一になるまで待つ、高抵抗の測定ではケーブルの絶縁抵抗の影響を受けるので、ケーブル

が他の導体に触れないようにする、高周波測定では反射係数による不整合損の影響がコネ

クタの締め方に大きく影響されるので、コネクタおよびトルクレンチの取り扱い方法に習

熟するなど、測定上、注意が必要な取り扱いに、習熟している必要がある。

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参考文献参考文献参考文献参考文献

[1] ISO, “Guides to the Expression of Uncertainty in Measurement”

[2] “Guidelines for Evaluating and Expressing the Uncertainty of NIST

Measurement Results” , NIST Technical Note 1297

[3] “Expression of the Uncertainty of Measurement in Calibration” ,

EA Publication Reference EA 4/02

[4] 『校正方法と不確かさに関する表現』, (独)製品評価技術基盤機構, JCG200

[5] “Guide for the Use of the International System of Units(SI)”,

NIST Special Publication 811, 2008 Edition

不確かさの算出においては、これらの扱いが適切であるとして不確かさの要因としては

扱わないか、または、訓練された作業者が行ったとき、一定のバラツキの範囲内であると

して不確かさ成分に加える(コネクタの接続の再現性など)。どちらの場合でも、未習熟の作

業者が測定を行った結果、予め評価された不確かさを大幅に超える測定値が得られた実例

は多数ある。さらに測定系を壊さないために、高周波コネクタのケアー方法や静電気対策

に関する教育も必要となる。

まとめまとめまとめまとめ

「不確かさ」というと、今までは、「計測標準」やその国際比較などの分野で要求される

ものであり、日々自分の行っている測定とは無縁のもの、または、「難しくて近寄り難いも

の」と思っていなかったであろうか?

「不確かさ」は信頼性を定量的に表すことのできる大変有用な概念なのである。対外的

に公表され、信頼性が求められる測定に対し「不確かさ」をきちんと評価することが必要

なことは言うまでもない。また、あらゆる測定に応用し、その測定が目的に対して十分に

信頼できるのかどうかを検証できる。

さらには、自分で行った測定について不確かさを評価しておけば、自分の行った測定の

信頼性に関して、「自信」を持つことができる。エンジニアにとって、顧客、取引先、社内

関係者に「この測定結果は、不確かさ xx %で正しい」と自信を持って言えることは、仕事

を円滑に進める上で、大きな力になるのではないか。

不確かさの算出方法は一つの正解に限定されるものではなく、基本さえ押さえていれば

違ったアプローチ、結果であって構わないと述べたが、例外がある。ISO/IEC 17025 に基

づいた認定を受ける場合には、その認定機関のトレーサビリティ方針に準拠した考え方で

不確かさを求める必要がある。ここで示した方法が必ずしも全ての認定機関で認められた

方法ではないことに注意されたい(例えば測定器の確度の仕様値を不確かさ成分として扱

うことは、認定機関によっては未だ認められた方法ではない)。

第 2 回では、もう少し複雑な測定における、「不確かさ」の算出方法を説明する。

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2009.11.12