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独占的競争モデル
京都大学経済研究所 森知也
平成 17 年 7 月 3 日
1 独占的競争モデルのエッセンス
本講義では、 近のマクロ経済学、国際経済学、空間経済学をはじめとした応用ミクロ経済学において頻
繁に用いられる独占的競争- monopolistic competition-1モデルのうち、 も基本的な「水平的差別化」
に基づくDixit-Stiglizモデル (Dixit and Stiglitz[4])を中心に紹介する。独占的競争モデルでは、多様な (対
称に差別化された)財のバラエティが存在する産業/経済を想定している。各バラエティの生産には企業レ
ベルの規模の経済が作用するが、それは比較的小さなものであり、かつ潜在的なバラエティは多数存在す
るため、個々の企業は、同じバラエティではなくそれぞれ異なるバラエティに (産業内)特化するインセン
ティブをもつ。従って、市場では個々企業がそれぞれ異なる財を供給する独占企業として自社製品の価格を
独自に設定できる。各財は相互に (不完全な)代替財であるため、一般的には各企業の価格設定行動は相互
に影響しあうが、独占的競争市場においては、企業 (つまりバラエティ)が多数存在することから、各企業
は自らの製品の価格設定が他企業の価格設定に一切影響を与えないと考えて行動すると仮定されている2。
以下では、直感的な応用例として、独占的競争モデルを用いて説明される経済活動の空間的集積のメカ
ニズムを紹介する。図 1は消費財の多様性を通じて企業と消費者が空間的に近接して立地することにより、
産業・人口集積、ひいては都市の形成を説明するひとつのメカニズムを示したものである。ある都市におい
て、多数の企業/店舗が集積し多様な消費財が供給されたとしよう。するとその都市では、多様性を嗜好す
る消費者(=労働者)にとって、所与の名目賃金の下で実質賃金 (つまり効用水準)は上昇する3。従って、
消費財バラエティの増大はさらに多くの消費者を惹きつけ、その都市での消費財需要を増大させる。需要の
増大は、規模の経済の下で生産活動を行う企業の新規参入を誘引し、それはこの都市で供給される消費財
バラエティをさらに拡大する4。このように、個々の企業レベルの規模の経済と各消費者の多様性嗜好は5、
この循環的な正のフィードバック効果を通して「都市レベルでの収穫逓増」に転換されることにより、家
計・企業の空間的集積が形成される明示的なメカニズムの一つを説明している。
以上は、消費者の多様性嗜好に基づく経済集積のメカニズムを説明したものであるが、財の生産過程に垂
直的構造を持つ産業の立地に関しても、同様な正のフィードバックメカニズムに基づいて上流企業と下流企
業の集積を説明することができる。図 2は、図 1の「消費財」を「中間財」に、「消費者」を「 終財生産
者」に読み替えて、中間財生産者と 終財生産者の集積メカニズムを説明したものである。特に、消費財の
多様性に基づく図 1の場合が資源 (労働)の移動を前提としたのに対し、図 2の中間財の多様性に基づく集
積メカニズムは、国際貿易など資源が (国間で)移動しない場合の、各国の特化パターンを決定するメカニ
ズムとして応用することができる6。
1独占的競争市場の概念は Chamberlin[3] により初めて導入された。2さらに、カルテル形成や暗黙の結託も起こらないと仮定される。ただし、独占的競争モデルを用いて企業間や国家間の結託を明示
的にモデル化することもできる。貿易協定・関税同盟の形成のモデル化を行った文献については小西 [11]によるサーベイを参照せよ。3例えば、同じ名目賃金でも、中華料理店だけある街よりも、中華料理店とイタリア料理店がある街の方が、また中華料理とイタ
リア料理だけよりも、さらに日本料理店やフランス料理店もある街の方が、実質所得は高い、というのが多様性嗜好である。4ここで、生産における規模の経済は重要な要素である。もし生産に規模の経済が存在しないなら、あらゆる消費財が (消費者が居
住する) 全ての地点で生産されることになるからである。5より正確には、消費財の (広義の) 輸送費用の存在も必要で、企業と消費者が近接して立地するほど財の輸送には費用がかからな
いことを仮定している。6Fujita, Krugman and Venables[5, Sec.IV] 参照。
1
図 1: 消費財バラエティと集積のメカニズム
図 2: 中間財バラエティと集積のメカニズム
2
2 Dixit-Stiglitzモデル
Dixit-Stiglitzモデルにおいては、個々の企業は測度ゼロであり、財は連続的に存在する(つまり、均衡
において企業/財バラエティが無限に存在する)状況を考えているが、その準備段階として、有限の企業/
財バラエティ数の下での寡占市場均衡を考察したい7。
2.1 寡占均衡
個々の企業がそれぞれ対称に差別化された消費財バラエティを供給する産業があるとする。財のバラエ
ティは潜在的には無限にあり、各バラエティの生産には規模の経済が働くため、異なる企業が同じバラエ
ティを生産することは無いとする。
2.1.1 消費者行動
市場において n種類の対称に差別化された消費財バラエティが存在し、代表的消費者の効用関数は以下
のCES関数によって表されるとする。
U(x) =
ÃnXi=1
x(i)ρ
!1/ρ, 0 < ρ < 1 (1)
ただし、x ≡ (x(1), . . . , x(n))。ここで任意の2つのバラエティ間の (一定の)代替の弾力性は
σ =1
1− ρ(2)
限界代替率は
MRSij =dx(j)
dx(i)
¯u=const.
= −µx(i)
x(j)
¶1−ρ(3)
で表される。図 3は、各2バラエティij間の無差別曲線の形状を異なる ρ(または σ)について描いている。
観察 1 (対称CES効用関数の性質) (i)無差別曲線は x(i) = x(j)に関して (45度線に対して )対称で
ある。
(ii)0 < ρ < 1(1 < σ <∞)において各バラエティは必須ではない。つまり x(i) = 0であっても x(j) > 0
ならば u > 0。
(iii)無差別曲線は各軸に漸近しながら交わる。つまり、バラエティiの価格が有限(p(i) <∞)である限
り正の需要があることを意味する。
効用関数(1)が多様性嗜好を表現していることは以下のように確認できる。消費者が差別化財の総消費
量をX として、各バラエティを均等に消費するとすると、効用水準は
U =
(n
µX
n
¶ρ)1/ρ= n
1−ρρ X
= n1
σ−1X
と表せる。σ > 1であるから、消費総量は一定であっても、効用水準 U はバラエティ数 nの増加に伴い上
昇する。
7本節の内容は Beath and Katsoulacos[1, Sec.3] を基にしている。
3
図 3: CES効用関数の無差別曲線(0 < ρ < 1)
代表的個人の所得を Y とすると、効用 大化問題は以下で表される。
maxx≥0
U(x) s.t.Pn
i=1p(i)x(i) = Y (4)
適1階条件より µU
x(i)
¶1/σ= λp(i) (5)Pn
i=1p(i)x(i) = Y (6)
ただし、λはラグランジュ乗数。式(5)を x(i)について解くと
x(i) =U
λσp(i)σ(7)
を得、これを効用関数定義(1)に代入して λについて解けば
λ =¡Pn
i=1p(i)1−σ¢− 1
1−σ (8)
を得る。λが所得の限界効用であることにより、1/λは財バラエティの合成財- composite goodÃnXi=1
x(i)ρ
!1/ρ(9)
を1単位購入するのに必要な費用である。今
P ≡ 1/λ (10)
と定義すれば
P =¡Pn
i=1p(i)1−σ¢ 1
1−σ (11)
4
は財バラエティ(9)の価格指数- price index-を表す。効用関数が(1)のように、この合成財の消費の
みで構成される場合は、P は生計費指数- cost-of-living index-でもある。つまり限界的に効用を1単位
上昇させるために必要な費用であり、間接効用は
U =Y
P(12)
により表される。式(10)と(12)を(7)に代入すれば、バラエティiの需要関数
x(i) =Y
p(i)σP 1−σ(13)
を得る。式(13)の両辺対数をとった
lnx(i) = lnY − σ ln p(i)− (1− σ) lnP (14)
および、式(11)より得られる
∂ lnP
∂ ln p(i)=
∂P
∂p(i)
p(i)
P=
µp(i)
P
¶1−σ(15)
を用いれば、各バラエティの価格弾力性 ηii、および交叉価格弾力性 ηij が
ηii ≡∂ lnx(i)
∂ ln p(i)= −σ − (1− σ)
µp(i)
P
¶1−σ(16)
ηij ≡∂ lnx(i)
∂ ln p(j)= −(1− σ)
µp(i)
P
¶1−σ(17)
のように求められる。対称均衡においては任意の i = 1, . . . , nについて
p(i) = p (18)
x(i) = x (19)
さらに、(18)を(11)に代入して
P = n1
1−σ p (20)
であるから、(13)(16)(17)は
x =Y
np(21)
ηii = −σ −1− σ
n(22)
ηij = −1− σ
n(23)
となる。従って、n→∞の極限において
x→ 0 (24)
ηii → −σ (25)
ηij → 0 (26)
となる。
2.1.2 企業の行動
任意のバラエティについて、生産技術は同じで、各バラエティの生産費用 C は
C = cq + F (27)
5
にて与えられるとする。ただし、xは産出量、F は固定費用、cは限界費用である。従って、利潤 π は
π = (p− c)q − F (28)
であり、利潤 大化1階条件
∂π
∂p= q + (p− c)∂q
∂p= 0 (29)
= p+ (p− c)pq
∂q
∂p= 0 (30)
より
p =η
η − 1c (31)
を得る。ただし η は需要の価格弾力性である。
η ≡ pq
∂q
∂p(32)
(22)を(31)に代入して
p =c {σ(n− 1) + 1}(σ − 1)(n− 1)
= cσ + 1/(n− 1)
σ − 1 (33)
を得る。また、これを(21)に代入して
q =Y (σ − 1)(n− 1)c {σ(n− 1) + 1} (34)
を得る。自由参入 (ゼロ利潤)の下では(28)より
(p− c)q = F (35)
が成立するから、(33)と(34)を代入して nについて解くと、ゼロ利潤下での均衡企業 (バラエティ)数
n∗ = 1 +1
σ
µY
F− 1
¶(36)
を得る。これを(33)および(34)に代入すれば、均衡における価格および産出量として以下が得られる。
p∗ =σc
(σ − 1)(1− F/Y ) (37)
q∗ =(σ − 1)F (1− F/Y )c {σ(n− 1) + 1} (38)
2.2 独占的競争:消費財の多様性
D ixit-Stiglitzモデルに基づく独占的競争モデルでは、財バラエティは、市場にて供給される場合は、その
種類は「常に」無限であるとして、財空間は連続と仮定している。市場におけるバラエティの規模を n ∈ R+とし、バラエティ名を i ∈ [0, n]とし(各バラエティは財空間において測度ゼロ)、各バラエティiの消費量
(密度)を x(i)とすると、代表的消費者の効用関数は(1)に代わり
U =
µZ n
0
x(i)ρdi
¶1/ρ, 0 < ρ < 1 (39)
6
と表される。また、予算制約を Z n
0
p(i)x(i)di = Y (40)
と書き直せば、効用 大化問題は(2)と同様である。ただし、各企業は産業全体の中で非常に小さいため
(財空間において測度ゼロであるから)、式(15)において ∂P/∂pi = 0であり、各企業の価格付け行動は価
格指数に影響を持たず∂ lnP
∂ ln pi= 0 (41)
となる。従って(16)(17)より
ηii = −σ (42)
ηij = 0 (43)
式(42)を利潤 大化条件(31)に代入すれば、任意のバラエティにつき均衡価格
p∗ =cσ
σ − 1 =c
ρ(44)
を得る。これをゼロ利潤条件(35)に代入して産出量 xについて解けば、任意のバラエティの均衡産出量
x∗ =σ − 1c
F (45)
を得る。従って、固定費用が大きいほど、また代替性が高いほど(つまり価格マークアップ率が低いほど)、
差別化財の生産企業は採算を合わせるためにより多く生産しなければならない。市場清算条件
npx = Y (46)
に(44)(45)を代入して nについて解けば、均衡バラエティ数 (規模)
n∗ =Y
σF(47)
を得る。(20)に(44)(47)を代入して、均衡の価格指数および効用水準
P ∗ =c
ρ
µY
σF
¶ 11−σ
(48)
を得る。
生産要素を労働のみとして、モデルを閉じ も単純な一般均衡モデルを作ることができる。総労働者人口
が Lであるとし、その全ては差別化財の生産に投入されるとする。つまり、各企業の総労働投入量を `し
て(27)を
` = cq + F (49)
と書き換える。さらに賃金率を w = 1とすれば
Y = L (50)
である。労働市場の均衡条件は
L = n(cx+ F ) (51)
であるから、これを満たす各企業の産出量は
x =1
c
µL
n− F
¶(52)
7
と表せる。これを用いれば、営業利潤 (p− c)xは、参入企業数 (バラエティ数)の関数として
bπ(n) ≡ 1
σ − 1
µL
n− F
¶(53)
と表せる。図 4に示すように、営業利潤は企業数の減少関数である。これは、所与の市場規模 Lの下で、企
業数の増加は、とりもなおさず各企業のシェアの減少を意味するからである。均衡 (図中点 E)においては
ゼロ利潤が達成され bπ(n) = F となり
n∗ =L
σF(54)
となる。
図 4: 自由参入と均衡企業数
2.3 独占的競争:中間財の多様性
第 2.2節のモデルを読み替えて、 終財の生産が、多様な特化した生産プロセスを経て、または多様な中
間財を組み立てることにより可能となると解釈することもできる。つまり、x(i)を差別化された第 i中間財
の投入量(密度)、X を 終財の産出量として
X =
µZ n
0
x(i)ρdi
¶1/ρ, 0 < ρ < 1 (55)
と表す。所与の中間財バラエティの下では、 終財の生産は収穫一定である。各中間財バラエティは同様の
技術を用いて、労働のみを生産要素として生産されるとし、生産費用が(49)で与えられるならば、均衡
における中間財価格、価格指数、バラエティ数、産出量は、(44)(20)(54)(45)により得られる。 終
財の産出量は
X∗ = (n∗)σ
σ−1x∗ (56)
8
であるから、一人当たりの 終財消費量は
X∗
L=1
L
µL
σF
¶ σσ−1 σ − 1
cF
=1
cσ
σσ−1 (σ − 1)
µL
F
¶ 1σ−1
(57)
となる。
3 独占的競争モデルの応用
本節では、Dixit-Stiglitz型独占的競争モデルの応用例を紹介する。第 3.1・3.3~3.5節は松山 [12]、第 3.2
節は Fujita, Krugman and Venables[5, Ch.4]に基づいている。
3.1 経済統合- economic integration
第 2.2節のモデルを用いて経済統合の効果についての示唆を得られる8。経済が2地域から構成されると
想定する。各地域に関する変数は 1, 2の添字により区別する。両経済とも同一の嗜好と技術を持っている
ものとするが、労働供給量 Lのみが異なるとする。
これらの2つの自給自足経済の統合を考えよう。財は輸送費ゼロで自由に貿易できるが、労働は地域間を
移動できないとすると、(54)より、各地域には
nr =LrσF
, r = 1, 2 (58)
種類の消費財バラエティが生産されていることになる。これらの地域が統合されると消費者 (=労働者)の
効用水準は、(12)・(48)および(50)より µL1 + L2σF
¶ 1σ−1
(59)
となる。両地域が経済統合して消費財の貿易が可能になると、両地域で購入可能な財の多様性が増し、その
ためどちらの地域も経済統合から利益を得る。貿易開始前には、大きな経済の方が小さな経済よりも多様な
財の消費が可能であり効用水準は高かったが、一旦貿易が始まれば効用水準は両国で同一となりる。特に、
多様性の増加率は小国の方が大きく、従って貿易の利益も小国の方が大きい9。
3.2 自地域/国市場効果- home market effect
第 2.2節のモデルを用いて、第 1節で紹介した国際および地域経済における産業集積の正のフィードバッ
ク・メカニズムの基礎となる自地域/国市場規模効果- home market effect-を説明することができる。
そのために、経済の立地空間は2地域(1と2)により構成されており、2地域間で財の取引は可能であ
るが輸送費用が伴うとする。ここでは輸送セクターを明示的に考慮せずに輸送費用を導入する方法として、
Samuelson[9]による氷解型輸送費用- iceberg transport cost-を採用する。つまり、財の輸送に伴い、財
の一部が(溶けて)消失すると仮定する。具体的には、1単位の消費財バラエティを地域 rから他方の地域
sに輸送すると、そのうち 1/T 単位のみ地域 sに到着し(T > 1)、残りの (1− 1/T )単位は輸送中に消失
するとする。ただし、同一地域内の輸送費用はゼロとする。また、議論を単純化するため農産品の輸送費は
ゼロとする。輸送費は全額消費者による負担であるとする。
8第 2.3 節のモデルを用いても同様の結果を得られる(松山 [12, §3] 参照)。9経済統合の前後において、各国が生産するバラエティ数に変化がないのは、いわゆる競争促進効果- pro-competitive effect -
が存在しない (つまり価格が企業数に依存しない)Dixit-Stigliz モデル特有の結果である。競争促進効果がある場合の結果については第 4.5 節を参照せよ。
9
当面、各地域にて生産される消費財バラエティは同一な技術により生産され、同一の価格付けがなされて
いるとする。今、地域 rで供給されるバラエティの f.o.b.価格(出荷地価格)を pr とすると、地域 sでの
消費地価格- delivered price-は
prs = prT (60)
となる。つまり、地域 sにて財を1単位消費するためには、地域 r より T > 1単位出荷する必要がある。
従って、消費財の価格指数 P は企業の地域間分布に依存することになる。地域 rにて供給される消費財バ
ラエティ数を nr とすると、地域 sにおける消費財価格指数 Ps は
Ps =©nr(prT )
1−σ + nsp1−σs
ª 11−σ , s = 1, 2 (61)
従って、地域 rで生産される消費財バラエティの地域 sにおける需要 xrs は、(13)より
xrs =Ys
(prT )1−σP1−σs
(62)
と表される。ただし、Ys は地域 sの総所得である。氷解型輸送費の下では、地域 sにおいて(62)の消費
量を実現するために xrsT 単位の生産が必要になるから、地域 rにおける個々の企業の産出量は
qr =Yr
pσrP1−σr
+YsT
(prT )σP1−σs
(63)
となる。
各消費財バラエティの生産には労働のみを用い(49)により表されるとする。地域 rにおける賃金率を
wr とすると、利潤 大化する f.o.b.価格は(44)より
pr =c
ρwr (64)
を得る。ゼロ利潤条件(35)より、各バラエティの均衡産出量は
q∗ = Fσ − 1c
(65)
均衡労働投入量は
l∗ = cq∗ + F = Fσ (66)
従って、地域 rにおける製造業労働者数を Lr とすると地域 rで供給されるバラエティ数は
nr =Lrl∗=LrFσ
(67)
これらの下で、消費財の価格指数は
Ps = (Fσ)1
σ−1c
ρ
©Lr(wrT )
1−σ + Lsw1−σs
ª 11−σ (68)
と表される。
ゼロ利潤の下での消費財バラエティの産出量は q∗ で与えられるため、(63)より
q∗ =Yr
pσrP1−σr
+YsT
(prT )σP1−σs
(69)
が成立している。これを、(64)を用いて wr について解くと、ゼロ利潤賃金式
wr =σ − 1σc
µ1
q∗
¶1/σ ½Yr
P 1−σr
+YsT
1−σ
P 1−σs
¾1/σ(70)
10
を得る。これは、企業が地域 rにて支払える (非正利潤の下での) 大賃金である。また、地域 rにおける
製造業労働者の実質賃金 ωr は
ωr =wrP
(71)
により与えられる。
今、2地域が対称な場合、つまり
P1 = P2 = P
L1 = L2 = L
w1 = w2 = w
Y1 = Y2 = Y
(72)
が成立する場合を考えると、これらを(68)に代入して整理すれば
1 + T 1−σ = Fσ³ρc
´1−σ wY
µP
w
¶1−σ(73)
を得る。また、(68)をこの「対称均衡」の近傍で L,w, P に関して線形化すると(dP = dP1 = −dP2 など
とする)
(1− σ)dP
P=
1
Fσ
³ρc
´σ−1 Yw
µP
w
¶σ−1(1− T 1−σ)
½dL
L+ (1− σ)
dw
w
¾(73)を代入して
(1− σ)dP
P= Z
½dL
L+ (1− σ)
dw
w
¾(74)
ただし
Z ≡ 1− T1−σ
1 + T 1−σ(75)
Z は2国間の貿易費用指数と解釈でき
0 ≤ Z ≤ 1 (76)
を満たす。交易費用が高いほど(T が小さいほど)、Z は小さい値をとる。もし貿易に輸送費が全くかから
なければ(T = 1)Z = 1、貿易が不可能であれば(T = 0)Z = 0となる。
式(74)より、製造業の立地が価格指数に及ぼす効果を確認できる。今、製造業における労働供給が完全
に弾力的であれば(dw = 0ならば)、1 < σ、および T ∈ (0, 1)のとき Z > 0だから、製造業企業数の増加
(すなわち製造業における雇用の増加 dL/L > 0)は、価格指数の下落をもたらす(dP/P < 0)。これは、
消費財バラエティが多様な国/地域ほど価格指数は低く、所与の名目所得の下でより高い効用水準を得られ
ることを意味する。これを価格指数効果- price index effect-と呼ぶ。
次に、需要の地域間分布と生産の地域間分布の関係を考察する。(70)を対称均衡の近傍で線形化すると
σdw
w=
1
Fσ
³ρc
´σ−1 Yw
µP
w
¶σ−1(1− T 1−σ)
½dY
Y+ (σ − 1)dP
P
¾(77)
さらに(73)を代入すれば
σdw
w= Z
½dY
Y+ (σ − 1)dP
P
¾(78)
となり、(77)から dP/P を消去して整理すればn σZ+ Z(1− σ)
o dww+ Z
dL
L=dY
Y(79)
を得る。
今、製造業における労働供給が完全に弾力的であれば(dw = 0ならば)、T > 0の下で Z < 1だから、消
費財需要の1%の増加(dY/Y)に対し、製造業企業数の増加(すなわち製造業雇用者数の増加 dL/L)は
11
1/Z%であり1%を上回る値となる。従って、他の条件が同じであれば、自地域市場の大きい地域は、それ以
上に大きな製造業を擁していることを意味する。これを自国/地域市場規模効果- home market effect-と
呼ぶ。
この価格指数効果と自地域市場効果は、第 1節において紹介された集積形成における正のフィードバッ
ク効果に対応する。すなわち、製造業企業の特定の地域への集積は、その地域での財の多様性を増大させ、
価格指数効果を通じて実質賃金を増大させる。それにより起こる消費者 (=労働者)の集積はその地域の需
要を増大し、さらなる製造業企業の集積を誘発する。自地域市場効果はこの累積的な消費者とバラエティ供
給企業の集積プロセスを意味する。
もちろん、労働供給が完全に弾力的出ない場合は、必ずしも集積の正のフィードバック・メカニズムは働
かない。賃金の反応を具体的にモデル化することにより、適当な集積の不経済を導入し、集積の経済と不経
済の相互作用を明示的に定式化することで、例えば、国・地域における産業集積・特化パターンの分析等が
可能になる。
3.3 経済発展の罠- economic development trap
本節では、第 2.3節のモデルを拡張して「経済発展の罠」として知られる、経済の産業構造に関する複数
均衡の存在について考察する。
ここでは、単一の消費財が、以下のような規模に関して収穫一定の生産関数に基づいて生産されるとする。
C =nX
ε−1ε +N
ε−1ε
o εε−1
(80)
ただし、X は(??)で与えられる中間財の合成財、N は労働投入量である。つまり、労働 N と中間財 X
は代替的であり、労働賃金率を 1とすると、 適における相対的な需要は、費用 小化の1階条件より
Φ(P ) ≡ NX= P ε (81)
で与えられ P の増加関数である。労働市場の均衡条件は(51)の代わりに
n(cx+ F ) +N = L (82)
となる。(81)は、均衡の対称性より [(20)(56)を代入して]
N = P εnσ
σ−1x
と表せ、これを(82)に代入して xについて解けば
x =L− nF
cn+ P εnσ
σ−1(83)
を得る。さらに、個々の中間財企業の営業利潤 bπ ≡ (p− c)xは、差別化財の均衡価格の対象性(20)・利潤
大化価格(44)、および(81)・(83)を用いて整理すれば
bπ(n) = c
σ − 1L− nF
cn+ Φ³n
11−σ p
´n
σσ−1
(84)
=c
σ − 1L− nF
cn+³n
11−σ cσ
σ−1
´εn
σσ−1
=1
σ − 1L− nFn+ kn
σ−εσ−1
(85)
と表せる。
k ≡ cε−1µ
σ
σ − 1
¶ε
> 0
12
営業利益 bπ(n)はε > σ (86)
の下で図 5のように釣鐘型になる10。従って、経済には3つの均衡 S0, SM , SH が有りうる。S0 は、経済が
未発達で労働のみを用いて 終財を生産している状態、SH は中間財を多用した生産技術を用いた高い水準
の均衡である。SM はその中間にある不安定な均衡で、その右側の領域は高い水準の均衡へ、左は低い水準
の均衡へと引き寄せられる閾値- threshold-となる。
図 5: 複数均衡と開発の罠
3.4 幼稚産業保護
本節では、「小国開放経済- small open economy」モデルを用いて経済発展の罠のメカニズムを再考す
る11。今、貿易可能な2つの消費財 Aと B があり、消費者の効用関数は
CαAC
1−αB , 0 < α < 1 (87)
で与えられるとする。両部門は競争的であり、財 A,Bの生産関数はそれぞれX とN であるとする。財 A
の価格を P、財 B の価格を1とすると、代表的消費者の効用 大化問題の1階条件より、
α
1− α
N
X= P
従って、N の相対需要は
Φ(P ) ≡ NX=
µ1
α− 1
¶P (88)
10どちらの財も不可欠でない ε > 1 の場合でも、σ ≥ ε であれば、営業利益 π は n の減少関数となり均衡は一つになる。11本節は松山 [12, pp.126-127] に基づく。
13
で与えられる。従って、(88)を(84)に代入して、中間財企業の営業利潤は
bπ(n) = c
σ − 1L− nF
cn+ (1/α− 1)n1/(1−σ) cσσ−1n
σ/(σ−1)
=1
σ − 11
1 + (1/α− 1) σσ−1
(L/n− F )
∴ bπ(n) = α
σ − α
½L
n− F
¾(89)
となり、nの単調減少関数となる(図 6点線)。従って、ゼロ利潤の下(bπ(n) = F)では
n =αL
σF(90)
が成り立つ。
図 6: 幼稚産業保護と開発の罠
さて、ここでこの経済が国際貿易を開始し、財 A,B 間の相対価格が外生的に与えられるとする。相
対価格を正の任意値として与えても以下の議論の一般性を失わないため、相対価格を1とおく。従って、
P = n1
1−σ p∗ < 1、つまり n > (p∗)σ−1 ならば、この経済は Aの生産に特化し、n < (p∗)σ−1 ならばBの生
産に特化することになる。この経済の総労働者数を Lとすると、Aに特化するときのバラエティ数は(54)
により与えられる:
n =L
σF
また労働市場の均衡条件(51)
L = n(cx+ F )
が成り立ち、これを用いれば営業利益は(53)
bπ(n) = 1
σ − 1
½L
n− F
¾で表される(図 6の実線)。また、B に特化するとき n = 0であり、閾値は n = (p∗)σ−1 =
³cσσ−1
´σ−1で
ある。
14
このことは、αL/σF > (p∗)σ−1 の条件を満たせば(例えば、Lが十分大きければ)、一定期間鎖国を行
い、中間財産業を育成することにより、経済の開放後に経済の罠(n = 0)を回避することが可能であるこ
とを意味している。
3.5 持続的成長
本節では、経済成長や経済発展など動学的はトピックにおける独占的競争モデルの応用として、持続的な
経済成長を説明した内生的成長理論への応用を紹介する12。前節までの静学モデルを用いても「経済発展の
罠」など経済成長・発展に関する一定の知見は得られるが、これらのモデルでは経済成長は 終的には止
まってしまう。それは、財バラエティの多様性は所与の資源の存在量により制約されるからである。つま
り、営業利潤 bπ(n)(式(53))は nの減少関数であり、固定費用 F は一定であるから、財バラエティの拡
大(およびそれに伴う経済成長)は、企業数が bπ(n) = F となる n = L/σF に達した時点で止まるからで
ある。従って、持続的な成長を説明するためには、財バラエティの多様化に伴って固定費用も減少する必要
がある。そのような状況をモデル化した例として、Romer[8]やGrossman and Helpman[6, Ch.3]は、財バ
ラエティの多様性の拡大に伴う、新バラエティ開発の学習効果や知識のスピルオーバーの存在を仮定した。
エッセンスとしては、各バラエティの生産に伴う固定労働投入量は F/nλ と仮定され (λは正定数)、市場に
存在する財のバラエティが多様化するほど減少する。第 2.3節のモデルを用いれば、労働市場の均衡条件は
L = n
µcx+
F
nλ
¶(91)
のようになる。この条件の下で、営業利潤(53)を書き直せば、企業の新規参入条件は
bπ(n) = 1
σ − 1
µL
n− F
nλ
¶≥ F
nλ(92)
と表されL
σF≥ n1−λ (93)
が成立する限りにおいて企業の参入は続く。従って、学習効果・スピルオーバー効果が十分大きければ(λ
が十分大きければ)、持続的成長が可能となる。特に、新規参入に伴う労働の生産性が既存の企業数に比例
して増大するならば(λ = 1)、L > σF の下で(93)は常に成立し企業の新規参入の誘因は常に存在する。
また、学習効果や知識の波及効果が非常に大きく λ > 1であれば(図 7参照)経済発展の罠が発生する可能
性が生まれるが、この場合でも、企業数が一旦閾値を超えれば成長が止まることは無い。
4 その他の独占的競争モデル
4.1 Vives/Ottaviano-Tabuchi-Thisseモデル
本節では、準線形効用関数を用いた Vives[10]/Ottaviano, Tabuchi and Thisse[7]による独占的競争モデ
ルを紹介する13。このモデルでは消費財として合成財と差別化財の2種類があり、効用関数は以下で与えら
れる。
U(x0;x(i), i ∈ [0,N ]) = α
Z n
0
x(i)di− β − γ
2
Z n
0
x(i)2di− γ
2
½Z n
0
x(i)di
¾2+ x0 (94)
ここで x0 は合成財の、q(i)は差別化財 i ∈ [0, n]の消費量である。パラメタは α,β > γ > 0のように仮定
することにより、αが差別化財の消費性向、β > γ > 0であることが消費者の多様性嗜好を表現している。
多様性嗜好について以下の方法で確かめてみよう。いま個々の消費者が総量 nxだけの差別化財を消費して
12本節は松山 [12, pp.129-130] に基づいている。13同形の効用関数による独占的競争の定式化は Vives[10] が先に行っている。Ottaviano, Tabuchi and Thisse[7]は、これを輸送
費用を含む形で一般均衡モデルへ拡張している。本節の内容は、比較的読みやすい Ottaviano, Tabuchi and Thisseに基づいている。
15
図 7: 知識スピルオーバー下での経済成長と経済発展の罠
いるとし、消費は財 i ∈ [0, s]に対して一様で、i ∈ (s, n]に対してゼロであるとする (図 8参照)。つまり各
財 i ∈ [0, s]の消費量 (密度)は nx/sである。この消費パターンの下での効用水準は、(94)により
u = α
Z s
0
nx
sdi− β − γ
2
Z s
0
³nxs
´2di− γ
2
½Z s
0
³nxs
´di
¾2+ x0
= αnx− β − γ
2sn2x2 − γ
2n2x2 + x0 (95)
を得る。β > γ である限り、式 (95)の効用水準は sに関して強い意味の増加関数であり、s = nで 大値
をとる。γ は異なる差別化財の間の代替性を表し、γ 値が大きいほど差別化の程度は低く、γ = β のとき代
替性は完全であり、式(94)は差別化財の総消費量R n0x(i)diの2次関数となり、このときこれらの財は差
別化財ではなく一様財である。
図 8: Vives/OTTモデルにおける多様性嗜好
16
4.2 消費者の行動
個々の消費者は1単位の労働と x0 単位の合成財を付与されていると仮定されており、以下の予算制約に
直面している。 Z n
0
p(i)x(i)di+ x0 = y + x0 (96)
ここで、yは賃金収入である。p(i)は各バラエティiの価格であり、合成財の価格は1とする。付与される合
成財の量 x0 は十分大きく、均衡における各消費者の合成財消費量は正であると仮定し、内点解に注目する。
このことは、差別化財の消費が常に「至福点-bliss point」で行われていることを意味するため、所得 y が
増加しても個々のバラエティの消費量は増加せず、つまり需要の所得効果はこのモデルには存在しない14。
式(96)を x0 について解き(94)に代入して、制約なしの効用 大化の1階条件を求めると、各バラエ
ティiについて ∂u/∂x(i) = 0より
α− (β − γ)x(i)− γ
½Z n
0
x(j)dj
¾= p(i) (97)
を得る。全てのバラエティi ∈ [0, n]について片々集計すれば
αn− (β − γ)X − γnX = P (98)
ただし
X ≡Z n
0
x(i)di (99)
P ≡Z n
0
p(i)di (100)
式(98)をX について解けば
X =αn− P
β + (n− 1)γ (101)
これを(97)に代入して x(i)について解けば
x(i) =α
β + (n− 1)γ −1
β + (n− 1)γ p(i) +γ
β
1
β + (n− 1)γ
Z n
0
{p(j)− p(i)} dj (102)
= a− (b+ cn)p(i) + cP (103)
ただし、
a ≡ α
β + (n− 1)γ (104)
b ≡ 1
β + (n− 1)γ (105)
c ≡ γ
β − γ
1
β + (n− 1)γ (106)
式(103)を(94)に代入すれば間接効用関数が
U =a2n
2b− a
Z n
0
p(i)di+b+ cn
2
Z n
0
p(i)2di− c2
½Z n
0
p(i)di
¾2+ y + x0 (107)
と表される。
14ミクロ講義前半の第4.15.2 節参照。
17
4.3 企業の行動
合成財は付与されるほかは生産されないとする15。差別化財の各バラエティの生産には、産出量によらず
固定労働投入量 φが必要であるとする。従って、総労働量を Lとすると、企業数=バラエティ数は
n =L
φ(108)
と定まる。バラエティiへの需要関数(103)を用いて、企業の利潤は
π = p(i) {a− (b+ cn)p(i) + cP}L− φw (109)
と表せる。利潤 大化の1階条件
∂π
∂p(i)= 0⇔ a− (b+ cn)p(i) + cP − (b+ cn)p(i) = 0 (110)
を p(i)について解き、各バラエティが対称であることから、利潤 大化価格は
p∗ =a
2b+ cn(111)
=a
2b+ cL/φ∵ (108) (112)
となる。ここで利潤 大化価格は企業数に関する減少関数となっていることに注意せよ。これは「競争促進
効果- pro-competitive effect」と呼ばれ、Dixit-Stiglitzモデルの場合と異なり、他企業との競争は、市場
シェアの縮小にのみならず、価格の下落にも現れている。
4.4 均衡
式(103)より
x∗ = a− (b+ cn)p∗ + cP ∗
= a− (b+ 2cn)p∗ ∵ P ∗ = np∗
= a
µ1− b+ 2cn
2b+ cn
¶∵ (111)
= ab− cn2b+ cn
x∗ = ab− cL/φ2b+ cL/φ
∵ (108) (113)
(112)(113)を(109)に代入して、ゼロ利潤条件を用いれば、均衡賃金率
w∗ =L
φp∗x∗
=L
φ(b− cL/φ)
µa
2b+ cL/φ
¶2を得る。
15OTT 論文においては、合成財は、各労働者への付与分以外に、(合成財生産に特化した) 労働力を投入してCRS技術で生産されるとしており。これは、彼らのモデルの応用として、経済集積を説明する際に重要となる仮定となるが、ここでは特に必要としないので単純化した。
18
4.5 Behrens-Murataモデル
Behrens and Murata[2]は、所得効果と競争促進効果の両方を持つ独占的競争の一般均衡モデルを提案し
た。効用関数は以下のように与えられる。
U =
Z n
0
nk − κe−αx(i)
odi (114)
ただし、α > 0、k ≥ κ > 0とする。従って
u(x) ≡ k − κe−αx (115)
と表すと
u(0) = k − κ ≥ 0u0 > 0
u00 < 0
⎫⎪⎬⎪⎭ (116)
となり、u(x)は x ≥ 0において非負値をとる凹関数である。効用関数(114)が多様性嗜好を表現している
ことを以下のように確認できる。各消費者が各バラエティを総量X ≡ nxとして均等に消費するとすると
効用水準は
U = n³k − κe−α
Xn
´と表され、効用水準はバラエティ数の増加に伴い上昇する:16
∂U
∂n= k − κe−α
Xn
µ1 + α
X
n
¶≥ 0 (117)
4.6 消費者の行動
予算制約 Z n
0
p(i)x(i)di = Y (118)
の下で効用 大化の1階条件
u0(x(i)) = u0(x(j))p(i)
p(j)
より
x(i) = x(j)− 1
αln
µp(i)
p(j)
¶(119)
を得る。(119)の両辺に p(j)をかけ、j について積分し、予算制約(118)を用て整理すれば
x(i)P =
Z n
0
p(j)x(j)dj − Pα
Z n
0
½p(j)
Pln
µp(i)
p(j)
¶¾dj
x(i) =Y
P− 1
α
Z n
0
½p(j)
Pln
µp(i)/P
p(j)/P
¶¾dj
=Y
P− 1
α
Z n
0
p(j)
P
½ln
µp(i)
P
¶− ln
µp(j)
P
¶¾dj
=Y
P− 1
α
½ln
µp(i)
P
¶Z n
0
p(j)
Pdj −
Z n
0
p(j)
Pln
µp(j)
P
¶dj
¾∴ x(i) = Y
P− 1
α
½ln
µp(i)
P
¶−Z n
0
p(j)
Pln
µp(j)
P
¶dj
¾(120)
を得る。
P ≡Z n
0
p(i)di (121)
16g(y) = k − κe−αy(1 + αy) とおくと、g(0) = k − κ ≥ 0 であり、かつ全ての y > 0 について g0(y) > 0 となる。
19
(120)より、各バラエティiの価格弾力性は
η(i) ≡ − p(i)x(i)
∂x(i)
∂p(i)=
1
αx(i)(122)
と表せ、需要量 x(i)について単調減少関数となっている。
4.7 企業の行動
企業は、労働のみを生産要素として各バラエティを生産するとし、産出量 qを達成するためには
` = mq + F (123)
だけの労働投入が必要であるとする。ただし、mは限界労働投入量であり、F は固定労働投入量である。消
費者数が Lのとき、企業の利潤は
π(i) = Lx(i)(p(i)−mw)− Fw (124)
と表され
∂π(i)
∂p(i)= 0⇔
− 1α
1
p(i){p(i)−mw}+ Y
P− 1
α
½ln
µp(i)
P
¶−Z n
0
p(j)
Pln
µp(j)
P
¶dj
¾= 0
P
p(i){p(i)−mw}+ P
½ln
µp(i)
P
¶−Z n
0
p(j)
Pln
µp(j)
P
¶dj
¾= αY
{p(i)−mw}Z n
0
p(j)
p(i)dj +
Z n
0
p(j) ln
µp(i)
P
¶dj −
Z n
0
p(j) ln
µp(j)
P
¶dj = αY
{p(i)−mw}Z n
0
p(j)
p(i)dj +
Z n
0
p(j) ln
µp(i)
p(j)
¶dj = αY (125)
均衡価格の対称性により p(i) = p(j)を(125)適用すると、利潤 大化価格として
p = mw +αY
n(126)
を得る。バラエティの均衡価格は企業数の減少関数となっており競争促進効果が現れている。さらに、企
業数 nが無限に向かって増加するに伴い、価格は限界費用に (1/nのオーダーで)収束する。式(126)を
(122)に適用すれば
η = 1 +mwn
αY(127)
を得る。個々のバラエティの需要の価格弾力性は、企業数の増加に伴い上昇し、企業数に伴って無限大に向
かう。
4.8 均衡
Y = wだから、均衡では任意のバラエティについて
q(i) =w
np(128)
が成立するため、これを(124)に代入して
π = w
½Lp−mwnp
− F¾
∵ (128)
∴ π = w
½αL
(α+mn)n− F
¾∵ (126) (129)
20
を得る。従って、利潤は企業数の増加に伴い 1/n2 のオーダーで減少する。競争促進効果が存在しないDixit-
Stigliz型効用関数の下では、(53)に見られるように利潤は企業数の増加に伴い 1/nのオーダーで減少する
ことに注意せよ。この違いは、均衡企業数 (バラエティ数)に影響する。ゼロ利潤条件より
n =
p4αmFL+ (αF )2 − αF
2mF> 0 (130)
となり、均衡企業数は人口の増加に伴い均衡企業数は√Lのオーダーでしか増加しない。一方、Dixit-Stiglitz
型効用関数の下では均衡企業数と人口規模は比例関係にあった(式(54)参照)。
この結果の具体的なインプリケーションとして、第 3.1節において考察した経済統合の問題を考えよう。
いま、同じ選好・生産技術、さらに同量の労働力を持つ2つの自給自足経済の経済統合を考える。選好が
Dixit-Stigliz型の効用関数(39)である場合、経済統合 (または自由貿易)により、財のバラエティは2倍と
なる上、各国の企業数は変化しない。一方、選好が Behrens-Murata型(114)である場合、経済統合に伴
い企業総数は自給自足の場合の2倍未満となる。つまり、競争促進効果を考慮した場合、経済統合は各国で
生産される財バラエティ数の減少 (企業の退出)を意味する。
参考文献
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21