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研究者は都市農村交流の持続性に如何にして貢献するか? 誌名 誌名 農村計画学会誌 = Journal of Rural Planning Association ISSN ISSN 09129731 巻/号 巻/号 381 掲載ページ 掲載ページ p. 27-32 発行年月 発行年月 2019年6月 農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センター Tsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research Council Secretariat

研究者は都市農村交流の持続性に如何にして貢献す …れるようになった。これに伴い,「たくみの里イノベー ションプロジェクト1い」

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Page 1: 研究者は都市農村交流の持続性に如何にして貢献す …れるようになった。これに伴い,「たくみの里イノベー ションプロジェクト1い」

研究者は都市農村交流の持続性に如何にして貢献するか?

誌名誌名 農村計画学会誌 = Journal of Rural Planning Association

ISSNISSN 09129731

巻/号巻/号 381

掲載ページ掲載ページ p. 27-32

発行年月発行年月 2019年6月

農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センターTsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research CouncilSecretariat

Page 2: 研究者は都市農村交流の持続性に如何にして貢献す …れるようになった。これに伴い,「たくみの里イノベー ションプロジェクト1い」

口特集論考口

研究者は都市農村交流の持続性に如何にして貢献するか?

一実践科学として農村計画学の研究に必要なこと一

How can Researchers Approach to the Sustainable Rural-urban Interchange Activities?:

Requirements for Rural Planning Researches as Practical Science

中島正裕*

Masahiro NAKAJIMA

はじめに

(1)本論考における問題意識と目的

筆者がまだポス ドクだった頃に.まちづくりの先進事

例と称される“とある地域"に調査で入った時の話であ

る。その地域のリーダーが,活動内容や成功の秘訣につ

いて一通り説明し終えると,最後に「ここの活動が成功

したのは,大学が閲わらなかったからだ」と言った。も

ちろん悪意はなかった。しかし,この言葉の真意をその

場で問う勇気もなく,当時,大学教員への道を志してい

た身としては何とも衝繋的な言葉であった。あれから

15年が経過した今日においても,地域リーダーの言葉

は筆者の記憶に印象深く残っている。それとともに,筆

者が大学教員と して‘‘研究と実践の乖離”という問題点

に着眼しつつ,実践科学として農村計画学の研究に必要

なことが何であるかを考える契機となった I)o

このような経験と問題意識に基づき,本稿では都市農

村交流に関する自らの研究と実践支援の変遷を踏まえな

がら, 3つの目的を設定した。まず“活性化とは?",‘‘本

質的課題とは?”という 2つの論点から都市農村交流の

持続性に係る課題について考える。次いで,課題解決に

向けて,実践的アプローチから研究成果を活かすための

取り組みを紹介する。最後に,実践科学として農村計画

学の研究に必要なことについて筆者の考えを述べたい。

(2)都市農村交流の変遷と対象事例の紹介

ここでは本題に入る前に,我が国における都市農村交

流の変遷と,本稿で事例として取り上げる群馬県みなか

み町新治地区「たくみの里」の状況を述べておく 。

90年代半ば以降生産主義から‘‘ポスト生産主義"

へと移行していく状況下において,農村地域では都市農

村交流による活性化が多様な形態で図られてきた。その

多くは,ウルグアイラウンド農業合意関連国内対策事業

などにより建設された交流施設を拠点に,農村空間での

経済活動及び人的交流を図るという点で共通している。

都市農村交流は導入期,展開期を経て,現在は新たな展

開を模索する過渡期へと推移している。実践現場に目を

向けてみると,担い手の高齢化や地域間競争の熾烈化,

さらにはインバウンド需要への対応など,都市農村交流

の持続性に係る様々な課題に直面している。

こうした状況の中,「たくみの里」は, 30年以上にわ

たり都市農村交流が実践されてきた先進地域固)である。

4つの集落にまたがるエリア(約 4kmりのなかに,美

しい農村景観を背景に野仏 (9つ)と「職人の家」と呼

ばれる伝統工芸体験ができる施設 (29軒)が点在して

いる。また,中心エリアには旧三国街道の宿場町として

栄えていた面影が残っている(図 l)。来訪者はこれら

を巡りながら住民との交流や郷土料理を楽しみ,五感を

通して農村の魅力を満喫している。

しかし, 2005年の広域合併(新治村,月夜野町水上町)

や人口減少など行政上の問題に加え,上述した都市農村

交流の持続性に係る課題が「たくみの里」でも問題視さ

固 1 旧三国街道宿場町の而影が残るメインストリート

*東京農工大学大学院農学研究院 Institute of Agriculture, Tokyo University of Agriculture and Technology

キーワード :1)都市農村交流. 2)持続性,3)実践科学

27

Page 3: 研究者は都市農村交流の持続性に如何にして貢献す …れるようになった。これに伴い,「たくみの里イノベー ションプロジェクト1い」

れるようになった。これに伴い,「たくみの里イノベー

ションプロジェクト 1い」 (2015年)が結成され,次なる

30年を見据えた将来ビジョンの検討が始まった。筆者

は博士課程 l年生 (1999年)から現在に至るまで 20年

にわたり,研究と実践支援を通して「たくみの里」に関

わってきた。その主な成果を時系列で整理した結果が表

1であるii3)。以下,本稿で述べる内容は,基本的には表

1に示す成果に基づくものである。

2 都市農村交流による“活性化’'とは?

大学での講義で,「たくみの里」を事例に都市農村交

表 l 「たくみの里」における研究と実践支援の主な成果

No. 年度 種類 表題

A 2001 学術論文2)都市農村交流活動に対する住民の評価に関

する研究(農村計画論文集,第 3集)

C 2002 博士論文3)都市農村交流活動による農村地域活性化の

評価に関する研究

来訪者の意識・行動からみた農村地域の観

D 2006 学術論文4)光資源の特性一都市農村交流による農村地

域活性化の計画づくりに関する研究 その

1-(農村生活研究.第 50巻.第 1号)

都市農村交流活動における観光資源の維持

管理に関する特性分析一都市農村交流活動

E 2008 学術論文5) による農村地域活性化の計画づくりに関す

る研究 その 2-(農村生活研究,第 52巻,

第 1号)

F 2013 報告書 谷地集落農家への営農実態調査

H 2013 報告書 土地利用からみたグリーンツーリズムの持

(卒業論文) 続性に関する研究

I 2014 報告書 留学生による「たくみの里」の満足度調査

J 2015 報告書 谷地集落農家への営農意向調査

都市農村交流の持続性からみたインバウン

K 2015 学会発表 ドツーリズムの可能性一群馬県みなかみ町

要旨 「たくみの里」を事例として一(農村計画学

会 2015年度春期大会学術研究発表会)

土地利用からみた都市農村交流事業の持続

p 2015 部会報6) 性に関する研究(農業農村整備政策研究. 1

巻)

グリーン・ツーリズムの持続的な推進に向

Q 2015 報告書 けた運営システムの再編に関する基礎的研

(卒業論文) 究一群馬県みなかみ町「たくみの里」を事

例として

T 2016 報告書 土地利用からみたグリーンツーリズムの持

(修士論文) 続性に関する計画論的研究一

V 2016 報告書 グリーンツーリズムと地域農業の一体的な

(卒業論文) 推進を支援する WebGISの構築

w 2016 学術論文7)グリーン・ツーリズムの持続的な運営に向

けた組織間関係の特性分析

グリーンツーリズムと地域農業の一体的な

学会発表推進を支援する WebGISの構築一群馬県み

X 2016 要旨

なかみ町「たくみの里」を事例として一(農

村計画学会 2017年度春期大会学術研究発表

会)

持続可能なグリーン・ツーリズムに向けた

Y 2017 報告書 空間管理活動の実施体制に関する研究一群

(修士論文) 馬県利根郡みなかみ町「たくみの里」を事

例として一

都市農村交流の実践地域における農地利用

z 2018 学会発表 変遷の分析一群馬県みなかみ町「たくみ

要旨81 の里」を事例として一(平成 30年度農業農

村工学会大会講演会)

28 農村計画学会誌 Vol.38, No. 1, 2019年6月

流による活性化の話をすると,学生から毎年,同じ質問

一誰にとって,阿の活性化ですか?ーを受ける。本質

を射抜いた質問だと思うが,この問いに対する答えは立

場により異なる。というのも,都市農村交流は行政や観

光関連事業者はもとより,生活を営む地域住民(農家,

非農家),そして余暇活動を目的とした来訪者といった

多様な主体により成り立つからである。ここでは,表 1

に記載の No.C ・ Dの研究成果に基づきながら,各々の

立場における“活性化”の意味を考えてみたい。

まずは,行政の実務担当者の立場から。多くの自治体

では国や県の補助事業を導入して都市農村交流施設を建

設しているため,年度ごとに状況報告書を提出しなくて

はならない。こうした事情もあり,都市農村交流施設の

経営状況や雇用者数直売所での農家の収入状況,そし

て地域への来訪者数(交流人口)など,数値で測りやす

い効果への期待が大きいのは想像に難くない。

次いで地域住民の立場から。ここでは「たくみの里」

内の住民を対象に筆者が実施したアンケート調査の結

果3)から考えてみたい。都市農村交流(たくみの里)に

対する住民の総合評価を規定している要因を分析してみ

た。すると, 3位が「収入の増加」, 2位が「地域への誇り・

愛着の向上」,そして 1位が「計画段階で自分達の意見

が反映された」であった。経済的効果よりも行政の対応

や都市住民との触れ合いによる“心"の満足度が,事業

への賛意に強く影響を与えていたのである。

最後に,来訪者についても筆者が実施したアンケート

調査の結果4)から考えてみたい。現地での余暇活動で何

に満足したかを尋ねてみた。単純集計の結果をみると,

来訪者の満足度は「職人の家」 (64%), 「集落景観」 (53

%),「野仏巡り」 (49%)が高かった。意外にも「住民

との交流」 (29%)はそれほど高くなかった。しかし,‘‘再

来の意思”のある来訪者に限定して満足度をみると,「集

落景観」 (83%)と「住民との交流」 (68%)は全体での

結果を大きく上回っていた。‘‘再来の意志”に強く影響

を与えていたのも“心”の満足度であった。

地方自治体の総合計画や地方版総合戦略などをみて

も,年度ごとの政策・事業評価は KPI(重要業績評価指標)

を用いることが多い。個別の評価項目ごとに基準値(現

状値)と達成目標値を設定して,その達成状況を経年的

に数値で評価することにより客観性は担保される。その

一方で地方版総合戦略の策定・評価などに携わってき

た経験のなかで抱く,筆者の懸念一大切な阿かを見落

としていないだろうかーは払拭されない。

ここで述べた「たくみの里」に対する事業評価の結果

は,各々の立場から活性化の意味を捉えることの重要性,

そして数値では測りにくい効果(“心”の満足度)にこ

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そ活性化の本質的意義があることを示唆している。

3 都市農村交流の持続性に係る本質的課題とは?

(1)“農業の問題”が‘‘観光の問題”に与える影響

「たくみの里」の創設から 30年が過ぎた2013年の2月

筆者が大学院生時代からお世話になっている農家 H氏

から一本の電話があった。

「ここ数年, (たくみの里エリア内の西個の)山際の辺

りから鹿地が荒れてきている。イノシシなんかの被害も

多くなっている。一度調べてもらえないだろうか?」

H氏からこのような要望を受け, 2013年 7月から 9

月にかけて,役場と地元農家の協力を得ながら筆者の研

究室の学生 2名が「たくみの里」の土地利用状況を一筆

ごと (125.6ha, 1638筆)に踏査した。その結果,「た<

みの里」エリア内の西部の山際のあたりには耕作放棄地

が発生しており既に林地化した状態もみられた 6)。そ

の後隔年での踏査調査と過去の航空写真の判読により

土地利用状況の変化をデータとして記録し,変化パター

ンを類型化iHIした(図 2)。それらの結果からは,耕作

放棄地は北西部の傾斜部から北東部の平地へと連続的に

拡大しつつあることが明らかとなった叫

しかし,“予想外’という点を加味すると,こうした

事実よりも驚いたことが他にあった。それは,「たくみ

の里」の中心エリアであり旧三国街道須川宿町の面影が

残るメインストリート(既出・図 1) のすぐ裏手にも草

本レベルではあるが,耕作放棄地がみられたことである

(図 2の二重丸の箇所)。その周辺農地は,サルによる農

作物への被害も多いとのことであった。ある農家の方か

らは“農産物ならまだしも,来訪者に何か危害を加えな

いか心配である”との声が聞かれた。こうした事実は過

疎・高齢化,それに伴う農業の担い手不足など“農業の

問題’が都市農村交流活動にも影響を与えて‘‘観光の問

,a ,,,n

- - - - 0 :放奮へ幕化('11)

図2 「た くみの里」の農地利用の変遷パターンの類型化

題”として顕在化していく可能性を示唆している。つま

り筆者にとっては,都市農村交流の持続性に資する課題

を検討するうえでの,本質的視点を見出すきっかけとな

った。

~2) 都市農村交流の魅力を創造する 3 つの要素

ここで改めて,都市農村交流の魅力を構造的に整理し

てみたい。地域の伝統文化や歴史,農業や集落活動(水

路の清掃や花植え活動など)が創造する景観などが来訪

者にとっての消費価値となる「農村空間の商品化」 ,)と

いう概念もあるように,都市農村交流において美しい農

村景観は大きな魅力であり前提条件となっている。そし

て,こうした魅力は,持続的な農業生産と恒常的な集落

活動が行われてこそ,創造されるものである(図 3)。

しかし,過疎・高齢化に端を発した様々な問題により,

その前提条件が崩壊する危機にある。これこそが,都市

農村交流の持続性に係る本質的課題であると筆者は考え

る。例えば,傾斜地にある圃場整備未実施の農地は,生

産面では相対的に価値は低いが,景観面では里山風景と

して来訪者からは高く評価されている。担い手がいない

場合こうした農地はやがて耕作放棄地となり景観的価

値も損なうことになる。しかし,このような農地の問題

を所有者が個人で解決していくには限界がある。

こうした状況を想定しながら,‘‘農業・集落活動あ

っての観光活動”という都市農村交流の魅力の階層性

(図 3) を保持していくための連携の重要性を農業と

観光双方の関係者が認識する必要がある。こうした認識

は,農業・農村面での課題(放棄地,空き家,集落行事

の衰退)と観光面での課題(メニューや特産品のマンネ

リ化来訪者数の減少など)を一体的に捉えて課題解決

を図ることにもつながり,ひいては未利用資源を活かし

た都市農村交流の新たな展開(余暇活動ニーズの多様化

への対応)への一歩になると考えられる。

しかしながら,「たくみの里」に関わるステークホル

ダー間の連携実態をみると,特に農業関係者と観光関係

者の間で弱い傾向にある エ 両者の連携を推進するため

美しい農村景観

持続的な 1恒常的な農業生産集落活動

図3 都市農村交流の魅力の階層性

研究者は都市農村交流の持続性に如何にして貢献するか? 29

Page 5: 研究者は都市農村交流の持続性に如何にして貢献す …れるようになった。これに伴い,「たくみの里イノベー ションプロジェクト1い」

には,具体的な目標として「都市農村交流と農地保全を

相乗的に推進するための土地利用計画の策定」を設定し,

その過程において農業関係者と観光関係者の間で議論を

重ねる「場」の設定が有効であると考える。土地改良長

期計画 (2016年)において地域政策と産業政策の相乗

的効果の発揮が謳われており,こうした取り組みは政策

的にも重要課題であるといえる。

4 実践的アプローチからの研究成果を活かす取り組み

(1) 2016年以降に始めた 2つの実践支援の活動

「都市農村交流と農地保全を相乗的に推進するための

土地利用計画」に向けて,筆者の研究室では意識啓発の

側面から様々な実践支援を行ってきた。

2016年には,「たくみの里」の土地利用状況の変遷

を「たくみの里」の各関係者が簡易に把握できるように

Web-GISの構築を試みた。図 4にそのイメージを示す。

システムを起動すると,カテゴリー別に「たくみの里」

事業と地域資源管理の一体的な推進の重要性に係る解説

文が表示される(例:農業面からみると圃場整備未実施

の農地は価値が低いが,ツーリズム面からみると景観上

の価値が高い)。解説文中の重要箇所をクリックすると

根拠となる情報(例:リピーターの景観評価が高い地点,

その地点周辺の農地管理状況など)が地図上に表示され,

都市農村交流と地域資源管理の一体的推進の必要性への

理解を促せるというものである。

さらに, 2018年には「たくみの里」におけるこれま

での研究成果や調査報告書を用いて, 3要素(農業活動,

地域活動,観光活動)に係る諸課題の関係性を「見える化』

した。そ して,「たくみの里」のス テークホルダーを対

象にワーク ショップを実施し, 3要素の連携の重要性に

ついての意識醸成を試みた。以下では,この 2018年の

取り組みの結果について説明する。

(2) 2018年の実践支援の活動

l)課題構造図の作成

. ≪‘ “̀パ鳩爪‘` い9‘”べ◆ ん・釘 •‘`- .~ .

三――図4 Web-GISのイメージ

30 農村計画学会誌 Vol.38, No. 1, 2019年6月

筆者と学生による, これまでの研究成果や調査報告

書など(既出・表 1)から.たくみの里の持続性に関す

る課題を 264個抽出した。各課題を整理(分離・統合)

した結果, 「農業』要素は 22個, 「観光』要素は 41個.

「集落活動」要素は 15個の課題に整理できた。そ して.

PCM (Project Cycle Management)手法を援用し,各

課題同士を因果関係 《原因》→ 《結果》で結んで構造化

し課題構造図を作成した(図 5)。図中の二重線の箇所

に示すとおり「《耕作放棄地の増加(農業)〉と《集落

活動の縮小(集落活動)〉を原因として《農村景観の悪化〉

が引き起こされ.《散策者数の減少(観光)》につながる」

という因果関係を基本軸として,他の各要素の課題を整

理した。

2)ワークショ ップの実施

①ワークショップの実施概要

ワークショップを実施 (2018年 11月15日)して.

課題構造図の精度と意識醸成の効果の検証を行った。「た

くみの里」の関係者を農業グループ.観光グループ,集

落活動グループに区分して対象者を設定じ;; 5).各グル

ープに対してワークショップを実施した。

ワークショ ップは, 3つの Stepで実施した。 Stepl

では,大学側からワークショップの趣旨説明と課題構造

図の内容説明を行なった。 Step2では.参加者が課題

構造図を構成する各課題を「0:現場の実情と合ってい

る」「 x:現場の実情と合っていない」「△ :判断できな

ぃ」の項目で評価し,各自がその根拠を述べた(図 6)。

さらに,課題間の関係についての修正作業では,妥当で

ないと思う因果関係や新たに加えるべき因果関係の有無

などを確認した。 Step3では,参加者が課題構造図の「見

える化』や各課題への評価など,一連の作業についての

感想を自由記述で回答してもらった。

②課題構造の精度の検証結果

課題構造の精度について.「o:現場の実情と合って

いる」の割合は,「農業』が96.7%.「観光』が92.0%,「集

落活動』が89.9%となり,各課題がおおよそ現場の実情

に合っていると判断された。

一方で, 「x:現場の実情に合っていない」という判

断は,「立場による現状認識の差異」と Iエリアによる

状況の差異』に依ることが分かった。

前者に関しては,例えば 《直売所の手数料が高い〉に

ついて,農業関係者からは賛同する意見がある一方で,

観光関係者からは「現在の手数料は標準的であり,光熱

費等を考慮すると妥当である」という ように立場により

意見に差異がみられた。

後者に関しては,例えば 《集落活動の縮小》という課

題に対して,「須川宿集落(宿楊景観エリア)に閲して

Page 6: 研究者は都市農村交流の持続性に如何にして貢献す …れるようになった。これに伴い,「たくみの里イノベー ションプロジェクト1い」

●-1 新たな耕作鮫棄地の発生

注)各課題の右上に記載されているアルファベットは,

表1のアルファベットと対応しており,出典元を意味する。

図 5 「たくみの里」の課題構造図

図 6 課題構造図の検証の様子 (腿業グループ)

いえは縮小はしていない。この課題は,山際 (農村景観

エリア)の集落ではないか?」という意見が聞かれるな

ど,課題の深刻度がエリアごとで異なることが分かった。

③ワークショップによる意識醸成効果の検証

ワークショップ参加者の感想のなかで,意識醸成とい

う点では「すべての問題がつながっており,みんな(農

業や観光)で解決 して行くことが出来るとわかりまし

た。」,「公社,役場(観光,農政地域づくりに関わる部署),

住民の方々,事業者の役割分担や連携内容がわかると課

題解決を進めやすい。」などの意見がみられた。

数式で例えるなら,「都市農村交流=観光活動 x農業

活動 x地域活動」と表現できる。すなわち,観光活動,

農業活動,地域活動という 3要素のいずれかが‘‘ゼロ’'(活

動休止, もしくはそれに近い状況)となると,都市農村

交流による農村振典が成立しなくなる。

「たくみの里」の関係者と話してみると,以前からこ

うした認識を感覚的には持っている方は多かった。 し

かし,あくまで “感覚"であり,具体的に「 3要素の各

課題がどのように関係し合って,何が中枢の課題なの

か?」,という課題構造までは見えていなかった。今回,

これまでの研究成果や調査報告書を活かした課題構造図

の作成と,それを用いたワークショップを実施すること

で,研究と実践支援がつながる機会となった。

5 まとめ

最後に, ここでは筆者の「たくみの里」への関わり方

について振り返るとともに,実践科学として農村計画学

の研究に必要なことについて籠者の考えを述べたい。

既出の表 lを今一度みると, 2001年から 2008年の期

間は研究 (「たくみの里」の事業評価)による関わりが

研究者は都市農村交流の持続性に如何にして貢献するか? 31

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中心であった。その後 2009年か ら2012年の期間は海

外留学や都市農村交流以外の研究(東日本大裳災の復輿

関係など)が中心となる時期とも重なり「たくみの里」

への訪問はゼミ合宿に限られていた。

そうした中,既述した農家 H氏からの一本の電話

(2013年 2月)が,筆者の「たくみの里」での関わり方

を変えるきっかけとなった。耕作放棄地の解消に向けて.

農地の利用状況の踏査や集落での農業の将来意向に関す

るヒアリング調査, さらにはこうした調査結果を関係者

にわかり易く示す Web-GISの構築に向けた取り組みな

ど,実践支援に関わる機会が増えた。

その一方で,1つの悩みー現地の閲係者には喜んで

もらえるが,実践支援を統けるだけでいいのか?ーを

抱えることになった。実践科学である農村計画学の研究

は本来,実践支援とも高い親和性が求められる。そのた

めに,研究者は研究と実践支援の言わば“二刀流’への

覚悟を持つことが重要となる。そして,その覚悟を行動

に移させたとき冒頭で述べた地域リーダーの言葉の真

意にも迫ることができると考えられる。こうした問題意

識に基づき,これまでの研究成果等を実践支援に活かす

取り組みを始めた。具体的には,「たくみの里」に持続

性に係る課題構造の “見える化’'と,土地用計画策定に

向けた主体間連携の重要性を認識する意識啓発の「場」

の設定を社会実装として試みた。今後は方法論的アプロ

ーチから, ワークショップの実施手順と意識醸成のあり

方に関する研究を進めていく予定である。

上述した「たくみの里」への関わり方を踏まえつつ,

実践科学として農村計画学の研究に必要なことについて

の筆者の考えを図 7に整理した。事例研究として目先の

成果だけを求めて「①個別テーマによる研究の遂行」を

するのではな<, ①をしながらも,その先にある「②実

践支援を伴う研究成果の現場への還元と検証」と「③手

法 ・計画論的アプローチからの社会実装研究」を常に意

識し,新たな手法や計画論の構築を目指していく 。こう

した一連のプロセスを認識しつつ地域で継続的に研究を

手法 ・計画論の構築ヘ

'方法 ・計画;りアプローチ\` '(実践支印を伴っ研究成からの社会実装研究 マロ上" -'--

屈7 農村計画学の研究に必要なこと

遂行していくことが実践科学として農村計画学の研究

に必要であると筆者は考える。

注釈

注1)「第 9回オーライ!ニッポン大賞グランプリ」など数

多くの賞を受賞してきた。

注 2) 「たくみの里」に関わる関係組織の中堅・若手が集まり,

将来について話し合う場として結成された。籠者の研究室

も勉強会の講師や座談会等を開催して関わってきた。

注 3)紙而の制約上,表 1に記載した成果リストは本稿に関係

しかつ代表的なものに留めた。

注 4)2001年, 2010年, 2017年のデータを活用した。

注 5) 農業グループからは農業委員会 (5名),農村公固公社 (1

名),役場農政課 (6名)が参加した。観光グループから

は観光協会 (4名),役場観光商工課 (4名),農村公園公

社 (1名)が参加した。集落活動グループからは役場総合

戦略課 (2名),駒形地域活性化の会 (3名),たくみの里

事業者 (1名),駒形会 (1名),農村公園公社 (1名)が

参加した。

参考文献

l) 中島正裕 (2014):実践科学としての農村計画学の役割.

私のビジョン,水土の知(農業農村工学会誌),82(2), 54-

56.

2)中島正裕 ・千賀裕太郎・齋藤雪彦 (2001):都市農村交流

活動に対する住民の評価に関する研究一群馬県利根郡新治村

を事例として一.農村計画論文集第 3集 25-30.

3)中島正裕 (2002):都市農村交流活動による農村地域活性

化の評価に関する研究, 学位論文

4 ) 中島正裕 ・ 劉鶴烈•干賀裕太郎 (2006) :来訪者の意識・

行動からみた農村地域の観光資源の特性一都市農村交流によ

る農村地域活性化の計画づくりに関する研究 その 1-.農

村生活研究 50(1), 31-40.

5)中島正裕 (2009):都市農村交流活動における観光資源の

維持管理に関する事例分析一都市農村交流活動による農村地

域活性化の計画づくりに関する研究 その 2-.農村生活研

究 52(1), 30-42.

6 ) 中島正裕 • 田中沙知 (2015) 土地利用からみた都市晟村

交流事業の持続性に関する研究,農業農村整備政策研究,

No.l. 24-28.

7)鬼山るい・中島正裕 (2016):グリーン・ツーリズムの持

続的な運営に向けた組織間関係の特性分析一群馬県利根郡み

なかみ町「たくみの里」を事例として一.農村計画学会誌論

文特集号 35巻 327-332.

8)小松雅明・莱原良樹 ・中島正裕 ・武山絵美 (2018)都市農

村交流の実践地域における農地利用変造の分析一群馬県みな

かみ町「たくみの里」を事例として一,平成30年度鹿業農

村工学会大会講演会要旨集, 204-205.

9) Michael Woods (2009): Rural geography. SAGE

Publications, London.

Keywords: 1) Rural-Urban Interchange Activities, 2) Sustainability, 3) Practical Science

32 農村計画学会誌 Vol.38, No. 1, 2019年6月