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16 National Center of Neurology and Psychiatry (NCNP) 17 NCNP ANNUAL REPORT 2013–2014 http://labo.sleepmed.jp/ 精神保健研究所 精神生理研究部 使睡眠薬の適正な使用と休薬の ための診療ガイドラインを策定 私たちは2013年6月「睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライ ン」を発表しました (1、2) 。不眠症は成人の約10%が罹患する頻度の高い疾患 であり、睡眠薬は国内で最もよく処方される治療薬の一つです。近年の睡眠薬 は安全性も向上していますが、漫然とした長期服用や多剤併用により薬物依 存や転倒、眠気による事故などのリスクが高まることが懸念されています。特 に日本人は睡眠薬に対する不安が強いため、緊張のため薬が効きにくい、服薬 が不規則となり症状が悪化する、自己判断による急な断薬により離脱症状が出 現するなど問題を抱えるケースも少なくありません。そこで、睡眠薬を適切に 用い、不必要な長期処方を避け、出口(減薬・休薬)を見据えた安全、安心な 不眠医療を普及させるため本診療ガイドラインは作成されました。 ガイドラインを作成した背景 大規模診療報酬データを利用して国内の睡眠薬の処方実態を解析した結果、成人の20人に 1人、60 歳以上では7人に1人が睡眠薬を常用もしくは頓用しており、一日当たりの服用量、 多剤併用率が徐々に増加していることが明らかになりました (3、4) 。そこで国立精神・神経医 療研究センターが中心となり、厚生労働科学研究費による研究班と日本睡眠学会ワーキンググ ループの協力の下、本ガイドラインを作成しました。作成メンバーには日本睡眠学会など関連 学会の関係者のほか、睡眠医療、臨床・基礎薬理、エビデンス医学等の幅広い分野から医療 関係者や研究者を迎えました。日本の不眠医療の現状を踏まえた上で、睡眠薬を用いた不眠 医療のあり方に関するエビデンスを検証し、学際的な視点からガイドラインを策定しました。 ガイドラインの構成 本ガイドラインでは不眠症の開始から終結までの治療の流れ(アルゴリズム、図1)を明示 しました。睡眠薬に関する不安や不満の背景には治療のゴールが見えにくいという問題があり ます。本ガイドラインでは「出口を見据えた不眠医療」をキーワードにしています。“薬がある から眠れる”“なければ眠れない”と決めつけず(諦めず)、不眠がある程度改善した後は正し い手順で減薬・休薬を心がけるように推奨しました。薬物療法の効果を最大限に引き出すため の情報に加えて、認知行動療法や睡眠衛生指導などの非薬物療法を十分に活用するよう求め ています。 本ガイドラインのもう一つの特徴は診療場面でしばしば問題となる睡眠薬に関する不安や疑 問(クリニカル・クエスチョン、図2、表1)を取り上げた点です。各クエスチョンに関する 既存のエビデンスを網羅的に抽出し、専門家によるシステマティックレビューとコンセンサス 会議によって勧告と解説を行いました。患者さんにも理解しやすい解説をしていますのでご一 読いただければ幸いです。 http://www.ncnp.go.jp/pdf/press_130611_2.pdf 不眠の訴え 症状把握 不眠症状の特徴 日中の機能障害 薬物療法 1)非ベンゾジアゼピン系睡眠薬 2)メラトニン受容体作動薬 3)ベンゾジアゼピン系睡眠薬 4)催眠・鎮静系抗うつ薬 休薬トライアル 漸減法 CBTI 併用法 治療終了 睡眠衛生指導 認知行動療法 1)刺激制御法 2)睡眠制限法 3)漸進的筋弛緩法 4)認知療法 治療の 要否判定 無効 無効 部分寛解 有効 有効 寛解 再燃 休薬 リスク評価 維持薬物療法 不要 不眠の再評価 身体因、環境因、心理要因 その他の睡眠障害 (睡眠状態誤認、レストレス レッグス症候群ほか) 過覚醒(不安・抑うつ) リズム異常(夜型・夜勤) 恒常性異常(午睡過多) 睡眠衛生指導 維持療法 図1:不眠症の治療アルゴリズム(文献(2) から引用) ガイドライン作成を先導した 三島和夫部長 1. 三島和夫. 睡眠薬の適正使用および減量・中止のための診療ガイドラインに関する研究. 厚生労働科学研究費補助金 障害者対策研究事業「睡 眠薬の適正使用および減量・中止のための診療ガイドラインに関する研究」2012年度総括・分担研究報告書. 2013:1-12. 2. 三島和夫. 睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン. 睡眠薬の適正使用及び減量・中止のための診療ガイドラインに関する研究班編、東京:じほう:2014. 3. 三島和夫. 日本人における睡眠薬の使用実態とその問題点に関する研究. 厚生労働科学研究費補助金・長寿科学総合研究事業「高齢者に対する 向精神薬の使用実態と適切な使用方法の確立に関する研究」2008〜2010年度総合研究報告書. 2011:165-88. 4. 三島和夫. 診療報酬データを用いた向精神薬処方に関する実態調査研究. 厚生労働科学研究費補助金・厚生労働科学特別研究事業「向精神薬の 処方実態に関する国内外の比較研究」2010年度分担研究報告書. 2011:15-32. 文 献 ①睡眠薬の特徴 【Q1-3】 ②服用法について 【Q4-8】 ③二次性不眠症の治療 【Q9-22】 ⑥不眠治療のゴール設定 【Q38】 ⑦睡眠薬の減薬・中止法 【Q39-40】 ④難治性(慢性)不眠症への対応 【Q23-30】 ⑤睡眠薬の副作用とその対処 【Q31-37】 不眠症 不眠症状 正常 治療期間 末治療期 寛解 再評価 再然 難治性(慢性)不眠症 反跳性不眠 再発 ゴール設定 減薬 休薬 回復 初期治療期 維持療法期 休薬・フォローアップ期 臨床徴候 図2:不眠医療のステージと代表的なクリニカルクエスチョン(文献(2) から引用) 表1:不眠医療のステージと代表的なクリニカルクエ スチョンからの抜粋(文献(2)から引用) クリニカルクエスチョン 番号 Q3 Q5 Q7 Q13 Q21 Q24 Q25 Q30 Q33 Q34 Q35 Q38 Q40 睡眠薬、睡眠導入剤、安定剤の違いは何でしょうか? 眠れない時だけ睡眠薬を服用してもよいでしょうか?(頓服) 睡眠薬より寝酒の方が安心のような気がします。 かゆみで眠れません。眠気の出る抗ヒスタミン薬を 服用すれば一石二鳥 ? 睡眠薬を服用中に妊娠に気づきました。胎児に影響は ないでしょうか? 睡眠薬を服用しても眠れません。増量すれば効果が 出ますか? 睡眠薬を服用しても眠れません。何種類か組み合わせ れば効果が出ますか? 薬を使わない治療法はあるでしょうか? 徐々に睡眠薬の効果が弱くなり、量が増えるのが心配です。 睡眠薬を止められなくなるのではないか心配です。 睡眠薬を服用していると認知症になると聞いて心配です。 睡眠薬はいつまで服用すればよい? 薬で眠れますが 治っているのでしょうか? 睡眠薬の減量法を教えてください。

睡眠薬の適正な使用と休薬の ための診療ガイドラインを策定 · 私たちは2013年6月「睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライ

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16 National Center of Neurology and Psychiatry (NCNP) 17NCNP ANNUAL REPORT 2013–2014

http://labo.sleepmed.jp/

精神保健研究所 精神生理研究部

睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドラインを策定

睡眠薬の適正な使用と休薬の ための診療ガイドラインを策定

私たちは2013年6月「睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン」を発表しました(1、2)。不眠症は成人の約10%が罹患する頻度の高い疾患であり、睡眠薬は国内で最もよく処方される治療薬の一つです。近年の睡眠薬は安全性も向上していますが、漫然とした長期服用や多剤併用により薬物依存や転倒、眠気による事故などのリスクが高まることが懸念されています。特に日本人は睡眠薬に対する不安が強いため、緊張のため薬が効きにくい、服薬が不規則となり症状が悪化する、自己判断による急な断薬により離脱症状が出現するなど問題を抱えるケースも少なくありません。そこで、睡眠薬を適切に用い、不必要な長期処方を避け、出口(減薬・休薬)を見据えた安全、安心な不眠医療を普及させるため本診療ガイドラインは作成されました。

ガイドラインを作成した背景大規模診療報酬データを利用して国内の睡眠薬の処方実態を解析した結果、成人の20人に

1人、60歳以上では7人に1人が睡眠薬を常用もしくは頓用しており、一日当たりの服用量、多剤併用率が徐々に増加していることが明らかになりました(3、4)。そこで国立精神・神経医療研究センターが中心となり、厚生労働科学研究費による研究班と日本睡眠学会ワーキンググループの協力の下、本ガイドラインを作成しました。作成メンバーには日本睡眠学会など関連学会の関係者のほか、睡眠医療、臨床・基礎薬理、エビデンス医学等の幅広い分野から医療関係者や研究者を迎えました。日本の不眠医療の現状を踏まえた上で、睡眠薬を用いた不眠医療のあり方に関するエビデンスを検証し、学際的な視点からガイドラインを策定しました。

ガイドラインの構成本ガイドラインでは不眠症の開始から終結までの治療の流れ(アルゴリズム、図1)を明示

しました。睡眠薬に関する不安や不満の背景には治療のゴールが見えにくいという問題があります。本ガイドラインでは「出口を見据えた不眠医療」をキーワードにしています。“薬があるから眠れる”“なければ眠れない”と決めつけず(諦めず)、不眠がある程度改善した後は正しい手順で減薬・休薬を心がけるように推奨しました。薬物療法の効果を最大限に引き出すための情報に加えて、認知行動療法や睡眠衛生指導などの非薬物療法を十分に活用するよう求めています。

本ガイドラインのもう一つの特徴は診療場面でしばしば問題となる睡眠薬に関する不安や疑問(クリニカル・クエスチョン、図2、表1)を取り上げた点です。各クエスチョンに関する既存のエビデンスを網羅的に抽出し、専門家によるシステマティックレビューとコンセンサス会議によって勧告と解説を行いました。患者さんにも理解しやすい解説をしていますのでご一読いただければ幸いです。http://www.ncnp.go.jp/pdf/press_130611_2.pdf

不眠の訴え

症状把握● 不眠症状の特徴● 日中の機能障害

薬物療法1)非ベンゾジアゼピン系睡眠薬2)メラトニン受容体作動薬3)ベンゾジアゼピン系睡眠薬4)催眠・鎮静系抗うつ薬

休薬トライアル● 漸減法● CBTI併用法

治療終了睡眠衛生指導

認知行動療法1)刺激制御法2)睡眠制限法3)漸進的筋弛緩法4)認知療法

治療の要否判定

無効

無効部分寛解

有効有効

寛解再燃

休薬

リスク評価

維持薬物療法

不要

不眠の再評価● 身体因、環境因、心理要因● その他の睡眠障害 (睡眠状態誤認、レストレス  レッグス症候群ほか)

● 過覚醒(不安・抑うつ)● リズム異常(夜型・夜勤)● 恒常性異常(午睡過多)

睡眠衛生指導

維持療法

図1:不眠症の治療アルゴリズム(文献(2)から引用) ガイドライン作成を先導した 三島和夫部長

1. 三島和夫.睡眠薬の適正使用および減量・中止のための診療ガイドラインに関する研究.厚生労働科学研究費補助金 障害者対策研究事業「睡眠薬の適正使用および減量・中止のための診療ガイドラインに関する研究」2012年度総括・分担研究報告書.2013:1-12.

2. 三島和夫.睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン.睡眠薬の適正使用及び減量・中止のための診療ガイドラインに関する研究班編、東京:じほう:2014.3. 三島和夫.日本人における睡眠薬の使用実態とその問題点に関する研究.厚生労働科学研究費補助金・長寿科学総合研究事業「高齢者に対する向精神薬の使用実態と適切な使用方法の確立に関する研究」2008〜2010年度総合研究報告書.2011:165-88.

4. 三島和夫.診療報酬データを用いた向精神薬処方に関する実態調査研究.厚生労働科学研究費補助金・厚生労働科学特別研究事業「向精神薬の処方実態に関する国内外の比較研究」2010年度分担研究報告書.2011:15-32.

文 献

①睡眠薬の特徴 【Q1-3】②服用法について 【Q4-8】

③二次性不眠症の治療     【Q9-22】

⑥不眠治療のゴール設定【Q38】

⑦睡眠薬の減薬・中止法【Q39-40】

④難治性(慢性)不眠症への対応【Q23-30】

⑤睡眠薬の副作用とその対処【Q31-37】

重度症

不眠症

不眠症状

正常

治療期間 末治療期寛解

再評価 再然

難治性(慢性)不眠症

反跳性不眠再発

ゴール設定減薬休薬

回復初期治療期 維持療法期 休薬・フォローアップ期

臨床徴候

図2:不眠医療のステージと代表的なクリニカルクエスチョン(文献(2)から引用) 表1:不眠医療のステージと代表的なクリニカルクエスチョンからの抜粋(文献(2)から引用)

クリニカルクエスチョン番号

Q3

Q5

Q7

Q13

Q21

Q24

Q25

Q30

Q33

Q34

Q35

Q38

Q40

睡眠薬、睡眠導入剤、安定剤の違いは何でしょうか?

眠れない時だけ睡眠薬を服用してもよいでしょうか?(頓服)

睡眠薬より寝酒の方が安心のような気がします。

かゆみで眠れません。眠気の出る抗ヒスタミン薬を服用すれば一石二鳥?

睡眠薬を服用中に妊娠に気づきました。胎児に影響はないでしょうか?

睡眠薬を服用しても眠れません。増量すれば効果が出ますか?

睡眠薬を服用しても眠れません。何種類か組み合わせれば効果が出ますか?

薬を使わない治療法はあるでしょうか?

徐々に睡眠薬の効果が弱くなり、量が増えるのが心配です。

睡眠薬を止められなくなるのではないか心配です。

睡眠薬を服用していると認知症になると聞いて心配です。

睡眠薬はいつまで服用すればよい? 薬で眠れますが治っているのでしょうか?

睡眠薬の減量法を教えてください。

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18 National Center of Neurology and Psychiatry (NCNP) 19NCNP ANNUAL REPORT 2013–2014

URL: http://www.ncnp.go.jp/hospital/sd/rehabili/

神経難病リハビリテーション:新たな可能性への挑戦

病院 身体リハビリテーション部

神経難病リハビリテーション:新たな可能性への挑戦

当院を受診する患者さんの多くは、疾患の特性上、時間とともに症状が進行し、起き上がり、歩行動作や身の回り動作、摂食・嚥下などの能力も進行に従い低下します。そのため、患者さんの障害に応じたリハビリテーション(以下リハ)を適切な時期に受ける必要があります。

当部では神経内科、小児神経科、脳神経外科と連携し、神経筋疾患患者さんに対する訓練・指導と研究を行っています。パーキンソン病患者さんには米国で開発されたLSVT®BIG、LSVT®LOUDに加え、神経内科ブラッシュアップ入院でのリハと外来集中リハプログラムを提供しています。神経筋疾患患者さんの歩行能力維持・向上を目的とした、福祉型ロボットスーツHAL®を用いた研究も開始しています。療法士も35人となり、院内外のリハニーズに応えられるよう努めています。

理学療法部門当部門はパーキンソン病、筋ジストロフィー、その他の神経筋疾患の各専門分

野において、専門性の高い多種多様なプログラムを提供します。神経筋疾患の歩行障害に対しては、ロボットスーツHAL®を用いた歩行トレーニングやBWSOTによるバランス歩行訓練、また、脊髄小脳変性症患者における集中トレーニングを、新たな試みとして行っています。チーム医療にも積極的に関わり、呼吸ケアサポートチームでは様々な排痰機器を利用した排痰ケアを行います。また、新薬や医療機器開発に伴う治験の効果判定の評価者としても活動しています。

作業療法部門近年のIT技術の進歩は目覚ましく、我々の生活や

コミュニケーションのスタイルは変化しています。同様に、障害をもつ方の生活もこれらの技術を活用することで変化しつつあり、体がほんの少しでも動けば、機器を操作して遠くにいる友と語らうことや、自宅就労することも不可能ではありません。様々な意思伝達装置やデバイスを駆使し、利活用ができるように支援することで、患者さんの社会参加を促進することができます。これらは、当院での作業療法の取り組みの一つです。

言語聴覚療法部門リー・シルバーマン音声治療(LSVT® LOUD)は米国で開発されたパー

キンソン病患者さんのための声の集中治療プログラムです。自分の声への意識を高め、大きな声で話せるようになることを目的としています。当院では、ST全員がプログラム実施のための認定資格を持ち、これまで20人以上の患者さんにLSVT® LOUDを行いました。参加された患者さんからは、「治療前より声が大きく、はっきり話せるようになった」と喜びの声をいただいています。

この写真はHAL®福祉モデルですが、HAL®医療モデルを治験として行っています。HAL®によって装着者の意思に従って動作支援が実現できます。

ブラッシュアップ入院案内

様々な排痰機器

言語聴覚療法 LSVT®LOUD

BWSOTは、天井吊り下げ式の免荷装置を用いた床上歩行訓練です。

右から、理学療法士長 佐藤福志、言語聴覚士主任 織田千尋、作業療法主任 粟沢広之

ロボットアームと視線でパソコン操作が可能な機器。最新の支援機器を体験できます。

HAL®装着での歩行練習

左手足を外側に開き、片足立ちになる

後方に体重をあずける

つま先をあげる

かかとをあげる

右手足を外側に開き、片足立ちになる

おしりを後ろに突き出す

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20 National Center of Neurology and Psychiatry (NCNP) 21NCNP ANNUAL REPORT 2013–2014

URL: http://www.ncnp.go.jp/hospital/disease/center_06.html

統合失調症早期診断・

治療センター

発足

病院 統合失調症早期診断・治療センター

統合失調症早期診断・治療センター 発足

統合失調症は、幻覚、妄想や、意欲や興味関心の低下等の症状を主体とし、主に思春期、青年期に発症する疾患です。慢性の経過をたどることで知られ、全国に約80万人の患者さんがいると言われています。現在、主な治療方法は薬物療法です。効果があり、より副作用が少なく服用しやすい薬剤が開発されているものの、全く症状が認められなくなる完全寛解に至るのは約30%、症状が残る不完全寛解を含めても60%ほどと言われており、現在の治療方法では、まだ十分とは言えません。また、最近の研究からは、就職などの社会的予後に対しては症状だけでなく、注意、記憶、実行機能等の神経認知機能および社会認知機能の障害も影響を及ぼすことが分かってきました。さらに、発症から治療を受けるまでの「精神病未治療期間」が長いほど、より強く認知機能が障害され、社会的予後の悪化をもたらすのではないかと考えられています。そのため、より早期に適切な治療を受けることが、早期の社会復帰を目指すために重要です。

今回NCNPに開設された統合失調症早期診断・治療センター(Early Detection and Intervension Center for Schizophrenia: EDICS)は、未治療もしくは治療を開始してまもない(1〜2年以内)、いわゆる臨界期の患者さんを対象として、専門外来において診断や症状評価を行い、その患者さんに合わせた適切な治療を目指します。また、患者登録システムの活用により、定期的な情報の提供、年1回のフォローアップ診察や、患者手帳(EDICS NOTE)を用いた心理教育を行い、治療が円滑かつ適切に行われるようサポートします。

EDICS専門外来 —患者登録システム—EDICSの専門外来を初めて受診された際、診断や治療方針を決めるために、脳画像検

査、心理検査、認知機能検査等を患者さんの希望や話し合いに応じて行います。その上で、発症2年以内の統合失調症と診断された方には、患者登録システムへの登録をお願いしています。これにより、病気や治療に関する情報、地域で活用できるサービス、栄養士や心理士などによる日常生活におけるアドバイス、治療薬開発のための治験や臨床研究に関する情報等を定期的に提供させていただきます。さらに、1年ごとの再評価についてご案内をする予定です。

希望される患者さんには、次に紹介するNCNP独自の患者手帳(EDICS NOTE)を用いた、心理教育を精神看護専門看護師が行います。

その後、概ね3ヶ月以内に地域の医療機関へ紹介し、継続した治療を連携して行うことを原則とします。

他部門との協力 —診療の充実に向けて—NCNPは、神経研究所やバイオバンクと連携したバイオリソースの集積および解析による

統合失調症の病因探索や、精神保健研究所と恊働した認知行動療法などの開発に参画しています。また、認知矯正療法、社会認知と対人関係のトレーニングなどの治療技法の開発や、臨床研究推進部が主導する新たな薬物療法の開発にも協力しています。これらの活動を通して、よりよい医療を患者さんに提供できるように努めます。

EDICS NOTE(患者手帳)を用いた心理教育かかりつけ医や保健師、訪問看護師、ヘルパー等の地域スタッ

フとの連携を促すため、医師・看護師・臨床心理士・作業療法士・精神保健福祉士などが協力して、NCNP独自の患者手帳(EDICS NOTE)を作成しました。この手帳には、「治療記録」「治療に用いる薬剤(わたしが選んだ薬)」「セルフモニタリングの方法」

「症状が起きた場合の対処法」などの項目があり、患者さん自身がメモを書き込める形式になっています。この患者手帳を用いて、精神看護専門看護師によるマンツーマンの心理教育を計4回行います。その後は、患者さんご自身が手帳を参考にしたり書き込んだりしながら、主治医や地域のスタッフとのコミュニケーションおよびセルフモニタリングなど、病気と上手につきあっていくために利用して頂きたいと考えています。

EDICSNOTE

国立精神・神経医療研究センター(NCNP)には、現在7つの専門疾病センターがあります。

パーキンソン病・運動障害疾患センター

てんかんセンター 地域精神科モデル医療センター 睡眠障害センター 統合失調症早期診断・治療センター

筋疾患センター 多発性硬化症センター

統合失調症早期診断・治療センタースタッフ

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22 National Center of Neurology and Psychiatry (NCNP) 23NCNP ANNUAL REPORT 2013–2014

URL: http://www.ncnp.go.jp/cbt/

認知行動療法センター(CBT)  病院 精神リハビリテーション部・クラスター病棟

認知行動療法の展開:研究・臨床・研修

認知行動療法の展開:研究・臨床・研修

認知行動療法(Cognitive Behavior Therapy; CBT)は、認知(ものの受け取り方や考え方)に焦点を当てながら気持ちのコントロールを手助けする精神療法(心理療法)のひとつです。うつ病や不安障害などの精神疾患に効果があるだけでなく、日常的なストレス対処法としても使うことができ、医療場面はもちろんのこと、地域や職域、教育場面などで広く活用されています。NCNPでは、認知行動療法を必要とされる方に活用していただくことを目指して、研究・臨床・研修、そして国際連携に取り組んでいます(図1)。

認知行動療法センターのメンバー(一部)国際連携について講演するシマンスキー代表

国際強迫性障害財団との意見交換会左から堀越部長、シマンスキー代表、コイン教授(サフォーク大学、ハーバード大学)、大野センター長

医学発展

人材育成

病院連携

研修

臨床研究

普及啓発

国際協同

図1:CBTセンターの活動概要

図2:考え・行動・気分の悪循環

認知行動療法とはなんでしょうか?

気分が落ち込んだり不安なとき、「自分なんてだめだ」と考えたり、「もうやめておこう」と行動が起こせなくなることはありませんか?そうした考え(認知)や行動が悪循環すると、ますますつらくなって、気分が落ち込んでしまうことがあります。認知行動療法とは、認知行動モデル(図1)にそって、考え方や行動の仕方を工夫して問題解決や精神症状の改善に取り組む精神療法(心理療法)のひとつです。

市民講座についてのアンケート結果(受講生の内、約200名による回答結果)

40 60 80 100

40 60 80 100

40 60 80 100

40 60 80 100

難易度簡単すぎる 難しすぎる

少し簡単すぎる その他

時間配分

今後に活かせるか

他の人にも勧めたいか

ちょうど良い 85.5%

ちょうど良い 78.7%

活かせる 55.1% まあ活かせる

勧めたい 71.0%

その他活かせない

その他

その他

詰め込みすぎ

物足りない

どちらともいえない

CBTセンターで用いている治療教材の一部

2

状況 感情

大切な何かを失ったとき 悲しい

人とのつながりがないとき孤立しているとき さみしい

思い通りにならないとき自分の領域を侵されているとき 怒り

自分で選んでいないとき 空しい

先が見通せないときコントロールを失いそうなとき 不安

こころのアラームとは?このセッションの内容感情を理解しましょう6回目 P.8

アラーム(感情)は不快な感覚を伴いますが私たちの必要の欠如を知らせる役割があります。

ここがポイント!

うつ・不安な時の考えは…

– 最悪な結果が思い浮かぶ

– 非現実的・極端になりやすい

– そうとしか思えない

– 漠然としていることも多い

OCDを強める考え方4ERPの4つの原則OCDの特徴気分と考え方の関係6回目 P.6

1

かんがえのパターンを知ろう

国立精神・神経医療研究センター病院

考え出来事の解釈ひとりごと

感情こころのアラーム

喜怒哀楽

行動アラームを消す手段

考えの反応このセッションの内容こころのしくみ図6回目 P.3

できごと

問題を変える・何もしない・避ける

ほほう?

人間関係

身体緊張・動悸食欲・睡眠

など

身体緊張・動悸食欲・睡眠

など

こころの世界

現実の世界

1

かんがえのパターンを知ろう

国立精神・神経医療研究センター病院

考え出来事の解釈ひとりごと

感情こころのアラーム

喜怒哀楽

行動アラームを消す手段

考えの反応このセッションの内容こころのしくみ図6回目 P.3

できごと

問題を変える・何もしない・避ける

ほほう?

人間関係

身体緊張・動悸食欲・睡眠

など

身体緊張・動悸食欲・睡眠

など

こころの世界

現実の世界

考え・気分・行動は影響し合います

悪循環のスパイラル

考えうまくいってない点、悪い点に注目した考え

気分心配、落ち込み、不安、怒り等

行動困難な状況を避ける引きこもる等

研究では、様々な疾患や困難に対してCBTが安全かつ有効に実施できるのかを検証する臨床試験に取り組んでいます。その多くは、臨床試験の実施を支援する国立精神・神経医療研究センター病院クラスター病棟で行われています。

代表的な臨床試験は、以下の通りです。● うつ病や不安障害に適用できる汎用性の高いCBT(統一プロトコル)● 強迫性障害に対する家族への援助を含めたCBTプログラム● 外傷後ストレス障害に対する認知処理療法● パーキンソン病におけるうつや不安へのCBT

研修では、CBTのベーシックなプログラムから、統合失調症、双極性障害、複雑性悲嘆といった、疾患に応じた特別なCBT研修を提供しております。また、一般の方への市民講座も設けております。2013年度には29コースの研修が開かれ、延べ1,505名が参加されました。研修情報:http://www.ncnp.go.jp/cbt/training.html

臨床としては、NCNP病院 精神リハビリテーション部の臨床心理室における活動を支援して、認知行動療法の提供を始めております。現在、病院内の医師からの依頼を受け、一部の患者さんに対して、グループ形式の認知行動療法などを提供しています。また、近隣地域のクリニックとの連携も徐々に始めております。

海外の主要機関との連携も進めております。研究としては、ボストン大学のデイビッド・バーロウ教授や、米国行動認知療法学会と国際認知療法学会の会長をつとめるステファン・ホフマン教授とともに共同研究を実施しています。2014年には、国際強迫性障害財団のジェフ・シマンスキー代表やハーバード大学のスロスター・ボービンソン教授らを招いて、国際連携を進めるためのシンポジウムを開催しました(写真)。

研究:確かな治療を安全に実現するために研修:専門家や一般の方に広く活用していただくために

臨床支援:必要な方に届けるために国際連携:世界的なネットワークを強化するために