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日本小児循環器学会雑誌 9巻5号 645~650頁(1994年) 小児期心室中隔欠損症における左室局所壁運動の検討 (平成5年3月17日受付) (平成5年12月21日受理) 群馬県立小児医療センター小児内科, 小須田貴史 曽根 克彦 田端 篠原真小林敏宏*小林 群馬大学医学部小児科 key words:心室中隔欠損症,左心機能,左室局所壁運動解析 裕之 広野 一輝 富男* 心室中隔欠損症患児(VSD)における左室造影フィルムの解析を行い,左室局所壁運動をパターン化 して左室特性を明らかにすることを試みた. 対象は他に合併心奇形のないVSD患児24例で,これを肺体血流比(Qp/Qs)が2.0未満でかつ肺高 圧症を伴わないものをV1群(n=15), Qp/Qsが2.0以上でかつ肺高血圧症を伴わないものをV2群( 5),肺高血圧症を伴うものをV3群(n=4)として分類し比較検討を行った. 左室拡張末期容積はV2群が有意差をもってV1群よりも高値を示し, Qp/Qsとは正の相関を認めた. V3群はV1群よりも高値を示したが,統計学的な有意差は得られなかった. Global ejection f はV3群が有意差をもってV1群, V2群よりも低値を示した.しかしLV systolic outpu 群,V3群ともに保たれていた.左室局所壁運動ではV2群が下壁側の低下を認めたが, V3群ではさらに 前側壁側の壁運動の低下をも認め,全体的に壁運動が低下する傾向にあった. はじめに 心室中隔欠損症(以下VSD)は先天性心疾患の中で 最も頻度の高い疾患であり,その外科的治療や小児内 科的管理に関しては近年目覚しい進歩をとげている. しかしその左室特性を,特に乳児期で問題となる肺高 血圧症や左室の容量負荷との関係について検討したも のは少なく,これを明らかにすることは患者の治療・ 管理を行っていく上で重要と思われる. 先天性心疾患を中心とする小児期心疾患の左心室の 形態や機能は,各疾患の血行動態を反映して特徴的な 所見を有するとされている1).我々は左室容量負荷疾 患であるVSD患者の左室造影シネフィルムの解析を 行い,左室局所壁運動をパターソ化して左室特性を明 らかにすることを目的とし,検討を行ったので報告す る. 別刷請求先:(〒377)群馬県勢多群北橘村下箱田779 群馬県立小児医療センター小児内科 小須田貴史 対象および方法 対象は群馬県立小児医療センターにおいて心臓カ テーテル検査および左室造影を施行した,他に合併心 奇形の認められない膜様部心室中隔欠損症患児24例 (男12例,女12例)で,これらを肺体血流比(以下Qp/ Qs)と肺高血圧症の有無により分類して比較検討し た. V1群はQp/Qsが2.0未満で肺体動脈平均血圧比(以 下Pp/Ps)が0.5未満とした15例で,検査年齢は平均5 歳6ヵ月,検査時心拍数は平均99/分であった.V2群は Qp/Qsが2.0以上でPp/Psが0.5未満とした5例で 検査年齢は平均2歳6ヵ月,検査時心拍数は平均117/ 分であった.V3群はPp/Psが0.5以上とした4例で検 査年齢は平均1歳8ヵ月,検査時心拍数は平均151/分 であった(表1), 方法は第一斜位(右前30度,以下RAO),第二斜位 (左前60度,以下LAO)の二方向で左室造影法を施行 し,得られた左室の拡張末期像及び収縮末期像をト レースしてKontron社Cardio 500を用いて Presented by Medical*Online

篠原真小林敏宏*小林 - JSPCCSjspccs.jp/wp-content/uploads/j0905_645.pdf-VIRAO ・h--V2RAO v…・V3RAO Radiug Number・ % 60 EXCURSION ヰ 0 0 b, LAO(9E=S ltstt)

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日本小児循環器学会雑誌 9巻5号 645~650頁(1994年)

小児期心室中隔欠損症における左室局所壁運動の検討

(平成5年3月17日受付)

(平成5年12月21日受理)

  群馬県立小児医療センター小児内科,

小須田貴史  曽根 克彦  田端

篠原真小林敏宏*小林

* 群馬大学医学部小児科

key words:心室中隔欠損症,左心機能,左室局所壁運動解析

裕之  広野 一輝

富男*

                      要  旨

 心室中隔欠損症患児(VSD)における左室造影フィルムの解析を行い,左室局所壁運動をパターン化

して左室特性を明らかにすることを試みた.

 対象は他に合併心奇形のないVSD患児24例で,これを肺体血流比(Qp/Qs)が2.0未満でかつ肺高血

圧症を伴わないものをV1群(n=15), Qp/Qsが2.0以上でかつ肺高血圧症を伴わないものをV2群(n=

5),肺高血圧症を伴うものをV3群(n=4)として分類し比較検討を行った.

 左室拡張末期容積はV2群が有意差をもってV1群よりも高値を示し, Qp/Qsとは正の相関を認めた.

V3群はV1群よりも高値を示したが,統計学的な有意差は得られなかった. Global ejection fractionで

はV3群が有意差をもってV1群, V2群よりも低値を示した.しかしLV systolic outputに関してはV2

群,V3群ともに保たれていた.左室局所壁運動ではV2群が下壁側の低下を認めたが, V3群ではさらに

前側壁側の壁運動の低下をも認め,全体的に壁運動が低下する傾向にあった.

          はじめに

 心室中隔欠損症(以下VSD)は先天性心疾患の中で

最も頻度の高い疾患であり,その外科的治療や小児内

科的管理に関しては近年目覚しい進歩をとげている.

しかしその左室特性を,特に乳児期で問題となる肺高

血圧症や左室の容量負荷との関係について検討したも

のは少なく,これを明らかにすることは患者の治療・

管理を行っていく上で重要と思われる.

 先天性心疾患を中心とする小児期心疾患の左心室の

形態や機能は,各疾患の血行動態を反映して特徴的な

所見を有するとされている1).我々は左室容量負荷疾

患であるVSD患者の左室造影シネフィルムの解析を

行い,左室局所壁運動をパターソ化して左室特性を明

らかにすることを目的とし,検討を行ったので報告す

る.

別刷請求先:(〒377)群馬県勢多群北橘村下箱田779

     群馬県立小児医療センター小児内科

                 小須田貴史

        対象および方法

 対象は群馬県立小児医療センターにおいて心臓カ

テーテル検査および左室造影を施行した,他に合併心

奇形の認められない膜様部心室中隔欠損症患児24例

(男12例,女12例)で,これらを肺体血流比(以下Qp/

Qs)と肺高血圧症の有無により分類して比較検討した.

 V1群はQp/Qsが2.0未満で肺体動脈平均血圧比(以

下Pp/Ps)が0.5未満とした15例で,検査年齢は平均5

歳6ヵ月,検査時心拍数は平均99/分であった.V2群は

Qp/Qsが2.0以上でPp/Psが0.5未満とした5例で,

検査年齢は平均2歳6ヵ月,検査時心拍数は平均117/

分であった.V3群はPp/Psが0.5以上とした4例で検

査年齢は平均1歳8ヵ月,検査時心拍数は平均151/分

であった(表1),

 方法は第一斜位(右前30度,以下RAO),第二斜位

(左前60度,以下LAO)の二方向で左室造影法を施行

し,得られた左室の拡張末期像及び収縮末期像をト

レースしてKontron社Cardio 500を用いて画像解析

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646-(32) 日小循誌 9(5),1994

表1 分類

群(n) Qp/Qs Pp/Ps 年齢(年) 検査時心拍数

Vl(15)

V2(5)

V3(4)

<2.0(1.3±⑪.2)

≧2.0(3.0±1.4)

    (2.3±1.4)

<0.5(0,1±0.0)

〈0.5(0.3±0.1)

≧0.5(0.7±0.1)

5.5±1.2

2.5±2.5

1.7±1.0

98.7±16.6

117.0±22.5

151.3±16.0

(mean±SD)

      Qp/Qs:肺体血流比, Pp/Ps:肺体動脈平均圧比

        <RAO>

       anterobasa,

    t’・:一:(41-48)

     s、

⊇鳶巖;;漂

漂’竃懸曇,

           inferior           apex

          (9~20)     (21~28)

1 :aorto-mitra| junction

48 :anterobasal aortic valve edge

septal

(1~16)

<LAO>

       apex   ’24

      (17~25)

1 :aorto-septal junction

48 :aorto-mitral junction

posterolateral

 (26~48)

左室壁短縮率=(拡張末期長一収縮末期長)/拡張末期長xlOO%

          図1 左室局所壁運動の計測方法

EDV

  a,左室拡張末期容積%

300P〈0.01

%80

70

EF 60

50

b, Ejection Fraction

  p〈0.01

    p〈0.05

    :一

『《『

L/min/m2

   15

賦㎏㎝口d☆”VL○

05仕くP

゜。°°。ω+ω゜ぎ

’匡10

LVSO

VI V2 V3    VI V2 V3   0                                   VI V2 V3

群群群   群群群   群群群             図2 %EDV, EF, LVSOの比較

%EDV:左室拡張末期容積, EF:global ejection fraction, LVSO:LV systolic output

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平成6年4月1日

を行った.拡張末期像と収縮末期像の重ね合せの方法

はRAOではaortic valve midpointとapexを結ぶ線

を左室長軸として,その中点を各時相で一致させて中

心点を重ね合せ,LAOでは各々の面積重心を中心点と

してaorto-septal junctionと面積重心を結んだ基準

軸を重ね合せた.いずれも左心室をこれらの中心点よ

り放射状に48分割し,各々のradial axisの短縮率より

左心室各部位の収縮率を求めて壁運動の評価を行っ

た.そして,RAOでは48分割の1~8をposter・

obasal,9~20をinferior,21~28をapex,29~40を

anterolateral,41~48をanterobasalとして5つにわ

け,LAOでは1~16をseptal,17~25をapex,26~48

をposterolateralと3つに分けて検討を行った(図

1).左室容積はarea-length法2)により計測し,シネア

ンギオの拡大率はgrid systemを用いて算出した.左

室拡張末期容積(LVEDV)と左室収縮末期容積

(LVESV)の差を一回拍出量(LVSV)として,各症

例ごとにLVSV/LVEDVよりglobal ejection frac・

tion(以下EF,%)を算出した.そしてLVSVに1分

間の心拍数を乗じて体表面積で補正したものをLV

systolic output(以下LVSO, L/min/m2)とした.ま

た左室拡張末期容積の比較には,体表面積あたりの正

常予測値に対する百分率(%EVD)を算出して検討し

た.なお統計計算にはWilcoxon・Mann-Whitney検定

を用いて,P・valueが0.05未満を有意とした.

          結  語

 1.左室拡張末期容積の比較(図2a)

 %EDV(%,平均±標準偏差)はVl群119.6±25.7,

V2群199.9±66.3, V3群175.3±83.4であり,V2群が有

意差をもってV1群よりも大きく,またV3群では統計

学的有意差はなかったがV1群よりも大きい傾向に

あった.

 2.Ejection fractionの比較(図2b)

 EF(%,平均±標準偏差)の比較では, V1群64.7±

4.9,V2群64.2±4.2, V3群53.4±3.0であり,V3群が

有意差をもってV1群, V2群より低値を示していた.

 3.LV systolic outputの比較(図2c)

 LVSO(L/min/m2,平均±標準偏差)の比較では,

V1群6.65±2.35,V2群9.00±1.92,V3群8.83±3.70で

あり,V2群がV1群よりも有意に大きく,EFの低い

V3群でも比較的保たれていた.

 4.Qp/Qsとの相関について(図3)

 Qp/Qsと左室拡張末期容積(%EDV)との関係では

Qp/Qsの増大に伴い%EDVの増加が認められ,有意

647-(33)

%  a, Re|ation between Qp/Qs and XEDV

300

lt 200

9

 100

0 2

Qp/Qs

Y=36.2X十79.9

r=0.676

p<0.001

nニ24

4

%  b,Relation between Qp/Qs and EF

100

75

E 50F

25

6

0 2

Qp/Qs4

L/minlm2c,Relation between Qp/Qs and LVSO

   15

10

LVSO

図3

6

0

 

㌔。°

2

Qp/Qs

Y=1.41X→-4.85

r=0.584

p<0.01

n=24

4

Qp/Qs:

EF:global ejection fraction, LVSO:LV systolic

output

%EDV, EF, LVSOとQp/Qsとの関係

  肺体血流比,%EDV:左室拡張末期容積,

6

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648-(34) 日本小児循環器学会雑誌 第9巻 第5号

60

 ∩U           O

              

EXCURSION

a,RAO(第r斜位)

日ーIV

▲JlJマー1

}ー ーη

」1-f⊥

1榊1

◇-VIRAO・h--V2RAO

v…・V3RAO

Radiug Number・

60

 0           0

  ヰ            

EXCURSION

b, LAO(9E=S ltstt)

2ー   24Radius 叫umber

田 侶

o-一一 VILAO

▲『-V2LAO

v’”・V3LAO

図4 左室局所壁運動(平均±SD)

な正の相関があった(図3a).Qp/QsとEFとの関係で

は,相関はなかった(図3b). Qp/QsとLVSOとの関

係では,弱い正の相関が認められた(図3c).

 5.左室局所壁運動の検討

 V1群, V2群, V3群の各群における左室局所壁の短縮

率(%,平均±標準偏差)を図4に示した.各グラフ

とも横軸に各局所壁の部位をとり,縦軸にはその部位

における短縮率をとった.またRAO, LAOについて

前述の8つに分けた各局所壁の領域ごとの平均を各群

間において比較し,図5に短縮率の平均±標準偏差で

示した.

 V2群ではV1群と比較して有意差は認められないも

のの,RAOではinferior~apexにおいて短縮率がや

や低下していて,LAOではseptal~apexで短縮率が

やや上昇していた.V3群では, RAOではposterobasal

を除いた各部位に,LAOではapex~posterobasalに

有意差をもって短縮率の低下を認めた.

          考  察

 VSDは小児期の先天性心疾患の中で最も頻度が高

く,血行動態的には左室容量負荷疾患のひとつであ

る1).本症では乳児期早期より肺高血圧症をきたして

うっ血心不全を認めるものから,欠損孔の自然閉鎖を

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平成6年4月1日 649-(35)

60

50

  40  30  20

 EXGURSION

一一

10 VIV2V3  VlV2V3   VlV2V3  VlV2V3  VユV2V3

 1-8 9-20 21-28 29-40 4/-48

        RAO

VIV2V31-/6

LAO

VIV2V3  ソユV2V3

ユ7-25  26-48

● P<0。05

●●P<0.01

図5 各局所壁における短縮率の平均の比較(平均±SD)

     RAO 第一斜位, LAO 第二斜位

認めるものまで幅広いスペクトラムがみられ,その左

室特性を明らかにすることは治療・管理の方針を立て

る上で重要な課題である.

 VSDでは心室位での左右短絡により肺血流量が増

加して,左室に対して前負荷の増大となりLVEDVは

高値を示す3).またLVEDVは左右短絡の量が多くな

るに従い増大することが報告されている4ト5).今回の

我々の検討でも,小児では体表面積が異なるために

LVEDVそのものではなく,各症例ごとに体表面積あ

たりの正常予測値に対する割合(%EDV)を用いたが,

Qp/Qsの増加に伴い%EDVの増加を認め,有意な正

の相関が認められた.

 一方VSDのEFに関しては正常範囲にあるとする

ものや3),左右短絡量が増大するにしたがってEFは低

下するという報告がある5)6}.また前負荷の増大は一定

の限界までは心臓の充満と拍出を増加させるが,限界

以上では心室は伸展して心筋の収縮力は減少するとさ

れている7).今回の検討ではQp/Qsが増大してもPp/

Psの高くない例ではEFは保たれQp/Qsとの相関は

得られなかったが,Pp/Psの高いV3群においてはEF

の低下が有意差をもって認められ,左室のポソプ機能

の低下が疑われた.

 LVSOに関しては, V2群およびEFの低下している

V3群のいずれも比較的保たれ,またQp/Qsとは弱い

正の相関が得られた.今回の解析方法では,シネフイ

ルムより得られた拡張末期容積と収縮末期容積の差を

一回拍出量として,これに1分間の心拍数を乗じて体

表面積で補正したものをLV systolic outputと定義し

た.すなわち我々の結果は,Qp/Qsの高い例では左室

拡張末期容積の増大があり,心拍数が増加していると

いうことを反映しているものと考えられた.しかし左

右短絡量が多い例での実際の体循環血液量は,その左

右短絡量の増加のためLVSOの上昇とは並行しない

と考えられる.

 我々の用いた左室局所壁運動解析は,心収縮時の左

室心内膜面の移動量を定量化することにより左心機能

を明らかにしようとする方法であり,その動きは左室

の収縮性すなわちポンプ機能のみならず,左室の形態

の変化や部位によっては右心系の影響も受けることを

考慮しなけれぽならない8)9).

 今回の左室局所壁運動の解析ではQp/Qsの増加し

ているV2群では有意差はないものの下壁側の壁運動

の低下を認めた.また肺高血圧症を合併するV3群で

はさらに前側壁側の壁運動の低下を認め,全体的に壁

運動が低下する傾向にあった.これは前述のようにあ

る一定の前負荷の増大までは左室はポンプ機能を維持

できるが,V3群のような例ではポンプ機能が低下して

いることを示しているものと思われ,注意が必要であ

る.その他高度な左右短絡を有する左心室では左室形

態が円形化することが認められており1),特に収縮末

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650-(36) 日本小児循環器学会雑誌 第9巻 第5号

期の方が球形に近くなるとの報告もあることより’°),

左室自体の形態の変化が壁運動に影響を与えているこ

とも考えられた.また肺高血圧症を有する例では,右

室圧の上昇のために心室中隔が右側より圧排されるこ

とにより,左室形態に変化を生じることも考慮しなけ

ればならないと思われる.

 謝辞 最後に御校閲を賜わりました群馬大学医学部小児

科黒梅恭芳教授に深謝致します.

 なお本論文の要旨は第28回日本小児循環器学会総会

(1992年,東京)にて報告した.

             文  献

  1)中野博行,上田 憲,斎藤彰博:小児期心疾患にお

   ける左室の形態と機能.心臓,10:489-497,1978.

  2)Dodge, H.T., Sandler, H., Ballew, D.W. and

   Lord, J.D. Jr.: The use of biplane angiography

   for the measurement of left ventricular volume

   in man. Am. Heart J.,60:762-776,1960.

  3)Cordell, D., Graham, TP., Atwood, G.E, Boer-

   th, R.C., Boucek, R.J. and Bender, H.W.:Left

   heart volume characteristics following   ventricular septal defect closure in infancy.

   Circulation,54:294-298,1976.

  4)上田 憲,斎藤彰博,中野博行:左右短絡を伴う左

  室容量負荷群心疾患の定量的心エコー図.心臓,

  11:915-922,1979.

5)秋場伴晴,芳川正流,木野田昌彦,大滝晋介,佐藤

  哲雄:心室中隔欠損症の左右心室容積特性および

  左室心筋重量,心臓,16:1125-1131,1984.

6)Jarmakani, MM, Graham, T.P., Canent, R.V.,

  Spach, M.S. and Capp, M.P.:Effect of site of

  shunt on left heart・volume characteristics in

  children with ventricular septal defect and

  patent ductus arteriosus. Circultion, 40: 411

  -418,1969.

7)山本 勇,有村 章,小林宗光:小児における心心

  全の病態と成因.小児内科,10:667 672,1978.

8)Goto, Y., Slinker, BK. and LeWinter, M.M.:

  Nonhomogenous left ventricular regional

  shortening during acute right ventricular pres-

  sure overload. Circ. Res.,65:43-54,1989.

9)小須田貴史,曽根克彦,小林富男,広野一輝,篠原

  真,田代雅彦,田端裕之,小林敏宏:肥大型心筋症

  を合併したNoonan症候群における左室局所壁  運動の解析.日児誌,95:1192-1198,1992.

10)渡部幹夫:乳児期に開心根治手術が行われた心室

  中隔欠損症児の左室機能と形態の研究.日胸外会

  言志, 30:1135-1147,1982.

Assessment of Left Ventricular Wall Motion in Children with Ventricular Septal Defect

Takashi Kosuda, Katsuhiko Sone, Hiroshi Tabata, Kazuki Hirono, Makoto Shinohara,

            Toshihiro Kobayashi*and Tomio Kobayashi*

          Department of Pediatrics, Gunma Children’s Medical Center

         *Department of Pediatrics, Gunma University School of Medicine

  We performed cineventriculography to evaluate the regional left ventricular wall motion in 24

cases with ventricular septal defect(VSD). These patients were classified according to the degree of

left-to-right shunt into small(flow ratio<2.0)without pulmonary hypertension, large(flow ratio≧2.0)

without pulmonary hypertention, and with pulmonary hypertension groups.

   Left ventricular end-diastolic volume in the patients with VSD showed a linear increase with

increasing left-to-right shunt. The global ejection fraction in the patients with pulmonary hyperten-

sion was lower than that of the patients without pulmonary hypertention, but the systolic output in

the group with the pulmonary hypertension was preserved. There were global reductions in left

ventricular wall motion especially around anterolateral region in the patients with pulmonary

hypertention.

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