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無形資産投資とESG投資 -実証研究の現場から- 20161110持続的成長に向けた長期投資研究会 宮川 RIETI FF, 学習院大学) 資料6

無形資産投資とESG投資10.3% 0.0% 2.0% 4.0% 6.0% 8.0% 10.0% 12.0% 1980‐90 1990-2000 2000‐2010 (出所)APO Productivity Databook 中国の経済成長の要因分解

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無形資産投資とESG投資-実証研究の現場から-

2016年11月10日

持続的成長に向けた長期投資研究会

宮川 努

(RIETI FF, 学習院大学)

資料6

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目次

1.何故いま投資が問題なのか

2.投資行動の変容

3.無形資産投資の計測

4.無形資産と企業価値

5.ESG投資(特に環境関連投資)と企業価値

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1.何故いま投資が問題なのか(1)

• アベノミクスは、雇用面や株価の面では成果をあげているが、民間消費や民間設備投資の面では、過去の回復期に及んでいない。

• 民間消費は、消費税増税の影響が長引いているが、設備投資に関しては、何故か大胆な金融緩和政策からの波及効果が見られない→将来の需要減?円安から輸出増を経て国内投資への経路が働かない?

• 明確なことは、従来型投資の資本収益率の低下(長期停滞の特徴)。→実質金利の低下でも十分な投資増は望めない。

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純資本収益率(資本の限界生産力-資本減耗率)の推移

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1.何故いま投資が問題なのか(2)

• しかし、投資が増えなければ、景気回復だけでなく、十分な経済成長も望めない。

• 人口減少に伴う労働力の伸びの低さ(または減少)が注目されているが、国際的に見れば、どの国も労働力の経済成長への寄与は小さい。

• 2000年代に入ってからの米中韓との経済成長の差は、資本蓄積と技術進歩率の差が大きい。

• ただし、企業はすでに従来型の投資形態に囚われていない。→より広範な投資を見ることにより違った風景が見えてくる。

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1980‐90 1990-2000 2000‐2010

(出所)JIPデータベース

日本の成長要因分解

TFP(生産性)の寄与

資本投入増加の寄

労働投入増加の寄

GDP成長率

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1980‐90 1990-2000 2000‐2010

(出所)APO Productivity Databook

米国の成長要因分解

TFP(生産性)の寄与

資本投入増加

の寄与

労働投入増加

の寄与

GDP成長率

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1980‐90 1990-2000 2000‐2010

(出所)APO Productivity Databook

中国の経済成長の要因分解

TFP(生産性)の寄与

資本投入増加の寄与

労働投入増加の寄与

GDP成長率

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1980‐90 1990-2000 2000‐2010

(出所)APO Productivity Databook

韓国の経済成長の要因分解

TFP(生産性)の寄与

資本投入増加の寄与

労働投入増加の寄与

GDP成長率

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2.投資行動の変容(1)

・資産構成の多様化:企業は、従来型の有形固定資産以外に資産を移動させている(法人企業統計)。(i) 利益剰余金:272兆円(総資産比20.3%、2007年度末)→367兆円(同23.9%、2015年度末)(ii) 現・預金:134兆円(同10%、2007年度末)→181兆円(同11.8%、2015年度末)(iii) その他有形固定資産:264兆円(同19.7%、2007年度末)→235兆円(同15.3%、2015年度末)(iv) 投資。その他の資産:247兆円(同18.4%、2007年度末→389兆円(同25.3%、2015年度末)

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2.投資行動の変容(2)

・(iv)の中には、M&Aも含まれ、海外へのM&A投資は大きく伸びている(国際協力銀行のアンケート調査(2015年度)によれば、M&Aを重要な経営手段と認識している企業は、76.8%(大企業では81.9%)にのぼる)。

・OECD報告書は、有形資産よりも無形資産の蓄積が生産性をより向上させると報告しており、またGDP統計にも徐々に無形資産投資が含まれるようになっている。

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出所:月間「レコフ」

国内から海外へのM&A(10億円)

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3.無形資産投資の計測(1)

• 設備投資自体も、新しい技術が採用されているので、それが実施されれば、ある程度技術進歩が生じ、生産性が上昇する。しかし、近年の技術革新から、建物や機械投資が生産性を向上させる効果は小さくなっている。→設備投資の質や種類が重要になってきている。

• 技術革新の要因:1990年代までは研究開発支出→しかし、この考え方は1990年代以降のIT革命によって変化。

• IT革命の特徴:従来低生産部門だったサービス業の生産性が向上。ただし、IT投資だけでは、生産性を向上させることはできず、より広範な無形資産の補完的役割が必要。 ’Only when they made intangible investments to complement their IT investments did productivity growth really take off’(Economic Report of the President 2007)

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3.無形資産投資の計測(2)

• 今世紀に入ってからは、研究開発投資だけでなく、それを包含するより包括的な無形資産投資の計測(見える化)やそれを利用した実証分析が広がる。

• GDP統計:93SNAで、ソフトウエア、資源採掘権、08SNAで研究開発支出が資本化→日本では、すでにソフトウエア投資は計上されており、本年12月から研究開発支出が資本化される。

• 研究者の間では、Conference BoardのCarol Corrado達が計測した無形資産投資の概念が広がる。→OECDの定義と同じで、GDPの勘定よりも、会計上の概念よりも広い。

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無形資産の分類比較

2008SNA Corrado, Hulten, and Sichel

1.コンピューター・ソフトウエア及びデータベース

1.情報化資産

 コンピューター・ソフトウエア

 データベース

2.資源開発権 2.革新的資産

 資源開発権

3.研究開発  科学的研究開発

4.娯楽、文芸、芸術的創作物  著作権・ライセンスなど

5.その他の知的所有権  デザイン及び非科学的研究開発

3.経済的競争能力

 ブランド資産

 企業特殊的人的資本

 組織改革費用

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3.無形資産投資の計測(3)

• CHSの計測方法を日本に適用(主要データは、http://www.rieti.go.jp/jp/database/JIP2015/index.htmlで公表)

1. Computerized information (情報化資産)ソフトウエア及びデータベース→国民経済計算、産業連関表、JIPデータベース、国勢調査、情報処理実態調査などから推計

2. Innovative property (革新的資産)科学的及び非科学的研究開発、資源開発、著作権、ライセンス契約、金融新商品の開発など→国民経済計算、科学技術調査報告、 JIPデータベースなどから推計

3. Economic competencies (経済的競争能力)ブランド資産、企業特殊的人的資本、組織改編費用→ JIPデータベース、就労条件総合調査、法人企業統計調査などから推計

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3.無形資産投資の計測(4)

• 日本の無形資産投資総額は、2010年代に43兆円程度で推移。全体の投資額は、世界金融危機後減少。

• 無形資産項目の中で、ソフトウエア投資は、2008年をピークに減少。金額にして10兆円程度。

• 研究開発投資も、2007年の14.5兆円をピークに減少している。(今回の国民経済計算の値よりは若干少ない)

• 著作権、デザインなど、その他の革新的投資は高水準が続いているが、これも最近は減少気味。

• ブランド投資は、長らく5兆円程度で推移したが、2009年からは4兆円台。

• 人材育成・組織再編投資は、1998年の6兆円をピークに減少を続けており、2012年はピーク時の6割程度。

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兆円無形資産投資の推移

情報化投資 R&D投資 その他の革新的投資 ブランド投資 人材育成・組織改編投資

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3.無形資産投資の計測(5)

• 無形資産投資/GDP比率について欧米諸国と比較すると、2000年代の日本は9%程度で、ドイツ並み。米国や英国からは大きく下回る。

• 無形資産投資/有形資産投資比率についても欧米諸国と比較すると、日本は、依然有形資産投資を重視しているせいか、2000年代で5%と米英だけでなく、フランスやドイツよりも低い比率となっている。

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3.無形資産投資の計測(6)

• 無形資産投資の中で、低迷しているのは、人材投資:IT投資の動きと逆方向に大きく低下している。2012年でピーク時(1991年)の17%→無形資産投資の本来の役割であるIT投資との補完性が働いていない(韓国との比較では大きな違い)。

• IT化は、国際競争力の維持のために必須だが、その補完的要素でかつ長期的な蓄積を必要とする、人材や組織投資を怠ってきたため、短期的にIT投資で収益を出すことは至難。→こうした状況下で企業が選択しているのがM&A(既存の人材と組織を買い取る)。

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2011

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(出所)JIPデータベース及び筆者推計

人材投資とIT投資

人材投資(製造業) 人材投資(サービス業) IT投資

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人材育成投資(OJT以外)の国際比較(GDP比)

1995‐2000 2001‐2010

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4.無形資産と企業価値(1)

• 無形資産は企業価値を高めるのか(Miyagawa, Takizawa, and Edamura (2015), Kawakami and Asaba (2015))

• 企業価値の測り方(1):通常のトービンのQ=(株式時価総額+コマーシャルペーパー+社債+長期借入金)/((1‐有形資産の償却率)*有形資産の再取得価格+棚卸資産-短期借入金)

• 企業価値の測り方(2):無形資産を含むトービンのQ=(株式時価総額+コマーシャルペーパー+社債+長期借入金)/((1-有形資産の償却率)*有形資産の再取得価格+(1-無形資産の償却率)*無形資産の再取得価格+棚卸資産-短期借入金)

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4.無形資産と企業価値(2)

• 標準的なTobinのQに比べ、無形資産を含むTobinのQは、平均値が1に近づく。→株式市場は、無形資産の価値を評価している。→株価の上昇からTobinのQの上昇を経て、従来型の有形資産投資の増加につながる経路は必ずしも妥当しない。

• 特にIT関連産業に属するTobinのQは、無形資産を含むとTobinのQの値が大きく低下する。

• このため、標準的なTobinのQの分布に比べ無形資産を含むTobinのQの分布は収縮する。

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標準的なトービンのQ (全産業)サンプル期間:2000年度~2009年度平均値 1.404中央値 1.056最小値 0.207最大値 6.933標準偏差 1.146観測数 2939

標準的なトービンのQ (IT関連産業)サンプル期間:2000年度~2009年度平均値 1.710中央値 1.262最小値 0.207最大値 6.625標準偏差 1.304観測数 1089

標準的なトービンのQ (非IT関連産業)サンプル期間:2000年度~2009年度平均値 1.224中央値 0.944最小値 0.208最大値 6.933標準偏差 1.000観測数 1850

無形資産を含むトービンのQ (全産業 )サンプル期間:2000年度~2009年度平均値 0.990中央値 0.774最小値 0.142最大値 6.238標準偏差 0.742観測数 2939

無形資産を含むトービンのQ (IT関連産業サンプル期間:2000年度~2009年度平均値 1.129中央値 0.880最小値 0.162最大値 5.424標準偏差 0.802観測数 1089

無形資産を含むトービンのQ (非IT関連産業)サンプル期間:2000年度~2009年度平均値 0.908中央値 0.711最小値 0.142最大値 6.238標準偏差 0.692観測数 1850

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標準的なTobin’s Qと無形資産を含むTobin’s Qの分布比較

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5.ESG投資と企業価値(1)

• Friedman (株主主権型企業)vs. Tirole(ステークホルダー型企業)

• ESG投資は、ステークホルダー型企業を前提としなければ、ESG投資が企業価値を上昇させるという根拠を見出すことは困難。

• また、すべてのESG投資が、企業価値の向上に寄与するわけではない。例えば、企業の社会的貢献が、労働者に一層の労働意欲をもたらし、長期的に企業のパフォーマンス向上に役立つということがなければ、ESG投資と企業価値の向上が両立することは難しい。

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5.ESG投資と企業価値(2)

• 環境投資と企業価値(枝村・宮川・内山(2016))→環境投資の内容によって、企業価値に与える影響が異なる。

• 環境関連研究開発投資→企業価値の向上に寄与する。また、広告費をかけることで、より企業価値が増す場合もある。

• しかし、環境保全投資や社会活動投資などは、必ずしも企業価値を高める方向には働いていない。

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環境関連投資と企業パフォーマンストービンのq ROA ROE

環境R&D + +環境保全投資 (+)社会活動投資 (+)環境R&DX広告費 + -

環境保全投資X広告費 - -環境保全投資X社会活動投資 - -

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5.ESG投資と企業価値(3)

• ESG投資の中で、どのような投資が企業価値を高めるかを検証する方法(Propensity Score Matching法)。

• 各ESG投資を行った企業とそうでない企業について、属性(企業規模、財務指標など)が一致する企業を選び、それらの企業について、ESG投資後、企業価値、生産性、ROA、ROEなどに差が生じるかどうかを調べる。

• 田中・宮川(2011)は、大型投資(前期資本ストックの20%以上の投資)について、PSMを実施したところ、製造業では、実施した企業の労働生産性やROAやROEが実施しない企業よりも増加することを実証している。

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御清聴ありがとうございました。