27
白血球目視分類の共用基準範囲案 目的 好中球比率や好中球数は基本的検査であるが,好中球の形態学的判断基準や基準範 囲は未だ標準化が達成されていない。従来,日本臨床衛生検査技師会(JAMT)の 「血液形態検査に関する勧告法」(1996年;日臨技案)と日本検査血液学会 JSLH)の「好中球桿状核球・分葉核球」の分類標準(2003年;学会案)の二つの 分類基準が併存してきたが,その採用率は日臨技案約80%,学会案1020%と報告さ れている。その結果,採用基準の違いによって,桿状核球の値が基準範囲も含め施設 間で明らかに異なることが判明し,少なからぬ混乱を招いて来た。この現状を打開す べく201310月,JSLH 血球形態標準化小委員会は好中球桿状核球と分葉核球の鑑別 に関して,日臨技案と学会案を折衷し日常業務形態に即した新しい分類基準(新学会 案)を提唱した。201312月,JAMT JSLH は新学会案の普及活動を協同で行う 方針で合意し,この目的のためJAMT 6名,JSLH 5名,計11名の委員からなる「血球 形態検査標準化合同ワーキンググループ(血球形態標準化WG)」を新たに結成し, 2014年度より活動を開始した。血球形態標準化WGでは好中球系細胞の新分類基準に 基づき健常者を対象にノンパラメトリック法より得られた白血球目視分類の共用基準 範囲を設定した。 この白血球目視分類の共用基準範囲案を公表し,その利用に係る各種学術団体,業 界団体に広く意見を求めるに至りました。基準範囲の検査数値のみならず,その設定 方法,用語に至るあらゆる点に関して,ご意見を歓迎いたします。関係諸団体の皆様 には今回の趣旨に賛同いただき,ご協力をお願い申し上げます。 なお,以下に掲載します論文等は医学検査 Vol.64 No.6 2015に投稿された特集号 『末梢血標本における好中球系細胞の新しい判定基準について』のため,それぞれの 論文において重複して記載されたものも存在します。

白血球目視分類の共用基準範囲案 - JCCLS白血球目視分類の共用基準範囲案 目的 好中球比率や好中球数は基本的検査であるが,好中球の形態学的判断基準や基準範

  • Upload
    others

  • View
    5

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 白血球目視分類の共用基準範囲案 - JCCLS白血球目視分類の共用基準範囲案 目的 好中球比率や好中球数は基本的検査であるが,好中球の形態学的判断基準や基準範

白血球目視分類の共用基準範囲案

目的

好中球比率や好中球数は基本的検査であるが,好中球の形態学的判断基準や基準範

囲は未だ標準化が達成されていない。従来,日本臨床衛生検査技師会(JAMT)の

「血液形態検査に関する勧告法」(1996年;日臨技案)と日本検査血液学会

(JSLH)の「好中球桿状核球・分葉核球」の分類標準(2003年;学会案)の二つの

分類基準が併存してきたが,その採用率は日臨技案約80%,学会案10~20%と報告さ

れている。その結果,採用基準の違いによって,桿状核球の値が基準範囲も含め施設

間で明らかに異なることが判明し,少なからぬ混乱を招いて来た。この現状を打開す

べく2013年10月,JSLH 血球形態標準化小委員会は好中球桿状核球と分葉核球の鑑別

に関して,日臨技案と学会案を折衷し日常業務形態に即した新しい分類基準(新学会

案)を提唱した。2013年12月,JAMT とJSLH は新学会案の普及活動を協同で行う

方針で合意し,この目的のためJAMT 6名,JSLH 5名,計11名の委員からなる「血球

形態検査標準化合同ワーキンググループ(血球形態標準化WG)」を新たに結成し,

2014年度より活動を開始した。血球形態標準化WGでは好中球系細胞の新分類基準に

基づき健常者を対象にノンパラメトリック法より得られた白血球目視分類の共用基準

範囲を設定した。

この白血球目視分類の共用基準範囲案を公表し,その利用に係る各種学術団体,業

界団体に広く意見を求めるに至りました。基準範囲の検査数値のみならず,その設定

方法,用語に至るあらゆる点に関して,ご意見を歓迎いたします。関係諸団体の皆様

には今回の趣旨に賛同いただき,ご協力をお願い申し上げます。

なお,以下に掲載します論文等は医学検査 Vol.64 No.6 2015に投稿された特集号

『末梢血標本における好中球系細胞の新しい判定基準について』のため,それぞれの

論文において重複して記載されたものも存在します。

Page 2: 白血球目視分類の共用基準範囲案 - JCCLS白血球目視分類の共用基準範囲案 目的 好中球比率や好中球数は基本的検査であるが,好中球の形態学的判断基準や基準範

目 次

1.好中球系細胞の新分類基準と白血球目視分類の共用基準範囲案(概要)

2.末梢血標本における好中球系細胞の新しい判定基準について

好中球系細胞標準化の経緯と血球形態標準化合同ワーキンググループにつ

いて

1)はじめに

2)今までの経緯と課題

3)新しい分類基準(新学会案)の提唱

4)課題への取り組み-合同ワーキンググループの発足について-

5)合同ワーキンググループの活動目標と進捗状況

6)結語

7)文献

3.末梢血標本における好中球系細胞の新しい判定基準について

末梢血液における白血球目視分類の共用基準範囲の設定

1)背景

2)目的

3)対象および方法

基準個体(健常対象者)

除外基準

基準範囲設定のための調査票

採血条件

対象項目および測定条件

好中球系細胞の標準画像および鏡検者間の精度管理調査

統計処理

4)結果

基準個体

鏡検者間の精度管理調査

男女,年齢およびBMI の変動要因評価

施設別・性別CBC および白血球目視分類の分布

白血球目視分類および装置分類の分布

基準範囲の設定

生活習慣要因の個体間変動

本提示基準範囲と学会等の基準範囲との比較

Page 3: 白血球目視分類の共用基準範囲案 - JCCLS白血球目視分類の共用基準範囲案 目的 好中球比率や好中球数は基本的検査であるが,好中球の形態学的判断基準や基準範

5)考察

6)結語

7)文献

4.末梢血標本における好中球系細胞の新しい判定基準について

バーチャルスライド・健診検体・SIRS 症例を用いたband,seg 新分類基

準の検証

1)はじめに

2)成熟好中球の新分類基準

3)新分類基準の臨床的応用

新分類基準を用いた健診検体標本のカウント

新分類基準を用いたバーチャルスライド

新分類基準を用いたフォトサーベイ

SIRS 症例の検証

新分類基準を用いた検証

症例提示

4)文献

Page 4: 白血球目視分類の共用基準範囲案 - JCCLS白血球目視分類の共用基準範囲案 目的 好中球比率や好中球数は基本的検査であるが,好中球の形態学的判断基準や基準範

p.1

2015年 9月 1日

日本臨床衛生検査技師会・日本検査血液学会

血球形態標準化ワーキンググループ

好中球系細胞の新分類基準と白血球目視分類の共用基準範囲案

好中球桿状核球と分葉核球の目視分類については,日本臨床衛生検査技師会の「日臨技勧告

法」および日本検査血液学会血球形態標準化小委員会の「委員会基準」が提唱され,これら 2

つの分類基準が併存しているため各施設において少なからず混乱を招いている。日本臨床衛生

検査技師会と日本検査血液学会は,この現状を打開すべく血球形態標準化ワーキンググループ

(WG)を新たに結成した(2013年 12月)。血球形態標準化 WG は日本検査血液学会血球形

態標準化小委員会より提唱された好中球系細胞の新分類基準(2013年 11月)に基づき,健常

者を対象にノンパラメトリック法より得られた白血球目視分類の共用基準範囲を設定した(医

学検査 64巻 6号参照)。すなわち,好中球桿状核球 0.5~6.5%,好中球分葉核球 38.0~

74.0%,リンパ球 16.5~49.5%,単球 2.0~10.0%,好酸球 0.0~8.5%,好塩基球 0.0~2.5%

(以上の値は各分画の絶対数の基準には該当しない)。

好中球系細胞の新分類基準

桿状核球,分葉核球の目視鑑別は,適切な塗抹染色標本を用いて原則として倍率 400倍の鏡検

で判定する。なお核クロマチンはいずれも粗剛である。

桿状核球:直径 12~15μm,核の長径と短径の比率が 3:1以上,かつ,核の最小幅部分が最

大幅部分の 1/3以上で長い曲がった核を持つ。

分葉核球:直径 12~15μm,核は 2~5個に分葉する。分葉した核の間は核糸でつながるが,

核の最小幅部分が十分に狭小化した場合は核糸形成が進行したとみなして分葉核球と判定す

る。実用上 400倍にて,核の最小幅部分が最大幅部分の 1/3未満,あるいは,赤血球直径の

1/4(約 2μm)未満であれば核糸形成とみなす。また,核が重なり合って分葉核球か桿状核球

か明確でないときは分葉核球と判定する。

白血球目視分類の基準範囲設定法

基準個体:健常者は血球形態標準化 WG 担当者の施設で募集し,全体で 939名(男性 417

名,女性 522名),年齢は全体で平均 40.8(18~67)歳,男性では 42.1(20~67)歳,女

性では 39.8(18~67)歳であった。

基準個体除外基準:「日本における主要な臨床検査項目の共用基準範囲案」(日本臨床検査標

準化協議会;JCCLS)を用いた。1)BMI≧28,2)飲酒量(エタノール換算)≧75g/日

(目安としてビール 1500mL/日,日本酒 3合/日,焼酎 330mL/日,ワイン 540mL/

日),3)喫煙>20本/日,4)慢性疾患で定期的に服薬,5)妊娠中または分娩後1年以

Page 5: 白血球目視分類の共用基準範囲案 - JCCLS白血球目視分類の共用基準範囲案 目的 好中球比率や好中球数は基本的検査であるが,好中球の形態学的判断基準や基準範

p.2

内,6)入院を要する急性疾患回復後あるいは術後 2週間以内,7)HBV,HCV,HIVキャ

リア,これ以外に,8)発熱,9)WBC,RBC,Hb,Htおよび PLT値が JCCLS共用基準

範囲の mean±3SDの範囲を超える基準個体を除外した。

採血条件と検査項目および基準個体の妥当性:EDTA-2K 採血管(CBC用 2mL)を用い,少

なくとも 10分間座位安静後に採血した。検査項目はWBC,RBC,Hb,Ht,PLT,網赤血

球数,白血球の自動分類と目視分類。健常者の白血球分画を求めるにあたり,CBC値の基

準範囲を検証した。その結果,ノンパラメトリック法より得られた基準個体の測定値の中央

95%区間は,山本らが共用基準範囲として JCCLSから報告した値(2013年)とほぼ一致

しており今回の基準個体の妥当性を確認した。

好中球系細胞の標準画像および鏡検者間の精度管理調査

目視分類は各施設内で作製した普通染色塗抹標本を用いて,認定血液検査技師またはその指

導のもと血液検査を担当する技師が好中球系細胞の新分類基準に従い 400倍視野で 200個分類

した。目視分類鏡検者には事前に好中球桿状核球(band),分葉核球 (seg)について血球形

態標準化 WG 全員よりコンセンサスの得られた標準画像 252細胞を配布し,鏡検者間差の是正

に努めた。

標準画像に加え鏡検者間差の実態と要因を分析する目的で精度管理調査を行った。方法は

band,seg について典型的な細胞および分類が微妙な細胞,合計 60細胞画像を鏡検者に配布

し,細胞判定結果について統計学的解析を行った。その成績から,明らかな band 高値鏡検者

には“核の重なり(キノコ状)がみられる細胞を segに分類する”などの勧告を行った。

ノンパラメトリック法による白血球目視分類の共用基準範囲

n 2.50% 中央値 97.50%

 band 885 0.5 2.0 6.5

 seg 885 38.0 57.0 74.0

 lymph 885 16.5 32.0 49.5

 mono 885 2.0 5.0 10.0

 eosino 875 0.0 2.0 8.5

 baso 854 0.0 1.0 2.5

目視分類

項目男女共通

Page 6: 白血球目視分類の共用基準範囲案 - JCCLS白血球目視分類の共用基準範囲案 目的 好中球比率や好中球数は基本的検査であるが,好中球の形態学的判断基準や基準範

特集論文

パネルディスカッション(日本検査血液学会共催)末梢血標本における好中球系細胞の新しい判定基準について

好中球系細胞標準化の経緯と血球形態標準化合同ワーキンググループについて

渡邉眞一郎 1) 坂場 幸治 2) 山本 慶和 3) 通山  薫 4)

大畑 雅彦 5) 三島 清司 6) 久保田 浩 7) 西浦 明彦 8)

1) 藤沢市民病院臨床検査科(〒 251-8550 神奈川県藤沢市藤沢 2-6-1) 2) ピーシーエルジャパン病理・細胞診センター細胞診検査部 3) 天理医療大学医療学部臨床検査学科 4) 川崎医科大学検査診断学教室 5) 静岡赤十字病院検査部 6) 島根大学医学部附属病院中央検査部 7) 大阪市立大学医学部附属病院中央臨床検査部 8) 国立病院機構九州医療センター臨床検査部

要 旨

好中球比率や好中球数は基本的検査であるが,好中球の形態学的判断基準や基準範囲は未だ標準化が達成されていない。従来,日本臨床衛生検査技師会(JAMT)の「血液形態検査に関する勧告法」(1996 年;日臨技案)と日本検査血液学会(JSLH)の「好中球桿状核球・分葉核球」の分類標準(2003 年;学会案)の二つの分類基準が併存してきたが,その採用率は日臨技案約 80%,学会案 10~20%と報告されている。その結果,採用基準の違いによって,桿状核球の値が基準範囲も含め施設間で明らかに異なることが判明し,少なからぬ混乱を招いて来た。この現状を打開すべく 2013 年 10月,JSLH 血球形態標準化小委員会は好中球桿状核球と分葉核球の鑑別に関して,日臨技案と学会案を折衷し日常業務形態に即した新しい分類基準(新学会案)を合意した。2013 年 12 月,JAMT と JSLH は新学会案の普及活動を協同で行う方針を合意し,この目的のため JAMT 6 名,JSLH 5 名,計 11 名の委員からなる「血球形態検査標準化合同ワーキンググループ」(合同 WG)を新たに結成し,2014 年度より活動を開始した。合同 WG の目標は以下の通りである。1)新学会案の基礎的検討と臨床的妥当性を検証する。2)その成果をもとに新学会案準拠アトラスを作成し,JAMT 各支部の形態学研修を通じて全国的に普及させる。3)精度管理調査や教科書への新分類法採用により確立した分類法とする。現在,第 1 目標は満足すべき成果を得て,第 2 目標を推進しているところである。

キーワード好中球桿状核球,好中球分葉核球,白血球分類,標準化,基準範囲

はじめに

末梢血液形態検査は日常診療活動の根幹をなす基本的検査である。特に,好中球比率や好中球数は炎症性疾患の診断・経過観察・治療効果判定や癌化学

療法時の好中球減少の判定などに必須の項目である。また,好中球桿状核球と分葉核球の鑑別は左方移動の判定に重要で,幼若顆粒球(桿状核球)10%以上は SIRS の診断基準(1992 年) 1 )に採用されている。一方,好中球の形態学的判定基準に関しては以前から議論されてきたが,いまだ判定基準の標準化

(平成 27 年 10 月 8 日受付)

医学検査 Vol.64 No.6 2015 639

p.3

bamba
長方形
bamba
長方形
Page 7: 白血球目視分類の共用基準範囲案 - JCCLS白血球目視分類の共用基準範囲案 目的 好中球比率や好中球数は基本的検査であるが,好中球の形態学的判断基準や基準範

が達成されておらず,基準範囲も共有されていない。日本臨床衛生検査技師会(JAMT)と日本検査血液学会(JSLH)は,この現状を打開すべく血球形態検査の標準化普及活動を協同で行う方針で合意し,活動を開始した。その経緯とその後の進捗状況を報告する。

今までの経緯と課題

JAMT の血液形態検査標準化ワーキンググループは,1996 年に「血液形態検査に関する勧告法」(日臨技案)を公表し,その中で好中球桿状核球と分葉核球の分類基準案を示した 2 )。その後,新たに成立した JSLH の標準化委員会に血球形態標準化小委員会が設置され,上記 JAMT ワーキンググループの検討内容を引き継いだ。そして,2003 年に「好中球桿状核球,分葉核球の鑑別について」(学会案)を発表し 3 ), 4 ),新しい好中球系細胞の分類基準として注目された。

しかしながら,その後この二つの分類基準は併存し,どちらの基準を採用するかについては各施設の判断に任されてきた。その結果,採用した分類基準の違いによって,桿状核球の値が基準範囲も含め施設間で明らかに異なることが判明し,少なからぬ施設に混乱を招いて来た現状があった。そもそも学会案は日臨技案の改良版として提案されたはずであるが,その採用率は日臨技案約 80%,学会案 10~20%と報告され(Figure 1) 5 ),広く浸透するに至らなかった。

この問題の解決が困難な理由の一つは,桿状核球と分葉核球を明確に区別することが日常業務として

12.7%2.4%1.8%

83.0%

検査血液学会改定案

日臨技勧告法

好中球の分類におけるアンケート調査

施設の独自基準

その他

好中球分類基準のアンケート調査(平成 22 年度日臨技精度管理調査報告より)

Figure 1 

実施している顕微鏡観察では難しいため,細胞判定の個人差が大きいことにある。すなわち,3 次元構造を持つ物体(血球)を 2 次元で観察し,判定する限界があると考えられる(特に,核の重なり)。

一方,自動血球分析装置による自動白血球 5 分類(5-diff)や炎症マーカーの普及により,日常臨床における左方移動の意義が限定されてきた。さらに最近,国際的には好中球を区分しない方向性が打ち出された(ICSH recommendations, 2015) 6 )。すなわち,

「日常業務において,観察者によるバラツキが大きい好中球桿状核球は報告せず,すべて好中球分葉核球として報告する。もし,桿状核球の増加が塗抹標本で認められたら適切にコメントする。」というものである。

新しい分類基準(新学会案)の提唱

JSLH 血球形態標準化小委員会(Table 1)は従来の学会案の普及が進まないことを憂慮し,好中球桿状核球と分葉核球の目視区分について日臨技案と学会案を折衷するかたちで新案(Table 2)を合意した

(2013 年 11 月)。

課題への取り組み―合同ワーキンググループの発足について―

JAMT と JSLH は,成熟好中球の区分(分類)法を標準化する意義を再確認し,現状を打開するために血球形態検査の標準化普及活動を協同で行う方針で合意した(2013 年 12 月)。具体的には JSLH より5 名,JAMT より 6 名,計 11 名の委員からなる「血球形態検査標準化合同ワーキンググループ」(合同WG)(Table 3)を新たに結成し,2014 年度より活動を開始した。

合同ワーキンググループの活動目標と進捗状況

合同 WG の目標は以下の通りである。1)新学会案の基礎的検討と臨床的妥当性を検証する。2)その成果をもとに新学会案準拠アトラスを作成し,JAMT各支部の形態学研修を通じて全国的に普及させる。

640 医学検査 Vol.64 No.6 2015

p.4

bamba
長方形
Page 8: 白血球目視分類の共用基準範囲案 - JCCLS白血球目視分類の共用基準範囲案 目的 好中球比率や好中球数は基本的検査であるが,好中球の形態学的判断基準や基準範

3)精度管理調査や教科書への新分類法採用により確立した分類法とする。

まず,基礎的検討として好中球桿状核球と分葉核球の基準範囲,すなわち末梢血白血球分類の基準範

血球形態標準化小委員会メンバー(JSLH)*渡邉眞一郎 藤沢市民病院*通山  薫 川崎医科大学 宮地 勇人 東海大学医学部 三ツ橋雄之 慶應義塾大学医学部*大畑 雅彦 静岡赤十字病院 志賀 修一 京都大学医学部病院*三浦 玲子 北楡会札幌北楡病院*三島 清司 島根大学医学部附属病院 新保  敬 獨協医科大学病院 野中 恵美 大分記念病院*坂場 幸治 ピーシーエルジャパン病理・細胞診センター 稲葉  亨 京都府立医科大学*久保田 浩 大阪市立大学医学部附属病院 土屋 達彦 けいゆう病院(オブザーバー)

*血球形態検査標準化合同 WG メンバー

Table 1 

新しい好中球目視区分(分類)法桿状核球,分葉核球の目視鑑別は,適切な塗抹染色標本を用いて原則として倍率 400 倍の鏡検で判定する。なお核クロマチンはいずれも粗剛である。桿状核球:  直径 12~15 μm,核の長径と短径の比率が 3:1 以上かつ核の

最小幅部分が最大幅部分の 1/3 以上で長い曲がった核を持つ。

分葉核球:  直径 12~15 μm,核は 2~5 個に分葉する。分葉した核の間

は核糸でつながるが,核の最小幅部分が十分に狭小化した場合は核糸形成が進行したとみなして分葉核と判定する。

  実用上 400 倍にて,核の最小幅部分が最大幅部分の 1/3 未満,あるいは赤血球径の 1/4(約 2 μm)未満であれば核糸形成とみなす。また,核が重なり合って分葉核球か桿状核球か明確でないときは分葉核球と判定する。

Table 2 

合同ワーキンググループのメンバー日本検査血液学会(JSLH):

通山  薫 副理事長 標準化担当理事渡邉眞一郎 標準化委員会委員長大畑 雅彦 標準化担当理事 標準化委員会副委員長三浦 玲子 血球形態標準化委員三島 清司 血球形態標準化委員

日本臨床衛生検査技師会(JAMT):坂場 幸治 検査値標準化委員岩上みゆき 執行理事 検査値標準化委員会担当理事山本 慶和 日臨技血球形態 WG 委員西浦 明彦 理事 検査値標準化委員東  克巳 日臨技血球形態 WG 委員久保田 浩 日臨技血球形態 WG 委員

Table 3 

囲設定を開始した。合同 WG メンバーの施設で健常者を対象とした基準範囲設定の研究計画書(各施設共通の)を倫理審査会へ提出し,7 施設で認可された。認可された 7 施設は職員健診等の機会を利用して,研究計画書にしたがい同意を得た職員から採血し,血算と末梢血塗抹標本による白血球分類を実施した。その結果,939 名の基準個体から成績を得ることが出来た。

白血球分類を実施するに当たり,事前に新学会案に基づく好中球の基準細胞画像約 250 枚を実施 7 施設に配布して,実務担当者に新分類基準の周知と確認を行った。その後,各施設が集めた基準個体の末梢血塗抹標本を対象に,桿状核球および分葉核球比率を含む白血球目視分類の基準範囲を設定する作業を開始した。これは新学会案の基本的な妥当性を検証する重要な作業と考えた。すなわち,新学会案を用いた目視分類で好中球桿状核球比率が 7 施設間で大きくばらつかないことが大前提となるからである。この前提が確認されたうえで基準範囲が確定すれば,新学会案を採用した施設が新しい好中球の区分(分類)法を適切に実施できているか否かを検証する物差しとして,この基準範囲を利用できると考えられる。すなわち,健常者を対象に新学会案で白血球分類を実施し,その成績がこの基準範囲を逸脱しなければ,新学会案による好中球目視区分は適切に実施できていると判断できる。もし,大きく逸脱するようならば,好中球目視区分法の基準細胞画像を参照して自施設の目視区分法を見直していただきたい。実際得られた成績は各施設のバラツキが少なく満足すべきものであった。基準範囲設定の具体的手順やその妥当性については山本論文を参照されたい 7 )。なお,設定された白血球目視分類の基準範囲(ノンパラメトリック法)は,桿状核好中球 0.5~6.5%,分葉核好中球 38.0~74.0%,リンパ球 16.5~49.5%,単球 2.0~10.0%,好酸球 0~8.5%,好塩基球 0~2.5%,であった。

次に,新学会案の臨床的妥当性等については静岡赤十字病院が担当し,多施設によるバーチャルスライド(CML 症例)を用いた顆粒系細胞の分類,幼若顆粒球(桿状核球)10%以上が診断基準となっている SIRS 症例について臨床病態との整合性検証が実施された。その結果,新学会案は良好な成績を得た。

医学検査 Vol.64 No.6 2015 641

p.5

bamba
長方形
Page 9: 白血球目視分類の共用基準範囲案 - JCCLS白血球目視分類の共用基準範囲案 目的 好中球比率や好中球数は基本的検査であるが,好中球の形態学的判断基準や基準範

具体的には山口論文を参照されたい 8 )。現在,以上の第 1 目標は満足すべき成果を得て,

次の第 2 目標「JAMT 各支部の形態学研修による普及活動」が順次進行しているところである。さらに,第 3 目標達成のため,設定した白血球分類基準範囲を共用基準範囲として採用いただくため日本臨床検査標準協議会(JCCLS)および関連団体へ働きかけていく予定である。

結 語

好中球桿状核球と分葉核球の分類基準標準化は長年の懸案事項であった。この度,日本臨床衛生検査技師会と日本検査血液学会が協同して合同ワーキンググループを結成し,本事案の解決にあたり一定の成果を得た。新好中球区分(分類)法の全国的普及・展開は今後の作業となる。この成功には JAMT および JSLH 会員諸姉兄の絶大なご支援が必要である。新分類法の全国的普及が達成されれば,確立した分類法として教科書等に採用・記載されると確信する。

■文献

 1) Bone RC et al.: “Difinitions for sepsis snd organ faiure andguidelines for the use of innovative therapies in sepsis,” Chest,1992; 101: 1644–1655.

 2) 日本臨床衛生検査技師会血液形態検査標準化ワーキンググループ:「血液形態検査に関する勧告法」,医学検査,1996;45: 1659–1671.

 3) 坂場 幸治,他:「血液形態分野の標準化」,日本検査血液学会雑誌,2010; 11: 427–433.

 4) http://www.jslh-sc.com/classify_nl.html 5) 安藤 秀美,他:「血液検査部門④血液検査サーベイ報告」,平

成 22 年度日本臨床衛生検査技師会精度管理調査報告書,2010,1–66.

 6) Palmer L et al.: “ICSH recommendation for the standardization ofnomenclature and grading of peripheral blood cell morphologicalfeatures,” Int J Lab Hematol, 2015; 37: 287–303.

 7) 山本 慶和,他:「末梢血液における白血球目視分類の共用基準範囲の設定」,医学検査,2015; 64: 655–665.

 8) 山口 孝一,他:「バーチャルスライド・健診検体・SIRS 症例を用いた stab,seg 新分類基準の検証」,医学検査,2015; 64:644–649.

642 医学検査 Vol.64 No.6 2015

p.6

bamba
長方形
Page 10: 白血球目視分類の共用基準範囲案 - JCCLS白血球目視分類の共用基準範囲案 目的 好中球比率や好中球数は基本的検査であるが,好中球の形態学的判断基準や基準範

Special ArticleThe Panel Discussion (Co-hosted with JSLH) The New Criterion for Classifying Neutrophils on Paripheral Blood Smears

Outcomes of the Standardization of Neutrophil Morphology and a JointWorking Group for the Standardization of Blood Cell Morphology

Shin-ichiro WATANABE 1) Yukiharu BAMBA 2) Yoshikazu YAMAMOTO 3) Kaoru TOHYAMA 4) Masahiko OOHATA 5) Seiji MISHIMA 6) Hiroshi KUBOTA 7) Akihiko NISHIURA 8)

1) Department of Clinical Laboratory, Fujisawa City Hospital (2-6-1, Fujisawa, Fujisawa-shi, Kanagawa 251-8550,Japan)

2) Department of Cytology, Pathology & Cytology Laboratories3) Department of Clinical Laboratory Science, Tenri Health Care University4) Department of Clinical Laboratory, Kawasaki Medical School Hospital5) Department of Clinical Laboratory, Japanese Red Cross Shizuoka Hospital6) Department of Clinical Laboratory, Shimane University Faculty of Medicine Hospital7) Department of Clinical Laboratory, Osaka City University Hospital8) Department of Clinical Laboratory, National Hospital Organization Kyushu Medical Center

SummaryWhile neutrophil ratios and counts are being examined in basic laboratory tests, standards and reference ranges for

morphological findings in this area have yet to be established. In October 2013, the JSLH Sub-committee for theStandardization of Blood Cell Morphology presented a new proposal (new JSLH proposal) for the differentiation ofband and segmented neutrophils, combining the Japanese Association of Medical Technologists and JapaneseSociety for Laboratory Hematology proposals so as to be more appropriate for daily service styles. In December 2013,the JAMT and JSLH reached an agreement to cooperate to generalize the new JSLH proposal, and organized a groupfor this purpose, consisting of 11 members, 6 and 5 from the JAMT and JSLH, respectively, and called: the JointWorking Group for the Standardization of Blood Cell Morphology (JWG). The JWG started its activities in FY 2014 toachieve the following goals: 1) conducting basic studies on the new JSLH proposal and verifying its clinical validity; 2)developing an atlas for the new JSLH proposal based on the results of 1) to generalize it on a nationwide basisthrough morphology seminars held by JAMT branches; and 3) establishing the new JSLH proposal as a classificationmethod by promoting its use for accuracy management surveys and textbooks. Having achieved the first goal withsatisfactory outcomes, the JWG is currently making efforts toward the achievement of the second one.

Key words: band neutrophil, segmented neutrophil, differential white cell count, standardization, reference interval(Received: October 8, 2015)

医学検査 Vol.64 No.6 2015 643

p.7

bamba
長方形
Page 11: 白血球目視分類の共用基準範囲案 - JCCLS白血球目視分類の共用基準範囲案 目的 好中球比率や好中球数は基本的検査であるが,好中球の形態学的判断基準や基準範

特集論文

パネルディスカッション(日本検査血液学会共催)末梢血標本における好中球系細胞の新しい判定基準について

末梢血液における白血球目視分類の共用基準範囲の設定

山本 慶和 1) 坂場 幸治 2) 渡邉眞一郎 3) 通山  薫 4)

大畑 雅彦 5) 三島 清司 6) 久保田 浩 7) 西浦 明彦 8)

1) 天理医療大学臨床検査学科(〒 632-0018 奈良県天理市別所町 80-1) 2) ピーシーエルジャパン病理・細胞診センター細胞診検査部 3) 藤沢市民病院臨床検査科 4) 川崎医科大学検査診断学教室 5) 静岡赤十字病院検査部 6) 島根大学医学部附属病院中央検査部 7) 大阪市立大学医学部附属病院中央臨床検査部 8) 国立病院機構九州医療センター臨床検査部

要 旨

目的:血球形態標準化ワーキンググループ(WG)は日本臨床衛生検査技師会と日本検査血液学会において血液形態検査の標準化を協同で行う方針で結成された。血球形態標準化 WG では日本検査血液学会血球形態標準化小委員会より提唱された好中球系細胞の新分類基準に基づき,健常者を対象にノンパラメトリック法より得られた白血球目視分類の共用基準範囲を設定し,これを全国的に普及させる。方法:基準個体の除外基準は,「日本における主要な臨床検査項目の共用基準範囲案」(日本臨床検査標準化協議会;JCCLS)を用いた。健常対象者を医療施設における健康診断受診者または臨床検査部に勤務している職員とした。性および年齢が均等に分布するように考慮し 936 基準個体とし,対象年齢の範囲は18~67 才とした。目視分類は認定血液検査技師またはその指導のもと血液検査を担当する技師が好中球系細胞の新分類基準に従い 400 倍の視野にて 200 個分類した。目視分類の対象項目は好中球桿状核球,好中球分葉核球,リンパ球,単球,好酸球,好塩基球とした。結果:基準個体値の CBC 項目の分布は JCCLS の基準範囲と一致し,基準個体の妥当性を確認した。目視分類項目は性,年齢間差を認めなかった。パラメトリック法およびノンパラメトリック法による基準範囲は一致し,ノンパラメトリック法にて設定した。結論:日本全国で共用するための末梢血液の白血球目視分類の基準範囲を設定した。この基準範囲の普及のため日本臨床衛生検査技師会のネットワークを活用して全国的な普及を行う。

キーワード基準範囲,目視分類,ノンパラメトリック法,白血球分類,標準化

I 背 景

臨床検査項目の基準範囲設定は一連の診療活動の根幹をなすデータである。日常診療に頻用される血液検査項目について,日本全国で共通して使用する

ことが可能な共用基準範囲が検査関連の諸学会,団体の協力を得て設定された。しかし,血液形態検査領域においては必ずしも標準化が達成されていないのが現状である。好中球の桿状核球と分葉核球の目視分類については,日本臨床衛生検査技師会血球形態検査標準化ワーキンググループが作成した勧告

(平成 27 年 9 月 3 日受付)

医学検査 Vol.64 No.6 2015 655

p.8

bamba
長方形
bamba
長方形
Page 12: 白血球目視分類の共用基準範囲案 - JCCLS白血球目視分類の共用基準範囲案 目的 好中球比率や好中球数は基本的検査であるが,好中球の形態学的判断基準や基準範

案 1 )(以下,日臨技案と略;医学検査 1996; 45: 1659–1671)と,日本検査血液学会 血球形態標準化小委員会が 2003 年に核糸の明確な出現を分葉核球の定義とした新案 2 )(学会案と略;日本検査血液学会ホームページにて公開)が混在しており,少なからず各施設において混乱を招くこととなった。坂場の調査 3 )によると,過半数以上の施設が元々の日臨技案を採用しており,現状のままでは学会案の浸透は困難と判断された。そこで,日本臨床衛生検査技師会と日本検査血液学会は現状を打開すべく血液形態検査の標準化普及活動を協同で行う方針で合意し,血球形態標準化ワーキンググループ(WG)をあらたに結成した。

II 目 的

血球形態標準化 WG では日本検査血液学会血球形態標準化小委員会より提唱された好中球系細胞の新分類基準(2013 年)に基づき,健常者を対象にノンパラメトリック法より得られた白血球目視分類の共用基準範囲を設定し,これを全国的に普及させることを目的としている。

III 対象および方法

1.基準個体(健常対象者)健常対象者を医療施設における健康診断受診者ま

たは臨床検査部に勤務している職員のうちから募った。事前に説明書を掲示および配布し,健康状況と生活習慣に関しては基準範囲設定のための調査票を配布した。同意の得られた(同意書署名;参加を撤回出来ることを明記した)健常対象者は 1,000 名を目標として,男女の割合を等しくし年齢分布も考慮して対象年齢の範囲は 18~67 才とした。測定値および調査票では連結不可能匿名化し,個人情報の保護を行った。2.除外基準

除外基準は,「日本における主要な臨床検査項目の共用基準範囲案」 4 ), 5 )(日本臨床検査標準化協議会;JCCLS)を用いた。1)BMI ≥ 28,2)飲酒量(エタノール換算)≥75 g/日(目安としてビール 1,500mL/日,日本酒 3 合/日,焼酎 330 mL/日,ワイ

ン 540 mL/日),3)喫煙 >20 本/日,4)慢性疾患で定期的に服薬,5)妊娠中または分娩後 1 年以内,6)入院を要する急性疾患回復後あるいは術後 2 週間以内,7)HBV,HCV,HIV キャリア,これ以外に,8)発熱,9)WBC,RBC,Hb,Ht および PLT 値がJCCLS 共用基準範囲の中央値±3SD の範囲を超える基準個体を除外した。なお,BMI,飲酒および喫煙の除外基準については調査票に記載されたものを元に,変動要因の解析に基づいて評価することとした。3.基準範囲設定のための調査票

調査票では 1)基本情報:性別,年齢,身長,体重,2)生活習慣:喫煙習慣,飲酒習慣,定期運動および絶食時間を調査した。4.採血条件

検体採取は EDTA-2K 採血管(CBC 用 2 mL)を用い,採血時間は午前 8~11 時とし,少なくとも 10 分間座位安静後に採血することとした。5.対象項目および測定条件

血液検査項目:WBC,RBC,Hb,Ht,PLT,Reticulocyte(reticulo),白血球の目視分類および自動分類(フロー)とした。目視分類の対象項目は好中球桿状核球(neutrophil band form; band),好中球分葉核球(neutrophil segmented form; seg),リンパ球

(lymphocyte; lymph),単球(monocyte; mono),好酸球(eosinophil; eosino),好塩基球(basophil; baso)などで,各施設内で作製した普通染色塗抹標本を用いて,認定血液検査技師またはその指導のもと血液検査を担当する技師が好中球系細胞の新分類基準に従い 400 倍の視野にて 200 個分類した。6.好中球系細胞の標準画像および鏡検者間の精度管理調査

目視分類鏡検者には事前に band,seg について血球形態標準化 WG 全員よりコンセンサスの得られた標準画像 252 細胞を配布し鏡検者間差の是正に努めた。Figure 1 に好中球系細胞の標準画像の一部を示す。また,標準画像に加え鏡検者間差の実態と要因を分析する目的で精度管理調査を行った。方法はband,seg について典型的な細胞および分類が微妙な細胞,合計 60 細胞画像を鏡検者に配布し,細胞判定結果について統計学的解析を行った。7.統計処理

変動要因の解析,層別化の評価:枝分かれ分散分

656 医学検査 Vol.64 No.6 2015

p.9

bamba
長方形
Page 13: 白血球目視分類の共用基準範囲案 - JCCLS白血球目視分類の共用基準範囲案 目的 好中球比率や好中球数は基本的検査であるが,好中球の形態学的判断基準や基準範

析,SDR 指数および重回帰分析を用いた。基準範囲の層別化は JCCLS に準じ SDR > 0.5 とした。データの正規化:Box・Cox べき乗変換方式を採用した。

基準範囲の算出:ノンパラメトリック法およびパラメトリック法として潜在異常値除外法を用いた。

好中球桿状核球,分葉核球の標準画像標準画像(252 細胞)よりFigure 1 

医学検査 Vol.64 No.6 2015 657

p.10

bamba
長方形
Page 14: 白血球目視分類の共用基準範囲案 - JCCLS白血球目視分類の共用基準範囲案 目的 好中球比率や好中球数は基本的検査であるが,好中球の形態学的判断基準や基準範

IV 結 果

1.基準個体7 施設より 939 名の健常者の協力が得られ,その

内訳を Table 1 に示した。2.鏡検者間の精度管理調査

鏡検者間差の実態と要因を分析する目的で行った精度管理調査では,核の重なり(キノコ状)がみられる細胞では A group(band 高値群)において不一致がみられるが,B group(band 中間群),C group

(band 低値群)の多くはそれらを seg と分類した(Figure 2)。核の最小幅部分が最大幅部分のほぼ1/3である細胞は A,B group では不一致がみられるが,C group の多くはそれらを seg と分類した

(Figure 3)。また,核の折曲がみられる細胞では Cgroup においてより多くの不一致がみられた(データ未掲載)。これらは統計学的手法を用いた相関行列からも同様な結果が得られた 6 )。3.男女,年齢および BMIの変動要因評価

標準画像および精度管理調査を実施し鏡検者間差の是正を行った後の分類結果を用いた。各目視分類項目および装置分類項目における性,年齢,BMI の施設間変動を 3 段枝分かれ分散分析を用いて評価し,その結果を Table 2 に示した。SDR は枝分かれ分散分析の各変動要因の SD と残差 SD との比とした。性別,年齢および BMI はいずれも SDR < 0.3 であった。施設間は目視分類の bnad,baso および装置分類の baso が SDRlab > 0.3 を超えた。そこで,これらの施設平均値が最低の施設を除外した場合と除外

基準個体

男女構成 基準個体 基準個体比

年齢/性別 M F All M F

18~29 80 125 205 0.39 0.6130~39 103 130 233 0.44 0.5640~49 111 147 258 0.43 0.5750~59 88 100 188 0.47 0.5360~67 31 24 55 0.56 0.44合計 413 526 939 0.44 0.56

Table 1 

A group(band高値群),B group(band中間群),C group(band低値群)2: band,3: seg

細胞番号bandsegband 30band 29band 29band 27band 26band 26band 25band 24band 23

band 22band 22band 22band 21band 21band 21band 20

band 18band 14band 13

16217323332333

3333333

333

17613332332223

2333333

233

24712223223323

3333233

332

28316322333332

3333333

333

30136222233223

2223222

323

45712223222332

3333323

333

A groupにおける不一致細胞を抽出。このときB or C groupは少なくとも1 groupは一致。

A

group

B

C

各 group 間での細胞分類比較(核の重なり(キノコ状)がみられる細胞)band,seg について典型的な細胞および分類が微妙な細胞,合計 60 細胞画像の精度管理調査結果よりFigure 2 

658 医学検査 Vol.64 No.6 2015

p.11

bamba
長方形
Page 15: 白血球目視分類の共用基準範囲案 - JCCLS白血球目視分類の共用基準範囲案 目的 好中球比率や好中球数は基本的検査であるが,好中球の形態学的判断基準や基準範

しない場合の予備的な基準範囲(ノンパラメトリック法)の上下限を比較したところ明らかな差を認めなかった。4.施設別・性別 CBCおよび白血球目視分類の分布

CBC 項目および白血球目視分類における施設別,性別の各基準個体値の分布を Figure 4,5 に示した。CBC 項目の分布図において各項目の上段グレーは男

性,下段ピンクは女性で,これらは JCCLS の基準範囲(中央値±3SD)を示している。CBC 項目における各施設の分布は男女ともに JCCLS の基準範囲とほぼ一致しており,基準個体の妥当性が確認された。また,白血球目視分類においても標準画像の供覧,精度管理調査などにより,各施設男女ともに全ての白血球分画においてほぼ同等な成績が得られた。

A group(band高値群),B group(band中間群),C group(band低値群),2: band,3: seg

B groupにおける不一致細胞を抽出。このときA or C groupは少なくとも1 groupは一致。

細胞番号bandseg

band 29band 29band 30

band 27band 26band 26band 25band 24band 23

band 18band 14band 13

band 22band 22band 22band 21band 21band 21band 20

11118232222223

333

3222323

13145222222232

323

3222322

25217333333333

333

3223333

33613232333333

333

3222332

51136232222223

333

3222322

57118232223222

333

2322323

60163222222222

222

2332233

group

A

C

B

各 group 間での細胞分類比較(核の最小幅部分が最大幅部分のほぼ 1/3 である細胞)band,seg について典型的な細胞および分類が微妙な細胞,合計 60 細胞画像の精度管理調査結果よりFigure 3 

性別・年齢別・BMI および施設間変動評価

項目3-level nested ANOVA

SDRsex SDRage SDRbmi SDRlab

目視分類

band 0.00 0.00 0.00 0.41seg 0.00 0.06 0.12 0.29

lymph 0.00 0.11 0.15 0.27mono 0.21 0.05 0.15 0.22eosino 0.12 0.06 0.00 0.14baso 0.00 0.12 0.11 0.35

装置分類

neutro 0.00 0.08 0.18 0.23lymph 0.00 0.11 0.18 0.23mono 0.26 0.00 0.15 0.00eosino 0.12 0.05 0.00 0.00baso 0.00 0.06 0.00 0.32

reticulo 0.10 0.10 0.23 —

年齢 18–29 30–39 40–49 50–67BMI 14–19 19–22 22–25 25–28

SDRsex,SDRage,SDRbmi,SDRlab:3 段枝分かれ分散分析法による性・年齢・BMI,Lab の各 SD/残差 SD

Table 2 

医学検査 Vol.64 No.6 2015 659

p.12

bamba
長方形
Page 16: 白血球目視分類の共用基準範囲案 - JCCLS白血球目視分類の共用基準範囲案 目的 好中球比率や好中球数は基本的検査であるが,好中球の形態学的判断基準や基準範

5.白血球目視分類および装置分類の分布白血球目視分類および装置分類のヒストグラムを

Figure 6 に示した。装置分類では neutrophil(neutro),lymph および mono は正規分布型,eosino,baso は対数正規型であり,目視分類も band 以外はほぼ同じタイプであった。基準個体における CBC 項目の測定値の分布は,ノンパラメトリック法による 2.5%~97.5%の上下限値を JCCLS の基準範囲と比較した。JCCLSの上・中央・下限値をそれぞれ 1.00 とすると,WBC,RBC,Hb,Ht,MCV,MCH,MCHC およびPLT は 0.98~1.01 であった。6.基準範囲の設定

Table 3-1 にノンパラメトリック法よる男女混合,男女別基準範囲を示した。Table 3-2 にパラメトリック法(潜在異常値除外法)によるものを示した。ノンパラメトリック法では基準個体は JCCLS の基準範囲より中央値±3SD の限界を求め,その範囲を超えた基準個体を除外して設定した。潜在異常値除外法

では CBC 項目を除外対象項目として計算した。7.生活習慣要因の個体間変動

飲酒,喫煙,運動および BMI の生活習慣要因の個体間変動について,重回帰分析による評価を行い,各要因の関係性を重相関係数および標準偏回帰係数で示した(Table 4)。白血球目視分類および装置分類の複数の項目において有意差(p < 0.05)は認められるものの,調整済決定係数はいずれの項目も 0.05未満(データ未掲載)と低値であった。8.本提示基準範囲と学会等の基準範囲との比較

本研究の基準範囲(ノンパラメトリック法)と他学会等の基準範囲を Table 5 に示した。Henry はmedian のみで上下限の提示はなかったが,本基準範囲とほぼ一致していた。band は日本臨床,A およびB が一致し,C はさらに広範囲であった。

JCCLS

JCCLS

JCCLS

JCCLS

JCCLS

JCCLS

JCCLS

JCCLS

JCCLS

JCCLS

JCCLS

JCCLS

JCCLS

JCCLS

JCCLS

JCCLS

WBC RBC Hb Ht

MCV MCH MCHC PLT

施設別・性別 CBC 分布図箱:平均値±2SD.上下段のグレー,ピンク:JCCLS 基準範囲(箱:基準範囲,ヒゲ:±3SD)

Figure 4 

660 医学検査 Vol.64 No.6 2015

p.13

bamba
長方形
Page 17: 白血球目視分類の共用基準範囲案 - JCCLS白血球目視分類の共用基準範囲案 目的 好中球比率や好中球数は基本的検査であるが,好中球の形態学的判断基準や基準範

seg lymph

mono basoeosino

band

施設別・性別白血球目視分類箱:平均値±2SDFigure 5 

40 50 60 70 80

10 20 30 40 50 60

2 4 6 8 10 12 14

‒2 20 4 6 8 10 12 14 16

0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5

0 2 4 6 8 10

30 40 50 60 70 80 90

10 20 30 40 50 60

0 2 4 6 8 10 12 14

‒2 0 2 4 6 8 16141210

0 1 2 3 4 5

band(939)

seg(939)

lymph(939)

mono(939)

eosino(928)

baso(903)

neutro(934)

lymph(934)

mono(934)

eosino(924)

baso(934)

目視分類 装置分類

白血球目視分類および装置分類の分布図Figure 6 

医学検査 Vol.64 No.6 2015 661

p.14

bamba
長方形
Page 18: 白血球目視分類の共用基準範囲案 - JCCLS白血球目視分類の共用基準範囲案 目的 好中球比率や好中球数は基本的検査であるが,好中球の形態学的判断基準や基準範

基準範囲(ノンパラメトリック法)

ItemAll M F

n 2.5% median 97.5% n 2.5% median 97.5% n 2.5% median 97.5%

目視分類

band 885 0.5 2.0 6.5 397 0.5 2.0 6.3 488 0.4 2.0 6.5seg 885 38.0 57.0 74.0 397 38.0 56.4 75.3 488 37.5 57.3 72.8

lymph 885 16.5 32.0 49.5 397 16.5 32.0 48.8 488 16.4 32.0 50.1mono 885 2.0 5.0 10.0 397 2.9 5.5 10.8 488 2.0 5.0 9.4eosino 885 0.0 2.0 8.5 397 0.0 2.0 8.4 488 0.0 2.0 8.5baso 885 0.0 1.0 2.5 397 0.0 1.0 2.8 488 0.0 1.0 2.5

装置分類

neutro 881 42.4 58.0 75.0 394 43.0 57.8 75.1 487 42.0 58.3 75.0lymph 881 18.2 32.4 47.7 394 18.3 32.5 46.5 487 17.7 32.3 49.2mono 881 3.3 5.4 9.0 394 3.6 5.8 9.5 487 3.2 5.2 8.7eosino 881 0.4 2.1 8.6 394 0.5 2.2 8.5 487 0.4 2.0 8.6baso 881 0.2 0.5 1.4 394 0.2 0.5 1.3 487 0.1 0.5 1.4

Table 3-1 

基準範囲(潜在異常値除外法)

ItemAll M F

n 2.5% median 97.5% n 2.5% median 97.5% n 2.5% median 97.5%

目視分類

band 761 0.2 2.1 6.7 358 0.2 2.1 6.8 400 0.2 2.0 6.4seg 761 38.3 56.5 73.7 361 38.4 55.8 74.1 400 38.5 57.0 73.6

lymph 761 16.5 32.4 49.3 361 15.8 32.5 48.5 400 17.7 32.0 50.8mono 754 2.2 5.0 9.7 359 2.5 5.4 10.3 396 1.9 4.8 8.8eosino 744 0.1 1.9 7.9 351 0.2 2.1 8.4 393 0.1 1.8 7.1baso 723 0.0 0.7 2.6 341 0.0 0.7 2.6 382 0.0 0.8 2.5

装置分類

neutro 758 42.4 58.1 74.6 358 42.5 57.9 74.4 400 42.5 58.3 75.0lymph 758 18.5 32.4 48.4 358 18.2 32.2 47.6 399 19.1 32.5 49.2mono 754 3.3 5.4 8.6 358 3.5 5.7 9.0 398 3.1 5.2 8.2eosino 752 0.4 2.2 7.7 356 0.5 2.4 8.1 398 0.4 2.1 8.0baso 752 0.1 0.5 1.3 356 0.1 0.5 1.3 396 0.1 0.5 1.2

Table 3-2 

重回帰分析による生活習慣(BMI,喫煙,飲酒および運動)変動の評価

Item R sex age BMI 飲酒 喫煙 運動

目視分類

band 0.148 0.08 0.02 −0.09 0.06 0.06 −0.05seg 0.165 −0.08 0.04 −0.06 −0.10 −0.13* −0.04

lymph 0.160 0.11 −0.03 0.07 0.03 0.13* 0.05mono 0.197 −0.16* 0.01 −0.04 0.09 −0.04 0.02eosino 0.128 −0.04 0.03 0.06 0.05 0.02 −0.02baso 0.139 −0.09 −0.03 −0.05 0.02 0.08 −0.01

装置分類

neutro 0.159 −0.14* −0.01 −0.07 −0.08 −0.09 −0.03lymph 0.188 0.19* 0.00 0.08 0.06 0.11* 0.05mono 0.218 0.17* −0.03 −0.08 0.13* −0.05 −0.05eosino 0.107 0.00 0.01 0.09 0.02 0.04 −0.01baso 0.076 0.02 −0.06 −0.01 0.04 −0.03 0.04

reticulo 0.183 −0.10 0.08 0.07 −0.01 −0.04 −0.10WBC 0.235 0.01 −0.06 0.17* 0.11* 0.11* 0.00

性別,年齢:1–4,BMI:1–4,飲酒:1–3,喫煙:1, 2,運動:1–3数値は重相関係数および標準偏回帰係数,*:p < 0.05調整済決定係数はいずれも 0.05 未満であった(未掲載)

Table 4 

662 医学検査 Vol.64 No.6 2015

p.15

bamba
長方形
Page 19: 白血球目視分類の共用基準範囲案 - JCCLS白血球目視分類の共用基準範囲案 目的 好中球比率や好中球数は基本的検査であるが,好中球の形態学的判断基準や基準範

V 考 察

好中球系細胞について標準画像による鏡検者間差の是正を行い,さらに,精度管理調査により明らかな band 高値鏡検者には“核の重なり(キノコ状)がみられる細胞や核の最小幅部分が最大幅部分のほぼ1/3 である細胞は seg に分類する”などの勧告を行った。このような標準画像の供覧および細胞分類における偏りの是正を行った上で目視分類を実施した。その結果,施設間変動(SDRlab)は band が 0.41,baso が 0.35 と小さくなった。なお,この SDR > 0.3の要因は,band や baso は中央値がそれぞれ 2%および 1%と低く,また,それぞれの残差 SD も小さいため SDR が相対的に高くなったためと推測した。この考えを支持するものとして,予備的な基準範囲(ノンパラメトリック法)の上下限の比較評価は明らかな差を認めなかった。このように技師間変動が存在し多少施設に偏りが認められたが,基準範囲の設定には影響を与えないものと判断できた。今後,標準画像などにより判定基準が普及されて行くことによって技師間の差は縮小すると思われる。

基準個体における CBC 項目の測定値の分布は,JCCLS の基準範囲とほぼ一致しており,また,白血球目視分類においても各施設ともほぼ同等な成績が得られ,基準個体および共用基準範囲の設定が妥当なものであることが確認された。

性別・年齢別変動には差を認めなかったため,性および年齢による層別化の必要がなく男女混合,年

齢 18~67 歳をまとめて設定することとした。また,生活習慣の変動要因の BMI,喫煙,飲酒,運動について重回帰分析による評価は重相関係数,調整済決定係数ともいずれの項目とも低く,基準範囲に影響を与えるものではなかった。

基準範囲はノンパラメトリック法およびパラメトリック法(潜在異常値除外法)を行ったが,両者はほぼ一致した。キリの良い値であり,かつ,多数の基準個体値より得られたノンパラメトリック法

(Table 3-1)を基準範囲として採用した。基準範囲は基準個体値の 2.5%~97.5%(上下限値)としているが,白血球分類の 6 項目がいずれも同様な分布を示しているわけでないので,上下限値とともに中央値も意識しておく必要がある。つまり,seg は 38.0~74.0%に分布し,中央値が 57.0%でほぼ左右均等に正規分布している。lymph および mono は同様な分布として捉えて良いが,band では 0.5~6.5%で中央値は 2.0%,eosino は 0.0~8.5%では 2.0%,baso では0.0~2.5%で 1.0%と上限値は中央値に比べかなり右広がりとなる特徴を有している(対数正規分布)。

VI 結 語

血球形態標準化ワーキンググループでは好中球系細胞新分類基準普及のため目視法による白血球分類の基準範囲を求め,それらの妥当性を評価した後,これを共用基準範囲として新たに設定した。解析結果は日本医学検査学会,日本検査血液学会学術集会で発表し(発表終了),関連雑誌への論文投稿および

学会等の基準範囲と本提示基準範囲

ノンパラメトリック法 Henry 日本臨床 学生用共通基準範囲 A B C

WBC LL–UL median median LL–UL median* LL–UL median* LL–UL LL–UL LL–UL

band 0.5–6.5 2 3 2–13 4 0–5 1.5 2–13 2–13 0–17seg 38–74 57 56 40–60 50 40–70 55 35–55 35–55 25–70

lymph 16.5–49.5 32 34 26–40 33 20–50 35 20–50 30–50 30–50mono 2.0–10.0 5 4 3–10 4.5 0–10 2.5 4–8 2–8 2–12eosino 0.0–8.5 2 2.7 2–4 2.5 1–5 2 1–8 0–7 1–9baso 0.0–2.5 1 0.3 0–2 0.5 0–1 0.25 0–2 0–1 0–2

median*:範囲と分布型より推定した中央値Henry JB:Clin Diag Manage by Lab Meth 18th Sanders学生用共通基準範囲:医学生用 日本臨床検査医学会設定(2011)・日本臨床検査医学会標準委員会日本臨床:米山彰子.末梢血液一般検査:日本臨床・広範囲血液・尿化学検査 第 7 版:2, 605–609, 2010A,B,C:一般病院

Table 5 

医学検査 Vol.64 No.6 2015 663

p.16

bamba
長方形
Page 20: 白血球目視分類の共用基準範囲案 - JCCLS白血球目視分類の共用基準範囲案 目的 好中球比率や好中球数は基本的検査であるが,好中球の形態学的判断基準や基準範

日本臨床衛生検査技師会のネットワークを活用して全国的な普及を行う予定でいる。

血液形態検査における標準化の浸透において最も重要なことは,日本臨床衛生検査技師会,日本検査血液学会,日本臨床検査医学会,日本血液学会などの血液検査関連学会との連携,および,日本臨床検査標準協議会などの標準化機構との整合性,また,病院検査部,臨床検査センター,関連企業,臨床検査技師学校などの関連団体の協力を得ることであり 7 ),さらには,長期間に渡る標準化広報活動が血液形態検査標準化の全国的な普及を実現するものと考える。

■文献

 1) 臨床衛生検査技師会血液形態検査標準化ワーキンググループ:「血液形態検査に関する勧告法」,医学検査,1996; 45:1659–1671.

 2) 土屋 逹行:「血液形態検査の標準化血液形態検査標準化」,臨床検査,2013; 57: 171–177.

 3) 坂場 幸治:「血液形態検査の標準化血液形態検査の標準化に向けて―学会および技師会の活動」,臨床検査,2013; 57:178–187.

 4) 日本臨床検査標準化協議会基準範囲共用化委員会:日本における主要な臨床検査項目の共用基準範囲案―解説と利用の手引き―.http://www.jccls.org/techreport/public_comment_201405_p.pdf

 5) Yamamoto Y et al.: “Nationwide multicenter study aimedat theestablishment of common reference intervals for standardizedclinical laboratory testsin Japan,” Clin Chem Lab Med, 2013; 51:1663–1672.

 6) 坂場 幸治:「血液形態検査における標準化の普及に向けて」,平成 26 年度日臨技臨床検査データ標準化事業報告書,2015,40–53.

 7) 松野 一彦:「血液検査の標準化の問題点」,日本検査血液学会雑誌,2003; 4: 322–330.

 日本臨床衛生検査技師会・日本検査血液学会 血球形態標準化ワーキンググループ委員長  渡邉眞一郎 日本検査血液学会 藤沢市民病院臨床検査科副委員長 坂場 幸治 日本臨床衛生検査技師会 ピーシーエルジャパン病理・細胞診センター細胞診検査部委員

日本検査血液学会 日本臨床衛生検査技師会通山  薫 川崎医科大学検査診断学教室 東  克己 杏林大学保健学部臨床検査技術学科大畑 雅彦 静岡赤十字病院検査部 久保田 浩 大阪市立大学医学部附属病院中央臨床検査部三島 清司 島根大学医学部附属病院中央検査部 西浦 明彦 国立病院機構九州医療センター臨床検査部三浦 玲子 札幌北楡病院臨床検査技術部 山本 慶和 天理医療大学臨床検査学科

岩上みゆき 執行理事 館林厚生病院検査科 

 

664 医学検査 Vol.64 No.6 2015

p.17

bamba
長方形
Page 21: 白血球目視分類の共用基準範囲案 - JCCLS白血球目視分類の共用基準範囲案 目的 好中球比率や好中球数は基本的検査であるが,好中球の形態学的判断基準や基準範

Special ArticleThe Panel Discussion (Co-hosted with JSLH) The New Criterion for Classifying Neutrophils on Paripheral Blood Smears

Collaborative derivation of reference intervals for observed WBCdifferential of peripheral blood for nationwide use in Japan

Yoshikazu YAMAMOTO 1) Yukiharu BAMBA 2) Shinichirou WATANABE 3) Kaoru TOHYAMA 4) Masahiko OOHATA 5) Seiji MISHIMA 6) Hiroshi KUBOTA 7) Akihiko NISHIURA 8)

1) Department of Clinical Laboratory Science, Tenri Health Care University (80-1, Bessho, Tenri, Nara 632-0018,Japan)

2) Department of Cytology, Pathology & Cytology Laboratories3) Department of Clinical Laboratory, Fujisawa City Hospital4) Department of Clinical Laboratory, Kawasaki Medical School Hospital5) Department of Clinical Laboratory, Japanese Red Cross Shizuoka Hospital6) Department of Clinical Laboratory, Shimane University Faculty of Medicine Hospital7) Department of Clinical Laboratory, Osaka City University Hospital8) Department of Clinical Laboratory, National Hospital Organization Kyushu Medical Center

SummaryObjectives: A working group (WG) for the standardization of blood cell morphology was established between the

Japanese Association of Medical Technologists (JAMT) and the Japanese Society for Laboratory Hematology (JSLH).The WG established reference intervals (RIs) of observed WBC differential on the basis of the new classificationcriterion for the neutrophil system proposed by the Committee for the Standardization of Blood Cell Morphology ofJSLH, and diffuse RIs were introduced nationwide in Japan. Methods: Exclusion criteria for reference individuals werebased on the “Collaborative derivation of reference intervals of major clinical laboratory tests for nationwide use inJapan” of the Japanese Committee for Clinical Laboratory Standards (JCCLS). Reference individuals were selectedfrom among healthy volunteers engaged in medical-care-related works or physical examination. Age and sexdistributions were adjusted to obtain a final sample size of 936 individuals aged 18 to 67 years. Two hundred cellswere counted under 400× magnification by an accredited hematologist or a directed laboratory technologist using thenew classification criterion for the neutrophil system. Result: The distribution of the complete blood count (CBC) of thereference individuals was parallel to the RIs of JCCLS, and the validity of the reference individuals was confirmed.There were no significant differences in sex and age after observing leukocytes of peripheral blood. There were nosignificant RI differences between the parametric method and the nonparametric one, and the latter method wasestablished as common RIs. Conclusion: The common RIs determined by observing leukocytes of peripheral blood areto be used nationwide. It was suggested that the networks of the JAMT should be utilized so that the RIs established inthe present study become widely available.

Key words: reference intervals, WBC difference, nonparametric method, observation of leukocytes, standardization(Received: September 3, 2015)

医学検査 Vol.64 No.6 2015 665

p.18

bamba
長方形
Page 22: 白血球目視分類の共用基準範囲案 - JCCLS白血球目視分類の共用基準範囲案 目的 好中球比率や好中球数は基本的検査であるが,好中球の形態学的判断基準や基準範

特集論文

パネルディスカッション(日本検査血液学会共催)末梢血標本における好中球系細胞の新しい判定基準について

バーチャルスライド・健診検体・SIRS症例を用いたband,seg新分類基準の検証

山口 孝一 1) 大畑 雅彦 1)

1) 静岡赤十字病院検査部(〒 420-0853 静岡市葵区追手町 8-2) 

要 旨

好中球系細胞の新分類基準の臨床応用について検証を行った。対象は生化学・免疫学的検査および血算項目がすべて基準値内であった健診検体 50 例と CML 症例より作成したバーチャルスライドの細胞判定を 12 施設 87 名(一部個人参加あり集約した)に依頼した。またフォトサーベイ 60 細胞と SIRS を含む臨床検体 74 症例を用いて細胞判定の検証を行った。健診検体は桿状核球(band)比率は 0.5~6.7%では全国平均:0.5~6.5%とほぼ同様の値を示した。バーチャルスライドは施設間差があり,左方または右方優位などの特徴を示し,個人のカウントがそのまま施設の特徴を表していた。フォトサーベイは 80%以上一致率で評価すると,新分類基準の再現性は良好であった。また SIRS 症例の検証では band 比率はバイタルサイン(vital signs;以下バイタル)と相応して増減し,日常臨床の現場においても問題なく使用できると考える。

キーワード新分類基準,桿状核球,分葉核球,バーチャルスライド,SIRS

I はじめに

末梢血成熟好中球系細胞の分類基準として,日本検査血液学会案(検血案)と日本臨床衛生検査技師会勧告法(日臨技案)の折衷案(新分類基準)が提唱された 1 )。新分類基準提唱までの詳しい経緯は本稿の板場らの報告を参照されたい。

好中球の桿状核球(band)および分葉核球(seg)の細胞判定基準については,1996 年に日本臨床衛生検査技師会血液形態検査標準化ワーキンググループによる“血液形態検査に関する勧告法” 2 )および 2003年には,日本検査血液学会が好中球系細胞の分類基準案を提唱した。我々は,第 14 回日本検査血液学会学術集会のワークショップにおいて,日臨技案と検血案における band,seg の臨床応用について検証結果の報告を行ってきた 3 )。

以上の経緯を踏まえて,今回新分類基準を用いた臨床検体による band,seg の検証を行う機会を得て,第 64 回日本医学検査学会パネルディスカッションでその結果を報告した 4 )。本特集では,今回我々が実施した後述する 4 つの検証について紹介する。

II 成熟好中球の新分類基準

Table 1 に今回提唱された好中球系細胞の新分類基準 1 )を示す。詳細な説明は別稿にゆずるが,基本的には日臨技勧告法に類似した基準となっている。新分類基準の大きな特徴としては,“核糸”の定義をより具体的で実用的なものとした点にある。検血案では核糸について“クロマチン構造がみられるもの”としていたが,実際標本のカウントでは band 優位になることが報告されており,今回の検討でも確認した 3 )~ 5 )。また亀井 6 )は,クロマチン構造を持たない核

(平成 27 年 9 月 28 日受付)

644 医学検査 Vol.64 No.6 2015

p.19

bamba
長方形
bamba
長方形
Page 23: 白血球目視分類の共用基準範囲案 - JCCLS白血球目視分類の共用基準範囲案 目的 好中球比率や好中球数は基本的検査であるが,好中球の形態学的判断基準や基準範

糸で判定する NCCLS 基準値(band: 1.9~19.1)と報告している。奥嶋ら 7 )は,さらに分布幅が広く基準値 3.2~32.3%と述べており,band 比率の基準値が10%を優位に超えていることからも,SIRS の診断基準を踏まえると問題を有し,また標準化事業を推進する上でも実用的でないと考える。今回の新分類基準では,好中球桿状核球:0.5~6.5%,分葉核球:38.0~74.0%と報告され 1 )数値的には妥当と思われるが,我々が行った新分類基準を用いた実際の臨床検体による検証を以下に述べていきたい。

III 新分類基準の臨床的応用

1.新分類基準を用いた健診検体標本のカウント対象は生化学および免疫学検査において異常を有

さず,さらに当院の血算基準値である白血球数(4~8 × 103/μL),ヘモグロビン濃度(12 g/dL),血小板数

(130~350 × 103/μL)を満たし,その他血液学的検査において異常を認めない 50 標本を用いた(年齢平均:40.8 歳,男:女= 21:29)。カウントは当院の血液業務を担当する技師 10 名(認定血液検査技師 7名,認定技師以外 3 名)で行った。標本は無記名で患者情報を記載せず各 200 カウント行い,好中球,リンパ球,好酸球,好塩基球,単球の 5 分類を行った。その結果を band,seg の比率で示した。

結果を Figure 1 に示す。認定技師 D が band 比率を他の技師に比較して高くカウントをしていた。認定技師 D を除外した当院の検討では,band 比率は0.5~6.7%であった。これは今回提唱された新分類の基準範囲である 0.5~6.5% 4 )とほぼ同様であった。また band 比率の CV 値も 7.3%と良好であった。seg 比率も技師 D を除外すると 38.1~80.2%(平均:60.8%)で全国平均と比較してほぼ同様の数値であり,新分類基準は再現性のよい基準と考えられた。

好中球系細胞の新分類基準桿状核球,分葉核球の目視鑑別は,適切な塗抹染色標本を用いて原則として倍率 400倍の鏡検で判定する。なお核クロマチンはいずれも粗剛である。

桿状核球 直径 12~15 μm,核の長径と短径の比率が 3:1 以上,かつ,核の最小幅部分が最大幅部分の 1/3 以上で長い曲がった核を持つ。

分葉核球直径 12~15 μm。分葉した核の間は核糸でつながるが,核の最小幅部分が十分に狭小化した場合は核糸形成が進行したとみなして分葉核と判定する。実用上 400 倍にて,核の最小幅部分が最大幅部分の 1/3 未満,あるいは,赤血球径の 1/4(約 2μm)未満であれば核糸形成とみなす。また,核が重なり合って分葉核球か桿状核球か明確でないときは分葉核球と判定する。

Table 1 

認定技師A

認定技師E

認定技師F

認定技師G

技師H

技師I

技師J

認定技師C

認定技師D

認定技師B

全国平均

※D除外

0

0.5 2.2 6.7

0.5 2.0 6.5

38.1 60.8 80.2

38.0 57.0 74.0

5band seg

10 15 30 40 50 60 70 80 90

健診標本を用いた技師間の band,seg の平均値,最小値および最大値○平均値  ▼最小値  ▲最大値Figure 1 

医学検査 Vol.64 No.6 2015 645

p.20

bamba
長方形
Page 24: 白血球目視分類の共用基準範囲案 - JCCLS白血球目視分類の共用基準範囲案 目的 好中球比率や好中球数は基本的検査であるが,好中球の形態学的判断基準や基準範

技師 D は他の技師と比較して band 比率を高くカウントしていた。同様な事象は他施設でもおこり得ると考えられ,定期的な施設内の塗抹標本を用いた検証やサーベイ等の機会を設け目合わせも必須なことと考える。2.新分類基準を用いたバーチャルスライド

対象は大学病院 6 施設,一般市中病院および検査センター 6 施設(一部個人参加あり施設 L に集約した)の計 12 施設に CML 症例を用いたバーチャルスライドを配布し計 87 名,50 細胞のカウントを依頼した。配布するにあたっては,Table 1 に示す新分類基準も同封した。検討事項は,施設間のカウントの比較と右方および左方優位にカウントした技師の所属施設について検証した。

結果を Figure 2 に示す。今回右(左)方優位の定義として,band および seg 比率を 35%で cut off し,band 比率の平均が 35%より高いものを左方優位,低いものを右方優位として判断した。

大学病院では施設 C,一般市中病院は施設 I が左方優位を示す施設であった。また施設 F および施設H は他施設と比較すると極端に右方優位を示す施設であった。

次に個人別の band,seg 比率の結果を Figure 3 に

示した。全体集団と比べると A で囲いをしたカウント者(A グループ)は右方優位に,B で囲いをしたカウント者(B グループ)は左方優位にカウントした技師を示している。Figure 2 の施設と対比すると,A グループの技師は施設 F および施設 H を含み,一方 B グループの技師は施設 C および施設 I の技師であった。今回の結果より,“個人のくせ”はそのまま“施設の特徴”となり,個々の施設ごとの傾向の把握も管理者としては認識すべきと思われる。また今回新基準を同封して確認後に細胞判定をお願いした

10.015.020.025.030.035.040.045.050.055.060.0

10.0 20.0

B

stb(%)

Seg(%)

A

30.0 40.0 50.0 60.0

y = -0.6356x + 0.5802

個人別の band,seg 比率の散布図Figure 3 

大学病院

一般市中病院

F

E

D

B

A

H

G

L

J

K

35%30% 40% 35%30% 40%

band seg

C

I

施設間別 band,seg の割合○平均値  ▼最小値  ▲最大値Figure 2 

646 医学検査 Vol.64 No.6 2015

p.21

bamba
長方形
Page 25: 白血球目視分類の共用基準範囲案 - JCCLS白血球目視分類の共用基準範囲案 目的 好中球比率や好中球数は基本的検査であるが,好中球の形態学的判断基準や基準範

にも関わらず,band あるいは seg 優位にカウントする施設が存在した。標準化事業の継続とともに,十分に理解できる資料作成や全国規模の啓蒙活動を地道に行う必要がある。3.新分類基準を用いたフォトサーベイ(Table 2)

板場らが実施したフォトサーベイ 60 細胞を用いて,当院血液担当技師 10 名で細胞一致率の集計を行った。方法は各人に細胞写真を配布し,band,segの判定を行い 80%以上一致した細胞を細胞一致と判定した。

結果を Table 2 に示す。細胞一致率は 60 細胞中 48細胞(80%)であった。技師別に seg とカウントした細胞数を検証すると,技師 D(47 細胞)と技師 I

(48 細胞)は他の技師と比較して seg を多く判定していた。技師 I は当院血液検査の担当として 2 年目の技師である。技師 D は新分類基準を用いた健診検体標本のカウントの検討で band を多くカウントした技師と同一人である。新分類基準の見直しと簡単なレクチャー後,再度判定してもらうと seg は 27 細胞となり,容易に band 優位にカウントしてしまう傾向があった。ここに個人の教育と指導の難しさを感じる。4.SIRS症例の検証1)新分類基準を用いた検証

SIRS 症例を用いて新分類基準の検証を行った。SIRS の診断基準を Table 3 に示す。バイタルサイン

(vital signs;以下バイタル)項目が得られた 74 症例について 5 年以上血液検査に従事した認定血液検査技師 4 名でそれぞれ 200 細胞カウントした。結果は白血球 5 分類を行い,band の比率のみを表記している。

本検証を実施するにあたり,第 14 回日本検査血液学会シンポジウムで使用した症例を用いた検血案および日臨技案の結果も合わせて,新分類基準と比較

した結果を示している。検討事項はバイタル項目数と各基準でカウントし

た band 比率の比較(Table 4),SIRS ポイント数とband 比率の比較を行った(Figure 4)。

SIRS のバイタル項目数と白血球数および band ≥10%を示した症例数との関連を Table 4 に示す。白血球数が 4.0 × 103/μL 未満(7 症例),4.0~12.0 × 103/μL(38 症例),12.0 × 103/L 以上(29 症例)に分類した。そのうちバイタル項目数が 2 個以上該当あるいは 1 個であっても白血球数で SIRS と診断される症例は 56 症例認めた。band の比率で SIRS との鑑別が問題となる症例が白血球数 4.0~12.0 × 103/μL であり,各基準の症例数を Table 4 に示している。該当症例は 9 症例存在し,検血案は 9/9 例,日臨技案は5/9 例,新分類基準は 4/9 例存在した。白血球数とband 比率で SIRS の有無を検討すると 9/74 例と極めてわずかであり,バイオマーカーの発達した今日においては,それらの臨床的有用性を考慮し総合的に判断すべき症例群と思われる。また各基準におけるSIRS 項目数と band 比率との関連を Figure 4 に示すが,それぞれの基準で SIRS 項目数と相関して band比率も増加しているが,検血案は SIRS 項目数が 0あるいは 1 個であっても band 比率が 10%を超えていた。一方,日臨技案および新分類基準は SIRS 項目数が 1 個までは band 比率も 10%未満であり,臨床所見に一致していた。SIRS 項目数が 2 個以上では日臨技案が新分類基準と比較するとより顕著に band

SIRS 診断基準侵襲に対する全身性炎症反応で,以下の 2項目以上が該当するとき,SIRSと診断。

1)体温 >38℃または <36℃2)心拍数 >90/min3)呼吸数 >20/min または PaO2 <32 Torr4)白血球数 >12,000/mm3,または <4,000/mm3 あるいは未熟顆

粒球 >10%

Table 3 

当院のフォトサーベイにおける集計結果(全 60 細胞観察)

細胞一致率:48/60 細胞(80%以上)

※認定技師 D:初回値は47 細胞,再教育後 27 細胞とカウントした

Segの数

認定技師(7名)

A

35

B

30

C

38

E

33

F

38

G

38

H

41

認定技師以外(3名)

Table 2 

医学検査 Vol.64 No.6 2015 647

p.22

bamba
長方形
Page 26: 白血球目視分類の共用基準範囲案 - JCCLS白血球目視分類の共用基準範囲案 目的 好中球比率や好中球数は基本的検査であるが,好中球の形態学的判断基準や基準範

比率が増加しているが,ばらつきは新分類基準の方が低い傾向を示した。

検血案 日臨技案 新分類基準SIRS項目数 SIRS項目数 SIRS項目数

平均

0

0101020

40

60

1 2 3 4 0 1 2 3 4 0 1 2 3 4

SD

各基準における SIRS 項目数と band 比率Figure 4 

2)症例提示(Figure 5)症例は肺炎を主訴に来院した患者で,意識レベル

の低下と発熱を認めていた。インフルエンザ A が陽性でタミフルを処方された。その後もレベル改善なく,イノバン投与開始後,徐々に回復し経過が安定した症例である。

折れ線グラフは上から検血案,日臨技案,新分類基準の順で band 比率の経過を示している。また下段には SIRS 項目を示している。検血案はすべての経過で band 比率が 10%以上であった。日臨技案および新分類基準は SIRS 項目該当数に相応して band 比率が推移した。

SIRS 症例を用いた検証は,第 14 回日本検査血液学会で使用した標本を用いて実施し得たので,それ

SIRS 診断項目のうちバイタルの項目数と白血球数(band が 10%以上を示した症例数との関連)

バイタルとWBCでSIRSの診断がつく症例: 64/74例(86.5%)さらにstbの比率でSIRSに診断される症例:検血案 73/74例(98.6%)

日臨技案 69/74例(93.2%)新分類基準 68/74例(91.9%)

WBC 4.0×103/μL未満 4.0~12.0×103 /μL

VITAL

0 0

1 2 9/9 4/9

2 3

3 2

12.0×103/μL以上

0

6

17

6

検血案

3

5/9

13

13

日臨技案 新分類基準

Table 4 

SIRS項目体温心拍数呼吸器系白血球数

(-)

検血案

日臨技案

新基準

90

50

100

band(%)

症例提示Figure 5 

648 医学検査 Vol.64 No.6 2015

p.23

bamba
長方形
Page 27: 白血球目視分類の共用基準範囲案 - JCCLS白血球目視分類の共用基準範囲案 目的 好中球比率や好中球数は基本的検査であるが,好中球の形態学的判断基準や基準範

ぞれの基準案の特徴が見いだされた。検血案は従来から指摘されているように band 優位にカウントされる傾向がある。Figure 5 においてもその特徴が確認され,SIRS の経過観察においては白血球数の項目を満たさない時期では,特に band 比率が SIRS 判定に影響を与える。以上より,SIRS 症例の検討からも新分類基準の実用性は確認でき,臨床的な経過ともよく一致することからも SIRS 基準の immuture ≥ 10%もそのまま用いることは問題ないものと考える。

謝辞今回の検証では,特にバーチャルスライドで以下に示す全国の

多くの施設及び方々にご協力を頂きました。ここに御礼を申し上げます。

 大阪市立大学病院,慶応大学病院,川崎医科大学付属病院,浜松医科大学付属病院,京都大学医学部付属病院,独協医科大学付属病院,けいゆう病院,ピーシーエルジャパン,札幌北楡病院,焼津市立病院,藤枝市立病院,藤沢市民病院,静岡市立静岡病院,静岡市立清水病院,静岡赤十字病院

(順不同,敬称略)

■文献

 1) 日本臨床衛生検査技師会・日本検査血液学会 血球形態標準化ワーキンググループ:「血球形態検査における標準化の普及にむけて(日臨技各ブロック研修会配布パンフレット)」,2015.

 2) 日本臨床衛生検査技師会血液形態検査標準化ワーキンググループ:「血液形態検査に関する勧告法」,医学検査,1996;45: 1659–1671.

 3) 山口 孝一,他:「血球形態標準化の検証 好中球 桿状核球と分葉核球 SIRS 症例での検証」,日本検査血液学会雑誌,2013; 14: S78.

 4) 山口 孝一,他:「バーチャルスライド・健診検体・SIRS 症例を用いた stab,seg 新基準の検証」,医学検査,2015; 64 巻別冊: 16.

 5) 三島 清司,他:「血液形態標準化案の比較検証」,日本検査血液学会雑誌,2010; 11: 328–335.

 6) 亀井 喜恵子:「好中球・リンパ球形態の標準化と問題点」,日本検査血液学会雑誌,2002; 3: 220–227.

 7) 奥嶋 博美,他:「日本検査血液学会提唱白血球分類法による好中球桿状核球と分葉核球の目視比率について(第 1 報)」,日本検査血液学会雑誌,2015; 16: 136–141.

Special ArticleThe Panel Discussion (Co-hosted with JSLH) The New Criterion for Classifying Neutrophils on Paripheral Blood Smears

Examination of the new classification criteria of band and seg usingvirtual slides, medical examination specimens, and SIRS specimens

Koichi YAMAGUCHI 1) Masahiko OOHATA 1)

1) Shizuoka Red Cross Hospital Laboratories (8-2, Otemachi, Aoi-ku, Shizuoka-shi, Shizuoka 420-0853, Japan)

SummaryWe examined the clinical application of the new classification criteria for neutrophil-lineage cells. Twelve facilities

and 87 researchers (including individual participants) were asked to conduct cytological evaluations of 50 medicalexamination specimens that satisfied all the criteria in terms of biochemistry, immunology, and hematology, as well asthe virtual slides prepared for CML cases. We also performed the cytological evaluation of the 60 cells used in aphotosurvey and 74 clinical specimens including those from SIRS cases. The percentage of stab neutrophils (band) ofthe medical examination specimens ranged from 0.5 to 6.7%, which is almost the same as the national average, i.e.,from 0.5 to 6.5%. The virtual slides showed characteristics such as a left-side or right-side predominance amonginstitutions, and personal accounts themselves represented the characteristics of their institutes. The reproducibility ofthe new classification criteria was favorable when more than 80% of the results of the photosurvey were consistent.We also consider that the band ratio will increase in accordance with the vital signs and can be available in everydayclinical practice without causing any problem for the examination of SIRS specimens.

Key words: new classification criteria, band, seg, virtual slides, SIRS(Received: September 28, 2015)

医学検査 Vol.64 No.6 2015 649

p.24

bamba
長方形