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- 1 - 沖縄県立総合教育センター 後期長期研修員 第 55 集 研究集録 2014 年3月 〈知的・自閉症・情緒障害教育〉 発達障害のある児童の学習規律の定着をめざした指導の工夫 児童が主体的に課題に取り組む意欲を高める指導とICTの活用を通して豊見城市立とよみ小学校教諭 平 良 みどり テーマ設定の理由 平成 19 年4月から学校教育法の一部改正によって、特殊教育から特別支援教育に変わり、すべて の学校において、障害のある幼児児童生徒一人一人の教育的ニーズに応じた支援を充実していくこと となった。さらに、「障害者基本法」(平成 23年8月)の第 16条では、「障害のある児童が障害のな い児童と共に教育を受けることが重要」であることが明確に示されている。また、インクルーシブ教 育システムの構築においては「同じ場で共に学ぶことを追求するとともに、個別の教育的ニーズのあ る幼児児童生徒に対して、自立と社会参加を見据えて、その時点で、教育的ニーズに最も的確に応え る指導を提供することができる多様で柔軟な仕組みを整備すること」が重要であるとされている。 とよみ小学校(以下「本校」とする)の特別支援学級(以下「本学級」とする)には、4名の児童 が在籍している。構成は知的障害児1名と発達障害のある児童3名である。4名とも言語コミュニケ ーションが可能で明るく元気である。全員が交流及び共同学習(以下「交流学習」とする)へ参加し、 友達と遊んだり一緒に活動したりすることができている。一方で、集団の中では教師の指示や話を聞 けない、注意集中持続の困難、姿勢の維持や整理整頓、コミュニケーションや人間関係作りが苦手等 の課題があるためスムーズに学習へ参加することが難しい実態がある。彼らが教科指導を中心とした 交流学習に臨むためには、その課題を改善・克服し、「学習規律を守る」ことが大切であると考える。 ここで「学習規律」とは、学習が成立するための規則であり基礎的条件の一つである。児童の学ぶ 力の向上を図るためには、学年の発達の段階に応じた学習規律を学校全体で確認し、児童にも具体的 に分かりやすく提示、学習に主体的・意欲的に取り組む児童の育成を目指すことが重要であると考え る。本校にも学習規律「とよみっ子の学習の約束」(以下「本校の学習規律」とする)があり、具体 的な項目が明記されその徹底に取り組んでいる。しかし、発達障害のある児童の場合、上述したよう に学習規律を守るということに困難がある場合も少なくない。本学級でも交流学習へスムーズに参加 するというねらいのもと学習規律の定着に向け取り組んでいるが、児童自身の学習規律に対する課題 意識が薄いため指導による改善は一時的であり、自ら改善しようとしないかぎり定着は難しい現状が ある。これらのことから、発達障害のある児童が主体的に学習規律を守るためには、問題解決へ向け て課題意識を持たせることや、児童が集中して取り組めるように、興味関心や意欲を持たせる指導を 工夫することが必要だと考える。 特別支援学級における指導領域の一つに「自立活動」がある。自立活動の目標は「個々の子どもの 自立を目指し、障害による学習上又は生活上の困難を主体的に改善・克服するために必要な知識、技 能、態度及び習慣を養い、もって心身の調和的発達の基盤を培う」である。特別支援学級では、自立 活動の指導を通して障害のある児童の持つ能力や可能性を伸ばすことができる。児童の持つ課題解決 に必要な能力や可能性を伸ばすことができれば、成功体験を積み重ねることができる。この積み重ね が児童の自己肯定感を高めることへつながり、最終的には児童自身の主体性を育むことにつながると 考える。そこで、児童が学習規律を守る上で必要な力を自立活動の指導内容と関連付けて指導するこ とで高めたい。 一方、学習指導で効果的な指導に役立つツールとしては、多様な子供たちの可能性を伸ばし、主体 性を育むことができるとされるICT(Information and Communication Technology:情報通信技術。 以下「ICT」とする)があげられる。ICTの活用は学習意欲や集中力を高め、個々のニーズに合 わせて教材を工夫できると言われている。特に、発達障害のある児童は、視覚的な情報提示が理解し

発達障害のある児童の学習規律の定着をめざした指導の工夫 · 本校にも学習規律「とよみっ子の学習の約束」(以下「本校の学習規律」とする)があり、具体

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沖縄県立総合教育センター 後期長期研修員 第 55 集 研究集録 2014 年3月

〈知的・自閉症・情緒障害教育〉

発達障害のある児童の学習規律の定着をめざした指導の工夫

―児童が主体的に課題に取り組む意欲を高める指導とICTの活用を通して―

豊見城市立とよみ小学校教諭 平 良 みどり

Ⅰ テーマ設定の理由

平成 19 年4月から学校教育法の一部改正によって、特殊教育から特別支援教育に変わり、すべて

の学校において、障害のある幼児児童生徒一人一人の教育的ニーズに応じた支援を充実していくこと

となった。さらに、「障害者基本法」(平成 23 年8月)の第 16 条では、「障害のある児童が障害のな

い児童と共に教育を受けることが重要」であることが明確に示されている。また、インクルーシブ教

育システムの構築においては「同じ場で共に学ぶことを追求するとともに、個別の教育的ニーズのあ

る幼児児童生徒に対して、自立と社会参加を見据えて、その時点で、教育的ニーズに最も的確に応え

る指導を提供することができる多様で柔軟な仕組みを整備すること」が重要であるとされている。

とよみ小学校(以下「本校」とする)の特別支援学級(以下「本学級」とする)には、4名の児童

が在籍している。構成は知的障害児1名と発達障害のある児童3名である。4名とも言語コミュニケ

ーションが可能で明るく元気である。全員が交流及び共同学習(以下「交流学習」とする)へ参加し、

友達と遊んだり一緒に活動したりすることができている。一方で、集団の中では教師の指示や話を聞

けない、注意集中持続の困難、姿勢の維持や整理整頓、コミュニケーションや人間関係作りが苦手等

の課題があるためスムーズに学習へ参加することが難しい実態がある。彼らが教科指導を中心とした

交流学習に臨むためには、その課題を改善・克服し、「学習規律を守る」ことが大切であると考える。

ここで「学習規律」とは、学習が成立するための規則であり基礎的条件の一つである。児童の学ぶ

力の向上を図るためには、学年の発達の段階に応じた学習規律を学校全体で確認し、児童にも具体的

に分かりやすく提示、学習に主体的・意欲的に取り組む児童の育成を目指すことが重要であると考え

る。本校にも学習規律「とよみっ子の学習の約束」(以下「本校の学習規律」とする)があり、具体

的な項目が明記されその徹底に取り組んでいる。しかし、発達障害のある児童の場合、上述したよう

に学習規律を守るということに困難がある場合も少なくない。本学級でも交流学習へスムーズに参加

するというねらいのもと学習規律の定着に向け取り組んでいるが、児童自身の学習規律に対する課題

意識が薄いため指導による改善は一時的であり、自ら改善しようとしないかぎり定着は難しい現状が

ある。これらのことから、発達障害のある児童が主体的に学習規律を守るためには、問題解決へ向け

て課題意識を持たせることや、児童が集中して取り組めるように、興味関心や意欲を持たせる指導を

工夫することが必要だと考える。

特別支援学級における指導領域の一つに「自立活動」がある。自立活動の目標は「個々の子どもの

自立を目指し、障害による学習上又は生活上の困難を主体的に改善・克服するために必要な知識、技

能、態度及び習慣を養い、もって心身の調和的発達の基盤を培う」である。特別支援学級では、自立

活動の指導を通して障害のある児童の持つ能力や可能性を伸ばすことができる。児童の持つ課題解決

に必要な能力や可能性を伸ばすことができれば、成功体験を積み重ねることができる。この積み重ね

が児童の自己肯定感を高めることへつながり、最終的には児童自身の主体性を育むことにつながると

考える。そこで、児童が学習規律を守る上で必要な力を自立活動の指導内容と関連付けて指導するこ

とで高めたい。

一方、学習指導で効果的な指導に役立つツールとしては、多様な子供たちの可能性を伸ばし、主体

性を育むことができるとされるICT(Information and Communication Technology:情報通信技術。

以下「ICT」とする)があげられる。ICTの活用は学習意欲や集中力を高め、個々のニーズに合

わせて教材を工夫できると言われている。特に、発達障害のある児童は、視覚的な情報提示が理解し

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やすいということからも教育的な指導に効果が期待できると考える。

以上のことから本研究では、自立活動の時間を活用しながら特に発達障害のある児童への、学習規

律の定着を図りたい。児童が主体的に課題を改善・克服するために、まず、学習規律に対する自己評

価から課題意識を持たせたい。さらに、学習規律の良さを具体的に知らせることで大切さに気づかせ、

自ら解決の手立てを考えさせたい。また、具体的な指導ではICTを導入し、視覚的情報で理解を深

め、興味関心を促し、自ら学ぶ意欲を高めたい。そこから、通常の学級の交流学習で般化する力へと

導けるのではないかと考え本テーマを設定した。

〈研究仮説〉

1 児童が主体的に課題に取り組むために、他者の信頼や期待に気づかせながら本人の頑張りを確

認し、達成感を味わわせることで、学習規律を守ろうという「意思」や「意欲」を持つことがで

き、学習規律が定着するであろう。

2 教材の提示や発表、考えの共有の場面等において、ICTを活用することで、学習内容が視覚

的に捉えやすくなり、児童が興味・関心を持ち自学ぶ意欲を高めることで、学習規律の定着につ

なげることができるであろう。

Ⅱ 研究内容

1 発達障害とは

発達障害の定義は、「自閉症、アスペルガー症候群

その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性

障害その他これに類する脳機能の障害であってその

症状が通常低年齢において発現するものとして政令

で定めるもの」(平成 17年「発達障害者支援法施行令」)

と定義されている。

文部科学省が行った実態調査では、通常の学級に通

っている児童・生徒の6.5%に、知的な遅れはないも

のの、学習面で著しい困難を持つ子がいることが報告

されている(図1)。その主な発達障害には、注意欠

陥多動性障害(以下「ADHD」とする)、学習障害(以下「LD」とする)、自閉症スペクトラ

ムがある(表1)。さらに、それぞれの障害が重複しているケースもある。

表1 主な発達障害

医学的診断名 障害の内容 よくみられる行動特性

注意欠陥多動性障害 (ADHD)

注意力、及び又は衝動性・多動性 を特徴とする行動の障害で社会的 な活動や学業の機能に支障をきた すもので、行動をコントロールす ることが苦手

視覚優位、集中の持続が難しい、落ち着きがない、話を聞いていないように見える、やり遂げることが難しい、計画が苦手、なくし物が多い、忘れ物が多い、席を離れる、良く動く、おしゃべりが多い、順番が待てない、他人の邪魔や妨害が多い 等

学習障害(LD) 全般的な知的発達に遅れはないが、聞く、話す、読む、書く、計算する又は推論する能力のうち特定のものの習得と使用に著しい困難を示す様々な状態を指すもの

はなしを聞いての意味理解が難しい、音読が苦手、文字を正しく書けない、図形の理解が難しい、計算問題が苦手、文章題が解けない 等

自閉症スペクトラム (自閉症・アスペルガー症候群・高機能自閉症など、一連の症候群を連続体として捉える)

他人との社会的関係の形成の困難さ、言葉の発達の遅れ(高機能自閉症)、興味や関心が狭く特定のものにこだわることを特徴とする行動の障害

視覚優位、数字や図の記憶が得意、興味関心が狭く意欲の差が激しい、その場のルールや約束に従えない、こだわりで切り替えが難しい、一方的な会話になりがち、相手の感情や状況を考えずに話す、顔の表情が読めない、感覚過敏(あるいは鈍麻)がある、パニックになりやすい 等

表1のような特性が見られる発達障害のある児童は、学校生活を送っていく上でうまくいきに

くいことがある。学校生活では、特性に対する理解不足からその行動(不適応行動)ばかりが目

につき、周りから誤解され、叱咤や非難をたびたび受けることがある。非難や叱責を繰り返して

いると児童は自信を失い、自尊感情が傷つき、二次的に別の障害や疾病を引き起こすことがある。

発達障害のある児童への対処ポイントは、その障害の特性を理解し「叱るより褒める」とされ

ている。常に、否定的な目で見られていると、自己肯定感や自尊感情が育まれにくい。「何をや

図1 2012 年文部科学省:全国実態調査

LDの疑い

4.5% (約 42 万人) ADHD

の疑い 3.1% (約 29 万人)

自閉症

スペクトラム 1.1%

(約 10 万人)

通常の学級

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ってもだめ」と言う自己嫌悪や「どうせできない、どうせ叱られる」といった自信や意欲の喪

失ばかりが大きくなっていく。得意なことを

見つけて褒め、活躍できる場をつくるように

し、自信を持たせ自己肯定感や自尊感情を高

めることが大切であるというわけである。

以上のことをふまえて、本研究でも、児童

の自己肯定感や自尊感情を高めながら、表2

の項目に留意し、発達障害の特性に合わせた支援や配慮を工夫したい。

2 自立活動について

学習指導要領には下記の内容が記されている。自立活動とは、障害のある児童生徒が自立や社

会参加を目指し、障害による学習上又は生活上の困難を主体的に改善・克服するために、特別支

援学校に特別に設けられた領域である。自立活動は、障害のある児童生徒の教育にあたり、教育

課程上重要な位置を占めている。

自立活動の目標は、「個々の児童又は生徒が自立を目指し、障害による学習上又は生活上の困

難を主体的に改善・克服するために必要な知識、技能、態度及び習慣を養い、もって心身の調和

的発達の基盤を培う」である。

自立活動の内容は、人間としての基本的な行動を遂行するために必要な要素と障害による学習

上又は生活上の困難を改善・克服するために必要な要素で構成しており、「健康の保持」「心理的

な安定」「人間関係の形成」「環境の把握」「身体の動き」「コミュニケーション」の6区分 26 項

目に分類・整理されている。具体的な「指導内容」は各教科のようにすべてを取り扱うものでは

なく、児童一人一人の実態により、26 の項目のうち必要なものを選択し、個別の指導計画を作成

し実施する。この自立活動は、授業時間を特設して行う自立活動における指導を中心とし、各教

科等の指導においても、自立活動の指導と密接な関連を図って行われなければならない。

本研究では、児童の実態から、自立活動の内容項目「心理的な安定」「人間関係の形成」「環境

の把握」「身体の動き」「コミュニケーション」を関連付けて指導する。また、各教科等を合わ

せた指導でも、学習規律の定着に向けて、上記の内容について指導を行う。

3 学習規律について

(1) 学習規律とは

学習規律とは、学習が成立するための規則であり、基礎的条件である。二人以上の者が一緒

に学習する教室には、学習をするための約束事が必要になる。それは、そこにいる全ての人の

学ぶ権利を保障するためにある。つまり、学習規律とは、一緒に学習する人が共に守るべきも

のなのである。「学力向上」のキーワードともいえる学習規律。児童の学ぶ力の向上を図るた

めには、学年の発達の段階に応じた学習規律を学校全体で確認し、児童にも具体的に分かりや

すく提示する必要がある。さらに、学習に主体的・意欲的に取り組む児童の育成を目指すこと

も重要であると考える。

(2) 特別な支援を要する児童への配慮

近年、通常の学級には、発達障害のある児童等の

存在が認められている。彼らには、その障害の特性

から、規律を守ることが難しいこともある。しかし、

学習規律はそこにいる全ての人の学ぶ権利を保障

するものであるため、学習を成立させるためには、

全ての人が学習規律を守ることが重要となる。学校

生活において学習規律を守ることは、社会に参加す

るために必要な、社会的規律を守るという自律(自

立)への基礎的な訓練ともいえる。そこで、障害の

ある児童の指導では個々の特性や実態を把握し、個

に応じた指導と支援、授業の工夫が大切である。併

せて、特別支援学級担任との連携的な指導や支援員

配置等で、学習へスムーズに参加できるような配慮を行うことも必要である。さらに、学習規

律について、一つ一つの項目の必要性や目的、その良さについて理解を深めることで自ら守ろ

集中しやすい環境作り、視覚的支援、指示や発問はわ

かりやすく簡潔にする、授業の進め方を工夫する、学

習支援ツールを活用する、順番や規則を守れるように

する、特訓よりも弱点の補強をする、苦手意識を持た

せない、得意な事や教科を伸ばす、見通しを持たせる

表2 学校での支援や配慮例

図2「とよみっ子の学習の約束」より

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うとする意思を高める指導が求められている。

検証授業では、本校の学習規律「とよみっ子の学習の約束」の定着について指導する(図2)。

全 19 項目の学習規律の中から、各学年の重点指導項目など6つを取り上げ、毎時 1 項目ずつ

指導する。指導では、児童の学習規律における課題を確認し、各項目の必要性や目的について

の理解や解決策を考えさせ、意識を高めたい。

4 主体的な取り組みとの関連

学校教育は今、「生きる力」をテーマに掲げながら進んでいる。特別支援教育の基本理念(平

成 19 年4月文部科学省初等中等教育局長通達)では、目指すものは障害のある幼児児童生徒の

自立と社会参加であるとしている。自立と社会参加のためには、幼児児童生徒の主体的な活動へ

の支援が大変重要である。児童が主体的に活動に取り組むためには、活動に対して「やりたい」

「そうしたい」「やりとげたい」などの「意思」を持つことや、自分自身の課題を知り「課題意

識」を持つことが大切であること等が文献等に示されている。次に、「○○のようになりたい」「○

○ができるようになりたい」という目標のある活動で見通しを持つ。それが主体的な取り組みへ

とつながり、その取り組みが達成できた時に達成感や成就感を味わうことができるであろう。達

成感や成就感は自己肯定感を高め、日常生活や学習の場面で障害によって生じるつまずきや困難

を自ら軽減しようとしたり、克服・改善しようとしたりする意欲へとつながると考える。

中央教育審議会スポーツ・青少年分科会(平成 18 年2月)の調査研究では、「子どもの意欲・

やる気等とは、自己を認め、様々な事象に前向きに取り組める力」としている。様々な体験活動

において児童生徒自身が判断し、仲間とともに課題を達成していく中で積極性や主体性、あるい

はリーダーシップなどが発揮できるようになり、成功体験を実感でき、さらに意欲が高まるとい

った効果が示されている。また、意欲・やる気等を向上させる働きかけとしては、家庭での親子

関係や学校での友人関係などにおいて、他者の気持ちや考えに気づいたり他者から信頼・期待さ

れていると感じたりすることの重要性も挙げられている。

ここで、教育活動に視点をあてると、児童の主体的な学びを引き出す教師の関わりとしては、

学級作りが最も大切である。具体的には、「学級目標に立ち返る」「受容の雰囲気を作る」「個の

伸びに応じて認める・褒める」「相手意識を持たせる」「年間の見通しを持たせる」等である。ま

た、目指す授業像や子ども像を児童と共有することも大切であるとされ、明確なねらい(焦点化)

と学習の見通しを持たせ、考える必要のある課題を設定し、児童の興味・関心を喚起する提示の

仕方を工夫すること等があげられる(表3)。

本学級の児童の場合、教師や支援者の言葉かけや促しがあると学習規律を守ることができる。

しかし、言葉かけや促しの効果は一時的であり、自ら規律を守っているとはいえない現状がある。

そこで、主体的な取り組みに向けて、以下のことに留意して指導を計画したい。(1)子どもの主

体的な学びを引き出すため、授業では明確なねらいと学習の見通しを持たせる(焦点化する)。(2)

主体的に自己の課題を克服・改善するため、課題意識を持たせる工夫をする。(3)教材の提示や

発問などで、子どもへ「やりたい」「そうしたい」などの「意思」を持たせることで意欲を喚起

し、活動後の達成感や成就感を味わえるようにする。(4)個の頑張りを褒め、他者の気持ちや考

え、信頼や期待に気づかせながら、自己肯定感を高める。

5 ICTの活用と効果

ICTの活用による効果については、これまでの調査研究から明らかになっている。H18、19

年における文部科学省による調査研究においては、ICTを活用して授業を行った教員の 98%が

「関心・意欲・態度」の観点において効果を認めている。さらに、児童生徒が集中して取り組め

るようになることや楽しく学習できるようになること等についても、多くの教師が効果を認めて

いる。また、児童生徒に対する調査でも学習に対する積極性や意欲、学習の達成感を味わう等で

○学習環境の整備

○自分で決める場の設定

○思考する場の設定

○ペア・グーループの活用

○構造的な板書

○指示する言葉を認める言葉に換える

○考えの共有や比較する場の設定

○授業の山場のゆさぶり(どうしてそう思う

の?等、根拠を示させる)

○思考のヒントは子どもの言葉の中から

○子ども自身に問いを持たせる

○教科のおもしろさの獲得

○大事なことは子どもの言葉で

○ねらいの達成の把握と価値付け

○ふり返りの充実

表3 子どもの意欲を高め、思考を深める教師の関わり例(H22 石川県小松教育事務所)

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表4 活用場面と活用効果例

評価が高かったという結果がある。その他にも様々な効果がある(表4)。

しかし、文部科学省の「初等中等教育における学習指導でのICT活用」では、学習指導の効

果を高めるICT活用のためには以下の留意点が挙げられている。例えば、興味・関心を高める

ためであるならば、指導のねらいや児童生徒の実態に応じた題材や素材を教師が十分吟味して選

んでいくことである。より高い教育効果に結びつけるためには、ICT活用に併せて指導のねら

いの把握、日頃からの児童生徒の実態把握、授業における活用のタイミング、教師の発問、指示

や説明といった従来からの授業技術との融合も重要とされている。

本研究では、発達障害のある児童への指導にICTを活用する。発達障害のある児童の多くは

視覚優位という特性を持っていることから、ICT活用の有効性をふまえ、視覚化による理解や

思考の深化、関心意欲の拡充等、様々な効果をねらい、児童の実態にあわせてICTを活用した

い。

活用場面

・学習に対する児童生徒の興味・関心を高める

・児童生徒一人一人に課題を明確につかませる

・わかりやすく説明したり、児童生徒の思考や理解を深めたりする

・学習内容をまとめる際に児童生徒の知識の定着を図る

活用効果例 ・関心・意欲の拡充 ・焦点化による知識の補完 ・視覚化による思考の深化 ・知識の定着

・繰り返し練習による理解の補完 ・短時間での情報収集 ・拡大提示による話し合い活動の充実

Ⅲ 研究の実際

1 対象児童の実態(3年男児Y、2年女児H、2年男児R) 3年男児Y 2年女児H 2年男児R

常の学

本人には学習面・生活面ともにあまり困り感はなく、教師や友人からの関わ

りがあるので交流学習が楽しそうである。学習中は静かであるが、集中が持続できず、話を聞いていないため学

習に身が入らないことがある。友人とのコミュニケーションは声をかけてもらうことが多い。本人からのかかわ

りは一方的または聞いているだけの状態になりやすい。

学級の友人との関係を楽しんでいる。 友人との関係が安定しているときは

学習や活動にも積極的にかかわろうとする。反面、そうでない時や心が不安定な時は教室移動の準備に時間が

かかり授業開始に間に合わない。よく理解できている場面でも発言が少ない。姿勢を維持することが難しい。手

遊びが多いため机上が乱雑で机周りに物が落ちている。

気の合う友人と遊ぶことができる。 注意集中が短く、教師の指示や話をほ

とんど聞いてない状態が多い。そのため、学習に身が入らない状態が見られ課題を仕上げることに時間がかかる。

また、姿勢を維持することが難しく、集中できなくなるとうつぶせになる。本人ができるような課題でもやる気

がなくぼんやりと座っている。やる気のなさは交流学習全般でみられる。

支援

学級

学習の準備ができ忘れ物をしない。両足を床につけて長時間学習することができる。気が散りやすく集中するこ

とが難しい。マンツーマンだと学習に集中できるが個人学習になると気が散り学習に集中できなくなる。そのた

め、学習が進みにくい。

心が安定しているときは、積極的に発言や発表ができる。教師や黒板に視線を集中させる時間は短いが、学習内容

を理解している。良い姿勢の保持時間が短く左足を右足の下に挟み込んで座る。手遊びが多い。遊びに夢中にな

りやすく次の学習の準備に時間がかかる。チャイムが鳴っても席に着かないなど切り替えが難しい。

姿勢の保持時間が長い。課題をやり遂げることができる。通常の学級に比べて集中しているが、ぼんやりとしてお

り、表情や態度からはやる気や意欲があまり感じられない。 支援学級でも学習面・生活面全てに自

信がない様子が見られる。「どうせできない」等の自尊心の低さが感じられる発言がある。

本校の学習規律の自

己評価 (9月 各4点

満点)

「学習の準備4、進んで発表4、顔を向けて話を聞く4、次の学習の準備4、正しい姿勢3」等ほとんどの点が

高く、「すらすら読む2」が一番低い点である。平均が 3.7 で「よくできている」に近い評価である。

「授業の準備 4、進んで発表4、話を聞く4、すらすら読む4」等は高く、「チャイムで授業1、正しい姿勢1、

話し手を見る1」等は低い。平均が 3.3と、「どちらかというとできている」と捉えている。

「良い姿勢4、聞き手を見て話す4、文字を丁寧に書く4」の他の項目はほとんど2点で3点も少ない。平均が

2.8 と、「どちらかといえばできていない」ととらえている。

○各項目における細かい課題部分

→頑張るべき課題を明確にし、さらに意識して取り組ませる。

○集中の時間が短い

→ICTの活用により興味関心を促し、思考や活動をとぎれさせない。

○自信を持たせる →家庭との連携で音読練習を行い、

すらすら読ませる。

○場面の切り替えが苦手

→合図となるチャイムを意識させる。

→望ましい姿について確認する。

○良い姿勢の保持が短い →本人なりの解決方法をこまめに

確認する。

→できている時の声かけにより現状を持続させる。

○自信を持たせる

→できることは大いに褒める。 ○学習の準備

→家庭との連携。

○自己肯定感を上げる

→行動や発言等、良い部分を積極的に褒める。

→「道徳」等で他者からも頑張りや

長所が認められていることへ気づかせる。

○課題解決についての意識強化

→達成できそうなことから教師による促しや事前に確認するなどで意識を強化し、意図的に成功体

験を積ませる。 ○内容理解

→視覚的な支援によって指示理解

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→なぜ学習規律が必要かについて

明確にする。 ○集中時間が短い

→ICTの活用で興味関心を促す。

や意味理解を高める。

○集中時間が短い →ICTの活用で興味関心を促す。

2 指導計画と指導目標(全8時間)

指 導 計 画 指 導 目 標

「自立活動」との関連

()数字は 26 項目の該当項目

1 時 ・目標をたてる ○目標を立てることができる 2心理的な安定(1)(3)

3人間関係の形成(3)(4)

2時

・チャイムが鳴り終えたら、授業を始める

・どうやったらできるか方法を考える

○学習規律の良さを考えることができる ○課題を解決するための方法を考えること

ができる

2心理的な安定(3)

3人間関係の形成(3)(4)

4環境の把握(2)

3時

検証

・良い姿勢で学習する (足をしっかり床につける) ・良い姿勢と悪い姿勢を比べる

・どうやったらできるか方法を考える ・やってみよう

○学習規律の良さを考えることができる ○課題を解決するための方法を考えること

ができる

2心理的な安定(3)

3人間関係の形成(3)(4)

4環境の把握(2)

5身体の動き(2)

4 時

・話し手に身体を向けて、あるいは顔を向けて聞く

・どうやったらできるか方法を考える

○学習規律の良さを考えることができる ○課題を解決するための方法を考えること

ができる

2心理的な安定(3)

3人間関係の形成(3)(4)

4環境の把握(2)

6コミュニケーション(1)

5時

・授業が終わったら次の時間の準備をし

てから休み時間に入る

・どうやったらできるか方法を考える

○学習規律の良さを考えることができる

○課題を解決するための方法を考えること ができる

2心理的な安定(3)

3人間関係の形成(4)

4環境の把握(2)

6時

・廊下は静かに歩く

・どうやったらできるか方法を考える

・友達の頑張っていることを発表する

○学習規律の良さを考えることができる ○課題を解決するための方法を考えること

ができる

○他者の信頼や期待に気づくことができる

2心理的な安定(3)

3人間関係の形成

(2)(3)(4)

4環境の把握(2)

7時

検証

・頑張っていることを発表する

・友達の頑張っていることを発表する

○頑張っていることや出来るようになった

ことは、どのように解決することができた かを書き発表することができる

○他者の信頼や期待に気づくことができる

2心理的な安定(3)

3人間関係の形成

(2)(3)(4)

4環境の把握(2)

8時 ・頑張っていることを確認する

・これからも頑張りたいことを発表する

○これからも頑張りたいことを発表するこ とができる

3人間関係の形成(1)(4)

3 授業の計画

(1) 教材について

本校の学習規律「とよみっ子の学習の約束」を取り上げ、その具体的な項目の中から、特に

学級、学年、学校が指定している重点目標を中心に指導する。毎日の自立活動の内、週1時間

を「学習規律の定着」をめざした指導とする。

(2) 仮説の検証方法について

授業では、児童が課題意識を持ち主体的に活動したか、行動観察(表情・発言・態度)、VTR、

ワークシートから検証する。また、教師側の発問、教材提示、主体性を持たせる工夫、ICT

の活用の効果については、VTRや児童の行動観察から検証する。最後に事前と事後の学習規

律についての自己評価やアンケートからその変容を確認する。

4 指導の実際

(1) 第1回検証 11 月 26 日(水)2校時

題材名 自立活動「がんばろう ひまわりっ子」~学習規律の定着をめざそう~第3時

① 本時の目標

ア 良い姿勢で学習するための方法を

知ることができる(R児)

イ 良い姿勢で学習するための方法

を考えることができる(Y児、H児)

② 授業仮説

ア 課題意識を持つことで、主体的に

改善・克服する方法を考えようとす

るであろう。

イ 教材の提示や発表、考えの共有化の場面においてICTを活用することで、視覚化し、

学習内容の理解や興味関心を促し自ら学ぶ意欲を高めることができるであろう。

図3 授業の様子

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③ 展開

活 動 内 容 支 援 と 留 意 点 ・ 評 価

自立活動

との関連

1 朝のあいさつ・元気調べ

2 11 月の生活目標

3 レクタイム

4 前回のがんばることをふりかえる

5 今日の「がんばろう ひまわりっ子」に

ついて知る

めあて

・児童の司会進行で進める

・声を出し、ダンスで身体を動かしリラックスして活動へ入れる

ようにする

・前回までの「 がんばろう ひまわりっ子 」をふり返り、頑張

ることへ意識を向けさせる(フラッシュカード)

・頑張っている事を褒める

・今日のめあてを確認する

3-(4)

6 良い姿勢と悪い姿勢を比べよう

7 どうやったらできるかまとめて発表し

よう

8 良 い 姿

とはどん

なかっこ

うかなや

ってみよ

・「姿勢」の良いところを発表させ、その良さについて確認する

・姿勢が崩れるとどんな困ったことに繋がるか確認する

・実際の画像を見て比べさせる(背中・足・顔・目)

・気をつけることを確認する

・どうやったら良い姿勢になるか自分の気をつけることをワーク

シートに記入させる

(評価:良い姿勢で学習する方法を考えることができる)

・実物投影機を使ってワークシートを表示し発表させる

・実際にやらせて体感させる

(実物投影機でその姿を録画し、デジタル黒板で拡大ライブ表

示をする)

2-(2)

3-(3)

5-(2)

4-(2)

9 がんばりチェックの仕方を確認しよう

10 次時について知る

11 終わりのあいさつ

・がんばりチェックをデジタル黒板内の表を使って行わせること

で楽しく意欲を持続させる

・次時について知らせる

④ 授業の結果と考察

ア 「どのような事に気をつけたら良い姿勢ができ

るかな」の問いに対し、「足を付ける」「お腹を膨

らませる(伸ばす)」「顔を見る」等の児童の発言が

あった。また、ワークシートには自分の直したいと

ころを選びそれぞれの課題解決にむけての方法を

記入することができていたことから、一人一人が課

題意識を持つことができ、良い姿勢について理解し

たうえで、自分自身が気をつけるべきところに気づ

いていたと考える。

イ 良い姿勢になる方法を考える際、児童は自分の考えを発表することができた。また、授

業の最中に声かけや合図なしで自ら姿勢を直す姿が見られた。そのことから、自分で考え

た良い姿勢になるための方法で、主体的に改善していくことができていたと捉える。

ウ 題材の提示では、児童自身の画像を使用することで、興味関心を引くことができた。ま

た、児童の画像やフラッシュカードの拡大提示、児童の発言の書き込みや発表の場でのワ

ークシートの表示、良い姿勢のビデオ撮影とリアルタイム表示などでICTを使用した

(図4)。児童は自分の姿が映ることや発表することを喜び、活動を楽しんでいた。

(2) 第2回検証 1月16日(木)5校時

題材名 自立活動「がんばろう ひまわりっ子」~学習規律の定着をめざそう~第7時

① 本時の目標

ア 頑張っていることやできるようになったことで、どうやったらできるようになったのか

を書くことができる。

イ 他者の信頼や期待に気づくことができる。

② 授業仮説

ア 他者の信頼や期待に気づかせながら、本人の頑張りを確認し、達成感を味わわせること

で今後も学習規律を守ろうという「意思」や「意欲」を持つことができるであろう。

イ 教材の提示や発表、考えの共有化の場面においてICTを活用することで、視覚化し学

習内容の理解や興味関心を促し自ら学ぶ意欲を高めることができるであろう。

良いしせいで学習しよう

図4 デジタル黒板への書き込み

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③ 展開

活動内容 支援と留意点・評価 自立活動の

区分・項目

1.はじめのあいさつ 2.レクタイム

3.「とよみっ子の学習の約束」を確かめる 4.今日の「 がんばろう ひまわりっ子 」につい

て知る めあて

・身体を動かしリラックスして活動へ入れるように する

・「とよみっ子の学習の約束」をふり返り、頑張っていることへ意識をむけさせる(フラッシュカード)

・今日のめあてを確認する

5身体の動き(1)

3人間関係の形成(3)

5.頑張っていることを発表しよう ・頑張っていることを選ぶ(自慢したいこと)

・どうやったらできるようになったか書く ・自慢をしよう

6.友だちの頑張っているところを見つけて発表し

よう

7.協力学級の担任からのビデオメッセージを見る

評価

ア 頑張っていることやできるようになったことを

発表することができる

(実物投影機でワークシートを拡大表意)

評価

イ 他者の信頼や期待に気づくことができる

・画像の中から友だちの頑張っていること を見つけてタッチさせる

・ビデオを見せ、協力学級担任からの頑張

りの認めを感じられるようにする

2心理的な安定(3)

3人間関係

の形成(3) 4環境の把握(2)

終末

8.ふりかえりカードをかこう 9.次時について知る

10.終わりのあいさつ

・ふりかえりカードで達成感や次への意欲 を自己評価させる

・次時について知らせる

3人間関係の形成(3)

④ 授業の結果と考察

ア 頑張っていることに対する友

達や協力学級担任からのVTR

や発表を嬉しそうに聞いていた

ことから、他者からの認めと褒

めに気づき、受け止めていたと

考える。

イ 自分の一番頑張っていること

を選び、どのようなことに気をつけたらできるようになったかを書き、発表することがで

きたことから、取り組みへの達成感や満足感を味わうことが出来ていたと考える。(図5)。

ウ 授業の振り返りでは、全員が「嬉しい」「もっと頑張りたい」という解答をした。この

ことから学習規律を守りたいという意思や意欲を持つことが出来ていたと考える。

エ ICTは、スライドショーでの題材提示と既習事項の振り返り、意思表示としての画面

タッチ、実物投影機でワークシートの拡大表示と視覚的共有化、ビデオメッセージを見る

などの場面で活用した。児童は集中して臨んで

いたことから、興味関心を持ち参加できていた

ことがわかる。

Ⅳ 研究仮説の検証と考察

児童が主体的に課題に取り組めるように、教師は初期

の段階に、児童のやる気や学習規律を守ろうという意欲

を高め、促しや声かけがなくても自らできるように、事

前の声かけや、良い状態の「その時」を逃さずに認めや

褒めの言葉をかけた。意図的な関わりで成功体験や学習

規律を守ることに対する満足感を味わえるようにする

ためである。その結果、児童のやる気や学習規律を守ろ

うという意識が高まり、教師の促しや声かけがなくても

「できた」日が増え、自ら頑張る姿がみられるようにな

ってきた(図6)。そのことから、成功体験や満足感は、

児童自ら頑張る姿や意欲的に活動することへつながると考える。また、頑張りに対する教師や友人、

保護者、協力学級の担任、周りの人々からの承認や激励によって、児童はさらに自信を持ち意欲を

自分の頑張っていることを書いて発表しよう(自慢大会)

図5 頑張りを発表

図6 10 日間できたら絵カードを貼る

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表5 本研究におけるICTの活用・効果と児童の反応

維持することができている。これは、児童の課題への取り組みに対し、教師が頑張りを「確認する」

「認める」「褒める」を繰り返すことや、他者からの認めや信頼に気づかせることで、児童が達成

感や成就感を味わうことができたからだと考える。そこから、次も頑張ろうという意思や意欲が高

まり、課題解決や学習規律を守ることへの主体的な取り組みにつながったと考える。今後は、その

意欲を維持し、できるようになったことを通常の学級でも発揮できるように般化をめざしたい。

ICTの活用では、学習内容の理解や定着、児童の興味・関心・意欲を高めるために、「教材や

課題の提示」「振り返り」「モデル提示」「教師や学習者の説明資料提示」「動機づけ」等において、

ICTを活用した教材を作成し、発達障害のある児童にわかりやすいように視覚化した。また、児

童の実態に合わせて教材に修正を加える等、活用しながら工夫や改善を行った。画面タッチなど児

童が意思表示をする操作では、効果音や音声が出るようにし、楽しく意思表示ができるようにした。

言葉での指示では理解することが苦手な児童や、文章で表現することが苦手な児童へは、画像によ

ってイメージやヒントを提示し、視覚的支援で理解しやすいようにした。その結果、どの児童も同

じペースで学習を進めることができた。加えて、児童自身の画像を使った提示資料や動画のライブ

視聴、書き込みや自分で画面をタッチしての頑張りチェックなどのように、児童自身が関わる部分

があると喜んで活動へ取り組んでいた。これは、児童や身近な人々・事象等の画像の利用やICT

機器の直接操作等がさらに意欲を高めていたと考える。児童からも、ICTを活用した授業は、「わ

かりやすい」「楽しい」「もっとやりたい」という感想があった。

これらのことから、ICTを活用した視覚的な教材の工夫により、指示や学習内容が理解しやす

く、児童の興味・関心・意欲を高めることができたと捉える。

学習規律の定着については、児童が主体的に課題に取り組めるように、まず、学習規律がなぜ必

要なのかについて項目一つ一つについて話し合い、その良さに気づかせる等の納得感を高める指導

目的 場面 ねらった効果 本授研究における活用内容 児童の反応

課題の

提示

導入 焦点化

視覚化

意欲・関心の拡充

・学習規律に関するイラストや画像など

を提示し、課題を発見させたり、課題

意識を持たせたりする。

・提示した画像に集中し、課題を見つけることができていた。

・児童自身の画像には視線をそらすことなく見ていた。

繰り返

しによ

る学習

の定着

導入

展開

まとめ

繰り返しによる

理解の補完

・毎時間、学習規律の確認をイラストや

児童自身の画像を使用したフラッシュ

カードで行う。

・毎時確認することで、本校の学習規律を記憶し、大きな声

でとなえることができた。

振り返

振り

返り

学習の振り返り

による定着や確

・既習事項の確認場面や、展開中のキー

ワード確認、まとめの場面で今までに

使用したフラッシュカードを活用し想

起させる。

・画像やキーワードの提示ですぐに既習事項を思い出すこと

ができた。

モデル

の提示

展開 視覚化によるイ

メージ補充・理解

・画像提示で正しい姿勢などの良いイメ

ージを定着させる。

・実際にやっている動きを実物投影機に

よるビデオ録画と拡大ライブで再生を

行う。

・児童自身の画像には歓声をあげて喜んだ。

・実際にやっている姿をライブで拡大表示されることを喜

び、嬉しそうに実演していた。

失敗例

の提示

展開 視覚化によるイ

メージ補充・理解

・画像提示で悪い例などを確認させる。 ・自分自身の規律を守れていない姿をよく見て確認し、課題

を見つけることができていた。

教師の

説明資

展開

まとめ

視覚化

思考の深化

焦点化

・画像やキーワードの提示で視覚的に捉え

やすくする。

・教材を焦点化する。

・画面に集中し、教師の話や説明を聞いていた。

・児童自身の画像などを提示し説明したときは表情が良く、

質問に対しても活発な発言がみられた。

学習者

の説明

資料

展開 拡大提示による

共有化

・実物投影機によるワークシートや児童の

記録などを拡大提示する。

・自身の書いたワークシートが拡大され画面に映ることだけ

で喜んだ。

・拡大表示が嬉しいようで、ワークシートを書くことが普段

より速かった。

・発表や説明を楽しそうに自信を持って行っていた。

学習へ

の動機

づけや

次への

動機づ

導入

展開

まとめ

意欲・関心の拡充 ・学習規律を守っている姿や課題画像など

児童自身の画像を資料として活用する。

・担任からの各児童への「褒めや励まし」

をビデオで見せる。

・意思表示などの場面でデジタル黒板に書

き込みや画面をタッチさせるなどの直

接操作をさせる。

・毎日の頑張りチェック表はデジタルコン

テンツ上でチェックさせる。

・児童自身の画像が写るのを喜び、「次は何かな?」と楽し

みにしていた。

・協力学級の担任の動画が映し出されると、嬉しそうに笑顔

でメッセージを聞いていた。そして、通常の学級でも学習

規律を守りたいと全員が発言していた。

・デジタル黒板への書き込みやタッチをすることで自分なり

の考えや意思を持つことができていた。

・デジタル黒板を操作しての毎日の頑張りチェックに喜んで

取り組み、それを操作することを楽しんでいた。

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を行った。次に、どのようにすれば守れるようになるのか、

その方法について考えさせたり実演させたりした。また、学

習した学習規律の項目は、毎日デジタル黒板で頑張りチェッ

クを行わせた(図7)。デジタル黒板を使っての自己チェッ

クは、前述の通り興味・関心を高め、活用を喜んだ。デジタ

ル黒板を自分で操作したいということが動機付けとなり、児

童は毎日学習規律を意識して過ごすようになった。下校前に

は、一日の振り返りをしながら項目ごとに「できたこと」を

チェックした。「できなかった」項目については、反省し、

「○○を頑張ろう」と改善への目標をもって取り組むように

なった。このように、学習規律を守れるようになっていく満

足感や目標をクリアする達成感を重ねて体験することで、学

習規律の定着に向けた主体的な取り組みが見られるように

なってきたと考える。

学習規律の定着の実際については、特別支援学級担任に児

童の実態チェックを行ってもらった(授業前と検証授業後)。

併せて児童にも学習規律についての自己評価を行った。図8

は、本校の学習規律の 19 項目の中から、基本である学習の

準備と特別支援学級の目標・2学年の目標・3学年の目標・

学校の目標項目5つを抜き出したものである。教師が評価し

た5項目の平均点で学習規律の定着の実際を見ると、Y児平

均3点から 3、4 点、H児2点から 3、2 点、R児 2、6 点から

3、2 点と平均点の推移があり、3名とも「どちらかというと

できていない」から「どちらかというとできている」へと変

容がみられた。その他の項目についても評価点が上昇してい

る。また、児童の自己評価では、Y児 3、4 点、H児 2、8 点、

R児 1、6 点から全員が平均4点「よくできている」と評価し

ており、達成点へ移行している。このことから、児童に「学

習規律を守る」という意識が定着している事がわかる。さら

に、VTRや発言、ワークシート及び日々の頑張りチェック

シートからも、児童が主体的に学習規律の定着に向けて取り

組んでいることが検証できた。以上の事から、本学級におけ

る学習規律が定着しつつあると考える。

Ⅴ 成果と課題

1 成果

(1) 児童が主体的に課題に取り組む指導を工夫すること

によって、学習規律が定着してきた。

(2) 意欲を高めるための指導の工夫は、学習規律の定着の

みならず、学校生活の様々な場面で主体的な活動へとつ

ながることがわかった。

(3) ICTは、発達障害のある児童への指導に有効性があ

ることを検証できた。

(4) 学習規律の定着に向けた指導で使える視覚教材(ICT活用)を作成することができた。

2 課題

(1) 学習規律の定着を目指し、協力学級担任と指導の共通理解と連携を可能にする仕組みの検討

(2) 主体的・意欲的に規律を守ろうとする現在の状態から、学習規律が確実に定着できるように、

内発的行動へと移行を図るための手立ての工夫

図7 毎日チェック

「とよみっ子の学習の約束」評価

4 点・・・良くできている

3 点・・・どちらかといえばできている

2 点・・・どちらかといえばできていない

1 点・・・できていない

図8 児童の自己評価並びに教師側か

ら見た定着の実際

Y児

R児

H児

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〈参考文献〉

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榊原洋一 2013 『図解 よくわかるLDの子どもたち』 ナツメ社

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教師生活向上プロジェクト編 2012 『かわいい!使える!小学校イラスト&テンプレートCD-ROM』 東洋館

赤堀侃司 2011 『電子黒板・デジタル教材活用事例集』 教育開発研究所

中川一史・中橋雄編 2010 『電子黒板が創る学びの未来-新学習指導要領習得・活用・探求型に役立つ事例 50』

文部科学省 2009 『特別支援学校学習指導要領』

文部科学省 2009 『特別支援学校学習指導要領解説 自立活動編』

授業研究 21 2008 『特集学習規律にどう取り組むか』 明治図書

上野一彦他編 2005 『軽度発達障害の心理アセスメント-WISCⅢの上手な利用と事例-』 日本文化科学社

堀洋道監修 2001 『心理測定尺度集Ⅰ-人間の内面を探る〈自己・個人内過程〉-』 サイエンス社

堀洋道監修 2001 『心理測定尺度集Ⅱ-人間と社会とのつながりをとらえる〈対人関係・価値観〉-』サイエンス社

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〈参考URL〉

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文部科学省 第5章 初等中等教育におけるICTの活用(2013.12.23 アクセス)

http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/056/shiryo/attach/1244851.htm

デジタル授業プランを用いたICT機器の活用に資する調査研究サイト(2013.12.23 アクセス)

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広汎性発達障害・自閉症スペクトラム・学習障害・注意欠陥・多動性障害(2013.12.5アクセス)

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http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/05011301.htm