7
1 A s s o c i a t i o n b e t w e e n W o r k o u t s a n d S t r e s s I n o c u l a t i o n i n t h e U n i v e r s i t y S t u d e n t s T a t s u y a K A W A S H I R I , S u s u m u S A T O , T o s h i y a M U R A T A , T a k a s h i S U Z U K I , S a t o k o U N E M O T O , M a s a f u m i Y A M A G U C H I 本研究では、大学生の運動習慣の有無に注目し、運動習慣がストレスにどのような 影響を与えるのかを検討した。調査の結果、75.9%の学生が「運動習慣がない」と回 答し、「運動習慣がある」と回答した学生に比べ、疲労度やストレス度において高い値 を示した。また、運動習慣のない学生に比べ、運動習慣のある学生はネガティブなス トレス対処の項目において、低い値を示す結果となった。 キーワード:運動習慣、メンタルヘルス、ストレス対処 This study examined, first, whether university students regularly work out. Second, it aimed at finding the correlation between habitual workouts and stress of students. The study result found that 75.9% of students answered “no working out habits” indicated higher fatigue awareness and stress degree in comparison with their counterparts who answered “working out regularly”. In addition, they also scored lower in the items related to demotivation, stress inoculation to negative. Keywords: exercise custom, mental health, stress inoculation 現代社会において、ストレスは至るところに存在しており、そのストレスから逃れることはなかなか 難しい。また、大学生という青年期はアイデンティティの確立する段階として心身ともに大人に向かい、 社会に出る準備をする重要な段階である。その中で人間関係や授業、成績、アルバイトなどさまざまな 不安やストレスを感じながら日々生活をしている。内閣府によると、昨年度の自殺者数は 2 4025 人で あり、前年と比べると減少傾向にあるようだが、職業別で見てみると、「無職者」が 14,322 (59.6%) と最も多く、次いで「被雇用者・勤め人」 (6,782 人、 28.2%)、「自営業・家族従業者」 (1,697 人、 7.1%)「学生・生徒等」(835 人、3.5%)の順となっている 1。順位こそ大学生を含めた「学生・生徒等」は 4 番手に位置しているが、この青年期においてストレスに対して何らかの対処法を各々で理解しておくこ とが青年期以降の問題への歯止めとなることは明らかである。ストレスによって自身をコントロールで きない状態にまで陥ってしまうと、さまざまな問題へとつながってしまうことは容易に想像できるであ ろう。 ストレス対処においては、これまでさまざまな研究が行われている。橋本ら 2) は、「運動によってもた らされる気分の高揚感が情緒の不安感やネガティブ感情を一時的あるいは慢性的に抑制し、ストレス低 減効果をもたらす」と述べ、さらに、「体力や運動の好き嫌いの影響はあるものの、概して快感情、満足 感、リラックス感などのポジティブ感情が増加する」 3) と述べており、運動の有効性を示している。ま た、ストレスについてさらに解きほぐしてみると、日常のストレスの中で最も苦痛を感じるものは対人 31 大学生における運動とストレス対処の関連について KIT Progress 25

大学生における運動とストレス対処の関連について …2 ストレスであり、その悪影響はその他のストレスよりも持続しやすいという報告もされている4)。現在

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Page 1: 大学生における運動とストレス対処の関連について …2 ストレスであり、その悪影響はその他のストレスよりも持続しやすいという報告もされている4)。現在

論文 KIT Progress №25

1

大学生における運動とストレス対処の関連について Association between Workouts and Stress Inoculation in the University

Students

川尻達也、佐藤 進、村田俊也、鈴木貴士、畝本紗斗子、山口真史 Tatsuya KAWASHIRI, Susumu SATO, Toshiya MURATA,

Takashi SUZUKI, Satoko UNEMOTO, Masafumi YAMAGUCHI

本研究では、大学生の運動習慣の有無に注目し、運動習慣がストレスにどのような

影響を与えるのかを検討した。調査の結果、75.9%の学生が「運動習慣がない」と回

答し、「運動習慣がある」と回答した学生に比べ、疲労度やストレス度において高い値

を示した。また、運動習慣のない学生に比べ、運動習慣のある学生はネガティブなス

トレス対処の項目において、低い値を示す結果となった。 キーワード:運動習慣、メンタルヘルス、ストレス対処

This study examined, first, whether university students regularly

work out. Second, it aimed at finding the correlation between habitual workouts and stress of students. The study result found that 75.9% of students answered “no working out habits” indicated higher fatigue awareness and stress degree in comparison with their counterparts who answered “working out regularly”. In addition, they also scored lower in the items related to demotivation, stress inoculation to negative. Keywords: exercise custom, mental health, stress inoculation

1.緒言

現代社会において、ストレスは至るところに存在しており、そのストレスから逃れることはなかなか

難しい。また、大学生という青年期はアイデンティティの確立する段階として心身ともに大人に向かい、

社会に出る準備をする重要な段階である。その中で人間関係や授業、成績、アルバイトなどさまざまな

不安やストレスを感じながら日々生活をしている。内閣府によると、昨年度の自殺者数は 2万 4025人で

あり、前年と比べると減少傾向にあるようだが、職業別で見てみると、「無職者」が 14,322人(59.6%)

と最も多く、次いで「被雇用者・勤め人」(6,782人、28.2%)、「自営業・家族従業者」(1,697人、7.1%)、

「学生・生徒等」(835人、3.5%)の順となっている 1)。順位こそ大学生を含めた「学生・生徒等」は 4

番手に位置しているが、この青年期においてストレスに対して何らかの対処法を各々で理解しておくこ

とが青年期以降の問題への歯止めとなることは明らかである。ストレスによって自身をコントロールで

きない状態にまで陥ってしまうと、さまざまな問題へとつながってしまうことは容易に想像できるであ

ろう。

ストレス対処においては、これまでさまざまな研究が行われている。橋本ら 2)は、「運動によってもた

らされる気分の高揚感が情緒の不安感やネガティブ感情を一時的あるいは慢性的に抑制し、ストレス低

減効果をもたらす」と述べ、さらに、「体力や運動の好き嫌いの影響はあるものの、概して快感情、満足

感、リラックス感などのポジティブ感情が増加する」3)と述べており、運動の有効性を示している。ま

た、ストレスについてさらに解きほぐしてみると、日常のストレスの中で最も苦痛を感じるものは対人

10

や工夫を評価できるように改善していきたい。

参考文献

1) 鎌田洋、双方向授業を指向した Web カメラと画像処理を利用した簡便法、コンピュータ&エデュ

ケーション VOL. 31、pp.74-77(2011) 2) 藤井隆司、藤吉弘亘、鈴木裕利、石井成都、工学部における問題解決型授業の実践と効果の検証、

日本ロボット学会誌、31 巻 2 号、pp.161-168(2013) 3) 新聖子、宮崎慶輔、千徳英一、初年次からのプロジェクトデザイン教育の展開-プロジェクトデザ

インⅠ・Ⅱにおける取組み-、KIT Progress、21、pp.129‐138(2014) 4) 金沢工業大学、入学案内 2017、p32、金沢工業大学、石川(2016) 5) 金沢工業大学、CURRICULUM GUIDE BOOK 2016、p192、金沢工業大学、石川(2015) 6) 梶慶輔、繊維の歴史、SEN’I GAKKAISHI(繊維と工業)、59、pp.121-128(2003) 7) 松本全博、カーシート表皮材の動向と今後のシートの表皮材、SEN’I GAKKAISHI(繊維と工業)、

64、pp.291-294(2008) 8) 山内茂夫、自動車内装材の現状と将来展望について、SEN’I GAKKAISHI(繊維と工業)、59、

pp.275-278(2003) 9) 峯村勲弘、ポリエステル繊維の着色技術、色材協会誌、79、pp.492-502(2006) 10) 川畑孝志、榎崎樹邦、田口貴規、シートクロスの表面加工技術、表面技術、51、pp.467-472(2000)

[原稿受付日 平成 28年 8月 4日、採択決定日 平成 28年 12月 20日]

顔写真掲載

縦 3.0cm×横 2.0cm

谷田育宏

講師・博士(理工学)

バイオ・化学部

バイオ・化学系

応用化学科

顔写真掲載

縦 3.0cm×横 2.0cm

大澤 敏

教授・理学博士

バイオ・化学部

バイオ・化学系

応用化学科

31大学生における運動とストレス対処の関連について

KIT Progress №25

Page 2: 大学生における運動とストレス対処の関連について …2 ストレスであり、その悪影響はその他のストレスよりも持続しやすいという報告もされている4)。現在

2

ストレスであり、その悪影響はその他のストレスよりも持続しやすいという報告もされている 4)。現在

は、大学生においても引きこもりや不登校など、人との関わりを極端に避けるような非社会的行動が目

立ってきており、問題視されている状況である。

さらに、ここで注意すべき点は、ストレスに対して上手く対処できず、「心の病」を抱えた学生のほと

んどは医学的な疾患を有しているわけではなく、むしろそうではない学生の方が多いことである。つま

り、「医学的に病的レベルではないが、社会生活や学生生活の継続には問題を抱える学生」が多く存在し

ており、そのスクリーニングや対処などを困難にしているとも言える。このような状況の中で教育現場

においては、「病的な症状」になる以前にその兆候を捉えさまざまな問題へと発展させないことが、学生

本人・保護者・教職員にとって有効かつ重要である。重要なことはそのストレスに対して的確な対処方

法を実践し、ストレスと向き合い解決に導くことである。

本研究では、大学生において運動習慣の有無によって日常生活や学生生活のメンタルヘルスに影響が

あるのかを調査し、ストレスに対する対処としてどのような方法を用いる傾向が強いのかを明らかにし、

その実態を把握する中でより的確なストレス対処方法について検討する。

2.調査方法

2.1 調査の概要

本調査は、平成 24、25年度入学の本学 1年次生全員を対象として行った。同年度に開講される生涯

スポーツ科目「生涯スポーツ演習」(2月上旬)において、配布・回収を行った。書面にて研究(調査)

の目的、データ処理方法、プライバシーの保護等について説明し、同意を得た。最終的に 2860名(平均

年齢 18.9±0.7歳)の回答を得た(うち、女子学生 280名)。

2.2 調査方法および調査内容

本研究では、基本属性とともに、起床・就寝時間、朝食時間、授業以外での運動習慣、気分転換活動、

家族・友人・教員とのコミュニケーション頻度、アルバイト、積極的活動の有無などの生活習慣につい

て調査を行った。また、メンタルヘルスおよびインターネット依存度についても調査を行った(表 1)。

①疲労自覚症状 疲労自覚症状の測定については、小林らの「青年用自覚的疲労症状調査」を利用した 5)。本尺度は、

6因子 25項目(集中思考困難、だるさ、意欲低下、活力低下、ねむけ、身体違和感)で構成されてお

り、「まったくそうではない(1点)、そうではない(2点)、あまりそうではない(3点)、どちらでも

ない(4点)、ややそうである(5点)、そうである(6点)、非常にそうである(7点)」の 7段階評価

となっている。

②インターネット依存度 インターネット依存度については、先行研究を参考にインターネット利用状況や社会的活動への影

響、情緒面・心理面・経済面への影響などに関する 13項目(利用時間が自分でコントロールできない、

現実とネットの区別がつかなくなる等)の質問項目を作成し、「全くない(1 点)、めったにない(2

点)、時々ある(3点)、たびたびある(4点)、常にそうだ(5点)」の 5段階評価となっている。

③日常生活のメンタルヘルス

日常生活のメンタルヘルスの測定については、総務省の「メンタルヘルスシート」を利用した 6)。

ストレス度・疲労度・うつ度について 60項目で構成されており、「はい(1点)、どちらともいえない

(2点)、いいえ(3点)」の 3段階評価となっている。なお、疲労度においては、①自覚疲労症状の調

査内容と重複しているが、それぞれの尺度構成を維持するため項目として削除することなく調査を行

った。

④学生生活のメンタルヘルス

32 大学生における運動とストレス対処の関連について

Page 3: 大学生における運動とストレス対処の関連について …2 ストレスであり、その悪影響はその他のストレスよりも持続しやすいという報告もされている4)。現在

3

学生生活のメンタルヘルスの測定については、松原らのメンタルヘルスの尺度を一部改編して用い

た 7)。5 因子 30 項目で構成されており、「全くあてはまらない(1 点)~どちらともいえない(3 点)

~かなりあてはまる(5点)」の 5段階評価となっている。

⑤ストレス対処行動

ストレス対処行動の測定については、「日本語版 WCCLコーピングスケール」を利用した 8)。6因子

47項目(Positive対処:問題解決・積極的認知対処・ソーシャルサポート、Negative対処:自責・

希望的観測・回避)で構成されており、「全く用いない(0点)、あまり用いない(1点)、時々用いる

(2点)、いつも用いる(3点)」の 4段階評価となっている。

2.3 統計解析

本研究では、運動習慣の有無とストレスとの関係を検討する。なお、運動習慣の有無において、「運

動習慣あり」は週 1、2日程度、週 3日以上と回答した学生を表し、「運動習慣なし」はない、週 1日未

満(2週間に 1回、1ヵ月に 1回など)と回答した学生を表している。さらに、各質問のカテゴリごとに平

均値を算出し、平均値間の有意差を一要因分散分析により分析した。有意な主効果が認められた場合に

は、Tukeyの HSDテストによる多重比較検定を行った。

3.結果

3.1 運動習慣の有無における学部別の割合

表 2は運動習慣の有無について、学部別に整理したものである。どの学部においても運動習慣がない

と回答した学生が多い結果となった。相対度数で見てみると、運動習慣がないと回答した学生の割合は、

工学部(75.4%)、環境・建築学部(72.7%)、情報フロンティア学部(79.7%)、バイオ・化学部(78.5%)と

なった。つまり、7~8割の学生は運動習慣も持っていないことが明らかとなった。

フェイスシート 基本属性 性別、年齢、学科、学籍番号、居住環境

生活習慣 起床・就寝時間、朝食習慣、運動習慣

気分転換活動 どんな活動を誰と

コミュニケーション 家族・友人・教員との会話頻度

アルバイト 頻度、労働時間、時間帯など

積極的活動 種類

疲労自覚症状 疲労自覚得点 25項目

関連要因 インターネット依存度 13項目

(種々のメンタルヘルス特日常生活のメンタルヘルス 60項目

学生生活のメンタルヘルス 30項目

ストレス対処行動 47項目

表1 調査用紙の構成

構成 内容 質問項目

注)本研究に関しては、「運動習慣」と「日常生活のメンタルヘルス」、「学生生活のメンタルヘルス」、「ストレス対処行動」との関連を探るため、上記の調査項目から抽出して検討を行った。

2

ストレスであり、その悪影響はその他のストレスよりも持続しやすいという報告もされている 4)。現在

は、大学生においても引きこもりや不登校など、人との関わりを極端に避けるような非社会的行動が目

立ってきており、問題視されている状況である。

さらに、ここで注意すべき点は、ストレスに対して上手く対処できず、「心の病」を抱えた学生のほと

んどは医学的な疾患を有しているわけではなく、むしろそうではない学生の方が多いことである。つま

り、「医学的に病的レベルではないが、社会生活や学生生活の継続には問題を抱える学生」が多く存在し

ており、そのスクリーニングや対処などを困難にしているとも言える。このような状況の中で教育現場

においては、「病的な症状」になる以前にその兆候を捉えさまざまな問題へと発展させないことが、学生

本人・保護者・教職員にとって有効かつ重要である。重要なことはそのストレスに対して的確な対処方

法を実践し、ストレスと向き合い解決に導くことである。

本研究では、大学生において運動習慣の有無によって日常生活や学生生活のメンタルヘルスに影響が

あるのかを調査し、ストレスに対する対処としてどのような方法を用いる傾向が強いのかを明らかにし、

その実態を把握する中でより的確なストレス対処方法について検討する。

2.調査方法

2.1 調査の概要

本調査は、平成 24、25年度入学の本学 1年次生全員を対象として行った。同年度に開講される生涯

スポーツ科目「生涯スポーツ演習」(2月上旬)において、配布・回収を行った。書面にて研究(調査)

の目的、データ処理方法、プライバシーの保護等について説明し、同意を得た。最終的に 2860名(平均

年齢 18.9±0.7歳)の回答を得た(うち、女子学生 280名)。

2.2 調査方法および調査内容

本研究では、基本属性とともに、起床・就寝時間、朝食時間、授業以外での運動習慣、気分転換活動、

家族・友人・教員とのコミュニケーション頻度、アルバイト、積極的活動の有無などの生活習慣につい

て調査を行った。また、メンタルヘルスおよびインターネット依存度についても調査を行った(表 1)。

①疲労自覚症状 疲労自覚症状の測定については、小林らの「青年用自覚的疲労症状調査」を利用した 5)。本尺度は、

6因子 25項目(集中思考困難、だるさ、意欲低下、活力低下、ねむけ、身体違和感)で構成されてお

り、「まったくそうではない(1点)、そうではない(2点)、あまりそうではない(3点)、どちらでも

ない(4点)、ややそうである(5点)、そうである(6点)、非常にそうである(7点)」の 7段階評価

となっている。

②インターネット依存度 インターネット依存度については、先行研究を参考にインターネット利用状況や社会的活動への影

響、情緒面・心理面・経済面への影響などに関する 13項目(利用時間が自分でコントロールできない、

現実とネットの区別がつかなくなる等)の質問項目を作成し、「全くない(1 点)、めったにない(2

点)、時々ある(3点)、たびたびある(4点)、常にそうだ(5点)」の 5段階評価となっている。

③日常生活のメンタルヘルス

日常生活のメンタルヘルスの測定については、総務省の「メンタルヘルスシート」を利用した 6)。

ストレス度・疲労度・うつ度について 60項目で構成されており、「はい(1点)、どちらともいえない

(2点)、いいえ(3点)」の 3段階評価となっている。なお、疲労度においては、①自覚疲労症状の調

査内容と重複しているが、それぞれの尺度構成を維持するため項目として削除することなく調査を行

った。

④学生生活のメンタルヘルス

フェイスシート 基本属性 性別、年齢、学科、学籍番号、居住環境

生活習慣 起床・就寝時間、朝食習慣、運動習慣

気分転換活動 どんな活動を誰と

コミュニケーション 家族・友人・教員との会話頻度

アルバイト 頻度、労働時間、時間帯など

積極的活動 種類

疲労自覚症状 疲労自覚得点 25項目

関連要因 インターネット依存度 13項目

日常生活のメンタルヘルス 60項目

学生生活のメンタルヘルス 30項目

ストレス対処行動 47項目

(種々のメンタルヘルス特性)

構成 内容 質問項目

注)本研究に関しては、「運動習慣」と「日常生活のメンタルヘルス」、「学生生活のメンタルヘルス」、「ストレス対処行動」との関連を探るため、上記の調査項目から抽出して検討を行った。

表1 調査用紙の構成

33大学生における運動とストレス対処の関連について

Page 4: 大学生における運動とストレス対処の関連について …2 ストレスであり、その悪影響はその他のストレスよりも持続しやすいという報告もされている4)。現在

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3.2 運動習慣の有無における学生生活、日常生活のメンタルヘルスの平均値

表 3 は運動習慣の有無について、学生生活のメンタルヘルス、日常生活のメンタルヘルス(ストレス

度、疲労度、うつ度)の平均値を示したものである。運動習慣がないと回答した学生が学生生活のメンタ

ルヘルス(92.7)、日常生活のメンタルヘルス(ストレス度:13.4、疲労度:15.5、うつ度:15.8)のどの

項目においても運動習慣のある学生と比べ高い値を示す結果となった。

3.3 運動習慣の有無におけるストレス対処行動の各項目の平均値

表 4は運動習慣の有無について、ストレス対処行動の各項目の平均値を示したものである。問題解決、

積極的認知対処、ソーシャルサポートの 3項目を「ポジティブ対処」、自責、希望的観測、回避の 3項目

を「ネガティブ対処」とし、運動習慣がないと回答した学生がポジティブ対処(問題解決:1.68、積極的

認知対処:1.68、ソーシャルサポート:1.75)では低い値を示し、ネガティブ対処(自責:1.71、希望的

観測:1.46、回避:1.15)では高い値を示す結果となった。

3.4 運動習慣の有無と学生生活、日常生活のメンタルヘルスの関係

表 5は運動習慣の有無について、学生生活のメンタルヘルス、日常生活のメンタルヘルスとの関係を

検討するために一要因分散分析を行った結果である。学生生活のメンタルヘルスでは運動習慣の有無に

あり 369 153 90 76 688 24.6 27.3 20.3 21.5 24.1

なし 1132 408 354 278 2172 75.4 72.7 79.7 78.5 75.9

計 1501 561 444 354 2860 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0

環境・建築学部

情報フロンティア学部

バイオ・化学部

工学部 計

運動習慣の有無

度数(人) 相対度数(%)

工学部

表2 運動習慣の有無(学部別)

環境・建築学部

情報フロンティア学部

バイオ・化学部

あり 688 87.9 12.7 14.4 14.5

なし 2172 92.7 13.4 15.5 15.8

計 2860 91.5 13.2 15.2 15.4

日常生活のメンタルヘルス

ストレス度 疲労度 うつ度

学生生活のメンタルヘルス

表3 運動習慣の有無における学生生活、日常生活のメンタルヘルスの平均値

運動習慣の有無

度数(人)

あり 688 1.81 1.83 1.84 1.71 1.40 1.08

なし 2172 1.68 1.68 1.75 1.74 1.46 1.15

計 2860 1.71 1.72 1.77 1.74 1.45 1.13

表4 運動習慣の有無におけるストレス対処行動の各項目の平均値

回避積極的

認知対処ソーシャルサポート

自責 希望的観測

ストレス対処行動の各項目の平均値運動習慣の

有無度数(人)

問題解決

表 3 運動習慣の有無における学生生活、日常生活のメンタルヘルスの平均値

表 4 運動習慣の有無におけるストレス対処行動の各項目の平均値

表 2 運動習慣の有無(学部別)

34 大学生における運動とストレス対処の関連について

Page 5: 大学生における運動とストレス対処の関連について …2 ストレスであり、その悪影響はその他のストレスよりも持続しやすいという報告もされている4)。現在

5

おいて有意な差が見られた(p<0.01)。また、日常生活のメンタルヘルスにおいてもそれぞれの項目にお

いて有意な差が見られた(p<0.01)。

3.5 運動習慣の有無とストレス対処行動の関係

表 6は運動習慣の有無について、ストレス対処行動との関係を検討するために一要因分散分析を行っ

た結果である。ポジティブ対処である問題解決、積極的認知対処、ソーシャルサポートでは運動習慣が

あると回答した学生において有意な差が見られた(p<0.01)。また、自責に差は見られなかったものの、

ネガティブ対処である希望的観測(p<0.05)、回避(p<0.01)において有意な差が見られた。

4.考察

本研究の結果、運動習慣の有無において学部間での差は見られなかったが、全体として 7~8割の学生

は運動習慣がないことが明らかとなった。また、学生生活、日常生活のメンタルヘルスにおいても運動

習慣ありと回答した学生が良好な値を示す結果となり、ストレス対処においても自責を除く 5項目にお

いて、運動習慣ありと回答した学生が良好な値を示す結果となった。運動を習慣として生活に取り入れ

ることで精神面も安定した生活を送っていることが明らかとなった。特にストレス対処においては、問

題解決や、積極的認知対処、ソーシャルサポートといったポジティブな行動をとる傾向が明らかとなっ

ANOVA 多重比較検定結果 ANOVA 多重比較検定結果

学生生活のメンタルヘルス 日常生活のメンタルヘルス

  合計 **  なし>あり   ストレス度 **  なし>あり

  疲労度 **  なし>あり

  うつ度 **  なし>あり

運動習慣の有無

表5 運動習慣の有無と学生生活、日常生活のメンタルヘルスの関係

ANOVA:一要因分散分析結果(F値)の有意性,*:p<0.05,**:p<0.01,ns :not s i gni f i cant,多重比較検定結果はカテゴリ

間の有意差について示している。

運動習慣の有無

ANOVA 多重比較検定結果

ストレス対処行動

  問題解決 **  なし<あり

  積極的認知対処 **  なし<あり

  ソーシャルサポート **  なし<あり

  自責 ns

  希望的観測 *  なし>あり

  回避 **  なし>あり

運動習慣の有無

表6 運動習慣の有無とストレス対処行動の関係

ANOVA:一要因分散分析結果(F値)の有意性,*:p<0.05,

**:p<0.01,ns :not s i gni f i cant,多重比較検定結果はカテ

ゴリ間の有意差について示している。

4

3.2 運動習慣の有無における学生生活、日常生活のメンタルヘルスの平均値

表 3 は運動習慣の有無について、学生生活のメンタルヘルス、日常生活のメンタルヘルス(ストレス

度、疲労度、うつ度)の平均値を示したものである。運動習慣がないと回答した学生が学生生活のメンタ

ルヘルス(92.7)、日常生活のメンタルヘルス(ストレス度:13.4、疲労度:15.5、うつ度:15.8)のどの

項目においても運動習慣のある学生と比べ高い値を示す結果となった。

3.3 運動習慣の有無におけるストレス対処行動の各項目の平均値

表 4は運動習慣の有無について、ストレス対処行動の各項目の平均値を示したものである。問題解決、

積極的認知対処、ソーシャルサポートの 3項目を「ポジティブ対処」、自責、希望的観測、回避の 3項目

を「ネガティブ対処」とし、運動習慣がないと回答した学生がポジティブ対処(問題解決:1.68、積極的

認知対処:1.68、ソーシャルサポート:1.75)では低い値を示し、ネガティブ対処(自責:1.71、希望的

観測:1.46、回避:1.15)では高い値を示す結果となった。

3.4 運動習慣の有無と学生生活、日常生活のメンタルヘルスの関係

表 5は運動習慣の有無について、学生生活のメンタルヘルス、日常生活のメンタルヘルスとの関係を

検討するために一要因分散分析を行った結果である。学生生活のメンタルヘルスでは運動習慣の有無に

あり 369 153 90 76 688 24.6 27.3 20.3 21.5 24.1

なし 1132 408 354 278 2172 75.4 72.7 79.7 78.5 75.9

計 1501 561 444 354 2860 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0

環境・建築学部

情報フロンティア学部

バイオ・化学部

工学部 計

運動習慣の有無

度数(人) 相対度数(%)

工学部

表2 運動習慣の有無(学部別)

環境・建築学部

情報フロンティア学部

バイオ・化学部

あり 688 87.9 12.7 14.4 14.5

なし 2172 92.7 13.4 15.5 15.8

計 2860 91.5 13.2 15.2 15.4

日常生活のメンタルヘルス

ストレス度 疲労度 うつ度

学生生活のメンタルヘルス

表3 運動習慣の有無における学生生活、日常生活のメンタルヘルスの平均値

運動習慣の有無

度数(人)

あり 688 1.81 1.83 1.84 1.71 1.40 1.08

なし 2172 1.68 1.68 1.75 1.74 1.46 1.15

計 2860 1.71 1.72 1.77 1.74 1.45 1.13

表4 運動習慣の有無におけるストレス対処行動の各項目の平均値

回避積極的

認知対処ソーシャルサポート

自責 希望的観測

ストレス対処行動の各項目の平均値運動習慣の

有無度数(人)

問題解決

表 5 運動習慣の有無と学生生活、日常生活のメンタルヘルスの関係

表 6 運動習慣の有無とストレス対処行動の関係

35大学生における運動とストレス対処の関連について

Page 6: 大学生における運動とストレス対処の関連について …2 ストレスであり、その悪影響はその他のストレスよりも持続しやすいという報告もされている4)。現在

6

た。運動習慣ありの学生においては、質問項目の回答を抜粋してみると、「問題解決のために積極的行動

に出る」や、「いろいろな問題の解決方法を試みる」などにおいて、「時々用いる」や、「いつも用いる」

と回答した学生が多く、たとえ、困難にぶつかったとしても、その問題の本質を見極め、逃げずに立ち

向かうことができると示唆される。どのスポーツにおいても相手との競争がそのスポーツの醍醐味であ

る。相手に勝つためには作戦が重要であり、相手の弱点を知り、自身の強みを理解していなければなら

ない。また、練習計画もそういったことに基づき、論理的で効率的なものでなくてはならない。内容は

どうであれ、運動を実施することは自然とそういった取り組みを実践することにつながるのである。

また、7~8割の学生は運動習慣を有しておらず、ストレスに対してネガティブな対処をしてしまう傾

向が強いことが明らかとなり、学生に対応する上で教職員側の理解も必要であることが言えるだろう。

学生の少しずつの成長を見守っていく考えや心構えをしっかりと持つべきである。さらに、最も苦痛を

感じるストレスである対人ストレスにおいても、運動が効果的に働くことが示唆される。運動を通じて

自然とコミュニケーションを図ることができることはよく知られており、そういった観点からもストレ

ス対処におけるソーシャルサポートでの有意な差につながったのであろう。

5.まとめ

運動習慣の有無とストレスの関係において、運動を継続的に行うことで精神面も良好な状態となる可

能性が示唆された。ストレスの原因となるものは個人によって違い、さまざまな状況が考えられる。そ

の中でどういった対処法を行うべきなのかを判断することは難しいが、問題解決のために我慢強く努力

することや、ソーシャルサポートを用いて人と助け合いながら乗り越えていくことは運動を媒体として

養っていくことが可能である。そうすることで、心身ともに安定した状態でさまざまなストレスに立ち

向かっていくことが可能である。

また、本研究においては、運動習慣にのみ着目し、メンタルヘルスやストレス対処にどのような関連

が考えられるか検討することに留まってしまった。縦断的に調査をしていくうえでは、さらに期間を延

ばしその中で学生のメンタルヘルスがどのように変化していくのかを探ることが今後重要となるだろう。

また、7~8割存在している運動習慣なしと回答した学生に対し、いかに減らすためにどのようなアプロ

ーチができるかが今後の課題でもあるだろう。今後も、学生の現状把握のために、さまざまな視点から

実態を探っていきたい。

謝辞

本研究は、金沢工大学園平成 24・25年度「若手教員研究助成金」による助成、及び科学研究費補助金

(基盤研究(C)課題番号 15K01667)を受けて実施した。ここに感謝の意を表します。

参考文献

1)内閣府「平成 27年中における自殺の概要」

<http://www8.cao.go.jp/jisatsutaisaku/toukei/h27.html>

2)橋本公雄,斉藤篤司,徳永幹雄,高柳茂美,磯貝浩久.快適自己ペース走による感情の変化と運動

強度.健康科学,17,131-140,1995.

3)橋本公雄,徳永幹雄,高柳茂美,斉藤篤司,磯貝浩久.快適自己ペース走による感情の変化に影響

する要因-ジョギングの好き嫌いについて-.スポーツ心理学研究,20(1),5-12,1993.

4)Bolger, N., Delongis, A., Kessler, R. C., & Schilling, E.A. Effects of daily stress on negative

mood. Journal of Personality and Social Psychology,57,808-818,1989.

5)小林秀紹,出村慎一,郷司文男,佐藤進,野田政弘.青年用疲労自覚症状尺度の作成.日本公衆衛

36 大学生における運動とストレス対処の関連について

Page 7: 大学生における運動とストレス対処の関連について …2 ストレスであり、その悪影響はその他のストレスよりも持続しやすいという報告もされている4)。現在

7

生学雑誌 47,638-646,2000.

6)松原達哉,宮崎圭子,三宅拓郎.大学生のメンタルヘルス尺度の作成と不登校傾向を規定する要因.

立正大学心理学研究紀要 4,1-12,2006.

7)総務省人事・恩給局.メンタルヘルスシート解説と活用の手引(財)能率増進研究開発センター

8)Nakano K. The role of coping strategies on psychological and physical well-being. Japanese

Psychological research , 33, 160-167,1991.

[原稿受付日 平成 28年 8月 4日、採択決定日 平成 28年 11月 28日]

川尻 達也

助教

基礎教育部

修学基礎教育課程

佐藤 進

教授

基礎教育部

修学基礎教育課程

村田 俊也

准教授

基礎教育部

修学基礎教育課程

鈴木 貴士

講師

基礎教育部

修学基礎教育課程

畝本 紗斗子

助手

基礎教育部

修学基礎教育課程

山口 真史

講師

金沢工業高等専門学校

一般教養

6

た。運動習慣ありの学生においては、質問項目の回答を抜粋してみると、「問題解決のために積極的行動

に出る」や、「いろいろな問題の解決方法を試みる」などにおいて、「時々用いる」や、「いつも用いる」

と回答した学生が多く、たとえ、困難にぶつかったとしても、その問題の本質を見極め、逃げずに立ち

向かうことができると示唆される。どのスポーツにおいても相手との競争がそのスポーツの醍醐味であ

る。相手に勝つためには作戦が重要であり、相手の弱点を知り、自身の強みを理解していなければなら

ない。また、練習計画もそういったことに基づき、論理的で効率的なものでなくてはならない。内容は

どうであれ、運動を実施することは自然とそういった取り組みを実践することにつながるのである。

また、7~8割の学生は運動習慣を有しておらず、ストレスに対してネガティブな対処をしてしまう傾

向が強いことが明らかとなり、学生に対応する上で教職員側の理解も必要であることが言えるだろう。

学生の少しずつの成長を見守っていく考えや心構えをしっかりと持つべきである。さらに、最も苦痛を

感じるストレスである対人ストレスにおいても、運動が効果的に働くことが示唆される。運動を通じて

自然とコミュニケーションを図ることができることはよく知られており、そういった観点からもストレ

ス対処におけるソーシャルサポートでの有意な差につながったのであろう。

5.まとめ

運動習慣の有無とストレスの関係において、運動を継続的に行うことで精神面も良好な状態となる可

能性が示唆された。ストレスの原因となるものは個人によって違い、さまざまな状況が考えられる。そ

の中でどういった対処法を行うべきなのかを判断することは難しいが、問題解決のために我慢強く努力

することや、ソーシャルサポートを用いて人と助け合いながら乗り越えていくことは運動を媒体として

養っていくことが可能である。そうすることで、心身ともに安定した状態でさまざまなストレスに立ち

向かっていくことが可能である。

また、本研究においては、運動習慣にのみ着目し、メンタルヘルスやストレス対処にどのような関連

が考えられるか検討することに留まってしまった。縦断的に調査をしていくうえでは、さらに期間を延

ばしその中で学生のメンタルヘルスがどのように変化していくのかを探ることが今後重要となるだろう。

また、7~8割存在している運動習慣なしと回答した学生に対し、いかに減らすためにどのようなアプロ

ーチができるかが今後の課題でもあるだろう。今後も、学生の現状把握のために、さまざまな視点から

実態を探っていきたい。

謝辞

本研究は、金沢工大学園平成 24・25年度「若手教員研究助成金」による助成、及び科学研究費補助金

(基盤研究(C)課題番号 15K01667)を受けて実施した。ここに感謝の意を表します。

参考文献

1)内閣府「平成 27年中における自殺の概要」

<http://www8.cao.go.jp/jisatsutaisaku/toukei/h27.html>

2)橋本公雄,斉藤篤司,徳永幹雄,高柳茂美,磯貝浩久.快適自己ペース走による感情の変化と運動

強度.健康科学,17,131-140,1995.

3)橋本公雄,徳永幹雄,高柳茂美,斉藤篤司,磯貝浩久.快適自己ペース走による感情の変化に影響

する要因-ジョギングの好き嫌いについて-.スポーツ心理学研究,20(1),5-12,1993.

4)Bolger, N., Delongis, A., Kessler, R. C., & Schilling, E.A. Effects of daily stress on negative

mood. Journal of Personality and Social Psychology,57,808-818,1989.

5)小林秀紹,出村慎一,郷司文男,佐藤進,野田政弘.青年用疲労自覚症状尺度の作成.日本公衆衛

37大学生における運動とストレス対処の関連について