Upload
others
View
0
Download
0
Embed Size (px)
Citation preview
総合科学技術イノベーション政策会議大臣有識者会議科学技術イノベーション政策のための科学
ICT分野政策オプションの調査研究
慶応義塾大学名誉教授「科学技術イノベーション政策のための科学推進委員会」主査
政策研究大学院科学技術イノベーション政策研究センター政策分析・影響評価領域PM科学技術振興機構研究開発センター(CRDS)上席フェロー
黒田 昌裕
2015.09.10
Contents
1
1. 「科学技術イノベーション政策の科学」とは1-1 「科学技術イノベーション政策の科学の全体像1-2 「科学技術イノベーション政策」と「科学技術イノベーション
政策の科学」の共進化2. 科学技術イノベーション政策の影響力評価
~大変革時代の到来と政策課題~3. 科学技術イノベーション政策の影響力評価
―政策オプションとは?4. IoT分野における政策オプション作成
・ IoT導入と雇用:“機械と人間”問題と“Platform”構築・ ICT分野政策の技術俯瞰 - 必要技術の体系的整理
5.IoT導入の政策効果と課題6.政策評価のための「科学技術イノベーション政策の科学」
-自然科学と人文社会科学の連携の重要性と公共政策としての「科学技術イノベーション政策」-
1. 「科学技術イノベーション政策の科学」の推進
21世紀の科学は、情報科学、物質材料科学、計測科学などの基盤的科学技術の飛躍的進歩によって、生化学・ライフサイエンス、システム科学、エネルギー・環境科学、そして宇宙科学のあらゆる自然科学領域にまたがる科学技術全域に革新的な進展が、社会経済的に人類に多大な影響を与えることが、予想される。
そうした中で、人類が科学技術の進歩の利益を享受し、安定的な持続的成長の社会システムを構築できる施策を探ることが、科学技術イノベーション政策に求められている最大の課題である。
その目的を達成するためには、自然科学分野間のみならず、人文・社会科学分野との連携にもとづき、科学技術政策には、
1. 適格な歴史認識にもとづくエビデンスを踏まえた「科学的な政策の設計と立案」
2. ”Science for Science Policy” と “Policy for Science” の「信頼にもとづく共進化の政策運営」
3. 科学技術政策の国民への説明責任と国民の理解の創生
が、重要であるとされ、文科省では、第4次科学技術基本計画において、そうした考え方のもと、「科学技術イノベーションのための科学(以下SciREXという)」の推進を進めてきた。
2
1-1.「科学技術イノベーション政策の科学」の全体像
科学技術シナリオ、社会シナリオ等
政策パターン
3
これまでの政策の科学
政策形成システムの改革
新たな政策の科学の発展
「政策形成」と「政策の科学」の新たな連携
・「科学技術イノベーション政策の形成システムの改革」と「科学技術イノベーション政策の科学の発展」は車の両輪。・「科学技術イノベーション政策の科学」の成果が政策形成システムの改革に反映され、これがまた新たな「科学技術イノベーション政策の科学」の発展への新たな刺激となり、循環して両者が共進化することが必要。
科学技術イノベーション政策形成システム(Policy for Science)
科学技術イノベーション政策の科学(Science for Science Policy)
・政策提言機能(公的シンクタンク等)の在り方・政府と政策提言主体の行動規範・新たな政策立案手法の導入等
1-2. 「科学技術イノベーション政策」と「科学技術イノベーション政策の科学」の共進化
出典)CRDS戦略提言「エビデンスに基づく政策形成のための「科学技術イノベーション政策の科学」の構築」(2011)
これまでの政策立案評価の方法
4
2.科学技術イノベーション政策の影響力評価~大変革時代の到来と政策課題~
現代科学の技術特性の歴史的認識1. 計測技術/観測技術/実験技術/情報通信技術:情報科学、物質材料科学、計測科学などの基盤的技術の飛躍的進歩によって、生化学・ライフサイエンス、システム科学、エネルギー・環境科学、そして宇宙科学のあらゆる自然科学領域にまたがる科学技術全域に革新的な影響を与える。
2. 情報革命:15−16世紀の大航海時代をはるかに上回る情報規模、伝達速度、解析速度。情報は、高速度、大規模情報をP2P、P2M、M2M、同時的に複数で交換できる社会が実現している。情報技術が、伝達、蓄積、収集、解析、ネットワーク、知の創造の世界を、動かし、社会の構造を規定している。・情報科学が社会の構造を変え、同期化された情報が、個人の価値観の多様化をもたらし、認識の
Gap (Perception Gap)の拡大をもたらす。・情報セキュリティーの規範と倫理・情報社会におけるデモクラシーの在り方
3. 知の結合をもたらす「新しい科学」の構造を考えることの重要性。
4. 科学技術の進展による市場の構造変化社会組織、ネットワークの変化が、いわゆるシュンペーターの技術革新、大結合(組織的イノベーション)をもたらし、TFPをシフトさせる。産業構造/雇用構造の大変革
・ PLATFORM 構築の基盤要素技術の開発の重要性とその社会システムの構築・ 新しい市場価値の創造
5. トランス・サイエンス時代:「科学技術のみでは解決できない人類的課題」に直面5
3.科学技術イノベーション政策の影響力評価- -政策オプションとは?
n 「科学技術イノベーション政策の政策目標」の達成には、複数の選択可能な「政策手段」が考えられる。選択された「政策手段」ごとに、その政策実施による社会的・経済的影響が異なることが考えられ、政策目標の達成度や影響度に差異がみられる。それを、「政策オプション」と呼んでいる。複数の「政策オプション」を比較・評価することによって、政策の評価をおこなう。
n この具体的な取り組みとして、ICT分野の技術(IoT/CPS)の政策的促進がもたらす社会的・経済的影響を「PLATFORM」構築の効果評価を例に幾つかの政策オプションとして示す。
政策オプション
政策パターン
6
達成目標実現のための政策手段
+社会的・経済的
影響の評価
IoT/CPSの技術開発・社会実装に関する複数の政策オプションを作成し、その中から最適なオプションを政策として選択するための議論の材料を提供する。
政策オプションの概念図
政策の達成目標
政策シミュレーター
4. IoT分野における政策オプションの作成
7
政策の必要性
業務プロセスの高度化
大型計算機
基幹業務システム
製造プロセスの高度化
産業革命(機械化)
製造実行システム
DDC
リモートI/O、PLC
フィールドバス、TCP/IP
IoT/CPSを活用した製造業の統合管理
サービスのプラットフォーム化
機能の高度化(AI/ロボティクス)
n GDPの約20%を占める製造業において、ICTによる効率化・高度化は国際競争力維持不可欠。n 製造業においては、業務/製造の両プロセスにおいて、モノつくりとサービスの融合・統合化が深化させる
方策としてIoT/CPSによる技術進化に高い期待。n 限られた予算の中で、IoT/CPSの製造業への効果的な適用を進めるため、ICTの科学技術の開発と
インフラ整備、社会実装の効果増大にための社会システム設計が、政府の役割として、極めて重要。
情報のデジタル化
基幹業務の最適化
様々な業務システムのICT化
機器のデジタル制御
ローカル監視・制御
ネットワーク監視・制御
LAN
スタンドアローン
インターネット
ネットワークの高度化
IoT導入と雇用:“機械と人間”問題 と “Platform”構築:市場価値の創造【本調査の課題認識】n ICT分野の進歩により「機械と人間」の代替が増加し、単純労働の失業や賃金の低下の懸念。n ICTの進化による設計、開発、生産、品質管理、製造といった一連のプロセスの個別技術の改善以上
に、一国の産業をまたがるプロセス横断型のプラットフォームが構築が不可欠であり、その段階にまで至れば、IoTサービスの増加やサービス業の高度化により雇用の吸収とより高度な経済の持続的成長が可能ではないか。
→ 新しい価値と市場の創生
ICT技術の進化
失業の増加賃金の減少
生産性の向上
産業横断的Platform
構築
8
・ ICTの導入がもたらす技術的失業を回避する施策はあるか?
・ 情報技術インフラとしての基盤的要素技術の整備と優越性を市場に定着させる施策は何か?
・ ICTの導入による雇用市場の課題と高度技術人材の育成の必要性。
高度技術人材育成
ICT分野政策の技術俯瞰 - 必要技術の体系的整理
エネルギー 家庭ヘルスケア&生命科学
セキュリティ&公衆安全施設
IT&ネットワーク産業
運輸・物流 小売
低
高
レイヤー
アプリ ・・・
物流管理在庫管理 設備管理 稼働自動化保守管理 ・・・
サービスごとにクライテリアが異なる。必要機能も一部異なる。
サービス
near-linearでの応答性
中長期トレンドからの予測
稼働無駄の削減
経済モデル
労働需要(+/ー) 生産性の向上 財・サービスの多様性の増加
生産効率の向上
稼働計画策定
対応関係
保守管理の高度化 ・・・
プロセス・イノベーション プロダクト・イノベーション領域横断に
よる新規ニーズの発掘
製造技術高度化による高機能
製品製造
9基礎理論
情報理論,暗号理論,離散構造と組合せ論,計算複雑度論,データ構造,アルゴリズム理論,最適化理論,プログラム基礎理論,データアナリシス
人工知能探索とゲーム,機械学習,オントロジーとLOD,Webインテリジェンス,ロボットにおける言語・知識・動作,統合AI,汎用人工知能,認知科学
ITメディアとデータマネージメントマルチメディア情報の個人適応検索技術,個人ライフログデータの記録・利活用技術,次世代情報検索・推薦技術,センサーデータ統合検索分析技術,ビッグデータの統合・管理・分析技術,時空間データマイニング技術,ユーザ生成コンテンツとソーシャルメディア
ITアーキテクチャーエンタープライズアーキテクチャー,クラウドコンピューティング,ワークロード特化型アーキテクチャー,HPC,モバイルコンピューティング,ストレージシステム
ソフトウェアシステムソフトウェアとミドルウェア,プログラミングモデルとランタイム,組込みシステム,ソフトウェア工学
通信とネットワーク光通信技術,無線通信技術,ネットワーク・エネルギーマネージメント,ネットワーク仮想化技術,通信行動とQoE(Quality of Experience),ネットワークサイエンス,新たな情報流通基盤
デバイス・ハードウェア集積回路技術,MEMSデバイス技術,フォト二クス,プリンタブル技術,エネルギーハベストデバイス,センサー,アクチュエーター,アナログ,情報処理,メモリー,電源,通信,超低消費電力技術,量子コンピューティング
インタラクションBMI,Augmentation,触覚/多感覚,ウェアラブル,Human-Robot Interaction,グラフィクス・ファブリケーション
ビッグデータビッグデータ基盤技術,ビッグデータ解析技術,クラウドソーシング,プライバシー保持マイニング関連技術,ITメディアとビッグデータ,ゲノムをとりまくビッグデータ,教育とビッグデータ,社会インフラとビッグデータ,オープンデータ,著作権とビッグデータ,プライバシーとビッグデータ
CPS/IoTCPS/IoTアーキテクチャー,M2M,社会システムデザイン,IoTセキュリティー,応用と社会インパクト,ものづくりとIoT
知のコンピューティング社会に新たな価値をもたらす知の集積・伝播・探索,知の予測・発見の促進,知のアクチュエーション,知の社会エコシステム・プラットフォーム,社会への影響・普及促進のための倫理・法的・社会的課題,応用
セキュリティー次世代暗号技術,ITシステムのためのリスクマネジメント技術の体系化,要素別セキュリティー技術の向上,認証・ID連携技術,サイバー攻撃の検知・防御次世代技術,プライバシー情報の保護と利活用の両立,ITシステムのフォレンジックとレジリエント技術
ビジョン・言語処理大規模言語処理に基づく情報分析,言語情報処理応用(機械翻訳),言語情報処理応用(音声対話),言語と映像の統合理解,画像映像処理・理解
n IoT/CPSの要素技術と製造業の関係全体を俯瞰し、必要となる技術との関係を体系的に整理。n 本調査研究では、IoT/CPSが製造業のプロセスに与える影響に焦点を絞り、詳細な検討を実施。
要素技術
期待される効果
10
n IoT/CPSの進化に合わせて、製造業の生産性が段階的に向上。n これらを実現するためには、3つのサービスの実現が必要となると予測。
IoTの導入の政策効果 - IoT/CPSの進化過程
人が監視を行い、
判断、制御等へのフィードバック
センサー・アクチュエーターの整備によるICTを活用した基礎的な監視・制御※ローカルでデータ収集
フィールドバスレベルのネットワーク化によるローカル自動制御※基礎的な制御機能
匠(熟練技術者など)の技能の計測等を通じた
暗黙知の形式知化
大規模データの処理・解析
v ネットワーク効率性v セキュリティ 等
v フィールドバスレベルでのNW連携 等
横断・複合的なデータの統合的な分析による
データ解析、制御機能の向上
v 機械学習、人口知能v ビッグデータ処理 等
v 人工知能 等
企業/業種横断で業務プロセスのアウト
ソースを受けるプラットフォーマの出現
Step1.特定領域におけるICT高度化による生産性の向上 Step2.
アウトソース化に伴う他の既存の財・サービスにおける需要創出
Step3.補完的な新しい財・サービスへの需要、
過去の知見を活用した生産性の更なる向上
Step4.B toB 、B to C 向けの財・サービスの新規創出
機能の高度化/取り扱うデータの増加(量・種類の双方)
v センサーの小型化、高機能化 等
プロセス単位でのデータ処理・解析
統合化
必要とされるサービス①
状態・状況のリアルタイム把握及び分析(個別プロセス単位)
必要とされるサービス②
知見・ノウハウのデータベース化、及びそれに基づく制御(個別プロセス単位)
必要とされるサービス③
プロセス横断型のプラットフォーム構築
本調査研究の検討範囲(プロセス・イノベーション)
11
n 必要なサービスを実現するための政策パターン(案)とその中で実施することが想定される政策手段(例)は、以下のとおり。
IoTの導入の政策効果 - IoT/CPSの政策手段
① 状態・状況のリアルタイム把握及び分析
(個別事業所/個別プロセス単位)
② 知見・ノウハウの
データベース化、及びそれに基づく制御
(個別企業/個別プロセス単位)
③ プロセス横断型のプラットフォーム構築
(産業横断的な、新しい市場の創生)
製造業の生産性向上に寄与する IoT/CPSサービス
様々なセンサを活用して自動的に収集されるログの分析に基づく、制御の高度化
設計、開発、生産、品質管理、製造といった一連のプロセスがデジタル化することでデジタルパイプラインが実現
定量化可能な知見等データのデータベース化によるオンデマンド判断支援
匠(熟練技術者など)の技能の計測とモデリングを通じた形式知と暗黙知のアーカイブ化による制御等の高度化
顧客価値、社会情勢の将来予想に基づき成長シナリオを予測し、ビジネスシナリオプラニング手法の開発・整備
n 補助金・助成(研究費)n 実証実験n 補助金・助成(商品化支援)n 税制優遇(技術導入企業)n 社会普及に資する関連制度創設n 国際標準化等規格化支援
n 補助金・助成(連携プロジェクト)n 実証実験n ベンチャー企業支援n 社会普及に資する関連制度創設
n 補助金・助成(研究費)n キャパシティ・ビルディングn 実証実験n ベンチャー企業支援n 国際標準化等規格化支援
n 補助金・助成(研究費)n 補助金・助成(研究人材)n キャパシティ・ビルディングn 基盤情報の整備
政策パターンの中で採用される可能性がある政策手段(例)
要素技術の研究開発を支援し、その後開発した技術の有効性を検証するための実証実験を実施。有効性が確認された技術の国際標準化を支援するとともに、当該技術の商品化支援、製品の導入事業者に対する税制優遇、加えて工場等に機器を導入する際の安全基準の策定等を行うことにより、社会実装を加速化。
関係者間で情報流通を促進・加速化するためモデル的に複数事業者が連携して実証検証を行うための連携プロジェクト(場の提供)を支援。
各工程あるいはその複合工程の高度化に資するデータ解析等を専業とするベンチャー企業の起業支援等を通じて、新しい市場の確立を支援。関係者間で企業機密等に関わる情報を流通させる際に遵守すべきセキュリティ要件等のガイドライン・制度化を図る。
要素技術の研究開発を支援し、その後開発技術の有効性を検証するための実証実験を実施。従来データ化されていなかった情報のデータ化に係る規格の国際標準化を図り、メタデータの流通促進基盤を整備。
データアナリティクスを専業とするベンチャー企業の起業支援等を通じて、新しい市場の確立を支援するとともに、企業内でも当該業務を実施できるアナリティクス人材の育成を支援(キャパシティ・ビルディング)。
社会予測等を行う際に利用可能な基盤情報を整備するとともに、オープンデータ等により、ICTにより容易に利用可能な環境を整備。ビッグデータによる解析結果を解釈したり、個々の状況にあった分析を行うことを可能とするアナリティクス人材の育成を支援。必要に応じて、より高度なビッグデータ解析を可能とする技術の研究開発を支援
サービス実現のための政策パターン(案)
12
IoTの導入の政策効果 - 評価モデルの作成:政策シミュレーターの特性
インプット
? GDPその他経済変数
アウトプット経済効果
従来のアプローチ
今回のアプローチ
技術Aアウトカム
マクロ経済モデルKeynesian
MacroModel
政府R&D投資Demand-OrientedModel
知識ストック
……
インプット アウトプット
GDP産業別生産額その他経済変数
経済効果
技術Bアウトカム
知識ストック
多部門経済一般均衡的
相互依存モデル(産業間の相互取引を明示的に考慮)
投資(技術)が経済に与える影響がブラックボックスとなっている
投資(技術)が経済に与える影響を可視的・定量化する
政府R&D投資
GDP産業別生産額その他経済変数
開発した技術が影響を与える産業部門毎に経済効果を分析する
……
日本経済全体(マクロ)に与える経済効果を推計する
この調査研究で用いるアプローチは、従来のアプローチには無い、次の特長を有する。n 政府R&D投資により開発される技術とその導入の影響(アウトカム・知識ストック)を可視化・定量n 開発される技術が影響を与える産業部門・消費者・政府等への経済社会効果をシミュレーターで推計