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大画面テレビにつないでコンテンツを楽し むリビングスタイルパソコン:FMV-TEO Living-Room-Styled FMV-TEO to Show Contents by Connecting to Large-Screen TV あらまし 地デジ対応パソコンの普及や,規格の整備,広告ビジネスを利用したコンテンツ提供者 の商業的成功などを背景としたネットコンテンツの普及加速によって,個人向けパソコン市 場においてはエンタテイメントユースへのニーズが拡大している。 本稿では,この新しいユースケースをより魅力的なものにすることで,既存パソコン市 場の拡大をねらいリビングルームに進出すべく富士通が市場に投入しているFMV-TEOリーズの概要と,その機能を実現するために搭載される富士通独自の技術について解説する。 Abstract The accelerated dissemination of Internet content owing to factors such as the increasing popularity of personal computers that support digital terrestrial broadcasting, improved standards and the commercial success of content providers making use of advertising, has increased consumer needs for personal computers as entertainment devices. In this report, we present an overview of the FMV-TEO series of products, which we introduced to the market with the aim of expanding the existing PC market to cover living room applications by making these new applications more appealing. It also describes our unique technology that we have used to produce those products. 木村真敏 (きむら まさとし) 第一PC事業部 所属 現在,PC向け共通技術の 先行調査,開発に従事。 広末庸治 (ひろすえ ようじ) 第二PC事業部 所属 現在,デスクトップPC/ ワークステーション/ディ スプレイモニタの装置開 発に従事。 牛若恵一 (うしわか けいいち) 第一PC事業部 所属 現在,PC向け共通技術の 開発に従事。 小檜山清之 (こひやま きよし) プラットフォームテクノ ロジー研究所 所属 現在,コンテンツ保護技 術の研究開発に従事。 116 FUJITSU. 61, 2, p. 116-126 (03, 2010)

大画面テレビにつないでコンテンツを楽し むリビングスタイ …...するコンテンツ群のビューワ・アーカイブサービス (ホームサーバ)としてのPCを次の用途例・購入動

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大画面テレビにつないでコンテンツを楽しむリビングスタイルパソコン:FMV-TEO

Living-Room-Styled FMV-TEO to Show Contents by Connecting to Large-Screen TV

あらまし

地デジ対応パソコンの普及や,規格の整備,広告ビジネスを利用したコンテンツ提供者

の商業的成功などを背景としたネットコンテンツの普及加速によって,個人向けパソコン市

場においてはエンタテイメントユースへのニーズが拡大している。 本稿では,この新しいユースケースをより魅力的なものにすることで,既存パソコン市

場の拡大をねらいリビングルームに進出すべく富士通が市場に投入しているFMV-TEOシ

リーズの概要と,その機能を実現するために搭載される富士通独自の技術について解説する。

Abstract

The accelerated dissemination of Internet content owing to factors such as the increasing popularity of personal computers that support digital terrestrial broadcasting, improved standards and the commercial success of content providers making use of advertising, has increased consumer needs for personal computers as entertainment devices. In this report, we present an overview of the FMV-TEO series of products, which we introduced to the market with the aim of expanding the existing PC market to cover living room applications by making these new applications more appealing. It also describes our unique technology that we have used to produce those products.

木村真敏 (きむら まさとし)

第一PC事業部 所属 現在,PC向け共通技術の

先行調査,開発に従事。

広末庸治 (ひろすえ ようじ)

第二PC事業部 所属 現在,デスクトップPC/ワークステーション/ディ

スプレイモニタの装置開

発に従事。

牛若恵一 (うしわか けいいち)

第一PC事業部 所属 現在,PC向け共通技術の

開発に従事。

小檜山清之 (こひやま きよし)

プラットフォームテクノ

ロジー研究所 所属 現在,コンテンツ保護技

術の研究開発に従事。

116 FUJITSU. 61, 2, p. 116-126 (03, 2010)

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大画面テレビにつないでコンテンツを楽しむリビングスタイルパソコン:FMV-TEO

図-1 リビングスタイルPC FMV-TEO Fig.1-Living-style PC “FMV-TEO”.

ま え が き

オーディオビジュアル(AV)コンテンツの視聴

閲覧は,個人向けパソコン(以下,PC)の娯楽的

な用途例・購入動機の柱として近年急速に確立した。

下記の技術革新,市場の変化の2面が,このムーブ

メントの主な要因であると言える。 (1) 技術面:プラットフォームの進化 ・コーデック技術(ハードウェア,ソフトウェア)

のコモディティ化 ・CPUの演算処理やGPU(Graphic Processing

Unit)の描画能力向上と著作権保護技術の確立 (2) 市場面:コンテンツ流通の変化 ・インターネットを通じたコンテンツの流通の爆発

的加速 ・コンテンツ処理をPCに依存するポータブルオー

ディオ機器やビデオカメラなどの急速な普及 富士通ではここ数年,デジタル化により高機能化

が加速する家電AV機器市場の広がりをにらみ,PCならではの強みとして,クラウド上や家庭内に遍在

するコンテンツ群のビューワ・アーカイブサービス

(ホームサーバ)としてのPCを次の用途例・購入動

機の柱として位置付けている。DLNA(注 )1 対応機器

の普及や,CGM(注 )2 をシェアできるサービスなど家

庭内外でコンテンツ消費の中心に置かれる機器「デ

ジタルメディアハブ」としてPCを位置付けるため

の周辺環境は急速に整いつつある。しかし,このデ

ジタルメディアハブとしてのユーザシナリオを実現

するに当たって,現在のPCには大きな課題がある。

それは,コンテンツをより高画質・高音質で楽しみ

たいという顧客ニーズにおいては残念ながら専用機

である家電AV機器に対して競争力を持てていない

ことである。これは,PC産業向けの液晶デバイス

やスピーカ・アンプなどのキーユニットが,コスト

やデリバリといった合理性を主眼に置いて設計開発

されたコモディティ化の進んだものであり,クオリ

(注1) Digital Living Network Allianceの略。家電機器や携帯

機器,PC間で家庭内のネットワークを利用したコンテ

ンツの共有のための相互接続性を実現する基本プロトコ

ルやメディアフォーマットを定めたガイドラインを策定

する業界団体。ガイドラインは1.5までが既に公開されて

おり,認証/ロゴプログラムなどが実施されている。 (注2) Consumer Generated Mediaの略。インターネットなど

を活用して消費者が内容を生成していくメディア。

ティを主眼において高級AV機器専用に開発された

物に対して性能面などで及ばない部分があるためで

ある。そこで,これを解決する一つの手段として,

低価格化が進み急速に普及が加速している大画面テ

レビとそのインタフェースを利用する製品戦略に着

目し,FMV-TEOシリーズ(以下,TEO)の製品化

に至った(図-1)。 本稿では主に,コンテンツ保護と家電機器との連

携という一般消費者向けPCの重要な共通課題に対

し,TEOを通じて富士通が取り組んだ技術概要に

ついて解説する。前半ではWindows OSを搭載した

PC/AT互換機をベースとしながらも,デジタルメ

ディアハブ構想実現のためにTEOが採用した特徴

的なプラットフォームや,技術概要について解説し,

後半では著作権保護技術とHDMI-CECに的を絞り

詳述する。

TEOの技術

本章では,富士通がTEOで採用したプラット

フォームや,搭載技術の概要を述べる。

FUJITSU. 61, 2 (03, 2010) 117

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(1) プラットフォーム 現行機種で第2世代となるTEOは,外観こそ家電

レコーダ機器のようであるが,そのプラットフォー

ムはPCをベースとしており,CPUにはAMD TurionTM X2 デュアルコア・モバイル・プロセッ

サを搭載している。Turionシリーズは本来モバイ

ルPC向けに設計されたもので,高性能ながらも低

電力の設計を可能としており,TEOの小型化,静

音化に大きく寄与している。また,PCとしての各

種I/O制御などをつかさどるノースブリッジ(注 )3 には,

高性能な描画機能をもつGPU演算コアを内蔵する。

同GPUはハードウェア演算によるMPEG-2 HL/ H.264 AVCのHLプロファイルのビデオデコード機

能を有しており,この機能により,例えばブルーレ

イディスクの映画タイトルやハイビジョン解像度の

放送波,家庭用ハイビジョンカメラなどの動画を再

生する際にも,CPUの演算処理量が過度に増大す

ることなく,高解像度の薄型テレビにフルフレーム

表示することが可能となった。例えば画面の一部で

前述のようなハイビジョン映像視聴をしつつも,別

ウィンドウではインターネット閲覧,メール閲覧,

ネットショッピングなどを行うような状況,いわゆ

る「ながら視聴」のようなケースで,各機能の利用

を快適に行うことができる。 (2) コンテンツ保護技術:セキュアLSI デジタル放送への移行に伴い,PC製品において

デジタルチューナの搭載が望まれてきた。しかし,

現在のPCはAT互換機をベースとしたオープンアー

キテクチャであり,内部仕様が公開されているため,

常にリバースエンジニアリングなどのクラッキング

の対象となりやすい。DVDの著作権保護の仕組み

が,PCを用いた一般消費者によって悪意を持って

解除されてしまったことは記憶に新しい。このため,

デジタル放送を受信するためには,とくにデータバ

スなどで強固なコンテンツ保護が義務付けられてい

る。TEOを含む富士通テレビパソコンのテレビ

チューナボードでは,この課題を高い耐タンパ性

能(注 )4 を持つ富士通独自の著作権保護機能によって

解決している。この技術の詳細については後述する。 (注3) PC/AT互換機のマザーボード上に配置されたLSIチップ

の一つ。CPUのローカルバスに接続されPCI expressなどの標準バスや各種I/Oインタフェースの制御をつかさ

どる機能を持つ。 (注4) 内部解析や改ざんを物理的・論理的に防ぐ性能。

(3) 映像トランスコード技術:Dixel HD Engine TEOのテレビチューナボードにはそれぞれ2基の

地上波/BS/CS信号の受信機能を搭載し,複数チャ

ネルの同時録画「ダブル録画」を実現し,家電機器

のハイビジョンデジタルレコーダ上位機種などとそ

ん色ない仕様となっている。さらにこのチューナ

ボードには受信したテレビ番組を,放送波の圧縮方

式であるMPEG-2から,より圧縮率の高いH.264 AVCにハイビジョン画質のままリアルタイムに変

換するトランスコードのための専用LSI,「Dixel HDエンジン」(後述)を搭載する。これにより,

高画質のままHDD容量を節約する長時間録画機能

を実現している。さらに,上位機ではブルーレイ

ディスクドライブを搭載し,デジタル放送の録画コ

ンテンツを自由にブルーレイディスクなどにコピー

してアーカイブすることも可能となっている。コ

ピー機能は,ダビング10(テン)(後述)の仕様に

のっとったものとなっている。またディスクに移動

されたコンテンツはブルーレイディスク規格および

その一部であるAVCREC規格(注 )5 (後述)などの標

準仕様にのっとっており,ブルーレイレコーダなど

の家電機器でも再生視聴を楽しむことができる。 (4) 家電機器連携:HDMI-CEC HDMI(High-Definition Multimedia Interface)規格は,PCディスプレイの標準インタフェースで

あるDVIをベースに,著作権保護機能や音声信号の

取扱い,放送系映像信号フォーマットへの対応など

を加味しAV機器向けに改良されたもので,2002年に標準仕様が公開されて以来,全世界において各国

のテレビ放送のHi-Definition化とともに急速な普

及を続けている。 日本国内においては,2011年の地上アナログ放

送終了に向けてデジタル放送対応テレビ受像機への

リプレースが進む中,新規に発売されるテレビ機器

へのHDMI搭載率はほぼ100%(富士通調べ)に達

しており,国内市場におけるAV機器インタフェー

スの事実上の標準と言える。 TEOは大型テレビとの接続利用をねらい,他社

に先駆け,2007年の初代機からこのHDMIを搭載

(注5) Blu-ray規格をベースに,DVDなど,より安価な光ディ

スクに高精細なハイビジョン映像を録画するために定め

られた映像記録フォーマット。BDA(Blu-ray Disc Association)が策定した。

118 FUJITSU. 61, 2 (03, 2010)

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している。特筆すべきはHDMI規格の一つの目玉と

言えるCEC(Consumer Electronics Control)機

能をPCとして世界で初めて(富士通調べ)搭載し,

家電機器との連携によりかつてないユーザビリティ

を実現している点である。TEOにおけるHDMIならびにCEC機能の技術的詳細は後述する。

HDD暗号化

コンテンツ

デジタル放送MPEG-2コンテンツ

暗号解除

伸長

表示

PC

表示機器PCモニタなど

セキュア領域

図-2 デジタル放送受信システム概要(想定) Fig.2-Outline of digital broadcasting receiving system

(supposed).

コンテンツ保護技術

本章では,コンテンツ保護技術の概要について述

べる。 ● PCでのコンテンツ保護のあらまし デジタル放送コンテンツの特徴は,違法コピーさ

れてもアナログのような画質劣化がないことである。

PCなどで放送を受信する場合,前述のDVDのケー

ス同様PCソフトウェアがクラッキング(ソフト

ウェアの書換えや覗のぞ

き見)されると無限にコピー

が可能となり,違法コピーによる海賊版の販売など

に悪用される可能性がある。画質劣化のないコンテ

ンツを許可なく配布された場合の権利者の経済的損

害は甚大である。 このような状況のもと,富士通はPCソフトウェ

アを常時監視するなどしてクラッキングから守る

LSIを開発し,この技術をベースに2005年に業界初

の本格ハイビジョン視聴可能なデジタル放送受信

PCを開発し,その後のデジタル放送受信PC市場の

発展に大いに寄与している。 ● 従来技術の課題:セキュア領域の実現 前述のようにPCアーキテクチャは基本的に公開

されている。すなわち,一定のスキルがあれば誰も

がPCソフトウェアの存在するメモリ領域にアクセ

スし書換えが可能である。公開されているために

サードパーティのソフトウェア開発業者が自由にソ

フトウェアを開発でき,これがPCの世界的な普及

を可能にしてきたが,公開されているということは,

すなわち第三者が自由に他人のソフトウェアにアク

セス(覗き見)し,書換え(改ざん)できるという

ことでもある。 図-2はデジタル放送受信PCで想定されるデジタ

ル放送受信システムの概要である。図でPCは

MPEG-2圧縮されたデジタル放送コンテンツを受

信し,HDDに蓄積した後,圧縮MPEG信号の伸張

など各種信号処理を実行し, 終画像をモニタ表示

する。この一連のコンテンツの処理をPCソフト

ウェアが実行するが,ソフトウェアは先ほど述べた

ように覗き見や改ざん可能なメモリ領域に存在する。

したがって,悪意ある第三者がソフトウェアを覗き

見し,解析し,改ざんを行うことが可能である。例

えばHDD上に保存される暗号化コンテンツを復号

し,生コンテンツを生成するように改ざんされる可

能性がある。 悪意ある第三者が悪意をもって覗き見や改ざんが

できないセキュア領域が必要である。 さらにデジタル放送コンテンツの扱いに関しては

電波産業会(通称ARIB)のデジタル放送運用規

定(1),(2)があり,準拠する必要がある。 セキュア領域をPC内に実現する方法は,様々で

ある。以下に代表的な従来技術によるセキュア領域

の実現方法を示す。 (1) 処理のハードウェア化 復号処理,伸張処理,表示処理をすべてPCから

独立したハードウェアで行う方法である。PC上の

アプリケーションプログラムと独立しており,しか

も一般的にハードウェアはLSI化されている。LSI内部の電気信号を解析し(上記で言う覗き見に対

応),LSI内部を作り変える(上記で言う改ざんに

対応)ことは一般のクラッカには不可能であり,セ

キュリティ強度は十分と言える。しかし,すべて専

用ハードウェアを必要とするため高コストになる。 (2) ソフトウェアの難読化 プログラム解析が困難な耐タンパ化ソフトウェア

で処理を行う方法がある。代表的なソフトウェアの

耐タンパ化技術に難読化がある。(3) これは,処理アル

ゴリズムなどをわざと複雑にし,クラッキングの前

提であるプログラムコードの解析を限りなく困難に

する方法である。解析できなければプログラムの改

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ざんや覗き見などクラッキングは不可能である。し

かしプログラムコードがPCのメモリ上で動作する

限り,コードを読み取り,解析することは可能であ

り,完全な耐タンパ化は困難である。クラッカが十

分な労力をかければ解析され,プログラムを改ざん

される恐れがある。また複雑に難読化されたソフト

ウェアは実行性能の低下を引き起こしやすい。 ①

②②

PCソフトウェア

MPEG-2伸張など

PCメモリ領域

復号

暗号化

セキュリティ維持機能

デジタル放送暗号化MPEG-2

コンテンツ

PC

コンテンツ保護LSI

AV

出力HDD

暗号化暗号化コンテンツ

PCモニタ

復号

暗号化

スキャン

再構成

秘密の番号通信

図-3 コンテンツ保護LSIブロック図 Fig.3-LSI block diagram for content protection.

以上の従来技術は,コンシューマ向けPCという

市場を考えるとどちらも問題がある。処理のハード

ウェア化は,セキュリティ強度は十分あるが,コス

トが高く民生市場に向かない。また,ソフトウェア

の難読化は,プログラムコードの解析によるクラッ

キングの危険が付きまとうため,セキュリティ強度

が十分と言えない。 民生市場で要求されているのは,ハードウェア並

みのセキュリティ強度とソフトウェアの低コストを

兼ね備えたセキュリティ方式である。 ● 富士通のコンテンツ保護技術 前述した課題解決のため,富士通はPC環境でも

セキュアにコンテンツ保護ができる手法を考案し,

ハードウェアレベルのセキュリティ強度とソフト

ウェアの低コストを両立させた。ポイントは,処理

の大半を安価に実施可能なソフトウェアで実現し,

セキュリティ維持機能のみLSI化したことである。

処理の大半をPC上の覗き見や改ざんが可能なソフ

トウェアで実現し,それをLSIでリアルタイムで監

視し,クラッキングが発覚した場合にコンテンツの

流れを止められるような仕組みをLSI内に用意した。

図-3は,コンテンツ保護LSIのブロック図である。

LSIに①デジタル放送コンテンツを受信し復号し再

暗号化しHDDに蓄積する機能,②HDDに蓄積され

た再暗号化コンテンツを復号し再々暗号化してPCソフトウェアに出力する機能,③ソフトウェアのセ

キュリティを維持する機能がある。 ①,②の復号,再暗号化機能をLSIで実現し,コ

ンテンツの流れをLSIが常に制御できるようにする

ことで,ARIB規格を満足させると同時にLSIがソ

フトウェアのクラッキングを発見した場合,LSIでコンテンツの流れを停止できるようにした。 LSIによるソフトウェアのセキュリティ維持機能

は,三つ存在する。一つがソフトウェアコードの

LSIによる「リアルタイムスキャン」である。ソフ

トウェアが書き換えられた場合,それを検出しコン

テンツの流れを停止する。 一方,ソフトウェアを書き換えず,覗き見だけで

コンテンツを取得される恐れがある。これに対する

対策は「LSIのソフトウェア再構成機能」である。

これは,LSIがソフトウェアをPCメモリ領域に

ロードするたびにソフトウェアを外から見た機能は

全く同じでもコード自体の配置を変更し,クラッカ

がソフトウェアを解析し,コードのどの部分に肝心

な情報が存在するか分からなくする機能である。こ

れでコンテンツが覗き見により取得されるのを防ぐ。 また,再構成の際にLSIは秘密の番号をソフト

ウェアコードに埋め込み,ソフトウェア動作中に

LSIとソフトウェアの間でその番号を利用した秘密

の通信を行う。これは,いわゆる一種の「リアルタ

イム認証」である。 以上三つの機能により,コンテンツ保護LSIはソ

フトウェアのセキュリティを維持し,コンテンツの

不正コピーを防ぐ。これらは,後述のダビング10機能の実装にも応用され,コピー回数と履歴を確実

に管理することで,コンテンツ保護とユーザの使い

勝手を両立している。

ダビング10

本章では,録画コンテンツのコピー運用ルールで

あるダビング10のPCにおける機能実装の概要につ

いて述べる。 (1) ダビング10 「ダビング10」とは,日本国内のデジタル放送

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で録画機器に課せられたコンテンツのコピー規制の

ルールである(図-4)。デジタル放送開始当初は,

番組などを1回だけ録画(第一世代コピー)でき,

その後は移動(ムーブ)はできるが,別の複製を作

ることができない「コピーワンス」方式であった。

しかし,一度のムーブなどの失敗でコンテンツが失

われてしまうなど,ユーザビリティの面で課題が大

きいことから,2008年7月よりコピー回数を9回(第一世代からのみコピー可)に増やし,残り1回のムーブと合わせてダビング10と呼ばれるルール

運用が開始された。 TEOでは,前述のコンテンツ保護技術を応用し,

内蔵HDDに録画したダビング10に対応するデジタ

ル放送番組をブルーレイディスクまたはCPRM(注 )6

対応のDVDに対して,「コピー9回+ムーブ1回」が

可能となっている。 (2) 録画機器でのコピーワンス番組の取扱い ブルーレイディスクまたはCPRM対応のDVDに

録画番組をムーブして保存すると,HDD内の録画

番組は削除となる{図-4(a)}。 (3) 「ダビング10」番組の取扱い コピー9回+ムーブ1回の計10回ブルーレイディ

スクまたはCPRM対応のDVDに保存することが可

能となった{図-4(b)}。9回目までは,HDD内に

録画番組を残したまま,メディアにコピーを作成す

ることが可能である。 後の1回はムーブとなり,

HDD内の録画番組は削除される。

(a)コピーワンス

(b)ダビング10

移動(ムーブ)

移動(ムーブ)コピー9回

図-4 ダビング Fig.4-Dubbing (copying).

HDDに残したまま,メディアの作成が可能

FMVだけ

図-5 富士通の実装/コピーワンスコンテンツでの優位性Fig.5-Fujitsu’s advantage of mounting and “copy-once”

content.

図-6 新開発のLSI「Dixel HDエンジン」

Fig.6-Newly-developed LSI “Dixel HD engine”.

(注6) Content Protection for Recordable Mediaの略。DVDな

どの記録メディアにコピーワンス(第1世代のみ複製可

能)の著作権保護機能を実現するために,大手家電メー

カなどの参画する団体4C Entityにより開発されたコ

ピー制御方式。

(4) 富士通の実装 富士通のダビング機能では,ダビング10に対応

していないコピーワンスの番組でも,ハイビジョン

画質の録画番組データをHDDに残したまま,ブ

ルーレイディスクまたはCPRM対応のDVD-RAMのメディアに1回だけ保存することが可能である (図-5)。これは,富士通の著作権保護機能が,

HDD内の録画番組データと複製履歴を確実に管理

し,かつコンテンツそのものをハードウェアにより

強固に暗号化することにより,悪意ある複製の作成

を事実上完全に防止できるが故の利点である。

Dixel HDエンジン

本章では,ハイビジョン画質でのトランスコード

を実現するDixel HDエンジンの概要について述

べる。 ● Dixel HDエンジンとは TEOでは,新開発のLSI「Dixel HDエンジン」 (図-6,7)で,デジタル放送のハイビジョン長時間

録画(H.264 AVC)を実現している。一般に動画

はその方式によらず,圧縮率が高くなるほど画質が

劣化する。本LSIでは,映像の再圧縮を行う際に,

人間の視覚特性の研究結果に基づき,画質劣化が気

になりやすい部分(人の顔やゆっくりと動く物体)

FUJITSU. 61, 2 (03, 2010) 121

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H.264 HD トランスコ-ダ

3DES複合器

TSデマルチプレクサ

内部バス

MPEG-2 HD デコーダH.264 HD コーデック

TSマルチ

プレクサ

3DES暗号化

映像/音声入力

音声コーデックおよび

音声タイムスタンプ

メモリコントローラ

ホストI/F

ダウンスケーラHD>SD

映像/音声出力

ストリーム入力

映像入力

音声入力

MPEG-2/H.264HD/SD

ストリーム出力

H.264 HD/SD

映像出力

音声出力

DDR2 SDRAM512 Mビット×2

ホストI/F

図-7 「Dixel HDエンジン」ブロック図 Fig.7-Block digram of “Dixel HD engine”.

は圧縮率を低くして高画質を維持し,それ以外の部

分を大きく圧縮するといった適応型の処理を行って

いる。これは富士通研究所による独自のトランス

コードアルゴリズム技術であり,これにより高画質

と長時間録画を両立している。本機能により,内蔵

HDDにデジタル放送を録画した後に,録画データ

の画質変換を行いディスク容量を節約するオフライ

ン変換だけでなく,デジタル放送を受信しながら画

質変換しつつHDDに記録する,リアルタイム長時

間録画も実現している。 ● DVD-Rにハイビジョン画質で 2時間録画

(AVCREC対応) またTEOでは,HDDに録画した番組をハイビ

ジョン画質のまま,CPRM対応のDVD-RAM,

DVD-RW,DVD-Rに保存が可能となっている。音

声も高音質AAC形式の5.1 chで保存可能である。安

価な4.7 GバイトのDVD-Rメディアに,ハイビジョ

ンのまま約2時間の保存が可能であり,ユーザはア

ナログ放送時代と変わらぬランニングコストでハイ

ビジョン映像を高画質と高音質で録画再生して楽し

むことが可能となっている。また,この際の記録

フォーマットはAVCREC規格に準拠しており,

TEOだけでなく,AVCREC再生対応の各種家電プ

レーヤでの再生視聴が可能である。 ● H.264 AVC(AVCREC)による長時間録画の

特長 (1) ブルーレイディスクにハイビジョン画質を24

時間録画 高圧縮率でも画質劣化が少ない圧縮アルゴリズム

の利点を生かし,TEOでは「長時間モード(約

4.5 Mbps)」を設定している。片面2層(50 Gバイ

ト)のブルーレイディスク1枚に丸1日分の24時間

もの録画が可能である。 (2) 地上デジタル放送の長時間録画 750 Gバイトの内蔵HDDに対し地上デジタル放

送を 大で約646時間の録画が可能である。 (3) BS・110度CSデジタル放送を5倍録画 ビットレート/解像度の高いBS・110度CSデジタ

ルハイビジョン放送においても,トランスコードな

しに比べハイビジョン画質を維持したままで約5倍の録画時間となる。 表-1において,(a)は録画可能時間,(b)は保存

可能時間の内訳を示す。

HDMI連携技術

本章では,TEOを家電テレビに接続する際の

HDMIによる連携技術の概要を述べる。 ● PC映像をテレビに表示する際の課題 TEOでは,メインディスプレイに他社製家電TV(以下,家電TV)を使用するコンセプトであり,

HDMI経由でテレビにPC映像を表示する際の複数

の課題を技術的に解決している。 (1) 表示領域の違い 一般に家電TV受像機では,放送波の映像情報を

すべて画面表示しておらず,一部が画面表示からは

み出しており,画面周囲を削ってアクティブエリア

を抽出する「オーバースキャン」(図-8)という方

法で画面表示を行っている。しかしPCでは座標

122 FUJITSU. 61, 2 (03, 2010)

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表-1 録画・保存可能時間 (a)録画可能時間

録画モード 記録方式 ビットレート 解像度 大録画時間

HDD 750 Gバイト

1920×1080 BS・110度CSデジタルハイビジョン 約24 Mbps 1440×1080

約64時間 高画質

地上デジタル放送

MPEG2-TS約17 Mbps 1440×1080 約91時間

1920×1080 BS・110度CSデジタルハイビジョン 1440×1080 高画質

地上デジタル放送

約9 Mbps

1440×1080

約172時間

長時間 約4.5 Mbps 1440×1080 約344時間

超長時間

H.264

約2.4 Mbps 720×480 約646時間

(b)保存可能時間 保存可能時間

録画モード 記録方式 DVD-R (4.7 Gバイト)

DVD-RAM (9.4 Gバイト)

BD-RE/ BD-R

(25 Gバイト)

BD-RE/ BD-R DL (2層)

(50 Gバイト)

BS・110度CSデジタルハイビジョン 約24 Mbps) (

- - 約2時間 約4時間 高画質

地上デジタル放送(約17 Mbps)

MPEG2-TS- - 約3時間 約6時間

BS・110度CSデジタルハイビジョン (約24 Mbps) 高画質

地上デジタル放送(約17 Mbps)

約1時間 約2時間 約6時間 約12時間

長時間(約4.5 Mbps) 約2時間 約4時間 約12時間 約24時間

超長時間(約2.4 Mbps)

H.264

約4時間 約8時間 約23時間 約46時間

図-8 オーバースキャン表示

家電TVの表示領域からはみ出して表示 Fig.8-Overscanning display.

-Content overflows display area.-

(0,0)から(0,X),(0,Y),(X,Y)の4隅ま

でを情報として利用しており,そのすべてを表示さ

れることを前提にユーザインタフェースが設計され

ている。例えばWindowsのデスクトップ画面では,

左下にアプリケーションを表示するスタートボタン

が配置されており,画面下のタスクバーには起動し

ているアプリケーションが表示されている。これら

は家電TVとPCを単純にHDMIで接続すると,テレ

ビのオーバースキャン処理により画面がはみ出して

表示されてしまい,通常のOS操作などを行う際に

支障となる。またこのオーバースキャン処理の程度

は家電TV各社,さらにはその機種ごとにまちまち

であり,あらかじめ画面周囲を黒く表示する無表示

領域(アンダースキャン:図-9)を設けても,すべ

てのテレビで画面の4隅に合わせてジャストスキャ

ン(図-10)することは困難を極める。 (2) ドットマトリックス表示の考え方の違い HDMIで取り扱われる信号フォーマットは,各国

放送方式にのっとった480i/480p/720p/1080i/1080pなどであるが,液晶パネルや PDP ( Plasma Display Panel)といった家電TV側の表示は必ずし

もこれら解像度に一致したドットマトリックスに

なってはいない。例えば1366×768ドットなど,ア

スペクト比こそ16:9であるが,放送フォーマット

と一致しない画素配置となっている場合がある。昨

今では「フルスペックハイビジョン」や“Full HD”などといった,現行ハイビジョン放送フォー

マットである1920×1080@60 Hzと同一画素の表

示パネルを持った家電TVが普及しているが,この

場合も前述のようにオーバースキャン処理を行って

いる。つまり,ほとんどのテレビで,放送波の画素

や走査線数は表示パネルと一致していない。このた

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大画面テレビにつないでコンテンツを楽しむリビングスタイルパソコン:FMV-TEO

図-10 ジャストスキャン表示・ドットバイドット表示

家電TVの表示領域に合わせて表示 Fig.10-Just scanning display by dot-by-dot.

-content is fitted to display size.-

図-9 アンダースキャン表示

家電TVの表示領域よりも小さく表示(黒枠表示)Fig.9-Underscanning display.

-content is smaller than display size.- め家電TVでは,受信/入力映像に対してスケーリン

グ(拡大)や走査線変換処理を施している。動画な

どの映像では普段これらの処理が気になることはな

いが,PCの文字表示やグラフィック表示はディス

プレイに1ドット単位で明瞭に表示されていること

を期待して設計されており,このスケーリング処理

によりドット補完や間引きが行われるため,表示画

像のボヤケとして認識されることがある。

図-11 TEO Utility 表示領域を家電TVに合わせて表示

Fig.11-TEO Utility. -content is fitted to TV size.-

● 課題解決へのアプローチ TEOでは,この表示領域を家電TVに合わせて表

示するために“TEO Utility”(図-11)を開発した。 (1) オーバースキャン表示のキャンセル TEO Utilityは,各家電TVのスキャン率情報を

データベースとして蓄積し,接続した 初のみ自動

的にジャストスキャン設定が行われ,TEOの

Windows画面を家電TVの表示領域に対し,自動調

整する。HDMIを通じて接続された家電TVのメー

カ名もしくはモデル名などを取得しデータベースに

照らし合わせて自動的に出力のスキャン率を決定

(画面外に出てしまう部分を自動的に不表示領域

化)するものである。 (2) ドットバイドット表示の実現と自動化/簡易化 パナソニック株式会社の自動ドットバイドットに

対応したビエラでは,表示画素とPC出力信号の

ドットが1対1で表示される「ドッドバイドット表

示」の自動設定が可能となっている。また,ほかの

家電TVにおいても,ジャストスキャンで調整され

た後,ドットバイドット対応テレビが接続されてい

る場合,TEO Utilityの表示領域設定でウィザード

形式に進めていくとTEOの解像度を変更した後,

家電TVのオーバースキャン解除操作方法も例示さ

れるため,簡単にドットバイドットに設定すること

が可能となった。 この技術は,HDMIを搭載したFMV-BIBLOの

「テレビ出力ユーティリティ」に継承し,HDMIによる接続性を向上させている。 なお,テレビ出力ユーティリティは,自動的に

PCの解像度を切り替える機能は搭載していない。 ● テレビ連携技術/HDMI-CEC 大型の家電TVをPCのメインディスプレイとして

使用する上で も期待される利用方法の一つは,大

画面の家電TVで写真や動画などのコンテンツを閲

覧することであり,TEOにはリモコンを添付し,

離れた場所から簡単に操作できるよう配慮している。

しかし,大画面の家電TVは,リビングなど共有ス

ペースに設置されており,そこはレコーダなどほか

の機器も共存しているエリアである。そのため複数

のリモコンを,使いたい機器に応じて使い分けなけ

ればならない課題があった。

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大画面テレビにつないでコンテンツを楽しむリビングスタイルパソコン:FMV-TEO

PCに付属の

リモコンから・・・

他社テレビの画面を自動切替え

図-12 ワンタッチプレー Fig.12-One-touch display.

図-14 TEO MENU 家電TVのリモコンで操作するための専用メニュー

Fig.14-TEO menu. -exclusive menu for at-home TV remote control operation.-

テレビに付属のリモコンから・・・

PCのアプリケー

ションを操作

図-13 リモコンパススルー Fig.13-Remote control pass-through.

テレビの電源を切ると・・・

PCも連動して

スタンバイに・・・

図-15 システムスタンバイ Fig.15-System standby.

HDMI規格では,こうした課題への一つの解決策

として,CECと呼ばれるオプション規格が定義さ

れている。家電TVなどの表示機器(Sink)とそこ

に接続される映像出力機器(Source)などとの間

で,通信制御により,リモコン操作や電源制御にお

けるユーザビリティの向上が実現されている。

CECの名称は一般にはあまり知られていないが,

パナソニック株式会社の「ビエラリンク」やシャー

プ株式会社の「AQUOSファミリンク」に代表され

るように,国内家電TVメーカ各社が自社テレビと

自社デジタルレコーダ間など自社製品同士の親和性

の良さ,便利さを付加価値として消費者に広く紹介

されている。 CEC で は , Source 機 器 と し て “ Playback Device”や“Recording Device”などの複数のカ

テゴリが定義されており,各カテゴリごとにそれぞ

れに表示機器と接続した際に実現できる連携機能が

「シナリオ」として定義される。前述の各社の連携

機能の多くはこのシナリオにのっとって実装されて

いる。PCという製品カテゴリは存在しないが,機

能的には映像を出力するSource機器の一種とみな

すことができる。 TEOでは,上記CECで定義されるシナリオの中

から下記3点を実装し,テレビと組み合わせて使う

際のユーザビリティを大きく向上している。 (1) ワンタッチプレー(図-12) PC付属のリモコンでコンテンツ視聴を行おうと

操作した際,テレビのリモコンに持ち替えることな

く家電TVの電源オンやTEOが接続されている入力

に自動的に切り替えるワンタッチ画面表示機能を

実現した。 (2) リモコンパススルー(図-13) TEO内の写真や音楽などのコンテンツを使い慣

れたテレビのリモコンで操作できるように“TEO MENU”( 図 -14)という専用GUI(Graphical User Interface)を開発し,マウスやキーボードに

触れることなく,家電TVのリモコンからTEO内の

コンテンツが楽しめるようにした。Sink機器から

CECを介してSource機器であるTEOにリモコン操

作コマンドを伝達(パススルー)している。 (3) システムスタンバイ テレビ機器の電源オフやスタンバイに連動して,

TEOをスタンバイへ移行させる電源オフ連動機能

に対応し,省電力と利便性向上を実現した(図-15)。 なお,電源オフ連動が有効に設定されていても起

動しているアプリケーションによっては,スタンバ

イに移行しないよう配慮している。 これら3機能の実装により,CECに対応した特定

メーカの家電TVと組み合わせることで,同メーカ

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大画面テレビにつないでコンテンツを楽しむリビングスタイルパソコン:FMV-TEO

のレコーダに近い操作性と利便性を実現するに至っ

ている。

今後の展開

TEOでは製品の特性上リビングルームでの大画

面の家電TVと組み合わせて使われるケースが多く,

エンドユーザにとっては通常のPCとは異なる姿勢

や,異なる画面からの距離で使用することとなる。

今後はこの点に更に着目し,大画面の良さなどを生

かしながら,よりヒューマンセントリックなユーザ

インタフェースを実現していきたいと考えている。

む す び

本稿で紹介したように,FMV-TEOでは,一般消

費者向けPCの新しいユーセージを開拓すべく,他

社家電メーカ製大画面テレビとの連携機能,安全で

強固な著作権保護機能による録画機能,技術革新の

著しい 新動画コーデックへの早期対応など,新技

術,新機能をいち早く取り入れてきた。これら

TEOで実現してきた機能は,部品の価格低下とと

もにコモディティ製品にも応用され,富士通製品の

付加価値を高めている。 今後は家電機器や携帯機器との更なる積極的な連

携,デバイスの進化による新技術や,クラウドによ

る新しいサービスの早期実装などを続け,利用者の

ライフスタイルに新たな楽しみを提案するライフ・

パートナとして,PCが家庭の中心に置かれる「デ

ジタルメディアハブ」構想を実現していく。 コンテンツ保護技術の研究開発の一部は,独立行

政法人情報通信研究機構の委託研究により実施した

ものである。この場を借りて関係各位に感謝の意を

表する。 参 考 文 献

(1) ARIB STD-B14.社団法人電波産業会. (2) ARIB STD-B25.社団法人電波産業会. (3) C. Collberg et al.:A taxonomy of obfuscating

transformations.Technical Report 148,Dept. of Computer Science,University of Auckland 1997.

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