23
6月26日 1 基礎量子化学 2009年4月~8月 6月26日 第10回 中間試験の解説 14.ヒュッケル近似 担当教員: 福井大学大学院工学研究科生物応用化学専攻准教授 前田史郎 E-mail[email protected] URLhttp://acbio2.acbio.fukui-u.ac.jp/phychem/maeda/kougi 学科の公式ホームページから授業資料のページへリンクしてあ ります 「学科公式ホームページ-カリキュラム・授業のシラバス」から 「各教員の担当授業ページ-前田(史)教員のページ」をクリッ クしてください. 教科書: アトキンス物理化学(第6版)、東京化学同人 13原子構造と原子スペクトル 14分子構造 6月26日 2 × 6

基礎量子化学 - 福井大学acbio2.acbio.u-fukui.ac.jp/phychem/maeda/kougi/BQC/2009/...6月26日 7 14・9ヒュッケル近似 ヒュッケルが1931年に提唱した近似方法.

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  • 6月26日

    1

    基礎量子化学

    2009年4月~8月

    6月26日 第10回

    中間試験の解説

    14.ヒュッケル近似

    担当教員:

    福井大学大学院工学研究科生物応用化学専攻准教授

    前田史郎

    E-mail:[email protected]

    URL:http://acbio2.acbio.fukui-u.ac.jp/phychem/maeda/kougi

    学科の公式ホームページから授業資料のページへリンクしてあります

    「学科公式ホームページ-カリキュラム・授業のシラバス」から「各教員の担当授業ページ-前田(史)教員のページ」をクリックしてください.

    教科書:

    アトキンス物理化学(第6版)、東京化学同人

    13章 原子構造と原子スペクトル

    14章 分子構造

    6月26日

    2

    ×6

  • 6月26日

    3

    6月26日

    4

  • 6月26日

    5

    6月26日

    6

    1.水素型原子の構造とスペクトル

    2.原子オービタルとそのエネルギー

    3.スペクトル遷移と選択律

    4.多電子原子の構造

    5.一重項状態と三重項状態

    6.ボルン・オッペンハイマー近似

    7.原子価結合法

    8.水素分子

    9.等核ニ原子分子

    10.多原子分子

    11.混成オービタル

    12.分子軌道法

    13.水素分子イオン

    14.ヒュッケル近似

    2009年度授業内容

  • 6月26日

    7

    14・9 ヒュッケル近似

    ヒュッケルが1931年に提唱した近似方法.

    1)πオービタルはσオービタルとは分離して取り扱う.(π電子近似)

    2)すべてのクーロン積分αijをαに等しいとする.

    3)すべての重なり積分Sij(i≠j)=0とする.

    4)隣接していない原子間の共鳴積分βijはすべて0とする.

    5)隣接する原子間の共鳴積分βijをβに等しいとする.

    はじめに,近似(1)と(2)を導入する.

    p447

    6月26日

    8

    ∫∫∫∫

    ==

    =

    =

    ττ

    τ

    τ

    AdˆBBdˆA

    BdˆB

    ,AdˆA

    HH

    H

    H

    K

    J

    J

    B

    A

     

    , 

      クーロン積分

    クーロン積分

    共鳴積分

    重なり積分∫= τABdS

  • 6月26日

    9

    14・9(a)永年行列式

    πオービタルを,分子面に垂直なC2pオービタルのLCAO-MOとして表す.

    (1)エテン ethene(エチレン ethylene)

    ψ=cAA+cBB ①

    A(C2p)

    B(C2p)

    (2)ブタジエン butadiene

    ψ=cAA+cBB+cCC+cDD ②

    炭素原子nの2pオービタルをψnとすると,πオービタルをn個のψnのLCAO-MOで書くと,

    nnΨcΨ ∑= ③p446

    6月26日

    10

    変分法を用いる.エネルギー期待値Eを求めて, とする.nc

    E∂∂

    ∫∫

    ∑∑∑∑∫

    =

    =

    =

    =

    τ

    τ

    τ

    τ

    d

    d

    *

    *

    *

    *

    *

    *

    jiij

    jiij

    i jijji

    i jijji

    nn

    nn

    ΨΨS

    ΨΨH

    Scc

    Hcc

    ΨΨ

    ΨΨE

    H

    H

    ここで,

    i=jのとき,Hii=αi ;クーロン積分

    i≠jのとき,Hij=βij ;共鳴積分

    i≠jのときSii=S,i=jのときSii=1

    ;重なり積分p447

  • 6月26日

    11

    ∑∑∑∑ =i j

    ijjii j

    ijji HccSccE**

    ④を書き直すと,

    このEを最小にするためには,各変数ciについて

    とおけば良い.

    ⑦をci *で偏微分すると,

    0=∂∂

    icE

    ( ) ),...,2,1(0

    0*

    **

    nicESHcE

    HcScEScccE

    jj

    ijij

    i

    jijj

    jijj

    i jijji

    i

    ==−

    =∂∂

    =+∂∂

    ∑∑∑∑

       

        ここで であるから,次の連立方程式が得られる.

    6月26日

    12

    ⑩式がcj=0という無意味な解以外の解を持つためには,係数の行列式がゼロでなければならない.

    ( ) ),...,2,1(0 nicESH jj

    ijij ==−∑     ⑩

    0

    11

    2121

    1112121111

    =

    −−

    −−−−

    nnnnnn

    nn

    ESHESH

    ESHESHESHESH

    LL

    MMMM

    LLL

    L

    これを永年方程式という.

  • 6月26日

    13

    (1)エテン ethene(エチレン ethylene)

    永年方程式は次のようになる.

    教科書の記述にしたがうと,

    である.原子Aと原子Bは等価であるから,αA=αB=α,βAB=βBA=βとすると,

    022222121

    12121111 =−−−−

    ESHESHESHESH

    i=jのとき,Hii=αi ;クーロン積分

    i≠jのとき,Hij=βij ;共鳴積分

    i≠jのときSii=S,i=jのときSii=1 ;重なり積分

    0=−−

    −−EES

    ESEαββα

    p446

    H

    H

    H

    H

    6月26日

    14

    0

    44444141

    3131

    2121

    1414131312121111

    =

    −−−−

    −−−−

    ESHESHESHESH

    ESHESHESHESH

    LL

    LLL

    LLL

    0=

    −−−−

    −−−−

    EESESES

    ESESESE

    DADA

    CACA

    BABA

    ADADACACABAB

    αβββ

    βββα

    LL

    LLL

    LLL

    (2)ブタジエン butadiene

    教科書の記述にしたがうと,

    p446

    1

    2

    3

    4

  • 6月26日

    15

    エチレンの永年方程式⑬の解は容易に求められる(例題14・4と同じである)が,ブタジエンの永年方程式⑮の解を求めるのは容易ではないことはすぐに分かる.

    そこで,さらなるヒュッケル近似(3)~(5)を導入する.

    3)すべての重なり積分Sij(i≠j)=0とする.

    4)隣接していない原子間の共鳴積分βijはすべて0とする.

    5)隣接する原子間の共鳴積分βijをβに等しいとする.

    そうすると,永年方程式の

    (1)すべての対角要素:α-E

    (2)隣接する原子間の非対角要素:β

    (3)他のすべての要素:0

    となり,計算が容易になる.p447

    6月26日

    16

    14・9(b)エチレンとフロンティアオービタルエチレンにヒュッケル近似を適用すると⑬は次のように簡単になる.

    ( )

    ( )βα

    βααα

    βαα

    βα

    αββα

    ±=

    −−±=∴

    =−+−

    =−−

    =−

       

    222

    222

    22

    020

    0

    E

    EEE

    EE

    行列式を展開すると,

    図14・41 エチレンのヒュッケル分子オービタルのエネルギー準位図

    全エネルギーEπは

    Eπ=2E1π=2α+2βp447

  • 6月26日

    17

    エチレンでは

    最高被占分子オービタル(HOMO) 1πオービタル

    最低空分子オービタル(LUMO) 2π*オービタル

    である.これら二つのオービタルは,エチレンのフロンティアオービタルを形成する.

    HOMO

    LUMO

    π→π*

    π→π*の励起エネルギーは|E--E+|=2|β|である. p447

    ψ1 =12

    pπ1 +

    12

    pπ2

    ψ2 = −12

    pπ1 +

    12

    pπ2

    6月26日

    18

    ○エチレンのπオービタルのヒュッケル近似による取り扱いは,二原子分子の分子軌道法と全く同じである.

    πオービタルを,分子面に垂直なC2pオービタルのLCAO-MOとして表す.

    エテン ethene(エチレン ethylene)

    ψ=cAA+cBB

    A(C2p)B(C2p)

    二原子分子ABの分子オービタルとして LCAO-MO を用いる.

    ψ=cAA+cBB

  • 6月26日

    19

    根拠14・4 二原子分子のLCAO-MOを変分法を用いて決める

    二原子分子ABの分子オービタルとして LCAO-MO を用いる.

    ψ=cAA+cBB

    ここで,AおよびBは,それぞれ原子AおよびBのAOである.

    このLCAO-MOを試行関数としてエネルギーEが最小となるように係数cAおよびcBを選べば良い.ここで,ψは規格化されているが,AOであるAとBも規格化されているとする.

    この試行関数のエネルギーはハミルトニアンの期待値である.

    ∫∫

    ∫∫

    Ψ

    ΨΨ=

    ΨΨ

    ΨΨ=

    τ

    τ

    τ

    τ

    d

    d

    dˆ2

    *

    *

    * HHE

    p439

    復習

    6月26日

    20

    ( )

    Scccc

    cccc

    cc

    BABA

    BABA

    BA

    2

    ABd2dBdA

    dBA

    22

    2222

    2

    ++=

    ++=

    +=

    ∫∫∫∫

    τττ

    τ分母

    ここで, は 重なり積分 である.∫= τABdS

    ∫∫

    ∫∫

    Ψ

    ΨΨ=

    ΨΨ

    ΨΨ=

    τ

    τ

    τ

    τ

    d

    d

    dˆ2

    *

    *

    * HHE

    p439

    復習

  • 6月26日

    21

    ( ) ( )

    βαα

    ττττ

    τ

    BABBAA

    BABABA

    BABA

    cccc

    cccccc

    cccc

    2

    AdˆBBdˆABdˆBAdˆA

    dBAˆBA

    22

    22

    ++=

    +++=

    ++=

    ∫∫∫∫∫

    HHHH

    H

    分子

    ∫∫∫∫

    ==

    =

    =

    ττβ

    τα

    τα

    AdˆBBdˆA

    BdˆB

    ,AdˆA

    HH

    H

    H

     

    , 

     

    B

    A クーロン積分

    クーロン積分

    共鳴積分

    重なり積分

    ここで,

    ( )∫= τABdS

    復習

    6月26日

    22

    したがって,エネルギー期待値Eは,

    (27)

    エネルギーEの極小値は, 係数cAおよびcBで微分した導関数=0から求められる.

    (27)式を書き直すと,

    SccccccccE

    BABA

    BABBAA

    22

    22

    22

    ++++

    =βαα

    0,0 =∂∂

    =∂∂

    BA cE

    cE

      

    ( ) βαα BABBAABABA ccccSccccE 22 2222 ++=++ ①

    p440

    復習

  • 6月26日

    23

    ( ) ( )( )

    ( ) ( ) 0

    2222222

    =−+−

    +=+

    +=++++∂∂

    EScEc

    ccSccE

    ccSccEScccccE

    BAA

    BAABA

    BAABABABAA

    βα

    βα

    βα

    ( ) ( )( )

    ( ) ( ) 0

    2222222

    =−+−

    +=+

    +=++++∂∂

    EScEc

    ccSccE

    ccSccEScccccE

    ABB

    ABBAB

    ABBABBABAB

    βα

    βα

    βα

    ①式をcAで偏微分し, をゼロとする.Ac

    E∂∂

    ①式をcBで偏微分し, をゼロとする.Bc

    E∂∂

    復習

    6月26日

    24

    ( ) ( )( ) ( )⎩

    ⎨⎧

    =−+−=−+−

    00

    EScEcEScEc

    ABB

    BAA

    βαβα

    0=⎟⎟⎠

    ⎞⎜⎜⎝

    ⎛⎟⎟⎠

    ⎞⎜⎜⎝

    ⎛−−

    −−

    B

    A

    B

    A

    cc

    EESESE

    αββα

    ( )( ) ( ) 0

    0

    2 =−−−−

    =−−

    −−

    ESEE

    EESESE

    BA

    B

    A

    βαα

    αββα

    したがって,次の連立方程式(永年方程式)を解けばよい.

    行列の形に書くと,

    この方程式が意味のある解を持つためには,係数である行列式=0でなければならない(cA=cB=0はψ=0となるので無意味である).

    展開すると,

    (24)

    p439-441

    (28)

    復習

  • 6月26日

    25

    例題14・4 永年方程式の根を求めること式(28)を解くことにより,等核二原子分子の結合オービタルと反結合オービタルのエネルギーEを求めることができる.等核二原子分子であるので,αA= α B= α と書くことができる.

    ( ) ( ) 022 =−−−=−−

    −−ESE

    EESESE

    βααββα

    ( )( ) ( )

    ( ) ( )( ) ( )( )

    ( ) ( ) ( )( )( ) SSS

    SSS

    SSS

    SSSE

    ESES

    SEEE

    ESEE

    ±±

    =+−

    ±=

    −−±−

    =

    −−−−−±−

    =

    =−+−−−

    =−−+−

    =−−−−

    ±

    11111

    1

    11

    02102

    0

    2

    2

    2222

    2222

    22222

    2

    βαβααββα

    βαβαβα

    βαβα

    βαα

    βαα

    mm  

    ふつう,β

  • 6月26日

    27

    ( )( ) ( )

    ( ) ( )( ) ( )( )

    ( )2

    2

    2222

    2222

    22222

    2

    1

    11

    02102

    0

    SSS

    SSSSE

    ESESSEEE

    ESEE

    −−±−

    =

    −−−−−±−

    =∴

    =−+−−−

    =−−+−

    =−−−−

    αββα

    βαβαβα

    βαβα

    βαα

    βαα

       

    SE

    ±±

    =± 1βα

    ふつう,β

  • 6月26日

    29

    反結合性オービタル(E-)では,

    ( ) ( ) ( ) ( )

    ( ) ( ) ( ) ( )

    ( ) ( )

    1

    00

    011

    01

    11

    011

    1

    −=∴

    =−−−=−−+

    =−−−+−−−

    =−

    −−−+−−−

    =⎟⎠⎞

    ⎜⎝⎛ ⋅

    −−

    −+⎟⎠⎞

    ⎜⎝⎛

    −−

    −−

    =−

    B

    A

    BA

    BABA

    BBAA

    BBAA

    BA

    cc

    cScSccScSc

    ScSccSc

    SScSccSc

    SS

    cS

    c

    SE

    αββαββαα

    βαββαα

    βαββαα

    βαββαα

    βα

    ( ) ( )( ) ( )⎩

    ⎨⎧

    =−+−=−+−

    00

    EScEcEScEc

    ABB

    BAA

    βαβα

    永年方程式

    p441

    復習

    6月26日

    30

    ( )

    ( )⎪⎩

    ⎪⎨

    −−

    =−=

    ++

    =+=

    −−

    ++

       

      

    SEBAcΨ

    SEBAcΨ

    A

    A

    1,

    1,

    βα

    βα

    規格化を行うと,

    ( )

    ( )Sc

    Scc

    ABcBcAcΨ

    Sc

    Scc

    ABcBcAcΨ

    A

    AA

    AAA

    A

    AA

    AAA

    −=∴

    =−=

    −+=

    +=∴

    =+=

    ++=

    ∫∫∫∫

    ∫∫∫∫

    +

    121

    122

    d2ddd

    121

    122

    d2ddd

    22

    222222

    22

    222222

    ττττ

    ττττ

    p441

    復習

  • 6月26日

    31

    ( )

    ( )⎪⎪⎪

    ⎪⎪⎪

    −−

    =−

    −=

    ++

    =+

    +=

    −−

    ++

      

      

    SE

    SBAΨ

    SE

    SBAΨ

    1,

    12

    1,

    12

    βα

    βα

    したがって,

    Ψ-

    Ψ+B A

    αα

    SE

    ++

    =+ 1βα

    SE

    −−

    =− 1βα

    図14・18 水素分子イオンの分子ポテンシャルエネルギー曲線の計算結果と実験結果

    実験

    計算

    復習

    6月26日

    32

    14・9(c)ブタジエンとπ電子結合エネルギーブタジエンにヒュッケル近似を適用すると⑮は次のように簡単になる.

    0

    000

    000

    =

    −−

    −−

    EE

    EE

    αββαβ

    βαββα

    0

    100110011001

    =

    xx

    xx

    各要素をβで割って,(α-E)/β=xとおくと,

    p447

    pπA

    pπB

    pπC

    pπD

  • 6月26日

    33

    行列A=(aij)をn次の正方行列,det(A)をその行列式とする.

    (1)n=1のとき,det(A)=a11(2)n=2のとき,det(A)=a11a22-a12a21(3)n≧2のとき,行列Aの行iと列jを削除して作った(n-1)次の行列式をMijで表し,Aの小行列式という.行列A=(aij)の余因子Aijを次のように定義する.

    そうすると,Aの行列式det(A)を次のように展開できる.ij

    jiij MA

    +−= )1(

    ijij

    n

    j

    jiij

    n

    jij MaAaA ∑∑

    =

    +

    =

    −==11

    )1()det(

    行列式の展開

    ( ) 211222112221

    1211det aaaaaaaa

    A −==

    6月26日

    34

    何行目あるいは何列目を使って展開しても結果は同じになるが,行

    列の要素がゼロを含むときは,ゼロを多く含む行または列を選んで

    展開すると計算が簡単になる.

    下の例では,ゼロを2個含む1行目を使って展開しているので,実

    際に計算しなければならない余因子は1行2列の余因子だけである.

    1001411

    )2()1(0124131020

    21 −=+−

    −−+=−−

    +

    行列式の展開の例題

  • 6月26日

    35

    0

    100110011001

    =

    xx

    xx

    行列式⑱を展開する.余因子は

    次のようになる. ⑱

    以下省略.各自で計算してみてください.

    6月26日

    36

    62.0,62.12

    53

    2493

    013

    04124)1()det(

    2

    24

    24

    ±±=

    ±±=∴

    −±=

    =+−

    =+−=−== ∑∑ +

     x

    x

    x

    xx

    xxMaAaA ijj

    ijji

    ijj

    ij

    他の余因子もすべて計算すると,

    x = (α-E)/βとおいたので,Ε = α−βx,である.エネルギー準位図は上のように書け,基底状態の電子配置では,4つの電子はE1πとE2πに入る.

    βαβαβα

    βα

    π

    π

    π

    π

    62.162.062.0

    62.1

    1

    2

    3

    4

    +=+=−=

    −=

    EEEE*

    C2p

  • 6月26日

    37

    全エネルギーEπは

    Eπ=2E1π+2E2π=4α+2(0.62+1.62)β

    =4α+4.48β

    π→π*π→π*の励起エネルギーは|E3π*-E2π|=1.24|β|である.

    p448

    図14・42 ブタジエンのヒュッケル

    分子オービタルのエネルギー準位

    と,対応するπオービタルを上から

    見た図.オービタルが局在してい

    ないことに注意せよ.

    6月26日 38

    The Hückel method

    0.372p π1 + 0.602pπ

    2 + 0.602pπ3 + 0.372p π

    4

    1

    2

    3

    4

    −0.602ppπ1 − 0.372 π

    2 + 0.372p π3 + 0.602p π

    4

    0.602pp π1 − 0.372 π

    2 − 0.372p π3 + 0.602p π

    41

    2

    3

    4

    0.372p π1 − 0.602pπ

    2 + 0.602pπ3 − 0.372p π

    41

    2

    3

    4

    1

    2

    3

    4

    Solutions for butadiene

  • 6月26日

    39

    ブタジエンにおけるπ→π*の励起エネルギーは

    |E3π*-E2π|=1.24|β|である.

    π共役系が長くなるとπ→π*間のエネルギー差が小さくなる.エチレン,ブタジエン,ヘキサトリエンでは,それぞれ2.0 |β| ,1.24 |β| ,0.9 |β|で

    ある.さらに共役系が長くなると可視光でπ→π*遷移が起こり,吸収光の補色を示すようになる.

    π→π*

    π→π*エチレン

    ブタジエン

    6月26日

    40

    12・1 箱の中の粒子(a particle in a box)

    図12・1のようなポテンシャルにしたがう自由粒子、すなわち1次元の箱の中の粒子の問題を量子力学的に取り扱う。

    質量mの粒子は、 x=0 と x=L にある2つの無限の高さを持つ壁の間に閉じ

    込められている。簡単のために、この

    間のポテンシャルエネルギーはゼロと

    する。

    図12・1 通り抜けることができない壁のある、1次元領域にある粒子。 x=0 と x=L の間でポテンシャルエネルギーはゼロとする。

    x =0 と x =Lの間はV=0とする.

    p336

  • 6月26日

    41

    「箱の中の粒子」の問題は何の役に立つのか?

    二重結合と単結合が交互に連なったポリエンでは,炭素原子の数が増

    えると,光の吸収極大が長波長側にずれてくる。炭素鎖が長くなると,青,

    緑,赤色の可視光を吸収するので色が着いて見える。炭素鎖が非常に長

    くなると可視光を全て反射するので金属光沢を持つようになる。これが,2

    000年にノーベル化学賞を受けた白川英樹博士が発見したポリアセチレ

    ン(CH)xである。

    着色して見える物質は,ポリエンのようにπ共役系が分子内に拡がった

    構造を持っており,構造と物性の間の関係を調べることは,「箱の中の粒

    子」の問題の応用である。

    42

    H

    H

    H

    H

    H

    H

    H

    H

    H

    H

    H H

    H

    H

    H

    H

    H

    H

    H

    H

    H

    H

    H

    H

    H

    H

    H

    H

    H H

    H

    H

    H

    H

    H

    H

    H

    H

    H

    H

    3 217nm

    5 266nm

    7 304nm

    9 334nm

    1 162nm

    最大吸収波長(実測値)

    1,3,5,7,9-デカペンタエン

    1,3,5,7-オクタテトラエン

    1,3,5-ヘキサトリエン

    1,3-ブタジエン

    エチレン

    π共役系の長さ(C-C結合の数)

  • 43

    π共役系の長さと吸収極大波長の関係

    100

    150

    200

    250

    300

    350

    400

    0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10

    π共役系の長さ/C-C結合数

    吸収極大波長/nm

    6月26日

    44

    ○非局在化エネルギー

    ブタジエンのπ結合がC1-2とC3-4に局在しているとすると,全π電子結合エネルギーはエチレンの2倍であることが期待される.

    しかし,

    Eπ(ブタジエン)-2×Eπ(エチレン)=4α+4.48β-2(2α+2β)

    =0.48β

    つまり,ブタジエンは2個の別々のπ結合のエネルギーの和よりも,0.48β(約-36kJmol-1)だけエネルギーが低い.

    共役系の追加された安定性を,電子が非局在化されることによって生

    じる安定化エネルギーであるので,非局在化エネルギーという.

    非局在化

    12

    34

    p449

  • 6月26日

    45

    6月26日,番号,氏名

    (1)

    変分法を用いて永年方程式を求めると⑬式が得られる.

    ヒュッケル近似を用いて分子オービタル1πと2π*のエネルギーを求めよ.

    (2)質問,感想,意見など.

    エチレンのπオービタルを,分子面に垂直なC2pオービタルのLCAO-MOとして表すと①式のように書ける.

    ψ=cAA+cBB ①

    A(C2p)

    B(C2p)

    0=−−

    −−EES

    ESEαββα