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第Ⅰ部 経営・生産と生産管理体系 1 学びのポイント キーワード 第    1 会社のしくみ、 モノづくりのしくみ (1) ·日本の製造業が生き残るには何が重要か。 · 自社の製品を社会に受け入れてもらうための施策を学ぼう。 (2) ·経営目標(経営ビジョン)を達成するためのアプローチ法と は。経営戦略を取り入れた中期経営計画を複数年かけて達成す るということに注意して学習しよう。 (3) ·製造業の基幹部門である製品企画、開発 / 設計、生産(製造)、 販売はそれぞれどのような業務を行うのか。また各部門の業務 で何が重要か。 (4) ·基幹部門を支援するスタッフ部門(開発 / 研究、生産技術、生 産管理、外注/購買、品質保証、販売管理、財務、人事/労務、 情報など)の業務内容とは。 (5) ·経営者、管理者、監督者の仕事内容とは。 · 経営者の仕事が管理者や監督者とどこが違うかについて学ぼ う。 (6) ·自動車やテレビなどを組立する会社は大部分の部品・資材を外 部から調達している。3 つの調達方法とは。 · 3 つの調達方法を選択するにはそれぞれ理由があることについ ても学ぼう。  企業目的、経営目標、経営計画、中期経営計画、製品開発、 予算統制、基幹部門、ライン部門、スタッフ部門、管理階層 第Ⅰ部 経営・生産と生産管理体系

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第Ⅰ部 経営・生産と生産管理体系

会社のしくみ、モノづくりのしくみ

第  

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学びのポイント

キーワード

第   1   講

会社のしくみ、モノづくりのしくみ

(1)·日本の製造業が生き残るには何が重要か。· 自社の製品を社会に受け入れてもらうための施策を学ぼう。(2)·経営目標(経営ビジョン)を達成するためのアプローチ法と

は。経営戦略を取り入れた中期経営計画を複数年かけて達成するということに注意して学習しよう。

(3)·製造業の基幹部門である製品企画、開発/設計、生産(製造)、販売はそれぞれどのような業務を行うのか。また各部門の業務で何が重要か。

(4)·基幹部門を支援するスタッフ部門(開発/研究、生産技術、生産管理、外注/購買、品質保証、販売管理、財務、人事/労務、情報など)の業務内容とは。

(5)·経営者、管理者、監督者の仕事内容とは。· 経営者の仕事が管理者や監督者とどこが違うかについて学ぼう。

(6)·自動車やテレビなどを組立する会社は大部分の部品・資材を外部から調達している。3つの調達方法とは。

· 3つの調達方法を選択するにはそれぞれ理由があることについても学ぼう。 

企業目的、経営目標、経営計画、中期経営計画、製品開発、予算統制、基幹部門、ライン部門、スタッフ部門、管理階層

第Ⅰ部 経営・生産と生産管理体系

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1 会社(企業)と社会

1.1 企業目的と企業経営製造業であれば、どこの企業も製品・サービスを社会に提供して利潤を獲得する。獲得した利潤は分配、蓄積、再投資して次の生産に備える。製品・サービスを社会に提供し、利潤を獲得することが企業目的であり、この目的達成のための活動が企業経営であり、経営活動である。企業は一層の利潤増加のため、拡大再生産を目指し、新製品開発、販売強化、コスト低減、新技術の導入などを行い、収益性、採算性、経済効率の向上を図る。現代のようにグローバル化が進むと国内における同業他社との競争だけではなく、世界を相手に熾烈な競争が行われる。このようにグローバルな競争社会の中で勝ち残るには、企業が一丸となって社会に貢献できる製品・サービスの提供を続けなければならない。

1.2 企業経営と経営組織企業目的を効率良く達成するために、企業は組織を編成する。組織は目的を達成するために編成されたプロ集団である。組織には後述のように企業の基幹部門となる「ライン部門」と、ライン部門に専門的な立場から支援する「スタッフ部門」がある。開発/設計、製造、販売などは典型的なライン部門であり、設計管理、生産管理、販売管理などは典型的なスタッフ部門である。

1.3 経営目標と経営計画民間の製造業である限り、企業目的はどこの企業も同じである。しかし、目的達成の高さ、あるいは難しさの程度により、経営目標も大きくなり、難しくなる。5年後に利益1億円達成する、と5年後に利益5億円達成する、とでは目標達成のための戦略や方策が異なる。達成不可能な目標は問題があるが、簡単に達成可能な目標も問題がある。また、企業によって夢、目標達成の手段や置かれている経済環境も異なる。

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図1-1は経営目標と経営計画の関係を示したものである。経営目標は経営理念を踏まえて、一定時期に示すものである。例えば8年後の企業の売上高、利益額やシェアを現在の2倍にすることが経営目標であったとする。現実と経営目標には差があるため、どのような方策(経営戦略)で目標を達成するかを計画しなければならない。この計画が経営計画である。経営計画には長期的(例えば5~10年)なもの、中期的(例えば3~5年)

なもの、短期的(例えば1年)なものまである。経営計画は経営者が主になり策定するが、各年度の短期経営計画は中期計画を踏まえて財務担当部門のスタッフや各部門の責任者で集中的に計画することになる。中期経営計画の主な計画内容は①新製品開発計画、②製品市場戦略計画、③多角化計画、④流通経路計画、⑤競争戦略計画、⑥設備投資計画、⑦M&A計画、⑧技術提携計画、⑨増資計画、⑩株式上場計画などである。

1.4 経営計画の実施と予算統制経営計画を達成するには、会社全体が同一の現状認識のもとに進めなければならない。また経営計画の実施は、全社(または複数部門に関連する計画)に絡む総合計画の実施と、部門ごとの部門計画の実施がある。経営計画は中期経営計画が基準になる。経営目標・経営ビジョンを取り込んだ中期経営計画を達成するには1年では難しいからである。そのため初年度での実施、次の年度での実施、という具合に段階を経て中期経営計画の達成を図る(図1-2)。経営計画を実施するには経営資源(人、モノ、金、情報)が必要である。特に予算の裏付けが必要である。予算は年度ごとの計画実施の裏付けになると同時に、計画の妥当性を判断する指標にもなる。

経営理念 経営目標

現状

経営計画経営戦略

期間

経営目標の高さ

図1-1 経営目標と経営計画の関係

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予算統制は中期経営計画の年度別実行計画である。この年度別実行計画は経営計画達成するための戦略、施策と、それを実施した場合の成果が数値に示されるので、これを年度ごとに実現するための全社的経営計画である。利益計画を具体的に展開するために、収益、費用、資金に関する予算編成から始まり、予算を執行し、予算と実績の差異分析を通じて問題点の解決をはかる方法をとる。予算編成から予算管理までの一連の流れを予算統制という。予算統制の効果の1つは、予算編成の過程で各部門が予算の詳細な数値を作

成することになるため、管理責任と業績評価が明確化されることである。2つ目は各責任部門の予算達成度合いで、評価されるため予算達成のモチベーションが高くなる。3つ目は全社と部門の経営活動の関連性を知ることができる。

2 会社のしくみ

2.1 企画―開発―生産―販売が製造業の基幹部門(1)基幹部門の業務と部門間の相互関連図1-3は製造業の基幹部門と部門間の相互関連を示している。製造業の製品

現状

初年度計画と実施

次年度計画と実施

中期経営計画

経営目標

実行(D)

計画(P)

調査(C)

行動(A)

年度計画

予算

年度ごとの実施結果は PDCA 管理により検証され、次の計画と実施に活かされる

図1-2 中期経営計画達成のための年度実施計画

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第Ⅰ部 経営・生産と生産管理体系

会社のしくみ、モノづくりのしくみ

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企画、開発/設計、生産、販売の基幹部門をライン部門ともいう。製品企画部門は、市場で他社製品に勝てるような製品を企画/計画する業務

を担う。他社製品との競争に勝つには、競争優位になるような魅力ある製品をつくらなければならない。差別化による競争優位の確保である。そのために、市場調査、顧客調査、販売員の意見や専門家の意見を聞く。クレーム対応も新製品開発には重要な要素である。そして、それらを開発する新製品に反映する。例えば「1,500ccのガソリン車で35km/ℓ走行できるエコカーを開発し、価格200万円で販売する。月2万台、年間約24万台販売を見込み、5年間モデルチェンジを行わないものとする。売上高利益率を10%にし、営業利益を年間480億円達成する」、などの製品企画をする。製品企画はあくまでも企画段階での製品構想であり、具現化されたものではない。開発/設計部門は製品企画された製品構想を具現化して実際に製品をつくれるように設計し、図面化する部門である。重要なことは製品企画内容を遵守すべきことである。ガソリン車で35km/ℓ走行可能な車にする、価格を200万円以内にする、売上高利益率を10%にする、などの条件をクリアするには卓越した技術力、努力と不退転の決意が必要である。製品企画段階で構想されたものは到底無理な要求でもないが、容易に達成できる内容でもない。生産(製造)部門は設計された通りの製品をつくる部門である。開発/設計部門で開発された製品は35km/ℓ走行できる、コストを170万円にする、など企画条件を満足するように開発/設計しているので、設計通りにつくることが重要な使命である。しかし、実際はモノづくりの過程で規格通りにつくれなかったりすると35km/ℓ走行できないこともある。また不良品をつくれば170万円のコストで車がつくれない場合もでてくる。一方、モノづくりの現場から安い材料の代替品が提案されたり、作業時間の短縮が行われると170万円よりも少ないコストで車ができることになる。生産

製品企画

開発設計

生産(製造)

販売 場市

図1-3 製造業の基幹部門と部門間の相互関連

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部門は設計通りのものを、計画された日程通りに完成することが第1であるが、加えて、日常の生産活動を通じて作業改善を絶えず繰り返している。販売部門はつくった製品を売ることは当然であるが、顧客や市場との関係から顧客のニーズ、市場の傾向(トレンド)を素早く製品企画に反映させる義務がある。どれだけ売れるかを知るための販売予測の仕事も重要である。また、売る前のサービスや売った後のサービスも重要である。顧客からの疑問に答える、使い方の指導をする、製品教育を行うなどは売る前のサービスであるが売った後もクレーム対応、故障修理、操作指導など重要な任務がある。つくれば売れる時代は終わった。販売員はいかにして顧客との信頼関係を高め、顧客が満足する製品やサービスの提供を行うかが重要な役割になる。

(2)基幹部門を支援するスタッフ部門図1-4を見ていただきたい。基幹部門に関連している部門はスタッフ部門といわれている。研究開発部門は新製品を開発する段階で製品企画や開発/設計部門の支援を行うだけでなく、日常的に新技術の発見、既存技術の応用研究に努めている。培われた研究成果が自社の技術力になる。   生産技術部門はモノづくりの生産システム(生産ライン、生産工程ともいう)の構築、設備能力の改善、設備保全などを通じて生産部門の支援を行う。生産管理部門はいつからいつまで何を何個生産するかの生産計画を立て、計画通りに進捗しているかをチェックし、実際に完成した製品を把握するなどの管理を行う。同時に、品質についてもコストについても計画通りに達成するように管理を行う。効率の良い生産ができるように改善するのもこの部門の仕事である。外注/購買部門は製品をつくるときに必要な資材/部品を外部に製作依頼して調達する、あるいは外部から購入して調達するなどの調達管理を行う。経営基盤、品質、納期、コストも安定した企業で、かつ自社に協力的な外注先や購入先の会社を選別することも大切な業務になる。品質保証部門は顧客に品質を保証するため品質規格を決め、外注部品の検査、購入品の検査、社内製作品の検査を行い、生産工程の早いうちに不良品を退治する。当然のことながら最終製品の検査を行い、顧客に不良品を渡さないことに努める。また、顧客からのクレーム対応や、ISO9000に基づいた社内における品質保証活動を推進することも品質保証部門の仕事である。販売管理部門は販売員が売りやすい環境づくりを支援する。それには顧客のニーズ把握、トレンド把握、需要予測、販