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9 Chapter 1 社協 コミュニティワークの 実践 展開過程

Chapter 111 本章で皆さんにお伝えしたいことは、まずなによりも「専門職としてしっかりとコミュニティ ワーク実践に取り組む必要がある」ということです。そのことを前提として、自らの専門性をしっ

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Page 1: Chapter 111 本章で皆さんにお伝えしたいことは、まずなによりも「専門職としてしっかりとコミュニティ ワーク実践に取り組む必要がある」ということです。そのことを前提として、自らの専門性をしっ

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Chapter 1社協コミュニティワークの実践と展開過程

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「楽観的たれ(科学的判断と住民の支持があれば、前進の扉は開かれる)。」

(社協コミュニティワーカーハンドブック作成プロジェクトチーム編著(2000)『地域福祉活動のための社協コミュニティワーカー10ヶ条』関西社協コミュニティワーカー協会、P42。)

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 本章で皆さんにお伝えしたいことは、まずなによりも「専門職としてしっかりとコミュニティワーク実践に取り組む必要がある」ということです。そのことを前提として、自らの専門性をしっかりと他の専門職に説明し、連携・協働して地域福祉を推進していくことが大切になります。  日本の社会福祉は、地域での自立生活を支援するという方向性を明確にしています。高齢者世帯や一人暮らしの高齢者、障害のある方が地域で安心して暮らしていくために、市町村が中核となって、地域包括支援センターや、障害者地域生活支援センターなどの相談支援、介護保険、自立支援法などの専門的(フォーマル)サービスに加え、地域住民の支え合いの活動(インフォーマルサービス)が連携・協働していく体制が模索されています。こうした変化の中で、コミュニティワークはどのような貢献ができるでしょうか。コミュニティワークは決してそれだけで存在するのではなく、地域包括ケアや地域福祉の推進と結びついてこそ、その成果を十分に発揮できるということを意識しなければなりません。このことを真剣に考えていかないと、行政や他の専門職から相手にされない、つまり社協不要論が本当に現実の課題となってくることになるでしょう。

1 コミュニティワーク実践がなぜ必要か

 なぜ、今、コミュニティワークが必要なのでしょうか。ここでは、「つながりの再構築」と「仕組みづくり型」の支援という視点から、コミュニティワークの必要性を述べておきます。

 (1)つながりを再構築する 日本は人口減少社会になり、高齢化が進むと同時に、家族規模が縮小し、単身世帯が増加していきます。また、無縁社会といった言葉に代表されるように、人と人との「つながり」が希薄化していることが指摘されるようになっています。さらに、こうした社会変動の中で、従来、セーフティネットとして機能していた家族が十分に機能しなくなっています。高齢者の行方不明問題や高齢者虐待、複雑な課題を抱える家族の問題にみられるように、家族がいたとしても頼りにならないケースもあります。一方、公的サービスの充実が重要なことは言うまでもありませんが、あらゆるニーズに対応していくことはおのずから不可能です。 このような「人間関係の貧困」といえるような事態の中で、地域における「つながり」を再構築していくことが、社会全体の課題となっています。コミュニティワークを一言でいえば、地域の中に住民が主体となった組織やグループをつくり、支え合う活動を支援していく専門的な援助技術です。これは、現代的に言えば、地域のセーフティネットを張り直すことであり、その意味でコミュニティワークは地域再生や人間関係の貧困を解決するためのキーとなり得る実践なのです。

Chapter

1社協コミュニティワークの実践と展開過程

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 「人は関係の中で生きている」というのは、社会福祉の基本的な考え方であり、その関係を調整し、新たな関係をつくり出していくことが社会福祉の援助です。個別支援とコミュニティワークは、この基本的な考え方を共有しつつ、「一人ひとりの問題を解決する」=個別支援と「地域で支える仕組みをつくる」=コミュニティワークが一体となって機能していくことで、はじめて地域福祉を推進していくことが可能になります。

 (2)「モグラたたき」から「仕組みづくり」へ 現在、社会福祉の喫緊の課題は地域そのものを支援するコミュニティワークではなく、一人暮らしの高齢者や、介護で苦労している家族への支援、社会的に排除された人に対する支援のようなより直接的な「個別支援」の方ではないか、と思われる人も多いかもしれません。 確かに、コミュニティワークがこうした一人ひとりの問題に目を向けていくことは重要です。なぜなら、それらは実際に地域で起きている課題そのものだからです。しかし、個別支援があくまでもその個別課題の解決を目指すアプローチであるのに対し、コミュニティワークのアプローチは、個別課題を一人の問題としてだけ捉えずに「地域の問題」として捉え、住民に働きかけ、活動や組織をつくり、他機関と活動を調整し、地域で支える仕組みを開発していくアプローチです。 それでも「個別の問題だけ解決していけばよいではないか」と思われるかもしれません。なぜ、地域で支える仕組みをつくっていく必要があるのでしょうか? その理由は、個別の課題が出てきては専門職が必死に解決していくモデル(これを私は「モグラたたき型」モデルと呼んでいます)では、一人の問題の解決はできても、本質的な意味で課題の解決にはなっていかないからです。高齢者の数も、認知症の方の数も、単身世帯の数も今後ますます増加していきます。「モグラたたきモデル」から「仕組みづくりモデル」に発想を変えていかなければならない理由です。次に同じ問題が出てきたときに、地域で対応できる仕組みをつくっておかなければ、モグラたたきの繰り返しになってしまうのです。個の問題から、地域で支える仕組みをつくることが求められているのです。

2 コミュニティワークの実践過程

 コミュニティワークのプロセスの詳細は、黒子読本 43 ページを参照してください。ここではそれを簡略化して説明します。 図 1 は、コミュニティワークのプロセスを「活動主体の組織化」→「地域の問題状況の把握」→「プログラムの策定」→「プログラムの実施」→「評価」として表したものです。もちろん、この順序は時に変則的に進んでいくことがあります。 ここで、日々の実践を振り返ってみましょう。例えば、地域包括支援センターの職員と社会福祉協議会の職員とが「高齢者の問題を早期に発見できない」という問題意識を共有したとします

(問題状況の把握)。 みなさんなら、この問題を解決するために「誰が」「何を」したらよいと考えるでしょうか? これが、活動主体とプログラムの選択です。選択するということは、判断するということであり、判断するためには根拠が必要になります。判断の基準となるのが、コミュニティワークの目

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的であり、判断のために「仮に考えた」根拠を明示したものが仮説です。本事例集でも、後述するコミュニティワークの 3 つの目的と、選択の判断の根拠となった仮説が示されています。つまり、活動主体とプログラムを選択し、判断した根拠が示されています。このようにコミュニティワークのプロセスは、活動主体とプログラムの選択(と判断)を繰り返していくことです。  さて、図 1 では「早期発見ができない」という問題に対応するプログラムとして「認知症サポーター養成」を例示しています。地域の中に認知症の理解者を増やすことで、徘徊や一人暮らしの高齢者の問題に地域住民が早期に気づき、地域包括支援センターや社会福祉協議会に情報を伝えてくれることが期待できるからです。こうしたプログラムを「自治会のメンバー」を主体として行うことにするとすれば、そこには小地域で発見を促せるのではないか、という仮説があるからです。 ところで、図 1 の順序は、「地域の問題状況の把握」(2. 把握)よりも「活動主体の組織化」(1. 組織化)が先に置かれていました。次のような例を見てみましょう。

 自治会単位での福祉部の組織化を働きかけました(活動主体の組織化)。福祉部の会長は、「何から取り組んだらよいだろうか」と迷っています。ワーカーは、福祉部のメンバーとともに「地域支え合いマップ」の作成に取り組みました。そこで、地域とのつながりの希薄な人が分かってきました。こうした課題がはっきり見えてきたので、ワーカーは、自治会福祉部での見守り活動(プログラム)を提案しました。

 つまり、活動主体の組織化と地域の問題状況の把握の順序に特にこだわる必要はありません。

ex2.地区社協のメンバー

ex1.自治会のメンバー5.評価

1.組織化

2.把握

4.実施

3.策定

ex1.早期発見ができない

地域(コミュニティ)の問題状況

ex2.孤立死の問題

ex1.認知症サポーター養成

ex2.サロンの設立

プログラム活動主体

図 1 コミュニティワークのプロセス出所:平野隆之(2008)「地域福祉推進の理論と方法」有斐閣、104 頁に基づき筆者作成。

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先に地域の問題状況が分かっていて働きかけることもあれば、先の例のように住民と一緒に問題を把握していくこともあるのです。ただし、大切なことは、「プログラムありき」にならないことです。認知症サポーター養成講座や、地域支え合いマップ、見守り活動、サロン活動も地域の

「問題状況」があり、それを解決するために採用されるプログラムなのであって、その逆ではないのです。 以上を踏まえ、各事例を読む際には、それぞれのワーカーの実践の目的・仮説・ワーカーの選択・判断、そして実践の根拠に着目し、コミュニティワークの実践プロセスを追体験してください。

3 コミュニティワークの技術

 コミュニティワークは、地域社会レベルで発生するさまざまな生活の困難を地域社会自らが組織的に解決するように援助する専門技術であるという見解が共通しています(野口、2008:287)。こうしたことを実現していくために、具体的には、コミュニティワークのプロセスに即して次のようなことがコミュニティワークの技術として重要になります。 まず、問題状況を把握し、分析する技術です。ここでは、社会福祉調査法や地域アセスメントといった技術が重要になります。調査法には、量的調査と質的調査がありますが、把握した問題に合わせて、適切な方法を選択することが必要になります。活動計画を策定する際に、こうした調査をすべて企業に委託してしまうような社会福祉協議会の事務局がありますが、これは専門職としては失格だと私は思っています。調査法について、詳しくは黒子読本(P79 ~ P87)を参照してください。また、地域アセスメントについては、マクロなデータや個人の暮らしづらさを通して見える地域社会の問題状況を正確にアセスメントするという、個別支援とは異なった視点が必要になります(藤井、2009:63)。 いずれにしても、コミュニティワークの出発点として、「どこにどのような形で、どの程度」ニーズが存在するかということを明らかにしなくてはいけません。そして、そのニーズを分析し、解決の糸口を見定めるのが、「地域アセスメント」であるといえます。黒子読本(P92 ~ P99)の「地区カルテ」の作成はそのためのツールの一つであり、まさに「必須アイテム」と言えます。 次に、話し合う場を設定し、運営する技術が必要です。コミュニティワークは、住民や地域社会が主体的に問題解決に取り組めるよう支援することである以上、この技術はその中核になります。話し合いの場は、さまざまな方式がありますが、住民座談会や活動計画などの策定委員会などの場、ボランティア連絡協議会などさまざまな場が考えられます。こうした場の参加者は、その目的や機能によって異なることは言うまでもありませんが、少なくとも話し合いによって参加者が自ら問題解決に向かっていくことができるような場の運営が必要になります。 また、組織の代表者からこうした場が構成される場合は、代表者は個人としてその場にいるわけでなく、組織の代表としてそこに参加していること、決定を各組織に持ち帰ってもらうことを前提に場を運営することが必要になります。こうした援助はインターグループワークと呼ばれてきたものです。なお、座談会についての詳細は、黒子読本(P88 ~ P91)を参照にしてください。 そして、地域ニーズを把握し、活動主体と共有したら、それを計画化し、実行していくための技術が必要になります。また、複数の課題の中から何を解決するのかを明確にし(問題点の明確

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化と共有)、目標を設定(なお目標については、4.を参照)し、具体的な実施計画を策定していく必要があります。さらに、計画化は、コミュニティワーク実践である以上、すでに述べたように「話し合う場を設定し、運営する技術」と非常に大きく関わってきます。つまり、計画化においても合理性だけでなく、住民の参加やそこでの成長といったことが重視されなくてはなりません(計画化については、黒子読本 P51 ~ P53 を参照)。 さらに、現代的なコミュニティワークの技術として付け加えておきたいのが、場を設定したり、計画していく際に他の専門職と連携していく技術が必要だということです。すでに述べたように、コミュニティワークは組織化の達成だけでなく、他への波及効果も意識しなければなりません。組織化を自己目的化せず、他の専門職と協議しながら、地域福祉の推進や地域包括ケアシステムにコミュニティワークの成果を結びつけていくことが求められています。 最後に、こうした実践を記録し、評価していく技術が必要です。コミュニティワークは、その特質からこの点が立ち遅れてきました。しかしながら、実践を記録し、評価していなければ、説明責任を果たせず、社会的な評価も得られません。記録およびその評価についての詳細は、黒子読本で特に詳しく書かれていますので、参照してください。

4 コミュニティワークの目標とワーカーの役割

 コミュニティワークには、コミュニティワークの実践モデルに沿った 3 つの目標があるといわれています。 まず、プロセス・ゴールは、地域住民の問題解決能力や統合力に関わる目標です。コミュニティワークの目標の一つは住民みずからが共通した問題を解決していくことができるように支援していくことです。したがって、コミュニティワーク実践の過程(プロセス)によって地域住民の問題解決能力が高まったかどうか、という点が重要になります。ここでのワーカーの役割は、「住民が自発的に開始し、その自発性を支え、日常的な地域活動へと展開するように支援すること」(柴田、2009:98)になります。つまり、一言でいえばプロセス・ゴールとは支援の過程で地域住民の問題解決能力や統合力が高まったか、ということです。 次に、タスク・ゴールは、地域の諸問題の問題解決に関わる目標です。住民のニーズを解決するような活動やプログラムを実施できたかどうかがポイントになります。ここでのワーカーの役割は、地域をアセスメントし、問題を明らかにするとともに問題解決に対して有効なプログラムを実施していくことを支援することです。タスク・ゴールを一言でいえば、地域の問題がプログラムの実施によって解決されたのか、ということです。 最後に、リレーションシップ・ゴールは制度や関係の変化に関わる目標です。ここでのワーカーの役割は、地域の中の声なき声を代弁したり、それを地域の基礎組織や行政へと反映させていくことです。ソーシャルワークでは、ソーシャルアクションとか、アドボカシー(代弁)と呼ばれてきた機能です。 3 つの目標を「地区社協が主体となって実施するサロン活動の支援」の具体例からみておきましょう。サロン活動についていえば、その過程で住民の主体的な問題解決能力が高まっているかどうか、という点がプロセス・ゴールです。ワーカーは、住民に地域の問題などを示しながら、主体的に活動するよう促していきます。回を重ねるごとに住民が自発的にサロン活動に取り組む

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ようになっていき、回数を増やしたり、サロンに来なくなった人のことを気にかけて見守り活動を展開するようになるかもしれません。ワーカーはそうした住民の気づきを励まし、必要な資源を紹介したりしながらこの活動を支えていきます。ここでは、住民の活動が、地域にとって重要な活動であると同時に、楽しく、やりがいのあるものとして位置づけることがポイントになります。 一方、地域包括ケア※システムの中で、サロンは問題発見の機能を高め、早期発見につながるとともに、一人暮らしの人が交流の場を持つことができるようになり、介護予防にもつながるというのがタスクゴールといえます。ワーカーは、地域包括支援センターにサロン開催日に訪問するよう促したり、サロン参加者が興味を持ち、かつ介護予防につながるような活動メニューを提案することでサロンという「プログラム」が有効に機能するように支援していきます。 さらに、地域の中ではこうしたサロンに参加したくてもできない人がいるかもしれません。例えば、家族はいるのですがみな働いていて日中独居だったり、実際に家族が支援をほとんどできていない高齢者もいるかもしれません。しかし、地区社協のメンバーやサロンの運営者は、サロンの対象者は「○歳以上の一人暮らしの方」と考えています。ワーカーは、地区社協のメンバーやサロン運営者に対して、実情を働きかけることでこうした意識を変え、サロンをより開放的な場としていくことができるかもしれません。

 以上のように、コミュニティワーカーがその実践過程に沿って適切な技術を駆使し、3 つの目標に向かってその役割を果たしていくとき、行政や他の専門職、そして何より地域で暮らすことに何らかの手助けを必要としている住民や地域福祉活動に従事している住民にとって、コミュニティワーカーはなくてはならない存在となるはずです。こうした地道な実践を積み重ねていくことで、はじめて「前進の扉」は開かれるのです。

(永田 祐)

※ 地域包括ケアは、「地域住民が住み慣れた地域で安心して尊厳あるその人らしい生活を継続することができるように、介護保険制度による公的サービスのみならず、その他のフォーマルやインフォーマルな多様な社会資源を本人が活用できるように、包括的および継続的に支援すること」(長寿社会開発センター「地域包括支援センター業務マニュアル」)と定義されています。

〔参考文献〕平野隆之(2008)『地域福祉推進の理論と方法』有斐閣。野口定久(2008)『地域福祉論 政策・実践・技術の体系』ミネルヴァ書房。柴田謙治編著(2009)『地域福祉』ミネルヴァ書房。藤井博志(2009)『社協ワーカーのためのコミュニティワークスキルアップ講座 事例検討法と記録法』全国社会福祉協議会。