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110教 育 心 理 学 研 究,2005,53,110-121 Child Behavior Checklist/4-18 (CB 被虐待児の行動 と情 緒 の 特 徴 -児 童養護施設 にお け る調 査の検 討- 子* 本 研 究 の 目的 は児 童 養 護 施 設 に入 所 し て い る虐 待 を 受 け た 子 ど もた ち の 行 動 と情 緒 の 特 徴 を 明 らか に す る こ とで あ っ た 。 児 童 養 護 施 設 に 入 所 中 の 子 ど も142人(男 子:4~11歳40人,12~18歳45人,女 子:4 25人,12~18歳32人)を 対 象 に,Child Behavior Checklist(CBCL)の 記入を職 女 子 は 男 子 に比 べ て 内 向 尺 度 得 点 が 高 く,特 に 高 年 齢 群 女 子 は身 体 的 訴 え と社 会 性 の 問 題 の 得 点 が 高 か っ た 。 被 虐 待 体 験 群(n=91)と 被 虐 待 体 験 の な い群(n=51)に 分 け て 比 較 した と こ ろ,社 会性の問題 思 考 の 問 題,注 意 の 問 題,非 行 的 行 動,攻 撃 的 行 動 の 各 尺 度 と外 向 尺 度,総 得 点 で,被 虐待体験群の得 点 が 有 意 に 高 か った 。 被 虐 待 体 験 群 は,社 会 性 の 問 題,注 意 の 問 題,攻 撃 的 行 動,外 向 尺 度,総 得点で 臨 床 域 に 入 る子 ど もの 割 合 が 多 か っ た 。 虐 待 を受 け た 子 ど もの 行 動 や 情 緒 の 問 題 が 明 ら か に な り,心 的 ケ ア の必 要 性 が 示 唆 さ れ た 。 キ ー ワ ー ド:Child Behavior Checklist/4-18(CBCL),児 童 虐 待,児 童養 問題 と目的 近 年,虐 待 を受 け た 子 ど もた ち が 児 童 養 護 施 設 に保 護 さ れ る こ とが 増 え,施 設側の対応が課題 となってい る(高 橋,2000)。 何 らか の 虐 待 を受 けて 児 童 養 護 施 設 に 入 所 して い る 子 ど もた ち に対 す る 心 理 的 ケ ア を 進 め る に あ た っ て,ま ず児童養護施設に入所 している子 ども た ち の 情 緒 や 行 動 の 特 徴 を 明 ら か にす る 必 要 が あ る。 特 に,虐 待 を受けてきた子 どもたちに焦点 を当て,児 童 養 護 施 設 に 入 所 して い る子 ど もた ち の 行 動 と情 緒 の 問 題 を客 観 的 な 指 標 を用 い て 検 討 す る こ と は,今 後の 対応 を考 える上で も意味 が大 きい と思 われ る。 虐 待 に よ っ て 子 ど もが 受 け る影 響 に つ い て は 様 々 な 研 究 が な され て お り,虐 待 のサ ブ タイプ と虐待 を受 け た年齢による発達への影響の違いを検討したもの (Manly,Kim,Rogosch,&Cicchetti,2001),身 体的虐待 児 とネ グ レク ト児 につ いて,そ れぞれの学業面 と情緒 面 で の 問 題 を 指 摘 した もの(Wodarski,Kurtz,Gaudin,& Howing,1990;Kendall-Tackett&Eckenrode,1996),ネ レク トが子 ど もに与 えるダ メージに言及 した もの (Erickson&Egeland,1996;Crittenden,1992),ネ グレクト 児 の認 知 や 学 業 な どの 発 達 へ の影 響 を 愛 着 形 成 との 関 係 か ら論 じた もの(Hildyard&Wolfe,2002)な 日本 に お い て は 諏 訪(1995)が 小 児 科 を 受 診 した117例 の 被 虐 待 児 に つ い て 検 討 して い る。 そ れ に よ る と身 体 所 見 で は成長 ・発育 障害 を挙 げ,-2SD以 下の低身長 の子 どもが71人 見 られ,さ ら に約 半 数 に 知 能 の 低 下 が 認 め られた としてい る。 また,奥 山(1997)は,虐 待を 受 けた子どもの問題 として,発 達 上 の 問 題 と心 的 外 傷 を挙 げ て い る 。 心 的 外 傷 の 問 題 と し て は,い わ ゆ る心 的 外 傷 後 ス トレ ス 障 害(PTSD)が 現 れ る として い る。 虐待 を受けた子 どもたちは,彼 らの表す症状や状態に よ っ て,DSM-IV(American Psychia 1994)の 診 断 分 類 上,解 離 性 障 害,行 為 障 害,反 抗挑戦 性 障 害,注 意 欠 陥 多 動 性 障 害,あ るいは幼児の場合, 反 応 性 愛 着 障 害 と診 断 さ れ る場 合 も あ る(ZERO TO THREE/National Center for Infan 1994)。 大 迫(1999)は 虐 待 を背 景 に もつ 非 行 小 学 生 す る児 童 自立 支 援 施 設 で の 治 療 教 育 か ら,反 社会的な 逸 脱 行 動 の ほ か,対 人 関 係 上 の 問 題,感 情 調 節 の 問 題, 多 動 や 身 体 的 訴 え な ど様 々 な 問題 を 挙 げ て い る。 非 行 と被 虐 待 体 験 の 関 連 の 指 摘(藤 岡,2001)や,落 ち着 きの な さ を 主 訴 とす る 被 虐 待 児 の事 例 報 告(坪 井,2002)な もあ る 。 この よ う に 臨 床 場 面 で は,虐 待 された子 ど も た ち の 様 々 な 特 徴 が 指 摘 され て い る 。 しか し,わ が国 で は 実 際 に客 観 的 な ア セ ス メ ン トツ ー ル を 用 い て 子 ど *名 古屋大学大学院教育発達科 学研究科

Child Behavior Checklist/4-18 (CBCL) による 被虐待児の行動 と情 …

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Page 1: Child Behavior Checklist/4-18 (CBCL) による 被虐待児の行動 と情 …

110 教 育 心 理 学 研 究,2005,53,110-121

Child Behavior Checklist/4-18 (CBCL) に よ る

被 虐 待 児 の 行 動 と情 緒 の 特 徴

-児 童養護施設における調査の検討-

坪 井 裕 子*

本研 究 の 目的 は児 童養 護施設 に入 所 してい る虐 待 を受 けた子 ど もた ちの行 動 と情 緒 の特 徴 を明 らか に

す る こ とで あった。 児童 養護施 設 に入 所 中の子 ども142人(男 子:4~11歳40人,12~18歳45人,女 子:4~11歳

25人,12~18歳32人)を 対 象 に,Child Behavior Checklist(CBCL)の 記 入 を職 員 に依頼 した 。 その結 果,

女 子 は男子 に比 べ て 内向 尺度 得点 が 高 く,特 に高年 齢 群 女子 は身 体 的訴 え と社 会性 の問 題 の 得 点 が高

か った。被 虐待体 験 群(n=91)と 被虐 待体 験 のな い群(n=51)に 分 けて比 較 した とこ ろ,社 会性 の 問題,

思 考 の問題,注 意 の問題,非 行 的行 動,攻 撃的行 動 の各尺 度 と外 向尺度,総 得点 で,被 虐待 体験 群 の得

点 が有 意 に高 か った 。被 虐待体 験群 は,社 会性 の問題,注 意 の問題,攻 撃的 行動,外 向尺 度,総 得 点で

臨 床域 に入 る子 ど もの割 合 が多か った 。虐 待 を受 けた子 ど もの行動 や情緒 の問題 が明 らか にな り,心 理

的ケ ア の必 要性 が示 唆 され た。

キー ワー ド:Child Behavior Checklist/4-18(CBCL),児 童虐待,児 童 養護施 設,行 動 と情緒 の問

問 題 と 目的

近年,虐 待 を受 けた子 ど もた ちが児童 養 護施 設 に保

護 され る こ とが増 え,施 設側 の対応 が課 題 とな ってい

る(高 橋,2000)。 何 らか の虐待 を受 けて 児童 養護 施設 に

入所 して い る子 ど もた ち に対 す る心理 的 ケア を進 め る

にあた って,ま ず児 童養 護施 設 に入所 してい る子 ども

た ちの情緒 や行 動 の特徴 を明 らか にす る必 要が ある。

特 に,虐 待 を受 けて きた子 どもたち に焦 点 を当て,児

童養護 施設 に入所 して い る子 ど もた ちの行 動 と情緒 の

問題 を客観 的 な指標 を用 い て検討 す る こ とは,今 後 の

対応 を考 える上で も意味 が大 きい と思 われ る。

虐待 に よって子 どもが 受 け る影響 につ いて は様 々な

研究 が な され て お り,虐 待 のサ ブ タイプ と虐待 を受 け

た 年 齢 に よ る発 達 へ の影 響 の 違 い を検 討 し た もの

(Manly,Kim,Rogosch,&Cicchetti,2001),身 体 的虐 待

児 とネ グ レク ト児 につ いて,そ れぞれ の学 業面 と情 緒

面 での問題 を指摘 した もの(Wodarski,Kurtz,Gaudin,&

Howing,1990;Kendall-Tackett&Eckenrode,1996),ネ グ

レ ク トが 子 ど もに与 え る ダ メー ジ に 言 及 した もの

(Erickson&Egeland,1996;Crittenden,1992),ネ グ レク ト

児 の認 知 や学 業 な どの発 達 へ の影 響 を愛着 形成 との関

係 か ら論 じた もの(Hildyard&Wolfe,2002)な どが あ る。

日本 にお いて は諏訪(1995)が 小 児科 を受診 した117例

の被 虐待 児 につ いて検 討 して い る。 そ れ によ る と身体

所 見 で は成長 ・発育 障害 を挙 げ,-2SD以 下 の低 身 長

の子 どもが71人 見 られ,さ らに約 半 数 に知能 の低下 が

認 め られた としてい る。 また,奥 山(1997)は,虐 待 を

受 けた子 ど もの問題 として,発 達 上 の 問題 と心的外 傷

を挙 げて いる。心 的外 傷 の問題 として は,い わ ゆ る心

的 外傷 後 ス トレス障 害(PTSD)が 現 れ る として い る。

虐待 を受 けた子 どもた ちは,彼 らの表 す症状 や状 態 に

よ って,DSM-IV(American Psychiatric Association,

1994)の診 断分類上,解 離 性障害,行 為 障害,反 抗 挑戦

性 障害,注 意 欠陥 多動 性 障害,あ るい は幼児 の場合,

反 応性 愛 着 障害 と診 断 され る場 合 もあ る(ZERO TO

THREE/National Center for Infant,Toddlers,&Families,

1994)。大迫(1999)は 虐 待 を背景 に もつ非 行小 学生 に対

す る児 童 自立 支援施 設 で の治療 教育 か ら,反 社会 的 な

逸脱 行 動 のほか,対 人 関係 上 の問題,感 情調 節 の問題,

多 動 や身体 的訴 えな ど様 々 な問題 を挙 げ てい る。 非行

と被虐 待体験 の関 連 の指 摘(藤 岡,2001)や,落 ち着 きの

な さを主訴 とす る被虐 待 児 の事 例報 告(坪 井,2002)な ど

もあ る。 この よ うに臨床場 面 で は,虐 待 された子 ど も

たち の様々 な特徴 が指 摘 され てい る。 しか し,わ が国

で は実際 に客 観的 な ア セス メ ン トツー ル を用 いて子 ど

*名 古屋大学大学院教育発達科 学研究科

Page 2: Child Behavior Checklist/4-18 (CBCL) による 被虐待児の行動 と情 …

坪井:Child Behavior Checklist/4-18(CBCL)に よる被虐待児の行動 と情緒 の特徴 111

もた ちの特徴 を調査 した研 究 は まだ少 ない。

児 童 養護施 設 に入所 中 の子 ど もに関 す る調 査 として,

西澤 ・中島 ・三 浦(1999)はTSCC(Trauma Symptom

Checklist for Children)を 用 いて,子 どもの虐待 体験 と ト

ラ ウマ反応 の関 連 を明 らか に して い る。施 設 に入 所 し

てい る子 どもは一般 の子 どもに比 べ て,有 意 に「不安 」

「易怒性 」 「軽度 の侵 入性症 状 及 び回避性 症状 」 「自尊

心 の欠 如」 が高 く認 め られ,そ の うち虐 待 を受 けた子

どもには,さ らにその傾 向が強 く認 め られ た と してい

る。斉 藤(2001)は 児 童養護 施設 に入所 して い る子 ど も

とそ の親 につ いて の調査 を報告 して いる。児 童 養護施

設 に入 所 して い る虐 待 を受 けた子 ど もた ちに見 られ た

特 徴 として「知 的発達 の遅 れ」 「仲 間 とうま く関係 が結

べな い」 「多動 ・落 ち着 きの な さ」 「怒 りっぽ さ と反抗 」

な どを挙 げ てい る。杉 山・中村(2001)はChild Behavior

Checklist(CBCL)を 用 いて児童 養 護施設 に入 所 してい

る子 どもの問題 行動 につい て調 査 し,施 設形 態 の違 い

が子 どもの問題 行動 に影響 を与 えて い る と述 べ て い る。

この ように,実 際 に児童 養護施 設 に入所 して い る子 ど

もた ちの行 動 や情緒 の特徴 につ いて の調 査報 告 は,最

近 にな って よ うや く取 り上 げ られ るよ うにな って きた

もの の,ま だ,虐 待 を受 けた 子 どもたちの 実態 が実証

的 に把 握 され て いる とは言 いが たい。 その た め,子 ど

もた ちの 実態 を客観 的 なア セス メ ン ト指標 を用 い て検

討す る必 要が あ る と考 え る。

子 どもの行動 や情 緒 の特徴 を見 て い く客観 的 な アセ

ス メ ン ト指 標 と して は,Achenbach(1991)が 開 発 した

Child Behavior Checklist/4-18,(CBCL4歳 ~18歳 用,以

下CBCLと 略記)が あ る。Achenbachは 子 どもの行動 と

情 緒 の問題 を把握 す る もの として,保 護 者 が記 入 す る

CBCL,自 己記 入式 のYouth Self Report(YSR),教 師

が記入 す るTeachers Report Form(TRF)な どの一 連

の質 問紙 を 開発 して いる。そ の うちCBCLは 保 護者 が

記 入 す る子 ど も の行 動 と情 緒 を包 括 的 に評 価 す る

チ ェ ック リス トで,コ ンピテ ンス(日常の活動や'友人や親

との関係,学業成績など)の 項 目 と,問 題 行動 の項 目(尺 度

1「引きこもり」,尺度2「 身体的訴 え」,尺度3「不安・抑うつ」,

尺度4「社会性の問題」,尺度5「思考の問題」,尺度6「注意の問

題」,尺度7「非行的行動」,尺度8「攻撃的行動」,「その他の問

題」)で構 成 され て いる。 さ らに,2つ の上 位概 念1(尺

度1,2,3の 合計から求められる内向尺度;Internalizingと,尺度

7'8の 合計から求められる外向尺度;Externalizing),お よび

総得 点 か らプ ロフ ィー ルが求 め られ る。このCBCLは

欧米 各国 で広 く使 われ てい る質 問紙 で ある。特 にプ ロ

フ ィール か ら得 られ るTス コア に よって,臨 床 域 と境

界域,一 般 域 の弁 別 に優 れ て い る とい われ て い る。

Armsden,Pecora,Payne,&Szatkiewicz(2000)は,

不適切 な養育(maltreatment)を 受 けた子 どもた ちの長

期 にわ た る里 親 での ケア や施設 入所 時の アセ ス メ ン ト

にCBCLが 用 い られた例 を紹介 して い る。 日本 で は,

杉 山 ・中村(2001)の ほか,自 閉症 の子 ど もに用 いた坂

野 ・佐 藤 ・佐々木 ・久保 ・坂 爪 ・土肥 ・市井(1995)の

例が あ る ものの,臨 床 的 に用 い られて いる例 は まだ少

な い。 そ こで,本 研 究 で は今後 の臨床 的応 用 と国 際比

較 の可能性 も視野 に入 れ て,日 本 で標 準化 が な された

CBCL/4-18(井 澗 ・上林 ・中田 ・北 ・藤井 ・倉本 ・根岸 ・手

塚・岡田・名取,2001)を アセ ス メ ン ト指標 に用 い る ことと

す る。

以 上 の こ とか ら,本 研 究 で は,児 童養護 施 設 に入所

してい る子 ど もたち の行動 と情 緒 につ いて,客 観 的な

ア セ ス メ ン ト指標 にCBCLを 用 い て施 設職 員 か ら見

た子 ど もた ちの特 徴 を明 らか にす る こ と,さ らに被 虐

待体 験 と子 ど もの行動 や情 緒 の問題 との 関連 を明 らか

にす る こ とを目的 とす る。 本研 究 に よって,今 後 の心

理的 ケアや生 活面 で の対応 に何 らかの示 唆が 得 られ る

こ とが期 待 され る。

方 法

対象A県 内の大 都市 お よびその近郊 の児童 養護施 設

(6施設)に入 所 中の4歳 か ら18歳 の子 ど も143人 を対 象

とし,各 施 設 の担 当職 員 に対 象児 についてCBCLの 記

入 を依頼 した。 その うち欠損値 の あ るデー タ を除 いた

142人(男 子85人,女 子57人;平 均年齢11.78歳,SD=3.22)を

分析 対 象 とした。 対象 児 の 内訳 は,TABLE1に 示 す と

お りで あ る。

TABLE1対 象者 の内訳

1InternalizingとExternalizingの 日本語訳 について,菅 原 ・

北村 ・戸 田 ・島 ・佐 藤 ・向井(1999)はInternalizing(内 在

的),Externalizing(外 在 的)と し,戸 ヶ崎 ・坂野(1998)は

訳 さず その まま原語 を用 いている。本研究 では先行 研究(井 澗

他,2001;杉 山 ・中村,2001)に ならい,内 向尺度 ・外 向尺度

と い う訳 語 を 用 い る が,「 内 向」 「外 向」 と い う 言 葉 は

introvert,extrovertの 訳語 と混 同される恐れがあ り,注 意が

必要 であ る。

Page 3: Child Behavior Checklist/4-18 (CBCL) による 被虐待児の行動 と情 …

112 教 育 心 理 学 研 究 第53巻 第1号

方法 調 査 に は 日本版CBCL/4-18(井 澗他,2001)を 用

いた。各 施設 で対 象 とな る子 どもの生活 担 当職員 に,

調 査 につい て説 明 した後,質 問紙記 入 を依頼 し,一 定

期 間後 に回収 した。質 問紙 は コン ピテ ンス項 目(日常的

な活動内容,友人数 友人と遊ぶ頻度,き ょうだい ・友人 ・親 との

関係 自立性と学業成績)と,113項 目の問題 行動 項 目か ら

構 成 されて い る。 コ ンピテ ンス項 目の うち,子 どもの

活動 につ いて は内容 の記入 を求 め,対 人 関係(友人,きょ

うだい,親子)や 成績 な どの項 目は4件 法(一 部3件 法)で

記入 を求 めた。 問題行 動項 目につ い ては,子 どもの状

態が良 くあて は まる場 合 に は2,や や また は時 々 あて

はまる場 合 には1,あ ては ま らない場合 に は0で 回答

を求 めた。 記入 は無 記名 で行 った 。 デモ グ ラフ ィック

デー タ と して,そ れぞれ の子 ど もの入所 理 由,入 所期

間,家 族状 況(家 族構成,親 の障害,病気等)や,被 虐待体

験(体 験の有無 虐待内容 虐待者)な どに つい て,フ ェイス

シー トに記 入 を求 めた。施 設 によ って は,直 接,職 員

か ら聞 き取 り調 査 を行 った。 今 回,記 入 した職 員 の年

齢 ・経 験年 数 な どのデ ー タは得 られ なか った。 な お,

分析 に はSPSS for Windows 10.0Jを 使 用 した。

結 果

児童養 護施 設入 所 児全体 の特 徴

入所 状況 および施 設 問差 異 の検 討 対 象 とな った子

ど もた ち の 家 族 構 成 で は,母 子 家 庭 が 最 も多 く(50

人),次 い で父子 家庭(44人),両 親無 し(23人)の 順 で あ っ

た。 入所理 由(複数回答あり)で は,親 の離婚 が最 も多 く

(76人),次 い で経 済的理 由(55人),虐 待(40人)の 順 で

あった。誰 に虐 待 され たか(複 数回答あ り)に つ い て は,

実母 が最 も多 く(73人),次 い で実 父(29人),継 父(8人)

の順 で あっ た。

杉 山 ・中村(2001)の 調査 で は施 設形 態 によ って子 ど

もの問題 行動 に差 が あ る と指摘 してい る。 そ こで,本

研 究で対 象 となった6施 設 問 に差異 が あ るのか を確認

す るた め,施 設 形態別 の比 較 を行 った。 今 回,一 寮舎

の定員が8人 以 下の小 舎制 施設 はなか つた ので,一 寮

舎14人 以 下 の 中舎 制(58人)と 一 寮舎15人 以上 の大 舎制

(84人)に分 け,各 尺度得 点,上 位概 念,総 得 点 の それ

ぞれ につい てt検 定 を行 った。 その結果,い ず れ に も

有意 な差 が 見 られ なか ったた め,6施 設 をあわ せて考

える こと とした。

年齢 ・性 別 によ る特徴 対 象児 を井澗 他(2001)の デー

タ と比較 す るた めに,井 澗 他 と同様 に低 年齢 群(4歳 ~11

歳:65人)と 高年齢 群(12歳 ~18歳:77人)に 分 けた。 高

年齢群 につ い て は,井 澗他(2001)の デー タ は15歳 まで

を対 象 として い るので,参 考 の た め12~15歳 群(63人)

と16~18歳 群(14人)に 分 けて両 群 の 各 尺度 と上 位概

念,総 得点 の平 均得 点 を比較 した ところ,有 意 差 は認

め られ なか った。標 準化 されて い ない16~18歳 の デー

タ の扱 いは本来慎 重 にすべ きで あ るが,今 回得 られ た

貴重 な デー タを活 かす た めに12~15歳 群 と16~18歳 群

を合 わせ て高年 齢群 とした 。各年 齢群 の各尺度,上 位

概念,総 得点 の平均 値,標 準偏差,お よびTス コア換

算時 の臨床 域(境 界域を含む)に入 る カ ッ トオ フポ イ ン ト

を男 女 別 に示 した もの がTABLE2で あ る。 井 澗 他

(2001)と比 較 して み る と,ほ ぼすべ て の尺度 に おいて

児童 養護施 設 入所 児 の方が 高得点 を示 して い る。

年齢,性 別 を独立 変 数 として二 元配 置 の分 散分析 を

行 った ところ,交 互 作 用 が 「身体 的訴 え」(F(1,138)=

7.55,p<.01)と 「社 会性 の問題 」(F(1,138)=4.44,p<.05)

で 有意 とな った。単純 主効 果 を検 討 した結果,「身体 的

訴 え」 で,高 年齢群 で は女 子が 男子 よ り高得 点(F(1,

138)=7.66,p<.05),女 子 で は高年 齢群 が低 年齢 群 よ り

高 得点(F(1,138)=5.15,p<.05)で あっ た。 「社 会性 の問

題 」 では,高 年齢 群 で女子 が男 子 よ り得 点 が高 かった

(F(1,138)=8.02,p<.05)。

年齢差 につい て,井 澗他(2001)で は,総 得点 で低年

齢 群 が高年齢 群 よ り高 い得 点 を示 し,尺 度 別の年 齢差

で は 「身体 的訴 え」 の み高年齢 群 が低 年齢群 よ り高 い

とい う特徴 が挙 げ られ てい る。 しか し,今 回 の施 設入

所 児 のデー タで は,年 齢 の主効 果 は見 られ なか った。

男女 差 につい て,井 澗 他(2001)は 外 向尺 度で 男子 が

女 子 よ り高得 点 で あ り,内 向 尺度 で は女子 が男 子 よ り

高 得点 を示 す としてい る。尺度 別 の男 女差 につい ては

「社会 性」 「注意 」 「非行 」 「攻 撃性 」の各尺 度 で,男 子

が女子 よ り高得点,「 不安 ・抑 うつ 」 「身体 的訴 え」で女

子 が 男子 よ り高得 点 で あ る としてい る。本 研究 で は,

性 別 の主効 果 は内 向尺度 の み(F(1,138)=4.13,p<.05)

で見 られ,井 澗他(2001)と 同様,女 子 が男 子 よ り高得

点 だ った。 外向 尺度 で は男女 と も高得 点 を示 し,男 女

差 は見 られなか った。

各 尺度得 点 およ び コ ンピテ ンス得点 の相 関 各尺 度

得点 とコ ンピテ ンス得 点 の相 関 をTABLE3に 示 す。コ

ン ピテ ンス項 目の うち,き ょうだ い関係 で は一人 っ子

を除 外 し,成 績 は各 教 科 の成 績得 点 の平 均 を用 いた。

各尺 度 間 には有 意 な相 関が 見 られ,特 に内 向尺度 と外

向 尺度(r=.47,p<.01)は,中 程 度 の正 の相 関 を示 し

た。 コ ンピテ ンス項 目間 で は,友 人 数 と,友 人 と遊 ぶ

頻度(r=.21,p<.05),友 人 関係(r=.35,p<.01),自 立

性(r=.18,p<の1)の それ ぞれ との 間 に有 意 な正 の相 関

Page 4: Child Behavior Checklist/4-18 (CBCL) による 被虐待児の行動 と情 …

坪井:Child Behavior Checklist/4-18(CBCL)に よる被虐待児 の行 動 と情緒の特徴 113

TABLE2年 齢群別各尺度得点の平均 とSD

**p<.01*p<.05注)カ ッ トオ フ ポ イ ン トは井 澗 他(2001)に よる

TABLE3 CBCL各 尺度 とコ ンピテ ンス項 目 との相 関

が み られた。 コ ンピテ ンス得点 と各尺 度 得点 との相 関

を求 めた ところ,友 人 数 と 「引 きこ も り」,「不安 ・抑

うつ」,「社 会 性 の 問題 」,「思 考 の 問 題」,「注 意 の 問

題」,「非行 的 行動 」,「その他 の 問題」,内 向尺 度,外 向

尺度,総 得点 の それ ぞれ との間 に有意 な負の相 関 が見

られ た。友人 関係 との相 関 で は,上 記 に加 え,「攻 撃性」

との 間 に有 意 な負 の相 関が あ った。 親 子関 係 と各 尺度

との相 関 で は,有 意 な相 関 は見 られな か った。 自立性

と各 尺 度 の 相 関 で は,「 引 き こ も り」,「不 安 ・抑 う

つ」,「社会 性 の問題 」,「思考 の問題 」,「注 意 の問題 」,

Page 5: Child Behavior Checklist/4-18 (CBCL) による 被虐待児の行動 と情 …

114 教 育 心 理 学 研 究 第53巻 第1号

「非行 的行 動 」,「攻 撃的行 動 」,「その他 の問題 」,内 向

尺度,外 向 尺度,総 得点 の それ ぞれ との間 に有 意 な負

の相 関が 見 られ た。 コ ンピテ ン ス得 点の高 い ほ うが,

問題 行動 得 点が 低 い傾 向が 示 され た。

被虐 待児 に み られ た特徴

被 虐待 体験 と各尺度得 点 との 関連 対象 者142人 を,

何 らか の被 虐待 体験 の有無 に よって被虐待体 験 の ある

群(Abuse群:以 下A群 とする)91人(男 子53人,女 子38人)

と,被 虐 待 体験 の ない群(Non Abuse群:以 下N群 とする)

51人(男 子32人,女 子19人)に 分 けた。児童相 談 所 か らの

書類上,入 所 理 由が明確 に虐 待 とされ てい な くて も,

フェイス シー トと各施 設 での 聞 き取 りに よって,実 際

に何 らか の虐 待 を受 けた経 験 が あ る と考 え られ た もの

は,被 虐待 体 験が あ る群(A群)と した。A群 とN群 の

各尺度 と上 位 概念,総 得点 を比 較 した結 果,「社会 性 の

問題 」,「思 考 の 問題」,「注意 の 問題」,「非行 的行 動 」,

「攻撃 的行 動 」,「その他 の問題 」,お よび外 向 尺度,総

得点 で有意 な差 が見 られ た。 いずれ も被 虐待 体験 の あ

るA群 の ほ うが 高い問題 行動 得 点 を示 した(TABLE4)。

次 に,虐 待 体 験 に よって差異 が み られ る項 目を確認 す

るため,各 項 目 について マ ンホ イ ッ トニ ーのU検 定 を

行 った。そ の結果,A群 の問題 行 動得点 が有意 に高 か っ

た12項 目 をTABLE5に 示 した 。

被 虐待体 験 と入所状況,コ ン ピテ ンス項 目の 関連

A群 とN群 の入所状況 お よび コ ンピテ ンス項 目で の

差 異 を見 る た め にt検 定 を行 った(TABLE6)。 そ の結

果,A群 とN群 の間に,現 在 の年 齢(A群:M=11.4,SD=

3.4,N群:M:12.4,SD=2.9)や 性 別 の有意差 はな か った

が,入 所 時 点 の年齢(A群:M=6.3,SD=3.7,N群:M=

4.8,SD=3.3)で は,A群 の入所 年 齢 が有意 に高 く(t=2.38,

p<.05),入 所期間 で はA群 が有 意 に(t=3.87,p<.01)短

か っ た。 コン ピテ ンスで は,き ょうだ い関 係(t=2.46,

p<.05)と 成績(t=2.07,p<.05)で 有意 差 が見 られ た。 い

ず れ もA群 の得点 が低 く,き ょうだい 関係,成 績 と も

悪 い とい う結果 であ った 。

虐 待 タイプ によ る比 較 被 虐待体 験 の あ るA群 の91

人 を,フ ェイスシー トと各施 設 での聞 き取 りに よって,

虐 待 の タイ プ別(ネ グレク ト,身体的虐待,心理的虐待,性的虐

待)に 分 けた。重 複 の場 合 は,主 た る虐待 で 分類 した。

ただ し身 体的虐 待 とネ グ レ ク トの重複 は身 体 的虐待 を

主 として分類 し,ネ グ レ ク ト群 に は身体 的 虐待 を受 け

た子 ど もが入 らな い よ うに した。心理 的虐 待 のみ(4人)

と性 的虐 待 のみ(1人)は 対 象者 が少 ない た め,虐 待 タ

イ プ別 の分析 か ら除 外 し,被 虐 待経 験 の な いN群(51

TABlE4 CBCL被 虐待体験有無別の各尺度の平均

と標準偏差

**p< .01*p<.05

TABlE5被 虐待体験群が高得点だった項目

**p< .01*p<.05

Page 6: Child Behavior Checklist/4-18 (CBCL) による 被虐待児の行動 と情 …

坪井:Child Behavior Checklist/4-18(CBCL)に よる被虐待児 の行 動 と情緒の特徴 115

TABlE6 CBCL被 虐 待 別 コ ン ピテ ンス 得 点 平 均 と

SD

**p<.01*p<.05

き ょ うだ い関 係 の みA群(n=76)N群(n=37)

人)と ネ グ レ ク ト群(66人)・ 身 体 的 虐 待 群(20人)の3

群 で 分 散 分 析 を行 っ た 。

デ モ グ ラ フ ィ ッ ク デ ー タ の 分 析 で は,入 所 年 齢(F

(2,134)=4.30,p<.05),入 所 期 間(F(2,134)=8.28,p<.01)

で 有 意 差 が 見 られ た 。 多 重 比 較(TukeyのHSD法)の 結

果,入 所 年 齢 で はN群(M=4.8歳,SD=3.3)と 身 体 的 虐

待 群(M=7.4歳,SD=3.5)間 で 有 意 差(p<.01)が 見 られ

た 。 入 所 期 間 で はN群(M=7.7年,SD=4.1)と ネ グ レ ク

ト群(M=5.8年,SD=3.8)と の 間(p<.05),N群 と身 体 的

虐 待 群(M=3.8年,SD=3.2)と の 間(p<.01)で 有 意 差 が

見 ら れ た 。

次 に 問 題 行 動 尺 度 得 点 の 比 較 を行 い,「 社 会 性 の 問

題 」(F(2,134)=4.66,p<.05),「 思 考 の 問 題 」(F(2,134)=

3.19,p<.05),「 攻 撃 的 行 動 」(F(2,134)=3.85,p<.05),

外 向 尺 度(F(2,134)=3.65,p<.05),総 得 点(F(2,134)=

4.27,p<.05)で 有 意 差 が 見 られ た 。 多 重 比 較(Tukeyの

HSD法)の 結 果,「 社 会 性 の 問 題 」で はN群(M=2.39,SD=

2.41)と 身 体 的 虐 待 群(M=4.70,SD)=3.45)の 間 で 身 体 的

虐 待 群 の 得 点 が 有 意 に 高 か っ た(p<.05)。 「思 考 の 問 題 」

(N群:M=0.24,SD=0.59,ネ グ レ ク ト群:M=0.86,SD=

1.90),外 向 尺 度(N群:M=5.37,SD=5.55,ネ グ レク ト群:

M=9.41,SD=10.58),総 得 点(N群:M=15.67,SD=11.12,

ネ グレク ト群:M=24.52,SD=22.15)で は,い ず れ もN群

に比 ベ ネ グ レ ク ト群 の 得 点 が 有 意 に 高 か っ た(す べて

p<.05)。

コ ン ピ テ ン ス 項 目で は,き ょ うだ い 関 係(F(2,134)=

10.06,p<.01),親 子 関 係(F(2,134)=6.43,p<.01),成 績

(F(2,134)=3.75,p<.05)で 有 意 差 が 見 られ た 。 多 重 比

較(TukeyのHSD法)の 結 果,き ょ うだ い 関 係 で は,N

群(M=2.19,SD=0.52)と 身 体 的 虐 待 群(M=1.47,SD=0.52)

と の 問(p<.01),ネ グ レ ク ト群(M=2.00,SD=0.53)と 身

体 的虐 待 群 間(p<.01)で い ず れ も身 体 的虐 待 群 の方

が,有 意 に関係が 悪か った。親 子 関係 で は,N群(M=

1.76,SD=0.62)と 身体 的虐待 群(M=1.35,SD=0.49)と の

間(p<.05),ネ グレ ク ト群(M=1.88,SD=0.57)と 身体 的

虐 待群 間(p<.01)で いず れ も身体 的虐 待 群 の親子 関係

が有意 に悪 か った。成 績 につ いて はN群(M=2.37,SD=

0.83)と ネ グレク ト群(M=1.96,SD=0.96)と の間 でネ グ

レ ク ト群 の成績 が有 意(p<.05)に 悪 い とい う結果 だ っ

た 。

被虐 待 体験 に よる正 常 域,臨 床域 の比 較

各尺 度得 点 をプ ロフ ィール表 のTス コア に した が っ

て,正 常域,境 界域,臨 床 域 に分 けた。 こ こで は境 界

域 を臨 床域 に含 めて何 らかの ケアが必 要 な臨床 域群 と

し,正 常域群 と区別 した。A群,N群 ご とに臨床域群

と正 常域 群 との人 数 を比 較 した もの をTABLE7に 示

す。 被 虐待体験 の有 無 に よ って,臨 床 域群 に入 る子 ど

も の 数 に違 い が あ る の か を検 討 す る た め,フ ィ ッ

シ ャーの 直 接 確 率 法 を 行 った と こ ろ,「 社 会 性 の 問

題」,「注意 の問題」,「攻 撃 的行動」,外 向 尺度,総 得点

で有 意(す べてp<.05)で あ った。 いずれ もA群 の臨床域

群 の割合 が多 い とい う結 果 だ った。

TABlE7被 虐待体験別の臨床域人数

*p< .05

Page 7: Child Behavior Checklist/4-18 (CBCL) による 被虐待児の行動 と情 …

116 教 育 心 理 学 研 究 第53巻 第1号

考 察

児童養護 施 設入 所児 の特徴

本 研 究 の 児 童 養 護 施 設 入 所 児 の デー タ を井 澗 他

(2001)と比 較 す る と,特 に総 得点 で は,低 年 齢群 男子

(本研究M=22.20;井 澗他M=16.10,以 下同様),高 年齢 群 男

子,(M=17.36;M=11.71)低 年 齢群 女子(M=20.6;M=

14.35),高 年齢 群女 子(M=28.28;M=11.98)と な り,い

ずれ も施設 入 所児 の得点 の高 さが 目立 つ。 また,内 向

尺度 で は一般 の子 どもたち と同様 に女子 が男 子 よ り高

い傾 向が 示 され たが,外 向尺 度 で は男女 差 が見 られ な

か った。 一般 の子 どもたち と異 な り,女 子 で も男子 と

同 じよう に外 向尺 度得点 が高 い ことが特 徴 として示 さ

れ てい る。 ほ ぼすべて の尺度 にお いて施 設入 所 児 の方

が高 得点 を示 してい る ことか ら,児 童 養護施 設 に入所

してい る子 ど もたち は,一 般 の子 ど もた ちに比 べ て行

動 や情 緒 の 問題 を抱 えてい る とい える。 これ は,児 童

養護施 設 にお ける不適応,逸 脱行 動 を示す対 応 困難 な

子 どもの増 加 とい う最近 の傾 向(加 賀美,2001)を 裏付 け

る もの とい え るか もしれ な い。特 に高 年齢群 女 子 の得

点 の高 さか ら,こ の年代 の女 子 への対応 の 困難 が推 測

され る。本 研 究 で は 「身体 的 訴 え」,「社 会性 の 問題 」

にお いて 高年 齢群 女子 が 高得 点 で あった。 「身 体 的訴

え」 につ い て は一般 的 に女子 の 得点 が高 い傾 向 にあ り

(井澗他2001),施 設児 も同様 の傾 向 であ る とい えるが,

「社 会性 の問 題」 につ いて は,一 般 の子 ど もた ち とは

異 な る傾 向 を示 して いる。 「社会 性 の問題」は内 容 をみ

る と 「行 動 が幼 い」,「大 人 に頼 ろう とす る」等 で あ り,

社会性 の発達 の未 熟 さを示 してい る。 これ は施 設入 所

児 に共通 した特徴 とも考 え られ るが,発 達 へ の影響 の

現 われ方 が男 女 で異 なる可能 性 が あ り,特 に思 春期 年

代 の女 子 に未 熟 さが 目立 っ た とい える。 「身 体 的 な訴

え」 や 「社会 性 の問題」 は非 行 や攻撃 的 な行 動 に比 べ,

見過 ごされ が ちな問題 で はあ るが,今 回の結 果 か ら,

子 どもの出 すサ イ ンを職 員 は あ る程度 認識 してい る と

いえ る。 この よ うに目立 た な い問題 も思春期 女 子 を中

心 に施設 入所 児 の特徴 と捉 え て,適 切 に対 応 を して い

くことが 重 要 とな るだろ う。

西 澤他(1999)は 児童養 護施 設 入所 児の トラ ウマ反 応

の調 査 の結果,親 との離 別体 験 は養護 施設 の子 ど もに

不安 と怒 りに起 因す る不 適応 を生 じさせ る と指 摘 して

い る。本研 究 で の入所理 由は親 の離婚 が最 も多 く,次

いで経済 的理 由,虐 待 の順 で あ った。虐待 の有 無 にか

かわ らず,施 設 に入所 す る とい う ことは,親 や 家族 と

の分 離 を意味 し,安 定 した家 族 機能 が保 てな い家庭 背

景 が ある と考 え られ る。本 研究 で見 られ た施 設入 所児

の行 動 や情緒 の問題 得 点 の高 さか ら,親 や家族 との分

離体 験 とその背景 に推 測 され る不 安定 な家 庭状 況 が,

子 どもの行動 や情緒 に何 らか の影 響 を与 え てい る可能

性 が 示唆 され る。 ただ し,今 回は対照群 とな る一 般家

庭 の子 ど ものデ ータが 得 られ なか った。 した が って,

一般 群 と児 童養護施 設群 との比較 につい て は,今 後,

一層 の検 討 が求 め られ る。

被 虐 待児 の特徴

被 虐待 経験 の有無 に よ り差が あ ったの は,「社 会 性 の

問題 」,「思考 の問題 」,「注 意 の問題」,「非 行 的行 動」,

「攻 撃 的行動 」,「その他 の 問題」,お よび外 向尺 度,総

得 点 で,い ず れ も被 虐待 体 験 群 の 問題 行 動 得 点 が 高

か った。 また,虐 待 を受 けた子 どもは,対 人 関係 や成

績 な どの コ ンピテ ンスで も様々 な問題 を抱 えて い るこ

とが 明 らか に なった。

Armsden et al.(2000)は,不 適切 な養育(maltreatment)

を受 けた子 どもたち にCBCLを 施 行 した結 果,「 社 会

性 」 「注 意」 「非行 」「攻 撃性 」の問題 の多 さ を指 摘 して

い る。これ は本研究 の結 果 とほぼ一致 してい る。「社会

性 」 「注 意」 「非行 」「攻 撃性 」の問題 に関す る本 研 究の

結果 か らは,内 向的 な問題 よ りも外向 的 な問題 の方が

虐待 経験 に よる差 が大 きい といえ る。被 虐 待経 験 が特

に子 ど もの外向的 な問題 行 動 に影 響 を及 ぼ して い る可

能性 が示 唆 され,杉 山 ・中村(2001)の 調 査 と同 じ傾 向

を示 して い る。ただ しCBCLは 職 員 に よって評 価 され

た もの で あ り,子 ど もの 内向的 な問題 よ り も,目 立 つ

外 向的 問題 行動 を捉 えや すい とい う面 を考 慮 す る必要

はあ るだ ろ う。CBCL項 目の 中で被虐 待群 の得 点 が高

か った項 目 を見 る と,明 らか に問題行 動 と思 われ る項

目(例:盗 みをする,気分や感情が突然変わる等)に 加 えて,

吐 き気 や気 分 の悪 さ等 の 「身体 的訴 え」 に含 まれ る項

目が 入 っ てい る ことは注 目す べ きで あ る。 子 ど もた ち

が,虐 待 の影響 をな ん らかの身体 症状 と して出 す可能

性 が あ る ことを示 してお り,高 年齢群 女子 の特 徴 で も

指摘 した よ うに,子 どもた ちの 「身体 的 な訴 え」 へ の

対応 に注意 す る必 要が あ る とい えるだ ろ う。

西 澤他(1999)の 調査 で は,児 童養護 施設 に入所 して

い る虐待 を受 けた子 どもた ちに よ く見 られ る感 情 とし

て抑 うつ と怒 りが 高 い とい う結 果 が示 さ れ て い る。

CBCLで は 「非行」 や 「攻撃性 」 とい った眼 に見 える

形 で の表現 で あ るが,西 澤他 の調査 と同様,行 動 の背

景 に あ る怒 りの存 在 を感 じさせ る。一 方,本 研 究 で は

「抑 うつ ・不安 」尺度 にお いて,A群 とN群 で の有意

差 は認 め られ なか った。 しか し,児 童 養護 施 設児 全体

Page 8: Child Behavior Checklist/4-18 (CBCL) による 被虐待児の行動 と情 …

坪 井:Child Behavior Checklist/4-18(CBCL)に よる被虐待児 の行動 と情緒の特徴 117

の 「抑 うつ ・不安 」尺 度 の得点 が井澗 他(2001)の 結 果

(低年齢男子M=2.26,SD=2.68=低 年齢女子M=2.28,SD=

2.68:高 年齢男子M=1.40,SD=2.37:高 年齢女子M=1.69,

SD=2.72)に 比 べ て低 年齢 男子 以外,明 らか に高 い こ と

か ら,「 抑 うつ・不安 」 は む しろ施 設 に入所 してい る子

どもた ち全 体 が抱 え てい る問題 であ る可能 性が あ り,

この点 につ いて さ らに検 討が必 要 で あ る。

これ まで調査 研究 だ けで な く,臨 床 的 な立場 か ら も,

虐 待 を受 けた子 ど もた ち に見 られ る様 々 な問題 が指摘

され て きた。大 迫(1999)は 虐待 を背景 に もつ非行 小学

生 の 問題 につ い て報 告 して お り,藤 岡(2001)は,非 行

の背景 として の被虐 待体 験 に言及 し,非 行 は被虐 待経

験 に対 す る不適 切 な対処 方法 の選択 で は ないか と指摘

して い る。 本研 究 で も被 虐待群 にお け る「非 行」 「攻撃

性 」 の問題 得点 が高 く,臨 床 的 な立 場 か らの非行 と被

虐 待 との 関係 につ いて の言及 を裏付 け る もの とい える。

また,虐 待 を受 けた子 どもの 「社会 性 の問題 」や 「注

意 の 問題 」 につい て は,落 ち着 きの なさ を主訴 とす る

児 童養護 施 設 に入 所 している 被虐 待 児 の事 例報 告(坪

井,2002)な どがあ り,臨 床 的 に も以前 か ら指摘 され て い

る。 この よ うに,こ れ まで虐待 の影 響 として,数 多 く

指 摘 され て きた子 どもの問題(奥 山,1997:Manly et aL,

2001な ど)が,本 研 究 で は客観的 な ツー ル を用い て実証

的 に示 された。

入所 年齢 に つい て,虐 待 を受 けてい な い子 ど もた ち

は比較 的 早期(M=4.8歳)に 施 設 入 所 とな った の に対

し,被 虐待 群 の子 どもたち は,あ る程度 の 年齢(M=6.3

歳)にな る まで家庭 にいた とい える。入所 以前 の生活 に

つい て本 研 究 で は調 査で きな か ったが,家 庭 で虐待 環

境 に長 く曝 され て いた 可能 性 も高 い。虐 待 の早 期 発

見 ・介 入 ・保 護 は重 要 な課題 であ り,子 ど もの入所 以

前 の環境 につ いて,さ らに調査 が必 要 であ ろ う。

虐待 タイプ別 の検 討

虐 待 の種類 をタ イプ別 に分類 した場 合,ネ グ レク ト

が最 も多 く,つ いで 身体 的虐待 で あっ た。心理 的虐 待

や性 的虐 待 は なか なか表面 化 しに くい虐待 で あ り,本

研究 で も数 は少 なか った。 虐待 タ イプ別 の検討 で は,

「社 会性 の問題 」 におい て特 に身体 的虐待 群 は虐待 の

ないN群 に比 べ て問題 得点 が高 か った。 身体 的虐待 群

は社 会性 の発 達 の未熟 さか ら くる対人 関 係 の トラブル

な どの恐 れ が あ り,こ の点 に関 す る注意 が必要 で あ ろ

う。 「思 考 の問題 」,外 向尺 度,総 得 点 で は,ネ グ レ ク

ト群 の得 点 がN群 よ り高 か った。Erickson&Egeland

(1996)は ネグ レ ク ト児 の攻 撃性,破 壊 性,協 調性 のな

さな どを指摘 し,Crittenden(1992)は,ネ グレ ク ト児

お よび身体 的虐 待 とネグ レク トの重 複 児 の対 人 関係 の

問題 と攻撃性 の 高 さ を指 摘 してい る。Manly et al.

(2001)は,身 体 的 ネ グ レク ト,情 緒 的 ネ グ レク ト,身

体 的虐 待,性 的虐 待 の各 群の比 較 に おい て,い ずれ の

群 も外 向尺度 得 点が 高 い こ とを示 し,ど の ような タイ

プの虐 待 で も外 向的 問題 行動 に影響 す る と指摘 して い

る。本研 究 で,直 接 身体 的 な暴 力 を受 けていな いネ グ

レク ト児 にお いて も,外 向的問 題 の高 さが 示 され た こ

とは注 目す べ きで あ る。攻 撃性 や非 行 な どの外 向的問

題 の高 さは,文 化 的 背景 の異 な る欧 米 の先行 研究 の結

果 と同様 で あ り,虐 待 を受 けた こ とに よる影 響 の表 れ

として普遍 的 な問題 とい える。 虐待 タイ プに よる多少

の差異 は あ るものの,虐 待 を受 けた こ と自体 が,子 ど

もの行 動 と情 緒 の問 題 に大 きな影響 を与 え るとい うこ

とが重 要で は ないか とい える。 この点 について は,虐

待 タイプだ けで な く,虐 待 の頻 度 や程度,重 複 な どの

問題 と,十 分 な サ ンプ ル数 での検 討 が必 要 とい う問題

が あ り,今 後 の課 題 として残 され て い る。

コン ピテ ンス項 目の うち,友 人 関 係 は多 くの問題 行

動 尺度 と有意 な相 関 が あった。 また,き ょうだ い関係

と成績 は被 虐 待 群 の ほ うが有 意 に悪 い とい う結 果 で

あった。 特 に虐待 タイ プ別 の検討 で は,対 人 関係 の側

面 の うち,親,き ょうだ い とい う家 族 関係 で,身 体 的

虐待 群 はN群 や ネ グ レク ト群 と比 べ て 関係が 悪 い とい

う結 果 であ った。 これ は,ほ とん どの子 ど もが親 か ら

身体 的虐 待 を受 けた こ とに よる影 響 と考 え られ る。 一

方 で,ネ グ レ ク ト児 は親 との関係 が 希薄 な ため,職 員

か ら見 て親 子 関係 が悪 い とい える ほ ど,親 との交流 が

な か った可能性 もあ る。Gauthier,Stollak,Messe,&

Aronoff(1996)は 被 虐 待児 の愛 着 ス タイ ル に関 して,

身体 的虐待 児 は た とえ虐待 で も親 の関与 が あるの に対

し,ネ グ レク ト児 には親 の関与 が欠 如 して いる こ とを

指摘 し,愛 着 と臨床 症状 との関係 に言及 してい る。「親

との関係 」 と問題 行動 尺度 の相関 が 有意 で なか った 背

景 を考 え る際 に は,特 にネグ レク ト児 の「親 との関係 」

の吟 味が不 可欠 で あ る。今 回 のCBCLで は職員 か らみ

た親 子関係 で あ るが,子 ど も本人 か らみた親 との関係

や,愛 着形 成 につ い て も調べ る必 要 が あ るだ ろ う。

本研 究 で示 され た ネグ レク ト児 の成 績 の悪 さ につ い

て は,Wodarski et al.(1990),Kendall-Tackett&

Eckenrode(1996)の 指 摘 と一 致す る。 また,Erickson

&Egeland(1996)は ネグ レク トの影響 に よる意欲 の な

さが成 績 に反映 して い る と述 べ てい る。Hildyard&

Wolfe(2002)は ネグ レ ク ト児 に つい て,学 業成績 の低

さだ けで な く,引 き こも りや,友 人 関係 の狭 さ,内 向

Page 9: Child Behavior Checklist/4-18 (CBCL) による 被虐待児の行動 と情 …

118 教 育 心 理 学 研 究 第53巻 第1号

問題が深 刻 で あ り,早 期 のネ グ レ ク トに よって親 との

愛着が形 成 され なかった ことが,認 知 や学業 な ど多 く

の領域 の発 達 に影響 す る と指摘 して い る。今後 の課題

として,虐 待 タ イプに よる愛 着 と問題行 動や コン ピテ

ンス との関 連 につ いて検 討 す る ことが挙 げ られ る。

被虐待児 へ の心 理的ケ アの必 要 性

被虐待 体 験 の有無 に よって,正 常域,臨 床域(境 界域

を含む)に分 けた場合 に差 が あ るか を見 た ところ,「社会

性の問題 」,「注意 の問題 」,「攻 撃 的行動 」,外 向 尺度,

総得点 で有 意差 が認 め られ た。 杉 山 ・中村(2001)の 結

果で は,「 注 意 の問題 」「非行 的行 動」 「攻 撃的 行動 」の

み被虐待 体験 の有無 で上 位5%に 入 る人 数 に有 意 差 が

見 られ た として いる。 この 点 は異 な るサ ンプルで あ る

本研究 の結 果 と一致 す る。 本研 究 で は臨 床域 に境 界域

を含 めて臨床 域 群 としたた め単 純 な比較 はで きないが,

被虐待体 験 の あ る子 どもは,「 社会 性 の問題 」で も何 ら

かの ケアが必 要 な陽性群 に入 る割 合が 多い とい う こ と

が示 されて お り,社 会性 の 面 か らも対応 が必要 で あ る

といえる。

Brady&Caraway(2002)は,虐 待 な どの外 傷体 験

を持 つ治療 施 設 入所 児 を対 象 にTSCCとCBCLに よ

る調査 を行 っ た結果,性 別 や複 数 の外傷体験 と,現 在

のケ アに対 す る満足度 が,子 どもの示 す症状 に影響 し

てい る と述 べ てい る。 この こ とか ら,施 設 に入 所 した

場合,施 設 で どの よ うな生活 を送 るこ とがで きるのか,

満足度 の高 い ケアが され るの かが 問題行動 との関係 で

重要 にな る と考 えられ る。 わが 国 で は平成11年 度 か ら,

厚生労働省 に よ って児童 養護 施 設 に心理職 員 を配置 す

る予算措置 が講 じられ てい る。 ところが,現 実 に実施

されて い る施 設 は限 られ,心 理 職 員 も非常勤 での勤 務

が ほ とん どで あ る。本研 究 の 結 果 か ら,特 に 「社 会

性」,「注意 」の問題 や 「非行 」 「攻 撃性 」な ど として子

どもた ちの問 題 が表面化 す る ケー スの多 い こ とが示 唆

されて お り,生 活 場面 で子 ど もた ちの問題 に対 応 す る

必要性が 高 くな ると考 え られ る。 問題 を抱 えた子 ど も

同士の場合,具 体 的 な生 活場 面 で の トラブルが 予測 さ

れ,そ の際 の適切 な対応 が重 要 で あ る。 つ ま り施 設 の

中での子 ど も集 団の ケアが必 要 にな る と考 え られ る。

安定 した愛 着 関係 を形成 す る上 で も,心 理職 は も とよ

り,実 際 に生 活場 面 で個 別 に対 応 で きる職 員(ケ アワー

カー)の加 配 が不 可欠 であ る。 この ような生 活場 面 を担

当す るケア ワー カー の人 員配 置 につ いて,現 在 の児 童

福 祉施設最 低 基準(平 成12年 厚令128)第7章 第42条3項

で は,児 童 指 導 員お よび保 育 士 は少 年6人 に対 してお

おむね1人 以 上 となってい る。 交代 勤務 であ る こ とを

考えると"18人 の子どもを一人の職員でケアする"(加

賀美,2001)時間帯もあり,衣食住の日常生活のケアに加

えて心理的なケアも必要な子どもが多いとなると,と

ても丁寧な個別対応は困難である。被虐待体験のある

子どもが児童養護施設に増加している現状では,心 理

的ケアが十分に出来る体制が とられているとはまだ言

いがたく,施 設全体での対策が必要である。職員が子

どもたちの問題行動の背景を理解することは重要であ

り,そ のためにも子ども一人一人と十分に関わること

のできる児童養護施設職員の人員配置の見直しを含め

た体制作りが求められる。

まとめ と今後の課題

本研究ではCBCLを 客観的なアセスメン トツール

として,児 童養護施設に入所している虐待を受けた子

どもたちの行動 と情緒の問題の特徴を明らかにした。

児童養護施設に入所している子どもは,一 般の子ども

に比べて問題行動尺度の得点が高 く,何 らかの事情で

家族 と離れて施設に入所していることが行動や情緒の

問題の大きさに影響している可能性が示された。また,

児童養護施設に入所している子どもを被虐待体験の有

無によって被虐待体験のある群(A群)と,被 虐待体験

のない群(N群)に 分けたところ,被 虐待体験が子 ども

の行動や情緒の問題に大きな影響を及ぼすことが確認

された。特に虐待を受けたA群 のほうが,臨 床的に何

らかのケアが必要な子どもが多いことが示された。「社

会性」や 「注意の問題」,「非行」,「攻撃性」といった

問題行動を示す子どもが多いことが明らかになり,施

設内での対応が困難になる可能性が浮かび上がった。

虐待タイプ別の検討で,身 体的虐待とネグレクトでは,

子どもの示す問題に違いがある可能性が示された。虐

待を受けた子どもたちの問題行動に対しては,生 活場

面での適切な対応が重要であり,心 理職のみならず,

子どもと個別に関わることのできる職員の加配など,

施設の人員配置の見直しも含めた体制作 りの必要性が

示唆された。

今後は対象を増やして入所前の生活,虐 待の内容 ・

程度 と行動や情緒の問題 との関連を明らかにしていく

こと,た とえ虐待を受けても,そ の後の回復につなが

る要因を明らかにしていくことなどが課題 として残さ

れている。

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謝 辞

調査 に ご協 力 くだ さい ました児童 養護 施設 の職 員 の

皆様 方 と,李 明憙 先生(国 立病 院機 構三 重病 院)に 厚

く御 礼 申 し上 げ ます 。 また,本 研究 をすす め るにあた

りご指 導 くだ さい ま した名古屋 大学 蔭 山英順 先生,金

子 一史先 生 に感謝 いた します。

(2003.9.5受 稿,'04.11.20受 理)

Page 12: Child Behavior Checklist/4-18 (CBCL) による 被虐待児の行動 と情 …

坪井:Child Behavior Checklist/4-18(CBCL)に よる被虐待児の行動 と情緒 の特徴 121

Behavioral and Emotional Characteristics of Abused Children:

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JAPANESE JOURNAL OF EDUCATIONAL PSICHOLOGY, 2005, 53,110 121

The purpose of the present study was to clarify behavioral and emotional characteristics of abused

children who had been placed in children's-homes. We asked children's-home caretakers to complete Child

Behavior Checklist (CBCL) forms for 142 children (40 boys aged 4-11; 45 boys aged 12-18; 25 girls aged 4-11;

32 girls aged 12-18). The results revealed that the girls had higher Internalizing scores than the boys. Most

notably the 12-18-year-old girls had higher scores for Somatic Complaints and Social Problems. Compari-

son between the children who had been abused (N=91) and those who had not (N=51) showed that the

former had significantly higher scores for Social Problems, Thinking Problems, Attention Problems,

Delinquent Behavior, Aggressive Behavior, Externalizing, and Total Problems. The abused group had

more children who were considered to be clinically significant because of their scores on Social Problems,

Attention Problems, Aggressive Problems, Externalizing, and Total Problems. The present results reveal

the behavioral and emotional problems of children who have been abused and indicate the necessity of

providing psychological care for them.Key Words: Child Behavior Checklist/4-18 (CBCL), child abuse, children's home, behavioral and

emotional problems, children and adoleseents who had been abused