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岡山県立大学 機械加工の基礎(板金加工編) 1 機械加工の基礎(板金加工編) 11/10/07 v.1.1 文責:小武内清貴 0.本書の目的 本書の目的は,システム創造プロジェクト(以下 PBL)後期のロボット製作において,各自が安全 かつ適切な加工を行えるよう,機械加工,その中でも特に手作業による板金加工について解説し たものである. 1.機械加工の流れ ロボット製作に限らず,もの作りにおいて機械加工は,設計・製図された図面を頼りに材料を準 備し,切断や孔開け,曲げ等の加工を行う工程を指す.その後,加工された部品は組み立てられ, 完成する.つまり,適切に加工を行うためには,その前段階において適切な設計・製図を行うこと が重要である.特にグループ作業においては,正しい図面を作成しなければ後工程(ここでは加 工工程)に混乱を招く.2 年次後期の CAD 演習等を思い出しながら適切な製図を行うこと. Fig.1 Schematic diagram of machining. 本書では,この機械加工の流れに沿って説明を行う.

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機械加工の基礎(板金加工編)

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機械加工の基礎(板金加工編)

11/10/07 v.1.1

文責:小武内清貴

0.本書の目的

本書の目的は,システム創造プロジェクト(以下 PBL)後期のロボット製作において,各自が安全

かつ適切な加工を行えるよう,機械加工,その中でも特に手作業による板金加工について解説し

たものである.

1.機械加工の流れ

ロボット製作に限らず,もの作りにおいて機械加工は,設計・製図された図面を頼りに材料を準

備し,切断や孔開け,曲げ等の加工を行う工程を指す.その後,加工された部品は組み立てられ,

完成する.つまり,適切に加工を行うためには,その前段階において適切な設計・製図を行うこと

が重要である.特にグループ作業においては,正しい図面を作成しなければ後工程(ここでは加

工工程)に混乱を招く.2年次後期の CAD演習等を思い出しながら適切な製図を行うこと.

Fig.1 Schematic diagram of machining.

本書では,この機械加工の流れに沿って説明を行う.

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2.材料の準備

2.1素材の選択

PBLでロボット作製に使用する材料の代表的な素材とその特徴を以下に示す.

Table 1 Characteristics of materials.

材質 強度 加工性 特徴

ポリスチレン 低 高

いわゆる“プラ板”,カッターやニッパー等で簡単に加工

でき接着も容易.ただし強度が低いため,力がかかる箇

所に使用したり,重量物(モータ)等を固定すると変形す

る可能性あり.

アクリル 中 中

透明で比較的容易に加工可能.ただし接着には専用接

着剤が必要な場合もある.また容易に“ひび”や“割れ”

が生じる.

アルミ 高 低

強度が高い反面,切断や孔開け等の加工性が低い.ま

たねじ切が可能なため,強度が必要な箇所や,何度も取

り外しをする箇所に使用すると良い.

各自,その部品に求められる性能(強度や加工精度等)を考えて,適切な材料を選択すること.

2.1素材の形状

通常,素材は様々な形状で用意されている.以下に代表的な素材の形状を示す.

Fig.2 Shape of materials.

この様に様々な形状が存在するので,各自よく考え,適切な素材を使用すること.(例えば,板

を曲げて L字に加工しなくても L字アングル材がある)

板材 パイプ材

アングル材・チャンネル材棒材

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2.3加工前の準備

作製する部品に使用する適切な材質・素材形状が選択できればすぐに加工ができるわけではな

い.加工を行う前に準備する必要がある.具体的には以下の2つの準備が必須である.

①ケガキ作業(切断,孔開け,曲げ作業)

②ポンチ打ち(孔開け作業)

2.3.1ケガキ作業

ケガキ作業とは,紙の上に図面を描くのと同様に,材料の上に傷をつけて線を描くことである.

この線を基準に切断を行ったり,孔開けの中心座標を指定したりする.このため正確さが必要とさ

れる.以下にケガキ作業に用いる工具を示す.

Fig.3 Tools for drawing of guide lines.

上図の工具を用いて材料にケガキを行う.その後の工程によってケガキの種類が異なるので,

ここでは代表的な切断,曲げ,孔開け作業に必要なケガキを示す.

Fig.4 Example of guide lines.

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実際には必要な加工にあわせて,最初にまとめてケガいてしまうことが多い.

以下にケガキ作業の手順を示す.

Table 2. Procedure for drawing of guide lines.

ケガく場所にマジックで色を塗る

(ケガキ線を見やすくするため)

金尺とケガキ針,コンパスを用いてケガく

間違えた場合は再度マジックで色を塗れ

ば良い

2.3.2ポンチ打ち

ポンチ打ちとは,センターポンチを用いて,孔開けの中心位置にへこみを作る作業である.下図

にポンチの効果を示す.

Fig.5 Effect of punching.

左図の様に,ポンチ打ちをしていない場合,ドリルの刃先が逃げて上手く孔開けができないだ

けでなく,場合によってはドリルが折れるため危険である.ポンチ打ちをし,材料に凹みがあれば

ドリルの刃先位置が安定し,正確に孔開けが可能である.

ポンチ打ちは下図に示すセンターポンチとハンマを用いて凹みを作る作業である.センターポン

チの先端をケガキの交点に合わせ,ハンマで打撃する.この際上手くケガキの交点とポンチ先端

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を一致させるのは熟練が必要である.

Fig.6 Punch.

まずケガキ線上にポンチの先端を一致させる.そのまま,軽く滑らせるようにポンチを動かすと

比較的簡単にケガキ線の交点にポンチ先端を移動させることができる.交点にポンチが移動した

ら,加工物とポンチが垂直になるように手でポンチを保持し,ハンマで打撃する.言うまでもないが

ハンマで手を打たないように注意すること.

Fig.7 Example of punching.

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3.切断

以下に PBLで使用できる切断工具の紹介と,材質・形状別に適当な切断方法を紹介する.

Table3 Cutting tools.

①ハサミ

薄プラ板(~t0.5mm)の切り出し

②ニッパ

ワイヤの切断

③カッタ

プラ板(~t1.0mm)の切り出し

④Pカッタ

基板や t3mm 程度までのアクリル板

やプラ板の切断

⑤手鋸

t5mm程度までのプラ板,アクリル板

アルミ板(□50mm程度)

φ5mm程度までの棒の切断

⑥シャーリング

小形:

幅 120,t2mmまでのアルミ板の切断

φ6mmまでのアルミ棒の切断

大形:

幅 230,t2mmまでのアルミ板の切断

φ8mmまでのアルミ棒の切断

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⑦帯鋸盤

t10mm程度の板の切断

⑧高速切断機

□20,φ20mm程度の棒の切断

⑨弓鋸盤

□50,φ50mmまでの棒の切断

①~⑥(小型)までは薄く小形の材料の切断に使用でき,踊り場の作業スペースにて使用可能

である.⑥(大型),⑦~⑨は厚く大形の材料向きであり,使用には教員の許可が必要である.使

用したい場合は教員に許可を得た後,工作室に移動し,教員の監督下で使用すること.

3.1カッタ(Pカッタ)の使い方

以下にカッタの使い方を示す.

Fig.8 Cutting instruction for cutter knife.

刃を出しすぎないように注意し,腕を前後に動かすようにして切る.1 回で切ろうとせずに,何回

か弱い力で繰り返し切る(なぞる).板の厚みの 1/3 程度まで溝が入ったら,溝に沿って折り曲げ

て切断する.切れ味が悪くなってきた場合は,刃を折る(カッタ),もしくは交換(P カッタ)して新しい

刃を使用する.手工具であるが,大きな怪我に繋がる工具なので安全に注意して(手の位置や力

加減等)使用すること.

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3.2金鋸の使い方

以下に金鋸の使い方を示す.

Fig.9 Cutting instruction for hacksaw.

切断時には大きな力がかかるので,被切断物の形状に合わせて,適切に固定すること.また金

鋸は一般的な木工用ノコギリ等と違い,鋸を押す際に力を入れて切断する押し切りになる.

3.3シャーリングの使い方

以下にシャーリングの使い方を示す.

Fig.10 Cutting instructions for shearing machine.

テーブルにはケガキがあるのでセットの目安にすると良い.また,シャーリングは構造上切り落

とされた物に曲がりが生じるため,使用する部位をテーブル側に,切り落とす部位を刃の側にセッ

トすること.

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3.4バリ取り

切断時にバリと呼ばれる突起が切断面にできることがある(下図左).

Fig.11 Detail of burr.

バリがあると,その後の作業の妨げになるだけでなく,怪我に繋がるため,以下の様な工具を

使って除去する必要がある.

Table 4 Tools for deburring.

①五本組ヤスリ

直線部や広範囲のバリ取りに使用

ヤスリ部が平,半円,丸,四角,三

角形の五本が組になっている

②バリ取りバー

曲線部や細部のバリ取りに使用

ヤスリはバリの除去だけでなく,曲線切断の仕上げ等にも用いる.形状に合わせて適切な形状

のヤスリを用いると良い.バリ取りバーは下図の様にバリ部に刃を当て,手前に引く様になぞって

使用する.

Fig.12 Deburring instruction.

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4.孔開け・ねじ切

4.1孔開け

以下に孔開けに使用する工具類を示す.

Table 5 Machine tools for drilling.

①ピンバイス

φ3mm程度までのドリルを使用

薄板で基板やプラ,アクリル等の樹

脂素材に使用

②手回し式ハンドドリル

φ6mm程度までのドリルを使用

薄板の孔開けに使用

③ハンドニプラ

角孔を開ける際に使用

t2mmまでの薄板に使用可能

使用にはφ10の下孔が必要

④電動ハンドドリル

φ10mm程度までのドリルを使用

t5mm程度までの素材に使用

⑤ボール盤

φ13mmまでのドリルを使用

t10mm程度までの素材に使用

①~③はアルミ薄板や樹脂の孔開けに使用でき,踊り場の作業スペースにて使用可能である.

④および⑤は厚みのある材料や大径の孔開け向きであり,使用には教員の許可が必要である.

使用したい場合は教員に許可を得た後,工作室に移動し,教員の監督下で使用すること.

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4.1.1孔開けの基本

孔開けに使用する工具と手順を以下に示す.

Table 6 Tools for drilling.

①組ドリル

10~20本程度のドリルセット

②テーパリーマ

孔を拡大する

③面取りカッタ

孔開けで発生したバリを取り除く

①孔位置を材料にケガキ,ポンチ打ち(2章で説明済)

②適切なドリルを選ぶ

③加工物を固定する

③孔を開ける(必要であればリーマで孔を拡大する)

④面取りカッタでバリを取り除く

⑤ハンドニブラで孔形を調整する(角孔の場合)

それぞれの手順での注意点を以下に述べる.

4.1.2 ドリルの選び方

以下にドリルの形状を示す.

Fig.13 Detail photo of drill.

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ドリルは孔開けに使用する工具の中で最もよく使われるものである.棒状の先端が刃になって

おり(Fig.13 左図),回転しながら被削物に押し当てることによって孔開けが行われる.切粉(切り

屑)は棒に刻まれた螺旋状の溝に沿って排出される.ドリルの径は基本的にφ6.5mm 程度までは

0.1 刻みで,それ以上は 0.5mm 刻みとなっている.それ以外の径の孔を開ける場合はテーパリー

マを併用する必要がある.

ドリルを機械にセットする前に,以下の 2点を確認する(Fig.13右図).

(a)刃先の角度が左右で等しいか

(b)刃先に逃げ角があるか

以上の 2 点が適切でないドリルは孔開けには適していない(押し付けて回転させても殆ど切れ

ない)ため,再研磨をする必要がある.各自気付いたら,そのドリルを使用せず,教員まで報告す

ること.

4.1.3加工物の固定

孔開け作業の際に,加工物(孔開けの対象物)を適切に固定せずに作業を行うと,ドリルの折

損や,加工物がドリルと共に回転するなど,非常に危険である.ここでは加工物の適切な固定に

ついて説明する.

Fig.14 Clamp of work for drilling.

加工物が大型で厚みがある場合や電動ドリルを用いて孔開けする場合は Fig.14(a)に示すよう

な万力を用いて固定するのが良い.ハンドドリルやピンバイスを用いる場合は(b)の小型バイスに

固定しても良い.薄板等で万力やバイスでの固定が難しい場合,Fig.14(c)の様に机の角等にクラ

ンプを用いて固定しても良い.ただし,木の板等の敷板を敷いた上に固定すること(敷板をせずに

孔を開けると机に孔が開く).不適切で危険な作業を発見したら,その日の作業を中止させる場合

がある.

4.1.4 ドリルの使用時の諸注意

適切なドリルの選定と加工物の固定が出来たら孔を開ける.その際の注意点を以下に述べる.

①服装に関する注意

ドリルは回転物である.巻き込みが発生しない様に服装に注意する.具体的には長髪であれば

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髪をくくる.マフラーやネクタイ等巻き込まれやすい物を外す.手袋(軍手)をしない.また切子や

加工物が飛散・落下した場合等に怪我をする可能性があるので,出来るだけ安全メガネを着用し,

靴履きで作業すること.

②孔開け姿勢

下図の様にドリルが加工物に対して垂直になるように孔開けを行う.

Fig.15 Angle of drilling.

左図の様に傾けてドリルを押し付けると,ドリルが折損し飛散する可能性がある.設計上どうし

ても傾けた孔を開けたい場合は教員に相談すること.

③バリ,切粉について

ドリルで孔を開けると貫通側に下図左側の様なバリが発生する.

Fig.16 Detail photo of drilling holes.

バリは図の様に盛り上がっており,このまま組み立てると面に対する垂直が出ない.またバリ

は鋭利なため,そのまま放置すると手を切る可能性がある.そこで面取りカッタや,孔径の 2 倍程

度の直径のドリルを使って Fig.16 右側の様に面取りを行う.切粉(切り屑)もバリと同様に鋭利な

ので素手で触らない事.

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4.1.5ハンドニブラの使い方

大きい角孔(□10mm 以上)を開ける場合,ハンドニブラを用いと便利である.以下にハンドニブ

ラの構造を示す.

Fig.17 Detail photo of hand nibbler.

ハンドニブラは本体とハンドル,ハンドルに連動して上下に動くダイからなり,ダイ部を下孔に挿

入し,ダイと本体の間に板を挟み込むようにして直線状に切り取る構造を持つ.

以下にハンドニブラを用いた角孔加工の手順を示す.

Fig.18 Cutting instructions for hand nibbler.

一度に切断できる量は 2×6mm程度である.角孔が大きい場合,複数の下孔を開け,切除する

面積を少なくすると良い.また小さい角孔を開けたい場合は,ヤスリ等を用いて整形する方法が

ある.

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4.2ねじ切り

4.2.1ねじの基礎とその種類

ねじは円柱や円錐の側面に螺旋状の溝(ねじ部)を設けたものであり,部品同士の締結(下図

左)や回転運動を直線運動に変換する(下図右)際などに用いられる機械要素の一種である.

Fig.19 Example of using of screws.

ねじ部が円柱の外側にあるものをおねじ,内側にあるものをめねじと呼ぶ.ねじには大きく分け

て木ねじやタッピングねじ等のめねじを必要としないねじ(下図左側)と,めねじとのセットで使用す

るボルト(下図右側)に分けられる.

Fig.20 Example of screws.

木ねじやタッピングねじは一般的にネジ部の間隔(ピッチ)がボルトに比べ大きくなっており,形

状も円錐の様に先細りになっている.木ねじやタッピングねじはめねじを必要としないので,ねじ

径よりも 1mm 程度小さな径のドリルで孔を開ければ使用できる.しかし構造状再利用できないの

で,繰り返し取り外しを行う場所や,回転運動を直線運動に変換する用途に使用出来ない.そう

いう用途にはボルトを用いること.

上記の分類の他にも,ねじ溝の形状やピッチ間隔,締め付け部の形状等の違いで多種多様な

ねじが存在するが,本書では最も一般的に使用されるねじ規格であるメートル並目ねじについて

説明を行う.

メートル並目ねじは JIS によって規格化されているねじの一種で,直径やピッチなどがメートル

単位系を用いて規定されている.ねじ溝は 60 度の三角形状である.以下に小径のメートル並目

ねじの寸法を示す.

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Table 7 Standard for metric coarse thread.

ねじの呼び ピッチ [mm] 外径 [mm] 谷径 [mm]

M2 0.4 2 1.567

M3 0.5 3 2.459

M4 0.7 4 3.242

M5 0.8 5 4.134

M6 1.0 6 4.917

M8 1.25 8 6.647

M10 1.5 10 8.376

Fig.21 Schematic illustration of thread.

ねじの使用に関して,例えば下図の様なA・B部品の締結をする場合,両部品にめねじを切ると

締結することができない(めねじの溝の位相が異なるため).そこで,下図中央の様に,片側の部

品をバカ孔(ねじの外径よりも 5 %程度大きな孔)にして,締め付けるか,下図右の様に両方の部

品をバカ孔にし,ナットを使って締結する必要がある.

Fig.22 Examples of threaded connections.

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4.2.2ねじ切りに使用する工具

以下にねじ切りに使用する工具を示す.

Table 8 Tools for making of thread.

①タップ

めねじを切るのに使用

1~3 番の 3 本がセットになった組タ

ップと 1番のみのタップがある

タップハンドルと一緒に用いる

②ダイス

おねじを切るのに使用

ダイスハンドルと一緒に用いる

③タップハンドル

タップを固定して回転させる

タップの大きさに適したサイズを使

用する

④ダイスハンドル

ダイスを固定して回転させる

ダイスの大きさに適したサイズを使

用する

⑤切削油

ねじ切り時に少量用いる

めねじを切る場合,①,③,⑤を用い,おねじを切る場合は②,④,⑤を用いる.

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4.2.3 タップの使い方

タップを用いためねじ切りについて説明する.材料にめねじを切る場合,材料に適切な下孔が

開いている必要がある.また薄板に大径のねじを開けることは出来ない(ねじのピッチとの関係).

以下にねじの呼びと下孔径,最低板厚を示す.

Table 9 Thread and hole size before threading.

ねじの呼び 下孔径 [mm] 最低板厚 [mm]

M2 1.6 1.2

M3 2.5 1.5

M4 3.3 2.0

M5 4.2 2.4

M6 5.0 3.0

M8 6.8 3.6

M10 8.5 4.5

組タップは 1~3 番のタップがセットになっており,その見分けは下図の通りである.貫通孔の場

合は 1番タップのみを使えば良いが,止め孔などで,下孔の底部までねじ切が必要な場合は,1,

2,3番の順番に繰り返しタップを使用する.

Fig.23 Detail photo of set taps.

通常薄板に貫通のねじ穴を切る場合は 1番タップのみを使用すれば良い.

タップを用いためねじ切りは,まずタップハンドルに切りたいねじに合わせた 1 番タップをセット

する.下孔とタップに軽く切削油をスプレーし,材料に対して垂直になるよう注意しながらタップを

挿入する.ハンドルを握り,タップを時計回りに少し(90 度程度)回しては半時計回りに戻す(45 度

程度)ように動かし,切り屑がタップの中に溜まらないようにする.細いタップは簡単に折れてしま

うため,注意すること.

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4.2.4ダイスの使い方

ダイスを用いたおねじ切りについて説明する.材料におねじを切る場合,材料がねじの外径と

等しくなっている必要がある(ねじの外径は Table7を参照).

Fig.24 Example of stepped thread.

上図の様に,棒に対して段付き状におねじを切りたい場合,棒の外径を変更する必要がある.

上記の様な加工をしたい場合,事前に教員に相談すること.

ダイスを用いたおねじ切りも,タップを用いためねじ切りと同様に,まず切りたいねじに合わせた

ダイスをダイスハンドルにセットする.材料とダイスに軽く切削油をスプレーし,材料に対して垂直

になるように注意しながらダイスを押し当てる.ダイスを時計回りに少し(90 度程度)回しては半時

計回りに戻す(45度程度)ように動かし,切り屑がダイスの中に溜まらないようにする.

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5.曲げ

以下に曲げ加工に使用する工具を示す.

Table 10 Tools for bending.

①ベンダ

t2.0mmまでのアルミ板の曲げが

可能

②シャコ万力

ベンダの押え金の補助に使用

5.1ベンダの使い方

適切にケガキ(2 章参照),切断,バリ取り(3 章参照)された材料をベンダにセットする.部品に

孔やネジ孔がある場合は先に作業(4 章参照)を行っておく.ベンダは蝶番構造を持つ本体と,折り

曲げ部を動かすハンドル,押え金からなる.

Fig.25 Schematic illustration of bending machine.

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押え金には図に示すように 11個の溝があり,溝 1個,もしくは組み合わせることによって様々な

間隔で箱形状の曲げ加工も可能である.箱形状の曲げ加工を行う場合,寸法に注意が必要であ

る.具体的には下図の寸法 Aおよび Bは 30 mm以下,寸法 Cは Fig.25に示す加工可能な間隔

と一致させる必要がある.

Fig.26 Dimension of box.

通常の曲げ加工では,下図の様に曲げの折り曲げ線のケガキを,本体の蝶番部(ハンドルに

て稼働する部分)と押え金の端に一致させる.その後押え金と本体とをシャコ万力で締め付け,ハ

ンドルを操作し曲げ加工を行う.

Fig.27 Example of bending.

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6.工具の保管場所

3F踊り場の稼働机 1には以下の工具が保管されている.

Fig.28 Storage location of tools at table1.

3F踊り場の稼働机 2には以下の工具が保管されている.

Fig.29 Storage location of tools at table2.

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2314室の稼働机 1には以下の工具が保管されている.

Fig.30 Storage location of tools at table3.

2314室の稼働机 2には以下の工具が保管されている.

Fig.31 Storage location of tools at table4.

各自,工具を使った後は正しい場所に戻すこと.また工具が汚れた場合は綺麗に清掃して戻す

こと.以上が守られていないと判断した場合は時間外作業の禁止や,該当者への作業の禁止を

命じることがある.

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7.加工例

下図に示すモータブラケットを例に実際の加工手順を解説する.ここで説明するモータブラケッ

トは t2.0mm のアルミ板を切断後,孔開け,めねじ切り,曲げ加工を行うもので,Fig.28 に三面図を,

Fig.29に展開図をそれぞれ示す.

Fig.32 Three-view drawing of motor bracket.

Fig.33 Development view of motor bracket.

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以下にモータブラケットの製作手順を示す.

Table 11 Procedure for sheet metal working.

①ケガキ&ポンチ打ち

t2.0のアルミ板にケガキを行う

その後の加工の基準となるので正

確にケガキを行う

孔中心にはポンチ打ちを行う

②切り出し&バリ取り

ケガキに沿ってアルミ板を切断する

切断面のバリは取り除く

③孔開け

ドリルを使って孔開けを行う

ねじ部は M3 ピッチ 0.5mm のねじな

ので 2.5mmのドリルで孔開けを行う

大径の孔(10mm)はいきなり 10mm

のドリルを使わずに,6mm→10mm

と段階的に孔を大きくする

孔開け後はバリ取りを行う

④ねじ切り

M3 ピッチ 0.5mm のタップを使ってね

じ切りを行う

板に対してタップが垂直になるよう

に注意しながら 1 番タップを挿入す

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⑤曲げ

ケガキ線を頼りに曲げ加工を行う

複雑な形状の曲げ加工を行う場合,

曲げる手順を間違えると加工できな

くなるため注意する

⑥完成

この様に,一見複雑な形状であっても,手順を間違えずに行えば手作業でも十分加工可能であ

る.本書の内容を参考に,各自独創性のあるロボットの製作を行って欲しい.

また,最後になるが,安全にはくれぐれも注意を払うこと.大がかりな機械を用いない手作業で

の加工が中心とはいえ,怪我をする可能性はある.各自怪我につながるような危険な作業を行わ

ないこと.

以上.