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2009 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan 2008年度における 中小企業を巡る経済金融情勢 1

中小企業を巡る経済金融情勢 2008年度における …...2008年度における中小企業を巡る経済金融情勢 第1章 中小企業白書 2009 3 第 1 節 市場では資金の枯渇や金利の上昇が生じ、クレ

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2009 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

2008年度における中小企業を巡る経済金融情勢 第1章

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2 2009 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

2009 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

2008年度における中小企業を巡る経済金融情勢

第1章Chapter 1

2008年度は、中小企業にとって、経営環境が急激に悪化し、一段と厳しさを増した一年であった。米国発の金融危機が世界規模に拡大し、我が国経済については、特に2008年秋以降、輸出の大幅な減少等を背景に、景気が急速に悪化した。その影響は中小企業を直撃し、中小企業の業況は一段と悪化した。本章では、こうした内外の経済金融情勢を振り返りながら、2008年度における中小

企業の景気動向を見ていく。

第1節 2008年度の内外経済の動向 Section 1第1節

1. 世界的な金融危機と経済成長の減速

2007年夏に発生したサブプライム住宅ローン問題は、世界的な金融・資本市場の動揺につながり、とりわけ2008年夏に米国の大手投資銀行リーマン・ブラザーズが破綻したことを契機に、世界的な金融危機へと拡大した。こうした金

融危機に伴って世界経済が減速し、我が国の輸出や生産は急速に減少することとなった。本節では、今回の世界的な金融危機の様相を概観するとともに、2008年度における内外経済の動向を見ていくこととしよう。

世界規模の金融危機が発生し、2001 年以降成長を持続してきた世界経済は急速に減速している。IMFの経済見通しによると、2009年の日米欧の実質GDP(国内総生産)の成長率はマイナス成長となり、アジアも 5.5%成長にとどまると見込まれている(第 1-1-1 図)。ここで、今回の世界的な金融危機について、その背景や具体的な推移を振り返っておこう。

○サブプライム住宅ローン問題と証券化商品今回の世界的な金融危機の主な震源の一つが、米国のサブプライム住宅ローン問題である。米国では、2000 年頃から住宅ブームが起こり、低所得者等に対し、その信用力の低さは住宅の担保価値で補完されることを想定して貸付けが行われる、サブプライム住宅ローンが拡大した。しかし、上昇していた住宅価格は 2006年に入って下落に転じ、サブプライム住宅ローンの多くが不良債権

化した(第1-1-2 図)。サブプライム住宅ローンは、その返済を引当として組成された証券化商品が欧米の金融機関によって多額に保有されていたことから、証券化商品の価格の下落により欧米の金融機関が多額の損失を被った。また、米国と同様の住宅バブルの崩壊は、英国、スペイン等でも起こり、世界的に金融市場が混乱するに至った。

○世界的な金融危機への拡大2007 年夏以降、こうしたサブプライム住宅

ローン等の問題が金融市場全体の混乱を招き、2008 年 9 月に米国の大手投資銀行リーマン・ブラザーズが破綻したことを契機に、世界的な金融危機へと拡大し、世界的に株価が下落した(第1-1-3 図)。欧米を始めとした金融機関の経営不安が高まり、金融機関は相互の財務状態に対する不信を抱くようになったことから、短期金融

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2008年度における中小企業を巡る経済金融情勢

第1章

3中小企業白書 2009

第1節

市場では資金の枯渇や金利の上昇が生じ、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)1 につ

いても、取引価格(プレミアム)が急上昇した(第1-1-4 図)。

1 クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)は、デリバティブの一種であり、予め定められた信用状態に係る事由(債務不履行等)が発生した場合に一定の金銭を支払うことを約する取引である。金融機関等によってリスクヘッジ等の目的で活用され、CDSの取引残高は2008年6月時点で5,541億ドルとなっている(出所:日本銀行「デリバティブ取引に関する定例市場報告」の調査結果(2008年8月))。

1 クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)は、デリバティブの一種であり、予め定められた信用状態に係る事由(債務不履行等)が発生した場合に一定の金銭を支払うことを約する取引である。金融機関等によってリスクヘッジ等の目的で活用され、CDSの取引残高は2008年6月時点で5,541億ドルとなっている(出所:日本銀行「デリバティブ取引に関する定例市場報告」の調査結果(2008年8月))。

第1-1-1図 国別・地域別実質経済成長率の推移

資料:IMF "World Economic Outlook Database for October 2008","World Economic Outlook Update January 2009"より(注) 2006年までの数値は、World Economic Outlook Database for October 2008の数値。2007年以降の数値は、World

Economic Outlook Update January 2009の数値より。

▲0.3

▲2.6

1.1

▲1.6

5.5

1.0

▲2.0

3.4

0.5

▲4.0

▲2.0

0.0

2.0

4.0

6.0

8.0

10.0

12.0(%)

2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008(予測)2009(予測)

(年)

日本 アメリカ アジア ヨーロッパ 世界

7.8

~世界規模の金融危機が発生し、2001年以降成長を持続してきた世界経済は急速に減速している~

第1-1-2図 アメリカにおける住宅市場価格の推移

~アメリカにおける住宅市場価格は、サブプライム住宅ローン問題以降、下落傾向に転じた~

資料:スタンダード&プアーズ社より作成

0

50

100

150

200

250

300

350

400

450

3 6 9 12 3 6 9 12 3 6 9 12 3 6 9 12 3 6 9 12 3 6 9 12 3 6 9 12 3 6 9 12 3 6 9 122000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008

▲50

▲40

▲30

▲20

▲10

0

10

20

30

主要10都市圏(左目盛) 前年同月比(右目盛)(2000 年1月=100) (%)

(年月)

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4 2009 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

第1節 2008年度の内外経済の動向

また、欧米の金融機関の経営不安や金融・資本市場の混乱に加え、我が国と欧米諸国の金利差が縮小したことにより、為替レートは急激に円高の

方向に振れ、円・ドルレートは一時 1ドル 90円を超え、その後高水準で推移した(第1-1-5 図)。

30405060708090100110120130140150160

日本(日経平均) 米国(ダウ平均) 英国(UKX)ドイツ(DAX) 中国(HSI) インド(SENSEX)

6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 32007 2008 2009

(年月)

リーマン・ショック

(2007年6月=100)

第1-1-3図 世界各国の株価の推移

資料:ブルームバーグより作成(注) 株価は週次のデータを採用している。

~リーマン・ショック以降、各国の株価は大きく下落。その後、低調に推移している~

6 7 8 9 10 11 12 1 2 32008 2009

0

20

40

60

80

100

120

140

160

180

200

日本 米国 英国 ドイツ スペイン(bp)

(年月)

第1-1-4図 各国のCDSプレミアム(国債5年物とのスプレッド)

資料:ブルームバーグより作成(注) CDSプレミアムは日次のデータを採用している。

~リーマン・ショック以降、短期金融市場では資金の枯渇や金利の上昇が生じ、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)についても、取引価格(プレミアム)が急上昇した~

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2008年度における中小企業を巡る経済金融情勢

第1章

5中小企業白書 2009

第1節

2. 我が国の経済情勢の悪化

我が国経済は、2002 年 2月から景気の緩やかな回復を 5年半にわたり続けてきたが、2007 年11月から景気後退局面に入った 2 。第 1-1-6 図が示すとおり、実質GDP成長率は、世界経済の持続的な成長を背景とした輸出の増加と、それに伴う設備投資の増加によって牽引されてきた。他方、

過去の景気拡張局面に比べて、家計部門の所得が伸びが弱く、消費需要は総じて伸び悩んだことから、外需が経済成長を支える形となっていた。そうした中、世界的な金融危機と世界経済の減速が生じたことに伴い、外需が大幅に減少し、輸出型の製造業を中心に生産はかつてない速度で急

2 景気循環の山・谷を示す景気基準日付は、内閣府経済社会総合研究所で開催される景気動向指数研究会の議論を経て設定される。2009年1月29日に開催された同研究会の議論を経て、2002年2月から拡張を続けた景気の山として、2007年10月が暫定的に設定された。付注1-1-1を参照。

2 景気循環の山・谷を示す景気基準日付は、内閣府経済社会総合研究所で開催される景気動向指数研究会の議論を経て設定される。2009年1月29日に開催された同研究会の議論を経て、2002年2月から拡張を続けた景気の山として、2007年10月が暫定的に設定された。付注1-1-1を参照。

0.3

▲ 1.2▲ 0.4

▲ 3.2▲ 4.0▲ 5.0

▲ 3.0▲ 2.0▲ 1.0

1.00.0

2.03.04.05.0

2008年 Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ

0.2 0.3 1.4

2.71.9 2.0

2.4

▲ 0.6

2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008

民間最終消費支出 民間住宅 民間在庫品増加

民間企業設備 外需 公需 国内総生産(支出)

(年) (年期)

(%)

第1-1-6図 GDP成長率とその寄与度

~実質GDP成長率は、2008年度4-6月期から10-12月期まで3四半期連続でマイナス成長となり、特に10-12月期は前期比3.2%減、うち外需の寄与度は3.0%減に達した~

資料:内閣府「国民経済計算」(注) 1. 実質GDPは2000年暦年連鎖価格GDP。 2. 四捨五入の関係上、各項目の寄与度の合計は必ずしも国内総生産(支出側)の増加率には一致しない。

80

85

90

95

100

105

110

115

120

125

130

110

120

130

140

150

160

170

180対ドル(左目盛) 対ユーロ(右目盛)

6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3

2007 2008 2009

(円/ドル) (円/ユーロ)

(年月)

第1-1-5図 為替レートの推移

~リーマン・ショック以降、急激に円高が進行した~

資料:ブルームバーグより作成(注) 為替レートは日次のデータを採用している。

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6 2009 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

第1節 2008年度の内外経済の動向

減した。実質GDP成長率は、2008年度 4-6 月期から 10-12 月期まで 3四半期連続でマイナス成長となり、特に 10-12 月期は前期比 3.2%減、うち外需の寄与度は3.0%減に達した(第1-1-6 図)。

○輸出と生産の急速な減少財務省「貿易統計」によると、我が国の貿易収支は、1月を除き、2008年 8月に 26年ぶりの赤字になり、9月に黒字となったが、10月以降 4ヶ

月連続で赤字が続いた(第 1-1-7 図)。自動車を中心に、米国向けやEU向けの輸出が大幅に減少しており、アジア向け輸出、そのうち中国向け輸出も、それぞれ80ヶ月、41ヶ月ぶりに減少に転じた。急激な円高の影響もあり、自動車など輸出型の製造業は、急激な生産の減少と業績悪化に直面している(第 1-1-8 図)。鉱工業生産指数は、2009 年 1月に前月比 10.2%減と過去最大の下落率を更新するなど、急速に低下し(第 1-1-9 図)、

第1-1-8図 自動車(四輪・乗用車)生産・輸出の推移

資料:(社)日本自動車工業会

▲70.0

▲60.0

▲50.0

▲40.0

▲30.0

▲20.0

▲10.0

0.0

10.0

20.0

30.0

40.0

9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2

2007 2008 2009

(前年同月比)生産 輸出(%)

(年月)

~自動車など輸出型の製造業は、急激な生産の減少に直面している~

第1-1-7図 貿易収支の推移

~我が国の貿易収支は、1月を除き、2008年8月に26年ぶりの赤字になり、9月に黒字となったが、10月以降4ヶ月連続で赤字が続いた~

資料:財務省「貿易統計」(注) 輸入額の値については、マイナスで表示。

-8

-6

-4

-2

0

2

4

6

8

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 1112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 1112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 1112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2

2005 2006 2007 2008 2009

輸出額 輸入額 収支(兆円)

(年月)

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2008年度における中小企業を巡る経済金融情勢

第1章

7中小企業白書 2009

第1節

下請中小企業は、受注の大幅な減少や延期など、極めて厳しい状況に直面することとなった。こうした下請取引を通じた中小企業の業況への影響に

ついては、後の第3節でより詳しく見ていくこととしよう。

3. 雇用情勢の悪化

生産の急速な減少は、雇用面にも波及し、非正規労働者の雇止め等が続発し、雇用情勢は厳しさを増した。有効求人倍率と失業率は、2002 年以降の景気回復に伴い、総じて見れば改善を続けてきたが、2007年後半から、有効求人倍率の低下、失業率の上昇に転じ、特に 2008 年度後半以降、急速に悪化しつつある(第1-1-10 図)。

○非正規労働者の雇止め等とりわけ、輸出や生産の急速な減少に直面した製造業において、派遣労働者など非正規労働者の雇止め等が急増し、社会的注目が集まった。厚生労働省が、2009年 3月 19日時点で確認できた限

りで、2008 年 10月から 2009 年 6月までの非正規労働者の雇止め等の実施済み又は実施予定は、全国で2,968事業所、19万 2,061人に達しており、そのうち製造業が 18万 1,130 人で、全体の 94%を占めている(第1-1-11 図)。また、学生の採用内定の取消しも増加し、厚生労働省が 2009 年 3月 23日時点で確認できた限りで、404事業所、1,845人に達している。このように、2008 年度の雇用情勢は急速に悪化したが、年度末に向けて引き続き生産調整が続いており、今後の雇用情勢の推移に十分注視する必要がある。

第1-1-9図 鉱工業生産指数の推移

資料:経済産業省「鉱工業生産指数」

60

70

80

90

100

110

120

(年月)

1 2 3 4 5 6 7 8 9101112

03

1 2 1 23 4 5 6 7 8 9101112

08

1 2 3 4 5 6 7 8 9101112

07

1 2 3 4 5 6 7 8 9101112

06

1 2 3 4 5 6 7 8 9101112

05

1 2 3 4 5 6 7 8 9101112

04

▲12

▲10

▲ 8

▲ 6

▲ 4

▲ 2

0

2

4

生産指数(左目盛) 前月比(右目盛)

▲10.2%

09

(2005年=100) (%)

~鉱工業生産指数は、2009年1月に前月比10.2%減と過去最大の下落率を更新した~

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8 2009 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

第1節 2008年度の内外経済の動向

4. 原油・原材料価格の高騰と急落

原油・原材料価格は、とりわけ 2007年後半から急騰し、中小企業を含め、我が国経済に大きな影響を与えた。第 1-1-12 図は、原油価格の代表的な指標であるWTI原油価格 3の推移を示したものであるが、

2004 年頃から上昇傾向を示し、2007 年夏以降、史上最高値を更新し続けた。その背景には、中国等の新興国を中心とした需要増大や、産油国の政情不安等の地政学的リスクの高まりに加え、年金基金等の投資資金やヘッジファンド等の投機資金

3 WTI (ウエスト・テキサス・インターメディエイト)は、ニューヨーク商品先物市場で取引されているアメリカ産の原油の一種。3 WTI (ウエスト・テキサス・インターメディエイト)は、ニューヨーク商品先物市場で取引されているアメリカ産の原油の一種。

0.0

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

1.2

98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 083 6 9 12 3 6 9 12 3 6 9 12 3 6 9 12 3 6 9 12 3 6 9 12 3 6 9 12 3 6 9 12 3 6 9 12 23 6 9 123 6 9 12

3.0

3.5

4.0

4.5

5.0

5.5

6.0(倍) (%)

(年月)

有効求人倍率(左目盛) 完全失業率(右目盛)

09

第1-1-10図 有効求人倍率と失業率

資料:総務省「労働力調査」、厚生労働省「職業安定業務統計」

~2002年以降の景気回復に伴い、総じて見れば改善を続けてきたが、2007年後半から、有効求人倍率の低下、失業率の上昇に転じ、特に2008年度後半以降、急速に悪化しつつある~

(人)

合計 製造業 運輸業 卸・小売業 その他

派遣

期間満了 58,723 56,625 274 115 1,709その他

(中途解除等) 66,616 66,012 297 41 266

計 125,339 122,637 571 156 1,975

契約(期間工等)

期間満了 31,889 30,427 80 58 1,324その他

(解雇等) 7,306 6,526 327 244 209

計 39,195 36,953 407 302 1,533

請負

期間満了 6,538 5,611 0 3 924その他

(中途解除等) 9,018 8,099 39 0 880

計 15,556 13,710 39 3 1,804

その他

期間満了 5,215 3,432 92 479 1,212その他

(解雇等) 6,756 4,398 159 1,626 573

計 11,971 7,830 251 2,105 1,785

第1-1-11図 非正規労働者の雇止め等の状況について

資料:厚生労働省「非正規労働者の雇止め等の状況について(3月報告速報)」(注) 1. 派遣又は請負契約の期間満了、中途解除による雇用調整及び有期契約の非正規労働者の期間満了、解雇による雇用調整につ

いて、2008年10月から2009年6月までに実施済み又は実施予定として、3月19日時点で把握できたものを集計。 2. 「その他(中途解除等)」、「その他(解雇等)」は、中途解除及び不明、解雇及び不明である。

~輸出や生産の急速な減少に直面した製造業において、派遣労働者など非正規労働者の雇止め等が急増している~

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2008年度における中小企業を巡る経済金融情勢

第1章

9中小企業白書 2009

第1節

が流入したことが要因として考えられている。WTI価格は、2008年度に入った後も、更に騰勢を強め、2008 年 7月に 145 ドル/バレルの最高値を記録したが、その後、世界的な金融危機が発生し、世界経済の減速に伴う原油需要の減退が見込まれるようになり、WTI価格は下落に転じた。2008年 12月には 1バレル 30ドル台まで急落し、

その後、おおむね40ドル台で推移している。また、第 1-1-13 図は、鉄鋼、アルミ、銅等の金属価格の推移を示したものであるが、2007 年から 2008年にかけて高騰した後、2008年末頃には高騰以前の水準に戻ってきている。こうした原油・原材料価格の高騰は、中小企業の収益を大きく圧迫した。第 1-1-14 図は、中小

第1-1-13図 金属価格の推移

~金属価格は、2004年に入り上昇しはじめ、高水準で推移してきたが、最近は下落が続いている~

資料:日刊産業新聞「鉄鋼需給統計」、「LME月間統計」(注) 1. 金属価格は月次データを採用している。 2. H形鋼板の価格は、東京市場の安値。アルミ、銅、ニッケル、亜鉛はLME価格の平均値。

0

100

200

300

400

500

600

700

3 6 9 12 3 6 9 12 3 6 9 12 3 6 9 12 3 6 9 12 3 6 9 12 3

03 04 05 06 07 08 09

H形鋼板 アルミ 銅 ニッケル 亜鉛(2003年1月=100)

(年月)

30

50

70

90

110

130

150WTI ブレント 日経ドバイ(ドル/バレル)

2007 2008 2009

6 7 8 9 101 2 3 4 5 11 12 61 2 1 23 34 5 7 8 9 10 11 12

(年月)

第1-1-12図 原油価格の推移

資料:経済産業省調べ(注) 原油価格は日次データを採用している。

~2004年以降騰勢を強めていった原油価格は、2008年7月に最高値を記録した後、大幅に下落した~

09-04-322_p001-040.indd 9 2009/05/15 13:05:06

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10 2009 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

第1節 2008年度の内外経済の動向

企業庁・(独)中小企業基盤整備機構「中小企業景況調査」(以下「中小企業景況調査」という)より、原材料仕入単価DIと売上単価・客単価DIの推移を示したものであるが、原油・原材料価格の高騰を反映して、原材料仕入単価DIが2008 年 7-9 月期まで上昇し続けた後、2008 年10-12 月期から低下に転じていることがわかる。

他方、売上単価・客単価DIも上昇してきたものの、原材料仕入単価DIの上昇幅に比べて小幅に止まっており、中小企業は原材料仕入価格を自社の製品・サービスの価格に十分転嫁できず、中小企業の収益が圧迫された。こうした原油・原材料価格の高騰の影響については、第3節でより詳しく見ていくこととしよう。

第2節 2008年度における中小企業の動向 Section 2第2節

前節で概観したとおり、2008年度においては、原油・原材料価格の高騰と急落が生じ、また、世界的な金融危機に伴って、我が国の景気が急速に悪化した。こうした内外経済の急激な変化の影響を受け、中小企業の業況も一段と悪化し、

かつてない厳しい状況となった。本節では、中小企業の景況感、生産・出荷・在庫、資金繰り、倒産等の推移を確認しながら、2008年度における中小企業の景気動向を見ていくこととしよう。

第1-1-14図 中小企業の価格転嫁度合いの推移

~原材料仕入単価DIは下落したものの、売上単価も弱含んでおり、中小企業の収益環境は依然として厳しい状況にある~

資料:中小企業庁・(独)中小企業基盤整備機構「中小企業景況調査」 1. 本調査は、全国の商工会・商工会議所の経営指導員、中小企業団体中央会の調査員が全国約1万9千社に対し、四半期ごとに

聴き取りにより行っている調査。 2. 原材料仕入単価DIは、前年の同期に比べて、原材料仕入単価が「上昇した」と回答した企業数から「低下した」と回答した企業数を

引いた値である。同様に、売上単価・客単価DIは、売上単価・客単価が「上昇した」と回答した企業数から「低下した」と回答した企業数を引いた値である。

▲100

▲80

▲60

▲40

▲20

0

20

40

60

80

(DI) (前年同期比)

Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ

02 03 04 05 06 07 08 09(年期)

原材料仕入単価DI

売上単価・客単価DI

売上単価・客単価DI-原材料仕入単価DI

09-04-322_p001-040.indd 10 2009/05/15 13:05:07

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2008年度における中小企業を巡る経済金融情勢

第1章

11中小企業白書 2009

第2節

○景況感日本銀行「全国企業短期経済観測調査」(以下「日銀短観」という)によれば、中小企業の業況判断DIは、2002 年 1-3 月期を底に、製造業が主導する形で改善を続けてきたが、2007 年に入ってから悪化が続いている(第1-2-1 図)。また、「中小企業景況調査」は、日銀短観の調査対象となっていない資本金2千万円未満の企業を含めた、約1万 9千の中小企業を対象とした調査であるが、同調査の中小企業の業況判断DIは、2006年 4-6月期から2009年 1-3月期までの12四半期連続で悪化を続け、2008 年 10-12 月期に現行の調査内容となった 1994年以降で最悪の値となり、2009 年 1-3 月期も最悪の値を更新した。特に、製造業の業況判断DIは、2002年 1-3 月期からの輸出主導の景気拡張局面では、非製造業の業況判断DIを大きく上回って改善してきたが、輸出の減少に伴う景気の悪化から、2008 年度後半に急速に低下し、2008 年 10-12 月期には、非製造業の業況判断DIを下回る水準に落ち込んでいる。(第1-2-2 図)

○業種別・地域別の中小企業の景況感第 1-2-3 図は、業種別の中小企業の景況感をより詳しく示したものである。それによると、景気拡張局面においては、製造業の中でも、一般機器、電気機器、輸送機器等の機械関連の製造業の業況が良く、繊維・同製品、木材・木製品等の業況は相対的に悪く、ばらつきが見られた。また、建設業、小売業等の内需関連中心の業種も、相対的に業況感が悪かった。しかし、世界経済の減速に伴う輸出の急速な減少の影響により、機械関連の製造業の業況が急激に悪化している。また、世界的な金融危機の発生に伴う株価の下落等を背景に、消費者マインドが悪化し、消費者の財布の紐が固くなっており、小売業や商店街の業況も一段と厳しいものとなるなど、全ての業種が総崩れの状態となっている。こうした中、中小企業の景況感を地域別に見ても、中小企業の業種構成で製造業の比重が大きい関東、中部、近畿の3地域 4が、2007年度までは、他の地域に比べて業況感が良い状況が続いていたが、2008 年度に入って製造業の業況感が大幅に

4 総務省「平成18年事業所・企業統計調査」(2006年10月)再編加工によると、各地域(経済産業局・沖縄総合事務局の管区)に所在する中小企業のうち製造業を営むものの割合は次のとおり。北海道5.2%、東北7.7%、関東11.4%、中部15.3%、近畿13.5%、中国8.8%、四国8.8%、九州6.7%、沖縄県4.7%。

4 総務省「平成18年事業所・企業統計調査」(2006年10月)再編加工によると、各地域(経済産業局・沖縄総合事務局の管区)に所在する中小企業のうち製造業を営むものの割合は次のとおり。北海道5.2%、東北7.7%、関東11.4%、中部15.3%、近畿13.5%、中国8.8%、四国8.8%、九州6.7%、沖縄県4.7%。

第1-2-1図 我が国の企業の業況判断DIの推移

資料:日本銀行「全国企業短期経済観測調査(短観)」(注) 1. 調査対象は約10,000社。 2. 業況判断DIは、業況が「良い」と答えた企業の割合(%)から、「悪い」と答えた企業の割合(%)を引いたもの。

▲ 75.0

▲ 60.0

▲ 45.0

▲ 30.0

▲ 15.0

0.0

15.0

30.0

45.0

Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ

0099 01 02 03 04 05 06 07 08 09

(DI)

(年期)

中小企業▲47

大企業▲45

大企業 中小企業 製造業(中小企業) 非製造業(中小企業)

非製造業

▲42(中小企業)

▲57(中小企業)製造業

~中小企業の業況判断DIは、2002年1-3月期を底に、製造業が主導する形で改善を続けてきたが、2007年に入ってから悪化が続いている~

09-04-322_p001-040.indd 11 2009/05/15 13:05:07

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12 2009 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

第2節 2008年度における中小企業の動向

悪化したことに伴い、この3地域の中小企業の業況判断DIが 2008 年 10-12 月期に他の地域と同程度の水準まで悪化し、2009 年 1-3 月期には更

なる悪化を示している(第1-2-4 図)。

第1-2-2図 我が国の中小企業の業況判断DIの推移

~世界経済の減速に伴う輸出減少や我が国の景気後退の影響により、 小規模企業を含めた中小企業の景況感は一段と悪化している~

資料:中小企業庁・(独)中小企業基盤整備機構 「中小企業景況調査」(注) 1. 業況判断DIは、前期に比べて、業況が「好転」と答えた企業の割合(%)から、「悪化」と答えた企業の割合(%)を引いたもの。 2. 前期比季節調整値。

非製造業▲48.4

全産業▲50.0

製造業▲55.0▲ 60.0

▲ 55.0

▲ 50.0

▲ 45.0

▲ 40.0

▲ 35.0

▲ 30.0

▲ 25.0

▲ 20.0

▲ 15.0

▲ 10.0

▲ 5.0

0.0

Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ

99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09

全産業 製造業 非製造業(DI) (前期比季節調整値)

( 年期 )

第1-2-3図 中小企業の業種別の景況感

~これまで比較的業況の良かった機械器具製造業についても、足下で業況が急速に悪化~

資料:全国中小企業団体中央会 「中小企業月次景況調査」(注) 期間は2003年1月~2009年2月

▲ 100.0

▲ 80.0

▲ 60.0

▲ 40.0

▲ 20.0

0.0

20.0

40.0

60.0

全産業繊維・同製品

木材・木製品

鉄鋼・金属

一般機器電気機器

輸送機器

卸売業小売業 商店街

サービス業

建設業

(DI) ( 前年同月比 )

▲89.3▲82.4

▲93.8 ▲92.8 ▲89.2▲81.8

▲92.6▲84.3 ▲79.5 ▲82.4▲76.9▲▲76.4

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2008年度における中小企業を巡る経済金融情勢

第1章

13中小企業白書 2009

第2節

○生産・出荷・在庫第 1-2-5 図は、中小企業庁「規模別製造工業生産指数」5における中小製造業の生産・出荷・在庫の動向を示したものである。中小製造業の生産や出荷が 2008 年秋頃から急速に減少しており、

売上や受注の減少を踏まえて大幅な生産調整に取り組んでいることが分かる。生産と出荷の急減に伴って在庫も増加したが、2009 年に入ってからは前月比で減少しており、在庫調整が進展していると見られる。

5 同指数は、中小企業の生産動向を把握するため、中小企業庁が、毎月、経済産業省「鉱工業生産・出荷・在庫指数」(IIP)をもとに算出・公表しているものである。5 同指数は、中小企業の生産動向を把握するため、中小企業庁が、毎月、経済産業省「鉱工業生産・出荷・在庫指数」(IIP)をもとに算出・公表しているものである。

第1-2-4図 中小企業の地域別業況判断DIの推移

~全地域で中小企業の業況感が急速に悪化している~

資料:中小企業庁・(独)中小企業基盤整備機構「中小企業景況調査」(注) 1. 2005年7-9月期~2009年1-3月期 2. 前期比季節調整値。 3. 地域区分は、各経済産業局管内の都道府県により区分している。関東には、新潟、長野、山梨、静岡の各県、中部には、石川、

富山の各県、近畿には、 福井県を含む。九州・沖縄は、九州各県と沖縄県の合計。

▲ 39.1

▲ 52.5 ▲ 51.0 ▲ 53.0 ▲ 51.6 ▲ 52.1

▲ 46.1▲ 46.5

▲ 60.0

▲ 55.0

▲ 50.0

▲ 45.0

▲ 40.0

▲ 35.0

▲ 30.0

▲ 25.0

▲ 20.0

▲ 15.0

▲ 10.0(DI) (前期比季節調整値)

北海道 東北 関東 中部 近畿 中国 四国 九州・沖縄

第1-2-5図 規模別製造工業生産指数の推移

~中小企業の生産・出荷が足下で大幅に減少している~

資料:中小企業庁「規模別製造工業生産指数」(注) 同指数は、中小企業の生産動向を把握するため、中小企業庁が、毎月、経済産業省「鉱工業生産・出荷・在庫指数」(IIP)をもとに

算出・公表しているものである。従来、毎月公表されたIIPの各品目別指数をもとに、中小企業庁が、経済産業省「工業統計表」を用いてウェイト分割を行い、加重平均して算出・公表していたが、2009年2月確報値より、IIPに係る一次統計データである経済産業省「生産動態統計調査」から中小企業のデータのみ抽出し、算出する新方式に移行し、公表を行っている。上の図は、IIPの2009年2月速報値までの一次統計データを用いて、当該新方式により試算したものである。

75

80

85

90

95

100

105

110

3 6 9 12 3 6 9 12 3 6 9 12 3 6 9 12 3 6 9 12 3 6 9 12 203 04 05 06 07 08 09

生産 出荷 在庫(2005年=100)

(年月)

(季節調整済指数)

09-04-322_p001-040.indd 13 2009/05/15 13:05:08

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14 2009 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

第2節 2008年度における中小企業の動向

○売上高・利益率中小企業の売上高と経常利益は、2002 年初からの景気拡張局面において、前年同期比で増加していたが、売上高は景気後退局面に入った後の2008 年以降前年同期比で減少し、経常利益は2006 年上期に弱含んだ後、2007 年 10-12 月期から前年同期比で減少している(第1-2-6 図① ,②)。

ここで、経常利益の減少の要因を探るべく、中小企業の経常利益額の増減率(前年同期比)に関して寄与度分解をしたのが、第 1-2-7 図①である。それによると、2007 年は売上高の増加が利益を押し上げ、人件費の増加が利益を押し下げる方向に働き、経常利益は前年同期に比べて増加していた。しかし、2008 年に入って売上高が減速し、

▲ 20.0

▲ 15.0

▲ 10.0

▲ 5.0

0.0

5.0

10.0

15.0

Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08

大企業 中小企業(%) (前年同期比)

(年期)

第1-2-6図① 売上高の推移

資料:財務省「法人企業統計季報」(注) 資本金1億円以上を大企業、1千万円以上1億円未満を中小企業としている。

~中小企業の売上高は、景気後退局面に入った後の2008年以降前年同期比で減少している~

第1-2-6図② 経常利益の推移

資料:財務省「法人企業統計季報」(注) 資本金1億円以上を大企業、1千万円以上1億円未満を中小企業としている。

▲ 80

▲ 60

▲ 40

▲ 20

0

20

40

60

80

Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08

大企業 中小企業 (前年同期比)

(年期)

(%)

~中小企業の経常利益は2006年上期に弱含んだ後、2007年10-12月期から前年同期比で減少している~

09-04-322_p001-040.indd 14 2009/05/15 13:05:08

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2008年度における中小企業を巡る経済金融情勢

第1章

15中小企業白書 2009

第2節

7-9 月期には売上高の減少が利益の減少に寄与している。このような分析から、中小企業の経常利益の減少は、売上の減少によりもたらされたと考えられる。

こうした中、売上高経常利益率は、景気拡張局面で緩やかに上昇したものの、2005年末頃から低下し始め、2008年も低下を続けた(第1-2-7 図②)。

第1-2-7図② 規模別に見た売上高経常利益率の推移

資料:財務省「法人企業統計季報」(注) 1. 後方4期移動平均値。 2. 資本金1億円以上を大企業、1千万円以上1億円未満を中小企業としている。

0.0

1.0

2.0

3.0

4.0

5.0

6.0

Ⅰ ⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣ1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008

大企業 中小企業

(年期)

(%)~中小企業の売上高経常利益率は、景気拡張局面で緩やかに上昇したものの、2005年末頃から低下し始め、2008年も低下を続けている~

▲ 80▲ 60▲ 40

▲ 2002040

6080

Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ04 05 06 07 08

(年期)

▲ 80

▲ 60

▲ 40

▲ 20

0

20

40

60

80 売上高要因〈大企業〉

〈中小企業〉

変動費要因 人件費要因

その他固定費要因 経常利益(前年同期比)

(前年同期比寄与度、%)

第1-2-7図① 経常利益の要因分解(前年同期比寄与度)

資料:財務省「法人企業統計季報」(注) 1. 後方4期移動平均値。 2. 資本金1億円以上を大企業、1千万円以上1億円未満を中小企業としている。

~中小企業の経常利益の増減率を要因分解すると、2008年第2四半期以降、売上高の減少が経常利益の減少に寄与している~

09-04-322_p001-040.indd 15 2009/05/15 13:05:09

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16 2009 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

第2節 2008年度における中小企業の動向

○資金繰り中小企業の資金繰りは、原油・原材料価格の高騰や売上の減少等の影響を受け、2008 年度において一段と悪化した(第1-2-8 図①)。2002 年からの景気拡張局面においては、中小企業の資金繰りは改善していたが、2007 年度に入ってから、原油・原材料価格の高騰により中小

企業は収益を圧迫され、資金繰りが弱含むようになった。更に、2008 年秋以降、景気が急速に悪化する中で中小企業の資金繰りは悪化し、金融機関からの借入れの難しさが増し(第 1-2-8 図②)、非常に厳しい状況が続いた。こうした状況を踏まえ、政府としては、中小企業の資金繰り対策を累次にわたり講じた。こうした資金繰りの動向につ

▲ 45.0

▲ 40.0

▲ 35.0

▲ 30.0

▲ 25.0

▲ 20.0

▲ 15.0

▲ 10.0

▲ 5.0

0.0

ⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠ

95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09

全産業 製造業 非製造業

非製造業▲ 34.9全産業▲ 36.6製造業▲ 40.9

(DI) (前期比季節調整値)

(年期)

第1-2-8図① 中小企業の資金繰りDIの推移

~中小企業の資金繰りは、原油・原材料価格の高騰や売上の減少等の影響を受け、2008年度において一段と悪化した~

資料:中小企業庁・(独)中小企業基盤整備機構「中小企業景況調査」(注) 資金繰りDIは、前期に比べて、資金繰りが「好転」と答えた企業の割合(%)から、「悪化」と答えた企業の割合(%)を引いたもの。

▲ 19.8

▲ 15.5

▲ 19.0

▲ 15.2

▲ 25.0

▲ 20.0

▲ 15.0

▲ 10.0

▲ 5.0

0.0

5.0

ⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠ

95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09

長期資金借入難易度 短期資金借入難易度(DI) (前期比季節調整値)

(年期)

第1-2-8図② 中小企業の借入難易度DIの推移

~2008年秋以降、景気が急速に悪化する中で中小企業の資金繰りは悪化し、金融機関からの借入難易度が悪化した~

資料:中小企業庁・(独)中小企業基盤整備機構「中小企業景況調査」(注) 借入難易度DIは、前期に比べて金融機関からの借入難易度が「容易」と答えた企業の割合(%)から、「困難」と企業の割合(%)

を引いたもの。

09-04-322_p001-040.indd 16 2009/05/18 13:59:00

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2008年度における中小企業を巡る経済金融情勢

第1章

17中小企業白書 2009

第2節

いては、第3節でより詳細に分析することとしよう。

○倒産動向中小企業の売上が減少し、資金繰りが悪化する中で、中小企業の倒産件数は増加傾向にあり、特に2008年度後半に入って増勢を強めた(第1-2-9図)。倒産件数を業種別に見ると、建設業の倒産が占める割合が 3割弱と最も大きく、2008 年度に入って増加しているが、製造業の倒産も 2008年後半に入って増加しており、先に見た、製造業の業況や資金繰りの悪化を反映したものと考えられる(第1-2-3 図、第 1-2-5 図、第 1-2-8 図①)。

○設備投資中小企業の設備投資額も 2007年度に入ってか

ら減少している(第1-2-10図)。その背景としては、中小企業の生産が減少し、設備過剰感が急速に高まっていることに加え、中小企業の売上が減少し、キャッシュフローが減少していることから 6、中小企業が設備投資を抑制していると考えられる。

○雇用情勢第1節では、我が国全体の雇用情勢が悪化したことを見たが、ここでは、中小企業の雇用情勢を概観する。第 1-2-11 図における「中小企業景況調査」の従業員過不足DIを見ると、2004 年 7-9月期以降、中小企業の従業員過不足DIは、不足超(過剰と回答する企業数が不足と回答する企業数を下回っていること)を示していたが、2008年度に入って従業員の不足超の幅が縮小し、2008年 10-12月期には過剰超に転じ、2009年 1-3 月期

6 中小企業の設備投資額の伸び率とキャッシュフローの伸び率には高い相関関係が見られる(付注1-2-1を参照)。6 中小企業の設備投資額の伸び率とキャッシュフローの伸び率には高い相関関係が見られる(付注1-2-1を参照)。

0

200

400

600

800

1,000

1,200

1,400

1,600

1,800

2,000

3 6 9 12 3 6 9 12 3 6 9 12 3 6 9 12 3 6 9 12 3 6 9 12 3 6 9 12 3

02 03 04 05 06 07 08 09

▲ 30

▲ 20

▲ 10

0

10

20

30

40

(社) (%)

(年月)

件数(左目盛) 前年同月比(右目盛)

第1-2-9図 中小企業の倒産件数の推移

~中小企業の倒産件数は、最近増加している~

資料:(株)東京商工リサーチ「倒産月報」

09-04-322_p001-040.indd 17 2009/05/15 13:05:11

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18 2009 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

第2節 2008年度における中小企業の動向

には過剰感が更に高まっている 7。これを製造業と非製造業に分けて見ると、製造業の従業員過不足DIは 2008 年 4-6 月期に過剰

超に転じ、2009 年 1-3 月期に過剰超の幅が大きく拡大している一方、非製造業の従業員過不足DIは製造業よりも遅れて2009年 1-3 月期に過剰

7 日銀短観の雇用人員判断DIについても、大企業、中小企業ともに、人員過剰感が高まっている(第1-2-11図)。7 日銀短観の雇用人員判断DIについても、大企業、中小企業ともに、人員過剰感が高まっている(第1-2-11図)。

第1-2-10図 設備投資額の推移

資料:財務省「法人企業統計季報」(注) 1. 設備投資額はソフトウェアを除く設備投資(当期末新設固定資産)。 2. 資本金1億円以上を大企業、1千万円以上1億円未満を中小企業としている。

▲ 50.0

▲ 40.0

▲ 30.0

▲ 20.0

▲ 10.0

0.0

10.0

20.0

30.0

40.0

50.0

Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ

98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08

大企業 中小企業(%) (前年同期比)

(年期)

~中小企業の設備投資額は、2007年度に入ってから減少している~

第1-2-11図 雇用の過不足感の推移

資料:日本銀行「全国企業短期経済観測調査(短観)」、中小企業庁・(独)中小企業基盤整備機構「中小企業景況調査」(注) DIは雇用人員の「過剰」-「不足」。

▲ 10

▲ 5

0

5

10

15

20

25

ⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣ ⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠ98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09

全体製造業非製造業

(年期)

中小企業景況調査従業員過不足DI

▲ 15▲ 10▲ 505101520253035 大企業

中小企業

(DI)

日銀短観雇用人員判断DI

~中小企業の従業員過不足DIは、2008年度に入って従業員の不足超の幅が縮小し、2008年10-12月期には過剰超に転じた~

09-04-322_p001-040.indd 18 2009/05/15 13:05:12

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2008年度における中小企業を巡る経済金融情勢

第1章

19中小企業白書 2009

第3節

超に転じ、過剰超の幅も製造業に比べて小幅となっている。先にみたとおり、中小製造業は輸出の減少等による生産の急速な減少に直面しているため、製造業と非製造業で雇用の過剰感の高まり

に差が生じている。このような現状を踏まえ、第3章において、中小企業の雇用動向と人材確保・育成の現状と課題について、詳しく見ていくこととしよう。

第3節 試練に直面する中小企業 Section 3第3節

前節では、2008年度における中小企業の景気動向を概観したが、本節では、現下の世界経済の減速が、中小企業の経営に対してどのよう

な影響を及ぼしたのか等について、詳しく見ていくこととしよう。

1. 輸出減少が中小企業に及ぼした影響

前節では、世界経済の減速が我が国の輸出の減少をもたらす中、製造業を営む中小企業の業況が悪化していることを見た(第1-2-3図)。ここでは、世界経済の減速が、輸出に関係のある中小製造業者にどのような影響を与えたのかについて、具体的に見ていく。

(1)輸出に関与している中小製造業者への影響中小製造業者の輸出への関与には、次の3つの

形態が考えられる。①自社の名義で通関手続きを行う輸出をしている。②商社を通じて行う輸出をしている。③輸出を行っている製造業者に対して部品等を納入している。はじめに、これら3つの形態で輸出に関与している中小製造業者の業況の推移を見てみよう(第1-3-1 図)。2004 年以降、世界経済の成長に牽引されて我が国の輸出が増大し、上記3つの形態で

第1-3-1図 輸出への関与の有無別に見た中小企業(製造業)の業況判断DIの推移

資料:中小企業庁・(独)中小企業基盤整備機構「中小企業景況調査」再編加工(注) 業況判断DIは、今期において、業況が「良い」と答えた企業の割合(%)から、「悪い」と答えた企業の割合(%)を引いたもの。

▲ 74.9

▲ 66.9

▲ 80.0

▲ 70.0

▲ 60.0

▲ 50.0

▲ 40.0

▲ 30.0

▲ 20.0

▲ 10.0

0.0

Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ

99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09

輸出への関与あり 輸出への関与なし(DI)

(年期)

~これまで好調であった輸出に関与している中小製造業者の業況判断DIは、世界経済の減速に伴い、2008年7-9月期から急激に悪化~

09-04-322_p001-040.indd 19 2009/05/15 13:05:12

Page 20: 中小企業を巡る経済金融情勢 2008年度における …...2008年度における中小企業を巡る経済金融情勢 第1章 中小企業白書 2009 3 第 1 節 市場では資金の枯渇や金利の上昇が生じ、クレ

20 2009 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

第3節 試練に直面する中小企業

輸出に関与している中小製造業者の業況は、それ以外の中小製造業者に比べて好調であった。しかし、世界経済の減速に伴い、輸出に関与している中小製造業者の業況判断DIは、2008年 7-9 月期から急激に悪化し、2008 年 10-12 月期には輸出に関与していない中小製造業者の業況判断DIを超えて低下している。

(2)下請事業者への影響今回の世界経済の減速は、多額の輸出を行う大手メーカーに大きな影響を与え、大手メーカーが減産を行ったことにより、大手メーカーの下請事

業者にも大きな影響が生じた。そこで、ここでは、下請事業者の業況の推移を見てみよう 8 (第 1-3-2図)。下請取引のある中小製造業者の業況判断DIは、2007年から低下傾向にあったが、2008 年後半に大きく悪化し、下請取引のない中小製造業者よりも厳しい状況にある。実際、経済産業局が 2008年 12月から 2009年1月にかけて、全国の中小企業 225社を訪問し、聴き取り調査を実施したところ、受注が「12月と 1月は前年比7割減」などといった、大幅な減少に困惑する中小企業の声が多数あった 9 。

8 下請事業者は、部品等を納入する先が輸出を行っている企業と輸出を行っていない企業の両方があるが、ここでは、その両方を合わせた下請事業者全体の業況感を見ている。

8 下請事業者は、部品等を納入する先が輸出を行っている企業と輸出を行っていない企業の両方があるが、ここでは、その両方を合わせた下請事業者全体の業況感を見ている。

9 詳しくは、事例1-3-1を参照。9 詳しくは、事例1-3-1を参照。

受注の減少に直面する下請事業者

各地方の経済産業局は、2008 年 12月から2009 年 1月にかけて中小企業 225社を訪問し、業況等に関するヒアリングを実施したところ、下請事業者から、次のような声があった。愛知県で自動車部品製造業を営む中小企業 A社は、昨年 12月最終週から受注が急激に落ち込み、同月と本

年1月は前年比7 割減となった。輸出している製品の落ち込みが大きく、特にヨーロッパ向けはほとんど止まっている。神奈川県で電子部品めっき加工を行う中小企業B社は、大手メーカーが、生産減に伴って余剰となった工員を部

品加工の内製化に充てているため、下請事業者への部品加工の発注が減少したとしている。佐賀県で排水処理装置製造を行う中小企業C社は、取引先の大手メーカーの設備投資マインドが冷え込み、1

~ 2億円分が受注延期状態となっている。(出所:中小企業庁「緊急拡大経済産業局長会議の開催について」(2009 年 2月))

事例 1-3-1

第1-3-2図 下請取引の有無別に見た中小企業(製造業)の業況判断DIの推移

資料:中小企業庁・(独)中小企業基盤整備機構「中小企業景況調査」再編加工(注) 1. 業況判断DIは、前年同期に比べて、業況が「好転」と答えた企業の割合(%)から、「悪化」と答えた企業の割合(%)を引いたもの。 2. 下請取引の「あり」、「なし」とは、中小企業が下請として、元請企業から仕事を受注しているかどうかを指す。

0.0

Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ2005 2006 2007 2008 2009

(DI)

(年期)

(前年同期比)

▲10.0

▲20.0▲30.0▲40.0▲50.0▲60.0▲70.0

▲80.0

下請取引あり 下請取引なし

▲58.3

▲70.8

~下請取引のある中小製造業者の業況判断DIは、2007年から低下傾向にあったが、2008年後半に大きく悪化し、下請取引のない中小製造業者よりも厳しい状況にある~

09-04-322_p001-040.indd 20 2009/05/15 13:05:13

Page 21: 中小企業を巡る経済金融情勢 2008年度における …...2008年度における中小企業を巡る経済金融情勢 第1章 中小企業白書 2009 3 第 1 節 市場では資金の枯渇や金利の上昇が生じ、クレ

2008年度における中小企業を巡る経済金融情勢

第1章

21中小企業白書 2009

第3節

(3)輸出企業と取引がある中小企業次に、みずほ総合研究所(株)が実施した「中小企業を取り巻く事業環境と経営実態に関する調査」10 (以下「経営実態調査」という)をもとに、(1)で説明した3つの形態の輸出のうち、②と③の形態で輸出企業と取引がある中小企業に対し、世界経済の減速が与えた影響について見ていく。第 1-3-3 図は、輸出企業と取引がある中小製造業者に対し、2008年 12月時点において、海外の各地域の今後3年程度の景気動向がどのように影響を及ぼすかの見通しを聞いた結果を示したものである。「やや悪影響」を含め、悪影響を見込ん

でいる中小製造業者は、北米で84.1%、アジアで87.1%に達している。次に、輸出企業と取引がある中小製造業者に対する影響に関し、取引数量と取引単価に分けて、それぞれの影響を見ていこう。第 1-3-4 図①は、輸出企業と取引のある中小製造業者に対し、2008年 12月時点における輸出企業からの発注量(取引数量)の現状と、今後の見通しについて聞いた結果を示したものである。それによると、現状では、中小製造業者の80.3%が減少していると回答しており、厳しい状況にあることが分かる。また、第 1-3-4 図②は、輸出企業と取引がある

10 2008年12月、中小企業25,000社を対象に実施したアンケート調査。回収率18.3%。10 2008年12月、中小企業25,000社を対象に実施したアンケート調査。回収率18.3%。

~「大幅に減少」、「減少」と回答した企業と合わせると、現状で約80%に上り、見通しでは86.5%と更に多くを占めている~

資料:みずほ総合研究所(株)「中小企業を取り巻く事業環境と経営実態に関する調査」(2008年12月)

(注) 輸出企業と取引のある中小製造業者について集計している。

第1-3-4図① 輸出企業からの発注量(取引数量)

44.6 46.8

35.7 39.7

18.2 12.01.2 1.50.3 0.0

0%

20%

40%

60%

80%

100%

現状 見通し

大幅に減少 減少 ほとんど変わらない

増加 大幅に増加

0%

20%

40%

60%

80%

100%

取引単価はほとんど変わらない

28.4

54.9

68.8

41.4

2.8 3.8

現状 見通し

取引単価が下がった(下がる)

取引単価が上がった(上がる)

~現状として「取引単価が下がった」との回答は約28%であり、今後「下がる」とする回答は約55%とその更に2倍近くに上っている~

資料:みずほ総合研究所(株)「中小企業を取り巻く事業環境と経営実態に関する調査」(2008年12月)

(注) 輸出企業と取引のある中小製造業者について集計している。

第1-3-4図② 輸出企業との取引単価

第1-3-3図 輸出企業との取引を通じた海外景気動向の企業業績への影響(中小製造業者の今後3年程度の見通し)

資料:みずほ総合研究所(株)「中小企業を取り巻く事業環境と経営実態に関する調査」(2008年12月)(注) 輸出企業と取引のある中小製造業者について集計している。

64.7

47.1

28.4

31.6

33.3

32.0

40.0

19.4

36.4

21.1

38.0

9.5

14.0

2.7

1.8

0.0

0.0

0.0

0.7

0.0

0% 20% 40% 60% 80% 100%

その他地域

欧州

中東

アジア

北米

悪影響が見込まれる やや悪影響が見込まれる ほとんど影響が見込まれないやや好影響が見込まれる 好影響が見込まれる

44.4

30.4

1.6

1.1

1.6

~輸出企業との取引を通じた海外景気動向による業績への悪影響を見込む回答が、北米・アジア・欧州を筆頭に各地域とも高い比率となっている~

09-04-322_p001-040.indd 21 2009/05/15 13:05:13

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22 2009 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

第3節 試練に直面する中小企業

中小製造業者に対し、その取引単価の現状と見通しを聞いたものである。同図によると、中小製造業者の28.4%が、取引単価が「下がった」と回答している。そして、今後の取引単価の見通しについては、中小製造業者の54.9%が「下がる」としており、今後、輸出企業から取引単価の引き下げを要請される中小製造業者が拡大することが予想される。政府としては、下請代金支払遅延等防止法(昭和 31年法律第 120号)の厳正な運用を行ってきており、親事業者による不当な行為を防止するための対策を講じてきている。また、2008 年 4月に新設された「下請かけこみ寺」において、下請事業者からの相談にきめ細やかな対応がなされており、相談実績も2008年 4月 1日から 2009年 3月 31日までで 3,836 件に達している。上で見たとおり、今後、輸出企業からの取引単価の引き下げ要請が拡大すること等が見込まれることから、今後とも、下請取引の適正化のための対策を実施していくことが必要である。

(4)中小製造業の輸出額と取引額の構造第1-3-5 図は、中小企業庁「規模別産業連関表」

(2005年)を用いて、中小製造業の生産額に占める輸出額の割合と、我が国の輸出により派生的に生み出される生産額の割合を示したものである。それによると、中小製造業全体では、輸出により派生的に生み出される生産額の割合が輸出額の割合よりも高い。特に輸送機械製造業では、当該割合が顕著に高い。これは、中小製造業者にとって、世界経済の減速の影響は、自ら行う輸出への影響よりも、輸出を行っている企業との取引を通じた影響の方が大きいことを示唆している。

(5)円高の影響第 1節で見たとおり、2008 年夏の世界的な金融危機の拡大に伴って円高が急速に進行した(第1-1-5 図)。こうした円高は、中小企業にどのような影響を与えたのであろうか。

第 1-3-6 図は、「経営実態調査」をもとに、その影響を示したものである。「影響がほとんどない」の割合が73.7%と最も大きいが、「やや悪影響」を含め、悪影響があったとする中小企業の割合は約2割であり、製造業の割合が他の業種に比べて高くなっている。第 1-3-7 図は、円高による悪影響を具体的に示したものであるが、「受注の減少」と回答した中小企業が44.3%と最も多く、世界経済の減速に加え、円高の影響を受けた輸出企業が生産を減少させ、その影響が下請事業者に及んでいることを反映したものと考えられる。また、「輸出の減少」や「為替差損の発生」を挙げる中小企業も2割を超えている。一方、円高による好影響については、第 1-3-6図が示すとおり、卸売・小売業に多く、その好影響の具体的内容は「原材料・仕入価格の低下」が顕著に多い(第1-3-8 図)。以上のとおり、円高の影響については、多くの

24.9

12.2

34.7

13.2

16.6

14.1

18.1

38.9

0

10

20

30

40

50

60(%)

製造業(大企業)

製造業(中小企業)

輸送機械(大企業)

輸送機械(中小企業)

直接の輸出関連生産 間接の輸出関連生産

41.5

26.4

52.8 52.0

~中小製造業、特に輸送用機械製造業では、直接の輸出よりも、間接の輸出関連生産が大きい割合を占める~

資料:中小企業庁「2005年規模別産業連関表」(注) ここでいう「直接の輸出関連生産」とは、各産業から輸出した

額が当該産業の生産額に占める割合を指し、「間接の輸出関連生産」とは、我が国全体の輸出により誘発される各産業の生産額から当該産業が輸出した額を差し引いた額が、当該産業の生産額に占める割合を指す。

第1-3-5図 製造業の生産に占める直接、間接の輸出関連生産の割合(企業規模別)

09-04-322_p001-040.indd 22 2009/05/15 13:05:14

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2008年度における中小企業を巡る経済金融情勢

第1章

23中小企業白書 2009

第3節

中小企業が内需向けの製品・サービスを提供しているため、その影響がほとんどない場合が多く、一部では、原材料・仕入価格の低下のメリットも生じているが、輸出を行ったり、輸出企業と取引

がある中小企業では悪影響が生じており、今後とも、為替レートの動向とその影響を注視していくことが必要である。

第1-3-6図 主要為替における円高の影響(業種別)

資料:みずほ総合研究所(株)「中小企業を取り巻く事業環境と経営実態に関する調査」(2008年12月)(注) 為替レートの企業業績への影響について「為替の影響はない」とする回答と、業績に為替の影響がありうる取引を行っているものの、

2008年夏以降の主要為替の円高傾向については「ほとんど影響はなかった」とする回答を合わせて、「ほとんど影響はなかった」としている。

~円高の影響について、「やや悪影響があった」を含め、悪影響があった中小企業の割合は約2割~

0.5 1.1

1.4

0.5

1.6

0.2

2.1

2.3

0.6

0.3

0.7

1.1

1.8

0% 20% 40% 60% 80% 100%

建設業

製造業

運輸業

卸売・小売業

飲食・宿泊業

医療・福祉業

サービス業

その他

全業種

悪影響があった やや悪影響があった ほとんど影響はなかった やや好影響があった 好影響があった

3.9 6.8

6.8

6.9

10.3

16.7

13.2

12.4

6.8

7.8

6.4

8.9 6.3

4.0

5.0

3.2

78.1

97.5

84.9

80.9

87.7

60.6

69.0

61.5

5.9

9.1 73.7

8.0

12.8

9.1

10.8

10.5

24.7 24.3

7.8 9.6

44.3

12.2

01020304050

輸出の減少

為替差損の発生

契約条件の変更

輸入品との競合

受注の減少

その他

(%)

~「受注の減少」を挙げる企業が約44%と最も多い。「輸出の減少」「為替差損の発生」との回答も多く、それぞれ約24%~

資料:みずほ総合研究所(株)「中小企業を取り巻く事業環境と経営実態に関する調査」(2008年12月)

(注) 1. 2008年夏以降の主要為替の円高傾向により「悪影響があった」、「やや悪影響があった」とする中小企業の回答結果に基づく。

2. 複数回答のため合計は100を超える。

第1-3-7図 主要為替の円高傾向による悪影響(2008年夏以降)

(%)

0.7

23.0

0.7

79.5

0.7 1.8020406080

輸出の増加

為替差益の発生

契約条件の変更

原材料・

仕入価格の低下

海外投資の拡大

その他

~円高傾向によるメリットとしては「原材料・仕入れ価格の低下」との回答が最も多く、回答中小企業の79.5%が挙げている~

資料:みずほ総合研究所(株)「中小企業を取り巻く事業環境と経営実態に関する調査」(2008年12月)

(注) 1. 2008年夏以降の主要為替の円高傾向により「好影響があった」、「やや好影響があった」とする中小企業の回答結果に基づく。

2. 複数回答のため合計は100を超える。

第1-3-8図 主要為替の円高傾向によるメリット(2008年夏以降)

09-04-322_p001-040.indd 23 2009/05/15 13:05:15

Page 24: 中小企業を巡る経済金融情勢 2008年度における …...2008年度における中小企業を巡る経済金融情勢 第1章 中小企業白書 2009 3 第 1 節 市場では資金の枯渇や金利の上昇が生じ、クレ

24 2009 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

第3節 試練に直面する中小企業

為替リスクを抑えつつ、海外顧客の発注に迅速に対応

奈良県生駒市の株式会社MSTコーポレーション(従業員220名、資本金 7,000 万円)は、ツーリング(工具保持具)やその周辺機器の開発、製造、販売を行っている。ツーリングとは、金属加工を行う際にドリルなどの切削工具を工作機械に固定するもので、強固な把握力、精度の高さ、耐久性などが要求される。同社は、ツーリングの先端を熱膨張させて切削工具を挿入し、その後冷却することで先端が収縮し、切削工具を強力に固定する「焼きばめ式」のツーリングで、国内外トップの市場シェアを有している。同社の製品は精密加工に不可欠なものと認識されており、海外からの引き合いも多く、同社は世界の各地に製品

を輸出している。最近の円高が同社の輸出に及ぼす影響については、欧州を除き、取引を円建てで行っていることから、直接的な為替差損は小さいものの、円高に伴い価格競争力への影響が出てきている。そこで、海外に生産拠点をもたない同社では、提携先の倉庫を利用してアメリカのシカゴ、ドイツのニュルンベルク、シンガポール、香港に在庫センターを設立し、現地顧客の発注に迅速に対応することで、円高による価格競争力の低下を補っている。さらに、現地に一定程度の在庫を確保することで、急激な為替変動の影響を吸収しようとしている。同社は、今後は中国の上海にも在庫センターを開設する予定であり、

価格競争力と顧客ニーズへの迅速な対応のバランスをとりながら、積極的な海外展開を実現しようと努力している。

事例 1-3-2

2. 中小企業金融の動向

第2節では、中小企業の資金繰りが、売上の減少等を背景に悪化し、金融機関からの借入れも難しくなっていることを見た。こうした中、第1-3-9 図は、金融機関の中小企業向け貸出残高の推移を表したものであるが、2007年後半から前年同期比で減少し続けている 11 。このように貸出残高が減少している原因を考えていくため、ここでは、中小企業の資金需要や金融機関の貸出行動について見ていくこととしよう。

(1)運転資金需要の増大第 1-3-10 図①は、中小企業の借入金の変化を示したものである。調査時点の 2008年 8月末において、中小企業は、3ヶ月前と比べて運転資金の借入れを増加させ、設備資金の借入れを減少させたと回答する企業が多い。一方で、金融機関としても、中小企業の資金需要は増加していると感

じており、その要因としては、資金繰りの悪化や手元資金の積み増し等を挙げている(第 1-3-10 図②)。こうしたことから、設備資金需要は減退している一方で、売上の減少に伴って資金繰りが悪化していることや、先行きへの不安から、手元資金を確保しようとする動きなどが中小企業の資金需要を増加させていると考えられる。一方で、第 1-3-10 図①によれば、担保価値が減少したと回答した企業が約 3 割に達しているが、不動産価格の下落等を背景として担保力が低下することが懸念される。また、第 1-3-11 図によれば、中小企業の有利子負債償還年数(=有利子負債残高/キャッシュフロー)は、キャッシュフローの減少を背景に上昇しており、2008 年10-12 月期に 11.9 年となっており、今後、債務負担の重さが増大し、中小企業の資金繰りを悪化さ

11 一方、大企業向けの貸出残高は前期比で2008年9月に増加した。これまで直接金融で資金調達を進めてきた大企業であるが、金融市場の混乱による信用収縮等により、社債やCPからの資金調達が厳しくなってきている状況を背景に、金融機関からの借入に対するニーズを高めているものと考えられる。

11 一方、大企業向けの貸出残高は前期比で2008年9月に増加した。これまで直接金融で資金調達を進めてきた大企業であるが、金融市場の混乱による信用収縮等により、社債やCPからの資金調達が厳しくなってきている状況を背景に、金融機関からの借入に対するニーズを高めているものと考えられる。

09-04-322_p001-040.indd 24 2009/05/15 13:05:16

Page 25: 中小企業を巡る経済金融情勢 2008年度における …...2008年度における中小企業を巡る経済金融情勢 第1章 中小企業白書 2009 3 第 1 節 市場では資金の枯渇や金利の上昇が生じ、クレ

2008年度における中小企業を巡る経済金融情勢

第1章

25中小企業白書 2009

第3節

せる可能性があることに留意が必要である。

(2)金融機関の貸出態度このように中小企業の運転資金への需要が高ま

る中、金融機関はどのように対応したのであろうか。第 1節では、金融機関からの借入難易度DIが低下し続けていることを見たが、ここでは、「経営実態調査」と(株)東京商工リサーチの「金融

240

260

280

300

320

340

360

ⅠⅡⅢⅣ98

ⅠⅡⅢⅣ99

ⅠⅡⅢⅣ00

ⅠⅡⅢⅣ01

ⅠⅡⅢⅣ02

ⅠⅡⅢⅣ03

ⅠⅡⅢⅣ04

ⅠⅡⅢⅣ05

ⅠⅡⅢⅣ06

ⅠⅡⅢⅣ07

ⅠⅡⅢⅣ08(年期)

(兆円)

▲12

▲10

▲8

▲6

▲4

▲2

0

2

4

6

(%)

実額(左目盛) 前年同期比(右目盛)

第1-3-9図 金融機関による中小企業向け貸出残高の推移

資料:日本銀行「金融経済統計月報」他より中小企業庁調べ

~金融機関の中小企業向け貸出残高は、1990年代から2000年代前半まで総じて減少し続け、2006年に前年比で増加したが、2007年後半から再び減少している~

増加

割合(%)

不変 

減少

担保価値

運転資金の借入金の増減

設備資金の借入金の増減

0.7

28.4

59.7

11.9

68.768.2

26.2

5.6

30.6

第1-3-10図① 中小企業の借入金の変化

資料:全国中小企業団体中央会「中小企業の金融環境に関する調査」(2008年10月)(注) 調査時点は8月末。中小企業が3ヶ月前と比較して回答。

~中小企業は、設備資金の借入れを減少させる一方、運転資金の借入れを増加~

09-04-322_p001-040.indd 25 2009/05/15 13:05:17

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26 2009 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

第3節 試練に直面する中小企業

機関の資金供給実態調査」12 (以下「金融機関向け調査」という)をもとに、より詳しく見ていこう。まず、金融機関の新規の貸出姿勢については、一年前と比較して消極化したと感じている中小企

業が全体の3割を超えており、貸出姿勢を積極化させているとしている金融機関側の認識とは違いが見られる(第 1-3-12 図)。貸出条件の変更についても、金融機関側の約7割が積極的な対応をし

12 2008年12月、金融機関603社を対象に実施したアンケート調査。回収率67.2%。12 2008年12月、金融機関603社を対象に実施したアンケート調査。回収率67.2%。

資金需要判断D.I. の変化 資金需要判断D.I.(%ポイント) (前回の2008年10月調査)

大企業向け 50 4中堅企業向け 16 -3中小企業向け 24 -10

資金需要の増減の要因 大企業向け 中堅企業向け 中小企業向け平均値 平均値 平均値

売上の増加 1.00 1.00 1.00設備投資の増加 1.05 1.13 1.00資金繰りの悪化 1.55 2.13 2.45手元資金の積み増し 2.34 2.20 1.95他の調達手段からのシフト 2.71 1.60 1.27貸出金利の低下 1.18 1.20 1.14その他 1.05 1.00 1.14回答数 38 15 22

第1-3-10図② 中小企業の資金需要の変化とその要因(金融機関側の認識)

資料:日本銀行「主要銀行貸出動向アンケート調査」(2009年1月)(注) 1. 資金需要判断D.I.=(「増加」とした回答金融機関構成比+0.5×「やや増加」とした回答金融機関構成比)-(「減少」とした回答金融

機関構成比+0.5×「やや減少」とした回答金融機関構成比) 2.「判断スケール」として、「重要」を3、「やや重要」を2、「重要でない」を1とし、「平均値」は、「判断スケール」をウェイトとし、ウェイト

×回答金融機関構成比を合計したもの(加重平均値)。

~金融機関としても、中小企業の資金需要は増加していると感じており、その要因としては資金繰りの悪化や手元資金の積み増し等を挙げている~

第1-3-11図 有利子負債残高償還年数の寄与度分解

資料:財務省「法人企業統計季報」(注) 1. 有利子負債残高償還年数は後方4期移動平均値。 2. キャッシュフロー=経常利益×0.5+減価償却費 3. ここでの中小企業とは、資本金1千万円以上1億円未満の企業を指す。

▲ 25.0

▲ 20.0

▲ 15.0

▲ 10.0

▲ 5.0

0.0

5.0

10.0

15.0

20.0有利子負債残高の増加(前年同期比) キャッシュフローの減少(前年同期比)有利子負債残高償還年数(前年同期比)

(%)

Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ2004 2005 2006 2007 2008

9.010.011.0

11.9 12.013.0(年)有利子負債残高償還年数

(年期)

~中小企業の有利子負債償還年数は、キャッシュフローの減少を背景に上昇~

09-04-322_p001-040.indd 26 2009/05/15 13:05:17

Page 27: 中小企業を巡る経済金融情勢 2008年度における …...2008年度における中小企業を巡る経済金融情勢 第1章 中小企業白書 2009 3 第 1 節 市場では資金の枯渇や金利の上昇が生じ、クレ

2008年度における中小企業を巡る経済金融情勢

第1章

27中小企業白書 2009

第3節

ているとしているのに対し、積極化していると感じている中小企業は1割程度に留まるなど、認識が大きく違っているのがわかる。特に、金融機関の貸出姿勢が消極化したと感じている中小企業の多くは、「金額」の面より融資審査などの「質」の面で厳格化が強まっていると感じている(第1-3-13 図)。

(3)貸出残高の減少の原因金融機関の中小企業向けの貸出残高が減少している原因については、金融機関側の要因と企業側の要因が考えられる。すなわち、金融機関側が経済情勢や企業の業況の悪化等に伴う経営状況の悪化等を背景に貸出を慎重化することによって貸出残高が減少する要因と、企業の財務状況が全体的に悪化し、そのために金融機関の貸出基準を満たさず、結果として貸出残高の減少につながる要因が考えられる。

3.8

17.0

6.5

23.9

12.5

53.8

14.2

38.6

62.8

28.2

43.4

35.3

10.2

17.6

2.3

10.7

18.4

1.0

0.0

0.0

0% 20% 40% 60% 80% 100%

中小企業の回答(%)

金融機関の回答(%)

中小企業の回答(%)

金融機関の回答(%)

積極化している やや積極化している ほとんど変化していない やや消極化している 消極化している

新規貸出

貸出条件の変更

第1-3-12図 金融機関の貸出姿勢の変化(1年前との比較)

資料:みずほ総合研究所(株)「中小企業を取り巻く事業環境と経営実態に関する調査」(2008年12月) (株)東京商工リサーチ「金融機関の資金供給実態調査」(2008年12月)

~新規貸出においても貸出条件の変更においても、貸出姿勢の変化に対する金融機関側の見方と中小企業側の見方は大きく異なっていることが分かる~

30.8 26.5

68.0

10.6 8.5 7.1

25.3

5.00

20

40

60

80

融資の減額

借入拒絶

審査の厳格化

追加担保の要請

追加保証人の要請

借入期間短縮の要請

金利の条件見直し

その他

(%)

~貸出姿勢が消極化していると回答した中小企業の68%が、「審査が厳格化」したとしている~

資料:みずほ総合研究所(株)「中小企業を取り巻く事業環境と経営実態に関する調査」(2008年12月)

(注) 1. 金融機関の貸出姿勢が「消極化している」または「やや消極化している」とする中小企業の回答結果に基づく。

2. 複数回答のため合計は100を超える。

第1-3-13図 金融機関の貸出姿勢はどのように変化したか(中小企業の認識)

09-04-322_p001-040.indd 27 2009/05/15 13:05:18

Page 28: 中小企業を巡る経済金融情勢 2008年度における …...2008年度における中小企業を巡る経済金融情勢 第1章 中小企業白書 2009 3 第 1 節 市場では資金の枯渇や金利の上昇が生じ、クレ

28 2009 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

第3節 試練に直面する中小企業

中小企業は、金融機関の貸出態度が厳格化した理由については、「金融機関側の経営問題」とする回答がある一方、「自社の属する業界全体の景況悪化」、「自社の業績悪化」と回答した企業も多い(第1-3-14 図)。また、利益率が改善している中小企業ほど、金融機関の貸出姿勢が積極的と評価している傾向が見られる一方で、利益率が改善している中小企業でも、金融機関の貸出姿勢が消極化していると回答している企業も一定程度見られ、自社の業況の改善が金融機関側の貸出態度の積極化につながら

ないと中小企業が感じている場合もあることが分かる(第1-3-15 図)。金融機関の不良債権比率は、景気が後退する中で、2008 年9月期は、全国銀行ベースで、2008 年3月期と比べわずかながら上昇し(第 1-3-16 図)、また、金融機関が保有している有価証券関係の評価損の発生等に伴い損失を計上する場合も増加している。今後の不良債権の動向等によっては、金融機関が貸出姿勢を慎重化させる恐れがあり、中小企業の資金繰りが一層厳しくなる可能性がある。

第1-3-15図 中小企業の業績動向と金融機関の新規貸出姿勢の関係(中小企業の認識)

資料:みずほ総合研究所(株)「中小企業を取り巻く事業環境と経営実態に関する調査」(2008年12月)(注) 業績動向は、過去3年間の経常利益率の状況についての回答で分類している。

~利益率が改善している中小企業でも、金融機関の貸出姿勢が消極化していると回答している企業も一定程度見られる~

0% 20% 40% 60% 80% 100%

大幅に改善

若干の改善

変わらない

若干の悪化

大幅な悪化

〈中小企業の業績動向〉

〈金融機関の新規貸出姿勢〉積極化している やや積極化している ほとんど変化していない やや消極化している 消極化している

14.0%

15.5%

21.2%

19.3%

7.9%

11.3%

13.2%

17.6%

35.1%

19.8%

11.3%

15.9%

15.7%

12.6%

10.2%

46.0%

45.9%

49.4%

44.1%

31.4%

10.3%

6.2%

4.5%

4.0%

17.6%

43.8 50.6 46.4

14.23.6

0204060

金融機関側の

経営問題

自社の属する業界

全体の景況悪化

自社の業績悪化

自社及び経営者の

資産価値が目減り

その他

(%)

~「自社の属する業界全体の景況悪化」、「自社の業績悪化」とする回答が、「金融機関側の経営問題」とする回答よりも多いことが分かる~

資料:みずほ総合研究所(株)「中小企業を取り巻く事業環境と経営実態に関する調査」(2008年12月)(注) 1. 金融機関の貸出姿勢が「消極化している」または「やや消極化している」とする中小企業の回答結果に基づく。 2. 複数回答のため合計は100を超える。

第1-3-14図 金融機関の貸出姿勢が変化した理由(中小企業の認識)

09-04-322_p001-040.indd 28 2009/05/15 13:05:19

Page 29: 中小企業を巡る経済金融情勢 2008年度における …...2008年度における中小企業を巡る経済金融情勢 第1章 中小企業白書 2009 3 第 1 節 市場では資金の枯渇や金利の上昇が生じ、クレ

2008年度における中小企業を巡る経済金融情勢

第1章

29中小企業白書 2009

第3節

こうした可能性も含め、今後とも、中小企業金融の動向には十分な注視が必要である。

(4)中小企業金融対策の拡充中小企業は、資金繰りの悪化を踏まえた対応として、経費削減といった経営合理化策の次に、国・

自治体の中小企業政策を活用すると答えた中小企業が多く、3割近くに達している(第1-3-17 図)。こうした状況を踏まえ、政府は、2008 年 8月29日にとりまとめた「安心実現のための緊急総合対策」や、同年10月 30日にとりまとめた「生活対策」に基づき、中小企業金融の円滑化のため

第1-3-17図 金融機関の貸出姿勢の変化への対策

資料:みずほ総合研究所(株)「中小企業を取り巻く事業環境と経営実態に関する調査」(2008年12月)(注) 1. 金融機関の貸出姿勢が「消極化している」または「やや消極化している」とする中小企業の回答結果に基づく。 2. 複数回答のため合計は100を超える。

~「合理化等による経費削減」、「投資の抑制」、「事業の縮小」等、経営合理化策を掲げる中小企業が多い~

24.4

15.5

25.5

15.2

4.6 3.2

24.6

50.3

10.616.4

27.2

6.7

0

10

20

30

40

50

60

事業の縮小

保有資産の売却

既存取引先

金融機関に粘り

強く融資要請

新規取引先

金融機関の開拓

既存の出資者に

増資要請

新規の出資者に

増資要請

投資の抑制

合理化等による

経費削減

仕入代金の

決済期間の長期化

販売代金の

回収期間の短縮化

国・自治体の

中小企業政策

支援の活用

その他

(%)

第1-3-16図 不良債権比率の推移

資料:金融庁「不良債権の状況等について」より作成(注) 1. 主要行の計数は、都銀と信託銀行の合計。但し、旧日本興業銀行の計数も含む。 2. 不良債権比率=金融再生法開示債権/総与信

~金融機関の不良債権比率は、景気が後退する中で、2008年9月期は、全国銀行ベースで2008年3月期と比べ、わずかながら上昇した~

0

2

4

6

8

10

12

14

16

18

3月 9月 3月 9月 3月 9月 3月 9月 3月 9月 3月 9月 3月 9月 3月 9月 3月 9月 3月 9月1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008

全国銀行合計 主要行 地方銀行 第二地銀 信用金庫 信用組合(%)

(年月)

09-04-322_p001-040.indd 29 2009/05/15 13:05:20

Page 30: 中小企業を巡る経済金融情勢 2008年度における …...2008年度における中小企業を巡る経済金融情勢 第1章 中小企業白書 2009 3 第 1 節 市場では資金の枯渇や金利の上昇が生じ、クレ

30 2009 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

第3節 試練に直面する中小企業

の対策を講じてきた。具体的には、第一次・第二次補正予算で所要の予算を計上し、30兆円規模の中小企業資金繰り対策を実施し、信用保証協会の緊急保証制度を 2008 年 10 月 31 日に創設し、その保証実績は、2009年 3月 31日時点までの累計で、保証金額が約9兆 1,810 億円、保証承諾件数が約 43万 5,043 件に達している。また、政府系中小企業金融機関のセーフティネット貸付も拡充し、日本政策金融公庫による 2008 年 10 月 1日から 2009年 3月 31日までの貸付実績が、1 兆3,828 億円、9万 6,922 件に達している(第1-3-18図)。また、国の資本参加を通じて、金融機関の金融仲介機能を強化することにより、中小企業等を支援することを目的とする「改正金融機能強化法」が国会で成立し、2008 年 12月 17日に同法を施行したほか 13、中小企業向け融資の貸出条件緩和が円滑に行われるよう、金融機関に係る監督指針や金融検査マニュアル別冊[中小企業融資編]

の改定を行うとともに、金融機関等に対し、中小企業に対する円滑な資金供給に努めるよう要請を行うなど、中小企業の資金繰りの円滑化を図るための措置を講じた。

(5)緊急保証制度の利用状況信用保証協会の緊急保証制度は、どのような中小企業が利用しているのであろうか。第 1-3-19図は、緊急保証を利用した中小企業が属する業種を示したものである。それによると、建設業が27.3%、製造業が 21.0%を占めており、中小企業全体の業種構成では、建設業が11.7%、製造業が10.9%となっていることと比べると比重が大きく、これら業況の厳しい業種で緊急保証が積極的に利用されていることが分かる。また、第 1-3-20 図は、信用保証協会の保証付きの借入残高がある中小企業が、各四半期において、新たな借入れをしたかどうかを示したもので

13 この改正後の法律の正式名称は、金融機能の強化のための特別措置に関する法律(平成十六年法律第百二十八号)。13 この改正後の法律の正式名称は、金融機能の強化のための特別措置に関する法律(平成十六年法律第百二十八号)。

0

2,000

4,000

6,000

8,000

10,000

12,000

14,000(億円)

緊急保証の承諾実績の推移(2008年10月31日~2009年3月31日)

0

500

1,000

1,500

2,000

2,500

3,000

(件)

金額(右軸)

件数(左軸)

10月31日

累計 435,043件 9兆1,810億円 セーフティネット貸付(国民事

業・中小事業)に係る貸付実績(速報値)

件数:96,922 件金額:1兆 3,828 億円

※2008 年 10月 1日~2009年 3月 31日までの貸付実績(累計)

11月 12月 1月 2月 3月

第1-3-18図 中小・小規模企業の資金繰り対策の実施状況

資料:中小企業庁調べ

09-04-322_p001-040.indd 30 2009/05/15 13:05:20

Page 31: 中小企業を巡る経済金融情勢 2008年度における …...2008年度における中小企業を巡る経済金融情勢 第1章 中小企業白書 2009 3 第 1 節 市場では資金の枯渇や金利の上昇が生じ、クレ

2008年度における中小企業を巡る経済金融情勢

第1章

31中小企業白書 2009

第3節

ある。それによると、2008年 10-12月期において、中小企業の48.0%が新たな借入れをしたと回答しており、2008 年 7-9 月期以前に比べて、その割合が顕著に上昇している。また、同図は、20人以下の企業と 21人以上の企業に分けて、それぞれ新たに借入れをした企業の割合も示しているが、20人以下の企業でも、2008 年 10-12 月期に当該割合は大きく上昇している。緊急保証制度は2008 年 10月 31日に開始されたことから、緊急

保証制度を利用して新たに借入れをした企業が増加したものと考えられ、その効果は小規模企業にも拡がったことを示唆するものと考えられる。このように緊急保証制度は活発に利用され、中小企業の資金繰りの円滑化に寄与しているが、引き続き、中小企業を取り巻く経営環境はかつてない厳しい現状にあることを踏まえ、今後とも、資金繰り対策等の積極的な支援が必要である。

第1-3-19図 緊急保証を利用している業種の構成比(1月末までの承諾件数ベース)

資料:全国信用保証協会連合会、総務省「平成18年事業所・企業統計調査」再編加工

全中小企業数

承諾件数

0% 20% 40% 60% 80% 100%

(%)

27.3

建設業 製造業 運輸業 卸売業 小売業

不動産業 飲食店・宿泊業 サービス業 その他

21.0 4.4 15.2 13.6 3.4 4.8 8.0 2.3

11.7 10.9 20.9 15.4 18.1 8.96.85.51.8

~建設業や製造業など、特に業況の厳しい業種で緊急保証が積極的に利用されている~

第1-3-20図 信用保証協会の保証先の借入れ企業の割合

資料:日本政策金融公庫「保証先中小企業金融動向調査」(2009年1月)

0

10

20

30

40

50

60

7061.4

48.045.5

(%)

(年期)

Ⅱ Ⅲ Ⅳ99

Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ00

Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ01

Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ02

Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ03

Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ04

Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ05

Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ06

Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ07

Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ08

借入れ企業の割合 0-20人 21人以上

~保証先の借入れ企業の割合は足下で増加~

09-04-322_p001-040.indd 31 2009/05/15 13:05:20

Page 32: 中小企業を巡る経済金融情勢 2008年度における …...2008年度における中小企業を巡る経済金融情勢 第1章 中小企業白書 2009 3 第 1 節 市場では資金の枯渇や金利の上昇が生じ、クレ

32 2009 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

第3節 試練に直面する中小企業

資金繰りが厳しさを増す中小企業

事例 1-3-1 で言及した経済産業局のヒアリングでは、資金繰り等に関して、次のような中小企業の声があった。埼玉県で金属製品を製造する中小企業D社は、1年前に大型設備投資を実施したが、受注が激減し、返済資

金調達に苦慮し、緊急保証制度を利用した。宮城県で書籍・雑誌の小売業を営む中小企業 E社は、業績の悪化に伴い、以前に比べ銀行から要求される資

料が増えていると感じている。香川県で家具の製造を行う中小企業 F社は、銀行から、今後に備えて余剰資金を確保しておいた方が良いとのア

ドバイスもあり、融資を受けた。(出所:中小企業庁「緊急拡大経済産業局長会議の開催について」(2009 年2 月))

事例 1-3-3

第1節では、原油・原材料価格の高騰と下落が、中小企業の原材料仕入単価等にどのような影響を与えているかを見た。ここでは、原油とそれ以外の原材料に分けて、それぞれの価格の高騰と下落が中小企業の収益にどのような影響を与えたかを見てみよう。

(1)原油・原材料価格の高騰による収益への影響第1-3-21 図は、2008年 1月と 12月に実施された2回の調査をもとに、原油と原材料の価格高騰の影響が中小企業の収益に与えている影響を示したものである。それによると、2008 年 1月時点では、原油価格の高騰が収益を大きく、または、

36.9

51.2

0

20

40

60

80

100

(%)

2008年1月調査 2008年12月調査 2008年1月調査 2008年12月調査

原油高の影響 原材料高の影響

48.8

21.1

30.0

11.922.2

50.0

27.823.2

53.8

23.0

収益を大きく圧迫している 収益をやや圧迫している 収益への影響はほとんど無い

第1-3-21図 原油高・原材料高の収益への影響

資料:みずほ総合研究所(株)「原油・原材料の価格上昇による中小企業の業況への影響調査」(2008年1月) 同「中小企業を取り巻く事業環境と経営実態に関する調査」(2008年12月)

~2008年1月時点に比べ、同年12月時点においては、収益への影響度が和らいできている~

3. 原油・原材料価格の高騰の影響

09-04-322_p001-040.indd 32 2009/05/15 13:05:21

Page 33: 中小企業を巡る経済金融情勢 2008年度における …...2008年度における中小企業を巡る経済金融情勢 第1章 中小企業白書 2009 3 第 1 節 市場では資金の枯渇や金利の上昇が生じ、クレ

2008年度における中小企業を巡る経済金融情勢

第1章

33中小企業白書 2009

第3節

やや圧迫していると回答した中小企業の割合が88.1%に達し、原材料価格の高騰が収益を大きく、または、やや圧迫している中小企業の割合が77.8%であった。そして、2008年 12月時点では、原油・原材料価格が下落したことを受け、収益を圧迫していると回答する中小企業の割合は若干減少し、特に原油価格の影響については78.8%へと減少している。次に、第 1-3-22 図は、中小企業が原油・原材料価格の上昇に伴うコストの増加分を自らの製品・サービスの価格に転嫁できているかどうかを示したものである。それによると、2008 年 1月から 12月にかけて、「0%転嫁」、すなわち全く価格転嫁できていない中小企業の割合は低下しているが、「1~ 20%転嫁」の中小企業の割合は上昇している。これは、中小企業はコスト増加分の一部を転嫁できたものの、それ以上の転嫁をすることが難しかった状況を示していると考えられ

る。2008 年度後半は、原油・原材料価格が下落してきているものの、製品・サービスの価格も内外需の減少に伴って下落圧力が高まっており、価格転嫁が難しい中小企業の収益環境は厳しい状況が続いていたと考えられる。

(2)中小企業の省エネへの取組今回の原油価格の高騰を受けて、中小企業は省エネにどのように取り組んでいたのであろうか。第 1-3-23 図は、ガソリン、重油等の価格高騰が続いていた 2008年 8月時点に行われた調査をもとに、中小企業の省エネへの取組を示したものである。それによると、中小企業の 84%は冷暖房温度の適切な設定、クールビズなどの運用面の省エネに取り組んでいると回答している。一方、省エネ型設備・機器の導入や既存設備・機器の補修改善などの設備面の省エネについては、中小企業の 49%が取り組んでいるが、運用面に比べて少

第1-3-22図 原油高・原材料高の価格転嫁の度合い

資料:みずほ総合研究所(株)「原油・原材料の価格上昇による中小企業の業況への影響調査」(2008年1月) 同「中小企業を取り巻く事業環境と経営実態に関する調査」(2008年12月)

~緩やかな価格転嫁の進展が見られるが、依然として全く価格転嫁が出来ていないとする中小企業が半数程度を占める~

62.155.5 56.0

49.6

28.633.5 30.7

37.7

3.8 3.8 4.1 3.62.5 4.01.1 2.2 1.8 2.7

1.9 2.1 3.4 3.2

0

20

40

60

80

100

2008年1月調査 2008年12月調査 2008年1月調査 2008年12月調査

0%転嫁 1~20%転嫁 21~40%転嫁 41~60%転嫁 61~80%転嫁 81~100%転嫁

3.0 3.1

原油高 原材料高

(%)

09-04-322_p001-040.indd 33 2009/05/15 13:05:22

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34 2009 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

第3節 試練に直面する中小企業

ない。その理由については、「資金不足のため」が 54%と最も多く、次に「経済性が低いため」が36%となっている。第 1-3-24 図は、中小企業のエネルギー投入比率(原材料使用額に占める燃料使用額と購入電力使用額の合計額)を示したものであるが、2005年時点の中小企業のエネルギー投入比率は、1985年に比べて若干改善しているものの、大企業に比べると改善幅が小さい状況となっており、また、1995 年に比べて上昇している。中小企業による省エネへの取組は、中小企業のコスト削減につながることに加え、地球温暖化防止のためのCO2

排出削減に向けて重要な課題である。現在、中小企業の省エネを促進するための各種施策が講じられてきている。こうした施策の一つとして、大企業等が資金、技術等を中小企業等に提供することで、省エネ等に関する取組を促進する制度(国内クレジット制度 14)は、先に見たとおり、中小企業が設備面の省エネに取り組む上での課題である「資金不足」等に資するものである。今後とも、これらの施策の推進により、中小企業の省エネへの取組が促進されることが期待される。

14 詳しくは、第2 章1節第4項(2)を参照。14 詳しくは、第2 章1節第4項(2)を参照。

第1-3-23図 中小企業における省エネへの取組の状況

資料:中小企業庁・全国中小企業団体中央会・(財)全国中小企業取引振興協会「原油・原材料価格上昇による中小企業への影響調査」(2008年9月)

84.2

49.1

15.8

50.9

0

20

40

60

80

100

 

運用面の省エネ

(冷暖房温度の適切な設定、

 

クールビス、昼休み消灯など)

 

設備面の省エネ

(省エネ型設備・機器の導入、

 

既存設備・機器の補修改善など)

取り組んでいない

取り組んでいる

① 省エネに取り組む割合

53.7

36.2

10.4 7.9

0

20

40

60

80

100

資金不足のため

経済性が低いため

省エネの知識の不足のため

その他

② 設備面の省エネに取り組んでいない理由

(%) (%)

~運用面の省エネに取り組んでいる中小企業の割合は大きいが、設備面での省エネに取り組んでいる中小企業の割合は小さい~

09-04-322_p001-040.indd 34 2009/05/15 13:05:23

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2008年度における中小企業を巡る経済金融情勢

第1章

35中小企業白書 2009

第3節

「流水」に着目し、環境負荷のない自然エネルギーの生産に成功

東京都千代田区のシーベルインターナショナル株式会社(従業員7名、資本金 6,700 万円)は、再生可能エネルギーに関する技術開発を行っている企業である。同社が開発した新製品として、水路に設置して水の流れを活用する流水式小水力発電装置「ストリーム」がある。

流水による発電は、大学等で様々な研究がなされてきたが、十分な電力を取り出すには至っていない。そうした中、同社は、水の専門コンサルタントとして有する技術を応用し、水の流速を速めることにより、運動エネルギーを高めて取得する、世界レベルのオンリーワン技術を実用化させた。2007年10月に日本で特許を取得したほか、現在は米国、EU、韓国、インド、中国、オーストラリアで特許出願中である。これまでの水力発電は、ダムの設置に伴って環境への負荷が増大するイメージが強かったのに対し、同社の製品は、ダムを設けることなく、本来的に環境負荷がない流水を活用した水力エネルギーを生産できることから注目されている。また、下水道処理場、浄水場、農業用水路、民間工場など、設置可能な場所が多数存在することや、風力や太陽光を活用した発電と比較して稼働率の安定性や設置工事の簡易性、メンテナンスの簡易性などが、同社製品のメリットとなっている。需要地の近辺で安定的な発電が可能となるため、同社では様々な分

野での応用が可能であり、災害復旧支援にも役立つものと考えている。既にインドやバングラデシュといった海外も含め、多くの引き合いがあり、受注に結びついてきている。同社の海野裕二社長は、「今後は、CO2の排出削減に貢献できる地産地消型の自然循環型エネルギーシステム技術を世界に普及させ、地球環境への貢献を進めたい。」とし、夢の実現を目指して挑戦を続けている。

事例 1-3-4

第1-3-24図 エネルギー投入比率の推移

資料:経済産業省「工業統計調査」再編加工(注) 1. エネルギー投入比率は、エネルギー支出(燃料使用額と購入電力使用額の合計で定義)÷原材料使用額で算出。 2. 素材型業種は、食料品、飲料・たばこ・飼料、繊維製品、衣服その他繊維製品、木材・木製品、家具・装飾品、パルプ・紙・

紙加工品、印刷、化学製品、石油製品、石炭製品、プラスチック製品、ゴム製品、なめし革・毛皮・同製品、窯業土石製品、鉄鋼、非鉄金属、金属製品、加工組立型業種は、一般機械、電気機械、輸送機械、精密機械、その他の製造業により定義した。

3. 従業者数30人以上の事業所が対象。

~中小企業のエネルギー投入比率は、90年代を通じて上昇傾向に転じている~

9.1

6.26.7

2.11.5 1.4

5.4

4.14.8

2.52.1 2.4

0

2

4

6

8

10

1985年 1995年 2005年

素材型業種(大企業) 加工組立型業種(大企業) 素材型業種(中小企業) 加工組立型業種(中小企業)

(%)

09-04-322_p001-040.indd 35 2009/05/15 13:05:23

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36 2009 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

第3節 試練に直面する中小企業

4. 活路を求めての挑戦

以上で見てきたとおり、世界経済が減速する中、中小企業を巡る経営環境は極めて厳しい状況にある。先の第 1-2-7 図②では、中小企業の売上高経常利益率が、大企業に比べて低く、2005 年末頃から低下し続けていることを見た。これは、利益率の平均値を見たものであるが、中小企業のうち経常利益がマイナスとなっている企業が占める割合を見ると、中小企業の4割程度で経常利益がマイナスとなっており、2004 年以降、その割合が上昇しており、中小企業の収益環境の厳しさを物語っている(第1-3-25 図)。また、今後の見通しについても、中小企業の約75%が、今後 1~ 2年程度先の業況が悪化すると予想している(第 1-3-26 図)。自社の属する業界についても、さらに悲観的な予想がなされている。このような厳しい経営環境の下で、中小企業は、どのようにこの難局を乗り越えようとしているのであろうか。

(1)中小企業の経営方針第 1-3-27 図は、「経営実態調査」をもとに、業況が大幅に改善した中小企業と悪化した中小企業が、それぞれどのような経営方針を有していたかについて、「収益戦略」、「事業スタンス」等の項目ごとに指数化して示したものである。同図では、例えば「事業スタンス」について見ると、経常利益率が大幅に改善した中小企業のグループでは、「長期志向」と回答した企業の割合が「短期志向」と回答した企業の割合を46.5%ポイント上回っていることを示している。また、経常利益率が大幅に悪化した中小企業のグループでは、「長期志向」と回答した企業の割合が「短期志向」と回答した企業の割合を27.5%ポイント上回っている。すなわち、いずれのグループでも、「長期志向」が相対的に強いが、経常利益率が大幅に改善した中小企業のグループは、特に長期志向が強いことを意味する。同図によれば、「付加価値戦略」については、両グループで経営方針に差異が見られ、経常利益

第1-3-25図 赤字企業比率の推移

資料:財務省「法人企業統計年報」再編加工(注) 経常利益がマイナスの企業を赤字企業と定義している。

~大企業に比べ中小企業は赤字企業の割合が高い~

0

10

20

30

40

50

1983 1984 1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007

大企業(全業種) 中小企業(全業種) 大企業(製造業)

中小企業(製造業) 大企業(非製造業) 中小企業(非製造業)

(%)

(年)

09-04-322_p001-040.indd 36 2009/05/15 13:05:29

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2008年度における中小企業を巡る経済金融情勢

第1章

37中小企業白書 2009

第3節

率が改善した企業は「高付加価値の追求」という考えが強いことがわかる。また、「成長スタンス」について、経常利益率が改善した企業は「拡大志向」であるのに対し、悪化した企業は「現状維持」

である点が好対照となっている。

(2)事業環境の変化に対応した経営方針の見直し次に、第 1-3-28 図は、中小企業が過去に経営

第1-3-26図 中小企業の業況感の短期見通し(1~2年程度先)

資料:みずほ総合研究所(株)「中小企業を取り巻く事業環境と経営実態に関する調査」(2008年12月)(注) 現在と比較した見通しをたずねたものである。

~1~2年程度先の業況の見通しが「悪い」、「やや悪い」とする回答は、自社については合わせて75%、属する業界については合わせて86.3%に上る~

0.3

1.5

7.5

10.5

16.1

33.5

36.2

52.8

38.8

0% 20% 40% 60% 80% 100%

業界

自社

良い やや良い 良くも悪くもない やや悪い 悪い

2.9

第1-3-27図 企業業績と経営スタンス

資料:みずほ総合研究所(株)「中小企業を取り巻く事業環境と経営実態に関する調査」(2008年12月)(注) 各項目について5段階回答を3段階に加工した上で、重視している回答数割合の差を表示している。

~経常利益率が過去3年間に大幅に改善した企業の経営スタンスは、長期志向、拡大志向、高付加価値の追求等に特徴付けられる~

53.2

5.4

16.3

27.1

48.5

46.5

40.8

10.8

10.9

12.9

40.3

10.2

46.5

40.3

42.1

7.3

63.3

25.2

28.9

27.5

43.7

63.7

4.7

20.4

69.8

15.5

0102030405060708090100

収益戦略シェア拡大←

→経営改善による内部成長

→ニッチマーケティング

→年功序列型重視

→低コスト

→現状維持

→プロセスイノベーション

→既存顧客深掘

→社会貢献

→財務健全

→ボトムアップ

→本業特化

→長期志向

→収益性重視

短期志向←

多角化←

トップダウン←

積極投資←

利益追求←

新規顧客獲得←

プロダクトイノベーション←

拡大志向←

高付加価値の追求←

企業買収による外部成長←

マスマーケティング←

成果重視←

事業スタンス

事業展開

意思決定プロセス

投資と財務のバランス

社会貢献と利益追求

顧客戦略

イノベーション戦略

成長スタンス

付加価値戦略

成長戦術

マーケティング戦略

人事戦略

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100

(%)

(%)

経常利益率が大幅に悪化(過去3年間)経常利益率が大幅に改善(過去3年間)

09-04-322_p001-040.indd 37 2009/05/15 13:05:29

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38 2009 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

第3節 試練に直面する中小企業

方針を転換したことがあるかどうか、また、2008年 12月の時点で、今後、経営方針を転換する予定があるかどうかを聞いた結果を示したものである。それによると、過去に経営方針を転換した経験がある企業や今後経営方針を転換する予定であるとする企業の方が、そうでない企業に比べて経常利益率が改善したと回答する企業が多い。2008 年秋以降、経営環境が急速に、一段と厳しくなってきた中、経常利益率が改善している企業でも、経営方針を見直すことを考えていることを示している。企業が競争力を維持し、持続的な発展を遂げていくためには、事業環境の変化に適応しながら、最善の戦略を選択していくことが重要である。とりわけ、現在、内外需が急速に減少し、市場ニーズの変化が生じた可能性が高いことから、中小企業は、変化したニーズを的確に把握し、それに対応した製品・サービスを開発し、提供していくための経営方針や経営戦略の立案・実行が重要と

なっていると考えられる。我が国経済の屋台骨を支える中小企業が、100年に一度と言われる危機にある今、変化するニーズに対応した、新たな価値を創造していくこと、すなわちイノベーションに果敢に挑戦していくことが強く期待されている。次章では、市場の創造と開拓の原動力となる、中小企業のイノベーションについて分析することとしよう。

第1-3-28図 経営方針の転換と経常利益率の状況

資料:みずほ総合研究所(株)「中小企業を取り巻く事業環境と経営実態に関する調査」(2008年12月)(注) 経常利益率は、過去3年間の状況をたずねたものである。

~過去に経営方針を転換した経験のある中小企業や今後経営方針を転換する予定のある中小企業の方が、経常利益率が改善してきたとする割合が高い~

0.5

4.0

0.5

4.1

8.5

22.3

8.5

21.5

20.1

21.9

20.1

23.0

34.2

32.3

34.2

32.5

36.7

19.5

36.7

18.9

0% 20% 40% 60% 80% 100%

転換する予定はない

転換する予定である

転換したことがない

転換したことがある

大幅に改善 若干の改善 変わらない 若干の悪化 大幅な悪化

過去に経営方針を

転換した経験

今後経営方針を

転換する予定

09-04-322_p001-040.indd 38 2009/05/15 13:05:30

Page 39: 中小企業を巡る経済金融情勢 2008年度における …...2008年度における中小企業を巡る経済金融情勢 第1章 中小企業白書 2009 3 第 1 節 市場では資金の枯渇や金利の上昇が生じ、クレ

2008年度における中小企業を巡る経済金融情勢

第1章

39中小企業白書 2009

第3節

経済情勢が悪化する中での発想の転換

1974 年に創業し、大阪府東大阪市に本社を構えるハードロック工業株式会社(従業員45名、資本金 1,000 万円)は、緩まないナットである「ハードロックナット」の開発、製造、販売を行っている。同社の若林克彦社長は、「なにわのエジソン」との異名を持つ発明家である。同社のハードロックナットは、日本の神社の鳥居の柱で緩み止めに使用されている楔(くさび)にヒントを得たものである。具体的には、2個のナットを使用する基本構造において、凸型の下ナットの凸部をボルトの中心軸から僅かにずらし、そこに凹型の上ナットを「ロックナット」としてねじ込むと、強力なロック効果が得られる仕組みとなっている。このハードロックナットの価格は、通常のダブルナットより倍近く高い。このため、当初は多くの企業から拒絶されたが、様々な試験でねじ緩み防止効果が高く評価されると、同社のナットは徐々に世界中で採用されるようになった。現在では、国内外の新幹線、高速道路、原子力発電所、大手メーカーの生産設備などで幅広く活用されている。現下の内外経済の悪化は、同社にも影響を与えており、大手メーカー等

による新規設備投資の減少に伴ってナットの注文が減少している。しかし、同社は、大手メーカーの生産ラインが止まったことを「緩み止めナットへの交換を促すチャンス」と捉え、まさにピンチをチャンスとして活かすべく、従業員一丸となって営業活動に取り組んでいる。

事例 1-3-5

日本のモノ作りの強さを活かしたデジタル顕微鏡装置の開発

青森県弘前市に本社を構える株式会社クラーロ(従業員7名、資本金2億1,725万円)は、スライドガラスに乗せた癌(がん)の組織などの標本を丸ごとデジタル化できる「バーチャルスライド」を製品化し、販売を行っている企業である。同社が開発した「バーチャルスライド」は、標本の全体を高解像で分割して撮影し、

デジタル処理で貼り合わせを行い、組織標本の全面を任意に縮小、拡大や位置移動を行い、モニターで閲覧することを可能とする。この結果、従来の手動による顕微鏡観察と比べ、効率性を飛躍的に高めることに成功した。加えて、組織標本をデジタル画像化することで、遠隔地との画像情報の交換なども可能とした。同社によれば、こうした最先端の製品開発に成功できたのは、研磨技術などについて世界に誇る技術を有する技能工が日本国内に多数存在していることが大きいとしており、同製品には全て国産の加工部品が使われている。同社の高松輝賢社長は、日本のモノ作りの品質の高さとメイド・イン・ジャパンのブランド力を最大限に活かすことで、最先端の製品開発を続け、世界に販売していきたいと意欲を燃やしている。

事例 1-3-6

09-04-322_p001-040.indd 39 2009/05/15 15:59:48

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