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島根大学地球資源環境学研究報告 17,31~47ページ(1998年12月) Geoscience Rept.Shimane Univ.,17,p.31~47(1998) 岡山県川上町における 成羽層群とそれを覆う石灰岩体の構造関係 横田修一郎*・松村 聡明・島内 Structural relation between Triassic Nariwa Group and ove in Kawakami,central Okayama,Japan Shuichiro Yokota*,Toshiaki Matsumura**and Takeshi Shimauchi* Abstract Stmctural relationship between the Triassic Nariwa Group and overlying Pe㎜ian been believed to be portions of a nappe body,has been studied in Kawakami,cent detail field mapping and observation in some large exposures,spatial distribution among them were obtained.The limestone blocks are concluded to be reworked dep glomerate of the Cretaceaus Kanmon Group。Because,greenish volcanic rocks of seems to be lower than the limestone body stratigraphically as a whole.And both o shale beds of the Triassic Nariwa Group.Considering that there are many landsl faults ofthenappe structureareunderstoodtobe suchlandslideplanesfo Key wor“s:stmcture,nappe,10w angle fault,landslide,Nariwa Group,Okayama,Tr 岡山県北西部の川上町から成羽町にかけての地域(第 1図)には砂岩・頁岩を主体とするトリアス系成羽層群 が広く分布している.本層群には石炭層が含まれている こともあって,古くから古生物学的および地史学的研究 がなされてきた.しかし,岩相の単調さと側方変化の著 しさ,さらに走向傾斜の頻繁な変化のため,全体の層序 や構造は長い間不明であった.1980年代になってようや く層序や構造の概要が明らかにされ,とくに砂岩・頁岩 に挟まれている酸性凝灰岩薄層を鍵層にした調査によっ て,NE-SWに軸をもつ向斜構造の存在が示されてきた (大藤,1985;鈴木・Asiedu,1995). しかしながら,走向傾斜の頻繁な変化をみれば,成羽 層群中にはこの向斜構造の他にも小規模な背斜・向斜構 造が多数存在するであろうし,基盤となる石灰岩の分布 島根大学総合理工学部地球資源環境学科 Department of Geoscience,Shimane University,Matue690-8504, Japan ** (現在:東建ジオテック㈱松山支店) Depaltment of Geoscience,Shimane University,Matue690-8504, Japan.Present address:Matsuyama branch,Token Geotec Co. *** (現在:昭和地下工業㈱鹿児島支店) Department of Geoscience,Shimane University,Matue690-8504, Japan.Present address:Kagoshima branch,Showa Chika Kogyo Co. 標高をみれば,成羽層群と基盤の境界も複雑な構造形態 をなしていることは容易に想像される.とりわけ後者に ついては,基盤のペルム系石灰岩体が成羽層群上に低角 逆断層でのりあげたナップをなすとして“大賀の押し被 せ”(小澤,1924;Ozawa,1925)とよばれてきた.この解 釈に関してはその後様々な考え方が提案されており,た とえば“石灰岩体”の大半は白亜紀に再堆積した巨礫の 集合体とする考え方(沖村・長谷,1973)や,両者の境 界は起伏に富むものの,低角の断層は実在せず基本的に は不整合関係とする考え方(大藤,1985)などがある. このため,両者の構造関係については現段階でも定見に いたっていない. 筆者らは石灰岩体を中心とする構造関係の把握のた め,川上町地頭~大賀地域(第1図参照)において地質 分布と構造を調査してきた.その結果,今回上記の議論 に資するであろういくつかの露頭を得た.ところで,本 地域は岡山県下でも代表的な地すべり地帯である(中国 四国農政局計画部,1964).したがって成羽層群中の炭 質頁岩や石炭層が地すべり発生に関与しているとすれ ば,走向傾斜の頻繁な変化には最近の地すべり移動が含 まれている可能性もある.このため,個々の露頭状況や 露頭分布をもとにした以下の構造関係の議論では,地す べりという面からも検討した. 31

岡山県川上町における 成羽層群とそれを覆う石灰岩体の構造 …...岡山県川上町における成羽層群とそれを覆う石灰岩体の構造関係 33

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Page 1: 岡山県川上町における 成羽層群とそれを覆う石灰岩体の構造 …...岡山県川上町における成羽層群とそれを覆う石灰岩体の構造関係 33

島根大学地球資源環境学研究報告 17,31~47ページ(1998年12月)

Geoscience Rept.Shimane Univ.,17,p.31~47(1998)

      岡山県川上町における

成羽層群とそれを覆う石灰岩体の構造関係

横田修一郎*・松村 聡明・島内 健

Structural relation between Triassic Nariwa Group and overlying limesto皿e bodies

            in Kawakami,central Okayama,Japan

Shuichiro Yokota*,Toshiaki Matsumura**and Takeshi Shimauchi***

                     Abstract Stmctural relationship between the Triassic Nariwa Group and overlying Pe㎜ian limestone blocks which have

been believed to be portions of a nappe body,has been studied in Kawakami,central Okayama,Japan.Based on

detail field mapping and observation in some large exposures,spatial distribution of these rocks and relations

among them were obtained.The limestone blocks are concluded to be reworked deposits fo㎜ed as basal con-

glomerate of the Cretaceaus Kanmon Group。Because,greenish volcanic rocks of the Cretaceous Kanmon Group

seems to be lower than the limestone body stratigraphically as a whole.And both of them cover sandstone and

shale beds of the Triassic Nariwa Group.Considering that there are many landslides in this area,low angle

faults ofthenappe structureareunderstoodtobe suchlandslideplanesfomedjustbelowthegroundsu㎡ace.

Key wor“s:stmcture,nappe,10w angle fault,landslide,Nariwa Group,Okayama,Triassic

は じ め に

 岡山県北西部の川上町から成羽町にかけての地域(第

1図)には砂岩・頁岩を主体とするトリアス系成羽層群

が広く分布している.本層群には石炭層が含まれている

こともあって,古くから古生物学的および地史学的研究

がなされてきた.しかし,岩相の単調さと側方変化の著

しさ,さらに走向傾斜の頻繁な変化のため,全体の層序

や構造は長い間不明であった.1980年代になってようや

く層序や構造の概要が明らかにされ,とくに砂岩・頁岩

に挟まれている酸性凝灰岩薄層を鍵層にした調査によっ

て,NE-SWに軸をもつ向斜構造の存在が示されてきた

(大藤,1985;鈴木・Asiedu,1995).

 しかしながら,走向傾斜の頻繁な変化をみれば,成羽

層群中にはこの向斜構造の他にも小規模な背斜・向斜構

造が多数存在するであろうし,基盤となる石灰岩の分布

*   島根大学総合理工学部地球資源環境学科

   Department of Geoscience,Shimane University,Matue690-8504,

   Japan** ッ  (現在:東建ジオテック㈱松山支店)

   Depaltment of Geoscience,Shimane University,Matue690-8504,

   Japan.Present address:Matsuyama branch,Token Geotec Co.*** ッ (現在:昭和地下工業㈱鹿児島支店)

   Department of Geoscience,Shimane University,Matue690-8504,

   Japan.Present address:Kagoshima branch,Showa Chika Kogyo Co.

標高をみれば,成羽層群と基盤の境界も複雑な構造形態

をなしていることは容易に想像される.とりわけ後者に

ついては,基盤のペルム系石灰岩体が成羽層群上に低角

逆断層でのりあげたナップをなすとして“大賀の押し被

せ”(小澤,1924;Ozawa,1925)とよばれてきた.この解

釈に関してはその後様々な考え方が提案されており,た

とえば“石灰岩体”の大半は白亜紀に再堆積した巨礫の

集合体とする考え方(沖村・長谷,1973)や,両者の境

界は起伏に富むものの,低角の断層は実在せず基本的に

は不整合関係とする考え方(大藤,1985)などがある.

このため,両者の構造関係については現段階でも定見に

いたっていない.

 筆者らは石灰岩体を中心とする構造関係の把握のた

め,川上町地頭~大賀地域(第1図参照)において地質

分布と構造を調査してきた.その結果,今回上記の議論

に資するであろういくつかの露頭を得た.ところで,本

地域は岡山県下でも代表的な地すべり地帯である(中国

四国農政局計画部,1964).したがって成羽層群中の炭

質頁岩や石炭層が地すべり発生に関与しているとすれ

ば,走向傾斜の頻繁な変化には最近の地すべり移動が含

まれている可能性もある.このため,個々の露頭状況や

露頭分布をもとにした以下の構造関係の議論では,地す

べりという面からも検討した.

31

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32 横田修一郎・松村 聡明・島内  健

●広島

松江

日本海一 一  ●

   鳥取

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ざ塗塁壁  0     50km

㌧鑛毒』轟△楚響雛妙機秘趨藩、輪/絶艦霞』◎難◎援

      0       5km

第1図 岡山県北西部の川上町から成羽町にかけての地形概要.

1125,000地形図をもとにした埋谷接峰面図.標高400m以上の範囲を点々で示している.今回対象とした地

頭~大賀地域は地形的に盆地状をなしている.

成羽層群分布域とその周辺の地形・地質概要

(1)地形概要

 調査対象は第1図に示すように,高梁市市街地の南西

方約15㎞の川上町地頭から大賀にいたる領家川に

沿った地域である.成羽層群分布域は標高300~400m

で比較的なだらかな山地とそれを開析する河谷に沿った

細長い平野よりなる.吉備高原の一部をなす定高性を

もった山稜が続き,高梁川支流の成羽川が高原を開析し

ている.領家川はさらにその支流として南側から成羽川

に注いでいる.

 全体としてみると,高原の標高は東にいくにつれて低

くなり,地頭~大賀地域はそのなかで盆地状部分に相当

する(第1図).盆地状地形は成羽層群の分布域にほぼ

対応することから,これは成羽層群とその基盤岩類(後

述)との間で生じた一種の組織地形といえる.水系もこ

の盆地状地形に調和的であり,中央を流れる領家川は地

頭付近で西谷川,三沢川を併せて北流している.山腹に

は緩傾斜地形が頻繁に見られるが,これには後述のよう

に地すべり移動にかかわるものがかなり含まれていると

推定される.

(2)広域の地質分布・岩相の概要と層序関係

 第2図は中国地方土木地質図編纂委員会編(1984)に

基づいた広域地質分布である.本地域周辺には成羽層群

の他に石灰岩や頁岩・砂岩を主体として成羽層群の基盤

をなす非変成ペルム系,凝灰岩や凝灰質砂岩を主体とし

て成羽層群を覆う白亜紀前期の関門層群相当層,さらに

白亜紀後期の火砕岩類や花崗岩類などが分布し,それぞ

れ山地を構成している.定高性をもった山稜部には淘汰

の悪い第三紀砂礫層が広く分布するとともに,後期中新

世の火山岩類が残丘をなしてわずかに分布している.以

下にそれぞれの分布と岩相の特徴,相互の関係について

述べる(第1表参照).

成羽層群

 成羽層群は主に砂岩・頁岩とそれらの互層よりなり,

砂岩の一部には薄い礫岩が挟まれている.石炭層を含む

ため,かつてはこの地域で炭鉱も稼行されていた.本層

群から産するEn∫o’nono∫isや植物化石は古くから研究さ

れ(たとえば,大石,1931;小林ほか,1937),それらに

基づいて地質時代は後期トリアス紀Norianとされてい

る(中国地方土木地質図編纂委員会編,1984).

 小林ほか(1937)は産出化石と岩相から,本層群を礫

岩に富む下部層,砂岩・頁岩主体の中部層,砂岩に富み

En∫o那ono∫∫sを産する上部層の3層に区分した.また,寺

岡(1959)は下位より,最上山層,日名畑層,地頭層と

よんだ.しかしながら,小褶曲や小断層が多く,複雑な

構造をなすととともに(徳山,1960a,b),岩相の側方変

化が著しいことから層序に関しては疑問点が多かった.

 大藤(1985)は砂岩・頁岩の間に挟まれる薄い酸性凝

灰岩層を鍵層として新たな層序を確立するとともに,向

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岡山県川上町における成羽層群とそれを覆う石灰岩体の構造関係 33

第1表 川上町~成羽町およびその周辺の地質概要.

地質時代 地質系統と岩相の概略

後期中新世瀬戸内火山岩類i弥高山玄武岩類など) アルカリ玄武岩

古第三紀 山砂利層(高瀬層) 著しく風化した砂礫層

白亜紀後期花崗岩体(広島型)

ホ砕岩類黒雲母花崗岩タ山岩~流紋岩および同質の凝灰岩~凝灰角礫岩

白亜紀前期 関門層群相当層 礫岩,凝灰岩~凝灰質砂岩・頁岩

後期トリアス紀 成羽層群 砂岩,頁岩とそれらの互層,礫岩

ペルム紀 宇治層および黒萩層 頁岩,粘板岩,石灰岩,塩基性火山岩類

                                セ                                い    ヤ                                らこコ    ず                )  〉  、/ )  v v  》 v  篭屋+t              白亜記後期火砕搏・〉〉)雇≧≠’\

           』鰹籔i寮1

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  棄   脅

5km

第2図 調査地域周辺の広域地質分布.中国地方土木地質図編纂委員会編(1984)による.

成羽層群の分布と構造は鈴木ほか(1990)に基づく.

斜軸を中心として各岩層が弧を描いて分布していること

を示した.鈴木・Asiedu(1995)は酸性凝灰岩層をさら

に詳細に追跡し,成羽層群を下位から仁賀層,地頭層,

最上山層,日名層,日名畑層の5層に細分した.結果と

して成羽層群のうち,相対的に下部は陸成であるが,上

部は海成と考えられている.なお,筆者らの地質図では

これらの層名を用いていないが,層序的にはほぼ妥当な

ものと考えている.

 これらの層序区分に基づく地質分布にスレート劈開に

よる褶曲構造解析(鈴木ほか,1990)も併せると,成羽

層群は大局的には鉛直に近い褶曲軸面をもち,東北東に

緩くプランジした向斜構造をなすと考えられる(鈴木・

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34 横田修一郎・松村 聡明・島内  健

Asiedu,1995).ただし,両翼部については小褶曲や小断

層が多く,かつ岩相の側方変化も著しいことから構造の

詳細は現時点においても明らかではない.

非変成ペルム系

 成羽層群のまわりに分布してその基盤をなす非変成層

についても,古くから石炭紀のサンゴ化石Lons4α1ε∫α

ガorのr碗s(小澤,1924)や紡錘虫化石〃illεr811α3ρ.,}勉一

わ6∫nαΨ.(吉村,1961)が報告されてきた.現在ではこ

れらの大半はオリストストロームと解釈され,礁性の石

灰岩相を主体とする地層群(高山層群)と,非石灰岩相

を主体とする地層群(宇治層,黒萩層,芳井層群)に分

けられている(鈴木ほか,1990).

 石灰岩相は塊状灰白色の石灰岩を主体とし,基底部に

塩基性火山岩類を伴うとともに(横山ほか,1979),石

灰岩中には赤紫~緑色の凝灰岩薄層を挟んでいる(吉

村,1961).非石灰岩相は粘板岩,砂岩を主体とし,

チャート,塩基性火山岩類,酸性凝灰岩,石灰岩を含み,

ときには礫岩を含んでいる.佐野ほか(1987)はこれら

の形成時代をペルム紀中世から同新世としている.

 これらの非変成層は成羽層群分布域の北西側と南東側

に広く現れている.黒萩層とよばれる後者では粘板岩の

一部は千枚岩化しているところがあるが,時代的には北

西側と同様と考えられている(鈴木ほか,1990).これ

らは成羽層群とは基本的には不整合であろうが,不整合

関係を示す明確な露頭は得られていない.

関門層群相当層

 成羽川の北方には礫岩や凝灰岩~凝灰質砂岩・頁岩よ

りなる特徴的な地層が分布しており,楠見ほか(1965)

は,この地層群を礫岩が優勢な下部層(礫岩,赤色凝灰

質砂岩・頁岩,黒色頁岩)と頁岩主体の上部層(頁岩,

赤~緑色凝灰岩,凝灰質砂岩・頁岩)とに区分し,産出

する貝エビ化石から白亜紀前期のものとしている.地質

時代と岩相上の特徴から,本地層群は中国地方西部から

九州北部に分布する関門層群に相当すると考えられ,関

門層群脇野亜層群の最上部と下関亜層群の最下部層とを

合わせたものがほぼこれに対比されている(今村・楠見,

1951;今村ほか,1984).層相からみると,礫岩から頁

岩にいたる上方細粒化の堆積サイクルをなす河成相でも

ある(鈴木・Asiedu,1995).この地層群に対し,かつて

は関門層群の旧称である硯石層群が用いられてきたが,

以下では関門層群相当層としておく.

 関門層群相当層と成羽層群との関係を示すものとし

て,調査地域北方成羽町の“枝の不整合”では,密集し

た石灰岩礫よりなる関門層群相当層が成羽層群の砂岩を

傾斜不整合で覆っているのが確認できる.

白亜紀後期火砕岩類および花崗岩類

 本地域北方の成羽町北西部から備中町北部にかけて,

上記関門層群相当層とは別に安山岩~流紋岩および同質

の凝灰岩~凝灰角礫岩が分布している.中国地方土木地

質図編纂委員会編(1984)によれば,岩相上の特徴およ

び広島型花崗岩体がこれに貫入していることから,中国

山地に広く分布する吉舎安山岩類および高田流紋岩類に

対比され,関門層群相当層より新しい白亜紀後期のもの

と考えられている.

 成羽川と領家川の合流点付近には花崗岩体(広島型花

崗岩類)が分布しているが,ここでは花崗岩体は成羽層

群を貫き,かつ関門層群相当層にも熱変成を与えている

(大塚,1966).

山砂利層および瀬戸内火山岩類

 本地域を含む岡山県備北地域には山稜部を中心に淘汰

の悪い砂礫層が広く分布しており,河合(1957)によっ

て高瀬層とよばれた.基底部は標高300~350mで,山

稜部の定高性ともほぼ対応している.特徴的な層相から

漠然と“山砂利層”とよばれ,新第三紀中新世備北層群

の一部と考えられてきた(中国地方土木地質図編纂委員

会編,1984;日本の地質「中国地方」編集委員会編,

1987).ただし,地質時代に関しては,砂礫層に挟まれ

る凝灰岩のフィッショントラック年代測定によって古第

三紀の可能性が指摘されている(鈴木,私信).

 成羽層群分布域の西方には玄武岩が残丘をなしてわず

かに分布しており,これは瀬戸内火山岩類の一部をなす

アルカリ玄武岩と考えられ,K-Ar年代では後期中新世

の8~10Maが得られている(宇都ほか,1986).なお,

これと同系統の玄武岩の上記砂礫層への貫入が報告され

ている(通産省,1967).

地頭~大賀地域における地質分布と構造

 広域的にみると,本地域の周辺にはこのように多様な

地質系統が複雑に分布しており,成羽層群の堆積以降,

陸化・浸食,そして新たな地層の堆積・陸化・浸食が繰

り返されてきたと推定される.しかも山砂利層の残存と

その層相が示すように,成羽層群や関門層群相当層など

の岩盤は長い間地表近くで風化・劣化を受けつづけ,そ

の後河川によって浸食・削剥され,とくに河谷に面した

岩盤斜面は常に浸食される環境にあったと推定される.

山砂利層の堆積時代に基づけば,少なくとも古第三紀の

段階で成羽層群などの基盤はすでに現在のように地表に

露出していたであろうから,当時すでにかなりのレベル

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岡山県川上町における成羽層群とそれを覆う石灰岩体の構造関係 35

まで岩盤の風化・劣化が進んでいたと推定される.

 成羽層群をめぐるこうした地質時代および現在におけ

る諸環境を背景として,成羽層群と非変成ペルム系の一

部であろう石灰岩体や緑色を呈する火山岩類との関係を

見るため,領家川に沿う川上町地頭~大賀地域を詳しく

調査した.第3図は今回作成した地質平面図である.

(1)成羽層群の層相と大規模な向斜構造

 第3図の図化範囲には砂岩・頁岩を主体とする成羽層

群が広く分布している.成羽層群中の走向・傾斜は場所

によって頻繁に変化しているが,大局的には図の中央部

から南部にかけては大藤(1985)や鈴木・Asiedu(1995)

の指摘したNE-SWに軸をもつ向斜構造が存在し,砂

岩,頁岩よりなる各層はこれをとりまくように分布して

いる.向斜軸の位置と北東への緩いプランジが大谷川沿

いの走向・傾斜などから推定できる.さらに軸を境にし

た両翼での各層の分布範囲の違いなどから,ここでは褶

曲軸面はほぼ垂直あるいは多少南側に傾斜していると推

定される.

 本地域内の層序的最上位,すなわち向斜軸部に相当す

る領家川と大谷川の合流部南方には厚い砂岩層があり,

その一部には礫岩が挟まれている.礫は円礫~亜円礫

で,チャート,砂岩,石灰岩,塩基性火山岩類などより

なる.基盤の非変成ペルム系より供給されたものであ

り,成羽層群堆積時には周辺にこれらが露出していたこ

とを示している.

 この砂岩層の下位には連続性のよい頁岩層があり,向

斜軸を境にした北翼では領家川下流の右岸まで連続して

いる.この下位には再び厚い砂岩層が存在し,向斜軸の            なはら両翼から領家川左岸下流の名原付近まで連続している.

したがって後述する名原地すべりはこの砂岩層とそれに

挟まれる頁岩層が関与している可能性がある.

 この砂岩層の下位は砂岩・頁岩互層となるが,この互

層部分は厚く,とくに小谷ヶ市から南の領家川右岸では

厚い.ただし,小谷ヶ市北方の領家川左岸側では互層部

分と砂岩層部分との岩相上のコントラストが明確にな

り,互層と砂岩層が交互に現れるようになっている.砂

岩は一般に暗灰色~淡灰色を呈し,硬く粗粒であるが,

一部はシルト質の部分も含んでいる.頁岩は安成北東方

には黒色塊状で無層理のものも見られるが,他はシルト

質のところが多く,砂岩の薄層を挟んでいるところも少

なくない.

 これらの砂岩・頁岩のなかにも頻繁に石炭薄層が挟ま

れ,頁岩も炭質頁岩が多い.露頭に現れている炭質頁岩

の多くは破砕されて粉炭状になっている.頁岩層のみが

著しく軟質化して屈曲していることも多く,これらは頁

岩の層理面がすべり面になり,頁岩層全体が大きく勇断

された可能性を示している.成羽層群中の酸性凝灰岩薄

層のうち,最も明瞭なものの1つは上記の厚い頁岩層の

下位に位置している.

 成羽層群の向斜構造は北東部で明瞭であるが,南西部

の安成付近では不明瞭となる.しかし軸の西方延長は大

賀地域の松原南西方の領家川右岸にまで確認できる.こ

の地域における層理面方向の細かい変化に基づけば,上

記の向斜構造に加えて小規模な背斜・向斜構造がいくつ

か推定できる.たとえば,領家川左岸の名原付近から小

谷ヶ市の北へ伸びる背斜軸のほか,南~志田問にいくつ

かの背斜・向斜軸が推定される.

 大藤(1985)が指摘したように志田付近では露頭状況

はよくないものの,成羽層群の細粒砂岩は基盤の石灰岩

上を見かけ上覆っているように見え,砂岩中には頁岩礫

のほかわずかに石灰岩や塩基性火山岩類の亜円礫~互角

礫も含まれていることを確認した.したがって,少なく

ともこの付近では両者は不整合関係をなす可能性が高い.

(2)石灰岩と“緑色岩類”

 北部志田付近にはその北西から続く石灰岩が頁岩とと

もに分布しており,成羽層群の基盤をなす非変成ペルム

系と考えられる.宇治層とよばれ,前述のように佐野ほ

か(1987)によってその大半はペルム紀のオリストスト

ロームと見なされている.石灰岩は西谷川に沿ってさら

に北西方に続いており,一部はドリーネ地形をなしてい

る.南部の大賀地域にも小谷ヶ市から松原にかけて石灰

岩とともに緑色を呈する火山岩類(緑色岩類)が分布し

ている.

 北部の石灰岩は白色~灰白色を呈し,塊状のところが

多い.層状のところではNE-SW~E-Wの走向で南側に

傾斜している.西谷川沿いでこれと隣接して分布してい

る頁岩には石灰岩礫岩も見られたが,その礫中に紡錘虫

化石も含まれている.

 大賀地域のうち,最上山と南天山に挟まれる峡谷部で

は灰白色の石灰岩が連続して露出している.塊状部分が

多いが,一部では層状をなして東へ緩傾斜している.こ

の露頭以外に連続的なものはほとんどなく,石灰岩露頭

の大半は山腹斜面に突出するように露出している.この

ような石灰岩露頭からも石炭紀の微化石が報告されてい

る(藤本他,1994).

 緑色を呈した火山岩類は道路沿いの露頭などで石灰岩

とともに見られることが多い.暗緑色,赤褐色,暗赤色

などを呈しており,全体に変質が著しい.これまで“緑

色岩類”としてペルム系の堆積岩類とともに海底で形成

された塩基性火山岩類とされてきた.しかしながら,松

原付近の道路沿いで採取した岩石は,顕微鏡観察では針

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36 横田修一郎・松村 聡明・島内 健

   沖積層 口砂・泥礫1謙囎積物を含む)團砂・泥礫

河岸段丘堆積物匿]砂・泥・円礫

高瀬層(山砂利層)匿翻風化した砂礫

        匿垂】石灰岩(主に礫状)

           火山岩類(火砕岩を含む)

        目頁岩および頁岩優勢層

        匿ヨ砂岩・頁岩互層成羽層群 @國砂岩および砂岩優勢層

        團礫岩

宇治層および黒萩�頁岩および粘板岩

 嚢▽、ノ

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七! ’華捧i議llヒ、

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0 500m

第3図 川上町の領家川に沿った地頭~大賀地域の地質図.

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岡山県川上町における成羽層群とそれを覆う石灰岩体の構造関係 37

状の斜長石が密集してpilotaxitic組織をなし,変質して

いるものの,原岩は組織としては安山岩質の溶岩または

火砕岩の可能性が高い.この火山岩類は個々の露頭では

塊状のものも見られるが,成層構造をもっているものや

礫状のものもあり,さらに石灰岩が礫状に取り込まれて

いるものも見られる.また,全体してこれは石灰岩体の

下位に位置しているようである(後述の露頭分布および

地質断面図,第5,6図参照).

 なお,北部の西谷川に沿っても同様の緑色を帯びた火

山岩類と思われる露頭を1箇所確認し,第3図の地質図

に示しているが,これは見かけ上成羽層群の砂岩層の下

位に位置している.変質が著しく,詳細は不明である.

(3)山砂利層の残存と層相によって示される地質環境

 これら成羽層群と石灰岩,頁岩,緑色を呈する火山岩

類は高標高部で風化の著しい山砂利層(高瀬層)によっ             かちぐりて覆われている.この礫層は搗栗付近をはじめ上大竹,

藤原など定高性をもつ標高300m~350mの山稜部に分

布している.礫径5~20cmの円礫~亜円礫が主体であ

り,マトリックスは砂~泥よりなる.風化が著しく“く

さり礫”を呈している.礫種は流紋岩質の火山岩,安山

岩類,砂岩,頁岩の他に片岩類や石灰岩もみられる.成

羽層群,基盤の石灰岩や片岩,関門層群相当層などから

供給されたものと考えられる.小谷ヶ市北方のものでは

一部西~北北西への礫のインブリケーションが確認さ

れ,これから南東方向への河川の流れが推定される.

 一方,定高性をもつ山稜直下の山腹斜面には多くの地

すべり地形が認められ,そのいくつかには滑落崖が認め

られる.地形的に見られる滑落崖と移動・堆積域の範囲

は幅200~300m,長さ数100mのものが多く,田中ほ

か(1996)によると,その末端が河床に達しているもの

だけでなく,高標高部のみのものも存在する.一部では          かちぐり最近でも活動があり,搗栗,名原,安成,藤原などの地

区を中心に地すべり防止区域として8区域が指定されて

いる(岡山県,1992).なかでも地頭西方の名原地すべ

りでは頻繁に活動し,これまで多くの調査がなされてき

た.その結果,ここではすべりの地質的素因は漠然とな

がら流れ盤をなす成羽層群とそのなかの炭質頁岩の存在

によると考えられている(内山ほか,1992;田中ほか,

1996).

 領家川の河谷に沿っては細長い平野ないし河岸段丘が

存在しているが,松原付近および南~地頭の間は峡谷と

なり,地形的に先行谷をなしている.前述の最上山と南

天山の峡谷に天然記念物「大賀の押し被せ」露頭が存在

する.本地域ではこのように現在でも地形的に不安定な

環境のところが少なくない.

大賀地域における砂岩・頁岩,石灰岩および

     火山岩類の構造関係

(1)大賀地域における露頭分布

 大賀地域においては成羽層群と石灰岩,緑色を呈する

火山岩類が密集して分布しているが,それらの構造関係

を見るため,原縮尺1/2,500の地形図を使用して露頭分

布を詳しく調査した.第4図はその結果得られた地質

ルートマップである.成羽層群に属すると推定される砂

岩,頁岩およびそれらの互層は小谷ヶ市付近と松原山付

近に広く現れている.石灰岩は前述の峡谷部をはじめ各

地域に散在しており,“緑色岩類”として取り扱われて

きた火山岩類および火砕岩類もそれらの間に分布してい

る.少なくともこの付近では成羽層群の砂岩・頁岩は相

対的に下位にあり,その上を石灰岩と火山岩類が覆って

いるように見える.

 これらの露頭分布をもとに石灰岩・火山岩類(火砕岩

類を含む)を併せた部分の底面を等高線で表すと第5図

のようになる.底面形状の起伏は大きく,標高200m

以下のところがあっても,すぐ近くで標高350m以上

となっている.標高の低いゾーンは現在の領家川の河道

と若干斜交してNE-SW方向に伸びている.このゾーン

を中心に南北で高くなっており,全体として谷状を呈し

ている.第6図はこれらを含めて作成した領家川を横断

する南北方向の地質断面図である.石灰岩・火山岩類は

起伏をもちながら成羽層群を覆うように分布している

が,この底面形状は成羽層群の背斜・向斜構造とは調和

していない.また,緑色の火山岩類は相対的に石灰岩よ

り下位に存在するようである.

 最上山と南天山間の「大賀の押し被せ」露頭では数

mの範囲で石灰岩と砂岩がほぼ直線状に境しており,す

でに述べたように,小澤(1924)はこれをナップの底面

をなす低角の逆断層とした.その後,大藤(1985)はこ

の部分には破砕構造がみられないことを指摘し,断層お

よびナップの存在を否定したが,今回の調査時点でも,

露頭の保存状態がよくないこともあって破砕帯といえる

ようなものは認められなかった.

 一方,本地域では進行中の農道工事に伴って新たに大

露頭がいくつか現れており,それらの地質情報は上記の

河床の露頭にかわるものとして大賀地域全体における構

造関係の議論に資するところが大きいと考えられる.そ

こで以下では最近の掘削工事によって現れた主な露頭で

あるLoc.A,Loc.B,Loc.Cの3箇所について,そこでの

地質状況を述べる.それぞれの位置は第4図の地質ルー

トマップに示す.

 3箇所のうち,Loc.AとLoc.Cは農道法面の掘削に

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38 横田修一郎・松村 聡明・島内  健

よって現れたもので,前者は標高240m前後で北向き

の山腹斜面に,また後者は標高280前後で南側から北に

張り出した尾根中の鞍部を横切る位置にある.これは標

高280mから300mにおよぶ大規模な掘削法面である.

一方,Loc.BはLoc.Cの約50m西方に位置し,上記の

農道工事に関連した工事用道路の掘削による北向き法面

である.

(2) Loc.Aの状況(第7図)

延長約60mの北向き掘削法面で,法高は全体として

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、竈霧難驚戴

            篇      櫓 蔦v「             讐献漣

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0 100

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兇Ls,聲石灰岩   Vr〃火山岩類

   Sh.産亨  頁岩および砂岩・頁岩互層

   Ss癖砂岩および砂岩優勢層

6◎ @ 層理面の走向傾斜

200m

第4図 大賀地域における石灰岩,火山岩類(火砕岩を含む緑色岩類),砂岩,頁岩の分布(地質ルートマップ).

図中のLoc.A,B,Cの詳細はそれぞれ第7,8,9図参照.

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岡山県川上町における成羽層群とそれを覆う石灰岩体の構造関係

            N

お 補一 ・

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w1,ズ ㌦η

1・

A

㌦、、’、

転母1、 1最上山》

」 .   ノ 竃 ・@ンーP 計亀

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39

                ’、  ノ’2』50                            臨調石灰岩(礫状部を含む)                 信⑳o 領家川                   290           火山岩類(緑色岩類)                   ヤ   魂    一250ノ ロ砂岩.頁岩(成羽層群)

→触沃松駄ん 二二ニ鷲灰岩響轄鍵糊       ,    、250’ノ

 竜0  ノー周           I I’         ,\軸。             l『一一一→ 地質断面図(図一6)の作成位置   、              0        500m  勉。、’・’ン/ 4 、

    }が/』聯           り

  第5図 大賀地域における石灰岩および火山岩類(火砕岩を含む緑色岩類)の底面等高線(m).

     図示範囲はほぼ第4図に対応している.

I

EL(m) 皿

襟・

  N4一 十 十

   一

  

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最上山

   領家川

♂署{1、誓

          1

      一レS        EL(m)         400

  南天山             ’一二て◇\\.\\ト   一一一 \.\へ\ \\  一一一~¥冥\・\\丈\ 一二ひ二一叉\\\N.、、 \

、緊叢書熱驚

           う

 II

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  400

  300 」㌧ら ●●・一

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100

n♂・

  

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ナ’一末イ.}

響.鰍☆.

’.ンノ.~て・一一だ.

ン.、! ーベ

1一

ナ.1.

・〆

十4一領家川☆1ぎヌ1さ}.

継♪

睡ヨ       砂礫層

  匿葦1石灰岩(大部分は礫状)

       火山岩類

匡       頁岩および砂岩・頁岩互層

                   ,

国                  II       砂岩および砂岩優勢層              一レS EL(m)

                400   十

   幸㎞c}  k,喫野

暴露㍗編0   100  200(m)

第6図 大賀地域における南北方向の地質断面図.1-1’およびH-H’の断面位置は第5図参照.

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40 横田修一郎・松村 聡明・島内  健

Loc.A

 E← →W石灰岩(礫状)

t し眠   “

            \            \             、         1              、   一砂岩(一部頁岩を含む)層理面(N65E/20S)

      砂岩(一部頁岩を含む)

        ノ 層理面(四50E/24S),1      ’        炭質頁岩        砂岩     ろ    /     (一部頁岩を含む)

雛葱灘i鰻登1/ Y質頁岩

螺炭質頁岩

0

炭質頁岩  道路盤(西に向かって緩い下り勾配)

10m

              !』  .. .

第7図 Loc.Aにおける砂岩・頁岩と火山岩類,石灰岩の関係.平面位置は第4図参照.

loc.B

Eぐ一一

        火山岩類(ブロック状)

層理面(N60w/36S)

            道路盤

 表土

砂岩 炭質頁岩(軟質)

→W

総総…案1嚢、叢叢蟻嚇,,猿畢

   \    \¥砂岩      、、

  層理面(N72w/36S)

   !   メ  ロノ_/炭質頁岩(軟質)

      0 10m

       \     砂岩炭質頁岩(軟質)

 層理面(N38W/28S)

第8図 Loc.Bにおける砂岩・頁岩と火山岩類の関係.平面位置は第4図参照.

10m以上に達している.道路盤は東から西に向かって

緩い下り勾配になっている.ここでは砂岩・頁岩と石灰

岩および火山岩類が現れている.砂岩・頁岩は法面の下

端にほぼ連続して現れているが,中央部の約10mの間

は未確認である.火山岩類がその上に礫状を呈して覆っ

ている.石灰岩はこの上に位置するが,現れているのは

法面の中央部約30mの間のみであり,これもすべて礫

状を呈している.

 砂岩は細粒~中粒で一部頁岩薄層を挟んでいる.頁岩

はいずれも炭質頁岩である.露頭状態はよくないため,

層理面は確認し難いが,比較的広く現れている西端部で

はN500E/240Sで,東端の砂岩中でもN650E/20。Sであっ

た.したがって露頭では全体としてNE-SWの走向で南

側に緩く傾斜しているものと推定される.炭質頁岩は軟

質化し,層厚の変化も著しい.また,礫状を呈する火山

岩類の直下は薄い炭質頁岩となっており,これも著しく

軟質化している.

 火山岩類は緑褐色を呈し,径10~20cmの礫状ないし

ブロック状をなしている.石灰岩も同様の礫状であり,

礫間は褐色の土壌が埋めている.このような産状から

は,石灰岩,火山岩類ともに当初の岩体から崖錐堆積物

として2次的に再堆積したものか,あるいは当初の岩体

が移動してバラバラになったものと考えるべきであろう.

(3) Loc.Bの状況(第8図)

 延長約50mの北向き掘削法面で,法高は約5mであ

る.ここでも道路盤は東から西に向かって緩い下り勾配

になっている.法面の下部には炭質頁岩を伴う砂岩が分

布しており,上部には火山岩類が分布している.ただし,

砂岩・頁岩は約50mの露頭の両端部のみに現れ,中央

部にはほぼ角礫状ないしブロック状を呈する火山岩類の

みが現れている.

 砂岩・頁岩は成層構造を残しているところが比較的多

いが,火山岩類は灰褐色~赤褐色を呈し,原岩状態をと

どめず角礫状ないしブロック状を呈しているのが特徴で

ある.ブロックの最大径は約2mに達している.砂岩

は粗粒~極粗粒で,層理面の走向・傾斜は露頭の東端で

はN600~700Wで南に30。~400で傾斜しているが,西

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岡山県川上町における成羽層群とそれを覆う石灰岩体の構造関係 41

端ではN80W前後で北側に約34。で傾斜している.さ

らに橋脚を挟んだ西方では再びN380W/280Sで南傾斜

になっている.このような層理面の走向傾斜から,見か

け上小規模な向斜・背斜構造をなしていると推定される.

 砂岩・頁岩と火山岩類との境界は植生のため明確では

ないが,境界近くには薄い炭質頁岩が存在している.こ

れは極めて軟質になっているほか,東端近くに現れる炭

質頁岩は細かく屈曲し,シェブロン褶曲状を呈してい

る.このようなことから,これらの構造の大半は見かけ

状東から西に向かっての地すべり運動に伴う構造と見た

方が妥当であろう.その場合,すべり面は上記炭質頁岩

層と推定される.

(4) Loc.Cの状況(第9図)

 大規模に掘削されて広い範囲に露岩が現れている.本

法面についてはすでに藤本ほか(1994)や鈴木・Asiedu

(1995)でも記載されているが,最近さらに大きく掘削

された.第9図のように長さ約70m,法高は中央部で

最大約19mである.掘削法面は全体として南向きで,

農道のカーブに沿って凹斜面をなしている.道路盤が東

から西へ緩い下り勾配になっているため,4段の小段も

わずかに勾配がついている.

 法面の下半分には主に砂岩と頁岩が,また上半分には

火山岩類などが現れている.上半分は風化・変質による

褐色化が著しい.いずれの各岩層も見かけ上西側に緩傾

斜している.走向・傾斜の変化は大きく,かつ小断層が

多数認められる.

 砂岩部分は最下段の法面に広く現れている.粗粒の砂

岩を主体とするが,中粒砂岩も見られ,前者は一部礫岩

を含んでいる.後者は塊状のところもあるが,多少成層

構造のみられるところもある.また,一部には不規則な

かたちで頁岩を挟んでいる.

 測定した層理面の走向・傾斜によれば,中央部ではN

300~40。Eで北西に20~30。で傾斜しているが,東に

いくと水平~緩く南東に傾斜している.したがって,全

体として東端から約30m付近に軸をもつ小規模な背斜

構造の存在が推定される.最下位法面の東端近くにはそ

の下位の頁岩がわずかに現れていることから,砂岩層は

少なくとも4~5mの層厚があると推定される.

 砂岩層の上位には厚さ4~5mの頁岩が存在する.ほ

ぼ黒色を呈し,炭質物を多く含んでいる.剥離性をもつ

ところ,破砕されて軟質化しているところも少なくな

い.下位の砂岩との境界面は凹凸をもっている.この頁

岩層も全体としてNE-SWの走向で北西へ緩く傾斜して

おり,これは前述した下位の砂岩層の走向傾斜とほぼ調

和的である.

 頁岩優勢部の上位には褐色を呈する軟質な層が存在す

る.これは厚さは最大1mで大部分では数10cmで法面

の東端部では消滅している.顕微鏡下では原岩は安山岩

質の凝灰岩の可能性がある.この上には再び黒色の頁岩

が現れるが,これは厚さ1m前後で厚さは側方に急変

している.これには炭質物はあまり含まれていないよう

である.

 頁岩の上位は灰褐色~赤褐色,一部緑褐色を呈する岩

石よりなる.風化・変質が著しいものの,比較的硬質で

ある.安山岩質の溶岩ないし火砕岩と考えられる.

これらのなかにはNSの走向で西側に傾斜した節理が見

られ,とくに中央部より西よりには,凝灰岩薄層を約1m

変位させている節理が少なくとも2箇所で確認できた.

一部にはほぼEWの走向で北に傾斜した節理も見られ

るし,さらに全体としてNE-SWの走向で北西に20。前

後で傾斜した節理もみられる.

 最下部の粗粒砂岩は比較的新鮮なこともあって節理が

明瞭で,低角の節理が多数見られる.砂岩の礫質部分を

基準にすれば,低角節理の一部はこれを逆断層状に約70

cm変位させている.ただし,このような節理面も頁岩

優勢層中では不明瞭となっている.連続性のある節理や

小断層のなかには上方に凹型をなすようにカーブしたも

のも見られ,平面的には東から西に向かってのし上がる

ような形態をなしている.

 第10図はこれらを平面図として表現したものである.

第11図は切土法面において測定した層理面と節理面の

π一ダイアグラムである.測定数は層理面28,節理面33

である.層理面の方向にはバラツキが大きいが,本法面

では大局的にはN75。Eの走向で北北西方向に10~20。

で傾斜していると推定される.節理面も比較的低角のも

のが多く,その多くは層理面とほぼ同方向である.

(5)Loc.B,C付近における成羽層群,石灰岩,緑色岩類

の関係

 Loc.C付近では,上記の法面の約50m南東の反対側

法面には白色の石灰岩が現れており,これは層序的には

明らかに上記火山岩類の上位に位置している.これは前

述した他の露頭での層序関係,あるいは大賀地域全体の

地質分布による層序関係とも調和的である.第12図は

Loc.B~C付近において層理面の最大傾斜方向と推定さ

れるN150W方向の地質断面図である.これは上記の

法面の他に,それに対面する南側法面などの断片的な調

査結果を併せて作成したものである.この断面をみる

と,上記の法面とその南側の法面との間に小さな背斜構

造が推定されるほか,以下のような構造上の特徴が認め

Page 12: 岡山県川上町における 成羽層群とそれを覆う石灰岩体の構造 …...岡山県川上町における成羽層群とそれを覆う石灰岩体の構造関係 33

轟N

藤O図

[oo●∩π銚qか建郎・測雄偉》E郎懲(》毒蛇懲)

帰馬3麗惑●冴一純C汁降寡言諺。汁取回洋銀図●

劇回爵醐舜趣斜図鋤費●

Loc.C  北側切土法面

W ←

EL(m)

→  E

   /節理面および断層面        N48E/78N・一… 節理面および断層面の走向・傾斜       b・N78E/25N…・層理面の走向・傾斜

3・・團表土および崖錐堆積物        I                                      l   圃火山岩類

275                       1

熱田蕨-鴇・頻融

謬温・恥冴

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漣一〇図 判回雪π》浮[oo●∩S誉鱒ゆ掛●

Loc.C

 ゆ  層理面の走向傾斜

/㌻節理面の走向傾斜

團表土および崖錐堆積物

囲火山岩類

團凝灰岩

匡頁岩画石砂

  

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斜ω

Page 14: 岡山県川上町における 成羽層群とそれを覆う石灰岩体の構造 …...岡山県川上町における成羽層群とそれを覆う石灰岩体の構造関係 33

44 横田修一郎・松村 聡明・島内  健

層理面 N

n=28

Eニコ1ポイント

…2ポイント羅3~4ポイント   5ポイント以上

節理面

上半球投影 上半球投影

N

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第11図 Loc.Cにおける層理面および節理面の卓越方向.

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回目火山岩類

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圏砂岩

節理および小断層0 20m

第12図 Loc.B~Loc.Cにおける地質断面図(層理面の最大傾斜方向,Loc.Cの中央部を通る).

られる.すなわち,(i)頁岩優勢層の大半は破砕され,

また,頻繁に条線striationが認められる.頁岩は軟質化

しているところが多いこと,(ii)この破砕部を境にし

て,岩盤の風化レベルが急変していること,(iii)北北

西方向に急傾斜したみかけ状の正断層がいくつか認めら

れ,それらは頁岩優勢層よりも上部に多いこと,(iv)一

方,これとは別に露頭の下部などに低角の節理~小断層

が見られ,それらは上方に湾曲して,末端の一部は逆断

層的な変位を示していること,などの特徴がある.これ

らのうち,(ii)から(iv)は地表近くで生ずる地すべり

移動に特徴的な構造であり,たとえば低角で上方に湾曲

する節理はすぐ上が自由面であることによって生じた形

態と考えられる.正断層は上部岩体が地層の最大傾斜方

向に移動するのに伴って,2次的に形成されたとすれば

説明できる.なお,正断層によってすべり面の一部は変

位しているが,これは地すべり移動と正断層がほぼ同時

であり,しかもすべり面は他にも多数存在していると考

えれば説明は可能である.このような例は地すべり地で

よく知られている(たとえば,田近,1995).したがっ

て,Loc.B~C付近では全体として大賀地域の上下関係

を保ちつつ,部分的にはその不整合面付近で地すべり移

動的動きをしたものが現在現れていると推定される.

成羽層群とそれを覆う石灰岩体の構造関係

(1)構造関係の既存の解釈

 第13図は大賀地域を中心にこれまでに提案されてい

Page 15: 岡山県川上町における 成羽層群とそれを覆う石灰岩体の構造 …...岡山県川上町における成羽層群とそれを覆う石灰岩体の構造関係 33

岡山県川上町における成羽層群とそれを覆う石灰岩体の構造関係 45

(a) (b) (c)

低角の逆断層蟄顯ll樫礁蔦蔚,馬噌“、

石灰岩、 嘱冶 滞1二  燃ll卿・鑑i蕪怠り、滋1

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石灰岩などの巨礫、、

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成羽層群(

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成羽層群(砂岩・頁岩)

第13図 「大賀の押し被せ」に対する従来の地質構造解釈.

(a)低角逆断層によるナップという考え方

(b)白亜紀の基底礫岩という考え方

(c)起伏にとんだ不整合面という考え方

る構造関係の解釈の違いを示したものである.すでに述

べたように,成羽層群とその北西の石灰岩および緑色岩

類との関係については小澤(1924)が“大賀の押し被せ”

露頭を指摘して以来,石灰岩と緑色岩類は成羽層群の上

に衝上したナップであると考えられてきた(小澤,

1924).これは概念的に表せば,第13図(a)のような

ものであろう.

 しかし,小澤の指摘した露頭の一部はその後の調査で

疑問視されたものもある(吉村,1961;楠見ほか,1965)

のをはじめ,1970年代になって沖村・長谷(1973)はそ

れらの石灰岩の一部が関門層群相当層(硯石層群)の基

底礫岩である可能性を指摘した(第13図(b)).これは

当地域北方の“枝の不整合”で見られるのと同様の石灰

岩団礫が大賀地域などにも広く分布しているとするもの

である.また,その後大藤(1985)は石灰岩と成羽層群

との境界部は密着していて破砕帯のようなものは見られ

ないことと,両者の境界には多少の起伏があることか

ら,基本的には不整合であると解釈した(第13図(c)).ただし,最近,藤本ほか(1994)は新しい露頭で

石灰岩を伴う緑色岩類が成羽層群の上を覆い,しかもそ

の間に低角度の断層の存在することを指摘している(第

13図(a)の考えといえる).

(2)大賀付近における成羽層群,石灰岩,緑色岩類の関係

 前述したように,筆者らの調査によれば,大賀地域で

は基本的に成羽層群の砂岩・頁岩上に緑色の火山岩類,

石灰岩という順序で載っている.そして,露頭分布と新

たな大露頭での状況から,石灰岩およびこれに伴う緑色

岩類は沖村・長谷(1973)の指摘したように前期白亜紀

の関門層群相当層の一部と考えるのが妥当であろう.た

とえば,(i)石灰岩と火山岩類を併せたものは全体とし

て砂岩・頁岩よりなる成羽層群を覆うように分布してい

ること,(ii)その基底面は谷状を呈しており,浸食に

よって生じた成羽層群上の谷を埋積していること,(iii)

火山岩類は層序的に石灰岩の下位に位置しているが,両

者は混在しているところも多いこと,(iv)地表に露出

している石灰岩は塊状にみえるが,大きな露頭でみると

ほとんど連続的なものは確認できないこと,(v)“緑色

岩類(塩基性火山岩類)”とされてきたものは,変質が

著しいものの,原岩は関門層群の火山岩類と同様の安山

岩ないし安山岩質火砕岩の可能性のあること,などの理

由を挙げることができる.

 以上のことから,前期白亜紀に関門層群相当層の一部

として石灰岩のブロックが火山岩類と混在しながら成羽

層群上を不整合で覆ったと考えるのが妥当であろう.石

灰岩や火山岩類が成羽層群を不整合で覆ったのち,ごく

一部の浸食を免れた部分が現在残存しているものと考え

られる.ただし,成羽層群の頁岩上に直接安山岩質凝灰

岩が載る部分などではそれに沿ってすべりを生じている

ようである.露頭では石灰岩とともに火山岩類の多くも

角礫化しており,これは地表近くでの地すべり移動の結

果と考えられる.

 地すべり移動による構造は,地下深部で形成されたテ

クトニックな構造ではなく,むしろごく地表近くで形成

された非テクトニックな構造といえる.ただし,これが

比較的最近生じたものか,多少地質時代を遡った時期に

生じたものかは明かではない.“大賀の押し被せ”露頭

では現在破砕構造は見られないものの,小澤(1924)の

調査当時,このような“低角断層”が周辺に見られ,そ

の根拠になっているとすれば,ナップの存在は否定され

るべきであろう.いずれにせよ,こうした非テクトニッ

ク構造の存在はわが国のような急峻地形での構造とし

て,こうした構造関係の議論では重視されるべきであろ

う.なお,本地域の構造関係については原時点でも検討

Page 16: 岡山県川上町における 成羽層群とそれを覆う石灰岩体の構造 …...岡山県川上町における成羽層群とそれを覆う石灰岩体の構造関係 33

46 横田修一郎・松村 聡明・島内  健

すべき課題は多く,火山岩類や頁岩の構成物の検討も含

めて引き続き様々な視点から慎重に検討を進めていく必

要がある.

ま と め

 「大賀の押し被せ」として地質的に広く知られてきた

岡山県川上町の上部トリアス系成羽層群と石灰岩体との

構造関係を把握するため,詳細な露頭分布の調査と農道

工事によって新たに現れた露頭観察を進めてきた.その

結果,以下のような事柄が明らかになった.

(1)成羽層群は大局的には大きな向斜構造をなしている

  が,北翼部などの周辺には小規模な背斜・向斜構造

  が多数存在している.

(2)大賀地域においては砂岩・頁岩よりなる成羽層群上

  を石灰岩および緑色の火山岩類(火砕岩を含む)が

  覆っている.後2者は起伏に富んだ成羽層群上の凹

  地を埋めるような分布形態をとっている.

(3)火山岩類は大局的には石灰岩の下位に位置している

  が,両者が混在しているところも見られる.また,

  石灰岩は露頭では連続的なところは少ない.

(4)“緑色岩類”とよばれる火山岩類は,変質が著しい

  ものの,原岩は安山岩質の溶岩ないし火砕岩の可能

  性もある.礫状石灰岩は一般に関門層群相当層の基

  底部に多いことから,大賀地域の石灰岩もこれに相

  当する可能性が高い.

(5)したがって,成羽層群上の石灰岩は白亜紀に周辺の

  急崖からブロックとして移動し,成羽層群上にそれ

  を不整合に覆って再堆積したものと推定される.そ

  の間に火山岩類や火砕岩類も堆積したと考えれば,

  地質分布の説明は可能である.

(6)ただし,不整合面およびその直下の成羽層群の炭質

  頁岩では層理面に沿って地すべり移動した可能性も

  あり,そのようなすべり面が一見低角の断層状を呈

  している.山砂利層の分布からみてもこの地域は古

  第三紀以降長期間にわたって風化・劣化を受けてき

  た可能性があり,しかもすべり面になりやすい成羽

  層群の炭質頁岩が広く分布することを考えれば,そ

  うした非テクトニック構造の形成は十分考え得る.

謝辞:本研究を進めるにあたっては岡山大学理学部の鈴

木茂之先生および当時大学院生であった宝谷周さんには

現地調査に同行いただいたのをはじめ多くのご教示を得

た.また,火山岩類については島根大学大学院の麻原慶

憲さんにご教示をいただいた.さらに,復建調査設計㈱

岡山支店の田中元氏にも多くの便宜を図っていただい

た.記して謝意を表します.

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