鉄道車両工業 482 号 2017.4 はじめに いつものように最近数カ月の世界の鉄道情報から、印象に残った記事をピックアップした。欧 州の周辺国では、欧州標準仕様に適合した中国の機関車の採用が続いている。中国の車両が西欧 へ本格進出するポテンシャルは、次第に高まってきていると思われる。一方、中国国内は、大規 模な鉄道インフラ投資計画が続けられている。第 2 章には、中国国内の鉄道路線の拡大とともに 増大する負債額の推移もまとめた。 29 世界市場インプレッション ―メディア報道に見る鉄道関連の世界市場とビジネスの動き― (その26) ( 一社 ) 日本鉄道車輌工業会 鉄道工業ビジネス情報研究会 論 説 1. 世界市場全般 1.1 アジア (1) 中国 上海~昆明間の高速鉄道 路線の完成 貴陽~昆明間463kmの高速旅 客専用鉄道の営業運転開始に際し、 式典が新昆明駅 (Kunming Nan 駅 ) で 開 催 さ れ た (2016 年 12 月 28 日 )。この路線の完成により上海~ 昆明間2,252km (「四縦四横」路 線計画のひとつで、東西間最長路 線 ) が完成した。 路線は最高速度 350km/h 対応で あ る が、 当 初 330km/h か ら 運 用 -内容- 1. 世界市場全般 1.1 アジア 1.2 北米 1.3 欧州 2. 中国の鉄道インフラ投資と負債 2.1 鉄道路線の拡大 2.2 鉄道インフラ投資額と負債額の推移

論 説 世界市場インプレッション · とつは今回のcrh400af四方製であるが、 crh400bfゴールデンフェニックス号を長春 が製作し、もうひとつを唐山が製作している。

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Page 1: 論 説 世界市場インプレッション · とつは今回のcrh400af四方製であるが、 crh400bfゴールデンフェニックス号を長春 が製作し、もうひとつを唐山が製作している。

鉄道車両工業 482 号 2017.4

はじめに いつものように最近数カ月の世界の鉄道情報から、印象に残った記事をピックアップした。欧

州の周辺国では、欧州標準仕様に適合した中国の機関車の採用が続いている。中国の車両が西欧

へ本格進出するポテンシャルは、次第に高まってきていると思われる。一方、中国国内は、大規

模な鉄道インフラ投資計画が続けられている。第 2 章には、中国国内の鉄道路線の拡大とともに

増大する負債額の推移もまとめた。

29

世界市場インプレッション―メディア報道に見る鉄道関連の世界市場とビジネスの動き―

(その26)

( 一社 ) 日本鉄道車輌工業会鉄道工業ビジネス情報研究会

論 説

 

1.世界市場全般1.1 アジア(1)中国 上海~昆明間の高速鉄道

路線の完成

 貴陽~昆明間463kmの高速旅

客専用鉄道の営業運転開始に際し、

式典が新昆明駅(Kunming Nan駅)

で開催された (2016 年 12 月 28

日)。この路線の完成により上海~

昆明間2,252km (「四縦四横」路

線計画のひとつで、東西間最長路

線)が完成した。

 路線は最高速度350km/h対応で

あるが、当初 330km/h から運用

-内容-

1.  世界市場全般1.1 アジア1.2 北米1.3 欧州2. 中国の鉄道インフラ投資と負債2.1 鉄道路線の拡大2.2 鉄道インフラ投資額と負債額の推移

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鉄道車両工業 482 号 2017.4 30

論 説

開始する。上海~昆明間は従来34時間かかっ

ていた所要時間が11時間になり、1月5日

からの新ダイヤで走行している。

 この昆明までの高速鉄道路線は、一帯一路の一環とも言われており、中国からラオス、タイ、シンガポールに繋がる中国の南下政策上の極めて重要な意味を持つ路線として注目したい。(2)中国の標準高速車両ブルードルフィン号、

営業投入

 中国中車青島四方が開発した初の中国標準

高速車両CRH400AFのプロトタイプが、北

京~広州高速鉄道路線の営業運転に公式に入

れられた(2月25日)。ブルードルフィン号と

称し、8両編成、最高時速350km/h対応であ

る。既に2015年6月から約1年半の試験運

転で600,000km走行し、最高時速385km/

hを出すことに成功しているという。

 駆動用モータ等の駆動装置や台車、その他

主要な部品を中国国産で賄う形の標準仕様

で、3種類の標準高速車両が開発された。ひ

とつは今回のCRH400AF四方製であるが、

CRH400BFゴールデンフェニックス号を長春

が製作し、もうひとつを唐山が製作している。

 中国独自技術という看板のもとに標準高速車両として海外へも持ち込むといわれている。果たして全ての部品が中国国内産かどうかは明らかでないが、今回の発表で駆動装置までも中国産という。 一方、地上設備の高速鉄道CTCS-3列車制

御システムの中枢設備であるRBC無線閉塞

センター設備を中国が自主開発し、欧州EU

のTSI (Technical Specification for Inter-

operability)の認証を取得したとの報道が

あった(1月20日)。この製品は100%国産で、

既に2015年6月に安全認証レベルで最高の

SIL4を取得していたという。

 欧州の高速鉄道対応の車両や設備にも参画する可能性がますます高まってきている。ま

た、EUの規則に沿った中国製品は、EUだけでなく世界への進出に弾みがつくものとして留意しておく必要があると思われる。(3)中国の国鉄と香港の MTR が国際対応で

提携

 中国の国鉄(CRC中国鉄路総公司)と香港

の国際的鉄道事業者MTR Corp社(香港鉄路

有限公司)は、中国の鉄道産業の国際化戦略

(“Go-Global” strategy)を推し進めるため、

国内外における戦略的な協力を行うという文

書に署名した(12月16日)。

 高速鉄道建設、鉄道運営、鉄道関連の沿線

事業開発、人材育成など、広範囲にわたる戦

略的パートナーシップを組むもので、個別の

案件毎に契約して協力する形をとる。まず戦

略的案件の「一帯一路」政策への対応を手始

めにして臨み、両者の強みと能力の相乗効果

により、さらに世界の多くの鉄道事業におい

て画期的なビジネスを展開していく考えであ

る(MTR馬会長)という。

 前項の高速鉄道の完成と前後しての政策合意であり、中国は建設や製造などのハードだけでなく、事業運営、管理、教育などのソフト面まで含めた形のビジネスをグローバルに展開する体制を整えつつあるように思われる。 MTRは、元々香港の地下鉄事業が主体で

あるが、事業経験と英語力とを活かして、中

国本土(北京メトロ、深圳メトロ、杭州メト

ロ)のみならず、欧州のスウェーデン(ストッ

クホルムメトロとその近郊鉄道)やイギリ

ス(ロンドン オーバーグラウンド鉄道運行

(LOROL))、さらにオーストラリア(メルボル

ンメトロ、シドニーメトロ(建設中、PPPで

参画))など多くの地域で鉄道運営事業を手掛

け、拡大している。その実績とともに各国における情報力を活かすなどして、今後欧州その他の世界各地において、中国の鉄道事業や鉄道産業が広く発展する可能性があり、その動向を注視しておく必要があると考えられる。

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鉄道車両工業 482 号 2017.431

(4)中国から英国まで初の直通貨物輸送列車

が到達

 中国 上海の南に位置する義い ゆ

烏駅(貨物集積

所)を今年1月1日に出発した貨物列車便が、

総延長12,000kmの長旅の末、1月18日の

13:00過ぎに、ロンドンの貨物ターミナル

(Eurohub)に到着した。中国から英国へ織物

やその他消費財を18日間で輸送する最初の

デモンストレーションの鉄道貨物輸送であっ

たが、海上輸送より半分の日数で、また、空

路より安価に済む(*補注参照)ので今後の運

行サービスに期待が寄せられている、という。

 中国からカザフスタンに入るDostykとい

う国境の町で軌間1,435mmから1,520mm

の車両に受け渡され、ロシアを通過し、再び

ベラルーシからポーランドの国境の町Brest

で軌間1,435mmの車両に移行して、ドイツ

の貨物ヤードがあるデュイスブルグ経由でそ

れぞれの区間を運行会社がリレーし、最後の

区間のアーヘン(独)からベルギー、フランス

からチャネルトンネル経由でロンドンまでを

DB Cargo UKが輸送する遠大なものである。

 このカザフスタンを通る中国・欧州ブロッ

クトレイン(the China-Europe Block Train)

とトランス・シベリア鉄道(the Trans Sibe-

rian Railway)の2通りが競う形である。

 その後の報道で、鉄道事業者Far East La-

nd Bridge(FELB)が、後者のトランス・シベ

リア・ルートを経て中国の重慶までのルート

で、スイス乳製品が鉄道によって初めて中国

に直接輸送されたという(2月28日報道)。さ

らに、同じ鉄道事業者FELBが、同じトランス・

シベリア・ルートを使って中国蘇州から独デュ

イスブルグまで、毎日曜日出発で16日間の

運行をし、さらに経由して2 ~ 4日後にはイ

タリア ミラノにファッション素材を届けると

いう運行を開始したという(3月5日報道)。

 これらの大陸横断鉄道は、現代版シルク

ロードとして中国政府の進める「一帯一路」

政策の一環であり、既に中国から欧州のスペ

イン他各地へ2016年の実績で約40,000コ

ンテナを12日から16日ほどで輸送してい

る。これを2020年には100,000コンテナ

まで拡大する見込みという。

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鉄道車両工業 482 号 2017.4 32

寸法関係は、欧州全域の走行に適合するもの

にするという。

 既にCIS(*補注参照 )のベラルーシには、

2010年 4月に契約した12両の25kV50Hz

交流電気機関車(2車体連結の8軸で、出力

9,600kW)が 2012年に納入されているが、

今回は一歩欧州の中に踏みいれた形である。

 欧州仕様で欧州を走行する電気機関車の実績が積み上がっていくことになる。欧州周辺から進み、近い将来には、中国~欧州間の直通貨物輸送を中国の電気機関車が全て賄うことになるのではないかという気配を感じさせられる。

* 補注:CIS:Commonwealth of Independence    State 独立国家共同体、 ロシアとその周辺の    旧ソ連12カ国(除バルト3国)

1.2 北米(1)日系企業が米国鉄道事業を買収

 三井住友銀行の子会社でリース事業を行っ

ているSMBC Rail Servicesは、アメリカ合

衆国で第6番目の貨車リース会社 American

Railcar Leasing(保有貨車34,300両)の買収

を進めている(2016年12月27日報道)。買収

額は、少なくともおよそ$2.8bn(約3,200億円)

に達するといわれている。2017年前半に買収

は完了する予定である。SMBC Rail Services

は約50,000両を所有することになり一層米

国でのプレゼンスが高まる、としている。

 また、ソフトバンク・グループが、貨物鉄道

会社のFlorida East Coast RailwayとTRAC

Intermodalの親会社Fortress Investment

Group LLCを33億ドル(約3,800億円)現

金で買収した(2月16日報道)。

 専門外のソフトバンクが鉄道会社を買ったとは驚くが、アメリカの鉄道は投資対象になると見込んだのであろう。 貨車リース会社の買収とともに、これらの米国の貨物鉄道事業への大型投資による買収の今後の成り行きが注目される。

論 説

 中国と欧州間の物資の流れは思った以上に拡大しているように思われる。かつてのシルクロードとは時代が異なり手段、内容が大きく異なるが、物資の流通により文化や技術が交流し経済や産業上でも相互依存度が高まることで密接な関係ができる可能性があるので、認識を新たにしておく必要があると思われる。

*補注:価格表によると、40フィートコンテナで往き(欧州行き)は$4,600(約53万円)で空路の約半値、帰路(中国行き)は、需要が少ないため21日かかるが$2,500(約29万円)とさらに安くなっている。

(5)西欧の周辺で走行する中国製電気機関車

が続々登場

 中国~欧州間の直通貨物輸送便が拡大する

傍らで、欧州の東寄りのバルカン半島にある

国セルビアに向けて、2台の電気機関車が、

中国中車株洲工場から発送された(1月9日報

道)。これは国際入札で中国中車が昨年落札

したもので、セルビア向けの最初の鉄道車両

輸出である。25kV50Hz交流電気機関車は

出力7,000kW、最高時速140km/hで、欧

州TSI規格に準拠しているという。

 また、同じバルカン半島の国マケドニアの

国鉄MZは、同じ中国中車株洲に、4両の電

気機関車を €8m(約9.8憶円)で発注した(1

月10日)。一両当たり平均で単純計算である

が約2億4千万円と、超安値である。マケド

ニアには、2014年6月契約のDMU(気動車)4

編成とEMU(電車)2編成が同じ中国中車株洲

から納入されており、今回はこれに続く契約

である。

 この電気機関車は客貨両用で、出力4,800kW

最高速度120km/h、貨物は1,600トンがけ

ん引可能というもので、汎欧州鉄道第10回

廊の走行用である。この機関車の運転台の設

計は、UIC規格と欧州のエルゴノミクスと運

転要求仕様に適合したものとし、欧州TSI規

格を正式な形で認証取得する中国にとって初

めてのケースになるという。また、機関車の

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鉄道車両工業 482 号 2017.433

(2)米国 MBTAが中国中車にメトロ車両120

両を追加発注

 マサチューセッツ州ベイエリア公共交通当局

(MBTA) が、120両のメトロ車両を$280m

( 約320 億円)で中国中車 (CRRC) の子会社

CRRC MA に 注 文 することを 決 定 をした

(2016年12月12日)。1両当たりの平均単価

を単純計算すると、約2億7,000万円で、当

初の注文時より約17%コストアップしている。

 MBTAによれば、既存車をオーバーホール

する方が、CRRC MAから新車を購入するよ

りも、1両当たり$310,000 (約3,600万円)

余計にかかることになるという評価に基づき

新車を購入することにしたという。

 当初の2014年の契約分284両($566m、

約2.3憶円/両)を製造するスプリングフィー

ルドの工場が今年2017年9月完成予定で進

められている。製造は、2018年4月から始

まり、今回の注文を含めると2023年まで造

り続けることになるという。

 未だ1両も出荷していないこの時期に、追加分120両の発注がなされたが、果たして順調に車両が組み上がるであろうか。また、追加発注分の方が平均単価で17%も上がっている。MBTAから中国中車にかけるこの高い信頼と期待は何からくるのであろうか。

1.3 欧州(1)欧州は第4鉄道パッケージのマーケット

ピラーで公正な市場になるか

 欧州議会(EP)は、ストラスブールの本会

議において、立法プロセスの最終版段階で提

言された第4鉄道パッケージのマーケットピ

ラー (*補注参照)を採択した(2016年12月

14日)。2016年4月、既にテクニカルピラー

(技術政策)は承認されていたが、今回のマー

ケットピラーの採択は、当初2013年1月に

ECに提起されて以来の長い議論の結果つい

に立法化に至ったものである。この政策には、

以下が盛り込まれている。

・国内の旅客鉄道輸送市場の自由化

・公共鉄道の輸送事業の契約化

・欧州の鉄道領域の単一化

・鉄道利用課金制度の標準ルール化

 欧州単一市場(single European Railway

Area)に向けて大きく一歩進められたが、運

輸事業とインフラ管理事業の分離が義務つけ

られないままの不完全な形となった。すなわ

ち、輸送量 (capacity) と課金 (charge) につ

いて、インフラ管理側とオペレータ側との独

立性を信用する形で運用されるが、公平性が

曖昧になりかねないとの指摘がある。そして

なんとEUを代表する国々であるドイツ、フ

ランス、オーストリア、イタリア、スロベニア、

ルクセンブルクなどの事業者が、この分離を

しないままの形をとるという。

 そんな折から、フランスの規制当局であ

る道路と鉄道監査機関Araferは、このほど

SNCFネットワークから提案された2018年

からの路線利用料(アクセスチャージ)の提案

を、当局の要求を満たしておらず、インフラ

管理者の価格設定改革のコミットメントを無

視しているという理由で、拒絶したという(2

月8日)。

 やはり、今回のマーケットピラーの内容から容易に起こりうると思われる典型的な先例を見た思いであり、自浄作用は期待できないと思われる。 第4鉄道パッケージのマーケットピラーは、EU統一の高い理念の下に欧州をリードする肝心な独仏などが原則を曲げて、インフラ側とオペレータ側が分離しないままにする内容で決着をみた。よくこれで他の国が了承したと思う。欧州は奥深く理解し難い。

*補注:マーケットピラー (市場政策)は、ポリティカル ピラー (政治政策)とも称す欧州EUによる域内の鉄道運行事業の自由化政策。鉄道車両工業誌 480号 2016.10 p26補注参照

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鉄道車両工業 482 号 2017.4

(2)SNCFがアルストム・ボンバルディア連合

に過去最大となる約4,600億円の車両発注

 フランス国鉄SNCF取締役会は、パリRER

(イル・ド・フランス)の路線DとEに用いる

X'Trapolis Cityduplex二階建車両、255編

成の調達先を、アルストムとボンバルディア

のコンソーシアムに正式決定した(1月11日)。

その額は、フランスの車両調達で過去最大と

なる€3.75bn(約4,600億円)である。

 71編成を初めの契約分として、€1.55bn

(約1,890億円)で製造する。

 71編成の内訳は、次のとおりである。

(ⅰ)6両×56編成

 編成長112m、定員1,563人

 中間車4両が2階建て車両、先頭車2両は 1階建(single)

(ⅱ)7両×15編成 

 編成長130m、定員1,860人

 中間車5両が2階建て車両、先頭車2両は 1階建(single)

 設計、計画、プロジェクト管理費が€450m

(約550億円)、車両製造費として€1.155bn

(約1,410億円)とされており、これをアル

ストムとボンバルディアが金額で、およそ

70:30の割合で製作分担をする。

 設計、製造の分担内容は次の通りである。

・アルストム(8工場):

① Valenciennes (プロジェクト纏め、設計、

テスト、コミッショニング、先頭車の製造、

最終組立て):

② Reichshoffen (設計):

③ Ornans (駆動用モータ):

④ Le Creusot (台車):

⑤ Villeurbanne (車上電子機器):

⑥ Tarbes (駆動制御装置):

34

論 説

⑦ Petit-Quevilly (主変圧器):

⑧ Saint Ouen (設計):

・ボンバルディア(1工場): 

 Crespin (中間車の2階建車両の設計・製

作、全車両の空調機器と乗降システム)

 今回の調達は、2016年の入札でCAFが最安値でありながら、必要なキャパシティ (生産能力か)が不足しているとの理由で失格とされた経緯がある。実に、アルストムとボンバルディアの両巨頭が無敵のコンソーシアムを組んでフランスで最大の巨額案件を受注したわけであり、まさに国内優先の保護政策であるかの如き売買契約と思わざるを得ない。 また、今回の車両の単価を単純に試算する

と、1両平均でおよそ2.8憶円/両前後(*補

注参照)と、相当高価である。

 フランスの鉄道車両はほぼアルストムの独占であり、SNCFは大変高い買い物をする構造に甘んじていると思われる。

*補注:1両平均単価の推定:1編成は、6両と7両の2種類ある。仮に全て6両/編成とすると

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鉄道車両工業 482 号 2017.4

1,530両で、3.01億円/両、また全て7両/編成とすると1,785両で2.58億円/両となる。間を取っておおよその推定で、2.8憶円/両前後とした。

(3)ドイツ クノール-ブレムゼがVossloh Kiepeを

買収

 Vossloh(フォスロ)社は、その電気ビジネ

ス部門Vossloh Kiepeの、クノール-ブレム

ゼへの買収契約に調印した(2016年12月

21日)後、ドイツ連邦独占規制当局(German

federal competition authority) の承認が

なされ、買収が完了した(1月30日)。

 売買額は €72.5m(約88億円)という。ち

なみに、Vossloh Kiepe の2015年度の売

上高は€249.5m(約310億円)であった。

 Vossloh Kiepeは、デュッセルドルフを本拠

地として、ドイツで100年以上にわたって電

機品を製作をしてきている老舗。旧ACEC(*1)

やAlsthom(*2)、旧AEG(*3) 等による買収を

経た後、1996年旧ADtrantz(*4) 発足時に、

ECによる独占禁止の指導でドイツに電機3社

を残すため、旧AEGからSchaltbau社(独 )

に放出され、2002年にVossloh 傘下になり、

2003 年に当時の会社名Kiepe Electric が

Vossloh Kiepeと改名した歴史がある。

 既にVossloh社の3部門のうち、もうひと

つのVossloh Rail Vehicle部門(スペイン、

2005年にアルストムから買収)は、2015

年にスイス Stadler社が買収しており、こ

れで今後は、Vossloh 社は、方針どおり完

全にインフラ関連機器(レール締結装置や分

岐器など)の製造販売を専門とする会社にな

る。

 ブレーキ専門であったクノール-ブレムゼ社の買収による事業拡大は、ついに駆動系の電機部門にまで及ぶに至った。ますます、Wabtecと一騎打ちの形で世界の車両関連サブシステム市場を大きく制覇する勢いであり、目が離せない。

35

*補注:(*1)旧ACEC:ベルギーの電機品メーカ)    (*2) Alsthom:現アルストムの旧称    (*3)旧AEG:独の電機メーカ アルゲマイネ・      エレクトリシエーツ・ゲゼルシャフト    (*4)旧ADtrantz:旧AEGと旧ABB(スウェー      デンの総合電機メーカ アセア・ブラウン・      ボベリ)の統合会社。後にボンバルディア      に買収

(4)フランスでアルストムが無人シャトル運

行会社「イージー マイル社」に投資

 アルストムは、現在電気動力で自動運転

の無人シャトル用自動車EZ10を開発して

いるベンチャー企業のイージー マイル社

(EasyMile社)に€14m(約17億円)投資した

(1月19日報道)。

 12人乗りのEZ10シャトル用輸送車両は、

2015年4月以降、アジア、北米、中近東、

欧州などの14カ国50地区に配備されている

という。

 この手の自動運転の新輸送システムは、イ

ノトランス2016でBestMile社(スイス+アメ

リカ)が提示し話題となった。また、NAVYA

社によるARMAという車両は英のヒースロー

空港のシャトル運行を試みているという。さ

らに、オランダのプロモータの2getthereが

アムステルダムA10リングロード他で試行し

ているなど、類似の報告が相次いでいる。

 また、UITP(*補注1)もこういった電気自動

車を自律型走行車両(Autonomous vehicles)

として、将来、現行の自動車による渋滞混雑

を防ぎ、また人為ミスによる交通事故の防止

策として、都市交通を一新する「革命児」的

存在(game-changer for urban mobility)に

なる可能性があると位置付けている。

 鉄道車両メーカであるアルストムが、この種の車両の開発の出資者のひとりになったことに驚く。 戸口対応の新輸送システムは、時代の求めるもののひとつであるが、鉄道車両とは競合する分野でもある。アルストムは鉄道ビジネ

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鉄道車両工業 482 号 2017.4 36

論 説

スに特化した会社として改革し、2020年までに改革による新規開発製品を全体の30%にすることなどを含む5大戦略を打ち出している(2015年3月)(*補注2)。 敢えて新分野開拓の一員に加わり、将来技術を先取りする意識と意欲には、むしろ見習わなければならないのかもしれない。

*補注1 : UITP:Union Internationale des Trans-     ports Publics(仏 ) 国際公共交通連合 鉄     道、トラム、バスなど     公共交通関係の国際的な連合機関、現会長     はJR 東日本小縣副会長 (任期:2015 年6          月~2017年5月)

*補注2 : 鉄道車両工業誌480 号 2016.10 p24     ~ p25 2.2(1)項「アルストム、鉄道ビジネ       スに特化して積極展開」 参照

2.中国の鉄道インフラ投資と負債2.1 鉄道路線の拡大 中国の鉄道路線の拡大は、国の経済の発展

を下支えする重要な施策として継続されてい

る。2008年ごろから高速鉄道建設への多大

な投資が行われるようになり、中国全土の高

速鉄道網、いわゆる「四縦四横」路線建設計

画が急速にすすめられた結果、現在、鉄道路

線総延長では2011年以降、米国に次ぐ世界

第二位、高速鉄道路線長では2009年以降、

世界第一位となっている。

 さらに国の第13次五カ年計画(2016 ~

2020年)で、この鉄道建設への投資の継続

が盛り込まれており、国家発展改革委員会が

発表した2016年から2025年までの中長

期計画として2025年には、鉄道営業距離

を175,000kmにし、高速鉄道の総延長を

38,000kmにする、としている(2016年7月)。

 実に今後10年間にわたり、鉄道路線を年間平均5,400km、うち高速鉄道路線を年間平均1,900kmのペースで建設する、という驚異的な計画となっている。 このほど中国国務院発表の「全国国土計画

中国鉄道と高速鉄道の営業キロの拡大

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鉄道車両工業 482 号 2017.4

中国鉄道投資額 総額とインフラ投資額の推移

中国の鉄道負債総額

37

綱要(2016 ~ 2030年) 」では、2030年に

鉄道営業距離を200,000km以上にすると発

表された(2月4日)。路線拡大のペースはほ

とんど変わっておらず拡大の一途である。

2.2 鉄道インフラ投資額と負債額の推移 鉄道インフラ投資額は、2010年の約12

兆円がピークであるが、それ以降も年間約8

~ 10兆円に及ぶ多大な投資を続けてきてい

る。中国経済の伸び率が減少する状況の中で、

経済を下支えするために、中国の大規模な鉄

道投資は欠かせないものとなっている。第11

次五カ年計画(2006 ~ 2010年)が2.43兆

元(約41兆円)、同第12次(2011 ~ 2015年)

が3.58兆元(約60兆円)、同第13次(2016

~ 2020年)が2.8兆元(約47兆円)となっ

ている。すなわち、第13次の予算は、第12

次より12%減少している

ものの、未だ第11次のと

きより15%高く、高水準

である。

 急激な高速鉄道へのイ

ンフラ大規模投資の継続に

より年々膨らむ中国国鉄の

鉄道負債額は、2016年6

月には 4.2 兆元 ( 約 70 兆

円)に達し、資産額6.5兆

元 ( 約 109 兆 円 ) の 65%

となっている。またこれ

は、2015年の運賃収入が

0.58兆元(約9.7兆円)で

あり、そのおよそ7.2倍に

あたる。ちなみに1987年

当時の旧日本国鉄の負債額

37.1兆円は、収入約3.2

兆円のおよそ11.6倍あっ

た(鉄道車両工業誌480号

2016.10 p23参照)。

 鉄道経営収支は、北京~上海高速鉄道だけ

が黒字で他の高速鉄道は軒並み赤字で芳しく

なく、この巨大になっている負債額に対する利

子(1兆円を超す額)の支払いに追われている

状況から、同様な大型投資を続ける限ります

ます負債額は増えると予想される。

 仮に2011年から2016年までの負債額の

増加傾向がこのまま続くとすれば、年当たり

負債額が約7兆円増加するので、単純計算で

2020年の負債額は約100兆円超になり、さ

らに2025年にはおよそ135兆円を超すこと

になる。

 インフラ投資は一鉄道だけでは無く、交通関係の道路だけでも鉄道の倍くらいの大きな投資がなされてきている。外貨準備高が3兆ドル(約340兆円)を割り込んできている中国にとって、大きな負のインパクトに違いない。