6
鉄道車両工業 468 号 2013.10 論説 世界市場全般 1.アジア (1) インド デリー首都圏 快速鉄道網(RRTS) 計画 新会社の設立 インドの都市開発省と鉄道省、それにデリー 州とその近郊の3州は、首都圏の快速鉄道網 (Regional Rapid Transport System (RRTS)) の 整 備 のため、 新た な 会 社 NCRTC (the National Capital Region Transport Corp.) を設立することに合意した。 デリーへの過度な人口集中(現在1,600万 人 ) を改善するため、デリーメトロの延長上に 近郊都市への快速鉄道路線を建設し、各都市 とデリー中心部の良好な交通手段を整備しよ うというもの。 中央政府の2省はそれぞれ22.5%ずつ(計 45%)、地方政府の4州はそれぞれ 12.5%ずつ (計 50%)、残りの 5%を NCRTC が出資する。 今回の計画は、デリーメトロ網の延長線上 に、当面、3 路線 ( 総延長381km、48 駅 ) が 予定されている。これらの路線は、我が国の 関東都市圏の、東海道線などのJR中距離電 車や大手民鉄路線(これらの路線には4両/ km ~11両/ km、平均7両/両が在籍)に相 当するものである。ざっくり推定して、少なめ に見ても2000両程度の需要が見込めそうで 世界市場インプレッション ―メディア報道に見る鉄道関連の世界市場とビジネスの動き― (その12) 36 論 説 論 説 はじめに 前回より「世界市場インプレッション」と改題していますが、引き続き最近のメディアの報道か らピックアップした鉄道関連の世界市場やビジネスの動きとその印象を記します。今回は、本年 6 月からのおよそ 3 ヶ月間の情報です。世界の情報や動きとの係りにおいて日本の鉄道工業界のある べき姿を考えるきっかけとしていただければ幸いです。 ( 一社 ) 日本鉄道車輌工業会 鉄道工業ビジネス情報研究会 あり、今後、さらなる新線建設と車両調達が 期待される。 インドの鉄道車両市場については、インド 国鉄の車両、各都市の地下鉄車両等に加えて、 今回のデリー首都圏快速鉄道網(RRTS)計画 等の郊外に延びる新線対応も無視できない規 模となるであろう。 我が国からは、完成車としての車両輸出は 難しいところであるが、現地企業との合弁や、 電機品をはじめとした高度かつ重要な技術を 用いたコンポーネント類に関しては、今後、大 いに期待される、あるいは、力を注ぐべき市 場になると考えられる。 (2) 中国 長春、四方がそれぞれの都市間動車 組 (250km/h 以下 )CRH3A、CRH6F を完成 ①北車長春で完成した都市間動車組CRH3A ・コア技術は“中国が創造”という中国自主 開発の250km/h動車組CRH3Aが完成 (2013 年 6月8 日)。 ・8 両編成 (4M4T)。現有と比較し15%加減 速を高めている。 ・速度性能は、160km/h、200km/h、250k m/hの3速度等級。 ・乗客の乗降も短時間でできる。(3扉化) ②南車四方で完成した都市間動車組CRH6F ・200km/h 用 CRH6(2012 年 11 月 30 日 )、

論 説 世界市場インプレッション当するものである。ざっくり推定して、少なめ に見ても2000両程度の需要が見込めそうで 世界市場インプレッション

  • Upload
    others

  • View
    5

  • Download
    3

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 論 説 世界市場インプレッション当するものである。ざっくり推定して、少なめ に見ても2000両程度の需要が見込めそうで 世界市場インプレッション

鉄道車両工業 468 号 2013.10

論説

世界市場全般1.アジア(1)インド デリー首都圏 快速鉄道網(RRTS)計画 新会社の設立 インドの都市開発省と鉄道省、それにデリー

州とその近郊の3州は、首都圏の快速鉄道網

(Regional Rapid Transport System

(RRTS))の整備のため、新たな会社NCRTC

(the National Capital Region Transport

Corp.)を設立することに合意した。

 デリーへの過度な人口集中(現在1,600万

人)を改善するため、デリーメトロの延長上に

近郊都市への快速鉄道路線を建設し、各都市

とデリー中心部の良好な交通手段を整備しよ

うというもの。

 中央政府の2省はそれぞれ22.5%ずつ(計

45%)、地方政府の4州はそれぞれ12.5%ずつ

(計50%)、残りの5%をNCRTCが出資する。

 今回の計画は、デリーメトロ網の延長線上

に、当面、3路線(総延長381km、48駅)が

予定されている。これらの路線は、我が国の

関東都市圏の、東海道線などのJR中距離電

車や大手民鉄路線(これらの路線には4両/

km ~11両/ km、平均7両/両が在籍)に相

当するものである。ざっくり推定して、少なめ

に見ても2000両程度の需要が見込めそうで

世界市場インプレッション―メディア報道に見る鉄道関連の世界市場とビジネスの動き―

(その12)

36

論 説論 説

はじめに 前回より「世界市場インプレッション」と改題していますが、引き続き最近のメディアの報道か

らピックアップした鉄道関連の世界市場やビジネスの動きとその印象を記します。今回は、本年6

月からのおよそ3 ヶ月間の情報です。世界の情報や動きとの係りにおいて日本の鉄道工業界のある

べき姿を考えるきっかけとしていただければ幸いです。

( 一社 ) 日本鉄道車輌工業会鉄道工業ビジネス情報研究会

あり、今後、さらなる新線建設と車両調達が

期待される。

 インドの鉄道車両市場については、インド

国鉄の車両、各都市の地下鉄車両等に加えて、

今回のデリー首都圏快速鉄道網 (RRTS)計画

等の郊外に延びる新線対応も無視できない規

模となるであろう。

 我が国からは、完成車としての車両輸出は

難しいところであるが、現地企業との合弁や、

電機品をはじめとした高度かつ重要な技術を

用いたコンポーネント類に関しては、今後、大

いに期待される、あるいは、力を注ぐべき市

場になると考えられる。

(2)中国 長春、四方がそれぞれの都市間動車組(250km/h以下)CRH3A、CRH6F を完成①北車長春で完成した都市間動車組CRH3A

・コア技術は“中国が創造”という中国自主

 開発の250km/h動車組CRH3Aが完成

 (2013年6月8日)。

・8両編成(4M4T)。現有と比較し15%加減

 速を高めている。

・速度性能は、160km/h、200km/h、250k

 m/hの3速度等級。

・乗客の乗降も短時間でできる。(3扉化)

②南車四方で完成した都市間動車組CRH6F

・200km/h 用 CRH6(2012年 11月30日)、

Page 2: 論 説 世界市場インプレッション当するものである。ざっくり推定して、少なめ に見ても2000両程度の需要が見込めそうで 世界市場インプレッション

鉄道車両工業 468 号 2013.10

 160km/h 用 CRH6F(2013 年 7月4日) が

 完成。

・CRH6Fは半径100㎞くらいの都市圏用。

 乗客の乗降も短時間でできる。

・速度等級は、140km/h(120km/hをカバ

 ー)、160km/h、200km/h、250km/h の

 4速度等級で運行できる。

・3両、4両、6両、8両編成が可能。

 南車、北車が中速車・高速鉄道動車組と同

様に、類似仕様の都市間動車組をそれぞれ開

発したが、旧鉄道部が両者をうまくコントロー

ルし競争させた結果と考える。

 120km/h ~250km/h の速度等級で編成

車両数を乗客量等の条件に適した編成両数が

選択できるため、高速鉄道以外の現行列車で

多数を占める客車列車は、長距離寝台列車以

外はいずれ淘汰されると思われる。

 先頭形状、運行速度等級、編成車両数等の

構成の自由度を見ると、北車より南車の動車組

設計技術が若干進んでいるように感じられる。

 8月15日には、時速250km/hの動車組91

編成(8両/編成×91編成=728両)の入札募

集が公告された。久々に、動車組のみで90億

元(約1,500億円)規模の大型案件である。

 車両の入札結果は、南車と北車が得意とす

る車種を受け持つ形で分け合っている。参考

までに、車種ごとの両数割合を図に示す。そ

の他、客車726両、貨車28,900両も入札さ

れている。

 今年の中国鉄路総公司(CRC)の設備投資計

画は、6,600億元(1兆円強)と発表されてお

り回復基調になっている。

 年末までに5,500kmの路線が開通し、トー

タルの路線長は、103,500kmとなる(世界2位)。

その内、高速鉄道が10,000kmを超えるが、

これは、世界の高速鉄道路線 約22,000kmの

45%に当たる。

 累積負債が40兆円にも達する中で、計画

の延期や見直しが続くと見られるが、既に着工

している路線への対応分は建設が進むようで

ある。第12次5カ年計画は、2015年までの

2年余であり、毎年6,000億元規模の投資が

続くものと期待されている。一方、世評の中

には、2015年バブル崩壊説もあり懸念され

るところである。

(3)タイ 既設鉄道路線 容量改良(複線化)工事の入札時期近し タイ国家鉄道(SRT)は、国のメーターゲージ・

ネットワークの上で輸送量を増強するために、

線路長を二倍にするプログラムの初期のフェー

ズへの入札を開始する準備をしている。

 タイ国鉄(SRT)では、数年遅れたが、いよ

いよ線路輸送容量の増大のための複線化の

公示を年末にも始めたい、と交通副大臣(Mr

Soithip Trissuddh)が話した。

1- 106km Chachoengsao-Kaeng Khoi line

(バンコク東部)

 その他、下記5線、計767kmは、来年の入

札として、内閣の予算化の承認後。

2- Map Kabao-Jira Junction (132km)

3- Nakhon Pathom-Hua Hin (165km)

4- Lop Buri-Pak Nampo (118km)

5- Nakhon Ratchasima-Khon Kaen

(185km)

6- Prachuap Khiri Khan-Chumphon

(167km)

 在来の狭軌(メータゲージ)路線をそのまま

複線化するという線路改良を進めるようであ

37

車両入札結果 (2013年8月公告)

           数字は両数

174

185

136

728

110

326

408

0

0% 50% 100%

9600kw機関車

7200kw機関車

350km/h動車組

250km/h動車組

南車

北車

Page 3: 論 説 世界市場インプレッション当するものである。ざっくり推定して、少なめ に見ても2000両程度の需要が見込めそうで 世界市場インプレッション

鉄道車両工業 468 号 2013.10 38

る。現実的に必要なものから手をつけて行く、

ということであろう。既にこの6月に中国南車

に20両の狭軌対応のディーゼル機関車を注文

しており、さらに増備する計画も発表されて

いる。ここ30年来で、タイは初めてディーゼ

ル機関車を中国から購入するものであり、中

国の南下政策に与するものと思われる。

 一方、スワナブーム国際空港路線や、地下

鉄などの都市交通は、ドイツ・シーメンスによっ

て標準軌の路線となっている。

 また、高速鉄道は標準軌で4路線の計画が

有り、これらは、ミャンマー、中国、ラオス、

カンボジア、ベトナム、マレーシアなど周辺国

と結ぶ国際鉄道路線としての長期的構想で進

めていくといわれている中で、この狭軌と標準

軌の混在の問題をどのように解決していくか

は大きな課題として残るものと思われる。

 日本は9月中旬にも太田国交大臣がタイ・ベ

トナムを訪問する中で、高速鉄道などのイン

フラ整備の協力関係の構築に向けた関係強化

を確認している。

 少し話は大きくなるが、東南アジア諸国全

体に及ぶ産業・輸送インフラ整備構想を日本

が音頭をとって創り上げ、支援し互恵関係を構

築すべきときが来ているものと考える。その一

環としてタイ国鉄の再建策にも政府レベルで委

員会を設置するなどし、エンジニアリングと資

金調達の継続支援をするような体制をつくるこ

とができないだろうか。東南アジア諸国との

強い絆を作ることが喫緊の課題と思われる。

2.アジア・欧州(1)アルストム(仏 )と(株) 総合車両製作所(J-TREC) が LRT 関連で覚書に調印 アルストムとJ-TRECが、ライトレール(LRT:

Light Rail Transit)と路 面 電 車 (tramway)

市場を評価するという覚書(MOU)に署名した

(6月19日)。両社共同で、既存の路面電車線

のほとんどが30年以上前のシステムであり、

この近代化と日本の新線開発に貢献するとい

うもので、調査は 1 年以内に完了する予定と

している。J-TREC とアルストムが、一緒に日

本の基準およびトラムのローカリゼーションへ

の対応を進めていく。

 アルストムとJ-TRECとは初めてのMOUで

あり、日本政府と欧州連合間で行なっている

日欧経済連携協定の議論によって推進された

もの。「我々はJ-TRECによって選ばれ、日本

の都市交通プロジェクトの支援にJ-TRECと

一緒に仕事をする機会を得たことに興奮し(be

thrilled)満足している。」と、日本アルストム

タイ国鉄の路線計画図 在来線複線化

(狭軌) 高速鉄道

(標準軌)

1 3

6

5

4

2

論説

Page 4: 論 説 世界市場インプレッション当するものである。ざっくり推定して、少なめ に見ても2000両程度の需要が見込めそうで 世界市場インプレッション

鉄道車両工業 468 号 2013.10

 2035年に最大営業速度400km/hの実用

化を目指し、エネルギー消費、旅客の快適化、

空力的騒音の除去、安全性基準の改善、磨耗

やライフサイクルコストの低減などの研究を行

なっており、今年末がひとつの期限という。

 空力特性の研究課題としては、300km/h

を超える高速走行中、横風によって車両が浮

き上がる影響対応と、狭いトンネルに高速で

列車が入出する際の圧縮波や衝撃音対策が挙

げられる。

 車体の軽量化は、ハニカム素材を芯にした

サンドイッチ構造とし、CFRP(炭素繊維素材)

を側面や屋根の表面に使用する開発を進めて

いる。

 本研 究によると、高 速 列 車は営 業 速 度

400km/h ~ 440km/hが技術的限界で、こ

れを超えると空力的な特性がかなり非線形と

なり、わずかな速度増加のために急に大きな

エネルギーがかかるようになる、という。高速

列車の実用最高速度の提示として大変興味深

いものである。

 空力的な特性やバラスト巻き上げなど様々

な事象が研究データとして積み上げられてお

り、5年に一度あるTSI(インターオペラビリティ

(相互運用)のための欧州の技術規格)の見直

しに反映されるようにする、としている。

補注 DLR:ドイツ宇宙計画とともに国のプロジェクト      の最大の実施機関。従業員約7400人。      ケルン他ドイツ16拠点海外駐在所:ブリュッセル、パリ、ワシントン、東京

 航空、宇宙からさらに広く、交通、エネルギー、

安全などを含めた総合的な技術研究開発機関

の一環として高速鉄道車両の技術開発が進め

られているのは、空力特性の繋がりからとい

うが、国費により、産業技術を育成し国力を

高め、欧州、世界を席巻していくという強い

意思が感じられる。

 軽量素材等より広範な技術の研究開発とそ

の集積、人材の育成、開発費用の負担、開発

39

株式会社の中森社長兼会長が語っている。(ア

ルストムのホームページに基づく)

 欧州企業UNIFEの中でも日本の鉄道市場

の開放を強く迫るアルストムが、JR東日本の

100%子会社の車両メーカJ-TRECとの間で、

ライトレールという限られた分野とはいえ協業

の緒についたことは、日欧双方の関係を改善

する意味もあるかもしれない。

 またこれを契機にして、J-TRECの車体にア

ルストムの電機品の組合せなど新風が巻き起

こる可能性も考えられ、今後の成り行きが注

目される。

3.欧州(1)ドイツの航空宇宙センタDLRによる超高速車両の研究 ドイツ国の航空宇宙関連研究開発機関であ

るDLR(German Aerospace Center)におい

て行なっている次世代車両NGT(Next Gener-

ation Train)の研究開発状況が、Internatio-

nal Railway Journal誌(July 2013 p40 ~)

に載った。(Railway Gazette International

誌(March 2013 p58~)等にも紹介がある。)

 空気力学や流体技術が専門のゲッチンゲン

研究所で開発中。次世代車両は、2階建ての

超高速車両であり、3百万ユーロ(約3億6千万

円)かけた新しい研究施設である2つのシミュ

レーション用特製のトンネル構造付きのスケー

ルモデル路線60mで、スケールモデル列車

(1:25)を用いて2010年10月より開発が進め

られている。

Page 5: 論 説 世界市場インプレッション当するものである。ざっくり推定して、少なめ に見ても2000両程度の需要が見込めそうで 世界市場インプレッション

鉄道車両工業 468 号 2013.10

成果の応用、活用など大変強力で手厚い開発

体制を組んでおり、開発意欲が湧く体制のひ

とつとして参考にすべきかと思う。

4.北米(1) 米国 日本企業の米国子会社による車両受注が引続いている①近畿車輛の米国子会社KinkiSharyoイン

ターナショナル(KILLC)がLRV 97編成追加

受注(約360億円)。

 カリフォルニアのパームデールに製作工場を

建設する約束の下に、ロサンゼルス郡都市交

通局 (LACMTA)から97編成194両の LRV

オプション受注を勝ち取ったもの。これは、

昨年の78編成のベース契約の2オプション分

で、2017年から2019年にかけて納入される。

 ロサンゼルスから北に100kmにあるパーム

デールの新工場は、車体の製造組立作業など

で約250人の雇用を生む予定。また、現在の

マサチューセッツに有る米国本社は、ロサン

ゼルス郊外(ElSegundo)に移動する計画にも

なっている。

②川崎重工の米国子会社Kawasaki Rail Car

(KRC)が通勤電車92両を受注(約250億円)、

オプション584両付。

 ロングアイランド鉄道(LIRR)とメトロノース

鉄道(MNR)が共同調達する通勤電車(SUS製、

26m 長 )で、2017年~2018 年にかけて納

入される。全てのオプションが行使されれば、

総数676両、最大18.3億ドル(約1,830億円)

という同社過去最大規模の鉄道車両契約とな

り、2022年まで生産が継続される。

 前回の論説(その11)の北米の記事で、日

本企業による車両製作工場が活況、として日

本車両、川崎重工の各アメリカ子会社の相次

ぐ受注を取り上げたが、その続きであり、活

況が続く。

 いずれもバイアメ法という60%以上の米国

産製品や材料の使用と米国での最終組立を

義務づける米国の産業保護育成政策や州政府

レベルの規制などに係っていると思われるが、

雇用の確保や財政再建のために、近年、バイ

アメ法の運用が厳格になるなど非常に強めら

れているなかで、これを乗越えての活躍であ

り、大変喜ばしいことである。

 また逆に、TPPの交渉材料としてバイアメ

法の撤廃もしくは、日本での同等以上の非関

税障壁の設定と運用を持ち出すなどして、日

本は日本の産業保護育成を強く求めるべきで

はないだろうか。日本の車両産業もグローバ

ル化の名のもとに海外に出て行くのは良いが、

国内の製造と売上にどれだけ貢献するか、と

いうことをないがしろにはできない。一方通行

ではない真にグローバルな展開が求められる。

5.中近東(1) サウジアラビア リヤドのメトロ・ネットワークの3つのターンキーが成約 リヤドの総延長176kmの6路線のメトロ・

ネットワーク建設については、シーメンス、ボ

ンバルディア、アルストム等がそれぞれ加わる

3つの建設・設計のコンソーシアムが契約した。

予算総額が 22.5bn(約2.2兆円)となる、世

界最大級の公共インフラプロジェクトの一つで

ある。建設は、2014 年に始まり、2018 年

部分開業予定。2019年までに全85駅が開業、

車両は、全自動運転される。

 ライン1、2が、シーメンスの属するベク

テル率いるBACSコンソーシアム。総延長

63.3kmを$9.45bn(約9千億円)。

 ライン3が、アンサルド STSとボンバル

ディアが属するアリヤド・コンソーシアム。

40.7km、$5.21bn(約5千億円)。

 ライン4、5、6が、アルストムが属するス

ペイン系で固めたFASTコンソーシアム。全

64.6km、$7.82bn(約8千億円)

 オイルマネーのある中東案件は、成約も工

期も早く、金額も巨大である。そこに、きっ

40

論説

Page 6: 論 説 世界市場インプレッション当するものである。ざっくり推定して、少なめ に見ても2000両程度の需要が見込めそうで 世界市場インプレッション

鉄道車両工業 468 号 2013.10

ちりとビッグ3が3つの建設主体にそれぞれ収

まっている。「連合」とはかく有るべしという

ような最強鉄壁とも映るコンソーシアムによる

ターンキー案件対応であり、あの中国も全く寄

せ付けていない。これが、いわゆるEUの力、

という印象である。

6.中南米(1)ブラジル 東芝がリオデジャネイロ列車用電気機器を供給する        

 東 芝は中国機械進出口( 集団) 有限公司

(CMC)と中国の鉄道車両メーカ長春軌道客車

股 有限公司(CRC)とのコンソーシアムから、

ブラジルのリオデジャネイロの列車用電気機

器60億円を受注した。

 この電気品は、60編成240両分の推進シ

ステム、モータ、補助電源システム、車両情

報システムなどで、納期は2013年9月から

2014年12月。

 東芝はこれまでにリオデジャネイロ州近郊

電車向けに50編成200両の電気品を納入し

ている。

 ブラジル政府は、2014年のワールドカップ

と2016年夏季オリンピックが開催されるサ

ンパウロ、リオデジャネイロを含む都市の交

通ネットワークの整備を計画しており、2011

年から2014年までの4年間で、鉄道分野に

260億ドル(約2.6兆円)を投資する。

 ブラジルには以前は日本製車両が多く納入

されてきた。しかし最近は実績が少なく、中国・

韓国等に取って代わられている中で、日本メー

カ(三菱電機等)の電気品が多く採用されてき

た。

 今回も中国メーカが受注したが、ブラジル

での納入実績のある東芝が電気品を受注出来

たのは喜ばしいことである。

 今後も価格競争力を高めるには海外メーカ

(車体・部品)との組合せが必要となる。また、

新興国では納入までの期間が短くなっており、

日本の車両・電機メーカとしても標準化を行い、

競争力を高める努力が必要である。 

(2)ブラジル高速鉄道、入札を延期:少なくとも1年先送りの見通し ブラジル政府は8月12日、2020年までに

リオデジャネイロ-サンパウロ近郊間を結ぶ計

画の同国初の高速鉄道について、今月に予定

されていた入札を延期すると発表した。

 ブラジル政府は7月、施設使用料を引き下

げたが、その後も線路利用料などの負担が採

算を悪化させると各国の企業連合が懸念。応

札に慎重な姿勢を崩していないことから、少

なくても1年は先送りする見通しという。

 景気後退による資金難、公共料金値上げな

どの市民の反発が背景にあるのか。またはサ

ンパウロ州地下鉄工事の談合事件の影響か。

来年10月の大統領選に向けての政争の具とな

るということか。高速鉄道案件は、国の様々

な条件と思惑がからむので、長い付き合いを

しなければならないと痛感させられる。

41