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取材を終えて 76 株式会社 ハウス工芸社 低コスト、簡単施工の 空きガレージ活用ショールームで 集客拡大 「いずみホーム」の屋号で、大阪府堺市を中心 に木造注文住宅を請け負う「ハウス工芸社」。昭和 54年の設立当初からしばらくは、ゼネコンなどの 建築工事の下請けをメーンの仕事としてきた。建設 投資の先細りや人口減少など業界の先行き不安を 背景に、事業の継続性などを考えて、平成18年頃 に「脱下請け」を一念発起。建築元請け1本に大きく 事業を転換した。 地道な営業活動、顧客との対話を重視した建築 提案に徹し、これまでに手がけた戸建て住宅は100 件を超える。施主には、建設資金の確保や返済計 画など細部までアドバイス。甘い考えで漠然と家を 買いに来た顧客には、容赦なく現実を提示する。 口うるさく思われても、すべては幸せな家づくりの ため。何のために家が 欲しいのかに始まり、各設備 の選定、費用まで施主に確認させる。相手の事情に、 一歩踏み込んでまで親身になり相談に乗る姿勢は、 他のビルダーやハウスメーカーとは一線を画している。 「脱下請け」目指して 注文住宅請負に業態転換 事業 内容 年間の施工棟数は10―15棟。将来を見据える と、もう少し受注棟数を増やしておきたいところ。 特に地域密着型ビルダーを目指す「ハウス工芸社」 にとって、知名度の向上や顧客接点の増大は、数年 後に顕在化する潜在顧客の掘り起こしには欠かせ ない。戸建て住宅の営業に欠かせないのはモデル ハウス。顧客が単独のモデルハウスや、住宅総合展 示場などを訪れて実際の施工物件に触れて利点を 理解し、さらに複数社を比較して注文先を決める ケースが主流となっている。しかし、中小規模の工務店 にとって、顧客がイメージを膨らます場となるモデル ハウスを保有することはコスト的に難しい。 そこで、空きガレージを使った簡易的なモデル ルームの整備を思いついた。「ハウス工芸社」の社屋 や雑貨店も、もともとは倉庫を改装したもので、 内装整備はお手の物だ。「ガレージショールーム」 は、これまでにないコンセプト。時期良く「革新的 サービス」として補助金の獲得を狙った。 常設のモデルハウスが なくても集客できる方法 補助 事業 自社敷地内で、空いているガレージの1台分を そのまま使って、流行のデザインを投入したショー ルームを自社で施工した。かかった費用は200万 円足らず。ガレージのシャッターには、あえて手を 加えなかった。何の変哲もないガレージのシャッ ターを上げると、ショールームが現れる趣向。遊び 心と見た人の驚き、インパクトを重視した。中小企業 庁の「ものづくり補助金」は、ショールーム本体に は使わず、完成するまでの工事を映像として残す DVDの製作に使うとともに、従業員に接客研修を 受講させる費用の足しとした。 ガレージショールームは隣接する雑貨店からも 行き来できるようになっており、注文住宅の顧客誘 導だけでなく、ディスプレーする雑貨や家具の販売 にも寄与。雑貨や家具が入れ替わっていくことで、 常に新鮮さももたらしている。さらに、この空間を 写真撮影用のスタジオとしても使うなど多用途に 展開。ショールームはその時々の流行を取り入れる ため、2年ごとには改装して最新の空間を訴求して いく。壁紙の張り替えなどショールームの改装作業 では、一般に参加者を募り、作業を楽しんでもらう とともに、家庭でのちょっとした施工技術を習得 してもらうアイデアも温める。 ガレージのシャッターを 上げるとショールームが出現! 具体的 成果 土居宏充社長は「将来的に、年20―30棟ぐらい は施工していきたい」と、受注棟数の拡大を目標 に掲げる。現在は子育て世代を客層の中心に設定 するが、少子高齢化を背景に新設住宅着工は減少 に進む見通し。年齢層にかかわらず地元に密着した ビルダーとして、各顧客ニーズに寄り添っていけば、 リフォームなどに社業をシフトせずとも、活路は 見いだせるとみている。認知度を高めるため、「いずみ ホーム」の訴求にも力を入れていく。その一助と なるのが「ガレージショールーム」であり、隣接する 雑貨店との相乗効果でもある。 「ハウス工芸社」が運営する雑貨店「kitokito」 は近隣に知名度も高まっており、幹線道路から 外れた場所にもかかわらず、来客は絶えない。ゆく ゆくは地域でも目立つ幹線道路沿いに営業拠点を 構える構想。当面は雑貨店の顧客を、注文住宅に つなげようと、顧客情報システムの構築を進めている。 顧客に合わせてイベントのDMによる告知などを 行えるように仕組みを整える。うまく効果が出せ れば、ガレージショールームと合わせて、同じよう に悩みを抱える中小ビルダーの集客ソリューション として、社外に展開することも視野に入れている。 堺地域で愛される地元密着型 ビルダーとして成長を狙う 今後の 戦略 「ハウス工芸社」の本社社屋 「ガレージショールーム」の内部 「ガレージショールーム」の外観 住宅市場が縮小する中で生き残り競争は厳しくなる一方だ。地域に根付 いたビルダーとなっていくには、どうあるべきか。今取り得る一手が、モデル ハウス代替のガレージショールームによる集客だった。需要を捕捉して、 甘い言葉で顧客をその気にさせるのではなく、顧客に夢と現実のギャップを 指摘するのは勇気がいること。誠実を貫けば、いずれブランドの確立につな がることだろう。 信頼関係の構築こそが 顧客満足度につながる 株式会社 ハウス工芸社 代表取締役 土居 宏充 〒590-0106 大阪府堺市南区豊田1749 T E L. 072-291-8104 FAX. 072-291-8138 資本金/10,000千円 従業員/5名 企画力 http://www.house-kougeisha.com/ 家を作るときの「ああしたい、こう したい」という希望。実現する前に 予算や資金繰り、きちんと計画立て られていますか。当社ではお客様に 一歩踏み込んで、デメリットなども 提示し、考えてもらうようにしています。 「家を建てる」を通して、 家族の将来を考えてもらうビルダー 代表取締役 土居 宏充 157 156 平成25年度ものづくり補助金成果事例集 平成25年度ものづくり補助金成果事例集

集客拡大 - 大阪府中小企業団体中央会 · なくても集客できる方法 補助 事業 自社敷地内で、空いているガレージの1台分を そのまま使って、流行のデザインを投入したショー

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Page 1: 集客拡大 - 大阪府中小企業団体中央会 · なくても集客できる方法 補助 事業 自社敷地内で、空いているガレージの1台分を そのまま使って、流行のデザインを投入したショー

取材を終えて

76株式会社 ハウス工芸社低コスト、簡単施工の空きガレージ活用ショールームで集客拡大

「いずみホーム」の屋号で、大阪府堺市を中心に木造注文住宅を請け負う「ハウス工芸社」。昭和54年の設立当初からしばらくは、ゼネコンなどの建築工事の下請けをメーンの仕事としてきた。建設投資の先細りや人口減少など業界の先行き不安を背景に、事業の継続性などを考えて、平成18年頃に「脱下請け」を一念発起。建築元請け1本に大きく事業を転換した。

地道な営業活動、顧客との対話を重視した建築提案に徹し、これまでに手がけた戸建て住宅は100件を超える。施主には、建設資金の確保や返済計画など細部までアドバイス。甘い考えで漠然と家を買いに来た顧客には、容赦なく現実を提示する。口うるさく思われても、すべては幸せな家づくりのため。何のために家が欲しいのかに始まり、各設備の選定、費用まで施主に確認させる。相手の事情に、一歩踏み込んでまで親身になり相談に乗る姿勢は、他のビルダーやハウスメーカーとは一線を画している。

「脱下請け」目指して注文住宅請負に業態転換

事業内容

年間の施工棟数は10―15棟。将来を見据えると、もう少し受注棟数を増やしておきたいところ。特に地域密着型ビルダーを目指す「ハウス工芸社」にとって、知名度の向上や顧客接点の増大は、数年後に顕在化する潜在顧客の掘り起こしには欠かせない。戸建て住宅の営業に欠かせないのはモデルハウス。顧客が単独のモデルハウスや、住宅総合展示場などを訪れて実際の施工物件に触れて利点を理解し、さらに複数社を比較して注文先を決めるケースが主流となっている。しかし、中小規模の工務店にとって、顧客がイメージを膨らます場となるモデルハウスを保有することはコスト的に難しい。

そこで、空きガレージを使った簡易的なモデルルームの整備を思いついた。「ハウス工芸社」の社屋や雑貨店も、もともとは倉庫を改装したもので、内装整備はお手の物だ。「ガレージショールーム」は、これまでにないコンセプト。時期良く「革新的サービス」として補助金の獲得を狙った。

常設のモデルハウスがなくても集客できる方法

補助事業

自社敷地内で、空いているガレージの1台分をそのまま使って、流行のデザインを投入したショールームを自社で施工した。かかった費用は200万円足らず。ガレージのシャッターには、あえて手を加えなかった。何の変哲もないガレージのシャッターを上げると、ショールームが現れる趣向。遊び心と見た人の驚き、インパクトを重視した。中小企業庁の「ものづくり補助金」は、ショールーム本体には使わず、完成するまでの工事を映像として残すDVDの製作に使うとともに、従業員に接客研修を受講させる費用の足しとした。

ガレージショールームは隣接する雑貨店からも行き来できるようになっており、注文住宅の顧客誘導だけでなく、ディスプレーする雑貨や家具の販売にも寄与。雑貨や家具が入れ替わっていくことで、常に新鮮さももたらしている。さらに、この空間を写真撮影用のスタジオとしても使うなど多用途に展開。ショールームはその時々の流行を取り入れるため、2年ごとには改装して最新の空間を訴求していく。壁紙の張り替えなどショールームの改装作業では、一般に参加者を募り、作業を楽しんでもらうとともに、家庭でのちょっとした施工技術を習得してもらうアイデアも温める。

ガレージのシャッターを上げるとショールームが出現!

具体的成果

土居宏充社長は「将来的に、年20―30棟ぐらいは施工していきたい」と、受注棟数の拡大を目標に掲げる。現在は子育て世代を客層の中心に設定するが、少子高齢化を背景に新設住宅着工は減少に進む見通し。年齢層にかかわらず地元に密着したビルダーとして、各顧客ニーズに寄り添っていけば、リフォームなどに社業をシフトせずとも、活路は見いだせるとみている。認知度を高めるため、「いずみホーム」の訴求にも力を入れていく。その一助となるのが「ガレージショールーム」であり、隣接する雑貨店との相乗効果でもある。「ハウス工芸社」が運営する雑貨店「kitokito」

は近隣に知名度も高まっており、幹線道路から外れた場所にもかかわらず、来客は絶えない。ゆくゆくは地域でも目立つ幹線道路沿いに営業拠点を構える構想。当面は雑貨店の顧客を、注文住宅につなげようと、顧客情報システムの構築を進めている。顧客に合わせてイベントのDMによる告知などを行えるように仕組みを整える。うまく効果が出せれば、ガレージショールームと合わせて、同じように悩みを抱える中小ビルダーの集客ソリューションとして、社外に展開することも視野に入れている。

堺地域で愛される地元密着型ビルダーとして成長を狙う

今後の戦略

「ハウス工芸社」の本社社屋「ガレージショールーム」の内部

「ガレージショールーム」の外観

住宅市場が縮小する中で生き残り競争は厳しくなる一方だ。地域に根付いたビルダーとなっていくには、どうあるべきか。今取り得る一手が、モデルハウス代替のガレージショールームによる集客だった。需要を捕捉して、甘い言葉で顧客をその気にさせるのではなく、顧客に夢と現実のギャップを指摘するのは勇気がいること。誠実を貫けば、いずれブランドの確立につながることだろう。

信頼関係の構築こそが顧客満足度につながる

株式会社 ハウス工芸社代表取締役 土居 宏充〒590-0106 大阪府堺市南区豊田1749TEL. 072-291-8104FAX. 072-291-8138資本金/10,000千円従業員/5名

企画力

http://www.house-kougeisha.com/

家を作るときの「ああしたい、こうしたい」という希望。実現する前に予算や資金繰り、きちんと計画立てられていますか。当社ではお客様に一歩踏み込んで、デメリットなども提示し、考えてもらうようにしています。

「家を建てる」を通して、家族の将来を考えてもらうビルダー代表取締役 土居 宏充

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