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奈良教育大学 教育実践開発研究センター研究紀要 第22号 抜刷 2013年 3 月 幼児の身体的不器用さに関する予備的研究 -協調運動の実技調査から- 瓜生淑子 (奈良教育大学 学校教育講座(幼児心理学)) 浅尾恭子 (大阪府立堺聴覚支援学校) A Pilot Study on Preschooler's Physical Clumsiness by the Assessment of Motor Coodination

幼児の身体的不器用さに関する予備的研究 - nara …...研究研究 2013年3月 幼児の身体的不器用さに関する予備的研究 -協調運動の実技調査から-

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Page 1: 幼児の身体的不器用さに関する予備的研究 - nara …...研究研究 2013年3月 幼児の身体的不器用さに関する予備的研究 -協調運動の実技調査から-

奈良教育大学 教育実践開発研究センター研究紀要 第22号 抜刷

2013年 3 月

幼児の身体的不器用さに関する予備的研究-協調運動の実技調査から-

瓜生淑子(奈良教育大学 学校教育講座(幼児心理学))

浅尾恭子(大阪府立堺聴覚支援学校)

A Pilot Study on Preschooler's Physical Clumsinessby the Assessment of Motor Coodination

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1.問題と目的

保育や教育の場で、ケンケンやスキップが年齢相応にできない、5歳児でも箸がうまく使えない、手先が不器用で着脱に時間がかかるなど、身体的不器用さの指摘は枚挙に暇がない(例えば、井口、2000;郷間ら、2007など)。子どもの生活技術の獲得やのちの運動能力を問題にする上でも、また、発達障害児等への保育を考える上でも、幼児期の身体的不器用さについて関心が高まりつつある。

1.1.身体的不器用さ 身体的不器用(clumsiness)とは、協調運動がう

まく遂行できない状態をいう。協調運動とは、別々の動作を一つにまとめる運動のことを指す。例えば、縄跳びは縄を回しながらタイミング良く跳ぶという協調運動である。粗大運動(全身運動)ばかりではなく、ボタンをかけたり、ハサミを使ったりといった微細運

動(手先の操作)も協調運動の一部である。これらの運動の習得や遂行に著しい困難を示すことが、身体的に不器用だと言われる。

不器用さを伴う障害として、「中枢性協調障害」や「MBD(=Minimal Brain Damage)」という障害名が日本で知られるようになったのは、1970年頃からである。しかし、障害部位が特定できないにもかかわらず脳の障害を想定する障害名には「診断のくずかご」との批判もあり、これらの名称はやがて使われなくなっていった。アメリカ精神医学会の定めた最新の疾病分類(DSM-IV-TR,2000)では運動能力の障害の1つとして、「発達性協調運動障害」(Developmental Coordination Disorder:DCDと略される。本文でも以下、略称を使用)と呼ばれている1)。これは脳性麻痺等の明らかな身体障害を伴わないにも関わらず、協調運動が必要とされる行為の獲得や遂行に著しい困難を示し、それによって学業成績や日常生活の活動に明らかな障害や困難を伴う場合を指

幼児の身体的不器用さに関する予備的研究−協調運動の実技調査から−

瓜生淑子(奈良教育大学 学校教育講座(幼児心理学))

浅尾恭子(大阪府立堺聴覚支援学校)

A Pilot Study on Preschooler's Physical Clumsinessby the Assessment of Motor Coodination

URYU Yoshiko(Department of Early Childhood Education, Nara University of Education)

ASAO Kyoko(Osaka Prefectural Special Needs Education School for the Deaf)

要旨:本研究は、今日の保育の現場で指摘される子どもの症状の1つでもある身体的不器用さについて検討するため、5歳児40名を対象として、ビーズ通し、ボール転がし、スキップなど、協調運動を見るため実技調査項目によってデータを得た。全体的に女児の方が実技得点が高めであった。加えて、消極性と多動傾向を見る質問から構成された問題行動評定を保育者に依頼し、実技調査の成績との関係を分析した。その結果、実技得点が低いと消極性得点あるいは多動傾向得点が高くなる検査項目が見られることを見いだした。ただし、後者は主に男児に見られる傾向であった。これらから、不器用さの検討のために、性差に留意しながら実技項目の検討がさらに必要であることが示唆された。また、不器用さを検出するために考案されたテストを一般児の協調運動を調べる際に使用することについては、理論的にも、また採点基準等の技術的な面からも検討が必要なことが提起された。

キーワード: 5歳児 five-year-olds、不器用さ clumsiness、協調運動 motor coodination, 問題行動 behavioral problems

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している。DCDの診断の道具の一つとして海外で標準化され

た検査法の1つにMovement Assessment Battery for Children( 以下、M-ABCと略す)がある。M-ABCは、Henderson & Sugden(1992)によって開発された4~12歳の子どもを対象とした検査法である(辻井・宮原、1999)。日本では、宮原らが初めてこの方法による研究を発表した(Miyahara et al.,1998)。検査は、1)手先の器用さ、2)ボール・スキル、3)静的・動的バランスの3領域から構成されている。対象年齢は4つの年齢層に分けられており、第1年齢層(4~ 6歳)が幼児を対象としたものである。近年、日本でもこの検査法を取り入れた研究が増えてきているが(後述)、標準化の試みが未だ続けられている段階であり(増田、2008)、検査道具の規格等が明示されて報告されているとも言えない。

1.2.日本の幼児の身体的不器用さについて 1979年の国際子ども年が一つの契機であったのだ

ろうか、1980年前後から 「子どもが危ない」「おかしい」という声がマスコミ等で顕著に取り上げられるようになった2)。これにより、子どもの運動不足や運動能力の実態に危機感がもたれるようになり、これ以降、幼児の運動能力に関する研究に関心が集まっていた。しかし、幼児期の不器用さに関する研究は必ずしも十分な注目を集めなかった。雑誌『発達』が 「不器用な子への援助」と題した特集を組み、上記DCDが、70年代にすでにclumsy childrenの症例を報告していた山口俊郎によって紹介されたのは、ようやく1992年のことである。不器用さに的を絞って書かれた日本で初めての著作であるとされる『子どもの不器用さ』が上述の宮原らによって出版されたのは1999年であった(辻井・宮原、1999)。それ以降は、教育現場での発達障害への関心の高まりを背景に実証的研究の報告が相次ぐようになってきた。筆者(第一著者)らが、幼児期の不器用さと乳児期の運動発達との関係について検討し、不器用さの2類型を報告したのも、発達障害児の早期発見という関心からであった(小谷ら、2009)3)。

上述のM-ABCを使用した研究やその紹介も増えている(北澤ら、2001;増田ら、2002)。田中(2007)は、近年の幼児の身体・運動能力の変化を捉えるためにこのテストとほぼ類似した実技項目からなるMovement Skills Test Batteryに依拠して、同一課題を使用して1990年値と2007年値とを比較し、成績の低下傾向を明らかにした。中でも手先の協応性やバランス能力に関する能力の低下が顕著であり、「片足バランス」などが17年間で著しく成績が下降していた。

また、不器用さに焦点を当てたわけではなかったが、郷間英世は、発達検査の改訂標準化の作業の中で、現

代の子どもは20年前の子どもに比べて発達全般が遅くなってきていることを指摘し、特に図形模写をはじめとする「描画」の項目において通過年齢が著しく遅れてきていることを報告している(郷間、2003)。また、鈴木みゆきは三角形の模写を指標として、その遅れが睡眠時間の短さから説明されるとした研究を発表し(鈴木、2000)、マスコミでも取り上げられ話題となった4)。三角形の模写の遅れを単一の要因から説明するのは早計かもしれないが、郷間も指摘しているように、この20年間に見る描画の遅れが、子どもたちの生活習慣や生活環境の変化に影響されて進行していることは否定できないことであろう。

渋谷郁子の研究(2008)は、4歳から6歳までの保育所児・幼稚園児94名を対象にし、不器用さの問題と心理社会的問題との関連を実証的に示した研究として注目された。課題としては、M-ABCを実施し、保育者評定による問題行動との関連を調べた。その結果、M-ABCのチェックリスト−実技テストとは別に用意されている、指導者による5種類の評定用紙−のうち、セクション5の質問紙によって担任保育者に尋ねた行動的問題(「落ち着きのなさ」「消極性」)に関して、協調運動遂行度との関連が示された。そして、協調運動遂行度を説明変数として 「落ち着きのなさ」「消極性」を説明する重回帰式を示すなど、包括的な結果が示されている。しかし、紙幅の制約からか、実技項目成績の分布や協調運動に予想される性差への言及がない。協調運動の遂行度と行動的問題との関連を示す重回帰式のモデルも提案されているが、3年齢全体を正規分布と仮定して分析を行っているため、年齢の影響が統制されていないことが、身体的不器用さから行動的問題が説明できるとして呈示されたモデルの解釈を難しいものにしている。また、もともとM-ABCはDCDの診断用に開発されたものであるから、一般幼児の発達を検討するツールとして見た場合、課題の種類・難易度やその得点化と分布が妥当だったのかといった方法論的上の問題についても言及されていない。

1.3.幼児の運動能力を捉える指標をめぐって子どもの体力・運動能力の低下が叫ばれて久しいが、

このことへの対処として、近年、講師を招いて器械運動等、特定の運動指導を取り入れる幼稚園や保育所があり、運動系の早期教育が各家庭の対応を越えて広がりを見せている。しかし、幼児期に逆上がりなど個別の種目を日々の保育で意図的に取りあげることには、杉原(2008)が「運動発達を阻害する運動指導」と題した論文で注意を促しているように、批判も多い。

他方、体育学の見地からは既に、25m走、立ち幅跳びといった学齢期の運動種目が全国的に幼児にも降ろされて実施されており5)、これにより運動能力の低下が継続的・実証的に示されてきた。しかし、幼児期

瓜生 淑子・浅尾 恭子

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の身体・運動能力を捉えることには、動機づけを揃えることの難しさや、体格の影響なども考慮する必要がある。宮丸(1984)は幼児期の基本運動について論じる中で、「一般に走・跳・投を基本的な運動とすることが多いが、何かその根拠がはっきりしないようである。基本的なものを捉えるには、何を成立させ、何を構成するための基本なのかが明確でなければよく分からないことになる」と述べ、走・跳・投が定番の検査項目とされていることに疑問を投げかけている。森下(1991)も、幼児期に運動成果を量的に測るこうした検査法の普及について、生活場面と切り離して種目を実施することの問題点を述べた上で、検査にあたっても発達的視点が求められることを指摘している。このように、幼児期の運動の実態を何を指標として捉えるのか、それ自体、検討の余地がある。

宮丸は上の引用に続けて、「・・幼児の発達のためにはライフサイクルで求められる人間の運動全般を見渡して、その基本を捉えねばならない」とした上で、のちの運動能力の基礎となる平衡系・移動系・操作系からなる基本動作を遂行する能力の育成が大事だと指摘していた。今日の幼児期の身体・運動的発達の問題を考えるにあたって宮丸の指摘は重要である。冒頭で述べたように保育現場からの指摘の多さを考えれば、のちの運動能力の基礎となるものの獲得を重視するという点からも、不器用さの問題、すなわち協調運動に関する実態を検討することは、時宜にかなっている。

ところで、不器用さは専門家の間でも、成長するとともに自然と改善していくところが大きいと考えられてきた。しかしながら、近年、縦断研究の蓄積などから、必ずしもそうではないと考えられるようになってきた(ヘンダーソン、1999)。奥田(2007)も同様の指摘をしている。学校にあがれば、運動のできなさが体育の時間などに本人や周囲の子どもにもわかりやすいため、劣等感や不安感、低い自己概念などとなって二次的な問題を拡大しかねない。既に幼児期においても自己概念の形成に運動有能感が影響するという指摘もなされている(森ら、 2006)。この点からも、幼児期の不器用さについては、幼稚園・保育所で早期から位置づけて対処すべき課題の1つと言える。

1.4.本研究の目的以上より、本研究では、幼児期の不器用さを検討す

るために、その検査法であるM-ABCに準拠した実技調査を実施し、性差やデータの分布についても留意しつつ、基礎的データを得ることを目的とした。さらに、渋谷(2008)の研究に依拠し、実技調査の結果と保育者による問題行動評定調査と照らし合わせ、渋谷が示していた幼児期における身体的不器用さと心理・行動的問題との関連についても検討を加える。その際、質問内容も渋谷を踏襲して行うが、より項目内容を保

育場面に即して具体的なものにして実施する。なお、本研究では、対象幼児を実技調査も容易な

年齢となっている5歳児とした。本研究の結果からM-ABCを取り入れた実技調査の有効性や改善点が示されれば、年齢幅を拡大して、より年少の子どもから実施し、不器用さの目立つ子どもたちへの保育の課題を検討していくための発達的データを得ていくことができる。本研究はそのための予備的研究と位置づける。

2.方法

2.1.実施期間及び調査協力者 2008年10月中旬~ 11月初旬に、大学附属幼稚園5

歳児40名(月齢66 ~ 78 ヶ月、平均月齢72 ヶ月。表1)、及び担任保育者2名の協力を得て実施した。

表1 調査協力児の内訳

2.2.課題と手続き調査は幼児に個別に実施した運動実技調査と、保育

者による問題行動評定調査とからなった。2つの調査は以下の通りである。1)運動実技調査

検査項目は渋谷(2008)にならい、M-ABCの検査項目を基本とし、3領域、9種の項目で構成した。各検査項目の概要は付表1に示した。

①「手先の器用さ」領域では、コイン入れ(秒数)・ビーズのひも通し(秒数)・自転車迷路(はみ出し箇所数)・図形模写(四角形・三角形・菱形のそれぞれ基準に達する試行回数)の4種類の項目。図形模写の課題は、発達検査で通過年齢が明示されていることや上述の郷間の先行研究があることから、手先の器用さを見る課題として追加した。

②「ボールスキル」領域では、お手玉受け・ボール転がしの2項目(10回中の成功回数)。

③「静的・動的バランス」領域では、片足立ち(秒)に加えて、ケンケンパ、スキップ(4段階評定)の3項目を実施した。「静的・動的バランス」領域の両足ひも跳び越し・つま先立ち歩きは、4名を対象に実施した予備調査でこの年齢では差がでにくい項目と判断され、本調査では削除した。代わりに、既存の発達検査(新版K式発達検査2001、遠城寺式・乳幼児分析的発達検査法改定新装版など)で通過年齢が示されているケンケンとスキップを取り入れた。

幼児の身体的不器用さに関する予備的研究

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運動実技調査は、幼稚園内の遊戯室や園長室を借り、自由保育の時間に「手先の器用さ」「ボールスキル」「静的・動的バランス」の順で個別に実施した。所要時間は一人当たり15分。2)保育者による問題行動評定調査

対象児の担任保育者に、対象児の園でのふだんの様子を思い返しながら、一人ずつ回答するように依頼した。質問項目は、M-ABCのチェックリスト(セクション5)の翻訳をもとに作成された質問項目である「衝動的」「消極的」「臆病」など11項目の質問(渋谷、2008)を、各質問について2下位項目ずつ、より保育場面に沿った具体的な質問内容に作成し直し、22下位項目とした。項目の評定は、1点(まったくない)から5点(よくある)の5段階で回答を依頼した6)。得点の高いほど問題行動の程度が大きいことを示す。22項目の内容は表3(p.5)に評定結果とともに示した。

3.結果

3.1.運動実技調査各実技調査の結果は、素点の平均値をレンジととも

に表2に示した。素点をもとに正規分布を前提として4段階に点数化し7)、この4段階の点数を実技得点として分析した。不器用であれば得点が低くなる。「片足立ち(利き足/非利き足)」はM-ABCの基準に従い、20秒で打ち切ったため、全体の8割が素点は20秒となり、「4」と評定された。「ケンケンパ」「スキップ」も評定値「4」が8割近くなった。なお、「片足立ち」「コイン入れ」はM-ABCの基準に従い、利き手(足)と非利き手(足)の素点を平均した。月齢差 念のため、対象児を5歳後半児と6歳前半児とに二分し、2群間で得点の差を検討したが、いずれの検査項目も全く差がなかった。両群の男女の人数分布も表1のようにほぼ均等である。これより、以後、月齢要因は分析に含めなかった。性差 男女別に4段階に点数化した得点の平均値を図示した(図1)。図を見ると、女児の方が高得点を示す領域(静的・動的バランス)と男児の方が高得点を

示す領域(ボールスキル)とがある。この内、前者の領域で「ケンケンパ」で性差が有意(t(24.10)= 2.77, p<.05)であり、「スキップ」でその傾向が示唆された(t(28.17)= 1.93, p<.10)。ボールスキル領域の2項目(「ボールころがし」「お手玉受け」)は、差があるとはまでは言えなかった。(なお、「ケンケンパ」と「スキップ」は本研究で新たに採用した項目である。)

3.2.問題行動評定 質問下位項目の評定平均値を男女別に表3(次頁)

に示した。平均値が中点の「3」を超えたのは、「緊 張し過ぎる」の下位2項目(⑮⑯)のみで、全体に保育者評定に依った問題行動の評定値は低めであった。評定値に関しても、月齢の違いで2分して比較しても差はなかったので、以後、月齢要因は分析に含めなかった。性差 全体として、男児の方が問題行動の評定値が高めであったが、 有意差があったのは、「動きすぎる」の下位2項目(① t(26.21)=2.89,p<.01;図1 運動実技調査項目の男女別平均

表2 運動実技調査の結果(素点)

瓜生 淑子・浅尾 恭子

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② t(26.53)=3.06,p<.01)、「衝動的である」の下位2項 目( ③ t(26.94)=2.18,p<.05; ④ t(20.77)=2.30,p<.05)であった。また「見通しを持ちにくい」の下位項目⑧では差の傾向が示唆された(t(38)=1.97,p<.10)。因子分析 22の下位項目全体で因子分析したところ、渋谷の結果に一致して、2因子が抽出された(表3)。

ただし、渋谷では 「落ち着きのなさ」因子に含まれていた 「粘り強さがない」の下位2項目(㉑、 ㉒)は、いずれの因子にも負荷が低いため、除外された。α係数は2因子ともに.90以上で十分高かった(表3参照)。それぞれの因子に関して評定値合計を項目数で割って平均を求め、この合成得点を「消極性得点」「多動傾向得点」とした。両得点について男女差を見たところ、消極性得点では男児の方が有意に高かった(男児2.06(SD=1.05)、女児1.42(SD=.58): t(29.73)=2.40, p<.05)。多動傾向得点は、上記のように個々の項目では男児の方が高いものがあったが、合成得点では差はなかった(男児2.48(SD=.83)、女児2.35(SD=1.00:NS)。

3.3.運動実技調査と問題行動評定との関連実技得点と、保育者評定から得られた「多動傾向得

点」「消極性得点」、両者の関連を見た。問題行動評定値は男児の方が高い傾向が見られていたので、性の要因を含め、実技項目ごとに性(2)× 実技得点の高低(2)の2要因の分散分析を行った。実技得点の高低は、実技項目ごとに対象児を得点の低群(1 ~ 2)と高群(3 ~ 4)とに分けた。但し、多くの子どもが「4」であった実技項目は、高群(4)と低群(3以下)とに分けた(図形模写の3項目、自転車迷路、片足立ち、ケンケンパ、スキップ)。また、ケンケンパとスキップは実技得点に性差が見られていたので(3.1.参照)、男女別々に1要因(実技得点の高低)の分散分析を行った。消極性得点 この得点に関しては、大部分の実技項目では性の主効果があり、男児の方が高かった8)。実技得点の高低の主効果は、「四角模写」でのみ見られ(p<.05)、実技得点低群の方が消極性得点が高かった(図2)。 

多動傾向得点 この得点に関しては、性の主効果はいずれの実技項目についても見られなかった。2要因の交互作用が「三角形模写」であり(p<.01)、単純主効果の検定から、女児では実技得点高群の多動傾向得点が高く(p<.05)、男児では逆に実技得点低群の多動傾向得点が高い傾向が示唆された(p<.10。以上、図3-1。次頁)。「お手玉受け」では、2要因の交互作用があり(p<.05)、単純主効果の検定では、男児では実技得点低群の多動傾向得点が高かった(ただし、p<.10。図3-2)。女児では、逆に実技得点高群の方が多動傾向得点が高く、「三角形模写」で見られたのと同様の傾向を示したが、有意差とまでは言えなかった。「コインいれ」でも男児だけではあるが、同様の傾向が10%水準で示唆された

表3 保育者による問題行動評定値の平均値 及び因子分析結果

図2 消極性得点の実技得点(四角 模写)の高低及び性による違い* *男児>女児(p<.05)、全体H群<L群(p<.05)

幼児の身体的不器用さに関する予備的研究

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(図3-3)。男女別々に検討した「ケンケンパ」では、男児の場合に実技得点低群の多動傾向得点が高かった(ただし、p<.10。図3-4)。

以上より、消極性に関しては、「四角模写」で男女とも協調運動遂行度が低いと問題行動得点が高くなった。多動性に関しては、男児のみ10%水準ではあるが、「三角形模写」「お手玉受け」「ケンケンパ」で協調運動遂行度が低いと問題行動得点が高い傾向が見られた。これに対して、女児では「三角模写」に関して、協調運動遂行度が高いと多動傾向得点が高いという逆の傾向が顕著であった。逆の傾向は、10%水準ではあるが「コインいれ」(男児のみ)でも見られた。

4.考察

4.1.運動実技項目について全体を月齢で2分して比較しても個々の実技項目の

得点の差はないことから、5歳児の集団特性としては、この時期(秋期)、協調運動に関して月齢の影響は解消されてきていると見ることができる。

M-ABCを構成している項目の中では、「自転車迷路」「片足立ち」で得点が「4」に集中する結果となった。4歳以上を対象とした北澤らの研究(2001)でも、この2つの項目に加え、「両足ひも跳び越し」「つま先片足立ち」を加えた4項目について、その分布の偏りが既に指摘されている9)。分布の偏りについては、片足立ちの打ち切り時間を延長する、自転車迷路では課題を難しくするなど、年齢に即して難易度の調整が必要だろう。これに対して、「ボールころがし」や「お

手玉受け」はもともと10試行を求めているので、分布が広く得点の偏りも生じなかった。

本研究で新たに採用した「ケンケンパ」「スキップ」はとくに女児の方が成績がよかった。これはもともとM-ABCにはなかった項目である。しかし既存の項目でも、ボールスキル領域を除くと、有意差はあるとまでは言えなかったものの女児の方が高い得点を示すものが見られた。協調運動の性差に関しては、出村らの研究(1990)でも指摘されていたことである(性差については 4.4.で先行研究にも触れ、改めて述べる)。

4.2.問題行動評定について保育者評定値は全体に低めであった。このため、協

調運動の遂行度による問題行動の差が仮にあったとしても検出しにくかったかもしれない。M-ABCでは、「全くない(0)」「たまにある(1)」「よくある(2)」と不均等な3件法とし、「~ある」と評定されやすいようになっていたのに比べ、5件法で問題行動に「4」や「5」をつけることには保育者の心理的抵抗が強かったのかもしれない。また、消極性に関して、本研究で得られたように男児の方が有意に高いという結果はこれまでにも報告がない。他方、臨床的に見ても性差があってもおかしくない多動傾向については、合成得点に依った「多動性傾向得点」で性差は見られなかった。本研究は1園のみを対象にしたので、こうした点については、地域で対象園数を十分確保しつつ、消極性でなく「積極性」を問うなどして再度、検討する必要がある。

なお、冒頭で触れたように、渋谷の研究では問題行動・実技調査、いずれでも性差は一切言及がなかった。

男児H群>L群(p<.10) 男児H群<L群(p<.10)

男児H群<L群(p<.10)女児H群>L群(p<.05)

男児H群<L群(p<.10)

図3 多動傾向得点の実技得点高低及び性による違い

瓜生 淑子・浅尾 恭子

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4.3.協調運動遂行度と問題行動との関連からの示唆消極性に関して、実技得点が低い方が消極性得点が

高くなることが「四角形模写」の課題で見られた。これは、男女ともに見られた傾向であった。図形模写の3つの課題の中で、四角形模写はもっともやさしい項目で、発達検査では4歳代に配置された課題であることからすると、ここで見られる不器用さが消極的傾向に影響していることは頷けるものだった。

しかし、これ以外の実技項目では、差があるとは言えなかった。

多動性に関して、実技得点が低い方が多動傾向得点が高くなることが見られたのは、「三角形模写」「お手玉受け」「ケンケンパ」であった。しかし、いずれも男児だけに見られた。「三角形模写」は、発達検査では5歳代の課題である。「四角形模写」でも男児は同様の数値パターンを示していたが、「三角形模写」の方がこの時期違いを検出しやすかったのであろう。「お手玉受け」は手先の課題、「ケンケンパ」は姿勢バランス全体の課題であるが、どちらも、相手の動きのタイミングやリズムに合わせることが必要なことが共通しており、協調運動を見るには良い課題である。以上のように、男児に関しては不器用さの多動傾向に及ぼす影響が複数の項目で示唆された。

以上、多動性に関しては、いくつかの実技項目で男児の不器用さが多動傾向と結びついていることが示唆されたが、女児では男児で指摘された傾向が見られなかったし、むしろ予想とは逆の傾向が見られる項目があった。こうした予想とは逆の傾向については、女児の場合に活発さが 「多動」と受け止められやすいというジェンダーバイヤスの問題を含めて、さらに検討していく必要がある10)。

消極性と多動性の結果とを比較してみると、消極性の方が問題行動との関連を指摘できる実技項目が少なく、また、男女による違いも顕著ではなかった。このことから、2つの問題行動の不器用さとの関係が異なる可能性も考えられる。つまり、消極性が不器用さの二次的問題と考えられるのに対して、多動性は不器用さの随伴現象として捉えることができないかという点である。渋谷の重回帰式のモデル(1.2.参照)も、消極性の説明率が多動性に比べて低く、他の要因の影響の方が大きいのではないかと思われる結果であった。本研究では分散分析だけに依ったが、モデルを検討するのであれば、もっと多くの変数を組み入れる必要がある。

4.4.協調運動における性差をどう見るか長らく発達における性差はないという前提のもとに

知能検査や発達検査が作られてきた歴史から見れば、協調運動に関する実技項目で性差を指摘すること自体が、性差を生じる不適切な課題を採用したと言われか

ねない。しかし、M-ABCはもともと性差を超えたアセスメントを志向している(増田、2008)にもかかわらず、M-ABCを使用した先行研究でも、項目によっては性差の指摘があったり、遂行度の女児優位を示す数値を示している研究が見られている。冒頭で紹介した宮原(1999)も日本の子どもに実施した結果から、ボールスキルの性差を指摘しているし、前掲の田中の経年比較研究でも、掲載された図からは全体に女児の方が成績が良い傾向が見られている。そもそも、手先の器用さやバランスを見る課題では一般に男子の方が成績が悪いとする報告が多い(郷間ら、2008;Demura,1995など)。また、臨床的に見ても、LDやADHDなど不器用さを伴うことの多い発達障害でも男児が多いことは知られている。むしろ、不器用さに見られる性差は保育の現場の実感に近いであろう。  もちろん、テストの構成法としては、文化差等が現れる項目は避けるのは当然である。しかし、本研究は40名のデータであり、対象者数を増やせば、性差はもっと顕著になると思われる。そうなれば、性差を前提として男女別の採点基準を取る必要がないのか、検討の余地がある。4・5歳児を対象とした奥田(2007)は、身体協応テスト(横飛び等、全身の運動に関する項目から構成)で性差を見いだし、男女で異なる得点化を行っている。

4.5.まとめと今後の課題本研究の結果からは、幼児の協調運動に関して複数

の実技検査に関してデータが得られた。また、協調運動と問題行動との関係の分析からは、不器用であれば「消極性」が強くなる項目が示された。「多動性」については、男児に関してではあるが、複数の項目で、不器用であれば多動傾向が高くなることが指摘された。なお、統計的な有意水準については、対象者数を増やすことで改善が期待できるだろう。

しかし、問題行動との関連が指摘できない項目もあった。そのことには、「片足立ち」などで見られたように分布が「できる」に偏ったことが群分けに影響したことも一因と考えられる。このことは、幼児期に大切な運動能力として協調運動を発達の課題としてとらえるために、DCDの判定のために作成された課題及び判定基準が適切かという問題を投げかけている。この点は、今日指摘される 「不器用さ」の問題が、発達障害児を含む 「障害」や 「歪み」の現れなのか、それとも広く子どもたち全般にかかわる「発達の遅れ」なのかという点について議論の整理が必要であることの指摘にもなる。このためには、対象児の年齢幅を広げて基礎データを収集し、成績の分布についても吟味していく必要があるだろう11)。

どのような検査項目を採用して幼児期の運動能力を捉えようとするかは、介入、すなわち保育での意図的

幼児の身体的不器用さに関する予備的研究

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な取り組みにも関わってくる。現実の子どもたちの遊びや生活の姿、抱える課題を捉えながら、協調運動に関する検査法も、項目の種類と採点法という点からさらに精選していく必要がある。男女で異なる採点基準を取る可能性がありうることについては既に述べた通りである。これらを検討した上で、M-ABCの領域ごとの合計を取る方法に従い、領域別の検討もしていきたい。

本研究では、予備的研究として年長児のみを対象とした。対象年齢と対象者数を拡大してデータを得ることで、幼児の協調運動の現状と課題について、発達的な検討をさらに加えていきたい。

1)WHOの診断名(ICD-10,1994)では「運動機能の特異的発達障害(Specific Developmental Disorder of Motor Function)」と呼ばれているものにあたる。

2)とくに体育学の立場から正木健雄が保育所保育者・養護教諭を対象として実施した「子どもの体アンケート」の報告は、1978年のNHK番組「警告! 子どものからだは蝕まれている」で放映され、反響を呼んだ。

3)幼児期に不器用さが認められる4・5歳児10名について、乳児期の発達を遡及的に検討した。その結果、歩行が早めでありながら幼児期に低緊張が認められる多動タイプと、歩行獲得まで全体に運動発達が遅く、幼児期にも動きの乏しい不活発タイプとの2類型、各々 3名を例示し、乳児期の運動発達との関連で幼児期の不器用さを捉える必要性などを提起した。

4)鈴木(2003)が幼稚園・保育所でおこなった調査は、2003年のNHK番組でも「睡眠覚醒リズムの乱れが認知能力の発達に影響する」と取り上げられ反響を呼んだ。

5)東京教育大学体育心理学研究室が作成した運動能力検査は1961年以来、ほぼ10年間隔で8回にわたって調査が行われてきた。直近では2008年に実施され、1万人を超える幼児の調査がなされた。1968年に全国的な規模で標準化がなされ、その後、検査開発を中心的に担ってきた松田岩男・近藤充夫・杉原隆のイニシアルをとってMKS幼児運動能力検査と呼ばれている。文部科学省による最新の調査報告(体力向上の基礎を培うための幼児期における実践活動のあり方に関する調査研究、2011)もこのテストによっている。奈良県でも、これに準拠して2010年に県として初めて大規模な調査がなされ(幼児の運動能力・生活習慣等調査、2011)、地元の関係者の関心を呼んで

いる。6)M-ABCの本来の評定は3段階とされているが因

子分析には刻みが荒すぎるので5段階とした。 7)M-ABCでは、素点の成績を最上位から75%まで

を0点、そこからさらに下へ10%迄を1点とし、残る15%をさらに2~5点に振り分け、全体として0~5の6段階に変換した上で、2点以上、すなわち、素点で下位15%以下の時、DCDを疑うと判定される。

8)「片足立ち」では差なし。「ケンケンパ」「スキップ」は性差が顕著であったことは既に述べたとおり。

9)冒頭で述べたように、この2項目は、予備調査の段階で北澤らと同様の結果が見られたことから実施しなかった。

10)「コインいれ」では男児の場合に、実技項目の得点が高いと多動傾向が高い傾向が示唆されていた。「ビーズ通し」でも同様の数値パターンが見られる。これらは、課題自体は容易なので速度要因が決め手になることから、この年齢ではむしろ多動性と結びつく傾向が見られることになったのかもしれない。実施が容易な課題の場合、難易度を調整して検討する余地がある。

11)その際、「ケンケンパ」や「スキップ」はもともとM-ABCには含められていなかった課題であるが、不器用さが顕著になりやすい項目であった。リズム感を必要とする課題であり、手先の器用さやバランス能力とは別の「リズム感」の領域として位置づけることも検討されても良いのではないかと思われる。

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(本論文は、第一著者の指導の下に作成された、浅尾恭子 「幼児期における身体的不器用さと行動的問題の関連について−幼児への運動実技調査と保育者による問題行動評定の分析から−」 奈良教育大学平成21年度卒業論文(未発表)の一部をもとに、新たに共著として書き直したものである。)

付表1 運動実技調査の概要

*印の項目は、M-ABCの項目に加えて本研究で新たに採用した項目。

(1)「手先の器用さ」領域 1. 「コイン入れ」…12枚のコインを片手で1枚ずつとり、できるだけ素早く貯金箱に入れる。利き手・非利き手で要した秒数

をそれぞれ測定し、両手の平均値を素点とする。 2. 「ビーズのひも通し」…12個のビーズを1個ずつとり、できるだけ素早くひもを通す。 3. 「自転車迷路」…曲線を含んだ2本の線のあいだ(4mm)に、はみださないようにして1本の連続線を描く。迷路の線から

外れた箇所の数が素点となる。易しい迷路図で一回練習試行を行う。 *4. 「図形模写」…検査者の示す図形と同じものを描く課題である。図形は四角・三角・菱形の順番で提示し、それぞ3回まで

行うことができ、基準に達するまでに何回要したかを素点とした。3回で基準に達しなかった場合、 結果は 「4回」とした。

(2)「ボールスキル」領域5.「お手玉受け」…2m離れた距離から検査者が投げたお手玉を、両手で受け取る。3回の練習試行後に本番とし、10試行中受

け取れた回数を素点とする。6.「ボール転がし」…2m離れた距離から、40㎝幅で設定されたゴールめがけて、片手でボールを転がす課題である。  3回の練習試行後に本番とし、10試行中ゴールに的中した数を素点とする。

(3)「静的・動的バランス」領域7.「片足立ち」…片足立ちを何秒できるか、左右の足それぞれで最大20秒まで測定し、両足の平均値を素点とする。

*8.「ケンケンパ」…検査者の「ケン・ケン・パ」の声にあわせて、テープで示した直線の上をケンケンパで進んでいく(5m)。 4(上手にできる)~ 1(できない)の4段階で評定し、その数値を素点とする。

*9.「スキップ」…テープで示した直線の上をスキップで進んでいく(5m)。評定は 「ケンケンパ」 に同じ。

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