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0 長崎大学における動物実験指針 解説書 第3版 平成13年10月1日 長崎大学動物実験委員会

長崎大学における動物実験指針...験動物委員会 (International Committee on Laboratory Animal: ICLA*)の動物実験に関 するガイドラインの制定は、この様な世界の諸情勢を背景として進められたものである。

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0

長崎大学における動物実験指針

- 解説書 -

第3版

平成13年10月1日

長崎大学動物実験委員会

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1

目 次

はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1

図1.動物実験に係わる手続きの流れ・・・・・・ 2

前文 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3

1.目的 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4

1-1 背景・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4

1-2 趣旨・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4

1-3 動物実験の定義・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4

1-4 動物福祉について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4

2.適用範囲 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5

2-1 対象動物・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5

3.基本原則 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6

4.施設・設備及び組織の整備 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・6

4-1 施設及び整備・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6

4-2 組織・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7

5.実験計画の立案に際しての留意事項 ・・・・・・・・8

5-1 実験者の配慮・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8

5-2 実験計画立案上の考慮点・・・・・・・・・・・・・・ 8

5-3 動物種・系統・質などの選定と供試

動物の数・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8

5-4 動物実験計画書及び実験記録・・・・・・・・・ 11

6.実験計画の申請及び承認等 ・・・・・・・・・・・・・・・・・12

6-1 動物実験計画書の作成と申請・・・・・・・・・ 12

6-2 審査の付託と審査、ならびに審査

結果の通知・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 12

6-3 実験者に対する助言や計画書の修正・・・ 12

6-4 実験の禁止又は中止・・・・・・・・・・・・・・・・・ 12

7.実験計画の変更 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13

8.実験計画の終了又は中止の報告 ・・・・・・・・・・・・13

9.実験動物の導入及び検疫 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13

9-1 実験者の心がまえ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 13

9-2 動物の検収・検疫の必要性・・・・・・・・・・・ 13

10.実験動物の飼育管理 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15

10-1 飼育管理の重要性・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 15

10-2 施設・設備の維持管理・・・・・・・・・・・・・・ 16

10-3 適切な飼育管理・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 17

10-4 適切な健康管理・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 18

11.専用区域への立入り ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19

12.実験操作 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19

12-1 動物の麻酔・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 19

12-2 苦痛の排除 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 21

12-3 苦痛度の分類基準(カテゴリー) ・・・・ 22

12-4 適正な実験手法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 23

13.実験終了後の処置等 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・24

13-1 実験終了時に心がけるべきこと・・・・・・・ 24

13-2 安楽死 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 24

13-3 安楽死処置時の注意 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 26

14.危険物質等を扱う動物実験 ・・・・・・・・・・・・・・27

14-1 趣旨・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 27

14-2 毒性化学物質 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 27

14-3 ラジオアイソトープ ・・・・・・・・・・・・・・・・ 28

14-4 病原微生物 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 30

14-5 組換えDNA実験及び遺伝子改変

動物実験 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 30

15.委員会の設置 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・31

15-1 委員会の性格・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 31

15-2 委員会の機能 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 31

附属資料1.

長崎大学動物実験計画書・・・・・・・・・・・・・・・・・ 32

附属資料2.

「長崎大学動物実験計画書」の記入方法・・・ 34

附属資料3.

動物実験(変更・追加)承認申請書・・・・・・・ 36

附属資料4.

動物実験(終了・中止)報告書・・・・・・・・・・・ 37

附属資料5.

実験動物の授受に関するガイドライン

-マウス・ラット編- ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 38

附属資料6.

感染動物実験における安全対策

(国立大学動物実験施設協議会

(平成 13 年 5 月) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 47

附属資料7.

動物実験施設における遺伝子導入動物の取扱い

に関する手引き(国立大学動物実験施設協議会

(平成 7年 5月) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 54

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はじめに

第2次世界大戦後、実験動物科学は、まず米国において飛躍的な発展を見せた。これに

続いて、わが国や欧州諸国においても急激な展開と組織化がみられた。このような実験動

物科学の発展に支えられて、動物実験はこの半世紀において特にその進歩が著しく、その

結果としての免疫科学の新しい展開、新しいワクチン、薬物開発等、人類の幸福に直接つ

ながる成果があがってきている。一方、実験医学を興したクロード・ベルナールの時代か

ら、広く比較医学の研究に供される動物に対する同情の目が注がれ、本分野の発展にとも

なう多数の動物の犠牲に平行して、動物愛護・福祉の声は高まってきた。1974 年、国際実

験動物委員会 (International Committee on Laboratory Animal: ICLA*)の動物実験に関

するガイドラインの制定は、この様な世界の諸情勢を背景として進められたものである。

わが国でも、1980 年に日本学術会議が「動物実験ガイドラインの策定について」の勧告

を内閣総理大臣に出すとともに、「動物実験ガイドライン(草案)」を公表するまでに至っ

た。さらに、1987 年の 1月には学術審議会・学術情報資料分科会・学術資料部会が「大学

等における動物実験の実施に関する基本的な考え方について」を報告した。これらの情勢

から、同年 5 月に「大学等における動物実験について」文部省学術国際局長名で全国の国

公私立大学長宛に通知がなされ、各大学において動物実験指針を早急に作成するよう要望

された。これにともない長崎大学においても、1989 年(平成元年)12 月に本指針が制定され、

さらに 2001 年(平成 13 年)7月に一部が改正された。

指針条項は概念的なところが多いため、改正指針についても引き続き解説書を改訂し、

理解を求めることとなった。

本解説書は、日本実験動物学会作成の解説書を出来るだけ本書に取り入れるとともに、

部分的にはわが大学の特色をだすよう努めた。本大学において動物実験を行おうとする人

は、まず「長崎大学における動物実験指針」ならびに本解説書を熟読していただきたい。

なお、本大学において動物実験をこころざし、それを実行するときの手続きを簡単なフ

ローチャート(図1、2ページ)で示したので参考にして戴きたい。

* 現 国際実験動物会議/ICLAS (International Council for Laboratory Animal Science)

http://www.iclas.org/

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必要に応じて助言又は実験計画の修正 (指針第6第3項)

実験の禁止又は中止の申出

動物実験委員会

必要に応じ助言を求める *危険物質等を用いる場合は必ず助言を求める

(指針第14第3項)

(指針第6第6項)

報告

実験計画の立案 (指針第5)

「動物実験計画書」作成 (指針第6第1項)

専門家 実験者 学 長

計画書受理 審 査

承認の決定

付託 (指針第6第2項)

(指針第6第4項)

実験動物の導入及び検疫 (指針第9)

実験動物の飼育管理 (指針第10) 実験操作 (指針第12) 実験終了後の処置等 (指針第13)

必要に応じ助言を求める

委員会の求めに応じ実施状況の報告

(指針第6第5項) 検 討

禁止又は中止の判断 勧告

実験計画を変更しようとする場合は、実験者は変更承認申請書を作成し、実験計画承認の手続きに準じて、申請を行い、承認を受けなければならない。 (指針第7)

終了(中止)報告書作成 (指針第8)

報告書受理

所属部局長を経て申請

図1.動物実験に係る手続きの流れ

実験開始

所属部局長を経て通知

所属部局長を経て提出

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前文 動物実験は、人類文化の形成・進展に多大の貢献をしてきたし、今後も貢献す

るであろう。特に自然科学の分野における貢献度は大きい。こうした動物実験は、

科学研究の一般原則に従い、客観的成果・評価をもたらす基本である再現性が得ら

れる実験の諸条件を満たしつつ、動物の生命を尊重するという基本的観点に基づく

動物福祉を護持するための配慮を必要とする。

このことに関しては、動物の愛護及び管理に関する法律(昭和48年法律第10

5号)及び実験動物の飼養及び保管等に関する基準(昭和55年総理府告示第6号)

に部分的ではあるが明示されているところであり、更に動物福祉と動物実験に関し

ては、日本学術会議第80回総会議決による「動物実験ガイドラインの策定につい

て(勧告)」及び学術審議会学術情報資料分科会学術情報部会資料による「大学等に

おける動物実験の実施に関する基本的な考え方について(報告)」に示されていると

おりであり、動物実験を行う上で肝要なことである。

長崎大学は、その構成員等によって行われる動物実験がこれらの基本理念を満

たす

ものでなければならないとの認識に立ち、この指針を制定するものである。

長崎大学(以下「本学」という)における動物実験指針制定の背景、目的等については、

「第1.目的」の項に記載されているが、動物実験を行うにあたって認識すべき基本点は以

下の通りである。

動物実験は、他の実験同様、科学研究の一般原則に従った実験条件を満たす必要性があ

る。動物を使用する場合、これに加えてさらに、動物の生命を尊重すべきであるという観

点から、動物福祉に対する配慮もそれ以上に重要な事である。わが国では後者の基本的認

識について、ややもすると軽視されがちであった。

この点については「動物の愛護及び管理に関する法律」及び「実験動物の飼養及び保管

等に関する基準」に示されているが、その内容は主に動物の保護・愛護、虐待防止という

観点から作られたものであり、動物実験のあり方についてまで踏み込んで記載されていな

い。さらに一歩踏み込んで動物福祉の観点や動物実験のあり方に付言したのが「動物実験

ガイドラインの策定について」及び「大学等における動物実験の実施に関する基本的な考

え方について」である。これによって動物実験についての科学的側面と、倫理的側面の両

者を併せもった認識が完結する。この様な認識を基本として、本学の指針の各項が定めら

れている。

[註1]関連法規、基準など

○昭和25(1950)年法律第247号:狂犬病予防法

○昭和26(1951)年法律166号:家畜伝染病予防法

○昭和48(1973)年法律第105号:動物の愛護及び管理に関する法律

○昭和50(1975)年総理府告示第28号:犬及びねこの飼養及び保管に関する基準

○昭和55(1980)年総理府告示第6号:実験動物の飼養及び保管等に関する基準

○昭和62(1987)年総理府告示第22号:産業動物の飼養及び保管に関する基準

○平成10(1998)年法律第114号:感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に

関する法律、平成 11(1999)年4月1日施行(附則)

○平成11(1999)年法律第87号:鳥獣保護及び狩猟に関する法律

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第1.目的

この指針は、本学において動物実験を計画し、実施する際に遵守すべき事項を示し、

科学的にはもとより、動物福祉の観点からその倫理性にも配慮した適正な実験の実施

を図ることを目的とする。

1-1 背景

動物実験は、医学、歯学、薬学、農学、生物学、さらには医用工学等の学際領域を含め

た、いわゆる生命科学全般におよぶ分野において、必要不可欠な研究手段として、ますま

すその重要性を増してきている。動物実験を通じて得られた生命科学上の成果は、現代文

明の一翼を担っており、社会的には将来とも適正な発展が望まれているものである。した

がって、上記の生命科学全般において重要な研究手段となる動物実験の必要性を放棄する

ことはできない。しかし、一方で、動物実験は主として人類のためとはいえ、動物に犠牲

を強いる行為でもある。事実、野生動物とちがい、実験動物のほとんどは天寿を全うする

ことなく、ヒトによって安楽死される運命にある。従って、動物福祉の立場からは動物の

苦痛を避け、使用数をできるだけ減らすべきだ、などの声が当然ながらでてくる。本学に

おけるこの動物実験指針は、このような現状を考慮し動物実験の科学性と動物福祉とを可

能な限り調和させ、なおかつ、信頼性の高い動物実験の遂行を促すことを最大の目的とし

ている。

1-2 趣旨

本学において、動物実験を必要とする部局等においては、中央に動物実験施設をもたな

いところ、中央の施設のほかに分散して動物実験室が置かれているところ、あるいは、当

該部局等内の動物実験の一元的管理が困難なところなどがある。しかし、いずれの場合で

も、この指針の適用に例外規定を設けてはならないというのが、本項の趣旨である。

1-3 動物実験の定義

一般にいう「動物実験」とは動物を用いて(あるいは対象として)行う科学実験を指す

が、本指針ではより幅広い視点から「科学上の目的に動物を利用する行為」全体としてと

らえる。科学上の目的とは、

a)研究すなわち観察と実験(生命現象を正しく理解するための真理の探求や仮説の検

証)

b)試験(理化学物質・技法等の生命に対する未知なる性質・影響等の検索)

c)教育(生命科学が培った知識や技術の同世代ならびに次世代への伝達)

d)材料採取(研究素材、診断用資材、医薬品原料などの入手)

などをあげることができる。以下、これらを「実験等」と表現するが、これらいずれ

の目的も動物を利用する過程では、動物に拘束又はそれ以上の処置を加える点で、実験

者の倫理観等が問題にされる素因を含んでいる。ただ、実験者等で動物に与える苦痛の

程度については、研究目的と実験操作の内容、さらには対象とする動物の種類によって

も異なるので、「第5や第12」に述べる供試動物に対する考え方や実験操作の特徴など

を考え併せなければならない。

1-4 動物福祉について

動物福祉に関する概念は、世界各国において、国民の宗教、風習、伝統的行動、食生活

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第2.適用範囲

1.この指針は、哺乳類及び鳥類を用いたすべての実験に適用する。

2.前項のほか、哺乳類及び鳥類以外の動物を用いた実験についても、この指針

の趣旨に沿って実施されることが望ましい。

内容、環境、経済的背景その他の社会的因子により、互いに微妙に、もしくは大きく異な

るものであり、また、同一の国においても、歴史的展開の過程で、その内容にはかなりの

変化がみられるところでもある。本来、動物実験は科学性を第一義として充実してきてい

るものであり、いわゆる動物福祉を追求する余り、本来の業務の目的が達せられない事態

にいたることは、基本的に避けなければならない。しかし、動物実験に直接的に関係のな

い一般の人々、研究の意義について的確な情報をもたない人々の、供用される動物に注が

れる感情を、動物実験に従事する者が、なんらの努力をせずして無視もしくは軽視するこ

とは適切でない。研究の科学性を追求する過程において、冷静な思考と判断が要求される

ことは言をまたないが、同時に、動物実験を実施する実験者は、動物実験を行わない一般

の人々の心情についても、常に理解をする姿勢を保つことが望まれる。

2-1 対象動物

動物実験では、表1に示すごとく実際に多種の動物が使われている。これら各種属に対

するわれわれの抱く心情は、生来の諸経験を通じて形成されたものであるために、各個人

ごとに少なからず相違のあることも事実であり、そのため、本指針の中で、いわゆる福祉

に抵触する条項で対象となる動物種を固定的に限定することは、はなはだ困難を伴う。当

面、対象動物として「哺乳類と鳥類」を中心に据えるが、これはあくまで他法規等(「註1」

の 動物の愛護及び管理に関する法律、「この法律は、平成12年の改正後 は虫類 も対象

となった」)との整合性を重視するためで、動物実験における福祉の基盤を、自然保護や、

生命の尊厳、生命への畏敬の念ととらえるなら、哺乳類と鳥類以外の他種動物に関しても

実験者各個人の動物福祉に対する考え方に応じて、本学指針の趣旨に沿うよう考慮するこ

とは大切である。この際の具体的に求められる態度として、a)自然を害さないこと、b)

可能な限り少ない動物の犠牲で目的を達成する努力を惜しまぬこと、c)そして動物の尊い

犠牲に対して正直に感謝する気持ちを持つこと、などは共通する基本理念と考えられる。

表1.実験等で用いられている動物(実験用動物)の分類

群 内 容 わが国で使われている

主な動物種

実験動物

Laboratory Animals

研究(検査、検定、診断、教育、製

造を含めて)に重要であるとして、

その目的のために飼い慣らされ、繁

殖・生産される動物。

無脊椎動物:ショウジョウバエ(イエバエ、カ類、ゴキブリ類)

魚類:メダカ両生類:アフリカツメガエル 鳥類:ウズラ(ニワトリ) 哺乳類:マウス、ラット、ハムスター類、モルモット、その他のげっ歯類、ウサギ、サル類、小型ブタ類

家畜および家畜由来

Domestics

人類社会に重要であるとして、飼い

慣らされ繁殖・生産される動物。研

究用として使うために必要な厳しい

遺伝・環境統御は行われていない。

無脊椎動物:カイコ 魚類:ニジマス、コイ、キンギョ、ウナギ、メダカ、グッピー、ハマチ

鳥類:ニワトリ、ハト、ガチョウ、アヒル 哺乳類:イヌ、ネコ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ウマ

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第3.基本原則

動物実験を実施する者(以下「実験者」という。)は、実験計画の立案、実験の実施、

実験終了後の処置等に関し責任を有するとともに、適切な実験環境の確保に十分配慮

しなければならない。

第4.施設、設備及び組織の整備

1.実験動物の飼育及び動物実験を適正かつ円滑に行うため、整備された適切

な区域(以下「専用区域」という。)が確保されなければならない。

2.実験動物の飼育・実験設備は、動物の生態・習性等を考慮し、適切なもの

を設置しなければならない。

3.動物実験を行う部局等の長は、動物実験に係る施設、設備及びその管理・

運営に必要な組織体制の整備に努めなければならない。

野生および野生由来

Wilds and

Wild-derived

自然界から捕獲した動物、およびそ

れを研究用として人為的に繁殖、生

産したもの。

無脊椎動物:ハマグリ、アサリ、イカ類、ザリガニ類、ウニ類、

魚類:フナ、ドジョウ 両生類・爬虫類:イモリ、カエル類、ガマ、イシガメ

哺乳類:サル類

ここに述べた基本原則は、本指針の中でも最も重要なことの一つである。実験者は、い

かなる状況においても、動物実験の全過程に責任を有することを認識しておかなければな

らない。

本指針の以下の各項において、実験者以外の者の実験者及び実験者の行う実験への支援

的事項が述べられている。例えば部局長等の動物実験に係わる施設・設備及び組織の整備

への努力、専門家による検疫、飼育管理、実験終了後の動物の処置などへの助言・協力な

どである。しかしこれらはあくまでも実験者や動物実験への支援であって、一任するとか、

それらの支援が不充分だという理由で本指針の各項を遵守しなくてよい、ということでは

決してない。全ては実験者の責任のもとにあることを認識しておく必要がある。

4-1 施設及び整備

科学的にはもとより、いわゆる動物福祉にも配慮した動物実験を実施するためには、実

験動物科学の基本にたった施設(あるいは専用区域)、設備、組織の整備が必要である。

実験動物施設ないし動物実験施設(以下「施設」という)の建築及び設備についてはそ

の技術的進歩が著しく、常に改善の要があるが、すでにその一部はガイドライン(註2)

として提示され、多くの施設はこれに準じて運用されている。近代化された施設の平均像

はおおむね下記の様な特徴を有しており、施設の内部環境はおおむね表4(P.17)の基準

値に沿って維持されている。

施設の形態は、場合により小規模・分散型の場合もあり得るが、いずれにおいても、実

験者は本指針の主旨に沿って整備するよう努力しなければならない。少なくとも一時的に

せよ研究室や居室の一部を割いて、整備が行き届かぬまま動物実験に当てるようなことを

してはならない。部局等の長はこれらの点について支援するよう努める必要がある。

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<施設(専用区域)の平均像>

1)建物は内部環境(微生物学的清浄度や温・湿度、照明サイクルなど)を一定に保

つため原則として閉鎖構造である。

2)前項の建築条件下で年間を通じ一定した温・湿度、換気回数、明-暗リズムなど

が維持される。

3)飼育器材の滅菌・消毒などのための設備が常備されている。

4)動物の検収、検疫、微生物学的検査、遺伝学的検査、隔離などが可能なように特

別に室を設置している。

5)動物種別に分離飼育できるよう十分な数の動物室ないし装置などを有している。

6)人間や動物に対して危険を伴う実験(細菌・ウイルス等の感染実験、放射線照射

やRI実験、毒性試験など)を行う場合には、そのための特別な室や設備が整備

されている。

7)排水、排気処理設備や焼却炉などを設置し、外部環境の汚染を防止している。

8)飼料、薬品などの適正保管のための倉庫などを有し、また、実験動物や動物実験

にかかわる文献および資料を保管管理し、情報の提供や適正な試験の裏付けがで

きる。

4-2 組織

施設の適正な運用、実験に適した動物の導入、動物の福祉にかなう飼養保管、そして、

種々の法規・基準等に適合した動物実験の実施を可能にするため、実際上の管理運営にか

かわる組織の整備が求められている。各種関連法規・基準に適合し、かつ、有効な実験は

下記に示すように、一定した実験環境の保持、実験に適した動物種・系統の選択、健康な

動物の供試、動物の適正な取り扱いなどが基盤になるので、実験動物科学上の十分な知識、

技術、経験を有する管理者や技術者を配置する必要がある。

〈施設の管理運営にかかわる組織に課せられる責務〉

1)施設基準に基づく、動物保管環境・実験環境の作出とその恒常性維持

2)導入動物の検収・検疫、微生物学的検査、遺伝学的検査

3)飼養保管動物の健康管理

4)動物の適正な取り扱いに関する監督・指導

5)適正な動物実験が行われるための教育実習指導

6)施設環境、供試動物、実験内容等に関する記録保持、実験結果の論文作成指

導補助など

7)実験動物科学上の諸問題に関する研究、ならびに学生、実験初心者等の教育

[註2]

○ガイドライン:実験動物施設の建築および設備(平成8年版)、日本建築学会編、ア

ドスリー、東京(1996)(ISBN4-900659-16-9)

○ASHRAE (The American Society of Heating, Refrigerating and Air-Conditioning

Engineers) PUBLISHES REVISED STANDARD 90, 1-1999, 2000, Energy Standard for

Building Except Low-Rise Residential Building.

(http://www.bcap-energy.org/ashrae1999.html)

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第5.実験計画の立案に際しての留意事項

1.実験者は、実験計画の立案に際し、文献等による調査を行い、既に十

分な知見の得られている事実の再確認のための動物実験は避けるように

努めなければならない。

2.実験者は、研究目的を検討し、動物実験以外の系による代替法につい

て十分考慮した上で、実験計画を立案しなければならない。

3.実験者は、動物実験の範囲を研究目的に必要な最少限度にとどめるた

め、適正な実験動物の種の選択、品質の選定及び数の決定並びに飼育・

実験条件等を考慮しなければならない。

4.実験者は、実験開始から終了までの全経過中、実験動物に与える苦痛

を可及的に軽減する等、実験方法及び実験環境等について倫理面への配

慮に努めなければならない。

5.実験者は、実験計画の立案に際し、別表に掲げる項目による点検を行

い、必要に応じて実験動物又は動物実験について十分な知識及び経験を

有する専門家(以下「専門家」という。)の助言を求めなければならない。

5-1 実験者の配慮

実験者は、実験を開始するに際し、まず次の点に配慮する必要がある。

動物実験は誰でも自由に行えるものと考えるべきではない。動物実験の多くは動物に犠

牲を求める行為を伴うから、その犠牲にささえられた結果が科学的評価に耐えるもの、も

しくは教育的成果を挙げるものでなければならない。そのために原則として、動物実験は、

生命科学専門領域における該博な知識と適正な技術を修得し、さらには、実験動物科学上

の教育を受けた者が行う、もしくはその指導の下で実施すべきものである。

5-2 実験計画立案上の考慮点

動物実験は、それによってのみ目的が達せられる研究にしぼって行う必要があり、まず、

動物実験の必要性について文献を広く調査するとともに、当該学問領域の専門家に相談す

るなどの手続きをとって、必要かつ有意義な研究を志向することが肝要である。また、生

命科学の分野には、数学的モデル、コンピュ-タ・シミュレ-ション、細胞単位などでの

実験手技(代替法)もあるので、これらについても有効な利用を計るよう検討を加えるこ

とを忘れてはならない。

実験の開始に当たっては、供試動物の種類(種、系統、品種、性別、年齢等)、品質(遺

伝学的統御;近交系・ハイブリッド・ミュ-タント・クロ-ズドコロニ-などの区分、微

生物学的統御;無菌・SPF・ノトバイオ-ト・コンベンショナルなどの区分-表2、3

参照)、供試動物の数(後述)あるいは飼育環境(温・湿度、換気、明・暗サイクル、清浄

度その他)等についての検討を行い、動物の入手と飼育管理の可能性等について、あらか

じめ実験動物管理者、実験動物飼育技術者等と十分に打ち合わせておくべきであり、また、

実験動物学や動物実験について十分な知識及び経験を有する専門家等に助言を求め、計画

された実験が動物に無用の苦痛を与えないように配慮することが大切である。

5-3 動物種・系統・質などの選定と供試動物の数

動物実験においては実験用に繁殖された動物の使用を優先し、下記に特定した例外事項

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を除き、愛玩動物や野生動物の直接の使用は避けねばならない。特定領域で野生動物を使

用するにしても、乱獲を避け、生態系への影響を十分に考慮に入れること、サル類を含む

特定野生動物については、それが地方自治体により、合法的に捕獲されたものであっても、

その取り扱いについては生態系に与える負の影響も考慮し、多面的な審議を経て慎重に行

わなければならない。なお、ニホンザルについては、原則として、生態学者の参加する審

議を経たものを除き、いわゆる猿害により捕獲された動物を安易に実験へ供用することは

避けることが求められている。また、外国産の野生動物の使用にあたっては特にワシント

ン条約(註3)の禁止条項を守り、その趣旨を十分に尊重しなければならない。

(特定例外事項)

a) 野生動物や家畜そのものが直接の対象となる生物学、農学、水産学などの研究

b) 研究目的に照らして極めて有用ながら、いまだ研究用として繁殖・市販されず、

この経路での入手が困難な野生動物や家畜など

c) 社会的要請でやむを得ず淘汰されようとしている動物の、科学的根拠をもつ特定

領域における利用

1)動物種の選定

動物種の選定は、動物実験の目的・内容によって異なるので、そのつど文献や専門

家の意見を参考にして選定する。一般に、 研究の多くは生命現象に共通する原理の解

明を目的とするものが多いから、その解明のために何らかの有効な特徴をそなえている

動物種を指向することが望ましい。各種試験においては、新規に対象動物を選定するこ

ともあるが、多くの場合、試験規格等によって定められているので、その際はこれに準

じて選定する。診断用資材や医薬品原料の採取にも一定の規格がもうけられている場合

が多い。教育のために用いる動物種については、目的とする教育効果を十分上げ得るも

ので、かつ、扱い易いものを選ぶ必要がある。

2)系統など

実験動物の遺伝学的な視点からの検討では、同じ動物種でありながら品種、系統、

齢、性などによって、薬物代謝、抵抗性、免疫応答等の生物反応に差異が認められるこ

とがある点に留意し、遺伝学的検査に基づく品質の保証をまず得ておくことが望ましい。

さらに、微生物学的な視点からの検討では、実験動物の病原体汚染は、それが仮りに不

顕性であっても実験処置等によって症状が誘発されるとともに、動物実験の成績を撹乱

し、また、周囲の健康な動物にまで感染症を拡げるなどの重大な結果につながる例がみ

られる。微生物学的にモニタリングされた生産コロニ-に由来するか、検疫証明済みの

実験動物を優先して導入するとともに、感染防御に関する管理者の指示を実験者は特に

守らなければならない。また、実験動物の各種飼育条件(後述)も、また、実験結果に

重大な影響を及ぼすので、実験者は、計画立案にあたって慎重でなければならない。

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表2 実験動物の遺伝学的統御による分類(マウスの例)

群 規 定

近交系

Inbred Strain

兄妹交配を20代以上継続している系統、また親子交配を20代

以上継続しているものも含まれるが、親子交配の場合、次代との

交配は両親のうち後代のものと行うものとする。ただし、兄妹交

配と親子交配を混用してはいけない。

ミュータント系

Mutant Strain

遺伝子記号をもって示しうるような遺伝子型を特性としている系

統、および遺伝子記号を明示しえなくとも、淘汰選抜によって特

定の遺伝子形質を維持することのできる系統。

クローズドコロニー

Closed Colony

5年以上外部から種動物を導入することなく、一定の集団内のみ

で繁殖を続け、常時実験供試動物の生産を行っている群。

交雑群

Hybrid 系統間の雑種

(統御の行われていない動物 モングレル Mongrel または雑動物と呼ばれる)

表3 微生物学的統御からみた実験動物の分類

備 考 群 定 義

微生物の状態 作出方法 維持

無菌動物

Germ-free

Animal

封鎖方式・無菌処置を用いて

得られた、検出しうるすべて

の微生物・寄生虫のいない動

物。

検出可能な微生物

(寄生虫を含む)はな

い。

元来は帝王切開・子

宮切断開・子宮切断 アイソレーター

ノトバイオ-ト

動物

Gnoto-biote

持っている微生物叢(動物・

植物)のすべてが明確に知ら

れている特殊に飼育された

動物。

持っている微生物が

明らかである。

無菌動物に明確に同

定された微生物を定

着させる。

アイソレーター

SPF 動物

Specific-pathog

en Free Animal

特に指定された微生物・寄生

虫のいない動物(指定以外の

微生物・寄生虫は必ずしもフ

リーではない)。

持っていない微生物

が明らかである。

無菌動物・ノトバイ

オーツに微生物自然

定着。

バリアシステム

注1:無菌動物をノトバイオートに含める場合もある。

注2:微生物統御をしていない動物をコンベンショナル(Conventional)動物と呼ぶ(微生

物の状態は不明)。

3)供試動物の数

動物実験を行うときに1群何匹(頭)の動物を用いるべきかは研究者の悩みの一つ

でもある。統計学的手法に基づいた変動係数を目安とする考え方や、対立仮説が真の時

に正しくそれを検出する確率を問題にする方法、などがある。大きな数を扱う疫学調査

などでは実際にこれに基づいて標本の大きさが決められる場合もあるが、動物実験の場

では動物の入手の難易度、価格、実験の操作内容などによって著しく制限を受けるため、

現実には統計学的手法で設定される匹数よりはるかに少ない数で実験する例が多い。例

えば、検体数の多いスクリ-ニング試験では、小動物で3~5匹/群程度、次の段階で

グル-プ間の平均値の差で効果を判定するようになると5~10匹/群程度になる。ま

た、大型動物で入手の難しいサル類や高価なビ-グルを用いた実験では、可能なら5~

10頭/群は使いたいとしながらも現実には3~4頭/群で行われている。逆に、ウサ

ギを免疫し抗血清を得る実験では、1匹では失敗(低反応など)例が出る恐れから2~

3匹を用いることもある。

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このように、実験ごとにいろいろな制約を供試動物の数を論ずることはできないが、

一般論として、「動物個体反応差+実験環境の変動幅+実験操作技術の拙劣さ」が増せば

増す程、供試動物の数は増加せざるを得ないことは事実である。統計学に基づく実験計

画法もさることながら、これら要因を可能な限り統御して実験動物の使用数を減らす努

力も一方で望まれる。現在の社会情勢と動物福祉の観点から、特に問題の大きいイヌ、

ネコ、サル類などについては供試動物数を極力減らす動きがあり、統計学的手法に基づ

く必要数からさらに逆行する傾向にある。そのため、はなはだ例数の少ない実験におい

ては全例の数値も記載し、バックグラウンドデ-タからの逸脱を重視するような工夫も

必要になってきている。

なお、毒性試験のように国のガイドラインで供試動物数が決められている場合はそれ

に準じて選択することになるので、ここでは解説の対象としない。

5-4 動物実験計画書及び実験記録

1)実験者は 5-1 から 5-3 までの事項及び指針の別表(下記参照)を考慮して実験計画

を立案し、動物実験計画書(以下「計画書」という)(後述)を作成する。

2)哺乳類、鳥類を使用した全ての動物実験について、統一した計画書等の様式(附属資

料1、3、4)を用いる。なお、哺乳類及び鳥類以外の動物を用いた実験についても、

指針の趣旨に沿って実施されることとするが、計画書の提出は不要である。

3)計画書に基づいて実験を実施した場合、実験者は、実験経過・結果等を記録する必要

がある(いわゆる実験ノ-トの作成)。

4)実験計画の立案に当たっては指針の別表(下記)に掲げる項目について点検を行い、

計画書にこれらの項目について記載する必要がある。

(1) 動物実験実施専用区域の環境

(2) 動物実験実施期間

(3) 動物導入条件

(4) 使用実験動物:動物種、系統、遺伝学的品質、微生物学的品質、性、令、数等

(5) 実験方法:投与法、材料採取法、観察法、外科的処置法等

(6) 動物の苦痛軽減・排除の方法:麻酔薬等の種類、投与量、投与法、保定法等

(7) 実験終了時の処置法:安楽死の方法等

(8) 物理的・化学的・生物的に危険な物質使用の実験における動物間汚染及び環境汚

染に対する防止法

(9) 動物実験が必要な理由(代替法を用いない理由)

5) 最近、動物実験関係の論文を雑誌へ投稿した場合、特に外国雑誌において、指針の有

無、当該実験の指針への適合性等に対するチェックが論文審査員等によって行われる

事例が増加している。場合によっては計画書、実験記録の提出及びその内容と論文内

容との整合性をチェックされることもある。従って計画書や実験記録の作製、保管、

点検等には事前に充分留意しておく必要がある。

[註3]

○昭和55年条約第25号:絶滅のおそれのある野生動植物の国際取引に関する条約(い

わゆるワシントン条約[CITES: Convention on International Trade in Endangered

Species of Wild Fauna and Flora]/

http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kankyo/jyoyaku/wasntn.html)

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第6.実験計画の申請及び承認等

1. 実験者は、立案した実験計画について、第十五第一項の規定により置く長崎

大学動物実験委員会(以下「委員会」という。第八において同じ。)が別に定

める動物実験計画書を作成し、所属する部局等の長を経て、学長に申請しなけ

ればならない。

2. 学長は、前項の申請があったときは、委員会に審査を付託する。

3. 委員会は、前項の審査の過程において、必要に応じ、実験者に対し助言を与

え、又は実験計画を修正させるなど、実験計画の承認に当たって必要な措置を

講じることができるものとする。

4. 学長は、前二項の審査結果を受けて、第一項の申請について承認を与える

か否かの決定を行い、速やかに実験者の所属する部局等の長を経て、実験者

に通知する。 5. 委員会は、前項により学長が承認を与えた実験計画について、必要に応じ、

実験者に対しその実験の実施状況について報告を求めることができる。 6. 学長は、第四項により承認を与えた実験計画について、実験の実施状況に

よっては、委員会の申出を受けて、実験の禁止又は中止を勧告することがで

きる。

6-1 動物実験計画書の作成と申請

実験者は、哺乳類、鳥類を使用した全ての動物実験について、統一した様式の「計画書」

(附属資料1)を用い、「計画書の記入方法」(附属資料2)を参考のうえ作成し、実験計画

のこの指針への適合性について委員会の審査を仰ぐため、部局等の長を経由して計画書を

学長に申請する。計画書の実際の提出は、各部局等の事務部となる。なお、哺乳類及び鳥

類以外の動物を用いた実験についても、指針の趣旨に沿って実施されることとするが、計

画書の提出は不要である。

6-2 審査の付託と審査、ならびに審査結果の通知

学長は、実験者から部局等の長を経由して提出された計画書を委員会に付託し、委員会

はこれを審査する。その審査結果を受けて、学長は申請の承認の可否を決定し、部局等の

長を経て実験者にこの結果を通知する。

6-3 実験者に対する助言や計画書の修正

委員会は、審査の過程において、必要に応じて実験者に対し助言を与え、又は実験計画

を修正させるなど、必要な措置を講じることができる。さらに、承認を与えた実験計画に

ついても、必要に応じて実験者に対し、その実験の実施状況についての報告を求めること

ができる。

6-4 実験の禁止又は中止

委員会は、実施状況等を調査し、必要と認めた場合、学長に実験の中止・禁止を申し出

ることができる。

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第9.実験動物の導入及び検疫

1. 実験者は、実験動物の導入に際し、動物の発注条件及び異常・死亡の有無を確

認し、動物の状態、輸送の方法・時間等を記録しなければならない。 2. 実験者は、実験動物の導入に際し、検疫を実施しなければならない。ただし、

実験動物が信頼性の高い生産者に由来する場合は、生産者が添付した遺伝学

的・微生物学的品質を示す成績をもって検疫の一部に代えることができる。 3. 実験者は、検疫の結果、実験動物に異常のある場合は、適切に処置し、異常が

解消するまでその動物を実験に供してはならない。 4. 実験者は、必要に応じ、実験動物の環境への馴化を図らなければならない。 5. 実験者は、第一項の確認及び記録、第二項の検疫並びに第三項の処置に関し、

専門家に助言又は協力を求めることができる。

第8.実験計画の終了又は中止の報告

実験者は、実験を終了し、又は自ら実験を中止したときは、委員会が別に定める動

物実験(終了・中止)報告書を所属する部局等の長を経て、学長に提出しなければな

らない。

第7.実験計画の変更

第六の規定は、実験計画を変更しようとする場合に準用する。

実験者は、実験計画の変更にあたって計画書の再申請を行い、承認を受けるべきである

が、小幅な変更(例えば、実験従事者の変更・追加や実験動物種・系統・性別・使用匹数)

を計画するときは、「動物実験(変更・追加)承認申請書」(附属資料3)を部局等の長を

経て提出し、承認を受けるものとする。

実験計画の終了、または中止するときは、「動物実験(終了・中止)報告書」(附属資料

4)を学長に提出しなければならない。

9-1 実験者の心がまえ

実験者は自分自身の実験だけでなく、周囲で行われる実験に供される実験動物ならびに

実験従事者への病原体感染を防止し、実験環境条件に動物を十分に馴化させ、精度の高い

動物実験を効率よく行うため、自ら、専用区域内に搬入する実験動物について検収・検疫

を行わなければならない。検収・検疫は、動物種やその動物自体の微生物学的品質により、

期間や内容を異にするが、実験開始までに十分な期間が設けられるように、予め実験を計

画することが大切である。また、不幸にして、搬入動物が実験に供するのに不適切である

という事態も考慮にいれて実験計画を立案しなければならない。

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9-2 動物の検収・検疫の必要性

1)検収

専用区域に到着した動物を検収する際には、輸送状態が適正であることを確認・記録し

たあとに、次の事項について発注内容との照合を行う。

《生産場(業者)・動物種・系統・性別・齢(日齢・週齢・月齢)・体重・動物数・飼育条件・

その他》

照合の結果、一致していれば動物を検疫区域内へ搬入し、所定の検疫を行う。動物が死

亡していたり、不一致な項目があった場合には、当該動物の使用予定者と協議し、必要な

対策を講じねばならない。なお、動物の輸送条件、すなわち、輸送車輌(空調の有無)、輸

送箱(ケ-ジ)、収容密度等について、あらかじめ実験動物納入業者に依頼・指示し、厳守

してもらうことが大切である。通常、マウス・ラットのような実験用小動物の場合には、

最小限の対策としてフィルタ-付輸送用ダンボ-ル箱に収容し、空調車で運搬するのが一

般的である。しかし、フィルタ-付輸送箱を用いることが困難な場合には、これに代わり

得る、もしくはこれよりすぐれた容器に収容・輸送し、汚染防止に注意を払う必要がある。

2)検疫

微生物学的品質の評価(感染性因子の有無の確認)の主たる目的の一つは、危険な人獣

共通伝染病の侵入を防止することにある。とくに輸入サル類や野生のげっ歯類などについ

ては、検疫手順を定めて実施する必要がある。また、動物固有の感染症であっても、病原

体汚染を受けた動物を導入すると周囲の健康な動物に感染を引き起こし、実験結果に混乱

をきたし、精度に問題が生ずるばかりでなく、時間的・経済的に莫大な損害を被る恐れが

ある。特に昨今は、遺伝子改変動物の授受の隆盛に伴い、感染症の発生が国内外の動物実

験施設で多数報告されているので特段の注意が必要である。授受に伴う感染症の発生防止

を目的として、国立大学動物実験施設協議会ではガイドラインを作製したので、それを参

考にすることが望まれる(附属資料5)。

なお、検疫には感染症の摘発だけではなく、実験を行う環境への馴化という意味も含ま

れている。従って、専用区域に導入されるすべての動物について検疫を行う必要がある。

3)検疫の実際

(1) 検疫担当者

対象動物の飼育管理作業を含む、微生物学的品質評価のための検査・作業、いわゆる検

疫業務は、本来実験者が行うものであるが、経験豊かな専門家に助言又は協力を求めるこ

とが出来る。

(2) 検疫内容

専用区域に搬入し、実験に供する動物に対して行うべき検疫作業内容に関しては「基準」

(検疫基準)を設け、検疫担当者がこれを着実に運用することが望ましい。一方、近年、実

験動物の生産の場においても、微生物学的統御が進められ、動物種によっては、いわゆる

Specific-pathogen free(SPF)動物の入手が可能となってきている。専用区域に搬入する

全ての動物種を対象とした「検疫基準」は、微生物学的品質水準を異にする動物種群(た

とえば SPF 動物と Conventional 動物)ごとに、以下のような項目についての細目を定める

必要がある。

○検収方法(検収時検査) ○検疫期間 ○検査項目 ○異常例の処置と判定基準

① 検疫期間:対象動物種と、その微生物学的品質水準により異なるが、対象とする疾患

の潜伏期間や飼育・実験環境条件への馴化に必要な期間が基準となる。

② 検査項目:SPF動物に関しては、各実験者や施設がフリ-でなければならない病原

体を定め、それらがフリ-であることを確認するための検査法を選択実施する。コン

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第10.実験動物の飼育管理

1. 実験者は、実験動物の導入時から実験終了までの全経過中、動物の状態を子細

に観察し、状況に応じた適切な処置を施さなければならない。

2. 実験者は、専用区域及び飼育・実験設備の維持及び管理に努めなければならな

い。このため、気候(温度、湿度、気流、風速、換気、光、臭気、塵埃等)、居

住性(実験・飼育室の構造、ケージ、床敷、給餌、給水器等)、音、振動等の物

理的環境因子及び同室動物(種、性、令、数、密度等)、微生物汚染、無用なス

トレスの付加等の生物的環境因子に留意する必要がある。 3. 実験者は、実験動物への適切な給餌、給水等の飼育管理に努めなければならな

い。 4. 実験者は、前三項の飼育管理に関し、専門家に助言又は協力を求めることがで

きる。

ベンショナル動物については、健康であることを確認するための臨床観察を行い、加

えて感染症については、病原体の分離検査や血清抗体検査を行い、その保有状況を把

握する。マウス・ラットなどの小動物では、一定数選定して剖検まで行うが、イヌ・

サル類などについては個体を生存させたまま試料を採取して検査を行う。

また、検査項目の選定にあたっては、導入元(繁殖場や研究機関)の微生物学的統御

の水準を考慮して取捨選択し、合理的・効率的に実施することが望ましい。このため、

検疫担当者は繁殖場等における微生物学的モニタリング成績を随時入手することを心が

け、定期的に検査・確認することが望ましい。

③ 異常例の処置と判定基準:一般外貌所見異常例、感染症、原因不明疾患などについて、

動物種ごとに異常例への対応策と、専用区域内に搬入し実験等に供することの適否に

ついて判定基準を設け、運用することが必要である。

(3) 供給

検疫担当者は、所定の検査を行い、異常が認められず、動物実験に供することが「適」

と判定された動物を実験に供する。また検疫担当者は、検疫期間中に行った検査・作業の

成績・所見を記録・保持しなければならない。

(4) 施設の維持・管理

施設管理者は、施設の微生物学的水準を維持し、万一汚染した場合に早期に発見するこ

とを目的に、施設内動物室の微生物学的モニタリングを定期的に行うことが望ましい。当

然のことながら、対象動物種・対象病原体は施設ごとに選定する。

モニタリング供試動物は、動物室使用開始時に、検査回数に応じた動物数をあらかじめ

収容する方法などや、定期的に動物室内に検査用として搬入し、一定期間飼育する方法な

どがある。当該動物室で行う実験目的や使用期間なども考慮して、実験に支障のない方法

を選択することが大切である。

10-1 飼育管理の重要性

動物実験は、科学的に適正、かつ、いわゆる動物福祉にも妥当な条件下で行われなけれ

ばならない。それゆえ、動物実験に携わる者は、実験動物が健康に生存できるようにその

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飼育環境を適切に保ち、的確な処置を行い、再現性のある精度の高い実験成績を得る努力

をしなければならない。

飼育管理には、給餌・給水、床敷・ケ-ジ等の交換、温・湿度の点検、自動給水装置の

水圧・給水ノズル・浄水器フィルタ-等の点検、動物室内清掃・汚物処理等などの基本的

作業以外に動物の状態を観察し、必要に応じて科学的に的確な処置を行う応用的作業もあ

る。

基本的作業はできるかぎり規則正しく、愛情と忍耐と動物への親密感をもって毎日繰り

返し行うことが大切である。

遺伝学的統御・微生物学的統御が進み、品質の保証された実験動物の供給体制が整いつ

つある今日、動物実験に携わる者は、入手後の飼育管理に十分な注意を払い、実験動物の

生理・生態・習性等を正しく理解し、高度の飼育管理を行うことが極めて重要な基本的業

務である。従って、一定の基準や方法が確立されていなければならない基本的作業につい

ては“マニュアル”や“SOP”を作成して、作業を行うことも必要である。

10-2 施設・設備の維持管理

1)飼育環境条件

動物室の温度、湿度、換気、気流、光、音、振動、臭気、塵埃、床敷、ケ-ジ、給餌、

給水器、飼料、同居動物などの飼育環境条件は、動物の反応を修飾して実験成績に重大な

影響を及ぼす例が多い。温・湿度は動物の代謝や行動に影響を及ぼし、環境因子の中でも

最も重要なものと考えられている。また、光すなわち照明は動物の行動を規制し、生理(と

くに繁殖生理)学的事象に深く関与しているばかりでなく、特にアルビノ動物では不当な

光線照射で網膜障害を惹起することもある。騒音は動物の行動に影響を与え、著しい場合

には聴覚障害を起こし得る。これらの諸因子の作用は複雑多様であり、まだ十分に解明さ

れていない部分もあるが、一定の設定範囲内に制御し、動物に適した飼育環境を維持する

ことが動物福祉の観点からも極めて大切なことである。

また、飼育区域の微生物学的汚染を防ぐため、動物・人・物品および空気などの動線は、

より清浄な区域から汚染区域へと一方通行的に同一方向に向かって流れるようにするのが

原則である。なお、動物室には前室あるいはそれに代わる機能を果たすスペ-スが必要で

あり、必要に応じて、単独あるいは複数の動物室を他とは隔絶して運用できるような、言

いかえれば、”ゾ-ニング”が可能な配置をすることが望ましい。

動物の飼育環境条件の基準値は表4に示した。わが国の日本建築学会編のガイドライン

(1996 年)が参考となるものの一つである(註2)。

2)ケ-ジ類

ケ-ジ類、すなわちケ-ジ本体とその付属品は逃亡を防ぐ構造と、堅牢かつ軽量で清浄

化容易な材質を選択する努力が求められる。さらに動物の生態・習性を考慮した快適な居

住性を確保できるものであることが必要である。例えば、ケ-ジ本体は動物が生活するう

えで十分な高さと広さ、たとえば、動物が伸び上がっても頭がつかえない程度の高さと、

横臥できて無理なく体の向きを変えられるゆとりを持つことなどの配慮が望ましい。また、

ケ-ジの床は、床敷を用いることが望ましいが、場合により、動物の足を傷つけない材質・

形態の金属製の床とする。

なお 1996 年 7 月に米国 Institute of Laboratory Animal Resource (ILAR) から「実験

動物の管理・使用のためのガイド、第7版」が出版された(註4)。米国における推奨ケー

ジスペース等が記述されている。

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表4 動物実験施設における環境条件の基準値(例)

動物種

環境要因

マウス ラット ハムスター モルモット ウサギ サル ネコ イヌ

温度 20~26℃ 18~26℃

湿度 40~60%(30%以下若しくは 70%以上になってはならない)

換気回数 10~15 回/時

気流速度 13~18cm/秒(望ましい範囲)、10~25cm/秒(許容範囲)

気圧 静圧差で 5mmAq 高くする(SPFバリア区域)

静圧差で 15mmAq 高くする(アイソレーター区域)

塵埃 クラス 10,000* (動物を飼育していないバリア区域)

落下細菌 3 個以下**(動物を飼育していない SPF バリア区域)

30 個以下(動物を飼育していないアイソレーター区域)

臭気 アンモニア濃度で 20ppm 越えない

照明 150~300 ルックス(床上 40~85cm)

騒音 60 ヘルツを越えない

注) * 米国航空宇宙局によるクラス分け

** 9 cm 径シャーレ 30 分間開放(血液寒天 48 時間培養)

[註4] ○Guide for the Care and Use of Laboratory Animals. Institute of Laboratory Animal

Resources, Commission on Life Sciences, National Research Council. National

Academy Press, Washington D.C., 1996. (ISBN: 0-309-05377-3)

3)生物環境因子への対応

飼育環境の生物学的要因として、施設に同居する同種動物・異種動物がある。

狭い同一飼育室内に同居する同種動物についても、性ホルモンの影響として性周期の乱

れの生ずることが知られており、同系統内でも雌雄の取り扱いや異系統の取り扱いには注

意を払う必要がある。一方、異種動物間においては生理学的影響とともに、予想しない微

生物学的影響を及ぼし、実験成績を歪曲することがあるばかりでなく、動物に無用の苦痛

を与える結果となるので、同一飼育室内での異種動物の飼育は極力回避しなければならな

い。

さらに、飼育環境の至適条件は動物種により異なる。従って精度の高い動物実験を行う

ためには、動物種・性別、動物の微生物学的品質水準別にそれぞれの動物を効果的に分離

飼育する必要がある。

10-3 適切な飼育管理

1)動物室への入・退室

専用区域内の動物室への入室は、飼育管理作業の起点である。動物室に入室する際は、

履物の交換、手指の洗浄・消毒および専用衣服への着替えなど、それぞれの区域で定めら

れた操作を遵守しなければならない。これらは外部からの汚染を防ぐためだけでなく、動

物室内の汚染源を室外へ持ち出さないためにも必須の条件である。

退室時にも入室時と逆の手順で前述の操作を行わねばならない。

なお、動物室に入室する際には、室内の温・湿度の点検および室内等の自動点滅スイッ

チの正位置を確認するほか、体感温度や異臭の有無などについての官能的なチェックを行

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うことが望ましい。

2)給餌・給水

給餌・給水作業において最も大切なことは、変質していない飼料や水を必要量給与し、

絶食や絶水状態にならないように1ケ-ジずつ注意して行うことが必要である。

実験動物の飼育には、栄養条件を一定にするため、市販の固形飼料を給与することが多

い。給餌器としては、採食しやすく、かつ、飼料がまき散らされたり、汚されたりしない、

倒れにくい構造のものを用いる。

個別飼育が多いイヌ・サル類・ブタなどのように、給餌量を一定に制限する“制限給餌

法”を行う場合は勿論であるが、動物が常に採食できる状態を保つ“不断給餌法”の場合

にも、給餌時刻は毎日一定とすることが望ましい。

飲み水は新鮮かつ清潔なものでなければならず、給水器は動物が水を十分にかつ容易に

摂取できるものを用いる。

ケ-ジ内に水が漏れないように注意するほか、給水瓶の汚れにも注意する。また、自動

給水装置を使用している場合には、給水ノズルの詰まり、水漏れ、汚れ、水圧の適否など

についても十分に注意して、不慮の断水や汚染事故、水漏れの事故を防ぐように努めなく

てはならない。

3)床敷、ケ-ジ・ラックの交換

床敷、ケ-ジ・ラックの交換は、動物を快適な、一定の環境条件下で飼育するためにも

必須な作業である。交換の頻度はケ-ジ形態や飼育密度により異なるので、それぞれの場

で“基準”を設けることが望ましい。なお、ケ-ジ類の不備を発見した場合には速やかに

交換し、動物の負傷事故や動物の逃亡を、未然に防止しなければならない。

10-4 適切な健康管理

毎日行う飼育管理作業は、動物の生活環境を快適に保つためだけでなく、予防衛生的観

点からも非常に重要である。すなわち、飼育管理の際に以下に示すような項目について、

( )内に例示したような点を注意深く観察し、異常を早期に発見することが大切である。

○全身(削痩、肥満、外傷)

○皮膚、被毛(光沢、汚れ、脱毛、痂皮)

○眼(分秘物、結膜、強膜その他前眼部の形態異常)

○耳(外傷、痂皮、充・貧血)

○口腔(流涎、出血、歯及び歯肉部その他粘膜の異常)

○肛門(汚れ、出血)

○生殖器(分泌物、出血、外傷)

○行動(歩行、活動性、麻痺・旋回等の異常)

○排泄物(形、色、臭、硬度、量)

○飼料・水(消費量)

異常動物に対しては隔離、治療あるいは安楽死による淘汰を行い、動物の苦痛をできる

だけ排除するとともに、汚染の拡大防止を心がける。上述の動物に対する観察・処置に加

えて、施設・設備・備品などについては、清浄度を保てるように洗浄・消毒・滅菌を定期

的に行う必要がある。また、それらを使用する実験者・技術者は、常に実験動物の衛生に

関する知識・経験を深める努力が望まれる。なお、動物の健康管理のためにも、実験動物

に接する人の健康管理が重要である。特定の動物に影響すると思われる感染症が疑われる

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第11.専用区域への立入り

専用区域への実験者、専門家等の動物実験関係者以外の者の立入りは、原則として避

けるものとする。

第12.実験操作

1. 実験者は、適切な保定及び麻酔等の手段によって、動物に無用な苦痛を与

えないよう配慮しなければならない。 2. 実験者は、前項の配慮に関し、必要に応じ、専門家に助言を求めなければ

ならない。

実験者・技術者は、実験動物との接触を避けねばならない。また、実験者・技術者は、適

切な飼育環境の維持に留意するため、実験動物の飼育管理に関する基本的知識・技術を継

続して修得し、経験を重ねることが必要である。さらに、動物福祉、動物保護に関しても

その精神を尊び、常により深い専門知識・経験を有する者の指示を仰ぐ姿勢が重要である。

技術者は、実験中の動物について実験者と密接な連絡をとり、動物の状態に関して気の付

いた点は全て実験者に報告し、実験者に協力して実験を円滑無事に遂行できるように心が

けることが重要である。

[註5]

○Guide for the Care and Use of Laboratory Animals. Institute of Laboratory Animal

Resources, Commission on Life Sciences, National Research Council. National

Academy Press, Washington D.C., 1996. (ISBN: 0-309-05377-3)

○EC: Guidelines for Accommodation and Care of Animals. Official Journal of the

European Communities, No.L, 358:1-28 1986/12/18.

専用区域への立入りの際に、文書による許可制度や、専用カードによる管理システムを

設けるのも方法である。

12-1 動物の麻酔

適切な保定と麻酔は、いわゆる動物福祉のためばかりでなく、再現性のある科学的に適

正な実験を遂行するためにも必要である。一般に、適切な保定は動物に与える苦痛あるい

は不快感を著しく軽減し、実験にあたっての操作を容易にし、また人への危害を防止する

ために有用である。保定の良否は経験に大きく左右されるので、経験の浅い実験者は、熟

練した技術者の指導・協力を求め、その技術を早急に修得することが必要である。麻酔方

法の選択は実験者の責任に属するものであるが、経験の浅い実験者は、実験動物の専門家

あるいは麻酔処置に熟練した者の助言を受けることが望ましい。

なお、一般に麻酔薬は劇毒物等要指示薬に含まれ、特定場所に保管する必要がある。

実験動物への麻酔薬の投与は、麻酔薬の選択とともに獣医学的、薬理学的知識および手

法を必要とするので、実施者は積極的に、これらの専門家の指導を仰ぐべきである。

1)注射麻酔

動物麻酔には表5に示すような麻酔薬が一般的に用いられる。使用目的により、注射麻

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酔あるいは吸入麻酔を使い分ける。注射麻酔は麻酔期(手術期)への導入時間が短くでき、

比較的安定した麻酔状態を維持できる。注射麻酔で重要なことは、投与の際、保定を確実

に行うことである。動物種あるいは個体によっては馴化を十分に行い、必要があれば保定

器具等を用いて確実に保定し、実験者の誤操作による事故を防ぐことが大切である。また

投与操作を速やかに行い、かつ、動物に与える痛みを最小限にとどめ、加えて、不慮の感

染事故防止のため、注射針はそのつど新品を使用することを心がけておかなければならな

い。投与対象の動物種によっては、麻酔薬の副作用防止のため、前処置を行う必要がある。

(気管内の分秘物による窒息死防止のためのアトロピン投与など)。注射麻酔薬の欠点とし

て、麻酔深度の微妙な調節や麻酔時間の延長がかなり困難なことがあげられる。短時間の

延長であれば、現時点ではベンゾジアゼピン系のトランキライザ-を使用する方法が良い

結果が得られよう。いずれにしても、麻酔薬の追加には注意が必要である。麻酔薬の腹腔

内投与の場合も同様である。

2)吸入麻酔

吸入麻酔は注射麻酔と比較して、麻酔深度調節の容易さから長時間の麻酔を必要とする

実験や外科的手術に多用されるが、長時間動物を麻酔状態に置く場合は、動物の生理状態

を把握するため心電図、脳波、血圧、呼気中の炭酸ガス濃度などのパラメ-タ-をモニタ

-し、麻酔中は動物の状態を常に監視しなければならない。さらに、吸入麻酔は気道刺激

作用が強く、分泌物の除去には特に注意を要する。また麻酔薬の種類によっては混合器具

などの特別な器具が必要となる。吸入麻酔薬は、実験目的により使い分けができるのも大

きな特徴である。たとえば、笑気(亜酸化窒素、N2O)は麻酔作用よりも鎮痛作用が強いの

で鎮痛薬として利用できる。吸入麻酔薬の使用上の注意点として、使用する薬物の物理化

学的特性を熟知のうえ使用することが肝要である。麻酔薬の急性中毒時には人工呼吸法、

中枢興奮薬(ベトグリド、ジモルホラミン、キサンチン誘導体など)および輸液投与等の

措置を講じ、実験者の不注意による無駄な動物の死を避けなければならない。

表5 近年動物実験に使用される代表的な麻酔薬

麻 酔 薬 投与経路 備 考

注射麻酔

○バルビツール酸系

ペントバルビタール Na

チオペンタール Na

サイアミラール Na

○ケタミン

○キシラジン

○メデトミジン

○アチパメゾール

i.v., i.p.

i.v., i.m., i.p.

i.v., i.m., i.p.

s.c.

s.c., i.v., i.m., i.p.

中毒時にはベトグリド(メチバー

ル)、ジモルホラミン投与

解離性麻酔薬

強力沈静作用

強力鎮静作用

キシラジン、メデトミジンの拮抗薬

吸入麻酔

○ハロタン

○イソフルレン

○セボフルレン

ハロタン3%+酸素

イソフルレン3%+酸素

セボフルレン4%+酸素

わずかな肝毒性あり

臨床で多用

導入覚醒極めて迅速

動物の忌避がない

i.v.:静脈内投与、i.p.:腹腔内投与、i.m.:筋肉内投与 s.c.:皮下投与

ケタミン 80mg/kg+キシラジン 8mg/kg の混合注射は、げっ歯動物の深麻酔に好適。

アチパメゾールで迅速な麻酔覚醒が得られる。

げっ歯動物では吸入麻酔薬を脱脂綿に吸収させ、吸入させる簡易な麻酔法も可能で

ある。

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[註6]

○ Laboratory Animal Anaesthesia-An introduction for research workers and

technicians, P. A. Flecknell, Academic Press, 1992.

○Formulary for Laboratory Animals, C. T. Hawk and S. L. Leary, Iowa State

University Press/Ames, 1995

12-2 苦痛の排除

動物にとって苦痛とは如何なものであろうか。人は経験的にその言葉の持つ意味を知っ

ているし、また、幸運にも言葉によってそれを表現できる能力を備えているが、動物は、

残念ながら言葉による表現はできない。従って、動物が感じる苦痛が具体的にはどのよう

なものであるかを人が理解することは、非常に困難である。しかしながら、先人らの研究

によって明らかにされた中枢神経を含む神経系が、程度の差こそあれ、人と同じく相対的

に高度の進化をとげたすべての動物は、人と近似的に苦痛を感じるであろうことが推察さ

れる。本項では、そうした観点から苦痛の排除あるいは軽減について述べる。

1)動物における苦痛

動物が過度の肉体的拘束、痛み、衝撃、傷害、高温、低温、感染、不適当な社会的集団

化などを含む有害な肉体的、社会的および環境的因子を受けたとき、動物は苦痛を被る可

能性があり、動物のストレス反応を引き起こすことが考えられる。動物福祉上の配慮を別

にしても、これらの因子による苦痛は、動物の通常の生理状態を大きく変動させる可能性

を含むことから、目的とする研究活動を妨げ、同時に、実験結果を著しく変化させること

を実験者自身が周知しておかねばならない。一般的に、動物が苦痛を感じたとき、特殊な

行動異常を示す場合が多い。その一例として、小型げっ歯類ではある個体が集団から離れ

てうずくまったり、身づくろい行動をまったく行わないことなどが指標となる場合がある。

したがって実験者が日頃から、動物の行動異常を見分ける目を持つことが、動物の苦痛の

排除の第一歩となろう。また実験手法によっては、現在、苦痛を察知できるパラメ-タ-

が欠如しており、予想される苦痛の程度が判断できない場合、あるいは必要最小限以上の

苦痛を生じさせると思われる処置をする場合は、無拘束あるいはそれに近い状態で実施す

るか、もしくはそれに加えて適当量の麻酔薬、鎮痛薬、静穏薬を投与する配慮が必要と思

われる。

2)痛みを加える実験での留意点

知覚系、特に、痛覚にかかわる研究を行う実験者は、苦痛に関して格段の配慮が必要で

ある。元来、起炎物質、発痛物質あるいは神経切断などによる疼痛動物モデルは、人にお

けるさまざまな疼痛症状をシミュレ-トすることを目的としており、人の痛みと苦痛に対

応する実験である。また、動物に対する無用な苦痛の排除、あるいは、軽減を前提とした

綿密な実験計画を立てて行えば、実施するに価値あるものと思われる。たとえば、麻酔下

あるいは虚血や脳切断による除脳動物を用いての実験手法はその一例であろう。また、意

識下の動物を使用する場合は、慢性痛、急性痛を問わず、以下に掲げる国際疼痛学会(IASP)

が示したガイドライン(註7)の概要が参考になろう。

a)実験の必要性と人類に与える利益について倫理委員会等において十分検討を加える

とともに、実験者は自身の研究の正当性のための倫理観を自覚する。

b)痛みと苦痛の程度を評価するために、動物の異常行動を的確にとらえる。また、脳

波、睡眠覚醒サイクル、体重、摂食飲水行動、学習行動などの生理学的および行動上

のパラメ-タ-を記録・測定する。

c)逃避行動や鎮痛薬の自己投与など、痛みの強度を動物自身がコントロ-ルして苦痛

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を軽減できるような手法を用いる。

d)実験時間はできるだけ短時間で行い、動物数も最小限にとどめる。

e)実験目的に適合する最も下等な動物種を選択する。

さらに実験者は、研究目的から大きく逸脱しない範囲内において、痛みを加える部位お

よびその程度をできるだけ最小限にとどめる努力を行い、神経生理学的手法を用いるなど、

これまでの行動観察を主体とする実験にかかわる方法にも積極的にアプロ-チすべきであ

ろう。ストレス実験においても同様の配慮が必要と考えられる。

3) いずれにせよ、苦痛を数値的に測定する事は出来ないが、実験者は、もし自分が実

験動物であった場合、計画している実験が自分に実施された場合、どの様な苦痛が生ずる

かは、感覚的に理解できよう。この様な立場を考慮した配慮をすることは必要である。

[註7]

○IASP: Ethical standards for investigations of experimental pain in animals. Pain

9,141-143, (1980)

12-3 苦痛度の分類基準(カテゴリー)

苦痛度の分類のついては、米国およびカナダにおいて実施されている分類基準(註8)

を参考のため以下に示す。

○動物に与える苦痛や痛みからみた実験の種類の分類基準

カテゴリーA

生物を用いない実験、あるいは植物、細菌、原虫、または無脊椎動物を用いた

実験

* 生化学的研究、植物学的研究、細菌学的研究、微生物学的研究、無脊椎動物の研究、

組織培養、剖検により得られた組織を用いた研究、食肉センターから得られた組織を

用いた研究、発育鶏卵を用いた研究。

無脊椎動物も神経系を持っており、有害な刺激には反応するので、無脊椎動物も人

道的に扱わなければならない。

カテゴリーB

脊椎動物を用いた実験で、動物に対してほとんど、あるいはまったく不快感を

与えないと思われるもの

* 実験目的のために、動物を単に保定すること、あまり有害でない物質を注射したり、

あるいは採血したりするような簡単な処置、動物の身体検査、深麻酔により意識のな

い動物を用いた実験、短時間(2~3時間)飼料や水を与えないこと、瞬時に無意識

下に至らしめる標準的な安楽死法、例えば、大量の麻酔薬の投与、沈静あるいは軽麻

酔下に動物を断首することなど。

カテゴリーC

脊椎動物を用いた実験で、動物に対して軽微なストレスあるいは痛み(短時間持

続する痛み)を伴う実験

* 麻酔状態で血管を露出させたり、カテーテルを長時間挿入しておくこと、行動学的実

験において、意識のある動物に対して短期間ストレスを伴う保定を行うこと、Feund

のアジュバントを用いた免疫、回避可能な有害な刺激、麻酔状態における外科的処置

で処置後も多少の不快感を伴うもの。

カテゴリーCの処置は、避けられないストレスや不快感の程度、持続期間によって、

(それらを軽減するための)付加的配慮が必要になる。

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カテゴリーD

脊椎動物を用いた実験で、避けることのできない重度のストレスや痛みを伴う

実験

* 行動面に故意にストレスを加え、その影響を調べること、麻酔状態における外科的処

置で、処置後に著しい不快感を伴うもの、痛みや苦痛を伴う解剖学的あるいは生理学

的な機能を失わせるような処置、動物がその刺激から逃れられない有害な刺激、長時

間(数時間あるいはそれ以上)にわたって動物の体を拘束すること、母親から引き離

して不適切な代理の親を与えること、自分自身、あるいは同種他個体を損傷させる攻

撃的な行動を誘発させること、麻酔薬を使用しないで痛みを生じさせる処置、例えば、

致死量を調べるような毒性試験、放射線急性障害による死亡を引き起こすこと、ある

種の注射、ストレスやショックの研究などの動物が耐えることのできる最大の痛みに

近い痛み、すなわち、激しい苦悶の反応を示す程度の痛みを与えること。

カテゴリーDに属する実験を行う場合には、研究者は、動物に対する苦痛を最少限

のものにする、あるいは苦痛を排除することが可能な実験を検討する明確な責任があ

る。

カテゴリーE

麻酔していない意識のある動物を用いて、動物が耐えることのできない最大の

痛みに近い痛み、あるいはそれ以上の痛みを与えるような処置

* 手術する際の保定のため、麻酔薬を使わずに筋弛緩薬あるいは麻痺性薬剤、例えば、

サクシニルコリンあるいはその他のクラーレ様作用をもつ薬剤を単独に使うこと、麻

酔していない動物に重度の火傷や外傷を引き起こすこと、精神病様の行動を起こさせ

る試みをすること、家庭用の電子レンジあるいはストリキニーネを用いて殺処分する

こと、避けることのできない極度のストレスを与えること、死に至るストレスを与え

ること。

カテゴリーEの実験は、期待される実験結果の意義に関わらず、極めて問題であり

容認できないと考えられる。カテゴリーEに属する処置の多くは、国の方針によって

明確に禁止されており、したがって、これを行った場合は、国からの研究費は没収さ

れ、そして(または)その研究施設の正規の農務省登録は取り消されることがある。

[註8]

○Board of Trustees of the Scientists Center for Animal Welfare (1985): Consensus

Recommendation on Effective Institutional animal Care & Use Committees. Lab. Anim.

Sci., Special lssue, Jan. 1987.

○「実験動物海外技術情報」No. 7, page 16, ((社)日本実験動物協会、海外技術情報

調査小委員会編集、昭和63年1月20日発行)の和訳改訳(京都大学動物実験委員

会動物実験計画書作成小委員会)

12-4 適正な実験手法

実験は、動物に無用な苦痛、不快感および恐怖感を与えない方法で実施することが基本

である。実験者は、動物の保定に始まる様々な実験手技を動物に加えるにあたっては、こ

のことを十分認識すべきであろう。たとえば、保定を必要とする実験においては、実際の

実験前に保定操作を繰り返して、動物が実験者やその操作に十分馴れるよう、事前に訓練

を行うことなどは既に常識であろう。前述したように、人に馴化した動物に適正な保定を

行えば、動物に無用な苦痛およびストレスを与えずに済み、実験操作を容易に導入できる

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第13.実験終了後の処置等

1.実験者は、実験を終了又は中断した動物を処置する場合は、致死量以上の

麻酔薬の投与、頚椎脱臼、炭酸ガス吸入等により、速やかに苦痛から解放す

るように努めなければならない。

2.実験者は、動物の死体等による環境汚染の防止に努めなければならない。

3.実験者は、前2項の処置に関し、専門家に助言又は協力を求めることがで

きる。

ばかりでなく、人への危害を防止するうえでも有効である。不慣れな実験者は、熟練した

者の助言を必要に応じて受けることが望ましい。また、動物に操作を加える場合は、可及

的速やかに、かつ、確実に実施されなければならないので、実験者自身が操作法の訓練を

十分積むことが重要である。複数の動物を使用するときは、首輪、バンド、色素、耳パン

チ、入れ墨その他使用する動物に適合した方法・器材などによって個体識別を行い、操作

に手違いが生じないように配慮することも必要である。器具等を使用する実験では、それ

らの持つ機能が有効に発揮できるように日頃から整備点検しておかねばならない。

動物種に必要以上の苦痛を与えると思われる手技や、外科的処置を加える場合は、獣医

学的手法にしたがって適正な鎮静薬、鎮痛薬あるいは麻酔薬の投与を行うべきである。ま

た筋肉を弛緩させる薬物によって非動化された無麻酔の動物に外科的処置あるいは痛みを

加えてはならず、適切な麻酔効果をもたらす薬物、あるいは、手法との併用が必要である。

外科的処置を実施するときは、器具類、術野の消毒および術中の動物の監視はもちろん

のこと、術後の管理が非常に重要である。術後の保温や鎮痛剤の投与、輸液および回復後

の術野の手当て等は実施すべきである。また、実験前から術後にいたる経過の記録も行え

ば、実験時およびその後の参考となろう。さらに、人と動物間の相互感染防止のための手

術用手袋、マスク、めがね、ゴーグル、手術着等の着用は励行すべきである。

その他にも手技に関する注意事項は数多くあるが、実験者はひとつひとつの手技方法が

実験精度、成績の再現性、ひいては、その信頼性に大きく影響を及ぼすことを認識しなけ

ればならない。

13-1 実験終了時に心がけるべきこと

実験を終了した動物は「安楽死」の処置をとらねばならない。「安楽死」については以下

に述べる。疾病により回復の見込みがないと判断された実験動物や、繁殖・生産の役割を

終了した実験動物に対しても同様の考え方で臨むべきであり、目的を有しないままに徒ら

に飼育を続けるべきではない。ただし、貴重な野生および野生由来の動物種においては、

実験目的にかない、かつ、動物に過度の苦痛を与えない範囲での繰り返しての供用や、実

験終了後周囲の安全性を損なわない範囲での、その動物の他の領域での活用にも理解を求

めるべきである。

また、実験者は安楽死を行うにあたって、動物の有効利用(多量利用)の考え方に則し

て、できるだけ多くの試料を採取し、情報を得る努力をしなければならない。勿論、その

動物が死に至るまでに受けた薬物投与等の処置や経歴により影響されない範囲のデ-タ収

集に限ることは重ねて言うまでもない。

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13-2 安楽死

ここでの安楽死とは、動物に苦痛を長く与えないように、できるだけ短時間で死に至ら

しめることである。実験動物の安楽死法は、「実験動物の飼養及び保管等に関する基準の解

説」(註9)にも例示されているように、麻酔剤の過剰投与による方法が一般的であり、ほ

とんどの動物種は、バルビツレ-ト系薬剤の静脈内あるいは腹腔内への過量投与によって、

速やかに倫理的に死に至らしめることが可能である。小動物の場合には、頚椎脱臼による

物理的な方法も汎用されている。なお、最近、諸外国では炭酸ガス吸入法による安楽死が

非常に多用されるようになってきた。

1)方法の選択

方法の選択にあたっては、安楽死後の試料採取や検索に障害とならないよう、実験

の目的に沿うよう配慮することが必要である。また、安楽死に関しては、外見上の残虐

さのみから、その適否を判断してはならない。例えば、断頭器による断頭は外見上残虐

な印象を与えがちであるが、鋭利な断頭器を用いるのは瞬時の処分が可能で、かつ、苦

痛を与えない方法であり、また、酵素活性等の生化学的指標の検討にも必須な方法であ

る。一方、サクシニル・コリンクロライドのような筋弛緩剤の使用は、外見上苦痛が少

ないように見えるが、意識の消失を伴っていないので不適切な処置である。

2)安楽死法・評価基準の例

国外の安楽死法の評価基準の例として米国獣医師会(AVMA)安楽死処置検討委

員会が指針(1978)として以下のような項目を示している。また、1986年にA

VMAが安楽死に関わる委員会を設置し報告書を提出しているので、それを参考するの

も良いであろう(註9)。

a)痛みを伴わずに致死させ得ること。

b)意識消失までに要する時間が短いこと。

c)致死までに要する時間が短いこと。

d)確実であること。

e)実施者にとって安全であること。

f)精神的ストレスが少ないこと。

g)目的・ニ-ズへの適合性が高いこと。

h)実施者ならびに周囲の人への情緒的な影響が少ないこと。

i)経済性が適切であること。

j)病理組織学評価への適合性が高いこと。

k)薬物の効力と弊害を考慮すること。

[註9]

○実験動物の飼養及び保管等に関する基準の解説:実験動物飼育保管研究会編、内閣総

理大臣官房管理室監修、昭和55年、ぎょうせい

○2000 Report of the AVMA Panel on Euthanasia, J. Amer. Veterinary Med. Assoc.,

218, 669-696, 2000 <http://www.avma.org/>

表8 安楽死の方法(例)

動物種 バルビツレート

静脈内注射 炭酸ガス吸入 頸椎脱臼 断首 煮沸

マウス

ラット

+1)

+1)

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モルモット

小型げっ歯類

ウサギ

イヌ

ネコ

サル類

トリ類

その他の家畜

+2)

+1)

+2)

+2)

下等脊椎動物

無脊椎動物

+ +

注1):腹腔内でもよい。 2):心臓内でもよい。

13-3 安楽死処置時の注意

安楽死は確実・安定した技術を身につけた者が実施しなければならない。とくに過剰の

麻酔剤投与を行う場合には、原則として獣医師、ときには医師、もしくは歯科医師の指導

のもとに、あるいはそれらに相当する知識・技術を保有するものが行わねばならない。物

理的方法を用いる場合にも、熟練した実験者、実験動物技術者によって行われるべきであ

る。

安楽死の実施にあたっては以下の事項に注意しなければならない。

a)処置前に動物に不安を与えてはならない。生きている同じ群の他の動物に異変を

感じとられないように努力することも大切である。

b)処置後意識を消失するまでの時間をできるだけ短くすることが望ましい。

c)エ-テルは有効であるが、引火性・爆発性があるので注意深く取り扱わなければ

ならない。すなわち、エ-テル使用中であることやその保管量と場所の明示は消防

法などを考慮しても必須の処置である。ただし、欧米では現在ほとんど使われない。

d)死亡の確認を怠ってはならない。呼吸停止だけでなく、心拍動停止の確認も必要

である。とくに、炭酸ガスで深麻酔された動物は呼吸停止後も心臓は拍動を続け、

蘇生することがあるので注意を要する。

e)クロロホルムなど人体に有毒で、発癌性が疑われているものは、使用を慎むこと

が必要である。

f)安楽死の作業は、実験動物関係者以外の一般の人目に触れない場所で実施される

べきであり、死体は外部から見えないよう、不透明の袋等に収納して運搬する配慮

が必要である。

g)エ-テルで安楽死させた動物の死体を収容する袋等は、エ-テルを完全に揮発さ

せた後に密閉処置を行わないと、収納中あるいは焼却時に爆発することがあるので

注意が必要である。保管する場所には、爆発防止処置を施された冷蔵(冷凍)庫を

用いる方が望ましい。

なお、安楽死処置は、実験者が責任を持って前述の通り確実に行うべき性質のものであ

るが、未習熟者は、当該知識や技術を保有する専門家の助言を得て、その作業を遂行する

ことが望ましい。

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第14.危険物質等を扱う動物実験

1. 病原体等を用いる動物実験及び、組換えDNAを用いる動物実験につ

いては、それぞれ「長崎大学生物災害防止安全管理規則(昭和58年9月

16日、規則第14号)」及び長崎大学組換えDNA実験安全管理規則(昭

和58年、9月16日規則第15号)」を適用する。

2. 放射性物質及び、放射線を用いる動物実験については、「長崎大学放

射線同位元素等安全管理規則(昭和51年10月22日、規則第12号)」

及び「長崎大学研究教育用エックス線装置放射線障害防止管理規則(昭和

58年10月25日、規則第16号)」を適用する。

3. 実験者は、発癌性試験、変異原性試験に用いられる危険な物質、その

他安全性が確認されていない物質又は環境有害物質を用いる動物実験に

ついては、他の動物及び環境汚染を防止するため、適切な処置を講じなけ

ればならない。 4. 実験者は、前項の実験計画の立案に当たっては、専門家に助言を求め

なければならない。

14-1 趣旨

放射性化合物(RI 化合物)、放射線(X 線など)、組換え DNA、変異原性物質、発癌性物

質など物理的、化学的な危険物質、および病原微生物(細菌・ウイルスなど)を取り扱う

動物実験を実施する際には、実験者は自身および他の人への安全性を確保するとともに、

事故による飼育環境の放射能汚染などによる実験動物への影響を極力防ぐよう十分に配慮

する必要がある。

また、動物実験の精度を向上させ、得られるデ-タの信頼性を確保するためにも、実験

者は積極的に環境汚染防止に努めることが大切である。

この種の動物実験は通常の実験とは異なる特殊な条件下で行う必要性が生じてくるので、

それぞれの実験に関係する本大学の安全管理規則(上記)に則して実施しなければならな

い。さらに、実験者は必要に応じて関係の上記委員会の助言をもとめて実施するよう努め

なければならない。

14-2 毒性化学物質

ヒトや実験動物に毒性を有することが明らかな毒性化学物質を用いて動物実験を行う場

合には、施設を専用の実験区域とし、厳重な安全管理のもとに行わなければならない。そ

の区域は可能な限り閉鎖環境とし、かつ区域全体の空気圧を、そこに接する廊下等に対し

て陰圧に保つ必要がある。

毒性化学物質を取り扱う実験室には、ドラフトチャンバ-(電気集塵装置などの、毒性

化学物質を外部に放出させないような集塵装置付が望ましい)を設置し、その中で可能な

限りの操作を行う。実験台にはポリエチレン濾紙等を敷き、毒性化学物質が拡散しないよ

うに注意する必要がある。床は水洗できる材質・構造とし、排水系は独立させ、その末端

には毒性化学物質の分解、除去ないし希釈などを行う設備を設置する。

1)毒性化学物質の取り扱い

取り扱う際には、液体などに対し不浸透性の保護前掛、保護手袋等を使用し、取り扱う

物質の性状・毒作用によっては防護面、防塵マスクあるいは防毒マスクを使用する。溶液

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の状態で供試しピペットで採取する場合にはピペッタ-を使用し、口で吸引してはならな

い。

使用済みのガラス器具等は、分解液により有害物質を完全に分解してから洗浄するよう

注意する。

実験区域内では専用の実験衣、上履等を着用し、取り扱い後は洗剤等でよく手を洗い、

実験衣、上履等を交換したうえで区域外へ退出する。

実験動物の床敷、糞尿、乳汁にも有害物質、あるいは、それらの代謝物が排泄されるの

で、排泄物と接触したすべての飼育器具器材は、十分な配慮のもとに廃棄(可燃物は原則

として焼却処分)、あるいは、洗浄しなければならない。

長期間にわたる実験では、粉末飼料に被験物質(毒性化学物質)を混ぜて投与する場合

もあるが、粉末飼料の調製時に被験物質を飛散させないように、また、動物が粉末飼料を

食べ散らかさないように配慮することが大切である。

また、毒性化学物質を供試する実験中の架台やケ-ジなどには、使用している物質名や

注意事項などを明示しなければならない。さらに、実験区域内で実験や飼育管理に携わる

関係者に、文書により被験物質についての注意事項を案内、徹底させることが大切である。

さらに、実験区域内への関係者以外の立ち入りを禁止し、実験区域内での禁煙、飲食、

食品の貯蔵等を厳に禁止する。

毒性化学物質を取り扱う者は、定期的にその毒性に対応する特別な健康診断を受診し、

その記録を保存することも大切である。各施設においては、以上の事項を規則として定め、

運用することが望ましい。

2)毒性試験

化学物質の安全性を評価するための各種の毒性試験においては、被験物質について物理

化学的性状、ヒトや実験動物に対する毒性、分解に有効な化合物などの情報を収集整理し、

特に発癌性が予測される場合には、前述の対応をしたうえで試験を実施する必要がある。

毒性試験に関しては、わが国においても動物実験デ-タの信頼性をより一層高めるため

に、試験実施上の遵守基準=GLP(Good Laboratory Practice)=が定められ、対象となる試

験はそれに従って実施されなければならない。GLP 対象外の試験の場合においても、GLP に

盛り込まれた内容について配慮し、その精神を尊重する必要がある。毒性化学物質を用い

る試験の場合、とくに、施設・設備面での整備と、試験実施の手順を標準作業手順書

(SOP;Standard Operating Procedures)として文書化し、遵守する体制のもとで実施するこ

とが大切である。

14-3 ラジオアイソト-プ

ラジオアイソト-プ(RI)を用いる動物実験は、RI(RI で標識した化合物などを含む)を

実験動物に直接投与し、その体内での動きを放射能を標識として追跡するもので、物質の

吸収、分布、代謝などの研究には欠かすことのできない方法である。

この実験を始めるに際して、まず、念頭におかなければならないことは、RI を投与した

動物自体が放射能源となり、動物の呼気、糞尿にも RI 物質が排泄されることである。した

がって、一般の RI 実験室と同様に、RI 等の取り扱い、使用、廃棄などについては、国の

「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律」(註10)によって厳しい規制

を受ける。このため、RI 動物実験を行うには、本大学において認められた施設を使用しな

ければならない。

RI の取り扱いや法律、RI 実験室の施設と設備等の詳細については、アイソト-プ便覧(註

10)、他に一般の成書(RI 実験法)等が参考となる。ここでは、RI 動物実験に直接関係

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することだけにとどめる。

1)動物実験に使用されるおもな核種

動物実験に使用されるおもな核種の性質を表7に示す。これら以外にも 36Cl、51Cr、54Mn、65Zn、75Se などが用いられる。さらに、これらで標識された化合物などが用いられている。

RI 標識化合物を用いる場合は、純度、ラベルの安定性、放射線による分解などに注意する

必要がある。

表7 実験動物で使用される主なラジオアイソトープの性質

核種名 半減期 崩壊形式

(線質) 元素の親和性臓器

3H 12.33 年 β- 全身、身体組織(可溶性)

14C 5730 年 β- 脂肪(可溶性)、全身(溶存)

32P 14.28 日 β- 骨(可溶性)、肺、消化器(不溶性)

35S 87.4 日 β- 精巣(可溶性)、肺、消化器(不溶性)

45Ca 165 日 β- 骨(水溶性)、肺、消化器(不溶性)

44.6 日 β- 消化器(可溶性)、脾臓(可溶性) 59Fe

γ 消化器(可溶性)、脾臓(可溶性)

125I 60.2 日 γ(X 線) 甲状腺(可溶性)、肺、消化器(不溶性)

8.04 日 β- 甲状腺(可溶性)、肺、消化器(不溶性) 131I

γ 甲状腺(可溶性)、肺、消化器(不溶性)

2)RI の投与量と投与方法

RI の投与量はできるだけ少なくし、放射能測定時の効率を最大限にするのが鉄則とさ

れている。投与量が多いと、動物の放射線障害や汚染を高めるおそれがある。一方、少な

すぎると放射能の測定精度が低下する。

RI の投与法には、経口、皮下、筋肉、静脈投与の他に、吸入や経皮法などもある。ここ

で大事なことは、それぞれの投与法に適した動物の取り扱いを十分習熟しておくことが、

実験の精度を高め、かつ環境汚染を防止するために必要である。

3)飼育管理および解剖

通常、RI 動物の飼育は陰圧の飼育機器の中で行われるが、動物に投与された RI 物質は

体内で代謝され蓄積され、一部は呼気、糞便中へ出される。したがって、飼育ケ-ジ、給

水瓶などの飼育器具器材、解剖器具なども RI に汚染される。そのため、動物はもちろん器

具類の取り扱いにも細心の注意がいる。動物を解剖する場合、周囲の放射能汚染を引き起

こし易いので、特に厳重な注意が必要である。

4)RI 廃棄物の処理

RI 動物実験中あるいは終了後に出る廃棄物は、一般の RI 実験室からの廃棄物の他に、

実験動物の排泄物と死体がある。これらの廃棄物については、乾燥などの処置を施した後、

廃棄の手続きをとらねばならない。

5)予備実験の重要性

RI 物質の投与時、日常の飼育管理中、解剖時などに操作が未熟であれば放射能汚染の事

故が起こり易い。したがって、基礎的な実験動物の取り扱い手技についてまず習熟してお

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くことが大切である。そのためには、実験開始に先立ち、RI を使用しないで、実験動物の

飼育管理、投与法、解剖などについて習練を重ねておくことが、とりわけ重要である。

[註10]

○法律第98号:放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律(アイソト-

プ法令集Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ、日本アイソト-プ協会、1989)

○日本アイソト-プ協会:アイソト-プ便覧、丸善、東京(1984)

○日本アイソト-プ協会:放射線障害の防止に関する法令、概説と要点(新版)、198

14-4 病原微生物

病原微生物によるヒトや実験動物の感染症について、その病因の解明、診断、治療ある

いは予防法の確立のためには、ヒトや動物由来の病原微生物を実験動物に接種する、いわ

ゆる感染実験が欠かせない。この種の実験はその性格上、実験者自らの安全確保と同水準

で、第三者あるいは隣接する実験動物への感染、自然環境の汚染防止について予防措置が

講じられ、厳重な管理のもとで行わなければならない。そのためには、感染動物実験のた

めの施設、設備などのハ-ド面での整備と、利用規則、管理運営などのソフト面の充実と

の両面での調和を図ることが大切である。

1)病原微生物の安全度分類

ここでは参考として、国立大学動物実験施設協議会で作成された感染動物実験における

病原体の安全度分類を示す(附属資料6)。

2)感染動物実験室の設備

わが国には、感染動物実験室の設置基準が、法およびそれに付随するものとしては作成

されていないが、国立大学動物実験施設協議会から「感染動物実験の標準操作手順及び設

置基準」が公表されている(附属資料6)。安全対策として1~4のレベルに区分され、そ

れぞれについて、安全設備、動物飼育室の構造、標準操作手順が示されている。

3)感染動物の飼育管理と解剖

感染動物を飼育管理する場合、病原微生物を接種した動物は汚染されていること、動物

の呼気、排泄物中に絶えず病原微生物が排泄される可能性などを考慮しなければならない。

そのため、塵埃飛散防止などを考慮した飼育器具・器材をできるだけ使用するとともに、

使用後は高圧滅菌後に洗浄する措置が求められる。

14-5 組換えDNA実験および遺伝子改変動物実験

組換えDNAに関する実験は最近新たに告示された指針(註11)に従って行われる。

組換えDNAあるいは外来性DNAを個体レベルまたは動物授精卵子内に組み込んで作出

される、いわゆるトランスジェニック動物の取り扱いについても、指針に基づいて実験計

画書を提出し、飼育室を含む実験区域の使用に先立って、適正であるか否かの審査を受け

なければならない。原則上大切なことは、a)明確な目的のもとで作出する。b)作出さ

れたコロニーの厳密な管理・維持、c)野外への逃亡防止などをあげることができる。

なお、国立大学動物実験施設協議会では文部省告示の「大学等における組換えDNA実

験指針(平成10年4月)」を受け、それに対する手引きを作成したので参照すること。(附

属資料7)

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第15.委員会の設置

1. 本学に、この指針の適正な運用を図るとともに、実験者から申請のあった実験

計画について、指針に対する適合性を審査するため、長崎大学動物実験委員会を

置く。

2. 前項の委員会に関し必要な事項は、別に定める。

[註11]

○文部省告示第 84号:大学等における組換えDNA実験指針(平成10年4月)

<http://www.mext.go.jp/a_menu/shinkou/seimei/unidna.pdf>

○内閣総理大臣決定:組換えDNA実験指針(平成8年3月改訂、科学技術庁ライフサ

イエンス課編 <http://www.mext.go.jp/a_menu/shinkou/seimei/dna.pdf>

○農林水産分野における組換え体の利用のための指針(平成元年4月20日付け元農会

第747号、最終改正平成9年11月5日付け9農会第2000号)(農林水産事務次

官依命通達)

○動物実験施設における遺伝子導入動物の取扱いに関する手引き(国立大学動物実験施

設協議会、平成 7年 5月)附属資料3

15-1 委員会の性格

動物実験委員会は、立案された動物実験の計画書が「長崎大学における動物実験指針」

に適合するか否かを学長から付託され審査するとともに、必要に応じて指導・助言し、科

学的もしくは福祉の各側面からの種々の外的要請に応える責務を負っている。

15-2 委員会の機能

具体的業務としては下記事項がある。

1) 立案された計画書の「長崎大学における動物実験指針」への適合性の付

託審査

2) 適正な動物保護環境・実験環境の作出・維持に関する事項の学長に対す

る諮問。

2)専用区域・施設への現状調査ならびに助言。

3)論文投稿などに際し、内外審査員の要求に対応した認定処理

附 則

この指針は、平成13年10月1日から施行する。

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附属資料 1

長 崎 大 学 動 物 実 験 計 画 書 長崎大学動物実験委員会(IACUC)

受付番号

研 究 課 題 等

(選択項目を■)

□ □

新規 継続 (更新)

研 究 目 的

フリガナ 部局名 職 連絡先電話番号

実験責任者名 氏 名

e-mail @

( )

@

( )

@

( )

@

( )

@

( )

実験従事者名

(氏名にはフリガナ)

e-mail

@

研究責任者の承認 [ ] の承認を得ています。

実験実施期間 20( )年 月 日 ~ 20( )年 月 日 中止・終了等 20( )年 月 日

動物飼育場所 及び 実験実施場所 動物飼育場所 実験実施場所

動 物 種 系 統 性 別 匹 数 微生物学的品質 入 手 先 備 考

使 用 動 物

研 究 概 要

(審査を適正に行うため、「実験方法」、「動物の苦痛軽減・排除方法」等と整合性をもたせて具体的に記入してください。)

研究計画と方法

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1. 行動観察

2. 試料投与 (化学発癌物質、重金属等毒性物質を除く)

3. 材料採取

4. 外科的処置

5. 遺伝・育種実験

6. 感染実験 (安全度分類: )

実 験 方 法

(選択項目を■)

7. RI・放射線実験

8. 化学発癌・重金属実験

9. 組換え DNA 実験 (準ずる実験を含む)

10. その他

想定される

苦痛のカテゴリー

(選択項目を■)

(A. 生物を用いない実験、あるいは植物、細菌、原虫、または無脊椎動物を用いた実験)

B. 脊椎動物を用い、動物に対してほとんど あるいはまったく不快感を与えないと思われる実験

C. 脊椎動物を用い、動物に対して軽微なストレスまたは痛み(短時間持続するもの)を伴うと思われる実験

D. 脊椎動物を用い、回避できない重度のストレスまたは痛みを伴うと思われる実験

E. 無麻酔下の脊椎動物に、耐えうる限界に近い またはそれ以上の痛みを与えると思われる実験

1. 麻酔薬や鎮痛剤等の投与及び吸入 (薬剤名を具体的に記入 ) 動物の苦痛軽減、

排除の方法 2. その他 (具体的に記入 )

□ 1. 麻酔薬等の投与及び吸入 (薬剤名を具体的に記入 )

□ 2. 炭酸ガス

□ 3. 中枢破壊 (具体的に記入 法)

安楽死の方法

(選択項目を■)

□ 4. その他 (具体的に記入 )

□ 1. 検討したが、動物実験に替わる手段がなかった。

□ 2. 検討した代替手段の精度が不十分だった。

動物実験を必要

とする理由

(選択項目を■) □ 3. その他

その他必要または

参 考 事 項

審査終了: 20( )年 月 日

修正意見等

動物実験委員会の 本実験計画に対する

意見等

(委員会記入欄)

審査結果 □ 本実験計画は、長崎大学における動物実験指針に適合する。 (条件等 □ 組換えDNA実験安全委員会の承認後、実験を開始すること。)

□ 本実験計画は、長崎大学における動物実験指針に適合しない。

承認: 20( )年 月 日

学長承認欄

本実験計画を承認します。

承認番号: 第 号

長 崎 大 学 長

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附属資料 2 「長崎大学動物実験計画書」の記入方法

長崎大学動物実験計画書 (以下 動物実験計画書)は、「長崎大学における動物実験指針」(以下 指針)

第六第一項の規定に基づき、所属部局等の長を経て学長に申請される書類である。哺乳類及び鳥類を用

いて動物実験を実施しようとする者は、この計画書を作成し部局等事務に提出しなければならない。な

お、哺乳類及び鳥類以外の動物を用いた実験についても、指針の趣旨に沿って実施されることとするが、

計画書の提出は不要である。

1. 将来的には、すべての動物実験に係る書類は、電子ファイル書類として申請されることを想定して

いる。しかし、当分の間は紙による申請方式をとる。

2. 実験実施期間途中の実験従事者並びに実験動物種・系統・性別及び匹数の変更(追加を含む)につ

いては「変更承認申請書」を提出することで、新たな計画書の提出を求めない。ただし、研究課題、

実験責任者、研究責任者、実験内容等の変更は実験計画書を再提出しなければならない。

3. 組換えDNA実験(遺伝子改変動物個体を用いる、いわゆる組換えDNA実験に準ずる実験、及び

ベクター導入による遺伝子治療動物実験、あるいはこれらの組合わせによる動物実験等)の場合も、

まず動物実験計画について申請し、その後承認された計画書の写しを組換えDNA実験計画の申請

書類に添付すること。ただし、緊急を要する場合においては、動物実験計画の承認申請と同時に、

組換えDNA実験計画の承認申請を行い、各々の審査を並行して受けることができるものとする。

4. 受付番号

記入しない

5. 研究課題等

動物実験を包含する大枠の研究テーマを記入する。新規・継続(更新)の別を■で選択する。

6. 研究目的

上記研究課題の中で、動物実験の占める意義あるいは研究全体に動物実験が果たす役割について、

やや具体的に記入する。何のために動物実験をするのか? 動物実験で得られるであろう結果に何を

期待しているのか? という問いかけに端的に応える必要がある。

7. 実験責任者

実験責任者は、実際に実験を行う実験者の中から選定し、単なる研究室の責任者としないこと。フ

リガナ及び電子メールアドレスも記入する。連絡先電話番号欄には、学内の内線番号に限らず、連

絡しやすい移動電話等の番号を記入する方が望ましい場合がある。

8. 実験従事者

実験従事者には、実験者の他に実験補助者も含まれる。一人一行とし、フリガナ及び電子メールア

ドレスもあれば記入する。連絡先電話番号は、実験責任者と同様、学内の内線番号に限らない。

9. 研究責任者の承認

講座主任者等の研究責任者の承認を得たうえで、研究責任者氏名を記入のこと。

10. 実験実施期間

実験期間は最長 3 年とする。3 年を越えて同じ実験者が同じ研究を行う場合には、「研究課題等」欄

の「継続」に■印を付し、改めて計画書を提出し直さなくてはならない。

11. 中止・終了等

記入しない。

12. 動物飼育場所及び実験実施場所

動物飼育あるいは動物実験専用区域の名称を詳細に記入する。中央的動物実験施設の場合は、施設

名、区域名を、個別の専用区域の場合も所属する講座等の名称、部屋番号を記入する。複数の専用

区域を使用する場合は、それらすべてを記入する。専用区域の見取り図や飼育環境条件等について

提出を求められることがあるので留意されたい。

13. 使用動物

複数の動物種を用いる場合は、一動物種一行に記入する。各欄についてできるだけ正確に記入する

ことが望ましいが、匹数など正確に記入できない場合には、実験に必要な総匹数の概数を記入する

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こともできる。備考欄には、入手先と生産元が異なる場合等の特記・参考事項を記入する。

14. 研究概要

実験実施期間内に、上記の動物を使用してどのような実験を行うのか、その概要を記入する。「研究

目的」とは明確に区別するべきである。

15. 研究計画と方法

上記「研究概要」をふまえて、具体的な実験処置の内容、動物の反応等を時間の経過とともに予測

しながら記入する。さらに、下欄の「実験方法」、「動物の苦痛軽減、排除の方法」、「安楽死の方法」

等と整合性をもたせて具体的に記入する必要がある。動物実験委員会は、「実験者が動物実験をどの

ように捉え、精度のある実験を実施するであろうか」を判断するための資料として、もっとも注目

する項目のひとつであることを留意されたい。

16. 実験方法

実験方法を■印を付して選択する(複数可)。感染実験の場合は括弧内に病原体の安全度分類のレベ

ルを記入する。どのような実験をするのかが一目でわかることが望ましい。

17. 想定される苦痛のカテゴリー

苦痛の程度を■印を付して選択する(複数不可)。D 及び E を選択した場合、動物実験の必要性や代

替手段の有無の検討過程等について説明を求められることがあるので留意されたい。

18. 動物の苦痛軽減、排除の方法

括弧内に薬剤名・方法・投与量等を具体的に記入する。「研究計画と方法」、「想定される苦痛のカテ

ゴリー」との整合性に留意すること。

19. 安楽死の方法

安楽死させる場合、その方法について■印を付し、括弧内に薬剤名・方法・投与量等を記入する。

安楽死させない場合は、その他の欄にその理由等を記入する。

20. 動物実験を必要とする理由

■印を付して選択する(複数可)。「研究目的」、「研究概要」及び「研究計画と方法」との整合性に留

意すること。

21. その他必要または参考事項

以上の「各欄」に該当しない事項や、補足事項等があれば記入する。

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附属資料 3 平成 年 月 日

動物実験(変更・追加)承認申請書 学 長 殿

実験責任者 所属・職・氏名

承認番号 の動物実験計画を下記のとおり、変更・追加したいので

承認願います。

記 1.変更・追加事項 1)実験従事者の変更・追加 2)実験動物種・系統・性別及び匹数の変更・追加 2.変更・追加理由

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附属資料 4 平成 年 月 日

動物実験(終了・中止)報告書

学 長 殿

実験責任者 所属・職・氏名

承認番号 の動物実験計画を下記のとおり、終了・中止しましたの

で報告致します。

記 1.実験(終了・中止)年月日 平成 年 月 日 2.実験動物の処分年月日 平成 年 月 日 3.備考

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附属資料 5

実験動物の授受に関するガイドライン

―マウス・ラット編―

国立大学動物実験施設協議会

昭和 59 年 5 月 31 日制定

改訂 平成 5 年 5 月 20 日

平成 10 年 5 月 15 日

平成 11 年 5 月 14 日

平成 13 年 5 月 25 日

1. 目的

本ガイドラインの目的とするところは、実験動物の授受に際して、分与者、分与者が利用する施

設の管理者(以下「分与施設管理者」という)、被分与者、ならびに被分与者が利用する施設の管

理者(以下「被分与施設管理者」という)が本ガイドラインを相互に遵守することによって実験動

物の福祉面への配慮、病原微生物の伝播防止、輸送中の事故防止、ならびに授受動物の系統保持等

を図ろうとすることにある。

2. 適用範囲

� 国立大学動物実験施設協議会施設及びそれを利用する研究者間における実験動物の授受は、本

ガイドラインに従うものとする。

� 前項以外の他機関及びその研究者と実験動物を授受する際にも、本ガイドラインに準じて実施

する。

3. 分与動物

� 分与動物は、臨床的に異常を認めず、病原微生物を保有しないことを原則とする。なお、マウ

ス・ラットのエクセレント(E)、コモン(C)、ミニマム(M)の各ステータス別に検査を行うべ

き項目は表1に示すものとする。

� 分与動物は、分与者が維持している動物とする。

� 分与動物数は、被分与者が維持・研究を行う上で必要最小限度の動物数とする。

4. 分与者

� 分与者は、できるだけ正確な分与動物の微生物学的ステータスを把握し、被分与者への情報提

供に努めること。

� 分与者は、分与施設管理者の協力下に「様式 4 号:実験動物授受のための飼育環境及び健康調

査レポート」(以下「調査レポート」という)を作成し分与動物が飼育されている環境情報等を

被分与者に伝えること。

� 分与者は、系統名(亜系統名がある場合は亜系統名)、近交世代数、生年月日、標識遺伝子、

特徴など、分与動物に関する情報を被分与者に伝えること。

� 分与者は、当該動物の開発者の権利を尊重し、使用制限事項(特許、登録商標、その他の知的

所有権等)がある場合には、分与承諾書にその旨明記し、被分与者に伝えること。

5. 分与施設管理者

分与施設管理者は、分与者から微生物検査成績書、並びに調査レポートの作成を依頼されたとき

は、分与者と協力して報告書を作成すること。

6. 被分与者

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� 被分与者は、分与者からの微生物検査成績書、調査レポートを分与動物の導入前に被分与施設

管理者に提出し、その指示に従うこと。

� 被分与者は、分与者から微生物検査成績書を得られない場合、被分与施設管理者の指示に従う

こと。

� 被分与者が遺伝子操作動物等組換えDNA実験に準ずる実験にかかわる動物の分与を受けるとき

は、「大学等における組換え DNA 実験指針」、及び「動物実験施設における遺伝子操作動物の取扱

いに関する手引き」に従い、動物の導入前に所属機関の許可及び被分与施設管理者の承諾を得る

こと。

� 被分与者は、分与者からの実験動物に関する情報を保管すること。

� 被分与者は分与動物が分与者からの情報と異なるとき、あるいは新しい知見を得たときは、分

与者に報告すること。

� 被分与者は、分与動物に関する開発者の優先権を尊重し、使用制限事項(特許、登録商標、そ

の他知的所有権等)がある場合には、それを遵守すること。

� 被分与者は、分与を受けた動物を学術研究にのみ使用し、商業目的に使用したり、分与者の了

解を得ずに第 3 者に分与しないこと。

� 被分与者は、分与動物を用いた研究成果を公表する場合には、論文等に開発者の名または開発

者の文献を記載するとともに、その別刷り 1 部を分与者に送付すること。

7. 被分与施設管理者

� 被分与施設管理者は、被分与者と協力して微生物検査成績書、調査レポートの収集に努め、そ

れらの書類を保管すること。

� 被分与施設管理者は、収集した情報を参考にして分与動物の施設搬入許可、飼養場所を決定す

ること。更に、必要な場合には、一定期間隔離飼育して検疫を実施すること。

8. 授受の方法、輸送中の事故防止、その他

� 分与の申込み、承諾及び受領の確認は様式 1、2、3 号によることとし、分与者及び被分与者は

これらの書類を保管すること。

� 分与者及び被分与者は、実験動物の輸送に際して、「実験動物の飼養及び保管等に関する基

準」の第3条第2項に留意し、実験動物の福祉、健康、安全面への配慮と実験動物による事故の

防止に努めること。特に、遺伝子操作動物等の輸送に際しては、「動物実験施設における遺伝子

操作動物の取扱いに関する手引き」に準じて逃亡防止に最善の配慮をすること。

� 施設の管理者は、本ガイドラインの趣旨が活かされるよう、平素から施設内の実験動物の微生

物学的状態等について把握できる体制の整備に努めること。

9. 付記

� スタート後なるべく早期に、現ステータスの評価と、公私立大学実験動物施設協議会等関係者

間で調整を始める。

� 微生物検査メニューの追加・削除等の見直しを行うため、3�5年くらいのスパンで再評価作

業を行う。

� 凍結胚・凍結配偶子による実験動物の授受が今後増加する傾向にある。清浄性、輸送コストを

考慮するとこの方法はアドバンテージが高いと思われるので、近い将来この方法が主体になるこ

とを視野に入れて、各施設において技術の習得等準備に努めることが重要である。

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表1 微生物学的モニタリング対象微生物および寄生虫

大学動物実験施設における実験用マウスおよびラットに対する微生物学的モニタリングの対象として、この表に示す微生

物および寄生虫の検査を推奨する。これらの検査成績を、施設の衛生管理や動物の相互分与時の検疫の参考とする。

なお、検査成績評価の参考として、日本実験動物協会/ICLAS モニタリングセンターによる微生物のカテゴリー(*)、

発生頻度(**)のスコア(☆が多いほど高い)を示し、これらを総合的に判定して微生物学的ステータスを以下の3種に

分類するとともに、定期検査と非定期検査に分類する。

マウス

Pathogen カテゴリー(*) 発生頻度(**) ステータス 定期/非定期検査

Mouse hepatitis virus B ☆☆☆ Min 定期

Sendai virus (HVJ) B ☆☆☆ Min 定期

Ectromelia virus B Min 非定期

Lymphocytic choriomeningitis virus A Min 非定期

Mouse rotavirus (EDIMV) B/C ☆☆ Com 非定期

Mouse parvovirus MVM/MPV) C ☆☆ Com 非定期

Mouse encephalomyelitis virus (TMEV) C ☆☆ Com 非定期

Pneumonia virus of mice(PVM) C ☆☆ Com 非定期

Mouse adenovirus C ☆ Com 非定期

Reovirus type 3 C ☆ Com 非定期

Lactate dehydrogenase elevating virus C ☆☆ Com 非定期

Mycoplasma pulmonis B ☆☆☆ Min 定期

Salmonella spp. A ☆ Min 定期

Clostridium piliforme (Tyzzer’s organism) C ☆☆ Min 定期

Corynebacterium kutscheri C ☆☆ Min 定期

Pasteurella pneumotropica C ☆☆☆ Com 定期

Cilia-associated respiratory (CAR) bacillus C ☆☆ Com 非定期

Citrobacter rodentium

(Escherichia coli O115 a,c;K(B))

B/C ☆ Com 非定期

Helicobacter hepaticus C ☆☆ Com 非定期

Pseudomonas aeruginosa D/E ☆☆☆ Ex 定期/非定期

Staphylococcus aureus D/E ☆☆☆ Ex 非定期

Pneumocystis carinii D ☆☆ Ex 非定期

Pathogenic protozoa

Giardia muris C ☆☆ Com 定期***

Spironucleus muris C ☆☆ Com 定期***

Nonpathogenic protozoa

Trichomonads etc. E ☆☆☆ Ex 定期***

Helminths (pinworms) C ☆☆☆ Com 定期***

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ラット

Pathogen カ テ ゴ リ ー

(*)

発生頻度(**) ステータス 定期/非定期検査

Sialodacryoadenitis virus (SDAV) B ☆☆☆ Min 定期

Sendai virus (HVJ) B ☆☆☆ Min 定期

Hanta virus A ☆ Min 定期

Rat parvovirus (KRV/H-1/RPV) C ☆☆ Com 非定期

Mouse encephalomyelitis virus (TMEV) C ☆ Com 非定期

Pneumonia virus of mice(PVM) C ☆ Com 非定期

Mouse adenovirus C ☆ Com 非定期

Reovirus type 3 C ☆ Com 非定期

Mycoplasma pulmonis B ☆☆☆ Min 定期

Salmonella spp. A ☆ Min 定期

Clostridium piliforme (Tyzzer’s organism) C ☆☆ Min 定期

Corynebacterium kutscheri C ☆☆ Min 定期

Bordetella bronchiseptica C ☆☆ Min 定期

Pasteurella pneumotropica C ☆☆☆ Com 定期

Streptococcus pneumoniae C ☆ Com 非定期

Cilia-associated respiratory(CAR) bacillus C ☆☆ Com 非定期

Pseudomonas aeruginosa D/E ☆☆☆ Ex 定期/非定期

Staphyloccoccus aureus D/E ☆☆☆ Ex 非定期

Pneumocystis carinii D ☆☆ Ex 非定期

Pathogenic protozoa

Giardia muris C ☆☆ Com 定期***

Spironucleus muris C ☆☆ Com 定期***

Nonpathogenic protozoa

Trichomonads etc. E ☆☆☆ Ex 定期***

Helminths (pinworms) C ☆☆☆ Com 定期***

(*)「実験動物の微生物モニタリングマニュアル」日本実験動物協会/ICLAS モニタリングセンター編、日本実験動物協会、1988. ここでは、本マニュアルのカテゴリーに沿って新たな微生物・寄生虫も追加分類した。

(**)☆�過去20年程度に国内での発生わずかにあり、☆☆�時々あり、☆☆☆�頻繁にあり、無印�全くなし。

(***)小腸および大腸内容物の鏡検 微生物学的ステータス(微生物学的状況)

M i n i m u m �これらの微生物検査は陰性であること。 C o m m o n �これらの微生物検査は陰性であることが望ましい。特に、系統維持動物は陰性であることをめざす。

Excellent�これらの微生物は、高度の免疫不全動物や免疫抑制実験では陰性であることが望ましい。しかし、これらを

周辺環境から完全に排除するには厳密な管理と設備が必要であり、通常の実験においては存在の可否を問わない。 定期/非定期検査の考え方

定期検査とすべきものは、カテゴリー、発生頻度、ステータス、飼育環境の指標としての意義、検査体制の現状等を総合的に判断したものである。非定期検査は、飼育施設の状況や実験目的に応じて、随時検査を行うものであるが、将来的に

国内の検査体制の整備や検査キットの開発に応じて定期検査とすべきである。

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(様式1号)

年 月 日

No.

大学 殿

所属

氏名 印

連絡先 電話/FAX

E-mail

実 験 動 物 の 分 与 依 頼 書

下記の実験動物の分与をお願いいたします。

動物種

系統名等

分与希望数

分与を希望する理由(差し支えのない範囲で)

なお、分与を受けるにあたり、「実験動物の授受に関するガイドライン」に従うととも

に、特に次の事項を遵守することを誓います。 1) 本動物に関する開発者の優先権を尊重し、使用制限事項(特許、登録商標、その

他の知的所有権等)がある場合には、それを遵守いたします。

2) 分与を受けた動物は、学術研究のみに使用し、商業目的に使用したり、分与者の

了解を得ずに第3者に分与することはいたしません。

3) 分与動物を用いた研究成果を公表する場合には、論文等に開発者の名または開発者の文献を記載するとともに、その別刷一部を分与者に送付いたします。

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(様式2号) 年 月 日

No.

大学

殿

所属

氏名 印

連絡先

電話/FAX E-mail

実験動物の分与承諾書

先に、分与依頼書により依頼のあった下記の実験動物の分与を承諾します。

動物種

系統名等

分与可能数

使用制限事項(特許、登録商標、その他の知的所有権等)

なお、分与は「実験動物の授受に関するガイドライン」に従って行います。

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(様式3号) 年 月 日

大学

殿

所属

氏名 印

連絡先

電話/FAX

E-mail

分 与 動 物 受 領 書

下記の分与動物を確かに受領いたしました。

分与依頼書 No.

動物種

系統名等

匹数

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(様式4号の1)

実験動物授受のための動物健康及び飼育形態調査レポート(案)

-Rodent Transfer Report-

本レポートは、被分与施設における分与動物の受入れの際に参考資料として活用さ

れますので、是非回答の程ご協力お願いします。

1.動物の健康調査に関して

A.分与動物名:

B.分与動物に関するこの健康調査レポートは、貴施設におけるどの動物に対しての情報提供で

すか?

□貴施設の全動物 □分与動物が飼育されていた部屋の動物のみ

C.貴施設では、動物の微生物モニタリングについての国動協のガイドラインに準拠しています

か?

□はい □いいえ (“はい”の場合、検査メニューは次のいずれですか?

□Excellent Status、 □Common Status、□Minimum Status)

D.貴施設では、動物の微生物モニタリングをどのくらいの頻度で行っていますか?

□1回未満/年、□1回程度/年、□2回程度/年、□3回程度/年、□4回程度/年、□6

回以上/年、□その他

E.微生物モニタリングに提供された動物は次のどちらですか?

□モニター(センチネル)動物

(分与動物と[□同じケージ、□同じラック、□同じ飼育室、□同じ飼育区域]内で飼育)□

無作為抽出動物

(分与動物と[□同じケージ、□同じラック、□同じ飼育室、□同じ飼育区域]内で飼育)

F.この健康調査レポートを提出する以前に、疾病上の問題が生じたことがありますか?

(注:少なくとも最近1年以内に起きた問題については必ず記入して下さい)

①施設全体上の問題

□はい□いいえ(“はい”の場合、支障がなければそのレポート等のコピーを提出して下さい)

②分与動物に関連する問題

□はい□いいえ(“はい”の場合、支障がなければそのレポート等のコピーを提出して下さい)

G.貴施設では信頼のおけるブリーダー以外からの動物を検査せずに導入することがありますか?

□はい□いいえ(“はい”の場合は、検査しなかった理由を以下に説明して下さい。また、隔

離ないしは後日検査をしましたか?)

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(様式4号の2)

H.今回の分与動物は、上記の信頼おけるブリーダー以外の動物と同室で同居していますか?

□はい □いいえ(“はい”の場合、支障がなければ上記の動物についての健康状態に関する

資料のコピーも提出して下さい。)

2.分与動物の飼育形態について

A.貴施設における分与動物の飼育形態はいずれと考えますか?

□バリア・SPF(完全滅菌のブーツ、マスク、ガウン使用や入域制限区域など)

□準SPF扱い(高性能フィルターによる空調、滅菌済み飼育器材類使用、しかし一般的実験

衣服、入域制限なしなど)

□コンベンショナル(未滅菌飼育器材類の使用、オープンケージなど)

□その他(以下に具体的に記入して下さい)

B.分与動物に対して最近よく使用されているマイクロアイソレーター・ケージや一方向性気流

方式飼育装置などを使用していますか?

□はい □いいえ(“はい”の場合、次のどの装置ですか? □マイクロアイソレーター・ケ

ージ、□フィルタートップ・ケージ、□クリーン・ラック類、□一方向性気流方式飼育装置、

□その他:( )

C.同一飼育室で複数の動物種を飼育していますか?

□はい □いいえ

D.分与動物が飼育されている部屋で、繁殖は行われていますか?

□はい □いいえ

3.分与動物について何かコメントがあれば以下に記入して下さい。

回答者(分与者または分与施設管理者)

1.分与者氏名:

TEL:

FAX:

E-mail:

2.分与施設管理者氏名:

TEL:

FAX:

E-mail:

3.レポート作成日:平成 年 月 日

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附属資料 6

感染動物実験における安全対策

国立大学動物実験施設協議会

1987年5月 制定

2000年6月 2日 改訂

2001年5月25日 改訂

医学生物学研究における実験動物への病原体の感染実験を対象とする。これと同様の危険性が考えられるものとして、

病原性の高い病原体に自然感染し病原体を排泄する可能性が考えられる実験動物、特に野生動物を取り扱う場合も対象とする。

安全度は1-4に分ける。これは人に対する危険性から分類されたものであって、試験管内実験におけるクラス1-4にほぼ相当する。実験動物間での伝播に特に注意を要する環境での実験、すなわち、病原体による同居感染の可能性があ

るため、他の正常動物との隔離を特に必要とする場合には1ランク上げるものとする。(分類表中アスタリスク[*]で示す)。

安全度1:人に対して病原性をほとんど示さず、人の実験室感染及び実験動物間での同居感染の可能性がほとんどないもの。

安全度2:以下の条件の何れかに該当するもの。

1. 通常の病原微生物学的設備および操作手順で人への実験室感染を防ぐことが可能であるもの。

2. 実験動物に感染し、病原性を示したり、動物実験成績への影響の可能性があるもの。

安全度3:以下の条件の何れかに該当するもの。 1. 通常の病原微生物学的設備および操作手順で人への実験室感染を確実に防ぐことが出来るが、感染発病した場

合には重症になる可能性のあるもの。

2. 人への実験室感染の可能性が高く、感染発病した場合、重症になる可能性があるもので、有効な予防法または治療法の存在するもの。

3. 実験動物に感染する病原体で、感染性や病原性が強く、感染した場合には動物実験への影響が大きいもの。

安全度4:人への実験室感染の可能性が高く、感染した場合、重症になる可能性のあるもので有効な予防法又は治療法が

存在しないもの。

標準操作手順及び設備基準

[安全度1] 標準操作手順

1. 感染実験区域内への飲食物の持込みまたは喫煙を禁止する。 2. 動物飼育室内に手洗い装置を設け、作業後は手指の洗浄消毒を行う。

3. 作業時には、マスク、帽子及びゴムまたはプラスチック製手袋を着用する。

4. 床敷交換などの作業時のエアロゾル発生を極力防ぐ。 5. 使用済みケ�ジ等汚染器材は消毒または滅菌したのち洗浄する。

6. 汚染床敷や動物由来排泄物は消毒または滅菌したのち廃棄する。 7. 動物死体は焼却する。

8. 動物飼育室内では専用の作業衣、長靴などを着用する。

9. 動物実験関係者以外の立ち入りを制限する。 安全設備

1. 動物の飼育は脱出防止装置の付いたケージ内でおこなう。 動物飼育室の構造

1. 感染実験区は他の区域と区別し、昆虫及びげっ歯類の侵入を防止する。

2. 床、壁には耐水性でかつ消毒薬耐性の素材を用いる。 3. その他は非感染動物飼育室の構造に準じる。

[安全度2]

標準操作手順

安全度1の手順に以下を加える。 1. 使用済みのケージなど汚染器材や動物死体は高圧蒸気滅菌を行ったのち洗浄または焼却する。

安全設備

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単純飼育時 1. マウス、ラットの飼育にはケージにフィルターキャップをかぶせたり、あるいは感染動物用アイソレータ(A

形、B形)内で行う。

飼育管理作業時及び接種・解剖作業時

1. 高濃度のエアロゾルを発生する作業は、クラス I、II 形生物学用安全キャビネットおよび感染動物用安全キャビネット、または感染動物用アイソレータ(A形、B形)内でおこなう。

その他 1. 感染実験区域内に高圧蒸気滅菌装置を設置する。

動物飼育室の構造

1. 安全度1に準じる。

[安全度3] 標準操作手順

安全度2の操作手順に以下を加える。

1. 動物飼育は原則として実験担当者が行う。 安全設備

単純飼育時 1. 動物の飼育は感染動物用安全キャビネットまたは感染動物用アイソレータ(A形)内でおこなう。

飼育管理作業時及び接種・解剖作業時

1. クラス I、II 形生物学用キャビネットおよび感染動物用安全キャビネット、または感染動物用アイソレータ(A形)内でおこなう。

その他 1. 安全度2に準じる。

動物飼育室の構造

1. 動物飼育室の窓は非開閉式にする。 2. 動物飼育室内は陰圧に保ち、準備室、飼育前室から動物飼育室内へ空気が流入する一定方向気流方式の空調を

行う。 3. 非常用電源の確保や逆流防止ダンパーの設置により、停電時の空気の逆流防止対策を考慮する。

4. 動物飼育室からの排気は高性能フィルタで濾過したのち放出する。

5. 感染実験区域の入口にはエアロックまたは二重ドアを設置する。 6. 配管貫通部を塞ぎ、動物飼育室内のホルマリンガスによる燻蒸消毒が可能な密閉構造とする。

[安全度4]

標準操作手順

安全度3の操作手順に以下を加える。 1. 隔離区域から出る際にはシャワーを浴びる。

安全設備 単純飼育時、飼育管理作業時、及び接種・解剖作業時

1. 動物飼育実験はすべて完全密閉のグローブボックス型安全キャビネット内で行う。この安全キャビネットには

両面高圧蒸気滅菌装置、消毒薬槽(ダンクタンク)及び二重扉の器材搬出入口を設ける。 2. 使用済みケージ、器材、実験試料、動物死体はすべてグローブボックス型安全キャビネットに取り付けた両面

高圧蒸気滅菌装置で滅菌したのち取り出す。動物死体はさらに焼却する。 3. 病原体試料は完全密閉の小型容器にいれ、消毒薬槽を通して表面を消毒したのち取り出す。

4. 動物や試料の搬入は器材搬出入口を通して行う。この際、二重扉間の空気は過酢酸等で滅菌する。

5. 実験室とサポート域の間に実験器材の搬出入用として両扉高圧蒸気滅菌装置及び両扉ガス(エチレンオキサイドまたはホルマリン)滅菌装置を設ける。

動物飼育室の構造 1. 独立した建物として、隔離域とそれを取り囲むサポート域を設ける。

2. 壁、床、天井はすべて耐水性かつ気密性のものとし、これらを貫通する部分(給排気管、電気配線、ガス、水

道管等)も気密構造とする。 3. 作業者の出入口には、エアロックとシャワーをもうける。

4. 実験室内の気圧には隔離の程度に応じて差を設け、高度の隔離域から低度の隔離域へ、また低度の隔離域からサポート域へ空気が流出しないようにする。

5. 実験室への給気は、1層の HEPA フィルターを通す。実験室からの排気は2層の HEPA フィルターを通して外部

に出す。この排気滅菌装置は予備を含めて2組設け、さらにその場において滅菌可能な構造とする。 6. 実験室からの研究排水は 120℃加熱滅菌し、冷却したのち、一般下水へ放出する。

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動物実験における病原体の安全度分類

注)本分類は参考資料としてまとめたものであり、その運用に当たっては各大学のバイオセフティ委員会や動物実験施設

関係者等の協議により、判断するものとする。(アンダーライン:主に実験動物に感染する病原体 *:正常動物との隔

離を特に必要とする場合には1ランク上げる)

ウイルス Class 1

Live vaccine virus (Vaccinia, Rabies, Rinderpest vaccine を除く)

Class 2 BK

Batai Borna

Bunyamwera

California encephalitis Canine adeno (Infectious canine hepatitis)

Canine distemper Canine parvo

Cavid herpes 1(Guinea pig cytomegalo)

Cowpox Coxsackie (全型)

Dengue (全型) Echo (全型)

Ectromelia (Mouse pox) *

Encephalomyocarditis (EMC) Entero (68, 69, 70, 71)

Epstein-Barr (EB) Feline calici

Feline immunodeficiency

Feline infectious peritonitis Feline leukemia

Feline panleukopenia Feline rhinotrachitis

Gibbon ape lymphosarcoma

Hepatitis (A, B, C, D, E) Herpes papio

Herpes saimiri Herpes simplex (1, 2)

Human Parvo

Human Rhino Human Rota

Human T-cell leukemia -lymphoma (HTLV 1, 2) Human adeno

Human astro

Human calici Human corona

Human cytomegalo Human herpes (6, 7, 8)

Human papilloma

Influenza (A, B, C) JC

Japanese encephalitis Kilham's rat

La Crosse

Lactate dehydrogenase-elevating (LDV)

Langat

Measles (SSPE を含む) Minute virus of mice (MVM)

Monkey pox *

Mouse adeno Mouse cytomegalo

Mouse encephalomyelitis (TMEV) Mouse hepatitis *

Mouse polyoma

Mouse rota(EDIM) Mouse thymic

Mumps Murine leukemia

Myxoma *

Newcastle disease Orbi

O' Nnyong-Nnyong Parainfluenza(1-Sendai*, 2, 3, 4)

Pneumonia virus of mice(PVM)

Polio (1, 2, 3) Prion disease agents (Creutzfeldt-Jakob,

BSE, Scrapie)

Rabbit hemorrhagic disease *

Rabbit parvo Rabbit pox

Rabbit rota Rat cytomegalo

Rabies (fixed, live vaccine)

Reo Respiratory syncytial (RS)

Rinderpest (vaccine strain) Rio Bravo

Rubella

Sendai (HVJ)* Sialodacryoadenitis(rat corona)

Simian immunodeficiency (SIV) Sindbis

Vaccinia

Varicella -Zoster Vesicular stomatitis

Woodchuck hepatitis Wooly monkey lymphosarcoma

Yaba monkey tumor pox

Class 3 Chikungunya

Colorado tick fever

Eastern equine encephalomyelitis Hanta (Hemorrhagic fever with renal syndrome

(HFRS) )

Herpes ateles

Human immunodeficiency (HIV 1,2) Kyasanur forest disease

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Lymphocytic choriomeningitis (LCM) Mayaro

Murray valley encephalitis Negishi

Powassan

Rabies (street strain) Rift valley fever

Russian Spring-Summer encephalitis

Semliki forest St. Louis encephalitis

Tacaribe Tanapox

Tick-borne encephalitis

Venezuelan equine encephalitis (VEE) Western equine encephalitis (WEE)

West Nile fever

Class 4

Crimean Congo hemorrhagic fever Ebola

Hanta (Hantavirus pulmonary syndrome (HPS)) Herpes B **

Junin

Lassa fever Machupo

Marburg disease Variola (major,minor)

Yellow fever (17D vaccine strain を除く)

** : Bウイルスの診断のため、少量の培養を含む検査は安全度 3の設備で実施できるとの見解が、国立感染症研究所の病原体等安全管理規程に示されている。

細菌およびマイコプラズマ (ここにない細菌およびマイコプラズマの分類は、日本細菌学会バイオセフティ指針を参考にする)

Class 1 Class 2および Class 3に属さない細菌

(Class 2 あるいは Class 3 に近縁種がある場合は、それを参考にして判断する)

Class 2

Actinomadura madurae Actinomadura pelletieri

Actinomyces bovis Actinomyces israelii

Actinomyces pyogenes

Actinomyces viscosus Aeromonas hydrophila(毒素原性株)

Aeromonas sobria(毒素原性株) Bacillus cereus(毒素原性株)

Bordetella bronchiseptica

Bordetella parapertussis Bordetella pertussis

Borrelia (全菌種) Burkholderia cepacia

Calymmatobacterium granulomatis

Campylobacter coli Campylobacter jejuni

Chlamydia pneumoniae Chlamydia trachomatis

Cilia-associated respiratory(CAR) bacillus

Clostridium botulinum Clostridium difficile

Clostridium haemolyticum Clostridium histolyticum

Clostridium novyi

Clostridium perfringens(毒素原性) Clostridium piliforme (Tyzzer's organism) *

Clostridium septicum Clostridium sordelli

Clostridium sporogenes

Clostridium tetani Corynebacterium diphtheriase

Corynebacterium jeikeium Corynebacterium kutscheri *

Corynebacterium pseudodiphtheriticum

Citrobacter freundii Citrobacter rodentium(Escherichia coli

O115a,c;K(B)) Erysipelothrix rhusiopathiae

Escherichia coli (E.coli,K12 株,B 株並びにその誘導体を除く)

Francisella novicida

Fusobacterium necrophorum Haemophilus(Actinobacillus)

actinomycetemcomitans Haemophilus ducreyi

Haemophilus influenzae

Helicobacter hepaticus Helicobacter pylori

Klebsiella oxytoca Klebsiella pneumoniase

Legionella 全菌種(Legionella-like organisms

を含む) Leptospira interrogans全血清型

Listeria monocytogenes Moraxella (Branhamella) catarrhalis

Mycobacterium avium

Mycobacterium chelonae Mycobacterium fortuitum

Mycobacterium haemophilum Mycobacterium intracellulare

Mycobacterium kansasii

Mycobacterium leprae Mycobacterium ulcerans

Mycobacterium lepraemurium Mycobacterium malmoense

Mycobacterium marinum

Mycobacterium paratuberculosis Mycobacterium scrofulaceum

Mycobacterium simiae Mycobacterium szulgai

Mycobacterium xenopi

Mycoplasma arthritidis Mycoplasma hominis

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Mycoplasma neurolyticum Mycoplasma pneumoniae

Mycoplasma pulmonis * Neisseria gonorrhoeae

Neisseria meningitidis

Nocardia asteroides Nocardia brasiliensis

Nocardia farcinica Nocardia otitidiscaviarum

Pasteurella multocida (動物に疾病をおこす血

清型(Class 3)を除く) Pasteurella pneumotropica

Plesiomonas shigelloides Pseudomonas aeruginosa

Salmonella (Class 3 を除く全血清型) *

Serattia marcescens Shigella 全菌種

Staphylococcus aureus Streptobacillus moniliformis

Streptococcus pneumoniase Streptococcus pyogenes

Streptococcus zooepidemicus *

Treponema carateum Treponema cuniculi

Treponema pallidum subsp. pallidum Treponema pallidum subsp. pertenue

Vibrio cholerae

Vibrio fluvialis Vibrio mimicus

Vibrio parahaemolyticus Vibrio vulnificus

Yersinia enterocolitica

Yersinia pseudotuberculosis

Class 3

Bacillus anthracis Brucella (全菌種)

Burkholderia mallei Burkholderia pseudomallei

Chlamydia psittaci

Coxiella burnetii Ehrlichia canis

Ehrlichia sennetsu Francisella tularensis

Mycobacterium africanum

Mycobacterium bovis Mycobacterium tuberculosis

Orientia tsutsugamushi Pasteurella multocida (動物に疾病を起こす血

清型:B:6, E:6, A:5, A:8, A:9)

Rickettsia spp. Salmonella serovar paratyphi A

Salmonella serovar typhi Yersina pestis

真菌

Class 1

Class 2および Class 3に属さない真菌

(Class 2 あるいは Class 3 に近縁種がある場合は、それを参考にして判断する)

Class 2 Acremonium kiliense

Allescheria boydii

Arachnia propionica Aspergillus fumigatus

Aspergillus spp. (毒素産生株) Candida albicans

Chaetomium spp. (毒素産生株)

Cladosporium carrionii Cladosporium trichoides (C. bantianum)

Cryptococcus neoformans Curvularia geniculata

Dreschslera apiciferum

Expophiala dermatitidis Fonsecaera pedrosoi

Fusarium spp. (毒素産生株) Leptosphaeria senegalensis

Madurella grisea

Madurella mycetomii

Microsporum canis

Microsporum gypseum Mucor sp.

Myrothecium spp. (毒素産生株) Neotestudina rosatii

Penicillium spp. (毒素産生株)

Phialophora jeanselmei Pneumocystis carinii * (従来、protozoa とさ

れてきたが、真菌だとする場合もある) Pyrenochaeta romeroi

Rhizopus sp.

Sporothrix schenckii Trychophyton mentagrophytes

Trychophyton schoenleinii Trychophyton simii

Trychophyton verrucosum

Class 3

Blastomyces dermatitidis Coccidioides immitis

Cryptococcus neoformans

Histoplasma capsulatum

Histoplasma duboisii Histoplasma farciminosum

Paracoccidioides brasiliensis

Penicillium marneffei

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寄生虫

Class 1 Class 2および Class 3 に属さない原虫類、吸虫類、条虫類および線虫類

(Class 2 あるいは Class 3 に近縁種がある場合は、それを参考にして判断する)

Class 2

Protozoa Babesia spp. (ookinete)

Balantidium coli (cyst)

Cryptosporidium spp. (oocyst) Eimeria spp. (oocyst)

Encephalitozoon (Nosema) cuniculi (spore) Giardia spp. (trophozoite, cyst)

Leishmania spp. (promastigote, amastigote)

(レベル3に示すものを除く)

Neospora caninum (cyst)

Pentatrichomonas hominis (trophozoite)

Pneumocystis carinii (cyst) * ( 従来、protozoa とされてきたが、真菌だとする場合も

ある) Sarcocystis spp. (sporocyst, gametocyte)

Spironucleus muris(trophozoite, cyst)

Trichomonas vaginalis (trophozoite)

Trematoda Centrocestus spp. (metacercaria)

Clonorchis sinensis (metacercaria)

Dicrocoelium dendriticum (metacercaria) Echinostoma spp. (metacercaria)

Echinochasmus perfoliatus (metacercaria) Fasciola hepatica (metacercaria)

Fasciolopsis buski (metacercaria)

Gigantobilharzia spp. (cercaria)

Heterophyes heterophyes (metacercaria)

Metagonimus yakogawai (metacercaria) Opistorchis spp. (metacercaria)

Paragonimus spp. (metacercaria) Plagiorchis muris (metacercaria)

Trichobilharzia spp. (cercaria)

Cestoda

Bertiella studeri (cysticercoid) Diphyllobothrium latum (plerocercoid)

Dipylidium spp. (cysticercoid, procercoid,

plerocercoid) Diplogonoporus grandis (plerocercoid)

Hymenolepis diminuta (cysticercoid)

Raillietina celebensis (cysticercoid) Taenia spp. (egg, cysticercus) (レベル3

に示すものを除く)

Vampirolepis (Hymenolepis) nana (egg, cysticercoid)

Nematoda

Ancylostoma spp. (larva) Anisakis spp. (larva)

Ascaris lumbricoides (egg) Aspiculuris tetraptera (egg)

Brugia spp. (larva)

Capillaria hepatica (egg) Dirofilaria spp. (larva)

Dracunculus medinensis (larva) Enterobius vermicularis (egg)

Gnathostoma spp. (larva)

Loa loa (larva)

Mansonella perstans (larva) Necator americanus (larva)

Onchocerca volvulus (larva) Pseudoterranova decipiens (larva)

Rhabditis spp. (larva)

Syphacia spp. (larva) Thelazia callipaeda (larva)

Toxocara spp. (egg) Trichostrongylus orientalis (larva)

Trichuris trichiura (egg)

Wuchereria bancrofti (larva)

Class 3 Protozoa

Acanthamoeba (Hartmannella) culbertsoni

(trophozoite, cyst) Entamoeba histolytica (cyst)

Leishmania donovani (promastigote, amastigote)

Leishmania braziliensis (promastigote,

amastigote) Naegleria fowleri (trophozoite, cyst)

Plasmodium falciparum (erythrocytic stage, sporozoite)

Plasmodium malariae (erythrocystic stage,

sporozoite)

Plasmodium ovale (erythrocystic stage, sporozoite)

Plasmodium vivax (erythrocystic stage,sporozoite)

Simian malarial parasites (erythrocystic

stage, sporozoite) Toxoplasma gondii (tachyzoite, bradyzoite,

oocyst) Trypanosoma spp. (trypomastigote,

amastigote)

Trematoda

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Schistosoma spp.(cercaria)

Cestoda Echinococcus spp. (egg, hydatid sand) Taenia solium (egg)

Nematoda Angiostrongylus spp. (larva)

Baylisascaris procyonis (egg) Capillaria philippinensis (larva)

Strongyloides spp. (larva)

Trichinella spiralis (larva)

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附属資料 7

「動物実験施設における遺伝子導入動物の取扱いに関する手引き」

国立大学動物実験施設協議会

平成 7年 5月

Ⅰ.はじめに

近年、遺伝子を導入または改変した、いわゆる遺伝子導入動物(以下、Tg動物と略)

が生産され、広く使用されるようになってきた。また、国内外で作製されたTg動物の研

究者間の分与や業者による販売も開始され、今後Tg動物を用いた動物実験が益々多く行

われるようになると予想される。

現在、Tg動物を取り扱う動物実験は、「組換えDNA実験に準ずる実験(動物個体を用

いる実験:附属資料1)」として扱われ、その基本的事項は、「大学等における組換えDN

A実験指針(平成6年6月)」に示されている。また動物実験であるからには、動物実験施

設職員及び実験者は「動物の保護及び管理に関する法律」「実験動物の飼養及び保管等に関

する基準」「大学等における動物実験について(昭和62年5月25日付け学術国際局長通

知)」や、各大学等における「動物実験指針」などを遵守するという前提がある。

この手引きは上記の指針、法律等のもとで、各動物実験施設内で行われるTg動物を用

いた実験において、その取扱いに関する基本的事項について記載してある。

なお、Tg動物の作出にはその前段階として組換えDNA実験が伴うものであり、これ

に関する諸事項も「大学等における組換えDNA実験指針」に示されていることから、本

手引きには含めない。また、Tg動物のうち文部大臣により安定かつ安全な系統動物とし

て認定されたものは、一般の実験動物の系統と同様に取扱えることから本手引きには含め

ない。

Ⅱ.Tg動物の概念

ここでいうTg動物とは、遺伝子操作によって遺伝子を導入または改変した動物をいう。

いわゆる transgenic animal や gene targeted animal である。一般にマウスが最もよく用

いられることから、本手引きはマウスを中心とした小型げっ歯類を対象とした。

なお、遺伝子組込みベクターを導入した遺伝子治療モデル動物や、異種の遺伝子を組込

んだ組織等の移植実験動物もTg動物に準ずるものとして取扱うこととする。

Ⅲ.Tg動物取扱いの基本

組換えDNA実験では、各種DNAの組換え分子を試験管内で作製し、それを微生物等

の細胞に移入し、DNAを増殖させたり、移入細胞(組換え体)を用いて実験を行う。こ

の場合、組換えDNAや組換え体が実験者や外部環境へ伝播・拡散することを防止する方

策として実験の安全確保が定められている。すなわち物理的封じ込め(Pレベル)と生物

学的封じ込め(Bレベル)である。

一方、動物個体を用いる実験は、宿主である動物の態様が微生物や動植物培養細胞とは

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全く異なることから、組換えDNA実験から切り離されて、「組換えDNA実験に準ずる実

験」として取扱われているのは前述の通りである。すなわち、Tg動物はそれ自体が組換

え体と考えられ、組換えDNA実験の組換え体が肉眼で確認されないのに対し、動物個体

ごとに肉眼で観察可能であり、管理区域内での存否をただちに確認できる。また、Tg動

物はこれまで自然界に存在しない動物であり、これが外部へ逃亡した場合は自然環境に影

響を与える可能性がある。すなわち、同種の動物との交配・繁殖することにより、自然生

態系を変化させることも考えられる。したがってTg動物の取扱いの基本は実験室外へ逃

亡させない措置が絶対必要条件である。

次にTg動物は、作出の時点で上記のようにこれまで存在しなかった新しい系統が得ら

れたことになる。したがって各研究者が作出したTg動物は他のどこにもない系統である。

この系統を維持するためには厳密な感染症対策が必要となるので微生物的モニタリングが

不可欠である。導入遺伝子の安定性や、Tg動物の遺伝的素因にもとづく系統維持の困難

さ、及びTg動物の遺伝的モニタリングの必要性等は研究自体の問題であるため、ここで

は取りあげない。

Tg動物の取扱いをまとめると次のようになる。

(1)Tg動物がケージ外や飼育室外へ逃亡できないように管理する。

(2)Tg動物の維持に際しては、微生物感染症対策を厳密に行う。

以上の2点を考慮した措置を講ずれば、Tg動物は他の実験動物と同様に取り扱って差

し支えない。

Ⅳ.Tg動物の作出

1.動物

Transgenic animal 作出の場合は受精卵に、gene targeted animal 作出の場合は胚幹(E

S)細胞に遺伝子を導入し、前者は直接母体に、後者は胚盤胞に注入してから母体にそれ

ぞれ移植する。

施設内でTg動物を作出するために使用する動物は、将来他施設へ分与する可能性を考

慮してSPF動物が望ましい。また、その後交配により子孫を得、系統確立までに使用す

る動物もSPF動物が望ましい。一般に施設での小型げっ歯類を用いる動物実験ではSP

F動物を用いることが多く、ブリーダーの選択、遺伝的・微生物的モニタリング(ブリー

ダーからの証明を含む)、購入・授受の方式、検疫等についての研究者側、施設側の対応は

一般動物と変わらない。しかしTg動物は他実験動物と異なり、将来は一系統として繁殖

維持し続けることが多いので、微生物感染症対策が重要である。昨今国内外で特に問題と

なっているのは、マウス肝炎ウイルス(MHV)、センダイウイルス(HVJ)、マイコプ

ラズマ感染であり、このほか持続感染を起こす微生物についても考慮する。したがってこ

れらの微生物に関する検査体制を整備する必要があろう。

研究者によってはコンベンショナル動物(及び環境)を用いる場合があるが、この場合

はSPF動物から隔離した実験室を設定し、これについても微生物モニタリングを行う必

要がある。

2.作出のための実験・飼育室

Tg動物作出用には、もとになる動物の系統、生殖能力、組換えDNAの種類、実験者

の習熟度などで、必要な動物数の幅が大きく、統一したスペースを提示する事は困難であ

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る。一般的には、組換えDNA作製は施設外で行われるであろうから、それに要するスペ

ースは考える必要はない。

実験室は原則的に3室必要である。

① 受精卵、胚操作用の実験室:実験室は「大学等における組換えDNA実験指針」に

定められた安全度を有するものとする。

② 非Tg動物飼育室:受精卵や胚を供給する動物、偽妊娠動物作製用等

③ Tg動物作出用飼育室:飼育室は「大学等における組換えDNA実験指針」に定め

られた安全度を有するものとする。

必要な動物数は幅が大きいが、Tg動物を1系統作出するとした場合の動物数及びケー

ジ数を参考例として第1表に示す。なお、ここ数年発生工学分野の技術的進展が著しく、

凍結受精卵を使用した組換えDNA実験が可能である。このため、第1表の非Tg動物用

動物数やケージ数を減ずることは可能である。

第1表.1系統あたりの必要動物数及びケージ数(参考例)

動 物 匹 数 ケージ数

非 Tg 動物 ~100 ~50

Tg 動物 200~250 50~100

3.Tg動物の維持

実験初心者並びに施設が最も注意しなけらればならないのは、新しいTg動物の系統が

確立されると、その繁殖・維持のためのスペースが必要となることである。F2以後のT

g動物系統の繁殖・維持数、すなわちスペースと労力をどの程度見込むかが極めて重要で

ある。これは実験の規模によって異なるが、飼育Tg動物数は指数関数的に増加し、数百

匹から千匹のオーダーとなるのでこの点をあらかじめ想定しておかなければならない。そ

れだけのスペース、飼育棚、ケージ数が必要となることを実験開始時に実験者並びに施設

側は覚悟しておくべきである。なお、Tg動物は受精卵や精子を凍結して系統保存を図る

ことも可能である。

Ⅴ.Tg動物の飼育管理

1.飼育室・実験室

(1)Tg動物が逃亡または隠れるような床、壁、天井の隙間や、給排気口・排水管等の開

口部には逃亡防止策を講ずること。例えば、給排気口には金属性の多孔板や網、排水口等

の開口部にはスノコを設置し、その径は8 mm 以下が望ましい。

(2)廊下と飼育室の間の扉(入口)には「ネズミ返し」をつけ、その高さは45 cm 以上

が望ましい。できれば飼育室に前室を設けるか、飼育棚・実験台を設置するスペースと入

口との間も「ネズミ返し」で区切り、ここを前室の代用とすることが望ましい。また適宜

ネズミ取りを数個置いて、逃亡防止策を講ずる。

(3)飼育室・実験室はTg動物専用とし、非Tg動物との同室飼育は原則として避ける。

やむを得ない事情により同室飼育する場合は、それらの動物はTg動物扱いとする。また、

飼育室・実験室にはそれを示す標識(例えば第1図)をつけ、関係者以外の立入制限区域

とする。

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第1図.標識(略)

2.飼育

(1)飼育棚等の設備とケージ

飼育室に多くの系統のTg動物を飼育する場合は、1系統の場合と異なりより厳重な管理

が必要となる。飼育棚及びケージは逃亡防止に配慮した適切なものにする。

(2)個体識別

ケージはもとより、ケージ内のTg動物は個体識別を明瞭にし、個体数のチェックをケー

ジ毎に定期的に行い、必ず記録し、実験終了時までは保管する。

(3)飼育管理作業

Tg動物飼育室内での飼育管理作業は、原則として「大学等における組換えDNA実験指

針」に定める実験責任者及び実験従事者が行うことが望ましい。なお、施設の職員等、上

記実験責任(従事)者以外の者が行う場合は、組換えDNA実験安全委員会または実験責

任者との間で、あらかじめ充分協議を行うこと。

(4)感染性因子

感染性ウイルスを排出する可能性があるTg動物は、飼育・実験・維持等はすべて感染動

物実験区域内で行う必要がある。この際の物理的封じ込めレベルは、異種のDNA分子、

組換えDNA分子または組換え体を得るための作成実験または増殖実験におけるレベルと

同等のレベルを採用する。なお感染実験そのものは、昭和62年に国立大学動物実験施設

協議会において定められた「感染動物実験における安全対策(案):附属資料2」の基準に

則して飼育管理を行う。

(5)Tg動物子孫の飼育管理

実験に用いたTg動物の子孫を得てそれを飼育する場合は、第1代と同様の管理を行う。

(6)排泄物・動物個体等の処理

Tg動物の排泄物、残存飼料・飲用水等は必要に応じて消毒、滅菌、または焼却等の処理

を行うこと。実験終了後の動物個体等は、安楽死後消毒または滅菌を必要に応じて行い、

その後焼却処理を行うこと。また飼育ケージ等も必要に応じて、洗浄前に消毒・滅菌等の

処理を行う。

(7)その他

前述のごとく、飼育数が非常に増加するので、予めTg動物の受精卵凍結または精子凍結

等により系統保存を図るべきである。

Ⅵ.Tg動物の分与・受入れ・購入

1.手続き等

(1)「大学等の組換えDNA実験指針」に従って行う。他の省庁、国内外から受け入れる

場合は、先方の分与手続きに従い、受入れ側は大学等の長の承認を受ける。業者からの購

入もこれに準ずる。いずれの場合も、各大学等の組換えDNA実験安全委員会等の審査を

経る事はいうまでもない。なお、Tg動物の分与については、「動物実験施設間における系

統動物の分与に関するガイドライン:附属資料3」に準じて扱うべきである。

(2)上記Tg動物の受け入れ、購入のほか、Tg動物の作出も含め、実験者と施設及び組

換えDNA安全委員会の審査等の手続きについてフローチャートにしたものの一例を示す

(第2図参照)。

2.輸送

輸送方法は次の3通りがある。

(1)実験者が自分達で取りに行く。

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(2)運搬を実験動物業者等ほかの人に依頼する。

(3)ドライシッパー等により凍結受精卵を輸送する。

輸送用容器は充分な強度を有し、かつ万一容器が破損しても動物が逃亡しないように二重

の容器に収納し、表面に標識(例えば、朱文字で「取扱い注意」)を付ける。なお、病原体

を排出するような動物個体を輸送するときは、郵便規則第8条3号、国際郵便規則第68

条・第69条、万国郵便条約施行規則第119条・第120条を遵守しなければならない。

Ⅶ.おわりに

Tg動物の必要性は今後益々高まり、多方面で利用される事になる。また一度作出され

た系統は、その研究者独自のものであり、系統数が減少することはないと考えられる。し

たがって従来の施設の規模を考慮すると、施設の一部を改造しただけでは対処困難になる。

またTg動物の作出には、常に組換えDNA実験を伴い、Tg動物作出自体も含めて、比

較的高度な技術を集約的に行う必要がある。以上の2点を総合的に考えると、現在の動物

実験施設に加え組換えDNA実験施設の機能を含めた動物実験施設の設立が必要な時期が

到来していると思われる。

また系統維持数の増加を考えると、各種Tg動物系統維持を専業とする企業等の設立の

可能性も視野に入れておく必要があるかもしれない(この場合、作出者の権利委譲その他

の法的問題も含まれる)。

なお、施設長もしくは専任教官は「大学等における組換えDNA実験指針」にもとづく

安全委員会の委員として参加し、情報交換を密にすることも重要であろう。

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実 験 者

分与希望者 (被分与者)

長崎大学

① 組換えDNA実験用の「組換えDNA実験計画書」(様式

2)または「組換えDNA実験に準ずる実験(動物個体を用

いる実験)計画書」(様式3)作成、ならびに、

② 動物実験用「動物実験計画書」作成

学長

「組換えDNA実験

安全委員会」、並びに

「動物実験委員会」で

審査 承 認

提 出

コピー

中央的動物実験施設に提出

実験の開始可能、但し、中央的動物実

験施設を使用するときは、下記のステ

ップが必要

遺伝子改変動物の導入希望 ③ 実験動物授受のための調

査レポート ④ ヘルスレポート

⑤ 分与依頼書の送付 ⑥ 分与承諾書の受領

③、④レポートの作成依頼

レポート送付

分与承諾書の送付

と動物の分与 ⑦分与動物の受領

分与依頼書の送付

動物受領書の送付 分与動物の入手、検収・検疫 実験の開始

図2.遺伝子改変動物の分与を受けて動物実験を開始する際の流れ

レポートのコピー提出

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