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昭 和47年10月20日 367 腸 内細 菌 叢の変 動 に 関 す る研 究 第1報 抗生剤服用による健康人ふん便細菌叢お よびふん便ウロビリン体 ・ビリルビン比の変動 順天堂大学医学部臨床病理学教室(指 導 小酒井 望 教授) ヒトの腸管内 には 無数の微生物が生活 してお り,感 染 防御,消 化 吸収,ビ リル ビリのウ ロビリ ン体 への還元,ビ タ ミンの産 生,胆 汁酸の代謝な ど生 理 学 的 に も重 要 な働 きを 行 な って い る こ とは 古 くか ら知 られている1)~4).近年,広 域抗生剤の 使 用 が増 加 の一 途 を た どるに つ れ,そ の副現象5) と して の 菌 交 代 症 が 臨 床上 重要 視 され て い る一 方,も う1つ の副現象である生理的役割の変化と そ れ に よる生 体 へ の影 響 に つ い て も十分 に解 明 さ れる必要が生 じている. 抗生剤服用後の腸内細菌叢の変動や生理的役割 の変 動 に つ い て は す で に い くつ か の報 告5)~8)がみ られ るが,こ れ まで の 研 究 は培 養 しやす い菌 種 な ど,あ る特定の菌についての観察にとどまること が多かつた.し か し,常 在'菌は菌 相 互 間 に あ る い は 宿 主 との 間 に 一定 の均 衡 を保 つ て い るか ら,出 来 る限 り多 くの菌 種 に つ い て 観 察 す べ き で あ る9) といわれている. 今 回,わ たしどもは健康成人に一定期間抗生剤 を服 用 させ,ふ ん便 中 の好 気 性 菌,嫌 気性菌の総 菌 数 お よび菌 種 の変 動 を観 察 し,さ らに ビリル ビ ンの ウ ロ ビ リン体 へ の還 元 状 況 につ い て も観 察 し た の で報 告 す る. 1. 実験方法 1) 対 象 22~29才 の健 康 成 人 男子 を 被 検 対 象 と した .い ずれ も実験開始前に は抗生剤 の服用はな く,肝, 胆道系疾患の既往はない. 2) 服用 抗生 剤 の種 類 お よび服 用 法 服用 抗生 剤 は次 の6種 類 で,各 薬 剤 につ き2名 ず つ,常 用 量 を3日 間連 続 経 口服 用 した.RFP の 昼 食 後150mg,夕 食 後300mg服 用法を除き ,他 5剤 は 昼 食 後,夕 食 後 分2服 用 法 に よつ た . コ リス チ ン(CL):400mg/日 ア ミノベ ンジ ー ル ・ ペ ニ シ リ ン(AB-PC): 1000mg/日 リ ン コ マ イ シ ン(LCM):1000mg/日 セ フ ァ レ キ シ ン(CEX):1000mg/日 カ ナ マ イ シ ン(KM):2000mg/日 リフ ァ ソ ピ シ ン(RFP):450mg/日 3) ふん便採取法 薬 剤 服 用 前 の一 定 期 間(1~3日 間)と 服用中 の3日 間,服 用 中 止 後 の一 定 期 間(1~2日 , お よ び10日 目)に わ た り,毎 朝8時 か ら10時 まで に 排 泄 さ れ た 自 然 排 便 を 試 料 と した.細 菌学的検 査 は 材 料 採 取 後2時 間 以 内 に 検 査 を 開 始 し,ふ 便 ウ ロ ビ リ ン体 お よび ビ リル ビ ンの定 量 は 検 査 開 始 時 ま で 褐 色 ビ ン に 入 れ て 暗 所 で 凍 結 保 存 し,10 日以 内 に 一 括 して 行 な つ た. 4)細 菌 学 的 検 査 法(表1) ふ ん 便 を よ くか くは ん し,そ の19を 滅菌乳鉢 に と り,滅 菌 生 食 液9m1を 加 え混 和 均 等化 し, さ ら に 滅 菌 生 食 液 で10倍 希 釈 を 繰 り返 し,ふ ん便 10倍 希 釈 系列 を 作成 した.そ し て,こ の希釈液の 0.05mlを,表 示 し た 平 板 培 地 の 表 面 に 塗 布 し, 好 気 性 菌(通 性 嫌 気 性 菌 を 含 む,以 下 同 じ)に つ い て は24時 間,嫌 気 性 菌 に つ い て は48時 間培養 後,集 落 数 算 定 と菌 種 の 同定 を行 な い,集 落数 か

腸内細菌叢の変動に関する研究journal.kansensho.or.jp/kansensho/backnumber/fulltext/46/367-377.pdf · Changes in Fecal Flora and Fecal Urobilin-Bilirubin Ratio Induced

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昭 和47年10月20日 367

原 著

腸内細菌叢の変動に関する研究

第1報 抗 生剤 服用 によ る健 康人 ふ ん便細 菌叢 お

よ びふん便 ウ ロ ビ リン体 ・ビ リル ビ ン比 の変動

順天堂大学医学部臨床病理学教室(指 導 小酒井 望 教授)

伊 藤 機 一

ヒトの腸管内 には 無数の微生物が生活 してお

り,感 染防御,消 化吸収,ビ リル ビリのウロビリ

ン体への還元,ビ タ ミンの産生,胆 汁酸の代謝な

ど生理学的にも重要な働きを行なっていることは

古 くか ら知 られている1)~4).近年,広 域抗生剤の

使用が増加の一途をた どるにつれ,そ の副現象5)

としての菌交代症 が 臨床上重要視されて いる一

方,も う1つ の副現象である生理的役割の変化と

それによる生体への影響についても十分に解明さ

れる必要が生 じている.

抗生剤服用後の腸内細菌叢の変動や生理的役割

の変動についてはすでにい くつかの報告5)~8)がみ

られるが,こ れまでの研究は培養 しやすい菌種な

ど,あ る特定の菌についての観察にとどまること

が多かつた.し かし,常 在'菌は菌相互間にあるい

は宿主との間に一定の均衡を保つているか ら,出

来る限 り多くの菌種について観察すべきである9)

といわれている.

今回,わ たしどもは健康成人に一定期間抗生剤

を服用 させ,ふ ん便中の好気性菌,嫌 気性菌の総

菌数および菌種の変動を観察 し,さ らに ビリル ビ

ンのウロビリン体への還元状況についても観察 し

たので報告する.

1. 実験方法

1) 対象

22~29才 の健康成人男子を被検対象とした .い

ずれ も実験開始前には抗生剤の服用はな く,肝,

胆道系疾患の既往はない.

2) 服用抗生剤の種類および服用法

服用 抗生 剤 は次 の6種 類 で,各 薬 剤 につ き2名

ず つ,常 用 量 を3日 間連 続 経 口服 用 した.RFP

の昼 食 後150mg,夕 食 後300mg服 用 法 を除 き ,他

5剤 は昼 食 後,夕 食 後 分2服 用 法 に よつ た .

コ リス チ ン(CL):400mg/日

ア ミノベ ンジ ー ル ・ペ ニ シ リ ン(AB-PC):

1000mg/日

リ ンコマ イ シ ン(LCM):1000mg/日

セ フ ァ レキ シ ン(CEX):1000mg/日

カナ マ イ シ ン(KM):2000mg/日

リフ ァ ソ ピシ ン(RFP):450mg/日

3) ふ ん便 採 取 法

薬 剤 服 用 前 の一 定 期 間(1~3日 間)と 服 用 中

の3日 間,服 用 中 止 後 の一 定 期 間(1~2日 間 ,

お よび10日 目)に わ た り,毎 朝8時 か ら10時 まで

に排 泄 され た 自然 排 便 を 試 料 と した.細 菌 学 的 検

査 は 材 料 採 取 後2時 間 以 内 に 検 査 を 開 始 し,ふ ん

便 ウ ロ ビ リ ン体 お よび ビ リル ビ ンの定 量 は 検 査 開

始 時 まで 褐 色 ビンに 入 れ て 暗 所 で凍 結 保 存 し,10

日以 内 に 一 括 して 行 な つ た.

4)細 菌 学 的 検 査 法(表1)

ふ ん 便 を よ くか くは ん し,そ の19を 滅 菌 乳 鉢

に と り,滅 菌生 食 液9m1を 加 え混 和 均 等化 し,

さ らに 滅 菌生 食 液 で10倍 希 釈 を 繰 り返 し,ふ ん 便

10倍 希 釈 系列 を 作成 した.そ して,こ の希 釈 液 の

0.05mlを,表 示 した平 板 培 地 の表 面 に 塗 布 し,

好 気 性菌(通 性 嫌 気 性 菌 を 含 む,以 下 同 じ)に

つ い て は24時 間,嫌 気 性菌 に つ い て は48時 間培 養

後,集 落 数 算 定 と菌 種 の 同定 を行 な い,集 落数 か

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368 感染症 学雑誌.第46巻 第10号

Table1.使 用 培 地 お よび培 養 方 法

* 5%羊 脱線維素血液加TryptlcaseSoyAgar

** 血液加LiverVea1寒 天培地

Table 2. Normal Human Fecal Flora

* No. of microorganisms per 1 g of feces

**Healthy men aged 22 to 29 years old

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昭 和47年10月20日 369

らふ ん便19中 の菌 数 を 算 出 した.な お,嫌 気 培

養 は 主 と して黄 リン燃 焼 法 を用 い た.

5) ウ ロ ビ リン体/ビ リル ビ ン比 の算 出

ふ ん便 ウ ロ ビ リン体 定 量 はEhrlichア ル デ ヒ ド

試 薬 を用 い るWats・n法10)に よつ た.ふ ん 便 ビ リ

ル ビ ン定 量 はFouch6t試 薬 を用 い て ビ リル ビ ンを

ビ リベ ル ジ ソに変 え,ア セ トン抽 出後 に 比 色 定 量

す る林 らの 方法11)に よつ た.そ して,こ れ か らウ

ロ ビ リン体/ビ リル ビ ン比(以 下,ウ ロ/ビ比 と略

す)を 算 出 した.

な お,6名 の 服用 前 の ふ ん 便 計21試 料 の ウ ロ/

ビ比 の平 均 値 ±1S.D.は4.1±0.9で あ つた.

2. 実 験 結 果

1) 健 康 人 ふ ん 便 細菌 叢 の平 均 値 と範 囲

表2に 健 康 人6名 の薬 剤 服 用 前 の ふ ん便19中

の総 菌 数 と菌 叢 の平均 値 お よび 範 囲 を示 した.な

お,無 希 釈 す なわ ち直 接培 地 に ふ ん便 を塗 抹 し,

定 性 的 に 十 の例 の 菌数 は105個 以下/9と 表 現 し

た.

2) 薬 剤 服 用 に よるふ ん便 細 菌 叢 お よび ウ ロ ビ

リン体/ビ リル ビ ソ比 の変 化(図1~6)

図上 部 に は好 気 性 菌 と嫌 気 性 菌 の総 菌 数 お よび

菌 叢 の変 化 を,図 下 部 に は 同 じ時 期 の ウ ロ/ビ比

の 変 化 を示 した.な お,図 に は観 察 期 間 中 に1度

で も菌 数 が107個 以上/9の 出現 を みた 菌 種 のみ

を記 載 し,他 は省 略 した.

1) C五 服 用 例(図1)

C工1日400mg(12万 単 位)服 用 後,好 気 性 菌

総 数 は2例 と も大 きな変 化 は認 め られ なか つた.

しか し,菌 叢 で はE.coliのi著 明 な減 少 が み ら

れ,No.1例 は 服用 開 始 直後 のE.coliの 減 少

(1010→107)に 相 反 してKlebsiellaの 増 加(107→

109)とProvidenciaの 増 加(106→109)が み られ

た.ま た,Enterococcusの 菌数 は2例 と も総 菌 数

のそ れ に ほ ぼ 平 行 した.

嫌 気 性 菌 総 数 もほ とん ど 変 化 なか つ た.し か

Figure 1. Changes in Fecal Flora and Fecal Urobilin-Bilirubin Ratio Induced by

Oral Administration of Colistin.

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370 感染症学雑誌 第46巻 第10号

Figure 2. Changes in Fecal Flora and Fecal Urobilin-Bilirubin Ratio Induced by

Oral Administration of Aminobenzylpenicillin.

し,菌 叢 で はNo.1例 はVeillonella,Sphaeropho-

rus,Corynebacteriumの 減 少 が,No.2例 はSpha-

erophorusの 減 少 が 認 め られ た.Bacteroidesは2

例 と も嫌 気 性 菌 総 数 に平 行 して変 動 した.な お,

No.1例 の投 与3日 目 の嫌 気 性 菌 は,Proteusが 遊

走 した た め 判定 出来 なか つ た.

ウ ロ/ビ 比 に は と くに変 動 は なか つ た.

2) AB-PC服 用 例(図2)

好 気 性 菌 総 数 は2例 と も変 化 なか つ た が,菌 叢

で はE.coli,Enterococcusの 減 少 と逆 にKleb-

siellaの 増 加 が み られ た.

嫌 気 性 菌 総 数 で はNo.3例 は服 用2日 目に,No.

4例 は 服 用 直 後 に それ ぞれ 著 明 な減 少(1010→

107)を 示 し,菌 叢で は,Bacteroides,Veillonella

の減 少 が 著 明で あつ た.

ウ ロ/ビ比 は 嫌 気 性 菌 総 数 に ほ ぼ 比 例 して変 動

した.ま た,菌 叢 が 服 用 前 のそ れ に 回 復 した服 用

中止10日 目に は,ウ ロ/ビ比 も前 値 に 回復 した.

3) LCM服 用 例(図3)

好 気 性 菌 総 数 はNo.5例 は ほ とん ど変 化 なか つ

た が,No.6例 は 軽 度 の増 加(108→1010)を み た.

菌 叢 で は2例 と も服 用 後 の一 時 的 なCloacaの 増

加 が み られ た が,服 用 を続 け て い る うち に前 値 に

回 復 した.ま た,No.5例 はCloaca数 とE.coli

数 とは 反 比 例 関 係 を 示 し,服 用 中止2日 目に は

Proteusの 出 現 を み た.

嫌 気 性 菌 で は2例 と も 総 菌 数 の 減 少 が著 明 で

(1010→107,109→107),菌 叢 で はNo.5例 はBac-

teroidesの 著 明 な減 少(1010→105以 下)を,No.6

例 はPeptococcusとCorynebacteridmの 減 少 を 認

め た.Corynebacteriumは2例 と も服用 を 中 止 し

て10日 た つ て も低値 を維 持 し続 け,前 値 に 回 復 し

なか つた.

ウ ロ/ビ比 は本 例 も 嫌 気 性菌 総数 に 平 行 して 変

動 した.No.5例 は3か ら0.1以 下 へ,No.6例 は

4.2か ら0.1以 下 へ と極 端 な 低 下 を 認 め た.

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昭 和47年10月20日 371

Figure 3. Changes in Fecal Flora and Fecal Urobilin-Bilirubin Ratio Induced by

Oral Administration of Lincomycin.

4) CEX服 用 例(図4)

好 気 性 菌 総 数 は2例 と もほ とん ど変 化 なか つた

が,菌 叢iではNo.8例 に 一 時 的 なCloacaの 増 加

(107→109)が 認 め られ た.

嫌気 性菌 総 数 に つ い て も2例 と も減 少 を認 めた

が,他 の薬 剤 服用 例 と異 な り,服 用 に伴 う階 段 状

の 減 少 と服 用 中止 後 の急 激 な回 復 を特 徴 と した.

菌 叢 で はBacteroides,Sphaerophorusの 減 少 が 著

しか つた.

ウ ロ/ビ比 は 嫌 気 性菌 総 数 に ほ ぼ平 行 して変 動

した が,菌 叢iの変 化 に さ きが け て起 こ る こ とを 認

め た.

5) KM服 用 例(図5)

好 気 性菌 総 数 に は と くに変 化 は なか つ た が,菌

叢 で はEnterococcusの 減 少(109→106以 下,108

→106以 下)が み られ た .KlebsiellaはNo.g例

は減 少(108→106以 下)し た が,No.10例 は反 対

に 増 加(107→109)を 示 した.E.coliは ほ とん

ど影 響 を 受 け ず,総 菌 数 に ほ ぼ平 行 した.

嫌 気 性菌 総 数 に は 変化 なか つ た.し か し,菌 叢

で はNo.9例 は服 用 直 後 のSphaerophorusの 著 明

な減 少(1010→107)が み られ,翌 日は 前値 に戻

り,つ い で106と 減 少 し,服 用 期 間 内 の変 動 が 著

しか つた.No.10例 も同様 にSphaerophorusの 著

しい減 少(1010→106)を 認 め た が,No.9例 と異

な り服 用 期 間 中 の変 動 は な く,服 用 中 止 に よ り直

ち に前 値 に回 復 した.ま た,Veillonellaは 服 用3

日 目に著 しい増 加(106→109)を 示 し,服 用 を 中

止す る と1010と さ らに増 加 し,10日 た つ て も高 値

を維 持 した.No.9例 の8acteroidesは 嫌 気 性 菌

総 数 に平 行 した.

ウ ロ/ビ比 は2例 と も 軽 度 減 少 した が,検 査 の

誤 差 範 囲 内 の変 動 で あ つた.た だ し,服 用 中止 後

の ウ ロ/ビ比 を み る とNo.9例 は41,No.10例 は20

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372 感染症学雑誌 第46巻 第10号

Figure 4. Changes in. Fecal Flora and Fecal Urobilin-Bilirubin Ratio Induced by

Oral Administration of Cephalexin.

とそれ ぞれ 服 用 前 の9.5倍,4.4倍 と極 端 な 高 値

を 示 した.

6) RFP服 用 例(図6)

好 気 性 菌 総 数 はNo.11例 は 変 化 な か つ た が,

No.12例 は 中 等 度 の減 少(109→107)を 認 め た.

菌 叢 で はE.co1iの 減 少 がNo.11例 は 服 用 直 後

に,No.12例 は服 用2日 目に認 め られ た.ま た,

2例 と もEntrerococcusは 総 菌 数 に平 行 して変 動

した.

嫌 気 性 菌 総 数 で はNo.11例 は 服用3日 目に著 明

な減 少(1011→107)を 示 し,No.12例 は ほ とん ど

変化 な か つ た.菌 叢 で はNo.11例 はCorynebac-

teriumに,No.12例 は、BacteroidesとSphaeroph-

・rusに 明 らか な減 少 を み た.し か し,No.11例 の

BocteroidesとSphaerophorus,No.12例 のCory-

nebacteriumを み る と,確 か に 服 用 後 の減 少 を 示

した が,翌 日は服 用 継続 中 に もかか わ らず 一 旦 前

値に回復 し,つ いで再度減少を示 し,同 じ薬剤服

用でも2例 間で異なつた結果が得 られた.

ウロ/ビ比の変動 は 嫌気性菌総数 の減少が著 し

かつたNo.11例 に認めた.

3. 考 察

腸内常在菌のうち嫌気性菌の占める割合は好気

性菌に くらべ,は るかに 多い ことがわかつてい

る3)9)12).わたしどもの結果でも,ふ ん便19当

りの好気性菌総数 が1×108~3×1010の 範囲に

あつたのに対 し,嫌 気性菌総数は1×1010~1×

1011と後者は前者に比 し10倍 ~103倍 も多いこと

を認めた.鈴 木13)はこのように腸管内には嫌気性

菌が多いのであるか ら,腸 管内常在菌 とその生理

学的研究には嫌気性菌培養を必ず併用しな くては

な らないと指摘している.と くに,ビ リルビンの

ウロビリン体への還元は大腸 とい うきわめて嫌気

度の高い環境内で行なわれている14)わけであるか

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昭 和47年10月20日 373

Figure 5. Changes in Fecal Flora and Fecal Urobilin-Bilirubin Ratio Induced

by Oral Administration of Kanamycin.

ら,ビ リル ビソの還元に嫌気性菌の果たす役割が

少なくないことは予測されることである.

腸内常在細菌叢は正常の場合でも絶えず大きな

変動があ り,と くに腸内細菌群に著しい2'とされ

ている。 したがつて,薬 剤服用後のどの程度の変

動をもつて真の変動 とするかをまず明示する必要

があろう.わ た しどもは服用前の6例 につき,3

日間連続 して菌叢の変動を観察 した結果(図4~

6),ど の例にも,ま た,多 くの菌種に10倍 あるい

は1/10倍のオーダLの 変動を認めた.そ こで,わ

たしどもは100倍 あるいは1/ユ。。倍の オーダーで変

動 した菌種についてのみ"変 動 した"と い う表現

を用いたわけである.

各薬剤服用時の菌叢の変化について文献的考察

を行な う.

CLは 経 口投与で腸管 か らほとんど吸収 され

ず,腸 内細 菌 と くにGram陰 性 桿 菌 に 効 果 が あ

る5)と され,schidlovskyら15)も 服 用 後 の ふ ん 便 中

のE.coliな どGram陰 性 桿 菌 の著 明な 減 少 を報

告 して お り,わ た し ども もE.coliの 著 明 な 減 少

を 認 めた.嫌 気 性 菌 に つ い て はC工 に 対 しも と も

と 自然 耐 性 で あ るBacteroidesを 除 い て はす べ て

減 少 した.ま た,嫌 気 性 菌 で はそ の総 菌 数 の大 部

分 を 占 めたEnterococcusが,嫌 気 性 菌 で は 同 じ

くBacteroidesが 影 響 なか つ た た め,両 者 の総 菌

数 は大 きな変 化 を示 さ なか つた と思 わ れ る.

AB-PCは 腸 内細'菌の うち,E.coli,Proteusに

は有 効 だ が,Klebsiella,Pseudomonasに は無 効

と され5),わ た し ど もの結 果 で もE.coliは 減 少

した がKlebsiellaは 逆 に増 加 した.こ のKlebsie-

llaの 増 加 は服 用 薬 剤 に よ る菌 交 代現 象 と考 え ら

れ るが,本 菌 はE.co1iに お き代 わ つ て好 気 性 菌

の大 部 分 を 占め るに至 り,そ の結 果,総 菌 数 と し

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374 感染症学雑誌 第46巻 第10号

Figure 6. Changes in Fecal Flara and Fecal Urobilin-Bilirubin Ratio Induced

by Oral Administration of Rifampicin.

て は変 動 を示 さ なか つ た.一 方,嫌 気 性菌 に つ い

て は,Gram陰 性 桿 菌 に は と くにAB-PC耐 性 が

多 い12)と され る が,わ た し ども の結 果 で は ほ とん

どの嫌 気 性 菌 が影 響 を受 けた.

上CMは 経 口投 与 後,腸 管 内に 高 濃 度 に 排 泄 さ

れ るた め,腸 内細 菌 叢 と くに嫌 気 性 菌 に は きわ め

て強 力 な抗 菌 作 用 を有 す る16)と いわ れ る.わ た し

ども の結 果 で も,嫌 気 性 菌 はす べ て影 響 を 受 け て

い る.ま た,好 気 性 菌 で はE.coliの 減 少 が み ら

れ,こ れ とは 反対 に,菌 交 代 現 象 と考 え られ る

CloacaとProteusの 一 時 的 増 加 を 認 め た .長 田

ら8)はLCM服 用 後 のE.coliの 減 少 と,そ れ

に代 わ つ て 真菌 の増 加 傾 向 を報 告 した が,わ た し

ど もの例 で はCandidaは 全 く変 化 なか つ た.な

お,Bacteroidesは 個 体 に よつ て も,ま た,同 一 人

を 時 期 を 変 え て繰 り返 し検 査 して も,常 に ふ ん 便

中 に109~1011検 出 され る とい わ れ て い る17)12)が,

わ た し ども のNo.6例 は服 用 前 に106以 下 を示 し

て いた.本 例 は 当 日下 痢 傾 向 に あつ た.

CEXは 経 口投 与 後,腸 管 か らきわ め て よ く吸

収 され るた め,腸 内菌 叢 に は ほ とん ど影 響 しな い

と され て い る18).わ た し ども の結 果 で もE.coli

は ほ とん ど 変 動 しなか つ た.し か し,一 時 的 な

Cloacaの 増加 を認 め,Gayaら19)もCEX服 用 後

の ふ ん便 中 のPseudomonas,Proteusな ど弱毒 菌 の

著 明 な 増 加 を み た とい う報 告 か ら も,CEXの 腸

内'菌叢 へ の 影 響 は 少 な くな い と考 え る.

KMは 内 服 に よ り腸 管 か ら 吸 収 され に く く5),

抗菌 力 はGram陽 性 ・陰 性 球 菌,陰 性 桿菌 と幅 広 い

た め,と くに 消化 管手 術 前 の腸 内無 菌 を 目的 と し

て用 い られ て い る20).わ た し ど もの結 果 で は好 気

性 菌 で はEnterococcusの 減 少 を み た だ け で,も と

も とKM耐 性 化 が 比 較 的 少 な い と され るE.coli5)

に お い て は ほ とん ど影 響 を 受 け ず,耐 性化 を 思 わ

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昭 和47年10、 月20日 375

せ た.ま た,嫌 気 性 菌 は一 般 にKMに 対 す る感

受 性 が 低 い と され,小 栗 らの 臨 床 材料 に お け る

5年 間 の 感 性株 率 の成 績 をみ る と,Veillonellaの

65.6%以 上 を除 き,8acteroides,Sphaerophorusな

どGram陰 性 桿 菌 は19.1%以 下,Corynebacterium

は42.6%以 下,Clostridiumは0%と,い ず れ も

低 値 を示 して い る.わ た し ども の結 果 で 明 らか な

減 少 を示 した もの はSphaerophorusの み で,ほ か

にVeillonellaが わ ず か に 減 少 した が,測 定 誤 差

範 囲 内 で あ つた.

RFPの 抗 菌 スペ ク トル ムはGram陽 性 菌 ・陰

性 菌,結 核 菌 と幅 広 い.経 口服 用 に よ りふ ん便 中

に 高 濃 度 に 存 在 す る こ と22)や,E.coli,Proteus,

KlelbsiellaのMICは そ れ ぞれ12 .5,25,25

mcg/ml23)と 比較 的低 濃 度 で あ る こ とか らも ,腸

内 細 菌 叢 へ の影 響 は 大 きい と考 え られ る.わ た し

ども の結 果 で も,好 気 性 菌 で は と くにE.coliの

減 少 が 著 しか つ た.一 方,嫌 気 性 菌 の大 多 数 を 占

め たEnterococcusはNo.11例 は 明 らか に 減 少 し

た が,No.12例 は ほ とん ど影 響 な く,結 果 的 に は

No.11例 は 総菌 数 の 減 少 を示 した が ,No.12例 は示

さ なか つ た こ とに な る.一 方,紺 野 ら24)はRFP

は経 口投 与 後,E.coli,Klebsiellaに 対 し24時 間

以 内 に耐 性 とな る特 異 的 薬 剤 と して い る.わ た し

ど ものNo.ll例 のE.coliが 服用 後108か ら106へ 減

少 した が,服 用 継 続 中 に もか か わ らず 翌 日は109

と増 加 した のは,耐 性化 か も しれ な い.一 方,嫌

気 性 菌 に つ い て は 小 酒 井 ら25)が臨床 材 料 か らの分

離 菌 のRFP感 受 性 を報 告 して お り,Veillonella

を 除 い ては い ず れ も強 い 感受 性 を呈 した と して い

る.わ た しど もの結 果 で もBacteroides,Coryne-

bacterium,Sphaerophorusは いず れ も服 用 後 の減

少 を み た が一 時的 で あ り,服 用 の途 中で 前 値 に 戻

り,再 度 減 少 す る とい う他 の薬 剤 服 用 例 に み られ

な か つ た変 則 的 な変 動 を示 した.

な お,菌 交 代現 象 と して しば しば 指摘 され る

Pseudomonas,Candidaの 服 用 後 の増 加 は ,わ た し

ど もの例 で は1例 もみ られ なか つ た.薬 剤 の使 用

期 間,使 用 量 が少 な いた め と考 え られ る.

ビ リル ビ ンの ウ ロ ビ リ ン体 へ の還 元 は 腸 内 細菌

叢 の 働 きで,主 と して大 腸 内 で行 なわ れ る14)26)こ

とは 古 くか ら 知 られ てい る.し か し,ど の菌 種

が 行 な つ て い るの か は まだ 明 らか に され て い な

い3).た だ,E.coliや 一 部 の嫌 気 性 菌 には そ の

作 用 の あ る こ とが 認 め られ て い る27).Gustfasson

ら28)は無 菌 ラ ッ トに ビ リル ビ ンを与 え る とふ ん 便

中 に そ の ま ま排 泄 され るが,Clostridiumを 同 時

に投 与 す る と ウ ロ ビ リノ ー ゲ ンが 排 泄 され,さ ら

にE.coliを 加 え る と排 泄 は一 層 増 大 す る と報 告

し,ビ リル ビ ンの還 元 は 単 一 特 定 の菌 に よつ て行

なわ れ る ので は な い こ とを 示 して い る.

わ た しど もが ビ リル ビンの ウ ロ ビ リン体 へ の還

元 状 況 を ウ ロ/ビ 比 の 変 化 か らみ た のは 次 の理 由

に よ る.す な わ ち ふ ん便 中 の ウ ロ ビ リン体,ビ リ

ル ビンの量 は,個 々 の1日 当 りの ふ ん便 量 に大 き

く依存 す るた め,値 の ば らつ きが 大 き い29)が,濃

度 の比 で観 察す れ ば ふ ん便 量 は関 係 しな いた め,

比 較 的安 定 した値 が得 られ るか らで あ る.こ こで

示 した ウ ロ ビ リン体 とい うの は メ ソ ビ リル ビノ ー

ゲ ン,ス テ ル コ ビ リノ ー ゲ ン,d-ウ ロ ビ リノ ー ゲ

ンに これ らの酸 化 型 とを 合 わ せ た テ トラ ピ ロール

化 合 物 の総 称 で あ り,い ず れ も腸 内 菌 叢 の働 きで

ビ リル ビ ンが 還 元 され て生 ず る もの30)で,Ehrlich

ア ル デ ヒ ド反 応 陽 性 の物 質 で あ る.

抗 生 剤 服 用 後 のふ ん 便 ウ ロ ビ リン体 量 の低 下 に

つ い ては,い くつ か の報 告 が み られ る.Hollan14)

は ス トレプ トマイ シ ソ,バ シ トラ シ ン,ポ リ ミキ

シ ソ投 与 に よ り,Sborov27)は オ ー レオ マ イ シ ン投

与 に よ りそ れ ぞ れ腸 内菌 叢 を減 少 させ,ふ ん便 中

の ビ リル ビ ン排泄 増加 と ウ ロ ビ リン体 排 泄 減 少 を

認 め て い る.

わ た し ど もの観 察 結 果 で は,と くに あ る特 定 の

菌 種 の変 動 と ウ ロ/ビ比 との 相 関 は み られ ず,こ

れ は従 来 ビ リル ビ ンの還 元 に最 も影 響 が 大 と され

るE.coli27)に つ い て も 同様 で あつ た.し か し,

ウ ロ/ビ比 と 嫌 気 性 菌 総 数 とは ほ ぼ 平 行 関 係 を 呈

して変 動 した.こ の こ とか ら,ビ リル ビ ソの ウ ロ

ビ リ ン体 へ の 還 元 に は 嫌気 性菌 の果 たす 役 割 が大

きい とい うこ とは い え るで あ ろ う.菌 種 は 明 らか

に 出 来 な か つ た が,た だ,LCM服 用 例 に限 つ て

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376 感染症 学雑誌 第46巻 第10号

認 め られ た 服 用 期 間 中 の 極 端 な ウ ロ/ビ比 の低 下

は,五CMに 感 受 性 の あ る嫌 気 性 菌 の一 群 に ビ リ

ル ビ ンの ウ ロ ビ リン体 へ の還 元 を積 極 的 に行 な う

能 力 が あ る こ とを 示 す もの で あ ろ う.な お,KM服

用 例 に のみ 認 め た 服 用 中 止 直 後 の ウ ロ/ビ比 の異

常 高 値 は,ビ リル ビ ン量 は 正 常 範 囲 に あ つ た が ウ

ロ ビ リン体 量 の 絶 対 的増 加 に 基 づ く結 果 で あ つ

た.し か し,こ の理 由 は 明 らか に 出来 な か つ た.

4. 結 論

健 康 成人 に一 定 期 間抗 生 剤 を服 用 させ,ふ ん 便

菌 叢 の変 化 と,ビ リル ビ ンの ウ ロ ビ リン体 へ の還

元 状 況 とを 観 察 した.服 用 薬 剤 はCL,AB-PC,

LCM,CEX,KM,そ してRFPの6種 類 で,

各薬 剤 に つ き2名 ず つ常 用 量 を3日 間 経 口投 与 し

た.

そ の結 果:

1) 好 気 性菌 総 数 で はRFP服 用 の1例 に服 用

後 の減 少 を,ICM服 用 の1例 に は 服用 後 の 軽度

増 加 を 認 めた.嫌 気 性 菌 総 数 で はAB-PC,工CM,

CEX服 用 例 は2例 とも,RFP服 用 例 は1例 に

服 用 後 の 著 明 な減 少 を認 め た.

2) 総 菌 数 の変 動 は,好 気 性 菌 で はそ の大 部 分

を 占 め るE.coliあ る い はEnterococcusの 変 動 に

依 存 し,嫌 気 性 菌 で はBacteroidesの 変 動 に 依 存

す る こ とを 認 め た.

3) 総 菌 数に 変 化 のな い 例 で も,多 数 例 に菌 種

の変 動 が み られ た.ま た,C五 服 用 例 にCloaca,

KM服 用 例 にProteus,五CM服 用 例 にCloaca,

Proteus,そ してRFP服 用 例 に嫌 気 性Coryneba-

cteriumの 一 時 的 な増 加 を認 め た.こ れ は服 用 薬

剤 に よ る菌 交代 現 象 と考 え られ る.

4) ふ ん 便 ウ ロ ビ リソ体 ・ビ リル ビ ン比 は嫌 気

性 菌 総 数 にほ ぼ 平 行 して変 動 す る こ とを認 め た.

この こ とか ら,ビ リル ビ ンの ウ ロ ビ リン体 へ の還

元 に は,嫌 気 性 菌 の果 た す 役 割 が 大 きい もの と考

え た.し か し,菌 種 は 明 らか に 出来 なか つ た.

5) 一 部 の例 を除 き,薬 剤 中止 直 後 よ り菌 叢 も

ウ ロ ビ リ ソ体 ・ビ リル ビソ比 も前 値 に 回復 してゆ

く傾 向が み られ,服 用 中 止10日 目に は どの例 もほ

とん ど服 用 前 の値 に 回復 して い る こ とを 認 めた.

(本稿 をの要 旨は第46回 日本伝染病 学会総会 で 発表

を した.稿 を終 えるに当 り,日 夜技術的な指導援助を惜

しまなか つ た 順 天堂医院 中検細菌検査室の小栗豊子主

任 技師,設 楽政次,川 畑 貞美両臨床検査技師 に厚 くお礼

を申 し上げ る.)

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昭 和47年10月20日 377

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Changes in Fecal Flora and Urobilin-Bilirubin Ratio Induced by the

Oral Administration of Various Antibiotics

Kiichi ITC)

Department of Clinical Pathology, Juntendo University School of Medicine, Tokyo

(Director : Prof. Nozomu KOSAKAI)

===Health adults were administrated with antibiotics in the following way: each antibiotic of Colistin

(CL), Aminobenzylpenicillin (AB-PC), Lincomycin (LCM), Cephalexin (CEX), Kanamycin (KM), and Rifampicin (RFP) was given to two persons per os with ordinary dosage for three days , and changes in total amounts of fecal flora, bacterial constituents, and fecal urobilin-bilirubin ratio were studied.

Total amounts of aerobes were not changed except two persons : a marked decrease in case who

took RFP and a slight increase in another case who took LCM were experienced. On the other hand

total amounts of anaerobes were markedly decreased in most of the cases except both of two cases with

CL and KM administration, and one case with RFP administration. It was found that changes of total

amounts of aerobes were dependent on the number of E coli or Enterococcus, while anaerobes were

mostly represented by Bacteroides. Though most of cases showed no remarkable decrease in aerobes , there were noteworthy alternations in the kinds of microorganisms.

Fecal urobilin-bilirubin ratio was generally paralleled to the total amounts of anaerobes . Conse-

quently, it was considered that anaerobes played an important role in the reduction of bilirubin to urobilin.