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『職員の海外研修』に参加して 1 行の空白) 中西 幸弘、後藤 伸太郎、山本 遼 工学系技術支援室 装置開発技術系 1 行の空白) はじめに 『職員の海外研修』は、名古屋大学の世界展開力の強化を背景に、国際化に対応する人材育成を 目的として、これまで事務職員を対象に毎年実施されていた。本年度より、技術職員にも参加の枠 が広げられることになり、我々はこれに応募して 6 日間にわたってインドネシアを訪問し、自主企 画研修を実施したので本稿で紹介する。 1. 『職員の海外研修』について 本年度の『職員の海外研修』(以降『海外研修』)実施にあたって、主催より通知された募集概 要を紹介する。参加できる研修の種類は、渡航先および実施計画があらかじめ既定されているタイ プ A と、グループ独自に立案するタイプ B の二つである(図 1)。なお、この『海外研修』の対象 国は原則としてアジア諸国となっている。その他の概要を以下に紹介する。 研修目的:国際化に対応する人材育成 募集時期:5月下旬から6月中旬 対象者:課長補佐以下の職員で過去3年間に本研修に参加したことがない者 実施時期:平成28年8月~平成29年2月の間で4~7日間程度 研修成果報告:実施後一月以内に報告書を提出(数枚)および全体報告会での発表報告 渡航先 備考 タイプA-1 カンボジア ・1名単位で申請・語学力は不問 ・訪問先との連絡調整は事業推進課が担当 (渡航先は毎年変更されている) タイプA-2 ベトナム タイプA-3 フィリピン タイプB 各グループで設定 2~4 名のグループ単位。内最低1名は訪問先で意 思疎通の可能な語学力を有すこと 1. 『職員の海外研修』の種類 2. インドネシア研修(タイプ B)について 我々三人はタイプBの研修に参加して、インドネシ アにおける3機関を訪問するインドネシア研修を実施 した(図 2 )。この研修では、『海外研修』の目的に 対応した簡潔なグループテーマを設定し、訪問先の各 所において施設見学および人的交流を行うとともに、 事前に準備した企画を実施した。なお、研修準備にあ たり訪問先と行った連絡調整は、日本に留学経験があ る二人のインドネシア人を通して行ない、また二人に は各訪問先での世話役として、常に我々に同行してい ただいた。以下にその研修概要を紹介する。 2 . インドネシア研修

『職員の海外研修』に参加してetech.engg.nagoya-u.ac.jp/gihou/v19/063.pdfBPPT 所長からは、我々の研修活動に 対しても理解をいただき、各訪問先への紹介状の送付、ジャカルタからバンドンへの公用車の使

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  • 『職員の海外研修』に参加して

    (1 行の空白)

    中西 幸弘、後藤 伸太郎、山本 遼

    工学系技術支援室 装置開発技術系

    (1 行の空白)

    はじめに

    『職員の海外研修』は、名古屋大学の世界展開力の強化を背景に、国際化に対応する人材育成を

    目的として、これまで事務職員を対象に毎年実施されていた。本年度より、技術職員にも参加の枠

    が広げられることになり、我々はこれに応募して 6 日間にわたってインドネシアを訪問し、自主企

    画研修を実施したので本稿で紹介する。

    1. 『職員の海外研修』について

    本年度の『職員の海外研修』(以降『海外研修』)実施にあたって、主催より通知された募集概

    要を紹介する。参加できる研修の種類は、渡航先および実施計画があらかじめ既定されているタイ

    プ A と、グループ独自に立案するタイプ B の二つである(図 1)。なお、この『海外研修』の対象

    国は原則としてアジア諸国となっている。その他の概要を以下に紹介する。

    研修目的:国際化に対応する人材育成

    募集時期:5月下旬から6月中旬

    対象者:課長補佐以下の職員で過去3年間に本研修に参加したことがない者

    実施時期:平成28年8月~平成29年2月の間で4~7日間程度

    研修成果報告:実施後一月以内に報告書を提出(数枚)および全体報告会での発表報告

    渡航先 備考

    タイプA-1 カンボジア ・1名単位で申請・語学力は不問

    ・訪問先との連絡調整は事業推進課が担当

    (渡航先は毎年変更されている)

    タイプA-2 ベトナム

    タイプA-3 フィリピン

    タイプB 各グループで設定 2~4 名のグループ単位。内最低1名は訪問先で意

    思疎通の可能な語学力を有すこと

    図 1. 『職員の海外研修』の種類

    2. インドネシア研修(タイプ B)について

    我々三人はタイプBの研修に参加して、インドネシ

    アにおける3機関を訪問するインドネシア研修を実施

    した(図 2 )。この研修では、『海外研修』の目的に

    対応した簡潔なグループテーマを設定し、訪問先の各

    所において施設見学および人的交流を行うとともに、

    事前に準備した企画を実施した。なお、研修準備にあ

    たり訪問先と行った連絡調整は、日本に留学経験があ

    る二人のインドネシア人を通して行ない、また二人に

    は各訪問先での世話役として、常に我々に同行してい

    ただいた。以下にその研修概要を紹介する。 図 2 . インドネシア研修

  • グループテーマ: ① 外国人とのコミュニケーションに対する苦手意識の改善

    ② 外国人との技術交流

    実施時期:平成28年10月16日(日)~平成28年10月21日(金)

    訪問国:インドネシア

    訪問先: ①インドネシア技術評価応用庁

    ②バンドン工科大学

    ③インドネシア・エアロスペース

    準備企画: ①英語によるプレゼンテーション

    ②対面型のアンケート調査

    3. 訪問先

    1)インドネシア技術評価応用庁(図 3)

    インドネシア技術評価応用庁(以下 BPPT)は、首都ジャカルタに所在するインドネシア政府所

    管の研究機関であり、本研修の世話役二人の勤務先である。BPPT は研究機関としての事業だけ

    ではなく国内の企業や大学などと連携し、航空機設計に欠かせないシミュレーション解析や風洞

    実験をはじめ、実際に製造された飛行機パーツの疲労試験、あるいは工作機械の開発・製造など

    多岐にわたる業務を担っている。この BPPT には一日にわたって滞在し、プレゼンテーション、

    施設見学、職員との交流および若手研究者に対してアンケート調査(図 4)を行い、世話役の職場

    でもあることから活発な交流活動を行った(図 5)。また施設見学では試作飛行体(図 6)や橋梁・

    駅舎などの風洞試験模型を随所に見ることができ、風洞実験施設においては、外部より試験を委

    託されたジェット機スケールモデルを、装置へセッティングする風景をタイミングよく見学する

    こともできた。

    なお BPPT は、国内に連携を深くしている大学・企業が多くあり、また年間に 500 名ほどが海

    外で研修を行う、グローバル志向の高い研究機関である。BPPT 所長からは、我々の研修活動に

    対しても理解をいただき、各訪問先への紹介状の送付、ジャカルタからバンドンへの公用車の使

    用、世話役二人の全訪問先への同行などのサポートを提供いただいている。

    図 5. BPPT 職員との交流

    図 4 . 若手研究者へのアンケート調査

    図 3 . インドネシア技術評価応用庁

    図 6 . 試作飛行体

  • 2)バンドン工科大学

    バンドン工科大学(以降 ITB)はインドネシアを代表する国立大学の一つであり、工科系大学

    の中では入学する難易度が最も高い大学である。ITB はジャカルタから東南に 200 ㎞ほど離れた

    学園都市バンドンに所在し、約2万人の学生が学んでいる。前述した BPPT と関係が深く、また

    名古屋大学とは学術協定を結ぶ大学である。

    我々はこの研修を企画するにあたり、インドネシアの大学で我々と同様な職務に就くものに大

    変興味を持った。そのため、この ITB との訪問交渉を世話役を通じて最初に行っている。ITB で

    は事前にコンタクトを取っていたヤタナ教授(図 7 左)の案内のもと、ほぼ一日にわたって滞在

    し、プレゼンテーション、教職員・学生との交流、施設見学および学生へのアンケート調査を行

    った。施設見学では、航空学科の空力・流体学生実験設備(図 8)、機械加工工場、実習棟の授

    業風景などを見学することができた(図 9)。

    工場においては、二人の技術職員と交流することができた(図 10)。工場には汎用機械を中心

    に多種の工作機械が揃えられており、学生達が旋盤で実験装置の部品を加工している様子が見ら

    れた(図 11)。また工場の一角には学生フォーミュラの車体が置かれ、近隣の工房ではエコラン

    レース用の車体を熱心に製作している学生グループの姿も見られた(図 12)。ITB には、基本的

    には我々の環境と変わらないものづくりを行う風景があった。

    計測機器研究室においても一人の技術職員と交流することができた(図 13)。この施設には、ノ

    ギス・マイクロメータ・ホールテストなどから比較的大きな卓上測定器まで、実習教材に使用さ

    れる多種にわたる計測器類が大切に管理されていた(図 14)。この施設は重厚な造りの地下に設置

    されていたが、戦時中には旧日本軍の拠点なった建造物だと聞かされたとき、日本とインドネシ

    アのかつての歴史的な側面にも触れる機会となった。また化学系の施設にもガラス加工系の職員

    がいることを聞いていたが、時間的な制約から今回は訪問することができなかった。

    図 7. ヤタナ教授(左)とザイナル教授(右) 図 8. 空力・流体 学生実験設備

    図 9 . 実習風景 図 10. 工作室の技術職員との交流

  • 3)インドネシアン・エアロスペース

    インドネシアン・エアロスペース(以降 IAe)はインドネシアの国策で設立された航空機製造

    会社であり、ITB と同じくバンドンに所在している。IAe は、小型・中型のプロペラ機の開発・

    製造およびエアバス・ボーイング社が開発した機体のライセンス生産を行っている(図 15)。IAe

    は事業として軍用の飛行機・ヘリコプターの製造も行っているため、通常では見学の許可を得る

    ことは困難であるが、今回は BPPT 所長から紹介状を送付いただいたことで特別に訪問すること

    が許された。

    IAe には半日ほど滞在し、プレゼンテーションによる相互の業務紹介(図 16)および施設見学を

    行った。施設見学では、大きな金型や各種工作機械が置かれた飛行機の翼・胴体を製作する工場、

    組立工場、設計・開発棟などを見学した。工場で使用されている工作機械は、我々にも馴染み深

    い小型の汎用機から、大型クレーンほどの特殊なものまで多岐にわたったが、その大半が中国・

    韓国・イタリア・ドイツ製であった。工場内の設備・機材は整理整頓が行き届いており、それぞ

    れの部署に就く従業員は多くはなかった。施設見学は、敷地面積が広大なためカートに乗りなが

    らツアー形式で行った。その際は常に軍関係者の車両が伴い、見学中の降車や写真撮影などの行

    動が制約されたため、設備を間近に見ることや製造系職員と交流することはできなかった。

    図 16. IAe 副社長による事業紹介

    者の注意を引いたり、このスペースを

    使って注目ポイントを強調したりしま

    しょう。このテキスト ボックスは、ド

    ラッグしてページ上の好きな場所に配

    置できます。]

    図 15. 飛行機の最終組立工場

    者の注意を引いたり、このスペースを

    使って注目ポイントを強調したりしま

    しょう。このテキスト ボックスは、ド

    ラッグしてページ上の好きな場所に配

    置できます。]

    図 12 . エコランカー製作を行う学生

    図 13 . 計測機器研究室の技術職員(右端) 図 14 . 実習教材の計測器類

    図 11 . 旋盤で実験装置を製作する学生

  • 4. 実施企画とその成果

    1) 英語によるプレゼンテーション (図 17,18)

    各訪問機関において英語によるプレゼンテーションを行った。発表内容は、日本とインドネシ

    アの地理関係および愛知県に基盤を置く企業紹介にはじまり、名古屋大学・留学生情報・技術部

    組織、そして我々の業務に関連するものとして製作事例・ものづくり公開講座の紹介などである。

    プレゼンテーションは 20 分程度で合計 3 回、各訪問施設で行った。若手二人は毎回反省点を修

    正して臨んでおり、回を追うごとに内容を改善させた。この企画は、収集資料の英訳および発表

    原稿の作成から口頭発表まで、本研修を準備・実施するにあたって最も大きな負担となったが、

    英語力を向上させること、および学習モチベーションを向上させることに大変効果的であった。

    また英語による発表は全員が初めての経験であった。心労を重ねて得たこの貴重な経験は、更な

    る機会のハードルを下げることにおいても大きな効果が期待されている。

    2) アンケート調査 (図 19 ,20)

    BPPT の若手職員および ITB の学生を対象にアンケート調査を行った(106 部回収)。アンケー

    トの内容は名古屋大学の知名度、および海外で学ぶことに対しての意識を探るものが主となって

    いる。基本的にマンツーマンで対応したため多くの時間を要しているが、外国人とのコミュニケ

    ーション苦手の改善に繋がるような効果を十分に得ることができたと考えている。返答者には名

    古屋大学のロゴ入りのボールペンをお礼として渡し、また名古屋大学の情報を求めた方には FACT

    BOOK を配布した。この活動を通して大学の一職員として、僅かながらではあるが広報の一役も担

    うことができたと考えている。アンケート結果はインドネシアにおける学生および若手研究者の、

    海外留学への意識を知る貴重な資料となる考え、今後の活用を期待して、集計したものを総務部

    広報渉外課へも提供している。アンケート集計結果を図 21,22 に示す。

    図 18. バンドン工科大

    図 19. ITB キャンパスにて(正門広場)

    図 17. インドネシアン・エアロスペース

    図 20. ITB 講義室にて

  • 図 21. アンケート集計結果(前半)

  • 図 22. アンケート集計結果(後半)

    日本 韓国

    シンガポール インドネシア

    トルコ 中国

    サウジアラビア マレーシア

    ドイツ 英国

    イングランド オランダ フランス

    スウェーデン フィンランド

    スイス オーストリア

    ベルギー デンマーク

    オーストラリア ニュージーランド

    アメリカ カナダ ロシア

  • 5. 世話役の二人について

    カルヤワンさん(図 23 左)は私と同年で、

    25歳から6年間、名古屋大学工学部機械工

    学科に在籍した。依頼業務をきっかけに交流

    が始まったと思うが、キャンパス内で見かけ

    ればよく声を掛けて話し込んでいたことを

    記憶している。日本留学中の私との交流に、

    大変感謝していてくれたことを研修期間中

    に聞いた。研修中に施設見学した BPPT およ

    び IAe では、彼が製作に携わった模型飛行体

    が随所に展示され、また、多くの人に声を掛

    けられていたのを見たとき、現在、会社での

    彼の役割の高さと人望の厚さを知った。

    パネさん(図 23 右)はカルヤワンさん

    の同僚で九州大学の卒業生である。日本で

    の滞在年数が長く日本語を完璧に理解し、

    文章作成も話し言葉もほとんど日本人のような方である。家族全員が日本での生活経験があり日本

    語を話すことができる。直接私との繋がりはないが、カルヤワンさんが日本語のメール文章を理解

    できないので、最初は私との意思疎通を助ける役割をお願いしていた。しかしながら、次第に各訪

    問機関との連絡調整に欠くことができない重要な役割を担うようになり、研修全般に協力をお願い

    することになった。毎日決まった時間にイスラム教の礼拝を欠かすことのない、真摯で責任感の強

    い人柄であった。

    6. インドネシア研修を終えて

    ここでは、この研修を企画した立場から本研修を終えた感想を述べる。海外研修参加のきっかけ

    は、研修メンバーの後藤君より同行を相談されたことである。申し込み期限最終日のことである。

    訪問先のあてもなかったが、貴重な機会であり後々後悔することも避けたかったため、適当な訪問

    国を記入して申請書を提出した。当初よりタイプ B の企画型研修での参加しか考えていなかった。

    早速、訪問先を確保するため、前述したカルヤワンさんを頼って連絡すると、すぐに『名古屋大学

    のためなら何でも協力する』との心強い返信があり、訪問先についても彼の勤務先に加えて、勤務

    先と関係が深い二つの機関を相次いで決めることができた。更には、以降に行った各訪問先との連

    絡調整についても、世話役の二人がほぼすべてを行っていただくことができた。我々の研修は、名

    古屋大学に強く愛着を感じる元留学生との繋がりがなければ実施することが不可能であった。

    技術職員が初めて参加することになったこの海外研修には、大きな価値があるとともに大きな責

    任が伴っていることを最初に全員で確認した。大学あるいは職場に対し、できるだけ多くの知見を

    得てそして還元できるよう、中身の濃い研修になるように努めた。準備期間も少なくまた参考にな

    る前例もない中で立ち上げた研修ではあるが、なかなか充実した内容の研修を実施できたのではな

    いかと考えている。しかしながら、せっかく訪れたインドネシアという国の文化・歴史に触れるよ

    うな時間的余裕を持てなかったのはとても残念であった。ITB の技術職員とはメール交流が続いて

    おり、訪問先には多少なりともレールを敷いてきたつもりである。今回参加した若手が他のメンバ

    ーを率いて、この国の心地良いおもてなしの心を知ることができるような企画を盛り込んで、次な

    る研修を是非とも実施してもらいたいと願っている。

    謝辞 このような貴重な機会を与えて下さいました、竹下事務局長をはじめ大学の関係者の方々には、

    ここに深く感謝致します。装置開発技術系の皆さまにおきましても、この研修への参加に理解いた

    だいたことを深く感謝致します。カルヤワン様、パネ様につきましては、我々の研修実施にご尽力

    を賜り、あらためてここに厚く御礼を申し上げます。

    図 23 カルヤワン(左)、パネ(右)さん両家族