8

［1］高品質な溶接組立品

　図 1-1-1は、一般的な溶接組立品の評価で「高品質な組立品」として評価される製品の一例です。この製品が高品質と評価される点は、①すべての溶接ビードにおいて割れやアンダーカット、オーバーラップ、ピットなどの欠陥発生が無く、波形や幅、高さが均一に溶接されている、②ひずみ取り跡がほとんど認められない状態で指定寸法が得られている、③製品に求められる強度品質に応じ、完全溶け込みの溶接（母材裏面まで溶かして裏波を形成させ、材料を板厚分まで完全に一体化する溶接）と、製品構成上の剛性で、溶接部に完全溶け込みを必要としない「カド継手」などでの不完全溶け込み溶接が使い分けられている、などです。

［2］溶接組立品に求められる品質

　上述したことから、溶接組立品に求められる品質は、次のようになります。① 製作図面どうりに組み立てられ、製品としての機能が得られること② 製品が製作図面どうりの寸法に正確に仕上げられていること③ 溶接部を含め、製品の外観品質が製品の求めるレベルに仕上がっている

こと④ 溶接部の強度品質が製品の求めるレベルに仕上がっていること　なお、①の製品としての機能が得られてことの基本条件は、②の製作図

1-1

　溶接により製品組立を行う場合、「品質の良い製品」と評価されるためには、どのような視点で評価が行われるかを明確に把握しておく必要があります。

溶接製品の品質

第1章

第2章

第3章

第4章

第5章

第6章

1-1　溶接製品の品質

9

面どおりの寸法に正確に仕上げられていることが第一であり、さらには溶接により製品で求められている場合の気密度や、真空度などの機能が得られていることなどです。また、③の外観品質と、④の強度品質はそれぞれが関係し合う事柄であり、製作前に求められる品質の確認を十分に行い、過剰な品質とならないことを心がけることが必要でしょう。

図1-1-1　高品質溶接組立品の例

写真の高品質の溶接組立品では、すべてのビードにアンダーカットなどの溶接欠陥が無く、ビードの波形や高さが均一で、ひずみ取りの跡のほとんど無い状態で指定寸法に仕上げられ、目的に応じ完全溶け込みの溶接と、不完全溶け込みの溶接が使い分けられている。

10

［1］部材位置決めの高精度化

　部材の高精度位置決めの方法としては、① CAD 図面データを利用するレーザマーキングなどによる高精度位置表

示（ケガキ）② ケガキ位置に部材を合わせるための治工具の利用③ 部品の固定のための治工具の利用　などの方法が考えられます。　図 1-2-1が、最近の市販治工具を利用した部材位置決めの一例です。

1-2

　溶接組立品の寸法精度品質を維持するには、①部材の高精度位置決め、②部材の高精度組み付け、③曲げ加工を利用する板金加工的なものづくり手法の採用などの方法が考えられます。

寸法精度品質維持のための組み付け法

図1-2-1　市販治工具を利用した部材の位置決め例

各種治工具の利用により、高精度の位置決めや固定が可能になっている。

第1章

第2章

第3章

第4章

第5章

第6章

1-2　寸法精度品質維持のための組み付け法

11

［2］板金加工的ものづくりによる高精度化組み付け

　最近、CAD 図面データを利用した個々の部材のバラシや曲げ加工化、高精度組み付け継手の採用などを組み合わせて利用するものづくり（「板金加工的ものづくり」と呼ぶ）により、溶接による高精度組立品の製作が可能になっています。　図 1-2-2が、こうしたものづくり手法で製作しようとする製品の一例です。従来、こうした製品は、個々に加工された部材を溶接で仮組みし、本溶接されることで製品化されてきました。こうした手法では、仮組み時の誤差や多くの溶接箇所によるひずみの発生で、製品精度を保つことが難かったのです。　これに対し、図 1-2-2 に示す板金加工的ものづくりによる方法では、溶接箇所をできる限り曲げ加工に置き換え、溶接部の組み付けも図中に示すようなホゾ継手を利用することで、高精度で剛性に富む組み付けができ、高精度溶接組立製品の製作が容易に可能となります。

図1-2-2　曲げやホゾ継手を利用した組み付け品例（資料提供：㈱アマダ）

ホゾ継手

従来の溶接箇所を曲げ加工に変更するとともに、組み付け部にホゾ継手を採用することで、剛性のある高精度組み付けが容易に可能になる。

第1章　溶接品質の基礎

12

［3］板金加工的ものづくりによる中板製品の組み付け

　図 1-2-3は、板厚 8 mm の中板ステンレス鋼板製品に、板金加工的ものづくり手法を適用した製品例です。レーザによる高精度のブランク取り、切込みやホゾ加工を行ったブランクを曲げ加工した 2 種の部材を組み付けることで、仮付けレスで剛性のある高精度組み付けが可能になることがわかります。

［4］従来法と板金加工的ものづくり法との差異

　図 1-2-4が、板金加工的ものづくり法を中板溶接製品に適用した例で、本溶接まで行った製品を従来的な手法のものと比較して示しています。　（a）の板金的ものづくりによる製品では、（b）の従来法のものに比べ部材点数が少なく、構造が簡素化されたことで製品のデザイン性が高められています。さらに、溶接箇所が少なくなったことで、①製品の製作時間が大幅に短縮できる、②製品寸法精度が確保しやすい、③製品強度が溶接部の品質に左右されず、溶接部の検査の必要性が少なくなる、などの効果が明瞭に期待できる構造となっています。

［5］中板長尺製品への板金加工的ものづくり法の適用

　図 1-2-5は、板厚 9 mm、長さ 1.5 m 鋼板の中板長尺製品に板金加工的ものづくり法を適用した製品例です（最近の板金機械は、高精度化され大

図1-2-3　ステンレス鋼中板製品の板金的高精度組み付け例� （資料提供：㈱アマダ）

中板製品も、曲げ加工などを利用する板金的ものづくり手法で、剛性のある高精度組み付けが容易になる。