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電極に穴をあけることで高出力化が容易に 実現 電気自動車などの電力源として注目されている リチウムイオン二次電池は、現在、高容量化、高 出力化など、今後のますます増える使用要求に対 応できる性能の向上が急務である。その中で、様々 な材料開発が行われているが、穴あき電極による 新連載 神奈川大学新型電池オープンラボにおける電池開発 第1回 レーザー加工でリチウムイオン二次電池の 高エネルギー密度化に成功 神奈川大学 津田 喬史 *1 、郡司 貴雄 *2 、渡邉 達也 *3 安東 信雄 *4 、大坂 武男 *5 、松本 太 *6 長岡工業高等専門学校 中村 奨 *7 ㈱ワイヤード 杣 直彦 *8 図 1 レーザーによる電極の穴あけに用い られる光学系 ビームエキスパンダー ガルバノメーター スキャナー テレセントリック fシータレンズ 電極 XYZステージ ピコ秒レーザー 163.9mm 532nm, 15ps 80 μJ at 100kHz ミラー ミラー レーザー φ8mm *5 おおさか たけお:工学研究所 客員教授 *6 まつもと ふとし:工学部物質生命化学科 教授 〒221-8686 神奈川県横浜市神奈川区六角橋3-27-1 ☎045-481-5661 *7 なかむら すすむ:電気電子システム工学科 *8 そま なおひろ:取締役 *1 つだ たかし:工学部工学研究科応用化学専攻 博士後 期課程 *2 ぐんじ たかお:工学部物質生命化学科 助教 *3 わたなべ たつや:工学部工学研究科応用化学専攻 博 士前期課程 *4 あんどう のぶお:工学研究所 客員研究員 66

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電極に穴をあけることで高出力化が容易に実現

電気自動車などの電力源として注目されている

リチウムイオン二次電池は、現在、高容量化、高出力化など、今後のますます増える使用要求に対応できる性能の向上が急務である。その中で、様々な材料開発が行われているが、穴あき電極による

◆ 新 連 載

神奈川大学新型電池オープンラボにおける電池開発 第1回

レーザー加工でリチウムイオン二次電池の高エネルギー密度化に成功

神奈川大学 津田 喬史*1、郡司 貴雄*2、渡邉 達也*3、      安東 信雄*4、大坂 武男*5、松本 太*6

長岡工業高等専門学校 中村 奨*7、㈱ワイヤード 杣 直彦*8

図 1  レーザーによる電極の穴あけに用いられる光学系

ビームエキスパンダー ガルバノメータースキャナー

テレセントリックfシータレンズ

電極

XYZステージ

ピコ秒レーザー163.9mm

532nm, 15ps80μJ at 100kHz

ミラー

ミラー

レーザーφ8mm

*5 おおさか たけお:工学研究所 客員教授*6 まつもと ふとし:工学部物質生命化学科 教授  〒221-8686 神奈川県横浜市神奈川区六角橋3-27-1  ☎045-481-5661*7 なかむら すすむ:電気電子システム工学科*8 そま なおひろ:取締役

*1 つだ たかし:工学部工学研究科応用化学専攻 博士後期課程

*2 ぐんじ たかお:工学部物質生命化学科 助教*3 わたなべ たつや:工学部工学研究科応用化学専攻 博

士前期課程*4 あんどう のぶお:工学研究所 客員研究員

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電池の高出力化は従来のリチウムイオン電池の電極に穴をあけることで実現可能である。神奈川大学、長岡工業高等専門学校および㈱ワイヤードの研究グループは、レーザー加工による電極への穴あけ加工技術を用いて、リチウムイオン二次電池の高出力化を実現した1)。

図 1 に示すピコ秒パルスレーザーを用いた光学系によって電極に1%の開口率※で直径20μmの穴をあけることで(図 2 )、従来の穴があいていない電極に比べ8倍以上の出力特性が得られることが明らかとなった。比較として、従来のように加

工されていない集電箔に負極材料と正極材料をそれぞれ塗工した電極および集電箔にこれまで報告されているような開口率15〜17%、開口径330〜360 μmを持つものを用いて、その箔上に負極、正極材料を塗工した電極を用いた(図 3 )。

従来、充放電容量は放電電流値が大きくなると急激にその値が減少するが、わずか1%の開口率で穴をあけた電極の場合、10 Cにおいても70%の放電容量保持率が保てることが明らかとなった

(図 4 )。これまで検討されてきている穴あき集電箔を用いた場合には、放電特性が悪くなっているが、この原因は、集電箔に穴が多くあいているために集電箔と負極・正極物質との電子伝導ルートが少なくなったためであると考えられる。このよ

表面 表面 表面 表面

裏面 裏面

負極 正極

裏面 裏面

図 2  レーザーによって穴をあけた電極表面の電子顕微鏡像。   表面からレーザーを入射。負極:グラファイト、正極:オリビン鉄(LiFePO4)

(a)穴あき電池 (b)従来の電池 (c)穴あき集電箱を用いて作製した電池

正極

負極

負極

正極

正極

正極

正極

正極

正極

正極

正極

負極

負極

負極

負極

アルミニウム箔

アルミニウム箔

アルミニウム箔

アルミニウム箔穴あきアルミニウム箔

穴あきアルミニウム箔穴あきオリビン鉄層

穴あきオリビン鉄層 オリビン鉄層

セパレーター

銅箔

セパレーター セパレーター

オリビン鉄層

銅箔 穴あき銅箔

グラファイト層グラファイト層穴あきグラファイト層

オリビン鉄層 オリビン鉄層

図 3 検討に用いた3つのセルの構成の模式図

※開口率とは、電極の幾何学的面積に対する開口している部分の総面積の割合である

672019年12月号(Vol.67No.12)