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構造実験 振動実験 ( AR3 後期 ) 3.自由振動実験による振動特性の算出 3.1 固有周期の算出 3 のように自由振動している建物を考える。固有周期 T および固有振動数 f の定義はそ れぞれ、 固有周期:建物が自由振動しているとき、1往復 するのにかかる時間 固有振動数:建物が自由振動しているとき、1秒 間に往復する回数 であるから、固有周期および固有振動数は図 3 に示される減衰自由振動の時刻歴波形から 読み取ることが出来る。ただし、1 周期のみから読み取ると、種々の影響による誤差が含ま れるため、複数の波長から周期を読みとり、平均化することで、誤差の影響を小さくするこ とが出来る。 3.2 減衰定数の算出 3.2.1 減衰とは 減衰:振動エネルギーを消費して揺れを減少さ せる作用のこと 減衰のメカニズムは非常に複雑かつ多様で、未知の部分も多いが、建築では一般に、地震 などにより構造物に入力された運動エネルギーを熱エネルギーや音に変化させたり、空気 や地盤などの媒介物質を通して外部に放出するなどしてエネルギー消費を行なっている。 また、建築振動で考えられる減衰の種類には次のようなものがある。 T T T t [sec] u(t) 図 3 自由振動の時刻歴波形と固有周期

構造実験 振動実験 ( AR3後期...構造実験 振動実験 ( AR3後期 ) 4.伝達関数による固有周期の算出 実際に建設されている建物の振動特性を知りたい場合、建物を自由振動させれば上記の

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構造実験 振動実験 ( AR3 後期 )

3.自由振動実験による振動特性の算出

3.1 固有周期の算出

図 3 のように自由振動している建物を考える。固有周期 T および固有振動数 f の定義はそ

れぞれ、

固有周期:建物が自由振動しているとき、1往復

するのにかかる時間

固有振動数:建物が自由振動しているとき、1秒

間に往復する回数 であるから、固有周期および固有振動数は図 3 に示される減衰自由振動の時刻歴波形から

読み取ることが出来る。ただし、1 周期のみから読み取ると、種々の影響による誤差が含ま

れるため、複数の波長から周期を読みとり、平均化することで、誤差の影響を小さくするこ

とが出来る。

3.2 減衰定数の算出

3.2.1 減衰とは

減衰:振動エネルギーを消費して揺れを減少さ

せる作用のこと減衰のメカニズムは非常に複雑かつ多様で、未知の部分も多いが、建築では一般に、地震

などにより構造物に入力された運動エネルギーを熱エネルギーや音に変化させたり、空気

や地盤などの媒介物質を通して外部に放出するなどしてエネルギー消費を行なっている。

また、建築振動で考えられる減衰の種類には次のようなものがある。

t (s)

x (t)

T T

T

t [sec]

u(t)

図 3 自由振動の時刻歴波形と固有周期

構造実験 振動実験 ( AR3 後期 )

・内部摩擦減衰・・・材料内部の分子摩擦によるもの。(速度依存)

・外部摩擦減衰・・・空気、水、油などの媒介中での振動により生じる。(速度依存)

・すべり摩擦減衰・・・部材間の摩擦により生じる。(変位依存)

・塑性履歴減衰・・・部材降伏などに伴う履歴ループのエネルギー吸収によるもの。(変位依存)

・逸散減衰・・・エネルギーが地盤などに逃げていくことで生じる。(周波数依存)

3.2.2 自由振動実験による減衰定数の算出

図 4 に示すような減衰自由振動の時刻歴波形から減衰定数を求める。

減衰振動では隣り合う 1周期ごとの振幅の比率(振幅比 d )は、(理論上は)全て等しくなる。

このとき、振幅比 d は、

212

33222211

3221

hhTh ee

xxxxxxxx

xxxxd

(22)

と表され、対数減衰率 lnd と呼ばれる指標は

212ln hhd (23)

と書ける。ここで、h<<1.0 とすれば、振幅比 d と減衰定数 h の関係は以下の様に表される。

2

ln dh

(24)

つまり、減衰自由振動の時刻歴波形の振幅比から減衰定数を推定することが可能となる。

ただし、固有周期の算出と同様に、1 周期のみから振幅比を求めると誤差が含まれるため、

複数の波長から周期を読みとり、平均的な振幅比 d を求める必要がある。

t (s)

x (t)

図 4 自由振動の時刻歴波形と振幅

u(t)

t [sec] x2’ x1’

x2 x1 thae

構造実験 振動実験 ( AR3 後期 )

4.伝達関数による固有周期の算出

実際に建設されている建物の振動特性を知りたい場合、建物を自由振動させれば上記の

手法によって振動特性が得られるが、様々な問題が発生するため実現は難しい。また、地震

等によって損傷した建物の振動特性を得たい場合、建物の剛性や質量を精確に推定するこ

とが困難であるため、物性値から算出することも難しい。その様な場合に、伝達関数から振

動特性を求めることが出来る。

伝達関数 Z()とは、入力 F()に対する応答 G()の増幅率を周波数領域について示したも

のである。

FZG (25)

時間領域と周波数領域の変換には、フーリエ変換を用いることとし、以下の式(26)で表され

る。なお、周波数領域から時間領域への変換をフーリエ逆変換という。

dtetfF ti

(26)

ここで、F(ω):周波数領域のデータ(f(t)のフーリエ変換)、f(t):時間領域のデータ(F(ω)のフ

ーリエ逆変換)である。

|F(ω)|(F(ω)の絶対値)(縦軸)と、振動数 f [Hz](横軸)の関係を示したグラフをフーリエ振幅

スペクトルという。

建物への入力波形のフーリエ振幅スペクトルを『入力 F()』、建物の応答波形のフーリエ

振幅スペクトルを『出力 G()』として扱い、伝達関数 Z()を求める。

FGZ (27)

ここで求まった、伝達関数 Z()の卓越振動数が固有振動数である。

0

5

10

15

20

25

30

0 10 20 30 40 50

F(ω)

振動数Hz

入力

0

50

100

150

200

0 10 20 30 40 50

G(ω)

振動数Hz

出力

周波数領域時間領域

0

5

10

15

20

0 10 20 30 40 50

Z(ω)

振動数Hz

伝達関数

-200

-150

-100

-50

0

50

100

150

200

0 10 20 30 40

-200

-150

-100

-50

0

50

100

150

200

0 10 20 30 40

時間sec

時間sec

フーリエ変換

フーリエ変換

伝達 伝達

acc

acc固有

振動数

固有

振動数

図 5 時間領域データ、周波数領域データ、伝達関数の関係図

構造実験 振動実験 ( AR3 後期 )

※フーリエ変換はエクセルで出来ます。ただし、データ数が(2 の累乗)個でないと実行でき

ないため、データに 0 を追加するか、データを削って、データ数を調整すること。

※エクセル内で複素数の絶対値を返す関数として「IMABS 関数」が用意されています。

※補足

実験によって得られるデータは離散データになってしまうため(連続データとして計測す

ることは今のところ不可能)、フーリエスペクトルも離散データとして得られることとなる。

そのため、真の固有振動数を取り逃す可能性が高い(十分短い時間刻みで計測を行なうこと

で、誤差を最小限に留める必要がある)。この対策として、理論伝達関数によるカーブフィ

ット法などがあり、離散的なデータを連続的な関数に置き換えることで精度良く固有振動

数を評価することができると考えられている。また、カーブフィットを行なう過程で、固有

振動数だけでなく減衰定数、固有モードも求めることが出来る。(これは難しいから、今回

の課題では挑戦しなくて良い。)

構造実験 振動実験 ( AR3 後期 )

実験課題

用意された 1 層架構模型に・・・、

①自由振動を発生させ、その結果を用いて固有周期と減衰定数を求めなさい。

②任意の揺れを入力し、固有周期と減衰定数を求めなさい。

なお、実験方法、計測方法は各自で考えることとする。ただし、試験体の設置、計測器の設

置および計測は TA が行なうこととする。

※注意:試験体に荷重をかけすぎないこと。

(以下、余白。実験メモとして使用すること。)

構造実験 振動実験 ( AR3 後期 )

(以下、余白。実験メモとして使用すること。)

構造実験 振動実験 ( AR3 後期 )

付録.実験を行う際の心得

★ 安全第一を心掛ける。

→油断していると、簡単に怪我します。

★ 計測したい値を明確にする。

→ここが明確でないと、実験方法、計測計画、が決まりません。

★ より精確なデータが得られるよう最大限努力する。

→電気的なノイズの除去、計測値のバラつき、境界条件の設定、計測器の設置場所・固定方

法を工夫することで、結果の精度が大きく変わります。『何となく』でやると全然ダメです。

★ 現象をよく観察、記録し、『何故』を考えること。

→計測された値と実現象を照らし合わせて考えないと、結果が妥当であるか、何故そのよう

な結果になったのか、判断できない。

→結果そのものも重要であるが、『何故』を明確に説明できることがそれ以上に重要。

→実験 ( 計算・解析も然り ) しただけではダメ。

★ 試験機、計測器を壊さないよう注意する。

→安っぽく見えますが、試験体、計測器ともに超高価です。

→試験体を変形させすぎないよう注意すること。

→ケーブルを踏んだり、折り曲げたりしないこと。

→計測器に許容値以上の力や衝撃を与えないこと。

構造実験 振動実験 ( AR3 後期 )

付録.レポートの内容について

以下に示すレポートの目次は標準的なものであって、この通りに構成する必要はない。

各自が創意工夫した構成を歓迎する。フォーマットは自由。ただし、学籍番号と氏名を

忘れずに書くこと。

1. 実験の背景と目的

⇒前回と同様

2. 実験概要

2.1 自由振動実験

2.2 任意外乱振動実験

⇒前回と同様

3. 実験結果と分析・考察

3.1 自由振動実験結果

3.2 任意外乱振動実験結果

⇒3.1、3.2 では入力波と応答波の時刻歴波形を必ず記載すること。

(全て記載する必要はないが。)

3.3 振動特性の導出

3.3.1 自由振動による固有周期の算出

3.3.2 自由振動による減衰定数の算出

3.3.3 伝達関数による固有周期の算出

⇒3.3.3 では必ず、伝達関数を記載すること。

4. まとめ

参考文献

※ 注意事項

・実験データは、永野研究室 HP に UP するので、各自ダウンロードすること。

http://www.ar.noda.tus.ac.jp/naganolab/lecture/structuralexperiment/

・グラフ等の作成に際しては、Microsoft Office Excel 等のソフトウェアを使うこと。

・レポートの作成に際しては、Microsoft Office Word 等のソフトウェアを使うこと。

⇒手書きレポートは受理しない。

・レポートは、次回の講義の際に提出するか、それまでにメールで提出すること。

・メール提出する場合には、Word 形式または PDF 形式(.doc, .docx, .pdf)で提出すること。

・メール提出する場合には、件名を「東京理科大学構造実験レポート提出」とすること。

・こちらが、「コピペ」或いは、「コピペと同等」と判断した場合には、0 点とする。

メールでのレポート提出および問合先: [email protected] (助教 王 欣)

提出締め切り:11 月 27日(水) 13:10 まで(Delay 提出は 0 点とする)