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Effects of Color on Pleasantness and Interestingness 多色配色の構成色要因と快さおよび面白さ Effects of Color on Pleasantness and Interestingness in Multicolor Combinations 筒井亜湖 TSUTSUI Ako(東京大学 University of Tokyo) 近江源太郎 OHMI Gentarow(日本色彩研究所 Japan Color Institute色彩研究,59 (2)1-14. (2012) アブストラクト 本研究は,多色配色を刺激として,配色の快さや面白さに及ぼす構成色数の影響,および配色を構成する基準が両評 価に及ぼす影響を検討した.美術大学の学部生28(男性6名,女性22) が,トーンが同一,色相が類似,トーンお よび色相が異質,およびランダムに構成された,96多色配色刺激 (色種類数は212) に対して,快さ,面白さ,複 雑性の評定を行った. 快さおよび面白さ評定平均値と主成分分析で得られた2主成分の主成分得点に対して,数量化理論I類を行った.カテ ゴリスコアからは,配色構成色数の影響は快さに対しては希薄であったが,面白さには影響を及ぼす傾向が示された. しかし,この影響は2色配色の異質性に起因するものであった.また,配色構成基準に関しては,快さでは主要な判断 傾向として共通性のある配色が快いとされたほか,特に高明度色で構成された配色に対する頑健な選好が確認された. 面白さに関しては,快さとは対照的に,変化のある配色が面白いとされる傾向が示された.ただし,両評価には副次的 な判断パタンの存在も示唆された. Abstract The present study examined influences of number of colors and color relations of multiple color combinations on evaluation of pleasantness and interestingness. 28 undergraduate students that are enrolled in university of art rated 96 color combinations (constituted by same tones, similar hues, dissimilar tones and hue, and at random; numbers of component color were from two to twelve) on scales of complexity, pleasantness, and interestingness. The Quantification Theory Type I Analysis was performed on mean ratings and two principal component scores of pleasantness and interestingness. From category scores, effects of number of colors composing color combinations were weak for pleasantness but strong for interestingness. However, this effect originated in the heterogeneity of two-color combinations. As for relations of colors , composite color combinations, combinations that have commonality, especially which composed by colors of high value were judged pleasant as the main judgment tendency. On the other hand, for interestingness, it shows that color combinations have variety were made interest. In this regard, however, it was suggested that secondary judgment patterns also exists in both evaluations. 1

多色配色の構成色要因と快さおよび面白さ - WordPress.com...もない,調和という概念はかなり単純化されるようになった.Judd and Wyszecki (13)

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    多色配色の構成色要因と快さおよび面白さ Effects of Color on Pleasantness and Interestingness in Multicolor Combinations

    筒井亜湖 TSUTSUI Ako(東京大学 University of Tokyo)

    近江源太郎 OHMI Gentarow(日本色彩研究所 Japan Color Institute)

    色彩研究,59 (2),1-14. (2012年)

    アブストラクト

     本研究は,多色配色を刺激として,配色の快さや面白さに及ぼす構成色数の影響,および配色を構成する基準が両評価に及ぼす影響を検討した.美術大学の学部生28名 (男性6名,女性22名) が,トーンが同一,色相が類似,トーンおよび色相が異質,およびランダムに構成された,96多色配色刺激 (色種類数は2~12色) に対して,快さ,面白さ,複雑性の評定を行った.

     快さおよび面白さ評定平均値と主成分分析で得られた2主成分の主成分得点に対して,数量化理論I類を行った.カテゴリスコアからは,配色構成色数の影響は快さに対しては希薄であったが,面白さには影響を及ぼす傾向が示された.しかし,この影響は2色配色の異質性に起因するものであった.また,配色構成基準に関しては,快さでは主要な判断傾向として共通性のある配色が快いとされたほか,特に高明度色で構成された配色に対する頑健な選好が確認された.面白さに関しては,快さとは対照的に,変化のある配色が面白いとされる傾向が示された.ただし,両評価には副次的な判断パタンの存在も示唆された.

    Abstract

    The present study examined influences of number of colors and color relations of multiple color combinations on evaluation of pleasantness and interestingness. 28 undergraduate students that are enrolled in university of art rated 96 color combinations (constituted by same tones, similar hues, dissimilar tones and hue, and at random; numbers of component color were from two to twelve) on scales of complexity, pleasantness, and interestingness.

    The Quantification Theory Type I Analysis was performed on mean ratings and two principal component scores of pleasantness and interestingness. From category scores, effects of number of colors composing color combinations were weak for pleasantness but strong for interestingness. However, this effect originated in the heterogeneity of two-color combinations. As for relations of colors , composite color combinations, combinations that have commonality, especially which composed by colors of high value were judged pleasant as the main judgment tendency. On the other hand, for interestingness, it shows that color combinations have variety were made interest. In this regard, however, it was suggested that secondary judgment patterns also exists in both evaluations.

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    1.序論

    1.1. 配色調和と快さ

     配色を用いた研究としては,調和に関する研究が主流であった.どの色と色を組み合わせれば調和するかという,配色調和 (ないしは色彩調和) については,配色調和理論として多くの理論が提案されてきた.例えば,Goethe (1) は,補色残像の現象から「調和は視覚的均衡である」とし,自身の色相環の中で直径の関係にある色 (いわゆる補色関係にある色,対照配色) 同士は,互いに「呼び求め合う」ために「完全に調和のとれた配色」であるとした.また,初めて色空間に基づいた調和理論を発表したChevreul (2) は,調和を対比と類似に分類して説明した.Rood は“Modern Chromatics” (3) のなかでで「自然のなかでの色彩の見え方に基づいた配色関係が調和する」とした.その他,Ostward (4)やMunsell (5) などは,独自の表色系の中で規則的な関係にある色同士が調和するとした.PCCS (6) は,色彩調和の問題を系統的に解決することを目的として開発された表色系であり,共通性の調和と対比の調和に色彩調和を分類している.両者はさらに色相とトーンに分類され,どのような色の組み合わせでもいずれかの分類に含まれるようになっている.Moon and Spencer (7) は,初めて色彩調和の定量モデルを提案した.また彼らは,ω空間と称される独自の均等色空間の中で,単純な幾何図形になる (明瞭な関係になる) 色同士は調和するとした(8).

     100年以上もの間に提案されてきたこれらの調和理論を,ISCCのニュースレターにおいてJudd (9) は4つの原理に要約した.第一は秩序の原理 (Principle of Order) である.これは,“等間隔に目盛られた色空間を前提として,そのなかから秩序ある,あるいは幾何学的に単純な関係で結ばれた色は調和する”というものである.この原理は,OstwardやMunsellなどの調和理論が該当する.第二は親近性の原理 (Principle of Similarity) である.この原理は,“見慣れた色の組み合わせ,典型的には自然における色の変化や連鎖に従った配色は調和する”とするもので,Roodの調和論が該当する.第三は共通性の原理 (Principle of Commonality) である.この原理は“構成色の間にある種の共通性がある配色は調和する”とするものであり,ChevreulやPCCSなどにみられる類似や共通の概念に該当する.第四は不明瞭性回避の原理 (Principle of Unambiguity) であり,“対比や順応などによって色知覚が不安定になるような配色は調和しない”というものである.

     このように,配色は主に“調和”という概念を研究する目的で用いられてきた.また,上述した調和論は,基本的には配色の構成色間の関係性の法則化によって色彩調和を記述しており,極めて主観的なものも含まれている.しかし,Moon and Spencerの調和モデル以降,配色調和の原理に関する研究は,配色における構成色の三刺激値に基づいて,方程式によって色彩調和を予測する,ないしは色彩調和の規定要因を求めるという方向性に向かった.

     配色調和の定量モデルで最も説明力が高いと考えられるのが,Ou and Luo (10) による配色調和モデルである.Ou and Luo は,人々の調和判断に基づき,LAB色空間による構成色の三刺激値から2色配色の調和モデルを提案している.彼らは,参加者の平均調和得点から,配色調和には独立した4要因が関与していることを指摘した.第一は,“色差 (ΔC)”である.色差の計算は,構成色の色相差と彩度差の加算である.“類似した色相と類似した彩度をもつ2色は調和する”とした.第二は“明度合計 (Lsum)”である.明度合計は,構成色の明度を加算することで算出され,“構成色の明度の合計が大きい程に調和する”.第三は“明度差 (ΔL)”であり,構成色間の明度差を算出することで求められる.“構成色の明度差が中程度であるときに調和する”とされるが,データのばらつきが大きく,規定力としてはやや弱い.最後は“色相効果 (H’)”であり,これは色相環における単色間の色相角によって決定される.“青みの色を含む配色は調和する傾向がある”とされるが,データは周期関数的傾向を示し,青以外でも黄付近でピークがみられる.構成色の三刺激値から各要因を計算するための方程式が開発されているが,そのうち“明度合計”のみは直線回帰式であり,

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    かつその他の要因を一定としない場合にも成立することから,極めて頑健な調和予測要因であることがわかる.最終的な調和モデルは4要因のそれぞれに関して計算された調和予測値を加算するのみである.このモデルによって,当該研究で得られた調和判断データの約73%を予測することが可能である.

     Ou and Luo (10) は,この研究結果を受けて,等色相の関係にある色の組み合わせは調和する,とする“等色相原理 (11)”,構成色が明るければ明るいほどに調和を生む,とする“高明度原理”,明度差が大きくも小さくもない色の組み合わせは調和しやすい,とする“中度の明度差原理”および,配色に色相青が含まれるときには調和しやすい,とする“青原理”の4つの色彩調和原理を提案している.ただし,後者2原理は,前者2原理も適用される場合には効果が弱まることがOu and Luo自身によって指摘されている.

     この研究の従属変数である“調和”は,“快い印象を与える配色”という操作的定義を採用している.“harmony”という概念は,紀元前5年前後のギリシア哲学に遡ることができ,“宇宙の形式的完全性”や“対立のなかの数学的な秩序”,“2つあるいはそれ以上の部分が互いに独立しながら,しかも統一的印象を与えること”といった定義づけがなされており (12),哲学的概念であるが,このような色彩調和研究の発展にともない,調和という概念はかなり単純化されるようになった.Judd and Wyszecki (13) は,“近接した領域にある2つ以上の色が快い効果を引き起こすとき,これらの色は調和しているという”と述べている.すなわち,近年の配色調和研究において,色彩調和とは“2色以上の色の組み合わせが快い印象を引き起こすこと”であると定義づけがなされている.

     なお,定量的調和研究が蓄積されるとともに,構成色間の関係のみならず,それぞれの構成色の色属性そのものが配色評価を規定する事実も確認されてきた.

     これまでの配色調和に焦点を当てた研究に用いられてきた配色は,2色配色ないしは3色配色である.これは,研究の目的が調和の原理を追究することであるためであると考えられるが,日常生活において直面する配色とは,3色以上で構成されていることが常であり,単純に2色のみを観察するという機会は滅多にない.そこで,本研究では刺激として多色配色を構成し,構成色数を2色から12色まで変化させることにより,より現実的な配色調和 (快さ) の規則を検討することを試みた.

    1.2. 配色の面白さ 

     心理学的ないしは心理物理学的方法論によって美的評価の法則性を追求しようと試みた最初の人物は,Fechner, G.である.彼の提唱した“下からの美学”である実験美学 (Experimental Aesthetics) は,19世紀末に誕生した.Fechnerが最初に行った実験美学研究は,同じ作者 (Holbein, H.),タイトル (Madonna) をもつが異なるバージョンの2つの絵画作品がドレスデン美術館に展示されたとき,それらの絵画に対する人々の印象判断を求めるというものであった (14).配色調和の調査,実験に基づく研究は,配色という視覚刺激に対して人々の調和という印象判断を求めるという点において,実験美学と共通するところがある.

     実験美学はその後100年ほどはFechner流の心理物理的研究が主流であったが,1974年にBerlyne, D.の発表した“New Experimental Aesthetics (15)”によって,ひとつの転換期を迎える.Berlyneは彼の著書の中で,“美的対象への評価は,その作品の照合特性によって決定される”とし,評価と刺激との間に仲介変数を設定することで美的評価の法則性を明らかにしようと試みた.彼は一連の研究のなかで, Osgood (16) の評価性因子に該当するヘドニックトーン (hedonic tone) という概念を提唱した.ヘドニックトーンは,美しさ,快さ,良さ,その他の類似概念の総称であり,この視点に立つと,これまでの配色調和研究は配色に対するヘドニックトーンを測定していたとみなせる.一方で,彼は視覚刺激および聴覚刺激を含む多様な刺激に関する17の因子分析研究の要約として5次元を挙げたが,そのうちで評価的な意味合いをもつ次元として,ヘドニックトーン以外に面白さ (interest) を挙げている.ヘドニックトーン (ないしは快さ)

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    と面白さとは,これまでの実験美学研究においてその異質性 (15, 17-19) と類似性 (20, 21) の双方が指摘されており,近年の実験美学においては,面白さは主要な美的評価のひとつとみなされている (22).しかし,配色の面白さを検討した研究はこれまであまりなされてこなかった.そこで今回の研究では,面白さにも焦点を当てた.

    1.3. 本研究の目的

     本研究には,2つの目的がある.

    (1) 配色の快さおよび面白さといった評価は,配色構成色数に規定されるのか?

     上述のとおり,伝統的配色調和理論および近年の配色調和研究では,調和の原理を追究することを目的としているため,2色ないしは3色配色を対象としてきた.しかし,現実世界において2色や3色のみを観察するという機会はあまりなく,このような配色刺激による調和論や調和予測は,実用性に乏しいといえる.また,配色に直結する現実的な実用場面としては,デザイン構成や絵画などの多色構成の視覚対象である.そのため,本研究では2色から12色まで変化する多様な配色刺激を用い,配色に用いられる色数が調和判断や面白さ判断を規定するかどうかを確認した.

     本研究では,被説明変数として“快さ”という用語を用いた.“調和”という用語が“harmony”の訳語として日本で使用されるようになったのは明治時代以降である (23).すなわち,“調和”という用語は西洋文化に特有の概念であり,日本での歴史は極めて浅いのである.本研究は日本人を対象としているため,配色における評価判断を研究するにあたり,調和という用語の使用を控え,上述のJudd and Wyszecki (13) の定義に従い,“快さ”を測定することとした.

    (2) 配色を構成する色属性は,どのように配色の快さおよび面白さに影響するのか?

     これは従来型の配色調和研究と同じ目的意識である.ただし,本研究ではLABといった三刺激値ではなく,PCCSにおけるヒュートーンシステム (23) を刺激構成に採用した.ヒュートーンシステムは,色相と,明度および彩度の複合概念であるトーンの2属性によって色を表記するシステムである.このシステムを採用することにより,2属性のみで色要因を操作することが可能になり,より明瞭な構成色要因の影響を確認することが可能となる.

    2.方法

    2.1.参加者

    美術大学に在籍している日本人学生28名 (男性6名,女性22名,平均年齢22.0歳,SD = 5.67) が調査に参加した.

    2.2.刺激

     刺激は6×6に等分割された正方形であり,その全36セルに以下の48色のいずれかを割り当てた96配色見本を使用した (Figure Aを参照).

     配色の構成に用いた色は,可能な限り系統的かつ網羅的になるようにPCCSに準拠して選択した.PCCSは,色相とトーンとの2属性によって構成されたカラーオーダーシステムである.このうち,使用した色は.24分割されている色相環ののうち偶数番号にあたる12色相について,それぞれにライト (lt),ビビッド (v),ダル (d),ダーク (dk) の4トーンを選択し,計48有彩色であった.

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     配色刺激は,色の種類数(以下 色数要因)と配色の構成基準(構成基準要因)との2要因を統制して組み合わせた (Figure A).

     色数要因は,2色,4色,6色,8色,10色,12色の6水準であり,各水準に以下の構成基準手続きで各16配色刺激を作成した.

     (1) トーンが同一で,色相が異なる配色 (以下,同一トーン配色).6色数水準のそれぞれに,上記4トーンごとの同一トーン配色を1刺激ずつ作成,計24刺激.

     (2) 色相が同一ないし類似で,トーンが異なる配色 (類似色相配色).色相を赤系 (PCCS色相番号2, 4, 6),黄/黄緑系 (8, 10, 12),青系 (14, 16, 18),紫系 (20, 22, 24) の4系統にまとめ,それらによる類似色相配色を,6水準ごとに作成,計24刺激.

     (3) トーンも色相も異なるように構成された配色 (対照配色).計24刺激.

     (4) 色を48色から乱数表に基づいてランダムに選択して構成した配色 (ランダム配色).計24刺激.

     なお,各配色刺激における構成色の配置はランダムであり,各色の使用頻度は全配色刺激を合計するとほぼ同数になるように選択した (これにより,配色の効果と色属性の効果とを除去した).

    2.3.評定尺度

     評定尺度は,次の3両極尺度を9件法によって用いた.

    (1) 快さ:不快な−快い

    (2) 面白さ:面白くない−面白い

    (3) 複雑性:単純な−複雑な

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    Figure A. Examples of Stimuli.

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     複雑性尺度は,もっとも代表的な物理的複雑性とみなせる色数要因と主観的複雑性判断とを比較するため,また複雑性は先行研究から判断の一意性 (参加者間の判断の一致度) が高いことが確認されていることから,快さと面白さの2評価における個人差の程度などの特徴を確認するために採用した.

    2.4.手続き

     調査は集団法で実施した.なお,刺激は上述の96配色のうち,任意に選んだ4配色見本を2度反復呈示した.したがって,調査にあたっての刺激総数は100点であった.これは,回答の再現性を確認するための手続きである.参加者は,前面にあるスクリーン上に1点ずつランダムな順序で映写された100配色刺激に対して,快さ,面白さ,複雑性の3尺度での評定を行った.参加者は全ての刺激に対して複雑性評定を終えた後,快さを評定し,最後に面白さの評定を行った.刺激の呈示は調査者が操作し,全ての参加者が評定を終えるまでスクリーン上に残した.視角はおおよそ25°であった.全ての試行において,同じランダム順序で刺激を呈示した.参加者はそれぞれの尺度の評定を終えるまでにおおよそ20分を要した.

    3.結果

     各参加者の評定における安定性を確認するため,4同一刺激に対するそれぞれのペア間の評定値の差を算出し,不一致率を求めた.全参加者の不一致率平均は約10.68% (SD = 0.04) であった.そのうち不一致率が突出して高かった2名の参加者 (それぞれに18.52%と19.44%) のデータを除外し,26参加者 (男性6名,女性20名,平均年齢22.2歳,SD = 5.67) ×96配色のデータに基づいて以下の分析を行った.

    3.1. データの特徴

     各尺度に関する評定の安定性を,それぞれの尺度における参加者ごとの不一致率を平均することで算出した.4刺激それぞれのペアに対する評定の不一致率は,複雑性尺度が最も低く (7.05%, SD = 0.05),次いで快さ (9.62%, SD = 0.04) であり,最も不一致率の高かった尺度は面白さ (13.46%, SD = 0.05) であった.

     反復提示した刺激についてはあとに提示した4刺激を除き,96刺激に関する評定平均値の平均,標準偏差,最大値および最小値をTable 1に示す.平均値をみると,複雑性尺度がやや高いがいずれも尺度の中性点 (尺度値5) 付近であり,本調査で用いた刺激は,これらの尺度において極端な偏りがないことが確認された.

     また,快さおよび面白さ尺度と複雑性尺度とには,標準偏差の値に差が認められ,複雑性尺度がその他2尺度と比較して高い傾向が認めたれた.評定平均値の標準偏差は刺激に対する尺度の識別力の指標とみなせば,複雑性尺度と他の快さおよび面白さ尺度との間には,刺激に対する識別性の点で違いがあるといえる.

     次に,3尺度の参加者間における判断の一意性を確認するため,尺度ごとの参加者×刺激のデータ行列に対し

    て主成分分析を実施した.主成分分析で得られた第3主成分までの固有値と累積寄与率をTable 2に示す.ここでも複雑性尺度と快さおよび面白さ尺度との間に違いがみられ,相対的にみて複雑性尺度は第1主成分の固有値がその他の主成分と比較して突出している.他方,快さおよび面白さ尺度の主成分固有値をみると,固有値における第1主成分の突出の程度は相対的に小さく,多成分に分散する傾向がみられた.これらの結

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    Table 1. Means, Standard Deviations, Maximum and Minimum Values of Mean Ratings.

    M SD Max MinPleasantness 4.88 0.97 6.62 2.73Interestingness 4.99 0.88 7.19 2.35Complexity 5.68 1.78 8.00 1.88

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    果は,複雑性尺度は相対的に参加者間で判断の類似性が高いのに対し,快さや面白さの参加者間における判断の類似性は劣る,換言すれば個人差が相対的に高いことを示す.上述の標準偏差における違いは,評定平均値に快さおよび面白さ判断の個人差成分が内包されていることに起因する可能性が高い.

    3.2.快さおよび面白さ評定と色数要因および配色構成基準要因との関係

     配色の色数要因および配色構成基準要因と,快さおよび面白さ評定との関係を確認するため,数量化理論I類 (24) を

    実施した.数量化理論I類は,質的データに対して重回帰分析と同様の分析を実現する統計手法である.ここでは,質的データである配色構成基準 (10カテゴリ:4同一トーン [lt, v, d, dk],4類似色相 [R, B, Y/G, P],1対照,1ランダム) と色数 (6水準:2色,4色,6色,8色,10色,12色) を説明変数,各評定尺度を被説明変数として分析を行った.分析で得られた偏相関係数と決定係数をTable 3に,快さおよび面白さの構成色要因に関するカテゴリスコアをそれぞれにFigure 1と2に示す.

    3.2.1.快さ

     数量化理論I類で得られた快さモデルの決定係数は .82と高く,今回の配色刺激に対する快さ評定は,色数および配色構成基準の2要因によってある程度以上説明できることが示された.構成色要因の偏相関係数は配色構成基準要因でより高く,色数要因では低かった (Table 3).即ち,快さは配色に使用されている色属性に強く規定され,色の種類数による効果は希薄であるといえる.

     具体的には,同一トーン配色および類似色相配色に関して,カテゴリ間の差を確認するために1要因分散分析および多重比較検定 (Tukey-Kramar法) を行った.同一トーン配色ではカテゴリ間に有意差が認められ (F(3,23) = 125.89, p < .001),多重比較検定は全てのトーンの組み合わせに関して1%水準で有意で

    あった. ltトーン配色とvトーン配色が快とされた.一方で,dトーンとdkトーンの同一トーン配色は不快とされた (Figure 1aを参照).類似色相配色ではカテゴリ間に有意差は認められず,全ての色相において快いとされた (Figure 1a).なお,色数要因の分散分析は有意でなかった.

    3.2.2.面白さ 

     面白さモデルの決定係数も .82と高く,2要因からある程度以上は説明できることが示された.けれども,快さとは異なり,面白さは配色構成基準と色数要因との双方で偏相関係数が高かった (Table 3).快


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    Table 2. The Eigenvalues and the Accumulation Contribution Ratios of Pleasantness, Interestingness, and Complexity Obtained by the Principal Component Analysis.

    Eigenvalue (Accumulation contribution ratio [%])

    Rating scale 1st 2nd 3rd

    Pleasantness 8.59 (33.02)

    3.56 (46.72)

    2.01 (54.44)

    Interestingness 8.57 (32.94)

    3.25 (45.44)

    2.48 (54.96)

    Complexity 20.08 (77.21)

    0.89 (80.64)

    0.69 (83.29)

    R2 prColor relations Number of colors

    Pleasantness 0.81 .90*** .21*Interestingness 0.82 .84*** .83***Complexity 0.94 .83*** .96***

    Table 3. Multiple Correlation Coefficients and Partial Correlation Coefficients Obtained by the Quantification Theory Type I Analysis on Mean Ratings.

    *** p < .001, *p = .043.

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    Figure 1. Category Score of 3 Models obtained by the Quantification Theory Type I Analysis on Mean Ratings and Principal Component Scores (First and Second) of Pleasantness. MR= mean ratings; PC1= First principal component score; PC2= Second principal component score.

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    Figure 2. Category Score of 3 Models obtained by the Quantification Theory Type I Analysis on Mean Ratings and Principal Component Scores (First and Second) of Interestingness. MR= mean ratings; PC1= First principal component score; PC2= Second principal component score.

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    さに関する分析と同様の分散分析および多重比較検定の結果では,同一トーン配色にカテゴリ間で有意差が認められた.多重比較検定はltとdk,vとd,vとdk間で1%,ltとvとに5%水準の有意差が示され, ltトーン配色やvトーン配色が面白いとされ,dトーン配色やdkトーン配色は面白くないとされた (Figure 2aを参照).他方,類似色相配色ではカテゴリ間に有意差は認められなかった.

     快さとは異なり,面白さでは色数水準に有意差が認められ (F(5,95) = 12.02, p < .001),多重比較検定では2色配色とその他の配色との間にのみ有意差が示された.カテゴリスコアからは,2色配色のみが面白くないとされる傾向がみられた (Figure 2b).ちなみに,面白さの評定平均値と色数との相関は .49 (p < .001) であったが,2色配色を除くと無相関となった (r = .16, n.s.).

    3.3.個人差パタン

     3.1. で示した主成分分析の結果から,快さおよび面白さの評定平均値には個人差成分が内包されている可能性が示唆されたため,両尺度の主成分分析で得られた第2主成分までの主成分得点について,3.2. と同

    様の分析を行った.数量化理論I類で得られた偏相関係数と決定係数をTable 4に示す.

    3.3.1.快さ

     第1および第2主成分得点から得られた快さモデルの決定係数はそれぞれに .75と .77であり,双方ともに2構成色要因によってある程度以上説明できることが示された.しかし,両モデルの偏相関係数を比較すると,色数要因の関与の程度に差がみられ,第2主成分の判断基準では,色数要因の規定力が相対的に強い傾向が示された.即ち,第1主成分パタンの判断においては色属性要因が強い効果をもち,第2主成分パタンの判断においては色属性要因のみならず色数要因が同

    等に近い効果をもっていた.

     第1主成分パタンの同一トーン配色および類似色相配色に関する1要因分散分析の結果は前者のみが有意

    であり (F(3,23) = 33.85, p < .001),dとdkを除く全ての組み合わせに関してカテゴリ間に1%水準の有意差が示された.判断傾向をカテゴリスコア (Figure 1a) から確認すると,ltトーン配色は快とされる一方で,vトーン配色は不快とされる傾向がみられた.類似色相配色に関しては,色相に関わらずいずれも快いと判断された.また,相対的にみて対照配色やランダム配色を不快と判断する傾向がみられた.なお,色数要因に関してはカテゴリ間に有意差は認められなかった.

     第2主成分パタンでは,同一トーン配色および類似色相配色ともにカテゴリ間に有意差が示された (それぞれに,F(3,23) =41.59, p < .001とF(3,23) = 3.95, p = .023).前者では,ltとvの組み合わせを除く全ての組み合わせで1%水準の有意差があり,カテゴリスコアからは,ltトーン配色やvトーン配色が快と

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    R2 pr

    Principal Component Score Color relationsNumber of colors

    Pleasantness

     1st 0.75 .86*** .41***

     2nd 0.77 .84*** .72***

    Interestingness

     1st 0.80 .77*** .84***

     2nd 0.70 .82*** .46***

    Table 4. Multiple Correlation Coefficients and Partial Correlation Coefficients Obtained by the Quantification Theory Type I Analysis on Principal Component Scores of Pleasantness and Interestingness.

    *** p < .001.

  • Effects of Color on Pleasantness and Interestingness

    され,dkトーン配色が不快とされる傾向が示された (Figure 1a).後者では,BとRおよびBとY/Gとの間に5%水準の有意差が認められ,青系の類似色相配色が不快とされる傾向がみられた (Figure 1a).色数に関する分散分析の結果も有意であり (F(5,95) = 5.75, p < .001),2色配色と6-12色配色の全ての組み合わせで1%水準の有意差が示された.カテゴリスコア (Figure 1b) からは,2色配色が不快とされ,相対的には10色以上の配色が快とされる傾向が認められた.

    3.3.2.面白さ 

     第1および第2主成分得点から得られた面白さモデルの決定係数はそれぞれに .80と .70であり,双方ともに2要因によってある程度以上説明できることが示された.第1主成分パタンでは両要因ともに高い偏相関係数を示したが,若干色数要因の規定力が高いのに対し,第2主成分パタンでは色数要因の規定力が相対的に弱い傾向がみられた.

     第1主成分パタンの同一トーン配色および類似色相配色に関する1要因分散分析の結果は前者のみが有意であり (F(3,23) = 6.25, p = .004),vとdkとの間で1%水準,vとdとで5%水準の有意差が示された.カテゴリスコアからは,vトーン配色のみが面白いとされ,その他の同一トーン配色は面白くないとされる傾向が確認された.色相に関しては有意ではないものの,黄/緑系の配色や青系の配色が面白くないとされる傾向がうかがわれた (Figure 2a).また,相対的にみて対照配色やランダム配色を面白いとする傾向もみられた.色数要因に関しては,カテゴリ間に有意差が認められ (F(5,95) = 17.38, p < .001),カテゴリスコアからは色数が増加するに従って対数的に面白いと評価する傾向が認められた (Figure 2b).カテゴリ間では,2色配色とその他全ての配色との組み合わせに関してのみに1%水準の有意差が示された.

     第2主成分パタンもまた同一トーン配色に関してカテゴリ間に有意差が認められ (F(3,23) = 17.98, p < .001),類似色相配色は有意に達しなかった.前者では,ltとその他全てのトーンとの組み合わせで1%水準の有意差が示され,ltトーン配色のみが面白いとされた.類似色相配色に関しては,色相の差に関わらず面白いとされた.なお,相対的にみて対照配色やランダム配色を面白くないとする傾向がみられた.色数に関しては水準間に有意差は認められなかった.

    3.4.物理的複雑性と主観的複雑性

     配色の物理的な複雑性 (色数) と主観的な複雑性 (複雑性評定) との関係を確認するため,複雑性評定平均値による数量化理論I類を実施した.複雑性モデルの決定係数は .94とかなり高く,偏相関係数も配色構成基準,色数ともに高かった (Table 3) が,トーンカテゴリ,色相カテゴリ間に有意差は認められなかった.色数ではカテゴリ間に有意差が認められ (F(5,95) = 73.28, p < .001),多重比較検定からは2色および4色とその他の色数との間に1%水準の有意差が示された.カテゴリスコアから傾向をみると,2色配色が相対的に極めて単純とされ,色数の増加とともに対数的に複雑とされる傾向がみられた.単純と複雑との境界は4色と6色との間にあった.

     複雑性評定平均値と色数との相関は .78 (p < .001) と高かったが,2色および4色配色を除いた場合には,相関は有意ではあるものの弱まった (r = .35, p = .004).

    4.考察

     本研究には2つの目的があった.配色の快さや面白さについて,ひとつは配色を構成する色数に規定されるかどうかを検討することであり,もうひとつは配色を構成する色相やトーンといった色属性要因が,どのように影響するのかを確認することであった.これには,配色評価における快さと面白さの両判断における

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    共通性と異質性とを抽出して両者の関係性を検討することも含まれる.ただし,本研究は,配色評価についての色属性との関係における計量的モデルの作成を意図した設計にはなっていない.むしろ,多色配色における評価の特徴についての規定要因を探索することに力点をおいた.

    4.1.配色を構成する色の種類数が評価に及ぼす効果

     評定平均値についての数量化分析における偏相関係数からみる限り,快さ判断に及ぼす色数要因の効果は微弱であるのに対して,面白さ判断は明らかに色数の効果が強い.この点は,Berlyne (25) 以来定量的に指摘されてきたHedonic toneとInterestingとの異質性 (15, 17-19) の一部を検証したものといえる.

    ところが,2色配色と4色以上の多色配色との間に差がみられ,2色配色はかけはなれて不快かつ面白くないと判断されていた.即ち,この2色配色の特異な傾向が,色数と評価との見かけ上の相関関係をもたらせていたと推測される.この点については,次項で考察する.

    また,両判断についての主成分分析における第1,第2主成分型ごとにみると,快さでは第2主成分型でわずかに,面白さでは第1主成分型において顕著に偏相関係数が高かった.即ち,判断内容のいかんを問わず,色数要因に影響される人と否とが存在する,換言すれば,人と色数との相互作用が認められたわけである.

    4.2. 2色配色の特異性

     両判断とも,評定平均値,第1第2主成分値のいずれにおいても2色配色は不快かつ面白くないと判断される傾向が顕著であった.この点についてはいくつかの解釈が可能である.Berlye (25) は面白さが複雑性に規定されることを指摘しているから,今回の刺激のうちもっとも複雑性が低く単純な刺激である2色配色は面白くないという判断はこの傾向に沿っているといえる.また,快さについて,彼は適度の複雑性をもつことを挙げているから,2色配色は快さが低いと判断されたのではないかとの解釈も可能である.即ち,覚醒効果の低い刺激であるために双方の判断とも負の印象をもたらしたと説明することができよう.

     また,色の種類数は2色が少ないにもかかわらず,ランダムに配列されているために,これらを群化してよいまとまり,即ちゲシタルト理論が指摘したよい形を形成することが困難であるために,快さも面白さも感じがたかったのではないか.単純ではあるけれども,統一性が得られない図形である点が低評価の一因であると考えられる.

    さらに,今回用いた実験手続きについての問題は残ろう.両判断とも,評定平均値の平均値は,中性点である5.0近傍にあった.したがって,刺激シリーズのうち極端な刺激であったために評価が低下した可能性も否定できない.ただ,この解釈に立つと,極端に多数色の刺激に対して評価の低下がみられなかった点が矛盾として残る.関連して,今回の実験では色見本をランダムに配置したに刺激限定していた点にも留意すべきであろう.配置形式要因が評価に影響する可能性は否定できない.

    ただ,今回のデータに関する限り,2色配色が他の多色配色とは大きく異なった点の意味には注目しておくべきであろう.伝統的な調和研究においては2色配色が主流であり,多色配色についても構成色を2色配色に分解して調和程度を予測するという方法がとられやすい.けれども,2色配色と多色配色とでは判断基準が異なる可能性が示唆されたわけである.配色世界における2色配色の代表性の限界についても,今後検討すべきであろう.2色あるいはせいぜい3色といった少数の色によって構成された配色見本から導かれた評価モデルと多色配色の評価との間にはかなりの隔たりがあると考えるべきであろう.

    4.3. 複雑性の問題

    色数という物理的複雑性と複雑性評定によって得られた知覚量としての複雑性とにはどのような関係があるのであろうか.複雑性評定平均値から得られたカテゴリスコアの推移をみると,色数の増加に従って複雑性

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    の心理量は対数的に増加する傾向がみられた (Figure 3).すなわち,多色による配色の複雑さに関しては,6色を超えるとあまり効果に差がない,換言すれば,色数の主観的複雑性に与える効果には上限があるということができよう.

     面白さが主観的複雑性に規定されるという仮説は,Berlyne (25) 以降,盛んに検証されている.Berlyneは,彼の提唱した照合変数のうちの代表的な変数として主観的複雑性を挙げ,面白さと複雑性とには正の線形関係が成立するとしている.本研究のデータでは,面白さと色数および主観的複雑性との相関はそれぞれに,.49 (p < .001)と.67 (p < .001) であり,主観的複雑性の相関がより高かった.また,2色配色を除く80刺激における相関では,それぞれに .16 (n.s.),.38 (p < .001) と,刺激の複雑性範囲の減少に起因して相関関係は弱まったが,それでも主観的複雑性は0.1%水準で有意な相関をもった.したがって,数量化理論I類から導き出された面白さにおける色数要因の効果は,色数というよりはむしろ知覚量としての複雑性,Berlyne流にいうところの照合特性の効果を一部に反映していたと考えることもできよう.色数という物理的複雑性と複雑性評定によって得られた知覚量としての複雑性とにはどのような関係があるのであろうか.複雑性評定平均値から得られたカテゴリスコアの推移をみると,色数の増加に従って複雑性の心理量は対数的に増加する傾向がみられた (Figure 3).すなわち,多色による配色の複雑さに関しては,6色を超えるとあまり効果に差がない,換言すれば,色数の主観的複雑性に与える効果には上限があるということができよう.

    4.4.構成色の色相・トーンが快さ・面白さ評価に及ぼす効果

     快さ判断と面白さ判断との特徴については,評定平均値の他に個人差に関する主成分分析の結果を含めることから,より明快に理解できる.双方とも,第1主成分がより優勢な判断基準であるとみなせば,次の要約が可能である.快さは,色属性ではltトーン配色やdトーン配色は快く感じるが,vトーン配色を不快と感じる.色間の関係では類似配色は快いが対照配色やランダム配色を不快とする.即ち,明るいあるいはにぶいトーン,類似を求め,コントラストの大きい配色を求めない.即ち,明るい穏やかな,これらの傾向については次の点が注目される.

     快さの特徴として,第1にltトーンが快とみなされやすい点が挙げられるが,これについては次の説明が可能である.従来の計量的調和論の多くにみられる明度の高さが調和につながるという指摘と合致する.従来の研究が,2色配色あるいは一部が3色配色といった刺激から得られた結果であったが,本研究からは多色

    配色においても高明度原理が確認されたといえる.また,単色に関する好悪調査結果としても高明度嗜好は多数報告されてきた.加えて,色彩についてのさまざまな感情的評価研究,例えば連想や象徴においても明るい色への正の感情は認められてきた.さらに,Osgood (16) 以来のSD法研究によると,快さ,良さ,美しさなどとともに明るさは評価性因子の一部として位置付けられている.こうしたさまざまな場面における高明度嗜好傾向 (12) からは,色や配色を超えて広く概念の世界一般に共通する判断の普遍的傾向とみなしてよいと考えられる.けれども,その理由については推測の域を出ない.考えられる論理としてはJungの集合的無意識 (32) が挙げられるし,近年

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    Figure 3. The Number of Colors Category Score of Mean Ratings of Complexity obtained by the Quantification Theory Type I Analysis. MR= mean ratings.

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    では脳活動の画像研究から説明が期待できよう.なお,このltトーンなどをよしとする事実は,調和が関係の論理のみでなく構成色の色属性自身にも影響されることを裏付けている.

    快さの第2の特徴である,類似色相配色を調和と判断する点は,定性的調和論において古くから指摘されてきた (1, 2, 6, 9).Goethe (1) による色相環における弓の弦の関係の調和,Chevreul (2) の類似調和など以来,類似関係を不調和とみなす例はみあたらない.類似の調和は,共通性あるいは秩序の原理と一致する.けれども,伝統的,定性的な調和論が対照調和を最優先してきた事実と,今回の対照配色を不快とするデータとは矛盾する.ただし,その後の定量的調和研究においては対照調和の優位を確認した例はまれであり,それらと今回の多色配色を不快とする傾向は合致する.色彩について対照の関係をよしとするという発想は,ギリシア思想における関係の論理の過度な影響といえるかもしれない.少なくとも本調査のように「快さ」を問うた場合には,対比関係を快しとしない可能性は想定できる.

     次に面白さ判断の特徴としては,次の点が注目された.第1主成分型は,vトーン,対照配色やランダム配色そして多色配色を面白いと判断する傾向が強く,類似色相配色を面白いと判断しない.この特徴をあえて要約すればいわゆる“カラフル”な配色のなかに面白さを見出す判断傾向といえる.カラフルということばは,通常高彩度色および色数の多さを特徴とする.また,こうした特徴はOsgoodによる感情的意味の基本次元にあてはめれば活動性因子(活動的,興奮した,派手ななど)の強度に対応しているわけであり,面白さには訴求力の強さと重複する側面が内包されている可能性が考えられる.ちなみに,この解釈に立てば,快さの特徴であった穏やかさは潜在性因子の負荷量の小さい(軟らかい,弱いなど)配色と理解できる.

    ところで,面白さの第2主成分型では,ltトーンや類似配色を面白いとみなし,対照やランダム配色を面白いとは感じない.また,色の種類数効果は希薄であった.これらは,既に述べた快さ,とりわけその第1主成分型の判断傾向との共通性が高い.この傾向からは,次のような仮説が推測される.快さであるか面白さであるかを問わず,少なくともこの種の多色配色に対する「評価」には二種類の判断基準が内在しており,状況に応じてあるいは人によってそのうちのいずれかが選択されるのではないか.または,快さの第1主成分型の反応パタンは評価における基本因子であり,面白さの第2主成分型はそれが優勢な反応となったのではないかと考えられる.これまでの研究結果において,快さと面白さとの関係があいまいあるいは矛盾した原因のひとつは,この基本因子の存在が関与しているかもしれない.

    ただし,この点は今回のデータのみからは十分確認できないので,今後の検討の余地が残る.検討に当たってはまず,両判断における第1成分型と第2成分型との個人内の関係について確認をするべきであろう.

    なお,快さと面白さとに関する以上の特徴は,伝統的美学による「美は多様のなかの統一」という定義に結び付けて理解すれば,快と統一ないし共通性,面白さと多様ないし変化との近縁性を推測させられる.

      4.4.まとめと今後の課題

     本研究は,多色配色を刺激として,配色の快さや面白さに及ぼす構成色数の影響および配色を構成する基準が両評価に及ぼす影響を検討した.色数に関しては,快さに対する影響は希薄であったが,面白さには影響を及ぼす傾向が示された.しかし,この影響は2色配色の異質性に起因するものであった.また,配色構成基準に関しては,快さでは主要な判断傾向として統一性 (共通性) のある配色が快いとされ,特に高明度色で構成された配色に対する頑健な選好が確認された.面白さに関しては,快さとは対照的に,変化 (多様性) をもつ配色が面白いとされることが明らかになった.

     ただし,両評価には副次的な判断パタンの存在も示唆された.本研究では,配色の構成色要因と快さおよび面白さとの関係を考察したが,なぜ一群の配色が快いあるいは面白いとされるのかについては不明である.本研究では配色における快さや面白さの評価に何らかの個人差が存在する可能性が示唆されたわけであるが,これについては,例えば配色評価の個人差とBig Five (27, 28) やSensation Seeking (29, 30) などのパーソナリティ要因との関係など,さらに検討する必要があろう.また,配色の快さについては明度との頑健な関係が示唆されたが,これについても,なぜ明るい配色が快いとされるのかについては,本研究では明

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    らかではない.明るさとヘドニックトーンとの関連性は筆者の配色刺激や絵画刺激による先行研究からも確認されており,Ou & Luo (10) 以前にも,Osgoodら (16) では,明るさは評価性因子に含まれる尺度であり,強い関連性が指摘されてきた.今後は,なぜ視覚的な明るさが評価 (特にヘドニックトーン) に影響を及ぼすのかについて,さらに検討する必要があると考えている.さらに,本研究では配色評価として快さと面白さのみを取り上げたが,筆者の先行研究から,色刺激に関しては楽しさとには強い関係が指摘される (31).楽しさは実験美学においてもあまり対象とされてこなかった評価であるが,色を刺激として研究を行う以上,取り扱う必要のある重要な評価であると考える.今後は,配色を含む視覚刺激の色要因と楽しさとの関係性について,さらに検討していく予定である.

     また,考察においては調和理論,色彩感情理論,知覚理論などさまざまな理論を援用したが,これらのより統一的な論理の構築も目指したい.

    本論文は,次の論文に発表したデーダを再分析して考察したものである.

    Tsutsui, A. & Ohmi, G. (2011). Complexity scale and aesthetic judgments of color combinations. Empirical Studies of the Arts, 28, 1-15.

     本論文は,筆者が女子美術大学在籍中の研究に基づいて構成したものである.一般財団法人日本色彩研究所 江森敏夫先生には,刺激作成において多大なるご尽力を賜った.ここに感謝の意を表する.

    引用 (1) Goethe, J. W. (1810). Farbenlehre, Tübingen: J.G. Cotta'schen Buchhandlung.  (高橋義人・南大路振一・中島芳郎・前田富士男・島田洋一郎 (訳) (1999). 色彩論 工作舎)

    (2) Chevreul, M. E. (1839). De la loi du contraste simultané des couleurs, Paris: Pitois-Levrault et ce.

     (シュブルール M. E. 佐藤邦夫 (訳) (2009). 色彩の調和と配色のすべて 青娥書房)

    (3) Rood, O. N. (1879). Modern chromatics, with applications to art and industry. New York: D. Appleton and Company.

    (4) Ostwald, W. (1969). The Color Primer. Edited by F. Birren from the German edition “Die Farbenfibel” of 1916. New York: Van Nostrand Reinhold.

    (5) Munsell, A. H. (1969). A Grammar of Color. Edited and introduction by F. Birren from the original version of 1921. New York: Van Nostrand Reinhold.

    (6) 日本色彩研究所 (監修) (1982).PCCSハーモニックカラーチャート201 日本色研事業株式会社

    (7) Moon, P, & Spencer, D. E. (1944). Aesthetic measure applied to color harmony, Journal of Optical Society of America, 34, 234-242.

    (8) Moon, P. & Spencer, D. E. (1944). Geometric formulation of classical color harmony, Journal of Optical Society of America, 34, 46-59.

    (9) Judd D. B.(1955)Classical laws of color harmony expressed in terms of the color solid. ISCC, News letter, No. 119, 13.

    (10) Ou, L. C. & Luo, M. R. (2006). A colour harmony for two-colour combinations. Color Research & Application, 21, 191-204.

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  • Effects of Color on Pleasantness and Interestingness

    (11) この効果は,配色が類似彩度特性も合わせもつ場合に強化される.

    (12) 近江源太郎 (2003). 色彩心理入門 日本色研事業株式会社

    (13) Judd, D. B. & Wyszecki, G. (1975). Color in Business, Science and Industry, Third Edition, New York: John Wiley & Sons.

    (14) Hoge, H. (1995). Fechner's experimental aesthetics and the golden section hypothesis today, Empirical Studies of the Art, 13, 131-148.

    (15) Berlyne, D. E. (Ed.). (1974). Studies in the new experimental aesthetics: Steps toward an objective psychology of aesthetic appreciation. Washington, DC: Hemisphere.

    (16) Osgood, C. E., Suci, G. J., & Tannenbaum, P. H. (1957). The measurement of meaning, University of Illinois Press.

    (17) 近江源太郎 (1982). 児童画評価の心理構造とその個人差 女子美術大学紀要, 12, 1-23.

    (18) Russell, P. A. & George, D. A. (1990). Relationships between aesthetic response scales applied to paintings. Empirical Studies of the Arts, 8, 15-30.

    (19) 近江源太郎・原田有子・松尾恵理子・池田浩子 (1997).色彩感情の評価性尺度に関する研究(1) 日本色彩学会誌, 21, Supplement, 28-29.

    (20) Russell, P. A. & Milne, S. (1997). Meaningfulness and the hedonic value of paintings: Effects of titles. Empirical Studies of the Arts, 15, 61-73.

    (21) Avital, T. & Cupchik, C. C. (1998). Perceiving hierarchical structures in nonrepresentational paintings, Empirical Studies of the Arts, 16, 59-70.

    (22) Silvia, P. J. (2006). Exploring the psychology of interest. New York: Oxford University Press.

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    (31) 筒井亜湖・近江源太郎 (2009). 配色の快さおよび面白さと色彩感情尺度 デザイン学研究, 56,81-88.

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    (32) Jung, Carl Gustav (1954/1959a). The Archetypes and the Collective Unconscious, in The Collected Works of C. G. Jung, Vol. 9, Part I. Edited by Sir Herbert Read, Michael Fordham, and Gerhard Adler, New York: Bollingen, Pantheon, 3-41.

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