急速進行性糸球体腎炎

C男さん（68歳、男性）は、高血圧でかかりつけ医通院中。昨年の健診では、尿異常なし。２週間前から、つかれやすい、熱っぽい、風をひいたような症状。風邪薬を飲んでもよくならい。かかりつけ医で尿検査をしたところ、血尿と蛋白尿が出ていたため大学病院の腎臓内科を紹介されました。

Cさん

Cさん「２週間前から、風邪のような症状がありました。 少し熱っぽいです」

Cさん「息苦しさはありませんが、 少し関節が痛いような気がします」

Y医師

尿検査では蛋白尿（１＋）、潜血（３＋）で血尿が多いですね。

最近、風邪をひかれましたか。

息苦しさや関節痛はありますか。

『急速進行性糸球体腎炎』の症状は？

• 血尿、蛋白尿、尿量の低下

• 関節痛、筋肉痛

• むくみ

• 高血圧

• 腎臓以外の臓器での血管炎に伴う症状。

肺：血痰、呼吸困難、眼：視力低下、鼻：鼻づまり、

皮膚：皮疹、脳•神経：手先のしびれ感、麻痺

Period A Period B Period C

前駆症状

倦怠感

発熱

食欲不振

上気道症状

関節痛

悪心

体重減少

45.2%

42.9%

34.0%

25.1%

16.5%

15.5%

14.2%

66.7%

50.8%

54.2%

31.2%

18.7%

24.9%

25.5%

73.6%

51.2%

60.2%

33.5%

18.7%

29.0%

33.5%

腎症状・尿所見

浮腫

チャンス尿異常

肉眼的血尿

乏尿

ネフローゼ症候群

急性腎炎

尿毒症症状

34.3%

23.4%

12.2%

9.5%

7.5%

5.9%

5.3%

47.0%

45.5%

16.5%

15.9%

14.6%

16.8%

17.8%

51.2%

60.7%

14.1%

16.4%

17.8%

18.5%

15.8%

腎外症状

肺野陰影

関節炎

間質性肺炎

肺胞出血

紫斑

下血

末梢神経障害

中枢神経障害

心臓疾患

紅斑

22.0%

16.3%

14.6%

10.4%

9.2%

7.8%

6.6%

5.8%

5.1%

1.5%

33.0%

14.3%

20.2%

10.9%

9.7%

6.2%

10.9%

2.5%

10.6%

1.9%

42.4%

12.7%

24.5%

10.4%

11.6%

4.0%

11.1%

4.6%

10.4%

4.6%

初発症状の変化

厚労省科研費「進行性腎障害に関する調査研究」研究班 研究成果より

Period A: 1989-1998年、Period B: 1999年～2002年、Period C：2003年以降

Cさん「住民健診は毎年受けてますが、 尿異常を指摘されたことは ありません」

Cさん「あのー、いつものおしっこと比べると 赤いような気がします」

コップに尿を取ってきてください。

血尿があるようですね。

尿タンパク：2＋ ／ 尿潜血：３＋

これまで健診で尿異常を指摘されたことは？

Y医師

Cさん「去年受けたものを持ってきました。 異常があると言われたことはないの ですが・・・」

かかりつけ医での採血結果は持っていますか？

腎臓の機能は血清クレアチニン 0.６ｍｇ/dlで正常ですね。

血尿が多いので腎炎の可能性があります。

血液検査をしてみましょう。

Cさん「えっ、急速進行性糸球体腎炎ってどんな病気ですか？

採血結果が出ました。

血清クレアチニン 2.６ｍｇ/dlと腎機能が悪化しています。

急速進行性糸球体腎炎の疑いがあります。

糸球体腎炎のうち最も重症な腎炎の一つです。

①数週から数ヶ月の短い期間で急速に腎機能が低下し、

②血尿（多くは顕微鏡的血尿、肉眼的血尿も見られる）、蛋白尿、赤血球円柱、顆粒円柱などの腎炎性尿所見を認めます。

• 糸球体腎炎のうち、数週から数ヶ月の短い期間に急速に腎機能が低下する病気を急速進行性糸球体腎炎といいます。

• 腎生検の所見は、多くの糸球体に半月体という細胞の増殖する構造物が観察され、壊死性半月体形成性糸球体腎炎とよばれています。

『急速進行性糸球体腎炎』とは？

半月体

わずか数週〜数ヶ月

腎不全 腎炎発症

糸球体

MPA症例

『半月体』とは？

JASN;1996,7,2271-2278

正常糸球体

細胞性半月体

憎悪

回復

繊維性半月体 線維細胞性半月体

Cさん「急速進行性糸球体腎炎の原因は わかっているのですか？」

原因はいろいろあります。

白血球のうち好中球や腎臓の基底膜に対しての抗体が作られ、それにより腎炎が引き起こされることが分かってきました。

この病気の原因は？

• いくつかのタイプがありますが、代表的なものは血液中の白血球細胞の１つである好中球の中の酵素(抗好中球細胞質抗体)や、糸球体の基底膜(抗基底膜抗体)に対する抗体が作られることにより発症することが明らかになってきました。

• 腎臓を含めた全身の小型の血管に強い炎症が生じます。

腎臓では主に糸球体を中心に炎症が起こります。

抗好中球細胞質抗体 抗基底膜抗体

好中球 基底膜

半月体形成

0

50

100

150

200

250

300

350

400

450

500

1983 1984 1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009

RPGN患者数

この病気の患者さんの頻度と好発年齢は？

• 毎年1500から1800人の急速進行性糸球体腎炎の患者さんが新たに発生していると推定されています。

• 我が国の腎生検件数の約5%を占めています。

• 我が国で新たに透析を始める患者さんの原因疾患の中で5番目に多い病気です。

• 中高年に多い傾向にあります。性別はやや女性に多いようです。

Cさん「どうしたら治りますか？」

でも根本的には原因となっている

病気を治す必要があります。

腎生検をして原因の病気を調べる 必要があります。 病気の種類や腎機能障害の程度によって治療方法を選択します。

急速進行性腎炎の理解 腎局在 全身性

抗ＧＢＭ抗体型 抗ＧＢＭ抗体腎炎 Goodpasture症候群

免疫複合体型 多種の腎炎 ループス腎炎

クリオグロブリン血症

ＡＮＣＡ型 特発性半月体

形成性腎炎

顕微鏡的多発血管炎，多発血管炎性肉芽腫症

（Wegener）

IgA腎症 VS ヘノッホ・シェーンライン紫斑病

急速進行性腎炎の治療

• 原因疾患・病因に対する治療

• 免疫抑制療法

–副腎皮質ステロイド、免疫抑制薬

• 日和見感染、感染症併発に注意 – 特に高齢者

• 血漿交換療法

• その他の腎不全に対する治療

腎生検の結果、C男さんの病気はMPO-ANCA関連血管炎だとわかりました。ステロイドと免疫抑制薬を内服して4週間目には血尿が減り始め、2か月で完全に消えました。その後は定期的に通院していますが、再発はありません。

こんな症状が出たら病院受診を！

もともと腎機能はよいといわれていたが 『風邪をひいてから、熱や倦怠感が数週間持続している。』 『手がしびれたり、からだの節々が痛く、歩くと息切れが するようになってきた。』 ☞ 病院を受診すると腎機能が低下していて緊急入院！ 実は急速進行性糸球体腎炎だった

早期診断とステロイド、免疫抑制剤による治療が重要です。