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高品質ブドウ生産可能な省力的整枝法ハヤシ-スマートシス テムの開発 誌名 誌名 日本醸造協会誌 = Journal of the Brewing Society of Japan ISSN ISSN 09147314 著者 著者 山下, 裕之 林, 幹雄 巻/号 巻/号 104巻4号 掲載ページ 掲載ページ p. 230-240 発行年月 発行年月 2009年4月 農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センター Tsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research Council Secretariat

高品質ブドウ生産可能な省力的整枝法ハヤシ-スマートシス ...高品質ブドウ生産可能な省力的整枝法 ノ¥ヤシースマートシステムの開発

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高品質ブドウ生産可能な省力的整枝法ハヤシ-スマートシステムの開発

誌名誌名 日本醸造協会誌 = Journal of the Brewing Society of Japan

ISSNISSN 09147314

著者著者山下, 裕之林, 幹雄

巻/号巻/号 104巻4号

掲載ページ掲載ページ p. 230-240

発行年月発行年月 2009年4月

農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センターTsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research CouncilSecretariat

Page 2: 高品質ブドウ生産可能な省力的整枝法ハヤシ-スマートシス ...高品質ブドウ生産可能な省力的整枝法 ノ¥ヤシースマートシステムの開発

高品質ブドウ生産可能な省力的整枝法

ノ¥ヤシースマートシステムの開発

国産ワインの品質向上には高品質な原料ブドウの確保が欠かせない。しかし,海外のワイン生産地とは気

象条件も農業を取り巻く社会環境も大きく異なるため,日本にあったワインブドウ栽培の研究が必要である。

高鈴イとしているブドウ農家の実情にも配慮したハヤシースマートシステムの開発は, s本のワインブドウに

とって重要な取り組みと言えよう。

はじめに

現在,日本の多くのワイナリーはブドウ栽培とワイ

ン醸造が一体化しているワイン先進諸外国と異なり一

部は自社畑で栽培し,多くは市場や契約農家に依存し

ている。そのためメーカーの原料調達は市場状況や栽

培農家の出荷行動によって大きく影響を受ける 1)。更

に,栽培農家の出荷するブドウの品質はそのワイナリ

ーのワインの品質を大きく左右するといっても過言で

はない。そのため,単に原料篠保といった意味だけで

なく契約農家の栽培技術の向上はワイナリーにとって

も重要な課題である。しかし,醸造用ブドウ生産農家

も他の生産品目農家と変わることなく高齢化,婦女子

化,後継者不足に悩んでおり,加えて一般にワイン用

品種は生食用品種よりも価格が低く取引されるため経

営上有利な品目では無い。そのため生産農家は熱が入

らず前述の諸問題をよりいっそう深刻にしている。こ

の問題は司本農業全体の大きな問題であり解決策は一

筋縄でいかず簡単に見いだすことは難しい。しかし,

栽培技術面から考慮すると省力化・作業の単純化,マ

ニュアル化が有効な手段の一つであると思われる。す

なわち省カ化により農作業の負担が少なくなり高齢な

農業者は助かり,マニュアル化されれば雇用労働が利

用できることとまた,新規参入者にもわかりやすく参

入しやすくなるという利点がある。

山下裕之・林 幹雄*

ブドウの作業別労働時間

それでは,ブドウ栽培においてどの作業に時間がか

かり,省カ化が最も有効な作業は何か?

第 1表に長野県における巨峰の作業別労働時間 (10

aあたり)を示した。醸造用ブドウであるため摘粒房

作り,選泉・荷造りはほとんど必要ないので除外する

と最も時間のかかる作業は整枝せん定,新梢管理,収

穫作業である。そのためこれらを省力化できればメリ

ットは大きい。さらに新梢管理, J収穫作業に関しては

どのような樹形に持って行くかによる影響が大きいた

め,整枝せん定法の検討が非常に重要なポイントとな

る。

第 1表巨峰(露地)作業別労働時間 (10a当たり)

作業名 時間全体に占める割合(%)

護校・せん定 38 12.6

施肥 5 1.7

土壌管理・かん水 8 2.7

房作り・摘粒 72 23.9

袋掛け・傘かけ 24 8.0

新橋管理 36 12.0

収穫 36 12.0

選莱・荷作り 72 23.9

病害虫紡除 10 3.3

計 301 100.0

試料:長野県経営指標(平成 16年)

New Productive and Labor-Saving Training System for Wine Grape : Hayashi-Smart System Hiroyuki YAMASHITA, Mikio HAYASHI* (Nagano Chushin Experimental Station,本HayashiWinery Co., Ltd.)

230 穣協 (2009)

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これまでの整枝せん定方法

ブドウはつる性の植物であるためその整校法には垣

根仕立て,株仕立て,棚仕立ての 3つの方法がある。

我が国は温暖多湿であるため新梢の伸長が旺盛で,病

害の発生が多く更に晩重から秋にかけて台風が頻繁に

襲来するためそれに対する抵抗力を持った仕立てでな

ければならず,その結果,棚仕立てが主流となってい

てその他垣根仕立ては全体から見るとわずかである2)。

長梢せん定と短梢せん定

垣根仕立てでも棚仕立てでも結果させる新梢の発生

する校を結果母校(種校)と呼ぶが,それを基部から

2~3 芽のところで切るせん定を短梢せん定といい,

一方,状況に合わせて 6~20 芽で切るせん定を長梢せ

ん定という。

垣根仕立て

海外ではこの仕立て方が主流である。果実に日光が

当たり品質が良いブドウが生産されるため,日本にお

いてもワイナリーの自社胞には多く導入されている。

最大の問題は日本でこの仕立てを採用した場合,収量

が棚仕立てに比べ低い事である。

垣根仕立ての主なせん定法

-ギュイヨ:フランス・イタリア・ドイツなどで多く

みられる方法で結果母校を長梢せん定で残し,短梢

新梢(当年枝)

せん定で予備校を残し毎年更新していく 3) (第 1

図)。

・コノレドン:垣根仕立てにおける短梢せん定である。

主校からでた結果母校を 2芽せん定する 3) (第2

図)。

・改良マンソン:結果母校は 6~7 芽または 3~4 芽で

せん定し新梢は V字裂に伸ばす方法である。垣根

仕立てでは収量性が高く長野県で一時実施されたが

新梢管理に手聞がかかり現在ではほとんど行われて

いない4) (第 3図)。

棚仕立て

樹形は結果母校の切り方で決まっていて長梢せん定

であればX字型整枝5) (第 4闘)短梢せん定であれば

一文字裂, H型, WH型整校(第 5図)がある4)。

長梢せん定 X字型整枝の長所

-樹冠の拡大が早く,樹の寿命齢が長くなる 0

.欄面を自由に埋めることが出来るo

・樹勢に応じてせん定量を調節できる 0

.収量が多い。

長梢せん定 X字型整枝の短所

-せん定,新梢管理作業は校のバランスの調整に臨機

応変に対応しなければならずそのためには技術と経

験が必要。

・せん定の失敗から負け校(基部の枝が太って先端の

,11¥予備枝 の更

第 1図ギュイヨ

第 104巻 第 4号 231

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結果母枝(当年枝)

ir17

コJレドン第 2図

----・-.540

Tlimi--++lml+

240

改良マンソン(数値の単位は cm)

-新格の勢力がそろうので楽房の大きさも斉一である 0

.結果校数を一定に出来るので収量が安定し結果過多

に陥らず,樹勢の維持が容易である。

・せん定や新梢の誘引作業が容易である。

.樹冠完成後は樹形の乱れ少ない。

・管理作業に見落としが少ない。

校が弱ってしまった校)が出やすく横形が乱れやす

し'0・結果過多になりやすい。

・結果校数が多いため作業労力が多くかかる。

第 3毘

短梢せん定の短所

-樹勢に応じてせん定量が自由に加減できない。

協 (2009)醸

短梢せん定の長所

-房管理,新梢管理が直線的で画一化されており作業

がし易い。そのためブドウ栽培初心者でも作業でき,

雇用労働が使いやすしコ。

232

Page 5: 高品質ブドウ生産可能な省力的整枝法ハヤシ-スマートシス ...高品質ブドウ生産可能な省力的整枝法 ノ¥ヤシースマートシステムの開発

第4主枝 ¥ 16%、

24%

第3主枝

第 4図 X字型整枝の基本樹形(土屋氏原翻)

主技m踊2-2.5m ‘一ーーーー争-

主校長

5-7m

結果母枝は片側別

1羽個

おきに配枝

一文字整枝 平行整枝H型 平行整技WH型第 5図 短梢せん定の基本横形

-棚面を均等に利用し空間を生じたとき塞ぐことが容

易ではない。

-新梢を誘引するときおれやすく強風でおれたり,主

枝のまま回転し易い。

第 104巻 第 4号

-強せん定で生育が旺盛で凍害などの心配が大きい

・主枝に障害が出た場合早急に棚商を埋めるのが難し

し>0

・生育の遅れや不揃いが出やすい。

233

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-品種によっては花芽の着生が劣る。

長野県における樹形・せん定法の現状と問題点

現在,長野県において垣根仕立てはその収量性の低

さから長野県でこれを実施している契約農家は非常に

少ない。最も多い整校せん定法は X字型の長梢せん

定である。しかし,現場においてはきっちり X型に

収めているケースは少なし箇場の形や位置,栽植本

数などに合わせてその臨場畑独特な形になっている場

合が多い。そこで現場では自然形せん定と呼ばれてい

る。そして榔仕立て自然形せん定樹の最大の問題点は,

技術を習得するには長い年月がかかり,経験と勘が必

要となる。そのため,初心者ではこのせん定法をこな

すことは囲難でブドウ栽培の経験の浅い雇用労働を利

用することは不可能である。また,新梢管理など一般

管理にも手間もかかるため十分に行なわないと園地が

暗くなり品質の良いブドウ生産は難しくなるo 高齢化,

後継者不足の現在の状況では管理が行き鼠かず,ブド

ウの品質低下や最悪の場合耕作放棄され有休荒廃地と

なってしまうことさえある。

短梢せん定の導入が進まない栽培管理上の理由は,

新梢管理時に折れやすいこと,強風多発な地帯では誘

引前に主校ごと回転してしまうこと等があげられる。

新梢の誘引で折れやすいことに関しては小川は主校誘

引線を棚下 15cmのところに張りそこに主校を誘引

することにより解決できるとしている 6) (第 6図)。

しかし,現状では現存の樹を抜根し新植し更に主枝誘

引線を設置してやり直す農家はほとんどいない。更に,

既存樹の樹形改造に取り組む場合棚下に主校を持って

/ 棚

主枝誘引線

行くことは非常に困難なため普及は進んでいなしユ。

ハヤシースマートシステムの開発

塩尻市のブドウ栽培農家においてもこれまで述べて

きたように老齢化,婦女子化,若い後継者がいない状

況で(第 2表,第 3表),先行きが懸念されている。

そのような状況下ハヤシ スマートシステム(第 7

図)が新整校せん定法として最も注目されている。

荷発経過

10年以上前から筆者の一人林はワイン用ブドウ

栽培において多J/)(.,高品質生産のためどのような整校

せん定法が有効であるか研究をてしてきた。垣根仕立

てはギュイヨ,コルドン,マンソン,棚仕立てでは一

文字および日型短格せん定法を試みた。その時点にお

ける結論としては,垣根栽培の方が品質に優れたブド

ウが生産できることが明らかであった。しかし,収量

性に関しては棚栽培の半分以下であり農家には勧めら

れず導入もためらっていた。また最大の難点としては

それまではほとんどの農家で棚栽培をしていたため既

存の棚を壊し垣根に変えることは現実的に不可能であ

った。そのようなときに栃木県のワイナリーが招待し

たリチヤード・スマート氏が林農瞳を訪れ,氏の開発

した「スマートーマイヨルガーシステム」 が紹介さ

れた。このシステムは片剖の短梢せん定で一定方向に

新梢を伸ばしていく方法で作業が画一化されせん定

作業だけでなく新梢管理,収穫も省力できるというも

のであった。このシステムは f使える!Jと考えた林

は自園で試行錯誤を繰り返し,農家が使いやすいよう

第 B図 主校誘引線の設置

234 穣協 (2009)

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第 2表 販売目的で栽培したブドウの労働力保有状態別栽培経営体数と栽培面積

経営体数:経営体

単位:面 積 a

ぶどう(沖縄県なし)

都道府県:20長野県 露 1也 施 設裁 培

市区町村:215塩尻市実経営体数 栽培 栽培

栽培面積 栽培面積

言十 01

専従者あり 02

65歳未満の農業専従者がいる 03

60歳未満の農業専従者がいる 04

男女の専従者がいる 05

専従者は男子だけ 06

専従者は女子だけ 07

男女の専従者がいる 08

専従者は男子だけ 09

専従者は女子だけ 10

専従者なし 11

男女の準専従者がいる 12

男子の準専従者だけ l3

女子の準専従者だけ 14

準専従者もいない 15

試料:2005農林センサス果樹農家

に改良を行なった。現在,塩尻市ではこの整校せん定

法により収量を落とすことなく高品質ブドウ生産を可

能にしている農家が出現し始め,更に高齢化,婦女子

化,後継者不足の状況下,非常に注目されている。

メル口におけるハヤシースマートシステムの

整枝せん定法の実際

・基本的樹形,配枝

第 8図に示した通りである。すなわち南北に主校を

配校して1.2m簡痛で側校を東西に伸ばす。そして

約 20cmおきに結果枝を北側に向かつて平行に配枝

する。

・せん定

2~3 芽残して前年の結果校を切る片側の短梢せん

定である。

-芽かき

結果枝において発芽後花穂の状態が確認でき次第芽

第 104巻 第 4号

経営体数 経営体数

501 498 18,067 29 617

373 370 15,039 29 617

182 181 8,431 23 465

113 113 5,318 14 288

37 37 2,255 8 185

22 22 847 4 67

54 54 2,216 2 36

222 219 10,023 24 537

79 79 2,682 5 80

72 72 2,334

128 128 3,028

44 44 919

41 41 941

19 19 640

24 24 528

かきを行うが側校を配校した初期(芽座を作る段階)

は必ず上向きの芽は切除して下向きまたは横向きの芽

を残す。これを行う事により数年で芽座が側校の位置

より下に確保されその翌年から新梢の誘引時の折損防

止や作業効率を高めることができるようになる(第 9

圏)。長野県における短梢せん定法においては棚下 15

cmのところに主校誘引線を設置し同様の効果を上げ

ているがこの方法によりその設置も必要が無くなる。

この作業はハヤシースマートシステムにおける重要な

作業の一つである。

新梢摘心

新梢が次の側枝に近づいたら 10cm手前の位置で

一律摘心を行う。この作業は多少遅れても問題ないが

あまり遅れると新梢が側校を超えて伸び更に巻きひげ

が次の新梢に絡んで非常に作業効率が落ちるため次の

側枝に到達したら実施する。

235

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236

第 3表販売目的で栽培したブドウの農業経営者年齢別栽塔経営体数と栽培面積

都道府県:20長野県

市区町村:215塩尻市

計 01

男の農業経営者 02

女の農業経営者 03

農業後継者がいる 04

15~19 歳 05

20~24 06

25~29 07

30~34 08

35~39 09

40~44 10

45~49 11

50~54 12

55~59 l3

60~64 14

65歳以上 15

農業後継者がいる 16

65~69 17

70~74 18

75歳以上 19

|操縦者がいる 20

試料:2005農林センサス果樹農家

第 7図 ハ ヤシ スマートシステム

経営体数:経営体

単位:面 積 a

ぶどう(沖縄県なし)

露 提出 施 設栽 主音

実経営体数 栽 培 栽 培栽培面積

経営体数栽培面積

経営体数

501 498 18,067 29 617

464 461 16,663 29 617

37 37 1,404

241 239 8,482 14 352

1 l 150

6 6 83 l 10

10 10 343

20 20 671 1 15

44 44 1,611 4 64

58 58 2, l33 3 68

78 77 3,354 6 114

284 282 9,722 14 346

164 163 5,765 8 254

83 82 2,879 8 176

77 77 2,707 2 90

124 123 4,136 4 80

78 78 2,562 1 40

スマートーマイヨルガーシステムとの主な違い

基本的な考え方はスマートーマイヨルガーの理論を

踏襲しているが以下の点において異なっている。

-新梢の誘引時に折損の田遊と作業を容易にするよう

に結果母校の位置を下げる処置をする。

・スマートーマイヨルガーシステムでは結果母校間隔

は 5~10 cmとしー結果母校から 2新梢(結果校)

を出すようにするが,ハヤシースマートシステムで

は結果校間隔を広め(約 20cm), 1結果母校から I

新梢(結果校)を出すようにする。

・スマートーマイヨルガーシステムの場合は片側に新

醸協 (2009)

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結果枝路隔

→北

結果母校 (2~3芽せん定)

10仁m手前で、摘心

3.6m

第 B図 ハヤシースマートシステムの基本樹形

~IJ佐→0占/結果母枝 側苗図

棚J

上向きに発生した新梢は必ず切る。

下向きに伸びた新梢で最もいい位置

のものを残す。

乙れを数査手繰り返すことにより概下に芽座を

第 9図 芽座を棚下に作る方法

格を伸ばすのは風下であれば特に方向にこだわらな

いがハヤシースマートシステムでは果房への光環境

の改善を重視して北側の新梢を伸ばす。

とする。このことにより果房に日光がよく当たり品

質向上特に糖度の上昇が認められる。

-措心の位置もスマート マイヨノレガーシステムでは

側校から 5cmのところで摘心をするが,ハヤシー

スマートシステムでは側枝から 10cmとやや広め

第 104巻 第 4号

・新梢誘引のための可動式ワイアーは用いない。

ハヤシースマートシステムの検証

-省力性

237

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省力牲を検討するためにまず新機管理作業およびせ

ん定作業について調査した。供試樹は 12年生のナイ

アガラ15BBで同一樹にハヤシースマートシステム区

(結果枝問陪 20~30cm 側枝問隔1. 2~1. 5m) と自然

形せん定区を設定を設け,ブドウ栽培経験約百年の

被験者が夏季管理(播心,芽欠き,房の調整など)

およびせん定各作業の所要時間を測定して作業面積で

割りその効率を比較した。

夏季管理では,ハヤシースマートシステム匿 (67.0

秒1mりでは芽欠きが必要無く,直線的に作業が行え

ることから自然形せん定区 (195.6秒1m2) よりその

効率が高まった(第4表)。せん定作業もハヤシース

マートシステム区 (7.2秒1m2) において自然形せん

定区 (47.4秒1m2) より効率的な作業が可能であった

(第 5表)。以上の結果からハヤシースマートシステム

区は,自然形せん定区より夏季管理,せん定の作業時

間が短縮可能であることが示された。この最大の理由

は,作業を進める上で近隣の校や房との関係など考え

ることなく,機械的に作業が行えることで特に,初心

者,未熟練者にとってはその効果が高い考えられる。

次に収穫作業について省力性の調査を行った。現地

ワイナリー自社畑の竜眼15BB 15年生ハヤシース

第 4表 ブドウ品種ナイアガラの整枝せん定法が新

梢・房管理時間に及ぽす影響(中信農業試験

場 2007)

整校せん定法作業面積所要時間作業時間

立12 秒、 (秒)/m2

ハヤシースマート48.3 3238 67.0 システム

自然形 25.0 4890 195.6

マートシステム樹形改造樹および,自然形せん定樹を

用いた。被験者はワイナリー職員(ベテラン),初心

者 1(女性アルバイト作業員),初心者 2(男性アルバ

イト作業員)で作業に要した時間を測定して収穫した

房数で割りその効率を比較した。その結果,ハヤシー

スマートシステム区ではワイナリー職員で 9.1秒/房,

初心者 lで24.3秒/房,初心者 2で 23.8秒/ 房であ

ったのに対し自然形せん定区では,ワイナリー職員

10.7秒/房,初心者 Iで 36.4秒/房,初心者 2で39.2

秒/房であった。この値に 10aあたりの基準着房数

5500をかけて 10aあたりの作業時間を換算するとハ

ヤシ スマートシステム区ではワイナリー職員で

14.0時間110a 初心者のアルバイト職員ではそれぞれ

37.1時間110a, 36.4時間110aであったのに対し,

自然形せん定区ではワイナリー職員で 16.3時間110a

初心者のアルバイト職員ではそれぞれ 55.7時間110a,

60.0時間110aであった。以上の結果からハヤシース

マートシステムの作業効率は自然形せん定区より高か

った(第 6表)。このことからハヤシースマートシス

テム区は自然形せん定区より~又穫作業時間も短縮可能

であることが示された。また,この作業も初心者,未

熟練者にとってはその効果が高った。

第 5表 ブドウ品種ナイアガラの整校せん定法がせん

定時間に及ぽす影響(中信農業試験場 2007)

整校せん定法作業面積所要待問作業待問

m2 秒、 (秒)/m2

ハヤシースマート48.3 348 7.2

システム

自然形 25.0 1185 47.4

第 B表 整校せん定法の違いが竜根の収穫作業時間に及ぽす影響(中信農業試験場 2007)

整校せん定法 被験者 収穫房数所婆時間(秒)所要時間(秒)/房

ベテラン 75 686 9.1

ハヤシースマートシステム 初心者 1 27 655 24.3

初心者2 33 786 23.8

ベテラン 75 800 10.7

自然形 初心者 1 32 1166 36.4

初心者2 45 1766 39.2

* 10aあたりの基準者房数

238

所用時間(待問)15500房*

14.0

37.1

36.4

16.3

55.7

60.。

穣協 (2009)

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果実品質

中信農業試験場内のナイアガラ/5BB 12年生,メ

ルロ/5BB 20年生, (同一樹で自然形せん定と自然形

せん定からハヤシ スマートシステムに改造した樹)

現地Aのメルロ/5BB 5年生(ハヤシースマートシス

テム)メルロ/5BB8年生(自然形せん定)ナイアガ

ラ/5BB 10年生(同一樹で自然形せん定と自然形せ

ん定からハヤシースマートシステムに改造した樹)を

調査した。成熟期 (9/20~10/16) に各区 10 房を隠せ

ん定法から同時に収穫して果実品質調査を行った。糖

度に関してはすべてハヤシースマートシステム区で高

く,酸度に関しては中信農業試験場内のナイアガラ以

外はすべてハヤシースマートシステム区で低かった

(第 7表)。このことからハヤシースマートシステム区

では自然形せん定区より高糖度,低酸度の果実が生産

される可能性が高いと考えられる。

収量性

塩尻市宗賀地区において 3つの整校せん定法 (20

年生・ハヤシースマートシステム, 7年生・一文字短

梢 8年生垣根ギュイヨ)で栽培されているメルロ/5

BBの2007年における収穫量を各農家の出荷伝票を

基に調査した。また,同時期に各園 10房無作為に採

取して糖度を測定した。その結果ハヤシースマートシ

ステムによる圏場の収量はl.80t/10 a,一文字短梢

せん定法による圏場の収量は 1.67t/10 a,窓根ギュ

イヨ区では 0.73t/10 aであった(第 8表)。ハヤシ

スマートシステムは,一文字短梢せん定法,垣根仕立

て以上のブドウ生産ができた。ちなみに中信菊萄加工

事業協同組合におけるメルロの収量上限はl.7 t/10 a

であるためハヤシースマートシステムはそれをクリア

する収震をあげている。しかも糖度 (Brix) は2l.0

と高糖度で他の整校せん定法国より高かった。

樹形改造

新しい整校せん定法は新横から行うのがいちばんわ

かりやすいが,農家の老齢化が進行している中,非常

に困難な状況にある。そこで現存の自然形せん定樹を

ハヤシースマートシステムに樹形改造をする方法も取

り組まれている。概下に主校誘引線を張る必要がない

ため容易に取り組むことができ,現在の推定では改造

当年は収震がやや落ちるものの次年度からはほぼ元の

収震に戻るとされている。今後の研究が待たれる。

第 7表 ハヤシースマートシステムおよび自然形整校せん定で生産された果実における品質の違い

(中信農業試験場 2007)

品種名 場所 整校せん定法 房長 房愛 着粒数 l粒重 糖度 酸度

(cm) (g) (g) brix g/100 ml

ナイアガラ 場内 ハヤシースマートシステム 13.6 273.7 64.2 4.1 20.6 0.47

ナイアガラ 場内 自然形 12.9 303.8 75.6 3.9 17.9 0.37

ナイアガラ 現地A ハヤシースマートシステム l3.3 275.8 53.6 5.1 17.5 0.47

ナイアガラ 現地A 自然形 13.6 297.5 56.4 5.2 15.3 0.64

メJレロ 場内 ハヤシースマートシステム 17.2 196.9 106.4 1.9 20.1 0.74

メJレロ 場内 自然形 16.7 217.7 111.0 1.9 19.0 0.80

メノレロ 現地A ハヤシースマートシステム 17.3 314.1 143.4 2.2 21.4 0.80

メJレロ 現地A 自然形 15.2 251.8 109.0 2.2 15.6 1.00

第 8表 仕立て方の違いが収量に及ぽす影響(中信農業試験場 2007)

場所 整校せん定法 品種 樹齢 面積(a) 収量(t) JlJ(蚤(t)/10 a 糖度

A ハヤシースマ…トシステム メルロ 20年生 20 3.59 1.80 21.0

B 短梢 メlレロ 7年生 18 3.00 1.67 20.2

C 寝根 メノレロ 8年生 70 5.10 0.73 20.7

*平概自然形の1.7 t/10 a基準収量

第 104巻 第 4号 239

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今後の課題

これまでメルロを基準に検討されてきたが,今後他

の品種や様々な土地気象条件の栽培地への適応性の検

討が必要になる。例えば,メルロは新梢が風などによ

り欠けることが少ないが,ナイアガラにおいては非常

に欠けやすい。また,竜眼においては短梢せん定で栽

培すると花穂分化が劣る場合がある。

ハヤシースマートシステムへの期待

何度も述べるが農家の高齢化,婦女子化,後継者不

足による遊休荒廃園の増加は深刻な問題である。国内

ワイン産業にとっても高品質原料の安定供給は大きな

課題で現在のワインブドウ生産農家の現状はそれを脅

かそうとしている。そこで,高齢者,婦人には労働軽

減となり,新規農業参入者には就農をサポートし,ま

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た,マニュアル化により雇用労働力も使え,高品質ブ

ドウ生産可能なハヤシースマートシステムは今後非常

に有望であると思われる

<長野県中信農業試験場, . (株)林農鼠醸造部>

参考文献

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2) 小林章,ブドウ園芸, p 396…417,株式会社

養賢堂 (1982)

3) 関根彰,ワイン造りのはなし, p 49…54,技

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4) 果樹指導指針, p217-267,長野県全農長野

(2006)

5) 土屋長男,葡萄栽培新説, p 155-216,社団法

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6) 小川孝郎,草生栽培で生かすブドウの早仕立て

新短稿栽培, p 22-29,農文協 (2001)

醸協 (2009)