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大阪市大『季刊経済研究』 Vo l ・22No.1 , June1999 , pp.3ト48 金融 ビッグバ ンと金融改革の視角 ISSN0387-1789 1 日本型金融システムの特徴とビッグバン 5 提携 ・再編 をみ る視角 2 日米円 ドル委員会報告 とビッグバ ソ 6 金融機関の自己責任 3 本格化する金融機関の提携 ・再編 7 情報開示と地域金融 4 金融再編の日米比較 わが国の根本的な金融改革であるビッグバンの開始が1996 11 月 に告 げ られて か ら, ご く わずかの時間の うちに矢継 ぎ早に自由化措置が出 され,実施に移 されたが,同時 にこの時期 には並行 して金融機関の経営破綻が相次 ぎ, さらに提携 ・再編戦略 が本格化することによっ て,予想 を超えた金融変革が進行 している.本稿では,かつてない広 さと深 さとスピー ドで 進行 しているビッグバンの特徴を検討するとともに,金融改革を評価する際に重視すべき視 角 を取 り上げ る. 1 日本型金融システムの特徴とビッグバン は じめ に, ビ ッグバ ンに至 るまでの わが国 の金融 システ ムの特 徴 を概 観 して お こ う. 2 次大戦後,新 しくわが国の金融制度が組み直されて以降の基本的な特徴は,分業制 ・ 専門制 にあ るといわれ て きた. 金融機 関 を銀行 ・証 券 ・保険 とい う大 きな枠 に よ り区分 し, さらに銀行内では普通銀行 ・信託銀行 ・長期信用銀行,普通銀行の中でさらに都市銀行 ・地 方銀行,証券内では総合証券と中小証券 ・地場証券,保険内では生命保険と損害保険など, 各業種内でさらに紳かな業態の区分を行ない,各々の金融榛関を専門とする業務に専一的に 従事 させ る一方で,他の業務-の参入は厳 しく制限 されて きた.その原型は第 2 次大戦以前 からわが国の金融制度の特徴としてあらわれていたとはいうものの,アメリカの グラスニス テ ィーガル法に基づ く銀行 ・証券分離の考え方が,証券取引法第65 条 に明記 され,整理 され た といえ る. また, 中小 金融機 関 に関 して も,1951 (昭和26 年)に無尽会社が相互銀行に 転換 し,信用協同組合か ら現在の信用金庫 と信用組合の区分 も明確化 された. 〔キーワー ド〕 ビッグバン、日米円 ドル委員会報告、金融再編、提携、自己責任

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大阪市大 『季刊経済研究』

Vol・22No.1,June1999,pp.3ト48

金融ビッグバンと金融改革の視角

ISSN0387-1789

数 阪 孝 志

1 日本型金融システムの特徴とビッグバン 5 提携 ・再編をみる視角

2 日米円 ドル委員会報告とビッグバソ 6 金融機関の自己責任

3 本格化する金融機関の提携 ・再編 7 情報開示と地域金融

4 金融再編の日米比較

わが国の根本的な金融改革であるビッグバンの開始が1996年11月に告げられてから,ごく

わずかの時間のうちに矢継ぎ早に自由化措置が出され,実施に移 されたが,同時にこの時期

には並行 して金融機関の経営破綻が相次ぎ,さらに提携 ・再編戦略が本格化することによっ

て,予想を超えた金融変革が進行 している.本稿では,かつてない広さと深さとスピー ドで

進行 しているビッグバンの特徴を検討するとともに,金融改革を評価する際に重視すべき視

角を取 り上げる.

1 日本型金融システムの特徴とビッグバン

はじめに,ビッグバンに至るまでのわが国の金融システムの特徴を概観 しておこう.

第2次大戦後,新 しくわが国の金融制度が組み直されて以降の基本的な特徴は,分業制 ・

専門制にあるといわれてきた.金融機関を銀行 ・証券 ・保険という大きな枠により区分 し,

さらに銀行内では普通銀行 ・信託銀行 ・長期信用銀行,普通銀行の中でさらに都市銀行 ・地

方銀行,証券内では総合証券と中小証券 ・地場証券,保険内では生命保険と損害保険など,

各業種内でさらに紳かな業態の区分を行ない,各々の金融榛関を専門とする業務に専一的に

従事させる一方で,他の業務-の参入は厳 しく制限されてきた.その原型は第2次大戦以前

からわが国の金融制度の特徴としてあらわれていたとはいうものの,アメリカのグラスニス

ティーガル法に基づく銀行 ・証券分離の考え方が,証券取引法第65条に明記され,整理 され

たといえる.また,中小金融機関に関 しても,1951年 (昭和26年)に無尽会社が相互銀行に

転換 し,信用協同組合から現在の信用金庫と信用組合の区分も明確化された.

〔キーワー ド〕 ビッグバン、日米円 ドル委員会報告、金融再編、提携、自己責任

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これらの業態 ・種別はその根拠となる各々の法制に基づき,それぞれの専門分野に合わせ

た金融機関の組織と営業スタイルを持つようになり,そ してそれらに対応する監督官庁内の

権限縦割 り型金融行政が行われるようになった.この金融に関する法制と機関と行政とのい

わば三位一体となった トライアングルが堅固に守 られてきたことが,第2次大戦後のわが国

の金融システムの特徴である.護送船団行政と呼ばれるスタイルも,この三位一体型の金融

システムと業界内の秩序を凄さないために採られてきたといえる.

しかし,このような日本型金融システムも,非常にゆっくりとしたペースで, しかも監督

当局の 「誘導」の下ではあるが,70年代後半以降進んだ2つの 「コクサイ化」 (国債の大量

発行 ・累増と金融の国際化)を背景として,自由化の道を歩まざるをえなくなった・また,

80年代には日米円 ドル委員会報告が出され,いわば外圧を受ける形で自由化に向けたプログ

ラムが組まれた. しかし,わが国でこれまで進められてきた自由化は,いわば 「秩序だった」

自由化であり,金融環境の内外の変化に対応できないもので しかなかったことが明らかとな

り,90年代末になってからその燕離を一気に埋める万策として日本版ビッグバンが登場 した

といえる.

ビッグバソの提唱は,1996年11月11日に当時の橋本龍太郎総理大臣が大蔵大臣 (三塚博)

と法務大臣 (松浦功)に対 し, 「我が国金融システムの改革~2001年東京市場の再生に向け

て~」1'という改革案を指示 したことによって行われた.その性格は, 目標として 「2001年

にはNY,ロソドン並の国際市場に」にあらわれているように,国際金融競争,とくに市場

間競争を意識 したものであった.また,銀行 ・証券 ・保険 ・会計制度等,広範な領域に跨 る

改革であり,さらに2001年までという期限付の改革であった点も,従来にない特徴であった.

しかしながら,この時点でわが国の金融システム全般にわたる改革をあらためて行政側が

明確化 しなければならないということ,また基本原則として,Free(市場原理が働 く自由

な市場に),Fair(透明で信頼できる市場に),Global(国際的で時代を先取 りする市場に)

を掲げていることは,逆にいえば,これまでの行政サイ ドが取 り仕切ってきた自由化プロセ

スが何ら実効性のないものであったことを,自ら認めることに等 しいといえる.

また,このビッグバン宣言自体は,目標と原則,それに若干の検討項 目を掲げただけで,

抽象的な内容に止まっており,具体的なビッグバソの施策は,97年6月13日に公表された金

融制度調査会,証券取引審議会,保険審議会の各答申2'に盛られた内容として本格化され,

1) 『金融』1996年12月号,46-47ページ.

2) 金融制度調査会の答申 「我が国金融 システムの改革について-活力ある国民経済-の貢献-」 ,

証券取引審議会の答申 「証券市場の総合的改革一豊かで多様な21世紀の実現のために⊥」,保険

審議会の答申 「保険業の在 り方の見直 しについて一金融 システム改革の一環 として-」 と,大蔵

省 ・金融システム改革連絡協議会のペーパー 「金融 システム改革のプランのとりまとめにあたっ

て一金融システム改革の基本的な視点-」については, 『金融』1997年 7月号掲載分を参照 した.

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金融 ビッグバンと金融改革の視角 33

98年 6月に成立 し12月より施行された金融システム改革法3-によって,法制上の体系的な位

置づけが与えられたといえる・その意味で,期限付 きの改革をするとはいいながら,綿密な

スケジュールが初めからたてられたのではなかった.

ニューヨークやロンドンを意識 しながらも,ビッグバン宣言以降喧伝されるようになった

金融のグローバル ・スタンダー ドにしても,その理解は明確化されていない.2001年になっ

た時点でビッグバソが行われた結果,はたしてニューヨーク・ロンドン並になったのかどう

か,肝心の評価する物差 しであるグローバル ・スタソダー ド自身に対する共通の認識がない

のでは,評価のしょうがないといわねばならない.ただし,グローバル ・スタソダー ドとは,

BIS(国際決済銀行)のような国際機関が出す基準をも含むであろうが,む しろ国際金融競

争力のあるアメリカ型金融システム (金融機関 ・金融行政 ・取引手法 ・市場構成)を事実上

指すものであるという理解からすれば,2001年になってわが国の金融機関のうちどれほどが

国際金融業務の部面で有力な競争者として生き残っているのか,あるいは東京市場での取引

量が拡大 しているのか,という結果によって しかその達成度は評価できないこととなろう.

したがって,競争の結果でしか判断できないことを,事前にグローバル ・スタンダー ドといっ

て議論することにはあまり意味がないということもできる.このような考え方が,BISの自

己資本比率規制に対する懐疑論が出て くる原因の一つともなっている.

2 日米円 ドル委員会報告とビッグバン

わが国で広範な金融システム改革がこれまで取 り組まれてこなかったのかというと,そう

ではない.1984年の日米円 ドル委員会報告に盛られた内容は一定広範なものであり,わが国

の金融システムが転換をはかる絶好の機会でもあった.ここでは,80年代の日米円 ドル委員

会報告と現在のビッグバソとを比較 し,金融改革としての性格と成果を対比 してみよう.な

お,ここでいう日米円 ドル委員会報告とは,84年 5月30日に公表された日米共同 (大蔵省 ・

財務省)円 ・ドル ・レー ト,金融 ・資本市場問題特別会合の作業部会報告書4)を直接には指

3) 金融システム改革法とは,金融システム改革のための関係法律の整備等に関する法律のことで

あり,金融関連24法律の改正を一括化 したものである.金融システム改革法により改正された法

律とは,証券取引法,外国証券業者に関する法律,金融制度及び証券取引制度の改革のための関

係法律の整備等に関する法律,金融機関の更生手続の特例か羊関する法律,証券投資信託法,有価

証券に係る投資顧問業の規制等に関する法律,株券等の保管及び振替に関する法律,銀行法,長

期信用銀行法,外国為替銀行法,信用金庫法,労働金庫法,中小企業等協同組合法,協同組合に

よる金融事業に関する法律,農業協同組合法,水産業協同組合法,農林中央金庫法,商工組合中

央金庫法,保険業法,損害保険料率算出団体に関する法律,金融先物取引法,信託業法の24法律

である.また,その他の関係法律として,有価証券取引税法,国税通則法,所得税法,法人税法,

印紙税法,登録免許税法,消費税法,取引所税法,地価税法,相続税法等,租税関係の多くの法

律の一部改正と,金融機関の合併及び転換に関する法律,預金保険法,農水産業協同組合貯金保

険法,商品取引所法等,多くの関連法律の一部改正をも含んでいる.

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し,同日大蔵省が発表 した 「金融の自由化及び円の国際化についての現状と展望」5'と併せ

て,80年代半ばに示された金融自由化に向けたプラソと理解する・

日米円 ドル委員会は,アメリカ側からの日本の金融市場に対する対外開放圧力をベースと

し,二国間協議の形式をとってわが国の金融自由化を進めることを目的としたものであった・

そのため,日米双方からの 「関心事項」が議題となったとはいうものの,報告書においては,

ァメリカ側から提起された 「関心事項」が圧倒的なウエイ トを占めていた.また,金融自由

化とはいうものの,アメリカ (外国)の金融機関の日本参入とそのための条件を整えるもの

として短期金融市場の整備 ・拡大が核となっていた.

外国金融機関の日本参入問題では,外国証券会社の東京証券取引所会員権の獲得と外国信

託銀行の日本参入が取 り上げられ,認められることとなった.短期金融市場の問題では,円

建銀行引受手形 (BA)市場を創設し,貿易金融における円の利用を促進すること,またユー

ロ円取引の拡大のためにユーロ円債市場 ・ユーロ円CD市場 ・ユーロ円シソジケ- ト・ロー

ンの促進が議論された.これらは,金融の国際化に対応するものとして取 り上げられ,また

円の国際化に資する方策として,日本側もむし●ろ積極的に応 じた施策であった.大蔵省ペー

パーが,自由化と円の国際化の2つを表題としていたことが象徴的にあらわしているように,

自由化と国際化は切 り離 しがたいテーマと考えられていた.

自由化の内容は,大蔵省ペーパーでは,金利,市場,業務内容,業際 ・制度,店舗 ・営業

日など,より踏み込んだものを含んでいた.そして,その方向でその後大蔵省の行政措置は

進められることになったのである.

しかし,わが国の短期金融市場は一定の拡大を示 したが,円建BA市場は創設されたもの

の,その後利用が減少 し,消滅 してしまった.また,外国金融機関の参入でも形式上は認め

られたものの,シェアは上がらず,実効ある形でわが国金融市場が対外開放されたとはいえ

ない状況だった.反対に,80年代末から90年代初頭にかけて,わが国のバブル経済を背景と

する金融膨張は,わが国金融機関の対外進出を盛んにし,とくにアメリカとの間では非対称

的な相互進出が一層問題となるまでに至った6). 円の国際化については,90年代に入りバブ

ル崩壊以後,わが国金融機関の国際取引におけるシェアが低下 し,景気停滞の影響から日本

の輸入が低迷するのに応 じて,忘れられた形となった.

自由化に関 していえば,すでに80年代半ばに日米円 ドル委員会報告によって金融自由化の

方向性は出されていたといえる.しかし,その後今回のビッグバソに至るまで根本的な改革

が10数年遅れたのである.自由化の方向は,80年代半ばの時点でさえもアメリカからの対日

要求として出されたもので,すでに国際金融環境を考えるとその時点でもわが国の自由化は

4) 『金融』1984年 7月号掲載分を参照.

5) 『金融』1984年 8月号掲載分を参照.

6) 数阪孝志 「日米銀行の相互進出とドル体制」探町郁爾編 『ドル本位制の研究』日本経済評論社,

1993年,所収,参照.

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金融ビッグバンと金融改革の視角 35

遅れていたといえる・その後,は じめに述べたように,非常にゆっくりとしたペースで自由

化が進められてきた・金利の自由化は,79年のCD導入, コール レー ト・手形 レー トの建値

廃止による自由化措置以降,15年かけて94年に流動性預金の金利自由化にまで至った.また,

国際金融取引 ・外国為替取引の部面では,79年以降のインパクトローン導入や80年の改正外

為法により自由化の方向が示されたが,98年の外為法改正による完全自由化まで,本格的な

金融国際化に対応 した措置の導入は延びた・そ して,事実上頓挫 していた円の国際化にビッ

グバン実施と並行 して再び挑戦 しているという状況である.

日米円 ドル委員会報告をビッグバンと比較 した場合,自由化という点では先駆けたものと

なっているとはいえ,両者の間には10数年の時間的な隔たりがあり,歴史的にみて大きな環

境の相違点がみられる.

第 1に,80年代半ばにはわが国の経済状態が比較的堅調だったのに対 し,90年代には長引

く景気低迷の中で自由化に取 り組んでいるという点である.また,97年以降のアジア諸国の

経済 ・金融危機の進行により,金融情勢の悪化は,国内要因だけでなく,海外要因からも加

わってきた・そのため,ビッグバンに関 しては,なにも経済情勢の厳 しい中で大幅な金融再

編を伴うことになる金融改革をすることはないのではないか,という意見が出される原因と

もなった .

そのような社会 ・経済情勢の悪化を背景としていることから, ビッグバンは政府が進める

6大改革の一環として取 り組まれることとなった.あるいはむ しろこの6大改革のなかでも

中軸になる位置づけを与えられている.

第2の相違点は,銀行の不良債権問題であり,金融機関の経営破綻による金融不安の広が

りという事態に対する対処が加わっている点である.

アメリカでも80年代に金融機関の倒産 (経営破綻)が相次ぎ金融不安が広がったが,83-

84年の段階では,まだ80年代末から90年代初頭にかけてのより一層本格的な金融危機に比べ

程度の小さなものに止まっていた.

アメリカで公的資金枠を金融破綻に対 し発動するという事態は,89年のS&L (savings

andloansassociations,貯蓄貸付組合)大量経営破綻の処理のための専門時限機関である

RTC (ResolutionTrustCorporation,整理信託公社)設立まで得たねばならなかった.

第3は,BISの自己資本比率規制が,87年以降,国際金融業務に携わる金融機関に課せら

れ,野放図な量的拡大に歯止めがかけられるようになったことである.自己資本比率規制自

身はその後修正が行われているが71,銀行の経営状態を考える上で,自己資本比率を軸にす

るという考え方がかなり定着 したことも事実である.

7) BISから99年6月に,2000年3月末までの期限付きでコメントを求める市中協議ペーパーが公

表されている.A NeluCaPt'falAdequacyFramework,Consultativepaperissuedbythe

BaselCommitteeonBankingSupervision ,Issuedforcommentby31March2000,June1999.

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36 季刊経済研究 第22巻 第 1号

98年4月以降わが国でも導入された早期是正措置 (99年 5月に銀行に対 しては幸福銀行に

初めて適用され,その後,北海道銀行 ・東京相和銀行と立て続けに適用されている)では,

銀行の自己資本比率を基準に金融当局からの指導的措置が行われるようになっている・

第4に,改革の範囲の広がりの点である.日米円 ドル委員会報告でいわれていた自由化措

置の内容は,すでに簡単に触れたように,豊富であったが,ビッグ バソでは銀行 ・証券 ・保

険 ・会計制度等金融システム全般に関わる非常に幅広い改革が必要とされるようになったと

いう点で,改革の範囲が広がっている.このことは,この10数年の間に日本型金融システム

の 「制度疲労」が進み,ビッグバソのような広がりを持った改革でないと対応できなくなっ

ていることをあらわしている.

この点でいえば,日米円 ドル委員会報告の中にはビッグバソで掲げた原則のうちフリーと

グローバルは明確に入っていたといえるが,80年代の段階ではまだフェアという問題提起が

意識されていなかったといえる.両者の改革の内容に関する最も大きな相違点は,この点に

ある.フェアの問題が金融改革プログラムの中に大きな柱として掲げられたのは,わが国で

は今回のビッグバソが初めてであった.

その背景には,大和銀行事件のような国際的に日本の金融機関と金融当局が信頼を失 う事

件が発生したこと,国内では90年代に入って以降の証券不祥事 ・住専問題をはじめとするバ

ブル発生とその処理に関 して,金融機関と金融行政両方の透明性が強 く意識される 「事件」

が相次いで表面化 したこと,がある.これらは,民間金融機関の経営スタイルに関わること

であるが,同時に金融行政当局の指導 ・監督の 「失敗」をもあらわしており,その意味で日

本型金融システムの 「制度疲労」が強 く意識されてきたことを背景としている.

このように日米円 ドル委員会報告とビッグバンの間には歴史的な条件に基づく相違点とそ

れに関連 した内容の相違点があった. 日米円 ドル委員会報告で示された自由化の方向は,80

年代後半のバブル経済の膨張によって本来の課題が見失われる形となった.ビッグバソの性

格を理解するためには,この両者の共通点と相違点を検討することが必要となる.

3 本格化する金融機関の提携 ・再編

行政サイドからのビッグバソの提起に対 しては,当初,国内の各金融機関の間では,総論

賛成 ・各論反対という対応が見受けられた.つまり,金融改革には一般論としては賛成する

ものの,従来の既得権益に関わるような業務開放には慎重な対応を求めるといった態度であっ

た.この点では,当初は従来型の金融秩序の枠内での発想が抜けていなかったといえよう.

しかし,97年11月に起きた三洋証券 ・北海道拓殖銀行 ・山一謹券という一連の大型経営破綻

を目の当たりにして,金融機関の対応に 「真剣さ」があらわれるようになった.コール市場

でデフォル トが発生 したことや,格付機関の評価の変化が大きな影響力を持つことが 「実証」

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金融 ビッグバンと金融改革の視角 37

されたことによって,金融機関の資金繰 りが緊迫 したこと,大蔵省が 「つぶさない」といっ

た都市銀行の一角が倒れ 企業取引の部面で歴史を誇る四大証券の一角があっけない最期を

迎えたこと,このことによって 「次」がどこで起きてもおかしくない,という認識が一気に

広まったからである.

また,破綻 した山一謹券の一部を引き継いでメリル リンチが日本に本格的に進出し,わが

国の大手証券会社がともするとなおざりにしてきたリテイル部面で営業展開をするというニュー

スは,外国金融機関の日本上陸が本格段階に入ったことを示 した.また,海外では,99年 1

月のユーロ誕生による新 しい金融環境をにらんだ欧州系金融機関の再編が活発化 し,アメリ

カにおいても大型の金融合併が続出 している状況である.金融部面における国際競争は,わ

が国の改革のテンポとは関係なく,一層激化傾向を強めている.

国内では,97年12月に銀行店舗での間貸 し方式による投資信託販売が認可され 98年12月

からは本体方式で販売が始まるのをうけて,投資信託を巡る動きが一気に過熱する様相を呈

し,提携 ・ー再編が進んだ.98年 3月末時点でのわが国の個人金融資産残高1227兆円のうち,

預貯金は55.2%を占める一方,投資信託はわずか2.2%に過 ぎず,未曾有の低金利下で個人

の新たな投資対象として投資信託の急速な発展が見込まれたからである.

さらに,わが国では92年の金融制度改革関連法に基づき業態別子会社方式によって徐々に

業態間の垣根が取 り払われようとしてきたが,98年の日本長期信用銀行 ・日本債券信用銀行

の特別公的管理 (一時的国有化)により事実上業態としての長信銀が消滅 し,行政側の采配

による漸進的な再編進行というシナリオは崩れてしまった.

内外のこのような流れの中で,また,長引 く景気低迷 ・後退下での経営再建に向けた動き

として,わが国の金融機関は真剣に再編 ・提携に取 り組まざるを得なくなったのである.提

携は,国内金融機関同士だけでなく,国内金融機関と海外金融機関との間でも積極化 してい

る.

ここで金融機関の提携 ・再編の実態を,最近発表された提携 ・再編の計画と,とくに99年

3月に金融早期健全化法に基づき第2次公的資金投入の条件として15行が明らかにした経営

健全化計画8)を材料として,みてみよう.

8) 15行の経営健全化計画の全文は,金融再生委員会のホームページ (http://www.frc.go.jp/

kenzenka/kenzenka.html)からダウソロー ドして参照 した.経営健全化計画は,金融機能の早

期健全化のための緊急措置に関する法律第 5条に基づき,公的資金の申請金融機関が預金保険機

構を通 じて金融再生委員会に提出しなければならないものである.計画の内容は, 1)経営の合

理化のための万策, 2)責任ある経営体制の確立のための方策, 3)配当等により利益の流出が

行われないための方策,4)資金の貸付けその他信用供与の円滑化のための方策, 5)株式等の

発行等に係る株式等及び借入金につき利益をもってする消却,払戻 し,償還又は返済に対応する

ことができる財源を確保するための方策, 6)財務内容の健全性及び業務の健全かつ適切な運営

の確保のための方策,と定められている.また,各行の計画書では,計画を実施するための前提

条件として,金利 ・為替 ・株価の設定水準が初めに明示されている.

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38 季刊経済研究 第22巻 第 1号

国内での大型の提携としては,企業グループ内での提携がみられる・三菱グループの東京

三菱銀行 ・三菱信託銀行 ・明治生命 ・東京海上のケースでは,投資信託関連 ・投資銀行業務・

年金関連業務での共同での取 り組みのために新会社の設立が計画されている・

住友グループでは,住友銀行が大和証券と共同で投資銀行業務,デリバティブ,投資顧問,

投資信託等で新会社を設立 し,また住友信託銀行を含め証券子会社 ・投資会社の整理を行 う

としている.

芙蓉グループでは富士銀行 ・安田信託銀行 ・安田生命 ・安田火災の提携があるが,ここで

は,富士銀行は安田信託銀行を子会社化し,第一勧業銀行が安田信託銀行から財務管理業務

を譲 り受け,また富士銀行と第一勧業銀行が共同出資で新 しい信託銀行を設立するなど,グ

ループの垣根を越え,信託が再編の核となっている.

これらは,旧来の企業グループを核とし,ホールセール業務と投資関連琴務の強化を軸に

するものである.

それに対して日本興業銀行は,昨年発表された野村証券 ・第一生命との業務提携を推進 し,

個人 リテイル業務からは撤退する一方,証券業務,資産運用 ・管理業務などを拡充する方向

性を示している.これは資本関係を越えた提携であり, しかも業務分野の絞 り込みが明確化

されているケースといえる.

一方,さくら銀行では全部門で社内カンパニー制を導入し組織上の再編を行い,業務上は

商業銀行業務に集中するとしており, リテイル強化の方向性を打ち出している.また,三井

信託銀行は中央信託銀行と合併 し,信託での受託資産の運用 ・管理,証券代行業務での強化

を目指 している.

リテイル重視型としては,東海銀行とあさひ銀行の提携ケース,大和銀行を中心とする提

携ケース等がみられる.

東海銀行とあさひ銀行は, リテイルをコアとし,地域的に非常に広範囲をカバーする強力

なスーパー リージョナルバンクを目指 している.

大和銀行の場合は,より地域戦略が明確である.近畿銀行 ・大阪銀行と包括提携をし,関

西地域での リテイルに特化,海外業務からの全面撤退という戦略を打ち出している.地域金

融機関同士でのATM相互解放,振込手数料の軽減,手形交換の相互委託などを内容として

いる.また,年金 ・法人信託部門では社内カソバニー制を導入 し,将来的には分社化をも視

野に入れている.なお,提携先の近畿銀行と大阪銀行は,すでに2000年4月に合併する計画

を発表しており,再編をともなう提携という姿が明確になってきている.

なお,住友銀行は関西銀行の増資を引き受けることによって子会社化するとしているが,

有力都市銀行と親密な関係にある地方銀行とのグループ化が一定進む方向が出てきている.

海外金融機関との提携では,投資信託業務を巡るものが顕著である.第一勧業銀行とJP

モルガソ,三井信託銀行とプルデソシャル,安田火災とTCW,住友銀行 ・大和証券とT・

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金融 ビッグバンと金融改革の視角 39

ロウ ・プライスなどである・ また, 日興謹券とソロモン (トラベラーズ ・グループ)のよう

に,国際的な大規模 グループによる再編に組み込 まれるケースも出て きている.

提携 ・再編は,どのような金融機関になろうとするのか,どのような業務に重点を置 くの

かとい う経営方針に対する戦略的な選択であるから,その目指す方向性によってい くつかの

タイプに分けることが理解 しやすい. また,経営健全化計画では,各々の銀行の目指す方向

性 と同時に,店舗 ・人員の削減,その他経費項 目の見直 し等のいわゆる リス トラ策が,発表

された・ これら経営健全化計画をみてもわかるように提携 と再編は∴金融機関の経営戦略の

なかで滞然一体となっている.重要なのは,各銀行の目指す方向性 と併せて組織上の変更と

業務上のウエイ トづけを明記 している点である. これは,従来の 「横並び」からは一歩踏み

出 し,独自の経営戦略が出始めたものと評価 しうるものであろう.

4 金融再編の 日米比較

ビッグバソ宣言以降にわが国における金融機関の経営破綻や提携 ・再編の動 きが本格化 し

てきた様子をみてきたが,その正否を評価するためにアメリカのケースとの比較を してみよ

う.

アメリカの金融機関は非常にダイナ ミックな再編 を継続的に行っている. これは,アメリ

カの企業社会が市場競争をベースとし活力を有 していることを背景としてお り,金融部面で

も競争原理が貫いていることをあらわ している9'. そのダイナ ミズムは金融機関の再編が80

年代以降未だに急激なペースで進んでいることによくあらわれている.

表 1 FD IC加入金融機関数の変化

97年末 98年末 増 減

商業銀行 9,143 8,774 -369

国法銀行 2,597 2,458 -139

州法銀行 (FRS加盟)~ 992 994 +2

州法銀行 (FRS非加盟) 5,554 5,322 一一232

貯蓄機関 1,779 1,687 -92

荏)FDIC,Statisticsのl劫nkingより作成.

表 1は,FDIC加入金融機関数の変化を,97年末 (12月31日)と98年末との比較でみた も

のである. 1年間だけで,預金取扱金融機関数 (商業銀行 と貯蓄機関の合計)は,461のマ

イナスを示 している. と くに,商業銀行では369行の減少となってお り, さらにいえば連邦

9) アメリカ金融界の ダイナ ミックナな動 きについては,数阪孝志 「ア メリカにみ る金融再編の ダ

イナ ミズム」 『月刊 フォー ラム』1996年 6月号 も参照 されたい.

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40 季刊経済研究 第22巻 第 1号

準備制度 (FRS)非加盟の州法銀行だけで232行と,全体の半分の減少を示 している・

このような大幅な変動を,増減だけでなく,その他の変化も含めて要因別にみてみると,

1998年 1年間だけで預金取扱金融機関 (商業銀行と貯蓄機関の合計,ただ しこの場合は

FDIC非加入も含める)ベースで,新規設立が276件,合併が590件,地位転換 (conversions)

1,718件,名称変更316件,本店の再配置343件,清算 ・閉鎖28件,信託営業権の変更114件,

であった.また,店舗の変動をみてみると,店舗の再配置938,P&A (資産 ・負債継承を伴

う店舗買収)320,新規開店4,279,店舗閉鏡2,832,であった.

もちろん,アメリカの預金取扱金融機関数は80年代以降急速な減少傾向を示 しているとは

いいながらも,いまだに総数で10,000を超える水準であり,それら全体の動きから出て くる

数値であることを考慮すれば,単純にわが国の銀行業界の再編と比較することはできない・

しかし,ここでとくに注目したいのは銀行の新規設立が盛んに行われている点である.企

業社会のダイナミズムは,市場競争による優勝劣敗の過程を通 じて,生産性が劣 り収益体と

して存続できない企業は市場から駆逐されることを前提にしているが,同時に新たに市場競

争に参入する企業が数多く出現することを重要な要件としている.すなわち,参入と退出の

ルールが,どちらも市場に任されているということである.この点からいえば,銀行の経営

破綻や買収 ・合併による行数の減少と,新規に設立される増加とが,両方みられることが市

場 メカニズムが機能 していると判断できる条件となる.この点で,アメリカの銀行業界は非

常にダイナミズムに富んでいるということができる.

また,アメリカの銀行業界では合併 も非常に盛んに行われている.その中で,スーパー リー

ジョナルバンクによる地域戦略の見直 しに伴 う小銀行の合併が顕著である.さらに地位転換

とは,免許 (根拠法) ・監督機関 ・預金保険加入状況等で変更のあった場合であり,この数

値が非常に多いのも特徴である.

さらに,名称変更や本店の再配置が各々300件を超えているが,これらもそのほとんどが,

その他の条件が何も変わらずにただ商号だけが変わったり,本店を移動 させたりしたという

のではないと考えると,その変更に伴 う何らかの経営上の動きがあったとみることができる.

店舗 レベルでみると,店舗の新規開店が閉鎖を1,447上回っており,再配置とP&Aでは店

舗数に変化はないとしても,急激な勢いでアメリカでは店舗網が拡充されていることがわか

る.実際,長期的 トレンドでみても,80年代以後,アメリカでは店舗総数が爆発的な拡大傾

向をみせている.新 しい店舗展開としてイソス トアブランチのような形態の店舗の拡大 も含

まれるとはいうものの,アメリカでは銀行業界の再編は店舗数の拡大傾向を伴って行われて

いる.

80年代末の年間200行以上の銀行倒産が発生 したような危機的状況とは異なり,長期にわ

たる経済拡大を背景として,過去最高といわれる収益状況にあるアメリカ銀行業界にあって

も,このように再編の手は少 しも緩められていないといわなければならない.

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金融ビッグバンと金融改革の視角 41

このようなアメリカ銀行業界の全体の動 きと併せて,主要な銀行の経営戦略のタイプをみ

ることは有効であろう.

アメリカ国内だけでなく全世界的に店舗網を展開 し,ホールセールからリテイルまでほと

んどすべての顧客層に対 し,非常に幅広いタイプの金融サービスを提供する戦略を採ってい

るのはシティグループだけといえる.現在のシティグループは,銀行業をコアとするシティ

コープ (シティバンク)と,証券業 (ソロモン・スミス ・バーニー) ・保険業 (トラベラー

ズ ・ライフ, トラベラーズ ・プロパテ ィ)分野の トラベラーズ ・グループが98年末に合併 し,

アメリカ最大の金融 グループとなっている. しかし,他のマネーセソターバンクといわれる

主要銀行が,このシティの方向 ・戦略に正面から競合する動きを示 しているかというと,そ

のようにはいえない.

JPモルガンは,よく知 られているように,投資銀行業務に特化 した業務構成をとってい

る.同じく投資銀行業務に特化 していたバソカース ・トラス トは, ドイチェバソクに合併さ

れ, ドイチェバソクの国際戦略の一翼を担 う形で引き続き投資銀行業務を中心とした業務を

続けている.チェースは,アメリカ国内ではホールセール ・リテイル両面を手がけているが,

旧ケミカルから引き継いだシンジケー トローソや企業関連取引でとくに強みを持っており,

その得意分野をコアとしている.さらに,バンカメリカとネーションズバンクは,合併によっ

てアメリカ国内銀行業で地理的に全米展開をすること, リテイル業務で トップに立つことを

目指 している.その他のスーパー リージョナルバソクも,地域戦略を明確にし,合併等の再

編を盛んに行っている.

このようにアメリカの主要銀行は,経営資源の得意分野 (業種 ・業務 ・地域)-の振 り分

けによって,各々独自のカラーを出 している.そ して,基本的な経営評価のポイン トは,量

的な拡大にあるのではなく, コアとする業務分野を中心として,収益性の高さを獲得するこ

とに置かれている.そのために,強化部門とリス トラ部門が常に意識 され,継続的な再編が

起こっているのである.

以上みてきたアメリカの状況と比べて,わが国の場合はどうであろうか.第 1に,わが国

の場合,金融業界にダイナミズムがあるとは言い難い状況である.それは,新規参入の問題

である.この点では,金融行政の根本的な転換が必要となる.第 2に,わが国では店舗 ・人

員の合理化 (減少)にあらわれているように,現時点ではまだ拡張 しすぎた部分を如何に整

理するのかとし●、う過去-向けた 「戦略」の比重が高 く,ど′のような金融機関になるのかとい

う将来に向けた設計が青写真の段階に止まっている.第 3に,有力銀行ではほぼいずれも,

総合的な金融サービスを提供 し,さらに国際業務でも一定の地位を獲得 しようとする方向を

目指 してお り,投資信託の例にみられるように,提携 ・再編での個性化がまだ弱い.アメリ

カでは,マネーセンターバンクといえども得意分野-のウエイ トづけによって,個性化が進

んでいる.

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42 季刊経済研究 第22巻 第 1号

5 提携 ・再編をみる視角

金融機関の提携や再編が何のために行われるのか,この点から考えると, 2つの側面があ

るといえる.

1つは,・金融機関自身の経営効率化を図り,いっそう厳 しい競争環境の下でも生き残って

いける組織作 りを目指すということである.その際の重点は,量的な拡大よりも質的な収益

性に置かれる.

もう1つは,提供する金融サービスの質を向上させ,利用者の便宜を高めることである・

提携 ・再編が独りよがりなもので,利用者の享受できる金融サービスに新 しいメリットがな

いならば,利用者はその金融機関から離れていくことになる.これからの競争環境では,内

外の複数の金融機関が金融サービスの提供を行っており,代替のための選択幅が広がってい

るので,自らの失地は競争金融機関に対 しチャソスを与えることになる.この点で,実は利

用者に対する便宜供与と自らの経営効率化 ・組織強化とは両立するものなのである.

さらにいえば,金融機関の提携や再編の意志決定をどのようなプロセスで行 うのかという

問題も関わって くる.金融機関が経営上の意志決定として提携や再編を選択するわけである

から,金融機関自身の経営陣がその意志決定に携わることはもちろんであるが,それが利用

者の便宜と関わること,金融機関の社会的な位置,すなわち公共性の高さから考えると,意

志決定プロセスに透明性 ・公開性を持たせることに一定の意味が生 じて くる.この点で,ア

メリカで98年に行われたパブリック・ミーティングが参考になる.

パブリック・ミ-テイソグとは,連邦準備銀行が主催 して,大型の金融合併がある場合に,

広 く公開で討議する場を設けるものである.98年には,4回開かれている10).シティコープと トラベラーズグループとの合併に関 して,ニューヨーク連邦準備銀行は,

6月25・26日,パブリック・ミ-テイソグを開催 している. 2日間で当局者 ・業界関係者 ・

学者 ・法律家 ・市民 グループ等が参加 した総計25のパネルが出された.その他, 7月 9・10

日にはバンカメリカとネ-ショソズバンクの合併に関 し,サソフランシスコ連銀が主催 して

パブリック・ミーティングが開催され,2日間で総計32のパネルが出された. 8月13日には

ファース トシカゴとバンクワンのケースでシカゴ連銀主催のパブリック・ミーティングが19

のパネルで, 9月17日にはノーウエス トとウェルズファーゴのケースで ミネアポリス連銀主

催のパブリック・ミーティングが13のパネルで,開催されている.

シティコープと トラベラーズグループの合併の場合は,このような公開の討議を経た後,

FRBの最終的な認可を受け,すでに98年末に合併が計画通 り行われているが,この公開性

10) 4回行われたパブリック・ミーティングの内容に関しては, FRBのホームページ (http://

www.bog.frb.fed.us/events/publicmeeting/)からダウンロー ドした資料を参照した.

なお,本稿執筆時点で,すでに,シティコープとトラベラーズグループのケースはページ上から

削除され,残り3ケースのみが利用可能となっている.

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金融ビッグバンと金融改革の視角 43

が重要なのである.アメリカでは銀行合併の際にはとくに反 トラス ト法とCRA(地域再投

資法)のチェックがポイントとなっているが,これは企業体としての銀行の社会的責任を重

視 していることの反映といえる.私企業体でありながら高い公共性を有 している銀行の再編

については,企業体としての経営戦略だけでなく,その社会的な影響をも考慮に入れる視角

の必要性が痛感される.

なお,幅広い金融ニーズに対応するためにとられた提携 ・再編による総合的な金融サービ

ス機関を考えた場合,次のような問題をどのように仕切るのかが重要になって くる.それは,

金融サービスの利用者である預金者 ・証券投資家 ・保険契約者が,同じ意味で扱われるので

はないということである.

銀行の公共性の高さは,決済機能を担い決済システムの一部を構成 している点にあるとい

える.決済システムは経済活動全体にかかるシステムであり,その円滑な運営が金融経済社

会においては第一位の優先順位を持っている.その点で,預金者保護は決済システムの保護

と直接連動 しており,他の証券投資家 ・保険契約者の保護とは原理的には切 り離 して考えら

れるべきである.預金者 ・証券投資家 ・保険契約者が取 り引きする金融商品のタイプが異な

ること,つまりリスクの取 り方が異なる訳であるから,金融サービスの利用者として単純に

一括できないといえる. しかしながら,同一人が同時にこの3つのタイプの金融サービスを

利用することがありうるし,また総合的金融サービス機関が顧客としてそのようなタイプの

利用者と対崎する場合,商品毎 ・サービス毎に明確な仕切が必要であることはいうまでもな

い.これは,情報開示とリスク・金融商品の特性の説明義務をより重 く考えることを意味 し

ている.金融サービスの利用者 (国民)の側には金融取引に関する自己責任が問われるわけ

だが,金融サービスを提供する金融機関の側にもその意味で自己責任が同時に問われること

になるのである.

6 金融機関の自己責任

金融機関の自己責任という点でいえば,金融機関が経営内容の情報開示をどのように行 う

のかという点と,金融機関の貸 し手責任をどのように果たすのかという点が,重要になる.

この両者は密接に関係 している.

ここでいう金融機関 (銀行)の貸 し手責任とは,これまでわが国でいわれてきたようなも

のではなく,銀行が社会的に果たすべき企業としての貢献に関わっている.

わが国で住専問題が議論された際に,住専の設立に当たって出資をした銀行に対 し,破綻

処理に関連する責任として,母体行の立場から融資額全額の放棄が求められた.自らが出資

をして設立 した住専が経営破綻をおこし倒産状態に陥ったわけであるから出資分が消滅する

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44 季刊経済研究 第22巻 第 1号

のは当然としても,融資額に関 してその他の金融機関と差別的な債権放棄が求められたので

あった.

このような措置が講 じられた背景には,母体行主義とでも呼ぶべき 「責任」が一般に考え

られたからである.だが,これは企業と銀行との結びつきが一般にメインバンク関係と呼ば

れるような強さを持っており,メイソバソクは取引先企業の経営危機の際には 「万全の措置」

を講 じることが暗黙の相互了解となっている状況と同じ発想法である.このようなメイソバ

ソク関係は,長期安定的な取引関係を結ぶことで当該企業 ・銀行だけでなく金融システム全

体としても一定のメリットを有するものであるといわれてきた. しかし,そのような関係が

強固であればあるほど,企業を評価する際に当該企業自身ではなく取引銀行をみることによっ

て企業評価に代替させることになる.すなわち,当該企業の業績や経営内容よりも,取引銀

行の信用によって,もし万一の事態が生 じたとしても,取引銀行が負債をカバーするなど

「万全の措置」を講 じて くれるので,安心 して取引に応 じるという事態が発生する.

住専の場合には,母体行以外の農林系統金融機関をはじめとする金融機関は,母体行をみ

て,住専に対する信用評価の代わりとすることによって,貸付を行ったのである. したがっ

て,母体行以外の金融機関は,本来金融機関が融資をする際に行うべき融資審査を行わずに

融資を行ったことになる.住専処理によって一般会計から6,850億円を第一次分として負担

することになる国民からは,母体行に対する厳 しい責任追及の声があがったことに関 しては

青首できるが,母体行以外の金融機関は自らが金融機関としての最低の 「義務」を果たさず

融資をしていたのであるから,母体行に対 し差別的な債権放棄を求めることは,いわば本末

転倒であるといわれても仕方ないところであった. しかしながら,とくに農林系統金融機関

から出された母体行に対する 「責任」追求と自らに対する免責の声は,先に述べたメイソバ

ソク関係を前提としていわば相互依存関係に立ちながら融資を行ってきたこれまでの金融シ

ステムのあり方の枠の中からすれば,出るべ くして出てくる声であったともいえる.それは,

従来からの暗黙のルールを急に変更されることに対する抵抗であり,改革を行う際には必ず

つきまとう抵抗である11).

住専問題の処理の過程で議論された金融機関の責任は,このようにもっぱら従来からのメ

イソバソク関係を前提にした相互了解の中での母体行の責任ということであり,これは金融

機関 (銀行)の果たすべき貸 し手責任とは性格の異なるものである.

金融機関の貸 し手責任とは,金融機関の融資に関する社会的な責任であり,ここではアメ

ll) 預金保険制度の運用に関 して2001年からペイオフが解禁になるとい う点についても,国民に

とって金融機関はどれを選択 しても同じという従来からの暗黙のルールの変更をするという点で

は同じである.ただ し,預金保険基金がペイオフを行 うには少なすぎ,事実上ペイオフは不可能

であったので,基金を強化するまでの間,時間的な猶予が必要であったという点では,行政サイ

ドでもペイオフのような措置を必要 とする事態は生 じないという 「暗黙のルール」が変更された

ことになる.

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金融 ビッグ バンと金融改革の視角 45

リカのケースからCRAに関 していわれている貸 し手責任を取 り上げることとする.

CRA (CommunityReinvestmentAct,地域再投資法)は,金融機関が地域の信用需要

に積極的にこたえることを義務づけた法律で,1977年に成立 した (12U.S.C.2901).所

得や人種による差別的な融資慣行を改めさせるため,低所得者層や黒人 ・ヒスパニック等が

多く住む地域-の融資 ・店舗展開などを積極化させることを目的としている.アメリカでは

このような措置が単に企業の倫理上の努力目標として掲げられているだけでなく,法律上の

義務として明確化されている.銀行が合併や買収,店舗展開等の許可を求める際に,CRA

に基づく地域貢献の実績 ・計画が重視されており,銀行の行動を強 く制約することに効果を

発揮 している.FRBが銀行持株会社の買収 ・合併を認可する際には反 トラス ト法に基づ く

独占規制とともに,このCRA評価がきわめて重視されており,その様子はFederalRese7W

Bulletinにおける認可公表のページにおいても,反 トラス ト法とCRAに関する評価が基本

とされていることでもわかる.

CRAに基づ く銀行の地域貢献度に関する検査は,通常 2-3年に 1回の割合で行われて

いる.

その評価 (CRA Rating)は,優秀 (Outstanding),良好 (Satisfactory),改善の必

要あり (NeedstoImprove),著 しい不履行 (SubstantialNoncompliance)の4段階に

分類され,各銀行の評価は,検査を行った当局のホームページ上で公開されている.99年 6

月初めの時点でFRBのホームページでの検索によれば,総数4,861行の公表分のうち,優秀

(Outstanding)959行 (19.7%),良好 (Satisfactory)3,673行 (75.6%),改善の必要

あり (NeedstoImprove)198行 (4.1%),著 しい不履行 (SubstantialNoncompliance)

31行 (0.6%),という分布であった12). なお,検査を行 う金融当局とは,FRB,FDIC,

OCC (通貨監督官庁),OTS(貯蓄金融機関監督庁)である.検査のスケジュールは,四

半期毎に,対象銀行の名前が公表 され,公開性が高い.また,検査手続 き (Examination

Procedures)や評価フォーマット (PublicEvaluations)も公表されている.

『朝日新聞』の記事によれば,99年 3月に行われたBankofBostonの検査のケースでは,

OCCから5人前後の検査官が入 り,4週間以上の時間をかけて,書類チェックだけでなく,

地域団体の リーダーからの意見聴取も行うという13).

ここでいうCRAに基づ く貸 し手責任とは,金融機関がその公共性の高さを自らも認識 し,

営業地盛とする地域-の融資において,私企業体として収益性だけを追求する視角だけから

ではなく,特別の社会的責任を果たすということである.もちろん,融資を義務づけられる

地域に関 してはそれだけ不良債権化する比率も高いと考えられ,一般には銀行経営の健全性

を損なうおそれのある融資をすることになる. しかし,逆に,収益性だけを基準にしたバブ

12) FRBホームペー ジ (http://www.bog.frb.fed.us/dcca/era/)より検索.

13) 『朝 日新聞』1999年 5月30日.

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46 季刊経済研究 第22巻 第 1号

ル的な無謀な融資拡大を抑制 し,銀行経営の透明性を高めることに大きく寄与 しているとい

うプラスの側面もみられる.

なお,この透明性と公開性という点でいえば,CRA評価や地域独占度を考える際にその

もととなる地域毎の金融機関のシェアが公表されており,銀行の地域別の勢力分布状況が広

く一般にもわかる形になっている点がある.

たとえば,98年 6月末時点で,マサチューセッツ州をみた場合,週内での預金シェアでみ

ればBankBoston,'NA (銀行持株会社はBankBostonCorp.)が23.08%で第 1位,Fleet

NationalBank(FleetFinancialGroup,Inc.)が12.96%で第 2位,StateStreetBank

andTmstCompany(StateStreetCo咋.)が10.06%で第3位となっている.

このような州毎の数値だけでな く,例えばBankBostonCorp.の場合,全米で473店舗

(預金額329億 ドル),マサチューセッツ州内に347店舗 (同273億 ドル)あるが,そのすべ

ての店舗について個別に場所と預金額が公表されている.このことは他の銀行についても同

じである14).

なお,99年 3月にBankBostonとFleetFinancialGroupの銀行持株会社同士の合併が発

表されているが,それによって州内第 1位と第2位の銀行が合併 し,預金シェアで3分の 1

以上を占めるというスーパーバンクがこの地域に誕生することが誰の目にもわかる形となっ

ている.このような合併が地域金融市場にどのような影響をもたらすのか,判断するための

素材が豊富に提供されているのである.

7 情報開示と地域金融

地域金融機関を考える際には,ホールセール業務や海外業務の比重が高いタイプの金融機

関とは自ずと評価の視角が異なるべきであろう.

つまり,金融自由化の下,・金利や為替相場の激 しい変動にさらされながら,デリバティブ

取引でハイリスク・-イ リタ-ソ型の業務を行いながら,M&Aの斡旋 ・仲介やシンジケー

トローンおよび証券化業務での組成をはじめとする各種の金融サービスにより大幅な手数料

収入を獲得するような金融機関の場合には,経営のスタソスは 「量から質-」の転換がいわ

れているし,実際に量的な規模拡大を追求するのではな く,収益性 (指標 としてROAや

ROEでみた)を高めることが追求されている.

しかしながら,このような評価基準で判断されるべきなのは,従来マネーセンターバソク

と呼ばれてきたような一部の大銀行だけであって,多くの地域金融機関には直裁には当ては

まらないといえる.

というのは,地域金融機関の場合,上で述べたような 「質」で評価される種板の業務比重

14) FDICホームページ (http://www2.fdic.gov/sod/)より検索.

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金融ビッグバンと金融改革の視角 47

が低いこと,それに比べ営業地域内での預金 ・貸出という伝統的銀行業務の比重が高いこと,

営業店舗の面的な広がり,すなわち店舗展開の密度が顧客とのつながりを獲得する重要なルー

トとなっていること,これらのことから,量的な地域内のシェアがこれら金融機関を評価す

る際に相変わらず重要な指標たりうるといえるのである. (なお,この点では,イソタ-ネッ

ト・バソキソグの普及により, リテイル業務においても空間的な制約が解消された場合には,

一定の変化が考えられるが,その段階はまだ当分先のことであるといえる.)実際,さきに

みたCRAにおいても地域内の融資額がポイントとなっている.

このように考えるならば,地域金融機関を評価する際には,営業地域内における量的指標,

預金 ・貸出業務のウエイ トが重要な指標となって くる.アメリカの場合には,すでにみたよ

うに,金融機関の地域的な量的指標は透明にされているが,このことが地域貢献を重視する

社会的な意識に基づ くものであると同時に,そのような意識を具体化 していく支えともなっ

ている.

この点でわが国の金融機関の透明性はまだ低い段階であるといわねばならない.

わが国で金融機関の預金 ・貸出に関 してその地域的な分布を知ろうとすれば,例えば金融

ジャーナル社が年 1回発行 している 『月刊 金融ジャーナル』別冊 「金融マ ップ」を用いる

か,あるいは全国銀行協会連合会が発行 している 『金融』に年 2回掲載される 「全国銀行預

金 ・貸出金の地理的分布」表を使 うことができる.

前者は,都道府県別に業態毎の預金額 ・貸出金額 ・店舗数を各年 3月末で採ったものであ

る.とくに各都道府県の地元金融機関 (本店を当該都道府県内に置 く地方銀行 ・第二地方銀

行)については,各行毎の都道府県内の預金額 ・貸出金額 ・店舗数も掲載されている.なお,

業態毎をベースとしているが,預金では国内銀行 5業態に信用金庫 ・信用組合 ・労働金庫 ・

農協 ・郵便貯金の併せて10業態の数値が,貸出金の場合には郵便貯金をのぞいた9業態の数

値があげられている.筆者はこれまでの研究で,地方銀行 ・第二地方銀行の地元比率 ・地元

シェア ・地元預貸率 ・地元資金環流率を計算する際に,この資料を使用してきた15).(なお,

地元シェア計算のためには,別途,都道府県毎の商工中金 ・漁協の数値を加算 している.)

後者は,全国銀行 5業態の預金 ・貸出金を地域毎にみたもので,地域区分として市単位を

基本とし,政令指定都市の場合は区までの区分がなされ 郡部は都道府県単位で集計され

毎年 3月末 ・9月未集計数値として公表されているものである.そのため,業態毎の動向で

はなく,全国銀行5業態を統合 した動きがわかるに過 ぎないという制約がある. しかしなが

ら,地域区分 レベルを都道府県単位よりもより詳細にみることができる預金 ・貸出金動向に

15) 数阪孝志 「地方銀行の地元比率」 『季刊経済研究』第18巻第1号,1995年 ;同 「地方銀行の

地元シェアと競争」 『証券研究年報』第10号,1995年 ;同 「地方銀行の地元預貸率」 『季刊経済

研究』第19巻第3号,1996年 ;同 「金融機関の預貸シェア変動 (1971年~96年)」 『季刊経済研

究』第20巻第1号,1997年 ;同 「地方債と地方銀行」 『イソベストメソト』1999年4月号..

Page 18: 金融ビッグバンと金融改革の視角 - Osaka City …dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DB...金融ビッグバンと金融改革の視角 33 98年6月に成立し12月より施行された金融システム改革法3-によって,法制上の体系的な位

48 季刊経済研究 第22巻 第 1号

関する唯一の公表数値であり,また細分化された地域 レベルでみた預金 ・貸出金変動の地域

間格差を確認する作業の第一段階としては意義を有する資料であると考えられる.

また, 『金融』では,東京 ・大阪の銀行協会社員銀行主要勘定 (各年3月末 ・9月末値)

が公表されている.これには,東京都 ・大阪府下に店舗をおいている国内銀行各行について,

預金額 ・貸出額,および各々の内訳が掲載されている.その数値を分子とし,当該銀行の総

預金 ・総貸出金を分母とすれば,各行の東京 ・大阪-の集中度が計算できることとなる16'.

このように,現在公表されている数値によって地域金融機関に関する経営実勢はある程度

明確にできる. しかしながら,都道府県よりも細かい市 レベルでの各業態の預貸額,あるい

は金融機関の個別の店舗毎の預貸額は公表されておらず,そのため全国レベルでのより詳細

な地域金融に関するデータに基づく議論ができない状態である.この点で,わが国でもより

詳細な金融機関の地域預貸データを,金融機関の地域貢献度を図るためにも,公表すべきで

ある.また,それは地域金融機関の地域内での存在感を計数的に明示することによって,也

域金融機関自身にとっても存在意義を広 くアピールできる材料となりうる.

(1999.6.7受理)

16) 計算結果は,1998年10月3日,金融学会関西部会 (関西大学)で 「地方銀行の東京集中度」

として学会発表した.