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丸の内第一法律事務所 1898年から始まった気象観測史上で最も暑かった夏がようやく 終わりました。皆様はつつがなく夏を乗り越えられたでしょうか。 事務所一同はお陰様で元気に秋を迎えております。 第2回の事務所ニュースをお届けします。私たちが日ごろ仕事 をするうえで、幅広い視点から物事に接するという面と、一定の 問題について深掘りをして検討するという、両面の作業が欠かせ ません。 今回は、各人がそのような仕事をしている中で、日ごろから調 べて暖めているテーマや皆様に知って頂きたいテーマを書いてみ ました。 暑い夏が終わったと思ったら、今度はこのような熱っぽい文章 をお届けして誠に恐縮ですが、法律実務家の思考回路を覗いてみ てやろうくらいのお気持ちでお読み頂ければ幸甚です。 ■ ユビキタス社会と法 弁護士 山� 克之 P. 2 ■ 外国会社との付き合い方(その2) 弁護士 金澤  優 P. 3 ■ 逮捕されたらどうなるのか 弁護士 町田 正裕 P. 5 ■ 成年後見制度ってどんなもの? 司法書士 森 登規雄 P. 6 ■ 続・小谷先生から学んだこと 弁護士 小坂 重吉 P. 8 記録的な夏が終わって Topics 緑に包まれる丸の内仲通りビル 和田倉門 大手町駅前 東京駅中央口 八重洲中央口前 馬場先門 二重橋前 呉服橋 鍛冶橋 大手町駅 皇居外苑 二重橋前駅 パレス ホテル オアゾ 八重洲 ブックセンター 新丸ビル 丸ビル 丸の内 三井ビル 三菱商事 ビル 三菱ビル 丸の内 仲通りビル 事務所ホームページ http://www.mflaw.jp/ 事務所へのアクセス ○JR東日本:「東京駅」丸の内南口出口より徒歩3分 ○東京メトロ:千代田線「二重橋前駅」より徒歩2分 丸ノ内線「東京駅」より徒歩 5 分

記録的な夏が終わって3 丸の内第一法律事務所 なり以前ですが、日本人は契約観が世界とは異な るとか、契約を守らないとか言われた時代があ

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  • 丸の内第一法律事務所

    1898年から始まった気象観測史上で最も暑かった夏がようやく

    終わりました。皆様はつつがなく夏を乗り越えられたでしょうか。

    事務所一同はお陰様で元気に秋を迎えております。

    第2回の事務所ニュースをお届けします。私たちが日ごろ仕事

    をするうえで、幅広い視点から物事に接するという面と、一定の

    問題について深掘りをして検討するという、両面の作業が欠かせ

    ません。

    今回は、各人がそのような仕事をしている中で、日ごろから調

    べて暖めているテーマや皆様に知って頂きたいテーマを書いてみ

    ました。

    暑い夏が終わったと思ったら、今度はこのような熱っぽい文章

    をお届けして誠に恐縮ですが、法律実務家の思考回路を覗いてみ

    てやろうくらいのお気持ちでお読み頂ければ幸甚です。

    ■ユビキタス社会と法弁 護 士 山� 克之 P.2

    ■外国会社との付き合い方(その2)弁 護 士 金澤  優 P.3

    ■逮捕されたらどうなるのか弁 護 士 町田 正裕 P.5

    ■成年後見制度ってどんなもの?司法書士 森 登規雄 P.6

    ■続・小谷先生から学んだこと弁 護 士 小坂 重吉 P.8

    記録的な夏が終わって

    Topics

    緑に包まれる丸の内仲通りビル

    和田倉門

    大手町駅前

    東京駅中央口

    八重洲中央口前

    馬場先門

    二重橋前

    呉服橋

    鍛冶橋

    大手町駅

    皇居外苑

    二重橋前駅

    東京駅

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    八重洲口

    パレス ホテル

    オアゾ

    八重洲 ブックセンター

    新丸ビル

    丸ビル 丸の内 三井ビル

    三菱商事 ビル

    三菱ビル 中央通り

    日比谷通り

    内堀通り

    丸の内 仲通りビル

    事務所ホームページ http://www.mflaw.jp/

    事務所へのアクセス ○JR東日本:「東京駅」丸の内南口出口より徒歩3分○東京メトロ:千代田線「二重橋前駅」より徒歩2分

    丸ノ内線「東京駅」より徒歩5分

  • 2丸の内第一法律事務所

    ユビキタス社会になりつつあると言われています。

    ユビキタスとは、ラテン語に由来する言葉で、「い

    たるところに存在する。」「遍在する。」という意味です。

    転じて、「いつでも、どこでも、何でも、誰でも、ネッ

    トワークにつながる社会」、つまり、インターネット等

    を介したICT社会のことを指します。身の回りにインタ

    ーネットや、携帯電話が深く入り込んでいます。パソコ

    ンや携帯電話でインターネットを介して商品を購入した

    り、銀行口座から送金することも普通になってきました。

    それに伴い、取引が安全にできるように、ルールやイン

    フラの整備が進み、注意すべき法律も変わってきました。

    特定商取引に関する法律(特定商取引法)という消

    費者を保護する法律が重要性を増しました。事業者がイ

    ンターネット上で申込みを受けて行う取引は、特定商取

    引法上の通信販売に該当しますので、広告する場合に表

    示しなければならない事項があり、誇大広告も禁止され

    ます。さらに、顧客が意に反して売買契約等の申込みを

    しないように配慮しなければなりません。あるボタンを

    クリックすれば、それが有料の申込みとなることを消費

    者が分かるように表示し、申込みをする際に消費者がそ

    の内容を確認し、訂正できるようにしているのはそのた

    めです。

    電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特

    例に関する法律(電子契約法)が制定されました。イン

    ターネット取引での契約の成立する時点を、郵便等によ

    るやりとりの場合と違って、事業者からの承諾の通知が

    届いた時点として、発信した時点とする民商法の大原則

    の例外となります。消費者に契約が成立したことを明確

    に分かるようにするためです。また、間違って申込みを

    しても、重大な過失があったときは無効を主張できない

    という民法の原則の例外も決めました。消費者が申込み

    を行う前に、申込み内容などを確認する措置を事業者が

    講じた場合や、消費者自らが確認措置は不要である旨の

    意思の表明をした場合は、操作ミスであっても無効を主

    張できないものの、そうでないときは、誤って申込みを

    したら無効とできるのです。

    今、

    前からある消費者契約法も大変重要となりました。

    事業者はウェブサイトに、利用規約等を掲載する

    のが一般的です。事業者が一方的に定めていても、利用

    者が利用規約に同意の上で取引を申し込めば、その内容

    は取引契約の内容になり、拘束力が生じます。インター

    ネットでの商取引は、事業者と消費者との間の契約です

    から、利用規約には消費者契約法が全面的に適用されま

    す。同法は、契約内容が消費者にとって明確かつ平易に

    なるように配慮することを求め、また事業者が債務不履

    行責任、不法行為責任、瑕疵担保責任を全面的に免れる

    ような条項を無効とし、事業者に生ずべき平均的な損害

    の額を超えるキャンセル料は、平均的な損害額を超える

    部分については無効としています。さらに、民法、商法

    その他の法律に比べて、消費者の権利を制限し又は義務

    を加重する条項であって消費者の利益を一方的に害する

    ものも無効としているのです。

    ころで、インターネットでは、相手方と直接に接

    することがないため、Aと名乗る人物が本物かどう

    かを確認する方法、即ち、なりすまし対策が重要となり

    ます。継続的に取引をしようとするとき、事業者は、利

    用方法を定め、さらに特定のIDやパスワードを使用す

    ることにより本人確認を行い、その方式に従って確認し

    ていれば、仮になりすましがあり、他人によって意思表

    示がなされても、本人に効果を帰属させることができま

    す。しかし、合理的に期待される程度よりも事業者のセ

    キュリティレベルが相当低いときは、なりすましによっ

    てなされた取引は無効となることもあります。それ故、

    事業者はファイアーウォールの設置、データ送信の暗号

    化などのシステム上の問題をなくしたり、顧客情報の管

    理等のあり方等を重視しなければなりません。その他、

    なりすましを防ぐ制度として、電子署名及び認証業務に

    関する法律によって設立された認証機関や、電子署名に

    関する地方公共団体の認証業務に関する法律(住基ネッ

    ト)を利用した本人の確認方法もあります。

    事業者は消費者からアクセスを受けて、多くの個人

    情報や電子メールのアドレス情報を取得します。個人情

    弁護士 山 �  克 之

    ユビキタス社会と法ユビキタス社会と法

  • 3 丸の内第一法律事務所

    なり以前ですが、日本人は契約観が世界とは異な

    るとか、契約を守らないとか言われた時代があ

    りました。確かに、国際的な契約で、日本がトラブルに

    巻き込まれた事件がありましたが、その原因は、国際契

    約に不慣れであったとか、あまりに日本側に不利な契約

    内容であったとかであり、倫理的に日本が異質であった

    のではないと思われます。不平等な契約が守られないの

    は、特に日本に限ったことではないようです。

    ところで、契約は守らなくても良いのがアメリカ法

    の考え方である(多少誇張ぎみですが)と言ったら、皆

    様は驚かれるでしょうか。

    高名なオリヴァー・ウェンデル・ホームズ判事(ハ

    ーバード大学教授、米国連邦裁判所判事)は、100年以

    上も前に、次のように述べています。

    「法的拘束力のある約束における唯一の一般的な結

    果は、約束事が実現しないときに、法律が約束した

    者(諾約者)に損害賠償金の支払いを強制すること

    である。いかなる場合でも、法律上、履行期が到来

    するまで諾約者は何らの干渉を受けず、もし選択す

    れば、契約を破る自由がある。」(英語の原文は最後に

    付けました)。

    多少、翻訳調で分かりにくいのですが、ホームズ判

    事は、契約法においては、法と道徳とは区別すべきであ

    り、法律は、契約を守らないのならば、賠償金を支払ら

    わなければならないと言うだけにすぎない、との見解な

    のです。もし、損害賠償を支払っても、他の者と契約し

    報保護法がその取得、管理、開示を規制しています。ま

    た、メールアドレスについては、特定電子メールの送信

    の適正化に関する法律によって、広告・宣伝を行うため

    の手段として電子メールを勝手に送信することが制限さ

    れており、送信できる場合でもその表示方法が規制され

    ています。

    行政面では、既に不動産登記が電子化され、権利証

    ではなく登記識別情報がこれに代わっています。商業登

    記も電子化されました。民間事業者等が法令で課せられ

    ている書面(紙)による保存に代えて、電磁的記録によ

    る保存等を行うことも認められました。民間事業者等が

    行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関す

    る法律とその整備法です(e-文書法)。平成17年4月1

    日から施行されており、対象文書が広汎に指定されてい

    ます。

    手形・小切手の電子版もできました。平成20年12月1

    日から施行された電子記録債権法です。電子債権記録機

    関に金額や債務者名等を電磁的に記録して電子記録債権

    として成立させ、同機関に記録する方法で譲渡し、質権

    を設定したりできます。手形のような紙の上の権利では

    ないため、最初は一つであった債権を小口に分けて譲渡

    するなど、新しい使用方法が生じています。

    成21年6月24日には資金決済に関する法律が公布さ

    れ、平成22年4月1日から施行されました。銀行業

    務の許可がない事業者にも送金業務を行うことを認めた

    法律ですが、電子マネーを認めたものとして注目されて

    います。従前は、「スイカ」のような証票その他のモノ

    を媒体にするのでなければ支払手段としては認められま

    せんでした。それが、モノを媒体とすることを要せず、

    送金業者を介して決済する方法が認められたのです。売

    主と買主で同じ送金業者を使えば、クレジットカードや

    銀行口座を知らせることなく、アドレスを知らせること

    で取引を決済できる仕組みも可能となったのです。

    思えば、手形に財産的価値を見たのは、手形用紙と

    いう紙にではなく、そこに金員を支払う意思が示されて

    いるという情報があり、それを視認して紙を占有すると

    いった、五感の作用で権利を把握できたからです。今日、

    情報がデジタル化され、人は、五感だけでなくPC等の

    機器を介しなければ情報に接することができません。そ

    のデジタル情報は、瞬時に移動し伝播するため、権利が

    表示されている情報に接し得る地位が重要となりまし

    た。そして、権利者とは、情報を排他的に把握できる地

    位にある者を言います。情報の管理が重要な時代となっ

    たのです。

    弁護士 金澤 優

    外国会社との付き合い方(その2)外国会社との付き合い方(その2)

  • 4丸の内第一法律事務所

    た方が有利であるのならば、損害賠償を支払って契約解

    除をすることは法的には何の問題も無いと言うことにな

    ります(但し、アメリカでも一般人の感覚と契約法の考

    えが異なるため、ホームズ判事が強調したのかもしれま

    せん)。但し、日本法と異なり、アメリカ法では、特定

    の物の引渡や特定の行為の強制ではなく、金銭での損害

    賠償が原則的な契約違反の救済方法ですので、裁判所で

    の救済は結局、金銭による損害の回復ということになり

    ます。

    えば、ある物を100万円で売る契約をしていたが、

    150万円で買うという第三者が現れた場合、最初

    の買主の損害賠償が30万円であれば、契約を解除して、

    50万円の差額(差引20万円の追加利益)を獲得すること

    は、道徳的にはともかく、法律的には問題がないとされ

    ます。

    そして、アメリカでは、加害者の行為が強い非難に

    値する場合、高額な懲罰的損害賠償が認められる場合が

    ありますが、アメリカでは契約違反が必ずしも悪ではな

    く、むしろ効率的な契約違反を奨励する傾向があるので、

    効率的契約違反を妨げるような懲罰的損害賠償は原則と

    して契約違反には適用されないとされています。

    また、近時、法律問題を経済的に分析する法と経済

    学という学問があります。この法と経済学の立場では、

    当事者全ての利益の総和を増加させるような違反、すな

    わち効率的違反(efficient breach)と利益の総和を減少

    させるような違反(非効率的違反 inefficient breach)と

    を区別し、効率的違反は経済的には合理的であり、法的

    にも認めるべきであるとします。

    例えば、上記の例で、売主は30万円の損害賠償を得て

    満足、買主は20万円多く利益が得られて満足、そして、

    第三は150万円で買えて満足であれば、全当事者は満足

    ということになります。

    日本での特殊な例ですが、最近では、ある有名ホテ

    ルが日教組の予約を裁判所の仮処分を無視してまで、解

    約した例もあります。あるブログでは、契約解除も契約

    に従った措置ですし、開催したとしても警備代とかで赤

    字になるでしょうから感覚的にもコチラが正しいと思い

    ます、とのコメントもありました。但し、裁判所による

    仮処分を無視した点で、金銭賠償が原則であるアメリカ

    法とは、状況が異なります。日本での法秩序違反という

    別な性質もあり、法的には容認できるものではありませ

    ん。

    約を守るか、損害賠償を支払うかのオプションが

    あり、どちらを取るかは、倫理の問題ではなく、

    経済合理性の問題であるかもしれません。しかし、あか

    らさまに、損害賠償を支払えば、契約違反をしても良い

    とするのは、法的な正義に反すると思われる方も少なく

    ないのではないでしょうか。

    このような処理が正当か否かは難しい問題です。但

    し、ドライに契約解除をした(された)場合には、当然、

    将来の取引関係に重大な影響があることや、社会的な非

    難があることは念頭に置いておく必要があります。

    そこで、正否はともかく、このようなドライな契約

    観をもった相手方がいることを念頭に置き、契約解除が

    なるべくなされないよう、また、契約解除がなされた場

    合には、十分な損害賠償が得られるよう対処する必要が

    あります。その対応としては、以下のようなものが考え

    られます。

    (1)解除事由をなるべく少なくする(重大な違反のみ解

    除事由とする等)。

    (2)解除に対する制約を詳細に規定する(違約の治癒条

    項を設ける等)。

    (3)違約条項を厳しく規定する(損害賠償・現状回復等)。

    但し、損害賠償額を決めてしまうと、解除をし易く

    なるという面もあり、他方、多額の違約金は合意が

    困難で、自分もその高額な違約金の義務を追う可能

    性もあります。

    (4)責任免除規定をなるべく少なくする(相手方の解約

    に関しては免責を認めない等)。

    (5)準拠法を日本法とし、紛争解決地も日本とする。

    但し、契約交渉が必要であり、相手方が応じるとは

    限りません。また、正当な契約解除も難しくなる可能性

    があるため、このような対応は、両刃の剣ともなります

    ので、細心の注意が必要となります。

    ■ご参考

    ホームズ判事のコモン・ローには以下のよ

    うに述べられています。

    The only universal consequence of a legally

    binding promise is, that the law makes the

    promisor pay damages if the promised event

    does not come to pass. In every case it leaves

    him free from interference until the time of

    fulfillment has gone by, and therefore frees to

    break his contract if he chooses." O. W. Holmes,

    The Common Law 236 (Howe ed. 1963)

  • 5 丸の内第一法律事務所

    電話を取ると、顧問会社の社長さんでした。

    「昨日、甥のAが逮捕されたらしい。『わいせつ』

    なんとかと言っていたが、どうしたらいいでしょうか。」

    刑事事件です。こんな時、警察は家族に対しても、あ

    まり詳しいことは教えてくれません。直接本人に面会し

    なければ事情はわかりませんが、逮捕されると、警察署

    に連行されて取り調べが始まりますので、家族といえど

    も面会はできません。しかし私は「被疑者には弁護人選

    任権がある。」と主張して、夜だろうが休日だろうが取

    り調べ中だろうがお構いなしに警察に乗り込むことにし

    ています。このときも、私は夕方の打合せをすべてキャ

    ンセルして、直ちに警察署に向かいました。

    逮捕された被疑者は、取り調べの時は取調室に

    いますが、そうでない場合には、警察署の中に

    あるいわゆる留置場に捕まっています。面会に行くと、

    Aさんは、真っ青な顔で言いました。「ショッピングモ

    ールの階段で、女子高生のスカートを覗いて、携帯電話

    で撮影していたら、警備員に捕まって通報されました。」

    どうやら、いわゆる痴漢(刑法上の強制わいせつ罪)

    ではなく、「盗撮」(都道府県の迷惑防止条例違反)のよ

    うです。東京都ですと、1年以下の懲役または100万円以

    下の罰金になります。有罪は間違いなさそうですが、ど

    ちらかと言えば軽い罪ですから、釈放が認められる可能

    性があります。

    「来週、昇級試験があるのです。これからどう

    なるのでしょうか。」

    逮捕されると、担当警察官から、家族や職業、犯行状

    況についてざっと聞かれた後、作られた調書や報告書が

    検察庁に送られます(これを「送検」といいます)。担

    当検察官は有罪と判断すると、さらに警察署で取り調べ

    を行うため、通常10日間(足りなければさらに10日間)

    の勾留を裁判所に請求します。ですから、まずは検察官

    に対し、「勾留を請求しない(=釈放する)ことを求め

    る申立」を行うとともに、直接検察官に面会し、勾留が

    不要であることを説得する必要があります。まともな社

    会人が会社に無断で2~3週間も休んだら、しかもそれが

    逮捕勾留によるものだということであれば、Aさんが心

    配している昇級試験が受けられないどころか、まずクビ

    です。なんとしてでも釈放を獲得しなければなりません。

    私は、「盗撮」された被害者は誰なのかわからないこ

    と、Aさんに前科がないこと、職場が著名な大会社の関

    連会社であること、既に携帯電話が警察に渡っているこ

    とを確認すると、その場で「釈放されたら、逃亡しない、

    証拠を隠滅しない、御庁の指示に従う」という誓約書を

    2通書き、Aさんに署名、指印してもらいました。

    翌日、私は検察庁に行って担当検察官に面会を

    求め、Aさんの身元の確かさからして逃亡はあり

    得ないこと、携帯電話が警察に渡っていることから証拠

    隠滅もあり得ないことを記載した「勾留を請求しないこ

    とを求める申立書」と、昨日作成したAさんの誓約書 1

    通を提出し、Aさんの釈放を求めました。

    検察官は、警察の報告書を見ながら、「盗撮は、今回

    だけではなさそうですね。他の日付の写真もあるようで

    すよ。自宅にもわいせつ写真があるのではありません

    か。」と指摘しました。

    まずいことになりました。逮捕された犯罪とは別の、

    まだ発覚していない犯罪(余罪)があると、捜査機関は

    被疑者を釈放しないどころか、捜査の便宜のために、勾

    留の延長をさらに10日間求めることもあります。Aさん

    が一人暮らしだということも、検察官が釈放を躊躇する

    原因でした。

    心配したとおり、検察庁からの帰り道、私の携帯電話

    に検察官から、「勾留請求しました。」という無情な連絡

    が入りました。

    でも、まだ私はあきらめませんでした。検察官

    は、一度逮捕した被疑者を、そうは簡単に、自ら

    釈放したりはしませんが、検察官からの勾留請求を最終

    的に判断するのは裁判官です。私は、Aさんの近隣に住

    弁護士 町田 正裕

    逮捕されたらどうなるのか逮捕されたらどうなるのか

    1

    2

    3

    4

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  • 6丸の内第一法律事務所

    司法書士 森 登規雄

    成年後見制度ってどんなもの?成年後見制度ってどんなもの?

    んでいる叔父である会社の社長さんに、身柄を確かに引

    き受け、逃亡、証拠隠滅はさせない、という「身柄引受

    書」を書いてもらうとともに、社長さんの会社とAさん

    の勤め先の会社案内、Aさんの住民票を入手し、一人暮

    らしであろうとも、Aさんが逃亡することはないこと、

    家宅捜索前に証拠隠滅など行わないようにAさんも誓約

    していること、など補充した「勾留請求を却下すること

    を求める申立書」とAさんの誓約書(そのために検察官

    提出用以外にもう 1通用意しておきました。)を裁判所

    に提出しました。そして、担当裁判官に面会を求め、重

    ねて口頭で、長年この社長の会社顧問をやっている関係

    で、極めて信頼できる人物であることを強調しました。

    夕方に事務所に戻ったころ、裁判所から「勾留

    請求は却下しました。」といううれしい連絡があ

    りました。Aさんは直ちに釈放です。Aさんの逮捕は職

    場には知られずにすみ、昇級試験にも間に合いました。

    ただし、無罪となったわけではありませんから、Aさ

    んは警察の呼び出しに応じたり、家宅捜索に応じたりし

    なければなりません。捜査が終了すると、検察官がAさ

    んを呼び出して、まとめの取り調べをするでしょうから、

    予めAさんには反省文を書かせておき、検察官に渡すよ

    うに指示しました。

    結局、Aさんは略式起訴(正式裁判ではない書類のみ

    の裁判)となり、罰金30万円で事件は終わりました。そ

    の他の盗撮については、場所が特定できないことから、

    一つも立件されませんでした。Aさんにとっては初めて

    の、衝撃的な経験だったでしょうけれども、最大20日間

    にも及ぶ勾留を免れたことは、幸いだったと思われます。

    有罪が明らかな犯罪者を弁護する弁護士の活動に対し

    ては、違和感を覚える方がいらっしゃるかもしれません。

    しかし、犯罪者にも人権があり、国家による不当な逮捕

    勾留は重大な人権侵害ですから、はたして真に身体拘束

    が必要なのかどうかを、検察官や裁判官に対して極限ま

    で追求することは、弁護士に課せられた大切な使命であ

    ると考えています。

    仕方なく、自分や家族の預金からお金を集めて何とか間

    に合ったものの、場合によっては手形が不渡りに…。

    Cさんは、父親が段々と痴呆が進んできたので、父

    親の所有不動産を売却し、その代金をもとに、有料老人

    ホームに入ってもらおうかと思っていた。不動産屋に相

    談したところ、その病状では、売買契約が締結できない

    といわれ、売るに売れないでいる。Cさんの資力では、

    老人ホームに入れることは無理。自宅に引き取って介護

    しているが、介護費用の捻出も大変。何とか不動産を売

    ってお金を工面したいのだが…

    Dさんは、年金のみの収入で一人暮らし。結婚はせ

    ず子供もいない。親類はみんな遠方にいて、近くには自

    分と同じ高齢の友人のみ。最近段々と痴呆症が進行して

    いるものの、公的施設に入る条件には未だ足らず、また

    空きもない。日常生活ばかりか、日々のお金の管理もま

    まならない。ヘルパーさんは、金銭管理まではやってく

    れない。そんな老人を食い物にする悪徳業者が狙ってる。

    1 こんな困ったことが…!

    私が以前相談を受けた事例でこんなものがありまし

    た。

    商売人のAさんが脳梗塞で倒れ、ずっと寝たきりで、

    意識もはっきりしない状態になった。Aさんの収入で生

    活していた奥さんは、生活費と医療費に使用するため、

    銀行で定期預金を下ろそうとしたところ、銀行からAさ

    ん本人からでないと解約には応じられないと断わられ

    た。

    このままだと手持ち現金は段々と底を尽き、家族の

    生活費に困るだけでなく、Aさん本人の入院費にも使用

    できない状態に…こんな場合どうすればいいの?

    同じような例でも、Bさんの場合は更に大変。

    商売で手形決済をしていたため、段々と当座預金か

    ら残高が減っていく。あわてて長男が、他のBさんの口

    座から振り替えようとしたが、これも銀行でストップ。

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  • 7 丸の内第一法律事務所

    いつ騙されて大金を巻上げられてもおかしくない。親類

    も心配してるが…

    2 成年後見制度ってどんな制度

    このような場合に、裁判所が選任した後見人が、裁

    判所の監督のもとに、AさんやBさんに代わって銀行手

    続きをしたり、Cさんのために不動産の処分をしたり、

    Dさんのお金の管理をしたりして、法律的なサポートを

    することで日常生活に支障ないようにすることを目的に

    した制度が成年後見制度です。

    後見人は、本人の全財産を管理する権限を与えられ

    る一方で、本人のために資産を有効使用する義務が生じ、

    本人に対し大変重い責任を負うことになります。

    また、老人ホームの入居契約をしたり、介護サービ

    スの手配など社会福祉の受給手続きをしたり、身上監護

    的な処理も行います。

    一定の範囲の親族など法律で定められた人が家庭裁

    判所へ申立てることで手続きが始まります。息子や配偶

    者などの親族を後見人候補者として申立てるのが一般的

    ですが、誰を後見人に選任するかは裁判所が判断します。

    後見候補者となる親族と本人が訴訟をしていたりす

    る場合など、本人との間で利害関係が相反する場合、ま

    た後見候補者が未成年者や破産者である場合など、財産

    管理を任せる上で問題がある場合には、その親族は後見

    人には選任されません。

    また、後見候補者として申出た親族に対し、他の親

    族が異議を述べた場合や、後見候補者と本人の間に多額

    の金銭の貸し借りがある場合など、裁判所が後見人とし

    て相応しくないと判断した場合には、その親族は後見人

    には選任されないことがあります。

    さらに、親族がいない場合や親族間に争いがある場

    合、法律上難しい判断を要する場合などには、弁護士や

    司法書士など資格を有する第三者が選任されます。

    10年前にできたばかりの制度ですが、高齢化社会を迎

    え、年々利用者が増え続けています。

    3 制度を利用する上での注意点

    裁判所では、申立てをすればすぐに後見人を選任し

    てくれるわけではありません。事案により東京では早く

    て2ヶ月、時には数ヶ月、私の扱った事件では半年かか

    ったものもあります。

    申立てに必要な書類を準備する時間も考えると、余

    裕をもって行動することが必要です。

    頭書の事例でも、後から考えると、ある程度予測で

    きたものもあり、また早目に動くことでそれほど大きな

    問題に至らなくて済んだ事案もありました。

    また、後見の申立てをすれば、必ず後見手続きが開

    始されるわけではありません。後見制度は、後見のほか

    に保佐や補助の制度があり、本人の判断能力の有無や程

    度により、保佐人や補助人が選任されることがあります。

    それぞれ手続き要件やサポートする内容も異なります。

    申立てに要する費用、裁判所が医師の鑑定を必要と

    した場合の鑑定費用、司法書士などの資格者が後見人に

    なった場合の報酬などについても考慮に入れる必要があ

    ります。

    成年後見は、本人の判断能力を基準に運用される制

    度ですので、手続きが開始すると、選挙権を失ったり、

    会社役員の地位や公的資格を失うなど一定の制限も伴い

    ます。

    しかし面倒だからといって、後見手続きを回避しよ

    うと、安易に本人名義の預金などを他の家族名義にした

    りすると、後日税務上の問題が生じたり、親族間の争い

    の種になったりする場合もあり得ますので慎重な対応が

    必要です。

    今回は主として法定後見を前提にお話ししてますが、

    後見手続きには、後見人を裁判所が決めるのではなく、

    予め本人が決めておく任意後見という制度もあります。

    任意後見は、本人が予め後見人候補者と公正証書で任意

    後見契約を結ぶ必要があるなど手続きの流れや注意する

    点も法定後見とは異なります。

    また、成年後見制度は、被後見人の生活を第一に守

    る制度ですが、現実には相続との絡みもあり、大変運用

    が難しい面もあります。後見人や家族の人だけで勝手な

    処理は許されませんが、未だ元気で後見の事案が適用に

    なる前に、予め本人も交えて、相続をも見据えてのこと

    を決めておくことは可能ですし、商売や事業をしている

    場合などはとても大切なことです。

    その意味では、相続問題を含めた大きな問題として

    考える必要も実際にはあると思います。

    成年後見制度の利用を考えるには、法定後見、任意

    後見の違い、それらの長短所など制度の内容を理解した

    上、各家庭の事情や直面するであろう様々な問題も考慮

    に入れ、早目の対応が大事だと思います。

    万一、時期が遅れたと思う場合でも、諦めることな

    く、まずはご相談下さい。

  • 8丸の内第一法律事務所

    先回、私の師匠である「小谷先生から学んだこと」

    と題して小谷先生の思い出を少し書きましたが、好評だ

    ったようですのでもう少し続けてみたいと思います。

    小谷先生がいつもおっしゃっておられたことは 「物事

    には必ず対立する両面があります。これを上手に運用し

    て発展させる発想を身につけたら仕事に大変役立ちます

    よ」ということでした。物事にはプラス面とマイナス面、

    積極面と消極面、肯定面と否定面、良い面と悪い面、有

    利な面と不利な面など、対立し矛盾する二つの側面があ

    り、その矛盾は人の考え方、気持ち、心理、性格、行動、

    思想に存在するだけでなく、物の動き、世間の動静にも

    この対立と矛盾が存在するということです。

    人の動きについても同じです。事業に失敗した場合

    のことを考えて見ますと確かに不利な面だけが目立ちま

    すが、失敗に終ってもそれまでの努力と経験、これは貴

    重な宝です。

    これを冷静に反省し失敗の原因を んだら、再起の

    ための有利な面が未だ自分の中にあることに気づくこと

    でしょう。

    私達弁護士が従事している訴訟事件との関係でも同

    じことが言えると思います。

    先ず民事事件について言えば、事務所に来られる依

    頼者についても事件につき必ず有利な面と不利な面を持

    っています。不利な面を隠そうとするのではなく、分析

    検討しましょう。何故不利なのか、その原因は何か、ど

    うすべきだったのか、何故出来なかったのか、どうした

    ら克服できたのか、このように追及していくと必ずそれ

    なりの有利な理由と根拠をつかむことができ、又、相手

    方が有利だとしている事柄を分析して不利な面を引き出

    して対抗すれば、対立矛盾の上手な運用によって全体と

    しての事件を有利に展開することが出来ます。

    刑事事件についていえば、基本の考え方は同じです

    が、被告人と一緒に考えましょう。被告人には犯罪を犯

    したことについての不利な面ばかりで有利な面は少ない

    かもしれません。

    少しでも有利な面があれば、これをしっかり取り上

    げて主張立証しなければなりませんが、不利な面も臆す

    ることなく深く分析検討に入る必要があります。

    この時大切なことは、その分析を被告人と一緒に話

    し合いながらすることです。何故こんな犯行を犯したの

    か、どうして犯す気になったのか、その原因が何なのか、

    自分の性格に原因があるのか、自分の生い立ちとか性格

    に原因があるのか、今どんな生活をしているのか、どん

    な生きかたをしてきたのか、自分のどんな性格が犯行に

    影を落としているのか、このように分析していくと被告

    人の不利な側面は必ずしも不利とばかり言えず、有利な

    面も引き出していくことが出来、どのように弁護したら

    よいかがはっきりしてきます。

    更に重要なことは、こうした分析の話し合いを被告

    人と一緒にすることによって被告人自身の意識が変って

    いくということです。

    被告人自身が自分の中にある積極面と消極面や肯定面

    と否定面の両面に気がつき、人生に消極的で否定的だっ

    た自分の原因に気がつきもう一度自分の人生を見つめ直

    して消極面や否定面を克服しようという気になります。

    彼は今までの自分の性格・生い立ちを整理して、犯

    した自分の犯行の原因をしっかり把握して反省するよう

    になります。被告人の不利な側面が有利な側面に変る時

    です。弁護人はこの被告人の変化を励ませば良いのです。

    彼は裁判を自分の問題としてしっかり受け止め法廷

    に立ち向かう気になります。彼のそのような姿勢は必ず

    や裁判官に一定の感銘を与え、有利な状況を生み出すで

    しょう。これは民事事件の依頼者にとっても妥当するこ

    とかもしれません。

    物事の対立と矛盾は至る所に無数にあり、それは十

    重二十重に重なって存在しています。小谷先生の教えは、

    その中からその物事の核心的な対立と矛盾をとらえ、こ

    れを上手に運用し発展させ、より一段高い解決を目指す

    ことを意味し、事件を処理するに当り実に的確な指摘で

    あったと思っています。

    弁護士 小坂 重吉

    続・小谷先生から学んだこと続・小谷先生から学んだこと