CREATOR'S FILE クリエーターズファイル 6 biz.toppan.co.jp/gainfo GQ JAPAN VOGUE JAPAN VOGUE HOMMES JAPAN 1 GQ Fashion 第2話 「編集者として電子媒体とどうつきあうか」 『GQ JAPAN』の 編集長代理である竹内大氏のインタビュー。第 2 話では iPadアプリやリニューアルオー プンしたばかりの Webサイトについてお聞きした。紙・Web・アプリを連携させる戦略は、これからのメ ディアビジネスを成功させる重要なヒントになるはずだ。 ©2011 TOPPAN/GAC GA info. / CREATOR'S FILE vol.63 Jun.8, 2011 vol.63 Jun.8, 2011 31 No. 竹内 TAKEUCHI DAI 雑誌と電子の ステキな関係

雑誌と電子の ステキな関係...3つの媒体が、お互いにいい影響を与え合いな ていくというのが今の私の使命だと思っています。がら、全体のボリュームが大きくなるように育て

  • Upload
    others

  • View
    2

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 雑誌と電子の ステキな関係...3つの媒体が、お互いにいい影響を与え合いな ていくというのが今の私の使命だと思っています。がら、全体のボリュームが大きくなるように育て

CREATOR'S FILE

クリエーターズファイル

6

b i z . t o p p a n . c o . j p / g a i n f o

iPad向け電子雑誌アプリについて

2010年5月、コンデナスト・グループは

国内の出版社としてはいち早くデジタルの媒体

に進出し、iPadの日本発売に合わせて『GQ

JAPAN

』、『VOGU

E JAPAN

』、『VOG

UE H

OM

MES

JAPA

N

』のiPad向け電子雑誌アプリを発表し

ました。

電子雑誌アプリを発表したからといって、紙媒

体がなくなって全てが電子雑誌にとって替わられ

るとは思っていません。これからも紙媒体は発

行していきますし、発行する以上、販売部数は伸

ばしていかなければいけないと思っています。

とはいえ、このご時世、紙だけに固執していて

は立ち行かなくなることは明らかです。それは

わかっていても、やはり電子雑誌のスタート当

初は大変でした。僕自身、デジタルに特別リテラ

シーが高かったわけではありませんし、他の編集

スタッフも同様でした。紙の編集に携わってきた

人って、紙しか知らないという人の方が実は多い。

 

だから、いきなり動くものを作るとか、コンテ

ンツに動画や音楽を追加するというのはまったく

経験がなく、ノウハウも皆無という状態でした。

でも、それをやらないと電子雑誌という媒体の

特性に合うものは作れない。ということで、僕自

身も含めて編集部全員に、紙のことばかり考え

ていちゃいけない、マルチに展開することを前提

に、コンテンツを企画しなきゃいけないという意

識改革を徹底しました。

当然のことながら、トライ&エラーもずいぶん

やりました。紙ならいいものを作る自信はあった

けれど、いざ、そのノウハウのまま電子版を作っ

ても、こんなプアなものにしかならないのかとい

うような失敗もさんざん重ねましたね。

媒体の特性にフィットした表現手法を目指して

でも、そんなトライ&エラーのおかげで、今は

アプリのあり方というものがかなり明確になって

きました。

タップでページがめくれるというのは、最初は

斬新でおもしろかったけど、すぐに慣れてしまう

し、そのインターフェースで200ページ以上

ある雑誌丸ごと1冊を読者が読んでくれるかとい

うと、そうじゃないと思うんです。実際データを

見てみても、最初の方のページが圧倒的に読まれ

ていて、後半になるほど閲覧数が減っていく。だ

とすると、ひとつのコンテンツをアプリの中で拡

張していくという発想が大事になってくると思っ

ています。

2011年2月に『G

Q Fashion

』というアプリ

を発表しました。春物のコートを特集した、本誌

では6ページの小さな記事です。それを縦に横に

スライドできるようにして、いろいろ展開し、着

こなしやコーディネイトなど、本誌以上に深い情

報を、ビジュアルとともにフォローするコンテン

ツとして

パッケージ化したものです。

本誌200ページのうちの、ほんの6ページで

すが、アプリって意外にこういうところに最適化

されているんじゃないかなと考えていて、今、こ

第 2 話 「編集者として電子媒体とどうつきあうか」 『GQ JAPAN』の編集長代理である竹内大氏のインタビュー。第 2 話ではiPadアプリやリニューアルオープンしたばかりのWebサイトについてお聞きした。紙・Web・アプリを連携させる戦略は、これからのメディアビジネスを成功させる重要なヒントになるはずだ。

© 2 0 11 T O P PA N / G A CG A i n f o . / C R E AT O R ' S F I L E v o l . 6 3 J u n . 8 , 2 0 11

vol.63 Jun.8, 2011

31 No.

竹内 大 T A K E U C H I D A I

雑誌と電子のステキな関係

Page 2: 雑誌と電子の ステキな関係...3つの媒体が、お互いにいい影響を与え合いな ていくというのが今の私の使命だと思っています。がら、全体のボリュームが大きくなるように育て

7

ういうスタイルの単発的なアプリをいろいろと開

発しています。

当初の、雑誌1冊をまるごとアプリにするとい

う方向性にもニーズはあります。でも、アプリと

いう媒体の特性に合うものを作るとしたら、こう

いうところから始めるべきなんじゃないかと、ア

プリ制作の方針をシフトしているところです。

ただ、アプリに関しては、実際にやってみなけ

ればわからないという部分も多いので、そういう

意味では、いち早く取り組んだ分、他社に比べて

アドバンテージがあると思っています。

リアルタイム性とダイナミズムがウェブの醍醐味

現在、我々のもっとも新しいチャレンジといえ

るのが、3月末に公開した『GQ

JAPAN

』のウェ

ブサイトのリニューアルです。ウェブですから無

料で、本誌の記事を数多くアップしています。

僕自身、ここ数ヶ月はこちらに注力していて、

サイト内で生まれて初めてのブログを始めたりも

しています。

ウェブとアプリの関係性についても、試行錯誤

を重ねている段階です。無料で公開しているウェ

ブと同じものを、アプリで有料にしていいのか

ということもあるし、どう棲み分けして、どう連

動させるのかということを考えていかなければい

けない。すごく大変だけど、すごくおもしろいです。

ウェブサイトのリニューアルを通じて感じたの

は、そのリアルタイム性、ダイナミズムが実に刺

激的だということですね。

iPad アプリ『GQ Fashion』(http://itunes.apple.com/jp/app/gq-japan-fashion/id419514246?mt=8)

第 2 話竹内 大no.31

© 2 0 11 T O P PA N / G A CG A i n f o . / C R E AT O R ' S F I L E v o l . 63 J u n . 8 , 2 0 11

Page 3: 雑誌と電子の ステキな関係...3つの媒体が、お互いにいい影響を与え合いな ていくというのが今の私の使命だと思っています。がら、全体のボリュームが大きくなるように育て

8

たとえば、本誌の巻末に作家の野地秩嘉さんに

連載していただいているコラムがあるのですが、

2011年5月号で小泉純一郎さんの講演会を取

り上げたコラムを書いていただいたので、そのさ

わりをウェブにアップしてみたら、ツイッターか

ら火が点いて、あっという間に1000人以上に

リツイートされたんです。ウェブには本誌で巻頭

に掲載しているコンテンツもアップしていたのに、

巻末のコラムのさわりのほうが影響力があった。

これには本当に驚きました。

ウェブでこの記事を読んでくれた人は、もとも

と『GQ

JAPAN

』を知らなかった人もたくさんい

らっしゃると思います。たまたま「小泉純一郎」

というワードに引っかかって来た人が、コラムが

掲載されたウェブサイトをぐるっと回ってみたら

おもしろがってくれて、書店で本誌を買っていた

だくきっかけになるとすれば、それはとてもいい

連携が生まれたことになります。

第1話でもお話しした高城剛さんのインタ

ビューのさわりも、アップしてみたらものすごい

反響があって、しかも、「リツイートが300以

上あったら、続きをアップします」と告知したら、

あっという間に300超えたりして。こんなふう

にリアルタイムに読者が望んでいることがわかる

のかと、もう毎日面食らっているような状態が続

いています。

こういうダイナミズムは、紙媒体ではなかなか

感じにくいことですよね。売れたかどうかとい

うのは部数でわかるけれど、この記事はこれだ

け読まれているというのが、リアルタイムに数字

で把握できるというのは、まさにウェブならでは

『GQ JAPAN』ウェブサイト(http://gqjapan.jp/)

第 2 話竹内 大no.31

© 2 0 11 T O P PA N / G A CG A i n f o . / C R E AT O R ' S F I L E v o l . 6 3 J u n . 8 , 2 0 1 0

Page 4: 雑誌と電子の ステキな関係...3つの媒体が、お互いにいい影響を与え合いな ていくというのが今の私の使命だと思っています。がら、全体のボリュームが大きくなるように育て

9

の特性だと思います。

この特性をうまくいかして、ウェブを読んでく

れた人が、おもしろそうだから雑誌も読んでみよ

うとなるように、うまく連携していけるような

ものを目指して、取り組んでいるところです。

紙・ウェブ・アプリ、3つの関係

近い将来、紙媒体の読者がデジタルに移行して、

紙媒体はなくなるのではという見方がありますが、

今、我々が実際に『GQ

JAPAN

』を紙・ウェブ・

アプリ、それぞれの媒体で発表してみて思うのは、

基本的には各媒体にそれぞれ違う読者がアクセス

しているんじゃないか、ということです。である

とすれば、ウェブやアプリの読者を増やしていく

ことが、紙の読者を増やすことにつながるのでは

ないかと。

3つの媒体が、お互いにいい影響を与え合いな

がら、全体のボリュームが大きくなるように育て

ていくというのが今の私の使命だと思っています。

そのためには、それぞれの媒体の特性に応じて、

コンテンツを最適化させる力というのがますます

重要になってくるでしょう。

先にもお話ししたように、紙に最適な表現とデ

ジタルに最適な表現は全然違うものだということ

をきちんと把握して、すべてを包括的に見られる

ようになっていかないと、今後編集者として生き

ていくのは難しいんじゃないかなと思います。

それはなかなか高いハードルで、僕自身も試行

錯誤している真っ最中ですけど、でもそのハード

ルを越えて、ひとつのコンテンツを紙・ウェブ・

アプリのそれぞれのユーザーに届くように最適化

できるようになれば、1粒で3度おいしい、すご

く理想的なマネタイズの仕方もできるはずと考え

ています。こういうことをどれだけリアルに実

感できるか。それが、これからの編集者には大事

な資質になるんじゃないかなと思います。

ビジネスマンとして、編集者として

正直に言うと、僕自身はデジタルへの抵抗感が

まったくないというわけではありません。特に

ウェブはリアルタイム性と裏腹に、永遠に作業が

続くような感じがある。

こうした方がいいんじゃないかというのは、

やってみてはじめてわかることも多く、日々、そ

こに対応していくというのは、紙をずっとやって

きた人間に言わせれば、仕事のタームががらりと

変わってしまった感じがします。

ウェブに日々記事をアップしていくということ

は、毎日入稿して毎日校了しているようなもので、

編集者としてはその緊張感が未来永劫続いていく

のはどうなんだろうという思いもあります。

でも、僕は会社から給料をいただいているビジ

ネスマンなので、やはり媒体の特性に合った表現

を達成し、それぞれをきちんとマネタイズしてい

かなければ、誰も評価はしてくれないわけです。

それにせっかく作るのならば、きちんと媒体の

特性に合わせて、多くの方に楽しんでもらえるも

のを作りたい。これは自分がおもしろいと思った

第 2 話竹内 大no.31

© 2 0 11 T O P PA N / G A CG A i n f o . / C R E AT O R ' S F I L E v o l . 6 3 J u n . 8 , 2 0 11

Page 5: 雑誌と電子の ステキな関係...3つの媒体が、お互いにいい影響を与え合いな ていくというのが今の私の使命だと思っています。がら、全体のボリュームが大きくなるように育て

interview:2011. 03

C R E ATO R ' S F I L E vol.632011年 6月8日発行

発行・企画・編集

凸版印刷株式会社情報コミュニケーション事業本部

グラフィック・アーツ・センター

〒112-8531東京都文京区水道1-3-3TEL.03-5840-4058http://biz.toppan.co.jp/gainfo

取材:原 葉子 大和泰之 野崎優彦 

撮影:堀川 勝

文:野崎優彦

編集:原 葉子 野崎優彦 

10

ことを伝えたいという編集者の本能みたいなもの

でしょうか。

今は本当に過渡期だと思います。昨年まではデ

バイスがiPadしかなかったため、市場が小さ

かったアプリも、Android

OSのスマート

フォンが登場したり、タブレットPCの本格的な

普及もささやかれはじめていて、だいぶ状況が変

わってきました。ビジネスとして大きな可能性を

感じる一方で、端末によって画面サイズや規格が

バラバラだったりと混乱気味で、とてもすべてに

は対応しきれず、正直、

勘弁してくれよと思う

ことも多々あります。

僕があと2年で定年になるというのなら、片目

をつむってデジタルの方を見ないようにして、や

り過ごすこともできるかもしれない。自分の趣

味を全開にした超ニッチなファッションばかりを

集めた雑誌をやりたいように作ってキャリアを終

えるというような生き方を選ぶかもしれない。

でも、今を生きている以上は、この状況に対し

て、自分たちがいかに進んでいくのか、他社に先

んじていろんなことができるかということにちゃ

んと向き合っていきたいと思っています。

未知の世界に乗り出しているという冒険心みた

いな部分を僕ら自身も楽しみながら、もっともっ

とおもしろい状況にしていくこと、そこに力を注

いでいきたいと考えているんです。

iPhoneアプリ『GQ MEN ESSENTIALS』(http://itunes.apple.com/jp/app/gq-men-essentials/id425343626?mt=8)

第 2 話竹内 大no.31

© 2 0 11 T O P PA N / G A CG A i n f o . / C R E AT O R ' S F I L E v o l . 6 3 J u n . 8 , 2 0 11