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はじめに
は
じ
め
に
平成三十一年一月十一日、上廣榮治
第二代会長が逝去いたしました。それからちょうど
一年後に、こうして故人が「安あ
き芸倫み
ち
雄お
」名で執筆したエッセイをまとめて、一冊の本とし
て皆様のお手元にお届けすることができるのは、息子として大いなる喜びであり、ひそか
な誇りでもあります。
ここに収められたすべてのエッセイは、月刊誌『清流』に「こころのヒント」と題して、
およそ二十五年間、一号も欠かすことなく掲載されたものです。筆者は本名を秘して、あ
たかも覆面ライターのように「安芸倫雄」のペンネームで執筆いたしました。安芸倫雄が
何者なのかということは誰にも知られていないはずでした。少なくとも本人はそう思って
いたでしょう。
ところが実際は、主題を選ぶ視点、そこから導き出された結論、そして文章の巧まざる
ユーモアなどから、慧け
いがん眼
の読者には「安芸倫雄は会長に違いない」と気づかれていたよう
です。しかし、父はそんなこととは露も知らず、楽しく執筆を重ねておりました、いや、そ
うだっただろうと、思います。
ペンネームで書くことに固執したのは、一つには、会長という公的な立場を離れて思う
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まま自由に思索し、書きたかったからでしょう。組織のリーダーとしての発言ではなく、あ
くまでも個人の思いというスタンスを取りたかったに違いありません。
そして、もう一つは『清流』という雑誌の性格によるものでしょう。『清流』は実践倫理
の教えの制約を受けずに社会に開かれた一般誌です。そこに、一般誌にふさわしくペンネ
ームながら個人名で、実践倫理に則ったものの見方を提示して、読者に訴えかけたのです。
つまり、父にとっては「こころのヒント」の執筆も実践の一つだったのだと思います。
幸い「こころのヒント」は多くの方々の支持を受け、好意をもって迎えられました。「最
初にヒントのページを開き、読み始めます」などという嬉う
れ
しい読者はがきも届きました。
「こころのヒント」はいくつかの大学の試験問題にも採用されました。それには父も大変
喜んでおりました。言うまでもなく、自分のエッセイが認められたからではなく、実践倫
理に則ったものの見方が認められたからでした。
父は、執筆にあたってはつねに「目からウロコを心がけている」と申しておりました。
もちろん、「目からウロコが落ちる」というのは聖書の言葉です。国語辞典には「あること
をきっかけとして、急にものごとの真相や本質がわかるようになること」と書かれていま
す。「こころのヒント」は、この「あること」を目指していたのです。
「人と同じ意見なら、わざわざ書く意味がない。世の中の人とは少し異なった見方をして、
3
はじめに
一つの問題に新たな視点を提供してこそ書く意味がある」とよく言っていました。しかし
それは、「言うは易く行うは難し」です。自らに高いハードルを課して、毎回それに挑戦し
ていたのです。当然、その煩は
んもん悶
もあったでしょう。
これは内輪話ですが、父からときおり、「お茶を飲みに来ないか」などと声がかかり、い
つになく雑談に興じることがありました。
ところがしばらくして気づいたのですが、その後の「こころのヒント」に話し合った内
容が微妙に反映されていたのです。話の接ぎ穂に、「おまえはこの問題についてどう考える
のか」と聞かれたのは、自分とは異なる意見を聞くことで、自分の考えを確かめ、深める
手がかりにしていたように思います。
そう考えると合点がいくことがあります。毎月決まって同じ頃、父の親しい友人や知人
が訪れてきて、応接間に籠もって何やら二人で長々と話をするのです。
あるとき、資料を届けてくれと内線電話で呼び出され、ドアを開けようとすると、ドア
の向こうから、磊ら
いらく落
な笑い声や活発な議論の声がもれてきました。その楽しげなようすに、
普段は見せない父の一面を見たような気がしたものです。
そのとき聞いた会話の断片から、あれは確かに「こころのヒント」のための討論だった
のだと確信しました。
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考えてみると、こうして人の意見に耳を傾け話し合うことは、「考える」ことの本質であ
るように思います。少なくとも考えを深めるには他者の存在が必要です。ギリシアの哲学者
は対話を通して考えました。自分の考えが行き詰まったとき、人の意見を聞いてみる。異な
る意見を聞くことで、新しい筋道が見えてくる。自分の考えも深まっていく。そのことを、
私は父の背中から学びました。
このような経緯から本書には、「こんなことを考えてきた」というサブタイトルをつけま
した。父は昭和そして平成と、自らの生きた時代と向き合いながら、このエッセイのような
思索を重ねて生き貫ぬ
いてきたのです。本書ではそれぞれのエッセイを「春・夏・秋・冬」の
四季に分けて整理しました。ページを追って読むのもよいでしょう。また、気になる問題を
どう考えるか、見出しから類似テーマを追って読み進むのもよいでしょう。
しかし、エッセイはあくまで「ヒント」であって解答ではありません。エッセイを手がか
りに自ら考えを深め、広げて、あなたの倫理実践に役立てていただければ、泉下の父もさぞ
かし喜ぶことでありましょう。
令和二年一月十一日
上廣哲治
目次
はじめに
1
春
早寝早起きをしてますか?
12
花冷えに風邪をひいていませんか?
19
子どもの成績で悩んでませんか?
26
空を見上げていますか?
33
無理をしてはいませんか?
40
想像力を働かせていますか?
47
あなたは毎日が楽しいですか?
54
子どものしつけを、してますか?
61
お宅には畳の部屋はありますか?
68
通販を利用していますか?
75
離婚を考えたことがありますか?
82
夏
『モンテ・クリスト伯』を覚えていますか?
92
子どもを溺愛してますか?
99
大震災でどんなことを考えましたか?
106
「運命」を信じていますか?
113
あなたは料理が好きですか?
120
海外旅行は好きですか?
127
自由な時間が欲しいですか?
134
好奇心をなくしていませんか?
141
「本当の自分」って、どんな自分?
148
スズメの学校の先生が振っているものは?
155
あなたにとって、八月十五日とは何ですか?
162
秋
読書を楽しんでいますか?
170
ルールに縛られていませんか?
177
山に登ったことはありますか?
184
夫婦でおしゃべりしてますか?
191
あなたはどちらを選びますか?
198
お子さんの表情は豊かですか?
205
日本の未来は暗い?
明るい?
212
「セブる」ってなんですか?
219
財布にお金をいくらまで入れますか?
226
日韓関係はどうなると思いますか?
233
冬
冬をいかがお過ごしですか?
242
あなたは別れの挨拶にどんな気持ちをこめていますか?
249
年中行事をしていますか?
256
あなたのバランス感覚は大丈夫?
263
どんなファッションが好きですか?
270
あなたはどんな道草をしましたか?
277
お正月には一年の計を立てますか?
284
イライラすることはありませんか?
291
あなたはすぐに逃げられますか?
298
今日一日、何をしますか?
305
あなたは運が良いほうですか?
312