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報告・資料 音楽心理学の動向について: 音楽知覚,音楽と感情,音楽療中心に 1) Current Trends in Music Psychology: Music Perception, Emotion in Music, and Music Therapy 野雅子 古根川円 中島祥 蓮尾絵美 2) ASANO Masako KONEGAWA Madoka NAKAJIMA Yoshitaka HASUO Emi This article aims to introduce recent studies in the field of music psychology and in related fields to students and novice researchers who may be interested in these topics. We briefly report studies on music perception, emotion in music, and music therapy, and try to explain aspects of recent findings, old and new problems, and directions for future research. 1. はじめに 音楽心理学は,専門の壁越えてくの人が興味持 つ分野であ。学の講義においても「音楽心理学」の 名掲げば分野の異な学科,学部かも熱心な聴講 者が詰めかけてくださことが珍しくない。とこが, ときに音楽心理学という分野に関して誤解や過剰な待 があことも否定できない。特にい誤解は,音楽心理 学がどのうな音楽あいは音が快適であか,あい は感動や癒し与えてくかについて,明快な解答 与えてくというものであ。しかし,このうな難 問に対して簡単に解答が与えのであば,とっく に音楽心理学の研究所がいくつもできていはずであ。 入門の敷居が高くない分野ではあが,たとえば学生が 卒業研究で音楽心理学にと組もうとすと,当然のこ となが困難に直面す。研究であ以上,過去の成果 踏まえたうえで,僅かなとも独自のもの提出しな けばなないが,日頃でい対象について新しい 考えかたに至ことは,必ずしも容ではない。また, 音楽家,音楽愛家として面白いと感ず事柄が,研究 として面白いとは限ない。このうな問題点念頭に 置き,音楽心理学という分野の新の動向整理し,新 たにこの分野にと組む方に指針与えこと試みた。 音楽心理学という分野が聴覚心理学かは独立した独 自の分野として確立したのは,Seashore (1938) がこの 分野の知見物にまとめた頃であと言っていであ う。この物には,さまざまな楽器おび声楽の演 音分析した結果が満載さてお,音楽心理学科学 の一分野として確立しうとの著者の気概が感ぜ。

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報告・資料

音楽心理学の動向について: 音楽知覚,音楽と感情,音楽療法を中心に注 1)

Current Trends in Music Psychology: Music Perception, Emotion in Music, and Music Therapy

浅野雅子 古根川円 中島祥好 蓮尾絵美注 2) ASANO Masako KONEGAWA Madoka NAKAJIMA Yoshitaka HASUO Emi

This article aims to introduce recent studies in the field

of music psychology and in related fields to students

and novice researchers who may be interested in these

topics. We briefly report studies on music perception,

emotion in music, and music therapy, and try to explain

aspects of recent findings, old and new problems, and

directions for future research.

1. はじめに

音楽心理学は,専門の壁を越えて多くの人が興味を持

つ分野である。大学の講義においても「音楽心理学」の

名を掲げれば分野の異なる学科,学部からも熱心な聴講

者が詰めかけてくださることが珍しくない。ところが,

ときに音楽心理学という分野に関して誤解や過剰な期待

があることも否定できない。特に多い誤解は,音楽心理

学がどのような音楽あるいは音が快適であるか,あるい

は感動や癒しを与えてくれるかについて,明快な解答を

与えてくれるというものである。しかし,このような難

問に対して簡単に解答が与えられるのであれば,とっく

に音楽心理学の研究所がいくつもできているはずである。

入門の敷居が高くない分野ではあるが,たとえば学生が

卒業研究で音楽心理学にとり組もうとすると,当然のこ

とながら困難に直面する。研究である以上,過去の成果

を踏まえたうえで,僅かなりとも独自のものを提出しな

ければならないが,日頃好んでいる対象について新しい

考えかたに至ることは,必ずしも容易ではない。また,

音楽家,音楽愛好家として面白いと感ずる事柄が,研究

として面白いとは限らない。このような問題点を念頭に

置き,音楽心理学という分野の最新の動向を整理し,新

たにこの分野にとり組む方に指針を与えることを試みた。

音楽心理学という分野が聴覚心理学からは独立した独

自の分野として確立したのは,Seashore (1938) がこの

分野の知見を書物にまとめた頃であると言ってよいであ

ろう。この書物には,さまざまな楽器および声楽の演奏

音を分析した結果が満載されており,音楽心理学を科学

の一分野として確立しようとの著者の気概が感ぜられる。

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心理学の歴史においては,音楽心理学が発展するには

必ずしも有利ではない状況が 1970 年代までは続いてい

た。まず,音楽心理学を基礎付けるべき聴覚研究が,心

理学の主流から少し距離をおいた状態にあり,音楽に関

してとりわけ重要と考えられるゲシタルト心理学の導入

が,充分になされていなかった。一方,音楽体験の根幹

をなす感情については,精神物理学,認知心理学の手法

や条件付けの手続きに代表されるような伝統的な実験心

理学の手法によってとり扱うことが難しいということか

ら,研究が充分に行われていなかった。

しかし,今日では状況が変わりつつあり,聴覚研究に

ゲシタルト心理学の観点をとり入れることは,流行に近

いと言ってもよいくらいに当たりまえのことになってい

る。そのような流れを代表する形で音楽の知覚,認知に

関する幅広い話題を編集した Deutsch (1999) のような

教科書も現れている。

一方,意思決定のような,心の中を抜きにしては扱え

ない事柄を科学的な心理学の研究対象とすることが珍し

いことではなくなり (Tangney ら, 2007),意識とは何か

について正面から議論がなされることも増えている (た

とえば,LeDoux, 2000)。刺激と応答との関数関係を解明

することを究極の目的とするような狭い意味での行動主

義が,心理学の範囲を不当に狭めてしまうことに多くの

研究者が気付き,音楽心理学の分野においても,感情の

ような心そのものに関わる研究対象への抵抗感が次第に

薄れてきていることが,Juslin と Sloboda (2001) の編

集した書物に明確に示されている。心,行動,脳活動の

三つを同じ現象の異なった側面であると考えることは,

これからの心理学,脳科学の基本になる可能性が高いと

思われる (Ramachandran, 2004; Peretz, 2006;

Bhattacharya と Petsche, 2005)。

音楽心理学に関して,専門外の方や学生は,そのかな

りの部分が音楽療法に関連すると思っておられることが

多い。たとえば,著者の一人は,これまでに4つの大学

で「音楽心理学」の講義をしたことがあるが,「音楽心理

学では音楽療法のようなことを習うのかと思っていた」

と感想を述べたり,自由課題のレポートに講義の内容と

関係のない音楽療法の話題を取りあげたりする学生に,

よくお目にかかった。しかし,音楽心理学の大部分は音

楽療法と直接関係を持ってはいない。

我が国における音楽療法については,次の理由でその

科学的基盤に疑問を抱かざるをえないことも多い。大学,

短大のレベルにおいて音楽療法を学ぶには,多くの場合

音楽系の学部,学科を選ぶことになる。それは,該当す

る教育課程の圧倒的多数が,音楽関係の教育組織に属し

ているためである。日本音楽療法学会が 2009 年度に認定

した音楽療法士 (補) の資格を取得しうる学校は 25 校

あり,そのうち 20 校が高等教育機関 (大学,短大) であ

る。この 20 校に設けられた音楽療法関係の専攻,課程,

コースのうち,18 は音楽関係の学部,学科,課程に含ま

れ,1つは芸術関係の学科に含まれており,残りの 1つ

が福祉関係の学部に含まれている。このような学部,学

科において,ヒトを用いた実験に精通する研究者は多く

ないので,科学的な臨床研究に不可欠である倫理審査を

行うことが難しい場合が多いであろう。したがって,統

計的分析に耐えるデータを恒常的に取って臨床評価を重

ねることは期待しにくいであろう。つまり,研究面に制

度上の弱みを有する学部,学科において,音楽療法士を

目指す学生が教育を受けていることになる。

しかし,一方では「根拠に基づいた医療」の普及に伴

い,音楽療法に関する科学的なデータが求められており,

後に記すように,研究成果も現れつつある。音楽療法の

科学的検証が行われ,効果が実証されるならば,音楽心

理学の側から見ても興味深いことであるし,音楽心理学

がそのような検証作業に貢献することも可能であろう。

特に,先に述べた音楽の知覚,認知や,音楽と感情との

関係については,大きな成果が期待される。

本稿では,以上のような動向を踏まえて,まず,音楽

におけるリズム,ピッチ,調性の知覚,認知に関する最

近の研究を紹介する。次に,音楽と感情との関わりにつ

いて,どのような研究手法が可能であるかを考察し,最

近の研究を紹介する。最後に,「根拠に基づいた音楽療法」

の現状と可能性について報告する。音楽心理学という分

野は,どこから食いついてもかまわない。一方,この分

野の専門家として認められることは難しい。本稿が,こ

のような市井に人気のある弱小分野を盛りたてる一助と

なれば幸いである。

2. 音楽の知覚と認知

音楽において基本的な要素であるリズム,音の高さ,

調性の知覚について,最近の研究をいくつか紹介する。

それぞれ幅広い研究が行われており,網羅的に説明する

ことが難しいため,ここでは関連する現象をいくつか選

んで紹介する。

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2.1. リズム知覚

リズムは音楽の最も基礎的な要素である。例えば,打

楽器の曲など,ピッチや和声が明確でない音楽は存在し

ても,リズムのない音楽は存在しない (規則的でなくて

も,音の時間軸上でのまとまりという意味でのリズムは

存在する)。リズムの知覚は,基本的に,音の始まりの時

間的な位置に対応している (例えば,Handel, 1993;

Patel, 2008; Large, 2008)。具体的には,次々に鳴らさ

れるいくつかの音の始まりから次の音の始まりまでの時

間間隔の長さを聴くことによって,我々はリズムを知覚

していると考えられる。ただし,物理的な音の始まりか

ら始まりまでの時間的距離のみによって知覚されるリズ

ムが決定されるわけではない。例えば,音の知覚的な始

まりは,音の物理的な始まりと必ずしも対応せず,音の

立ち上がり部分や,音自体の長さの影響を受ける (例え

ば,Terhardt と Schütte, 1976; Howell, 1988; Vos ら,

1995)。また,次々に鳴らされる音が三つ以上あり,複数

の時間間隔が隣接しているときには,時間間隔の知覚は

前後の時間間隔の影響を受ける (例えば,Schulze,

1989; Sasaki ら, 2002, Franěk ら, 1994)。

三つの短音が次々に鳴らされるとき,この三つの音の

始まりによって,二つの隣接する時間間隔が示される。

ここでは,最初の時間間隔を T1,続く時間間隔を T2 と

呼ぶ。T1 が T2 よりも少し短いとき,T2 の主観的な長さ

が,T2 が単独で呈示されるときよりも短くなることがあ

り,この現象は時間縮小錯覚と呼ばれる (図 1)(例えば,

Nakajima ら, 1991; Nakajima ら, 2004)。T1 より物理的

に長い T2 が主観的に短くなり,T1 の主観的な長さに近

づくので,時間縮小錯覚は同化現象の一種であるといえ

る。この錯覚は,T1 が 200 ms 以下のときに生じ,T1 と

T2 との差が 80 ms 程度のときに T2 の縮小量が最も大き

くなることが知られている。錯覚が生じやすい条件では,

T2の縮小量は50 ms程度にもなる (Nakajimaら, 2004)。

これに比べると変化量は小さいが,T1 の主観的な長さが

T2 の長さに影響されるかたちで逆方向の同化が生ずる

場合もある。例えば,T1 が T2 よりもわずかに (20 ms

程度) 長いとき,T1 の長さは T1 が単独で呈示されると

きよりも最大で 20 ms 程度短く知覚される (Miyauchi と

Nakajima, 2005)。このような,隣接する二つの時間間隔

の同化により,T1 と T2 とが物理的には等しくなくても

1:1 に知覚される「1:1 カテゴリー」が存在し,その範囲

は,-80 ms ≤ T1 – T2 ≤ 50 ms であると言われている

(Miyauchi と Nakajima, 2007)。ただし,T1 + T2 が 480 ms

を超えると,時間縮小錯覚が生じなくなるため,1:1 カ

テゴリーの範囲は変化する (Miyauchi と Nakajima,

2007)。

時間縮小錯覚が生ずる条件である 200 ms 程度の時間

間隔は,音楽の演奏においても用いられる程度の長さで

ある (Fraisse, 1982)。つまり,我々が音楽のリズムを

聴く際にも,気付かないうちに時間縮小錯覚が生じてい

る可能性がある。例えば,隣接する二つの時間間隔の長

さが 80 ms (T1) と 160 ms (T2) である場合,物理的に

は T2 の長さは T1 の 2倍であるので,「タタッタ」と二つ

目の時間間隔が一つ目より明らかに長いということにな

るが,この時間条件は時間縮小錯覚が生ずる範囲内であ

り,知覚的には「タタタ」と二つの時間間隔がほぼ等間

隔に聴こえる場合が多いと予想される。時間縮小錯覚を

含む同化現象は,音楽の知覚とも関連する不思議な現象

であるだけでなく,視覚刺激を用いたり (Arao ら,

2000) ,知覚と併せて脳の反応も調べたり (Mitsudo ら,

2009)することにより,私たちの時間情報処理の仕組みを

探るうえでも,興味深い現象である。

リズムを示す音の長さも,リズム知覚に影響を及ぼす

ことがある。リズムは基本的に,次々に鳴らされる音の

始まりのタイミングによって決定すると考えられている

が (例えば,Handel, 1993; Large, 2008),音の始まり

の時間的な位置が固定していても,音の長さが変化する

と,知覚されるリズムが変化することもある。Hasuo と

Nakajima (2007) は,二つの音によって示された一つの

時間間隔という,リズムの基礎となる最も単純なパター

ンを用いて,音の長さが 20-100 ms の範囲で変化すると

き,いずれの音であっても,音が長いほど時間間隔の主

観的な長さが長くなることを示した。時間間隔を示す二

つの音のうち,二つ目の音のみの長さを変化させても,

図 1 時間縮小錯覚。T1が T2より短く,その差

が約 80 ms以内のとき,T2の主観的な長

さは T2が単独で鳴らされたときよりも短

くなる。

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この傾向が安定して見られた。このような時間間隔の主

観的な長さの変化は,音の長さを固定して時間包絡を変

化させただけでは生じなかったことから (Hasuo ら,

2008),音の長さの変化すること自体が重要であると考え

られる。音の長さが時間間隔の知覚に影響することは,

三つの音からなるパターンを用いても確認されており

(Hasuo ら, 2009),音が長くなると時間縮小錯覚の生じ

かたが変化することも示されている (例えば,Nakajima

ら,2009)。実際の音楽の素材を用いた研究においても,

音の長さの影響は報告されている。Schubert と Fabian

(2001) は,J. S. バッハの「ゴルトベルク変奏曲」

BWV988 第 7 変奏の冒頭 2小節の付点リズムを用い,付点

パターンの鋭さ (比率の極端さ) の知覚が,音の長さに

よって変化することを示した。

このように,単純なパターンにおいては音の長さが時

間知覚に影響することが明らかであるが,用いられる刺

激や課題によっては,音の長さを変えても知覚されるリ

ズムや時間間隔の長さは変化しないとする結果も報告さ

れており (例えば,Handel, 1993; ReppとMarcus, 2009),

今後の研究を要する点である。

2.2. 音の高さの知覚

音の高さ (ピッチ) は,音の主観的性質の一つである。

音の高さには,トーンハイトとトーンクロマという二つ

の要素があると考えられており,音の高さの知覚にはこ

の二つの要素が関わっている (例えば, Ueda と Ohgushi,

1987; 大串, 2003)。トーンハイトは音の高さの直線的な

要素を,トーンクロマは,例えば,C 音から半音ずつ音

を上げていき,1オクターブ上の C音に到達したときに

最初の C音と共通するような性質が知覚されるというよ

うな,音の高さの循環的な要素を表す。音の高さの知覚

は,音の周波数と密接な関係がある。純音の場合,音の

高さは音の周波数とほぼ対応しており,周波数が高いほ

ど純音は高く聴こえる (Moore, 1989)。調波複合音の場

合,音の高さは基本周波数とほぼ対応するが,音のスペ

クトル構造も深く関わっている (例えば,Chuang と Wang,

1978)。

高さの異なる二つの音が続いて鳴らされると,上昇も

しくは下降の印象が得られる。例えば,ピアノで C4 音

と D4 音をこの順で演奏すると,音の高さが上昇したこ

とを知覚することができる。C4 音と D4 音は,それぞれ

明確な高さを持った音であるが,音の高さの動きの印象

は,ひとつひとつの音の高さが明確でない場合にも生ず

る (Burns, 1981)。このような印象は,一音だけ単独で

鳴らされたときにも生ずる音の高さの印象と区別するた

め,視覚における動きの知覚に関連付けて,動的ピッチ

と名付けられた (Nakajima ら, 1988)。ひとつひとつの

音が明確なトーンクロマをもたず,スペクトル包絡が固

定されているような場合でも,二つの音が順に鳴らされ

ると動的ピッチの印象を得ることができる (Nakajima

ら, 1988; Nakajima ら, 1991)。

Nakajima ら (1988) および Nakajima ら(1991) が動

的ピッチの実験に用いた音は,スペクトル包絡を固定し

たまま全ての成分音を同時に同じ方向にシフトさせた点

において,Shepard (1964) が用いた無限音階のパターン

と似ている。無限音階とは,スペクトル包絡を固定した

まま多数の成分音を同時に上昇あるいは下降させること

により,音の高さが上昇し続けたり,下降し続けたりす

るように聴こえる知覚現象のことである (図 2)。

Nakajima ら (1988) が用いた音のように,全ての成分

音が同時に同じ方向に動くようなパターンは,音楽にお

いても用いられることがある。近代の作曲家 (例えば,

ドビュッシー,ラヴェル,ストラヴィンスキー,バルト

ーク,プロコフィエフ) は,いくつかの声部を同時に同

じ方向へ動かすという技法をしばしば用いている。この

ように声部を動かすことにより,複数の声部が和声の進

行を表すのではなく,ひとかたまりの音となって上下へ

の動きを表すようになり,複数の声部でひとつの旋律の

図 2 Shepard (1964) が用いた無限音階パター

ンのスペクトル。成分音は1オクターブ間

隔で並んでいた。破線は,実線で示された

成分を上昇させた例を示す。このようにし

て全ての成分を上昇させてゆくと,音の高

さが無限に上昇し続けるような印象が得

られる。Shepard (1964) をもとに作成。

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動きと新たな音色とを作ることができる。このような動

的ピッチが特に効果的に用いられている例を図 3に示す。

2.3. 調性の知覚

音楽において,音の高さの異なる複数の音が用いられ

ることが多い。いくつかの音が鳴らされるとき,音の高

さの出現頻度や並び方に何らかの規則性が生まれる。こ

のとき,私たちの心の中に何かしらの予測や期待の枠組

みが作られ,次に鳴った音がそれまでの文脈に当てはま

っていないと,意外であるという印象を受ける。音楽心

理学の分野においては,このような予測や期待の枠組み

を調性と考えることができる (Krumhansl, 1990; 中島,

2004)。このような調性は,旋律の記憶にも影響している

と考えられる (奥宮と大串, 1997)。

この予測や期待は,私たちが生まれながらにして持っ

ているものなのだろうか。それとも,音楽経験によって

変化するものなのだろうか。このような疑問は,音楽に

関わる者であれば一度は抱いたことがあるのではなかろ

うか。

松永と阿部 (2009) は,異なる文化における音階でも,

音階の基幹となる音程として完全 4度あるいは完全 5度

が含まれていることに着目し,これらの音程を含むこと

が人間にとって習得しやすい条件であると考え,その可

能性を検討するための実験を行った。すなわち, 1) 完

全 4 度を含む (完全 5 度は含まない) 音階, 2) 完全 5

度を含む (完全 4度は含まない) 音階, 3) 完全 4度と

完全 5度との両方を含む音階, 4) 完全 4度と完全 5度

とをどちらも含まない音階,という 4種類の音階を作っ

た。4 種類の音階はいずれも日本人にとって馴染みのな

い音階であった。そして,各実験参加者を 4種類の音階

のうちいずれか一つに割り当て,その音階から作られた

複数の旋律を約 15 分間呈示した後で,4種類の音階それ

ぞれから作られたテスト旋律を呈示し,それぞれ最初に

聴いた旋律とどの程度よく当てはまるように感ぜられる

かの評定を求めることで,聴取者がその音階の「音階ら

しさ」をどの程度学習できるかを調べた。その結果,完

全 4度と完全 5度の両方を含む音階においては,どちら

か片方の音程のみを含む音階や,どちらの音程も含まな

い音階よりも,その音階らしさが学習されやすいことが

示された。それまでに馴染みがなかった音階でも,完全

4 度と完全 5 度を含む音階では,その音階から作られた

旋律をわずか 15 分間程度聴いただけでその音階らしさ

が学習されたことから,完全 4度と完全 5度は人間が音

階を習得する際に重要な音程であると考えられる。

菅家 (奥宮) ら (2007) は,音楽熟達者と非熟達者と

では和声処理がどのように異なるかを,事象関連電位

(ERP) を指標として調べた。すなわち,同じ旋律 (ミレ

ド) に二種類の伴奏和音 (G7 と C,または,G7 と F#m7-

5)(図 4) をつけ,伴奏和音が G7 と C のものを標準刺激

として高頻度に,G7 と F#m7-5のものを逸脱刺激として低

頻度に呈示し,逸脱刺激に対して誘発されるミスマッチ

陰性電位 (MMN) と呼ばれる成分を記録した。MMN は,聴

覚刺激の逸脱に対して,すばやく自動的に行われる前注

意的レベルでの検出を反映する成分と考えられている。

音楽群 (10~19 年の楽器演奏経験がある音楽教育専攻

学生) と一般群 (楽器演奏経験が 0~8 年間の音楽教育

専攻以外の学生) とで MMN の振幅を比較した結果,音楽

群と一般群のいずれにおいても逸脱刺激に対して MMN が

誘発されたが,音楽群のほうが一般群よりも振幅が大き

かった (図 5)。つまり,音楽群も一般群も和声の逸脱を

前注意的レベルで検出したが,音楽群のほうがより明確

に標準刺激と逸脱刺激とを区別していたことが示された。

図 3 四つの声部がひとつの旋律の動きを示すピアノ

曲の例。右手部のみを示す。この一節は,ラヴ

ェル作曲「高雅で感傷的なワルツ」の一部であ

る。括弧内の F# は,左手で奏せられる。最初

の3小節の和音は,和声的な進行をせず,全体

を通して淡い雰囲気を作りだしながら,まとま

ってひとつの旋律の動きを示している。

Nakajimaら (1988) をもとに作成。

図 4 菅家 (奥宮) ら (2007) が用いた刺激の楽

譜。 (a)は標準刺激の楽譜,(b) は逸脱刺激

の楽譜を示す。四角で囲んである部分がター

ゲット部分である。菅家 (奥宮) ら (2007)

の図の一部を改変し引用。

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その後,菅家 (奥宮) ら (2008) は,この実験で用いら

れた標準刺激と逸脱刺激のように,伴奏和音の印象が大

きく異なり,標準刺激と逸脱刺激の弁別が容易である「弁

別容易条件」に加え,標準刺激と逸脱刺激との伴奏和音

の印象が似通っている「弁別困難条件」も用いて,事象

関連電位を調べた。刺激の開始から反応までの経過時間

(潜時) に着目して結果を分析したところ,弁別困難条件

では弁別容易条件のようには潜時の短い陰性電位

(100-300 ms, MMN/ERAN) が明確にはみられず,潜時の長

い陰性電位 (≥400 ms, N5/Late Negativity) が,逸脱

刺激に対して,音楽群においてのみ記録された。長潜時

成分は認知レベルでの処理を反映する成分と考えられて

おり (Loui ら, 2005),弁別容易条件においても記録さ

れていた。この結果から,和声の学習は,長潜時処理で

“認知的に”聞き分けられるようになった後,短潜時処

理で“感覚的に”聞き分けられるようになる,という段

階を踏む可能性があると考えられる (菅家 (奥宮) ら,

2008)。菅家 (奥宮) ら (2007, 2008) の研究により,音

楽経験によって,我々の脳が行う和声の処理が異なる可

能性が示された。

2.4. まとめ

音楽知覚に関する最近の研究をいくつか紹介した。こ

こで紹介できたものは,多くの研究の中のほんの一部で

ある。それぞれの分野についてまとまった知識を得るた

めに知っておくべき研究は,古いものから新しいものま

で数多く存在する。また,リズムや旋律,和声の知覚な

どは,音楽療法に用いられることもあり (Hurt-Thaut,

2009; Daveson と Skewes, 2002),心理学以外の分野とも

関連している。

実際の音楽や楽器の音は,知覚実験で用いるには複雑

であることが多く,実験に用いる際には注意して扱う必

要があるが,ここで紹介した研究で行われたように,音

楽的素材をうまく用いることにより,これまでに様々な

音楽知覚研究が行われてきた。音楽は,我々の聴覚の仕

組みを解明するうえでも重要な研究対象でありつづける

であろう。

3. 音楽と感情

音楽や感情は,全ての人々が関心を抱く対象である。

両者ともに我々の身近にありながら,両者の関係を探る

研究は,決して順調に進んでいるわけではない。その理

由の一つは,感情を実験室で扱うことに非常な困難が伴

うことである。もう一つの理由は,音楽には拍子,リズ

ム,調性,和声,旋律,形式,様式といった楽曲の特性

が混在していることと,気分や美的体験といった聴取側

の状態が大きく音楽に対する評価を左右しうることであ

る。

「2. 音楽の知覚と認知」では,音楽を聴きながら私た

ちの心の中に作られる予測や期待の枠組みを調性と考え,

関連する研究を紹介してきた。音楽における規則性から

作られる予測や期待は,音楽を聴いたときに生ずる感情

とも関係すると言われている (SlobodaとJuslin, 2001,

Juslin, 2009; Trainor と Zatorre, 2009)。

作曲家や演奏家は,聴取者が音楽を聴きながら持つ予

測や期待を,巧みに操作するよう音楽を作り,演奏する

といわれる (例えば,Large, 2008)。例えば,機能和声

を用いて作られた曲においてドミナントの和音はトニッ

クに解決すると予測されるし,4 拍子の曲において強拍

と弱拍は周期的に繰り返されて連なっていくことが予測

される。このように予測や期待を生じさせるような文脈

の中で,作曲家は時折,聴取者の予測を裏切るような音

を用いる。こうして,それまでの音楽的文脈からの予測

が裏切られたときに,聴取者は緊張を感じ,感情的な反

応が生ずると考えられている (Meyer, 1956; Levitin,

2006)。予測の裏切りに関する操作が感情的な反応を生む

とする考えかたが科学的に実証されるようになったのは

近年になってからであるが (Steinbeis ら, 2006; Slo-

boda と Juslin, 2001; Trainor と Zatorre, 2009),この

図 5 菅家 (奥宮) ら (2007) の得た,音楽群と一

般群の,MMNのピークを中心にした 50 ms

の区間における刺激ごとの ERP振幅。エラ

ーバーは標準偏差を示す。この図における

逸脱刺激と標準刺激とに対する ERP振幅

の差が MMN振幅である。菅家 (奥宮) ら

(2007) より引用。

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考えかたは旋律や和声やリズムについて幅広く当てはま

ると考えられ (Large, 2008),後に紹介するように音楽

療法の現場においては劇的な例が示される場合もある。

3.1. 感情研究の学術的背景

感情は人間の存在に関する最も広範な概念のひとつで,

態度,パーソナリティ,意思決定,知覚など心理学的な

事 柄 の 多 く に 関 わ る も の で あ る (Barrett と

Bliss-Moreau,2009)。19 世紀に James (1884) は,感情

を生理学的な現象に結びつけて,感情を科学的に研究す

ることの必要性を指摘した。それ以来,心理学の世界で

も感情の研究が続けられているが,統一的な見解は得に

くいようである (Barrett と Bliss-Moreau,2009)。音楽

における感情についても,多くの人が興味を持っている

が,明確な見解を得ることが困難であることは,このよ

うな感情研究の背景からも想像に難くない。

音楽に関しては,Hevner (1936, 1937) が,形容詞群

を用いて,音楽における表現に適した感情表現語を,円

環状に表すことを試みた (図 6)。また,Juslin (2001) は,

演奏における感情表現の手掛かりを様々な研究について

調べ「喜び,悲しみ,怒り,恐れ,優しさ」の 5つを円

状に並べて示している (図 7)。Hevner は楽曲に関連付

けて感情の布置を示しており,一方 Juslin は,演奏の

音響特性を基本感情の布置に関連付けることが可能であ

るかどうかを検討している。このような違いがあり,時

代も半世紀以上離れているが,両者の示す布置 (図 6,

図 7) をよく見れば,(一方の図を裏返すことによって)

多少伸び縮みさせることによって重ねあわせうることが

判るであろう。

Hevner (1936, 1937) の試みは,音楽に限らず,感情

研究として先駆的なものであり,尺度構成の試みとして

も貴重である (梅本,1966)。それ以来,感情や表情を円

状に布置することが度々行われていることは興味深い。

例えば,Schlosberg (1952) は72枚の表情写真を用いて,

快-不快 (pleasant-unpleasant) と注目-拒否 (at-

tention-rejection) の 2 軸を持つ座標上に感情を配置

した。この配置は,Woodworth (1938) が分類した 6つの

感情 (「愛・楽しみ・幸福」「驚き」「恐れ・苦しみ」「嫌

悪」「軽蔑」) を,円状に配置したものともよく対応して

いた。最近の例では,Posner ら (2005) が,臨床の視点

に重みを置いて,さまざまな感情を整理して示すことを

試みた。すなわち,Juslin (2001) が 5 つの感情カテゴ

リーを並べた座標 (図 7) に似た 2 次元座標に,円環を

なす形で典型的な感情を並べている。ただし,彼らは 15

種類の感情を示しており,基本感情のような数個に限ら

れたカテゴリーを設けることに対しては懐疑的である。

ほかにも,Barrett と Bliss-Moreau (2009) が,感情を

円状に並べた例を多数紹介している。

3.2. 感情のとらえかた

多くの研究者が感情を扱っているにもかかわらず,統

一した見解が得られない理由は,立場により感情のとら

えかたが異なっているためであろう。谷口 (2002) は,

研究の立場の違いを,進化適応的観点,生理的観点,認

図 7 Juslin (2001) の整理した感情のカテゴリ

ー。Juslin (2001) をもとに作成。

図 6 Hevner (1936) の円環型尺度。実際には 66の形

容詞が分類された。曲名は,Hevnerが実験で聴取

者に呈示した曲を示す。それぞれの曲に当てはま

るとされた形容詞群を矢印で示し,特に当てはま

るとされたものを白矢印で示した。Hevner (1936,

1937) をもとに作成。

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知的観点,社会文化的観点の 4つのアプローチの違いに

対応付け,また感情を,状態,特性,機能,システムの

いずれであるかと考えるかによって,とらえかたの違い

が生ずると指摘している。

3.3. 言葉の収集による一考察

「音楽は感情を伝達できる」とする先行研究に対し

(Gabrielssonと Juslin, 1996; SenjuとOhgushi, 1987),

古根川ら (2009) は音楽で伝達できる感情が本当にある

のか,また,それはどのようなものなのかを調べるため,

感情を表わす言葉の収集を行った。音楽指導者の群と音

楽を専門にしない学生の群に音楽で表現できると考えら

れる感情を思いつくかぎり 5分間書きださせるという実

験を行った結果,「楽しい,悲しい」の出現時間と出現順

位とが早いことを見出した。さらに,音楽で表現できる

と考えられる感情と,人が普段日常生活で表現している

感情とに違いがあるのかを確かめる実験を行った結果,

音楽で表現しうる感情は,我々が日常で感じる感情とほ

ぼ同質のものであることがわかった。この実験を通じて,

音楽経験,世代の違いがあっても多くの人が共通して一

番先に挙げる感情は,「楽しい,悲しい」であることが判

った。これらの言葉は,感情研究において基本感情に分

類されており,この実験の結果からも「楽しい,悲しい」

が基本感情である可能性が高いと考えられる。音楽と感

情に関する研究において感情に対する見解は様々である

が,古根川ら (2009) は,感情を表現する言葉の出現傾

向には,個体の生存に重要な働きを持ち,人間の初期の

発達段階で現れる基本感情 (Sloboda と Juslin, 2001)

に通ずるものがあるのではないかと考えている。

3.4. まとめ

感情研究の難しさ,音楽を扱うことの難しさに触れて

きたが,人々がこの研究課題に関心を持ちつづけること

には過去も未来も変わりがないであろう。近年,心理学

以外の分野を含め,新たな観点から感情や心を扱う研究

がみられる (例えば,LeDoux, 2000; Dolan, 2002; Mayer

ら, 2008)。その中で,これまでの心理学では扱われるこ

との少なかった意識や意思決定の問題なども取り扱われ

るようになってきている (Dolan, 2002; Tangney ら,

2007; LeDoux, 2000)。それぞれの分野が独自の手法によ

り研究を深めていくことで,やがて統合された成果が得

られるのではなかろうか。

4. 音楽療法

我が国では 1995 年の全日本音楽療法連盟の創設以来,

音楽を治療の一環として用いる活動が盛んとなり,音楽

療法という言葉が一般的にも知られるようになった。し

かし,その言葉によって示される内容を問うてみると,

癒しを求める音楽聴取や,音楽を用いた運動やレクリエ

ーション,ボランティアの音楽家による演奏の聴取等々,

音楽が関係している活動というだけで狭義には療法に含

まれないであろうものも,音楽療法として認識されてい

る。しかしながら,音楽“療法”と銘打つからには,そ

の治療効果を客観的に示すことが求められるのは当然の

ことである。今回は,根拠に基づいた音楽療法の現状と

可能性について報告するため,現在の音楽療法研究の動

向を精神科領域の報告を中心に概観する。

4.1. 音楽療法とは

音楽療法について,世界各国,各団体によって様々な

定義が用いられているが,病気や障害の有無に限らず,

音楽を利用して問題を抱えた人々を援助する行為の総称

であると考えることができ,日本音楽療法学会では,「音

楽の持つ生理的,心理的,社会的働きを用いて,心身の

障害の回復,機能の維持改善,生活の質の向上,行動の

変容などに向けて,音楽を意図的,計画的に使用するこ

と」と定義している。その対象は,子供から高齢者まで

幅が広く,実践される場所も療法を目的とする医療機関

に限らず,健康増進や疾病予防,健康管理を目的とする

保健機関や福祉機関,学校などの教育機関等々,対象に

合わせて多様である。このように,対象や実践の場の幅

広さゆえ,その実践内容も多岐にわたっている。音楽を

治療的に用いようとする方法の体系は,Schwabe らが実

践の中から発展させた。すなわち,歌唱や合奏を用いる能

動的な音楽療法と,音楽鑑賞を中心とする受動的な音楽

療法とに方法を分け,さらに下位分類としてそれぞれを

集団音楽療法的方法と個人音楽療法的方法とに分けてい

る (Schwabe,1996)。近年では,下位項目がさらに細分

化され,さまざまな手法が実践の中で取り入れられてい

る (山根,2007) (図 8)。 現在,音楽療法は,精神と身

体の相互作用に働きかける補完・代替医療の一つとして

位置づけられている。補完・代替医療とは,科学的に未

検証である医療体系の総称であるが,ここ数年は医療現

場への試験的な導入が進み,医学的な根拠であるエビデ

ンスの調査・研究が行われてきている (鈴木,2004)。こ

こでは先駆的な例として Hanser と Thompson (1994) の

研究を紹介する。Hanser と Thompson は,平均 67.9 歳の

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30 名のうつ病高齢者を,音楽療法士が自宅を訪問して音

楽療法を実施する群,音楽療法士の指導を受け各自が自

ら音楽療法プログラムを行う群と,何の介入も行わない

対照群の 3群 (各 10 名) に対象を無作為に割り付け,毎

週 1回,計 8回,なじみのある元気の出そうな音楽に合

わせて体を動かすなどの個人音楽療法を施行した。その

結果,うつ症状の指標である GDS (Geriatric Depression

Scale) や気分の指標である POMS (The profile of Mood

States) などが,自宅で音楽療法を受ける群と各自が自

ら音楽療法プログラムを行う群では有意な改善が認めら

れ,9 ヵ月経過した後も効果が持続していたと報告され

ている。

4.2. 現在の音楽療法研究

音楽療法は,量的研究と質的研究の二つに分類される。

これは研究に先立って臨床活動の実践があり,その実践

の中から研究上の疑問が生まれ,研究に発展することに

由来しているようである (Bunt と Pavlicevic,2001)。

症例一人一人を丁寧に分析した症例研究を積み上げてい

く質的研究はきわめて重要であるが,広く一般に音楽療

法の効果について認知してもらうために,また,臨床に

おける実践の根拠を示すためには,量的研究が必要であ

る。

呉 (2009) は,客観的な根拠に基づく医療の基本文献

であるコクラン・ライブラリーや音楽の聴取や音楽療法

に関する医事関係の速報を調査した。これによると,2003

年に音楽療法に関する報告が初めてみられるようになり,

2009 年 9 月現在まで毎年報告がみられ,その数は増加傾

向にある。治療対象は,疼痛,悩み・不安,分娩,自閉

症スペクトラム,統合失調症,うつ病,認知症,パーキ

ンソン病,レット症候群が取りあげられている。これら

の報告には原則的にランダム化比較試験 (RCT; Ran-

domized controlled trial) を対象としたものが掲載さ

れているのだが,ほとんどの場合に,研究の質が低いこ

とが指摘されている。具体的には,対象者が少なすぎる

こと,根拠が不充分であること,臨床的意義が不明確で

あることなどが問題とされている。報告数の増加は音楽

による治療的介入に対する医療関係者の関心や認知度の

表れであると述べられているが,克服すべき問題も多い

ようである。

精神科領域における研究の一つとして,Gold ら

(2005) が統合失調症と統合失調症様疾患に対する音楽

療法の報告を調査している。この中で,ランダム化比較

試験を用いた信頼性の高い研究として,Talwar ら

(2006)注 3,Tang ら (1994),Ulrich ら (2007) 注 3,Yang

ら (1998) の 4 本の論文を抽出し,これらを検証した結

果,通常のケアに音楽療法を加えることにより,精神症

状の一つである陰性症状が軽減し,社会的能力が改善す

る場合があるが,これらの効果とセッション数の関係や

長期的効果についての研究がさらに必要であるとしてい

る。

これら 4本の論文を個々に比べると,音楽療法の内容

や方法,および,対象者の回復段階などに関連して,差

異がみられる。音楽療法セッションの回数では,Talwar

ら (2006) や Ulrich ら (2007) の報告では週に 1~1.6

回のセッションが行われていたが,Tang ら (1994) や

Yangら (1998) の報告では1週間に5回以上のセッショ

ンが行われていた。音楽療法の内容については,Talwar

ら (2006) の研究では相互即興音楽療法を個人セッショ

ンの形態で行っているが,その他 3論文では,集団音楽

療法あるいは個人音楽療法の形態の中で,歌唱活動や器

楽合奏,または音楽鑑賞が行われていた。また,対象と

した統合失調症の回復段階も様々であり,Tang ら

(1994) や Yang ら (1998) の研究では入院中の慢性期の

統合失調症を対象としているが,Talwar ら (2006) や

Ulrich ら (2007) の研究では急性期の統合失調症患者

図 8 音楽療法の方法体系。大きく受動的療法と

能動的療法に分けられ,その下位項目とし

て様々な手法が用いられている。山根

(2007) を改変して引用。

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を対象としていた。Talwar ら (2006) と Ulrich ら

(2007) が統合失調症に対して音楽療法を行った例とし

ている中には,対象疾患の内訳を見ていくと,他の疾患

が含まれていた。このように,音楽療法に関する研究成

果が現れつつあるものの,信頼性を求めるとその数は限

られていると言わざるをえない。

音楽療法の研究は始まったばかりであるが,音楽心理

学に対して貴重なデータを提供しうる例も見出される。

Durham (2002) は,交通事故によって脳損傷を被った患

者について報告している。この患者はよく喋ったが,脳

の右側が破壊されたために,身体の左側に関する動作,

認知に障害があり,さらに前頭葉の損傷のために,感情

の抑制に困難を生ずることがあった。最初の音楽療法の

セッションにおいて,この患者が鉄琴で単純なリズムを

叩くのに拍子を合わせて,音楽療法士である Durham が

ピアノを弾いたところ,患者は心地よい様子に見えた。

ところが,ピアノの拍子を僅かにずらしただけで,患者

は鉄琴の撥を置き演奏を止めてしまった。また,その後

のセッションで,Durham のチェロに伴われて患者がシン

バラ (小型の打弦ハープ) を (即興で) 演奏しているう

ちに,シンバラのある弦の音高が狂ってきたことがあっ

た。患者は,この弦を頻繁に叩くようになり,ついには

楽器を投げ捨てるように演奏を止めた。この一件は,患

者が自己の置かれた状況と向きあうきっかけになった。

このような例は,リズム,調性の知覚が,強い情動を喚

起しうることを示している。リズムの知覚が感情と結び

つく例は,古くから紹介されている。例えば,島崎 (1952)

は,先天的な発育不全のため,ことばをあやつることが

できないなど知的活動に困難があった女性が,まわりの

人とリズムを合わせて体を動かすときには,ほとんど狂

暴にちかいほどの喜悦の表情と動作を表したと紹介した。

また,それより新しい例では,Levitin (2006) が,1977

年の Sonny Rollins のコンサートで,Rollins が即興的

に一つの音を 3分半もの時間繰り返し,少しずつリズム

を変えながら演奏したとき,旋律もないたった一つの音

で作り出されたリズムの力強さで観客が興奮し,そのと

きのリズムはそれから30年近く経ってもLevitin自身の

記憶にはっきりと残っていることを記している。これら

の例も,リズムの知覚が強い情動を喚起しうることを示

している。

このような状況は,実験室において再現されうるもの

ではないが,音楽知覚と感情との関係について考えるう

えで貴重なデータを提供するものである。この点につい

ては,即興を中心とする演奏の音響的な分析を含めて考

察を進めることが有益であろう。さらに,どのような音

響的性質を持つ音楽素材がどのような感情に結びつくか

を体系的に調べるような作業も必要である。このような

作業は,大変手間がかかると考えられるが,先に挙げた

Hevner 以来の先駆的な研究があり,ポピュラー音楽に関

しては既に音楽療法まで視野に含めた研究が始まってい

る (MacDorman ら, 2007)。こうして音楽が感情に与える

影響を実証的に調べることが,音楽療法の基礎になると

考えられる (BuntとPavlicevic,2001; Bakerら, 2007)。

4.3. 「根拠に基づいた音楽療法」の可能性

根拠に基づいた研究では,音楽療法介入群 (実験群)

と対照群とを設定し,介入前は同様のグループであるこ

とを確認したうえで実験群に対して音楽療法を介入し,

その結果,この二つの群に違いが見られる (典型的には

実験群に肯定的な変化が認められ,対照群には変化が認

められない) ということを証明して初めて信頼性のある

臨床研究として認められる。この時,無作為に実験群と

対照群に割り当てられるのであるが,対照群に割り当て

られた対象には音楽療法の治療の機会が実験期間中には

与えられないという倫理的な問題が生ずることが,信頼

性の高い研究の数が限られている原因の一つとして考え

られる。しかし,音楽療法を受けることができないとい

う制限は研究期間中に限られたものであり,研究終了後

に治療の機会を提供することによってこの問題は解消で

きるのではないかと思われる。ただしこれは,その研究

の遂行に伴う一定期間の治療の剥奪が実験倫理委員会に

より,倫理的に問題がないと結論付けられた場合に限ら

れる。さらに大きな問題として,音楽療法士の身分に関

するものがある。音楽療法を行う場所にもよるが,患者

に対して研究を行う場合,その場所は殆どの例において

医療機関で実施される。臨床研究では,医師や看護師,

その他の医療従事者との協働が必要であるが,その場合,

我が国ではまだ身分の確定していない場合が多い音楽療

法士の立場で,職種間のチームの一員として医療に加わ

ることは一般的ではなく,このような実態の中では研究

の実施は不可能に近い。医師や看護師などとの協働が困

難であるだけでなく,そもそも,音楽療法の有効性を他

職種の医療従事者が感じていない場合もあるように思わ

れる。臨床研究は,他職種,特に医師の協力なしには実

施することが不可能であるから,研究を始めるにあたり,

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まず他職種からの理解を得ることが重要である。臨床現

場では,上述の Durham (2002) の例に見られるように,

他の治療的介入では変化がみられない対象に,音楽療法

の介入によって肯定的な変化が生ずることも目の当たり

にするので,地道な手段ではあるが,このような事実を

他職種にできるかぎり客観的に伝えてゆきながら音楽療

法に対する理解を得てもらうことが,この問題の解決の

糸口に繋がると考える。

4.4. まとめ

今回紹介したもののほかにも,ランダム化比較試験に

よらない研究報告 (Hayashi ら, 2002) や症例報告 (浅

野ら, 2006),その他,活動介入の違いを比較した報告

(浅野ら,2007) 等,音楽療法に関する報告は多く存在し

ている。今後も多くの報告が発表され,この分野の研究

が発展していくことを期待する。

5. むすび

以上紹介したように,少しずつではあるが,新しいも

のの考えかた,新しい研究手法に触発されて,音楽心理

学という分野は広がりを増し,古くからの問題に対して

も理解が深まっているようである。音楽の知覚,認知が,

どのような聴覚現象から発し,感情とどのように結びつ

くのか,音楽療法の現場ではそのことがどのように反映

されているのか,音楽をより適切に用いるためには,音

楽素材をどのように作成し,分類すればよいのか,とい

うことに関して,おぼろげながら体系ができあがりつつ

あるように見える。今日の実験心理学において,音楽は

知覚と感情とを関連付けるための貴重な研究材料として

も新たな意義を獲得しつつあると言えるであろう。

1) 菅家 (奥宮) 陽子氏に原稿に関する助言をいただいた。本資料の執筆

にあたり,科学技術研究費補助金基盤研究 (S) (平成 19-23年度,

19103003) の援助を受けた。

2) 全著者が同等に貢献した。著者名は五十音順に並べた。

3) Gold (2005) ではデータのみが引用されており,その後正式に出版さ

れた。

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