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国際・経済・港湾委員会海外行政視察概要 視察月日 平成29年11月6日(月)~ 11月9日(木) 4日間 視察目的 (1)ジャワハルラール・ネルー港 ジャワハルラール・ネルー港は、ムンバイ港とともにインド主要港 の 一 つ で 、ム ン バ イ 港 の 対 岸 に 位 置 し 、4 つ の コ ン テ ナ タ ー ミ ナ ル を 有 し て い る 。イ ン ド で 最 も 多 く コ ン テ ナ 貨 物 を 取 り 扱 う 港 湾 で 、平 成 28年度のコンテナ取扱個数は 450 万 個 で あ る 。横 浜 港 と の 関 係 で は 、 ネルー港に、染料等化学工業品や鋼材等を輸出し、ネルー港からは、 動 植 物 性 製 造 飼 肥 料 、化 学 薬 品 等 を 輸 入 し て い る 。横 浜 港 湾 の 機 能 強 化に向けて、視察を通じて、本市が取り組むべき施策を検討していく。 (2)ムンバイ市 1859年の開港前後から、横浜には多くのインドの方々が住み、日本 の生糸を扱うインド商社や貿易会社が設立され、インド人コミュニテ ィが形成されていた。開港以来の関係を背景として、横浜市とムンバ イ市は、 1965年に日印間で最初の姉妹都市提携を締結した。以来、友 好委員会を初めとする市民相互の連携、文化や動物の寄贈などの交流 を重ね、 2015年には、姉妹都市提携50周年を迎えた。今回の視察で は、マハデシュワール市長を表敬訪問し、姉妹都市交流等について意 見交換を行う。 (3)在ムンバイ日本国総領事館 現在の日印関係は非常に良好で、政治、経済、安全保障等の分野で 関係を深めているが、ライバルの中国と比較すると、貿易額や観光客 数等で大きな差がある。在ムンバイ日本国総領事館では、課題と成長 性の両面を考慮しながら、日印関係をさらに発展させるための方策を 模索している。 日印関係やインド市場等の状況等について説明を聴取するとともに、 本市から進出している企業等と現地ビジネスの実情等について意見交 換を行う。 (4)三菱東京UFJ銀行ムンバイ支店

国際・経済・港湾委員会海外行政視察概要 視察月日 平成29年11 … · 三菱東京UFJ銀行は、邦銀随一の海外ネットワークを有し、企業

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国際・経済・港湾委員会海外行政視察概要

1 視察月日 平成29年11月6日(月)~

11月9日(木) 4日間

2 視察目的

(1)ジャワハルラール・ネルー港

ジャワハルラール・ネルー港は、ムンバイ港とともにインド主要港

の一つで、ムンバイ港の対岸に位置し、4つのコンテナターミナルを

有している。インドで最も多くコンテナ貨物を取り扱う港湾で、平成

28年度のコンテナ取扱個数は 4 5 0万個である。横浜港との関係では、

ネルー港に、染料等化学工業品や鋼材等を輸出し、ネルー港からは、

動植物性製造飼肥料、化学薬品等を輸入している。横浜港湾の機能強

化に向けて、視察を通じて、本市が取り組むべき施策を検討していく。

(2)ムンバイ市

1859年の開港前後から、横浜には多くのインドの方々が住み、日本

の生糸を扱うインド商社や貿易会社が設立され、インド人コミュニテ

ィが形成されていた。開港以来の関係を背景として、横浜市とムンバ

イ市は、 1965年に日印間で最初の姉妹都市提携を締結した。以来、友

好委員会を初めとする市民相互の連携、文化や動物の寄贈などの交流

を重ね、 2015年には、姉妹都市提携50周年を迎えた。今回の視察で

は、マハデシュワール市長を表敬訪問し、姉妹都市交流等について意

見交換を行う。

(3)在ムンバイ日本国総領事館

現在の日印関係は非常に良好で、政治、経済、安全保障等の分野で

関係を深めているが、ライバルの中国と比較すると、貿易額や観光客

数等で大きな差がある。在ムンバイ日本国総領事館では、課題と成長

性の両面を考慮しながら、日印関係をさらに発展させるための方策を

模索している。

日印関係やインド市場等の状況等について説明を聴取するとともに、

本市から進出している企業等と現地ビジネスの実情等について意見交

換を行う。

(4)三菱東京UFJ銀行ムンバイ支店

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ムンバイ市は、在インド日系企業の2割弱が立地する、インドの金

融・商業の中心地であり、商業、運輸、消費財など多くの業種が進出

している。

三菱東京UFJ銀行は、邦銀随一の海外ネットワークを有し、企業

の海外展開に際し、各種手続や販路拡大、資金面での支援等を行って

おり、横浜市ムンバイ事務所の開設に当たっても協力をいただいてい

る。こうした経緯から、 2016年に、地域の活性化を目指していくこと

を目的として、海外事業に関する包括連携協定を締結した。今回、ム

ンバイ支店を訪問し、市内企業の海外事業活動の推進に向けた意見交

換等を行う。

(5)独立行政法人日本貿易振興機構ムンバイ事務所(JETRO)

独立行政法人日本貿易振興機構ムンバイ事務所では、日系企業が直

面する土地確保問題を解決するため、仲介役となり、州政府に専用工

業団地を設けるよう働きかけを行い、物価や賃金の上昇率を見込んだ

投資計画構築の助言等の活動を行っている。現地でのビジネスの実情

等をヒアリングするとともに、市内企業がインドに進出することにつ

いて意見交換を行う。

(6)ムンバイ日本人学校

ムンバイ日本人学校は、 1971年にムンバイ北西部のワーリーに設立

され、 2011年にアンデリーに移転、 2016年にはムンバイ北東部のポワ

イに校舎を移転し、現在に至っている。学校には、ムンバイ在住の小

学1年生から中学3年生までの28名の児童・生徒が通学し( 2017年

4月現在)、現在の学校長は、横浜市から派遣され今年4月より赴任

している。

日本人学校は、日本から進出する企業で働く日本人家族にとって、

医療機関等と同様に重要なインフラ整備の一つであり、現状を視察し、

今後の展望等について意見交換を行う。

(7)横浜市ムンバイ事務所

横浜市ムンバイ事務所は、成長著しいインド経済を取り込み、市内

企業の一層の活性化を図るためにインドとの経済交流の促進、ムンバ

イ市を初めインド各都市との都市間交流等を目的として、 2015年11

月に開所された。インド全域を活動対象とする自治体の事務所設置は、

日本初となる。

本市職員1名、現地採用職員1名の2名体制で、市内企業のインド

及び東南アジア地域での事業活動の促進に関する調整や、現地企業等

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の横浜市への誘致に関する支援のほか、さまざまな分野において本市

のプロモーション活動を行っている。事務所の活動について、現状を

視察、意見交換をすることで、本市が取り組むべき施策等を検討して

いく。

(8)JFEエンジニアリング

インドでは、貨物輸送量が年率約15%と伸びる一方で、鉄道によ

る貨物輸送能力の拡大が課題となっている。こうした中、日本とイン

ドの両政府は、共同して、「デリー・ムンバイ間産業大動脈構想」を

実施することに合意した。日本企業を初めとする対印直接投資やイン

ドの輸出を促進するため、デリー・ムンバイ間の6州の工業団地や港

湾を貨物専用鉄道・道路で結び付け、インド最大の産業ベルト地帯を

つくる総合地域開発構想である。JFEエンジニアリングは、この構

想の根幹となる橋梁の建設工事を受注するなど、インドにおいて着実

に実績を上げており、現地でのビジネスの実情等をヒアリングすると

ともに、市内企業がインドに進出することについて意見交換を行う。

(9)NYK Line India

NYK Line Indiaは、 1992年に設立された日本郵船株

式会社 1 0 0%出資の現地法人である。

日本郵船株式会社は、1885年に創立され、一般貨物輸送事業、不定

期専用船事業、客船事業等のその他事業を行い、国際的にはNYKと

して知られている。

経済成長が見込まれるインドの最新物流事情をヒアリングし、今後

の横浜港湾の機能強化につなげるための意見交換を行う。

3 視察先及び項目

(1)ジャワハルラール・ネルー港

ジャワハルラール・ネルー港の港湾設備等について

(2)ムンバイ市

ムンバイ市との姉妹都市交流等について

(3)在ムンバイ日本国総領事館

マハラシュトラ州及びムンバイ市の一般事情等について

(4)三菱東京UFJ銀行ムンバイ支店

インド経済の現状及びビジネス環境等について

(5)独立行政法人日本貿易振興機構ムンバイ事務所(JETRO)

インド経済の現状及びビジネス環境等について

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(6)ムンバイ日本人学校

ムンバイ日本人学校の学校事業の展望等について

(7)横浜市ムンバイ事務所

横浜市ムンバイ事務所による本市のプロモーション活動等について

(8)JFEエンジニアリング

現地におけるビジネスの実情等について

(9)NYK Line India

NYK Line Indiaの総合物流事業の展開等について

4 視察委員

委 員 長 渡 邊 忠 則

副 委 員 長 輿 石 且 子

同 麓 理 恵

委 員 田野井 一 雄

同 横 山 正 人

同 酒 井 亮 介

同 加 納 重 雄

同 太 田 正 孝

5 視察概要 次頁以降のとおり

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○ 視察概要

1 ジャワハルラール・ネルー港

(1)視察月日

11月7日(火)

(2)対応者

課長 (受け入れ挨拶及び説明)

(3)視察内容

ジャワハルラール・ネルー港の港湾設備等について

ア ジャワハルラール・ネルー港の概要

ネルー港は、ムンバイ西部マハラシュトラ州にあるインド最大の

コンテナ港である。 2016年の取扱貨物量は 4 5 0万TEUで、インド

主要港の 53.2%を占めている。対岸に位置するムンバイ港の交通渋

滞や規模の大きいコンテナ港整備の必要性により、 1989年から供用

が開始され、4つのコンテナターミナルと1つの液体貨物バースを

有している。

中央政府傘下の港湾会社である、ジャワハルラール・ネルー・ポ

ート・トラスト(JNPT)が管理運営を行っている。同社は、イ

ンド・ステイト銀行及びシンガポール開発銀行から4億ドルの資金

融資を受ける協定に署名し、年間取扱貨物量を現在の2倍に当たる

9 8 5万TEUに拡大するため、融資金をインフラ整備の改善に充当

する方針を持っている。

横浜港とのかかわりでは、ネルー港は、動植物性製造飼肥料や化

学製品、自動車部品などを輸出し、染料等の化学工業品や鋼材、産

業機械などを輸入している。なお、横浜港におけるインド向けのコ

ンテナ個数の44%、インド出しコンテナ個数の34%をネルー港

が占めている。

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(ジャワハルラール・ネルー港周辺のコンテナ船を海上から視察)

(ジャワハルラール・ネルー港について説明聴取)

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2 ムンバイ市

(1)視察月日

11月7日(火)

(2)対応者

マハデシュワール・ムンバイ市長 (受け入れ挨拶、意見交換)

(3)視察内容

ムンバイ市との姉妹都市交流等について

ア ムンバイ市と横浜市の交流の歴史

横浜市には、戦前から多くのインド商社がありインド出身者も多

かったことから姉妹都市提携の要請があり、 1965年に当時のボンベ

イ(ムンバイ)市長からも提携要請の親書を受け、両市は6月26

日に姉妹都市提携を締結した。以来、両市の市長や代表団による相

互訪問、友好委員会を初めとする市民相互の連携、文化や動物の寄

贈などの交流を重ね、2015年には、姉妹都市提携50周年を迎えた。

イ マハデシュワール・ムンバイ市長の経歴

1960年4月15日生まれの57歳である( 2017年11月時点)。

教員出身で、中学校の校長等を歴任し、 2002年にムンバイ市議会議

員に初当選した。教育委員会の委員長や常任委員会の委員を経て、

2017年3月にムンバイ市長に就任した。

なお、ムンバイ市長は公選ではなく、市議会の互選により選出さ

れており、その市議会は 2 2 1選挙区から選ばれた議員で構成されて

いる。

ウ 市長との意見交換

各委員から、ムンバイ市における課題や横浜市に期待することな

どについての質問を行い、市長は、仕事を求めて市外の村から多く

の労働者が市内に流入することによって人口が増加することが課題

であり、横浜市には下水処理を初めとする技術協力を期待すると答

えた。また、委員長から、 2015年に設立した横浜市ムンバイ事務所

を訪問していただくとともに、さらなる交流促進等に活用いただき

たいとお伝えした。

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(ムンバイ市長公舎にて意見交換)

(ムンバイ市長公舎の中庭にて)

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3 在ムンバイ日本国総領事館

(1)視察月日

11月7日(火)

(2)対応者

総領事 (受け入れ挨拶及び説明)

(3)視察内容

マハラシュトラ州及びムンバイ市の一般事情等について

ア 二国間関係

日本とインドは、 2006年に戦略的グローバル・パートナーシップ

を締結し、政治、防衛、安全保障における協力関係の構築を図ると

ともに、アメリカとオーストラリアを加えた4カ国の安全保障協力

体制を築き、海上共同訓練等を実施している。

経済面では、さらなる貿易や投資の拡大を目指して、 2011年に包

括的経済連携協定を締結し、往復貿易額の約94%について協定発

効後10年間で関税撤廃することを掲げている。また、日本のイン

ドに対する直接投資を 3 . 5兆円に倍増させることや、日系企業数に

ついても倍増させることを 2014 年に合意している。

日本は、 2016年度に、 3713億円のODAを行っており、ムンバイ

市を含むマハラシュトラ州では、港を横断する道路建設や高速鉄道

事業などに投入されている。

しかし、貿易額では中国と比較して約30倍の差があることや、

観光者数についても両国には大きな差があり、在日留学生、日本語

学習者、自治体交流も同様で、課題としてあげられる。

イ インド市場の潜在性と課題

約 14.7億人の人口を抱え、 2030年には中国を抜いて世界一になる

ことが予想されている。人口構成も25歳以下が50%、35歳以

下が65%と若く、経済も毎年7%台の成長を維持しており、2030年

代には中間所得層が人口の50%を占めることが見込まれている。

その一方、現地におけるビジネス環境をみると、政権交代による

政策変更等でこれまでと投資環境が大きく変わることや、日系企業

対象の工業団地における水や電力の整備等が不十分であることなど

が課題である。

ウ 今後の自治体協力

横浜市とムンバイ市、和歌山県とマハラシュトラ州の姉妹都市関

係のような多層的な関係強化を初め、漁業や果実・野菜分野での食

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品加工技術協力、また、公害対策や環境分野での技術協力、観光分

野や芸能分野においても協力関係を構築することが求められる。

エ マハラシュトラ州の概要

面積は30万 7713平方キロメートル、人口は約1億 1237万人で、

一つの州で日本とほぼ同じ面積と人口を誇る。州の公用語はマラー

ティー語が使われており、州都はムンバイで、人口は約 1248万人で

ある。宗教は、ヒンドゥー教が約8割を占めている。

イギリスの統治時代はボンベイ管区として統治下に入り、独立後

の 1960年に言語に基づく州再編により、マラーティー語圏を中心と

するマハラシュトラ州と、グジャラティー語圏を中心とするグジャ

ラート州に分割され現在に至っている。

(在ムンバイ日本国総領事館にて説明聴取)

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(在ムンバイ日本国総領事館にて意見交換)

(在ムンバイ日本国総領事館にて)

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4 三菱東京UFJ銀行ムンバイ支店

(1)視察月日

11月7日(火)

(2)対応者

支店長 (受け入れ挨拶及び説明)

(3)視察内容

インド経済の現状及びビジネス環境等について

ア 三菱東京UFJ銀行のインド拠点ネットワーク

三菱東京UFJ銀行のインド進出の歴史は、 1953年のムンバイ支

店開設に始まり、その後も、ニューデリー支店( 1963年)、チェナ

イ支店( 1996年)、ニムラナ出張所( 2012年)、バンガロール支店

( 2014年)を開設し、現在は5拠点体制でニーズ対応を行っている。

イ インドの政治経済状況

インドにおける就業構造を見ると、農業49%、製造業20%、

サービス業31%で、インド人の約5割が農業に従事している。一

方で、製造業に従事する人の割合は低く産業発展の面で大きくおく

れをとっている。

2014年 5 月 に 誕 生 し た イ ン ド 人 民 党 の モ デ ィ 政 権 に お い て 、 政

治・経済政策は着実に進展しており、課題である製造業の強化によ

って、雇用も創出されている。高速鉄道プロジェクトやデリー・ム

ンバイ産業回廊の進展等のインフラ整備にも積極的に取り組んでい

る。 2016年5月に、インド企業の倒産処理の円滑かつ迅速な倒産処

理法制を整備する倒産法を成立させたことで、外国企業にとっても

インド企業に対する債権保有のリスク低下が期待されている。

また、同年11月に、 1000ルピー及び 5 0 0ルピーの高額紙幣廃止

政策をとり、さまざまな不正につながる現金依存経済からキャッシ

ュレス経済への転換を図っているほか、州ごとに異なる間接税や州

境をまたぐ取引に対して発生する中央販売税の還付を受けられずに、

その実質コストがビジネスの阻害要因となっていたため、2017 年7

月に、統一Goods and Services Tax(GS

T)を施行し、国内の物流活性化につなげている。

これらの政策に対する市場の評価は高く、近年、ルピー相場は安

定し、株高を具現化するとともに、インフレ率も低位で安定してい

る。

ウ 主要な経済政策

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2016年11月に実施された高額紙幣廃止政策は、それまでの 1000

ルピー及び 500 ルピーを廃止し新たな紙幣を発行するもので、国民

は銀行で旧紙幣から新紙幣への切りかえが必要となり、自宅に大量

に保管されていた紙幣が銀行に預けられ銀行預金が増加した。これ

に伴い借入金利が低下し、非現金のデジタル決済方法も普及し、決

済の透明性が向上した。切りかえによって二輪自動車等の消費が一

時的に冷え込むこともあったが、すでに切りかえ前の水準に回復し

ている。

また、2017 年7月施行のGSTについては、従来の連邦政府と州

政府がそれぞれ間接税を徴収する体制からGSTに一本化されたこ

とにより、税制が大幅に簡素化したほか、ビジネスの高い障壁とな

っていた州による徴税権が制限され、州をまたぐ物品の移動が活発

化することが期待されている。

エ 経済政策による効果

民間消費と政府支出が牽引し、実質GDP成長率は7%前後の水

準を維持しており、世界で最も高い水準である。一方で、成長率自

体の伸びは近年鈍化しており、景気の先行指標である鉱工業生産指

数も低下しているため、財政収支及び貿易収支の動向に注視が必要

な状況である。

オ 日系企業の進出

良好な二国間の関係を背景に、インドに進出する日系企業数は、

右肩上がりに増加しており、インド全体で 2011年に 8 1 2社だった企

業数は、 2016年には 1305社までふえている。産業別に見ると、製造

業が最も多く 50.3%で、卸売小売業( 18.6%)、サービス業( 17.5%)、

その他( 13.6%)の順になっている。ムンバイ周辺についても、2 4 7

(企業だけでなく支店や工場等の拠点を含む)から 1009(同)に増

加しており、金融業、化学製品、医薬品などが中心である。ただ、

アジアの他国と比較すると、企業数並びに産業の広がりという観点

で進出の余地はまだ十分にある。また、両国の政府間関係も良好で、

一層の投資機会が期待されている。

カ 自動車関連マーケットの動向

自動車関連のマーケットの動向については、インド国内で生産・

販売・輸出台数が順調に増加しており、日系メーカーのシェアが高

い。

現在、政府が、車両に対する衝突安全性試験導入等の安全規制と、

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排ガス規制を強化しているが、インド国内の製造技術でこれらに対

応することが困難で、最先端レベルの技術を持つ日系企業等の外国

企業には投資機会拡大につなげられる可能性がある。

キ ボリュームゾーンへの注力と輸出拠点のインドの位置づけ

インドの消費水準は、ASEANや中国と比べて低く、これまで

は高所得層のみが輸入品や外資製品を購入していた。今後は、消費

水準の上昇を見据えて、中間所得層や低所得層のボリュームゾーン

向けの製品開発や生産体制の構築が求められる。そのビジネスモデ

ルをインドで確立することができれば、その後、中東やアフリカ市

場への展開に活用することができる。

ク 質疑概要

Q 横浜市はアフリカとのつながりがあり、インドでの製品開発や

生産体制をアフリカ市場に展開することも可能と考えているが、

現時点でモデルケースはあるのか。

A 医薬品産業で、インドで生産し中東やアフリカに輸出している

企業がある。また、ファイナンス関連でも、南アジアからアフリ

カまでをカバーする仕組みを持つ企業があるが、まだ少数であり、

まずはインド国内の拠点を整備することに注力している企業が大

半である。

Q 製造業を強化するためにはどうすべきと考えられるか。また、

横浜市ムンバイ事務所が協力するためにどのような方法がとれる

か。

A 製造業については、多くの企業が内販から入っており、製造や

販売の拠点を持っていない企業が多い。サプライチェーンを形成

していくことが重要である。そのような状況であるため、横浜市

ムンバイ事務所は、まず情報収集を中心に行い、各分野でパート

ナーとなりうる企業が出てくるのを注視する必要がある。

Q インドは、購買意欲のある若い国であると思うが、そのことが

日系企業の進出につながっていると思うか。つながっていないの

ならば何が問題なのか。また、日印関係が良好であることが日系

企業の進出にどのように作用しているのか。

A 確かに若者も多いが高齢化も進行している。高齢化率が 2020年

に7%、 2050年には28%に達することが見込まれている。高齢

化が進む日本の医療や介護分野の技術・サービスを、輸出・提供

することができると考えている。また、現在の日印関係は良好で

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あるが、60年近い両国の歴史の中でかなり特殊な状況ともいえ

る。今後、状況が変わる可能性もあると長期的な視点を持ち、将

来、進出や投資を考えているのであれば、現在のうちに、許認可

については先に取ることを勧めている。

(三菱東京UFJ銀行ムンバイ支店にて説明聴取①)

(三菱東京UFJ銀行ムンバイ支店にて説明聴取②)

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5 独立行政法人日本貿易振興機構ムンバイ事務所(JETRO)

(1)視察月日

11月7日(火)

(2)対応者

所長 (受け入れ挨拶及び説明)

(3)視察内容

インド経済の現状及びビジネス環境等について

ア マハラシュトラ州の投資環境

現在、マハラシュトラ州には、日系企業が 2 0 5社・ 7 0 9拠点進出

しており、その多くが、ムンバイやプネを拠点としている。主に、

金融、保険、卸・小売、自動車、金属製品製造、金属加工等の業種

が進出しており、特にプネは、日系企業の部品・素材等メーカーの

生産拠点となっている。

日系企業の進出に当たって、障害となる未登記の土地購入等によ

るトラブルを回避するため、JETROは、マハラシュトラ州政府

と協定を締結し、日系企業専用の工業団地の形成に取り組んでいる。

現在、プネの工業団地は、州政府が土地の99%を取得し、今後、

営業・販売を行う予定である。このようにJETROが形成する工

業団地は州内に4カ所ある。また、工業団地には、州政府から土地

価格の大幅な引き下げ、免税、付加価値税の返還等のインセンティ

ブがあり、日系企業が進出しやすい環境が整備されている。JET

ROはその仲介役となり、州政府が各企業の投資計画に合わせたイ

ンセンティブをつけられるようにサポートを行っている。

イ 進出日系企業の現状

2016年10月時点で、インドへの進出日系企業は、 1305社・ 4590

拠点で、その数は年々増加している。進出形態は、独資及び合弁の

現地法人社が合わせて 1116社・ 85.5%を占めている。活動形態は、

事務所のみが 2134拠点・ 46.5%、販売店のみが 1333拠点・ 29.0%、

事務所兼工場が 6 2 4拠点・ 13.6%、工場のみ 1 6 8拠点・ 3 . 7%とな

っている。

今後の事業展開の方向性については、進出日系企業の約7割が、

今後1年から2年でインドでの事業を拡大すると回答しており、ま

た、縮小すると回答した企業の割合は、他のアジア諸国と比較して

低くなっており、インドへの関心の高さをあらわしている。

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売上高に見る輸出比率では、日系企業の半数は内販型で、また、

半数が輸出比率0%となっている。日本の自動車メーカーが、東南

アジアに進出した 1960年代から 1970年代は、進出先での販売台数の

伸びがそのまま自動車メーカーの台数の伸びとなる時代で、競争相

手も少なかったが、現在のインドは、国内企業に加えて既に多くの

国の企業が進出し、品質とコストの競争が激しいため、東南アジア

における戦略をそのまま持ち込むと失敗してしまう環境にある。

輸出比率別の営業利益見込みでは、内販を中心とする企業の黒字

化率は5割にとどまるが、輸出型企業の黒字化は6割を超えている。

ウ 進出日系企業の課題

原材料や部品の現地調達先の内訳を見ると、インドの地場企業か

ら7割強を調達しており、進出日系企業からの調達は2割弱にとど

まる。また、今後も現地調達率を引き上げるとした企業が9割に迫

り、その中で地場企業からの調達が重要とした企業は9割を超えて

いた。これは調査を行った対象国の中でも最高水準である。

インド投資におけるメリットとリスクだが、メリットの上位は市

場規模や成長性、人件費の安さで、リスクの上位は、従業員の賃金

上昇、競合相手の台頭である。人件費は、両面で挙げられているが、

特にリスクとして、物価以上に上昇することを前提に、投資計画を

立てなければならない。

販売や営業面での問題点としては、主要取り引き先からの値下げ

要請や競合相手とのコスト競争が、また、雇用や労働面では、従業

員の賃金上昇や従業員の質が高い割合を占めている。

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(JETROから説明聴取)

(ムンバイ支店長及びJETRO所長と集合写真)

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6 ムンバイ日本人学校

(1)視察月日

11月8日(水)

(2)対応者

校長 (受け入れ挨拶及び説明)

(3)視察内容

ムンバイ日本人学校の学校事業の展望等について

ア ムンバイ日本人学校の概要

ムン バ イ 日 本 人 学 校は 、 1966年 に設 立 さ れ、 当 時 は マ ヘ シ ュ ワ

ル・ニケタン校舎であった。その後、2回の移転を経て 2016 年にポ

ワイ校舎に移転し、現在に至っている。平成29年9月1日現在、

小中合わせて29名の生徒が通学しており、常勤の教職員は、文部

科学省から派遣されているが、学校運営の母体はムンバイ日本人会

である。インターナショナルスクールと異なるのは、日本人学校で

教育を受け卒業すると、日本の学校で教育を受け卒業したのと同等

の扱いとなる点である。

学校の教育目標を、「生きる力を身に付け、国際性豊かな児童・

生徒の育成」としており、平成29年度は、学校経営に当たって、

教育内容の充実、教職員体制の充実、安全に配慮した学校環境整備

及び警備体制の強化の3つの重点ポイントを掲げている。

教育内容の充実では、言語能力の確実な育成や、運動する場の安

全性の向上を図り、縄跳びやマット運動など運動量を多く確保でき

る運動の選択を行うこと等を、教職員体制の充実では、教科担任制

と少人数指導を生かした指導体制や、授業時数の見直しと実施可能

時数の洗い出しによる各活動レベルの維持向上等を、安全に配慮し

た学校環境整備及び警備体制の強化では、円滑なバス運営と、玄関

ダブルドアなど校舎の警備体制強化等を、具体的な取り組みとして

挙げている。

学校経営の狙いを、インドを理解し、世界と日本を意識し、持続

可能な世界に寄与する人材の育成とし、また、児童生徒の学力向上

のためのきめ細やかな指導の実践として、児童生徒の実態把握に努

め、理解できるまで一人一人へのきめ細やかな指導を行うことや、

一人一人に寄り添った指導を行い、評価し、それをもとに、スパイ

ラルな指導を行うとしている。

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今後の課題は、児童生徒の運動不足の解消と、児童生徒数の確保

である。前者は、学校施設を、児童生徒やムンバイ在住の日本人に

開放し、スポーツや交流場として活用する文化スポーツクラブの開

設等により、後者は、幼稚園との連携、学校通信やホームページ等

での学校紹介等により解決を図るとしている。

イ 学校施設・授業風景の視察

説明後、教室やホールで、小学校1・2年生の英会話、3・4年

生の社会、5・6年生の音楽、中学1年生の理科、3年生の英語の

授業の様子を見学した。

ウ 質疑概要

Q 日本人学校の運営主体についてお聞きしたい。

A 日本人学校は、日本人会等が主体となり設立され、その運営に

ついては、日本人会等や進出企業の代表者、保護者の代表者等か

らなる学校運営員会によって行われている。

Q 教科担任制と少人数指導を採用されているが、教員数は足りて

いるのか。

A 海外の日本人学校の教員定数についても、日本国内の教員定数

に準じていなければいけないが、現状は7割にとどまっている。

不足分については、2学年を同時に1名の教員が指導するなどさ

まざまな工夫をして対応している。

Q 保護者負担はどの程度か。

A 入学金が20万ルピー、月謝は今年度については7万 5000ルピ

ーである。

Q 日本人学校は、保護者が動かなければ設立できないということ

になるのか。

A 日本人会や保護者等の力が必要だが、ムンバイの日本人会の方

たちは、自分の子供が日本人学校に通っていなくても協力してく

れている。

Q インド国内で日本人学校があるのはどこか。

A ニューデリーとムンバイにある。

Q 教員の給与はどこから支給されているのか。

A 日本から派遣される教員については文部科学省から支給される。

現地の採用教員については各学校から支給される。

Q 体育の授業はどこで行っているのか。

A 校内の体育館で行っているが、それだけではカリキュラムの時

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間数を満たせないため、学校から長時間離れた施設に通ったり、

近隣の学校の施設を借りて行っている。

Q 学校の扉を防弾化するとあるが、治安が悪いのか。

A ポワイの治安は非常に良いが、インドでもテロが発生しており

その危険性を考慮する必要があることと、外務省からも平成29

年度中に全ての日本人学校に設備強化を行うよう通知が来ている。

(ムンバイ日本人学校にて説明聴取①)

(ムンバイ日本人学校にて説明聴取②)

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(ムンバイ日本人学校にて)

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7 横浜市ムンバイ事務所

(1)視察月日

11月8日(水)

(2)対応者

所長 (受け入れ挨拶及び説明)

(3)視察内容

横浜市ムンバイ事務所による本市のプロモーション活動等について

ア 横浜市ムンバイ事務所の概要

横浜市ムンバイ事務所は、成長著しいインド経済を取り込み、市

内企業の一層の活性化を図るためにインドとの経済交流の促進、ム

ンバイ市を初めインド各都市との都市間交流等を目的として、 2015

年11月に開所された。勤務体制は、本市職員1名、現地採用職員

1名の2名体制である。

イ 主な活動

ムンバイ事務所は、自治体事務所として、横浜とインド双方の進

出のサポート、日系企業とJETROやJICAなどインド進出を

支援する各種団体等との橋渡し、州政府やムンバイ市、総領事館、

大使館を通じたインド政府との関係構築、文化交流や観光交流等に

よる横浜のプロモーション、将来を担う双方の若者の交流支援等を

行っている。

平成29年度は、在インド日系関係団体及び企業とのネットワー

キング、マハラシュトラ州の政府幹部候補職員の研修受け入れ、同

州政府開発公社幹部等の横浜市内及び本市企業視察のサポート、バ

ンコク開催のサブコンタイランドでの市内企業出展に関するサポー

ト、プネ市在住のインド企業による横浜市内の企業視察のサポート、

学生交流強化のための関連団体とのネットワーキング、CLAIR

シンガポール主催の駐在員等会議への出席、各自治体事務所活動に

関する情報収集、インドビジネス大学院学生の市内企業視察の受け

入れ調整、インド人ビジネスコンサルタントとの企業進出に関する

各種調整、観光セミナーブース出展準備、ムンバイ事務所主催の経

済セミナーの開催準備などを行っている。

事務所の設立から3年が経過し、現地で活動する日系企業やJE

TRO、JICA等の各種団体、領事館や総領事館等とはネットワ

ークを構築できつつある。今後は、インド人企業や29ある州政府

などインド人社会とネットワークを広げる活動を行っていきたいと

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考えている。

インドに対しては、大きな可能性を感じる一方で、課題や困難も

あるため、進出を躊躇する日系企業等の不安を取り除き、双方が手

をつなぐことのできるように、ムンバイ事務所はそのサポートをし

ていきたい。

(横浜市ムンバイ事務所にて)

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8 JFEエンジニアリングインド

(1)視察月日

11月8日(水)

(2)対応者

社長 (受け入れ挨拶及び説明)

(3)視察内容

現地におけるビジネスの実情等について

ア JFEエンジニアリングの概要

JFEエンジニアリングは、売上高 4300億円、従業員数 9200人を

誇り、関連会社に造船会社のジャパンマリンユナイテッドがある。

事業内容は、主にインフラストラクチャーであり、そのほかに環境

やエネルギー、鋼構造の事業も行っており、横浜市とのつながりも

ある。

グローバルネットワークは、直近の10年間で拡大しており、イ

ンドにおいては、設立当初ムンバイに本社があったが、 2014年にプ

ネにエンジニアリングセンター(PEC)を開設した。インドでも、

鋼構造、環境プラント、エネルギーなどの事業を展開している。P

ECでは、主に都市のごみ発電や廃熱回収の設計サービス、また、

独自事業でセメントやエンジン、タービンの排熱回収等を行ってい

る。

イ インド貨物鉄道橋梁3ARプロジェクト

デリーとムンバイ間の物流を効率化させるために、貨物鉄道を建

設するプロジェクトで、JFEエンジニアリングは、その軌道中に

ある、サバルマティ川とマヒ川のそれぞれ 500 メートルほどある二

つの川を渡る鉄橋工事を受注し、施工している。

ウ 横浜市との連携・協力

2017年のゴールデンウィークに開催されたアジア開発銀行年次総

会に、現地法人ナショナルスタッフ(海外で勤務するスタッフ)営

業が参加した。また、同時開催された展示会のブースにおいて、各

国でJFEエンジニアリングの商品がどのように貢献しているのか

についてのプレゼンテーションも行った。

2011年には、横浜市と、国際都市横浜の発展と経済活性化を目指

し、新興国を初めとする国際社会の発展に寄与、貢献することを目

的とし、公民連携による国際技術協力に関する包括連携協定を締結

している。

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廃棄物処理技術の普及にも力を入れており、JICAの開発途上

国の社会・経済開発のための民間技術普及促進事業に応募し、バン

ガロール市都市廃棄物処理技術等普及促進事業が選定され、横浜市

と共同実施している。バンガロールは、インド南部カルナータカ州

の州都で、トヨタや日立製作所など本邦企業の進出が目覚ましく、

インド都市圏で第5位のハイテク産業が集積する都市である。一方

で、急速な都市化に伴う交通渋滞やごみ問題などの諸問題に直面し

ていた。この事業で、横浜市はバンガロール市にごみの分別・回収・

処理の最適なごみマネジメンとして、G30や3R夢プランの取り

組みを紹介した。一方で、効率的かつ低環境負荷のごみ焼却発電等

の技術面については、JFEエンジニアリングから提案を行い、連

携してバンガロール市における廃棄物処理の改善を目指す取り組み

を行っている。

エ 質疑概要

Q 招聘研修候補地の内容についてお聞きしたい。

A 実現はしなかったが、住宅地近接地にごみ焼却プラント、下水

処理施設、リサイクル施設等を複合的に立地するプロジェクトに

横浜市金沢地区に招聘する予定だった。

Q インド貨物鉄道橋梁3ARプロジェクトについて、橋梁の受注

の経緯はどうだったのか。

A 国家プロジェクトとして計画され、日本もODAの資金援助を

行うため、質の高い技術提供が求められる。その中で、自社の技

術を生かせると判断し入札参加を決定した。

Q インドで契約を締結することはさまざまな困難があったと思う

が、今回は国家プロジェクトであり困難な状況はなかったのか。

A 入札制度がしっかりしていないことがインドの問題の一つであ

る。条件がしっかりとつくり込まれておらず、企業がリスク計算

をできないなどの問題が生じている。今回のプロジェクトについ

ては、外務省やJICAの支援もあり入札までたどり着くことが

できた。

Q ごみの分別については、各国の文化や認識の違いが大きく影響

を与えると思うが、インドではどうか。

A 日本では、ごみはお金をかけて処理するという認識だが、イン

ドでは、ごみは商売になるので業者にあげるという認識で、ごみ

処理には費用がかかるという意識は小さい。しかし、現在のモデ

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ィ政権の政策によって、都心部の人々については、先進国のやり

方を理解するようになってきていることを感じる。

Q バンガロール市都市廃棄物処理技術等普及促進事業で取り組ん

でいるごみ処理は、日本と同様に、分別、収集、中間処理、処分

というサイクルなのか。

A 最終的なイメージはそうだが、現時点では、分別は行わずにと

りあえず回収しダンプサイトに持ち込まれているため、日本の最

終処分場と異なり、ごみ捨て場の状態になっている。改善したい

がお金がないのでどのようなシステムをとりうるのかを検討して

いる。

Q 各家庭や事業者に分別してもらい回収するのか、分別されてい

ないものを回収しその後に分別するのか。

A 回収してから分別している。特に識字率が高くない地域では、

分別まで求めることはできない。しかし、地域住民が分別されず

にごみが出されている集積場所等の掃除をすることで、分別をし

なければいけないという問題意識が芽生えていると感じる。

(Windfall Buildingの会議室にて説明聴取)

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9 NYK Line India

(1)視察月日

11月8日(水)

(2)対応者

社長 (受け入れ挨拶及び説明)

課長 (説明)

(3)視察内容

NYK Line Indiaの総合物流事業の展開等について

ア NYK Line Indiaの概要

日本郵船株式会社が 1 0 0%出資しており、ムンバイに本店を構え、

デリーやチェンナイなど15カ所に支店を持つ。 2017年9月末日時

点で、従業員数は 2 4 2名、ムンバイでは 1 1 6名が勤務している。日

本人は5名体制で、内訳は、ムンバイに3名、デリーに1名、チェ

ンナイに1名である。業務は、コンテナ船、ばら積み船、自動車専

用船等代理店、エネルギー輸送プロジェクトで、従業員の約9割が

コンテナ船関連の業務に従事している。

イ インドとのかかわり

1893年に、日本とボンベイ(ムンバイ)間において日本郵船株式

会社初の定期航路を開設したことがきっかけであり、 1911年に、カ

ルカッタ間の定期航路を開設した。 1992年には、現在のNYK L

ine Indiaの前身となる、TaTa NYK Transp

ort Systems Ltd.を設立するなどインドでのビジ

ネスを拡大してきた。 2018年に、Ocean Network E

xpressの設立によって、定期航路サービス部門は同社のイン

ド法人に移管される予定である。

ウ コンテナ取扱高の実績

インド国内におけるコンテナ取扱高は、 2008年時点で、輸入 3 8 0

万Teus、輸出 3 4 3万Teusであったが、2016年には、輸入 5 7 0

万Teus、輸出 5 5 0万Teusまで増加している。インドの特徴

として、輸出入のコンテナ取扱高がほぼ同量でバランスが良いこと

が挙げられる。NYK Line Indiaのコンテナ取扱高は、

2008年時点で、16万 5496Teus、国内で占める割合が 2 . 2%で

あったが、 2016年には、49万 5733Teus、国内で占める割合が

4 . 5%まで増加している。国内のコンテナ取扱高分布を見ると、西

側の港が72%、東側の港が28%の割合となっている。コンテナ

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船で取り扱われる主な輸出入品目を見ると、輸入品目は、化学製品

(15%)、紙(14%)、機械/部品(14%)で、輸出品目で

は、機械/部品(13%)、米(10%)、化学製品(10%)と

なっている。

エ Nhava Sheva(ジャワハルラール・ネルー)港及びI

CD(内陸コンテナ蔵置場)の概要

Nhava Sheva港は、インド最大のコンテナ港で、バー

スの全長は 2322メートルあり、さらに 2000メートルを建設中で、完

成すると 4322メートルにも及ぶ。また、1日当たりのコンテナ取扱

量も1万 2400TEUと非常に多い。Nhava Sheva港は規

模、取扱量ともが巨大だが、港に至る道路整備が不十分であるため、

コンテナ輸送に多くの時間を要している。その対策として、港から

北インド・デリー周辺までを結ぶ区間で鉄道輸送を実施している。

ICDは、インド政府から認定を受けた特別施設で、鉄道輸送によ

って運搬したコンテナは、必ずICDを通過しなければならない。

ICDでは、貨物の受け渡し、輸出入通関、コンテナの保管、貨物

の積み込みや取り出しなどさまざまな作業を行っている。

オ NYK Line Indiaのコンテナ鉄道輸送サービス

NYK Line Indiaでは、SAKURA EXPRE

SS Ⅰ及びⅡと呼ばれる鉄道輸送サービスを提供している。他の

船会社に、安定した輸送サービスを提供するため、2段積みの 1 8 0T

eusコンテナを積むことのできる専用列車による定期運行を行っ

ている。Ⅰは、 2014年5月より運行を開始し、ピパパブ港からデリ

ー周辺のグルガロンまでの区間を、Ⅱは、2015 年11月より運行を

開始し、ピパパブ港からピヤラまでの区間を輸送している。

カ 質疑概要

Q 国内のコンテナ取扱高分布について、西側の港が約7割、東側

の港が約3割となっているのは、製品の生産地や消費地、人口集

積等によるものか、港の取扱高によるものか。

A どちらかというと前者の要因が大きい。しかし、東側にもチェ

ンナイ港のように、進出日系企業による工業集積や東南アジアと

の交易等によって急速に発展している港があり、今後割合を伸ば

すことも見込まれる。

Q 鉄道輸送サービスを導入することによって、製品購入の客層に

変化はあるのか。

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A インドでは値段の安いものを求める人が多いため、コスト削減

につながるサービス提供ができれば、客層を広げていくことがで

きると考えている。

Q インド発着港と、日本や東アジアとの航路はどのようになって

いるか。

A 東アジアについては、中国側からカバーする航路があったが、

シェアが落ちたことにより29年度に廃止した。日本発着の荷物

については、シンガポールで積みかえを行って輸送している。

Q 日本との輸出入で多い品目は何か。

A 自動車部品の取り引きが多い。

Q 将来、インドからアフリカへさまざまなサービス網を広げてい

くことを期待しているが、現時点でそのような戦略はあるのか。

A 現在、NYK Line Indiaでは、単独でアフリカに

旋回するサービスを行っていないが、商船三井はアフリカと歴史

的につながりが強く、今後、アフリカや中東を含めたサービス網

を広げていくことが考えられる。その際に、自社だけでは困難だ

が、このような企業と連携することでアフリカにつなげていける

のではないかと考えている。

Q インドの港の特徴として、輸出入のコンテナ取扱高がほぼ同量

でバランスが良いことを挙げられていたが、個々の港にいえるこ

となのか。

A 同じ割合ではない港がいくつかある。港によって取り扱うコン

テナが異なるため、輸出入の割合に差が生じてくる。効率的な運

営を行うためには差をなくしていくことが必要と感じている。

Q 日系企業同士であっても、同業種では国内での競争はあるのか。

A 激しい競争をしている。

Q インドは中国の存在をどのようにとらえていると考えているか。

それが自社にどのような影響を与えると考えるか。また、今後、

インドにおいても、効率化や省エネ化が求められるようになると

思うが、それに対する将来展望はあるのか。

A 中国は隣国で、周辺国を取り込み包囲網をつくる動きをしてく

るのではないかと警戒している。それに対抗するために、日本や

アメリカと協調、関係強化をしていると思う。ただ、現時点で、

船会社のサービスには、政治的・外交的影響は及んでいない。イ

ンドでは、自動車の排気ガスなどによる公害が起こり、モディ政

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権も電気自動車にシフトすることを掲げている。船会社としてモ

デルシフトの状況を注視して対応していきたいと考えている。

Q コンテナの大型化に対応するには水深16メートルが必要と聞

いたが、すべての港で受け入れることができるのか。

A Nhava Sheva港は受け入れることができるが、大型

船を受け入れられる港はまだ限られている。

(Windfall Buildingの会議室にて説明聴取)

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○ 視察を終えて

視察の成果を今後の委員会審査を初めとする議会活動や議員活動にお

いて、十分に生かしていくため、12月12日の委員会で各委員所見の

共有を図った。この委員所見の概要については以下のとおりである。

○ 委員所見概要

・ 視察に対する所感としては、まずはインド経済に対する期待である。

インドは人口が 2030年には中国を抜いて世界一になると予測される巨大

マーケットであり、市場の存在性は非常に高いものがある。一方で、現

状のビジネス環境は、手続の煩雑性などの課題もあり、現地の関係者か

らも、成功までは長期的視野に立った事業計画が必要であるという声も

聞いた。将来のインドの本格的な成長、その際の市内企業進出に備え、

今のうちから足掛かり構築の準備をしっかりとしておく必要があると感

じた。地理的には、インド洋を経てアフリカへとつながる位置にあり、

アフリカに一番近い都市を標榜する横浜として、歴史的にもかかわりの

あるインドからアフリカへのつながりが創出できるのではないかという

期待も覚えた。また、今後インドの中間所得層が増加することを想定す

ると、横浜はMICE都市として、インド人観光客の受け入れ環境を整

備することも重要になる。例えば、インド系ホテルの誘致などを考える

べきではないかと思った。横浜は、市として日本で唯一インドに事務所

を設置している自治体であり、ムンバイ事務所を中心に、インドにおけ

る自治体外交を牽引し、存在感を発揮していくべきと改めて感じた。加

えて、現地進出企業へのビジネス支援、例えば契約における法制面での

支援などにも取り組む必要があると感じた。

・ 2泊4日という大変厳しいタイムスケジュールだったが、百聞は一見

にしかずで、本当にショックを受けるくらいの13億という人口と、こ

れからだという部分と成長は望めたが、現状は貧富の格差が激しいとい

うことを感じた。インドに進出した企業は、10年から15年は赤字を

覚悟で進出しなければならないというような話もあったと思うが、国も

違えばさまざまな課題もあるかと思う。7カ所・9視察先を訪問する中

で、これからのインドに対する期待の大きさも感じた。それだけに国際

局としてもやりがいがあると思うし、横浜市の企業も含めて、ムンバイ

事務所を通して、より充実した体制を組んでもらいたいと思う。

・ 強行日程の中で、多くの視察先を訪れることができ、知見を深めるこ

とができた。格差社会の中で、非常に高所得者の方もふえているという

ところにチャンスを求めて、今、日本の企業が進出している。本市の企

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業の中でも、富裕層向けの製品をつくったり販売をしているという会社

もあり、経済局、国際局とタックを組んで、そうした企業がインドのビ

ジネスマーケットで活躍できるような橋渡しを今後も続けてもらいたい。

他方、川などが非常に汚くにおいもきついという問題もあり、本市がフ

ィリピンや後進国で河川の浄化に積極的に出向いている取り組みを、イ

ンドにおいても新しい展開を検討していければ展望が開けるのではない

かと感じた。

・ 大変な強行軍であったが、多くの視察先を訪問し、皆さんには大変お

世話になったと感じている。私も、成長率が急激に上がっているインド

を一度は見て市政につなげたいと思っていたが、本当に見てみるものだ

と感じた。ムンバイ事務所を置いた意味は、あれだけの成長率と、一方

で、貧富の差が激しい中、多くの日本企業が進出しており、日本企業に

対して、どこまで危機管理も含めて情報提供をして、情報をつかみなが

ら、どのように連携していくのかということにあると思う。このことは、

今後の横浜市政にとっても大変大きいと肌で感じた。一方で、ムンバイ

市に行ったときに、ムンバイ市長がまだムンバイ事務所に行っていない

とおっしゃっていたので、今後市長に足を運んでいただき、トップが横

浜市のことを知っていただくということを進めるべきではないかと思っ

た。ムンバイ事務所の初代所長と今の所長を含めて、あれだけの短い時

間の中で、大変なインドの社会性、経済性、文化、宗教がある中で、あ

そこまでムンバイ事務所のメンバーが足がかりを開拓していることを肌

で感じて、頼もしく思った。今回、いろいろなところを行かせていただ

き、いろいろな方たちとお会いしたが、国際局をつくって、事務所を置

いた意味があると実感したことが一番大きかった。