17
169 Ⅰ.はじめに 2005 10 3 日より、郵便局における投 資信託販売が開始してから一年余が経過した 1 575 局、5 種類の商品ラインナップでス タートした販売は、本年 6 月には 605 局、9 商品体制へと拡大し(図表 1)、更に 10 には取扱い局数が 1,155 局へと増加している。 2006 9 月末までの一年間での累計販売 金額は 3,597 億円となり、同月末における全 ファンドの純資産残高の合計は 3,604 億円と なった。11 月末には、同残高は 4,835 億円に まで増加している。2007 3 月末の残高目 標が 6,430 億円と設定されている中で、後述 するように、販売額ペースは拡大傾向にある。 同目標の達成は現実的といえよう。 投資信託販売は、2007 10 月に予定され る日本郵政公社の民営・分社化後における 2 郵便局株式会社と郵便貯金銀行の手数料ビジ ネスとなる見込みである。現行の郵便貯金事 業がその資金規模の大きさから資産運用面で の課題を抱える中で、手数料収益の拡大は、 円滑な民営化プロセスを見守る上でも注目さ れるトピックである。また、後述するように 郵便局における販売開始と前後して、近年の 投資信託市場の拡大の主な担い手であった銀 行窓販でも変化が起きつつある。本稿では、 郵便局におけるこれまでの販売動向から得ら れるデータを基に、今後の郵便局チャネルの 郵便局による投資信託販売と銀行窓販の現状 瀧 俊雄 要 約 1. 郵便局における投資信託販売が開始してから一年余が経過した。販売額が段 階的に増加する中、2006 9 月末の純資産残高合計は 3,604 億円となった。同 残高は地銀上位行の水準であり、試算によれば数年後にはメガバンク並みに 拡大すると予測される。 2. バランスファンドの分配コースと、外国債券ファンドが比較的大口の販売に より残高増加を牽引している。一方で国内株式型のファンドは、小口化を理 由として販売額が縮小している。地域ごとの販売を見ると、その取り組み度 合いに濃淡が見られた。 3. 銀行窓販においては、商品選好における変化が起きつつある。従来、支配的 であった外債ファンドから、バランス型及び国内株式型へのシフトが見られ ており、投信市場全体においても同様の変化が見え始めている。 4. 郵便局は、巨大プレーヤーの台頭としてのみでなく、窓販市場を変えていく プレーヤーとしても存在感を現わし始めている。家計金融資産における貯蓄 から投資への流れが定着しつつある中、今後とも同チャネルの動きは注目さ れよう。 アセット・マネジメント

郵便局による投資信託販売と銀行窓販の現状 · 資信託販売が開始してから一年余が経過した 1。575 局、5 種類の商品ラインナップでス

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郵便局による投資信託販売と銀行窓販の現状

169

Ⅰ.はじめに

2005 年 10 月 3 日より、郵便局における投

資信託販売が開始してから一年余が経過した1。575 局、5 種類の商品ラインナップでス

タートした販売は、本年 6 月には 605 局、9商品体制へと拡大し(図表 1)、更に 10 月

には取扱い局数が 1,155 局へと増加している。 2006 年 9 月末までの一年間での累計販売

金額は 3,597 億円となり、同月末における全

ファンドの純資産残高の合計は 3,604 億円と

なった。11 月末には、同残高は 4,835 億円に

まで増加している。2007 年 3 月末の残高目

標が 6,430 億円と設定されている中で、後述

するように、販売額ペースは拡大傾向にある。

同目標の達成は現実的といえよう。 投資信託販売は、2007 年 10 月に予定され

る日本郵政公社の民営・分社化後における2

郵便局株式会社と郵便貯金銀行の手数料ビジ

ネスとなる見込みである。現行の郵便貯金事

業がその資金規模の大きさから資産運用面で

の課題を抱える中で、手数料収益の拡大は、

円滑な民営化プロセスを見守る上でも注目さ

れるトピックである。また、後述するように

郵便局における販売開始と前後して、近年の

投資信託市場の拡大の主な担い手であった銀

行窓販でも変化が起きつつある。本稿では、

郵便局におけるこれまでの販売動向から得ら

れるデータを基に、今後の郵便局チャネルの

郵便局による投資信託販売と銀行窓販の現状

瀧 俊雄

要 約

1. 郵便局における投資信託販売が開始してから一年余が経過した。販売額が段

階的に増加する中、2006 年 9 月末の純資産残高合計は 3,604 億円となった。同

残高は地銀上位行の水準であり、試算によれば数年後にはメガバンク並みに

拡大すると予測される。 2. バランスファンドの分配コースと、外国債券ファンドが比較的大口の販売に

より残高増加を牽引している。一方で国内株式型のファンドは、小口化を理

由として販売額が縮小している。地域ごとの販売を見ると、その取り組み度

合いに濃淡が見られた。 3. 銀行窓販においては、商品選好における変化が起きつつある。従来、支配的

であった外債ファンドから、バランス型及び国内株式型へのシフトが見られ

ており、投信市場全体においても同様の変化が見え始めている。 4. 郵便局は、巨大プレーヤーの台頭としてのみでなく、窓販市場を変えていく

プレーヤーとしても存在感を現わし始めている。家計金融資産における貯蓄

から投資への流れが定着しつつある中、今後とも同チャネルの動きは注目さ

れよう。

アセット・マネジメント

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資本市場クォータリー 2007 Winter

170

発展の可能性と、投資信託市場全体の発展を

占う上でのポイントを探ってみたい。

Ⅱ.郵便局における販売動向 1.販売額の段階的な成長 郵便局は、2005 年 10 月の販売開始にあ

たって、外部からの投信販売経験者を雇わず、

自前での販売要員を育成していくことを方針

としていた。しかし、そのことが却って販売

力の不足に繋がるのではないか、と懸念する

見方も存在していた。事実、開始当初は、一

件の販売に 2~3 時間以上を要するとも報道

され3、販売ペースが実際に伸びていくのか

が課題と見られていた。 その後の、月別の販売額推移を見ると(図

表 2)、開始当初の 1~2 ヶ月は 100 億円を

下回っていたものの、2005 年 12 月以降は

200 億円を越える水準となり、2006 年 4 月以

降は 400 億円を越える月も見られるように

なった。この間、販売局数はそれほど増加し

ていないことを考えれば、一局当たりの販売

能力は当初に比べて 4~5 倍に拡大したこと

がいえる。さらに、販売局が大幅に増加した

2006 年 10 月には 659 億円の販売が行われて

いる。新規増加局における販売力の向上も織

り込めば、更なる拡大の余地も見込まれる。 口座開設数(図表 3)は、当初は月 1 万件

以下のペースであったが、2006 年に入って

からはコンスタントに 2 万件以上の増加が見

られ、2006 年 9 月末の口座数は 20.8 万件、

11 月末には 26.7 万件となった。一口座当た

りの販売件数(自動積立を除く)は、当初は

2 件程度であったが、現在は 4 件を超えてい

る。この数字から、平均的な顧客が、初期に

おいて複数の投資信託を購入した後に、さら

にリピーターとなっている様子が窺える。 また、保有口座の中でも、自動積立口座

(図表 4)は 2006 年 6 月以降急増しており、

11 月末時点で 9.9 万件と、全体の 37%を構

成するに至っている。直近では、半数以上の

新規口座設立が自動積立の形により行われて

いる。

2.商品ごとの動向 各商品の純資産残高の推移(図表 5)を見

ると、隔月での分配を行うバランスファンド

(安定型、分配型、成長型の 3 コース)が

64%のシェアを占め、中でも資産の 50%を

外国債券で運用する分配コースが 2,400 億円

を超える規模に成長してきていることが特筆

される。加えて、2006 年 6 月に投入された

図表 1 郵便局において販売されている投資信託の概要

ファンド名 委託会社 商品分類 ベンチマーク指標販売手数料(税込み)

信託報酬(税込み)

決算(分配)月 ファンドの特色 分配実績

2005年10月販売開始

野村世界6資産分散投信(安定コース)

野村アセットマネジメント

株式投資信託バランス型

NOMURA-BPI、TOPIX等6指数

1.575% 0.651% 1,3,5,7,9,11月債券70%(国内60%、外国10%)株式20%(国内5%、外国15%)リート10%(国内5%、外国5%)

06.1,3,5,7,9 20円06.11 30円

野村世界6資産分散投信(分配コース)

野村アセットマネジメント

株式投資信託バランス型

NOMURA-BPI、TOPIX等6指数

1.575% 0.725% 1,3,5,7,9,11月債券70%(国内20%、外国50%)株式20%(国内5%、外国15%)リート10%(国内5%、外国5%)

06.1,3,5,7 50円06.9,11  60円

野村世界6資産分散投信(成長コース)

野村アセットマネジメント

株式投資信託国際株式型

NOMURA-BPI、TOPIX等6指数

1.575% 0.798% 1,3,5,7,9,11月債券20%(国内10%、外国10%)株式70%(国内35%、外国35%)リート10%(国内5%、外国5%)

06.1,3,5,7,9 20円06.11 100円

大和ストックインデックス225ファンド

大和投資信託委託株式投資信託インデックス型

日経平均株価 2.1% 0.546% 9月日経平均株価(日経225)に連動する投資成果を目指す

06.9 40円

GS 日本株式インデックス・プラス

ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント

株式投資信託国内株式型

TOPIX 2.625% 1.05% 3月,9月TOPIXとの連動性を維持しながら、

ベンチマークを上回る収益を安定的に獲得することを目指す

06.3 800円06.9  60円

2006年6月販売開始 日興五大陸債券ファンド

日興アセットマネジメント

株式投資信託バランス型

シティグループ世界国債インデックス等

2.1% 1.05% 毎月先進国80%と新興国20%を合成した

債券指数に連動した投資成果を目指す06.8,9 35円06.10 40円

日興五大陸株式ファンド日興アセットマネジメント

株式投資信託国際株式型

MSCI-KOKUSAI及びエマージング

2.1% 1.155% 2,5,8,11月先進国80%と新興国20%を合成した

株式指数に連動した投資成果を目指す06.8 150円

DIAM世界リートインデックスファンド

興銀第一ライフアセットマネジメント

株式投資信託ファンド・オブ・

ファンズ

S&P/シティグループ・グローバルREIT

インデックス2.625% 0.8925% 毎月

日本を含む世界各国のREITに投資。ベンチマークの動きに連動する投資成果

を目指す06.10 45円

住信日本株式SRIファンド 住信アセットマネジメント株式投資信託国内株式型

TOPIX 3.15% 1.68% 6月中長期的にベンチマークである

TOPIXを上回る投資成果を目指す実績なし

(初回決算は07.6) (出所)各投資信託資料より野村資本市場研究所作成

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郵便局による投資信託販売と銀行窓販の現状

171

外国債券ファンドも後発ながら顕著な拡大を

見せており、二番目に大きなファンドとなっ

ている。このように、運用資産に注目すると、

外国債券を重視したファンドが人気を得てい

る。 また、2006 年 4~11 月の間に販売された

商品の分配頻度別の割合を見ると(図表 6)、

毎月及び隔月の分配を行うファンドの販売

シェアは 82%となっている。多分配型とい

う特徴が重視されたことも特筆されよう。 これら二つの特徴は、近年の投資信託市場

の拡大を牽引した銀行窓販における中心的な

商品であった、毎月分配型の外国債券ファン

ドの人気と同じ流れを汲むものといえる4。

図表 2 販売額の段階的な増加

0

100

200

300

400

500

600

700

05年10月 06年1月 06年4月 06年7月 06年10月

(億円)

0

2

4

6

8

10

12

(万件)

販売金額

販売件数

605局に増加

1,155局に増加

(注) 自動積立分は含まれない。 (出所)日本郵政公社資料より野村資本市場研究所作成

図表 3 投資信託口座数及び累計販売件数

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

05年10月 06年1月 06年4月 06年7月 06年10月

(万件)

0

1

2

3

4

5

6

7

(件/口座)

①累計販売件数 (左軸)

②保有口座数 (左軸)

①÷②(右軸)

(注) 自動積立分は含まれない。 (出所)日本郵政公社資料より野村資本市場研究所作成

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資本市場クォータリー 2007 Winter

172

同類型のファンドの残高は 2006 年 10 月末現

在で 15.2 兆円となっており、公募投資信託

市場の 24.2%5、追加型株式投信に限れば

31.4%を占めるに至っている。郵便局におい

ても、同様の商品性が、投資初心者の多い層

に受け容れられたと考えられる。 しかし、それ以上に、郵便局における大半

の販売が、バランス型であるという説明を踏

まえて行われた、という事実は注目されよう。

外国債券による国内預貯金に比較して有利な

図表 4 自動積立口座数の推移

0

2

4

6

8

10

12

05年10月 06年1月 06年4月 06年7月 06年10月

(万件)

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

新規口座開設に占める自動積立口座の割合(右軸)

(注) 割合及び 06 年 4 月以前の口座数は推計値。 (出所)日本郵政公社資料より野村資本市場研究所作成

図表 5 純資産残高の推移

0

1,000

2,000

3,000

4,000

5,000

05年10月 06年1月 06年4月 06年7月 06年10月

(億円)

DIAM 世界リート

日興五大陸株式ファンド

日興五大陸債券ファンド

住信日本株式SRIファンド

大和225

GS 日本株式インデックス・プラス

野村6成長

野村6分配

野村6安定

(出所)ブルームバーグより野村資本市場研究所作成

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郵便局による投資信託販売と銀行窓販の現状

173

運用、という観点のみならず、外国株式や

REIT も含めた商品に分散投資を行っている、

という説明を顧客が受けたことの、投資教育

における意義は大きいといえる。 月ごとの販売額では、バランスファンド分

配コースと外国債券ファンドが月間 200 億円

超である一方で、3 本の国内株式型は月間 10億円以下となっている。その理由としては、

一件当たり販売額の小口化が進んでいること

が挙げられる。商品別に見た一件当たりの販

売金額を比較すると(図表 7)、外国債券型

が 100 万円強、バランス型分配コースが 60万円強、グローバル REIT 型が 50 万円弱、

となっているのに対し、国内株式型 3 ファン

ドは 10 万円以下という販売が続いている6。 もっとも、小口化が進んでいるとはいえ、

販売件数自体におけるプレゼンスはさほどは

低くない。11 月中の全商品の販売額に占め

る国内株式型の割合は 3%であったものの、

販売件数に占める割合は 21%であった。次

図表 6 分配頻度別に見た販売額シェア

毎月分配14%

隔月分配68%

年一回10%半期

7%

四半期1%

(注) 2006 年 4~11 月販売分が対象。 (出所)日本郵政公社資料より野村資本市場研究所作成

図表 7 各ファンドの一件当たり販売金額

五大陸債券

バランス分配

DIAMリート

バランス安定

日本株式SRI

五大陸株式バランス成長

GS日本株式日経2250

20

40

60

80

100

120

140

06年4月以前 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月

(万円/件)

(注) 自動積立分を除く。 (出所)日本郵政公社資料より野村資本市場研究所作成成

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資本市場クォータリー 2007 Winter

174

項で述べるように、開始以来の株価のパ

フォーマンスは比較的良好であったことから

も、今後、国内株式型の購入の積極化が起き

るかは注目されよう。

3.基準価額の推移 図表 8 は、基準価額と分配実績をベースと

して、投入時期別に各ファンドのパフォーマ

ンスを比較したものである。 2005 年 10 月 3 日に販売開始となったファ

ンドのパフォーマンス(1 年間)で首位に

立ったのは、大和日経 225 インデックス・

ファンドであり、2 位は TOPIX をベンチ

マークとする GS 日本株式インデックス・プ

ラスであった。 この間における株価指数の推移を見ると、

TOPIX は半年間で 25%超の上昇(日経平均

は 30%超)を記録した後、4 月 7 日から 6 月

13 日にかけて 22.3%下落(同、23.5%)して

いる。6 月以降は、株価の回復もあり、開始

後一年間では TOPIX が 14.1%、日経平均が

19.2%、というパフォーマンスを上げる結果

となった。このように、国内株式ファンドの

リターンは、一年間を通じて見れば大きな増

減を経ているものの、 終的には株式の好パ

フォーマンスに助けられた形となった。

一方で、バランスファンドの運用実績では

2006 年 5 月以降、分配コースが成長コース

を上回っている。開始後一年間においては、

円ドルレートが 4.2%、ユーロ円レートが

9.5%の円安となっており(日本銀行ベー

ス)、外貨建て資産がポートフォリオに占め

る割合が 50%である成長コースに対し、70%を運用する分配コースがパフォーマンスで上

回る結果となった。 バランスファンド分配コースは、安定した

基準価額の変動と、相場の影響にも恵まれた

環境下で、残高を伸ばしていったといえる。

一方で、国内株式型は相場には恵まれたもの

の、郵便局での販売額が拡大した時期と前後

して相場の下落を経験したため、現状は小口

化した状態が続いているといえる。 次に、2006 年 6 月 12 日より投入された 4

商品のパフォーマンスを比較すると、グロー

バル REIT ファンドが 9 月末までに設定日を

基準として 15.6%のリターンを上げている。

その背景には、円安による影響に加えて、同

期間において原指数である S&P/シティグ

ループ・グローバル REIT インデックス自体

が、11.1%の上昇を示していたことも挙げら

れる。 対照的に、後発組でありながら、残高で 2

図表 8 各投資信託の基準価額の推移

(1)2005 年 10 月に開始された商品 (2)2006 年 6 月に開始された商品

0.95

1.00

1.05

1.10

1.15

1.20

1.25

1.30

1.35

05年10月 05年12月 06年3月 06年6月 06年9月

① バランス型安定

② バランス型分配

③ バランス型成長

④ 大和日経225

⑤ GS日本株式インデックス・プラス

0.95

1.00

1.05

1.10

1.15

1.20

1.25

06年6月12日 06年8月12日 06年10月12日

⑥ 五大陸債券

⑦ 五大陸株式

⑧ 世界リート

⑨ 日本株式SRI

(注) 1.ファンド設定日を 1 として基準化。 2.分配金は 10%の配当課税後、翌営業日に再投資されたとして算出。

(出所)ブルームバーグより野村資本市場研究所作成

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郵便局による投資信託販売と銀行窓販の現状

175

位の規模を誇る外国債券ファンドについては、

開始後 3 ヵ月半とはいえ、リターンは比較的

低水準に留まっている。 現在販売されている全てのファンドにおい

て、設定時の基準価額を割った日数はほとん

ど無く、市況に恵まれたスタートであったと

いえる。今後は逆のシナリオである、円高、

株安といった局面における販売の落ち込みも

懸念されるが、売れ筋であるファンドのパ

フォーマンスの変動が比較的小さいことから、

相場要因に左右されにくい、安定した販売額

の継続が期待されよう。

4.販売における地域ごとの特色 投信販売チャネルとしての郵便局は、従来

の証券会社及び銀行が主眼としてこなかった

地域、すなわち都市部よりは地方の顧客層を

開拓できる点が強みとして注目されてきた。

図表 9 は、地域ごとの取扱い局数、貯金残高

及び投資信託の純資産残高推計値のシェアを

比較したものである。地域ごとの残高を見る

と、関東、南関東、東京に沖縄を加えた地域

の純資産総額が 1,027 億円と全体の 30.4%を

占め、 2 位は近畿地方の 684 億円(同

20.3%)となった。投信純資産に占めるシェ

アを、貯金残高シェアで除した数値により、

貯金残高との相対的な売れ行きを見ると、四

国が 1.259、北陸が 1.217 と健闘している地

域が見られた。一方で、0.892 となった中国

のように、販売がさほど伸びていない地域も

あった。より強みを持つと思われた地方にお

いても、現時点ではその取り組みに地域差が

あることが見受けられる。 一方で、既にメガバンク及び証券会社の開

拓が進んでおり、苦戦が想定された都市部で

は、首都圏(沖縄含む)における同数値は、

0.918 であったものの、同じく都市部の多い

近畿においては 1.108 となっている。現状で

は、一概に都市部における販売が不調でもな

いことを物語っている。 投信販売局は、民営化が行われる 2007 年

10 月には 1,550 局まで増加し、全ての普通局

において販売が行われる見通しである(図表

10)。今後、より特定局に拡大の軸足が

移っていく中で、いかに地域ごとの特色が出

てくるのかも注目されよう。

図表 9 各地域における販売局数、貯金、投信残高シェアの比較(2006 年 9 月末時点)

純資産残高(百万円)

投信シェア/貯金残高シェア

投信シェア/販売局数シェア

一局当たり純資産残高

(億円)

北海道 13,741 1.028 1.073 2.15

東北 20,823 1.058 0.870 2.57

関東・南関東・東京・沖縄

102,703 0.916 0.971 3.00

信越 12,259 0.995 0.957 2.31

北陸 10,952 1.217 1.093 3.32

東海 40,449 0.963 1.023 3.04

近畿 68,489 1.108 1.160 4.01

中国 20,154 0.892 0.842 2.34

四国 15,140 1.259 1.133 2.44

九州 32,184 1.009 0.903 2.48

64 19 322

24 7 151

43 13 202

106 37 685

71 25 404

18 511023 7123

190 67 1,027

43 12 208

23 8 137

0%

20%

40%

60%

80%

100%

取扱い局数(06年9月)

貯金残高(兆円)

投資信託純資産総額

(億円)

北海道

東北

関東・南関東・東京・沖縄

信越

北陸

東海

近畿

中国

四国

九州

(注) 貯金残高は 2006 年 3 月末の数字。投信純資産額の関東、南関東、東京及び沖縄の数字は公開されていな

いため、他の地域の合計を全国の値(いずれも推計値)から引くことで計算。 (出所)日本郵政公社資料より野村資本市場研究所作成

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資本市場クォータリー 2007 Winter

176

Ⅲ.郵便局投信の今後 1.販売チャネルとしての規模比較

2006 年 9 月末時点における、窓販チャネ

ルの投資信託預かり資産ランキング(図表

11)を見ると、郵便局は 14 位と、地銀上位

行並みの水準となった。銀行における投信窓

販が 1998 年 12 月に解禁され、既に 8 年間の

取り組みの歴史を有する中、新たに一年間で

中堅プレーヤーとして台頭した形になる。

もっとも、チャネルとして見た郵便局の

存在感は、その陣容と展開力において、今

後その特徴がより顕著に表れるものと考え

られる。 まず人員を見ると、当初 4,700 人体制でス

タートした販売人員は、2007 年 3 月末には

12,000 人にまで拡大する見込みとなっている。

全証券会社における外務員数が 7.6 万人7で

あることや、メガバンクにおける投信販売人

員が一行あたり 1,000~2,000 人規模であるこ

とに比較すれば、開始後一年半でこれだけの

図表 10 地域別の販売局数と郵便局数の比較

06.9 06.10~ 07.10~ 普通局 特定局北海道 23 64 73 1,142東北 43 81 92 1,841関東 86 168 182 2,212

南関東 44 67 75 880東京 55 96 114 1,395信越 23 53 60 919北越 18 33 41 637東海 71 133 145 1,903近畿 106 171 199 2,908中国 43 86 87 1,674四国 24 62 58 880九州 64 130 155 2,368沖縄 5 11 14 166

合計 605 1,155 1,550(うち普通局) 581 1,031 全普通局

郵便局数(全体 06年10月末)

1,295 18,925

N.A.

投資信託販売局数

(出所)各種資料より野村資本市場研究所作成

図表 11 公募投信窓販の純資産残高ランキング (2006 年 9 月末時点)

0

1

2

3

4

三菱

東京

UFJ銀

三井

住友

銀行

三菱

UFJ信

託銀

みず

ほ銀

りそ

な銀

住友

信託

銀行

中央

三井

信託

銀行

三井

住友

海上

埼玉

りそ

な銀

千葉

銀行

みず

ほ信

託銀

横浜

銀行

新生

銀行

日本

郵政

公社

福岡

銀行

常陽

銀行

近畿

大阪

銀行

西日

本シ

ティ

群馬

銀行

北陸

銀行

(兆円)

(出所)ニッキン投信年金情報、日本郵政公社資料より野村資本市場研究所作成

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郵便局による投資信託販売と銀行窓販の現状

177

新規参入者が増加することのインパクトは、

時間の経過に伴い際立ってくると考えられよ

う。加えて、これらの人員のほとんどがそれ

まで販売経験が無かった局員により構成され

ている8ことは、今後、様々な局面において、

他のチャネルには無いアイデアや、異なるス

タイルでの顧客との関係構築に繋がっていく

可能性としても注目されよう。 次に、販売局数を見ると、2006 年 11 月現

在の 1,155 局という規模は、三菱 UFJ フィナ

ンシャル・グループの銀行、証券、信託銀行

の国内拠点数の合計9である 894 拠点を上

回っている。また、個々の地域における展開

力では地域金融機関に拠点数では劣るとして

も、全国レベルでの研修、資料提供といった

販売インフラに加えて、全国津々浦々に展開

する特定局との連携体制が今後構築されてい

くことが注目されよう。既に、都内、神奈川

県、愛知県においては、試験的にその取り組

みがなされており、2007 年初めには同取り

組みが全国に拡大していく見通しである10。 これらに加えて、2007 年 1 月 22 日からは、

コールセンターにおける口座保有者向けの販

売サービスを、同年 5 月からはインターネッ

ト経由での同サービスを開始する見込みであ

る。このことにより、郵便局の顧客は、既存

の証券会社等と同様のアクセス手段をも有す

ることになる。このように、単に規模として

巨大であるだけでなく、現在進行形での販売

インフラの整備が進んでいることも注目され

る。 もっとも、これらの規模、インフラを活用

していく上では課題もある。当初一年間に見

られたような、局員の販売能力向上に向けた

支援体制が継続的に提供されることは引き続

き重要といえる。特に、今後の拡大は、小型

の局において、広範な局員によって担われて

いく中で、日本郵政公社及び運用会社のバッ

クアップ体制はより重要性を増すものと思わ

れる。 2.継続する郵便貯金の流出 郵便局における投資信託の今後の規模を占

う上では、郵便貯金の大規模かつ継続的な資

金流出という近年の流れの中で捉えることが

重要である。図表 12 は、80 年代からの定額

貯金の金利推移と、近年における郵便貯金全

体の残高の増減を見たものである。90 年代

図表 12 定額貯金(3 年以上)金利と郵便貯金残高の対前年同月比増減の関係

-20

-15

-10

-5

0

5

10

15

20

1998 99 2000 01 02 03 04 05 06

(暦年)

(兆円)

0

1

2

3

4

5

6

7

1988 91 94 97 2000 03 06

(暦年)

(%)

① 2001年の大量満期

② 2004年後半~の   流出へ

(出所)日本銀行、日本郵政公社資料より野村資本市場研究所作成

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資本市場クォータリー 2007 Winter

178

初頭の金利低下局面においては、同局面で有

利な運用手段であった定額貯金への大量の預

け入れが行われた11。同資金は 10 年の満期

を迎えた 2001 年に、大量の流出が起きたこ

とが当時注目された。同流出は、2002 年中

に一旦は収束した。しかし、1994 年以降の

金利低下期に預け入れられた資金の流出が

2004 年以降拡大しており、2006 年 11 月末現

在においても年間 13 兆円ペースでの流出が

続いている。これらの資金が、個人向け国債、

銀行窓販における投信等の投資資産への流入

へと繋がる資金フローが、近年のマクロ的に

見た家計の金融資産における潮流であった

(図表 13)。郵便局における投資信託の購

入においても、同流出資金は主要な資金源で

あったと考えられる。 仮に、投資信託の原資が全て、郵便貯金か

らの流出であったと仮定した場合、その歩留

まり率は開始当初では 1%弱であったが、直

近では 6%程度に上昇している。今後、新規

販売局における習熟に加え、非販売局との連

携など、更なる顧客開拓への取り組みがある

ことを考えれば、いずれは 10%を越える歩

留まり率を達成することも現実的といえる。 そこで、歩留まりを前提とした今後の郵便

局の投信残高の試算を行った。まず、①現状

維持ケースとして、2007 年 3 月期目標額に

向けた販売ペース(年間約 5,700 億円)が今

後とも持続すると仮定すると、2010 年度末

における残高は 2.9 兆円となった。 次に、②日本郵政株式会社の公表している

見通し(図表 14)における郵便貯金残高12を

前提として、年平均では約 5 兆円が流出しつ

つ、2007 年度以降の歩留まり率が 10%へ上

昇するケースを想定すると、同残高は 2.6 兆

円となった。さらに、③現状における 13 兆

円超の流出規模が常態化し、2010 年度末に

おける郵便貯金残高が 139 兆円となるケース

を想定すると、残高は 6.0 兆円となった。こ

れらの結果は図表 15 にまとめている。 このように、現状のペースを維持した場合

においても、5 年後には純資産残高で、現状

図表 13 各金融資産における資金純流入額の推移

-20

-15

-10

-5

0

5

10

15

20

98 00 02 04 06

(暦年、半期毎)

(兆円)

郵便貯金 流動性預金 定期性預金

国債 投資信託 上場株式 (注) 1.本図に変額年金は含まれない。 2.2002 年上半期の変動はペイオフ部分解禁によるもの。 (出所)日本銀行資金循環勘定より野村資本市場研究所作成

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郵便局による投資信託販売と銀行窓販の現状

179

におけるメガバンクの規模と比肩することが

見込まれる。更に、上記試算は流出のみを

ベースとしているため、今後の販売能力の向

上により、新規の資金の取り込み等がより一

層行われるようになれば、チャネルの規模は

さらに拡大する可能性もある。 上記の試算をベースとして、現時点での商

品構成をベースとした販売手数料及び信託報

酬(販売会社分)の試算を行うと、2010 年

度における同収益は、①現状維持ケースで

264 億円、②5 兆円流出ケースで 304 億円、

③13 兆円流出ケースでは 546 億円となった

(図表 16)。同水準は、メガバンクにおけ

る証券関連業務の国内役務収益と同等ともい

える水準である13。

Ⅳ.銀行窓販市場における変化 1.プレゼンスが拡大する地銀 前述のように、郵便貯金からの流出資金は、

図表 14 郵便貯金銀行及び郵便局株式会社の経営見通し

郵便貯金銀行 (単位:億円)2007年度 08年度 09年度 10年度 11年度

経常収益 13,070 25,190 24,650 24,430 23,610経常費用 10,040 18,060 16,200 15,480 15,470経常利益 3,030 7,130 8,450 8,950 8,140純利益 1,820 4,280 5,070 5,370 4,880

資金量(兆円)

188.3 187.0 185.7 172.4 161.4

郵便局株式会社 (単位:億円)2007年度 08年度 09年度 10年度 11年度

経常収益 10,650 19,250 19,310 19,400 19,500経常費用 9,790 18,610 18,580 18,590 18,620経常利益 860 630 740 810 880純利益 520 380 440 490 530

(出所)各種資料より野村資本市場研究所作成

図表 15 郵便局の投資信託残高予測

0.61.2

1.8

2.3

2.9

2.6

1.31.21.0

2.0

3.3

4.7

6.0

0

1

2

3

4

5

6

7

2005年10月 06年9月 07年3月 08年3月 09年3月 10年3月 11年3月

(兆円)

①現状維持 ②5兆円流出ケース ③13兆円流出ケース

三菱東京UFJ

三井住友

みずほ

各銀行の残高

りそな 住友信託

三菱UFJ信託

(注) 流出額のうち 2007 年度以降 10%が投資信託の購入に向かうとして試算。 (出所)各種資料より野村資本市場研究所作成

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資本市場クォータリー 2007 Winter

180

家計の金融資産が投資へと向かう中での大き

な資金源となってきた。その主要な受け皿は、

銀行窓販における投資信託であったといえる。

郵便局自らが投信販売を開始したことにより

もたらされた同市場における変化は、郵便局

の今後を見通す上でも注目されよう。 図表 17 は、銀行及び郵便局の、直近一年

間における資金純流入額を、金融商品別に推

計したものである。各業態を見ると、郵便局

以外では、要求払預金を中心とする預金への

流入が 5.9 兆円となっている。そして、投資

信託への流入は 6.3 兆円と預金を上回ってい

る。また、投資信託及び個人向け国債の販売

においては、都銀・信託銀よりも地銀の販売

額が上回っている点も指摘されよう。対照的

に都銀・信託銀が投信に加えて注力している

のは変額年金の販売であり、銀行業における

3.6 兆円のうち、2.0 兆円が販売された計算に

図表 16 投資信託関連収益の予測値

43.889.9

143.3203.7

83.1

186.2

241.6

286.2

343.1

13.00

100

200

300

400

500

600

2006 07 08 09 10(年度)

(億円)

信託報酬(販売会社分) 販売手数料

96.1

230.0

331.4

429.4

546.8

(注) 13 兆円流出のケース。 (出所)各種資料より野村資本市場研究所作成

図表 17 業態別に見た個人向け商品資金流入動向

2.9

1.4

0.3

1.3

2.52.9

0.70.3 0.40.5

1.7

0.3 0.51.0

2.01.3

0.3 0.0

-2

-1

0

1

2

3

4

都銀・信託銀 地銀 第二地銀 信金 郵便局

(兆円)

預貯金 投資信託 個人向け国債 変額年金保険

-13.7

(注) 1.郵便局のみ、2005 年 10 月~2006 年 9 月の増減。他の業態は、2005 年度中の増減がベース。

2.都銀、地銀、第二地銀の個人預金残高は各行ディスクロージャー誌等を元に作成。一部推計を含む。 3.信託銀行における預金には元本補てん契約のある個人向け信託を含む。 4.投資信託はニッキン投信年金情報を元に、株価変動による影響を除去した推計値。法人保有分を含む。 5.個人向け国債については、財務省資料より推計。 6.変額年金については、金融財政事情研究会資料より。都銀・信託銀、地銀については一部推計を含む。

(出所)各種資料より野村資本市場研究所作成

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郵便局による投資信託販売と銀行窓販の現状

181

なる。これらの数字からは、都銀・信託銀が

変額年金に力点を置き始めている中、投信窓

販において、地銀に軸足が動きつつある様子

が窺える。 上記の投資信託における資金フローを細分

化し、公募投資信託への純流入額を、四半期

ごとに推計したものが図表 18 である。2003年以降、販売ペースが順調に拡大し続けてき

た中で、2004 年の後半あたりを境に、地銀

が都銀・信託銀の合計値を上回りつつある点

が観測される。2006 年第 2 四半期において

は、株安等の環境を背景に若干販売は低迷し

たものの、第 3 四半期には、近年で 高水準

の販売が行われた。また、全体に占める割合

は小さいものの、2005 年第 3 四半期以降、

第二地銀の販売、信金における販売も、増加

している。 このように、近時では地銀、第二地銀、信

金といったプレーヤーが、投信窓販における

重要性を増しつつある。都銀・信託銀に比較

して、郵便局の顧客層と重複しやすい同業態

が主戦場となりつつある中で、今後はより郵

便局を意識した商品展開が行われていく可能

性がある。 既に、これらの反応はニッキン投信年金情

報が各金融機関に対して行った郵政公社の投

信窓販の影響力に関する調査において表れて

いる。図表 19 は、同調査の 2006 年 3 月末及

び 9 月末における調査結果をまとめたもので

ある。販売開始から半年が経った 3 月末時点

では、投信販売における日本郵政公社の存在

を脅威と捉える金融機関は 20%以内となっ

ていた。しかし、販売額が拡大した 9 月末に

おける調査では、地銀及び信金において、脅

威としての認識が高まっているほか、相乗効

果を認識する割合も増えている。

2.窓販チャネルにおける商品選好の変化 郵便局が競合として意識される中で、銀行

が販売する投資信託商品の選択における変化

も表れ始めている。図表 20 は、銀行及び保

険における販売額上位 30 本のファンドを運

用タイプ別に分類し、そのシェアを見たもの

である。2005 年の前半まで、窓販チャネル

における販売の大半を占めていた外国債券型

の割合は、郵便局による販売開始直前の

図表 18 窓販業態別投資信託への資金純流入状況

-2,000

0

2,000

4,000

6,000

8,000

10,000

12,000

03年1Q 03年3Q 04年1Q 04年3Q 05年1Q 05年3Q 06年1Q 06年3Q

(億円)

都銀・信託銀 地銀 第二地銀 信金

(注) 1.業態別窓販残高をベースに、株式及び為替による残高変動を控除し、純流入額を独自に推計したもの。

2.一部私募も含まれるため、投資信託協会による統計の数値とは一致しない。 (出所)ニッキン投信年金情報ほか各種資料より、野村資本市場研究所作成

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資本市場クォータリー 2007 Winter

182

2005 年 7~9 月期を境として、徐々に低くな

りつつある。一方で、シェアを伸ばしている

のは、バランス型及び国内株式型であり、直

近では外国株式型の存在感も目立っている14。 これらの変化を説明する、郵便局発といえ

る要因としては、郵便局におけるバランス

ファンドを中心とした販売による周知効果、

日本郵政公社による販売投信の選考に漏れた

商品の窓販経由での販売促進、郵便局との販

売戦略上の差別化、の 3 点が考えられる。 郵便局による周知効果においては、従来か

らバランスファンドそのものは銀行でも提供

されてきたものの、それが郵便局でも購入で

きる基本的な商品であり、かつ同チャネルに

おける主力商品となっている、という事実が

もたらした広報効果が挙げられよう。厳密に

見れば複雑であり、初心者には理解しにくい

商品構造を取るバランスファンドであっても、

初歩的ともいえる販売チャネルにおいて、分

散投資における利便性が強調された上で、積

極的に販売されていることが、投資家の安心

に繋がっている可能性がある。

図表 19 各業態における郵政公社の投信窓販の捉え方

(1)2006 年 3 月末時点 (2)2006 年 9 月末時点

3

6

24

1

9

9

34

3

42

27

89

3

2

0% 20% 40% 60% 80% 100%

都銀・信託銀など

地銀

第二地銀

信金

脅威に感じる

相乗効果が出ている

どちらでもない その他

20

5

45

2

12

14

50

2

20

21

68

3

1

3

0% 20% 40% 60% 80% 100%

都銀・信託銀など

地銀

第二地銀

信金

脅威に感じる

相乗効果が出ている

どちらでもない その他

(注) グラフ内の数値は回答機関数。 (出所)ニッキン投信年金情報より野村資本市場研究所作成

図表 20 窓販上位 30 本の運用タイプ別シェア

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

2005年

1-3月

2005年

4-6月

2005年

7-9月

2005年

10-12月

2006年

1-3月

2006年

4-6月

2006年

7-9月

外国債券

バランス型

国内株式

外国株式

外国REIT

国内REIT

(注) 1.MMF、MRF を除く。

2.銀行・保険窓販における販売額上位 30 ファンドを分類・合計した割合。 (出所)ニッキン投信年金情報より野村資本市場研究所作成

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郵便局による投資信託販売と銀行窓販の現状

183

選考漏れ商品の販売促進については、2005年に郵政公社の採用に至らなかったバランス

ファンドを、銀行において販売する戦略に転

じた可能性が挙げられる15。現に、銀行にお

いて人気のあるバランスファンドの中では、

株式、債券、REIT の 3 資産により運用を行

うファンドがその多くを占めてきている。 郵便局との差別化戦略では、より保有資産

が大きいと考えられる顧客層を抱える銀行が、

郵便局と同一の顧客層を対象とせず、よりリ

スクの高い株式型の商品の販売に力を入れた

ことが考えられる。近時において販売が伸び

ているのは、高配当型の日本株式ファンドで

あるが、その他にも株価参照型の償還条件を

持つ債券ファンド、公益株を中心に運用する

外国株式ファンドの販売が拡大している。 これらの変化をもって、26 兆円規模に達

した銀行窓販チャネルにおける顧客の選好の

変化や、販売戦略のシフトが生じたと論ずる

のは時期尚早であろう。しかし、従来のよう

に、窓販投信を外債型と言い換えることの出

来た時期は過ぎつつあり、同チャネルにおい

ても商品選好の多様化が進みつつあることは

注目されよう。 商品選好の変化は、証券チャネルも含め

た公募投信全体の統計においても表れ始め

ている。公募株式投資信託のほとんどを構

成する追加型の内訳推移を見ると(図表

21)、全体の残高が 1.9 倍に増加する中で、

バランスファンド等を含むファンド・オブ・

ファンズに分類される商品16の残高は 2.6 兆

円から 11.1 兆円へと、4.2 倍に増加している。

一方で、外債による運用を中心とする毎月

決算型の残高が 7.6 兆円から 15.5 兆円と 2.0倍となっていることに比べれば、この間に

おける急激なプレゼンス拡大が示されよう。 また、分類別の資金純流入額(設定額から

解約及び償還額を引いた数値)を見ても、

2006 年 1~10 月中の流入額は、国内株式型、

国際株式型、ファンド・オブ・ファンズのそ

れぞれにおいて、2005 年中の純流入額を上

回る傾向が見られている(図表 22)。対照

的に、毎月決算型への流入は、投信市場の拡

大にもかかわらず、昨年を下回るペースとな

りつつある。

図表 21 追加型公募株式投信の残高推移

0

10

20

30

40

50

05年1月 05年7月 06年1月 06年7月

(兆円)

その他

インデックス(ETF以外)

ETF

国際株式型

国内株式型

毎月決算型

ファンド・オブ・ファンズ

(出所)投資信託協会資料より野村資本市場研究所作成

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資本市場クォータリー 2007 Winter

184

Ⅴ.おわりに 本稿では、郵便局がいずれは投資信託販売

においてメガバンク並みの残高を有すること

になると目される中で、銀行窓販においては、

拡大の中心が地銀へと移動しつつあり、販売

商品も多様化していることを見てきた。 これらの動きは、貯蓄から投資への流れが

定着しつつあるとはいえ、金融資産の

51.6%を預貯金により保有する家計が、より

多くのリスク性資産を保有していくまでの、

一つの過渡的な段階といえるのかもしれない。

その導入的な商品である投資信託の、更に導

入的なチャネルともいえる銀行窓販市場にお

いても、今後は、より顧客特性に応じた、独

自性のある商品展開が行われていくと考えら

れよう。 郵便局における投資信託販売は、それ自体

が民営化後の収益源として注目されるものの、

その教育機会の提供も併せ見れば、金融・資

本市場の根幹をなす個人投資家にとって、よ

り大きな意義を持つ事業ということができる。

今後の規模及び商品面での展開を、引き続き

見守っていきたい。

1 開始時の動向については、拙稿「郵便局における

投資信託販売の開始」『資本市場クォータリー』

2006 年冬号を参照。 2 2007 年 10 月 1 日より、日本郵政公社は持株会社

(日本郵政株式会社)と 4 つの事業会社(郵便局

株式会社、郵便事業株式会社、郵便貯金銀行、郵

便保険会社)に分社化される。 3 『日本経済新聞』2005 年 10 月 23 日付 13 面、

『日経ビジネス』2006 年 10 月 23 日号 p34~35 記

事等を参照。 4 もっとも、銀行窓販を牽引したのは、外国債券の

中でも OECD 加盟国の国債に着目したものが中

心となっているのに対し、郵便局における外債

ファンドは 20%をエマージング国に投資している

点が異なるといえる。 5 全チャネルにおける公募投資信託の純資産残高合

計に対する割合。詳しくは図表 21 を参照。なお、

現状において、外国債券に投資する毎月分配型の

ファンドは株式投資信託として設定されているこ

とが典型的である。公募株式投資信託に占める割

合は 30.7%、追加型株式投資信託に占める割合は

31.4%となっている。 6 なお、一件当たり販売金額の算出にあたっては自

動積立による影響は除外している。 7 2006 年 6 月末現在。日本証券業協会公表資料よ

り。 8 販売当初においては、投資信託の販売は全て局員

が行っていたが、規模拡大に伴い、非常勤の販売

要員として、民間金融機関における販売経験を有

する人員の採用が行われている。 9 2006 年 11 月 15 日現在における、各社ウェブサイ

ト上の国内拠点数(出張所、営業所含む)の合計。 10 『日刊工業新聞』「郵政公社、投資(原文ママ)

図表 22 窓販上位 30 本の運用タイプ別シェア

0

1

2

3

4

5

6

国内株式型 国際株式型 毎月決算型 ファンド・オブ・

ファンズ

(兆円)

2005年中 06年 1~10月計

(注) 毎月決算型は主に外国債券ファンドにより構成される。 (出所)投資信託協会資料より野村資本市場研究所作成

Page 17: 郵便局による投資信託販売と銀行窓販の現状 · 資信託販売が開始してから一年余が経過した 1。575 局、5 種類の商品ラインナップでス

郵便局による投資信託販売と銀行窓販の現状

185

販売の非取扱局でも顧客紹介サービス」2006 年

11 月 16 日付記事等。 11 定額貯金は、6 ヶ月以降自由満期であり、 長 10

年間同じ金利水準が適用されるため、金利低下局

面においては有利なオプションを有する商品とい

える。なお、1993 年 6 月に定額貯金金利の決定

方式が変更され、①順イールド時には銀行におけ

る 3 年物定期預金の 90~95%の水準が、②逆

イールド時には 10 年物国債の金利から 0.5%~

1.0%を差し引いたもの、が適用されることと

なった。このことにより、他の商品との比較にお

ける定額貯金の優位性は低下したため、今後は、

1990 年前後に起きたような、金利低下を見越し

た預け入れは起こりにくいと考えられる。 12 日本郵政株式会社『日本郵政公社の業務等の承継

に関する実施計画の骨格』(平成 18 年 7 月 31 日

公表)内における見通し。 13 平成 17 年度決算における各行の国内証券関連業

務における役務取引等収益は、三菱東京 UFJ 銀行

が 674 億円、みずほ銀行が 449 億円、三井住友銀

行が 232 億円であった。なお、2004 年 8 月 27 日

の日本郵政公社生田総裁講演によれば、当時の内

閣官房郵政民営化準備室による試算額として、投

資信託等の第三者の商品を郵便局で受託販売する

ことによる利益として 1,900 億円という数字が挙

げられている。 14 なお、ニッキン投信年金情報 2006 年 12 月 4 日号

におけるランキングでは、銀行・保険等の販売額

上位ファンド(四半期ベース、2006 年 7-9 月期

分)において、長らく首位の座にあったグローバ

ル・ソブリン・オープン(毎月決算型、国際投信

投資顧問)に代わって、ピクテ・グローバル・イ

ンカム株式ファンド(毎月分配型)がトップに

立っている。 15 『日経金融新聞』「六資産ファンド続々――郵貯

の窓販に対抗?」2005 年 11 月 16 日付記事等。 16 ファンド・オブ・ファンズに分類される投資信託

のうち、残高の大きい他の商品分類としては、世

界高配当株式、グローバル REIT 等が挙げられる。