8
聖マリアンナ医科大学雑誌 Vol. 46, pp. 111–118, 2018 1 聖マリアンナ医科大学 内科学 (消化器肝臓内科) 2 聖マリアンナ医科大学 外科学 (消化器一般外科) 胃癌由来の胃液エクソソームの機能分子の解析 つじ けん すけ 1 やま もと ひろ ゆき 1 すえ なが だい すけ 1 もり りょう 1 よし よし ひと 1 やす ひろし 1 おお つぼ たけ ひと 2 とう ふみ 1 (受付:平成 30 8 20 ) 胃癌は癌部位別死因の上位であり侵襲性の低い胃癌早期診断胃発癌リスク診断マーカー の開発は重要な意義を有している細胞から分泌される小胞であるエクソソームが胃液のよう な酸性環境でも安定していることに着目し本研究では超遠心法を用いて胃液からエクソソー ムを抽出しその機能分子 (microRNADNA) の胃癌における異常を解析した走査型電子顕 微鏡とウェスタンブロットにより胃液からのエクソソーム抽出を確認したリアルタイム PCR 法にて解析した microRNA-34 (miR-34) の発現は胃癌患者において非癌患者に比べ有意に 低値であったmiR-34 発現の低下の要因としてエクソソーム由来の DNA (exoDNA) をバイ サルファイト処理しパイロシーケンシングによる DNA メチル化を解析したmiR-34b/c DNA メチル化は胃癌患者において非癌患者に比べ有意に高値であった胃液 exoDNA 用いた miR34b/c メチル化解析結果と同一症例の胃癌組織パラフィン切片から抽出した DNA 用いたメチル化解析結果は有意に相関していたさらにHelicobacter pylori (H. pylori) 病原タンパク質 cytotoxin-associated gene A (CagA) に対する抗体を用いたウェスタンブロット により胃液エクソソーム中に CagA を検出した胃液エクソソーム機能分子の解析はH. pylori 感染を含めた胃癌の診療において有用であると示唆された索引用語 胃癌エクソソームmicroRNADNA メチル化CagA 本邦において癌が死亡原因の第 1 位であり民の 2 人に 1 人が癌に罹患し3 人に 1 人が癌で死 亡するなか胃癌は癌部位別死因の上位である 1) Helicobacter pylori (H. pylori) 陽性慢性胃炎患者に対 しても除菌治療が保険適応になったがH. pylori 菌単独による胃癌予防効果は十分でなくABC 検診 や内視鏡診断ツールの改良には限界があるしたがっ 胃癌の分子病態の解明に基づく侵襲性の低い 胃癌早期診断胃発癌リスク診断マーカーの開発は 極めて重要な意義を有している 2–5) 臨床検体を用いた胃癌のトランスレーショナルリ サーチにおいてEpigenetic field defect の重要性腫瘍内の heterogeneity や抗血栓薬内服症例が増加し ている現状を認識し生検による点診断ではなく面診断に注目してきた具体的には内視鏡検査時 19 111

胃癌由来の胃液エクソソームの機能分子の解析igakukai.marianna-u.ac.jp/idaishi/www/463/46-3-03Kensuke...原著 聖マリアンナ医科大学雑誌 Vol. 46, pp. 111–118,

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原 著 聖マリアンナ医科大学雑誌Vol. 46, pp. 111–118, 2018

1 聖マリアンナ医科大学 内科学 (消化器・肝臓内科)

2 聖マリアンナ医科大学 外科学 (消化器・一般外科)

胃癌由来の胃液エクソソームの機能分子の解析

辻つじ

顕けん

介すけ

1 山やま

本もと

博ひろ

幸ゆき

1 末すえ

永なが

大だい

介すけ

1

森もり

田た

  亮りょう

1 吉よし

田だ

良よし

仁ひと

1 安やす

田だ

  宏ひろし

1

大おお

坪つぼ

毅たけ

人ひと

2 伊い

東とう

文ふみ

生お

1

(受付:平成 30 年 8 月 20 日)

抄 録胃癌は,癌部位別死因の上位であり,侵襲性の低い胃癌早期診断,胃発癌リスク診断マーカー

の開発は重要な意義を有している。細胞から分泌される小胞であるエクソソームが胃液のような酸性環境でも安定していることに着目し,本研究では,超遠心法を用いて胃液からエクソソームを抽出し,その機能分子 (microRNA,DNA) の胃癌における異常を解析した。走査型電子顕微鏡とウェスタンブロットにより胃液からのエクソソーム抽出を確認した。リアルタイム PCR

法にて解析した microRNA-34 (miR-34) の発現は,胃癌患者において,非癌患者に比べ有意に低値であった。miR-34 発現の低下の要因として,エクソソーム由来の DNA (exoDNA) をバイサルファイト処理し,パイロシーケンシングによる DNA メチル化を解析した。miR-34b/c のDNA メチル化は,胃癌患者において,非癌患者に比べ有意に高値であった。胃液 exoDNA を用いた miR34b/c メチル化解析結果と同一症例の胃癌組織パラフィン切片から抽出した DNA を用いたメチル化解析結果は,有意に相関していた。さらに,Helicobacter pylori (H. pylori) の病原タンパク質 cytotoxin-associated gene A (CagA) に対する抗体を用いたウェスタンブロットにより,胃液エクソソーム中に CagA を検出した。胃液エクソソーム機能分子の解析は,H.pylori 感染を含めた胃癌の診療において有用であると示唆された。

索引用語胃癌,エクソソーム,microRNA,DNA メチル化,CagA

緒 言

本邦において,癌が死亡原因の第 1 位であり,国民の 2 人に 1 人が癌に罹患し,3 人に 1 人が癌で死亡するなか,胃癌は,癌部位別死因の上位である1)。Helicobacter pylori (H. pylori) 陽性慢性胃炎患者に対しても除菌治療が保険適応になったが,H. pylori 除

菌単独による胃癌予防効果は十分でなく,ABC 検診や内視鏡診断ツールの改良には限界がある。したがって,胃癌の分子病態の解明に基づく,侵襲性の低い胃癌早期診断,胃発癌リスク診断マーカーの開発は極めて重要な意義を有している2–5)。

臨床検体を用いた胃癌のトランスレーショナルリサーチにおいて,Epigenetic field defect の重要性,腫瘍内の heterogeneity や抗血栓薬内服症例が増加している現状を認識し,生検による点診断ではなく,面診断に注目してきた。具体的には,内視鏡検査時

19

111

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の胃洗浄廃液を用いた“胃全体の情報を網羅した”胃癌バイオマーカーの開発を試みてきた6–8)。しかしながら,胃洗浄廃液診断は,簡便とは言えず,普及してはいない。

エクソソームは生体内のさまざまな細胞および癌細胞から分泌される 40〜100 nm の膜小胞で,血液,尿,唾液,腹水などの体液に存在する9–12)。エクソソームが酸性環境でも安定していることに着目し,胃液からエクソソームを抽出し,エクソソームに含有される microRNA (miRNA) や DNA などの機能分子の胃癌に伴う変化を明らかにできれば,胃液採取による胃癌早期診断や胃発癌リスク診断マーカーの開発につながる可能性がある。

一方,世界の総人口の約半数は H. pyloriに感染しているといわれ,日本人でも年齢が上がるにつれて感染率が高い13)。中でも,病原タンパク質 CagA を持つ H. pylori (CagA 陽性 H. pylori) に感染すると,胃癌を始めとする胃粘膜病変を発症することが分かっている14)。IV 型分泌装置と呼ばれる H. pylori 表面のとげによって,CagA が胃の細胞へ注入されると,細胞内のシグナルが撹乱され,癌化が促進される。日本人が感染している H. pylori のほぼ 100%はCagA 陽性である。興味深いことに,H. pylori 感染胃癌患者の血液中に存在するエクソソームに H. py‐lori 由来 CagA が含まれることが報告されている15)。

本研究では,超遠心法を用いて胃癌患者の胃液からエクソソームを抽出し,その機能分子 (miRNA および DNA メチル化) の異常を明らかにすることを目的とした。

材料および方法

1) 胃癌患者の胃液からのエクソソーム抽出10 症例の胃癌患者 (H. pylori 現感染 5 名,H. py‐

lori 既感染 5 名) からの胃液の採取は,内視鏡的治療あるいは外科的治療の直前に行った。内視鏡治療の直前に胃液を採取する場合は,重層+プロナーゼを胃内直接投与し胃液を採取した。5 ml の胃液検体から超遠心法を用いて,エクソソームを抽出した。超遠心法は,P100AT2 アングルローターを装着したhimac CP 80 WX (Hitachi Koki, Japan) を用いて120000G 70min. 4ºC の条件下で行った。エクソソームの濃度は,BCA protein assay で測定した。また,H. pylori 感染陰性の 5 例の健常ボランティアから胃液を採取した。本研究は,聖マリアンナ医科大学生

命倫理委員会 (承認 2470 号 (遺 118)) の承認を得たものであり,患者からの書面での同意を得た後,胃液を採取した。

2) 透過型電子顕微鏡とウェスタンブロットによるエクソソームの確認

透過型電子顕微鏡およびエクソソームマーカーである CD9 に対する抗体を用いたウェスタンブロットにより解析した。超遠心法で抽出した 5 μl の膜小胞をサポートグリッド (Cu 200M) に滴下し,1 分間吸収させ,固定した。グリッドを水で 2 回洗浄したのち,2%酢酸ウラニル水溶液で 10 秒間染色した。透過型電子顕微鏡 JEM-1200EX (JEOL, Japan)で観察,撮影を行った。

ウェスタンブロットは,エクソソーム蛋白質 (25

μg) を NuPAGE Novex 10% Bis-Tris Protein Gels で電気泳動後,iBlot Transfer システムを用いて PVDF

膜に転写し,一次抗体に抗 CD9 抗体を用いてハイブリダイゼーションを行った。発色は,SuperSignal

West Femto Maximum Sensitivity Substrate (Thermo

Fisher Scientific 社,MA, USA) を用いて行った。

3) エクソソームからの RNA (exoRNA) およびDNA (exoDNA) 抽出

トータル RNA は,TRIzol RNA Isolation Reagent

(Thermo Fisher Scientific 社 ) を用いて抽出し,RNase free water 60 μl で溶解した。DNA は,フェノール・クロロホルム法を用いて抽出し,Buffer EB

100 μl で溶解した。

4) exoRNA を用いた miRNA 発現解析TaqMan MicroRNA Assay (Applied Biosystems

社,CA, USA)を用いたリアルタイム PCR 法により,miR-34b および miR-34c の発現を解析した。Total

RNA を逆転写反応させた後,特異的プライマーとTaqMan probe を用いて,7500HT Real-Time PCR

System (Applied Biosystems 社) で denature 94ºC 30

秒,annealing 54ºC 30 秒,extension 72ºC 30 秒の49 サイクルで増幅した。SDS2.2.2 software (Applied

Biosystems 社) を用いてデータの解析を行った。内在性コントロールとして,U6 snoRNA (RNU6B;

Applied Biosystems 社) の発現を解析した。

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辻 顕介 山本博幸 ら112

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Figure 1. Morphological TEM characterization of exosomes derived from the

gastric juice of patients with GC. Exosomes were purified from gastric

juice with the ultracentrifugation. Round particles with a characteristic

exosomal size (30–100 nm) and shape were observed. (B) is an en‐

larged view of (A).

Figure 2. Characterization of gastric juice-derived exo‐

somes by western blot analysis. Purified exo‐

some lysates were separated by polyacryla‐

mide gel electrophoresis, transferred to

membranes, and blotted with anti-CD9 anti‐

body. CD9 expression was specifically ob‐

served in isolated exosomes. HV, healthy vol‐

unteer samples, GC, gastric cancer samples.

5) exoDNA を用いた DNA メチル化解析DNA を BisulFlash DNA Modification Kit (Epi‐

gentek, NY, USA) を用いてバイサルファイト処理後,パイロシーケンスにより miR34b/c 遺伝子の DNA

メチル化を定量解析した。PyroMark Q24 Gold Q24

Reagents とプライマー (フォワードプライマー: 5′-GGTYGAGTGATTGTGGYGGGGG-3′,ビオチン化 リ バ ー ス プ ラ イ マ ー: 5′-CCTCCATCTTC‐

TAAACRTCTCCCTTA-3′,シーケンスプライマー5′-TAATYGTTTTTGGAATTT-3′) を用いて反応を行い,PyroMarkⓇ Q24 (Qiagen, Hilden, Germany) および PyroMarkⓇ Q24 Software version 2.0.6 (Qiagen)

を用いて解析した。また,エクソソームを抽出した胃癌患者の治療後のホルマリ固定パラフィン包埋組織から,DNA を抽出し,exoDNA と同様に miR34b/

c 遺伝子の DNA メチル化を定量解析した。

6) エクソソーム内における H. pylori CagA 解析H. pylori CagA に対する抗体 (Santa Cruz Biotech‐

nology 社,Texas, USA) を用いたウェスタンブロットによりエクソソーム内に CagA が含有されるか胃癌患者 (H. pylori 現感染 ),健常ボランティア (H.

pylori 未感染) 各 3 症例で解析した。

7) 統計学的処理2 群間の測定値の比較に Mann-Whitney 法を用い

た。2 群間の相関は,スピアマン順位相関係数検定

を用いた。P < 0.05 を有意差ありと判定した。全ての解析は,JMPⓇ 14 (SAS Institute Inc., NC, USA) を用いて行った。

結 果

1) 胃癌患者の胃液からのエクソソーム抽出,確認胃癌患者および健常ボランティアの胃液から超遠

心法を用いて膜小胞を抽出した。透過型電子顕微鏡によって 40〜100 nm の膜小胞を確認した (Fig‐

ure 1)。また,エクソソームマーカーである抗 CD9

抗体を用いたウェスタンブロットにより,エクソソームが抽出できたことを確認した (Figure 2)。

2) exoRNA 抽出および miR-34 発現の検出exoRNA を対象に miR-34b および miR-34c 発現

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胃癌由来の胃液エクソソーム機能分子の解析 113

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Figure 3. Expression levels of miR-34b and miR-34c in

exoRNA extracted from the gastric juice sam‐

ples. Real-time PCR was performed with Taq‐

Man MicroRNA Assay. N, nontumor samples,

T, tumor samples. Bar, mean ± SD.

Figure 4. Methylation levels of miR-34b/c analyzed by bisulfite pyrosequencing. (A ) Methylation levels of

miR-34b/c in exoDNA extracted from the gastric juice samples. (B) Correlation of miR-34b/c methyla‐

tion levels between gastric juice exoDNA and nuclear DNA from FFPE samples in the same patient. N,

nontumor tissue, T, tumor tissues.

を解析した。miR-34b および miR-34c 発現は,胃癌患者において,コントロールに比べ有意に低値であった (P=0.001,Figure 3)。

3) exoDNA 抽出および DNA メチル化の検出パイロシーケンスにより,miR34b/c の DNA メチ

ル化を解析した。miR-34 b/c の DNA メチル化は,

胃癌患者において,コントロールに比べ有意に高値であった (P=0.020,Figure 4A)。胃液から抽出したexoDNA を用いた miR34b/c メチル化解析結果と同一症例の胃癌組織パラフィン切片から抽出した DNA

を用いたメチル化解析結果は,相関していた(r=0.855, P=0.010,Figure 4B)。

4) 胃液エクソソーム内 H. pylori CagA の検出H. pylori CagA に対する抗体を用いたウェスタン

ブロットにより,H. pylori陽性 3 症例において,エクソソーム中に CagA を検出し,一方,H. pylori陰性 3 症例においては,検出しなかった (Figure 5)。

考 察

我々は,通常内視鏡検査時に廃棄される胃洗浄廃液から回収した DNA を診断ツールとして用いる胃癌超早期診断法 (胃洗浄廃液診断) を開発し6–8),更なる技術の発展として酸性環境でも安定しているエクソソームに着目した。本研究では,胃液からエクソソームを抽出し,その機能分子 (miRNA,DNA) の胃癌患者における異常を明らかにすることを目的とした。

現在,さまざまなエクソソーム抽出キットが市販されているが,製品の特性はさまざまである。血液,尿,唾液,腹水,胃液などのさまざまな体液それぞれに至適化されているとは言えない15)。エクソソーム抽出法のゴールドスタンダードは,現在も超遠心

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辻 顕介 山本博幸 ら114

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Figure 5. CagA expression in isolated exosomes ana‐

lyzed by western blot analysis. Purified exo‐

some lysates were separated by polyacryla‐

mide gel electrophoresis, transferred to

membranes, and blotted with anti-CagA anti‐

body.

法である。したがって,本研究では,超遠心法を用いて胃液からのエクソソーム抽出を試みた。

エクソソームが抽出できているかの確認は,透過型電子顕微鏡とエクソソームマーカーである CD9 に対するウェスタンブロットにより行った。電子顕微鏡によって 40〜100 nm の膜小胞を確認した。また,抗 CD9 抗体を用いたウェスタンブロットにより,特異的バンドを検出した。以上より,胃液から超遠心法で得た膜小胞は,主にエクソソームであると考えられた。

エクソソーム機能分子の解析として,まず miRNA

に注目した。我々が胃洗浄廃液診断6)で DNA メチル化を解析してきた miR-34 を本研究でも解析することとした。miR-34 は,胃癌の手術検体を用いた解析において DNA メチル化による発現低下が報告されているが16),胃液での報告はない。胃液 exoRNA

を対象に TaqMan アッセイによるリアルタイム PCR

を用いて,miR-34 発現を解析した。miR-34b および miR-34c の発現は,胃癌患者において,コントロールに比べ有意に低値であった。しかしながら,定量化した miRNA 発現を分子マーカーとして用いるには,内在性コントロールの選択の問題等がある。胃液エクソソームの miRNA 発現解析における内在性コントロールに確定したものはなく,U6 snoRNA

を用いた。胃癌組織で発現が亢進している癌遺伝子的 miRNA (Oncomir) の発現が,胃液エクソソームの miRNA 発現に反映されているかなど今後,検討する必要がある。

胃癌における miR-34 発現の低下の一因として,DNA メチル化が報告されている16)。エクソソーム機能分子として,DNA も注目されている17– 20)。従って,次に exoDNA をバイサルファイト処理し,パイロシーケンスによる DNA メチル化解析を行った。

miR-34b/c の DNA メチル化は,胃癌患者において,コントロールに比べ有意に高値であった。次に,核DNA のメチル化情報が exoDNA に反映されているか,両者の DNA メチル化解析結果を比較検討した。胃液から抽出した exoDNA を用いたメチル化解析結果と同一症例の胃癌組織パラフィン切片から抽出した DNA を用いたメチル化解析結果が相関していることを明らかにした。従って,メチル化 DNA が,エクソソーム内にパッケージングされていると考えられた。エクソソーム内にパッケージングされたメチル化 DNA の機能的意義は今後の検討課題であるが21),胃液由来 exoDNA を用いたメチル化解析は,胃癌の有望なマーカーとなりうると考えられた。マーカーとして使用する場合の利点として,コスト面があげられる。胃液の採取だけであれば,内視鏡検査を必要としないこと,超遠心法では,高額な市販のキットを使用せずにエクソソームの抽出が可能である。マーカーとしての有用性に関して,本研究での解析症例数は少なく,多数の症例を対象に,感度,特異度などを解析する必要がある。H. pylori 感染胃癌患者の血液中に存在するエクソ

ソームに H. pylori由来 CagA が含まれることが報告されている。しかしながら,より直接的な胃液中のエクソソームに CagA が含有されているかは明らかでなく,本研究で検討した。CagA に対する抗体を用いたウェスタンブロットにより,H. pylori 陽性症例においてのみ,エクソソーム内に CagA を検出した。CagA が生物活性を保持したままエクソソームから細胞内へ運ばれ機能発現していることも報告されており,興味深い8)。

今後,さらなる解析が必要であるが,胃液エクソソーム機能分子の解析は,H. pylori 感染を含めた胃癌の診療において有用であると示唆された。

結 語

超遠心法を用いて胃液からエクソソームを抽出し,胃癌患者における miR-34 の発現低下および DNA

メチル化亢進を検出した。胃液エクソソーム機能分子の解析は,H. pylori 感染を含めた胃癌の診療において有用であると示唆された。

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胃癌由来の胃液エクソソーム機能分子の解析 115

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胃癌由来の胃液エクソソーム機能分子の解析 117

Page 8: 胃癌由来の胃液エクソソームの機能分子の解析igakukai.marianna-u.ac.jp/idaishi/www/463/46-3-03Kensuke...原著 聖マリアンナ医科大学雑誌 Vol. 46, pp. 111–118,

1 Department of Gastroenterology and Hepatology, St. Marianna University School of Medicine2 Department of Gastroenterological and General Surgery, St. Marianna University School of Medicine

Abstract

Molecular Analysis of Gastric Juice-Derived Exosomes in

Patients with Gastric Cancer

Kensuke Tsuji1, Hiroyuki Yamamoto1, Daisuke Suenaga1, Ryo Morita1, Yoshihito Yoshida1, Hiroshi Yasuda1,

Takehito Otsubo2, and Fumio Itoh1

Gastric cancer (GC) is one of the most common malignancies and is the leading cause of cancer-relateddeaths worldwide. CagA, encoded by cytotoxin-associated gene A (CagA), is a major virulence factor of Helico‐bacter pylori, a gastric pathogen involved in the development of GC. We previously developed a method forDNA methylation analysis, and early detection of GC using gastric washes rather than highly acidic gastricjuice. Extracellular vesicles known as exosomes present in the gastric juice may provide an alternative to gastricwashes for the molecular detection of GC. We determined tumor-related alterations in the functional molecularcontents within the exosomes, which were purified from the gastric juice of patients with GC, and whether theexosomes contained CagA. Using ultracentrifugation, we purified exosomes from the gastric juice of patientswith GC and analyzed their expression levels of microRNA-34 (miR-34) by real-time PCR. Methylation levels ofthe miR-34b/c gene in exosomal DNA were analyzed by bisulfite pyrosequencing. The microvesicles were veri‐fied as exosomes by transmission electron microscopy and western blot analysis with the CD9 exosomal marker.Expression levels of miR-34 were lower in tumor-derived exosomes than in non-tumor-derived exosomes. Meth‐ylation levels of miR-34b/c were higher in tumor-derived exosomes than in non-tumor-derived exosomes. Con‐cordant miR-34b/c methylation levels were observed between the exosomal and tissue nuclear DNA from pa‐tients with GC. CagA was detected in exosomes obtained from the gastric juice of CagA-positive H. pylori-infected patients with GC. These findings suggest the use of gastric juice-derived exosomes as a biomarker forGC in clinical settings in the future.

Key wordsgastric cancer,exosome,microRNA,DNA methylation,CagA

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辻 顕介 山本博幸 ら118