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巻頭インタビュー 調査概要 p.4 調査結果 p.5 考察 …...ICTの進化は、どのように社会的課題の解決を 加速させうるか?本調査では、ICTの力を活用

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4

目次

巻頭インタビュー p.2

序文 p.3

調査概要 p.4

調査結果 p.5

考察 p.23

出典 p.27

1

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ICTの進化は、どのように社会的課題の解決を

加速させうるか?本調査では、ICTの力を活用

して社会のマイノリティが抱えている課題の解

決に取り組む起業家たちの事例から、そのヒン

トを探っている。この春から、社会的課題の解

決に挑む担い手の支援をスタートするNTTドコ

モ。2020年、そして2030年という未来を見据

え、ドコモがめざす社会やそれを実現するため

のアプローチについて、社長の加藤薰氏に話を

聞いた。聞き手は、15年以上にわたって日本の

若手社会起業家育成を牽引してきたIIHOE川北

秀人氏。

川北: この20年の間に、御社はモバイル通信

の企業から、社会のインフラとしてひとの暮ら

しを支えるサービス企業へと進化されてきまし

た。次の15年間、2030年を見据えたときに、

どのように社会に新しい価値を創ろうとしてい

るのか。そのアプローチについてお聞かせくだ

さい。

加藤: 2015年春に、ドコモは「いつか、あ

たりまえになることを。」という新しいブラン

ドスローガンとあわせて、それを実現するため

のコンセプトとして「+d」(プラスディー)を

掲げました。お客さまの目線で考えたときに、

「ドコモがこんなサービスを提供しています」

と前に出るのではなく、教育や医療などさまざ

まな領域で専門性や知恵を持っているパート

ナーと一緒にサービスを創っていく。パート

ナーがいて、そこにドコモがもっているICTや

モバイル技術などの資産がプラスされることで、

未来のひとの暮らしを支えるイノベーションが

生まれると考えています。

川北: 御社は以前から自治体や地域の小さな

企業と知恵を出し合って、社会的課題の解決に

取り組まれていますよね。たとえば、エリア

メール(※1)はまさに「+d」だと私は思いま

す。行政が持つ緊急災害情報を、いち通信事業

者の使命として生活者に届けている。ほかにも、

徳島県上勝町で、契約農家の生産者にタブレッ

トを配布している事例(※2)もあります。上

勝町の現場には、まさに2030年の高齢者の暮

らしがあります。

加藤: 最近では、新潟市を舞台に、センサや

モバイル通信網を用いた「クラウド型水田管理

システム」(※3)で、地域のパートナーと一

緒に稲作農業の未来を創っています。大切なの

は、オープンな姿勢です。社外の方から「どこ

にどんな話を持っていけば一緒にやってもらえ

るの?」と聞かれることがありますが、お互い

の資産やマインドを分かちあって、パートナー

と真摯に向き合うことが、新しい領域を切り拓

くことになると思っています。

川北: これから御社にご支援をいただく若い

起業家たちは、将来的には十分に御社のパート

ナーになりうる存在です。同時に、彼ら・彼女

たちのように、これまでにない発想やアプロー

チで社会的課題の解決にチャレンジしている人

たちの、その社会に挑む姿勢から学べることも

たくさんあると考えています。

加藤: これから応援させていただく起業家の

みなさんには、好奇心を強く持って事業に取り

組んでほしいです。それは、私がいつも自社の

社員に言っていることでもあります。よりよい

社会をつくるためには、これまでの事業の延長

線上にないさまざまな領域にも広く好奇心を

もって挑んでほしい。そのようなチャレンジは、

いずれ通信やICTに結びついてくるだろうと考

えています。

川北: 今回の調査のテーマは「マイノリ

ティ」。たとえば、障がいのある方が抱える課

題の解決という観点では、2020年に東京で開

催されるパラリンピックに向けて、移動や交通

面でのインフラ整備が進んでいます。東京オリ

ンピック・パラリンピックにおける御社の役割

を、どのようにお考えですか。

加藤: ドコモには、競泳で4回目のパラリン

ピ ッ ク 出 場 を め ざ し て い る 山 田 拓 朗 選 手

(※4)がいますが、彼のスピーチにはいつも

感動させられます。自分の言葉で話し、エネル

ギーに満ち溢れていて、絶対応援したいという

気持ちになります。彼のような一流のアスリー

トが世界で活躍し続けられるようなお手伝いを

したいと思っています。そして、ドコモには、

障がいのある方もパラリンピックを楽しめるよ

うに、社会のインフラ整備を担っていく使命が

あります。

川北: パラリンピックは、障がいのある方に

向けてサービスや商品を開発する絶好の機会で

す。たとえば、80歳代の高齢の方々は、視覚に

障がいのある人たちと同じような環境で、ス

マートフォンを使うことになるかもしれない。

世界中から東京に集まってくる選手や観光客に、

御社のデバイスを使ってもらうだけではなく、

通信やICT環境のあり方そのものも一緒に考え

られるといいですよね。

加藤: そのころには、多言語対応もさらに進

化しています。障がいのある方も使いやすい設

計は、結果的に高齢者の日々の暮らしにもやさ

しい。そのように考えると、障がいのある方に

向けたサービスや商品の開発は、健常者の生活

におけるフロンティアを開拓しているといえる

のかもしれません。いま、最も可能性に満ちた

領域の一つといえると思います。

川北: まさしくその通りですね。障がいの領

域に限らず、よりよい社会づくりにおいて不可

避な課題に取り組む次世代の若者を、私たちは

もっと育てていく必要があります。その意味で、

御社に私たちを支えていただく側に回っていた

だけるのは、大変ありがたく感じます。「+d」

を実現するためにも、まずは彼ら・彼女たち起

業家のことをよく知って、それに対して応えよ

う、というかかわり方をしていただけたらと思

います。

加藤: その点では、今回の調査を通してドコ

モとして、社会をよりよくしようとチャレンジ

している起業家が日々どのような現場に向き合

い、何を考えて課題にアプローチしているのか

をよく理解しなければなりません。その上で、

その課題や活動に対して、ドコモの持っている

技術や資産がどのように活かせるのか、その貢

献のポイントを見極ていきたいと思います。

2

巻頭インタビューパートナーとの協創による

社会的課題の解決を

株式会社NTTドコモ

代表取締役社長

加藤 薰(かとう かおる)

注釈

※1 気象庁が配信する緊急地震速報などを、回線混雑の影響を受けずに受信することができる緊急速報

※2 徳島県を拠点とし、料亭などの料理に添えるツマモノとして扱われる植物の葉や花を販売・供給管理している株式会社いろどり。契約農家の生産者との受発注連携をより迅速にするために、ドコモの開発した受発注アプリが入ったタブレットを活用している。

※3 稲作農業において、生産性向上と高付加価値化を推進することを目的とした「革新的稲作営農管理システム実証プロジェクト」で導入している水田管理システム。

※4 24歳にして4回目のパラリンピックとなる、リオデジャネイロ大会出場をめざす選手。

インタビュアー 川北 秀人 氏IIHOE [人と組織と地球のための国際研究所] 代表(株)リクルートを退職後、国際青年交流NGO代表や国会議員の政策担当秘書などを務め、94年にIIHOE設立。95年、阪神・淡路大震災時の被災地の混乱の中で、自身の背景から行政・企業・民間の情報の橋渡しを担う中、市民活動の重要性、支援の希薄さを痛感し、本格的に直接個別支援を開始。環境問題・社会的課題の解決に向けて「2020年の地球への行動計画立案」の提言に取り組みながら、現在も市民団体(NPO)や社会責任(CSR)志向の企業など、年間100団体以上にもいたるマネジメント支援を続けている。

障がいのある方たちに向けたサービスや商

品の開発は、健常者の世界の新たなフロン

ティアを開拓する

未来に向けたキーワードは「+d」。モバイ

ル通信の領域を越えて、パートナーととも

に社会的課題の解決をめざす

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序文

序文

ICT(情報通信技術)の著しい進化により、私たちの生活は大きく変わりつつありま

す。スマートフォンの普及は人々のコミュニケーションを変え、自動運転やドローン

などの新技術は人々の移動や物流のあり方を驚くべきスピードで進化させています。

人工知能がヒトの仕事を次々と代替していく世界さえ、遠い未来の話ではありません。

ICTは人々の生活をより豊かで便利なものに変えていきます。しかしながらそうした

発展は、社会から疎外されているマイノリティの課題や不安を解消し、より平等な社

会の実現に貢献しているといえるでしょうか?

ETIC.は、2002年に日本初の社会起業家向けビジネスプランコンテスト「STYLE」を

開催して以来、500名以上の社会起業家に伴走してきました。この十数年、社会問題

が一層複雑・深刻化する一方で、進化したソリューションを武器に課題に挑む、新た

な担い手の数も増えつつあります。本レポートでは、未来を先取りする起業家の取り

組みを挙げながら、課題解決におけるICTの可能性について考察していきます。

社会的課題解決の現場には、未開拓の市場が広がっています。社会起業家の取り組み

が発端となり、企業や行政、財団、市民を次々と巻き込まれていくことによって、従

来の常識を超えるソーシャルイノベーションが生み出されていくことでしょう。課題

先進国といわれる日本から、世界に広がる新たなICTサービスがうまれてくると私は

信じています。

本調査は、株式会社NTTドコモの多大なる協力によって実現しました。調査から得ら

れた示唆が、よりよい未来をつくるために少しでも役に立てば幸いです。

NPO法人ETIC. 代表理事

宮城治男

マイノリティとは

本調査では、マイノリティを「ある母集団の中で、なんらかの特徴において他

の集団と違っており、しばしば社会的に弱い立場におかれている人々」と定義

している。

マイノリティは、数の上での少数派だけとは限らない。例えば、「女性」は数

の上ではマイノリティではないが、性別の違いによって所得や発言力などが制

限されうるという点で、マイノリティの問題といえる。

ICTとは

ICT(情報通信技術)という用語を、本調査においては「コンピュータやイン

ターネットに関連する情報通信技術やサービスの総称」という広い概念で捉え

ている。

具体的には、インターネットの普及にはじまり、携帯電話やタブレット、ス

マートフォンなどのモバイルデバイスの進化や、IoTやビッグデータ、クラウド

など、現代の人々の暮らしの根幹を担う情報通信技術を含んでいる。

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主な対象組織一覧

調査概要

調査概要

調査の目的

本調査では、社会のマイノリティに焦点を当て、その当事者が抱える課題をICT

を用いて解決することに取り組んでいる組織の事例を分析する。その結果、下記

の2つの問いに対して有益な示唆を獲得することが、本調査の目的である。

1. マイノリティが抱える課題解決に、ICTはどのような役割を果たしているか?

2. 課題解決がより加速するためには何が必要か?

調査のアプローチ

本調査は、以下の3つのフェーズにわけて実施した。

活動地域

組織名 設立 営利/非営利

当事者

国内 シュアールグループ 2008年 非営利/営利

聴覚障がい者(ろう者)

国内 PADM 2008年 非営利 身体障がい者(車いす利用者)

国内 AsMama 2009年 営利 子育て中の女性

国内 aba 2011年 営利 高齢者・障がい者

国内 いろどり 1999年 営利 過疎地域の高齢者

国内 ウェルビー 2011年 営利 がん患者

国内 ウェルモ 2013年 営利 高齢者

国内 グローバルコンテンツ (※1) 2001年 営利 外国人居住者

国内 U2plus (※2) 2011年 営利 うつ病患者

国内 Letibee 2013年 営利 LGBT

海外 Care Message 2012年 非営利 低所得層の患者

海外 Integrity Action 2003年 非営利 貧困層住民

海外 Medic Mobile 2009年 非営利 遠隔地域の貧困層

海外 Single Stop USA 2007年 非営利 低所得層の学生

海外 Stupid Cancer 2007年 非営利 がん患者(AYA)

海外 Talking Points 2015年 非営利 外国人居住者

海外 Saida 2015年 ― 貧困層住民

海外 Ava 2014年 ― 聴覚障がい者

以下の条件に該当する組織を国内・海外合わせて50以上抽出し、文献・Webによる基礎調査を実施。• マイノリティを対象顧客(受益者)とした社会的課

題の解決に取り組むことを主な事業としている(営利・非営利は問わない)

• ソリューションとしてICTを活用している

①基礎調査

②詳細調査①基礎調査の結果から特に有力と思われる組織を選び、文献・Webによる詳細な調査を実施。主に国内の組織に対しては別途ヒアリングを行った。

③分析①基礎調査および②詳細調査の結果を踏まえて、上記2つの問いに対して分析・考察。

4

※1 2016年3月に、一般財団法人ダイバーシティ研究所へ事業譲渡

※2 2015年3月に、株式会社LITALICOへ事業譲渡

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国内事例#01 シュアールグループ

シュアールグループ

代表者 大木洵人

設立 2008年

活動地域 関東

事業内容 遠隔手話通訳など技術を使った聴覚障がい者向けサービスの提供

当事者 聴覚障がい者(ろう者)

タブレットやスマホを介した遠隔手話通訳で耳の聞こえない人の会話を支援

障がい者手帳を持つ聴覚障がい者は国内に約36万5千人。その中で手話を母

語とする「ろう者」は8万人いると言われており、主に視覚から得る情報で他者

とコミュニケーションをしている。これらの人々が健常者と同じように生活す

るには、健常者と手話で会話するためのサポートが不可欠だ。とりわけ外出先

においては、急な体調不良によって自力で医師に症状を伝えなければならない

など、筆談では対応が難しい複雑な用件が発生しやすい。また、そもそも筆談

では、店員と会話を弾ませながら楽しく買い物をすることも難しい。

これらの人々を支援するため、行政は手話通訳者を派遣するサービスを行っ

ている。しかし、それを利用することへのハードルは高い。まず、事前予約が

必要であるため、外出先で緊急事態が発生した際には利用することが難しい。

さらに、公共的な目的に限るなど利用範囲が限定されている場合が多く、仕事

やプライベートで日常的に気軽に利用することはできない。このような状況が、

聴覚に障がいをもつ人たちの自立した生活を妨げている。2016年4月の障害者

差別解消法施行によって、公的機関をはじめ民間企業においても障がい者への

合理的配慮が義務付けられる。官民双方の側からも、障がいをもつ人へのサ

ポート環境整備は急務だ。

当事者が抱える課題

シュアールは、タブレットやスマートフォンを利用して遠隔地からビデオ

チャット機能を使って行う手話通訳サービス「モバイルサイン」を提供している。

例えば、利用者は外出先の駅や役所の窓口、商業施設などに設置されたタブレッ

ト端末を使用して、遠隔地からコールセンターで待機する手話通訳者を呼び出す

ことができる。このサービスのメリットは、短時間でも利用できること、そして

緊急事態にも対応が可能なことだ。端末を設置する事業者が使用料を支払うしく

みとなっているため、利用者側は無料でサービスを利用できる。

学生時代に手話の美しさに魅せられ、2008年にシュアールを創業した代表の

大木氏は、「PCからタブレット、スマートフォンへという情報端末の進化に

よって、手話通訳を24時間365日利用できる世界に日本でも近づきつつある」

と話す。近年では、大手企業を中心に、社内通信インフラとしてモバイルサイン

が使われはじめている。例えば、会議での利用。障がいを持つ社員が文字を介し

て会話するというハンデを背負うことなく会議に参加できるよう、サービス導入

後の利用促進や定着に向けた支援にも力を入れている。このように、1時間以上

の会議など、長時間の利用が多いのがシュアールの特徴だ。他にも、手話通訳者

に電話を代行してもらう「電話リレー」などを含めて、遠隔手話通訳サービス全

体では年間約3,000件の利用実績がある。

外出先で気軽に利用できる手話通訳のサービスがない モバイル端末を介して短時間や緊急事態でも手話通訳を利用できる

解決策と今後の展望

サービス概略図

• ビデオチャットを利用して手話通訳者を遠隔から聴覚障がい者とつなぐ「モバイルサイン」

• 「モバイルサイン」を含む遠隔手話通訳サービス全体では、年間約3,000件の利用あり

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国内事例#02 NPO法人PADM

NPO法人PADM

代表者 織田友理子

設立 2008年

活動地域 東京

事業内容 遠位型ミオパチー患者の支援およびアドボカシー活動

当事者 身体障がい者(車いす利用者)

世界中の車いすユーザーが訪問した場所のバリアフリー情報をマップ化

日本の車いす利用者は現在約210万人と推計され(日本福祉タクシー協会調

べ)、その数は超高齢社会を迎えるこの国で増加の一途を辿っている。鉄道駅

のエレベーター設置率の高さをはじめとして、世界でも突出してハード面のバ

リアフリーが進んでいることで知られる日本。しかし、移動に制限のある車い

す利用者が生活圏外に出ていくにはそれだけでは不十分だ。具体的には、想定

経路における段差や障がい物の有無などの情報を、綿密に事前調査することが

必要なのだ。

現状の課題は、そうしたバリアフリー情報を収集するのに多大な労力がかか

ることだ。そのことが特に重度の障がいを抱える車いすユーザーの外出を妨げ

ている。障がい者支援組織や行政機関によって作成された既存のインターネッ

ト上の情報は、それぞれが異なるフォーマットで存在しており、情報の量や質

にも地域差がある。遠位型ミオパチーという難病によって自らも重度の身体障

がいを抱えるPADM代表の織田氏は、情報収集の困難さに加えて、段差が外出

への心理的障壁になっていること自体が未だ十分に認知されていない、その社

会の状況を変えていくことが必要だと考えている。

当事者が抱える課題

自身も22歳から車いすで生活している織田氏は、福祉情報工学を専門とする

CTO伊藤氏や、ソフトウェア開発会社をチームに引き入れ、現在ユーザー投稿型

のバリアフリーマップ「b-free」の開発に取り組んでいる。このモバイルアプリ

では、スマートフォンから得られるデータ(映像・GPS・路面の凹凸など)をバ

リアフリー情報として投稿し、サイト上で相互に閲覧・評価できる。例えば、外

出時に目についたバリアフリースポットを写真や動画に撮って、位置情報ととも

にアップロードすることができる。また、スマートフォンに搭載されている加速

度センサーやジャイロセンサーが走行時の揺れをデータとして取得し、それを解

析することで道の凹凸を調べることも可能だ。センサーからの情報を利用するた

め、情報入力の誤差が少なく、より信頼性の高いマップを作成することができる。

サービスのポイントは、車いすユーザーであるか否かにかかわらず、世界中の

すべて人が訪問先の情報を一か所に投稿できるので、広範囲の情報を低コストで

収集可能なことだ。そして、バリアフリーマップを充実させる鍵となるのは、車

いすユーザーよりもはるかに早く効率的に情報を投稿できる健常者の家族や友人

の巻き込みである。より多くのユーザーを巻き込んでいくために相互評価などの

機能を充実させ、2016年中のリリースを目指している。

車いすユーザーが安心して外出するために必要な情報が不足している 当事者やその家族・友人が投稿した情報が世界でひとつのバリアフリーマップに

解決策と今後の展望

サービス概略図• スマートフォンのセンサーやカメ

ラから得られる情報を集め、バリアフリーマップ「b-free」を作成

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国内事例#03 株式会社AsMama

株式会社AsMama

代表者 甲田恵子

設立 2009年

活動地域 全国

事業内容 地域交流事業および共助コミュニティ創生事業

当事者 子育て中の女性(両親)と地域の子育て支援参画希望者

同じ地域の顔見知り同士でお互いの託児や送迎を助け合う「子育てシェア」SNS

自分が理想とするライフコースについて、「結婚し子どもを持つが、仕事も

一生続ける」または「結婚あるいは出産の機会にいったん退職し、子育て後再

び仕事を持つ」と回答した女性は66%にのぼる(2010年の国立社会保障・人口

問題研究所による調査)。このように、家庭と育児、そして仕事も楽しみたい

という女性が過去20年にわたって増えている一方、同調査は「出産を機に7割

近くの女性が退職してしまう」事実も示している。

その要因として、託児や送迎などの子育て支援サービスが増大する需要に追

い付いていない現状がある。一般的に行政による子育て施策は、保育所など

ハードを拡充する傾向があり、また限られた予算で共働き世帯からのニーズに

柔軟に応えるには限界がある。また、従来のベビーシッターなどの在宅保育

サービスは、平均価格が1時間あたり2~3,000円と高く、毎日利用するには経

済的な負担が大きい。加えて、相手のことをよく知らないまま自分の子供を預

けることへの心理的抵抗や、そもそも子供を他人に預けることを好意的にみな

い文化的背景もあり、広く普及していないという状況があった。

当事者が抱える課題

AsMamaは、利用者同士で空き時間に託児や送迎を助け合う「子育てシェ

ア」を2013年から運営している。サービス開始前から同社が全国で開催してい

た「親子交流イベント」を通してつながったママ同士やAsMama認定支援者

「ママサポーター」など、顔見知りになった人との間でのみ助け合いができる仕

組みである。時間当たりの利用料金は500円で、支払いは直接手渡しのほかSNS

上で決済も可能だ。利用者からは料金を徴収しておらず、上記イベントのスポン

サー企業に対するPR・集客支援、コンサルティングなどが収益源となっている。

サービス登録者は2016年2月時点で33,000人を超え、助けを求めた人の82%の

託児などの問題を解決した。

AsMamaがユニークなのは、インターネットを活用してマッチングや請求・

決済および管理等の中間業務コストを削減しつつ、「顔見知りに安心して預けら

れる」ことにこだわり、地域における相互扶助のインフラづくりを目指している

点だ。利用者同士が「この人だから私の子どもを預けられる」という信頼をベー

スに依頼しあえると、買い物代行等の生活支援を含む、地域に眠るさまざまな需

要を掘り起こせる可能性がある。同社は今後、不動産会社や自治体・行政への

サービス導入を強化する方針で、2016年1月には初となる自治体との連携協定

を、奈良県生駒市と締結した。

出産後も経験や時間を活かして活躍したい人の機会損失 同じ地域で生活する顔見知り同士の間で「子育てシェア」を実現するSNS

解決策と今後の展望

サービス概略図• イベントを通じて顔見知りになった人とつながり、

子育てなどを助け合うコミュニティをつくる• 全国で33,000人以上がサービスに登録

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国内事例#04 株式会社aba

株式会社aba

代表者 宇井吉美

設立 2011年

活動地域 千葉

事業内容 高齢者向け排せつ検知システムの提供

当事者 高齢者・障がい者

要介護者の排泄をにおいセンサーで検知して無線通信で介護者に知らせる

2025年には日本の全人口の4人に1人(約2,200万人)が75歳以上の後期高

齢者という、超高齢化社会が到来する(国立社会保障・人口問題研究所調べ)。

これに伴い介護サービスの需要は飛躍的に高まっていく。しかし多くの介護事

業者は介護専門人材の確保・定着に苦戦している。介護業界を1年間で離職する

人のうち、勤務年数3年未満で辞める人の割合は、73.2%(平成25年度介護労

働実態調査)にのぼる。この早期離職率の高さが、介護現場におけるノウハウ

や技術の蓄積・継承を妨げている。経験の浅い介護者ばかりの現場で、一人の

職員が多くの入居者をケアしなければならないため、職員一人当たりの業務負

荷が高く、残業や休日出勤が慢性的に多い。

そのなかでも食事・入浴と並んで介護者の主要業務である排泄介助は、業務

負荷が大きい。おむつ交換が必要かを確認するため、介護者は一日に何度も利

用者のところに向かうが、そのうち何度かは「空振り(交換の必要がない)」

である。一方で、排せつ物が漏れてしまうと、洋服やベッドシーツを洗う作業

が生じる。この問題に対して、水分を検知する「濡れセンサー」をおむつに着

けて使う機械はこれまでも存在していた。しかし、おむつを取り替えるたびに

センサー付け替えなければいけないこと、消耗品のためコストがかさむことな

どから、普及が進んでいなかった。

当事者が抱える課題

abaは、においセンサーを活用した排せつ検知システム「Lifilm」を開発して

いる。Lifilmは電気カーペットのような形状をしており、介護者はただベットの

上に敷いて、コンセントに電源を挿すだけでよい。Lifilmが排泄物のにおいを検

知し、介護者が携帯しているPHS等の端末に知らせてくれる。さらに、利用者一

人ひとりの排泄リズムに関する情報を蓄積することによって、一定期間経過後は、

介護者がおむつの中を開けなくても患者の排泄タイミングを予測し、排泄前にト

イレに誘導することを提案する。新人の介護者であっても一定レベルの介護サー

ビスを提供できるように、テクノロジーの力で介護者を支える、というのが代表

の宇井氏の信条だ。

宇井氏は千葉工業大学在学中の2011年に介護実習で介護現場の問題と向き合

い、介護者へのヒアリングを重ねる中でにおいによる排泄検知というアイデアに

たどりついた。開発に向けた資金を調達するためビジネスコンテスト等に出場す

る傍ら、介護施設の職員として働き、介護者としての経験や現場の知見を蓄積し

ていった。現在、製品開発は量産に向けた最終段階であり、複数の介護福祉施設

で実用実験をしながら改良を進めている。正式な製品リリースは2017年初旬を

予定している。

早期離職率の高さに起因する介護者の業務負荷 排泄物のにおいを検知して知らせることで介護者の仕事の負荷を軽減

解決策と今後の展望

サービス概略図

• においセンサーで排泄の通知を介護者に送るとともに、データから排泄時間のパターンを分析

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国内事例#05 株式会社いろどり

株式会社いろどり

代表者 横石知二

設立 1999年

活動地域 徳島

事業内容 農産物の企画販売・情報システムソフトウェアの開発販売

当事者 過疎地域の高齢者

高齢の農業従事者が注文情報や市況をタブレット上で取得し活用することを支援

地方の小規模自治体を中心に、過疎化と高齢化が進んでいる。総務省の2015

年の調査によると、全国1,718市町村のうち46%(797 団体)が過疎関係市町

村であり、その平均高齢化率は32.8%にのぼる。いろどりが活動する徳島県上

勝町も、過疎化と高齢化の課題に直面している。1955年の自治体発足当時に

6,000人を超えていた町の人口は現在3分の1まで減少し、高齢化率も50%を越

えている。「平成の大合併」に加わらなかった上勝町は、四国で一番小さな町

となった。

こうした過疎地域が抱える課題として、産業育成と高齢者層の雇用機会創出

があげられる。2013年の内閣府の調査によると、60歳以上の高齢者のうち9割

が65歳を過ぎても雇用の継続を望んでいる。しかし求められるスキルとの不一

致や体力的な課題から高齢者雇用の受け皿は極めて限られており、地域社会と

高齢者の就労・社会参画のニーズは合致していない。このことは高齢者の生き

がいや健康寿命の低下にもつながっている。

当事者が抱える課題

いろどりは、料亭などで使用するツマモノ(葉っぱ)の発注情報を全国の青果

市場から取得し、上勝町内約200軒の農家に配信している。各農家はPCやモバ

イル端末を用いて情報を受信し、その日の市況を個人で分析、受注する。1986

年に事業を始めた当初は、農協から情報を取得するコストが高く、事業として成

立しなかった。しかし、ツマモノの生産技術や注文情報、市況などを共有するた

めの情報ネットワーク(いろどりシステム)づくりに注力したことで軌道に乗り、

現在では年間約2億6000万円を稼ぎ出す事業に成長。世界中から視察団がやっ

てくる町となった。

2011年からは、NTTドコモと協働して高齢者でも使いやすく工夫された専用

アプリを開発し、タブレット端末を約50の農家に配布した。その結果、これま

で自宅でしかできなかった受注状況や市場価格の変化を農作業しながらでも確認

できるようになり、収穫のロスは大幅に減った。さらに、リアルタイムで他の農

家の販売実績や順位が分かることによって、70歳を超える高齢の女性を中心と

した農家同士の競争意欲が高まり、仕事へのやりがいを高めた。その効果は、高

齢者の生きがいや健康増進による医療費の削減にもあらわれている。地域創生の

成功モデルである上勝町の次なる課題は、若い移住者の受け入れによる農家の後

継ぎ育成だ。

地域雇用の受け皿が限られていることによる高齢者の就労機会の喪失 受発注システムを用いて高齢者が活躍する「葉っぱビジネス」をデザイン

解決策と今後の展望

サービス概略図

• JAから得た市況情報を「いろどりシステム」を通して高齢者に提供

• 2億6000万円以上の事業を創出

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国内事例#06 株式会社ウェルビー

株式会社ウェルビー

代表者 比木武

設立 2011年

活動地域 全国

事業内容 慢性疾患患者の治療・自己管理のためのデジタルプラットフォームの提供

当事者 がん患者

がん患者が自らの症状をクラウド上に記録することで医師へ適切な情報を伝達

日本人のがん罹患数は年間98万例にのぼる(2015年の国立がん研究所セン

ターによる調査)。がんの当事者は「吐き気やおう吐」「便秘」などの身体面

のみならず、精神面や治療継続に伴う経済面のつらさも抱えながら闘病生活を

送っている。医師が適切な治療を行うためには、患者とのコミュニケーション

を通じて患者の状態を適切に把握することも重要だ。しかし、外来のがん患者

の場合、月1回程度の限られた診療時間の中で、患者がいつどのようなつらさを

感じたかを思い出して的確に医師に伝えるのは難しい。また、医師が忙しそう

だからという患者側の遠慮もある。例えば、2014年の塩野義製薬の調査による

と、精神的なつらさについては53%の人が伝えずに我慢している。

抗がん剤治療においては、つらさをコントロールしながら薬を投与すること

が重要だが、患者が抱えるさまざまな負担を総合的にケアできないと、治療の

中断につながってしまうリスクもある。この問題への対処法として、紙の記録

手帳などが存在する。しかし紙媒体では過去の推移を継時的に見るのが難しい

うえ、紛失のリスクがある。

当事者が抱える課題

ウェルビーは塩野義製薬との共同開発で、がん患者向けの症状記録アプリ「つ

たえるアプリ」を2015年11月にリリースした。患者が日々の症状をスマート

フォンアプリやWebサイト(パソコン)から入力し、診察時に医師へ伝えるの

を助けるサービスだ。患者が入力するつらさの症状項目や記録方法は、医学界で

標準的な方式に準拠しており、1か月分の患者の記録をグラフや表で閲覧するこ

とができるため、医師が一目で患者の状況を把握できるようになっている。患者

が記録したデータはウェルビーのクラウドサーバーで保存・管理され、医師に紙

レポートを印刷、もしくはインターネット経由で共有することができる。アプリ

は無料でダウンロード可能だが、診察時に病院で、薬を処方するごとく、「アプ

リを処方」するように案内されることが多い。

ウェルビーはさまざまなステークホルダーを巻きこみ、がん患者のつらさを

トータルで解決することを目指している。サービスの開発・改良にあたっては、

パートナーである塩野義製薬と連携して、がん患者の生活や臨床現場の実態を徹

底的に調査した。また、アプリを病院の診察オペレーションに組み込んでもらう

べく、がん診療連携拠点病院を訪問し、アプリの活用方法や、業務への組み込み

例について案内するなど、サービスの普及にも努めている。今後は、がん領域に

とどまらず、神経系、希少疾患など様々な疾患領域でのニーズに応えるサービス

開発を目指している。

がん患者が医師へ身体と心に起こるつらさを的確に伝えることの難しさ 日々の症状をスマホアプリで記録し医師にわかる情報に変換して伝える

解決策と今後の展望

サービス概略図

• 日々感じるつらさを「つたえるアプリ」に記録し、診察時に医者に共有

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国内事例#07 株式会社ウェルモ

株式会社ウェルモ

代表者 鹿野佑介

設立 2013年

活動地域 福岡

事業内容 介護福祉事業向けプラットフォームの開発運用

当事者 高齢者

介護を必要とするすべての人が適切な福祉サービスを選択できる情報基盤構築

介護福祉の現場のIT化は他業界に比べて遅れている。例えば、介護支援のプ

ロフェッショナルであるケアマネジャーは、介護施設の利用を必要とする高齢

者やその家族からの相談を受けて、要介護度やサポートする家族の状況に合わ

せて施設を探す。しかし東京都内だけでも9,000か所以上存在する介護事業所

の利用の空き状況や提供サービスを確認する主な手段は、電話やファックス、

そして施設の営業担当者から受け取る広報資料である。結果、施設を探すのに

膨大なコストがかかってしまう。その結果、利用者へのケアプランの作成や実

施状況のチェックなどの重要な業務に時間を割けない状況が発生している。

また、統合された客観的な施設情報がまとめられておらず、利用者のニーズ

に沿った介護施設を探せるかどうかは、ケアマネジャー個人の腕次第となって

いる。こうした背景から、良質な介護サービスを提供している事業所にスポッ

トライトが当たりにくく、そこで働く介護従事者も適正に評価されないという

構造を生んでいる。

当事者が抱える課題

ウェルモは、介護福祉を含むさまざまな社会資源情報を集積したデータベース

「ミルモ」をクラウド上に構築。ケアマネジャーは無償で配布されたタブレット

を用いて、空き状況や各介護施設の特徴を検索し、最適な施設を利用者に紹介で

きるようになった。アナログな電話や紙での検索に比べて、業務効率は格段に向

上する。また、掲載情報はシステムを導入している施設の担当者によって日々更

新されており、施設側にとっても最適な形でケアマネジャーに認知してもらえる

ため、集客効果が期待できる。

事業者が公正に選ばれるための工夫として、第一に、検索項目の標準化があげ

られる。実に150以上にわたる検索項目は、厚生労働省が提供する基礎データに

加えて、ベテランケアマネジャーへのきめ細かなヒアリングによって得られた知

見をもとに、独自に定義されている。このため経験が浅いケアマネジャーであっ

ても、適切な施設を選択しやすくなっている。第二に、公平性を担保するため、

介護事業所から利用料金を徴収していない。そのため広報に投資する余裕のない

施設でも情報発信が可能だ。リリース開始からおよそ1年で、福岡市内7区内で

のタブレット導入率は58.2%(218事業者)、福岡市包括支援センターへは約

95%(37事業所)を達成した。複数のベンチャーキャピタルから資金調達を実

施し、今後は他地域へのサービス展開を目指す。

情報の未整備により介護希望者が自身のニーズに沿う介護施設を選択できない 施設担当者やケアマネジャーの知見ノウハウを統合したデータベースを構築

解決策と今後の展望

サービス概略図

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• 厚労省や介護施設から提供される情報を集約し、「ミルモ」をケアマネジャーに提供

• 福岡市内の包括支援センターの95%(37事業者)が利用

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国内事例#08 株式会社グローバルコンテンツ

株式会社グローバルコンテンツ

代表者 中村満寿央

設立 2001年

活動地域 全国

事業内容 情報通信技術を活用した多言語情報サービスの提供

当事者 外国人居住者

在日外国人のモバイル端末へ母国語でニュースや災害情報を配信

2015年6月時点で、在留外国人の数は過去最大の217万人に上る(2011年の

総務省調べ)。不況やビザ発給の厳格化により一時期減少していたが、近年特

にベトナムやネパール等アジア諸国からの在留者が飛躍的に増えている。外国

人が日本に暮らす上で抱えがちな悩みとしては、住居への入居差別から医療福

祉の問題など多岐にわたるが、その中でも、緊急時の災害情報や基礎的な生活

情報が、自分の母国語で十分に提供されていないという不便さがある。

1995年の阪神・淡路大震災において地震の規模や余震についての情報、およ

び電気や水道などのライフラインに関する情報は主要メディアからは日本語で

しか提供されず、外国人住民への伝達手段がチラシや電話・FAXしかなかった。

情報を受け取ることができない住民は地震発生時に適切な避難ができなかった

り、常に周りに状況を確認しなければならない不安を抱えて避難生活を送った。

一方で情報を供給する側としても、紙媒体では必要とするすべての人に情報を

届けることができないジレンマがあった。この状況は新潟中越地震や東日本大

震災でもほぼ同じであったといわれる。

当事者が抱える課題

グローバルコンテンツは、多文化共生社会の実現に向けて活動していたメン

バーの出資により2001年に創設された。当時流行しはじめていた携帯コンテン

ツサービスを活用し、「@nippon」というWebサイトを立ち上げ、4つの言語

(英語、スペイン語、ポルトガル語、タガログ語)でのニュースや生活情報配信

を月額300円で開始した。外国人住民は固定電話よりも携帯電話を好んで使用し、

普及率も高かったことから、確実に情報を届けられるメディアだと考えた。サー

ビスを利用する外国人のニーズにあった情報を提供するため、配信コンテンツの

企画や翻訳を行うネイティブの編集者を言語ごとに配置。その後、ユーザーの要

望を受けて各通信キャリア事業者の公式サイトに採用されたことでサービスの認

知が飛躍的に高まり、2007年時点でユーザーは1万人を数えた。

近年では、スマートフォンの普及や翻訳機能の充実に伴う多言語サイトへの

ニーズ低下を受けて、2016年3月に一般財団法人ダイバーシティ研究所へ事業

を継承することを決定。消費者向けの携帯サイトを終了する一方で、今後は多言

語情報配信のノウハウへのニーズが高い自治体や行政向けのコンサルティングに

注力する。これまで築いてきた顧客基盤に加えて、「どんな情報をいつどのよう

に配信すれば適切に外国人住民に届くか」など、顧客の生活様式やニーズを理解

していることが大きな強みになる。

生活情報や緊急災害情報を母国語で受け取ることができない 携帯各社の公式サイトを活用して手持ちの携帯端末に多言語で情報を配信

解決策と今後の展望

サービス概略図

• ニュースや市役所からの情報を翻訳して母国語で配信

• 外国人居住者の約1万人が利用

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国内事例#09 株式会社U2plus

株式会社U2plus

代表者 東藤泰宏

設立 2011年

活動地域 全国

事業内容 うつ病患者に向けウェブコミュニティサービスの提供

当事者 うつ病患者

うつ病患者が励まし合いながら認知行動療法を実践するオンラインコミュニティ

厚生労働省の2014年の調査によると、うつ病の国内総患者数は111万人。そ

の数は年々増加傾向にある。うつ病の治療法は主に薬物療法と心理療法に分類さ

れるが、心理療法には「認知行動療法」と呼ばれる治療法がある。これは「考え

方のバリエーションを増やし、ネガティブな考えや行動のパターンを変えていく

ことを手伝う」治療法であり、抗うつ薬と同等かそれ以上の効果があることが医

学的に証明されている。日本ではまだあまり普及していないが、イギリスやアメ

リカなどの医療先進国では最も多く選ばれている心理療法だ。

認知行動療法は、専門のカウンセリングに習熟したセラピストのもとで受ける

ことができる。しかし、うつ病になるとそもそも移動が困難になる場合が多く、

通い続けることには困難がつきまとう。また、価格の相場は50分5000円程度で、

うつ病を患う人の中には休職している人が多いことを考慮すると経済的な負担は

大きい。独学で実践することも可能ではあるが、自分が置かれている状況や感情

を客観的に見つめ、書き出していく過程で不安な気持ちが沸く場合もある。

当事者が抱える課題

U2plusは、認知行動療法の実践を通して軽度から中程度のうつ症状からの回復

を目指すSNSサービスをインターネット上で運営している。「FunCan」「U2サ

イクル」「コラム」という3種類のプログラムを通して、ユーザーは自分がうつ

になるパターンを認識し、ポジティブなことに目を向ける習慣を身につけること

ができる。現在は無料で利用できるこのサービスの最大の特徴は、日々の書き込

みに対して、同じ悩みをもつ他のユーザーから共感や励ましのコメントをもらえ

ることだ。これが、治療を継続する原動力になる。なお、ユーザー同士の距離が

近くなりすぎると依存関係に陥りやすいため、友達機能などは実装されていない。

自身がうつになり、当時勤めていた会社を休職した経験からこのサービスを構

想したU2plus創業者の東藤氏。そこに同じようにうつに苦しんでいたエンジニア

やデザイナーなどのメンバーが加わり、千葉大学社会精神保健教育研究センター

(当時)の小堀氏監修のもと、2011年にU2plusが開発された。その後、ユー

ザーの9割以上が「効果を感じる」と回答するなどの高い支持を得て、20~40代

を中心に約8,000名が利用するサービスにまで拡大した(2015年3月時点。現在

は約13,000名)。2015年3月には、障がい者の就労支援を行う株式会社

LITALICOに事業を譲渡。うつ病回復期から、その後の就職・復職の支援や就職

後までを含めた、うつ病に関するワンストップサービスの提供を目指している。

うつ病回復に効果の高い心理療法を継続することの難しさ SNSで同じ悩みや不安を持つ人と励まし合いながら自力での回復をサポート

解決策と今後の展望

サービス概略図

• SNS「U2plus」を通じて認知行動療法を一緒に行うコミュニティを形成

• 20~40代を中心に約13,000名が利用

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国内事例#10 株式会社Letibee

株式会社Letibee

代表者 榎本悠里香

設立 2013年

活動地域 全国

事業内容 企業向けのLGBT研修・LGBT向けメディアの提供

当事者 LGBT

LGBT同士がお互いの興味や悩みを安心してシェアできるコミュニティアプリ

渋谷区が同性カップルを結婚に準じる関係と認める「パートナーシップ証

明」を発行するなど、近年日本でも行政や企業が性の多様性を尊重することに

意欲的に取り組む事例が出てきた。しかし、日本人全体の7.6%といわれる当事

者たちにとって、そのことを公表するハードルは未だ高い。LGBTの問題に取り

組む虹色ダイバーシティの調査によると、自分がLGBTであることを職場の誰か

に対して打ち明けている人は、LGBT全体で38.5%にとどまっており、多くの

当事者が誰にも打ち明けられずに悩み苦しんでいる実態がある。

自らのセクシュアリティを隠すことなく安心して相談できる場があることは、

LGBT当事者にとって大きな助けになる。しかし上述の通り公表する人が少ない

ため、リアルでの交流の場は、とりわけ地方においては限られている。またイ

ンターネット上では、GPS機能を用いて周囲にいるゲイを探索して交流できる

マッチングサービスなどが多数存在する。しかし、そこには恋愛対象を探した

り性的な交流を求めるだけの人も多く存在し、安心して参加することは難しい

という。一方、行政や企業の側から見ると、LGBT当事者のグループを巻き込む

ことのハードルが高く、そのニーズを汲んで制度やサービスを設計することが

困難である。

当事者が抱える課題

Letibeeは、2016年1月にLGBTのコミュニティアプリ「Nesty」をリリースし

た。ニックネームで登録したアプリユーザーは、自分の趣味や興味に基づいて

「ネスト」と呼ばれるコミュニティを立ち上げたり、既存の「ネスト」に参加し

たりする。共通の関心をもつ仲間を見つけることによって、普段はなかなか話す

ことのできない悩み、あるいは就職や人生設計などについて相談し合える関係を

築くことが可能だ。また、ダイレクトメッセージ機能を設定しないことによって、

性的な交流のみを目的とした接触やLGBTを狙った犯罪を防止するなど、当事者

自身がサービスを設計しているがゆえの細やかな配慮がなされている。

Letibeeは月間10万人の読者を有する情報配信サービス「Letibee LIFE」を運

営しており、今回のサービスにはそこで得られた当事者の声やブランドを活用し

ている。現在はユーザー数の拡大に注力しており、後にSNSへの広告配信枠設置

による収益化を進めていく予定だ。またLGBTのマーケットの大きい東南アジア

をはじめとした海外へのサービス展開を見据え、英語版を同時リリースした。

Nestyで得られた当事者の声を企業向けのLGBT研修にも反映し、LGBT当事者が

はたらきやすい社内環境づくりをサポートしていく。

LGBT当事者同士が安心して相談できる場所が存在しない 匿名性が担保されたLGBT特化型のオンラインコミュニティを開発

解決策と今後の展望

サービス概略図

• SNS「Nesty」を通じてLGBT同士が悩みを共有

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代表者 Vineet Singal

設立 2012年

活動地域 アメリカ

事業内容 患者による自己健康管理アプリの提供

当事者 低所得層の患者

海外事例#01 Care Message

Care Message

患者それぞれの症状に沿った健康情報を配信して継続的な治療を促す

米連邦厚生省の調査によると、アメリカでは成人のわずか12%しか健康管理

についての十分なリテラシーを有しておらず、また3分の1(約7,700万人)以

上が通常の健康管理ができない。具体的には、「処方された通りに服薬ができ

ない」「診察のアポイントメントに来ない」「子供を決められた日に予防接種

に行かせることができない」などのケースが後を絶たない。こうした自己管理

リテラシーが低い層は、人種的マイノリティ、低所得者、低学歴者などに多い。

このような問題に対するひとつの有効な解決策のひとつは、診察後も医師と

患者が定期的にコミュニケーションをとることにある。ある調査によると、上

記のような患者群は、医師から与えられた健康や診療についての情報の40~

80%を忘れてしまうという現状がある。よく使用される紙の冊子などによる説

明は、退屈で理解できないことも多く、簡単に捨てられてしまう。これらの要

因から、疾患リスクの高い患者グループのリテラシーが向上せず、医療コスト

が増加し続けていることが、アメリカの医療制度において大きな課題となって

いる。

当事者が抱える課題

Care Messageは、患者と医師とのコミュニケーションを助ける双方向のSMS

プラットフォームを提供している。例えば、医療機関はこのプラットフォームを

介して自己管理リテラシーの低い患者に診療情報を配信したり、血圧管理や糖尿

病治療、肺がん予防、禁煙などさまざまな健康改善プログラムを提供できる。ポ

イントは、2つの個別対応だ。一つは、患者の健康状態に合わせた個別対応で、

患者の症状に合ったプログラムを自動配信したり、設定した目標の達成状況を

メッセージで通知できる。もう一つは言語対応で、かんたんな英語やスペイン語

で配信することで外国人患者とのコミュニケーションの障壁を低くしている。こ

のサービスを通じて、患者は自己管理能力を高め、医療機関は患者情報を収集管

理することによって業務を効率化できる。

Care Messageは、2014年に世界的に知られるシリコンバレーのテクノロ

ジー系インキュベーターであるY-Combinatorに選出されたのち、約600万ドル

の資金調達に成功した。2015年1月現在、全米16州で80の病院がサービスを導

入し、30万人の利用者がいる。カリフォルニア州の健康促進プログラムやコ

ミュニティ医療センターとも協働しつつ、2016年中に100万人の患者が利用す

ることを目指す。

健康管理能力の低い患者と安定的にコミュニケーションすることの難しさ 患者一人ひとりの健康状態に合った情報を自動で配信

解決策と今後の展望

サービス概略図

• 患者の症状、言語レベル、質問に対する回答に合わせて、治療プログラムに関するメッセージを自動で配信

• アメリカで16州、30万人がサービスを利用

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代表者 Fredrik Galtung

設立 2003年

活動地域 アフリカ、アジア等の途上国地域

事業内容 市民による開発プロジェクトモニタリングの促進、教育

当事者 貧困層住民

海外事例#02 Integrity Action

Integrity Action

市民が開発プロジェクトの進捗や質を報告することで、汚職などを防ぐ

世界銀行の調査によると、毎年約3000億ドルが、現地の汚職などによって本

来行われるはずの途上国向けのインフラ開発などのプロジェクトに使用されな

いままだという。その結果、学校や病院を計画通りに建てることができず、何

千もの児童や妊婦など社会的に弱い立場にいる人々が必要な生活インフラにア

クセスすることができていない。例えば、アフガニスタンの3万5000人が居住

する地域では、地方の行政機関が十分にプロジェクトを監視することができず、

その結果建設会社の計画書よりも道幅が狭かったり、塗装が薄い道路があるな

ど、低品質なインフラが多く作られてしまっている。

国連をはじめ、多くの国際組織や政府がプロジェクトが進行をモニタリング

している。しかし、プロジェクトは途上国の各地で行われており、現場はアク

セスが悪い場所にある場合も多いため、十分な頻度でモニタリングを行うこと

は困難である。また、現地の各NGOもモニタリングを行っているが、それぞれ

の組織が小さく活動規模も限られるため、均質なデータを集めたり、必要とさ

れる所に十分な情報を迅速に届けて改善を促すことは困難だ。

Integrity Actionは、市民による開発プロジェクトのモニタリングを促進する

オンラインプラットフォームを提供している。Integrity Actionは、2002年より

現地NGOや住民に対してプロジェクトのモニタリング教育を行い、彼らからの

報告をプロジェクトの実行者や資金提供者に対して公開する活動を行ってきた。

その報告をオンライン上で行えるようにしたのが「Development Check」だ。

教育を受けたNGOやボランティアは、プロジェクトページにプロジェクトの進

行状況が分かる写真や受益者数などを入力し、プロジェクトの実施計画書とズレ

がないかを調べる。更に建設現場の担当者などにヒアリングを行い、それらの情

報に基づいて「情報公開」「コミュニティの関わり度合い」「プロジェクトの効

果」の3点を評価する。この評価は、誰でもウェブ上で閲覧できる。モニタリン

グを通して問題が発見された場合は、現地の組織や委員会が協力して解決のため

に働きかける。

2013年にGoogle Impact Challengeで採択されて開始したこのサイトを通し

て、今まで11か国、317個のプロジェクトがモニタリングの対象となり、プロ

ジェクト費用の総額は約5400万ドルを超えた。キルギスタンでは、市がワーキ

ンググループの形成やモニターの育成を実施し、汚職を80%減らすことに成功

した。今後は展開地域をさらに広げ、モニタリング力を向上させることを目指す。

プロジェクト監視が行き届いていないために開発投資の恩恵を受けられない プロジェクトの進捗状況やインパクトを市民がウェブ上で即時公開

サービス概略図 • 市民から集められた情報によってプロジェクトの実行状況を確認

• これまでに317プロジェクトを対象とし、その費用の総額は総額5400万ドル

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当事者が抱える課題 解決策と今後の展望

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代表者 Josh Nesbit

設立 2009年

活動地域 21の途上国地域

事業内容 途上国向け遠隔医療サービスの開発運営

当事者 遠隔地域の貧困層

海外事例#03 Medic Mobile

Medic Mobile

SMSを活用して途上国の農村部など遠隔地域の患者に医療サービスを提供

途上国の農村部では、医師不足が大きな課題となっている。例えば、アフリ

カ・マラウイのナミテテ地域では、住民25万人を1つの病院がカバーしている。

通常こうした地域には、地元の主婦などによって組織されるコミュニティヘル

スワーカーやボランティアがいる。しかし、彼らは医療の専門家ではないため、

健診をして問題が見つかると、それをノートに書きとめ、半日から数日歩いて

医師が勤務している最寄の診療所へ相談に行くことになる。

また、地方の診療所の環境も劣悪である。同国では、予防注射など健康を守

る最低限の薬を十分に保有する診療所は、全体の9%にとどまる。その結果、乳

児等多くの人命が失われている。NGOや国際機関によって各農村部を訪問する

医療サービスは提供されているが、それぞれの農村は互いに距離が離れている

ため、医師1人が対応できる患者数には限界がある。このような地域は世界各地

に存在し、WHOの調査によると、医者と一度も関わらずに一生を終える人が世

界に10億人以上いる。

当事者が抱える課題

Medic Mobileは、地方のヘルスワーカーと、そこから遠く離れた都市の病院

の医師が相互に連絡できる通信プラットフォームを提供している。ヘルスワー

カーは、SMSを通じて地方にいる妊婦の状態、感染症の蔓延情報、自分が持つ薬

の在庫情報、急患に関する情報などを伝達し、都市の病院に勤務する経験豊富な

医師がその情報に応じて診療に関する助言する。これによって、患者は数日かけ

て都市に出向くことなく適切な医療サービスを受けることができる。このサービ

スを可能にしたのは、携帯電話が普及しはじめたからだ。2014年のPew

Research Centerの調査では、アフリカ全体で80%の住民が携帯電話を所有し

ている。加えて、このサービスは携帯電話、スマートフォン、PCなど地域に合

わせてさまざまなデバイスに対応可能だ。

2014年時点で、21ヵ国で9,000人以上のヘルスワーカー、約500万人の患者

がそのサービスを利用しているMedic Mobile。乳幼児の予防接種率が100%に

達した地域が生まれるなど、大きな成果を挙げている。今後は、現地の厚生省な

どへのサービス導入を図りながら、2020年までに20万人のヘルスワーカー、1

億人の患者に情報を届けることを目指す。

農村部などの貧困地域の患者が都市の医者にアクセスしづらいこと 離れた地域からもSMSを通じて診療アドバイスを受けることができる

解決策と今後の展望

サービス概略図

• 遠隔地にいるコミュニティヘルスワーカーが地元の患者の治療法についてオンラインで都市の医師に相談

• 21地域、9000人のヘルスワーカーがサービスを利用

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海外事例#04 Single Stop USA

Single Stop USA

代表者 Elisabeth Mason

設立 2007年

活動地域 アメリカ

事業内容 低所得者層に対する社会保障サービスのコンサルティング

当事者 低所得層の学生

社会保障に関する情報を一元化して受給資格のある支援サービスを自動判定

アメリカのコミュニティカレッジには、経済的な理由で四年制大学に通うこ

とのできない若者を救済するという社会的な役割がある。しかし、コミュニ

ティカレッジに通う全米1,200万の学生の定着率は50%を下回っており、その

主な背景は経済的理由によるものである。政府や行政はこの課題に対応し、

フードスタンプと呼ばれる食料支援や奨学金、育児サービスなど低所得の学生

の生活を支えるさまざまな社会保障プログラムを提供しており、これらを適切

に利用することで、経済的な理由で退学する学生を減らすことができると見込

まれる。

問題は、自らのニーズに合致した適切な支援プログラムを見つけて申請する

ことが非常に難しいという点にある。多くの学生は、こうしたプログラムの存

在を知らない。また、プログラムを利用するには、複数の機関を直接訪問し、

複雑な申請プロセスを経なければならない。窓口担当者の知識や経験によって

サービスの質にはばらつきがあり、多くの場合、膨大な時間と労力を費やすこ

とになる。その結果、毎年数十億ドルに相当する政府のリソースが活用されず

じまいとなっている。

当事者が抱える課題

Single Stopは、2007年から80以上の大学内や地域の支店で、経済的困窮下

にある学生を対象とした政府による支援サービスを無料で紹介している。これを

実現しているのは、訪問者が簡単な質問に答えるだけで、どのプログラムでいく

ら受給する資格があるか(例えば「6,100ドルの学資ローン」等)の一覧がすぐ

にわかるオンラインサービスだ。加えて、法律や税の専門家によるアドバイスや

支援要請、登録情報をもとにした本人や家族に向けてのフォローアップも提供し

ている。これまでに全米8州で100万世帯に30億ドル分のリソースを提供してき

た。

2016年度からは、これまで各支店のコーディネイターが活用していたオンラ

インサービスを、支店に訪問しなくても利用できるプラットフォームとして一般

開放する予定だ。初期のターゲット層はコミュニティカレッジの学生で、運営財

源は政府からの助成や大学からの寄付でまかなう。これまでの実績から、サービ

ス開始後3年間のうちに、学生の定着率上昇(退学率低下)による大学側の収入

増加がその寄付額を賄うだろうと見込まれている。この社会的インパクトが評価

され、同社はTesla MotorsやGEなどと並び「The World’s Top 10 Most

Innovative Companies of 2015 in Social Good(Forbes)」に選出された。

社会保障プログラムを利用することなく経済的な理由で退学してしまう ワンストップで受給資格のある多種多様な行政サービスに申請できる

解決策と今後の展望

サービス概略図

• 低所得者層の状況に合わせて、適切な社会保障プログラムを提示

• 全米8州で100万世帯に30億ドル分のリソースを提供

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代表者 Matthew Zachary

設立 2007年

活動地域 アメリカ

事業内容 若年がん患者の支援及びアドボカシー活動

当事者 がん患者(AYA)

海外事例#05 Stupid Cancer

Stupid Cancer

若年層のがん患者が抱える特有の悩みを相談できる相手をマッチング

「がん」と聞くと、多くの人は高齢者層の病気であると思い浮かべる。しか

し、アメリカでは毎年7万2千人のAYA期(15歳から39歳)の患者ががんと診断

され、その診断数の伸びは他のどの年齢層よりも高い。また、がんはこの世代

の死亡原因の第1位である。米国疾病対策予防センターの研究は、AYA期にがん

にかかった人が、かかったことのない人と比べて、喫煙中、肥満、様々な慢性

疾患を有す、または精神的・身体的健康状態が不良である人が多いことを明ら

かにした。

社会的に認知の低いAYA世代のがんサバイバー(がんを克服した人)が抱え

る悩みの1つは、孤独感だ。ほとんどの場合、この世代特有のテーマである出産

や交際、キャリアなどについて、安心して相談できる相手は周りにいない。ま

た、とりわけこの世代は、面識のない第三者によるがん相談ホットラインなど

従来のサービスを使いたがらない傾向にある。もう1つは、金銭面の課題だ。

AYA世代のがんサバイバーは、非雇用者や働けない人が多いことから、費用面

への懸念によって適切な経過観察を受ける割合が低いことがわかっている。

当事者が抱える課題

世界最大のAYA世代がん患者支援非営利団体である米Stupid Cancerの創設者

で、がんサバイバーでもあるZachary氏は、長年にわたって適切な相談相手を見

つけることができなかった自身の経験から、「Instapeer」というモバイルアプ

リを2014年にリリースした。サービスに登録したAYA期のがん患者に、がんの

種類や性別などの情報を登録してもらい、その結果に応じて適切ながん患者やサ

バイバー、介護関係者とマッチングをする匿名のSNSである。ユーザーは、ホッ

トラインにも電話できず、家族や友人にも話すことができない世代特有の悩みを、

安心して相談し、また励まし合うことができる。

Stupid Cancerは、もともと保有していたAYA世代がん患者のネットワークか

ら初期ユーザーを獲得しており、2016年までに全世界で50万人にサービスを届

けることを目指している。ヘルスケア領域の事業に特化したNVIDIA財団等から

の財政的支援に加え、全米の主要な6つのがん研究機関をはじめとしたがん医療

の専門家たちがサイト運営を強力にバックアップしているため、ユーザーはより

信頼性の高い情報を得ることができる。さらに、治療ゆえに金銭的な困難を抱え

る患者に対して、学生ローンも提供している。

若年層のがん当事者が世代特有の悩みを誰にも相談できず孤立している 同年代のがん患者やがんサバイバーに安心して相談SNSの提供

解決策と今後の展望

サービス概略図

• がん患者の個別の状況に応じた相談者を紹介し、SNS上で交流

19

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代表者 Heejae Lim

設立 2015年

活動地域 アメリカ

事業内容 教師と外国人保護者のコミュニケーション支援サービスの提供

当事者 外国人居住者

海外事例#06 Talking Points

Talking Points

自動翻訳システムで教師と外国人保護者の円滑なコミュニケーションを実現

Talking Pointsのデータによると、アメリカ全土において初等教育下の生徒

(12歳まで)のうち20%以上は英語を母国語としていない児童であり、その比

率は2030年までに40%に達する。移民の多いカリフォルニア州では、すでに

公立小学校児童の43%が自宅で外国語を話しており、話されている言語の数は

ベイエリアだけでも112にのぼるといわれる。その結果、保護者が英語を話す

ことができないために、教師と保護者が必要なコミュニケーションを取らずに

いる状況がある。

親の社会的地位がその子供の学業における成功に影響を与えるというのは多

くの人が知るところだが、ミシガン州の教育委員会によれば、子供の教育に対

する親の関わり方はその2倍影響を与えるという。そして、親の関与を高める鍵

は、教員と親のコミュニケーションにある。現状では、スペイン語などいくつ

かの限られた言語への翻訳技術を用いて教師と保護者のコミュニケーションを

促すサービスは存在するものの、主要な外国語以外を話すマイノリティには提

供されていない。

当事者が抱える課題

Talking Pointsは、2015年8月に、自動翻訳機能を備えた教師と保護者、そし

て児童のためのメッセージプラットフォームの提供を開始した。教師や保護者が

送ったショートメッセージは、自動翻訳機能を通して受け手の使用言語に翻訳さ

れる。これまでにも類似のサービスは存在したが、Google翻訳のシステムを利

用することで、受け手側が200以上の言語から自分の母国語を選ぶことができる

のがポイントだ。このプラットフォームを利用する保護者が、子どもの学校での

様子や成績について関心を持ち、家庭内教育の改善に結びつけることを狙う。

テクノロジーを用いて社会的課題の解決を目指す非営利組織向けの世界的なビ

ジネスコンテストであるGoogle Impact Challengeでは、2015年のファイナリ

ストに採択された。現状ではWebブラウザのみでサービスを提供しているが、

対象となる児童の保護者の9割が携帯電話を日常的に使用しているというデータ

をふまえ、モバイルアプリの開発にも注力している。併せて、保護者により積極

的に子どもの教育に関わってもらうために、授業への参加率や学業成績を分析す

るツールをプラットフォームに開発する予定だ。2年以内に、100万人にサービ

スを届けることを目標としている。

教師と英語を話せない保護者との間にある言語コミュニケーションの壁 200以上の言語にGoogle翻訳機能で対応するメッセージプラットフォーム

解決策と今後の展望

サービス概略図

• 教師の言葉を「Talking Points」を通じて、親が使う言語に翻訳して届ける

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代表者 Thibault Duchemin・Pieter Doevendans・Skinner Cheng

設立 2014年

活動地域 アメリカ

事業内容 聴覚障がい者音声テキスト化サービスの提供

当事者 聴覚障がい者

海外事例#07 Ava

Ava

グループ会話を即時にテキスト化して聴覚障がい者が不自由なく会話に参加できる

アメリカ国立聴覚・伝達障がい研究所の調査によれば、アメリカには約1500

万人の聴覚障がいを持つ成人が生活している。これらの人々が日常生活や仕事

で健常者とコミュニケーションをするには支援が必要だ。1対1の会話について

は、手話、読唇術、筆談などのほか、補聴器などの支援機器に頼ることもでき

る。また、耳に障がいがあってもひとりで電話をかけられるように、コールセ

ンターにいるオペレーターが電話の相手先(聴者)とのコミュニケーションを

仲介し、文字や手話でサポートしてくれるサービスも普及している。

しかし、3人以上の会話においては、それらの手法やサービスに頼ることは想

像以上に困難だ。グループ会話では、話の方向性やトーンが急に変化したり、1

度に何人もの人が発話したりすることもあり、会話は目まぐるしく展開してい

く。また、発話する人のくちびるの動きを読むことも難しく、会話についてい

けなかったり、重要なことを聞き逃がしてしまうこともある。これらの理由か

ら、聴覚障がいを持つ人は、様々な意見が飛び交う会議やパーティで発言する

ことへの気後れや、疎外感を感じることになる。

当事者が抱える課題

Avaが開発中の「Transcense」は、複数人の会話を個別に認識し、スマート

フォンやタブレットのスクリーン上にテキストで表示するアプリだ。会話に参加

する人がTranscenceをインストールすると、デバイスがマイクの役割を果たし、

複数の音声が同時に文字に変換される。話し手一人ひとりに異なる色の吹き出し

が割り当てられるので、聴覚障がい者は誰が何を話しているのかをスクロールし

て読むことができる。聞き取りからテキストへの変換まで1秒以内という高速変

換を実現。アプリは音声認識システムと分散型マイクシステムで成り立っており、

前者で会話の内容をテキスト化し、後者で話している人を識別する仕組みだ。

創業者3人のうち、Chengは2歳の時から聴覚障がいを持ち、Ducheminはろ

う者の家族と共に育ったこのチームは、2014年にAT&Tとニューヨーク大学が

主催するビジネスプランコンテストに参加。聴覚機能訓練士、発話行動のスペ

シャリスト、聴覚障がい者など300人以上へのヒアリングをもとにTranscence

を設計し、フィードバックを受けながら現在試作サービスを改善している。

2016年中にリリースを予定しており、価格は年額360ドル(予定)と、一般の

手話通訳(1時間当たり70~120ドル)より圧倒的に安価だ。このサービスが普

及することにより、聴覚障がい者の支援にかかる行政コストの削減も見込まれる。

聴者とのグループ会話についていけないことによる参加への気後れや疎外感 複数人の会話をモバイル端末上の画面にリアルタイムでテキスト表示

解決策と今後の展望

サービス概略図

• 複数人数の会話を個別に認識し、聴覚障がい者の端末上にテキスト表示

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海外事例#08 Saida

Saida

代表者 Kenneth Ngetha・Kyale Mwendwa

設立 2015年

活動地域 アフリカ

事業内容 ビッグデータを活用した貧困層向け小口融資サービスの提供

当事者 貧困層住民

スマートフォンの利用履歴を解析することによって融資希望者への審査をデジタル化

世界銀行によると、サブサハラ・アフリカ地域において、2011年に24%で

あった口座を持つ成人の割合は2014年には34%に上昇した。中でもケニアの口

座を持つ人の割合は最も高く、成人の実に58%がモバイル口座を持っている。

同様に、アフリカでは貧困層へのスマートフォンの普及も進んでいるアメリカ

の著名なシンクタンクであるPew Research Centerの調査によると、ケニアの

携帯電話所有率は過去10年間で9%から82%にまで急激に上昇した(2014年時

点)。スマートフォンの普及率は15%にとどまっているものの、市場に出回る

携帯電話に占めるスマートフォンの割合の高さから、今後数年間で急速に普及

が進むと予測されている。

同国は、通常の銀行融資を受けることのできない貧困層に向けた画期的な金

融サービスとして知られるマイクロファイナンスについても、周辺国に比べて

普及が進んでいるといわれるが、問題は高い貸出金利だ。2012年のJETROの調

査によると、同国のマイクロファイナンス機関は、顧客に対して一般に15~

23%の金利を課している。高金利の背景には、借り手の信用力判定が難しく、

情報取得や審査にかかる取引コストが高いことが挙げられる。そのため、限ら

れた層しか対象にできていないという現状がある。

当事者が抱える課題

Saidaは、モバイル端末に蓄積された利用履歴から機械学習を通して借り手の

信用力を評価し、その結果に基づいて30日~60日程度の短期融資を行っている。

アフリカでは主流のプリペイド携帯のチャージ記録や通信代の使い道、過去の

ローン記録などの情報に基づいて、融資限度額や融資利率を提示する。現在の主

な対象は、スマートフォンを日常的に利用し、自営業を営んでいるまたは仕事を

持っているが、クレジットカードを持っていない層である。融資リスクを早く正

確に把握することによって、適切な個人に必要なだけの資金を届け、貧困から脱

出するためのシナリオを描いてもらう。

Saidaは、Y-Combinatorに2015年に選出され、ケニアを中心としたアフリカ

地域でサービスを開始したばかりであるが、同年8月時点ですでに8,100件の

ローンを実行している。今後、アフリカ以外の途上国地域へも展開していく計画

だ。このように、銀行などの従来の金融インフラを利用しない新しい手法を用い

た小口融資の仕組みは、新興国や先進国に応用が可能だ。著名なインパクト投資

機関であるOmidyar Networkの予測によると、このようなビッグデータを活用

して小口融資を受けられる可能性のある層は、6つの主要な新興国(中国・ブラ

ジル・インド・メキシコ・インドネシア・トルコ)だけで3億2,500万人から5億

8,000万人に達するという。

高い貸出金利によって小口融資を受けることができない モバイル端末内のビッグデータから信用力を評価し融資限度額を自動算出

解決策と今後の展望

サービス概略図• モバイル端末上の行動記録から信用力を計算し、それ

ぞれに合った利率と返済期限を自動設定• ローンチ後、半年間で8100件の融資を実行

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ICTが果たしうる4つの役割

本調査の結果を踏まえて、マイノリティが抱える課題解決にICTが果たしうる

役割を、私たちは以下の4つに整理した(詳細は次ページで説明)。

a. 当事者同士をオンラインで「結びつける」

b. 当事者や支援者の知性・身体能力を「拡張する」

c. 人間による支援サービスを「機械化する」

d. 当事者特有の問題を社会へ「発信する」

いかに個々の組織の事業を成長させるか?ではなく、いかに課題解決がより

早く、効果的に進むか?という視点で考えるとき、ICTの役割の本質は、「マ

イノリティである当事者自身が問題を解決する力、および当事者のまわりの

支援の生態系(エコシステム)を豊かにすること」にあるといえる。

当事者が抱えている問題のみに焦点を当てるのではなく、「当事者同士のコ

ミュニティ(a)」「支援者(専門家や行政によるサービス)(b, c)」、そ

してその周りに存在する「企業・政府・市民(d)」という生態系の全体を俯

瞰して、どこにアプローチすれば問題が自律的・継続的に解決されうるかを

把握することが重要だ。

考察

考察①「マイノリティが抱える課題解決に、ICTはどのような役割を果たしているか?」

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マイノリティが抱える課題とは

まずはマイノリティが抱える課題について整理したい。マイノリティという

言葉が指す対象は広く、全体を一般化して論じることはできないことを前提

としつつ、私たちはマイノリティの特徴、起こっている問題、そしてそれら

の人々が抱えている課題を以下のように捉えている。

この整理に基づいて、本レポートでは「マイノリティが抱える課題解決」を、

『マイノリティに属する人々が抱える「社会からの疎外感」を解消または和

らげ、「自立した生活や社会参画」を実現する仕組みを創り出すこと』と定

義した。

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考察

考察①「マイノリティが抱える課題解決に、ICTはどのような役割を果たしているか?」

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当事者同士をオンラインで「結びつける」

当事者のコミュニティ化による相互支援のしくみづくり

当事者同士が励まし合うことのできるコミュニティとして、SNSをはじめとするソーシャル

メディアが活用されている。U2plus(うつ)やStupid Cancer(若年層のがん)、

Letibee(LGBT)は、同じ経験や悩みを持つ仲間とゆるやかに結びつく機会をオンライン

上で提供し、当事者の疎外感を和らげている。AsMamaは、「子育てをシェアしたい」と

いうニーズがあるにもかかわらずこれまで結びついていなかった同じ区域に住む育児世代を、

リアルでの交流イベントとオンラインのサービスによってつなぎ、地域での相互扶助のしく

みづくりを目指している。これらの組織に共通している強みは、サービス提供者自身も課題

を抱える当事者を中心に構成されており、顧客からの共感や信頼を得やすい点にある。また、

一旦ユーザー同士の信頼関係が構築されると、さまざまな情報やニーズがそこに持ち込まれ

るため、単に特定の課題を解決するサービスであること以上の価値が生まれる。

代表事例 U2plus・Letibee・Stupid Cancer・グローバルコンテンツ・PADM・AsMama

人間による支援サービスを「機械化する」

デジタル化による劇的なサービスコストの低下と品質の標準化

膨大に蓄積されたデータからパターンを抽出して最適解を導き出す。従来は人間が行って

いたこの作業をコンピュータが代替することによって、情報を収集・解釈するコストを大幅

に削減することができる。多種多様な政府の社会保障サービスに関する情報を一元化し、利

用者に合わせて受給資格のある支援サービスを自動で提案するSingle Stopは、その典型例

だ。また、ウェルモも、膨大な介護福祉データを収集した先には、介護希望者の状況や好み

に基づいて最適な施設を直接推薦することも可能になるだろう。両者とも、行政や教育機関

から出されているオープンデータを上手く活用して、データ蓄積を行っている。このような

支援サービスのデジタル化は、コストの低下に加えて、サービス品質の標準化にもつながる。

例えば、データベースの活用によって介護士間の経験や専門性の差が小さくなれば、新人で

も一定レベルの支援ができるようになる。

当事者や支援者の知性・身体能力を「拡張する」

当事者自身による問題解決をサポート/支援者の負担を軽減

従来のマイノリティに向けた支援サービスは、一般的に品質やコストなどの点で充実して

いるとは言えなかった。いま、ICTの進化と普及はこの状況をダイナミックに変えつつある。

PADMは、全世界の人々が持つバリアフリー情報を、インターネット上に作られるマップ

という形式で統合して利用できるようにすることによって、車いすユーザーが外出するう

えでの障壁を自ら把握し、適切な対処ができるようにサポートしている。シュアールは、

高価なうえに気軽に利用することのできなかった従来の手話通訳士派遣サービスに代えて、

モバイル端末とビデオチャットを活用した遠隔手話通訳を提供。手話通訳士の移動コスト

をゼロとし、これまでよりはるかの多くの人に届けられるサービスへと進化させた。いず

れの事業者も、顧客の行動特性や支援現場への深い理解に基づき、当事者の自立した生活

や社会参画が可能となることを軸としてサービスを設計している。

当事者特有の問題を社会へ「発信する」

問題の存在や深刻さを認知・理解させて行政・市民を動かす

ICTを活用することによって、当事者やその直接の支援者のみならず、それらをとりまく

行政や企業、そして市民を課題解決の担い手として巻き込んでいくことができる。日本で

はまだ例が少ないが、マイノリティに関するデータを可視化することによって政府を動か

すことは、一つのトレンドだ。例えばIntegrity Actionは、途上国の開発プロジェクトの

進捗状況を可視化して、今まで政府や国際機関の目が届かなかった汚職を市民やNGOがモ

ニタリングすることを可能にした。またPADMも、バリアフリーマップをつくることに

よって、行政や各種施設に対して、どこに障がい者向けの支援が行き届いていないかを可

視化した。さらに、このマップ作成自体に当事者の家族や友人などを巻き込んでいくこと

は、健常者が車いすユーザーの困り事に対して関心を持ち、理解を深めるきっかけになる。

マイノリティを生きづらくしている社会の側を変えていくことは、課題解決を真に加速さ

せるうえで非常に重要なアプローチだ。

a b

c d

代表事例 PADM・シュアール・ウェルビー・ウェルモ・いろどり・Talking Points

代表事例 PADM・Integrity Action代表事例 aba・ウェルモ・Single Stop・Care Message・Saida・Ava

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考察

考察②「課題解決がより加速するためには何が必要か?」

①アイデアの壁

社会的課題とビジネスや技術の知見が結びつかない

マイノリティの目線に寄り添ったソリューションのアイデアを生み出す

には、課題自体への深い理解に加えて、ビジネスやテクノロジーの知見

が必要となる。それぞれに異なる知見を備えたエキスパート同士が対話

や議論をすることで革新的なアイデアが生まれる可能性があるが、その

ような場をコーディネイトする機能が不足している。

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③サービス開発の壁

プロトタイプを検証する機会を獲得しにくい

病院や介護施設、教育機関や外国人居住地など、閉鎖的で参入障壁が高

いと思われる場所で生活している人々が多いのも、マイノリティ一般に

見られる特徴だ。この場合、支援サービスのプロトタイプを検証可能な

現場を見つけたり、マイノリティと一緒にサービスを開発したりするこ

とに苦労するケースが多い。

④ビジネスモデルの壁

十分かつ安定的な収益基盤を確立できない

絶対数が少なく、経済的に困難な状況下にあることが多いマイノリ

ティに対して、ビジネスを成り立たせるだけのサービス対価を要求す

ることは難しい。さらに、当事者のコミュニティが形成されていない

(または形成されているがリーチできない)場合には、サービスの

マーケティングや販売のコストも大きく上昇する。

②当事者理解の壁

ニーズを客観的に理解するためのデータが不足

マイノリティは、その絶対数の少なさと抱えている問題の多様さから、

一般にニーズの把握が進んでいない。行政による調査は後回しになり

がちで、企業(市場)にもその動機がないため既存のデータが少なく、

課題を客観的に分析し手を打つことが難しい。

直面しうる「4つの壁」を打破するには?

マイノリティが抱える課題の解決が自律的に加速していくためには、社会に

どのような仕掛けが必要だろうか?

さまざまなNPOやソーシャルベンチャーの試行錯誤をヒアリングする過程で、

この領域の課題解決を目的とした事業の立ち上げにおいて担い手が直面しう

る「4つの壁」が浮かび上がってきた。また、これらの壁は、社会的課題領域

へのICT活用が比較的進んでいると言われる米国との対比において、とりわけ

顕著であると考えられる。

それでは、これら4つの壁を、先駆者たちはどのように突破しているのか?ヒ

アリングの結果および海外の先行事例調査などを踏まえ、ここでは突破の鍵

になると考えられる4点を挙げた(詳細は次ページで説明) 。

ポイントはここでも、「当事者をとりまく生態系全体を俯瞰して、必要な手

立てを打つこと」だ。当事者の困り事に対症療法的にアプローチする人を支

援するよりも、問題が自律的に解決されていく仕組みをつくる真の変革者た

ちを、社会全体でバックアップすることが不可欠である。

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考察

考察②「課題解決がより加速するためには何が必要か?」

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パートナーの強みや資産を活用せよ

NPOやソーシャルベンチャーが持つ最大の強みは、それぞれの活動領域/地域の現場エキス

パートとしての知見とノウハウ、そして革新的なソリューションの選択肢だ。一方、社会

的課題の解決という側面における大企業の強みは、豊富な顧客基盤やそこにリーチする

チャネルにある。両者は、顧客調査から事業モデルを設計し立ち上げていく一連の事業開

発プロセスにおいて、一貫して連携可能性がある。ウェルビーは、がん患者および医師向

けの事業立ち上げに際し、徹底した顧客ヒアリングの実施からサービス開発、提携先医療

機関の拡大に至るまでを、資金提供元である製薬会社のネットワークを活かして推進して

いる。製薬会社側にも、自社製品の認知向上や顧客接点獲得のメリットがある。シュアー

ルは、企業への遠隔手話通訳の導入のみならず、企業内での定着支援のコンサルティング

までを提供し、増大する企業の障がい者のキャリアアップサポートに対する需要に応えな

がら、サービス導入先を拡大している。どちらも、ソーシャルベンチャーと大企業が双方

にメリットのある形でパートナーシップを結び、お互いの強みや資産を上手く活用して、

当事者により広くソリューションを届けている好事例だ。

協働にオープンであれ

今回の調査のヒアリング結果から、サービスを開発する側の起業家は、一見参入障壁が高

いと思われる医療や介護、教育などの現場に入り込むために、さまざまな工夫をしている。

abaの宇井氏は、開発中の高齢者向け排泄検知シートが現場でどのように活用されるかを知

るために介護の世界に飛び込み、介護職として勤務しながら試作品実証の場を獲得してい

る。こうした地道な取り組みに加えて、製薬会社と組んで医療機関に切り込むウェルビー

や、自治体と関係を築きながら介護施設を開拓するウェルモのように、企業や行政など信

用力の高いプレイヤーと組むことも、現場開拓の鍵になる。他方で、病院や介護施設など

におけるニーズ調査やプロトタイプの検証を受け入れる姿勢の有無は、その分野に画期的

なソリューションが生まれるかどうかに大きな影響を与える。例えば米国では、イノベー

ション・センターと呼ばれる起業家向けの施設を併設している病院や、患者に対するテク

ノロジーの活用を推進する役職を置く病院がある。現場側がこのような協働体制を整備す

ることによって、先駆的な事例が多く生み出されるだろう。

レバレッジポイントに投資せよ

複雑化する社会的課題に対するこれまでに無いアプローチでのアクションは、高い志と柔

軟性を持って大企業や行政を巻き込んでいく起業家が起点となって生まれることが多い。

彼らがスタートアップの段階で必要なリソースの提供を受けられるかどうかは、サービス

の仮説検証や開発を加速させるうえで非常に重要である。先見性をもった企業は、深刻な

社会的課題の解決の先に広がる巨大な成長市場の可能性に気づき、積極的な投資を行って

いる。世界で最も有名なインキュベーターであるY-Combinatorは、2013年より非営利向

けの投資枠を設定し、2014年には市民団体とデータサイエンティストをつなぐ組織を立ち

上げた。Googleは、世界8カ国で開催する「Google Impact Challenge」にて、受賞者へ

の資金提供のみならず、いわゆる「20%ルール」を活用して自社エンジニアをサービス立

ち上げに参画させている。また、米通信大手のAT&Tは、ニューヨーク大学内にある、障

がい者向けの技術開発に特化したアクセラレータプログラム「ConnectAbility」を2015年

から運営している。日本においても、社会変革に向けたビジネスの種やアクションの起点

となる担い手を、大企業を含む社会全体で支えていくことが望まれている。

A B

C D

当事者の真の課題やニーズを把握せよ

当事者が抱える課題の根本原因は何かを理解し、ニーズを深く掘り下げる姿勢は、社会変

革を志すリーダーにとって不可欠な要素だ。ウェルモの鹿野氏は、8カ月間かけて全国の介

護事業所を訪問して業界が抱える課題構造を俯瞰で捉え、「利用者が共通の基準に基づい

て良い介護施設(事業者)を選択できるようになること」が業界構造自体を変革していく

鍵になるという仮説を立てた。AsMamaの甲田氏は、1,000を超える子育て中の母親への

街頭アンケートを通して、母親同士が助け合わないのは、子育て支援を求める人と支援し

たい人の双方の遠慮によるものだ、と気づいたことをきっかけとして「ママサポーター制

度」をつくった。一方で、エンジニアが当事者の抱える課題を深く掘り下げ、ソリュー

ションを見出す機会としてハッカソンやアイデアソンが開催される例も増えてきた。例え

ば、テクノロジーを活用した市民主体型の地域課題解決を目指す中間支援団体である米国

Code for Americaは、ホームレスが抱える課題に特化したハッカソンを主催しており、

2014年度は100名近い技術者やホームレス支援団体を集めた。

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出典

出典

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NPO法人PADM--------------------------------------------------------------------NPO法人PADM ホームページhttp://enigata.com/みんなでつくるバリアフリーマップ ホームページhttp://b-free.org/日本福祉タクシー協会http://www.fukushi-taxi.com/job.html

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ml

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株式会社U2plus------------------------------------------------------------------------------U2plus ホームページhttps://u2plus.jp/pages/1-cbt厚生労働省「平成26年度患者調査」http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/10-20-kekka_gaiyou.html株式会社LITALICO「LITALICO、ユーツープラスよりうつ病の方向けWEBサービス「U2plus」事業譲受で合意」http://litalico.co.jp/news/9395

株式会社Letibee------------------------------------------------------------------------------Nesty ホームページhttp://nesty.me/#/landing株式会社電通「電通ダイバーシティ・ラボが「LGBT調査2015」を実施」http://www.dentsu.co.jp/news/release/2015/0423-004032.htmlNPO法人虹色ダイバーシティ「LGBTに関する職場環境アンケート2015」http://www.nijiirodiversity.jp/wp-content/uploads/2015/09/7837de8ca9f4c38709eba5c8796f421b.pdf

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出典

出典Care Message-------------------------------------------------------------------------------Care Message ホームページhttp://caremessage.org/about/Venture Beat “Care Message raises $6M for text-based patient outreach platform” http://venturebeat.com/2015/01/22/caremessage-raises-6m-for-text-based-patient-outreach-platform/Forbes “Y Combinator Startup Care Message Takes Health Care To Low-Income Patients"http://www.forbes.com/sites/tomiogeron/2014/05/10/y-combinator-startup-caremessage-takes-health-care-to-low-income-patients/

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Saida---------------------------------------------------------------------------------------Saida ホームページhttp://getsaida.com/#page-top世界銀行「銀行口座を持たない人の数が大幅に減少」http://www.worldbank.org/ja/news/press-release/2015/04/15/massive-drop-in-number-of-unbanked-says-new-reportJETRO「金融事情 ケニア BOP実態調査レポート」https://www.jetro.go.jp/ext_images/theme/bop/precedents/pdf/lifestyle_finance_ke.pdfTech Crunch “YC-Backed Saida Wants To Bring Short-Term Loans To People In Emerging Markets”http://techcrunch.com/2015/07/31/saida-tktk/Pew Research Center “Cell Phones in Africa: Communication Lifeline Texting Most Common Activity, but Mobile Money Popular in Several Countries” http://www.pewglobal.org/files/2015/04/Pew-Research-Center-Africa-Cell-Phone-Report-FINAL-April-15-2015.pdfOMIDYAR NETWORK “BIG DATA, SMALL CREDIT”https://www.omidyar.com/sites/default/files/file_archive/insights/Big%20Data,%20Small%20Credit%20Report%202015/BDSC_Digital%20Final_RV.pdf

Ava------------------------------------------------------------------------------------------Ava ホームページhttp://www.ava.me/DEVPOST “ava - true autonomy to the deaf and hard of hearing”(http://connectability.devpost.com/submissions/38477-ava-true-autonomy-to-the-deaf-and-hard-of-hearingTech Crunch「聴覚障がい者と会話ができるアプリ。手話は不要」http://jp.techcrunch.com/2014/10/15/20141014an-app-that-lets-you-converse-with-the-deaf-o-sign-language-necessary/インテルiQ「モバイル・テクノロジーが聴覚障がい者の暮らしを変える」http://iq.intel.co.jp/mobile-technology-for-the-deaf-and-hearing-impaired/

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株式会社NTTドコモ

株式会社NTTドコモは、1992年の営業開始以来、企業理念である「新しいコミュ

ニケーション文化の世界の創造」に向け、日本におけるモバイル通信サービス事

業のリーディング・カンパニーとして、新たな市場を切り開き続けています。

2015年3月からは光ブロードバンドサービスにも事業を拡大し、包括的な通信

サービスを提供する企業へと進化しました。また、多様化するお客さまのニーズ

にお応えするため、世の中の様々なパートナーの皆さまとのコラボレーションに

より新たな付加価値を創造する「協創」の取り組みを進め、新たなサービスやビ

ジネスを創出し生活をより豊かにするとともに、産業の活性化や様々な社会的課

題の解決に貢献する「付加価値協創企業」をめざしています。

NPO法人ETIC.(エティック)

NPO 法人 ETIC.は、1993 年、学生起業家の全国ネットワーク組織として活動を

開始しました(2000 年に NPO 法人化)。自ら社会に働きかけ、仕事を生み出

していく起業家型リーダーの育成に取り組み、これまで約 400 名以上の起業家

を輩出しています。1996 年より中小・ベンチャー企業や NPO での長期実践型

インターンシッププログラムを事業化。2001 年には社会起業家育成・支援をス

タートし、日本初の社会起業のビジネスプランコンテスト「STYLE」ほか、「社

会起業塾イニシアティブ」等のプログラムを手がけています。2004 年からは、

全国の地域における人材育成を支援するチャレンジ・コミュニティ・プロジェク

トを開始し、現在全国 60 地域に広がっています。2011 年からは震災復興支援

にも注力。コミュニティ再生、産業復興等、東北全域の約 100 プロジェクトに

これまで 200 名の右腕を送り込んでいます。

[https://www.nttdocomo.co.jp/]

[www.etic.or.jp]

Leveraging Mobile ICT for Minorities

~マイノリティの未来を拓く起業家たちの挑戦~

2016年3月29日発行

本書の無断複写・複製・転載を禁じます。

© 2016 NTT DOCOMO, ETIC.

発行 株式会社NTTドコモ

NPO法人ETIC.