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水槽実験によるヤツマタモク Sargassum patens の母藻重量と 幼体供給数の関係(短報) 濵岡秀樹 * Relationship between total weight of mature thallus and number of immatures supplied in Sargassum patens using a tank experiment (Short Report) Hideki HAMAOKA * Abstract A tank experiment was conducted to determine the relationship between weight of the thallus of a mature Sargassum patens and the number of supplied immatures. The experiment showed that supplied immatures exponentially increased with the weight of mature thalli, reaching up to 36000 immatures. The statistical model indicated that 36000 immatures were obtained from approx. 2000g of mature Sargassum patens. Moreover, the model showed an upper limit on the density of supplied immatures. Although more detailed research is required in order to directly apply the result of this study to field data, these results should help to show the balance between supply and death of immature individuals of Sargassum species. キーワード:ヤツマタモク, 幼体供給数, 母藻重量 母藻投入や母藻移植はガラモ場の造成技術における代表的な 手法として古くから知られており, 沿岸地域で広く行われてき 1) 。一方で, 上記の手法により効率的に藻場造成及び維持拡大 を図るためには, 用いる海藻種の生態的特性を十分に把握する ことも重要である。特に, 藻場の盛衰は海藻の生産量と枯死量の バランスによって決まるため 2) , 種ごとの再生産能力を把握する 必要がある。本研究では, 本県沿岸域に広く分布するヤツマタモ Sargassum patens を用いて, 母藻の重量と供給される幼体数の 関係を水槽実験によって明らかにしたので報告する。 材料及び方法 2018 6 8 日に新潟県佐渡島大川地先に生育するヤツマタ モクを潜水によって採集した。採集した藻体から母藻として雌 個体のみを選別し, 総重量(g )が異なるように 5 つの束に分け た(Table 1)。5t 水槽に水深が約 1m となるようにろ過海水を入 , コンクリート製のパネル(90cm×90cm)を沈設した。母藻の 束の付着器付近を100g の沈子とともにクレモナロープで結束し, パネル中央に静置した。水槽には毎分 2.5L のろ過海水を静かに かけ流した。実験時の水温と照度は水温・照度ロガー(HOBO UA-002, 米国オンセットコンピュータ社)を用いて毎日正午に 計測した。水温は水槽底面上, 照度は水面で計測した。実験開始 から 21 日後, パネルに付着しているすべての幼体数を計測した。 母藻重量と供給された幼体数の関係を明らかにするために, 3 つのモデルを作成した。第 1 のモデルは線形モデルで, 母藻重量 と幼体数は線形の関係であることを仮定し, 次式で表した。 R=a1Y+a 2 2 のモデルは累積モデルで, 母藻重量が多いほど幼体数は指 数的に増加することを仮定し, 次式で表した。 R=a3Y a4 3 のモデルはロジスティックモデルで, 母藻重量が多いほ 報文番号 117 2019 11 27 日受理) * 新潟県水産海洋研究所 (Niiigata Prefectural Fisheries and Marin Research Institute, Niigata 950-2171 新水海研報 5, 3 -5 (2020) Bull. Niigata Pref. Fish. Mar. Res. Inst. 3

水槽実験によるヤツマタモク Sargassum patens の母藻重量 …...クSargassum patensを用いて, 母藻の重量と供給される幼体数の 関係を水槽実験によって明らかにしたので報告する。

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Page 1: 水槽実験によるヤツマタモク Sargassum patens の母藻重量 …...クSargassum patensを用いて, 母藻の重量と供給される幼体数の 関係を水槽実験によって明らかにしたので報告する。

水槽実験によるヤツマタモク Sargassum patens の母藻重量と 幼体供給数の関係(短報)

濵岡秀樹*

Relationship between total weight of mature thallus and number of immatures supplied in Sargassum patens using a tank experiment

(Short Report)

Hideki HAMAOKA*

Abstract

A tank experiment was conducted to determine the relationship between weight of the thallus of a mature Sargassum patens and the

number of supplied immatures. The experiment showed that supplied immatures exponentially increased with the weight of mature

thalli, reaching up to 36000 immatures. The statistical model indicated that 36000 immatures were obtained from approx. 2000g of

mature Sargassum patens. Moreover, the model showed an upper limit on the density of supplied immatures. Although more detailed

research is required in order to directly apply the result of this study to field data, these results should help to show the balance

between supply and death of immature individuals of Sargassum species.

キーワード:ヤツマタモク, 幼体供給数, 母藻重量

緒 言

母藻投入や母藻移植はガラモ場の造成技術における代表的な

手法として古くから知られており, 沿岸地域で広く行われてき

た 1)。一方で, 上記の手法により効率的に藻場造成及び維持拡大

を図るためには, 用いる海藻種の生態的特性を十分に把握する

ことも重要である。特に, 藻場の盛衰は海藻の生産量と枯死量の

バランスによって決まるため 2), 種ごとの再生産能力を把握する

必要がある。本研究では, 本県沿岸域に広く分布するヤツマタモ

クSargassum patensを用いて, 母藻の重量と供給される幼体数の

関係を水槽実験によって明らかにしたので報告する。

材料及び方法

2018年 6月 8日に新潟県佐渡島大川地先に生育するヤツマタ

モクを潜水によって採集した。採集した藻体から母藻として雌

個体のみを選別し, 総重量(g)が異なるように 5 つの束に分け

た(Table 1)。5t水槽に水深が約1mとなるようにろ過海水を入

れ, コンクリート製のパネル(90cm×90cm)を沈設した。母藻の

束の付着器付近を100gの沈子とともにクレモナロープで結束し,

パネル中央に静置した。水槽には毎分 2.5Lのろ過海水を静かに

かけ流した。実験時の水温と照度は水温・照度ロガー(HOBO

UA-002, 米国オンセットコンピュータ社)を用いて毎日正午に

計測した。水温は水槽底面上, 照度は水面で計測した。実験開始

から 21 日後, パネルに付着しているすべての幼体数を計測した。

母藻重量と供給された幼体数の関係を明らかにするために, 3

つのモデルを作成した。第1のモデルは線形モデルで, 母藻重量

と幼体数は線形の関係であることを仮定し, 次式で表した。

R=a1Y+a2

第 2 のモデルは累積モデルで, 母藻重量が多いほど幼体数は指

数的に増加することを仮定し, 次式で表した。

R=a3Ya4

第3のモデルはロジスティックモデルで, 母藻重量が多いほ

報文番号117(2019年 11月 27日受理) * 新潟県水産海洋研究所 (Niiigata Prefectural Fisheries and Marin Research Institute, Niigata 950-2171)

新水海研報       5, 3 -5 (2020) Bull. Niigata Pref. Fish. Mar. Res. Inst.

- 3 -

Page 2: 水槽実験によるヤツマタモク Sargassum patens の母藻重量 …...クSargassum patensを用いて, 母藻の重量と供給される幼体数の 関係を水槽実験によって明らかにしたので報告する。

Table 1 A result of tank experiment.

Period Temperature (℃)

Illuminance

(Lux) Tank No. Total wet weight of mature

thallus (g)

Number of immature

thallus Max Min Max Min

08-Jun-2018

to

28-Jun-2018

16.7 20.4 22045 1722

1 111 3230

2 287 6018

3 500 13773

4 998 20940

5 4731 36158

ど幼体数は増加するが, やがてその数は飽和することを仮定し,

次式であらわした。

R=a5/(1+exp((a6Y)/a7))

ここで, Rは供給された幼体数, Yは母藻重量, a1~a7はモデルパ

ラメータを示す。供給された幼体数の誤差は正規分布に従うと

仮定した。それぞれのモデルパラメータは R 3.4.2 3)と nlme

packageのnls関数を用い, 最小二乗法で推定した。各モデルの比

較には赤池情報量基準(Akaike Information Criteria: AIC)を用い,

最も低いAIC値を示したモデルを最適なモデルとした。

結 果

実験期間中の水温は約 17~20℃, 照度は 22045~1722 Luxで

変動した。また, 実験期間を通してヨコエビ類や小型巻貝類など

の植食者は観察されなかった。水槽内に設置したヤツマタモク

藻体の一部は水面まで達し水平方向に伸長していたが, 藻体が

パネルの外側にまで達することはなかった。実験に用いたヤツ

マタモクは実験開始時に生殖器床が確認でき, 実験終了後のパ

ネル上には約1.5㎜の幼体が数多く観察された。そして, 供給さ

れた幼体数は母藻重量が多いほど多い傾向があった(Fig. 1 &

Table 1)。特に, 最も多く母藻を供給した水槽では, コンクリート

パネル全面に幼体が密生していた。幼体はパネル外にも付着し

ており, 本実験では計測できなかったが, パネル上の数と比較す

るとその数は非常に少なかった。実験終了後, 各水槽において供

給した母藻は水槽底面に沈降していた。3つのモデルの中で最も

AICが低かったモデルはロジスティックモデルであった(Table 2)。

また, ロジスティックモデルでは母藻重量がおおよそ 2000g 程

度で供給された幼体数が頭打ちになっており, その数の平均は

約36000本であった。数は0.482であった。ΔAICが2未満のモ

デルは最適モデルを含め 6 つあり, すべてのモデルで 水深と底

質の偏回帰係数は正の値, 海藻被度の偏回帰係数は負の値を示

した(Table 2)。

考 察

ヤツマタモクの生態に関しては多くの研究が行われており,

その成熟期の水温は 17~26℃と報告されている 4, 5, 6)。また, 卵

放出は2~3回あり, 1回の放出は3~5日続くと言われている5)。

本研究ではすべての生殖器床が卵放出を完了していたかどうか

については確認していないが, 実験期間中の水槽内の海水温が

ヤツマタモク成熟期の水温の範囲内であったこと, 実験開始時

には生殖器床も確認できたこと, 実験期間が 21 日間であったこ

と, そして実験終了時に母藻が沈降していたことを考慮すると,

実験に用いた母藻は実験終了時には卵放出を完了していたと考

えられた。

ホンダワラ類では藻体重量と卵放出量の間に指数的な関係が見

出されていることが報告されている(例えば津田 7))。そのため,

母藻の重量が多いほどその卵放出数は増えると考えられる。本

実験でも, 母藻であるヤツマタモクの総重量が多いほど供給さ

れた幼体数は多く, その供給数は指数的な増加を示した(Fig. 1)。

これは, 多くの母藻を使えば卵放出が多くなり, その結果として

供給される幼体数も増えることを意味している。また, 約2000g

の母藻移植により約36000本の幼体が藻体直下の90cm四方に供

Fig. 1 Relationship between total weight of mature thallus and

numbers of supplied immature. The gray line is a fitted line and the

dashed line are 95% confidence interval with logistic model.

濵岡秀樹

- 4 -

Page 3: 水槽実験によるヤツマタモク Sargassum patens の母藻重量 …...クSargassum patensを用いて, 母藻の重量と供給される幼体数の 関係を水槽実験によって明らかにしたので報告する。

給されることも明らかになった。一方で, 本研究における最適モ

デルは母藻重量が増えてもある一定量で供給幼体数に頭打ちが

来ることも示していた。この結果は, 母藻供給によって得られる

単位面積当たりの幼体供給量には上限があることを示している。

Table 2 Estimated parameters and AIC in three models.

Model

No. Model type Estimated parameters AIC

1 Linear model a1=6.34, a2=7618.38 104.12

2

Power

function

model

a3=566.91, a4=0.49 98.95

3 Logistic

model

a5=35983.59, a6=825.88,

a7=387.58 96.32

幼体の生息数を律速する要因には栄養塩や照度など様々な環境

要因が影響していると考えられるが, 本研究での主な要因は生

息する空間の不足であろう。実際, 約4700gの母藻を用いた実験

区ではコンクリートパネル全面に幼体が隙間なく密生しており,

幼体が生育するための空間は観察できなかった。本研究結果は

限定された環境下であるため, 得られたデータを直接野外環境

へ適用するのは難しいかもしれない。そのため, 今後の研究によ

って栄養塩や光量などの環境条件を含めたより多くのデータ蓄

積とモデルの改良を行うことが望まれるが, 本研究結果はホン

ダワラ類の幼体供給量と枯死量のバランスを理解するために有

意義な情報となると考えられる。

要 約

ヤツマタモクの母藻重量と供給される幼体数の関係を明らか

にするために, 水槽実験を行った。その結果, 母藻重量が多いほ

ど設置したパネル上に供給される幼体数は指数的に多くなった

が, やがてその数は約36000本で頭打ちとなった。最適モデルは

約 2000g の母藻から約 36000 本の幼体が供給されることを示し

た。また, 母藻供給によって得られる単位面積当たりの幼体供給

量には上限があることも明らかになった。これらの結果は, 本結

果を野外環境に直接適用するにはさらに検討が必要であるが,

ホンダワラ類の幼体供給量と枯死量のバランスを理解するため

に有意義な情報となると考えられる。

謝 辞

本研究を進めるうえで, 佐渡漁業協同組合両津支所の方々に

は調査の便宜と多大なご協力を賜った。ここに記してお礼申し

上げる。

文 献

1)大野正夫, 寺脇利信, 本多正樹: 南日本のがら藻場の生態と藻

場造成. 沿岸海洋研究ノート, 27, 127-135(1990)

2) 水産庁: 磯焼け対策ガイドライン. (社) 全国漁港漁場協会,

2007, 208p.

3) R Development Core Team: R: A language and environment for

statistical computing. Vienna, R Foundation for Statistical

Computing, 2008, URL: http://www.R-project.org/

4) 谷口和也, 山田悦正: 能登飯田湾の漸深帯における褐藻ヤツ

マタモクとノコギリモクの生態 . 日水研報告 , 29,

239-253(1978)

5) 四井敏雄, 中村伸司, 前迫信彦: 長崎県野母崎沿岸における

ホンダワラ類 8 種の成熟期. 長崎水試研究報告, 10,

57-61(1984)

6) 横山寿, 石樋由香, 豊川雅哉, 山本茂也, 鰺坂哲朗: 五ケ所湾

のガラモ場における生物群集の構造Ⅱ. ホンダワラ類の季節

的消長と海藻類生産量. 養殖研報, 28, 27-37(1999)

7) 津田藤典: フシスジモク雌性体における放出卵数. 北水試研

報, 67, 105-107(2004)

ヤツマタモク母藻重量と供給幼体数の関係

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2018 年に新潟県内で漁獲されたワニエソの一般成分と

蒲鉾の物性について(短報)

中尾令子*

Proximate Composition and Physical Properties of Kamaboko Gel from Lizardfish Saurida wanieso Caught in Niigata, 2018 (Short Report)

Reiko NAKAO*

Abstract

This study examined the proximate composition (moisture, ash, protein, and lipids) of the muscle of lizardfish (Saurida wanieso)

caught in Niigata in 2018. The composition was very similar to lizardfish caught in Nagasaki. The texture of kamaboko made from

the Niigata lizardfish was evaluated by a folding test. The kamaboko made from lizardfish caught in Niigata could be folded into 4

pieces with no cracks and without breaking, equal to the highest grade examined in a folding test with Nagasaki lizardfish. This

shows that like lizardfish caught in western Japan, lizardfish caught in Niigata can be used as an ingredient in high quality kamaboko.

キーワード:ワニエソ, 一般成分, 蒲鉾の物性評価

緒 言

ワニエソ Saurida waniesoは南日本, 東シナ海, 西部太平洋, イ

ンド洋に分布するとされ1), 主に西日本で高級な蒲鉾の原料と

して利用されている。国内では西日本を中心に分布しているが,

新潟県内での漁獲は少ないことから, これまであまり利用され

ていなかった。しかし, 2017年秋から 2018年秋にかけてワニエ

ソが県内各地で多く漁獲された。そこで, 今回は県内で漁獲され

たワニエソの体成分を分析するとともに, 西日本で利用されて

いるワニエソと同様に県産ワニエソより蒲鉾を作製した。そし

て, これらの結果を西日本のものと比較することで, 県産ワニエ

ソの蒲鉾への加工利用についていくつかの知見を得たので報告

する。

材料及び方法

1. 試料

2018 年 6 月及び 7 月に新潟県内(岩船, 寺泊)で漁獲された

ワニエソを使用した。サンプルは尾叉長(FL: cm)及び体重(BW:

g)を測定した。

2. 成分分析

2018年 6月に岩船で漁獲された 5個体を分析した。頭と内臓

を除去し, 三枚におろして皮を取り, フードカッターでミンチ状

にし, 真空個包装したものを試料とし-50℃で冷凍した。分析の

際は試料を解凍して用いた。水分は110℃常圧加熱乾燥法, 灰分

は550℃直接灰化法, 粗脂肪はジエチルエーテルを溶剤とするソ

ックスレー法で分析を行った。粗タンパクはケルダール法によ

り窒素量を測定し, 6.25を乗じて 2)算出した。

3. すり身の作製

2018年 7月に寺泊で漁獲されたものを氷蔵(魚体を氷で覆い

4℃の冷蔵庫内で保管)と冷蔵(4℃)で漁獲後2日間保管した。

頭と内臓を除去後, 三枚におろして皮を取り, 1.6mm目のチョッ

パーで細断したものを落とし身とした。得られた落とし身の重

量に対し 10倍量の氷水で 3分間攪拌する水晒しを行い, 油圧式

脱水機により脱水した。水晒し及び脱水の工程は2回行い, 脱水

後に肉の重量に対し 8%上白糖及び 0.2%ポリリン酸塩を添加し

たものをすり身とした。

4. 蒲鉾の作製

すり身の水分が 80%となるよう加水量を調整し, 魚肉重量に

対し 2.5%の食塩を加えて撹拌混合したものを直径 3cm, 高さ

2.5cmの円柱状のステンレスチューブに充填した。加熱は直加熱

(90℃, 30分間加熱)と二段加熱(30℃, 60分間加熱後に 90℃,

30分間加熱)の2種類を行い, 蒲鉾とした。

報文番号 118 (2019 年 11 月 27 日受理) * 新潟県水産海洋研究所

(Niiigata Prefectural Fisheries and Marin Research Institute, Niigata 950-2171)

新水海研報       5, 7 - 9 (2020) Bull. Niigata Pref. Fish. Mar. Res. Inst.

- 7 -

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5. 蒲鉾の評価

蒲鉾の物性は破断強度と破断凹みをレオメーター(不動工業

株式会社製)により測定し, 評価した。蒲鉾のしなやかさの目安

として折り曲げ試験を行った。折り曲げ試験は Iwataらの方法 3)

に従って行った。すなわち, 3mm厚にした蒲鉾を2つ折り及び4

つ折りに曲げ, 割れやすさや亀裂の入り方を確認し, AA, A, B, C,

Dの5段階で評価した。

6. 統計処理

有意差の検定はStudent-t検定を用い, 有意水準は5%以下とし

た。冷蔵後に蒲鉾を直加熱の条件で作製した実験区を除きサン

プル数は 4 とした。冷蔵後に蒲鉾を直加熱の条件で作製した蒲

鉾の実験区のサンプル数は2であり, 検定を行わなかった。

結 果

1. 試料

実験に使用したワニエソの尾叉長及び体重をTable 1に示す。

2. 一般成分

一般成分の分析結果をTable 2示す。新潟県産ワニエソの一般

成分の組成は長崎県で水揚げされたもの 4)と比較したところ, 組

成はほぼ同一となっていた。

県産ワニエソより作製した蒲鉾の物性の結果について破断強

度をFig.1, 破断凹みをFig. 2に示す。蒲鉾の破断強度の平均値は

直加熱の条件では氷蔵 750g 及び冷蔵 455g となった(Fig. 1A)。

二段加熱では氷蔵が 1221g, 冷蔵が 1006gとなり(Fig. 1B), 氷

蔵が冷蔵に比べ有意に高くなった(p<0.05)。破断凹みの平均値

は直加熱が氷蔵1.4cm, 冷蔵1.2cmとなり(Fig.2A), 二段加熱で

は氷蔵 1.5cm, 冷蔵 1.6cmとなったが(Fig. 2B), 有意な差はみ

られなかった(p>0.05)。氷蔵では破断強度および破断凹みは直

加熱に比べ, 二段加熱の方が有意に高くなった(p<0.05)。魚体の

保存状態(氷蔵または冷蔵)にかかわらず, 破断強度及び破断凹

みは直加熱に比べ高くなる傾向がみられた。折り曲げ試験の結

果は直加熱及び二段加熱ともに蒲鉾を曲げた際に亀裂はみられ

ず, 4つ折りに曲げることが可能であり, 5段階評価の中で最も評

価の高いAAの状態に相当していた。

Table 1 Fork length and body weight of lizardfish Saurida wanieso in

Niigata (mean ± SD).

Table 2 Comparison between proximate compositions in muscle of

lizardfish Saurida wanieso caught in Niigata and Nagasaki.

Fig.1 Effect of storage temperature on breaking strength of kamaboko

gel from surimi from lizardfish in Niigata. A: directly heated gel, B: two-

step heated gel. Error bar and asterisk indicates standard division and

p<0.05(by student-t test), respectively.

Fig.2 Effect of storage temperature on breaking strain of kamaboko gel

from surimi from lizardfish in Niigata. A: directly heated gel, B: two-step

heated gel. Error bar indicates standard division.

考 察

2018年 6月に県内で漁獲されたワニエソの一般成分は西日本

の長崎県で水揚げされたワニエソ落とし身の成分と組成がほぼ

同一であった。

県産ワニエソから作製した蒲鉾は直加熱よりも二段加熱の方

が破断強度や破断凹みが高い傾向がみられた。これは二段加熱

により坐りがかかり, 物性が向上したものと考えられる。また,

Month/Year Fork Length(cm) Body Weight(g) Locality n

Jun/2018 36.3±6.3 515.6±251.8 Iwafune 15

Jul/2018 36.8±2.0 485.0± 85.0 Teradomari 12

Site Moisture(%) Crude protein(%) Crude fat(%) Ash(%)

Niigata* 76.3 ±1.0 20.3 ± 0.8 1.7 ± 0.5 1.4 ±0.1

Nagasaki** 75.8 19.8 1.7 1.8

*: in this study **: Kurokawa.et.al(1995)2)

中尾令子

- 8 -

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直加熱及び二段加熱の蒲鉾ともに 4 つ折りに曲げた際にも亀裂

はみられず, しなやかで弾力があった。これはこれまでに西日本

の長崎県で水揚げされたエソ類の蒲鉾の物性について調べた報

告 5)における折り曲げ試験の 5 段階評価中最も高いとされる状

態に相当していた。そのため, 今回の試験の結果,西日本で利用

されているワニエソと同様に県内で漁獲されたワニエソは高級

な蒲鉾の原料として利用できるものと考えられた。

また, 冷蔵に比べてより低い温度で保管する氷蔵では蒲鉾の

破断強度が冷蔵に比べて高い値となった。エソ類はスケトウダ

ラと同様に肉中にトリメチルアミンオキシドを含んでおり, 鮮

度低下や凍結貯蔵中にトリメチルアミンオキシドは分解されて

ホルムアルデヒドに変わる 6)。生成されたホルムアルデヒドはタ

ンパク質を変性させることでゲル形成能を著しく低下させるこ

とがわかっている 6)。これまでに貯蔵温度の違いでワニエソ中の

ホルムアルデヒドの生成量が異なることが報告されており 7), 今

回の試験では貯蔵温度の違いがホルムアルデヒドの生成量に影

響し, その結果,蒲鉾の物性が低下したものと考えられた。

要 約

新潟県内で漁獲されたワニエソの体成分の分析及び蒲鉾の作

製を行い, 物性を評価した。県産ワニエソの一般成分は西日本の

長崎県で水揚げされたワニエソとほぼ同一の組成であり, 得ら

れた蒲鉾の物性は長崎県で水揚げされたエソ類の蒲鉾の物性評

価(折り曲げ試験)で最も評価の高い状態に相当していた。その

ため, 西日本で利用されているワニエソと同様に県内で漁獲さ

れたワニエソは高級な蒲鉾の原料として利用できるものと考え

られた。

謝 辞

新潟漁業協同組合岩船港支所及び寺泊漁業協同組合の漁業者

並びに職員の方々,新潟県農林水産部水産課指導普及係村上駐

在片野卓副参事にはサンプルの入手にご協力頂き,感謝の意を

表する。

文 献

1) 東シナ海・黄海の魚類誌.神奈川,東海大学出版会,2007,

1340p.

2) 新・食品分析法.東京,光琳,1996,879p.

3) Iwata K, Chandrasekhar, T.C, Iida H, Suzuki T, and Noguchi E:

Evaluation of Some of Peru and Chile Coast Fishes Processed in

kamaboko. Bull.Tokai Reg. Res. Lab. 61, 43-51

4) 黒川ら,長崎県水産試験場事業報告(平成6年度).55-57(1995).

5) 福田耕一,野崎征宣,田端義明:かまぼこ製造における減塩

化について.長崎大学水産学部研究報告,63,27-34(1988).

6) 山澤正勝,関伸夫,福田裕:かまぼこ その科学と技術.東

京,恒星社厚生閣,2003,377p.

7) 福島英登,黒川清也,石上翔,桑田智世,山内春菜,福田裕:

エソ肉のホルムアルデヒド生成に及ぼす貯蔵温度に関する

研究.水産大学校研究報告,60(4), 197-202(2012) .

新潟県産ワニエソの一般成分と蒲鉾の物性について

- 9 -

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航空写真を用いた藻場判別における解析手法間での精度比較

濵岡秀樹*

Comparison in accuracy rates among various methods of macroalgal bed discrimination via aerial photos

Hideki HAMAOKA*

Abstract

Different techniques for measuring macroalgal beds were compared based on their accuracy and the estimated areas they produced

in order to establish which technique was the most accurate and efficient for assessing and monitoring macroalgal beds. In this study,

the analytical accuracy of Random Forest and visual discrimination by an experienced diver outperformed other methods.

Additionally, it was observed that training data increased the analytical accuracy by non-divers. The results of this study suggest that

visual discrimination under the proper conditions can be a highly accurate technique for assessing the distribution of macroalgal beds,

like Random Forest. Introduction of these methods to assess and monitor macroalgal beds would reduce the cost for research using

divers. Interview discrimination showed low analytical accuracy, and the estimated area when using this method deviated from the

median. This can be attributed to a seasonal difference between the timing of aerial photography and the interview survey.

キーワード:藻場, 画像解析, ランダムフォレスト, 目視判別, 聞き取り調査

緒 言

海藻藻場は有用な水産種の育成場であるとともに, 水質浄化

や波浪の軽減, レジャー空間(ダイビングスポットや釣り場など1))の提供など様々な機能を有しており, 海草藻場と並んで沿岸

生態系における重要な役割を果たしている。しかしながら, 20世

紀初頭から後半にかけて, 太平洋沿岸を中心に全国的な藻場の

衰退が報告され 2), その面積は減少し続けている 3)。そのため,

藻場面積の回復を目的とした保全活動や修復を推進することが

重要視されており, 藻場の分布やその時系列的な変化を広域的

に把握する必要がある。藻場分布の把握には潜水による直接的

な推定法が用いられることが多い。しかしながら, 潜水調査には

多大な労力や費用がかかる上, 一度に調査できる範囲も限られ

ている。このような欠点を補うものとして航空写真解析による

間接的な推定法が 1990 年代以降注目され, 無人航空機(マルチ

コプターやドローンなど)の普及とともに藻場分布調査への導

入が進んでいる(例えば桑原ら 4), 楠山ら 5), 山田ら 6))。近年, 新

潟県水産海洋研究所(以下, 当所)においてもドローンが導入さ

れ, 簡易的に航空写真を撮影できるようになったが, 得られた画

像を解析する体制は整っていない。

航空写真解析において, 藻場の分布を判別する方法には目視

による判別や特徴量を用いた自動分類など様々な手法がある。

これら手法間には得られる精度や解析にかかるコストなど様々

な点で違いが存在すると考えられるが, 手法間でどの程度の違

いがあるのかを比較した研究は少ない。また, これまで大規模に

行われていた藻場分布調査では漁業者への聞き取りが主な調査

手法であった(例えば新潟県 7), 環境庁 8))が, 航空写真解析と

の精度の差異についても十分な議論はされていない。本研究で

は, ドローン撮影で得られた画像を 6 つの異なる手法で解析し,

その解析に係る作業時間と精度を比較した。また, 撮影海域での

聞き取り調査も行い, その結果を航空写真解析と比較した。そし

て, これらの結果から当所における航空写真解析を用いた効率

的な藻場分布調査の手法について考察した。

報文番号119 (2019年 11月 27日受理) * 新潟県水産海洋研究所

(Niiigata Prefectural Fisheries and Marin Research Institute, Niigata 950-2171)

新水海研報       5, 11 - 16 (2020) Bull. Niigata Pref. Fish. Mar. Res. Inst.

- 11 -

Page 8: 水槽実験によるヤツマタモク Sargassum patens の母藻重量 …...クSargassum patensを用いて, 母藻の重量と供給される幼体数の 関係を水槽実験によって明らかにしたので報告する。

材料及び方法

2018年6月19日, 佐渡市豊田地先(Fig. 1)において無人航空

機(以下, ドローン)を飛行させ, 上空50mから沿岸域を撮影し,

334枚の航空写真を得た。得られたすべての航空写真をつなぎ合

わせ, 1枚の写真に合成し(モザイク写真: Fig. 2), パソコン上で

電子地形図25000(国土地理院)に対して幾何補正を行った。幾

何補正後の写真分解能は 10cm であった。 航空写真撮影後, 撮

影範囲内において野外調査を行った。野外調査では 135 点の調

査点を設け, 緯度, 経度および底質(藻場, 砂または転石)を記

録した。

藻場の判別を行うために, パソコン上で航空写真と調査デー

タを重ね合わせ, 各調査点の特徴量として赤・緑・青の輝度を示

す三つの8ビット符号無し整数値(RGB値)を得た。その後, 135

点の調査データを教師データ(66点)と検証データ(69点)に

ランダムに分けた。教師データの底質とRGB値を基に, 自動分

類を用いて航空写真内のすべてのピクセルを藻場, 砂または転

石に分類した。自動分類には最尤法とランダムフォレスト法を

用いた。最尤法による画像解析は一般的なソフトウェア(例え

ばArcGIS: ESRI, ER-Mapper: Hexagon geospatial)にも組み込まれ

ており, 航空写真のRGB値を用いて藻場の分布を調査している

研究例も多い(例えば山北ら 9), 山田ら 6))。また, ランダムフォ

レスト法は機械学習法の一つであり, 計算速度が速く, 外れ値や

ノイズに対して相対的に頑健であり, 分類問題における性能が

良いことが知られている 10)。これら 2 つの自動分類で得られた

判別結果は藻場と藻場以外のピクセルに分けて取り扱った。

航空写真を用いた藻場判別には目視による判別も行った。目

視は潜水経験がある者 2 名と潜水経験のない者 2 名の計 4 名の

協力者によって行われた。目視判別に先立ち, 潜水経験がある者

と経験のない者からランダムにそれぞれ 1 名を選び出し, 航空

写真上に表示されている教師データを見せた。一方で, 残りの2

名には教師データを見せなかった。その後, 協力者に印刷した航

空写真を配布し, 藻場を油性ペンで囲むことで藻場とそれ以外

の底質とを判別した(Fig. 3)。協力者が判別した画像はパソコン

上で幾何補正し, 目視による判別結果として扱った。なお, 目視

調査は2018年の12月に行った。

聞き取り調査では, 航空写真を撮影した海域で操船作業を主

に行っている者(操船者)1名を選んだ。聞き取り調査には海面

部分を削除した航空写真を用い, 操縦者の記憶を基に藻場が分

布している場所を油性ペンで囲むことで藻場とそれ以外の底質

とを判別した。操縦者が判別した画像はパソコン上で幾何補正

し, 聞き取りによる判別結果として扱った。

Fig. 1 Location of the study area.

濵岡秀樹

- 12 -

Page 9: 水槽実験によるヤツマタモク Sargassum patens の母藻重量 …...クSargassum patensを用いて, 母藻の重量と供給される幼体数の 関係を水槽実験によって明らかにしたので報告する。

なお, 聞き取り調査は2018年の12月に行った。自動分類, 目視

および聞き取りによって得られた判別結果に検証データを重ね

合わせ, それぞれの判別結果に対する正誤を判定し, エラーマト

リックスを作成した。そして, エラーマトリックスから判別手法

ごとに正判別率を算出した。正判別率は, 正しく判別できた例数

を検証データの全数で除したものとした。また, 判別手法ごとに

藻場の総面積も算出した。調査データが得られてから判別結果

が得られるまでの時間は作業時間として記録した。空中写真の

合成はPhotoScan 1.4.2(Agisoft), ランダムフォレスト法による

判別はR.3.5111), 最尤法による判別とその他のパソコン上の作業

はArcGIS 10.5.1(ESRI)を用いた。

結 果

ドローンを用いた空中撮影では, 1 時間程度で約 10ha

(430m×230m)の範囲を撮影することができた。また, 写真や調

査データをデジタル化してから各判別結果を得るまでの時間は

13~70分であった(Table 1)。判別結果の正判別率は判別手法間

で違いがあり, 最も高かったのは教師データを参照した潜水未

経験者と教師データを参照しなかった潜水経験者, 最も低かっ

たのは教師データを用いた最尤法であった。潜水未経験者の判

別結果では教師データの有無によって正判別率に大きな差が生

じていたが, 潜水経験者ではその影響は小さかった。判別作業に

かかった時間は, 判別手法間で大きな差は見られなかった(Fig.

4)。各判別手法によって推定された藻場面積の中央値は 3.33ha

であり, 正判別率が低い手法ほど推定された面積は中央値から

離れていた(Fig. 5)。

考 察

これまで本所で行われてきた海藻藻場の分布調査では, 潜水

や音響探査が主要な手法であり, 用船などを含め多くの人的・経

済的コストがかかっていた。一方, 本研究では 2 時間程度で数

haの範囲を撮影・藻場判別することができた。 調査に船は必要

なく, 必要な人員も2~3人程度であった。この結果は, 海藻藻場

の分布のみに焦点を当てる調査であれば, ドローンによる空撮

Fig. 2 The mosaic image of aerial photos in study area.

Fig. 3 Drawing result by visual classification. The inside of the black

lines indicates macroalgal bed areas.

画像解析手法間での精度比較

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Page 10: 水槽実験によるヤツマタモク Sargassum patens の母藻重量 …...クSargassum patensを用いて, 母藻の重量と供給される幼体数の 関係を水槽実験によって明らかにしたので報告する。

と画像解析による調査法は大きくコストを削減できる可能性が

あることを示している。ただし, 本研究では潜水調査で得られる

種組成や現存量データを考慮していない。そのため, 目的に応じ

て潜水器や用船での作業を併用したり, 画像解析で種組成や現

存量を把握できる技術を開発したりする必要があるだろう。

藻場分布調査では藻場の空間的な分布のみならず, その推定

面積にも関心が向けられる。本研究では正判別率と推定藻場に

は一定の傾向が見られ, 判別率の低い手法では推定面積にバラ

ツキがみられることが明らかとなった。この結果は正判別率の

低い分類法によって推定された面積は過大・過小評価のリスク

が高いことを示している。そのため, 潜水経験や教師データのな

い目視判別, 聞き取り調査によって推定した藻場面積を取り扱

う場合は注意する必要がある。また, コストはかかるが, 正判別

率を確認できる程度の野外調査を同時に行うことがより正確な

藻場面積の推定にとって最善であろう。

一般的に画像判別による藻場分布調査では, 正判別率が 60%

以上である(例えば67%: 山北ら 9), 68%以上: Lathrop et al.12),

67.7%以上: Sagawa et al.13))。本研究の結果の多くはこの範囲に収

まっていた(Table 1)が, 教師データを参照しなかった潜水未経

験者による目視判別や聞き取りによる判別での正判別率はこの

範囲よりも低かった。この結果は, 目視による判別では教師デー

タが重要であることを示している。ただし, 教師データを参照し

ていないにもかかわらず潜水経験者の正判別率が高かったのは,

これまでの潜水経験によって藻場や底質の色彩や形状を記憶し

ていたためと考えられる。一方で, 教師データを参照したにもか

かわらず, 最尤法の正判別率はすべての手法の中で最も低い値

であった。海域における底質を対象とした画像分類では水深に

よる光の減衰や攪乱が底質の色調を変化させるため, 水深によ

る影響を補正する必要があることが指摘されている 6, 14, 15)。本研

究における最尤推定ではこのような環境が色調に与える影響を

ランダムなバラツキとして扱ったため, 判別率が低くなったの

かもしれない。実際, 同じ海域で水深データとRGB値を考慮し

た藻場判別では, 最尤法でも60%以上の判別率を示す(濵岡 未

発表)。一方で, 同じ自動分類でもランダムフォレスト法では水

深データを考慮しても正判別率は大きく変化しなかった(水深

データ有:68.1%(濵岡 未発表), 水深データ無:73.9%(本調

査結果))。この手法間での正判別率の違いは, 特徴量間の相関や

外れ値への頑健さによるものと考えられる。最尤法に比べラン

ダムフォレスト法では使用する特徴量をランダムサンプリング

することで特徴量間に存在する相関の軽減を行うことができる

16)。土地被覆分類に関する過去の研究においても, 多次元の特徴

量を使用する場合, ランダムフォレスト法は安定的で高精度の

分類結果を得られることが報告されている 17)。そのため, 水深デ

ータを取得するコストや結果の安定性を考慮すると, 自動分類

による藻場分布調査ではランダムフォレスト法を用いることが

コスト削減につながると考えられる。ただし, 目視判別でも自動

判別と作業時間は変わらないことと潜水経験や教師データがあ

ることで自動分類と同程度の結果を得られることから, 目視判

Table 1 The error matrix, accuracy rate, operation time and estimated area in each discrimination methods.

Method Training data

(Y/N) Class

Grand truth data Accuracy

rate (%)

Operation

time (min)

Estimated

area (ha) Macroalgal

beds Other

Random forest Y Macroalgal beds 27 8

73.9 68 3.59 Other 10 24

Maximum likelihood

estimation Y

Macroalgal beds 14 15 43.5 27 1.05

Other 24 16

Visual discrimination

(Inexperienced person

for diving)

Y Macroalgal beds 32 11

75.4 70 3.46 Other 6 20

N Macroalgal beds 9 1

56.5 31 2.12 Other 29 30

Visual discrimination

(Experienced person for

diving)

Y Macroalgal beds 23 10

68.1 13 3.09 Other 12 24

N Macroalgal beds 32 11

75.4 55 3.33 Other 6 20

Interview N Macroalgal beds 11 11

46.4 17 4.55 Other 26 21

濵岡秀樹

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Fig. 4 Operation times in each discrimination methods.

Fig. 5 Relationship between accuracy rates and estimated areas.

別の導入も自動分類と同様に藻場分布調査のコスト削減に貢献

できると考えられる。

数十年スケールでの藻場の分布や面積の推移を把握するため

には, 過去の調査データと比較する必要があるが, 技術の発展や

コスト削減に伴い調査方法が統一されていることは少ない。特

に, 聞き取りデータと音響探査や航空写真解析データを比較す

る際には, その精度の違いが重要となる。本研究結果では聞き取

り調査の藻場推定結果における正判別率および推定面積は他の

調査法から大きく離れていた。この結果は聞き取り調査と他の

解析結果を直接比較する際は十分な注意が必要であることを示

している。ただし, 本調査では聞き取り調査を実施した時期(12

月)が空中写真を撮影した時期(6月)と大きく異なっていたた

め, このような精度の低下が見られたのかもしれない。そのため,

聞き取り調査を主軸にした藻場分布調査では野外調査と聞き取

りをできるだけ同時期に行うことが重要になると考えられる。

また, より正確に藻場分布の長期変動を理解するためにも, 異な

る手法間での推定結果を直接比較するための補正技術開発が必

要であろう。

要 約

簡易的に広域の藻場の分布と面積を推定するため, 様々な画

像解析法による判別精度と推定面積を比較した。その結果, ラン

ダムフォレスト法や潜水経験者による目視判別は高い精度を示

した。また, 潜水未経験者でも教師データを参照することで高い

精度を示すことが明らかとなった。この結果は, ランダムフォレ

スト法に加え, 一定の条件下では目視判別が有効であることを

示している。そのため, ランダムフォレスト法や目視判別の導入

は藻場分布調査のコストを下げる可能性があると考えられる。

一方で, 聞き取り調査は精度も低く, 推定面積の値は各手法によ

る推定値の中央値から外れていた。この結果は聞き取り調査と

空撮時期が大きく異なっていたためかもしれない。

謝 辞

本研究を進めるうえで, 新潟県佐渡地域振興局の渡辺寛子氏,

佐渡水産技術センターの佐藤修氏, 伊賀伸弘氏, 新潟県水産海洋

研究所の尾身満美子氏, 清水綾氏, 須藤洋介氏, 伴田裕之氏には

多大なご協力を賜った。 ここに記してお礼申し上げる。 なお,

本研究は漁場環境保全創造事業によって行われた。

文 献

1)水産庁: 磯焼け対策ガイドライン. 全国漁港漁場協会, 東京,

2007, 208p.

2) Fujita, D. Current status and problems of isoyake in Japan. Bull. Fish.

Res. Agen., 32, 33-42(2010)

3) 朝倉邦友: 藻場・干潟ビジョンの策定. 水産工学, 55,

51-57(2018)

4) 桑原久実, 川畑勝嗣, 山下俊彦: 航空写真による北海道南西

部磯焼け海域の海藻分布特性 . 海岸工学論文集, 45,

1106-1110(1998)

5) 楠山哲弘, 髙木哲夫, 林誉命, 黄金崎清人, 鳴海日出人: 藻場

(リシリコンブ)のリモートセンシングによる分布域の推

定‐網走港周辺海域‐. 海洋開発論文集, 23, 555-560(2007)

6) 山田充哉, 渡辺一俊, 南部亮元, 干川裕, 福田裕毅, 秋野秀樹,

梶原瑠美子, 桑原久実, 森口朗彦: ドローンを用いた広域藻

場調査. 水産工学, 54, 121-125(2017)

7) 新潟県: 平成 13 年度新潟県水産海洋研究所年報. 新潟県水産

海洋研究所, 東京, 2003, 196p.

画像解析手法間での精度比較

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Page 12: 水槽実験によるヤツマタモク Sargassum patens の母藻重量 …...クSargassum patensを用いて, 母藻の重量と供給される幼体数の 関係を水槽実験によって明らかにしたので報告する。

8) 環境庁: 第 4 回基礎調査総合解析報告書. 環境庁自然保護局,

1994, 201p.

9) 山北剛久, 仲岡雅裕, 近藤昭彦, 石井光廣, 庄司泰雅: 東京湾

富津干潟における海草藻場の長期空間動態. 保全生態学研

究, 10, 129-138(2005)

10) 杉本知之, 下川敏雄, 後藤昌司: 樹木構造接近法と最近の発

展. 計算機統計学, 18, 123-164(2005)

11) R Development Core Team: R: A language and environment for

statistical computing. Vienna, R Foundation for Statistical

Computing, 2008, URL: http://www.R-project.org/

12) Lathrop, R. G., Montesano, P. and Haag. S.: A multi-scale

segmentation approach to mapping seagrass habitats using airborne

digital camera imagery. Photogrammetric Engineering & Remote

Sensing, 72, 665-675(2006)

13) Sagawa, T., Mikami, A., Komatsu, T., Kosaka, N., Kosaka, A.,

Miyazaki, S. and Takahashi, M.: Technical Note. Mapping seagrass

beds using IKONOS satellite image and side scan sonar

measurements: a Japanese case study. International Journal of

Remote Sensing, 29, 281-291(2010)

14) Lyzenga, D. R.: Remote sensing of bottom reflectance and water

attenuation parameters in shallow water using aircraft and Landsat

data. International Journal of Remote Sensing, 2, 71-82(1981)

15) ルイソチェー, 作野裕司: 衛星 Terra/ASTERデータを使った

吉名干潟における藻場モニタリング. 水工学論文集, 52,

1381-1386(2008)

16) Breiman, L.: Random Forests. Machine Learning, 45, 5-32(2001)

17) 望月翔太, 村上拓彦: 機械学習法を用いた SPOT5/HRG デー

タの土地被覆分類とその精度. 統計数理, 64, 93-103(2016)

濵岡秀樹

- 16 -

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新潟県佐渡島沿岸における肉食性ヒトデ類の

密度と生息地特性の関係

濵岡秀樹*

Relationship between density of predatory starfish and the characteristics

of their habitats on the coast of Sado Island, Niigata

Hideki HAMAOKA*

Abstract

This study examined the relationship between the density of predatory starfish and the characteristics of their habitats on the coast

of Sado Island via field surveys and statistical modeling. In the population survey, Patiria pectinifera and Coscinasterias acutispina

were dominant over other species of starfish, indicating that these two species were the main potential predators for marine

gastropods around Sado Island. The statistical model showed that the number of starfish increased with greater depth and greater

coverage by boulders, trends consistent with the results of previous studies conducted in other areas. The abundance of starfish also

decreased as the macroalgal covering rate increased. It can be inferred from this result that these two species avoid macroalgal cover,

which is an obstacle for their feeding behaviors. The statistical model in this study revealed some of the characteristics of the habitats

of predatory starfish, contributing to our understanding of suitable release environments for seedlings of abalones or top-shells.

キーワード:イトマキヒトデ, ヤツデヒトデ, 生息地特性, 一般化線形モデル

緒 言

サザエTurbo sazaeやアワビ類などの巻貝類は新潟県沿岸域に

おける重要な水産資源であるが, その漁獲量は 1990 年代以降減

少し続けている。そのため, 沿岸部では精力的な種苗放流が行わ

れているが, それら資源の回復には至っていない。放流事業にお

いて, 放流効果を高めるには種苗の生残率の向上と良好な成長

が得られることが必要であり 1), 沿岸域における対象種の餌料環

境や捕食者に関する研究が数多く行われてきた(例えば伊藤, 太

刀山 2), 小島 3))。本県沿岸域においても, 餌環境に着目したサザ

エやアワビに関する研究はいくつか行われてきた(山川, 林 4),

濵岡ら 5))が, 捕食者に関する研究は少ない。サザエやアワビ種

苗にとって様々な生物が潜在的な捕食者として挙げられている

が, 佐渡島沿岸域では主な捕食者はヒトデ類であることが報告

されている 6)。そのため, 本県沿岸域におけるヒトデ類の分布を

明らかにすることは種苗放流場所の選定や稚貝の分布特性を考

えるうえで重要な知見となりうる。他の生物同様, ヒトデ類も複

数の環境要因によってその分布が変化すると考えられるが, ヒ

トデ類の分布に関する研究の中心は潮間帯やタイドプールなど

であり, 潮下帯での研究例は比較的少ない 7)。

本研究では本県佐渡島沿岸において, 沿岸性巻貝類の捕食者

である肉食性ヒトデ類の現存量を潜水によって調査した。そし

て, モデル解析によってその現存量と生息環境の関係について

解析し, 肉食性ヒトデ類の生息地特性について考察した。

材料及び方法

1. 野外調査

野外調査は佐渡島の東浜及び高千でスクーバ潜水によって

2011~2015年及び 2018年に行った(Fig. 1)。両調査地点はホン

ダワラ類が優占するガラモ藻場が広がり, アワビ類やサザエの

好漁場として知られる海域である。調査は海底に方形枠を設置

報文番号120 (2019年 11月 27日受理) * 新潟県水産海洋研究所 (Niiigata Prefectural Fisheries and Marin Research Institute, Niigata 950-2171)

新水海研報       5, 17 - 21 (2020) Bull. Niigata Pref. Fish. Mar. Res. Inst.

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Page 14: 水槽実験によるヤツマタモク Sargassum patens の母藻重量 …...クSargassum patensを用いて, 母藻の重量と供給される幼体数の 関係を水槽実験によって明らかにしたので報告する。

し, 枠内のヒトデ類をすべて採集したのち, 海藻被度, 底質及び

水深を記録した。採集したヒトデ類は種ごとに分けて総湿重量

(g)を測定し, 現存量とした。最も現存量が多かった種を優占

種とした。2011~2015年の調査では, 5つの1m方形枠を隣接する

ように並べ, 5m2 の範囲内においてすべての項目を調査した。

2018年の調査では, 1m方形枠 5つをランダムに配置し, 枠内に

おいてすべての項目を調査した。本県沿岸域における藻場は主

にホンダワラ類で構成されているため 8), 海藻被度及び海藻種数

はホンダワラ類のみを対象とした。底質は枠内の岩盤, 転石, 玉

石及び砂の割合(岩盤率, 転石率, 玉石率及び砂率)をそれぞれ

記録した。底質の記録の際には, 長径がおおむね30cm以上の石

を転石, それ未満の石を玉石として扱った。

Fig. 1 Map of study area and field survey sampling locations.

2. 統計解析

本研究では, 捕食者の現存量に影響を与える環境要因を明ら

かにするため, 調査枠内の現存量を目的変数, 海藻被度, 底質及

び水深を説明変数にした一般化線形モデルを用いて解析を行っ

た。本研究では複数種のヒトデ類が採集されたが, 門間 9)と藤井

10)を参考にイトマキヒトデ Patiria pectinifera とヤツデヒトデ

Coscinasterias acutispina を捕食者として扱い, その総質重量を現

存量として扱った。捕食者現存量は調査枠の大きさによって影

響を受けることが予想されるため, 調査枠の大きさを log変換し

た上で線形予測子内に係数の付かない項(offset項)として追加

した。全調査期間を通して調査は計 70 回行われたが, 捕食者の

現存量が0であるデータが多かった(0データ: n=55)。これら0

データは, 捕食者が存在するが発見できなかった場合と捕食者

が存在しない場合を含んでいるが, 本研究ではこれら二通りの

場合についてデータを分離することができなかったため, 統計

解析に捕食者現存量が 0 データは含めずに行った。一般化線形

モデルにおいて, 目的変数は正規分布に従うと仮定した。捕食者

現存量は必ず正の値で表されるため, link関数には logを用いた。

説明変数のうち, 底質についてはそれぞれの底質変数(岩盤率,

転石率, 玉石率及び砂率)間及び海藻被度と岩盤率間で強い相関

が認められ, 多重共線性による解析結果への影響が考えられた

ため, 転石率を底質として解析に用いた。モデル選択では, すべ

ての説明変数を含むモデルから全く含まないモデルまで様々な

説明変数の組み合わせでモデルを作成し, それぞれのモデルに

ついて評価指標を算出した。モデル評価指標には, 赤池情報量基

準(Akaike Information Criteria: AIC)を用い, 最も低いAIC値を

示したモデルを最適モデルとした。各モデルについて最適モデ

ルとのAICの差をΔAICとして算出した。統計解析にはR 3.4.211)

を用いた。

結 果

計70回の潜水調査のうち, ヒトデ類が観察されたのは15回で

あった(Table 1)。潜水調査の結果, 4種のヒトデ類が観察され, 捕

食者であるヤツデヒトデとイトマキヒトデのほかに, クモヒト

デOphioplocus sp. やアカヒトデCertonardoa semiregularisなどが

観察された。現存量が最も多かったものはイトマキヒトデで, 最

大5m2あたり80.0gであった。調査では稀にアカヒトデやクモヒ

トデが優占することがあった(2014年11月:アカヒトデ, 2018

年6月:クモヒトデ)が, 多くの場合イトマキヒトデまたはヤツ

デヒトデが優占した(ヒトデ類が観察された15回のうち13回)。

モデル選択の結果, 海藻被度のみを含むモデルが最適モデル

として選ばれた(Table 2)。最適モデルの決定係数は 0.482であ

った。ΔAICが 2未満のモデルは最適モデルを含め6つあり, す

べてのモデルで 水深と底質の偏回帰係数は正の値, 海藻被度の

偏回帰係数は負の値を示した(Table 2)。

考 察

モデル選択の結果, 最適モデルには説明変数として海藻被度

のみが含まれたが, ΔAICが 2未満のモデルでは水深や底質も含

まれていた(Table 2)。AICを基準としたモデル選択を行う場合,

最適モデルとのAICの差が 2未満のモデルに真のモデルが含ま

れる可能性が少なからずあることが示されている 12)。そのため,

最適モデルに含まれなかった変数も捕食者の現存量に影響して

いる可能性があると考えられた。これらすべてのモデルにおい

て, 各変数の偏回帰係数の符号は一致しており(Table 2), 転石

が多いほどまたは水深が深いほど捕食者は多く, 海藻被度が多

いほど捕食者が少ないことを示していた(Fig. 2)。ヒトデ類は種

特異的に適正な水温帯や底質があることが示されており 7), 本結

果もこのようなイトマキヒトデやヤツデヒトデにとっての適正

な生息環境との対応を示しているのかもしれない。栗原 7)は若狭

湾においてイトマキヒトデが浅海域よりもやや深い 40~100m

水深帯に分布していることを報告している。本研究は10m以浅

濵岡秀樹

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Table 1 A summary of survey results conducted on the Coast of Sado Island.

Date Site Area (m2)

n Depth (m)

Cover rate (%)

Total weight (g)

Dominant species Macroalgae Boulder

Predatory starfish

Other starfish

2011/8/31 Takachi 5 6 3.1 to 7.4 16 to 80 0 to 48

0 to 80.0 0 P. pectinifera

2011/10/6 Takachi 5 6 2.9 to 7.4 32 to 76 0 to 70

0 to 4.1 0 C. acutispina

2012/8/31 Takachi 5 6 1.0 to 5.0 5 to 70 0 to 24

0 0

2012/12/3 Takachi 5 6 1.0 to 5.0 20 to 76 0 to 52

0 0

2013/9/9 Higashi-

hama 5 6 1.3 to 5.0 40 to 82 0 to 28

0 to 41.2 0

P. pectinifera, C. acutispina

2013/9/30 Higashi-

hama 5 6 1.0 to 5.2 57 to 78 0 to 24

0 to 6.6 0 P. pectinifera

2014/5/20 Higashi-

hama 5 4 1.0 to 3.1 62 to 74 0 to 14

0 to 17.9 0 to 12.8 P. pectinifera

2014/11/6 Higashi-

hama 5 4 1.0 to 3.5 68 to 82 0

0 to 34.3 0 to 65.2

P. pectinifera, C. semiregularis

2015/5/27 Higashi-

hama 5 4

1.0 and 3.1

56 to 86 0 to 12

0 to 11 0 P. pectinifera

2015/10/7 Higashi-

hama 5 4

1.0 and 3.0

64 to 90 0 to 16

0 to 23.0 0 to 18.0 P. pectinifera

2018/6/1 Higashi-

hama 1 18 1.0 to 4.5 24 to 100 0 to 100

0 to 2.0 0 to 5.0 Ophioplocus sp.

Table 2 A result of model selection.

Model No.

Coefficients

df AIC Delta AIC Intercept Depth

Macroalgal cover

rate

Boulder cover

rate

3 3.113 - −0.022 - 3 130.3 0

5 1.308 - - 0.029 3 130.5 0.2

2 0.156 0.483 - - 3 131.1 0.8

4 2.068 0.174 −0.014 - 4 131.6 1.3

6 0.845 0.204 - 0.017 4 131.8 1.5

7 2.33 - −0.012 0.013 4 131.9 1.6

8 1.704 0.154 −0.009 0.008 5 133.5 3.2

1 1.708 - - - 2 137.9 7.6

Note: The hyphen indicates that the values were not included in the model.

肉食性ヒトデ類の密度と生息特性

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Fig. 2 Relationship density of predatory starfishes and environmental factors.

での調査であるため, 栗原 7)の報告とは分布が一致しないが, 水

深が深いほど現存量が多いことは部分的に一致しており, 本モ

デルの結果はイトマキヒトデの生態と矛盾しないと考えられた。

また, 小和田湾ではイトマキヒトデが砂泥よりも礫上に多く分

布していることが報告されており 13), これらの報告と本研究の

結果はおおよそ一致している。ただし, イトマキヒトデやヤツデ

ヒトデが転石域や玉石域よりも岩盤域で多く観察された事例 2)

もあり, 今後のデータの蓄積や解析法の改良が望まれる。本研究

では海藻被度とヒトデ類現存量にも関係性がみられ, 海藻被度

が低いほどその現存量は多いことが示された。巻貝類にとって

藻場は捕食者からの隠れ場所としての機能があり, 種にもよる

が被食軽減効果があることが実験的に明らかとなっている 14)。

そのため, 捕食者にとって海藻被度の低い藻場外部は被度の高

い内部よりも捕食効率の高い場所と考えられる。本研究の結果

における海藻被度とヒトデ類現存量の間に見られた関係は, よ

り捕食効率を高めるために海藻被度の低い場所に捕食者が多く

分布していることを示しているのかもしれない。これまでヒト

デ類の現存量と海藻被度に関する研究例は少ないが, 富山湾に

おいてヤツデヒトデやイトマキヒトデがテングサ類の上を這う

行動が頻繁に観察されている 15)。ただし, このような行動の生物

学的な意味合いはいまだ明らかにできていないため, 今後はヒ

トデ類の行動と藻場の関係性について明らかにしていく必要が

あるだろう。

本研究結果における最適モデルではその決定係数は 0.482 で

あった。これはモデルが全体のばらつきの 48.2%しか説明でき

ていないことを表している。これは 0 データを取り除いたため

にデータの情報量が減ったことやモデル構築の際に考慮されて

いない要因があったためかもしれない。近年では, 0過剰データ

に関してベルヌイ分布とポアソン分布の混合分布を用いた 0 過

剰ポアソンモデル 16)の導入による解決が図られており, 今後こ

のようなモデル解析の導入が重要であると考えられる。また, こ

れまでの研究によって, ヒトデ類の分布には底質や水深のほか

に餌生物の組成 17)や競合種の密度 18), 塩分 19)に影響を受けるこ

とが知られており, そのような要因が海藻被度とも大きく関係

していると考えられる。今後は, ヒトデ類の分布特性を明らかに

するためにはこうした要因も考慮して検討する必要がある。

さまざまな種類の海産生物を用いたサザエやアワビ類への捕

食実験はいくつか行われており, イトマキヒトデやヤツデヒト

デは小型サザエやアワビ類稚貝にとって重要な捕食者であるこ

とが認識されている(例えば林 20), 藤井 10), 干川 21))。本研究で

は, これら 2 種が佐渡島沿岸域のヒトデ類の優占種であること

を明らかにし, その現存量が環境によって異なることを示した。

これらの結果はサザエ・アワビ類の種苗放流における場所選定

や稚貝の分布特性の把握において重要な資料となるだろう。

要 約

佐渡島において肉食性ヒトデ類の現存量と生息環境との関係

について調査を行った。佐渡島ではイトマキヒトデやヤツデヒ

トデが優占することが多く, この結果は佐渡島沿岸の巻貝類に

とってヒトデ類としてはこれら 2 種が主な潜在的捕食者である

と考えられた。モデル選択の結果は水深が深いほど, また, 転石

が多いほど現存量が多いことを示しており, この傾向は過去の

報告とも一致していた。また, 海藻被度が多いほど現存量が少な

く, これはヒトデ類が捕食行動にとって邪魔になる海藻群落を

避けたためかもしれない。本結果は沿岸性巻貝類の捕食者であ

る肉食性ヒトデ類の分布に関する生息地特性を示すことができ

た。これらの結果はサザエ・アワビ類の種苗放流における場所

選定や稚貝の分布特性の把握において重要な資料となるだろう。

謝 辞

本研究を進めるうえで, 新潟県水産課の石本綾子氏, 池田大悟

氏, 新潟県水産海洋研究所の伴田裕之氏, エス・ワァルド株式会

社の正司正氏, そして佐渡漁業協同組合両津支所の方々には調

査の便宜と多大なご協力を賜った。ここに記してお礼申し上げ

る。なお, 本研究は新潟県資源管理協議会委託事業「資源管理体

制高度化推進事業」によって行われた。

濵岡秀樹

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文 献

1)鴨志田正晃: Ⅰ-2-2 放流事業の現状. 山崎誠・鴨志田正晃(編),

アワビ類の生態に基づく資源管理・増殖. 水産増養殖関係研

究開発推進会議 養殖産業部会アワビ研究会(監). 南伊勢,

増養殖研究所, 2018, 46-53

2) 伊藤輝昭, 太刀山透: サザエ人工種苗の放流手法. 福岡水技

研報, 2, 59-66(1994)

3) 小島博: クロアワビの資源管理に関する生態学的研究. 徳島

県立農林水産総合技術センター 水産研究所研究報告, 3,

1-119(2005)

4) 山川紘, 林育夫: 新潟県粟島におけるサザエの消化管内容物

と海藻植生の関係. 水産増殖, 52: 57-63(2004)

5) 濵岡秀樹, 池田大吾, 石本綾子, 伴田裕之, 佐藤智則: 新潟県

佐渡島沿岸域におけるクロアワビの生息に関わる要因. 日

本ベントス学会誌, 73: 102-108(2019)

6) 内田直樹: 佐渡島におけるクロアワビ稚貝の生残と成長. 新

水海研報, 2, 51-55(2009)

7) 栗原健夫: 若狭湾産ヒトデ類の底質と水深による種組成変化.

日本ベントス学会誌, 50, 1-10(1996)

8) 新潟県: 平成 13 年度新潟県水産海洋研究所年報. 新潟, 新潟

県水産海洋研究所, 2003, 196p.

9) 門間春博: エゾアワビ種苗放流に関する研究-Ⅰ. 放流後の行動.

日水誌, 38, 671-676(1972)

10) 藤井明彦: 各種海産動物によるサザエ稚貝の捕食. 水産増殖,

39, 123-128(1991)

11) R Development Core Team: R: A language and environment for

statistical computing. Vienna, R Foundation for Statistical

Computing, 2008, URL: http://www.R-project.org/

12) Burnham, K. P. and Anderson, D. R.:Model Selection and

Multimodel Inference: A Practical Information-Theoretic Approach.

New York, Springer Verlag, 2002, 488p.

13) 向井宏:小田和湾におけるヒトデ類の分布と生活様式. ベン

トス研会誌, 21/22, 15-27(1981)

14) 山田秀秋, 早川淳, 中本健太, 河村知彦, 今孝悦:小型巻貝2

種におけるソデカラッパからの被食回避に及ぼす人工海藻

の影響. 日水誌, 82, 33-35(2016)

15) 藤田大介, 瀬戸陽一:富山湾のヤツデヒトデについて(予報).

富山水試研報, 10, 53-64(1998)

16) Zuur, A. F., Ieno E. N., Walker, N. J., Saveliev, A. A. and Smith, G.

M.:Mixed effects models and extensions in ecology with R. New

York, Springer, 2009, 574p.

17) Mauzey, K. P., Birkeland, C. and Dayton P. K.: Feeding behavior of

asteroids and escape responses of their prey in the Puget Sound

Region. Ecology, 49, 603-619(1968)

18) Stevenson, J. P.: A possible modification of the distribution of the

intertidal seaster Patiriella exigua (LAMARCK) (Echinodermata:

Asteroidea) by Patiriella calcar. J. Exp. Mar. Biol. Ecol., 155,

41-54(1992)

19) Smith, G. F. M.: Factors limiting distribution and size in the starfish.

J. Fish. Res. Bd. Can., 5, 84-103(1940)

20) 林育夫:種苗クロアワビ(Haliotis discus discus)稚貝の住み場要

求, 日周期活動及び捕食動物. 貝雑, 47, 104-120(1988)

21) 干川裕:エゾアワビ人工種苗に対するヒトデ類3種及びヨツ

ハモガニの捕食(室内実験). 北水試研報, 64, 121-126(2003)

肉食性ヒトデ類の密度と生息特性

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