12
1 柏崎刈羽原子力発電所の安全対策の確認事項について 前回の技術委員会において、柏崎刈羽原発の安全対策の確認事項について事務局 から説明した。また、福島第一原発事故の検証から得られた課題・教訓の中で、特 に確認が必要と思われる事項があれば、事務局へ連絡をいただくよう委員へ依頼し た。 委員からいただいた確認事項を表1に、ご意見を踏まえて整理した確認事項の一 覧を表2に整理した。 表1 委員からいただいた確認事項 No. 委員名 確認項目 (前回技術委員会でいただいたもの)※詳細は前回委員会資料参照 1 佐藤委員 中央制御室の線量率上昇の原因 2 佐藤委員 1 号機原子炉建屋の水素爆発(追加補足:別記 1) 3 佐藤委員 福島第一の炉内の状態 4 佐藤委員 PCV 上蓋からの漏洩のメカニズム(追加補足:別記 2) 5 佐藤委員 RCIC の不慮の隔離とその後の操作不能 6 佐藤委員 不可解な地下水流 7 佐藤委員 緊急時対策所(追加補足:別記 3) 8 佐藤委員 マニュアル作業の負担 (前回技術委員会後にいただいたもの) 9 杉本委員 想定外事象への対応(別記 4) 10 杉本委員 パンデミック対応(別記 5) 11 鈴木元衛委員 MAAP 解析における放射伝熱の扱い(別記 6) 12 鈴木元衛委員 低圧注水系の冗長性(別記 7) 13 鈴木元衛委員 ストレステストとクリフエッジの明示(別記 8) 14 佐藤委員 コリウム・シールドの信頼性(別記 9) 15 佐藤委員 RPV スカート、スタビライザーヘの影響評価(別記 10) 16 田中委員 原子炉圧力容器主フランジの挙動(別記 11) 資料 No.1

資料No.1...資料No.1 2 別記1 原子炉キャビティ内の水素爆発に対する耐性評価と防止対策 原子炉キャビティ内の水素爆発の可能性が排除できない場合には、実際にそれが発生した場合の耐性評価

  • Upload
    others

  • View
    0

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 資料No.1...資料No.1 2 別記1 原子炉キャビティ内の水素爆発に対する耐性評価と防止対策 原子炉キャビティ内の水素爆発の可能性が排除できない場合には、実際にそれが発生した場合の耐性評価

1

柏崎刈羽原子力発電所の安全対策の確認事項について

前回の技術委員会において、柏崎刈羽原発の安全対策の確認事項について事務局

から説明した。また、福島第一原発事故の検証から得られた課題・教訓の中で、特

に確認が必要と思われる事項があれば、事務局へ連絡をいただくよう委員へ依頼し

た。

委員からいただいた確認事項を表1に、ご意見を踏まえて整理した確認事項の一

覧を表2に整理した。

表1 委員からいただいた確認事項

No. 委員名 確認項目

(前回技術委員会でいただいたもの)※詳細は前回委員会資料参照

1 佐藤委員 中央制御室の線量率上昇の原因

2 佐藤委員 1 号機原子炉建屋の水素爆発(追加補足:別記 1)

3 佐藤委員 福島第一の炉内の状態

4 佐藤委員 PCV 上蓋からの漏洩のメカニズム(追加補足:別記 2)

5 佐藤委員 RCIC の不慮の隔離とその後の操作不能

6 佐藤委員 不可解な地下水流

7 佐藤委員 緊急時対策所(追加補足:別記 3)

8 佐藤委員 マニュアル作業の負担

(前回技術委員会後にいただいたもの)

9 杉本委員 想定外事象への対応(別記 4)

10 杉本委員 パンデミック対応(別記 5)

11 鈴木元衛委員 MAAP 解析における放射伝熱の扱い(別記 6)

12 鈴木元衛委員 低圧注水系の冗長性(別記 7)

13 鈴木元衛委員 ストレステストとクリフエッジの明示(別記 8)

14 佐藤委員 コリウム・シールドの信頼性(別記 9)

15 佐藤委員 RPV スカート、スタビライザーヘの影響評価(別記 10)

16 田中委員 原子炉圧力容器主フランジの挙動(別記 11)

資料 No.1

Page 2: 資料No.1...資料No.1 2 別記1 原子炉キャビティ内の水素爆発に対する耐性評価と防止対策 原子炉キャビティ内の水素爆発の可能性が排除できない場合には、実際にそれが発生した場合の耐性評価

2

別記 1 原子炉キャビティ内の水素爆発に対する耐性評価と防止対策

原子炉キャビティ内の水素爆発の可能性が排除できない場合には、実際にそれが発生した場合の耐性評価

を行う必要がある。天井となっているシールド・プラグが浮上するくらいは問題ないが、ドライウェル・ヘ

ッドの外側にあるベローズが破損する場合には、フランジ部を冷やすために行った水が流失してしまう。

そのような可能性があってもなくても、水素爆発の可能性は最小限に抑えられなければならず、原子炉キ

ャビティ内には PAR も設置できないことから、水素の検知方法や天井部に水素が蓄積させない排気手段を検

討する必要がある。

別記 2 高温クリープによる原子炉圧力容器上蓋フランジからの漏洩

RPV フランジとドライウェル・ヘッド・フランジ部の熱によるシール性の低下について懸念する。

(1)輻射熱について

炉心溶融物のプールは著しく高温で、放熱のメカニズムは、熱伝導や対流を圧倒的に凌ぐ輻射によるもの

と推測され、RPV の上部に壁面の 4 ヵ所のブラケットで支持された蒸気乾燥器は、真下からのそのような強

力な輻射を受けて発熱し、それが RPV の上部プレナムの温度を高くするため、そのすぐ近くに位置する RPV

フランジの内面は直に照らされ、1000℃かそれ以上の高温になっても不思議はないように思う。また、RPV の

内面が強力な輻射場であるのに対し、RPV ヘッドの外側には性能の優れた反射式金属保温材(ミラー・イン

シュレーション)が取付けられ、熱を逃さない設計となっており温度上昇に寄与する。

(2)高温クリープについて

高温クリープに伴うスタッド・ボルトの予荷重の弛緩よりも先に中空金属 O リングそのものの弾性の低

下・喪失と損傷による漏洩が始まるのではないか。

スタッド・ボルトは直接 RPV 内の雰囲気に接触していないが、内側 O リングは常時直接接触している。

O リングの材質はニッケル基合金であるが、高温特性が特に鉄鋼材料に比べて優れているわけではない。

スタッド・ボルトは降伏点未満の応力で使用されるが、O リングは降伏点を超え、塑性変形領域の応力

条件下で使用されており、高温クリープの速度が促進されやすい。

O リングの外面にコーティングされている銀は軟らかく、融点が低く(962℃)、熱によって流失してス

チームカットを招く可能性があり、一旦それが起こると損傷が拡大する。

O リングは二重(内側、外側)であるが、内側が漏れただけで漏洩検出ラインを伝ってドライウェル床

ドレン・サンプに連通する。

本件は、重大事故時における格納容器の耐久内圧の設定(=2Pd)の考え方に関わる重要な問題と考えてお

り、東京電力には、輻射熱に関する産業界の知見(製鉄所の溶鉱炉など)の収集と分析などに基づく、より

精度の高い RPV フランジ部における温度予想、および、同一ボルト材、中空金属 Oリング材に対する高温ク

リープ特性を得るための実験を検討して頂きたいと考えている。

Page 3: 資料No.1...資料No.1 2 別記1 原子炉キャビティ内の水素爆発に対する耐性評価と防止対策 原子炉キャビティ内の水素爆発の可能性が排除できない場合には、実際にそれが発生した場合の耐性評価

3

別記 3 緊急時対策所

柏崎・刈羽 6、7号機で重大事故が発生した場合の対応拠点、すなわち緊急時対策所が、5号機原子炉建屋

3 階に設置されることについては、従来の免震重要棟の耐震性の問題からそのような変更になった経緯を除

き、以下の重要な点について、これまでにほとんど何も説明を受けていない。

免震重要棟の延床面積が 3970m2であるのに対し、5 号機に確保されるのはわずかに 270m2であるとのこ

とで、免震重要棟も依然と自主設備として活用する意向のようではあるが、どのような機能上の使い分

けを意図しているのか。また、併用する場合には、どのような分担と連携がなされるのか。たとえば、

地震以外の原因による緊急対応が必要となった場合には、免震重要棟のみを拠点とするのか。

5 号機は防護区域内にあり、セキュリティ上の入退域制限がある。外部からの緊急支援者らに対して、

入退の都度一々チェックしなければならないのは、迅速性を低下させないか。

原子炉建屋の 3階は、通常のビルの 5階以上の高さになる。エレベーターが使えない場合の昇降には時

間がかかり、資料や物品の運搬も不便であるため、緊急時の動作を遅らせるおそれがある。

元々計算機室だったとのことであるが、当該の区域は非管理区域ということか。管理区域だとすると、

放射線作業の従事者登録、作業時間の制限(10 時間/日)、飲食喫煙の禁止などの制限がある。管理区域

でないとしても、飲食、トイレの使用など不便が多い。

原子炉建屋 3階の室内には、非固定式の備品(机、テーブル、椅子、ボード、複写機など)が多く配備

されることになると思われるが、免震性がなく、むしろ高所であるために床の震動は大きくなることか

ら、余震によって作業性、居住性が損なわれる可能性がある。

これまで実施してきた重大事故時の訓練の有効性に影響はないのか。すなわち、5 号機原子炉建屋 3 階

が拠点なること、機能が分散することによって、指示の伝達、職員と協力者の集合、移動における時間

遅れが問題にならないことを確認したのか。

別記 4 想定外事象への対応

委員会で同趣旨のことを述べたが、将来柏崎刈羽原子力発電所でリスクの高い事態が発生するとしたら、

TMI 事故、チェルノブイリ事故、福島第一原子力発電所事故がそうであったように、想定外事象に起因する

ものと考えられる。想定内事象は対応が全て事前に把握され、手順書に明記され、適切な教育・訓練等によ

り対処法を身に付けることが可能なので、リスクは低く抑えることができるためである。想定外事象への対

応は、口で言うほど簡単なことではないが、適切な教育・訓練等により対応力を強化することが可能である。

例えば、限られた測定値と現象の根本的な物理・化学的理解に基づく事態の把握と今後の事態の推移の予測、

それに基づく対応策の策定、さらに事態の進展による次の対応策へのフィードバックなどを、例えば、シナ

リオのない訓練の中で繰り返すことで、想定外事象への対応に関する知識、経験、勘所などを蓄積すること

が可能である。テロ対応を含めた想定外事象への対応が将来のリスクの半分以上を占めるとの認識を持って、

想定外事象への対応力強化に努めてもらいたい。

Page 4: 資料No.1...資料No.1 2 別記1 原子炉キャビティ内の水素爆発に対する耐性評価と防止対策 原子炉キャビティ内の水素爆発の可能性が排除できない場合には、実際にそれが発生した場合の耐性評価

4

別記 5 パンデミック対応

今回の新型コロナウイルスの世界的拡大(パンデミック)ばかりでなく、将来の第 2波、第 3波、あるい

は別種の病原菌によるパンデミックに対しても、原子力安全確保の観点から対応策を整備する必要がある。

施設整備、起動前試験、通常運転、定期検査、保守、トラブル対応、事故対応、重大事故対応を含め、基本

的な考え方、具体的な対応策を検討して手順書等として整備し、教育・訓練にも反映させることが必要であ

る。

別記 6 MAAP 解析における放射伝熱の扱い― 柏崎刈羽 6、7号機での AM 策定に必要 ―

2020 年 8 月 12 日の第 14 回・課題別ディスカッション 1 での東京電力の口頭説明では、MAAP コードでは

SA(シビアアクシデント)の解析において、高温となった燃料集合体間の放射伝熱は計算するが、燃料部か

ら周囲のシュラウドや上部格子板や気水分離器などの周辺構造物への放射伝熱は計算しないということで

した。

質問 1:しかし MAAP v5.04 からは福島事故を扱うための改良として、燃料部からシュラウドへの放射伝熱モ

デルが入っているのではないでしょうか。この機能を使わなかったのですか。

質問 2:放射伝熱を無視することは、燃料部のヒートアップを過大に評価し、炉内構造物の過熱変形を過小

に評価する(たとえば RPV 上鏡部の温度を低めに評価する)ことにつながるので、炉心燃料部が高温となっ

た後の事故シーケンス解析の信頼性にとって大きな制約となります。その結果、炉内の高温ガスの漏出

[1][2]、格納容器の直接加熱(Direct Containment Heating)などの現象が解析スコープに入ってこないお

それがあり、さらに内圧変化の予測にも影響するのではないでしょうか。

[1]田中三彦, シビアアクシデント進行時、1号機 RPV 主フランジのシール機能は維持されていたか?

2020 年 8⽉12⽇, https://www.pref.niigata.lg.jp/sec/genshiryoku/kadai1-14.html,

https://www.pref.niigata.lg.jp/uploaded/attachment/232683.pdf

[2]東京電力 資料 No.4、田中委員からの質問への回答、2020 年 8 月 12 日

https://www.pref.niigata.lg.jp/uploaded/attachment/232541.pdf,

質問 3:福島 1号機に関する MAAP 解析では、気水分離器、蒸気乾燥器、RPV 上鏡部、シュラウドなどへ沈

着した FP の発熱による加熱を計算に含めているのですか。

これだけでも構造物へは相当な加熱量になるはずです。さらに、溶融デブリがプールとなったときのプー

ル面からの上方への放射伝熱を考慮すれば、上部構造物の温度がそれだけ上昇し、FP 沈着量が低下し、そ

の分 FP はさらに上の RPV 上鏡部に到達して温度上昇に結びつくはずです。

質問 4:これらの論点へのご説明の一環として、8月 12 日に示された資料 No.4[2]の p.5 および p.6 の RPV

温度解析結果の計算条件を明示してください。計算条件によっては、再計算が必要になるのではないかと

思います。

②コメント:もう一つの SA 解析コード MELCOR では、炉心燃料部からシュラウドや上部格子板、気水分離

器など RPV 上部構造への放射熱伝達を計算する機能があります。FP 沈着による加熱ももちろん計算しま

す。したがって、こうしたモデル、特に放射伝熱モデルは、その解析精度が必ずしも検証されてなくても、

事故の進行における主要な局面(たとえば燃料損傷の局面、シュラウドのクリープ変形の局面、RPV 上部

Page 5: 資料No.1...資料No.1 2 別記1 原子炉キャビティ内の水素爆発に対する耐性評価と防止対策 原子炉キャビティ内の水素爆発の可能性が排除できない場合には、実際にそれが発生した場合の耐性評価

5

フランジ過熱の局面など)の評価を可能にし、より正確な事故分析を可能にします。

ただし保安院・規制庁における MELCOR による福島事故解析がこうした炉心燃料部からシュラウドや RPV

上部構造への放射熱伝達を考慮しているのか否かは未確認です。

別記 7 低圧注水系の冗長性

東京電力の柏崎刈羽 6号機 7号機の想定 SA シナリオ[4]について、主たる想定条件を以下のように理解

しています。

[4] 東京電力、選定したベントシナリオ解析条件 の妥当性について、2014 年 10 月 7 日

https://www.pref.niigata.lg.jp/uploaded/attachment/36721.pdf

RHR 配管の一つが破断し、残りの RHR の 2 系統も機能停止。同時に非常用 D/G も起動しない、つまり SBO

となる。1時間後にガスタービン発電機が起動して電力を供給開始。その後、低圧注水系を起動して炉内注

水スプレーと格納容器スプレーを交互に動かし、格納容器の内圧上昇を防ぐとともに炉心の冷却(冠水状

態)を継続する。崩壊熱は RHR 内の熱交換器によって一次系外に送り、最終的なヒートシンクの海にまで

送られる。

①この事故発生条件は、DBA-大破断 LOCA と同様に、起因事象を特定せずに保守的な条件を想定したと理

解しています。その際、RHR 配管の破断と他系統 RHR の機能停止、SBO という極めて重大な条件を想定する

一方で、RHR 系や D/G 系より頑丈だとは思えない低圧注水系だけは機能を維持している(損傷しない)と

いうのは、どう考えても違和感が残ります。

質問 6:なぜ低圧注水系だけが機能を維持できると想定したのですか。

②低圧注水系は、炉心と格納容器上部にそれぞれ 1系統しかありません。低圧注水ポンプも 1台のみ。

これらは炉心と格納容器冷却の唯一の手段ですが、冗長性がありません。

仮に事故発生のごく初期の時点で注水動作を開始しなければ、大規模な炉心損傷と格納容器内圧上昇をも

たらします。

質問 7:冗長性を追加することはできないのですか。

質問 8:また注水量は直接計測するのではなく中操でポンプ流量と経過時間から(間接的に)求めるとして

います。これは緊急時に運転員の誤認識を生じるリスクがありますが、どうでしょう?

③東京電力は、6 号機 7 号機の想定事故(SA)において炉心の崩壊熱を熱交換器やポンプを通して最終ヒ

ートシンクの海へ導くとしていますが、

質問 9:このパスには冗長性があるのですか。また、津波が構造物に与える力学的負荷は、津波の波力のみ

ならず、圧力波が重要です。

質問 10:圧力波が放水路を破損させる可能性はないのか、評価しましたか。

質問 11: 津波によって運ばれた海底の大量の砂が、放水路・取水路に堆積して水路を塞ぐ可能性を考慮

していますか。あるいは地震によって放水路末端箇所が損傷した場合のことを考慮していますか。

Page 6: 資料No.1...資料No.1 2 別記1 原子炉キャビティ内の水素爆発に対する耐性評価と防止対策 原子炉キャビティ内の水素爆発の可能性が排除できない場合には、実際にそれが発生した場合の耐性評価

6

別記 8 ストレステストとクリフエッジの明示

柏崎刈羽6号機7号機については耐震性評価という観点からストレステストを行ってクリフエッジを明

らかにすべきです。

質問 12:なぜ再稼働の条件として事前にストレステストを行わないのでしょうか。

別記 9 コリウム・シールドの信頼性

1.コリウム・シールドの信頼性

1.1. コリウム・シールドがなぜ重要なのか

現在、福島第一原子力発電所においては、1000 基を超えるタンクに蓄えられた 120 万トンを超える汚染

水やその処理水の扱いに苦慮している。また余り注目されてはいないが、その処理に使用された使用済の

ALPS の吸収材の貯蔵容器も数千基という数に達して保管容量が逼迫したことから、減容対策に取り組んで

いる。

この問題の原因を辿ると、炉心溶融が進展して RPV 下鏡が貫通し、流出した溶融デブリによる熱と過圧

によって格納容器(PCV)の底部も損傷したことで、RPV と PCV の両バウンダリが原子炉に注入した水を保

持できず、高レベルの汚染水として原子炉建屋底部に漏れ出し、さらに原子炉建屋底部も保持できないこ

とで地下に流出したものが、山側から海側に向かう地下水流に乗ってタービン建屋の地下に運ばれて滞留

し、これが同建屋の地下から湧出して、同時に流入する地下水と混じって量が増加するため、タービン建

屋地階からの汲み上げが終りのない作業と化し、今に至っているものと推測される。そのような流路、特

に地下の流路に関しては、具体的に特定されているわけではないが、1、2、3号機にすべて共通する特徴と

なっている。

現在福島第一原子力発電所で運転されている水処理系は、タンクや ALPS も含めた最終形が完成するまで

に長い年月を要しており、それまでの間、特に事故対応の初期においては、しばしば高濃度の汚染水を海

洋に流出させ、今でも広く沿岸部の海底を汚染させている。

柏崎刈羽 6、7 号機の場合、RPV の真下が下部ドライウェルと呼ばれる空間で、Mark-II 型格納容器のよ

うにサプレッション・プール水が待機しているわけではない。したがって、重大事故が進展して RPV 下鏡

が貫通し溶融デブリ(「コリウム」とも称される)が流出した場合、下部ドライウェルは、福島第一 1、2、

3 号機におけるペデスタル内側の領域と同じ条件に曝されることになる。下部ドライウェルの床は、厚さ

約 1.6mのコンクリートで、PCV バウンダリの鋼製ライナーがその下にある。ただし、同床面には、2ヵ所

に深さ約 1.4m のドレン・サンプ(機器ドレン・サンプと床ドレン・サンプ)が設けられているため、その

部分だけが鋼製ライナーまで約 20cm しかなく、これらにドレン・サンプにコリウムが流入した場合には、

当該の鋼製ライナーが損傷を受ける可能性がある。

そこで柏崎刈羽 6、7 号機の場合、福島第一で経験された問題の再現を防ぐため、下部ドライウェルに、

コリウム・シールドが追加され、さらに注水設備も具備されることになった。この場合、水蒸気爆発を避

けるため、予め水張りをしておくのではなく、コリウムの流出後に注水を開始する。

1.2. コリウム・シールドの設計概念と潜在的問題点

下部ドライウェルにコリウム・シールドを設け、注水設備を具備する概念は、1997 年に米国 NRC によっ

Page 7: 資料No.1...資料No.1 2 別記1 原子炉キャビティ内の水素爆発に対する耐性評価と防止対策 原子炉キャビティ内の水素爆発の可能性が排除できない場合には、実際にそれが発生した場合の耐性評価

7

て設計認証を受けた米国版の ABWR の設計には含まれていた。そこで、柏崎刈羽 6、7 号機における設計も

この概念に倣っている。すなわち、コリウム・シールドとは、2ヵ所のドレン・サンプにコリウムが流入す

るのを防ぐ耐火性レンガで作られた堰のような構造物である。

米国版の ABWR の DCD Rev.4(1997 年 3 月)によれば、下部ドライウェルに流出するコリウムの重量を

235 トン、床面積を 79m2として、その深さが 33cm となることから、コリウム・シールドの高さを 40cm と

している。これに対して柏崎刈羽 6、7号機では 65cm としており、より保守的である。また、米国版の ABWR

では、耐火レンガの材料をアルミナ(融点 2072℃)としているが、柏崎刈羽 6、7号機ではジルコニア(融

点 2715℃)を採用し、より耐火性に優れている。

しかし一方では、以下の点が不明であることから、柏崎刈羽 6、7号機の設計が非保守的で、PCV バウン

ダリの鋼製ライナーの損傷を防ぐ上で十分ではないかもしれない懸念がある。

(1) 迂回(トンネル)対策

米国版では、堰の高さは 40cm であるが、その「根」の深さをサンプの深さと同じにし、コリウムによっ

てコンクリートが溶融し、下から「根」を迂回して潜り込むのを防いでいる。(次図を参照) しかし、柏

崎刈羽 6、7号の設計ではその「根」がなく、迂回が容易であるように見受けられる。そのように溶融コリ

ウムのトンネルがサンプの側面を貫通して流入した場合には、遅からずそのわずか約 20cm 下にある鋼製ラ

イナーも損傷されるように思われる。

さらに米国版では、コンクリートの骨材として玄武岩質を指定している。(次図を参照)これは、石灰岩

質の場合、MCCI 反応が激化して侵食性が増し、多量の可燃性ガスや二酸化炭素、エアロゾルを発生させ、

それ自体が発熱反応となるからである。柏崎刈羽 6、7号機の場合、コンクリートの骨材の種類が不明であ

るが、骨材やセメントの成分を把握しておくことは、別の視点からも重要である。すなわち、石灰岩が発

生する大量の二酸化炭素は、せっかく放射性ヨウ素の吸着効率を高めるために弱アルカリ性化させたサプ

レッション・プール水やフィルター・ベントのフィルター水を中和し、さらに酸性化し、著しく放射性ヨ

ウ素の放出を増加させてしまうことである。

Page 8: 資料No.1...資料No.1 2 別記1 原子炉キャビティ内の水素爆発に対する耐性評価と防止対策 原子炉キャビティ内の水素爆発の可能性が排除できない場合には、実際にそれが発生した場合の耐性評価

8

(2) 床ドレン・サンプの特異な問題点

上述のように、ドレン・サンプには、機器ドレン・サンプと床ドレン・サンプの 2 種類があり、いずれ

に対しても、それぞれの目的のため、ドレンを導く配管や溝がコリウム・シールドを貫通しなければなら

ない。この場合、特に問題となるのが、床ドレンの溝である。通常運転を妨害しないため、これを塞ぐこ

とができないが、これが重大事故時に溶融コリウムが流れる溝となってしまうからである。そこでこの問

題を解決するため、米国版の ABWR の設計では、わざとこの溝の幅を広くして放熱面積を大きくし、溝がコ

リウム・シールドを通過してからドレン・サンプに至るまでの距離を 0.5m以上確保することにしている。

そうすることで溶融コリウムは冷えて固化し、その後流れ込むのが防がれることになる。(前掲の図を参照)

柏崎刈羽 6、7 号機の床ドレン・サンプに対して、これと同等の考慮が払われているかどうかは分らない。

(3) コリウム・シールドの健全性評価

2018 年 1 月 19 日に動画撮影された福島第一 2 号機のペデスタルの状況を見ると、燃料集合体のアッパ

ー・タイプレートとベイル・ハンドルが、原形を保ったまま堆積物の上に載っている。このことは、少な

くとも RPV 下鏡の損傷末期においては、タイプレートの対角寸法から推定して、直径 20cm 以上の大きな穴

が穿たれていたことを意味し、土石流のような液体と固体が入り混じった流体が、勢いよく流出したこと

を想像させる。と言うのも、密度が鉛のそれにも匹敵する溶融デブリの場合、わずか 4m の深さであっても

水深 40m 以上の水頭圧に相当し、それだけで流速 28m を超える勢いで噴射されることになるからである。

したがって、混在した固形物が衝突した場合の衝撃はかなり強烈で、耐火レンガ造りのコリウム・シール

ドが、果たしてそれに耐えられるのか、衝撃によって決壊してしまうことはないのかという疑問が生じる。

RPV の下鏡に貫通孔が生じる現象は、溶融によるものではなく、融点に近いほどの高温条件でのクリー

プによるものである。その場合、重い RIP がぶら下がった箇所は、特にそれが起こり易いものと推測され

る。(RIP のケーシングの中には、銅のコイルがぎっしり巻かれたモーターが内蔵されている。)RIP は、た

とえシャフトの貫通ノズルが破断したとしても、炉内にあるポンプのインペラーが引っ掛かって脱落しな

Page 9: 資料No.1...資料No.1 2 別記1 原子炉キャビティ内の水素爆発に対する耐性評価と防止対策 原子炉キャビティ内の水素爆発の可能性が排除できない場合には、実際にそれが発生した場合の耐性評価

9

いよう設計されているが、これが融けるか高温で強度を失った場合には役に立たない。落下する RIP の重

量は不明であるが、仮に 1 トンとしても、それが、さまざまな構造物に遮られながらとは言え、数 m 落下

した場合の直撃にはもちろん、バウンドして当たった場合であっても、コリウム・シールドがその衝撃に

耐えるとは期待し難い。

なお、RIP が複数基落下した場合には、これがコリウムの嵩を増すことにもなる。モーターの銅の融点は

低く(1085℃)、それによってコリウムの流動性が増す可能性もある。

1.3. 下部ドライウェルへの注水方法に関する潜在的問題点

RPV 下鏡に穴が空いてから溶融コリウムが流出し終えるまでの所用時間は短いため、RPV の急激な圧力低

下などをその兆候として捉えてから、下部ドライウェルへの注水が指示されるものとすると、幾ら注意を

払っていたとしても、また、幾ら迅速に対応できるように待機していたとしても、実際、注水が始まるま

でには、相当な時間が経過してしまい、その間に MCCI がかなり進行してしまうものと思われる。他の監視

業務は作業に忙殺され、検知、指示の発出、作業の着手が遅れてしまうことも考えられる。そのような遅

れに伴って、発生する一酸化炭素、二酸化炭素、エアロゾルの量が増していくことになる。上述の迂回の

問題も現実化していく。

また、注水用のポンプの能力にもよるが、格納容器の圧力が十分高くなっている場合には、これに抗っ

て注水できたとしても、著しく流量が低下してしまう可能性がある。流量が不十分である場合には、注が

れた水がたちまち高温の水蒸気となり、それまで未反応だったジルコニウムがジルコニウム水反応を起こ

して水素を発生させながら発熱する可能性がある。さらに、注水がどうにかやがて軌道に乗ったとしても、

コリウムを十分覆っているかいないか水位を把握する術がない。

このように注水が人的対応に委ねられた場合には、多くの問題に遭遇する懸念がある。ちなみに、米国

版の ABWR では、これを完全なパッシブ化した設計として、そのような問題を解決している。すなわち、下

部ドライウェル・フラッダーという系統を導入し、下部ドライウェルの雰囲気温度が 260℃に達したとこ

ろでフュージブル・プラグが働いて、サプレッション・プール水が水頭差で流入してくる。このような注

水ライン(直径約 10cm)が 10 本用意されている。

Page 10: 資料No.1...資料No.1 2 別記1 原子炉キャビティ内の水素爆発に対する耐性評価と防止対策 原子炉キャビティ内の水素爆発の可能性が排除できない場合には、実際にそれが発生した場合の耐性評価

10

別記 10 RPV スカート、スタビライザーヘの影響評価

福島第一 1、2、3 号機においては、原子炉圧力容器を水平方向に支持・拘束している原子炉圧力容器~

生体遮蔽~格納容器を連結するスタビライザー(次図を参照)に作用する荷重のバランスが、重大事故時

には、格納容器が過度に膨らむことでスタビライザーの付根が引っ張られて引き抜かれ、格納容器が破損

を受けた可能性もあることが、米国サンディア国立研究所によって指摘されている。

このような破損モードも考慮すると、格納容器の健全性については、ドライウェル・ヘッドや電気ペネ

トレーションの耐熱性を高めただけでは、十分にその信頼性が向上していない可能性もある。ABWR におい

ては、当該部の構造が従来型の BWR とは異なり、これと同じ潜在的な弱点が当て嵌まらない可能性もある

が、逆に ABWR 特有の弱点がないかについても点検する必要がある。

Page 11: 資料No.1...資料No.1 2 別記1 原子炉キャビティ内の水素爆発に対する耐性評価と防止対策 原子炉キャビティ内の水素爆発の可能性が排除できない場合には、実際にそれが発生した場合の耐性評価

11

たとえば、ABWR の原子炉圧力容器の重量を垂直方向に支持しているスカートは、前掲の図に示されるよ

うに円錐台状に広がっており、重大事故時にドライアウトしてからは、長時間高温に曝されることになる。

したがって、その温度が十分に高い場合には、付根部が高温クリープを呈し、原子炉圧力容器が自重で沈

み込むようになる可能性がある。

したがって、そのような可能性の現実性と、そのような変位が生じた場合にどのような二次的影響が起

り得るかについて評価することは重要である。

別記 11 原子炉圧力容器主フランジの挙動

柏崎刈羽原子力発電所の安全確認で確認すべき事項の例

~RPV 主フランジからの漏えいの可能性への対応~

・原子炉ウェルへの水張りは、RPV 主フランジから高温高圧のガスが「噴出」する DCH(*)的事象のような

場合にも有用なのか。(*)Direct Containment Heating(格納容器直接加熱)

・原子炉格納容器フランジ部のOリングが破損すれば、原子炉ウェルに水を張っていても大量の水素がオ

ペレーティングフロア(オペフロ)へと漏出する可能性があるが、どう対応するのか。

・RPV 主フランジからの漏えいによる格納容器過温破損が、FV の作動条件である 2Pd に至るまでの時間よ

り、かなり先行して起きる可能性はないか。起きても問題はないか。

・RPV 主フランジからの漏えいの可能性は、植え込みボルトの材質が耐熱鋼でないことからきている。材

質の変更という選択肢はないか。

※本問題に関する背景等については、資料 No.3-2『「課題別ディスカッション1」(地震動による重要機器

の影響)に係る論点整理について』の問題点3を参照下さい。

Page 12: 資料No.1...資料No.1 2 別記1 原子炉キャビティ内の水素爆発に対する耐性評価と防止対策 原子炉キャビティ内の水素爆発の可能性が排除できない場合には、実際にそれが発生した場合の耐性評価

12

表2 ご意見を踏まえて整理した確認事項一覧 ※赤字は委員からいただいた確認事項と主な内容

区分 確認事項 主な内容 説明時期

(国が設置変更許可の審査内容の説明において、工事計画等の審査で確認するとされた事項)

1 建屋基礎底面の最大傾斜が目安値である 1/2,000 を上回ることの評価 ・建屋の傾斜・安全機能への影響等

2 施設の液状化対策 ・液状化対策の全体概要 ・フィルタベント設備の液状化対策 ・耐震評価結果等 R2.7 説明

3 水撃による圧力波の冷却水系への影響 ・津波による圧力波の発生と影響の評価等

4 冷却水系、循環水系の損傷による内部溢水への対処 ・内部溢水への対策、電源設備の絶縁劣化や地絡短絡への備え等

・No.6 海水系配管の損傷による内部溢水等

5 情報操作システムへの不正アクセス防止 ・発電所内の情報セキュリティー対策 本日説明予定

6 最終ヒートシンクへ熱を輸送するための設備及び運用手順 ・最終ヒートシンクへ熱を輸送するための設備、運用手順、津波への備え等

・No.12 低圧注水系の冗長性等

7 格納容器の破損防止対策 ・PCV の加温破損防止対策等 ・No.4、No.16 RPV 上蓋からの水素ガス等の漏洩等

・No.14 コリウム・シールドの信頼性 ・No.15 RPV スカート、スタビライザー

8 計装設備の計測範囲の変更、電源設備の強化等 ・事故を踏まえた計装設備の改良、パラメータ把握の代替手段等 本日説明予定

9 事故対応時の環境対策、体制等 ・No.1 中央制御室の放射線防護等 本日説明予定

10 重大事故対処手順、作業者の教育・訓練及び心理的負担 ・重大事故対処手順、作業員の教育・訓練

・No.5 RCIC の運転操作等 ・No.8 マニュアル作業の負担等 ・No.9 想定外事象への対応等 本日説明予定

11 運転適格性の確認 ※ 国から保安規定の審査結果について説明を受ける。

(県からの依頼事項)

12 F V

関 係

フィルタベント設備の耐震性(地下式含む) ・フィルタベント設備の耐震性 ・代替循環冷却設備 等 R2.7 説明

13 技術委員会にて指摘頂いた事項に対する対応状況 ・ベント判断基準の妥当性 ・ベント操作のパッシブ化・放射性物質の放出量 等 R2.7 説明

14 地下水対策 ・汚染水の発生を防止するための対策(地下水の過酷事故時のくみ上げの対応や耐震性等)

・No.6 タービン建屋への地下水の流入等

15 緊急時対策所 ・施設の機能や広さ ・放射線防護等の設備

・No.7、No.10 感染症対策、パンデミックへの対応等 本日説明予定

(その他追加事項)

16 水素爆発対策 ・No.2 原子炉キャビティ内の水素爆発対策等

17 原子力災害時の情報発信 ・原子力災害時の情報発信の内容、体制等

18 その他 ・No.11 MAAP 解析における輻射熱の扱い

・No.13 ストレステストとクリフエッジ等

※ No.3 福島第一の炉内の状況については、別途、東京電力に情報提供を求める。