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2010 大学院 2010 4 30 エキシトンポラリトンのシュタルクトラップを用いた最適化問題の計算 Accelerating Optimization Problems by Exciton-Polariton in a Stark Trap 2 48-096438 Abstract The quantum-confined Stark effect (QCSE) describes the effect of an external electric field upon the light absorption spectrum of a quantum well. The spatial potential of quantum well is controllable using electric field. The shift is estimated using second order cor- rection for infinite quantum well. We calculate two- dimensional spatial dynamics of exciton polaritons in a semiconductor microcavity by means of a generalized Gross-Pitaevskii equation which analytically studies the spectrum of elementary excitations around the station- ary state. This result allows two level system of bosonic particle, which makes new scheme of computer acceler- ating optimization problems. 1 はじめに 1994 Shor によって 題に対する多 アルゴリズムが されて以 , , , まざま コンピュータ けた われている [1]. , スピ ット して げられている. しかし がら ある , ごく によって されてしまうため ある われている. 2009 , Bose-Einstein (BEC) した 案された [2]. , Bose がある 態に いう , に依 して が大きく いう して, するために された Ising モデル 態を ある. NP 題に される 多くが, Ising デル エネルギー して きるため, 待されている [3]. , Bose あるエキシトンポラリト ンを いて, BEC コンピュータを するこ している。Ising モデルを するにあたり, あるため, によるエキシトン Stark (QCSE) いて, エキシトンポラリトン するこ している. おり ある. 2 . 3 , 4 ったシ ミュレーションについて . 5 について . 2 背景 2.1 BEC Computer セールスマン , , , よう , ある多変 する して に扱うこ . 多変 Ising モデル れる モデル ハミルトニアン H = i,j J ij σ i σ j (1) , して きこ られている [3]. σ i i かれている スピ きを , σ i = +1, σ i = 1 する. エネルギーを {σ i } わせを すためにシミュレーテッド アニーリング [4] アニーリング [5] えられてきたが, まった , してしまう 題が ている. 1: The schematic BEC device. 1

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2010 年度 夏学期輪講 大学院輪講資料 2010年 4月 30日

エキシトンポラリトンのシュタルクトラップを用いた最適化問題の計算Accelerating Optimization Problems by Exciton-Polariton in a Stark Trap

情報理工学系研究科 電子情報学専攻 山本研究室 修士課程 2年 48-096438 高橋信行

Abstract

The quantum-confined Stark effect (QCSE) describes

the effect of an external electric field upon the light

absorption spectrum of a quantum well. The spatial

potential of quantum well is controllable using electric

field. The shift is estimated using second order cor-

rection for infinite quantum well. We calculate two-

dimensional spatial dynamics of exciton polaritons in

a semiconductor microcavity by means of a generalized

Gross-Pitaevskii equation which analytically studies the

spectrum of elementary excitations around the station-

ary state. This result allows two level system of bosonic

particle, which makes new scheme of computer acceler-

ating optimization problems.

1 はじめに

1994年に Shorによって素因数問題と離散対数問題に対する多項式時間アルゴリズムが発見されて以来, 量子計算が脚光を浴び始め, 理論研究に加え, さまざまな物理系で量子コンピュータの実現に向けた研究が行われている [1]. 現在, 半導体中の電子スピンや超電導磁束や核磁気共鳴などが計算を担う量子ビットの候補として挙げられている. しかしながら集積化が困難である上, ごく短時間に量子系が環境との相互作用によって破壊されてしまうため実用化は困難であると言われている.

2009年, Bose-Einstein凝縮 (BEC)を利用した新たな量子計算の構想が提案された [2]. この計算機は, Bose粒子がある温度以下ですべて基底状態に落ち込むという性質と, 粒子の数に依存して基底状態に落ち込む速度が大きくなるという性質を利用して,

磁性体の物理的な性質を説明するために導入されたIsingモデルの基底状態を探すものである. NP完全問題に代表される最適化問題の多くが, この Isingモデルのエネルギーの拡張版として表現できるため,

この計算機の実現が期待されている [3].

本研究では, Bose粒子であるエキシトンポラリトンを用いて, BECコンピュータを実現することを目標としている。Isingモデルを作成するにあたり,

粒子の二準位系と格子間の相互作用であるため, まず電場によるエキシトンの量子閉じ込め Stark効果

(QCSE)を用いて, エキシトンポラリトンの二準位系を作成することを目指している.

本稿の構成は以下のとおりである. 第 2章では 研究背景を述べる. 第 3章, 第 4章では今回行ったシミュレーションについて述べる. 第 5章では実験系について説明を行う.

2 背景

2.1 BEC Computer

巡回セールスマン問題, 最短経路問題, 二分割問題, 画像修復のような最適化問題は, ある多変数関数を最小化する問題として数理的に扱うことができる. その多変数関数はそのほとんどが Isingモデルと呼ばれる磁性体のモデルのハミルトニアン

H =∑i,j

Jijσiσj (1)

の変形, 拡張版として表現できことが知られている[3]. σiは i番目の格子点に置かれている原子のスピンの向きを表し, 上向きの場合は σi = +1, 下向きの場合は σi = −1とする. エネルギーを最小化する σiの組み合わせを探すためにシミュレーテッドアニーリング [4]や量子アニーリング [5]などの解法が考えられてきたが, 局所的な最小値にとどまったり, 計算に長時間を要してしまうなどの問題が残っている.

図 1: The schematic BEC device.

1

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Bose粒子を用いた計算機は,図1のように Isingモデルにおいて各格子点にトラップされている1個の原子をN個の Bose粒子に拡張したものである. それぞれの格子点にあるN個のBose粒子が二準位のうちのいずれの状態を占めることになるが, 1つの格子に多数のBose粒子が存在することにより, 内部での自由度が大きくなる。また Bose粒子の個数に比例して, 粒子の遷移レートが大きくなるため, 平衡状態に達するまでの時間が短くなる.

Bose粒子を各格子に敷き詰めたときの Isingハミルトニアンは

H =∑i,j

JijSiSj

Si =

N∑k

σki (2)

と表すことができる. Jijは計算したい問題に依存しており, この相互作用を生み出す方法として, 各格子点のスピンの平均値を読み取り, その値に応じた場

B =∑j

JijSj (3)

を格子点 iに外部から加える方法が考えられている(図 2). ここでの”計算”は格子間の相互作用を維持

図 2: Interaction by measuring-feedback loop.

したまま, システムを冷却して, エネルギーを外部に放出することであるため, 従来の量子コンピュータで問題となっている複雑なゲートやデコヒーレンス等を考える必要がない.

図 3, 4は 4格子の Isingモデルにおいて, 平衡状態へ落ち着くまでの時間と, その平衡状態が基底状態である確率をBosonの関数として示している [2]. 一定のエラーレートを仮定すると, Bose粒子の数が大きいほど計算時間が短くなることが確認できる. また, 平衡状態への遷移時間が 1/Nの因子によって早められることもわかる. 本研究で用いる Bose粒子はエキシトンポラリトンであり、N > 106を満たすことができるため, 計算時間が大幅に短縮されると考えられている.

図 3: The equilibration time for the 4 site Ising

Hamiltonian.

図 4: The 1/N dependence of the 4 site Ising Hamil-

tonian.

2

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2.2 キャビティにおけるエキシトンポラリトン

本研究では Bose粒子としてキャビティにおけるエキシトンポラリトンを用いる.

2.2.1 キャビティ

本研究で用いるデバイスは, 図 5 のように Dis-

tributedBraggReflectors(DBRs)と呼ばれる構造でキャビティを構成している. 屈折率の異なる 2種の層を適切な厚さで交互に配置することで共振器を実現する. この設計は転送行列法 [6]を用いて計算でき, それぞれの層が λ = 1/2となるように設計されている. また, 共振波長周辺において, 非常に高い反射率をもつ特徴的な領域が存在する [7].

図 5: Sketch of a semiconductor microcavity.

2.2.2 エキシトン

光励起され伝導帯に遷移した電子と価電子帯に生じた正孔は, 互いにクーロン力により束縛状態を作る. このような電子・正孔対はエキシトンと呼ばれている. エキシトンは Bose統計に従う準粒子として振る舞い, 電気伝導には寄与しないが, 光の吸収や発光など光学的性質には大きく関与する. エキシトンの基底状態はエネルギーギャップからその束縛エネルギーだけ低いエネルギー領域に存在する.

2.2.3 エキシトンポラリトン

バンド間の双極子遷移が許容されるとき, エキシトンは光と強く相互作用する. このようにエキシトンと光が結合した状態はエキシトンポラリトンと呼ばれている. 図 6のように結晶に光が入射されると,

分極として電子と正孔からなるエキシトンが生じ,

次にそのエキシトンが光に変換される過程とその逆の過程が連続的に起こり結晶中を伝播していく. このように, エキシトンポラリトンは光とエキシトン

図 6: the Macroscopic Single Wavefunction at a

Low Temperature.

による分極場の素励起波と考えることができる. 第二量子化を用いると散逸がない系でのハミルトニアンは

Hpol = Hcav + Hexc + HI (4)

である. 第一項と第二項はそれぞれエキシトンとキャビティフォトンをあらわす対角成分である. 第三項が相互作用をあらわしており,非対角成分を持つ. このハミルトニアンを対角化することによって 2つの固有エネルギーを持つ新しい固有状態が生成される.

上肢ポラリトン (UP) と下肢ポラリトン (LP) に対応する固有エネルギーELP,UP (k∥)は

1

2

(Eexc + Ecav ±

√4h2Ω2 + (Eexc − Ecav)2

)(5)

となる. ここでEexcとEcavはそれぞれエキシトンとキャビティフォトンのエネルギーである. ポラリトンは同じ波数 k∥をもつエキシトンとフォトンの重ね合わせであり, 共鳴するとき (Eexc −Ecav = 0)

のUPとLPのエネルギー差 2hΩをラビ分裂と呼ぶ.

k∥ = 0におけるエキシトンと光子のエネルギー差をデチューニングパラメータと呼び, サンプルにおけるλ/2キャビティーの厚みを変化させることで変調できる. 多くのサンプルでは, λ/2キャビティーの厚みを場所によって徐々に変化させた構造をしており,

様々なデチューニングパラメータで実験できるように設計されている. 図 7は起子と光子が共鳴しているときののときのエキシトンポラリトンの分散関係を示している. エキシトンポラリトンの有効質量はフォトンとエキシトンの重ね合わせの割合で決まるため, デチューニングパラメータと波数に依存する.

フォトンに近づけば有効質量は軽くなり, エキシトンに近づけば有効質量は重くなる.

2.2.4 エキシトンポラリトンにおけるBEC

Bose粒子においても, Fermi粒子と同様, 粒子密度が低い場合には量子効果は聞かず, 粒子は古典的

3

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図 7: Polariton dispersion at detuning parameter

∆ = 0 Relative masses of each state versus electron

mass are indicated.

な理想気体のように振舞う. 量子効果が重要となるのは

N

V≫ (mkBT )

3/2

h3(6)

が満たされる高密度または低温の場合である. Bose

粒子は一つの軌道にいくつもの粒子が入ることができるので, 絶対零度ではすべての粒子が最もエネルギーが低い軌道に入ることになる. この変化は

TC =2πh2

mkBT

(N

2.612V

)2/3

(7)

の温度を境にして始まる. エキシトンポラリトンの有効質量はエキシトンの有効質量の 10−4倍であるため, 同じ密度どあれば 104倍高い温度でBECが起きる.

図 8: Relaxation mechanism, using polaritonpo-

lariton scattering and polariton-phonon scattering.

次に, エキシトンポラリトンにおけるBECへの相転移のメカニズムを説明する. 図 8のように LPのkがが大きい領域をレーザでポンプすると, そこで形成されたエキシトンポラリトンは格子のフォノン(phonon) と衝突しながらフォノンにエネルギーを与えて, 徐々にkが小さい領域へ緩和していく. しか

し, 密度が十分でない場合は, ある有限の波数 k = 0

に多数の粒子が溜まってしまう現象が生じることが知られている. これをボトルネック効果と呼ぶ. ポンプ光強度を強めて密度を高くしていくと, ポラリトン間の衝突とフォノン散乱によって粒子は基底状態 k = 0へさらに緩和していく. ポラリトンはBose

粒子であることから,量子縮退の条件NLP ≥ 1(NLP

は基底状態の粒子数)を満たすと同時に誘導放出の作用によって多数の粒子が基底状態へ落ち込む (図9). このようにして, 基底状態に凝縮体を形成することができる.

図 9: Far-field emission measured at 5 K for three

excitation intensities.

エキシトンポラリトンは光子的性格からその有効質量が非常に軽く, BECの転移温度が高くなり凝縮が達成されやすい. しかし一方で, 光子の寿命が短いため, エキシトンポラリトンの寿命も短い. このため凝縮隊は光励起によるポラリトン注入や最低エネルギー準位へのBose誘導散乱が, 短い寿命によるエキシトンポラリトンの減衰と釣り合った非平衡定常な状況下にある [8].

3 量子閉じ込めStark効果 (QCSE)

BEC Computerを実現するには, Bose粒子の二準位系が必要である. 本研究ではエキシトンポラリトンのシュタルク効果を利用した空間的な二準位系を作成することを目標にする. エキシトンのQCSE

による吸収波長の長波長側へのシフトとの理論的予測を行った.

3.1 QCSEの概要

量子井戸構造では, 電子および正孔は, 中央の井戸層と両側の障壁層とのエネルギーギャップ差のため

4

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に, 井戸層内に閉じこめられ, その結果, 井戸内には離散的な量子準位が形成される. 電界が印加されていないときは, 伝導帯の電子および価電子帯の重い正孔と軽い正孔の各準位に伴う波動関数は, 井戸の中心に関して対称な形となっているが, 量子井戸層に垂直な電界を印加すると, 伝導帯の電子の波動関数は中心より左側に, 価電子帯の正孔の波動関数は右側に移動する. またこのとき伝導帯の量子準位は相対的に低下し, 価電子帯の量子準位は相対的に上昇する (図 10). こうして印加電界の増加とともに,

実効的なエネルギーギャップは減少することになる.

図 10: The band structure of a quantum well with-

out (a) and with (b) an applied electric field per-

pendicular to the wells. The interband transition

energy decreases as greater field strength is ap-

plied.

バルク半導体と比較して量子井戸構造における光物性で特に重要なものは, 室温エキシトンの存在である. エキシトンとは, 光吸収によって生じた電子・正孔対がクーロン力によって互いに束縛されている状態である. GaAsの場合, バルク半導体では, エキシトンの結合エネルギーは 4.2meVと小さく, エキシトン効果による光吸収ピークは極低温でしか観測されず, 室温ではフォノン散乱により吸収ピークは完全に消失する. 一方, 量子井戸構造では, エキシトンの状態が通常のバルク半導体ときわめて異なった挙動を示し, 2次元励起子の結合エネルギーは3次元エキシトンの4倍の大きさとなり, 振動子強度も大きくなる. その結果, 通常のバルク半導体では,

極低温でしか観察されないエキシトンに伴う急峻なピークが, 量子井戸中では結合エネルギーが大きいために室温でも安定に存在する. バルク半導体に外部から電界を印加した場合, バンド端吸収のブロードニングが起こる. 極低温でバルク半導体に存在する励起子に電界を印加しても, 電子・正孔のクーロン相互作用が電界で変化し, 束縛エネルギーは減少する. 古典論から予想されるイオン化電界よりも小

さい電界でエキシトンは解離してしまうので, Stark

効果はあまり重要ではない. 量子井戸構造では, 層厚方向に垂直に電界を印加した場合は, バリア層がエキシトンの解離を妨げるために, バルクのようにエキシトンが弱い電界で解離することはない. 光吸収スペクトルは低エネルギー側にシフトしたピーク構造が観察される.

3.2 QCSEによるエネルギーシフトの理論値

本研究では図 11のデバイスを用いてエキシトンポラリトンのQCSEを測定する.

図 11: a

上から見ると 7mm-17mmの長方形の形をしたデバイスで, 4個の量子井戸構造を中央に持ち, 上下にそれぞれ 20, 24個のDBRが構成されている. また表面に金が蒸着されており, 電圧を加えることでエキシトンに電場を与えることができる構造となっている. 電場を印加したときの伝導帯と価電子帯の変動を計算し, 光吸収スペクトルのエネルギーシフトを見積もった.

デバイスの裏面を接地し, 表面の一部に蒸着された電極に直流電圧をかけると, 図 12のようなポテンシャルが生成される. このポテンシャルによって, 蒸

10 20 30 40 50 60 70 80

10

20

30

40

50

60

70

80 0

1

2

3

4

5

6

7

8

9

10

図 12: Applying electric potential on device surface

make constant perpendicular electric field.

5

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着された金に対して垂直下向き方向にほぼに一定の電場が形成されることがわかる.

0 500 000 1.0´106 1.5´106 2.0´106

-0.12

-0.10

-0.08

-0.06

-0.04

-0.02

0.00

ElectricField HVmL

LP

Ene

rgy

Shif

tHm

eVL

図 13: The LP energy shift due to the DC electric

field.

量子井戸のポテンシャルに電場によるエネルギーのずれを摂動として加え, 電場を変数として第二次摂動まで計算すると, バンドギャップは図 13のように狭まる. この変化分だけ電子が励起されるときに必要なエネルギーが低くなるため, と同等に光吸収スペクトルが低エネルギー側にシフトすると考えられる.

4 エキシトンポラリトンの空間的ダイナミクス

次に, デバイス上に Starkトラップできる電極を二個作り, エキシトンに印加する電場を切り替えることで, Bose粒子の二準位系を作成ために, エキシトンポラリトンの空間的なダイナミクスを考える.

4.1 Gross-Pitaevskii方程式

凝縮体のダイナミクスを理解するためには, 系の巨視的な波動関数の時間発展を解くことが必要である. 凝縮体は粒子が互いに相互作用を及ぼしあっている. 粒子間に相互作用がある場合には, Shrodinger

方程式を解析的に求めることは一般的に難しい. そこで相互作用の重要な部分を粒子の感じ取る平均的なポテンシャルで置き換える平均場を用いて近似を行う.

外部ポテンシャル Vext((r))に閉じ込められ, 任意の二粒子間に相互作用ポテンシャル U(r − r′)が働くボース粒子系のハミルトニアンは, 第二量子化法を用いると

H =

∫drΨ†(r)

(− h2

2m∇2 + Vext(r)

)Ψ(r)

+1

2

∫ ∫drdr′Ψ†(r)Ψ†(r′)U(r − r′)Ψ(r)Ψ(r′) (8)

と与えられる. ここで, Ψ†(r) ≡∑

iΦ∗i (r)a

†i は位置

rにボース粒子を生成する場の演算子である(Φi(r)

は系の1粒子波動関数, a†iはその状態の生成演算子).Heisenbergの運動方程式 ih∂tΨ(r, t) = [Ψ(r, t),H]

に代入することで場の演算子の時間発展を知ることができる. 二粒子間相互作用ポテンシャルU(r− r′)

の具体的な形を一般に知ることは難しいが, 熱的 de

Broglie波長が二粒子間の相互作用の到達距離の範囲でほとんど変化しないため, 相互作用ポテンシャルU(r− r′)を実効的にデルタ関数U0δ(r− r′)で近似できる. またこのときの粒子間の衝突は S波散乱(軌道角運動量が 0の散乱)が支配的になり, S波散乱の散乱長 aとU0の間に

U0 =4πh2a

m(9)

という関係が成立する. 今, Bose粒子が BECを起こしているとする. このとき, Bogoliubovによる平均場理論 [9]では, 場の演算子を

Ψ(r, t) = Φ(r, t) + Ψ′(r, t) (10)

のように分解する. ここで Φ(r, t) = ⟨Ψ(r, t)⟩である. Φ(r, t)は場の演算子の期待値でボース凝縮体の波動関数である. Ψ′(r, t)は量子的または熱的揺らぎをあらわす演算子で, 定義より ⟨Ψ′(r, t)⟩ = 0である.

式(10)を式(8)とHeisenbergの方程式に代入し期待値をとると, 波動方程式

ih ∂∂t

Φ(r,t)=(− h2

2m∇2+Vext(r)+U0|Φ(r,t)|2

)Φ(r,t) (11)

が得られる. これが一般的なGross-Pitaevskii方程式である.

我々が考えるモデルは, 式 (11)に現象論的散逸効果である増幅と減少を考慮に入れた波動関数Ψに関するGross-Pitaevskii方程式

i ∂Ψ∂t

=(− h∇2

2mLP+ i

2[R(nR)−γ]+Vext+g|Ψ|2+2gnR

)Ψ (12)

である. ここで γ は波数 k に依存しない減衰レート, gは凝縮相のポラリトン間の相互作用の結合定数 , gは凝縮相と reservoirのポラリトン間の相互作用の結合定数, nRはReservoir は局所密度, R(nR)

は reservoirにあるポラリトンの誘導散乱による凝縮相の増幅率である. 式 (12)は reservoir ポラリトンの密度 nR に関する式と連立して解く. 単純なモデルでは,

∂nR

∂t= P − γnR −R(nR)|Ψ(r)|2 +D∇2nR (13)

というレート方程式で表すことができる. ここで, P

はポラリトンが reservoir に注入されるポンプレート, γR は減衰係数, R(nR)|Ψ(r)|2 の項は空間的なホールバーニング効果 (発振周波数の近くに誘導放

6

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出の顕著な現象)散乱される割合, D は reservoir ポラリトンの拡散定数である.

これら 2 つの方程式を, ポンプレートP が時間に依存しないと仮定して解くと, 定常状態の解を得ることができる. またポンプレートP が閾値よりも小さいとき, 凝縮体は存在しない [10].

4.2 デバイスの設計

図 14: Relative Intensity

エキシトンポラリトンのQCSEによるエネルギーシフトを相対的な外部ポテンシャルとして, Gross-

Pitaevskii方程式に代入し, 凝縮体の定常状態を求

めた. 凝縮体が定常状態に落ち着くまでの時間は数ピコ秒である一方, 電場の切り替えによってバンドギャップを変化させるのに要する時間は数ナノ秒である. そのため最適化問題を計算に要する時間は,

電場を切り替えの早さに依存するため, 波動関数の時間発展を調べることは意味を為さない. 絶対零度を仮定しているため熱励起がなく, 理想的には全ての粒子がStarkトラップに落ち込むはずであるため,

二つのトラップの光強度の比がもっとも大きくなるデバイスを作る必要がある.

図 14は二つのトラップの片方をトラップでない状態 (電場印加していない状態)にしてトラップするための電極の半径, 二つのトラップの中心間の距離,

Stark効果によるエネルギーシフトをパラメーターにして相対的な発光強度の非の計算を行った. 相対的な発光強度とは本来の発光強度からバックグラウンドを引いた発光強度である. それぞれのパラメーターに関して唸りが見られる.

5 実験系

図 15は実験を行う光学系の図である. サンプルはクライオスタットの中で, 液体ヘリウムによって 4K

程度まで冷却する. レーザーでサンプルを照射し,

そこから発光された光をレンズで集めて分光器で分光させる. レンズはフーリエ変換の作用をするため,

レンズを追加もしくは除去することで実空間と運動量空間のイメージを観測することができる. またモノクロメーターを用いて光の分光を行いエネルギーを測定することができる。今後, この実験系を用いてエキシトンポラリトンの Starkシフトと空間的なダイナミクスを測定する.

6 まとめと研究計画

垂直電場をデバイスに印加することで~0.2meV

のエネルギーシフトが起きると予測できた. しかしながら, 凝縮を確認できていないものの~1.0meV

のエネルギーシフトが確認されたという報告もある.

今後, 凝縮を起こしながらどれほどのエネルギーシフトが起きるのか確かめることが先決課題である.

さらに、第 4章で求めたスケールで電極をデバイス上に蒸着し, 電場を切り替えたときのエキシトンポラリトンの挙動を調べる.

7

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図 15: Experimental Setup

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