44
158 開発金融研究所報 東アジア諸国の地域格差 ―地域格差尺度の変動と地域構造・産業構造― 国際協力銀行開発金融研究所 主任研究員  酒巻 哲朗 *1 要 旨 一人当り GRP(域内総生産)でみた地域格差変動の背景には、経済の環境変化に対応し た地域構造・産業構造の変化がある。例えば、日本の地域格差は高度成長期に縮小し、安定 成長期に入りバブル期の頃まで拡大したが、前者は製造業の地方分散による太平洋ベルトの 形成が、後者は東京への国際金融や IT など高度サービス産業の集中が対応している。また、 改革開放後の中国では、上海、北京などの高所得グループにキャッチアップする中間層とし て江蘇、浙江、広東などの高成長地域が出現したため、一時的に格差は縮小したが、取り残 された低所得グループと中・高所得グループとの差が広がることで、格差は再拡大した。韓 国や ASEAN 諸国でも、1980 年代後半以降の海外直接投資の増加やアジア経済危機などが 地域格差の変動を引き起こしているが、作用の仕方は国ごとに異なる。 近年の東アジア諸国の地域格差変動を比較すると、総じて拡大傾向にあることがわかる。 また、格差変動には2つのパターンが存在する。第一は、製造業の新たな産業集積の形成が 地域格差に影響する場合であり、改革開放後の中国や、1980 年代以降のタイで観察される。 このパターンでは、地域格差は縮小・拡大の両方の可能性がある。つまり、新たな産業集積 が既存の高所得地域にキャッチアップする動きは格差の縮小要因となるが、同時にその他の 地域との差は拡大するので、後者のインパクトが前者を上回れば格差は拡大することになる。 中国では改革開放後の一時期に格差縮小がみられたが、タイでは明瞭な縮小局面はなく、拡 大傾向が続いている。第二はサービス業の首都集中が格差変動を引き起こす場合であり、安 定成長期以降の日本やフィリピンで観察される。これらの類型は、いずれもグローバリゼー ションに関係している。製造業の新たな産業集積は、海外直接投資の流入を背景に形成され たものであり、サービス業の首都集中は、世界的な都市システムの形成過程が影響している 可能性がある。 東アジア諸国の地域格差・地域構造の変動をみると、経済活動の地域的な偏在が発生する のはある程度避けられないように見える。個人のレベルで考えれば、教育の普及や交通・通 信インフラ整備などを通じ成長の機会に参加できることが重要である。これにより成長地域 への人口移動が生じれば実際に格差は縮小することになるが、過密・過疎という次の問題が 発生することになる。これに対処するため公的部門の役割は重要であるが、財政運営が持続 可能な範囲でしか寄与できない。地域格差是正のためには、やはり新たな成長拠点の育成に 取り組んでいく必要がある。日本の高度成長期、中国の改革開放後の一時期、韓国の経済危 機前の時期など、格差が縮小した数少ない例から推論すると、全国レベルで地域格差の是正 を図るためには、既存の大都市から地理的に離れた地域に、ある程度大規模な産業集積の育 成を図る必要がある。成長ポテンシャルの高い地域を選び、長期的視点から取組む必要があ り、経済環境変化を新たなチャンスと捉える視点も必要である。 * 本稿の作成に当たり、神戸大学大学院国際協力研究科陳光輝教授から貴重なご助言をいただいた。また、安間匡明副所長を始 め国際協力銀行開発金融研究所の方々、特に半田晋也専門調査員から有益なコメントをいただいた。高安雄一内閣府国民生活 局総務課調査室長からは、韓国の地域経済情勢についてコメントをいただいた。心から感謝したい。言うまでもなく、本稿に 残された誤りは全て筆者の責に帰するものである。 *1 現在、内閣府経済社会総合研究所 主任研究官

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158 開発金融研究所報

東アジア諸国の地域格差―地域格差尺度の変動と地域構造・産業構造―*

国際協力銀行開発金融研究所 主任研究員 酒巻 哲朗*1

要 旨

 一人当り GRP(域内総生産)でみた地域格差変動の背景には、経済の環境変化に対応した地域構造・産業構造の変化がある。例えば、日本の地域格差は高度成長期に縮小し、安定成長期に入りバブル期の頃まで拡大したが、前者は製造業の地方分散による太平洋ベルトの形成が、後者は東京への国際金融や ITなど高度サービス産業の集中が対応している。また、改革開放後の中国では、上海、北京などの高所得グループにキャッチアップする中間層として江蘇、浙江、広東などの高成長地域が出現したため、一時的に格差は縮小したが、取り残された低所得グループと中・高所得グループとの差が広がることで、格差は再拡大した。韓国やASEAN諸国でも、1980 年代後半以降の海外直接投資の増加やアジア経済危機などが地域格差の変動を引き起こしているが、作用の仕方は国ごとに異なる。 近年の東アジア諸国の地域格差変動を比較すると、総じて拡大傾向にあることがわかる。また、格差変動には2つのパターンが存在する。第一は、製造業の新たな産業集積の形成が地域格差に影響する場合であり、改革開放後の中国や、1980 年代以降のタイで観察される。このパターンでは、地域格差は縮小・拡大の両方の可能性がある。つまり、新たな産業集積が既存の高所得地域にキャッチアップする動きは格差の縮小要因となるが、同時にその他の地域との差は拡大するので、後者のインパクトが前者を上回れば格差は拡大することになる。中国では改革開放後の一時期に格差縮小がみられたが、タイでは明瞭な縮小局面はなく、拡大傾向が続いている。第二はサービス業の首都集中が格差変動を引き起こす場合であり、安定成長期以降の日本やフィリピンで観察される。これらの類型は、いずれもグローバリゼーションに関係している。製造業の新たな産業集積は、海外直接投資の流入を背景に形成されたものであり、サービス業の首都集中は、世界的な都市システムの形成過程が影響している可能性がある。 東アジア諸国の地域格差・地域構造の変動をみると、経済活動の地域的な偏在が発生するのはある程度避けられないように見える。個人のレベルで考えれば、教育の普及や交通・通信インフラ整備などを通じ成長の機会に参加できることが重要である。これにより成長地域への人口移動が生じれば実際に格差は縮小することになるが、過密・過疎という次の問題が発生することになる。これに対処するため公的部門の役割は重要であるが、財政運営が持続可能な範囲でしか寄与できない。地域格差是正のためには、やはり新たな成長拠点の育成に取り組んでいく必要がある。日本の高度成長期、中国の改革開放後の一時期、韓国の経済危機前の時期など、格差が縮小した数少ない例から推論すると、全国レベルで地域格差の是正を図るためには、既存の大都市から地理的に離れた地域に、ある程度大規模な産業集積の育成を図る必要がある。成長ポテンシャルの高い地域を選び、長期的視点から取組む必要があり、経済環境変化を新たなチャンスと捉える視点も必要である。

* 本稿の作成に当たり、神戸大学大学院国際協力研究科陳光輝教授から貴重なご助言をいただいた。また、安間匡明副所長を始め国際協力銀行開発金融研究所の方々、特に半田晋也専門調査員から有益なコメントをいただいた。高安雄一内閣府国民生活局総務課調査室長からは、韓国の地域経済情勢についてコメントをいただいた。心から感謝したい。言うまでもなく、本稿に残された誤りは全て筆者の責に帰するものである。

*1 現在、内閣府経済社会総合研究所 主任研究官

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2007年10月 第35号 159

はじめに

 日本では、近年、格差を巡って活発な議論が行われているが、地域格差も論点の一つである。長期の景気回復が続く中、雇用情勢には地域的にバラツキがみられ、政府が本年1月に閣議決定した「日本経済の進路と戦略」でも、日本経済の直面する課題として「地域間の不均衡」が挙げられている*2。 所得の地域格差を把握する場合、一人当り域 内 総 生 産(Gross Regional Product、GRP)を用いてジニ計数や平均対数偏差などの格差尺度を計算する場合が多い*3。こうした指標でみると、日本は国際的にみて地域格差の小さい国とされる*4。また、高度成長期に地域格差を大きく縮小させた重要な経験を持つ。しかし、日本の地域格差は 1970 年代半ばから東京への人口・諸機能の一極集中を背景に拡大に転じており、バブル崩壊とともに一旦縮小したものの、最近は緩やかながら再び拡大している*5。 海外に目を転じると、中国の地域格差が国際的な注目を集めている。1978 年の改革開

放を契機として、中国経済は目覚しい発展を続けているが、その発展は東部沿海地域に極端に偏っており、内陸地域と大きな経済格差が生じている。そして、この是正のため「西部大開発」や「東北振興」といった地域開発政策が打ち出されてきた。中国の地域格差の動向をみると、改革開放以降一旦縮小したが、1980 年代後半には拡大に転じ、現在でも拡大は続いている*6。 このように、地域格差の 20~30 年の中期的な動向をみると、拡大・縮小等、様々なケースが存在している。地域格差の長期的な変動パターンを説明する仮説として、「経済発展の初期に拡大し、成熟期に縮小する」というクズネッツ仮説、あるいはウィリアムソン仮説が有名であるが、実際の地域格差変動はもう少し複雑に見える。 一人当り GRP は所得の代表的指標であるが、地域内で生産された付加価値の総額を人口で割った値であり、人々が実際に受け取る所得というよりも、その地域の経済活動水準、あるいは産業の集積度合いを表す指標と捉える方が適当である。 つまり、一人当り GRP の地域格差の中期

目 次

はじめに第1章 データと格差尺度 1.データ 2.格差尺度 3.カーネル密度推定

第2章 地域格差変動と地域・産業構造 1.日本 2.中国 3.韓国 4.タイ 5.インドネシア 6.フィリピン第3章 結語 26

*2 「日本経済の進路と戦略~新たな『創造と成長』への道筋~」(2007 年1月閣議決定)p.4*3 日本の既存研究では県内総生産よりも県民所得を用いることが多い。県民所得は概念上、県域をまたいだ所得の流出入が調

整されており、GRPよりも人々が実際に受け取る所得に近い概念と言える。第1章1.も参照。*4 OECD (2005)によれば、日本の一人当りGDPの地域格差(ジニ係数)は加盟 27ヵ国中 26 位の低い水準にある(2001 年)。*5 詳細は第2章1.を参照。*6 詳細は第2章2.を参照。

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160 開発金融研究所報

的な変動は、産業集積の空間的な変化あるいは地域構造の変化と対応している。また、それは同時に産業構造の変化を伴っている。例えば、日本の高度成長期に地域格差が縮小したのは、製造業の地方分散によって太平洋ベルト地帯が形成されたことに対応している。また、その後の格差拡大は、経済のサービス化が東京を舞台に進展したことによる。中国の地域格差が拡大しているのは、東部沿海地域に製造業の新たな産業集積が複数形成されたことによる。 本稿では、東アジア諸国を対象とし、一人当たり GRP を用いて計算した地域格差尺度の中期的な動向を把握するとともに、その変動の背景を地域構造・産業構造変化の観点から検討する。地域格差の是正を図る上で、こうした背景要因を把握しておくことは有用と思われるからである。 対象国は東アジア6ヵ国(日本、中国、韓国、タイ、インドネシア、フィリピン)とし*7、それぞれの特徴を整理する。以下、第1章では地域格差の把握に用いるデータ、格差尺度等の分析手法について説明する。第2章では、東アジア6ヵ国の地域格差の中期的な動向を把握するとともに、格差尺度の地域グループ別・産業別分解やカーネル密度推定を用いて地域構造・産業構造変化との関係を検討する。第3章では分析結果をまとめ、地域格差是正への示唆を整理する。

第1章 データと格差尺度

1.データ

(一人当りGRP) 本稿では、地域格差を把握するためのデータとして、主として「実質一人当り GRP」

を用いる。一人当り GRP は所得の代表的指標であるが、上述の通り、その地域の経済活動水準、あるいは産業の集積度合いを表す指標として捉えることもできる。 一人当り GRP は、人々が実際に受け取る所得と必ずしも同じではない*8。その理由の一つは、地域を跨いだ所得の流出入の存在である。例えば隣接したA、B2つの地域があり、 地域Aには工場が集積しているが居住者は少ない。 地域Bには工場は少ないが、地域Aの工場に通勤する雇用者が多数居住している。場合を想定する。地域Aでは、付加価値生産額は大きいが人口は少ないので一人当りGRP は高くなる。逆に、地域Bでは付加価値生産額は少ないが人口は多いので一人当りGRP は低くなる。しかし、実際には地域Aの工場で生産された付加価値は地域Bに居住している雇用者に給与として配分されるので、人々が実際に受け取る所得の格差は一人当りGRPよりずっと小さいものであろう。 理由の2つめは、制度的な所得の再配分の存在である。現実の世界では、累進課税や社会保障制度を通じた所得の再分配により、所得の平準化が図られている。一人当り GRPではこうした所得再分配の効果を捉えることはできない*9。(実質と名目) 価格変動の影響を除くため、格差尺度の計算には実質値を用いる。地域別の価格変動に大きな差が無ければ、名目値を用いても実質値を用いても格差の動向は変わらないはずである。しかし、実際には、国によって名目値と実質値で計算した格差尺度の動向が大きく異なる場合がある。具体的には中国、韓国、フィリピンで両者の動向が異なったため、次

*7 マレーシアはGRPの連続した時系列データが入手しにくかったため、分析対象からは除外した。*8 ただし、本稿では記述の便宜上、一人当りGRPを「所得」と呼ぶ場合もある。*9 人々が実際に受け取る所得の格差を分析するには、データとして家計所得を用いる方が適当である。ただし、家計調査は国

によって調査の歴史が浅い場合もあり、必ずしも調査項目が統一されているわけではないので、一人当りGRPに比較して長期時系列の収集や国際比較には困難が伴うと考えられる。また、統計調査による所得の捕捉はそもそも難しいこと、サンプル数の制約などから数値の精度が十分に得られない可能性もある。

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2007年10月 第35号 161

章では両者の比較も示した。 なお、実質値の系列では、基準改定によって格差尺度に段差が生じる。この影響を避けるため、最も新しい系列を基準とし、データが重複しているいずれかの時点で新旧系列の水準を合わせて接続した系列を作成した*10。(地域区分) 地域格差尺度を計算する際、データの地域区分に注意する必要がある。格差尺度は地域区分が小さいほど大きくなる傾向がある。国ごとの地域区分が国際的に統一されていることが理想であるが、実際の GRP は行政区分に従って作成されており、統一されていない。地域格差尺度の水準を国際比較する際には、この点に留意する必要がある。 各国の地域区分は変更されることがある。地域区分が変更されると、格差尺度に段差が発生する。このため、本稿では、対象期間の途中で地域が分割された場合には旧区分に統合し、また、対象期間全体のデータが得られない地域は除外するなどして系列の連続性を確保した(対象期間と地域区分は図表1の通り)。

2.格差尺度

(平均対数偏差) 格差尺度として、主に平均対数偏差(Mean Log Deviation)を用いる。平均対数偏差は「第

2のタイル尺度」とも言われ、格差が大きいほど大きな数値をとる。数値は人口ウェイト付きで計算する。計算式は以下の通りである*11。

 ��� i

i i

I wy

log ⑴

 I は平均対数偏差、i は地域を表す添え字、yi は実質一人当り GRP、wi は人口ウェイト(Σwi=1)、μは yi の人口ウェイトによる加重平均値である。 格差尺度を、人口ウェイトを付けずに計算する方法もあるが、これは各地域に同じウェイトを与えることに等しい。人口の地域的な偏在が大きい場合には人口ウェイトを付けた方が実態を適切に表すと考えられる。実際に人口ウェイトの有無により、格差尺度はかなり異なった動向を示す場合がある。(地域グループ別分解) 平均対数偏差は、サンプルをいくつかのグループに分割し、各グループ内の格差とグループ間の格差の寄与度に分解することができる。 近年の東アジア諸国では、グローバリゼーションの下、首都や既存の大都市に対する集積の経済が強く働き、その他の地域との経済格差が拡大していると言われている。そこで、本稿では、首都(或いは既存の大都市)圏とその他地域の2つにグループ分けし、それぞ

図表1 対象期間と地域区分

国 対象期間 地域区分 備  考

日  本 1955-2004 年度 47 都道府県

中  国 1952-2004 年 29 省・市・自治区 海南、チベットを除く。

韓  国 1985-2005 年 13 道市 16道市を13道市に統合。

タ  イ 1981-2005 年 72 県 76 県を 72 県に統合。

インドネシア 1978-2004 年 26 州 30 州を 26 州に統合。東ティモールは除いた。

フィリピン 1980-2005 年 9地域 17地域を9地域に統合。

*10 データの出典、接続方法、地域区分の調整方法の詳細は付注を参照。*11 以下の平均対数偏差の定義式、及びグループ別の寄与度分解式は陳(2000)に基づく。

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162 開発金融研究所報

れのグループ内の格差とグループ間の格差に着目して各国の特徴を検討することとした。 グループ別寄与度分解の計算式は以下の通りである。 I=wUIU+wRIR+IUR ⑵ I は平均対数偏差、Uは大都市グループを、Rはその他グループを表す添え字である。wU、wR は各グループの人口シェア IU、IR は各グループ内で計算した平均対数偏差、IURは各グループ内の各地域の一人当り GRP が全てそれぞれの加重平均値に等しいとして計算した平均対数偏差である。wUIU が大都市グループ内の格差、wRIR がその他グループ内の格差、IUR がグループ間の格差の寄与度となる。 各国の大都市圏に定まった定義はないが、各国の国土構造や既存研究を参考に、図表2のようなグループ分けを行った。なお、GRP統計は地域区分が粗いため、これらを大都市グループとみなすのは必ずしも適切でない可能性もある*12。日本は東京圏、名古屋圏、関西圏を大都市グループとした。中国では大都市グループではなく、沿海地域とそれ以外の格差をみることとした。具体的には東部、中部、西部の3地帯区分*13 のうち東部を沿海地域とみなした。韓国は京畿道とそれに地

理的に含まれる各市をソウル圏、慶尚南道とそれに含まれる各市を釜山圏とみなし、これらを大都市グループとした。タイは GRP 統計で用いられる7地域区分のうち、バンコク圏と、工業団地が集積している東部、中部を大都市グループとみなした。インドネシアはジャワ島に人口・産業が集中しており、それ以外の地域との格差をみることとした。フィリピンは、マニラとそれに隣接し工業団地の立地も進んでいる中央ルソン地域、南タガログ地域を大都市グループとみなした。(産業別分解) Shorrocks (1982)は、所得格差の尺度を所得の構成要素別に分解する方法を検討し、格差尺度の性質に対するいくつかの仮定の下で、格差尺度のいかんに関わらず、ある所得要素の寄与率が以下の式で表せることを示した。

  ��

k

k

Y Ys I

Y2cov( , )

( )( ) ⑶

 k は所得の構成要素を表す添え字、Yは所得のベクトル、Yk は k 番目の所得要素のベクトルである(Y=ΣYk)。格差尺度 I に対する k 番目の所得要素 Yk の寄与率 sk(I)は、YkとYの共分散cov(Yk,Y)とYの分散σ2(Y)の比によって計算できる。

図表2 大都市グループの内訳

国 大都市グループに含めた地域

日  本 埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、岐阜県、愛知県、三重県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県。

中  国 東部地域とそれ以外にグループ分けした。東部の内訳は、北京市、天津市、河北省、遼寧省、上海市、江蘇省、浙江省、福建省、山東省、広東省、広西チワン族自治区。

韓  国 ソウル、釜山、仁川、京畿道、慶尚南道(蔚山を含む)。

タ  イ バンコク圏、中部地域、東部地域に含まれる県。

インドネシア ジャワ島内の州。

フィリピン マニラ、中央ルソン地域、南タガログ地域。

*12 地域区分が粗い場合、大都市とみなした地域にも実際にはかなり広大な農村地域が含まれ、地域特性が適切に現れない可能性がある。

*13 3地帯区分は加藤(2003)に従った(p.32、図1-4)。

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2007年10月 第35号 163

 本稿では、産業別の実質 GRP の数値を使用して⑶式に従い寄与率を計算し、平均対数偏差の産業別分解を行った。産業区分としては、農業、製造業(或いは鉱工業)、建設業、電気ガス業、行政サービス、その他サービスの6つの産業への分解を基本とし、国ごとの事情を勘案して適宜設定した。電気ガス業や行政サービスは政策的に立地が決まる面があり、民間サービスとは性格が異なると考え、分離して示した。その他サービスは概ね民間サービスとみなせると考えられる。

3.カーネル密度推定

 カーネル密度推定は、所得などの観測されたデータのサンプルごとに分布を仮定し、その背後にある全体の分布を推定する分析手法である。カーネル密度の形状を見ることで、所得分布の特徴を捉えることができる。また、その形状の変化をみることで、格差の拡大・縮小がどこで生じているのかを分析することができる。 本稿では、実質一人当り GRP を対数偏差(log(yi/μ))に変換した上で、密度分布の形状に正規分布を仮定する「ガウス・カーネル」を用いてカーネル密度推定を行い、その形状の変化をみることで地域格差変動の背景を検

討する。推定は人口ウェイト付きで行う*14。 東アジア諸国についてカーネル密度の形状と地域格差尺度の対応をみる場合、2つの点に注目する必要がある。第一は、密度分布の裾の広がりである。地域間のバラツキが大きく、格差が大きいほど分布は裾が広がった形状になる(図表3①)。第二は、高所得グループと低所得グループの距離である。東アジア諸国の場合、首都(或いは既存の大都市)の一人当り GRP が突出し、分布が2山の形状を示す場合が多い。2つの山の距離が離れると格差が拡大し、距離が縮むと格差が縮小する(図表3②)。

第2章 地域格差変動と地域    ・産業構造

 第2章では、実質一人当り GRP の平均対数偏差を用いて、東アジア6ヵ国の地域格差の中期的変動を把握し、その背後にある地域構造・産業構造変化との関係を、格差尺度の寄与度分解やカーネル密度推定を用いて検討する。(東アジア諸国の地域格差水準の比較) はじめに、東アジア諸国の地域格差水準を

図表3 カーネル密度推定の形状と地域格差の関係(イメージ)

①密度分布の裾の形状と地域格差

格差小

格差大

→ 実質一人当りGRDP(対数偏差)

密度

②2山の距離と地域格差

格差大

格差小

→ 実質一人当りGRDP(対数偏差)

密度

*14 カーネル密度の推定方法は陳(2000)を参考にした。実際の推定は STATA9 の kdensity コマンドを使用した。

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164 開発金融研究所報

確認しておく。 図表4に東アジア7ヵ国の名目一人当りGRP により計算したジニ係数を示した*15。ジニ係数は0から1の値をとり、格差が大きいほど数値も大きくなる。人口ウェイトを付けた場合、付けない場合の2種類の計算結果を示した。上述の通り、地域の定義は国際的に統一されていないので、格差尺度の国際比較には注意が必要である。ただし、ジニ係数は0から1に標準化されているので、国際比較に比較的適しているとされる*16。 これによると、日本、韓国の地域格差は小さく、タイ、インドネシア、フィリピン、中国の格差は大きい。マレーシアは中間的な位置にある。人口ウェイトを勘案すると、タイのジニ係数が最も高い。76 県ベースの数値が飛び抜けて高いのは地域区分が細かいことも影響していると思われるが、地域区分の粗い7地域ベースでも他国より高い数値になっている。

1.日本

(地域格差の推移と地域構造) 図表5①に、日本の実質一人当り GRP の平均対数偏差で測った地域格差の推移を示した。日本の地域格差は、高度成長期に大きく縮小した後、1970 年代半ばからバブル期にかけて一旦拡大したが、バブル崩壊とともに縮小した。最近では緩やかながら再び拡大に転じている。 こうした地域格差変動の背景には、どのような地域構造の変化があるのだろうか。Fujita et al. (2004)では、日本の地域経済構造の変化を3大都市圏への人口純流入と一人当り県民所得の格差尺度*17 の推移を元に3つのサイクルに整理している。第一のサイクルは、1950 年代半ば~70 年代半ば、第二のサイクルは1970年代半ばから1990年代半ば、第三のサイクルは 1990 年代半ば以降である。また、その背景にある日本経済の構造変化を以下のように整理している。 第一のサイクルでは、まず3大都市圏への産業の集中が起こり、次いで太平洋ベルトが形成された。3大都市圏への産業の集中には、連関効果や情報のスピルオーバーなどの集積の経済が存在し、①1次産業のシェア低下(農村からの労働力の供給)、②国内資源の輸入資源への代替、③2・3次産業のシェア増加、④強い連関効果を持つ製造業(電気・電子機械、輸送機械、一般機械など)のシェア増加、⑤全国的な輸送ネットワークの改善、という5つの要因が循環的に作用した。60 年代半ばから地価、賃金の上昇により3大都市圏の成長が鈍化、周辺地域に産業が拡大し、太平洋ベルトが形成された。 第二のサイクルでは、東京一極システムが形成された。この背景には、東西冷戦の終焉、財・サービス・資本の国際移動の自由化に加え、情報通信技術の革新的な進歩というマク

図表4 一人当たり域内総生産のジニ係数の比較

0.000

0.100

0.200

0.300

0.400

0.500

0.600

日  本

2004年度

韓  国

2004年

マレーシア

2000年

タイ(7地域)

2005年

タイ(76県)

2005年

インドネシア(総額)

2004年

インドネシア(石油等除く)

2004年

フィリピン

2004年

中  国

2005年

人口ウェイトなし 人口ウェイト付

注) 地域の数は、日本は 47 都道府県、韓国は 16 道・市、マレーシアは 14州、タイは7地域及び 76県、フィリピンは 17地域、インドネシアは 30州、中国は 31 省・市・自治区。

出所)内閣府「県民経済計算」、各国統計

*15 1時点の比較なので、名目値を使用している。*16 OECD (2003)でも地域格差の国際比較にジニ係数を用いている。*17 格差尺度としてタイル尺度を使用している。

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2007年10月 第35号 165

図表5 実質一人当り県内総生産の地域格差(平均対数偏差)の推移(日本)

注)2000 年価格。平均対数偏差は人口ウェイト付きで計算。出所)経済企画庁「長期遡及推計県民経済計算報告」、内閣府「県民経済計算年報」、総務省「日本の長期統計系列」

②地域グループ別寄与度(再掲)

0.000

0.005

0.010

0.015

0.020

0.025

0.030

0.035

1955

1957

1959

1961

1963

1965

1967

1969

1971

1973

1975

1977

1979

1981

1983

1985

1987

1989

1991

1993

1995

1997

1999

2001

2003

大都市圏 地方圏 グループ間

③大都市圏内の一人当り県内総生産=100とした指数

50.0

70.0

90.0

110.0

130.0

150.0

170.0

190.0

1955

1957

1959

1961

1963

1965

1967

1969

1971

1973

1975

1977

1979

1981

1983

1985

1987

1989

1991

1993

1995

1997

1999

2001

2003

東京 東京周辺 名古屋圏 関西圏

0.000

0.010

0.020

0.030

0.040

0.050

0.060

0.070①平均対数偏差と地域グループ別寄与度

1955

1957

1959

1961

1963

1965

1967

1969

1971

1973

1975

1977

1979

1981

1983

1985

1987

1989

1991

1993

1995

1997

1999

2001

2003

大都市圏 地方圏 グループ間

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166 開発金融研究所報

ロ環境の大きな変化がある。これによって、製造業のハイテク製品へのシフト、国内産業の海外シフト、国際金融、コンピュータ・ソフト、ゲーム・ソフト等の知識集約産業の発展など日本経済に大きな構造変化が起こった。1970 年初に東京は既に知識産業の最大の集積であったが、知識の波及に関する外部経済の存在と東京中心の交通・通信インフラ整備を背景に、東京に多国籍企業の中枢管理機能、国際金融、IT 産業などが更に集中、集積が集積を呼ぶ状況が発生し、東京一極システムの形成につながった。 第三のサイクルは、東京への人口集中だけが生じている点で第2サイクルと似ているが、ゼロ成長下で生じている点で過去とは異なっている。(平均対数偏差の地域グループ別分解) こうした地域構造変化と格差変動の対応を、平均対数偏差の地域グループ別分解を用いて確認してみよう。図表5①には3大都市圏、地方圏内の格差の寄与度、及びグループ間格差の寄与度も示している(②は寄与度の再掲)。まず、第1期に当たる 1950 年代半ばから 1970 年代半ばの格差縮小局面では、大都市圏内の格差、地方圏内の格差、グループ間格差の全てが縮小している。 更に仔細にみると、1960 年代初めまでは、大都市圏内の格差は急ピッチで縮小しているが、地方圏内の格差、グループ間格差は横ばいに近い。この時期には東京圏が拡大するとともに、名古屋圏、関西圏が成長し、東京との格差を縮めていたのであり、これにより全体の格差も縮小していた。図表5③に東京都、東京周辺、名古屋圏、関西圏の実質一人当りGRPを大都市圏=100とした指数で示したが、この時期には明確に東京へのキャッチアップが起こっていたことがわかる。

 1960 年代半ば以降は、地方圏内の格差、グループ間格差も縮小を始める。これは、製造業を中心として、産業が3大都市圏以外の地域に拡張したことに対応している。特に、グループ間格差が急速に低下しているのは、太平洋ベルトの形成によるものと考えられる。ただし、地方圏内の格差も縮小しており、産業の地方分散がある程度全国的な範囲で生じたことを表している*18。 次に、第二期に当たる 1970 年代半ばから1990 年代半ばまでは、大都市圏内格差が一貫して拡大したことが全体の格差拡大に結びついている。1980 年代後半には大都市圏と地方圏の格差(グループ間格差)の寄与も高まっている。図表5③により大都市圏内の動きをみると、東京の所得水準が一貫して高まり、他の圏域との差を広げている。従って、この時期の格差拡大は、ほとんど東京の所得水準の突出により生じていたことがわかる。 なお、東京の突出は、1970 年代初めから一貫して生じていた。第一期の終りである1970 年代前半には、製造業の地方分散による格差縮小と、東京の突出による格差拡大が同時に進行していた。 第三期に入り、バブル崩壊とともに東京の所得水準は低下し、地域格差も縮小したが、1990 年代後半以降、緩やかながら再び格差は拡大している。再度、図表5③をみると、これも基本的には東京の所得水準の上昇によることがわかる。ただし、名古屋圏の所得水準も相対的に上昇し、関西圏との差を広げており、これが格差拡大に寄与している可能性もある*19。 このように、第二期、第三期は、いずれも基本的に東京の動向によって格差尺度の変動が生じており、その意味では同じ性格を持つ時期とも言える。

*18 同じ計算を、太平洋ベルト(3大都市圏を含む)とその他地域のグループ分けで行うと、太平洋ベルト内の格差縮小の影響が太宗を占めるようになる。ただし、その他地域内格差、グループ間格差の縮小もみられることから、太平洋ベルト以外の地域への産業分散も格差縮小効果を持ったと考えられる。

*19 図表5③によれば、東京周辺地域の相対的な所得水準は、1970 年代までは東京にキャッチアップしていたが、その後は長期的に低下傾向にある。1970 年代までの動きは京浜・京葉工業地域の形成など、製造業が東京都周辺に拡大する過程を反映していると考えられる。その後は東京都内にオフィスが集中し、隣接県に東京への通勤者の住居が立地するという、東京圏の地域構造の形成過程が反映したものと思われる。

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2007年10月 第35号 167

(カーネル密度推定) 図表6に、実質一人当り県内総生産のカーネル密度推定を示した。データの採れる最も古い時点である 1955 年と、格差が最も縮小した時期に当たる 1975 年、直近の 2004 年を比較している。 1955 年と 1975 年を比較すると、高度成長期を通じ、地域別の所得分布がかなり変化したことがわかる。1955 年には、東京の所得が飛び抜けて高い二山の形状であることに加え、分布の裾が大きく広がっており、東京以外の県の所得のバラツキも大きかった。1975年になると、二山という点では同じだが、分布は中央の山が高く裾野が短い、つまり格差の小さい形状に変化している。なお、東京への人口集中を反映して東京の山はより高くなっている。 次に、1975 年と 2004 年を比較すると、分布の形状は似通っているが、東京の山と、その他の県の分布による山の距離が離れていることがわかる。このように、高度成長期の地域格差縮小は広範囲の地域の所得差が小さくなることによって生じ、その後の格差拡大は東京とその他の地域の所得差が拡大すること

によって生じたことが、カーネル密度の形状からも確認できる。(平均対数偏差の産業別分解) 図表7①に、平均対数偏差の産業別寄与度を示した(②は寄与度の再掲)。これによると、高度成長期までと安定成長期以降で、格差変動の主因である産業が変化している。 高度成長期の格差縮小局面では、鉱工業(主に製造業)の寄与度は一貫して低下し、格差縮小に寄与した。その他サービス(主に民間サービス)の寄与度は前半(1955~1965 年)は鉱工業と同様に低下したものの、後半(1965~1975 年)の低下幅は緩やかになった。この時期の格差縮小には、サービス業も寄与したものの、主に製造業の動向によって生じたということができる。 1975 年以降の地域格差は 1990 年代半ばまで拡大、バブル崩壊後に一旦縮小した後再び拡大したが、これは基本的にサービス業の寄与度の動向によって説明できる。製造業の寄与は一貫して低下(つまり格差縮小の方向に寄与)しており、直近時点では寄与度の水準自体が非常に小さくなり、格差に影響を与えなくなっている。サービス産業の東京への集中と対応した動きと言える。 以下、その他の産業の動向について補足する。農業は一貫してマイナスの寄与度を示し、格差縮小に寄与してきた。農業の寄与は、高度成長期には無視しえない大きさであったが、安定成長期以降は、農業のシェアの低下を反映し、寄与度は非常に小さいものに止まっている。 日本では、公共事業を始めとした公的部門の活動が地域経済を支え、地域格差の縮小に寄与したということが強調されることが多い。そこで、産業のうち、(公共事業を含む)建設業、行政サービス、公共サービスの性格の強い電気・ガス業の格差への影響を見ると、これらの寄与度は小さなものであり、農業のように明確な格差引き下げ効果はみられない。 日本の県民経済計算では、支出ベースの数値で公的支出が分離できる。そこで、公共事

図表6 実質一人当り県内総生産の分布(日本)

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

-1.00 -0.75 -0.50 -0.25 0.00 0.25 0.50 0.75 1.00

1955年 1975年 2004年

注) 実質一人当り県内総生産(2000 年価格)を対数偏差に変換し、ガウス・カーネルを用いて密度分布を描画した。人口ウェイト付きで作成。

出所) 経済企画庁「長期遡及推計県民経済計算報告」、内閣府「県民経済計算年報」、総務省「日本の長期統計系列」

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168 開発金融研究所報

図表7 実質一人当り県内総生産地域格差(平均対数偏差)の項目別寄与度(日本)

-0.020

-0.010

0.000

0.010

0.020

0.030

0.040

0.050

0.060

0.070

0.080①平均対数偏差と産業別寄与度

1955 1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2004

その他サービス

政府サ+電ガス

建設業

鉱工業

農業

平均対数偏差

-0.005

0.005

0.015

0.025

0.035

0.045

0.055

0.065③政府消費・政府投資の寄与度(支出ベース)

1955 1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2004

その他

公的固定資本形成

政府最終消費支出

平均対数偏差

-0.020

-0.010

0.000

0.010

0.020

0.030

0.040②産業別寄与度(再掲)

1955 1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2004

農業鉱工業その他サービス

注) 人口ウェイト付きで計算。項目別の必要な実質データが得られなかったため、名目値で計算した寄与率を使用して図表5で計算した平均対数偏差を分解した。

出所)経済企画庁「長期遡及推計県民経済計算報告」、内閣府「県民経済計算年報」、総務省「日本の長期統計系列」

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2007年10月 第35号 169

業に当たる公的固定資本形成、政府部門の支出である政府最終消費支出の寄与度も計算した。特に、公的固定資本形成の寄与度をみると、高度成長期には格差拡大方向に寄与していたものが、1980 年以降は概ねマイナスに寄与するようになっている。従って、公共事業が地域格差縮小に寄与していたことが格差尺度においても確かめられた*20。ただし、その寄与度は小さく、格差変動の主因は製造業や民間サービスの動向であった。

2.中国

(中国の地域格差の動向とその背景) 陳(2000)は、中国の実質一人当り GRPで測った省間格差を分析し、以下のような点を検証している。・ 平均対数偏差で測った省間格差は、1978年の改革開放以前は大きく振動しながら拡大し、その後はしばらく縮小してから再拡大した。

・ 実質一人当り GRP の対数偏差を用いて描いた所得分布曲線(ガウス・カーネル)を1978年と1998年について比較すると、前者は中間層の薄い二極分化タイプ、後者は中間層が出現した形、と特徴付けることができる。前者は上海、北京、天津、遼寧、黒龍江が高所得グループを形成しており、後者は江蘇、広東、浙江、福建、山東が中所得グループとして成長したことに対応している。

・ 平均対数偏差を高所得グループと低所得グループに分解すると*21、 改革開放以前の省間格差の振動と拡大は高所得グループ(上海、北京、天津、遼寧、黒龍江)とその他グループの間の格差の動向で説明できる。

 改革開放以後の格差縮小は高所得グ

ループにキャッチアップする中間層、江蘇、広東などの高成長地域が出現したためである。格差の再拡大は、取り残された低所得グループと中・高所得グループとの格差拡大が原因である。

・ 一人当り GRP を、労働力化率、第一次産業の生産性、非第一次産業の生産性、工業化・産業化水準(非第一次産業の就業者シェア)に分解した分析*22 によると、 改革開放以前の格差は概ね工業化・産業化水準の偏りで説明できる。

 改革開放以降の格差は工業化・産業化水準の偏りだけでは説明できず、主要因は非第一次産業の生産性に代わっている。

(平均対数偏差の地域分解) 以上のような点を、平均対数偏差の地域分解により、改めて確認してみよう*23。 図表8①に計算結果を示した(②は寄与度の再掲)。1952 年と 1978 年の平均対数偏差を比較すると後者の方が高く、改革開放以前の地域格差は拡大傾向にあった。特に、1958年に始まる大躍進の時期、1966 年から 76 年の文化大革命の時期に地域格差が急激に拡大している。改革開放以前には、①社会主義イデオロギーに基づく地域間不均衡の是正、②工業立地を内陸部の原材料生産地に近づけるという考え方、③「三線建設」など軍事的観点からの産業施設の内陸移転など、政策的に産業の地域分散が進められた*24。それにも関わらず地域格差は拡大し、かつ上記の通り一部の高所得地域とその他地域の二極分化状態が生じていたのは興味深い点である。 1978 年の改革開放の少し前から地域格差は縮小を始めるが、そのプロセスは 1980 年代前半までであり、その後再び格差は拡大す

*20 本稿の分析は政府支出の直接的な寄与だけを把握したものであり、波及効果を含めれば更に影響は大きいと考えられる。ただし、それでも格差変動の主因とはなりえないと思われる。

*21 改革開放以降は、従来の高所得地域に中間層(江蘇、広東、浙江、福建、山東)も含めた 10 地域を中高所得グループとして分解分析を実施している。

*22 改革開放以前は産業別就業者データの得られなかった地域が多かったため、枠組みをやや変更して分析を行っている。*23 本稿では、一人当りGRPの生産性等への分解分析は行っていない。*24 加藤(2003)第1章

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170 開発金融研究所報

図表8 実質一人当りGRPの地域格差(平均対数偏差)の推移(中国)

注) 1978 年価格。平均対数偏差は人口ウェイト付きで計算。出所)加藤・陳(2002)、中国統計年鑑

②地域グループ別寄与度(再掲)

0.0000.0100.0200.0300.0400.0500.0600.0700.0800.0900.100

1952

1954

1956

1958

1960

1962

1964

1966

1968

1970

1972

1974

1976

1978

1980

1982

1984

1986

1988

1990

1992

1994

1996

1998

2000

2002

2004

東部 東部以外 グループ間

③東部地域内の一人当りGRP=100とした指数

0.0

100.0

200.0

300.0

400.0

500.0

600.0

1952

1954

1956

1958

1960

1962

1964

1966

1968

1970

1972

1974

1976

1978

1980

1982

1984

1986

1988

1990

1992

1994

1996

1998

2000

2002

2004

北京 天津 上海 江蘇・浙江 広東 その他

0.000

0.020

0.040

0.060

0.080

0.100

0.120

0.140

0.160

1952

1954

1956

1958

1960

1962

1964

1966

1968

1970

1972

1974

1976

1978

1980

1982

1984

1986

1988

1990

1992

1994

1996

1998

2000

2002

2004

東部 東部以外 グループ間

①平均対数偏差と地域グループ別寄与度

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2007年10月 第35号 171

る。図表には 2005 年までの数値を示したが、直近まで格差の拡大傾向が続いていることがわかる。 地域分解は、東部地域とそれ以外に分け、全期間にわたり同じ地域区分で行った。1978年以降に着目すると、1980 年代前半までは東部内部の格差が縮小する一方、東部とそれ以外のグループ間格差はほぼ横ばいであり、前者の影響で格差が縮小したことがわかる。その後も、東部地域内の格差縮小は続いているが、グループ間格差が拡大し始め、特に1990 年代に入って急激に拡大し、全体の格差を押し上げた。 図表8③に東部地域内の実質一人当りGRP を 100 とした指数を示したが、北京、天津、上海といった従来の大都市の所得の相対水準が低下し、江蘇、浙江、広東といった新興地域の所得水準が上昇し、キャッチアップが起こっていることがわかる。(カーネル密度推定) 図表9に1978年と、格差の縮小した1985年、直近の 2005 年のカーネル密度推定を示した。1978 年と 1985 年の分布は似かよった形であるが、上海、北京、天津といった従来の高所得地域の山と、その他地域の距離が縮まった

ことが格差の縮小につながったとみられる。直近の密度曲線は、裾野がかなり広い形状に変わっている。東部地域に「中間層」が生じ、地域の所得のバラツキが大きくなっていることを表している。(名目・実質の地域格差動向の違い) 図表 10 に、名目・実質の一人当りGRPに

図表9 実質一人当りGRPの分布(中国)

注) 実質一人当りGRP(1978 年価格)を対数偏差に変換し、ガウス・カーネルを用いて密度分布を描画した。人口ウェイト付きで作成。

出所)加藤・陳(2002)、中国統計年鑑

0.0

0.3

0.5

0.8

1.0

1.3

1.5

-1.5 -1.0 -0.5 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5

1978年 1985年 2005年

図表 10 一人当りGRPの平均対数偏差―名目・実質の比較―(中国)

注) 1978 年価格。人口ウェイト付きで計算。出所)加藤・陳(2002)、中国統計年鑑

0.00

0.02

0.04

0.06

0.08

0.10

0.12

0.14

0.16

0.18

1952

1954

1956

1958

1960

1962

1964

1966

1968

1970

1972

1974

1976

1978

1980

1982

1984

1986

1988

1990

1992

1994

1996

1998

2000

2002

2004

名目 実質

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172 開発金融研究所報

よる平均対数偏差を示した。 両者の動向は基本的には似かよっているが、実質値の格差縮小局面が 1980 年代前半までであるのに対し、名目値では 1980 年代を通じて縮小している。牧野(2001)は貧困省に有利な生産物価格の変化が格差縮小に寄与した可能性を指摘している(p.65 他)。改革開放後、農村において、定額上納分を差し

引いた残りを自分のものとできる「請負生産方式」が導入され、農産物の政府買付価格の引き上げ効果とあいまって、農業生産の飛躍的増大と農家所得の急上昇をもたらしたとされる*25。実際に、1980 年代の農産物価格と工業製品の価格動向を比較すると前者の方が相対的に高くなっている*26。名目と実質の地域格差の違いにはこうした事情が背景にあ

図表 11 実質一人当りGRPの地域格差(平均対数偏差)の産業別寄与度(中国)

*25 渡辺編(2003)p.228(加藤弘之「第 10 章 中国」)*26 1980 年=100 とした 1990 年の価格水準は、農産物買付価格=209.5、工業製品農村小売価格=170.6、工業製品出荷価格=

175.1 と、農産物価格が相対的に高い上昇率を示している(データは加藤・陳(2002)から)。

注) 1978 年価格。人口ウェイト付きで計算。出所)加藤・陳(2002)、中国統計年鑑

①平均対数偏差と産業別寄与度

-0.020

0.000

0.020

0.040

0.060

0.080

0.100

0.120

0.140

0.160

1952 1960 1965 1970 1975 1978 1985 1990 1995 1998 2000 2005

第3次

第2次

第1次

平均対数偏差

-0.020

0.000

0.020

0.040

0.060

0.080

0.100

0.120②産業別寄与度(再掲)

1952 1960 1965 1970 1975 1978 1985 1990 1995 1998 2000 2005

第1次

第2次

第3次

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2007年10月 第35号 173

ると考えられる。(地域格差尺度の産業別分解) 図表 11 に平均対数偏差の産業別寄与度を示した。データが第1次、2次、3次産業別にしか得られなかったので、その区分で分解している。 これによると、第2次産業の寄与度が大きく、かつ全体の地域格差の変動も第2次産業によってほぼ決まっていることがわかる。改革開放後は第3次産業の寄与度も高まり、格差の拡大要因となっているが、直近では横ばいで推移している。第1次産業の寄与度はほぼゼロであり、格差変動にはあまり影響を与えていない。

3.韓国

(韓国の地域構造と経済動向) 韓国は、首都ソウル、或いはソウル-釜山軸に人口・諸機能が集中した地域構造を持っている。2005 年の数値でみると、人口の21%、GRP の 23%がソウルに集中し、ソウル圏(ソウル+仁川+京畿道)でみると、人口、GRP ともその5割近くが集中している状況にある。このため、韓国の国土政策では、地域格差是正を目的とした地方の産業拠点育成が継続して打ち出されてきており、「第4次総合国土計画」(2000~2020 年)でも、首都或いはソウル-釜山軸と、その他地域の間の格差是正が重要な政策課題とされている。こうした国土構造や国土政策の経緯は日本とも類似点があり、対比して語られることも多い。 本稿の分析は、データが入手できた 1985年以降を対象としているが、この間の経済動向を考える際には、アジア経済危機の影響が重要である。マクロ経済動向の推移を簡単にみると*27、1986 年から 88 年は、ドル安・原油安・国際金利安という「3低現象」を背景に3年連続の2桁成長を記録したが、その後は労働争議が活発化し、賃金上昇、国際競争

力の低下に見舞われた。この時期に経済成長率は5~9%を維持したが外需寄与度はマイナスの年が多くなる。そして、1997 年には財閥の連続倒産、ウォン相場の大幅下落などの経済危機が発生し、98 年には大幅なマイナス成長を記録する(△6.9%)。しかし、IMF管理下の経済改革により経済は急速に回復し、IMFからの債務も 2001 年には完済した。2001年以降の成長率は3~7%程度と、危機以前に比較すると減速している。こうした大きな経済変動は、地域構造にも影響している可能性がある。(地域格差の推移と地域グループ別分解) 図表 12 ①に韓国の実質一人当りGRPによる平均対数偏差と地域グループ別寄与度の推移を示した。数値はデータが入手できた1985 年以降のものである。韓国の国土構造に関しては、ソウル一極集中や、ソウル-釜山軸とそれ以外の地域の格差が問題とされる。データの地域区分が粗いため、適切な地域設定は困難であるが、ここでは京畿道とそれに地理的に含まれる特別市(ソウル、仁川)、慶尚南道とそれに含まれる特別市(釜山、蔚山)を大都市圏(ソウル・釜山圏)グループとしてそれ以外の地域とのグループ別分解を行ってみた。 これによると、韓国の全体の地域格差、地域グループ別の寄与度とも、経済危機の前後で非常に対照的な動きを示している。 まず、全体の地域格差は、経済危機の直前までは縮小していたが、1997 年から 1998 年にかけて急拡大し、その後も拡大傾向にある。 次に、地域グループ別の寄与度をみると、格差縮小局面ではソウル・釜山圏とそれ以外の地域のグループ間格差の縮小が全体の格差縮小をもたらしており、ソウル・釜山圏内やその他地域内の格差はあまり変化していない。ところが、そうした傾向は経済危機を境として大きく変化し、まず、1997 年から 98年にかけてソウル・釜山圏内の格差が急拡大、

*27 以下の経済動向に関する記述は、渡辺編(2003)(野副伸一「第1章 韓国」)、アジア経済研究所(2006)及び各年版などを参考にした。

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174 開発金融研究所報

図表 12 実質一人当りGRPの地域格差(平均対数偏差)の推移(韓国)

60.0

70.0

80.0

90.0

100.0

110.0

120.0

130.0

140.0②全国の一人当りGDP=100とした指数

1985

1987

1989

1991

1993

1995

1997

1999

2001

2003

2005

ソウル釜山仁川京畿道慶尚南道+蔚山

60.0

70.0

80.0

90.0

100.0

110.0

120.0

130.0

140.0

1985

1987

1989

1991

1993

1995

1997

1999

2001

2003

2005

大邱 忠清北道忠清南道+大田 慶尚北道

①平均対数偏差と地域グループ別寄与度

0.000

0.002

0.004

0.006

0.008

0.010

0.012

0.014

0.016

0.018

0.020

1985

1986

1987

1988

1989

1990

1991

1992

1993

1994

1995

1996

1997

1998

1999

2000

2001

2002

2003

2004

2005

グループ間

その他

ソウル・釜山圏

1985

1987

1989

1991

1993

1995

1997

1999

2001

2003

2005

江原道 全羅北道

全羅南道+光州 済州道

注) 2000 年価格。平均対数偏差は人口ウェイト付きで計算。出所)KOSIS (Korean Statistical Information System)

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2007年10月 第35号 175

その後はその他地域内の格差が拡大を続けている。 このように、韓国の地域格差はやや複雑な動きを示しているので、個々の地域別に一人当りGRPの相対的水準の変化をみてみる(図表 12 ②)。 まず、経済危機以前は、ソウル・釜山圏の中で京畿道や仁川の相対的な所得水準が低下している。一方、それ以外の地域では、忠清北道、忠清南道、慶尚北道、全羅南道、全羅北道など多くの地域で相対的な所得水準の上昇がみられる。ソウル・釜山圏以外で、特定の地域に限らず広く所得水準が上昇していたことが、グループ間格差の縮小に結びついていたと考えられる。 次に、経済危機以後は、ソウル・釜山圏の中では、慶尚南道の所得水準が大きく上昇している一方、ソウル、釜山、仁川、京畿道は概ね横ばいで推移*28 しており、これが危機直後の格差急拡大の原因になっている*29。その他地域では、危機以前に成長していた地域のうち、忠清北道、忠清南道、慶尚北道が引き続き成長しているのに対し、それ以外の地域は所得水準を下げており、これが「その他地域」内の格差拡大につながっている。このように、経済危機後は忠清道・慶尚道とそれ以外の地域で二極化が生じているように見える。(二極化の背景としての産業構造変化) 経済危機後の韓国で地域の所得水準の二極化が生じた要因を、産業構造の面から検討してみよう。まず、地域格差尺度の変動がどの産業によって生じたかを確認する。図表 13に平均対数偏差の産業別寄与度を示した。これによると、格差の縮小局面も、拡大局面も格差変動の主因は鉱工業(主に製造業)であることがわかる。1997 年までの格差縮小局面では、製造業の寄与度が縮小することで全体の格差が縮小した。また、その他サービス

業の寄与度が相対的に大きくなり、農業は格差縮小に寄与してきたものの寄与度の大きさは縮小するなど、日本の高度成長期とよく似た推移を示している。ところが、経済危機以降はこの傾向が一変し、再び製造業の寄与が高まり全体の格差も拡大する、という動きになっている。 こうした製造業の変動はどの地域・産業で生じているのだろうか。詳細な分析は行なえなかったが、概略の動きをつかむために地域別の実質 GRP に占める製造業のシェア、更にその内訳である加工・組立型製造業のシェアの変化をみたものが図表 14 である。これによると、忠清道・慶尚道地域で製造業、中でも加工・組立型製造業のシェアが急速に高まり、2005 年には全国でも抜きん出て高い水準になっていることがわかる。特に経済危機後、他地域に比較したシェアの上昇は顕著である。なお、京畿道も危機後はシェアが大きく拡大しており、図表 12 でみた相対的な所得水準の低落傾向が止まり、やや回復していたことと対応している。 経済危機後の韓国経済の回復を支えた要因として、ウォン安を背景とした輸出の拡大や、IT ブームの存在が指摘される。この時期には、精密機械、電気機械、情報・通信機器、半導体などの輸出の伸びが著しい。これらの産業が慶尚道や忠清道に集積していることが、上記の加工・組立型製造業のシェア上昇の背景にあると考えられる。慶尚道には半導体、鉄鋼、造船などの輸出産業が集積しており、危機後のリストラを通じて企業の体質は強化されたとみられる。また、忠清道には大田広域市を中心として「大徳(テドク)バレー」と呼ばれる先端産業の集積が形成されつつある。一方、その他の地域は内需型産業が中心であり、特に低付加価値品は日本と同様、中国の追い上げによって競争力を失いつつある。

*28 詳細にみるとソウルはやや頭打ち、京畿道は低落傾向が止まり若干回復している。*29 韓国では、1997 年に蔚山が慶尚南道から広域市として独立し、GRPも 1998 年から独立して表示されるようになった。図表

12 では段差の発生を避けるため、地域区分を変更せず、蔚山を慶尚南道に加算した系列を使用しているが、統計の作成方法の変更が格差尺度の急上昇に何らかの影響を与えている可能性は否定できない。

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176 開発金融研究所報

 このように、経済危機後の韓国では、製造業の中で(内需型)低付加価値品から(輸出型)高付加価値品へのシフトが加速し、更に高付加価値産業の集積が特定の地域(忠清道・慶尚道等)で進行したことが、地域所得の二極化=格差の拡大の一つの要因となったと考えられる。

(カーネル密度推定と平均対数偏差の名目・実質の違い) 図表 15 にカーネル密度推定の結果を示した。データの始期である 1985 年、格差が最も縮小した時期である 1995 年、直近の 2005年を比較した。時間の経過につれ、韓国の所得の地域分布はかなり変化している。 1985 年から 95 年にかけて、分布は裾野の長い形状から中央の山が高い形状に変化して

図表 13 実質一人当りGRP地域格差(平均対数偏差)の産業別寄与度(韓国)

①平均対数偏差と産業別寄与度

-0.0050

0.0000

0.0050

0.0100

0.0150

0.0200

1985 1988 1991 1994 1997 2000 2003 2005

その他行政サ+電ガス建設業鉱工業農業平均対数偏差

②産業別寄与度(再掲)

-0.0040

0.0000

0.0040

0.0080

0.0120

0.0160

1985 1988 1991 1994 1997 2000 2003 2005

農業鉱工業その他

注) 人口ウェイト付きで計算。出所)KOSIS (Korean Statistical Information System)

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2007年10月 第35号 177

いるが、この変化は格差の縮小に対応している。ここで特徴的なのは、日本や中国のように、高所得地域で別の山ができるのでなく、低所得地域で山ができている点である。具体的には、釜山、大邱、全羅北道が他の地域とは離れた位置にある。

 1995 年から 2005 年にかけて、分布は再び裾が長い形状に変化し、格差の拡大を表している。95 年と比較すると、全体に高所得地域と低所得地域が分化する傾向にあるが、特に、慶尚北道、慶尚南道(+蔚山)の所得が他を引き離して高くなり、一方大邱が他を引

図表 14 韓国の地域別製造業シェアの変化

①実質GRPに占める製造業のシェア(2000 年価格、%)

1985 年 1997 年 2005 年 シェア変化(’85 →’97)

シェア変化(’97 →’05)

全国 24.7 23.4 27.7 -1.3 4.3  ソウル 12.4 7.7 5.5 -4.7 -2.2  釜山 28.1 18.5 17.2 -9.6 -1.3  大邱 36.3 26.3 21.2 -10.0 -5.1  仁川 38.5 33.4 28.2 -5.2 -5.2  京畿道 39.0 33.4 41.1 -5.6 7.7  江原道 11.0 11.4 10.1 0.5 -1.3  忠清北道 18.7 32.8 39.8 14.1 7.0  忠清南道+大田 21.9 25.2 33.3 3.4 8.1  全羅北道 19.1 22.2 24.4 3.1 2.2  全羅南道+光州 13.4 18.3 21.4 4.8 3.1  慶尚北道 33.9 34.0 45.2 0.1 11.2  慶尚南道+蔚山 37.5 40.9 43.2 3.4 2.2  済州道 3.5 2.4 2.8 -1.0 0.3②加工・組み立て型製造業のシェア(実質GRP比、2000 年価格、%)

1985 年 1997 年 2005 年 シェア変化(’85 →’97)

シェア変化(’97 →’05)

全国 6.2 9.9 17.4 3.7 7.5  ソウル 1.0 1.4 1.5 0.4 0.1  釜山 5.5 7.3 10.3 1.8 3.0  大邱 6.1 9.1 11.8 3.0 2.7  仁川 13.2 14.4 15.0 1.2 0.7  京畿道 12.9 17.1 30.8 4.1 13.7  江原道 1.8 2.6 2.9 0.9 0.2  忠清北道 1.7 11.0 20.6 9.3 9.5  忠清南道+大田 5.1 10.6 20.4 5.4 9.8  全羅北道 2.4 9.0 10.1 6.6 1.1  全羅南道+光州 1.0 4.0 6.3 3.0 2.3  慶尚北道 5.5 13.3 30.3 7.8 17.0  慶尚南道+蔚山 17.9 23.6 30.1 5.7 6.5  済州道 0.6 0.5 0.8 -0.1 0.3注)網掛けは 1997 年から 2005 年に加工組み立て型製造業のシェア上昇が顕著であった地域。出所)KOSIS (Korean Statistical Information System)

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178 開発金融研究所報

き離して低くなったため、分布の裾が長い形状になっている。先に述べた地域の二極化が所得の地域分布にも現れている。 図表 16 に名目・実質の一人当りGRPによる平均対数偏差を示した。両者の動きは基本的に似かよっているが、1995~97 年に乖離

が生じている。名目では経済危機前の 1995年頃から格差拡大が始まっており、拡大に転じるタイミングが異なっている。これは主に慶尚南道(+蔚山)の動向の違いによるものと考えられる*30。(まとめと日本との比較) 以上から、韓国の地域格差変動の背景は、以下のように要約できる。 経済危機以前は、ソウル・釜山圏以外の各地で製造業の拠点が発展し、地域格差が縮小した。

 経済危機以後は、製造業の中で低付加価値品から高付加価値品へのシフトが加速し、後者の集積が特定地域(忠清道・慶尚道等)で進行したため、従来産業が中心の地域との二極化が進み、格差が拡大した。

 前述の通り、韓国と日本の地域構造は共通点が多いとされるが、地域格差尺度や一人当たり GRP の動向からみた韓国の特徴は、日本とはかなり異なったものとなっている。 日本では東京の所得水準が突出して高く、1970 年以降、バブル崩壊後の一時期を除けば一貫して他地域との差が拡大してきた。し

図表 15 実質一人当りGRPの分布(韓国)

0.0

0.4

0.8

1.2

1.6

2.0

2.4

2.8

3.2

3.6

4.0

-0.8 -0.6 -0.4 -0.2 0.0 0.2 0.4 0.6

1985年 2005年1995年

注) 実質一人当りGRP(2000 年価格)を対数偏差に変換し、ガウス・カーネルを用いて密度分布を描画した。人口ウェイト付きで作成。

出所)KOSIS (Korean Statistical Information System)

*30 慶尚南道(+蔚山)の名目一人当りGRPの相対的な水準は、経済危機の数年前から上昇を始めており、危機後に急上昇した実質値とはかなり異なる動きとなっている。

図表 16 一人当りGRPの平均対数偏差―名目・実質の比較―(韓国)

0.0000

0.0020

0.0040

0.0060

0.0080

0.0100

0.0120

0.0140

0.0160

0.0180

0.0200

1985

1987

1989

1991

1993

1995

1997

1999

2001

2003

2005

実質名目

注) 2000 年価格。人口ウェイト付きで計算。出所)KOSIS (Korean Statistical Information System)

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2007年10月 第35号 179

かし、韓国はソウルの所得水準が突出しているわけではない。2005 年時点の一人当りGRP(名目値)をみると、ソウルの所得は全国平均よりは高いものの、忠清南道(+大田)、慶尚北道、慶尚南道(+蔚山)よりも低い水準にある*31。また、上記の通り、相対的な実質所得水準は、ソウルがほぼ横ばいで推移しているのに対し、忠清北道、忠清南道、慶尚北道の地位が高まってきている。地域格差の面では、韓国は日本と異なり、一極構造の是正が進みつつあるように見える。 また、格差変動を生じさせる主要な産業についても、日本では今やサービス業が主体であるのに対し、韓国では依然として製造業が主体である。両国とも、最近格差が拡大傾向にある点で共通しているが、日本はサービス業の東京集中により、韓国では製造業の地方拠点の成長により生じており、背景は全く異なるものになっている。

4.タイ

(タイの地域構造と経済動向) タイの地域構造もバンコク一極集中型と言われており、政策的にも産業の地方分散による地域格差是正が早い時期から打ち出されてきた。2005 年の数値で人口、GRP のバンコク圏のシェアをみると、それぞれ 17.6%、44.1%に達する。しかし、地域構造に関する別の指標として都市人口比率をみると、タイは 2004 年でも 32%であり、他の東アジア諸国と比較してかなり低い状況になっている。先進国である日本(66%)、韓国(81%)が高いのは当然としても、発展途上国である中国(40%)、インドネシア(47%)、フィリピン(62%)もタイより高い水準にある*32。従って、タイは、一極集中型と言われながらも、東アジアの他の国々に比較すると相対的に人口分布は分散しているとみられる。タイは農業の競争力が高く、農業を基盤とした工業化

を 図 っ て「NAIC(New Agro-Industrial-izing Country)型の発展」と言われたが、こうした産業面の特徴が人口分布に反映している可能性もある。 しかし、経済活動(GRP)の集中度が高い一方で人口が分散的であるということは、一人当り GRP の地域格差がより大きいことと裏腹である。図表4でタイの地域格差(ジニ係数)が最大であった背景には、こうした地域構造上の特徴があると考えられる。 近年のタイの経済動向*33 と地域構造を考える際には、1985 年のプラザ合意を契機とした通貨水準の調整と、1997 年のアジア経済危機が重要と考えられる。大幅な円高等により、日本からを始めとした海外直接投資の流入が急拡大し、タイは製造業を中心とした経済成長を実現した。東部臨海地域には自動車産業を中心として新たな産業集積が形成され、「東洋のデトロイト」と呼ばれるまでになっている。 1997 年のアジア経済危機もタイ経済に大きな影響を与えた。危機以前のタイ経済は過熱気味であったが、97年にはバーツが暴落し、98 年の経済成長率は大幅なマイナスとなった(△10.5%)。ただし、翌年の経済成長率は4.5%に回復し、その後も(2001年を除けば)4~7%の堅調な成長を続けている。ただし、韓国同様、危機前に比べると平均的な成長率は減速している。(地域格差の推移と地域グループ別分解) 以上のような点を念頭に置きつつ、タイの地域格差変動について検討する。タイはバンコクを中心とした一極集中型の国土構造であるが、近年は東部、中部地域等にも産業集積が形成されている。ここでは、バンコク圏、東部、中部を大都市圏とみなしてグループ間分解を行った。 図表 17 ①に、1981 年以降のタイの平均対数偏差と地域グループ別の寄与度を示した

*31 2005 年の名目一人当りGRP(千ウォン)は、ソウル 18,068、忠清南道(+大田)19,008、慶尚北道 21,254、慶尚南道(+蔚山)22,044(全国値は 16,548)。

*32 数値はWorld Bank (2006)による。*33 本節のタイ経済に関する記述は渡辺編(2003)(若松篤「第5章 タイ」)などを参考にした。

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180 開発金融研究所報

図表 17 実質一人当りGPPの地域格差(平均対数偏差)の推移(タイ)

0.00

0.02

0.04

0.06

0.08

0.10

0.12

0.14

0.16②地域グループ別寄与度(再掲)

1981

1982

1983

1984

1985

1986

1987

1988

1989

1990

1991

1992

1993

1994

1995

1996

1997

1998

1999

2000

2001

2002

2003

2004

2005

0.00

0.05

0.10

0.15

0.20

0.25

0.30

0.35

0.40

バンコク圏+東・中部

その他

グループ間(右目盛)

0.0

25.0

50.0

75.0

100.0

125.0

150.0

175.0

200.0③バンコク圏+東・中部の実質一人当りGRP=100とした指数

1981

1982

1983

1984

1985

1986

1987

1988

1989

1990

1991

1992

1993

1994

1995

1996

1997

1998

1999

2000

2001

2002

2003

2004

2005

東部臨海アユタヤ

バンコク圏その他

0.00

0.10

0.20

0.30

0.40

0.50

0.60

グループ間

その他

バンコク圏+東・中部

①平均対数偏差と地域グループ別寄与度

1981

1982

1983

1984

1985

1986

1987

1988

1989

1990

1991

1992

1993

1994

1995

1996

1997

1998

1999

2000

2001

2002

2003

2004

2005

注) 1988 年価格。平均対数偏差は人口ウェイト付で計算。東部臨海地域は、チャチュンサオ、チョンブリー、ラヨーン。出所)NESDB “Gross Provincial Product”

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2007年10月 第35号 181

(②は寄与度の再掲。バンコク圏+東・中部、その他地域の寄与度はやや拡大して図示している)。まず、タイの地域格差は、1980 年代後半から拡大を始め、現在に至るまでほぼ拡大傾向にある。やや詳細にみると、1990 年代半ばに一旦格差の拡大が止まり、横ばいで推移している他、経済危機後の 1998 年に一時的な縮小があった。 地域グループ別にはバンコク+東・中部圏とそれ以外地域の間の「グループ間格差」の寄与度が非常に大きく、全体の格差変動もほぼこの要因によって生じていることがわかる。また、バンコク圏+東・中部内の格差は90 年代にやや低下していること、その他地域内の格差は 90 年代後半以降、緩やかながら拡大傾向にあることがわかる。 1980 年代後半以降、円高等を背景にタイに海外直接投資が流入し、バンコク圏、或いはその周辺地域を中心に新たな産業集積が形成された。この影響を図表 17 ③でみると、90 年代に入り、バンコク圏の相対的地位が下がる一方、東部臨海地域やアユタヤの地位が上がり、この傾向は現在まで続いていることがわかる。バンコク+東・中部圏内の格差が 90 年代にやや低下したのは、東部臨海地域やアユタヤなどバンコク圏以外の産業集積が発展し、キャッチアップしたためと考えられる。また、その後拡大傾向に転じたのは、新たな産業集積と他の地域との格差が拡大したことによる。また、新しい産業集積の発展は、バンコク+東・中部圏全体の所得水準を引き上げ、「グループ間格差」の拡大をもたらしたと考えられる。 バンコク圏の相対的地位の低下は対全国でも生じており、90 年代半ばには「その他地域」との差の拡大が一時的に止まり、「グループ間格差」の寄与度も横ばい推移となった。この時期には「その他」地域に経済発展が波及した可能性もある。また、経済危機の際にはバンコクが大きな打撃を受けたことから、「グループ間格差」は一時的に縮小した。しかし、これらは一過性の影響に止まり、その後、格差は再び拡大に転じている。

(カーネル密度推定) 図表 18 に、カーネル密度推定の結果を示した。バンコク等の高所得グループとその他グループの格差の大きさを反映し、2山型の形状となっている。81 年から 93 年には、バンコク圏の山とそれ以外の地域の山の距離が離れており、これが格差拡大につながったものと考えられる。93年から2005年にかけては、全体の分布の裾が広がり、特に、東部臨海地域やアユタヤなどの高所得地域が他を引き離すことで格差が拡大している。このように、まずバンコク圏中心の発展が、次いでその他の成長拠点の出現が格差拡大を生じさせたことが、カーネル密度の形状からも確認できる。(平均対数偏差の産業別分解) 図表 19 に平均対数偏差の産業別分解結果を示した。鉱工業(主に製造業)の寄与度は一貫して拡大し、全体の格差拡大の主要因となっている。「その他サービス業」の寄与度は、1990 年代半ばまでは製造業とも歩調を併せて拡大していたが、その後は縮小し、最近は横ばいで推移している。1990 年代半ばまではサービス業のバンコク圏への集中が続き、製造業と併せて格差拡大要因となっており、その後、経済危機がバンコク圏のサービス業

図表 18 実質一人当たりGPPの分布(タイ)

注) 実質一人当りGPP(1988 年価格)を対数偏差に変換し、ガウス・カーネルを用いて密度分布を描画した。人口ウェイト付きで作成。

出所)NESDB “Gross Provincial Product”

0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

-2.5 -1.5 -0.5 0.5 1.5 2.5

1981年 2005年1993年

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182 開発金融研究所報

に打撃を与え、格差の縮小要因となったと考えられる。 農業は一貫して格差の縮小要因であるが、その寄与度はさほど大きくはない。行政サービス+電ガス業、建設業の寄与度は一貫してプラスである。(まとめ) 以上から、1980 年代以降のタイの地域格差変動の背景は、80 年代はバンコク圏内の、

90 年代以降はバンコク圏に隣接した東部、中部地域における新たな製造業の産業集積の発展であり、これらが他の地域を引き離す形で格差の拡大が進んでいる。バンコク圏の所得水準は現在でも高いが、実質所得の成長率は鈍化し、その相対的地位は低下している。この基本的な傾向は、経済危機の前後で変わりはない。 既存の大都市圏の隣接地域で製造業の新し

図表 19 実質一人当りGPP地域格差(平均対数偏差)の産業別寄与度(タイ)

①平均対数偏差と産業別寄与度

-0.05

0.05

0.15

0.25

0.35

0.45

0.55

1981 1984 1987 1990 1993 1996 1998 2000 2003 2005

その他サービス

行政サ+電ガス

建設業

鉱工業

農業

平均対数偏差

②産業別寄与度(再掲)

-0.05

0.00

0.05

0.10

0.15

0.20

0.25

0.30

0.35

1981 1984 1987 1990 1993 1996 1998 2000 2003 2005

農業

鉱工業

その他サービス

注) 1988 年価格。人口ウェイト付きで計算。出所)NESDB “Gross Provincial Product”

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2007年10月 第35号 183

い産業集積が発展し、地域格差に影響するという点で、タイの状況は改革開放後の中国東部地域の発展パターンと類似性がある。しかし、中国では一時的にせよ明確な格差縮小局面が存在したが、タイではあまり明瞭にみられない点で異なる。

5.インドネシア

(インドネシアの地域構造と経済動向) インドネシアの地域構造は、第一にジャワ島(ジャワ島の中でもジャカルタ)に人口、経済活動が集中していること、第二に石油・天然ガスなど豊富な資源を有する州とその他の州に大きな経済格差が存在することに特徴がある。現在の国家中期開発計画(2004-2009 年)においても、「ジャワとジャワ以外」、「西部インドネシア(KBI)と東部インドネシア(KTI)」、「都市と農村」の3つの地域格差への懸念に言及がある*34。 ジャワ島への集中度を人口、GRP(名目値)のシェアでみると、2004 年でそれぞれ59.1%、59.7%であり、面積(6.7%)を考えれば極めて高い集中度になっている。同様にジャカルタのシェアは 4.0%、17.1%であり、人口に比較して GRP の集中度が高い。ジャワ島内の一人当り GRP に関してジャカルタとそれ以外の地域に大きな格差が存在することを表している。 近年のインドネシアの経済動向と地域構造の関係を考える上で重要なトピックは、第1次・第2次石油危機(1973 年、1978 年)、1980 年代後半以降の海外直接投資の増加、1997 年のアジア経済危機である*35。 石油危機による石油価格の上昇は、インドネシア経済に石油収入の増加をもたらし、政府はこれを原資に輸入代替工業化政策を進めた。こうした「石油ブーム」を背景とした高成長は 1981 年まで続いたが、その後の石油価格の下落は国際収支の危機を招き、ルピア

切り下げや国営企業の民営化、規制緩和などを内容とする構造調整政策(82~86 年)が採られた。 こうした構造調整政策の効果や、1985 年のプラザ合意を背景とした国際的な通貨調整を背景に、1987 年以降のインドネシアは輸出・投資ブームを伴う高成長を実現する。1980 年代後半以降、日本やNIEs 諸国による、輸出部門への海外直接投資の流入が増加する。1980 年代以降再び輸出が急増するが、これは非石油部門によるものであり、資源依存型の経済構造からの脱却が進むことになる。 この時期の地域構造上の重要な現象として、「ジャボタベック」が形成されたことを指摘できる。ジャボタベックは、ジャカルタとそれに隣接する県・市であるボゴール、ブカシ、タンゲランの頭文字をつなげたもので、この都市圏全体の呼称として用いられ、ジャカルタが周辺地域を取り込んだ拡大都市圏として成長したことを表す。1980年代後半以降、ジャカルタのみならず、周辺諸県に工業団地が広がったが、一連の規制緩和や民営化とジャカルタ都内の混雑を背景に、ジャカルタは投資、貿易、金融、情報の拠点となり、周辺の「ボタベック」地域に製造業が配置される、という地域構造が形成された*36。 1997 年タイで発生した通貨危機はインドネシアにも伝播し、ルピアの暴落、大幅なマイナス成長(98 年に△13.1%)など、深刻な影響をもたらした。インドネシアでは経済危機が政治不安につながり、30 年以上の長期にわたって継続していたスハルト政権崩壊の一つの背景をなした。インドネシア経済は比較的短期に回復し、最近は堅調な成長軌道に戻っているが、経済成長率は危機前に比較すると減速している。(地域格差の推移と地域グループ別分解) 図表 20 ①②にインドネシアの平均対数偏

*34 BAPPENAS (2005)*35 以下のインドネシア経済の経緯は渡辺(2003)(小黒啓一「第7章 インドネシア」)等を参考にした。*36 宮本(1999)pp.17-18

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184 開発金融研究所報

図表 20 実質一人当りGRPの地域格差(平均対数偏差)の推移(インドネシア)

注) 2000 年価格。平均対数偏差は人口ウェイト付きで計算。出所)BPS “Statistical Yearbook of Indonesia”

①平均対数偏差と地域グループ別寄与度(GRP総額)

0.000

0.050

0.100

0.150

0.200

0.250

0.300

0.350

1978

1979

1980

1981

1982

1983

1984

1985

1986

1987

1988

1989

1990

1991

1992

1993

1994

1995

1996

1997

1998

1999

2000

2001

2002

2003

2004

グループ間その他ジャワ島

③全国の実質一人当りGRDP=100とした指数(GRP総額)

0.0

200.0

400.0

600.0

800.0

1000.0

1200.0

1400.0

1600.0

1978

1979

1980

1981

1982

1983

1984

1985

1986

1987

1988

1989

1990

1991

1992

1993

1994

1995

1996

1997

1998

1999

2000

2001

2002

2003

2004

アチェ

リアウ

ジャカルタ

東カリマンタン

パプア

ジャワ島その他

その他

②平均対数偏差と地域グループ別寄与度(石油・天然ガスを除くGRP)

0.000

0.025

0.050

0.075

0.100

0.125

0.150

0.175

0.200

1983

1984

1985

1986

1987

1988

1989

1990

1991

1992

1993

1994

1995

1996

1997

1998

1999

2000

2001

2002

2003

2004

グループ間その他ジャワ島

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2007年10月 第35号 185

差と地域グループ別分解を示した。 インドネシアの地域格差尺度は、GRP に石油・天然ガスを含むか、含まないかで水準、動向とも大きな違いがあるので、両方の数値を示している。製造業などの産業発展の影響をみるには、石油等を含まない GRP を使用する方が望ましいと考えられる。地域グループはジャワ島とその他の格差に着目して寄与度分解を行っている。 まず、石油等を含むベースの地域格差(図表 20 ①)は、ほぼ一貫して低下している。低下のテンポは1980年代初までは急速であったが、その後は緩やかになっている。地域的にはその他地域内格差の縮小、具体的には資源産出州の相対的な所得水準の低下により格差縮小が生じている。なお、ジャワ島内の平均所得水準とその他地域の平均所得水準がほぼ等しいため、「グループ間格差」は 1980 年代初までの時期を除けばゼロに近い水準にある。 次に石油等を除くベースの地域格差(図表20 ②)は、1990 年代半ばまでは緩やかに拡大し、経済危機前にやや拡大テンポが速まったが、その後縮小している。経済危機前までの時期は拡大傾向にあったが、その後格差は縮小したため、長期的に見ればあまり変動していないとも見られる。地域グループ別にはジャワ島内の格差の寄与が大きな割合を占める。ジャワ島のウェイトが大きく、かつジャワ島内に大きな格差が存在することを示している。 図表 20 ③は、代表的な資源産出州であるアチェ、リアウ、東カリマンタン、パプアの4州とジャカルタの相対的な所得水準を比較したものである。その他地域はジャワ島内とジャワ島外の2つに分けて示した。1970 年代の終りには、リアウ、東カリマンタンの所得水準が圧倒的に高く、「資源依存型」経済の特徴を示している。その後、資源産出州の所得水準は低下し、ジャカルタの地位は傾向的に高まり、ある意味で「キャッチアップ」が生じていたことがわかる。なお、その他地域の所得水準は、ジャワ島内とジャワ島外で

ほとんど同水準にある。前述の通り、インドネシアはジャワ島内に人口・GRP が極端に集中した地域構造になっているが、ジャワ島内でもジャカルタ以外の地域の所得水準はさして高いわけではないことがわかる。 以上から、インドネシアの経済動向と地域格差の関係は以下のように整理できる。 石油・天然ガスを含むベースの地域格差については、 (図表 20 のデータ期間は 1978 年以降なので、石油危機が地域格差に与えた影響は分からないが、)2回の石油危機により資源産出州の所得水準が高まり、資源依存型の地域構造が形成された。

 しかし、世界の石油需要の減少などから数量ベースでみた石油輸出は 1978年をピークに急速に減少し、1980 年初までの地域格差の急低下をもたらした。

 その後、構造調整期を経て 1980 年代後半以降の投資・輸出ブームの時期にジャカルタを中心として工業が発展し、地域格差は縮小を続けた。

 石油・天然ガスを除くベースの地域格差については、 ジャカルタの地位の上昇により、経済危機前の時期までは格差は緩やかながら拡大傾向にあった。

 経済危機の影響は危機前のブーム・危機後の落ち込みともジャカルタを中心に生じており、格差の一時的な拡大・縮小をもたらした。

 インドネシアは、ジャカルタ都市圏への人口・経済活動の集中が続き、他の地域との格差拡大が続いている印象があるが、実際には、中国やタイのように、全体の格差を顕著に拡大させるほどのインパクトは与えていないこともわかった。(カーネル密度推定) 図表 21 にカーネル密度推定の結果を示した(石油・天然ガスを含むベースで作成)。基本的には資源産出州やジャカルタの所得水

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186 開発金融研究所報

準が非常に高く、独立の山をなし、他地域の所得の格差は比較的小さい、という分布になっている。1978 年時点はリアウと東カリマンタンの所得水準が極端に高く、高所得側の裾が非常に長い形状になっていたが、それらの地域の所得が低下し、山が中央に近づくことで格差が縮小した。その他の地域の所得の分布も時間とともに中央の山が高まり、格差の縮小を表しているが、基本的な形状は変化していない。(平均対数偏差の産業別分解) 図表 22 に平均対数偏差の産業別分解を示した。インドネシアの GRP 統計は、1978 年価格の系列と、1983 年価格以降の系列で産業分類が異なる。また、価格の基準年が異なるごとに、産業構造にも大きな段差が存在する。このため、グラフは 1978 年価格、1983年価格、1993 年価格の系列ごとに示し、同じ基準の数値の間の変化をみることにす

図表 21 実質一人当りGRPの分布(インドネシア)

0.0

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

1.2

1.4

1.6

-2.0 -1.0 0.0 1.0 2.0 3.0

1978年 2004年1993年

注) 実質一人当りGRP(2000 年価格)を対数偏差に変換し、ガウス・カーネルを用いて密度分布を描画した。人口ウェイト付きで作成。

出所)BPS “Statistical Yearbook of Indonesia”

図表 22 実質一人当りGRP地域格差(平均対数偏差)の産業別寄与度(インドネシア)

-0.050

0.000

0.050

0.100

0.150

0.200

0.250

0.300

0.350

1978 1982 1983 1987 1991 1994 1997 2000 2003

その他サービス行政サ+電ガス

建設業製造業

資源関連産業農業MLD(石油等除く)

MLD(総額)

※MLD:  Mean Log Deviation (平均対数偏差)

注)1. 産業別の実質GRPを用いて寄与率を計算し、図表 19 で計算した平均対数偏差(総額)を分解した。石油等を除くベースの平均対数偏差も参考として表示した。計算に用いた産業別実質GRPは 1978、82 年は1978 年価格、1983~91 年は 1983 年価格、1994~2003 年は 1993 年価格。

2. 資源関連産業は鉱業及び石油・天然ガス関連の製造業。3. 1978、82 年は石油・天然ガス関連の製造業が分離できないため、資源関連産業は鉱業のみ。また、行政サービスも分離できないため、その他サービスに含まれている。

出所)BPS “Statistical Yearbook of Indonesia” “Gross Regional Domestic Products by Industrial Origin”

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2007年10月 第35号 187

る*37。 まず、1978 年から 82 年にかけては、資源関連産業の寄与度が極めて大きく、急速に低下している。これは前述の通り、資源産出州の所得低下に対応している。一方、サービス業、製造業の寄与度は上昇し、格差拡大に寄与している。寄与度は製造業よりサービス業の方が大きい。 次に、1983 年から 91 年にかけては、資源関連産業の寄与度が引き続き最大であり、かつ低下し、全体の格差を縮小させている。製造業、サービス業の寄与度は引き続き上昇している。石油・天然ガスを除くベースの格差が拡大しているのはこれらの影響による。やはり、サービス業の寄与度の方が大きくなっている。 1994 年以降、1994 年から 97 年に格差が拡大、その後低下している。産業別には製造業、建設業、サービス業の寄与度が揃って高まり、その後低下するという動きになっており、特定の産業が原因となっているわけではない。資源関連産業の寄与度は低くなり、サービス業が最大となっている*38。 以上、まとめると、 長期的な地域格差の低下は資源産業の影響である。

 1990 年代初までは製造業、サービス業は格差拡大要因となっていた。

 (資源産業を除くと)インドネシアでは製造業よりもサービス業が地域格差に与える影響が大きい。これはジャカルタの影響によるものと思われる(ジャカルタの経済規模が大きく、サービス化が進展していることを反映している)。

ことが指摘できる。 その他の産業について補足的に述べると、 農業は必ずしも格差縮小要因となっていない(1993 年価格の系列(1994-

03 年)ではマイナス寄与となっているが、数値はごく小さいもの)。

 行政サービス+電ガス業、建設業は格差拡大に寄与し、特に 1993 年価格の系列(1994-03 年)では建設業が大きな拡大要因となっている。

ことが指摘できる。(ジャボタベックの形成と地域格差) これまでの分析は州レベルの GRP を用いているため、ジャボタベックの形成など都市レベルの地域構造変化は十分に把握できない。以下では、インドネシアの県・市レベルの GRP を用いて、ジャワ島内の地域格差の変化をもう少し詳しく分析してみる。 図表 23 ①(②は寄与度の再掲)は、県・市レベルの GRP を用いて計算した平均対数偏差と地域グループ別の寄与度である。地域グループは工業団地の立地が進んでいる地域として、ジャボタベックの他、バンドン(県+市、西ジャワ州)、スラバヤ市(東ジャワ州)を加え、一つのグループとして分解を行った。なお、データは石油・天然ガスを除くベースを用いている。 まず、全体の格差は、1986 年から 97 年にかけて拡大したが 2000 年に縮小、03 年にかけ若干の拡大、という動きであり、図表 18でみたジャワ島内格差とほぼ同じ動きになっている。また、86 年より 2003 年の格差が大きく、若干の拡大傾向にある。県・市レベルの GRP を用いると、州レベルでは検出できなかった「州内」格差が含まれるが、基本的な傾向は変わらないことが確認された。 次に地域グループ別の寄与度をみると、グループ間格差の寄与度が半分程度を占め、格差変動の主因となっていることがわかる。その他地域内格差の寄与度も 97 年まで拡大、その後縮小という動きを示し、全体の格差変動に影響を与えている。ジャボタベック等地域内の格差は 93 年以降は横ばい推移となり、

*37 全体の平均対数偏差を計算する際には、価格の基準年が変更される時点でGRPの水準を合せ、段差が生じないように調整している。

*38 石油・天然ガス産業の計上方法が変更されていることの影響もあると思われる。

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188 開発金融研究所報

図表 23 ジャワ島内の地域格差(一人当りGRPの平均対数偏差)の推移

②地域グループ別寄与度(再掲)

0.000

0.050

0.100

0.150

0.200

1986 1993 1997 2000 2003

ジャボタベック等

その他

グループ間

③ジャワ島内の一人当りGRP=100とした指数

0.0

100.0

200.0

300.0

400.0

500.0

1986 1993 1997 2000 2003

バンドン

スラバヤジャカルタ

ボタベックその他

①平均対数偏差と地域グループ別寄与度

0.000

0.050

0.100

0.150

0.200

0.250

0.300

0.350

0.400

1986 1993 1997 2000 2003

グループ間

その他

ジャボタベック等

注) 1. 2000 年価格。平均対数偏差は人口ウェイト付きで計算。同名のKabupaten(県)、Kota(市)は統合し、1地域として計算を行った。石油・天然ガスを除くベースの数値を用いた。

2. ジャボタベックはジャカルタ、ボゴール、ブカシ、タンゲラン。これらに加え、バンドン、スラバヤを一つのグループとして地域分解を行った。

出所)BPS “Produk Domestik Regional Bruto Kabupaten/Kota Indonesia”他

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2007年10月 第35号 189

格差変動には影響していない。 図表 23 ③で各地域の一人当り実質GRPの相対水準の推移をみると、ジャカルタ、スラバヤが突出しており、他の地域を引き離している。ジャカルタの地位は経済危機後に一時的に落ち込んでいるが、中期的には緩やかに高まっているとみられる。一方ボタベック地域の所得は、93 年から 97 年に上昇した後横ばいで推移しており、顕著な上昇はみられない。 図表 24 はジャワ島内の県・市GRPを用いて描いたカーネル密度推定である。1986 年には、ジャカルタとスラバヤが他を引き離し、明瞭な2山型であったが、2003 年には山が不明瞭になり、高所得の方で裾が長い形状に変化し、格差が拡大している。山が不明瞭になったのはジャボタベックに含まれるブカシ(県+市)など、いくつかの地域の所得水準が上昇したためである。中国における「中所得地域」の発生と同様の現象が生じつつある、と言えるかもしれない。(まとめ) 以上の観察をまとめると、インドネシアの地域格差に関しては、以下のような点が指摘

できる。 ジャカルタと資源産出州が高所得地域をなし、他の地域と大きな格差が存在する。

 インドネシアはジャワ島に人口・経済活動が極度に集中しているが、ジャカルタとその他地域の格差が非常に大きく、(ジャカルタを除けば)ジャワ島の所得が高いわけではない。

 石油・天然ガスを含むベースの GRPによる地域格差は長期的に低下している。これは、資源依存型から工業中心の経済構造への転換を反映し、資源産出州の相対的な所得水準が下がったことを反映している。

 石油・天然ガスを除くベースの GRPによる地域格差は、経済危機前は緩やかな拡大傾向にあったが、危機後の低下をあわせ見ると、長期的には比較的安定的に推移している。ただし、経済危機の前後にはジャカルタの所得の動きを反映して一時的な格差拡大と縮小が明瞭にみられた。

 インドネシアにおいても、1980 年代後半以降、海外直接投資の流入を背景として工業が発展したが、州レベルの地域格差でみると顕著な影響は与えていない。これは、同様の工業発展が継続的な地域格差の拡大傾向をもたらし、格差変動の主因が製造業である中国やタイの状況とは異なる。経済規模に比較して、工業化が進展した地域の広がりが限られていることを反映している可能性もある。

 ジャワ島内で県・市レベルの GRP を用いると、ジャボタベックなどの新たな産業集積の発展が所得の地域分布に影響を与えている。

6.フィリピン

(フィリピンの地域構造と経済動向) フィリピンは、「人口のマニラ首都圏への一極集中の傾向が著しく、マニラに次ぐ中間

図表 24 ジャワ島内の実質一人当りGRPの分布

0.0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

0.9

-2.0 -1.0 0.0 1.0 2.0 3.0

1986年 2003年

注) 実質一人当りGRP(2000 年価格)を対数偏差に変換し、ガウス・カーネルを用いて密度分布を描画した。人口ウェイト付きで作成。

出所) BPS “Produk Domestik Regional Bruto Kabupaten/Kota Indonesia”他

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190 開発金融研究所報

都市が育っていない*39」と言われるなど、首都集中型の国土構造となっている。2005年の数値で人口、GRP(名目値)の集中度をみるとそれぞれ 12.7%、36.8%となり、特に経済活動の集中は著しい。 フィリピン経済も国際環境から大きな影響を受けてきたが、そのパターンはタイやインドネシアとはやや異なっている*40。1965 年のマルコス政権発足以降、工業化に取り組んだが、一次産品と委託加工品中心の輸出構造は変わらず、第二次石油危機後の世界不況の際には国際収支危機に陥った。その後1984、85 年にマイナス成長を記録するなど経済の混乱が続き、マルコス政権崩壊の一因となった。1986 年のアキノ政権発足後、しばらく経済パフォーマンスは良好であったが、政治的不安定は続き、停電、自然災害(バギオ大地震、ピナツボ火山の噴火)の影響もあって1991、92年には再びゼロ成長に陥った。 1992 年に発足したラモス政権は自由化政策・外資導入を進め、この結果電機産業への海外直接投資が流入し、輸出も増加した。1997 年のアジア経済危機の際には、外資流入の減少、ペソ下落に見舞われ、98 年にはゼロ成長となったが、翌年には回復し、その後は3~5%の堅調な成長を続けている。 タイやインドネシアは、1980 年代後半以降の時期に製造業への海外直接投資の増加などを背景に高成長を続けたが、フィリピンでは 90 年代初にマイナス成長となるなど異なる経緯をたどった。また、逆に、アジア経済危機の影響はタイ、インドネシアに比較して軽微であった。(平均対数偏差の推移と地域グループ別分解) 図表 25 ①に平均対数偏差と地域グループ別分解を示した(②は寄与度の再掲)。フィリピンの工業団地の多くはマニラに隣接した地域に存在する。そこで、地域区分はやや粗

いが、マニラと隣接する北部ルソン地域、南タガログ地域を「大都市グループ」とみなして地域分解を行なった。 まず、全体の地域格差は、変動を伴いながらもほぼ横ばいで推移している。フィリピンはマニラへの経済活動の集中が続いている印象があるが、地域格差の拡大傾向は見られない。 次に地域グループ別の寄与度をみると、マニラ周辺地域とそれ以外の地域の所得差を反映し、「グループ間格差」が最大の寄与を示している。時系列的には、1990 年代半ば頃からマニラ周辺地域内の格差が拡大に転じている。しかし、これを相殺するように「グループ間格差」が縮小し、全体の格差は横ばいになっている。 この理由をみるため、地域別の実質一人当たり GRP の全国を 100 とした指数を示したのが図表 25 ③である。マニラの所得水準が極端に高いため、グラフを2つに分けて表示している。これによると、マニラの相対的な所得水準は 90 年代半ば以降上昇に転じており、大都市グループ内の格差を拡大させていたことがわかる。一方、その他地域では、ビザヤ地域などで所得水準の上昇がみられ、これがグループ間格差を縮小させていたとみられる。なお、ミンダナオ地域の所得水準は傾向的に低下している。(名目・実質の違い) 実質一人当たり GRP でみた地域格差は長期的に横ばいで推移してきたが、名目値でみた格差はやや様相が異なる。図表 26 に名目と実質の平均対数偏差の比較を示したが、名目の地域格差は長期的に拡大傾向にあることがわかる。地域別の GRP デフレーターの相対的な水準の推移をみると、マニラのデフレーターだけが突出して高まっている*41。マニラのサービス化がこの背景にある可能性

*39 秀島(2001)p.119*40 以下のフィリピン経済の経緯は渡辺(2003)(森澤恵子「第8章 フィリピン」)などを参考にしている。*41 地域別に GRPデフレーターを算出し、更に全国を 100 とした指数に変換すると(実質値は 1985 年価格なので、1985 年には

全地域 100)、2005 年時点でマニラの指数は 115.4 まで上昇している。他の地域は東ビザヤ(104.4)地域を除いて 100 を下回っている。

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2007年10月 第35号 191

図表 25 実質一人当りGRPの地域格差(平均対数偏差)の推移(フィリピン)

②地域グループ別寄与度(再掲)

0.000

0.020

0.040

0.060

0.080

0.100

1980

1982

1984

1986

1988

1990

1992

1994

1996

1998

2000

2002

2004

マニラ+中部ルソン+南タガログ

その他

グループ間

③全国の一人当りGDP=100とした指数

50.0

100.0

150.0

200.0

250.0

300.0

1980198219841986198819901992199419961998200020022004

マニラ 中部ルソン+南タガログ

①平均対数偏差と地域グループ別寄与度

0.000

0.020

0.040

0.060

0.080

0.100

0.120

0.140

0.160

1980

1982

1984

1986

1988

1990

1992

1994

1996

1998

2000

2002

2004

グループ間

その他

マニラ+中部ルソン+南タガログ

40.0

50.0

60.0

70.0

80.0

90.0

100.0

1980

1983

1986

1989

1992

1995

1998

2001

2004

ビザヤ ミンダナオ その他

注) 1985 年価格。平均対数偏差は人口ウェイト付きで計算した。出所)Phillipine Statistical Yearbook

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192 開発金融研究所報

もある。(カーネル密度推定) 図表 27 にカーネル密度推定の結果を示した。データが入手できた最も古い時点である1980 年と、中間時点でありラモス政権が発足した年でもある 1992 年、直近の 2005 年を比較した。 1980 年の分布はマニラが突出して一つの山をなしている他、低所得側にも山がある(具体的にはビコール地域と東ビザヤ地域)3山型の形状をなしている。1992 年には低所得側の山が不明瞭になっているが、基本的な形状は変わらない。2005 年になると2つの変化が生じている。第一に、マニラが更に突出し、マニラの山とその他地域の分布の山の距離が離れている。第二にその他地域の分布については所得差が縮小を反映して裾が短く山が高い形状に変化している。前者は格差の拡大要因であり、後者は縮小要因である。こうした2つの変化の影響が相殺され、全体の格差は変わらないという結果になっている。(平均対数偏差の産業別分解) 図表 28 に、平均対数偏差の産業別寄与度を示した。

 1980 年時点では、鉱工業(主に製造業)の寄与度が最大であったが傾向的に低下し、一方、サービス業の寄与度が上昇したため、直近の 2005 年ではサービス業の寄与度が最大になっている。製造業の地域別のシェアを1980 年と 2005 年で比較すると、マニラが最

図表 26 一人当りGRPの平均対数偏差―名目・実質の比較―(フィリピン)

0.000

0.020

0.040

0.060

0.080

0.100

0.120

0.140

0.160

0.1801980

1982

1984

1986

1988

1990

1992

1994

1996

1998

2000

2002

2004

名目 実質

注) 実質は 1985 年価格。人口ウェイト付きで計算した。出所)Phillipine Statistical Yearbook

図表 27 実質一人当りGRPの分布(フィリピン)

0.0

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

1.2

1.4

1.6

-1.5 -1.0 -0.5 0.0 0.5 1.0 1.5

1980年 2005年1992年

注) 実質一人当りGRP(1985 年価格)を対数偏差に変換し、ガウス・カーネルを用いて密度分布を描画した。人口ウェイト付きで作成。

出所)Phillipine Statistical Yearbook

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大であることに変わりはないが、シェアは低下し、他地域では各地でシェアの上昇がみられる。一方、サービス業ではマニラのシェアは大幅に拡大し、他の地域ではほとんどで低下している*42。製造業の地域展開がある程度進展したのに対し、サービス業はマニラ集中が続いていることを表していると考えられる。 その他の産業については、農業の寄与度は

一貫してマイナスの大きな数値であり、格差を縮小させる方向に作用している。電ガス業や建設業の寄与度はプラスであるが、寄与度は低下しており、その意味では格差縮小要因である。(まとめ) 以上から、フィリピンの地域格差変動には、マニラの動向が大きな影響を与えていると言えそうである。マニラが突出した国土構造を

図表 28 実質一人当りGRP地域格差(平均対数偏差)の産業別寄与度(フィリピン)

①平均対数偏差と産業別寄与度

-0.0200

0.0000

0.0200

0.0400

0.0600

0.0800

0.1000

0.1200

0.1400

0.1600

1980 1985 1990 1995 2000 2005

サービス業電ガス業建設業鉱工業農業平均対数偏差

②産業別寄与度(再掲)

-0.0200

0.0000

0.0200

0.0400

0.0600

0.0800

0.1000

1980 1985 1990 1995 2000 2005

農業

鉱工業

サービス業

注) 実質は 1985 年価格。人口ウェイト付きで計算。出所)Phillipine Statistical Yearbook

*42 全国の製造業付加価値に占めるマニラのシェアは、1985 年の 44.6%から 2005 年の 40.4%へ低下。サービス業では 36.7%から43.1%に上昇。

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なしており、サービス業の集中を背景に更にその傾向を強めている。ただし、これまでは他の地域における製造業などの発展が格差縮小に寄与し、全体の格差は拡大してこなかった。ただし、ここ数年格差は拡大しており、仮にこの傾向が続けばマニラ突出型で格差が拡大していく可能性もある。

第3章 結語

(地域格差変動パターンの2類型) 第2章の分析から、東アジア6ヵ国の地域格差変動の特徴は一様ではなく、国・時期ごとに様々な違いがあることがわかったが、いくつかのケースには共通点がみられる。具体的には以下の3つの視点が重要と考えられる。 地域格差に傾向的な拡大・縮小がみられるか。

 首都(あるいは既存の大都市)の所得水準が突出した地域構造であり、その

傾向が強まっているか。 格差変動の主体は製造業かサービス業か。

これらの視点から分類を行ったのが図表 29である。 まず、格差変動の傾向は(最近の中期的傾向としては)拡大している場合が多い。縮小しているのは、韓国の経済危機前の時期、インドネシアの石油・天然ガスを含むベースの地域格差のみである。前者は危機後に拡大に転じ、後者は資源産業に起因する特殊なケースである。近年、東アジア諸国の地域格差は総じて拡大傾向にあると言えよう。 次に、首都(或いは既存の大都市)の地位については、(やはり最近の中期的傾向でみると)上昇しているケース(日本、フィリピン)、低下しているケース(中国、タイ)の両者がみられる。東アジア諸国では総じて首都が突出して成長している印象があるが、実際の動きは必ずしもそうではないことがわかる。 このような首都の地位と格差変動の主因で

図表 29 東アジア諸国の地域格差変動の特徴

国・時期等 格差変動の傾向 首都(既存大都市)の突出度

格差変動の主因である産業

日   本

高度成長期 縮  小 低  下 製 造 業

安定成長期以降拡  大

※ バブル崩壊後に一時的に縮小。

上  昇 サービス業

中   国

社会主義時代 拡  大 上  昇 製 造 業

改革開放以降拡  大

※ 改革開放後に一時的に縮小。

低  下 製 造 業

韓   国アジア経済危機前 縮  小 変化なし 製 造 業アジア経済危機後 拡  大 変化なし 製 造 業

タ   イ 拡  大 低  下 製 造 業

インドネシア

石油等含むベース 縮  小

やや上昇

資 源 産 業

石油等除くベース横 ば い

※ 経済危機前までやや拡大傾向。

サービス業

フィリピン 横 ば い 上  昇※ 90 年代以降 サービス業

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ある産業には対応関係がみられる。すなわち、首都の地位が高まっている国では、格差変動の主因はサービス業であり、低下している国では製造業である。 以上から、東アジア諸国の格差変動のパターンとして、次の2つの類型の存在を指摘できる。

類型1:製造業の新たな産業集積形成タイプ 首都や既存の大都市以外の地域に製造業の新たな産業集積が形成され、地域格差変動が生じる。このタイプでは、地域格差は縮小・拡大の両方の可能性がある。つまり、新たな産業集積が既存の高所得地域にキャッチアップする動きは格差の縮小要因となるが、同時にその他の地域との差は拡大するので、後者のインパクトが前者を上回れば格差は拡大することになる。日本の高度成長期には太平洋ベルトの形成により格差は縮小した。中国では、江蘇、浙江、広東などに新たな産業集積が形成され、改革開放後の数年間は格差が縮小したが、その後は拡大に転じた。タイでは、東部臨海地域や中部の工業団地に新たな産業集積が形成されたが、地域格差に明瞭な縮小局面は見られず、傾向的に拡大している。

類型2:サービス業の首都集中タイプ 首都にサービス業が集中し、首都の所得の突出度合いが高まり、格差が拡大する(カーネル密度でみると、首都の山とその他地域の分布の山の距離が離れる状況)。東京の突出が進む日本に典型的であるが、フィリピンにもみられる。ただし、フィリピンでは全体の格差が拡大するには至っていない。インドネシアでもジャカルタの地位は若干上昇傾向にあり、こうした現象が生じつつある可能性がある。

 これら2つの類型は、いずれもグローバリゼーションに関係している。類型1で、中国やタイの新たな産業集積は、海外直接投資の流入を背景に形成されたものである。外国資本は立地条件の良い地域を選択するため、立

地地点は首都など既存の大都市の隣接地域が選ばれることが多い。こうした「集積の経済」の作用により、既存大都市とそれに隣接した新たな産業集積が発展し、その他地域との格差が拡大するパターンが多いとみられる また、類型2の首都集中は、日本では多国籍企業の世界的な事業展開の過程で、東京が中枢管理機能の拠点として成長したことに対応している。フィリピンやインドネシアで東京と同じ現象が起こっているとは言えないが、世界的な都市システムの形成過程が影響している可能性はある。小長谷(1999)は、ジャボタベックの形成に関連して、先進国大都市の都心(中枢管理機能)と開発途上国大都市の郊外(外資系工業団地=現業部門)が結びつくことにより、後者の都心にも副次的中枢管理機能が集積される、という地域構造変化のパターンを示している(p.221)。こうしたメカニズムを前提とすれば、先進国でも開発途上国でも首都を始めとした大都市が成長し、他の地域との格差が拡大することになる可能性が高い。 このように見てくると、地域格差の中・長期的変動は、クズネッツ曲線が想定するような一通りのパターンだけではないと考えられる。日本では、高度成長期にクズネッツ曲線の格差縮小局面であるかのように地域格差が縮小したが、その後再び拡大に転じている。格差変動を生じさせたメカニズムも高度成長期と安定成長期以降では異なる。ある国に大きな経済環境変化が起こるたびに、地域格差は新たな変動を開始すると見た方がよさそうである。(地域格差の是正に向けて―成長拠点、人口移動、過密・過疎―) 最後に、地域格差是正の可能性を考えてみる。 東アジア諸国では地域格差が縮小した事例は少ないが、日本の高度成長期、韓国の経済危機前の時期、中国の改革開放後の一時期が存在した。これらの例の共通点として、首都(或いは既存の大都市)圏に対抗しうる第2、第3の都市圏が存在したことが指摘でき

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る*43。これらの事例から推論すれば、既存の大都市圏から地理的に離れた位置に大規模な産業集積を形成できれば、全国レベルの地域格差に影響を与えることができる可能性がある。 しかし、ASEAN諸国のように既に極端な首都一極集中の地域構造が形成されてしまえば、これを短期間に是正することは難しい。また、地域格差が縮小した事例においても、その後、格差は再拡大している。現代社会において経済を牽引する高付加価値産業は、製造業にしてもサービス業にしても集積の経済が強く働くことを考えると、地域的な不均等発展が発生することはある程度は避けられないと考えられる。 経済活動の地域的な偏在(=地域格差)が発生しても、個人がそうした成長機会に参加し、高い所得を得ることができれば、あまり問題はないかもしれない。これを実現する一つの経路は、人口の移動である。高所得地域から低所得地域への人口移動は、実際に格差縮小に結びつく。高度成長期の日本において地域格差が縮小したのは、大都市圏への巨大な人口流入が大きく寄与した。中国では、戸籍制度により人口移動が制限されているため、地域格差の是正が進まないという指摘もある。また、人口が移動しなくとも、交通・通信インフラが整備されていれば、地理的に離れた地域で大都市圏を対象としたビジネスを展開することができるかもしれない。ただし、成長機会に参加するためには個人に必要な能力が備わっている必要がある。教育の格差がそれを阻害しているようなことがあれば、是非とも是正しなければならない。 しかし、成長地域への人口移動を促進していくと、過密・過疎という次の問題が発生する。日本の国土政策は、過密・過疎問題に長らく対処してきたが、現在でも解決には至っていない。都市の混雑は緩和されても依然高水準であり、人口減少・高齢化の進行により

地方の農村地域ではコミュニティの崩壊が危惧されている。東アジアの大都市では、人口増加にインフラ整備が追いつかず生活環境が悪化し、交通混雑が経済活動を阻害するなど、深刻な都市問題が発生している。開発途上国でも農村地帯で既に過疎問題が発生している国もある。 過密・過疎の進行を抑えるため、大都市での秩序ある開発を目的としたものなど、規制的手段も正当化されうる。しかし、規制的手段だけでは抜本的な解決には至らない。高度成長期の日本では、産業の地方分散を図るために大都市圏の工場立地を制限するなど、強い規制的手段も用いられたが、グローバリゼーションの進展した現在では有効ではない。規制によって立地条件が悪化すれば企業は別の国に逃避してしまうからである。開発途上国では、経済発展のために海外直接投資の誘致が重要であり、投資環境を損なうような規制的手段は採れない。 こうしてみると、過密・過疎問題に対処しつつ、地域格差是正を図るためには、新たな成長拠点の育成という課題に立ち戻らざるを得ない。東アジア諸国の地域格差変動の観察からは、経済環境の大きな変化によって新しい産業集積の形成が始まり、地域格差変動が生じる事例はいくつもみられた。実際には格差は拡大している例が多かったが、長期的には縮小に結びつく可能性もあるのではないかと思われる。地域格差に影響を与えるには、既存大都市圏からある程度地理的に離れた地点である必要がある。「集積の経済」を生かすためには大規模な産業集積である必要があり、都市機能がある程度充実し、交通の利便性があるなど、成長ポテンシャルの高い地域を選んで、集中的に育成を図る必要がある。 成長拠点の育成は、成果が出るまでには長い時間を要する課題であり、新たな拠点とその他の地域の新たな格差を発生させる問題もある。それらに対処するための補完的な位置

*43 高度成長期(1960 年代前半まで)の日本では、関西圏、名古屋圏が東京圏にキャッチアップしていた。韓国では、ソウル―釜山軸が発展地域になっている。中国は地理的に離れた大都市が数多く存在する多極型の国土構造である。

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2007年10月 第35号 197

付けとして、公的部門の役割も重要である。税制や社会保障などの制度的な再配分は、個人が実際に受け取る所得の格差を緩和する。過疎問題に対しては、適切な財政調整制度を構築し、ナショナル・ミニマムとしての行政サービスを確保する必要がある。中長期的には、行政の地域区分の再編も視野に入れて持続可能な地域社会を構築していく必要があるかもしれない。 日本では、公共事業が地域経済を支え、地域格差を縮小させたことが強調される。本稿の分析でも、そうした効果は確かにみられたが、その影響は限定的であり、結局は民間部門の動向が地域格差を左右する。日本では、中央・地方財政が悪化し、思い切った地域の下支え政策を採ることは困難になった。多くの開発途上国では、財政の規模自体が日本より遥かに小さいため、その役割は限られる。公的部門は、財政運営が「持続可能」な範囲でしか地域格差是正に寄与できない。 結局のところ、成長拠点の育成→人口移動→過密・過疎の発生→新たな成長拠点の育成…というサイクルを繰り返すイメージになるが、地域格差に対しては、こうした努力を長期的な視野で続けていくしかないように思われる。 経済環境や技術条件が大きく変化すると、従来の後進地域に成長機会が生まれ、地域格差・地域構造に影響を与える可能性もある。例えば、現在はまだ顕在化しているとは言えないが、国際的な食料・エネルギー不足が、将来、農村地帯の経済発展に新たな可能性をもたらすかもしれない。技術開発型の製造業や、ソフトウェア開発、国際金融など、現代の高付加価値産業は、集積の経済が働き、また、事業所が立地したとしてもさほど広大な面積は必要ない。このため、大都市や既存の産業集積に集中することになる。しかし、農業や自然エネルギー開発などは広い土地を必要とする場合もあり、農村地帯に新たな成長産業をもたらす可能性はある。環境変化を地域格差是正のチャンスと捉える視点も重要と思われる。

付注1  データ出所・時系列データの作成方法

1.日本①データ出所内閣府『県民経済計算年報』http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/toukei.html経済企画庁(1991)『長期遡及推計 県民経済計算報告(昭和 30 年~昭和 49 年)』総務省統計局「日本の長期統計系列」http://www.stat.go.jp/data/chouki/index.htm②データ作成に関する補足説明 実質県内総生産は、1955~1984 年は 1980年価格、1985~95 年は 1990 年価格、1996~2004 年は 2000 年価格(93SNA)の数値を使用した。2000年価格の数値を基準とし、85年、96 年で数値の水準を合わせて接続した。産業別県内総生産の長期系列は名目値しか得られなかったので、平均対数偏差の産業別分解では、名目値で計算した寄与率を用いて、実質の平均対数偏差を分解した。従って、地域別・産業別の価格変動の差は反映されていないが、日本では名目と実質の平均対数偏差にほとんど差がないため、誤差は小さいと判断した。

2.中国①データ出所加藤弘之、陳光輝(2002)『東アジア長期経済統計 12 中国』勁草書房中国統計年鑑(National Bureau of Statistics of China)ht tp : //www.s t a t s . gov . cn/eng l i sh/statisticaldata/yearlydata/②データ作成に関する補足説明 実質GRP(1978 年価格)の 1999 年以降の数値は、加藤・陳(2002)の 1998 年値を中国統計年鑑に掲載されている実質増加率で延長した(2001~05 年の数値は 2006 年版年鑑掲載値)。 中国は、31 省・市・自治区で構成されているが、長期系列が得られないチベット自治

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198 開発金融研究所報

区、海南省は除き、29 地域で計算を行った。

3.韓国①データ出所KOSIS (Korian Statistical Information System, National Statistical Office)http://kosis.nso.go.kr/eng/index.htm

②データ作成に関する補足説明 人口データは 1992 年以降は登録人口、1985~91 年はセンサス人口(1985、90 年値のみ)を使用しており、データが存在しない年は直線補間して推計した。 韓国は現在 16 道・市で構成されているが、対象期間中に地域が分離された3つの広域市の数値は、従来含められていた道に統合し、全 13 地域で計算を行った。具体的には大田は忠清南道に、光州は全羅南道に、蔚山は慶尚南道に含めた。

4.タイ①データ出所NESDB(National Economic and Social De-velopment Board)ウェブ・サイトht t p : / /www.ne sdb . g o . t h/De f au l t .aspx?tabid=148

②データ作成に関する補足説明 タイの県内総生産(Gross Provincial Prod-uct)は、NESDBのウェブサイトで電子データが公開されているが、1981~97 年、96~2005 年の2種類のデータセットが存在する(どちらも 1988 年価格)。実質値の基準年は同じ 1988 年だが、両者は産業分類が異なるなど作成方法に違いがあるとみられ、データに段差が存在する。特に新データではバンコクの GRP の水準が低く、単純に接続すると格差尺度に段差が発生(尺度が低下)する。そこで、1995 年でデータの水準を合わせて接続し、段差の発生を回避した。 タイは現在 76 県で構成されているが、対象期間中に分離された4県は従来含められていた県に統合し、72 地域の系列で計算を行った。具体的には、ノーンブアランプーはウドンターニーに、ムクダーハーンはナコンパノ

ムに、アムナートチャルーンはウボンラーチャターニーに、サゲーウはプラーチーンブリーに含めた。

5.インドネシア①データ出所BPS (Badan Pusat Statistik)Statistical yearbook of IndonesiaBPS Gross Regional Domestic Product by Industrial OriginBPS Produk Domestik Regional Bruto Kabupaten/Kota IndonesiaBPS Aceh dalam angka (Ache in Figure)他各州統計書②データ作成に関する補足説明 GRP の 1978~82 年は 1975 年価格、1983~92 年 は 1983 年 価 格、1993~2000 年 は1993 年価格、2001~2004 年は 2000 年価格の数値を使用。2000年価格の数値を基準とし、83 年、93 年、2001 年で数値の水準を合わせて接続した。ただし、83 年基準の 93 年値は統計年鑑や GRP の統計書からは得られず、接続処理ができない。そこで各州統計書から93 年値が入手できる州はそれを用い、その他の州は全国値からデータが存在する州の数値を差し引いた数値を用いて接続した。83年基準の 93 年値が得られたのはアチェ、北スマトラ、西スマトラ、リアウ、南スマトラ、ランパン、ジャカルタ、ジョグジャカルタ、東ジャワ、西カリマンタン、東カリマンタン、北スラウェシ、中央スラウェシ、南スラウェシ、東南スラウェシ、東ヌサテンガラであり、全国値に対する比率は 64.4%である。 インドネシアは現在 30 州で構成されているが、対象期間中に分離された4州は従来含められていた州に統合し、26 州の系列で計算を行った。具体的には、バンカブリトゥンは南スマトラに、バンテンは西ジャワに、ゴロンタロは北スラウェシに、北マルクはマルクに含めた。なお、2002 年に独立した東ティモールは対象から除外した。 州レベルの人口データは、GRP と一人当り GRP から逆算した。ジャワ島内の県・市

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2007年10月 第35号 199

レベルの人口データは、1986、93、97 年はGRP と一人当り GRP から逆算できるが、2000、2003 年は GRP の統計書に一人当りGRP が掲載されていないことから、州別統計書に掲載された人口データを使用した。ただし、そのままでは 97 年から 2000 年にかけて段差が生じてしまうため、州レベルの人口データを県・市レベルの人口データの比率で分割した数値を使用した。

6.フィリピン①データ出所National Statistical Office Philippine Statistical Yearbook②データ作成に関する補足説明 人口データはGRPと一人当りGRPから逆算した。 フィリピンの GRP は地域(Region)レベルで作成されているが、地域区分が地域より詳細な州のレベルで複雑に変更されているため、地域区分を完全に調整することは困難である。フィリピンは現在 17 地域で構成されているが、連続性のある系列となるよう可能な限り調整した結果、9地域の系列で計算を行った。具体的には、コルディリェラ、イロコス、カガヤン・バレーを統合、カラバルソンとミマロパを統合(旧南タガログ)、西ミンダナオ、北ミンダナオ、南ミンダナオ、中央ミンダナオ、カラガ、ムスリム・ミンダナオを統合した。

<参考文献>青木昌彦(1979)『分配理論』勁草書房アジア経済研究所(2006)『アジア動向年報2006』及び各年版加藤弘之(2003)『現代中国経済6 地域の発展』名古屋大学出版会加藤弘之、陳光輝(2002)『東アジア長期経済統計 12 中国』勁草書房

経済企画庁(1991)『平成3年地域経済レポート』

小長谷一之(1999)「都市システムと企業ネットワーク」『アジアの大都市[2]ジャカルタ』

日本評論社 第7章酒巻哲朗(2006)「東アジア諸国における地域格差と国土政策」開発金融研究所報 第29 号

瀬田史彦(2002)「地域格差是正政策とグローバル化に伴うその変容過程~日本・タイ・マレーシアにおける比較研究」(東京大学大学院工学系研究科 博士論文)陳光輝(1996)「改革開放後中国の地域間格差」『国際協力論集』第4巻 第1号陳光輝(2000)「中国の省間所得格差の長期分析」『国際開発学研究』第2巻 第3号半田晋也(2005)『インドネシアの地域間格差』(神戸大学大学院国際協力研究課 博士論文)秀島敬一郎(2001)「マニラ首都圏周辺の工業団地」『アジアの大都市[4]マニラ』日本評論社 第5章牧野松代(2001)『開発途上大国 中国の地域開発 ―経済成長・地域格差・貧困―』大学教育出版宮本謙介(1999)「ジャカルタ首都圏研究の動向と課題」『アジアの大都市[2]ジャカルタ』日本評論社 序章渡辺利夫編(2003)『アジア経済読本(第3版)』東洋経済新報社OECD(2005)「OECD 地 域レビュー 日本 日本語要約」

BAPPENAS (Nat ional Development Planning Agency, Indonesia) (2005) “Peraturan Presiden No. 7 Tahun 2005 tentang Rencana Pembangunan Jangka Tahun 2004-2009”IMF (2007) International Financial StatisticsOECD (2003) “Gegraphic Concentration and Territorial Disparity in OECD Countries” http://www.oecd.org/findDocument/0, 3354,en_2649_33735_1_119684_1_2_ 1,00.html

M. Fujita, T. Mori, J.V. Henderson and Y. Kanemoto “Spat ia l Distr ibut ion o f

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200 開発金融研究所報

Economic Activities in Japan and China” J.V. Henderson and J.F. Thisse Handbook of Regional and Urban Economics vol. 4 pp.2911-2977

M. Fujita and T. Tabuchi (1997) “Regional Growth in Postwar Japan” Regional Science and Urban Economics 27 pp.643-

670A .F . Sho r r o ck s (1982) “Inequa l i t y Decomposition by Factor Components” Econometrica, Vol. 50, No. 1, pp.193-212World Bank (2006) World Development Indicators 2005

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<参考図> 東アジア5ヵ国の地図

バンカ・ブリトゥン群島州

アチェ州

北スマトラ州

西スマトラ州リアウ州

南スマトラ州ベンクル州

ランプン州

西ジャワ州バンテン州

ジャカルタ

中ジャワ州

ジョグジャカルタ特別州

バリ州西ヌサトゥンガラ州

東ヌサトゥンガラ州

東ティモール民主共和国

西カリマンタン州

東カリマンタン州

中カリマンタン州

南スラウェシ州 東南スラウェシ州

北スラウェシ州

中スラウェシ州

ゴロンタロ州

マルク州

北マルク州

パプア州

ジャンビ州

南カリマンタン州

安徽省

江原道

慶尚北道

京畿道

忠清南道

忠清北道

全羅北道

全羅南道

済州道

ソウル

仁川

大田○

○光州

釜山

蔚山

大邱

慶尚南道

<韓 国>黒龍江省

吉林省内モンゴル自治区

寧夏回族自治区 遼寧省

山東省

河北省

山西省 天津市

北京市

上海市

江蘇省

浙江省

福建省

広東省

海南省

雲南省

広西チワン族自治区

陝西省

湖南省貴州省

四川省

青海省

チベット自治区

新疆ウイグル自治区甘粛省

○重慶市

河南省

湖北省

江西省

<中 国>

東ジャワ州

イロコス地方カガヤン・バレー地方

コルディリェラ地方

中部ルソン地方

NCR(マニラ) カラバルソン地方

ミマロパ地方ビコール地方

西部ビサヤ地方

東部ビサヤ地方

中部ビサヤ地方

サンボアンガ半島

ARMM

北部ミンダナオ地方

カラガ地方

SOCCSKSARGEN

ダバオ地方

<フィリピン>

北部

東北

西部

南部

東部

中部

バンコク チャチュンサオ

チョンブリー

ラヨーン

バンコク圏

アユタヤ

<タ イ>

<インドネシア>