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Infection Control Team
抗菌薬の適正使用
平成26年度 モーニングレクチャー
2014/05/22
松山赤十字病院 ICT
(腎臓内科) 岡 英明
抗菌薬のよくある間違い
①「発熱、WBC上昇、CRP高値だから抗菌薬を投与しよう」
・例えるなら、
「腫瘍マーカーが高いから抗癌剤を投与しよう」と同じ
・感染症以外でも発熱・炎症はしばしば起こる
・逆に、抗菌薬の投与で発熱が起こることもある
例)薬剤熱・CDI
院内発症の非感染性発熱
①アルコール・薬物離脱 ②術後発熱 ③輸血後発熱 ④薬剤熱 ⑤脳梗塞・脳出血・クモ膜下出血 ⑥副腎不全 ⑦心筋梗塞 ⑧急性膵炎 ⑨無石性胆嚢炎 ⑩腸管虚血・消化管穿孔 ⑪誤嚥性(化学性)肺臓炎 ⑫消化管出血 ⑬急性呼吸促迫症候群 ⑭脂肪塞栓 ⑮深部静脈血栓症・肺塞栓 ⑯痛風・偽痛風 ⑰血腫 ⑱静脈炎・血栓性静脈炎 ⑲造影剤反応 ⑳腫瘍熱 ㉑褥瘡潰瘍
『比較三原則』 ①比較的徐脈 ②比較的元気 ③比較的CRPが低い
ペニシリン系・ セフェム系で多い
抗菌薬のよくある間違い
②「解熱してCRPも下がっているので今の抗菌薬を続けよう」
・起因菌・感受性が判明した後は、
より狭域でより安価な抗菌薬に
de-escalationを!
起因菌及びその感受性が特定されたら、
その起因菌を ピンポイントに ターゲットとする
「狭い」 抗菌薬へ変更すること。
その一番の目的は、 「耐性菌を作らない」 こと!
De-escalationとは?
その他に、 • CDIを含めた抗菌薬関連下痢の回避 • 医療コスト削減 • 予後改善
Empiric therapy (経験的治療)
【意味】 段階的縮小
Empiric therapy vs de-escalation
Intensive Care Med 2014; 40: 32-40
• 重症敗血症・敗血症性ショックを対象にICUで前向きに検証 (下図;empiric therapyが感受性のケース:n=403人)
ICU死亡率 病院死亡率 90日死亡率
抗菌薬のよくある間違い
③「CRPが下がり止まって陰性化しないので、
別の抗菌薬に変更しよう」
・効果判定はCRPよりも臓器症状・バイタルを重視
・効いてなければ悪化(CRPは上昇)するはず
・推奨治療期間を満たしたら検査の正常化(CRPやβ-Dグルカン、胸部Xp etc.)を待たず治療終了を考慮
・状態の悪化があれば、新たな感染症の発生を疑い、感染臓器・起因菌の推定と培養を行ってから抗菌薬を変更!
感染症の3本柱
1.感染臓器
3.患者背景 (基礎疾患, 重症度,
腎機能)
2.微生物
1,2が揃うと ➡ 治療薬 3 が揃うと ➡ 投与量 治療期間
『どこの臓器の、何という菌による感染症か?』 を常に意識!答えられなければ診察と検査を繰り返す。
推奨される 標準的な 治療期間
黄色ブドウ球菌菌血症 (Staphyrococcus aureus Bacteremia;SAB)
一般的に、治療期間の
延長を考慮する条件
血流障害 尿路通過障害
気管支閉塞 膿瘍
人工物 免疫不全 etc.
最短14日に短縮可能な条件
①非糖尿病 ②非免疫抑制状態
③カテーテル抜去済 ④血管内に人工物無し
⑤IE・血栓性静脈炎が否定的
⑥72時間以内に解熱・血培陰性化
⑦播種性の感染症(膿瘍etc.)無し
• Focus不明、カテ感染 ➡ 最低4週間 • IE、膿瘍 ➡ 最低6週間 • 骨髄炎 ➡ 最低8週間
70代男性
3度繰り返したMRSA菌血症
【既往歴】
ASO・AAAに対してFFバイパス・Yグラフト置換術後
【病歴】
X年○月膵臓手術を施行。術後SSI(非MRSA)を生じたが軽快し△月退院。
△月末に嘔吐のため再入院。38度台の発熱あり血培でMRSA(+)。CT・UCGで
Focus不明。VCMにて解熱、血培(-)となり13日間で治療終了し●月初旬に退院。
しかし●月上旬に倦怠感のため再々入院。39度台の発熱あり血培で
MRSA(+)。CTでFocus不明。VCMにて解熱、血培(-)となり10日間で治療終了。
▲月上旬に胃手術を施行予定であったが、Op 5日前に38度の発熱あり血培
でMRSA(+)。
VCM
VCM
VCM
CT; focus不明、心エコー; IE否定
CT; focus不明
MRSA(+)
MRSA(+)
VCM
VCM
□月上旬に退院。 その後39℃台の発熱を認め他院に入院。 ■月上旬に亡くなられた。
心エコー; IE否定
MRSA(+)
Op
4度目のSAB?
臨床的に重要な細菌分類
嫌気性菌
横隔膜より上 → ペプトストレプトコッカス、フソバクテリウム, 他
横隔膜より下 → バクテロイデス・フラジリス
・・・ほぼ100%βラクタマーゼ産生
グラム陽性桿菌 グラム陰性球菌 コリネバクテリウム
リステリア
(→ 食中毒, 髄膜炎)
ナイセリア(淋菌, 髄膜炎菌)
モラクセラ・カタラーリス
・・・ほぼ100%βラクタマーゼ産生
GNR
腸内細菌群 → E.coli, クレブシエラ, 他
ブドウ糖非発酵菌
→ 緑膿菌, マルトフィリア, 他
GPC ブドウ球菌 → コアグラーゼ試験
陽性 = 黄ブ菌(MSSA,MRSA)
陰性 = CNS(表ブ菌,S.lugdunensis,他)
連鎖球菌 → 肺炎球菌
溶連菌, 腸球菌
その他 耐性が強い
PC感受性
+
-
PC ・
CLDM感 受 性
±
+
各菌に対する抗菌薬選択(=Definitive therapy)
嫌気性菌
横隔膜より上
横隔膜より下
GNR
腸内細菌群
E.coli, クレブシエラ,他・・・ESBL産生(‐),ESBL産生(+)
ブドウ糖非発酵菌 緑膿菌, マルトフィリア
GPC ブドウ球菌 MSSA
MRSA
MR-CNS
連鎖球菌 肺炎球菌 ⇒ PSSP, PISP, PRSP
溶連菌
腸球菌 ⇒ E. faecalis, E. faecium
CEZ(1世代)
VCM
ペニシリン系
PCG大量(1200~2400万U)
カルバペネム系, LVFX, VCM ペニシリン系,CLDM
Β-ラクタマーゼ阻害薬配合薬
CMZ(2世代),カルバペネム系
1~3世代,他
PIPC, CAZ(3世代),4世代,カルバペネム系
ST, MINO
カルバペネム系 (CMZ, βラクタマーゼ阻害薬配合薬が有効なことも多い)
Empiric therapy時の抗菌薬選択のポイント
①敗血症性ショックになっていないか?
②最近の抗菌薬暴露、長期入院や施設入所がないか?
・初期治療を外すると予後不良 ⇒ 培養採取後直ぐに治療開始 ・耐性の強い ESBL産生菌 のカバーを考慮
・院内感染でしばしば見られる 緑膿菌やMRSA のカバーを考慮
Empiric therapy時の抗菌薬選択のポイント
③過去の培養結果がないか?
・MRSA保菌or感染の既往があれば抗MRSA薬を考慮 ・カンジダが2箇所以上から検出されていれば抗真菌薬を考慮
重要なのは以下の判断!! ・急いで広域抗菌薬によるempiric therapyが必要か? ・グラム染色の結果を確認してからでも遅くないのでは?
④ ①~③が無ければ、安易に緑膿菌をカバーしない!
抗菌薬投与量の問題 ・日本の保険適応用量はPK-PD理論に基づいていない (ものが多い)
・海外の推奨量の50~70%と少ない ものが多い(特にβラクタム薬)
(一回投与量・投与回数ともに)
量が不足
治療期間の長期化
耐性菌出現
治療失敗
推奨投与量は サンフォードやUpToDate 『GFR-抗菌薬投与量』の表 etc.を参照
GFR-抗菌薬投与量.pdf
or
経口抗菌薬の使い方
①軽症の外来治療
②静注薬からの切り替え
③第一選択薬として
【 選択のポイント 】 Bioavailability(吸収率)が高いこと!
吸収率の高い経口抗菌薬 経口抗菌薬 バイオアベイラビリティ
ペニシリン系 サワシリン®、オーグメンチン® 80% (CVA:30~98%)
第1世代セフェム ケフレックス® 90%
ニューキノロン系 シプロキサン®、クラビット®、アベロックス® 70、99%、89% *
テトラサイクリン系 ミノマイシン® 93~95%
(メトロニダゾール) フラジール® 100%
(ST合剤) バクタ® 85%
リンコマイシン系 ダラシン® 90%
オキサゾリジノン系 ザイボックス® 100%
*制酸剤(Mg、Ca、Al)や鉄剤(Fe)により著明に吸収が低下
サンフォード感染症 治療ガイド2013 マクロライド系 ジスロマック®、クラリス® 37%、50% やや低い:
経口抗菌薬 バイオアベイラビリティ
第3世代セフェム メイアクト®、フロモックス®、(セフゾン®) 16%、不明、(25%)
吸収率の低い経口抗菌薬
サンフォード感染症 治療ガイド2013
第3世代セフェムのその他の特徴 として ・世界で殆ど使われていない=エビデンスに乏しい (IDSAガイドラインでは 『細菌性咽頭炎にセフェム系を使用しないこと』 を推奨) ・日本では大量に誤用されている (例:風邪、気管支炎、咽頭炎、 副鼻腔炎、歯科での予防投与) ・低濃度で広域にカバーする為、耐性化やCDIの原因になる ・副作用も当然ある (重篤な副作用:小児でのカルニチン欠乏による低血糖)
①よくある外来感染症
外来感染症 頻度の高い起因微生物
急性中耳炎 ウイルス,肺炎球菌
急性副鼻腔炎 ウイルス,肺炎球菌
急性咽頭炎 ウイルス,A群溶連菌
気管支炎 ウイルス,肺炎球菌,百日咳
肺炎 肺炎球菌,マイコプラズマ, 口腔内連鎖球菌(誤嚥)
尿路感染症 大腸菌
急性下痢症 ウイルス,サルモネラ,カンピロバクター
皮膚軟部組織感染症 (蜂窩織炎)
黄色ブドウ球菌,A群溶連菌
動物咬傷 (ヒト,ネコ,イヌ)
皮膚常在菌,口腔内常在菌 パスツレラ
1st choice
サワシリン®
サワシリン®
サワシリン®
サワシリン®, ミノマイシン®
サワシリン®±ジスロマック® or クラビット®単剤
バクタ®, クラビット®
(ニューキノロン, マクロライド)
ケフレックス®
オーグメンチン®
②静注薬からの切り替え
1:1 対応が可能な薬剤
静注薬 経口薬
(ペニシリンG®)、ビクシリン® サワシリン®
セファゾリン® ケフレックス
スルバシリン® オーグメンチン®(+サワシリン)
メロペン®他 は1:1対応は難しく 起因菌と感受性によって選択
【タイミング】 臨床的安定 & 経口摂取可能
③第一選択薬として
ニューモシスチス肺炎(PCP)➡ バクタ®(ST)
C.difficile感染症(CDI) ➡ フラジール®(MNZ)
リケッチア(愛媛では特に日本紅斑熱) ➡ ミノマイシン®(MINO)
クラミジア・マイコプラズマ ➡ ジスロマック®(AZM)
他・・・
抗菌薬だけじゃない!感染症治療のトライアングル
病原菌
患者 医師
毒素
耐性化
膿瘍
バイオフィルム
shock
免疫力
正常細菌叢
抗菌薬 外科的処置
経腸栄養
probiotics
bacterial translocation